(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中空多孔質支持体に膜形成用樹脂を含む第一製膜原液を塗布する工程と、 前記塗布した第一製膜原液を凝固液と接触させて第一の多孔質中空糸膜前駆体を形成する工程と、 前記第一の多孔質中空糸膜前駆体の表面に、膜形成用樹脂の良溶媒と貧溶媒との混合液、又は、膜形成用樹脂の良溶媒と非溶媒との混合液である中間液を塗布する工程と、 該中間液を塗布した第一の多孔質中空糸膜前駆体の表面に膜形成用樹脂を含む第二製膜原液を塗布する工程と、を有する多孔質中空糸膜の製造方法。
前記第一製膜原液を塗布する工程及び前記第二製膜原液を塗布する工程が、いずれも多重環状ノズルを用いて塗布を行う請求項1に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
前記中間液槽が、中間液槽からオーバーフローした中間液を排出するオーバーフロー配管と、中間液槽に中間液を連続的に供給する供給手段とを有する請求項8に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
前記中間液槽の下流側に、前記第一の多孔質中空糸膜前駆体を通過させる筒状通路があり、該筒状通路の幅A(mm)が多孔質中空糸膜前駆の外径B(mm)に対し、B<A≦B+0.1の関係を有する、請求項8又は9に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
前記第一多孔質膜層が前記円筒状通路を抜けてから、第二製膜原液が塗布されるまでの時間が0.3秒以下であることを特徴とする、請求項10に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する関心の高まりと規制の強化とにより、分離の完全性やコンパクト 性などに優れた濾過膜を用いた膜法による水処理が注目を集めている。このような水処理の用途において、濾過膜には優れた分離特性や透水性能、そして高い機械的強度が要求されている。
【0003】
従来、透水性能に優れた濾過膜として、湿式または乾湿式紡糸法により製造される、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリフッ化ビニリデン製などの濾過膜が知られている。これらの濾過膜は、高分子溶液をミクロ相分離させた後、同高分子溶液を非溶媒中で凝固させて製造するものであり、高空孔率で且つ非対称な構造を持つ。
【0004】
上記濾過膜素材の中でもポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)は、耐薬品性、耐熱性に優れているので、分離膜の素材として好適に用いられている。しかしながらこれまでに提案されているポリフッ化ビニリデン中空糸膜からなる濾過膜は、分離特性・濾過安定性・機械的強度のいずれかが十分でないものが多く、またすべてを満たすものは製造方法が複雑であるという問題があった。
【0005】
機械的強度を上げるために、中空状組紐を支持体とし、その表面上に多孔質中空糸膜が設けられた分離膜が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この多孔質中空糸膜には、その製法から膜構造内部に大きなマクロボイドを有しており、外的要因による膜外表面の損傷等による分離特性の低下を招きやすいという問題があった。
【0006】
これに対し、製膜工程を二回繰り返して緻密層を二つ持たせることで、膜外表面の損傷に強く、分離特性の安定性に優れた複合多孔質中空糸膜が提案されている(特許文献2)。しかしながらこの多孔質中空糸膜は、透水性能を維持するために分子量分布の広いPVDFを用いた原液を両層に用いており、結果として1つ1つの層の分離特性は高くはなく、外層が外的要因によって損傷した場合に、依然として分離特性が低下する可能性があるという問題があった。
【0007】
さらに、製膜工程を二回採用して緻密層を二つ持たせる上で、外層に分子量の高いPVDFを用い、内層に分子量がある程度高く且つ分子量分布の狭いPVDFを用いることにより、外層を物理的衝撃に強い保護層とし、内層を高い阻止性能を有する分画層にすることで、高い分離特性と高い耐物理損傷性を兼ね備えた複合多孔質中空糸膜が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この多孔質中空糸膜には、その製膜条件の特徴から外層の内表面側の孔径が小さくなり易く、透水性能を高くしづらいという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
本発明の多孔質中空糸膜は、第一製膜原液の塗布と第二製膜原液の塗布の塗布工程を二回採用することで、第一製膜原液に由来する第一多孔質膜層の上に、第二製膜原液に由来する異なる第二多孔質中空糸膜層を設ける。このことにより、第二多孔質中空糸膜層の内側にある第一多孔質中空糸膜層が外的要因によって損傷する可能性が極めて低くなり、長期に渡って安定した分離特性を示すことができる。
このような構成では第一多孔質中空糸膜層が実質的に分離特性を担っており、内表面孔径も0.1μm以下で形成されることが多い。そのため、第二多孔質中空糸膜層が0.1μm以下の孔径を有しても分離特性への寄与は小さく、一方で透水性能の低下を導いてしまう。第二多孔質中空糸膜層においては、その製膜プロセス上、内表面孔径が最も小さくなり易いため、第二多孔質中空糸膜層の内表面孔径が0.1μm以上であることが好ましい。
【0015】
また、多孔質中空糸膜層全体の純水透過係数としては20℃で10m
3/m
2/hr/
MPa以上であることが好ましい。この値よりも低くなると、ろ過に際して膜間差圧が高くなり、安定した運転が困難になる傾向がある。分離特性を担う第一多孔質中空糸膜層の透水性能は低くなる傾向にあるため、第二多孔質中空糸膜層の純水透過係数は20m
3/m
2/hr/
MPa以上が好ましく、30m
3/m
2/hr/
MPa以上がより好ましく、50m
3/m
2/hr/
MPa以上がさらに好ましい。
【0016】
本発明の多孔質中空糸膜層においては、第一及び第二多孔質中空糸膜層の厚さの合計を150μm以下とするのが好ましい。これは、厚さを150μm以下とすることによって、膜分離時における透過抵抗が低減され、優れた透水性能が得られるとともに、高分子樹脂溶液である製膜原液を用いて多孔質中空糸膜層を形成させる際の凝固時間を短くでき、マクロボイド(欠損部位)抑制に効果的であると共に、優れた生産性を得ることができる傾向にあるためである。より好ましくは、100μm以下である。
【0017】
また、それぞれの多孔質中空糸膜層においては、その厚さを100μm以上とするのが好ましい。これは、厚さを100μm以上とすることによって、実用上問題のない機械的強度を得ることができる傾向にあるためである。第一多孔質中空糸膜層については、さらに70μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明の多孔質中空糸膜は、上述の多孔質中空糸膜層のみからなるものであっても良いが、優れた機械的強度が得られることから、中空状の支持体上にこの多孔質中空糸膜層を有するものが特に好ましい。なお、ここでは多孔質中空糸膜層と支持体との位置関係を明確にするために支持体上と表現しているが、多孔質中空糸膜層が支持体の空隙を通じて支持体内部に含浸している場合もある。このような場合においても、本発明における上述の膜厚は、支持体上に露出している部分の厚さを意味するものとする。
【0019】
支持体としては、高い機械的強度を有し、かつ多孔質中空糸膜層と一体化できるものであれば、適宜選択して使用することができ、特に限定するものではないが、製膜時の張力による伸びを抑えられる点から、熱処理された支持体であることが好ましい。
また、製造コストが低く、柔軟性と断面の形状安定性(真円性)を両立でき、多孔質中空糸膜層との接着性にも優れることから、編紐がより好ましい。中でも、マルチフィラメントからなる1本の糸を丸編した中空状編紐であることが好ましい。
【0020】
多孔質中空糸膜層は、膜形成用樹脂によって形成される。膜形成用樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、スルホン化ポリスルホン樹脂、ポリフソ化ビニリデン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂などが挙げられる。これらの中でも、耐薬品性に優れることから、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)が好ましい。
【0021】
膜形成用樹脂としてPVDFを用いる場合、第一製膜原液には質量平均分子量が5.0×10
5以上1.0×10
6以下であるポリフッ化ビニリデン樹脂を用いることが好ましい。質量平均分子量が5.0×10
5未満では、得られる第一多孔質中空糸膜層の内部構造が粗大化しやすく、分離特性が低下する傾向がある。一方、質量平均分子量が1.0×10
6を超えると、内部構造が緻密化しやすく、透水性能が低下する径化王がある。
また、第一製膜原液には、分子量分布が5.5以下であるポリフッ化ビニリデン樹脂を用い得ることが好ましい。分子量分布が5.5を超えると、内部構造が粗大化しやすく、分離特性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0022】
一方、第二製膜原液に用いるポリフッ化ビニリデン樹脂としては、質量平均分子量が5.0×10
5以上のものが好ましく、7.0×10
5以上のものがより好ましく、1.0×10
6以上のものがさらに好ましい。このようなポリフッ化ビニリデン樹脂を用いることにより、第二多孔質中空糸膜層の強度が向上し、第一多孔質中空糸膜層を外的要因による損傷から保護しやすくなる。
また、第二製膜原液に用いるポリフッ化ビニリデン樹脂として、質量平均分子量が5.0×10
5以上のものと1.0×10
6以上のものとのブレンドを用いると、ある程度透水性能を維持したまま強度を向上されることができ、特に好ましい。質量平均分子量1.0×10
6以上のポリフッ化ビニリデン樹脂は、比較的少量の使用であっても強度向上に対する寄与は大きいため、ブレンド比は1.0×10
6以上のポリフッ化ビニリデン樹脂が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
【0023】
次に、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法について説明する。本発明の多孔質中空糸膜は、環状ノズルを用いて中空多孔質支持体に第一製膜原液を塗布し、凝固液中で凝固させて第一多孔質中空糸膜層を形成させた後、環状ノズルを用いて該第一多孔質中空糸膜層の表面に第二製膜原液を塗布し、凝固液中で凝固させて第二多孔質中空糸膜層を形成させる多孔質中空糸膜の製造方法において、第一多孔質中空糸膜層の表面に中間液を塗布した後に、該中間液の表面に第二製膜原液を塗布することにより製造することができる。
中間液を用いない場合は、第一多孔質中空糸膜層が第二製膜原液中の良溶媒により溶解され、第一多孔質中空糸膜層と第二多孔質中空糸膜層が溶着し、透水性能が著しく低下してしまう。
【0024】
中間液に膜形成用樹脂の非溶媒を用いた場合は、第二多孔質中空糸膜層の内表面が即座に凝固され、内表面孔径が小さくなり、透水性能が低下してしまう。一方、中間液に膜形成用樹脂の良溶媒を用いた場合は、第一多孔質中空糸膜層が溶解されて第一多孔質中空糸膜層と第二多孔質中空糸膜層が溶着し、同様に透水性能が著しく低下してしまう。
そのため、中間液としては、良溶媒と非溶媒の混合液が好ましく、良溶媒が70%以上含まれる中間液がより好ましい。このことにより第二多孔質中空糸膜層の内表面の凝固が遅くなり、平均孔径を大きくできると共に、透水性能の低下を抑制することができる。良溶媒が90%以上含まれることがさらに好ましい。
【0025】
また、中間液としては、膜形成用樹脂の良溶媒と、貧溶媒又は非溶媒の高粘度流体との混合液であることが好ましい。高粘度流体を含まない場合、中間液の粘度が低いため、第一多孔質中空糸膜層に塗布された後に重力等により変形しやすく、均一に存在することが難しくなり、中間液が存在しない部分が発生する可能性がある。
なお、本発明の高粘度流体の粘度は、20℃における粘度が1×10
3mPa・s以上である。より好ましくは2×10
3mPa・s以上であることがより好ましい。
粘度が高く、かつ水に溶けやすく洗浄しやすいという点で、貧溶媒又は非溶媒としてはグリセリンを用いて良溶媒との混合液とすることが好ましい。
【0026】
第一多孔質中空糸膜層に中間液を塗布する方法としては、第一多孔質中空糸膜層に中間液を均一に塗布できる方法であれば、特に限定するものではないが、粘度の低い中間液を第一多孔質中空糸膜層の全周に確実に塗布できる点から、中間液槽に第一多孔質中空糸膜層を浸漬させて塗布することが好ましい。
中間液槽は、深さ5mm以上溜められていることが好ましい。5mmより浅いと、中間液が第一多孔質中空糸膜に随伴して中間液が無くなり、中間液が塗布されない部分が発生する可能性がある。
中間液は、中間液槽に一定量を供給し続けられることが好ましい。また中間液槽には、オーバーフロー配管によって溜めた場所から抜くことで常に一定量溜めることが好ましい。中間液槽の貯液量が変化すると、第一多孔質中空糸膜層への塗布状態も変化し、第二多孔質中空糸膜層の内表面の凝固状態が均一にならない可能性がある。
【0027】
中間液槽を通過させた第一多孔質中空糸膜前駆体は、続けて中間液槽の下流側に配置された筒状通路を通過させ、余分に付着した中間液を取り除くことが好ましい。過剰の中間液が塗布されていると、その中間液が層となって、第一多孔質中空糸膜層と第二多孔質中空糸膜層の間に隙間ができ、第二多孔質中空糸膜層が剥離しやすくなるため好ましくない。
該筒状通路の幅A(mm)は、第一多孔質中空糸膜前駆体の外径B(mm)に対し、B<A≦B+0.1より好ましくは、B<A≦B+0.05を満たすことが好ましい。幅がB+0.1( mm)より大きくなると、多量の中間液が前駆体に随伴しやすくなり、得られる第一多孔質中空糸膜層と第二多孔質中空糸膜層の間に隙間ができやすくなる。
ここで、筒状通路の幅Aは、筒状通路の断面形状が円である場合はその断面の直径を、それ以外の場合は、断面の中心を通り、筒上通路の外周で切り取られる線分のうちも短いものの長さとする。
【0028】
中間液を塗布した後は、第二製膜原液をできるだけ早く塗布することが好ましい。塗布までに時間がかかると、中間液の塗布状態が重力等によって変化し、第二多孔質中空糸膜層の内表面の凝固状態が均一にならない可能性がある。
第一多孔質中空糸膜層が、中間液を溜めた場所の下方にある通路を抜けてから、第二製膜原液が塗布されるまでの時間は0.3秒以下であることが好ましく、0.2秒以下がより好ましく、0.1秒以下がさらに好ましい。
【0029】
製膜原液は、通常、膜形成用樹脂と親水性樹脂とこれらを溶解する溶媒とを含む。製膜原液は、必要に応じてその他の添加成分を含んでもよい。
親水性樹脂は、製膜原液の粘度を多孔質中空糸膜層の形成に好適な範囲に調整し、製膜状態の安定化を図るために添加されるものであって、ポリエチレングリコールやポリビニルピロリドンなどが好ましく使用される。これらの中でも、得られる多孔質中空糸膜の孔径の制御や強度制御の点から、ポリビニルピロリドンやポリビニルピロリドンに他の単量体が共重合した共重合体が好ましい。
また、親水性樹脂は、2種以上の樹脂を混合して使用することもできる。例えば親水性樹脂として、より高分子量のものを用いると、膜構造の良好な多孔質中空糸膜を形成しやすい傾向がある。一方、低分子量の親水性樹脂は、多孔質中空糸膜からより除去されやすい点で好適である。よって、目的に応じて、分子量が異なる同種の親水性樹脂を適宜ブレンドして用いてもよい。
【0030】
良溶媒としては、N,N―ジメチルホルムアミド、N,N―ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N―メチル―2―ピロリドン、N―メチルモルホリン―N一オキンドなどが挙げられ、これらを1種以上使用できる。また、溶媒への膜形成用樹脂や親水性樹脂の溶解性を損なわない範囲で、膜形成用樹脂や親水性樹脂の貧溶媒や非溶媒を混合して使用してもよい。
【0031】
第一製膜原液の40℃ における粘度は、1000〜200,000mPa・秒であることが好ましく、5000〜1,000,000mPa・秒であることがより好ましく、10,000〜50,000mPa・秒であることがさらに好ましい。第二製膜原液の40℃ における粘度は、10,000〜500,000mPa・秒であることが好ましく、20,000〜300,000mPa・秒であることがより好ましく、40,000〜200,000mPa・秒であることがさらに好ましい。粘度が低すぎると均一塗布が難しくなる。一方、粘度が高すぎると相分離の速度が低下し、透水性能が低下する傾向がある。保護層となる第二多孔質中空糸膜層の製膜原液の粘度が、第一製膜原液の粘度より高いことが好ましい。
【0032】
親水性樹脂の濃度の上限は、粘度が高すぎると製膜が困難となり目的の多孔質中空糸膜が得られにくくなる傾向にあるため、下限は10質量%が好ましく、12質量%がより好ましい。また、上限は30質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。
一方、親水性樹脂の濃度の下限は、多孔質中空糸膜をより形成しやすいものとするために1質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。親水性樹脂の濃度の上限は、製膜原液の取扱性の点から20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0033】
製膜原液に接触させる凝固液は、膜形成用樹脂の非溶媒で、親水性樹脂の良溶媒を用いる。例えば、水、工タノール、メタノール等やこれらの混合物が挙げられるが、中でも製膜原液に用いた溶媒と水との混合液が安全性、運転管理の面から好ましい。
製膜原液に用いた溶媒と水との混合液を用いる場合は、溶媒の濃度が5〜50質量%の範囲であることが好ましく、10〜40質量%の範囲であることがより好ましい。この範囲を下回ると非溶媒の増加速度が速まり、内部の構造が緻密になりすぎることがある。また、この範囲を上回ると、十分な量の非溶媒が浸入できず、凝固槽内で凝固が完了しないことがある。
【0034】
凝固液の温度は20℃以上95℃以下の範囲にすることが好ましく、25以上85℃以下にすることがさらに好ましい。凝固液の温度を前記下限値以上とすることにより、得られる多孔質中空糸膜の透水性能が高くなり、前記上限値以下とすることにより、得られる多孔質中空糸膜の分離特性が向上する。親水性樹脂として、ポリビニルピロリドン等の高分子を用いた場合は、多孔質中空糸膜を熱水で洗浄した後、酸化剤含有液で処理して親水性樹脂を分解し、除去することが好ましい。
【実施例】
【0035】
(多孔質中空糸膜の外径)
多孔質中空糸膜の外径は、以下の方法で測定した。
測定するサンプルを約10cmに切断し、数本を束ねて、全体をポリウレタン樹脂で覆った。ポリウレタン樹脂は支持体の中空部にも入るようにした。
ポリウレタン樹脂硬化後、カミソリ刃を用いて厚さ(膜の長手方向)約0.5mmの薄片をサンプリングした。
次に、サンプリングした多孔質中空糸膜の断面を、投影機(ニコン社製、PROFILE PROJECTOR V−12)を用い、対物レンズ100倍にて観察した。
観察している多孔質中空糸膜の断面の中心を通り互いに垂直な直線を引き、これら直線との外表面の交点の位置から外径を読み取った。これを3回測定して外径の平均値を求めた。
【0036】
(多孔質中空糸膜層の膜厚)
実施例における多孔質中空糸膜層の膜厚は、支持体の表面から多孔質中空糸膜の表面までの厚さであり、以下の方法で測定した。
測定するサンプルは外径を測定したサンプルと同様の方法でサンプリングした。
次に、サンプリングした多孔質中空糸膜の断面を、投影機(ニコン社製、PROFILE PROJECTOR V−12)を用い、対物レンズ100倍にて観察した。
観察している多孔質中空糸膜断面の3時方向位置の膜厚の外表面と内表面の位置にマーク(ライン)をあわせて膜厚を読み取った。同様に、9時方向、12時方向、6時方向の順で膜厚を読み取った。これを3回測定して内径の平均値を求めた。
【0037】
(多孔質中空糸膜の各層の孔径)
実施例における多孔質中空糸膜各層の外表面孔径及び内表面孔径は、以下の方法で測定した。
得られた多孔質中空糸膜の第一多孔質中空糸膜層と第二多孔質中空糸膜層との界面に沿ってカミソリ刃を当て、第一多孔質中空糸膜層と第二多孔質中空糸膜層に分離した。その後、さらに剃刀場で、第一多孔質中空糸膜層と第二多孔質中空糸膜層を切り開いて平面状として側転サンプルを得た。このサンプルを用いて、SEMで30000倍に拡大観察し、撮影した写真について、(株)プラネトロン製Image−Pro Plusを用いて画像解析を行い、各層の平均孔径を算出した。
【0038】
(純水透過係数) 純水透過係数は、濾過有効長が4cmとなる1本の中空糸多孔質中空糸膜からなるミニモジュールを作製し、エタノールに浸漬して親水化処理を行った後、加圧100kPaの条件にて多孔質中空糸膜の外側から内側へ純水を送液して一定時間の透水量(m
3)を測定して得られた値から単位有効膜面積(m
2)、単位時間(hr)、単位圧力(
MPa)における値に換算して算出した。
【0039】
(実施例1)
中空多孔質支持体として、
図1の支持体製造装置を用いて、捲縮加工がされていないポリエステル繊維(繊度111dtex、フィラメント数48)のマルチフィラメントを円筒状に丸編みし、190℃で熱処理したものを使用した。使用した編紐支持体の外径は1.4mmであり、内径は0.84mmであった。
ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、商品名カイナー761A、質量平均分子量6.0×10
5)13質量%、及びポリビニルピロリドン(日本触媒社製、商品名K−30)12質量%を、N―メチル―2―ピロリドン75質量%に撹拌しながら溶解させて第1製膜原液を調製した。この第一製膜原液の40℃での粘度は2×10
4mPa・sであった。
続いて、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、商品名カイナーHSV900、質量平均分子量1.1×10
6)5質量%、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、商品名カイナー761A)12質量%及びポリビニルピロリドン(日本触媒社製、商品名K−30)14質量%を、N―メチル―2―ピロリドン69質量%に撹拌しながら溶解させて第二製膜原液を調製した。この第2製膜原液の40℃での粘度は9×10
4mPa・sであった。
【0040】
(多孔質中空糸膜の製造)
第一製膜原液を、孔径5μmのフィルタ(図示略)を介して第一環状ノズルへ3.2cc/分の速度で送液した。また、第一製膜原液の送液と同時に編紐支持体を10m/分の速度で第一環状ノズル20へ導いた。中空編紐を第一環状ノズル20の上部から下部へ向けて通しながら、第一製膜原液を中空編紐の外周部に塗布した後、第一環状ノズルから10mm離れた位置に水面を有し、25℃の温度を有し、N−メチル−2−ピロリドンの40質量%水溶液(凝固液)で満たされている第一凝固浴40へ導き、固化させて、10m/分の速度で引き取って第一多孔質中空糸膜前駆体を製造した。
得られた前駆体の第一多孔質中空糸膜層の外径は1.53mmであり、厚みは40μmであった。
【0041】
次に、第二製膜原液を、孔径5μmのフィルタ(図示略)を介して二重環状ノズルの外層部へ7.5cc/分の速度で送液した。また、N−メチル−2−ピロリドン90質量%とグリセリン10質量%から成る中間液を、第二環状ノズル22の上半部に設けた空間に3.0cc/分の速度で送液した。さらに、第二製膜原液の送液と同時に第一多孔質中空糸膜前駆体を10m/分の速度で第二環状ノズル22の中心部へ導いた。
第一多孔質中空糸膜層を第二環状ノズルの上部から下部へ向けて通しながら、深さ8mmの中間液槽を通過させ、直後に、幅1.60mm長さ1mmの通路を通過させた。そしてその後26mm下方で第二製膜原液12を中間液の外周部に塗布し、第二環状ノズル22から67mm離れた位置に水面を有し、62℃の温度を有し、N−メチルピロリドンの30質量%水溶液(凝固液)で満たされている第二凝固浴42へ導き、固化させて、10m/分の速度で引き取って多孔質中空糸膜を製膜した。
【0042】
得られた多孔質中空糸膜を、70℃の温水に35秒間通して脱溶剤させた。次いで、濃度100,000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させた後、100℃のスチーム槽中で4分間加熱処理した。その次に90℃の熱水中に40秒間通す、というこれら一連の工程を3回繰り返した後、105℃に熱した乾燥炉に4分間通して乾燥した後、巻き取って、多孔質中空糸膜を得た。
得られた多孔質中空糸膜の評価結果を表1に示す。
【0043】
〔比較例1〕
中間液として、グリセリン100質量%から成る中間液を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0044】
〔実施例2〕
第二製膜原液として、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、商品名カイナーHSV900、質量平均分子量1.1×10
6)5質量%、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、商品名カイナー761A)11質量%及びポリビニルピロリドン(日本触媒社製、商品名K−30)13質量%を、N―メチル―2―ピロリドン71質量%に撹拌しながら溶解させて調製した第二製膜原液を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0045】
〔実施例3〕
中間液として、N−メチル−2−ピロリドン80質量%とグリセリン20質量%から成る中間液を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0046】
〔比較例2〕
中間液として、N−メチル−2−ピロリドン60質量%とグリセリン40質量%から成る中間液を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0047】
〔比較例3〕
中間液の供給方法として、溜めた場所に第一多孔質中空糸膜層を通過させるのではなく、通路の壁面から中間液を供給して第一多孔質中空糸膜層に塗布した以外は、比較例2と同様にして多孔質中空糸膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0048】
〔実施例4〕
第二製膜原液として、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、商品名カイナーHSV900、質量平均分子量1.1×10
6)15質量%及びポリビニルピロリドン(日本触媒社製、商品名K−30)9質量%を、N―メチル―2―ピロリドン76質量%に撹拌しながら溶解させて調製した第二製膜原液を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜を得た。評価結果を表1に示す。
【0049】
〔比較例4〕
通路の幅Aを1.70mmにした以外は、実施例1と同様にして製膜を行った。しかし、中間液の第一多孔質中空糸膜層への随伴が多く、第二製膜原液の第一多孔質中空糸膜層への塗布ムラが生じ、多孔質中空糸膜を安定して得ることができなかった。
【0050】
【表1】