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特許6222056シリコン単結晶の温度の推定方法及びシリコン単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222056
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の温度の推定方法及びシリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20171023BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C30B29/06 502Z
   C30B29/06 502G
   C30B15/20
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-236782(P2014-236782)
(22)【出願日】2014年11月21日
(65)【公開番号】特開2016-98147(P2016-98147A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2016年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】高野 清隆
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−275170(JP,A)
【文献】 特開2010−037114(JP,A)
【文献】 特開2010−215460(JP,A)
【文献】 特開平11−157995(JP,A)
【文献】 米国特許第06113687(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバに収容されたルツボにシリコン多結晶原料を収容し、該シリコン多結晶原料をヒーターで加熱してシリコン融液とし、前記ルツボを挟んで同軸的に対抗配備したコイルにより前記シリコン融液に水平磁場を印加しつつ、前記シリコン融液にシリコン種結晶を着液して回転させながら引き上げることにより、シリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造における前記シリコン単結晶の温度を、総合伝熱解析により推定するシリコン単結晶の温度の推定方法であって、
前記ヒーターによる前記シリコン融液の加熱条件を変更することで、前記シリコン融液の表面の中心から前記シリコン融液の底までにおける前記シリコン融液の中心軸方向の温度分布を2種類以上測定する測定工程と、
該測定工程において前記加熱条件を変更して測定した前記2種類以上の中心軸方向の温度分布と、各加熱条件における前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析で得られるシリコン融液の中心軸方向の温度分布とが一致するように乱流パラメータを調整したうえで、実際のシリコン単結晶の引き上げ時の前記シリコン単結晶の温度を総合伝熱解析により推定する推定工程と、
を有することを特徴とするシリコン単結晶の温度の推定方法。
【請求項2】
前記水平磁場の強度を、前記対向するコイルの中心を結ぶ線の中心点において1000G以上となるように制御することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の温度の推定方法。
【請求項3】
前記シリコン融液の加熱条件を変更する際に、前記ヒーターの位置を変える、又は、発熱分布が異なるヒーターを用いることで、前記2種類以上の温度分布を測定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の温度の推定方法。
【請求項4】
前記シリコン融液の中心軸方向の温度分布の測定は、前記シリコン融液表面の中心の温度が、前記シリコン種結晶を着液する時の温度以上の温度であると同時に、シリコン単結晶を含まない解析モデルについての、前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析において、前記シリコン融液表面の中心の温度を境界条件として解析を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の温度の推定方法。
【請求項5】
前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析は、混合距離モデルにより、ルツボ壁面及び結晶成長界面からの距離に応じた粘性係数と熱伝導率を真値に加算して、前記シリコン融液中の乱流の影響を計算するものとし、前記乱流パラメータとして、前記粘性係数と前記熱伝導率を調整することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の温度の推定方法。
【請求項6】
チャンバに収容されたルツボにシリコン多結晶原料を収容し、該シリコン多結晶原料をヒーターで加熱してシリコン融液とし、前記ルツボを挟んで同軸的に対抗配備したコイルにより前記シリコン融液に水平磁場を印加しつつ、前記シリコン融液にシリコン種結晶を着液して回転させながら引き上げることにより、シリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン単結晶の引上げを行う前に、
前記ヒーターによる前記シリコン融液の加熱条件を変更することで、前記シリコン融液の表面の中心から前記シリコン融液の底までにおける前記シリコン融液の中心軸方向の温度分布を2種類以上測定する測定工程と、
該測定工程において前記加熱条件を変更して測定した前記2種類以上の中心軸方向の温度分布と、各加熱条件における前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析で得られるシリコン融液の中心軸方向の温度分布とが一致するように乱流パラメータを調整したうえで、実際のシリコン単結晶の引き上げ時の前記シリコン単結晶の温度を総合伝熱解析により推定する推定工程とを有し、
前記実際のシリコン単結晶の引き上げ時には、前記推定したシリコン単結晶の温度に基づいて、前記シリコン単結晶の引上げ条件を調整することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記水平磁場の強度を、前記対向するコイルの中心を結ぶ線の中心点において1000G以上となるように制御することを特徴とする請求項6に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記シリコン融液の加熱条件を変更する際に、前記ヒーターの位置を変える、又は、発熱分布が異なるヒーターを用いることで、前記2種類以上の温度分布を測定することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記シリコン融液の中心軸方向の温度分布の測定は、前記シリコン融液表面の中心の温度が、前記シリコン種結晶を着液する時の温度以上の温度であると同時に、シリコン単結晶を含まない解析モデルについての、前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析において、前記シリコン融液表面の中心の温度を境界条件として解析を行うことを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析は、混合距離モデルにより、ルツボ壁面及び結晶成長界面からの距離に応じた粘性係数と熱伝導率を真値に加算して、前記シリコン融液中の乱流の影響を計算するものとし、前記乱流パラメータとして、前記粘性係数と前記熱伝導率を調整することを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項11】
前記推定工程において、さらに、前記調整された乱流パラメータを用いて前記シリコン融液内の対流の速度分布を算出し、該速度分布及び前記シリコン融液内部の前記温度分布に基づいて、前記シリコン単結晶に取り込まれる酸素濃度を推定し、
前記推定したシリコン単結晶の温度に加え、前記シリコン単結晶に取り込まれる酸素濃度にも基づいて、前記シリコン単結晶の引上げ条件を調整することを特徴とする請求項6から請求項10のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記推定工程において、前記推定したシリコン単結晶の温度に基づいて、前記シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布を推定し、
前記推定した前記シリコン単結晶の温度に加え、前記シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布にも基づいて、前記シリコン単結晶の引上げ条件を調整することを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の温度の推定方法及びその推定方法を使用したシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョクラルスキー(CZ)法によるシリコン単結晶の育成におけるシリコン単結晶の温度を総合伝熱解析によって推定する方法としては、例えば、シリコン単結晶の周囲に配置される整流体の断熱材の熱伝導率の最適値と、チャンバの内壁の輻射率の最適値を、育成中のシリコン単結晶の実温度を測定することによって求め、この最適値を総合伝熱解析プログラムに代入することで結晶温度を推定する方法等が有る(特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2には、水平磁場を印加したCZ法(HMCZ法)におけるシリコン単結晶の欠陥解析方法として、三次元構造を有するシリコン融液内の温度場・対流の速度場を解析することが記載されている。
【0004】
シリコン単結晶の温度を正しく数値解析で推定するには、シリコン融液から流入する熱量も解析する必要が有るが、この場合特に、シリコン融液中の三次元構造を有する対流を含んだ総合伝熱解析を行う必要がある。シリコン融液中の対流は乱流を含んでおり、乱流を含む対流の流れ場を正確に解析する方法として、例えば、膨大な要素数で融液部分のメッシュ分割を行い、直接解析法(Direct Numerical Simulation)にて解析する方法が挙げられる。しかしながら、このような解析方法は月単位の時間が必要であり実用的ではない。
【0005】
そのため、特許文献2には、シリコン単結晶の回転軸に対して対称な二次元軸対称の平面でのシリコン融液の対流を簡易的に算出することが記載されている。より具体的には、シリコン融液中の層流モデルによる対流を含んだ、簡易的な軸対称モデルを用いて、シリコン融液の動粘性係数と、熱膨張率と、熱輻射率と、結晶及びルツボ回転とを調整することで、解析値を実際の固液界面高さに合わせ込んだ上で、欠陥解析を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−037114号公報
【特許文献2】特開2010−215460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載の方法はシリコン融液の状態が変化しなければ、補正方法として有効であるが、例えば、水平磁場の強度の変更や、ヒーターの発熱分布の変更によりシリコン融液の状態が変化すると、その都度、上記の整流体の断熱材の熱伝導率及びチャンバの内壁の輻射率等の複数のパラメータの最適化が必要であり汎用的ではない。さらに、シリコン単結晶の温度は、シリコン融液から流入する熱量、シリコン単結晶の成長速度に応じて界面で発生する凝固潜熱、さらに結晶側面から輻射伝熱で流出する熱量等によって決まることから、シリコン融液の上方にある部材のみの解析、調整だけでは、シリコン融液から流入する熱量が一切考慮されていないため不十分である。
【0008】
また、シリコン融液からシリコン単結晶に流入する熱量は、シリコン融液の対流に大きな影響を受ける。シリコン融液中の対流としては、シリコン融液の上下方向の温度差に基づく自然対流と、結晶中酸素濃度を制御するために用いられるルツボ回転及び結晶回転による強制対流が存在する。磁場を印加しない場合、シリコンメルトは粘性係数が極端に小さいために、ルツボ回転にほぼ同期して回転しながら、自然対流が生じているが、水平磁場を徐々に増加させながら印加すると、1000G(Gauss)以上で急激に対流の流れが抑制され、ルツボが回転していてもシリコン融液は回転しなくなる。また、図7に示すように、対流の流れの抑制と共に、シリコン融液表面の温度変動も急激に小さくなって安定化することが知られている(参考文献:布施川泉、太田友彦、長澤繁 低温工学 Vol.33 No.2 (1998) 「強磁場中での半導体シリコン単結晶の製造」参照)。さらに、磁場強度が1000G以上になると、シリコン融液の対流の流速及び温度変動幅は磁場強度に比例して減少することから、メルト内部の対流構造は磁場強度が1000G以上であれば、極めて類似した状態になっていると考えられる。
【0009】
このように、磁場による対流に対する抑制力が作用するのは、シリコンは融液状態で導電性を有するため、磁力線と直交する流れに対して逆方向に抑制力が働くためであるが、メルト全領域において、抑制力が働くわけではない。CZ法においては、電気抵抗率の高い石英ルツボを使用しているため、ルツボ内面に対して垂直方向に発生する誘起電流は電荷の蓄積によって生ずる電界によって惹起されず、抑制力の作用しない領域が存在する。このため、シリコン融液の内部には強い磁場を印加しても三次元構造を有する対流が存在し、乱流状態が残っている。
【0010】
一方、結晶の温度は、結晶長さに応じて、ホットゾーンとの相対位置が変化するため、一定ではないが、瞬間的には、メルトから流入する熱量と引き上げによって生ずる凝固潜熱の和が結晶側面から放熱する熱量とバランスすることで決定されると考えられる。従って、シリコン単結晶の温度を正しく数値解析で推定するには、シリコン融液から流入する熱量も解析する必要が有るが、この場合特に、シリコン融液中の三次元構造を有する対流を含んだ総合伝熱解析を行う必要がある。シリコン融液中の対流は乱流を含んでおり、乱流を含む対流の流れ場を正確に解析するには、膨大な要素数で融液部分のメッシュ分割を行い、直接解析法(Direct Numerical Simulation)にて解析する方法が挙げられる。しかしながら、このような解析方法は月単位の時間が必要であり実用的ではない。
【0011】
また、上記の特許文献2に記載の方法は、磁場強度の影響をシリコン融液の粘性係数で考慮するため、シリコン融液から結晶に流入する熱量を考慮した解析方法ではある。しかしながら、本来三次元構造を有し、軸に非対称なシリコン融液中の対流を、二次元軸対称を仮定したモデルで固液界面の高さを合わせ込むために、非常に多くの補正係数の調整が必要である。そのため、この方法も汎用性に乏しく実用的ではない。
【0012】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、シリコン単結晶の温度を高精度で推定でき、かつ、ヒーター発熱分布、磁場強度、及び磁場分布等の変更により、シリコン融液の状態が変化した場合であっても、安定してシリコン単結晶の温度を容易に推定することが可能なシリコン単結晶の温度の推定方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、総合伝熱解析により推定したシリコン単結晶の温度から好適な引上げ条件を設定し、良好な品質のシリコン単結晶を製造することが可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、チャンバに収容されたルツボにシリコン多結晶原料を収容し、該シリコン多結晶原料をヒーターで加熱してシリコン融液とし、前記ルツボを挟んで同軸的に対抗配備したコイルにより前記シリコン融液に水平磁場を印加しつつ、前記シリコン融液にシリコン種結晶を着液して回転させながら引き上げることにより、シリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造における前記シリコン単結晶の温度を、総合伝熱解析により推定するシリコン単結晶の温度の推定方法であって、前記ヒーターによる前記シリコン融液の加熱条件を変更することで、前記シリコン融液の表面の中心から前記シリコン融液の底までにおける前記シリコン融液の中心軸方向の温度分布を2種類以上測定する測定工程と、該測定工程において前記加熱条件を変更して測定した前記2種類以上の中心軸方向の温度分布と、各加熱条件における前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析で得られるシリコン融液の中心軸方向の温度分布とが一致するように乱流パラメータを調整したうえで、実際のシリコン単結晶の引き上げ時の前記シリコン単結晶の温度を総合伝熱解析により推定する推定工程と、を有することを特徴とするシリコン単結晶の温度の推定方法を提供する。
【0015】
本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法は、磁場強度、ホットゾーン構造、加熱分布、結晶回転数、及びルツボ回転数等の引上げ条件を変え、シリコン融液の状態が変化した場合であっても、水平磁場の印加によりシリコン融液内の温度分布が一様性を帯びることを利用し、上記のようにシリコン融液の中心軸方向の温度分布を基準に乱流パラメータを調整するので、解析精度が低下する恐れが無く、安定した精度のシリコン単結晶の温度を総合伝熱解析により推定できる。従って、所望するシリコン単結晶の品質に合わせて引上げ条件を変更する場合等にも十分に対応でき、汎用性の高いシリコン単結晶の製造方法となる。また、上記のように、2種類以上の中心軸方向の温度分布を測定し、それらを基準に乱流パラメータを調整するという容易な手法で、シリコン融液中の三次元構造を有する対流の流れ場を解析し再現することが可能である。従って、容易な手法で対流の流れ場の影響を考慮し、シリコン融液からシリコン単結晶に流入する熱量を精度よく解析できるので、シリコン単結晶引き上げ中の固液界面高さの計算精度が向上し、シリコン単結晶の温度を容易に精度よく推定できる。
【0016】
このとき、前記水平磁場の強度を、前記対向するコイルの中心を結ぶ線の中心点において1000G以上となるように制御することが好ましい。
【0017】
シリコン融液に印加する水平磁場の強度をこのように制御すれば、シリコン融液中の対流がさらに抑制され、シリコン融液の表面温度がより安定するため、総合伝熱解析をより高精度に行うことができる。また、水平磁場の強度をこのように制御すれば、引上げ条件を変化させた場合であっても、シリコン融液中の対流が抑制された状態であるので、引上げ条件の変化前と変化後の対流構造がきわめて類似し、シリコン融液内の温度分布が一様性を帯びる。従って、温度分布を基準とした乱流パラメータの調整によって、特に高精度にシリコン単結晶の温度を推定できる。
【0018】
またこのとき、前記シリコン融液の加熱条件を変更する際に、前記ヒーターの位置を変える、又は、発熱分布が異なるヒーターを用いることで、前記2種類以上の温度分布を測定することができる。
【0019】
このようにして加熱条件を変更すれば、簡単に異なる加熱条件における2種類以上の温度分布を測定することができる。
【0020】
このとき、前記シリコン融液の中心軸方向の温度分布の測定は、前記シリコン融液表面の中心の温度が、前記シリコン種結晶を着液する時の温度以上の温度であると同時に、シリコン単結晶を含まない解析モデルについての、前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析において、前記シリコン融液表面の中心の温度を境界条件として解析を行うことが好ましい。
【0021】
測定工程において温度分布を測定する場合、シリコン融液表面の中心の温度がシリコン種結晶を着液する時の温度以上の温度となるように設定しておけば、シリコン融液が固化する恐れが無いので、シリコン融液の中心軸方向の温度をより確実に測定できる。また、総合伝熱解析において、熱的な境界条件を設定する際に、境界条件として実際の測温にて得られたシリコン融液表面の中心の温度を使用すれば、より簡単に総合伝熱解析を実施できる。
【0022】
またこのとき、前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析は、混合距離モデルにより、ルツボ壁面及び結晶成長界面からの距離に応じた粘性係数と熱伝導率を真値に加算して、前記シリコン融液中の乱流の影響を計算するものとし、前記乱流パラメータとして、前記粘性係数と前記熱伝導率を調整することができる。
【0023】
このようにシリコン融液中の乱流の影響を計算して、シリコン融液中の対流について空間的な平均化を行うことにより、細かい乱流渦の影響をより正確に考慮することができるし、より短時間で総合伝熱解析を実施することができる。
【0024】
また、上記目的を達成するために、本発明は、チャンバに収容されたルツボにシリコン多結晶原料を収容し、該シリコン多結晶原料をヒーターで加熱してシリコン融液とし、前記ルツボを挟んで同軸的に対抗配備したコイルにより前記シリコン融液に水平磁場を印加しつつ、前記シリコン融液にシリコン種結晶を着液して回転させながら引き上げることにより、シリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン単結晶の引上げを行う前に、前記ヒーターによる前記シリコン融液の加熱条件を変更することで、前記シリコン融液の表面の中心から前記シリコン融液の底までにおける前記シリコン融液の中心軸方向の温度分布を2種類以上測定する測定工程と、該測定工程において前記加熱条件を変更して測定した前記2種類以上の中心軸方向の温度分布と、各加熱条件における前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析で得られるシリコン融液の中心軸方向の温度分布とが一致するように乱流パラメータを調整したうえで、実際のシリコン単結晶の引き上げ時の前記シリコン単結晶の温度を総合伝熱解析により推定する推定工程とを有し、前記実際のシリコン単結晶の引き上げ時には、前記推定したシリコン単結晶の温度に基づいて、前記シリコン単結晶の引上げ条件を調整することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0025】
本発明のシリコン単結晶の製造方法における推定工程では、引上げ条件を変えてシリコン融液の状態が変化しても、総合伝熱解析の解析精度が低下する恐れが無く、安定した精度でシリコン単結晶の温度を推定できる。従って、所望するシリコン単結晶の品質に合わせて引上げ条件を変更する場合等にも十分に対応でき、汎用性の高いシリコン単結晶の製造方法となる。また、2種類以上の中心軸方向の温度分布を測定し、それらを基準に乱流パラメータを調整するという簡易的な手法で、シリコン融液中の三次元構造を有する対流の流れ場を解析し正確に再現することが可能である。従って、簡易的な手法で対流の流れ場の影響を考慮し、シリコン融液からシリコン単結晶に流入する熱量を精度よく解析できるので、シリコン単結晶引き上げ中の固液界面高さの計算精度が向上し、シリコン単結晶の温度を簡易的に精度よく推定できる。また、上記のように安定した高精度の推定温度に基づいて、実際のシリコン単結晶の引上げ条件を調整できるので、所望の品質のシリコン単結晶を確実に製造できる。
【0026】
このとき、前記水平磁場の強度を、前記対向するコイルの中心を結ぶ線の中心点において1000G以上となるように制御することが好ましい。
【0027】
シリコン融液に印加する水平磁場の強度をこのように制御すれば、シリコン融液中の対流がさらに抑制され、シリコン融液の表面温度がより安定するため、総合伝熱解析をより高精度に行うことができる。また、水平磁場の強度をこのように制御すれば、引上げ条件を変化させた場合であっても、磁場によりシリコン融液中の対流が抑制された状態であるので、引上げ条件の変化前と変化後の対流構造がきわめて類似し、シリコン融液内の温度分布が一様性を帯びる。従って、温度分布を基準とした乱流パラメータの調整によって、特に高精度にシリコン単結晶の温度を推定できる。
【0028】
またこのとき、前記シリコン融液の加熱条件を変更する際に、前記ヒーターの位置を変える、又は、発熱分布が異なるヒーターを用いることで、前記2種類以上の温度分布を測定することができる。
【0029】
このようにして加熱条件を変更すれば、簡単に異なる加熱条件における2種類以上の温度分布を測定することができる。
【0030】
このとき、前記シリコン融液の中心軸方向の温度分布の測定は、前記シリコン融液表面の中心の温度が、前記シリコン種結晶を着液する時の温度以上の温度であると同時に、シリコン単結晶を含まない解析モデルについての、前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析において、前記シリコン融液表面の中心の温度を境界条件として解析を行うことができる。
【0031】
測定工程において温度分布を測定する場合、シリコン融液表面の中心の温度がシリコン種結晶を着液する時の温度以上の温度となるように設定しておけば、シリコン融液が固化する恐れが無いので、シリコン融液の中心軸方向の温度をより確実に測定できる。また、総合伝熱解析においては、熱的な境界条件を設定する際に、境界条件として実際の測温にて得られたシリコン融液表面の中心の温度を使用すれば、より簡単に総合伝熱解析を実施できる。
【0032】
またこのとき、前記シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析は、混合距離モデルにより、ルツボ壁面及び結晶成長界面からの距離に応じた粘性係数と熱伝導率を真値に加算して、前記シリコン融液中の乱流の影響を計算するものとし、前記乱流パラメータとして、前記粘性係数と前記熱伝導率を調整することができる。
【0033】
このようにシリコン融液中の乱流の影響を計算して、シリコン融液中の対流について空間的な平均化を行うことにより、細かい乱流渦の影響をより正確に考慮することができるし、より短時間で総合伝熱解析を実施することができる。
【0034】
このとき、前記推定工程において、さらに、前記調整された乱流パラメータを用いて前記シリコン融液内の対流の速度分布を算出し、該速度分布及び前記シリコン融液内部の前記温度分布に基づいて、前記シリコン単結晶に取り込まれる酸素濃度を推定し、前記推定したシリコン単結晶の温度に加え、前記シリコン単結晶に取り込まれる酸素濃度にも基づいて、前記シリコン単結晶の引上げ条件を調整することが好ましい。
【0035】
本発明では、シリコン融液内の対流の速度分布及びシリコン融液内部の温度分布に基づいて、シリコン単結晶に取り込まれる酸素濃度をより精度よく推定することもできるため、この高精度な酸素濃度の推定値にも基づいて、実際のシリコン単結晶の引上げ条件を調整すれば、より高品質なシリコン単結晶が得られる。
【0036】
またこのとき、前記推定工程において、前記推定したシリコン単結晶の温度に基づいて、前記シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布を推定し、前記推定した前記シリコン単結晶の温度に加え、前記シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布にも基づいて、前記シリコン単結晶の引上げ条件を調整することが好ましい。
【0037】
本発明では、推定したシリコン単結晶の温度に基づいて、前記シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布をより精度よく推定することもできるため、シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布の推定値にも基づいて、実際のシリコン単結晶の引上げ条件を調整すれば、より高品質なシリコン単結晶が得られる。
【発明の効果】
【0038】
本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法であれば、ヒーター発熱分布、磁場強度、及び磁場分布等の変更により、シリコン融液の状態が変化した場合であっても、シリコン単結晶の温度を精度良く推定することが可能である。また、簡易的な手法で、シリコン融液中の三次元構造を有する対流の流れ場を解析し再現することが可能であるため、シリコン単結晶の温度を簡易的に精度よく推定できる。
【0039】
また、本発明のシリコン単結晶の製造方法であれば、本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法を利用して、シリコン単結晶の温度を推定できるため、該推定温度から引上げ条件を調節することで、所望の品質のシリコン単結晶を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法及びシリコン単結晶の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明において使用できる単結晶製造装置を例示した概略断面図である。
図3】本発明における測定工程において、ヒーターの高さ位置を変えることでシリコン融液の加熱条件を変えた場合の単結晶製造装置の態様を例示した概略断面図である。
図4】実施例1において測定したシリコン融液の中心軸方向の温度分布を示す図である。
図5】実施例1において総合伝熱解析により得られたシリコン融液の中心軸方向の温度分布を示す図である。
図6】実施例、比較例の実施結果を示す図である。
図7】シリコン融液表面の温度変動と水平磁場強度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
上記のように、水平磁場を印加するHMCZ法によるシリコン単結晶の製造において、従来の総合伝熱解析によるシリコン単結晶の温度の推定では、整流体の断熱材の熱伝導率、チャンバの内壁の輻射率等の複数の基準から、解析に使用するパラメータの最適化が必要であったり、二次元的な解析を実施する場合には、非常に多くの補正係数を調整して使用する必要が有った。しかし、これらの方法では、ヒーター発熱分布、磁場強度、及び磁場分布等の引上げ条件の変更により、シリコン融液の状態が変化すると、上記のパラメータの最適化や補正係数の調整を再度行うという、非常に煩雑な作業が必要となるという問題があった。
【0043】
そこで、本発明者はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、水平磁場を印加されたシリコン融液の中心軸方向における温度分布を、複数の加熱条件で測定し、測定した各温度分布のみを基準に総合伝熱解析で使用する乱流パラメータを調整することで、引上げ条件の変更があったとしても、容易に精度よくシリコン単結晶の温度の推定ができることに想到し、本発明を完成させた。
【0044】
以下、本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法及びこれを使用したシリコン単結晶の製造方法について図1、2、3を参照して説明する。
【0045】
図1のフロー図に示すように、本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法は主に、シリコン融液を作製する工程(工程1)、測定工程(工程2)、推定工程(工程3)から成る。
【0046】
本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法の上記のそれぞれの工程を説明するにあたって、例として、図2のような、CZ法によるシリコン単結晶の製造に使用する単結晶製造装置20において、本発明を実施する場合を説明する。まず、単結晶製造装置20について説明する。
【0047】
図2に示す単結晶製造装置20の外観は、メインチャンバ1とこれに連通するプルチャンバ2で構成されている。メインチャンバ1の内部には、黒鉛ルツボ3に嵌合された石英ルツボ4が回転軸を介して設置されており、モータにより所望の回転速度で回転される。また、黒鉛ルツボ3を囲むようにヒーター5が設けられており、ヒーター5によって、石英ルツボ4内に収容されたシリコン多結晶原料が溶融されてシリコン融液6とされる。また、断熱部材7が設けられており、ヒーター5からの輻射熱がメインチャンバ1等の金属製の器具に直接当たるのを防いでいる。さらに、単結晶製造装置20は、シリコン単結晶の育成に使用する種結晶等を先端に取り付けることが可能なワイヤ8を備えており、このワイヤ8を回転又は巻き取る巻取機構(図示せず)も備えている。また、ルツボ3、4を挟んで同軸的に対抗配備され、シリコン融液6に水平磁場を印加できるコイル10も備えている。さらに、ルツボ内のシリコン融液6の上方に融液面に対向して不図示の整流体を設けても良い。
【0048】
このような、単結晶製造装置20において本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法を実施する際、まず、シリコン融液を作製する工程(図1の工程1)において、ルツボ3、4の内部にシリコン多結晶原料を収容し、該シリコン多結晶原料をヒーター5で加熱してシリコン融液6とする。
【0049】
続いて、測定工程(図1の工程2)を実施する。測定工程においては、ヒーター5によるシリコン融液6の加熱条件を変更することで、シリコン融液6の表面の中心からシリコン融液6の底までにおけるシリコン融液6の中心軸方向の温度分布を2種類以上測定する。
【0050】
シリコン融液6の中心軸方向の温度分布は、例えば、図2に示すように、石英製の保護管に挿入した熱電対9をワイヤ8の先端に取り付け、熱電対9をシリコン融液6中に挿入して測定すればよい。
【0051】
また、シリコン融液の加熱条件を変更する際に、ヒーター5の高さ方向の位置を変える、又は、発熱分布が異なるヒーター5を用いることで、2種類以上の温度分布を測定することができる。
【0052】
ヒーター5の位置を変える場合、例えば、図3に示すように、ヒーター5の高さ位置を高く変えることにより、ヒーター5のシリコン融液6に対する相対位置を変化させることで2種類以上の温度分布を測定することができる。
【0053】
また、測定工程においては、シリコン融液6に水平磁場をかけつつ2種類以上の温度分布を測定することができるが、この場合、水平磁場の強度を、対向するコイル10の中心を結ぶ線の中心点において1000G以上となるように制御することが好ましい。
【0054】
シリコン融液に印加する水平磁場の強度をこのように制御すれば、シリコン融液中の対流がさらに抑制され、シリコン融液の表面温度がより安定するため、後述する推定工程における総合伝熱解析をより高精度に行うことができる。また、水平磁場の強度をこのように制御すれば、引上げ条件を変化させた場合であっても、シリコン融液中の対流が効果的に抑制された状態であるので、引上げ条件の変化前と変化後の対流構造が相似する。従って、温度分布を基準とした乱流パラメータの調整によって、特に高精度にシリコン単結晶の温度を推定できる。
【0055】
測定工程の終了後、推定工程(図1の工程3)を行う。推定工程では、まず、測定した2種類以上の中心軸方向の温度分布と、各加熱条件におけるシリコン融液6中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析で得られるシリコン融液の中心軸方向の温度分布とが一致するように乱流パラメータを調整する。そして、調整した乱流パラメータを使用して、実際のシリコン単結晶の引き上げ時のシリコン単結晶の温度を総合伝熱解析により推定する。
【0056】
三次元のメルト対流を含んだ総合伝熱解析には、FEMAG.Soft社にて開発された総合伝熱解析プログラムFEMAG(参照文献:Int. J.Heat Mass Transfer, Vol.33 (1990) 1849)や、STR Groupが開発したCGSim等を使用できる。
【0057】
例えば、FEMAGにおいては、混合距離モデルという乱流モデルに基づき、石英ルツボ4の内壁及び結晶成長界面からの距離に応じて粘性係数と熱伝導率を増加させることで空間的な平均処理を行い、乱流の影響を考慮できるようになっている。一般的に、このような平均化が過度になるほど、シリコン単結晶の結晶温度などの計算は安定して収束するが、その代わりに現実の対流の流れ場から、推定値が乖離するようになるため、この乱流パラメータの調整が数値解析を活用する上では最も重要となる。
【0058】
そこで、本発明のように、乱流パラメータを調整する方法として、シリコン融液の中心軸方向の温度分布を2種類以上測定し、温度分布の測温状態を模擬した解析モデルを用いて、シリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析を各々の加熱条件に合わせて行いながら、乱流パラメータの最適値を調整することで、簡易的な手法で対流の状態が正しく再現可能となる。
【0059】
また、本発明の結晶温度の推定方法は、水平磁場印加によってシリコン融液内の温度分布が一様性を帯びることを利用して、温度分布を基準に乱流パラメータを調整するため、引上げ条件を変えてシリコン融液の状態が変化しても、総合伝熱解析の解析精度が低下する恐れが無く、安定した精度でシリコン単結晶の温度を推定できる。従って、所望するシリコン単結晶の品質に合わせて引上げ条件を変更する場合等にも十分に対応でき、汎用性の高いシリコン単結晶の製造方法となる。
【0060】
また、対流の状態が正しく再現可能となることで、固液界面高さの解析精度の向上により、固液界面近傍の温度勾配も正確に予測可能となり、欠陥制御精度を向上させることができる。また、固液界面の形状を精度よく予測できるので、シリコン単結晶内に発生する熱応力の解析精度も向上させることができる。さらに、シリコン融液中の対流の状態を正しく再現でき、シリコン融液の深さ方向の温度分布を精度よく予測できるので、シリコン単結晶に取り込まれる酸素濃度の解析精度も向上させることができる。
【0061】
測定工程において、シリコン融液6の中心軸方向の温度分布の測定は、シリコン融液6表面の中心の温度が、シリコン種結晶を着液する時の温度以上の温度であることが好ましい。このとき同時に、推定工程において、シリコン単結晶を含まない解析モデルについての、シリコン融液6中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析を行い、シリコン融液6表面の中心の温度を境界条件として解析を行うことが好ましい。シリコン融液6表面の中心の温度は、例えば、シリコン融液6の表面より上部から、シリコン融液の中心を放射温度計等で測定した温度とすることができる。
【0062】
また、総合伝熱解析で計算する場合、解析モデルに付与する熱的な境界条件が必要であるが、本発明の場合、境界条件をシリコン融液6表面の中心の温度として付与することにより、簡便に総合伝熱解析を行うことができる。
【0063】
また、本発明において、推定工程におけるシリコン融液6中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析は、混合距離モデルにより、ルツボ壁面及び結晶成長界面からの距離に応じた粘性係数と熱伝導率を真値に加算して、シリコン融液中の乱流の影響を計算するものとできる。さらに、この場合、乱流パラメータとして、粘性係数と熱伝導率を調整することができる。ここで言う真値とは、シリコン融液本来の物性値のことをいう。例えば、この物性値として、文献によって多少のバラツキはあるが、熱伝導率は50〜70W/mK、粘性係数は7×10−4から9×10−4Pa・s程度であると報告されている。
【0064】
このようにシリコン融液中の乱流の影響を、温度分布を基準として、粘性係数と熱伝導率を乱流パラメータとして調整して、シリコン融液中の対流について空間的な平均化を行うことにより、細かい乱流渦の影響をより正確に考慮することができるし、より短時間で総合伝熱解析を実施することができる。
【0065】
次に、本発明のシリコン単結晶の製造方法について説明する。
【0066】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、上述した本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法で推定したシリコン単結晶の温度に基づいて、実際のシリコン単結晶の引き上げ時に引上げ条件を調整することを特徴とする。すなわち、本発明のシリコン単結晶の製造方法は、上記の本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法と同様な、測定工程(図1の工程2)、推定工程(図1の工程3)を少なくとも有しており、実際のシリコン単結晶の引き上げ時には、推定工程で推定したシリコン単結晶の温度に基づいて、シリコン単結晶の引上げ条件を調整する
【0067】
これにより、所望するシリコン単結晶の品質に合わせて引上げ条件を変更する場合等にも十分に対応でき、汎用性の高いシリコン単結晶の製造方法となる。また、簡易的な手法で対流の流れ場の影響を考慮し、シリコン融液からシリコン単結晶に流入する熱量を精度よく解析できるので、シリコン単結晶引き上げ中の固液界面高さの計算精度が向上し、シリコン単結晶の温度を簡易的に精度よく推定できる。また、このように安定した高精度の推定温度に基づいて、実際のシリコン単結晶の引上げ条件を調整できるので、所望の品質のシリコン単結晶を確実に製造できる。例えば、本発明により正確に求められる温度の推定値から、得られるシリコン単結晶が所望品質を有するように、ヒーター高さ位置、磁場強度、結晶回転数、ルツボ回転数等の引上げ条件を決定することができる。
【0068】
また、本発明のシリコン単結晶の製造方法では、推定工程において、調整された乱流パラメータを用いて、シリコン融液内の対流の速度分布を算出できる。そして、該速度分布及びシリコン融液内部の温度分布に基づいて、シリコン単結晶に取り込まれる酸素濃度を推定し、推定したシリコン単結晶の温度に加え、シリコン単結晶に取り込まれる酸素濃度にも基づいて、シリコン単結晶の引上げ条件を調整することが好ましい。
【0069】
本発明のシリコン単結晶の製造方法では、シリコン融液内の対流の速度分布及びシリコン融液内部の温度分布に基づいて、シリコン単結晶に取り込まれる酸素濃度をより精度よく推定することもできるため、この高精度な酸素濃度の推定値にも基づいて、実際のシリコン単結晶の引上げ条件を調整すれば、より高品質なシリコン単結晶が得られる。例えば、酸素濃度が所望の値にならないと推定された場合には、ルツボの回転数を調整するように変更すればよい。
【0070】
また、推定工程で推定したシリコン単結晶の温度に基づいて、シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布を推定し、推定したシリコン単結晶の温度に加え、シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布にも基づいて、シリコン単結晶の引上げ条件を調整することが好ましい。
【0071】
本発明では、推定したシリコン単結晶の温度に基づいて、シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布をより精度よく推定することもできる。シリコン単結晶の温度の推定値に加え、シリコン単結晶の内部に発生する熱応力分布の推定値にも基づいて、実際のシリコン単結晶の引上げ条件を調整すれば、より高品質なシリコン単結晶が得られる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
図1に示すような、本発明のシリコン単結晶の温度の推定方法のフローに従い、図2に示すような単結晶製造装置20において、シリコン単結晶の温度の推定を行った。
【0074】
具体的には、まず、内径が32インチ(約800mm)のルツボに入れたシリコン多結晶原料400kgを溶融した。続いて、対向するコイル10の中心を結ぶ線の中心点における磁場強度が4000Gとなるように水平磁場を印加した状態で、図2に示すようなヒーター位置(この高さ位置を、以後、標準位置とする。)とした場合と、図3に示すような、ヒーター位置を標準位置よりも100mm高く設定した2条件で、中心軸方向の温度分布を測定した。この際、シリコン融液6の表面温度は種付け温度となるように調整している。また、温度分布は、図2、3に示すように、石英保護管に挿入した熱電対9により測定した。
【0075】
測定されたシリコン融液の中心軸方向の温度を図4に示す。図4では、シリコン融液の表面からおよそ100mmの深さまでの間で、非常に大きな温度上昇を示しているが、これは熱電対9自体の熱伝導と、透明な石英保護管を通じて発生する輻射伝熱の影響によるものである。実施例1では、このシリコン融液の表面からおよそ100mmの深さまでの部分は除外した温度分布に基づいて、測定した2種類の中心軸方向の温度分布と、各加熱条件におけるシリコン融液中の三次元の対流を含んだ総合伝熱解析で得られるシリコン融液の中心軸方向の温度分布とが一致するように乱流パラメータを調整した。
【0076】
具体的には、乱流パラメータとして粘性係数と熱伝導率を使用しており、シリコン融液自体の粘性係数及び熱伝導率といった物性値(真値)に対して付加される混合距離に応じて変化する乱流粘性係数と乱流熱伝導率にかかる係数を調整した。すなわち、混合距離モデルにより、ルツボ壁面及び結晶成長界面からの距離に応じた粘性係数と熱伝導率を真値に加算して、粘性係数と熱伝導率を調整した。その結果、図5に示すような温度分布が得られ、上記の粘性係数と熱伝導率を、総合伝熱解析で得られるシリコン融液の中心軸方向の温度分布が、各加熱条件における温度分布の実測値と一致するように調整できた。
【0077】
以上のように調整した乱流パラメータを使用して、表1のAに示すヒーター位置、磁場強度、結晶回転数、ルツボ回転数における固液界面高さを推定し、該推定した固液界面高さからシリコン単結晶の温度を推定した。また、その後、実際に、表1のAに示すヒーター位置、磁場強度、結晶回転数、ルツボ回転数でシリコン単結晶の引上げを実施し、シリコン単結晶育成における固液界面高さを実測した。
【0078】
【表1】
【0079】
(実施例2〜6)
実施例1で調整した乱流パラメータと同様の乱流パラメータを総合伝熱解析に使用して、表1のB〜Fに示すヒーター位置、磁場強度、結晶回転数、ルツボ回転数における固液界面高さを推定し、該推定した固液界面高さからシリコン単結晶の温度を推定した。またその後、実際に、表1のB〜Fに示すヒーター位置、磁場強度、結晶回転数、ルツボ回転数でシリコン単結晶の引上げを実施し、シリコン単結晶育成における固液界面高さを実測した。
【0080】
(比較例1〜6)
総合伝熱解析において乱流パラメータの調整を行わずに、表1のA〜Fに示すヒーター位置、磁場強度、結晶回転数、ルツボ回転数における固液界面高さを推定し、該推定した固液界面高さからシリコン単結晶の温度を推定した。またその後、実際に、表1のA〜Fに示すヒーター位置、磁場強度、結晶回転数、ルツボ回転数でシリコン単結晶の引上げを実施し、シリコン単結晶育成における固液界面高さを実測した。
【0081】
以上の実施例、比較例の結果を図6に示す。図6は、上記のように調整した乱流パラメータを用いて、総合伝熱解析により計算した界面高さ及びシリコン単結晶育成における固液界面高さの実測結果である。図6から分かるように、実施例では固液界面の高さの計算値が実測値とほぼ一致しており、固液界面の高さは正しく計算されていることがわかる。このことから、シリコン単結晶の温度は正しく推定できていることがわかる。また、A〜Fのようにヒーター位置、磁場強度、結晶回転数を変化させているが、A〜Fの全ての場合で高精度に結晶の温度を正しく推定できている。このように、本発明であれば、シリコン融液の状態が変化した場合であっても、シリコン単結晶の温度を精度良く推定することが可能である。
【0082】
一方で、図6からわかるように、比較例1〜6では、計算値と実測値の誤差が大きく、総合伝熱解析の精度は実施例に比べて劣ることが分かった。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0084】
1…メインチャンバ、 2…プルチャンバ、 3…黒鉛ルツボ、
4…石英ルツボ、 5…ヒーター、 6…シリコン融液、
7…断熱部材、 8…ワイヤ、 9…熱電対、 10…コイル、
20…単結晶製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7