(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記のアニオン性乳化剤(A)、水性媒体、およびラジカル重合開始剤の存在下で、含フッ素ビニル単量体を含む単量体混合物を乳化重合して含フッ素重合体を含むラテックスを得る乳化重合工程と、前記ラテックスに下記のアニオン性乳化剤(B)を添加する後添加工程と、を有することを特徴とする蓄電デバイス用バインダー組成物の製造方法。
アニオン性乳化剤(A):分子中にフェニル基を有さないアニオン性乳化剤。
アニオン性乳化剤(B):分子中にフェニル基を有するアニオン性乳化剤。
前記乳化重合工程で生成される含フッ素重合体の100質量部に対して、前記アニオン性乳化剤(A)の含有量が0.1〜5質量部である、請求項1に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物の製造方法。
前記ラテックス中の含フッ素重合体の100質量部に対して、アニオン性乳化剤(B)の含有量が0.1〜15質量部である、請求項1または2に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物の製造方法。
前記アニオン性乳化剤(A)およびアニオン性乳化剤(B)の少なくとも一方がスルホニル基を有する乳化剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物の製造方法。
前記アニオン性乳化剤(A)が、アルキル硫酸エステル塩、スルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、およびポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物の製造方法。
前記アニオン性乳化剤(B)が、アルキルベンゼンスルホン酸塩、およびアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物の製造方法。
前記含フッ素ビニル単量体が、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、およびヘキサフルオロプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物の製造方法。
前記含フッ素ビニル単量体がテトラフルオロエチレンであり、前記単量体混合物が、さらにプロピレンを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物の製造方法。
請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法で蓄電デバイス用バインダー組成物を製造する工程と、得られた蓄電デバイス用バインダー組成物と電極活物質とを混合する工程を有する蓄電デバイス用電極合剤の製造方法。
請求項10に記載の製造方法で蓄電デバイス用電極合剤を製造する工程と、得られた蓄電デバイス用電極合剤を用いて集電体上に電極活物質層を形成する工程を有する、蓄電デバイス用電極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、蓄電デバイスとしては、リチウム一次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。蓄電デバイスとしては、特にリチウムイオン二次電池に用いることが、密着性、耐電解液性、充放電特性等をより効果的に発現でき好ましい。
【0015】
本発明の蓄電デバイス用バインダー組成物の製造方法は、下記のアニオン性乳化剤(A)、水性媒体、およびラジカル重合開始剤の存在下で、含フッ素ビニル単量体を含む単量体混合物を乳化重合して含フッ素重合体を含むラテックスを得る乳化重合工程と、前記ラテックスに下記のアニオン性乳化剤(B)を添加する後添加工程を有する。
アニオン性乳化剤(A):分子中にフェニル基を有さないアニオン性乳化剤。
アニオン性乳化剤(B):分子中にフェニル基を有するアニオン性乳化剤。
【0016】
<乳化重合工程>
本発明における乳化重合工程は、上記アニオン性乳化剤(A)、水性媒体、およびラジカル開始剤の存在下、含フッ素ビニル単量体を含む単量体混合物を乳化重合して含フッ素重合体を含むラテックスを得る工程である。
【0017】
(水性媒体)
本発明における水性媒体とは、水単独、または水と水溶性有機溶剤との混合物である。水溶性有機溶剤としては、水と任意の割合で溶解できる公知の化合物を適宜用いることができる。水溶性有機溶剤としては、アルコール類が好ましく、tert−ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール等が挙げられる。これらのうち、tert−ブタノール、プロピレングリコール、またはジプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
水性媒体が水と水溶性有機溶剤との混合物である場合、水性媒体中の水溶性有機溶剤の含有量は少ない方が好ましい。具体的には、水の100質量部に対して、水溶性有機溶剤の含有量は5質量部未満が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下が特に好ましい。
水溶性有機溶剤の含有量が上記の範囲であると、得られる含フッ素重合体ラテックスを蓄電デバイス用バインダー組成物として用いた場合、蓄電デバイスの製造工程における作業環境対策等の取扱いが容易であることから好ましい。
【0018】
(アニオン性乳化剤(A))
アニオン性乳化剤(A)は分子中にフェニル基を有さないアニオン性乳化剤である。アニオン性乳化剤(A)としては、スルホニル基を有するものが好ましい。例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸アンモニウム、セチル硫酸ナトリウム、セチル硫酸アンモニウム、ステアリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸アンモニウム、オレイル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸アンモニウムなどの直鎖および分岐アルキル硫酸エステル塩; ラウリルスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸アンモニウム、ミリスチルスルホン酸ナトリウム、ミリスチルスルホン酸アンモニウム、セチルスルホン酸ナトリウム、セチルスルホン酸アンモニウム、ステアリルスルホン酸ナトリウム、ステアリルスルホン酸アンモニウム、オレイルスルホン酸ナトリウム、オレイルスルホン酸アンモニウムなどの直鎖および分岐アルキルスルホン酸塩;α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸アンモニウムなどのα−オレフィンスルホン酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジデシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジアミルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸アンモニウムなどのジアルキルスルホコハク酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンセチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンセチルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸アンモニウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体の硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレン−ポリオキシブチレンブロック共重合体の硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレン− ポリオキシプロピレンブロック共重合体のアルキルエーテルの硫酸エステルナトリウム塩などのポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレン−ポリオキシアルキレンブロック共重合体のアルケニルエーテルの硫酸エステルアンモニウム塩などのポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩が挙げられる。
【0019】
特に、少量の添加での重合安定性に優れ、比較的高分子量の含フッ素重合体が得られることから、アルキル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、またはポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩が好ましい。特に好ましい例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジデシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジアミルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸アンモニウム、またはポリオキシエチレン−ポリオキシアルキレンブロック共重合体のアルケニルエーテルの硫酸エステルアンモニウム塩である。
【0020】
アニオン性乳化剤(A)の含有量は、乳化重合工程で生成される含フッ素重合体100質量部に対して0.1〜5質量部となるように添加することが好ましく、さらに好ましくは0.5〜4質量部、特に好ましくは1〜3質量部である。
アニオン性乳化剤(A)の含有量が上記の範囲にあると、重合安定性に優れ、密着性、分散安定性に優れるバインダー組成物が得られるとともに、該バインダーを使用してなる電極を用いた電池の充放電特性も良好となりやすい。アニオン性乳化剤(A)としては、上記のアニオン性乳化剤のうち1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
(ラジカル重合開始剤)
ラジカル重合開始剤としては、水溶性開始剤を適宜用いることができる。水溶性開始剤としては、過硫酸類や水溶性有機過酸化物が挙げられる。具体的に過硫酸類としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等、水溶性有機過酸化物としては、ジコハク酸過酸化物、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩等が挙げられる。これらのうちで過硫酸類が好ましく、過硫酸アンモニウム塩が特に好ましい。
ラジカル重合反応を開始させるための機構は、以下の2つの系が挙げられる。
(1)ラジカル重合開始剤の存在下で熱を加えてラジカル分解を生じさせる熱分解型ラジカル重合開始剤系。
(2)ラジカル重合開始剤と酸化還元系触媒(いわゆるレドックス触媒)を併用するレドックスラジカル重合開始剤系。
いずれの系でも、ラジカル重合開始剤の使用量は、乳化重合工程で生成される含フッ素重合体の100質量部に対して、0.0001〜3質量部が好ましく0.001〜1質量部がより好ましい。
【0022】
(1)熱分解型ラジカル重合開始剤系で用いるラジカル重合開始剤としては、水溶性開始剤であって、1時間半減期温度が50〜100℃のものが用いられる。通常の乳化重合に用いられる水溶性開始剤から適宜選択して使用することができる。
【0023】
(2)レドックスラジカル重合開始剤系で用いるラジカル重合開始剤およびレドックス触媒としては、過硫酸アンモニウムとヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物と硫酸第一鉄とを併用する系、過マンガン酸カリウムとシュウ酸とを併用する系、臭素酸カリウムと亜硫酸アンモニウムとを併用する系、または過硫酸アンモニウムと亜硫酸アンモニウムとを併用する系が好ましい。これらのうちで、特に過硫酸アンモニウムとヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム(ロンガリット触媒ともいう。)とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物と硫酸第一鉄とを併用する系がより好ましい。
【0024】
<含フッ素重合体>
本発明における含フッ素重合体は、含フッ素ビニル単量体を含む単量体混合物を乳化重合して製造される。本発明における含フッ素ビニル単量体としては、例えばテトラフルオロエチレン(以下TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などのパーフルオロ系単量体;フッ化ビニリデン(VdF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニル(VF)、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン(TFP)、1,1,2−トリフルオロエチレン(TrFE)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(TeFP)、1,2−ジフルオロエチレン(DiFE)、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、3,3,4,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテンなどの非パーフルオロ系単量体が挙げられる。PAVEの具体例としては、PMVE(パーフルオロ(メチルビニルエーテル))、PPVE(パーフルオロ(プロピルビニルエーテル))、パーフルオロ(3,6−ジオキサ−1−ヘプテン)、パーフルオロ(3,6−ジオキサ−1−オクテン)、パーフルオロ(5−メチル−3,6−ジオキサ−1−ノネン)等が挙げられる。
【0025】
これらの含フッ素ビニル単量体の中でも、入手の容易さや、バインダーとしての耐電解液性、結着性に優れることから、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、またはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が好ましい。特に、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、またはヘキサフルオロプロピレンがより好ましく、テトラフルオロエチレンが好ましい。
含フッ素ビニル単量体は特に限定されず、1種または2種以上が使用できる。
【0026】
本発明における単量体混合物は、上記含フッ素ビニル単量体に加えて、さらに非フッ素ビニル単量体を含むことが好ましい。
非フッ素ビニル単量体としては、例えばエチレン(E)、プロピレン(P)、イソブチレン、n−ブテンなどのオレフィン;エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メチルビニルエーテルなどのビニルエーテル;または酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニルなどのビニルエステルが好ましく、エチレン、プロピレン、またはエチルビニルエーテルがより好ましく、プロピレンが特に好ましい。単量体混合物が非フッ素ビニル単量体を含むことで得られる含フッ素重合体は、含フッ素ビニル単量体に基づく構成単位に加え、非フッ素ビニル単量体に基づく構成単位を含有することで、バインダーとしての耐電解液性、耐酸化性、柔軟性が向上する。
【0027】
本発明の含フッ素重合体の具体例としては、TFE/P系共重合体、TFE/P/VdF系共重合体、VdF/HFP系共重合体、TFE/VdF/HFP系共重合体、TFE/PAVE系共重合体、TFE/PMVE系共重合体、TFE/P/TFP系共重合体、TFE/P/VdF/TFP系共重合体、VdF/HFP/TFP系共重合体、TFE/VdF/HFP/TFP系共重合体、TFE/PPVE系共重合体、TFE/PMVE/PPVE系共重合体、VdF/PAVE系共重合体、E/PAVE系共重合体、E/HFP系共重合体、TFE/P/TeFP系共重合体、TFE/P/TrFE系共重合体、TFE/P/VF系共重合体、TFE/P/DiFE系共重合体等が挙げられる。TFE/P系共重合体、TFE/P/VdF系共重合体、VdF/HFP系共重合体、TFE/VdF/HFP系共重合体、TFE/P/TFP系共重合体、TFE/PPVE系共重合体、TFE/PMVE系共重合体、TFE/PMVE/PPVE系共重合体等が好ましい。
なかでも、TFE/P系共重合体、TFE/P/VdF系共重合体が特に好ましい。
【0028】
前記含フッ素重合体は、以下の共重合組成であることがより好ましい。共重合組成が以下の範囲であると、バインダーとしての耐電解液性、耐酸化性、柔軟性に優れる。
TFE/P系共重合体においてTFEに基づく構成単位/Pに基づく構成単位=40/60〜60/40(モル比)、TFE/P/VdF系共重合体においてTFEに基づく構成単位/Pに基づく構成単位/VdFに基づく構成単位=30〜60/60〜20/0.05〜40(モル比)、VdF/HFP系共重合体においてVdFに基づく構成単位/HFPに基づく構成単位=1/99〜95/5(モル比)、TFE/VdF/HFP系共重合体においてTFEに基づく構成単位/VdFに基づく構成単位/HFPに基づく構成単位=20〜40/1〜40/20〜40(モル比)、
【0029】
TFE/PAVE系共重合体においてTFEに基づく構成単位/PAVEに基づく構成単位=40/60〜70/30(モル比)、TFE/PMVE系共重合体においてTFEに基づく構成単位/PMVEに基づく構成単位=40/60〜70/30(モル比)、TFE/PPVE系共重合体においてTFEに基づく構成単位/PPVEに基づく構成単位=40/60〜70/30(モル比)、TFE/PMVE/PPVE系共重合体においてTFEに基づく構成単位/PMVEに基づく構成単位/PPVEに基づく構成単位=40〜70/3〜57/3〜57(モル比)、VdF/PAVE系共重合体においてVdFに基づく構成単位/PAVEに基づく構成単位=3/97〜95/5、E/PAVE系共重合体においてEに基づく構成単位/PAVEに基づく構成単位=40/60〜60/40(モル比)、
【0030】
E/HFP系共重合体においてEに基づく構成単位/HFPに基づく構成単位=40/60〜60/40(モル比)、TFE/P/TFP系共重合体においてTFEに基づく構成単位/Pに基づく構成単位/TFPに基づく構成単位=40〜60/60〜40/0.05〜20(モル比)、TFE/P/VdF/TFP系共重合体においてTFEに基づく構成単位/Pに基づく構成単位/VdFに基づく構成単位/TFPに基づく構成単位=30〜60/60〜20/0.05〜40/0.05〜20(モル比)、VdF/HFP/TFP系共重合体においてVdFに基づく構成単位/HFPに基づく構成単位/TFPに基づく構成単位=1〜95/99〜5/0.05〜20(モル比)、
【0031】
TFE/VdF/HFP/TFP系共重合体においてTFEに基づく構成単位/VdFに基づく構成単位/HFPに基づく構成単位/TFPに基づく構成単位=30〜60/0.05〜40/60〜20/0.05〜20(モル比)、TFE/P/TeFP系共重合体においてTFEに基づく構成単位/Pに基づく構成単位/TeFPに基づく構成単位=30〜60/60〜20/0.05〜40(モル比)、TFE/P/TrFE系共重合体においてTFEに基づく構成単位/Pに基づく構成単位/TrFEに基づく構成単位=30〜60/60〜20/0.05〜40(モル比)、TFE/P/VF系共重合体においてTFEに基づく構成単位/Pに基づく構成単位/VFに基づく構成単位=30〜60/60〜20/0.05〜40(モル比)、TFE/P/DiFE系共重合体においてTFEに基づく構成単位/Pに基づく構成単位/DiFEに基づく構成単位=30〜60/60〜20/0.05〜40(モル比)。
【0032】
本発明における単量体混合物は、上記含フッ素ビニル単量体に加えて、架橋性単量体として、分子内にビニル基を二つ以上有する単量体を含むことが好ましい。架橋性単量体としては、一般式CF
2=CFOR
fOCF=CF
2(式中、R
fは、エーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜25のパーフルオロ飽和炭化水素基を示す。)で表される含フッ素ジビニル単量体などが挙げられ、具体的にはCF
2=CFO(CF
2)
4OCF=CF
2、CF
2=CFO(CF
2)
2OCF=CF
2、CF
2=CFO(CF
2)
2OCF(CF
3)CF
2OCF=CF
2、などが好ましい。
また、下式(I)、(II)及び(III)で表される単量体からなる群から選ばれる1種以上の非フッ素ジビニル単量体などが挙げられる。
CR
1R
2=CR
3−O−R
4−O−CR
5=CR
6R
7 ・・・(I)
CR
8R
9=CR
10−OCO−R
11−COO−CR
12=CR
13R
14・・・ (II)
CR
15R
16=CR
17COOCH=CH
2 ・・・(III)
(式中、R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
12、R
13、R
14、R
17は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはメチル基、R
4、R
11は、エーテル性酸素原子を含んでもよい炭素原子数1〜10のアルキレン基、R
15、R
16は、それぞれ独立に、水素原子、またはエーテル性酸素原子を含んでもよい炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。)
具体例としては、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、アジピン酸ジビニル、クロトン酸ビニル、メタクリル酸ビニルなどが好ましい。
上記架橋性単量体の割合は、全単量体の合計に対し、3モル%以下であることが好ましい。
【0033】
含フッ素重合体のムーニー粘度は、5〜200が好ましく、50〜180がより好ましく、70〜180が更に好ましく、100〜150が最も好ましい。
ムーニー粘度は、後述の実施例に測定方法で測定される値であり、主にゴムなどの高分子材料の分子量の目安である。また、ムーニー粘度の値が大きいほど、間接的に高分子量であることを示す。
【0034】
(乳化重合の手順)
本発明における乳化重合工程は、公知の乳化重合法により行うことができる。例えば以下の手順で行うことができる。
まず耐圧反応器を脱気した後、該反応器内に水性媒体、乳化剤、ラジカル重合開始剤、必要に応じてpH調整剤、及びレドックスラジカル重合開始剤系ではレドックス触媒を仕込む。次いで、所定の重合温度に昇温させた後、単量体を供給する。また必要に応じて触媒(レドックスラジカル重合開始剤系ではロンガリット触媒等)を供給する。ラジカル重合開始剤が活性化されて重合反応が開始されると、反応器内の圧力が低下し始める。すなわち重合反応の開始(反応時間の始点)は反応器内の圧力低下によって確認できる。
反応器内の圧力低下を確認してから、単量体を追加供給し、所定の重合温度及び所定の重合圧力を保ちながら、重合反応を行って含フッ素重合体を生成させる。重合反応期間で追加供給される単量体混合物の合計量が所定の値に達したら、反応器内を冷却して重合反応を停止させて(反応時間の終点)、含フッ素重合体を含むラテックスを得る。こうして得られるラテックスは、水性媒体中に、含フッ素重合体の粒子及び乳化剤を含有する。
本発明において、重合反応期間で追加供給される単量体の合計量と、乳化重合工程で生成される含フッ素重合体の量とは等しいとみなす。
【0035】
(1)熱分解型ラジカル重合開始剤系の場合、重合反応期間における重合温度は50℃〜100℃が好ましく、60℃〜90℃がより好ましく、65℃〜80℃が特に好ましい。重合温度がこの範囲であると、重合速度が適切で制御しやすく、また生産性に優れ、ラテックスの良好な安定性が得られやすい。
【0036】
(2)レドックスラジカル重合開始剤系の場合、重合反応期間における重合温度は0℃〜100℃が好ましく10℃〜90℃がより好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。重合温度がこの範囲であると、重合速度が適切で制御しやすく、また生産性に優れ、ラテックスの良好な安定性が得られやすい。
いずれの系においても、重合反応期間における重合圧力は1.0〜10MPaGが好ましく、1.5〜5.0MPaGがより好ましく、1.7〜3.0MPaGが特に好ましい。重合圧力が1.0MPaG未満であると、重合速度が遅すぎる場合がある。上記の範囲であると重合速度が適切で制御しやすく、また生産性に優れる。
【0037】
(pH調整剤)
乳化重合工程においてpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤は無機塩が好ましく、乳化重合におけるpH調整剤として公知の無機塩を用いることができる。pH調整剤としては、具体的に、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのリン酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩;などが挙げられる。リン酸塩のより好ましい具体例としては、リン酸水素二ナトリウム・2水和物、リン酸水素二ナトリウム・12水和物等が挙げられる。また、所望のpHに調整するために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基類;硫酸、塩酸、硝酸などの酸類;などを併用してもよい。
乳化重合工程における水性媒体中のpHは、4〜12が好ましく、6〜11がより好ましい。
pH調整剤を添加することにより、重合速度や、得られるラテックスの安定性を向上させることができる。
本発明の乳化重合工程で得られるラテックス中の含フッ素重合体の含有量は、5〜60質量%であるのが好ましく、10〜50質量%であるのがさらに好ましく、15〜40質量%であるのが特に好ましい。
【0038】
<後添加工程>
(アニオン性乳化剤(B))
本発明における後添加工程は、上記乳化重合工程を経て得られる含フッ素重合体を含むラテックスに、下記のアニオン性乳化剤(B)を添加する工程である。
アニオン性乳化剤(B)は分子中にフェニル基を有するアニオン性乳化剤である。アニオン性乳化剤(B)としては、スルホニル基を有するものが好ましい。例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸アンモニウムなどの直鎖または分岐アルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸アンモニウム、などのアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩などが好ましい。
【0039】
特に、少量の添加での安定性に優れ、かつ該バインダーを用いて得られる電池の充放電特性が良好なことから、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、またはアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸アンモニウムが好ましい。より優れた分散安定性が得られやすい点で、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、またはアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸アンモニウムが特に好ましい。
【0040】
アニオン性乳化剤(B)の含有量は、含フッ素重合体の100質量部に対して0.1〜15質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましく、1〜5質量部が特に好ましい。アニオン性乳化剤(B)の含有量が上記の範囲にあると、密着性、分散安定性に優れるバインダー組成物が得られるとともに、該バインダーを使用してなる電極を用いた電池の充放電特性も良好となりやすい。アニオン性乳化剤(B)としては、上記のアニオン性乳化剤のうち1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明において蓄電デバイス用バインダー組成物としては、上記アニオン性乳化剤(A)と上記アニオン性乳化剤(B)の少なくとも一方がスルホニル基を有することが好ましく、両方がスルホニル基を有することがより好ましい。
アニオン性乳化剤(A)とアニオン性乳化剤(B)の合計の含有量は、含フッ素重合体の100質量部に対し、0.2〜20質量部が好ましく、0.5〜15質量部がより好ましく、1〜10質量部がさらに好ましく、2〜7質量部が特に好ましい。
【0042】
本発明の蓄電デバイス用バインダー組成物中の含フッ素重合体の含有量は5〜40質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましく、15〜35質量%がさらに好ましく、25〜35質量%が特に好ましい。該バインダー組成物中の含フッ素重合体の含有量が上記範囲の下限値以上であると、該バインダー組成物を蓄電デバイスのバインダーとして用いて電極合剤を調製したときに、電極合剤の良好な粘度が得られやすく、集電体上に厚みの高い塗工を行うことができる。該バインダー組成物の含有量が上記範囲の上限値以下であると、該バインダー組成物に電極活物質等を分散させて電極合剤を調製する際に、良好な分散安定性が得られやすく、電極合剤の良好な塗工性が得られやすい。
【0043】
本発明の蓄電デバイス用バインダー組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、含フッ素重合体の粒子以外の固形分を含んでいてもよい。
【0044】
<蓄電デバイス用電極合剤の製造方法>
本発明の蓄電デバイス用電極合剤(本明細書において、単に「電極合剤」ということもある。)の製造方法は、蓄電デバイス用バインダー組成物を製造する工程と、得られた蓄電デバイス用バインダー組成物と電極活物質とを混合する工程を有する。必要に応じて導電材を含有してもよく、これら以外のその他の成分を含有してもよい。
本発明で用いられる電極活物質は特に限定されず、公知のものを適宜使用できる。
正極活物質としてはMnO
2、V
2O
5、V
6O
13等の金属酸化物;TiS
2、MoS
2、FeS等の金属硫化物;LiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
2O
4等の、Co、Ni、Mn、Fe、Ti等の遷移金属元素を含むリチウム複合金属酸化物等;これらの化合物中の遷移金属元素の一部を他の金属元素で置換した化合物;などが例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子材料を用いることもできる。また、これらの表面の一部または全面に、炭素材料や無機化合物を被覆させることができる。
負極活物質としては、例えば、コークス、グラファイト、メソフェーズピッチ小球体、フェノール樹脂、ポリパラフェニレン等の高分子化合物の炭化物;気相生成カーボンファイバー、炭素繊維等の炭素質材料;が挙げられる。また、リチウムと合金化可能なSi、Sn、Sb、Al、Zn及びWなどの金属も挙げられる。電極活物質としては、機械的改質法により表面に導電材を付着させたものも使用できる。
リチウムイオン二次電池用の電極合剤の場合、用いる電極活物質は、電解質中で電位をかけることにより可逆的にリチウムイオンを挿入放出できるものであればよく、無機化合物でも有機化合物でもよい。
【0045】
特に、正極の製造に使用する電極合剤には導電材を含有させることが好ましい。導電材を含有させることにより、電極活物質同士の電気的接触が向上し、活物質層内の電気抵抗を下げることができ、非水系二次電池の放電レート特性を改善することができる。
導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、及びカーボンナノチューブ等の導電性カーボンが挙げられる。
本発明における電極合剤が、導電材を含有すると、少量の導電材の添加で電気抵抗の低減効果が大きくなり好ましい。
【0046】
本発明における電極合剤中の電極活物質の含有量は、20〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましく、40〜70質量%が特に好ましい。
電極合剤中の含フッ素重合体の含有量は、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましく、1〜8質量%が特に好ましい。
また、電極合剤が導電材を含有する場合には、電極合剤中の導電材の含有量は、0質量%超であり、20質量%以下が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、3〜8質量%が特に好ましい。
電極合剤中の固形分濃度は、30〜95質量%が好ましく、40〜85質量%がより好ましく、45〜80質量%が特に好ましい。
【0047】
本発明における電極合剤には、電極合剤の安定性、塗工性を向上させるために、公知の水溶性増粘剤を用いてもよい、水溶性増粘剤としては、25℃において水に溶解し増粘性を示す重合体であれば特に限定されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩ならびにアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸、及びこれらのアンモニウム塩ならびにアルカリ金属塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸またはアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸またはマレイン酸もしくはフマル酸と酢酸ビニルの共重合体の完全または部分ケン化物、変性ポリビニルアルコール、変性ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸、エチレン−ビニルアルコール共重合体、酢酸ビニル重合体などの水溶性重合体などが挙げられる。
【0048】
電極合剤中の水溶性増粘剤の含有量は、電極活物質の100質量部に対し、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部、特に好ましくは0.1〜2質量部である。水溶性増粘剤の含有量が上記範囲であることにより、電極合剤中の活物質等の分散性に優れ、安定性の高い電極合剤が得られるとともに、平滑な電極を得ることができ、優れた電池特性を示すことができる。
【0049】
正極合剤の製造方法においては、混合方法や混合順序には特に制限されず、公知の方法にて製造できる。例えば、水溶性増粘剤の水溶液に、正極活物質、導電材等の成分を加え、さらに追加的に水性媒体を加えて混合した後に、含フッ素重合体を含むバインダー組成物を添加して混合する方法を用いることができる。
混合する際に使用する混合機としては、上記成分を均一に混合できる装置であれば、特に限定されず、プラネタリーミキサー、ディスパー、ニーダーなどのブレード型攪拌機、単軸または二軸の押出機、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ヘンシェルミキサー、自転・公転式ミキサー、薄膜旋回型高速攪拌機などが使用できる。これらの中でも、高濃度の分散が可能なことから、ビーズミル、プラネタリーミキサー、自転・公転式ミキサー、薄膜旋回型高速攪拌機などが好ましい。
【0050】
<蓄電デバイス用電極の製法方法>
本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法は、前記蓄電デバイス用電極合剤を製造する工程と、得られた蓄電デバイス用電極合剤を用いて集電体上に電極活物質層を形成する工程を有する。すなわち、本発明における蓄電デバイス用電極は、集電体と、該集電体上に、電池活物質と、本発明の蓄電デバイス用バインダー組成物に由来する含フッ素重合体、アニオン性乳化剤(A)、およびアニオン性乳化剤(B)を含有する電極活物質層を有する。
集電体としては、導電性材料からなるものであれば特に限定されないが、一般的には、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、銅等の金属箔、金属網状物、金属多孔体等が挙げられる。正極集電体としては、アルミニウムが好適に、負極集電体としては銅が好適に用いられる。集電体の厚さは1〜100μmであることが好ましい。
【0051】
蓄電デバイス用電極の製造方法としては、例えば、本発明の電極合剤を集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に塗布し、乾燥により電極合剤中の媒体を除去し、電極活物質層を形成することにより得られる。必要に応じて、乾燥後の電極活物質層をプレスして、所望の厚みに成形してもよい。
電極合剤を集電体に塗布する方法としては、種々の塗布方法が挙げられる。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、及びハケ塗り法等の方法が挙げられる。塗布温度は、特に制限ないが、通常は常温付近の温度が好ましい。乾燥は、種々の乾燥法を用いて行うことができ、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線等の照射による乾燥法が挙げられる。乾燥温度は、特に制限ないが、加熱式真空乾燥機等では通常室温〜200℃が好ましい。プレス方法としては金型プレスやロールプレス等を用いて行うことができる。
【0052】
<リチウムイオン二次電池>
蓄電デバイスとしてのリチウムイオン二次電池は、本発明の製造方法で製造された蓄電デバイス用電極を正極及び負極の少なくとも一方の電極として備えるとともに電解液を備える。さらにセパレーターを備えることが好ましい。
電解液は電解質と溶媒を含む。溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、及びメチルエチルカーボネート(MEC)等のアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類、1,2−ジメトキシエタン、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、及びジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、またはメチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
電解質としては、LiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAsF
5、CF
3SO
3Li、(CF
3SO
2)
2NLi等のリチウム塩が挙げられる。
【0053】
<作用・機序>
後述の実施例に示されるように、分子中にフェニル基を有するアニオン性乳化剤(B)は、これを含フッ素重合体の乳化重合時に用いると重合体の分子量が低くなる傾向があり、乳化重合時の乳化剤としては適さない。その理由としては、含フッ素重合体を得るために重合反応において、フェニル基を有するアニオン性乳化剤(B)が存在すると連鎖移動反応が生じやすくなり、その結果、生成される重合体が低分子量化されると推測される。
一方で該アニオン性乳化剤(B)は、これを含有する蓄電デバイス用バインダー組成物を用いて製造された二次電池における、充放電レート特性への悪影響が少ない。
したがって、分子中にフェニル基を有さないアニオン性乳化剤(A)を用いて乳化重合を行って含フッ素重合体を含むラテックスを製造した後に、フェニル基を有するアニオン性乳化剤(B)を添加することにより、二次電池における充放電レート特性への悪影響を抑えつつ、電極合剤中の蓄電デバイス用バインダー組成物の分散安定性を向上させることができる。
【実施例】
【0054】
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。実施例及び比較例中の試験及び評価は以下の方法で行った。
【0055】
(1)含フッ素重合体のムーニー粘度
乳化重合により得られたラテックスに1.5質量%の塩化カルシウム水溶液を加え塩析により含フッ素重合体を凝集させた。凝集させた含フッ素重合体を乾燥させた後、ムーニー粘度をJIS K6300に準じて、直径38.1mm、厚さ5.54mmのL型ローターを用い、100℃で、予熱時間を1分間、ローター回転時間を4分間に設定して測定した。値が大きい程、間接的に含フッ素重合体が高分子量であることを示す。
【0056】
(2)バインダー組成物の分散安定性評価
バインダー組成物を薄膜旋回型高速攪拌機(商品名:T.K.フィルミックス40−40(プライミクス社製))にて、回転数:15000rpm(せん断速度15000s−1)にて、5分間混練したのち、ステンレス鋼製の金網(200メッシュ、目開き0.075mm)にて、透過せずに金網上に残った凝集ポリマーを乾燥、重量測定し、下式によりバインダー組成物の凝集率を算出した。凝集率が低いほど、バインダー組成物の分散安定性が高いことを示す。
凝集率(%)=(乾燥後の凝集ポリマー量/バインダー組成物中のポリマー量)×100
【0057】
(3)密着性(剥離強度)
各例で製造した電極(正極)を幅2cm×長さ15cmの短冊状に切り、電極合剤の塗膜面を上にして固定した。電極合剤の塗膜面にセロハンテープを貼り付け、テープを100mm/minの速度で180℃方向に剥離したときの強度(N)を5回測定し、その平均値を剥離強度とした。この値が大きいほどバインダーによる密着性(結着性)に優れていることを示す。すなわち、バインダーにより結着されている電極活物質間の密着性及び電極活物質と集電体との密着性に優れていることを示す。
【0058】
(4)充放電サイクル特性
二次電池の充放電特性の評価は、以下に示す方法により行った。
各例で製造した正極を18mmφの円形に切りぬき、これと同面積のリチウム金属箔、及びポリエチレン製のセパレーターを、リチウム金属箔、セパレーター、正極の順に2016型コインセル内に積層して電池要素を作製し、1M−LiPF6のエチルメチルカーボネート−エチレンカーボネート(体積比1:1)の非水電解液を添加し、これを密封することによりコイン型非水電解液二次電池を製造した。
25℃において、0.2Cに相当する定電流で4.5V(電圧はリチウムに対する電圧を表す)まで充電し、さらに充電上限電圧において電流値が0.02Cになるまで充電を行い、しかる後に0.2Cに相当する定電流で3Vまで放電するサイクルを行った。1サイクル目放電時の放電容量に対する、100サイクル目の放電容量の容量維持率(単位:%)を求め、電池の充放電測定の指標とした。容量維持率の値が高いほど優れる。
なお、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、0.2Cとはその1/5の電流値を表す。
【0059】
(5)放電レート特性
(4)充放電サイクル特性試験と同様に作製した、コイン型非水電解液二次電池を使用し、25℃において、0.2Cに相当する定電流で4.5V(電圧はリチウムに対する電圧を表す)まで充電し、さらに充電上限電圧において電流値が0.02Cになるまで充電を行った。次いで、0.2Cに相当する定電流で3Vまで放電後、上記同様に充電を行い、3Cに相当する定電流で3Vまで放電することにより、放電レート特性の評価を行った。0.2C放電後の放電容量を100%としたときの、3C放電後の放電容量を下式に基づいて算出し、初期の放電容量比とした。初期の放電容量比が高いと、電極内の抵抗が小さく優れていることを示す。
放電容量比(%)=(3C放電容量/0.2C放電容量)×100
続いて、(4)の充放電サイクル特性試験において、100サイクルの充放電サイクルを行った電池を用いて、上記同様に、3C放電を行い、100サイクル後の放電容量比を算出した。100サイクル後の放電容量比が高いと、充放電サイクル後も電極内の抵抗増加が抑制されていることを示す。
【0060】
以下の例で用いた乳化剤は以下の通りである。
A1:ラウリル硫酸ナトリウム。
A2:ラウリル硫酸アンモニウム。
A3:ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム (花王社製『ペレックスCS』(商品名)
B1:アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王社製『ペレックスSS−L』(商品名))。
B2:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製『ネオペレックスG』(商品名))。
【0061】
[製造例1]含フッ素重合体aの製造
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス鋼製の耐圧反応器の内部を脱気した後、該反応器に、1700gのイオン交換水、アニオン性乳化剤(A)として18.0gのラウリル硫酸ナトリウム(A1)、pH調整剤としてリン酸水素二ナトリウム12水和物の60g及び水酸化ナトリウムの0.9g、並びに開始剤として過硫酸アンモニウムの4.4g(1時間半減期温度82℃)を加えた。さらに200gのイオン交換水に、レドックス触媒として0.4gのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物(以下、EDTAと記す。)及び0.3gの硫酸第一鉄7水和物を溶解させた水溶液を反応器に加えた。このときの反応器内の水性媒体のpHは9.2であった。
ついで、40℃で、TFE/P=88/12(モル比)の単量体混合ガスを、反応器の内圧が2.50MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、水酸化ナトリウムでpHを10.0に調整したヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム2水和物(以下、ロンガリットと記す。)を反応器に加え、重合反応を開始させた。
重合温度を40℃に維持し、適宜TFE/P=56/44(モル比)の単量体混合ガスを自圧で圧入しながら、反応器の内圧を2.50MPaG付近に保持して重合反応を続けた。TFE/Pの単量体混合ガスの圧入量の総量が900gとなった時点で、反応器の内温を10℃まで冷却させ、含フッ素重合体aのラテックスを得た。重合時間は6時間であった。ラテックス中における含フッ素重合体aの含有量は31質量%であった。
含フッ素重合体aの共重合組成は、TFEに基づく構成単位とPに基づく構成単位の比TFE/P=56/44であった。含フッ素重合体aのムーニー粘度は110であった。
【0062】
[製造例2]含フッ素重合体bの製造
ラウリル硫酸ナトリウム(A1)の添加量を7.5gに変更し、重合時間を8時間にした以外は、製造例1と同様にして、含フッ素重合体bのラテックスを製造した。ラテックス中における含フッ素重合体bの含有量は32質量%であった。含フッ素重合体bの共重合組成は、TFE/P=56/44であった。含フッ素重合体bのムーニー粘度は130であった。
【0063】
[製造例3]含フッ素重合体cの製造
ラウリル硫酸ナトリウム(A1)の添加量を36.0gに変更し、重合時間を8時間にした以外は、製造例1と同様にして、含フッ素重合体cのラテックスを製造した。ラテックス中における含フッ素重合体cの含有量は30質量%であった。含フッ素重合体cの共重合組成は、TFE/P=56/44であった。含フッ素重合体cのムーニー粘度は70であった。
【0064】
[製造例4]含フッ素重合体dの製造
アニオン性乳化剤(A)として、ラウリル硫酸ナトリウムの代わりに18.0gのラウリル硫酸アンモニウム(A2)を使用した以外は、製造例1と同様にして、含フッ素重合体dのラテックスを製造した。ラテックス中における含フッ素重合体dの含有量は31質量%であった。含フッ素重合体dの共重合組成は、TFE/P=56/44であった。含フッ素重合体dのムーニー粘度は130であった。
【0065】
[製造例5]含フッ素重合体eの製造
乳化剤として、ラウリル硫酸ナトリウムの代わりにアニオン性乳化剤(B)であるアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王社製『ペレックスSS−L』(商品名)(B1)を18.0g使用し、重合時間を12時間にした以外は、製造例1と同様にして、含フッ素重合体eのラテックスを製造した。ラテックス中における含フッ素重合体eの含有量は29質量%であった。含フッ素重合体eの共重合組成は、TFE/P=56/44であった。含フッ素重合体eのムーニー粘度は60であった。
【0066】
[製造例6]含フッ素重合体fの製造
アニオン性乳化剤(A)として、ラウリル硫酸ナトリウムの代わりに18.0gのジアルキルスルホコハク酸ナトリウム (花王社製『ペレックスCS』(商品名)(A3)を使用した以外は、製造例1と同様にして、含フッ素重合体fのラテックスを製造した。ラテックス中における含フッ素重合体fの含有量は32質量%であった。含フッ素重合体fの共重合組成は、TFE/P=56/44であった。含フッ素重合体fのムーニー粘度は140であった。
【0067】
[製造例7]含フッ素重合体gの製造
製造例1において、単量体混合ガスおよび重合温度を変更した以外は、製造例1と同様に実施した。すなわち、反応器に圧入する単量体混合ガスを、25℃でTFE/P/VdF=25/6/69(モル比)の混合ガスを、反応器の内圧が2.50MPaGとなるように圧入し、また重合反応が開始した後に、重合温度を25℃に維持し、適宜TFE/P/VdF=39/26/35(モル比)の単量体混合ガスを自圧で圧入し重合反応を続けた以外は、製造例1と同様にして、含フッ素共重合体gのラテックスを得た。ラテックス中における含フッ素共重合体gの含有量は30質量%であった。含フッ素共重合体gの共重合組成は、TFE/P/VdF=39/26/35であった。含フッ素重合体gのムーニー粘度は90であった。
【0068】
[実施例1]
製造例1で得られた含フッ素重合体aのラテックスの50gにアニオン性乳化剤(B)としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを濃度20質量%で含む水溶液(花王社製『ペレックスSS−L』(商品名))(B1)の希釈液)の2.7gを加え、蓄電デバイス用バインダー組成物1を得た。
バインダー組成物1中の、含フッ素重合体100質量部に対する各乳化剤の含有量の質量比(計算値)を表1に示す(以下、同様)。
【0069】
得られたバインダー組成物1を用いて電極合剤を調製した。
すなわち、正極活物質としてLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2(AGCセイミケミカル社製、商品名「セリオンL」、タップ密度2.4g/cm
3、平均粒子径:12μm)の100質量部、及び導電材としてアセチレンブラックの2.5量部を混合し、粘度調整剤とし濃度2質量%のカルボキシメチルセルロース水溶液の20質量部を加え、自転・公転式ミキサー(商品名:あわとり練太郎ARE−310、シンキー社製)を用いて2000rpmにて、10分混練したのち、濃度2質量%のカルボキシメチルセルロース水溶液を10質量部添加し更に10分間混練し、上記バインダー組成物を8質量部加え、10分間混練し電極合剤1を得た。
得られた電極合剤1を厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)に、ドクターブレードで塗布し、120℃の真空乾燥機に入れて乾燥したのちロールプレスにて80μmになるように圧延し正極1を得た。
上記の方法で、密着性、柔軟性、充放電特性を評価した。評価結果を表1に示す(以下、同様)。
【0070】
[実施例2]
含フッ素重合体aのラテックスの代わりに、製造例2で得られた含フッ素重合体bのラテックスを用いた以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス用バインダー組成物2を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤2及び電極2を調製し、同様に評価した。
【0071】
[実施例3]
含フッ素重合体aのラテックスの代わりに、製造例3で得られた含フッ素重合体cのラテックスを用いた以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス用バインダー組成物3を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤3及び電極3を調製し、同様に評価した。
【0072】
[実施例4]
含フッ素重合体aのラテックスの代わりに、製造例4で得られた含フッ素重合体dのラテックスを用いた以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス用バインダー組成物4を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤4及び電極4を調製し、同様に評価した。
【0073】
[実施例5]
含フッ素重合体aのラテックスの代わりに、製造例6で得られた含フッ素重合体fのラテックスを用いた以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス用バインダー組成物5を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤5及び電極5を調製し、同様に評価した。
【0074】
[実施例6]
実施例1において、アニオン性乳化剤(B)である濃度20質量%のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム水溶液の添加量を8.5gに変更した以外は、実施例1と同様にして蓄電デバイス用バインダー組成物6を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤6及び電極6を調製し、同様に評価した。
【0075】
[実施例7]
実施例1において、アニオン性乳化剤(B)である濃度20質量%のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム水溶液の添加量を1.3gに変更した以外は、実施例1と同様に、蓄電デバイス用バインダー組成物7を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤7及び電極7を調製し、同様に評価した。
【0076】
[実施例8]
製造例1で得られた含フッ素重合体のaラテックスの50gにアニオン性乳化剤(B)としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを濃度20質量%で含む水溶液(花王社製『ネオペレックスG』(商品名))(B2)の希釈液)の2.7gを加え、蓄電デバイス用バインダー組成物8を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤8及び電極8を調製し、同様に評価した。
【0077】
[比較例1]
含フッ素重合体aラテックスの代わりに、製造例5で得られた含フッ素重合体eのラテックスを用いた以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス用バインダー組成物9を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤9及び電極9を調製し、同様に評価した。
【0078】
[比較例2]
製造例1で得られた含フッ素重合体aのラテックスに乳化剤を加えずに、蓄電デバイス用バインダー組成物10としてそのまま使用した以外は実施例1と同様にして電極合剤10及び電極10を調製し、同様に評価した。
【0079】
[比較例3]
製造例1で得られた含フッ素重合体aのラテックスの50gに20質量%のラウリル硫酸ナトリウム水溶液の2.7gを加えた以外は、実施例1と同様に、蓄電デバイス用バインダー組成物11を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤11及び電極11を調製し、同様に評価した。
【0080】
[実施例9]
含フッ素重合体aのラテックスの代わりに、製造例7で得られた含フッ素重合体gのラテックスを用いた以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス用バインダー組成物12を得た。
以下、実施例1と同様にして電極合剤12及び電極12を調製し、同様に評価した。
【0081】
[比較例4]
製造例7で得られた含フッ素重合体gのラテックスに乳化剤を加えずに、蓄電デバイス用バインダー組成物13としてそのまま使用した以外は実施例1と同様にして電極合剤13及び電極13を調製し、同様に評価した。
【0082】
【表1】
【0083】
表1の結果に示されるように、実施例1〜9の含フッ素重合体は、分子中にフェニル基を有さないアニオン性乳化剤(A)を用いて乳化重合された含フッ素重合体を含むラテックスに、分子中にフェニル基を有するアニオン性乳化剤(B)を加えてなる蓄電デバイス用バインダー組成物であり、バインダー組成物としての分散安定性が良好で外力を受けたときにも凝集が生じにくく、かつ、得られる電極は密着性が良好であり、二次電池における容量維持率が良好であった。
【0084】
これに対して、分子中にフェニル基を有するアニオン性乳化剤(B)を用いて乳化重合されたラテックスを用いた比較例1では、含フッ素重合体ラテックスの粘度が著しく低いことから、含フッ素重合体の分子量が低いことがわかる。また得られる電極は密着性も不充分で、二次電池の充放電レート特性が劣っていた。
【0085】
分子中にフェニル基を有さないアニオン性乳化剤(A)を用いて乳化重合されたラテックスに、分子中にフェニル基を有するアニオン性乳化剤(B)を添加しなかった比較例2はバインダー組成物としての分散安定性が悪かった。
分子中にフェニル基を有さないアニオン性乳化剤(A)を用いて乳化重合されたラテックスに、分子中にフェニル基を有さないアニオン性乳化剤(A)を添加した比較例3は、分散安定性は向上するものの、重合後に乳化剤を添加しなかった比較例2に比べて、二次電池の充放電レート特性が悪化した。