(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ニッケルマットおよびニッケル・コバルト混合硫化物を原料として電気ニッケルを得るニッケル湿式製錬では以下の処理が行われる。
図7に示すように、ニッケルマット11と後述の含銅塩化ニッケル溶液19とをセメンテーション工程31に供給し、含銅塩化ニッケル溶液19中の銅イオンとニッケルマット11中のニッケルメタルとの置換反応により、含銅ニッケルスラリー13と塩化ニッケル溶液14とを得る。つぎに、ニッケル・コバルト混合硫化物12と含銅ニッケルスラリー13とを塩素浸出工程35に供給し、塩素浸出により含銅塩化ニッケル溶液19を得る。この含銅塩化ニッケル溶液19をセメンテーション工程31に繰り返し装入する。セメンテーション工程31から得た塩化ニッケル溶液14を浄液した後、ニッケル電解工程33に供給し、電解採取により電気ニッケル16を回収する。
【0003】
塩素浸出工程35から得られる含銅塩化ニッケル溶液19に含まれる銅は、セメンテーション工程31で脱銅され含銅ニッケルスラリー13として再び塩素浸出工程35に供給される。この結果、系内の銅は塩素浸出工程35とセメンテーション工程31との間を循環することとなる。このままでは銅が系内で蓄積してしまうため、銅を系外に払い出すために脱銅電解工程36が設けられている。
【0004】
脱銅電解工程36では、塩素浸出工程35から得られた含銅塩化ニッケル溶液19の一部を脱銅電解給液とし、電解採取によりカソードに銅粉20を電着させることで、脱銅が行われる。銅が除去された脱銅電解廃液21は含銅塩化ニッケル溶液19の残部に混合されて、セメンテーション工程31に供給される。
【0005】
脱銅電解工程36においては、生産性や製造コストの観点からカソード電流効率を高めることが要求される。ここで、カソード電流効率は次式により定義される。
カソード電流効率[%]=〔産出銅粉×銅品位[%]〕/〔Cu
2+電気化学等量×通電時間×通電電流〕
【0006】
脱銅電解工程36では、下記化学式1の反応により、カソード側に存在する液中の銅イオンが金属銅として析出される。しかし、いったんカソードに析出した銅は、液中の2価銅イオンとの不均化反応(化学式2)により再度溶解される。この現象が、カソード電流効率の悪化の原因となっている。
[化1]
Cu
2+ + 2e
- = Cu
0
[化2]
Cu
0 + Cu
2+ = 2Cu
+
【0007】
前記現象を抑制するためには、脱銅電解給液の2価銅イオン濃度を極力低減させて電解槽内に存在する2価銅イオン量を低減させる必要がある。そのために、含銅塩化ニッケル溶液19をニッケル電解工程33のニッケル電解廃液17から得られるアノライト18で希釈し、銅濃度を調整したうえで、それを脱銅電解給液として脱銅電解槽に給液することが行われる(特許文献1)。脱銅電解工程36のカソード電流効率を高い状態で維持するためには、脱銅電解給液の銅濃度を所定の範囲で維持することが求められる。
【0008】
従来は、脱銅電解給液の銅濃度を調整するため、含銅塩化ニッケル溶液19をサンプリングし、ICP発光分光分析法により銅濃度を分析して、その結果をもとに含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率を調整していた。しかし、ICP発光分光分析法は分析に長時間を要するうえ、分析費用がかかり、作業員の作業負担も高いため、頻繁に分析することが困難であり、例えば8時間おきに分析するのが精一杯であった。このように分析間隔が長いと、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度の変化に追随することが困難であり、脱銅電解給液の銅濃度が安定せず、カソード電流効率が低下するという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(ニッケル湿式製錬)
まず、
図7に基づきニッケル湿式製錬の全体フローを説明する。
ニッケル湿式製錬では、原料のニッケル硫化物として、ニッケルマット11とニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスサルファイド)12の2種類が用いられる。ニッケルマット11は、硫鉄ニッケル鉱を熔錬することで得られる。また、ニッケル・コバルト混合硫化物12は、低品位ラテライト鉱を硫酸浸出し、浸出液中のニッケルとコバルトを硫化物として回収することで得られる。
【0015】
まず、ニッケルマット11をセメンテーション工程31に供給する。セメンテーション工程31には後述の含銅塩化ニッケル溶液19と脱銅電解廃液21との混合液が供給されており、この混合液に含まれる銅イオンがニッケルマット11中のニッケルメタルと置換反応を起こして、硫化銅として析出する。そして、析出した硫化銅をその他の残分とともに含銅ニッケルスラリー13として分離し、塩化ニッケル溶液14を得る。
【0016】
セメンテーション工程31から得られる塩化ニッケル溶液14にはコバルトや鉄などが含まれているため、浄液工程32で塩素ガスを吹き込んで酸化しつつ、同時に炭酸ニッケルを添加して中和する、いわゆる酸化中和法により、これらの元素および銅、鉛、ヒ素などの微量不純物を水酸化物として除去する。不純物を除去した液は純粋な塩化ニッケル溶液であり、これをニッケル電解給液15としてニッケル電解工程33に送る。ニッケル電解工程33においては、電解採取により、ニッケル電解給液15に含まれるニッケルを電気ニッケル16として回収する。ニッケル電解工程33から排出されたニッケル電解廃液17は、脱塩素工程34において脱塩素処理が行われアノライト18となる。アノライト18の大部分はニッケル電解工程33に繰り返し装入される。
【0017】
塩素浸出工程35にはニッケル・コバルト混合硫化物12および含銅ニッケルスラリー13にアノライト18の一部を混合したスラリーが供給される。塩素浸出工程35では、浸出槽に吹き込まれる塩素ガスの酸化力によって、スラリー中の固形物に含まれる金属が実質的に全て液中に浸出される。塩素浸出工程35から排出されたスラリーは浸出液(含銅塩化ニッケル溶液19)と浸出残渣とに固液分離される。含銅塩化ニッケル溶液19はセメンテーション工程31に繰り返し装入される。
【0018】
塩素浸出工程35ではスラリー中の固形物に含まれる銅も浸出され銅イオンとなる。含銅塩化ニッケル溶液19に含有された銅は、セメンテーション工程31で脱銅され再び含銅ニッケルスラリー13となる。この結果、系内の銅はセメンテーション工程31および塩素浸出工程35の間を循環することとなる。このままでは銅が系内で蓄積してしまうため、脱銅電解工程36で銅を系外に払い出すことが行われる。
【0019】
脱銅電解工程36では、含銅塩化ニッケル溶液19の一部を脱銅電解給液とし、陽極として不溶性電極を用い、陰極としてチタン電極を用いて、電解採取によりカソードに銅粉20を電着させることが行われる。脱銅電解給液の一部は、カソライトとして脱銅電解槽から常時オーバーフローさせて液面を一定に保持している。カソードに電着した銅粉20は、カソードを振動させることによりカソードから分離され、槽内に沈降させ、槽底部より抜き取った液を濾過して回収する。脱銅電解工程36から排出された脱銅電解廃液21は含銅塩化ニッケル溶液19の残部と混合され、セメンテーション工程31へ給液される。
【0020】
前述のごとく、脱銅電解工程36においては、カソード電流効率を高めることが要求される。また、脱銅電解給液の銅濃度を所定の範囲で維持することで、脱銅電解工程36のカソード電流効率を高い状態で維持できることが知られている。そこで、含銅塩化ニッケル溶液19をアノライト18で希釈し、銅濃度を調整したうえで、それを脱銅電解給液として脱銅電解槽に給液することが行われる。
【0021】
ここで、脱銅電解給液の銅濃度は20g/L以上、40g/L以下に調整することが好ましい。銅濃度を40g/L以下に調整することで、カソードに析出した銅が液中の2価銅イオンとの不均化反応(化学式2)により再度溶解される現象を抑制でき、カソード電流効率を80%以上とすることができる。また、銅濃度が20g/L以上であれば、銅濃度が低すぎることによりカソードに針状電析が生じてショートが発生することを防止できる。また、脱銅電解給液中のニッケルが電着することを抑制できる。
【0022】
含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度は一定ではなく、成り行きにまかせた場合約30〜100g/Lの範囲で変動する。これに対してアノライト18の銅濃度は、例えば約0.01g/L以下と低い。そのため、含銅塩化ニッケル溶液19に混合するアノライト18の量を調整することにより、銅濃度が20〜40g/Lの脱銅電解給液とすることができる。
【0023】
なお、含銅塩化ニッケル溶液19を希釈する希釈液はアノライト18に限定されず、銅濃度を調整できる液であればよく、例えば水でもよい。ただし、希釈液としてアノライト18を用いれば、系内に新規の水を添加する必要がない。そのため、脱水の工程を新たに設ける必要がなく、また、系内のニッケル濃度が低下しないので好ましい。
【0024】
(吸光光度法)
脱銅電解給液の銅濃度が所定値となるように調整するためには、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を測定する必要がある。従来は、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度をICP発光分光分析法により分析していたため、分析頻度を高くすることができなかった。これに対して、本出願人は、吸光光度法により含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を定量分析する方法を発明し、すでに特許出願(特願2014−038718)している。この定量分析方法によれば、吸光光度法を用いることで、高い頻度で、さらには連続的に含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を定量分析することが可能である。
【0025】
吸光光度法は、試料溶液に光を通過させ、試料溶液中の対象物質による光の吸収の程度、すなわち吸光度を測定することにより、対象物質の濃度を定量分析する方法である。含銅塩化ニッケル溶液19中の銅はクロロ錯体として光を吸収する。したがって、銅のクロロ錯体の吸光度を測定することで、銅濃度を求めることができる。
【0026】
(ニッケル、コバルトの影響)
含銅塩化ニッケル溶液19には、測定対象である銅のほかに、ニッケルやコバルトが含まれ、それぞれがクロロ錯体として光を吸収する。そのため、ニッケルやコバルトによる銅濃度の測定への影響を排除できるように測定波長を選択する必要がある。
【0027】
含銅塩化ニッケル溶液19の銅、ニッケルおよびコバルトのおよその濃度比は、Cu:Ni:Co = 1:4:0.2である。そこで、銅、ニッケルおよびコバルトの濃度を、それぞれ0.5g/L、2.0g/L、0.1g/Lとした2.4mol/L塩酸酸性の模擬液を作成し、その模擬液の測定波長と吸光度(光路長は10mm)との関係を試験により求めた。その結果を
図8に示す。
【0028】
図8より、波長860〜950nm、好ましくは880nmの光の吸光度を測定することで、ニッケルおよびコバルトによる銅濃度の測定への影響を排除できることが分かる。すなわち、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を測定するためには、測定波長を860〜950nmとすることが好ましく、880nmとすることがより好ましい。
【0029】
(塩化物イオン濃度の影響)
前述のごとく、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度は、銅のクロロ錯体の吸光度を測定することで求められる。しかし、銅のクロロ錯体は、配位子である塩化物イオン濃度の影響を受けるため、これが銅濃度の測定にも影響を及ぼす。
【0030】
図9は、銅濃度を1g/Lで一定とし、塩酸に起因する塩化物イオンの濃度を0〜6mol/Lの範囲で変化させた模擬液において、波長880nmの光の吸光度(光路長は10mm)を測定して得たグラフである。
図9より、塩化物イオンが増加すると、吸光度も増加する傾向があることが分かる。
【0031】
含銅塩化ニッケル溶液19の塩化物イオン濃度が一定であれば、銅濃度を正確に測定することができる。しかし、含銅塩化ニッケル溶液19の塩化物イオン濃度は、塩素浸出工程35において塩素浸出される金属量に依存するため、8〜10mol/Lの間で長期的に変動する。
【0032】
含銅塩化ニッケル溶液19の塩化物イオン濃度の変動による影響を低減するためには、含銅塩化ニッケル溶液19を塩化物イオン含有液で希釈し、希釈された含銅塩化ニッケル溶液19中の銅のクロロ錯体の量を測定すればよい。塩化物イオン含有液は、塩化物イオンを含む溶液であれば特に限定されないが、例えば、塩酸や塩化ナトリウム溶液のほか、アノライト18を用いることができる。
【0033】
塩化物イオン含有液の塩化物イオン濃度が高いほど、含銅塩化ニッケル溶液19の塩化物イオン濃度の変動を低減でき、銅濃度測定への影響を抑制できる。もっとも、含銅塩化ニッケル溶液19に塩化物イオン含有液として濃度12mol/Lの塩酸を加えると、結晶が析出し測定に供することができなかった。そのため、塩化物イオン含有液として塩酸を用いる場合には、塩酸濃度を6〜9mol/Lとすることが好ましい。
【0034】
図10は、含銅塩化ニッケル溶液19をアノライト18で5倍に希釈して得た試料溶液を用いて、波長880nmの光における吸光度と、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度との関係を示したグラフである。なお、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度は、ヨウ素滴定法により測定した値である。
図10より、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度と吸光度との間には、正比例の関係が認められる。また、最小二乗法により、銅濃度と吸光度との間で一次の近似式を予め算出することができる。この近似式を用いることで、吸光度から含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を求めることができる。
【0035】
〔第1実施形態〕
(給液装置A)
つぎに、本発明の第1実施形態に係る給液装置Aを説明する。
本実施形態の給液装置Aは、前記ニッケル湿式製錬の脱銅電解工程36において、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合液を脱銅電解給液として脱銅電解槽に給液する給液装置である。給液装置Aは、吸光光度法により銅濃度を測定する比色計を用いることで、測定頻度を高くする所に特徴を有する。
【0036】
図1に示すように、給液装置Aは、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とを混合して脱銅電解給液22を製造する混合槽41を備えている。混合槽41には第1主流路51により含銅塩化ニッケル溶液19が供給され、第2主流路52によりアノライト18が供給される。混合槽41から排出された脱銅電解給液22は第3主流路53により脱銅電解槽60に供給され、電解採取に供される。
【0037】
混合槽41は、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とを十分に混合できればその構成は特に限定されず、撹拌機を備える槽が好適に用いられる。また、第1、第2、第3主流路51、52、53は、通常主に配管で構成されるが、必要に応じて貯留槽などを介在する構成としてもよい。
【0038】
第1主流路51には第1流量制御弁51vが設けられており、含銅塩化ニッケル溶液19の流量を調整可能となっている。また、第2主流路52には第2流量制御弁52vが設けられており、アノライト18の流量を調整可能となっている。第1流量制御弁51vと第2流量制御弁52vの開度を調整することで、混合槽41における含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率を調整することができる。
【0039】
なお、第1、第2流量制御弁51v、52vは、それぞれ特許請求の範囲に記載の「流量制御手段」に相当する。流量制御手段としては、流量制御弁のほか、可変容量ポンプなど、流量を制御できる部材であれば特に制限なく使用できる。また、流量制御手段を第1主流路51と第2主流路52の両方に設ける構成のほか、いずれか一方にのみ設ける構成としてもよい。例えば、第2主流路52にのみ第2流量制御弁52vを設ける構成としてもよい。この場合でも、含銅塩化ニッケル溶液19の流量に対して、アノライト18の流量を第2流量制御弁52vで制御することで、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率を調整することができる。
【0040】
第1主流路51の第1流量制御弁51vより下流側からは第1副流路54が分岐しており、第2主流路52の第2流量制御弁52vより下流側からは第2副流路55が分岐している。第1、第2副流路54、55は、それぞれ希釈槽42に接続されている。そのため、第1主流路51を流れる含銅塩化ニッケル溶液19の一部は第1副流路54に分岐し、希釈槽42に供給される。また、第2主流路52を流れるアノライト18の一部は第2副流路55に分岐し、希釈槽42に供給される。
【0041】
第1副流路54には第1ポンプ54pが設けられており、第2副流路55には第2ポンプ55pが設けられている。第1、第2ポンプ54p、55pは可変容量ポンプであり、吐出量を調整することで、希釈槽42における含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率を調整することができる。
【0042】
希釈槽42は、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とを混合して試料溶液23を製造する。希釈槽42から排出された試料溶液23は比色計43に供給され、その銅濃度が測定される。比色計43で銅濃度を測定した後の試料溶液23は、戻り流路57により混合槽41に供給される。
【0043】
第2副流路55および希釈槽42からなる構成により、比色計43に供給される含銅塩化ニッケル溶液19をアノライト18で希釈することができる。この構成が特許請求の範囲に記載の「希釈手段」に相当する。
【0044】
第1、第2副流路54、55および戻り流路57は、通常主に配管で構成されるが、必要に応じて貯留槽などを介在する構成としてもよい。例えば、第1副流路54の途中に貯留槽を設け、その貯留槽から含銅塩化ニッケル溶液19を汲み上げるように第1ポンプ54pを設けてもよい。このような構成とすることで、第1主流路51における液圧の影響を受けることなく、第1ポンプ54pで含銅塩化ニッケル溶液19の流量を調整することができる。第2副流路55においても同様である。
【0045】
第1、第2ポンプ54p、55pに代えて、流量制御弁など、他の流量制御手段を用いてもよい。希釈槽42は、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とを十分に混合できればその構成は特に限定されない。希釈槽42の具体的構成の一例は後に詳述する。
【0046】
(比色計43)
比色計43は、吸光光度法により溶液中に溶解している物質の濃度を測定する装置であり、分光光度計とも称される。比色計43で試料溶液23を測定することにより、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を測定できる。なお、前述のごとく比色計43の測定波長は860〜950nmとすることが好ましく、880nmとすることがより好ましい。測定波長を前記範囲に設定することで、含銅塩化ニッケル溶液19に含まれるニッケルおよびコバルトによる銅濃度の測定への影響を排除できるからである。
【0047】
比色計43の種類は特に限定されないが、浸漬型の比色計43を用いれば、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を連続的に測定する構成を容易に作成できるので好ましい。例えば、
図2に示すように、浸漬型の比色計43は、その検出部に発光部43eと受光部43rとが所定の光路長をもって対向して配置されたものである。比色計43の検出部は浸漬槽43vに貯留された試料溶液23に浸漬されている。浸漬槽43vには、希釈槽42から排出された試料溶液23が常に供給されており、一時貯留された後に排出される。そのため、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度をリアルタイムで連続的に測定できる。
【0048】
前述のごとく、吸光光度法による含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度測定は、塩化物イオン濃度の変動による影響を受ける。含銅塩化ニッケル溶液19を塩化物イオン含有液で希釈することで、前記影響を低減できる。そのため、第1、第2副流路54、55、第1、第2ポンプ54p、55p、および希釈槽42からなる構成により、含銅塩化ニッケル溶液19をアノライト18(塩化物イオン含有液)で希釈した後に、比色計43に供給する。含銅塩化ニッケル溶液19をアノライト18で希釈することで、含銅塩化ニッケル溶液19の塩化物イオン濃度の変動を抑制でき、銅濃度測定への影響を低減できる。そのため、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を精度よく測定できる。
【0049】
比色計43に供給される含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率は第1、第2ポンプ54p、55pの流量により設定される。前記混合比率は、塩化物イオン濃度の変動による影響を低減するのに好ましい比率に設定される。例えば、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率を1:3〜1:6、好ましくは1:5とすればよい。
【0050】
比色計43においては、予め検量線を作成しておくことで、測定した吸光度から銅濃度を求めることができる。検量性の作成は、例えば以下のゼロ・スパン校正により一次式の検量線を作成することで行われる。具体的には、まず比色計43を準備する。検量線のゼロ値を決定するために、アノライト18を準備する。また検量線のスパンを決定するために、含銅塩化ニッケル溶液19を準備する。この含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度は、予めヨウ素滴定法などにより正確に測定しておく。つぎに、比色計43でアノライト18の吸光度を測定して検量線のゼロ値を決定し、含銅塩化ニッケル溶液19をアノライト18で希釈した液の吸光度を測定して検量線のスパン校正を行なう。そうすると、
図10に示すような近似式が得られるので、この近似式により測定した吸光度から銅濃度を求めることができる。
【0051】
(制御装置44)
図1に戻り説明する。給液装置Aは、第1、第2流量制御弁51v、52vを制御する制御装置44を備えている。制御装置44は、CPUやメモリなどで構成されたコンピュータや、単純な電子回路である。制御装置44には、比色計43で測定された測定結果(銅濃度や吸光度)が入力されている。制御装置44は比色計43の測定結果に基づき、第1、第2流量制御弁51v、52vの開度を制御して、混合槽41における含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率を調整する。
【0052】
ここで、制御装置44は脱銅電解給液22の銅濃度が所定値となるように、第1、第2流量制御弁51v、52vの開度を制御する。なお、「所定値」とは、特定の値でもよいし、範囲でもよい。前述のごとく、脱銅電解給液22の銅濃度は20g/L以上、40g/L以下に調整することが好ましい。制御装置44は、比色計43で測定された含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度から、前記好ましい銅濃度に希釈するための含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率を求め、その混合比率となるように第1、第2流量制御弁51v、52vの開度を設定する。
【0053】
含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率の調整は、含銅塩化ニッケル溶液19の流量に対してアノライト18の流量を増減させることにより行ってもよいし、その逆でもよい。また、含銅塩化ニッケル溶液19の流量とアノライト18の流量の両方を増減させてもよい。もっとも、含銅塩化ニッケル溶液19の流量は、他の工程の操業条件などにより決定する場合があるため、この場合には、含銅塩化ニッケル溶液19の流量に対してアノライト18の流量を増減させることで、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率が調整される。
【0054】
以上のように、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を比色計43で測定するので、従来よりも測定頻度を高くすることができ、連続的に測定することもできる。また、比色計43の測定結果に基づき第1、第2流量制御弁51v、52vを制御することで、脱銅電解給液22の銅濃度を自動で調整できる。そのため、脱銅電解給液22の銅濃度を安定させることができ、脱銅電解工程36のカソード電流効率を高い状態で維持できる。
【0055】
また、戻り流路57により試料溶液23を混合槽41に供給するので、測定に用いられた含銅塩化ニッケル溶液19に含まれる、ニッケルや銅などの有価金属のロスを防止できる。しかも、試料溶液23は含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合液であり、他の成分が含まれていないので、試料溶液23を混合槽41に供給しても後工程に悪影響を及ぼすことがない。
【0056】
混合槽41に供給される含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率の調整は、第1、第2副流路54、55の分岐点より上流の第1、第2流量制御弁51v、52vにより行われる。分岐した一部の含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とからなる試料溶液23を混合槽41に戻すので、第1、第2流量制御弁51v、52vにおける流量比率がそのまま、混合槽41に供給される含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率となる。そのため、第1、第2流量制御弁51v、52vの制御が容易である。
【0057】
(希釈槽42)
ところで、比色計43に供給される含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合が不十分であると、試料溶液23の銅濃度が不均一となり、比色計43において正確に含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度が測定できないばかりか、測定結果が大きく変動することになる。その結果、測定結果に基づいて脱銅電解給液22の銅濃度を調整しても、求める銅濃度に調整することができず、しかも脱銅電解給液22の銅濃度が不安定になる(変動する)。これに対して、希釈槽42を以下に説明する構成とすることで、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とを十分に混合することができる。
【0058】
図3に示すように、希釈槽42は、例えば、幅50cm、高さ15cm、奥行き15cmの箱型の槽である。希釈槽42の内部には堰42aが設けられており、この堰42aにより希釈槽42の内部が給液室42sと排液室42oとに仕切られている。給液室42sの端部には第1、第2副流路54、55の配管が接続されており、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とが供給されている。また、排液室42oの端部には含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合液である試料溶液23が排出される排出管56が接続されている。ここで、希釈槽42における試料溶液23の十分な滞留時間を確保するため、第1、第2副流路54、55の配管と排出管56とは、実質的に最も離れた両端部に配置することが好ましい。また、第1、第2副流路54、55の配管は隣接して設けることが好ましい。
【0059】
堰42aは、その上端が液面より高く設定されており、下端と希釈槽42の底との間には隙間が形成されている。また、排出管56は液面付近に設けられており、排液室42oからオーバーフローした試料溶液23が排出されるよう構成されている。そのため、給液室42sで混合された試料溶液23は、堰42aの下端と希釈槽42の底との間を通って排液室42oに流れた後に、排液室42oからオーバーフローして排出管56に流れる。そのため、希釈槽42内の液流がどのような状態となったとしても、試料溶液23が液面付近を流れて混合が不十分なまま排出される、ショートパスを防止できる。
【0060】
堰42aの位置は特に限定されないが、給液室長さ:排液室長さ = 2:1となる位置が好ましい。堰42aを排出管56の近くに設けて、給液室42sを広くし、給液室42sに撹拌機42bを設ける。撹拌機42bの作用により、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とを十分に混合でき、試料溶液23の銅濃度を均一化できる。なお、堰42aと排出管56が近く、さらに撹拌機42bと堰42aが近いと、撹拌機42bにより生じた液流によりショートパスの原因となる恐れがあるため、撹拌機42bは堰42aからなるべく離して設置することが好ましい。
【0061】
以上のような構成であるので、希釈槽42の給液室42sに供給された含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18は撹拌機42bの作用により混合され、その混合液である試料溶液23が堰42aを通過して排出される。堰42aと撹拌機42bとを組み合わせた構成により、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とを十分に混合できる。また、希釈槽42で含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とを混合するので、試料溶液23の銅濃度を均一化でき、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を精度よく測定できる。
【0062】
〔第2実施形態〕
つぎに、本発明の第2実施形態に係る給液装置Bを説明する。
図4に示すように、本実施形態の給液装置Bは、第1実施形態において、含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とを混合して試料溶液23を製造するのに代えて、含銅塩化ニッケル溶液19と塩化物イオン含有液24とを混合して試料溶液23を製造する形態である。具体的には、第1実施形態の第2副流路55に代えて、塩化物イオン含有液24を希釈槽42に供給する流路58を設け、流路58に設けられたポンプ58pにより、塩化物イオン含有液24の流量を制御するよう構成されている。その余の構成は第1実施形態と同様であるので、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
塩化物イオン含有液24としては、塩化物イオンを含む溶液であれば特に限定されないが、例えば、塩酸や塩化ナトリウム溶液を用いることができる。本実施形態によっても、含銅塩化ニッケル溶液19を塩化物イオン含有液24で希釈するので、含銅塩化ニッケル溶液19の塩化物イオン濃度の変動を抑制でき、銅濃度測定への影響を低減できる。そのため、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を精度よく測定できる。
【0064】
なお、添加した塩化物イオン含有液24が、後工程に悪影響を及ぼす場合には、戻り流路57を設けず、測定後の試料溶液23を系外に排出する構成としてもよい。
【0065】
〔第3実施形態〕
つぎに、本発明の第3実施形態に係る給液装置Cを説明する。
図5に示すように、本実施形態の給液装置Cは、第1実施形態において、希釈手段(第2副流路55および希釈槽42)を設けない構成である。すなわち、第1副流路54により分岐した一部の含銅塩化ニッケル溶液19を直接比色計43に供給し、その銅濃度を測定する形態である。
【0066】
含銅塩化ニッケル溶液19の塩化物イオン濃度が変動しない場合には、含銅塩化ニッケル溶液19を塩化物イオン含有液で希釈する必要がない。このような場合は、本実施形態のように希釈手段を設けなくても、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を正確に測定できる。
【0067】
〔第4実施形態〕
つぎに、本発明の第4実施形態に係る給液装置Dを説明する。
図6に示すように、本実施形態の給液装置Dは、第1実施形態において、混合槽41で混合された後の脱銅電解給液22の一部を比色計43に供給し、脱銅電解給液22の吸光度から含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を測定する形態である。具体的には、第3主流路53からは第3副流路59が分岐しており、第3主流路53を流れる脱銅電解給液22の一部が比色計43に供給される。
【0068】
脱銅電解給液22は含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合液であるので、脱銅電解給液22を吸光光度法による分析に供すれば、含銅塩化ニッケル溶液19の塩化物イオン濃度の変動を抑制でき、銅濃度測定への影響を低減できる。そのため、含銅塩化ニッケル溶液19の銅濃度を精度よく測定できる。
【0069】
〔その他の実施形態〕
前記第1実施形態では、希釈槽42を設ける構成としたが、この希釈槽42を設けない構成としてもよい。この場合、例えば、第1、第2副流路54、55の配管を途中で接続し、配管内で含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18とが混合される構成とすればよい。
【0070】
また、脱銅電解給液22として含銅塩化ニッケル溶液19を希釈する希釈液はアノライト18に限定されず、銅濃度を調整できる液であればよく、例えば水でもよい。
【実施例】
【0071】
つぎに、実施例を説明する。
(共通の条件)
まず、以下の説明する実施例および比較例の共通の条件を説明する。
含銅塩化ニッケル溶液19の流量および組成は以下の通りである。
流量 :15〜80L/分
銅濃度 :25〜45g/L
ニッケル濃度:220〜270g/L
アノライト18の流量および組成は以下の通りである。
流量 :3〜45L/分(給液装置による調整後)
銅濃度 :実質的に0g/L
ニッケル濃度:70〜80g/L
また、脱銅電解給液22の銅濃度の設定値は25g/Lとした。銅濃度のバラつきは銅濃度の最大値と最小値の幅で評価した。
【0072】
(実施例1)
前記第1実施形態の給液装置Aを用いて、1週間の操業を行った。ここで、比色計43に供給する含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率は、以下の通りとした。
含銅塩化ニッケル溶液:アノライト = 1:3 〜 1:6
含銅塩化ニッケル溶液の流量:100〜150mL/分
【0073】
その結果、脱銅電解給液22の銅濃度の平均値は24.9g/Lであり、バラつきは±0.5g/Lであった。
【0074】
(実施例2)
実施例1において、希釈槽42から、堰42aと撹拌機42bとを取り外したものを用いて、1周間の操業を行った。その余の条件は実施例1と同様である。
その結果、脱銅電解給液22の銅濃度の平均値は25.1g/Lであり、バラつきは±0.7g/Lであった。
【0075】
(実施例3)
実施例1において、希釈槽42を設けず、比色計43の直前で第1、第2副流路54、55の配管を接続した。
その結果、脱銅電解給液22の銅濃度の平均値は27.4g/Lであり、バラつきは±1.1g/Lであった。
【0076】
(比較例1)
含銅塩化ニッケル溶液19を8時間ごとにサンプリングして銅濃度を測定し、その結果により含銅塩化ニッケル溶液19とアノライト18との混合比率を調整した。
その結果、脱銅電解給液22の銅濃度の平均値は23.4g/Lであり、バラつきは±1.5g/Lであった。
【0077】
以上の結果を表1にまとめる。
【表1】
【0078】
以上のように、実施例1〜3によれば、比較例1に比べて脱銅電解給液22の銅濃度のバラつきを低減できることがわかる。また、希釈槽42を設けた実施例1、2の方が希釈槽42を設けない実施例3に比べて銅濃度のバラつきを低減でき、中でも堰42aと撹拌機42bを備える実施例1の構成とすれば、よりバラつきを低減できることが確認された。