(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多官能エポキシ樹脂が、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼンノボラック型エポキシ樹脂およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
前記エポキシ樹脂が更に液状または半固形エポキシ樹脂を含み、前記液状または半固形エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型およびF型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂並びにグリシジルアミン型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種である請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
さらに本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0020】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、下記一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂を含む硬化剤と、窒化物粒子を含む無機充填材と、を含有する。かかる構成であることにより、硬化前に柔軟性を有し、硬化後において熱伝導性に優れる絶縁性の樹脂硬化物を形成することができる。
【0021】
【化2】
【0022】
一般式(I)中、R
1およびR
2は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、mは平均値で1.5〜2.5を表し、nは平均値で1〜15を表す。
【0023】
一般に、エポキシ樹脂と硬化剤から得られるエポキシ樹脂硬化物における熱伝導はフォノンが支配的であり、熱伝導率は0.15W/m・K〜0.22W/m・K程度である。これは、エポキシ樹脂硬化物がアモルファスであり秩序構造と呼べる構造が存在しないこと、および格子振動の調和性をもたらす共有結合が金属やセラミックスと比べて少ないことに起因する。そのため、エポキシ樹脂硬化物においてはフォノンの散乱が大きく、フォノンの平均自由行程は、例えば結晶性シリカの100nmと比べてエポキシ樹脂硬化物は0.1nm程度と短く、低い熱伝導率の原因となっている。
【0024】
前述の国際公開02/094905パンフレットに示したようなメソゲンによる異方性構造体の形成は、エポキシ樹脂分子の結晶的配列がフォノンの静的散乱を抑制し、熱伝導率が向上したと考えられる。しかし、メソゲンを含有したエポキシ樹脂モノマーは結晶性が強く溶剤への溶解性が低いものが多く、樹脂組成物として取り扱うには特別な条件が必要になることがある。そのため、メソゲンを含まず溶剤に溶解しやすいエポキシ樹脂モノマーの需要がある。
【0025】
本発明者らは、熱伝導率を高めるためには格子振動の調和性をもたらす共有結合の数を増やし動的フォノン散乱を低減することが、熱伝導率の向上に効果的であることを見出し本発明に至った。格子振動の調和性をもたらす共有結合の数が多い構造は、樹脂骨格の分岐点間の距離を短くし、細かい網目を構成することで得ることができる。つまり、熱硬化性樹脂においては、架橋点間の分子量が小さい構造が好ましい。このような構成により、架橋密度が高くなり、メソゲンを含まないエポキシ樹脂硬化物において異方性構造体が形成されない場合であっても、熱伝導率の向上に効果的である。
【0026】
硬化後の樹脂組成物において、樹脂骨格の分岐点間の距離を短くし、細かい網目を構成するために、本発明では具体的には、エポキシ樹脂として多官能エポキシ樹脂を用い、硬化剤として前記一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂を用い、無機充填材として窒化物粒子を用いる。
【0027】
(エポキシ樹脂)
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂として多官能エポキシ樹脂を含む。多官能エポキシ樹脂を含むことで架橋密度を高めることができる。多官能エポキシ樹脂は、多官能型のエポキシ樹脂モノマーから調製することができる。
【0028】
前記多官能エポキシ樹脂は、直鎖構造であっても分岐構造を有していてもよいが、分岐構造を有し側鎖または末端に反応性エポキシ基を有する骨格の多官能エポキシ樹脂は、分岐部が架橋点となることで架橋点間の分子量が低下し架橋密度が高くなるため好ましく、特に多量体の繰り返し単位に分岐構造が含まれることが好ましい。
この様子を下記式(II)に示す繰り返し単位を有するエポキシ樹脂と下記式(III)に示す繰り返し単位を有するエポキシ樹脂とを比較して説明する。
【0029】
下記式(II)に示す繰り返し単位を有するエポキシ樹脂(エポキシ当量165g/eq)は直鎖構造となる。これに対し、更に分岐構造(2)と分岐による側鎖部分に反応性エポキシ末端基(1)とを含み、前記式(II)と略同等のエポキシ当量である下記式(III)に示す繰り返し単位を有するエポキシ樹脂(エポキシ当量168g/eq)では、架橋の網目がより細かくなると推定され、更に架橋密度が高くなることが期待できる。
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
上記式(II)又は(III)(反応性エポキシ末端基(1):p位)に示す繰り返し単位を有するエポキシ樹脂と、硬化剤として本発明に係る一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂(m=2.0、n=2、OH基の結合位置:m位、R
1およびR
2=水素原子)とを理想的に反応したときの反応物の構造式を、それぞれ式(IV)および(V)に示す。一般式(I)と式(II)との反応物である下記式(IV)の網目の大きさよりも、一般式(I)と分岐構造を有する式(III)との反応物である下記式(V)の網目の方が小さくなることが明らかである。したがって、前記多官能エポキシ樹脂としては、前記式(III)に示す繰り返し単位を有するエポキシ樹脂であることが好適である。
【0033】
【化5】
【0034】
【化6】
【0035】
なお、繰り返し単位を含むエポキシ樹脂骨格は、例えば前記式(III)において、両末端に水素原子とエポキシ化フェノールが結合したと仮定すると、n=1で示される下記式(VI)の骨格も含むことができる。
【0036】
【化7】
【0037】
また、前記多官能エポキシ樹脂は、エポキシ当量が小さいものが好ましい。エポキシ当量が小さいということは、架橋密度が高くなることを示す。具体的には、エポキシ当量が200g/eq以下であることが好ましく、170g/eq以下であることがより好ましい。
【0038】
また前記多官能エポキシ樹脂は、架橋に関与しないアルキル基やフェニル基などの残基を有さないことが好ましい。反応に関与しない残基は、フォノン伝導においてフォノンの反射や残基の熱運動に変換されフォノン散乱の原因になると考えられる。
【0039】
上記多官能エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラックエポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼンノボラックエポキシ樹脂、およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂が挙げられる。分岐構造の観点からトリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種であることがより好ましく、架橋密度の観点から、繰り返し単位に反応性末端を有する分岐構造を有するトリフェニルメタン型エポキシ樹脂が更に好ましい。また、直鎖型構造の硬化剤でも、架橋密度の観点から、繰り返し単位に1より大きい反応性末端を有するジヒドロキシベンゼンノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0040】
前記多官能エポキシ樹脂は、全エポキシ樹脂中、20質量%以上含有することが好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、50質量%以上含有することが更に好ましい。
【0041】
本発明におけるエポキシ樹脂は、更に液状または半固形エポキシ樹脂を含むことが好ましい。液状および半固形エポキシ樹脂は樹脂組成物の軟化点を下げる効果を与えることがある。液状および半固形エポキシ樹脂のなかでも、軟化点を下げる効果の観点から液状エポキシ樹脂が好適である。
【0042】
このような液状または半固形エポキシ樹脂として、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型およびF型混合エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、並びにグリシジルアミン型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0043】
軟化点の低下効果の観点からは、液状または半固形エポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型およびF型混合エポキシ樹脂、ビスフェノールF型ノボラックエポキシ樹脂、並びにグリシジルアミン型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0044】
液状または半固形エポキシ樹脂は二官能エポキシ樹脂であることが多く、二官能エポキシ樹脂モノマーの場合、分岐構造を持たず架橋点間を延長することから架橋密度を下げることになるため、添加量を多くすべきではない。そのため、二官能の液状または半固形エポキシ樹脂は、全エポキシ樹脂の50質量%以下で含有させることが好ましく、30質量%以下で含有させることがより好ましく、20質量%以下で含有させることが更に好ましい。
【0045】
上記の観点から、架橋密度の低下を抑えるためには、多官能の液状または半固形エポキシ樹脂であるビスフェノールF型ノボラックエポキシ樹脂またはグリシジルアミン型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。多官能の液状または半固形エポキシ樹脂は、全エポキシ樹脂の50質量%以下で含有させることが好ましく、30質量%以下で含有させることがより好ましく、20質量%以下で含有させることが更に好ましい。
ただし、ここに挙げた改質の機能や骨格は一例であり、限定されるものではない。
【0046】
(硬化剤)
本発明の樹脂組成物は、硬化剤として下記一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂を含む。
上記分子設計の考え方から、本発明における硬化剤として用いるノボラック樹脂は、エポキシ樹脂と同様に水酸基当量がより小さい構造を選択することが好ましい。これにより、反応基である水酸基の濃度が高くなる。また、エポキシ樹脂と同様にノボラック樹脂も架橋に関与しない残基はなるべく含まない方が好ましい。
以上の観点から、硬化剤として用いるノボラック樹脂は、下記一般式(I)で表される構造単位を有する。
【0047】
【化8】
【0048】
一般式(I)中、R
1およびR
2は各々独立に、水素原子またはメチル基を表し、mは平均値で1.5〜2.5を表し、nは平均値で1〜15を表す。
【0049】
前記ノボラック樹脂の水酸基当量は小さい方が好ましく、一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂では、mが平均値で1.5以上であることから、水酸基当量は適切に小さくなっている。一方で、水酸基当量を小さくしすぎると得られる硬化物の脆くなりやすいことから、mは平均値で2.5以下とする。したがって、前記一般式(I)におけるmは平均値で1.5〜2.5であり、1.7〜2.2であることがより好ましい。
【0050】
また、水酸基の価数であるmは平均値であればよく、例えば原料として一価であるフェノールと二価のレゾルシノールを等モル併用して、平均価数を1.5〜2.5に調整してもよい。
【0051】
一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂では、R
1およびR
2は各々独立に水素原子またはメチル基であることから、架橋に関与しない残基をなるべく含まない構造となっている。
【0052】
さらに、前記ノボラック樹脂の軟化点の観点から、前記一般式(I)におけるnは平均値で1〜15であり、シート状に加工した樹脂組成物の圧着等加熱時の流動粘度の観点から、nは平均値で1〜10であることが好ましい。
なお、nは平均値であればよく、すなわち、繰り返し単位を含む硬化剤骨格としては、例えば一般式(I)において、両末端に水素原子とm価のフェノール(−Ph−(OH)m)が結合した場合に得られるn=1で示される下記式(VII)の化合物や、nが15を超える化合物を含んで、nが平均値として1〜15となっていてもよい。
【0053】
【化9】
【0054】
また、合成によりノボラック樹脂が分子量の異なる混合物となって平均値としてnが1〜15で得られる場合であってもよいし、分子量の異なるノボラック樹脂を混合して平均値としてnを1〜15に調整した場合であってもよい。
【0055】
ノボラック樹脂の合成に用いるアルデヒド並びにケトンは水酸基当量の観点からホルムアルデヒドが好ましいが、耐熱性を考慮してアセトアルデヒドや、合成のしやすさからアセトンを選択してもよい。更に、水酸基当量と耐熱性の両立のため、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、およびアセトンのうちの少なくとも2種以上を併用してもよい。
【0056】
以上から、前記ノボラック樹脂は、モノマーとして単核で2価のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物と、アルデヒドとしてホルムアルデヒド、アセトアルデヒドまたはアセトンとを縮合したノボラック樹脂であることが好ましい。
【0057】
なお、前記一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂は、分子内に一般式(I)で表される構造単位を有しているものであれば、更に他の構造を有していてもよい。改質の目的で例えば、フェノール化合物に由来する骨格として、アルキルフェノールやアラルキル骨格、キサンテン骨格などのフェノール化合物の縮合環構造などが分子内に存在してもよい。また、前記一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂は、ランダム重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0058】
前記一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂は、分子内における一般式(I)で表される構造単位の含有率が、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
【0059】
前記一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂の水酸基当量は、100g/eq以下であることが好ましく、80g/eq以下であることがより好ましく、架橋密度の観点から70g/eq以下であることがより好ましい。
【0060】
前記硬化剤は、改質のため更に、その他のノボラック樹脂や、単核で二価以上の水酸基を有するフェノール化合物(モノマー)や、アラルキル樹脂などを含有してもよい。フェノール性水酸基の価数が高くなるほど水酸基当量は小さくなるが、架橋密度が高くなりすぎて樹脂硬化物が脆くなりやすい傾向がある。これに対して、前記硬化剤が前記モノマーを含有していると、樹脂硬化物が脆くなるのが抑えられる。前記モノマーを含有する硬化剤は、前記硬化剤にモノマーを添加するか、或いは合成時に未反応モノマーを残留させることにより得られる。
【0061】
かかるモノマーとしては、前記一般式(I)で表される構造単位を有するノボラック樹脂を合成するのに用いた原料のフェノール化合物であることが好ましいが、更に別の単核フェノール化合物を含んでもよい。このような単核フェノール化合物のなかでも単核二価フェノール化合物(単核ジヒドロキシベンゼン)であることが好ましい。単核ジヒドロキシベンゼンは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。単核ジヒドロキシベンゼンを添加すると、樹脂組成物の軟化点を下げつつ、架橋密度の低下を低く抑える効果が得られるため好ましい。
【0062】
前記単核ジヒドロキシベンゼンとしては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンが挙げられ、この3種の中では酸化されにくいレゾルシノールが好ましい。ここに挙げた骨格は一例であり、限定されるものではない。
【0063】
前記単核ジヒドロキシベンゼン化合物から選択される少なくとも一種の総含有率は、熱伝導率と軟化点の観点から、全硬化剤中20質量%〜70質量%であることが望ましく、特に半硬化シートの柔軟性と硬化物の架橋密度の観点から30質量%〜50質量%が好ましい。上記範囲内であると、架橋に係わらない官能基の数が抑えられることによりフォノンの動的散乱が抑えられ、樹脂硬化物の熱伝導率が低下することが抑えられる。
【0064】
前記硬化剤全体としての水酸基当量は、80g/eq以下であることが好ましく、70g/eq以下であることがより好ましい。
【0065】
本発明の樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、前記ポキシ樹脂のエポキシ当量に対する硬化剤における水酸基当量の比が1に近くなるように調整することが好ましい。前記当量の比が1に近いほど、架橋密度が高くなりフォノンの動的散乱の低減効果が期待できる。具体的には、前記当量比(水酸基当量/エポキシ当量)は、0.8〜1.2であることが好ましく、0.9〜1.1であることがより好ましく、0.95〜1.05であることが更に好ましい。
ただし、硬化促進剤としてエポキシ基の連鎖重合が起きるイミダゾール系硬化促進剤やアミン系硬化促進剤を用いる場合には、未反応のエポキシ基が残留しにくいため、前記エポキシ樹脂を前記硬化剤に対して過剰に加えてもよい。
【0066】
(無機充填材)
本発明の樹脂組成物は、熱伝導率の観点から、無機充填材として窒化物粒子を含む。窒化物粒子としては、例えば、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの粒子が挙げられ、窒化ホウ素であることが好ましい。樹脂組成物中に無機充填材として前記窒化ホウ素を用いると、ガラス転移温度の低下が抑えられる。この理由は以下のように考えられる。
【0067】
一般に無機充填材として用いられる酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムや酸化ケイ素などは、粒子の表面に水酸基を有し極微量ではあるが水を吸着しており、吸着水が硬化反応を阻害し架橋密度が下がることが知られている。そのため、これらの酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムや酸化ケイ素などを主成分とする無機充填材を含んだエポキシ樹脂硬化物は、無機充填材を含まないエポキシ樹脂硬化物よりもガラス転移温度が低くなる。特に本発明の高架橋密度になるエポキシ樹脂系では、その影響が顕著に現れると考えられる。
【0068】
これに対して、窒化ホウ素は極性が小さく、また表面に水酸基を有しないため水を吸着しにくく、これらの水酸基や吸着水が原因となるエポキシ樹脂に対する硬化阻害を起こさないことから、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤の硬化反応が進行し高い架橋密度を与えることが可能となる。これにより、窒化ホウ素を主成分とする無機充填材を含んだエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は、無機充填材を含まないエポキシ樹脂硬化物と同等になると考える。
【0069】
なお、樹脂組成物中に窒化ホウ素が含有されているかは、例えばエネルギー分散型X線分析法(EDX)によって確認することができ、特に走査型電子顕微鏡(SEM)と組み合わせることで、樹脂組成物断面の窒化ホウ素の分布状態を確認することも可能である。
【0070】
前記窒化ホウ素の結晶形は、六方晶(hexagonal)、立方晶(cubic)、菱面体晶(rhombohedral)のいずれであってもよいが、粒子径を容易に制御できることから六方晶が好ましい。また、結晶形の異なる窒化ホウ素の2種類以上を併用してもよい。
【0071】
熱伝導率とワニス粘度の観点から、前記六方晶窒化ホウ素粒子は、粉砕または凝集加工したものであることが好ましい。前記六方晶窒化ホウ素の粒子形状としては、丸み状や球形、りん片状や凝集粒子などが挙げられるが、充填性が高い粒子の形状としては、長径と短径の比が3以下、より好ましくは2以下の丸み状や球形が好ましく、球形が更に好ましい。特に凝集加工した前記六方晶窒化ホウ素は隙間を多く有し圧力をかけることで潰れて変形しやすいことから、樹脂組成物のワニスの塗布性を考慮して無機充填材の充填率を低くしても、塗布後にプレス等で圧縮することで実質的な充填率を高めることが可能になる。粒子形状は熱伝導率が高い無機充填材同士の接触による熱伝導パスの形成のし易さという観点から見ると、球形よりも丸み状や鱗片状の方が接触点が多いと考えられるが、前述の充填性と樹脂組成物の揺変性粘度の兼ね合いから、球形の粒子が好ましい。なお、粒子形状の異なる前記窒化ホウ素粒子は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0072】
また、無機充填材の充填性を鑑みて、隙間を充填するために窒化ホウ素以外の無機充填材を併用してもよい。絶縁性を有する無機化合物であれば特に制限はないが、高い熱伝導率を有するものであることが好ましい。窒化ホウ素以外の無機充填材の具体例としては、酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。中でも、熱伝導率の観点から、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素が好ましい。
【0073】
前記無機充填材の体積平均粒子径としては特に制限はないが、成形性の観点から、100μm以下であることが好ましく、熱伝導性およびワニスの揺変性の観点から20μm〜100μmであることがより好ましく、更に絶縁性の観点から20μm〜60μmであることが更に好ましい。
【0074】
前記無機充填材は、単一ピークを有する粒径分布を示すものであっても、2以上のピークを有する粒径分布を示すものであってもよい。本発明においては、充填率の観点から、2以上のピークを有する粒径分布を示す無機充填材であることが好ましい。
【0075】
前記2以上のピークを有する粒径分布を示す無機充填材の粒径分布としては、例えば、3つのピークを有する粒径分布を示す場合、小粒径粒子として0.1μm〜0.8μmの平均粒子径と、中粒径粒子として1μm〜8μmの平均粒子径と、大粒径粒子として、20μm〜60μmの平均粒子径とを有することが好ましい。かかる無機充填材であることで、無機充填材の充填率がより向上し、熱伝導率がより向上する。充填性の観点から大粒径粒子は30μm〜50μmの平均粒子径が好ましく、中粒径粒子は大粒径粒子の平均粒子径の1/4〜1/10であることが好ましく、小粒径粒子は中粒径粒子の平均粒子径の1/4〜1/10であることが好ましい。
【0076】
前記窒化物粒子は、前記大粒径粒子として用いることが好ましい。前記中粒径粒子や前記小粒径粒子は、窒化物粒子であっても、その他の粒子であってもよく、熱伝導率とワニスの揺変性の観点から、酸化アルミニウム粒子であることが好ましい。
【0077】
前記無機充填材の総量中の前記窒化物粒子の含有率は、成形性の観点から、50体積%〜95体積%であることが好ましく、充填性の観点から、60体積%〜95体積%であることがより好ましく、熱伝導性の観点から、65体積%〜92体積%であることが更に好ましい。
【0078】
また本発明の樹脂組成物中の無機充填材の含有量は成形性の観点から、50体積%〜85体積%であることが好ましく、熱伝導性の観点から、60体積%〜85体積%であることがより好ましく、ワニスの揺変性の観点から、65体積%〜75体積%であることがさらに好ましい。体積基準での無機充填材の含有量が上記範囲内にあると、硬化前は柔軟性を有し、硬化後においては熱伝導性に優れる絶縁性の樹脂硬化物を形成することができる。
【0079】
なお、樹脂組成物中における無機充填材の体積基準の含有量は、以下のようにして測定される。まず、25℃における樹脂組成物の質量(Wc)を測定し、その樹脂組成物を空気中において400℃、2時間、次いで700℃、3時間焼成し、樹脂分を分解・燃焼して除去した後、25℃における残存した無機充填材の質量(Wf)を測定する。次いで、電子比重計または比重瓶を用いて、25℃における無機充填材の密度(df)を求める。次いで、同様の方法で25℃における樹脂組成物の密度(dc)を測定する。次いで、樹脂組成物の体積(Vc)および残存した無機充填材の体積(Vf)を求め、(式1)に示すように残存した無機充填材の体積を樹脂組成物体積で除すことで、無機充填材の体積比率(Vr)として求める。
【0080】
(式1)
Vc=Wc/dc
Vf=Wf/df
Vr=Vf/Vc
【0081】
Vc:樹脂組成物の体積(cm
3)、Wc:樹脂組成物の質量(g)
dc:樹脂組成物の密度(g/cm
3)
Vf:無機充填材の体積(cm
3)、Wf:無機充填材の質量(g)
df:無機充填材の密度(g/cm
3)
Vr:無機充填材の体積比率
【0082】
また、前記無機充填材は、上記体積比率の範囲内で含有されれば、質量比率としては特に限定されない。具体的には、前記樹脂組成物を100質量部としたときに、前記無機充填材は、1質量部〜99質量部の範囲で含有することができ、50質量部〜97質量部の範囲で含有することが好ましく、更に好ましくは80質量部〜95質量部である。前記無機充填材の含有量が、上記範囲内であることにより、より高い熱伝導率を達成することができる。
【0083】
(その他の成分)
本発明の樹脂組成物は、上記成分に加えて必要に応じてその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、硬化促進剤、カップリング剤、分散剤、有機溶剤、硬化促進剤を挙げることができる。
【0084】
特に、前記エポキシ樹脂や前記硬化剤が、窒素原子を有し塩基性を有するものでない場合には、樹脂組成物の硬化反応を充分進行させる観点から、前記硬化促進剤を添加することが好ましい。なお、前記エポキシ樹脂の分子中や樹脂組成物中に窒素原子を含む場合には、アミン系硬化促進剤と同様の効果が期待できるため、硬化促進剤を添加しなくてもよい。
【0085】
前記硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン(北興化学製TPP)やPPQ(北興化学製)などのリン系硬化促進剤;TPP−MK(北興化学製)などのホスホニウム塩系硬化促進剤;EMZ−K(北興化学製)などの有機ホウ素系硬化促進剤;2E4MZ(四国化成工業製)、2E4MZ−CN(四国化成工業製)、2PZ−CN(四国化成工業製)、2PHZ(四国化成工業製)などのイミダゾール系硬化促進剤;トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、ヘキサメチレンテトラミンなどのアミン系硬化促進剤;などを用いることが可能である。特にリン系硬化促進剤やホスホニウム塩系硬化促進剤はエポキシ樹脂モノマーの単独重合を抑えることができるため、硬化剤とエポキシ樹脂の反応を進行させやすく好適である。配合設計上、エポキシ当量/水酸基当量が1より大きく、特に1.2以上の場合、未反応のエポキシ基が生じ、前述のように熱伝導率を低下せしめるフォノン散乱の原因となりうるので、この場合はエポキシ基の単独重合が可能なイミダゾール系硬化促進剤やアミン系硬化促進剤を添加することが好ましい。
【0086】
また、樹脂組成物がカップリング剤を含むことで、エポキシ樹脂およびノボラック樹脂を含む樹脂成分と無機充填材の結合性がより向上し、より高い熱伝導率とより強い接着性を達成することができる。
【0087】
前記カップリング剤としては、樹脂成分と結合する官能基、および無機充填材と結合する官能基を有する化合物であれば特に制限はなく、通常用いられるカップリング剤を用いることができる。
【0088】
前記樹脂成分と結合する官能基としては、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ウレイド基、N−フェニルアミノ基等を挙げることができる。保存安定性の観点から前記カップリング剤は、反応速度が遅いエポキシ基またはN−フェニルアミノ基の官能基を有することが好ましい。
また前記無機充填材と結合する官能基としては、アルコキシ基、水酸基などを挙げることができ、このような官能基を有するカップリング剤としては、ジアルコキシシランやトリアルコキシシランを有するシラン系カップリング剤、アルコキシチタネートを有するチタネート系カップリング剤を挙げることができる。
【0089】
シランカップリング剤として具体的には例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0090】
またSC−6000KS2に代表されるシランカップリング剤オリゴマ(日立化成コーテットサンド社製)を使用することもできる。
チタネート系カップリング剤は、末端にアミノ基を有するチタネートカップリング剤(味の素ファインテクノ製 プレンアクトKR44)を使用することができる。
これらのカップリング剤は1種単独で用いても、または2種類以上を併用することもできる。
【0091】
前記樹脂組成物におけるカップリング剤の含有量としては、特に制限はないが、熱伝導性の観点から、樹脂組成物の全質量に対して0.02質量%〜0.83質量%であることが好ましく、0.04質量%〜0.42質量%であることがより好ましい。
またカップリング剤の含有量は、熱伝導性、絶縁性の観点から、無機充填材に対して0.02質量%〜1質量%であることが好ましく、0.05質量%〜0.5質量%であることがより好ましい。
【0092】
また、樹脂組成物が分散剤を含むことで、エポキシ樹脂およびノボラック樹脂を含む樹脂成分中での無機充填材の分散性がより向上し、無機充填材が均一に分散されることによって、より高い熱伝導率とより強い接着性を達成することができる。
【0093】
前記分散剤としては、通常使用されるものから適宜選択することができる。例えばED−113(楠本化成株式会社製)、DISPERBYK−106(BYK−Chemie GmbH製)、DISPERBYK−111(BYK−Chemie GmbH製)、アジスパーPN−411(味の素ファインテクノ製)、REB122−4(日立化成工業製)等を挙げることができる。またこれら分散剤は単独または2種類以上を併用することもできる。
【0094】
前記樹脂組成物における分散剤の含有量としては、特に制限はないが、熱伝導性の観点から、無機充填材に対して0.01質量%〜2質量%であることが好ましく、0.1質量%〜1質量%であることがより好ましい。
【0095】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、通常行なわれる樹脂組成物の製造方法を特に制限なく用いることができる。例えば、無機充填材と必要に応じてカップリング剤を混合し、エポキシ樹脂と硬化剤を適当な有機溶剤に溶解または分散したものに加え、必要に応じて添加される硬化促進剤等のその他の成分を混合することで得ることができる。
【0096】
硬化剤を溶解または分散する有機溶剤としては、用いるノボラック樹脂等に応じて適宜選択することができる。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−プロパノール、セロソルブ、メチルセロソルブ等のアルコール類やメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン系溶剤や酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒やジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン等のエーテル系やジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等の窒素系溶剤を好ましく用いることができる。
また、エポキシ樹脂、硬化剤、および無機充填材等を混合する方法としては、通常の撹拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜組み合わせて行うことができる。
【0097】
<樹脂シート>
本発明の樹脂シートは、前記樹脂組成物をシート状に成形することで得ることができる。前記樹脂シートが前記樹脂組成物を含んで構成されることで、硬化前の保存安定性と硬化後の熱伝導性に優れる。なお、本発明の樹脂シートは、未硬化体であっても、半硬化体であってもよい。ここで半硬化とは、一般にBステージ状態と称される状態をいい、常温(25℃)における粘度が10
4〜10
5Pa・sであるのに対して、100℃における粘度が10
2〜10
3Pa・sに粘度が低下する状態を意味する。なお、粘度は、ねじり型動的粘弾性測定装置などにより測定が可能である。
【0098】
また本発明の樹脂シートは支持体上に前記樹脂組成物からなる樹脂層を設けたものであってもよい。前記樹脂層の膜厚は目的に応じて適宜選択できるが、例えば、50μm〜500μmであり、熱抵抗の観点からはより薄い方がよく、また絶縁性の観点からは厚い方がよく、熱抵抗と絶縁性が両立できる厚さとして70μm〜300μmであることが好ましく、100μm〜250μmであることがより好ましい。
【0099】
前記支持体としては絶縁性支持体および導電性支持体が挙げられる。絶縁性支持体としては、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルムなどのプラスチックフィルム等が挙げられる。導電性支持体としては、銅箔やアルミ箔等の金属や金属蒸着プラスチックフィルムを用いることもできる。
【0100】
前記絶縁性支持体に対して、必要に応じてプライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理、離型処理等の表面処理を行ってもよい。前記導電性支持体に対しても、プライマー塗布、カップリング処理、UV処理、エッチング処理、離型処理等の表面処理を行ってもよい。特に金属箔と前記樹脂組成物からなる樹脂層の密着性を求める場合、研磨処理や電解箔による粗化面上に樹脂層を設けるとよい。
また前記支持体は、樹脂シートの一方の面にのみ配置されていてもよく、両方の面に配置されていてもよい。
【0101】
前記支持体の膜厚は、特に制限はなく、樹脂組成物層の膜厚や樹脂シートの用途、製造設備によって適宜、当業者の知識に基づいて定められるものであるが、経済性および樹脂シートの取り扱い性に優れる点で、好ましくは10μm〜150μm、より好ましくは40μm〜110μmである。
【0102】
本発明の樹脂シートは、例えば、前記支持体上に前記樹脂組成物を塗布、乾燥することで製造することができる。樹脂組成物の塗布方法および乾燥方法については特に制限なく通常用いられる方法を適宜選択することができる。例えば、塗工方法はコンマコータやダイコータ、ディップ塗工等が挙げられる。
【0103】
前記乾燥方法としては、バッチ処理の場合には箱型温風乾燥機、塗工機との連続処理の場合には多段式温風乾燥機等が使用できる。また乾燥のための加熱条件についても特に制限はないが、温風乾燥機を用いる場合は、樹脂組成物の塗工物の膨れを防ぐ観点から、乾燥機の温風は溶剤の沸点より低い温度範囲で加熱処理を行う工程を含むことが好ましい。
【0104】
前記樹脂シートが半硬化体の場合、半硬化する方法としては、特に制限はなく通常用いられる方法を適宜選択することができ、例えば、加熱処理することで前記樹脂組成物が半硬化される。半硬化のための加熱処理方法は特に制限はない。
前記半硬化のための温度範囲は、樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂に応じて適宜選択することができる。B−ステージシートの強度の観点から、熱処理により硬化反応を若干進めておくことが好ましく、熱処理の温度範囲は80℃〜150℃であることが好ましく、100℃〜120℃であることがより好ましい。また、半硬化のための加熱処理の時間としては、特に制限はないが、B−ステージシートの樹脂の硬化速度と樹脂の流動性や接着性の観点で適宜選択することができ、1分以上30分以内で加熱することが好ましく、3分から10分がより好ましい。
【0105】
前記樹脂シートを半硬化した後に、樹脂シートを2枚以上重ね合わせ、加熱しながら加圧して、樹脂シートを熱圧着させてもよい。熱圧着時の加熱温度は、樹脂の軟化点や融点に応じて選択できるが、80℃〜180℃であることが好ましく、100℃〜150℃であることがより好ましい。また、熱圧着時の加圧は真空下で行うことが好ましく、真空下で4MPa〜20MPaで加圧することがより好ましく、5MPa〜15MPaで加圧することが更に好ましい。
【0106】
<樹脂硬化物シートおよびその製造方法>
本発明の樹脂硬化物シートは、前記樹脂組成物を硬化させることで得られる。これにより熱伝導性に優れる樹脂硬化物を構成することができる。樹脂組成物を硬化する方法としては、特に制限はなく通常用いられる方法を適宜選択することができ、例えば、加熱処理することで前記樹脂組成物が硬化される。
【0107】
前記樹脂組成物を加熱処理する方法としては特に制限はなく、また加熱条件についても特に制限はない。
ただし、一般に多官能型エポキシ樹脂は硬化速度が速いため、高温での硬化は未反応のエポキシ基や水酸基などの官能基が残りやすくなり、熱伝導率の向上効果が得られにくい傾向にある。そこで、より高い熱伝導率を達成する観点から、硬化反応の活性温度付近の温度範囲(以下、「特定温度範囲」ということがある)で加熱処理を行う工程を含むことが好ましい。ここで、硬化反応の活性温度付近とは、示差熱分析においてエポキシ樹脂の硬化発熱が発生する温度から反応熱のピーク温度までを指す。
【0108】
前記特定温度範囲は、樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂に応じて適宜選択することができるが、80℃〜180℃であることが好ましく、100℃〜150℃であることがより好ましい。かかる温度範囲で加熱処理を行うことで、より高い熱伝導率を達成することができる。150℃以下の場合には、硬化が早く進み過ぎるのが抑えられ、80℃以上の場合には、樹脂が溶融して硬化が進行する。
【0109】
また、特定温度範囲での加熱処理の時間としては、特に制限はないが、30秒以上15分以内で加熱することが好ましい。
【0110】
本発明においては、特定温度範囲での加熱処理に加えて、さらに高い温度で加熱処理する工程の少なくとも1つを設けることが好ましい。これにより硬化物の弾性率、熱伝導率、接着力をより向上することができる。さらに高い温度での加熱処理は、120℃〜250℃で行うことが好ましく、120℃〜200℃で行うことがより好ましい。温度が高すぎると樹脂が酸化し着色の原因となりやすい。またこの加熱処理の時間は、30分〜8時間であることが好ましく、1時間〜5時間であることがより好ましい。更に、この加熱処理は、上記温度範囲で低温から高温に多段階で処理することが好ましい。
【0111】
なお、前記樹脂組成物の硬化物をシート化する方法としては、前記樹脂シートを成形してから硬化する方法や、樹脂組成物を硬化した後、スライスしてシート化する方法などが挙げられる。
【0112】
<構造体、金属箔付き樹脂シート>
本発明の構造体は、前記樹脂シートまたは前記樹脂硬化物シート(以下、総称して「本発明のシート」という場合がある)と、本発明のシートの片面または両面に接して設けられた金属板と、を有する。
【0113】
前記金属板としては、銅板、アルミ板、鉄板などが挙げられる。なお、金属板又は放熱板の厚さは特に限定されない。また、金属板として、銅箔やアルミ箔、スズ箔などの金属箔を使用してもよい。なお本発明において、前記樹脂シートの片面または両面に前記金属箔を有するものを、金属箔付き樹脂シートと称する。
【0114】
前記金属板の厚さは、使用形態や金属板の熱伝導性などによって適宜設定することが好ましく、具体的には、平均厚さが5μm〜300μmであることが好ましく、15μm〜200μmであることがより好ましく、30μm〜150μmであることが好ましい。
【0115】
前記構造体は、本発明のシートの少なくとも一方の面上に、金属板を配置して積層体を得る工程を含む製造方法で製造することができる。本発明のシート上に、金属板を配置する方法としては、通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。例えば、本発明のシートの少なくとも一方の面上に、金属板を貼り合わせる方法等を挙げることができる。貼り合わせる方法としては、プレス法及びラミネート法等が挙げられる。プレス法及びラミネート法の条件は樹脂シートの構成に応じて適宜選択することができる。
【0116】
また前記構造体は、本発明のシートの一方の面上に金属板を有し、他方の面上に被着体を有していてもよい。この形態では被着体と金属板との間に前記樹脂シートまたは前記樹脂硬化物シートを挟持するため、硬化後において、被着体と金属板との熱伝導性に優れる。前記被着体としては特に制限されず、被着体の材質としては、例えば、金属、樹脂、セラミックス及びそれらの混合物である複合材料等を挙げることができる。
【0117】
前記構造体は、動力用又は光源用の半導体デバイスに用いることができる。
図1〜
図7に、前記構造体の例として、本発明のシートを用いて構成されるパワー半導体装置、LEDライトバーおよびLED電球の構成例を示す。
【0118】
図1では、半硬化の樹脂シート112と、半硬化の樹脂シート112の保護層として金属支持体114とを積層した金属箔付き樹脂シート110を用いる。詳細には、
図1は、パワー半導体チップ102が、はんだ層104を介して銅または銅合金のリードフレーム106に配置され、封止樹脂108で封止し固定化し、本発明の金属箔付き樹脂シート110における半硬化の樹脂シート112をリードフレーム106と圧着・硬化し、金属支持体114を半硬化の樹脂シート112の保護層として構成し、放熱グリース等の熱伝導材122を介してヒートシンク120に配置したパワー半導体装置100の構成例を示す概略断面図である。
【0119】
本発明の金属箔付き樹脂シート110を介することで、リードフレーム106とヒートシンク120の間で電気的に絶縁すると共に、パワー半導体チップ102で生じる熱をヒートシンク120に効率良く放熱することが可能である。尚、前記リードフレーム106には、放熱性を向上するため、厚手の金属板を用いることも可能である。前記ヒートシンク120は、熱伝導性を有する銅やアルミニウムを用いて構成することができ、さらに冷却用フィンや水路を形成することで、空気中や水などの流体に効率よく熱伝達することができる。またパワー半導体チップとしては、IGBT、MOS−FET、ダイオード、集積回路等を挙げることができる。
なお、以降の
図2〜7において、
図1で説明した部材については同じ符号を付与してその説明を省略する。
【0120】
図2では、半硬化の樹脂シート112を用いる。詳細には、
図2は、パワー半導体チップ102が、はんだ層104を介して銅製リードフレーム106に配置され、封止樹脂108で封止し固定化したいわゆる個別半導体部品と、ヒートシンク120に本発明の半硬化の樹脂シート112を圧着・熱硬化し、熱伝導材122を介して配置したパワー半導体装置150の構成例を示す概略断面図である。本発明の樹脂シート112を介することで、
図1と同様に絶縁性と放熱性を両立することが可能である。
【0121】
図3は、パワー半導体チップ102が、はんだ層104を介して銅または銅合金製リードフレーム106に配置され、銅または銅合金製リードフレーム106が本発明の樹脂シート112を介してヒートシンク120に圧着され、封止樹脂108で封止して構成したパワー半導体装置160の構成例を示す概略断面図である。
図1と同様に絶縁性と放熱性を両立することが可能である。
【0122】
図4は、パワー半導体チップ102の両面に、ヒートシンク120を配置して構成されたパワー半導体装置200の構成例を示す概略断面図である。それぞれのヒートシンク120とリードフレーム106の間に、本発明の金属箔付き樹脂シート110を配置する。なお、スペーサー107は、パワー半導体チップ102とリードフレーム106の間に、はんだ層104を介して配される。かかる構成により、
図1〜
図3の片面冷却構造と比べて、高い冷却効果を得ることが可能である。
【0123】
図5は、パワー半導体チップ102の両面に、冷却部材を配置して構成されたパワー半導体装置210の構成例を示す概略断面図である。本発明の樹脂シート112がリードフレーム106とヒートシンク120を接着していることから、スペーサー107が不要になり、
図4の構成よりも高い冷却効果を得ることが可能である。
【0124】
図6は、本発明の樹脂硬化物シート112を回路形成済み銅箔116とアルミニウム板118で挟んだ構造体115を用いて構成されるLEDライトバー300の構成の一例を示す概略断面図である。
LEDライトバー300は、ハウジング132と、熱伝導材122と、本発明の構造体115と、LED個別部品130とがこの順に配置されて構成される。発熱体であるLED個別部品130が、回路形成済み銅箔116および本発明の樹脂硬化物シート112を介してアルミニウ電気的絶縁性を有しながら効率よく放熱することができる。ハウジング132は金属製にすることで、ヒートシンクとして機能できる。
【0125】
図7は、本発明の樹脂硬化物シート112を回路形成済み銅箔116とアルミニウム板118で挟んだ構造体115を用いて構成されるLED電球400の構成の一例を示す概略断面図である。LED電球400は、LED駆動回路142を有し、電球筐体140を介して、一方に口金146、他方に熱伝導材122と、本発明の構造体115と、LED個別部品130とがこの順に配置され、LED個別部品130をレンズ146で覆っている。発熱体であるLED個別部品130が本発明の構造体115を介して電球筐体140上に配置されることで、効率よく放熱することができる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0127】
実施例中に記載するエポキシ樹脂、ノボラック樹脂、無機充填材、添加剤、および溶剤の種類と略号または型番を以下に示す。
【0128】
(エポキシ樹脂モノマー)
TPM−Ep:トリフェニルメタン型エポキシ樹脂 (日本化薬製 EPPN−502H、多官能・分岐型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量168g/eq)
PhN−Ep:ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂 (三菱化学製 jER 152、多官能・直鎖型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量165g/eq)
BisAF−Ep:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂混合物 (新日鐵化学製 ZX−1059、二官能型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量165g/eq)
【0129】
(硬化剤)
ReN:レゾルシノールノボラック樹脂(合成品、二価フェノール型ノボラック樹脂(m=2)、水酸基当量:62g/eq、一般式(I)のR
1:H、R
2:H)
RCN:レゾルシノールカテコールノボラック樹脂(合成品、二価フェノール型ノボラック樹脂(m=2)、水酸基当量:62g/eq、一般式(I)のR
1:H、R
2:H)
XLC:フェノール・フェニレンアラルキル樹脂 (三井化学製 XLC−LL、多官能型固形アラルキル型樹脂、水酸基当量:175g/eq)
Res:レゾルシノール (和光純薬製 試薬、二価単核フェノール化合物、水酸基当量55g/eq)
【0130】
(無機充填材)
HP−40 (窒化ホウ素、水島合金鉄製;体積平均粒径40μm、六方晶、凝集、アスペクト比1.5)
PT−110 (窒化ホウ素、モメンティブ・ジャパン製;体積平均粒径43μm、六方晶、鱗片状、アスペクト比10)
AA−18 (酸化アルミニウム、住友化学製;体積平均粒子径18μm)
AA−3 (酸化アルミニウム、住友化学製;体積平均粒子径3μm)
AA−04 (酸化アルミニウム、住友化学製;体積平均粒子径0.4μm)
Shapal H (窒化アルミニウム トクヤマ製;体積平均粒子径0.5μm)
【0131】
(硬化促進剤)
TPP:トリフェニルフォスフィン(和光純薬社製)
【0132】
(カップリング剤)
PAM:N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−573)
【0133】
(分散剤)
BYK−106 (ビックケミー・ジャパン社製)
REB122−4 (日立化成工業製、乳酸エチル45%溶液)
【0134】
(溶剤)
CHN:シクロヘキサノン
【0135】
(支持体)
PET:片面離型処理済みポリエチレンテレフタレートフィルム(藤森工業株式会社製、フィルムバイナ 75E−0010CTR−4)
GTS:電解銅箔(古河電工株式会社製、厚さ80μm、GTSグレード)
【0136】
〔ノボラック樹脂の合成〕
(ReNの合成)
攪拌機、冷却器および温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、レゾルシノール110g(1mol)、37%ホルマリン45g(約0.5mol、F/P=0.5)、触媒としてシュウ酸1.1g、溶剤として水50gを量り取った後、内容物を攪拌しながら油浴を120℃にして、還流しながら3時間反応を行った。その後、冷却器を取り外し蒸留器を取り付け、水を留去しながら150℃に昇温した。更に150℃で12時間攪拌し反応を続けた。反応終了後、170℃に加熱し、減圧下で未反応のレゾルシノールを昇華させ8時間かけて除去した。モノマー除去後、ステンレスバットに移し冷却してレゾルシノールノボラック樹脂(ReN)を得た。
【0137】
レゾルシノールノボラック樹脂(ReN)は、GPCによる分子量測定で、モノマー含有率は8質量%であり、モノマーを除外した反応生成物の数平均分子量は900であった。
1H NMRの測定により、繰り返し単位に水酸基が平均で2.0個含まれることが分かった。数平均分子量を式(I)の構造単位の分子量122で割ることで、平均繰り返し単位数nは7.4と算出された。また、水酸基当量は62g/eqであった。
【0138】
(RCNの合成)
攪拌機、冷却器および温度計を備えた3Lセパラブルフラスコに、レゾルシノール627g、カテコール33g、37%ホルマリン316.2g、シュウ酸15g、水300gを入れ、オイルバスで加温しながら100℃に昇温した。104℃前後で還流し、還流温度で4時間反応を行った。その後、水を留去しながらフラスコ内の温度を170℃に昇温した。170℃を保持しながら8時間反応を続けた。反応後、減圧下20分間濃縮を行い、系内の水等を除去してレゾルシノールノボラック樹脂(RCN)を得た。
【0139】
レゾルシノール・カテコールノボラック樹脂(RCN)は、GPCによる分子量測定で、モノマー含有率は8質量%であり、モノマーを除外した反応生成物の数平均分子量は600であった。
1H NMRの測定により、繰り返し単位に水酸基が平均で1.8個含まれることが分かった。水酸基当量は62g/eqであった。また、FD−MSにより構造を確認したところ、下記式(VIIIa)〜(VIIId)のいずれかで表されるキサンテン骨格誘導体が少なくとも1種類以上含まれていた。キサンテン骨格誘導体を無視して、数平均分子量を式(I)の構造単位の分子量119で割ることで、平均繰り返し単位数nは5.0と算出された。
【0140】
【化10】
【0141】
【化11】
【0142】
【化12】
【0143】
【化13】
【0144】
〔硬化剤の評価方法〕
上記で得られた硬化剤については、物性値の測定を次のようにして行った。
(分子量測定)
数平均分子量(Mn)の測定は、株式会社日立製作所製高速液体クロマトグラフィL6000及び島津製作所製データ解析装置C−R4Aを用いて行なった。分析用GPCカラムは、東ソー株式会社製G2000HXL及びG3000HXLを使用した。試料濃度は0.2質量%、移動相にはテトラヒドロフランを用い、流速1.0ml/minで測定を行った。ポリスチレン標準サンプルを用いて検量線を作成し、それを用いてポリスチレン換算値で数平均分子量を計算した。
【0145】
(水酸基当量)
水酸基当量は、塩化アセチル−水酸化カリウム滴定法により測定した。尚、滴定終点の判断は溶液の色が暗色のため、指示薬による呈色法ではなく、電位差滴定によって行った。具体的には、測定樹脂の水酸基をピリジン溶液中塩化アセチル化した後その過剰の試薬を水で分解し、生成した酢酸を水酸化カリウム/メタノール溶液で滴定した。
【0146】
〔無機充填材を含まないエポキシ樹脂硬化物の製造〕
<参考例1>
多官能エポキシ樹脂としてTPM−Epを100部、硬化剤としてReNを37部、硬化促進剤としてTPPを0.3部を、離型処理した直径5cmのステンレスシャーレに計量し、ホットプレート上で150℃にて加熱溶融しながら混合した後、150℃で1時間放置して硬化した。更に、160℃2時間と190℃2時間の二次硬化を行った後、ステンレスシャーレから樹脂硬化物を取り外し、エポキシ樹脂硬化物を得た。動的粘弾性測定の結果、300℃以上でゴム状平坦領域が存在し、貯蔵弾性率の最小値は340℃で230MPaであった。
【0147】
<参考例2>
実施例1のエポキシ樹脂としてTPM−Epの代わりにBisAF−Epを66部、硬化剤としてReNの代わりにXLCを71部用いたこと以外は同様にして樹脂硬化物を得た。
【0148】
〔参考例1及び2の架橋密度の算出〕
下記方法により、参考例1及び2の樹脂組成の硬化物について、架橋密度を算出した。参考例1と参考例2を比較すると、参考例1の樹脂組成の硬化物は、架橋密度が約12倍も高くなることが分かった。
【0149】
樹脂硬化物の架橋密度は、古典的ゴム弾性理論によると樹脂硬化物のゴム状平坦領域の貯蔵弾性率最小値(E’min)から(式2)より求めることが可能である。
【0150】
(式2)
【数1】
【0151】
n:架橋密度(mol/cm
3)、Mc:架橋点間平均分子量(g/mol)
E’min:引張貯蔵弾性率最小値(Pa)、ρ:密度(g/cm
3)
φ:フロント係数(φ≒1)、R:気体定数(J/K・mol)
T:E’minの絶対温度(K)
【0152】
〔構造体の製造〕
<実施例1>
250mLのポリ瓶に多官能エポキシ樹脂主剤としてTPM−Epを10.0g(100部)、硬化剤としてReNを3.7g(37部)、硬化促進剤としてTPPを0.11g(1.1部)、無機充填材としてHP−40を56g(560部)、AA−04を11.3g(113部)、カップリング剤としてPAMを0.07g(0.7部)、分散剤としてBYK−106を0.1g(1部)およびREB122−4を1.6g(16部)、溶剤としてCHNを50g(500部)、直径5mmのアルミナボール100g(1000部)を計量した後、ポリ瓶のフタを閉じボールミルで回転数100回転/分で30分間混合し樹脂組成物ワニスを得た。
【0153】
得られた樹脂組成物ワニスを、ギャップが400μmのアプリケーターを用いてPETフィルム(藤森工業株式会社製、75E−0010CTR−4)の離型面上に塗布し後、速やかに100℃のボックス型オーブンで10分乾燥させた。
【0154】
次いで乾燥シートを10cm角に2枚切出し、樹脂面を内側に向けて2枚重ね合わせ、真空熱プレス(熱板150℃、圧力10MPa、真空度≦1kPa、処理時間1分)により熱圧着し、樹脂組成物層の厚みが200μmである樹脂シートとして、Bステージシートを得た。
【0155】
得られたBステージシートの両面からPETフィルムを剥がし、両面を80μm厚のGTS銅箔の粗化面側で挟み、真空熱プレス(熱板温度150℃、真空度≦1kPa、圧力10MPa、処理時間10分)で圧着および硬化を行い、その後ボックス型オーブン中で、160℃で2時間、190℃で2時間の二次硬化を行い、両面に銅箔が設けられた構造体を得た。
【0156】
<比較例1>
実施例1のエポキシ樹脂をTPM−Epの代わりにBisAF−Epを6.6g(66部)、硬化剤としてReNの代わりにXLCを7.1g(71部)用いたこと以外は同様にして樹脂硬化物を得た。
【0157】
<比較例2>
実施例1の無機充填材をHP−40およびAA−04の代わりに、AA−18を84.9g(849部)、AA−3を30.9g(309部)およびAA−04を12.9g(129部)を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を得た。
【0158】
<比較例3>
比較例1の無機充填材をHP−40およびAA−04の代わりに、AA−18を84.9g(849部)、AA−3を30.9g(309部)およびAA−04を12.9g(129部)を用いたこと以外は比較例1と同様にして樹脂硬化物を得た。
【0159】
〔銅箔除去樹脂シート硬化物サンプルの作製〕
得られた両面銅箔付き樹脂シート硬化物を、過硫酸ナトリウムの20%水溶液のエッチング液に浸漬し、銅箔が完全に溶解するまで処理した。銅箔除去が完了した後、シート状硬化物を十分水洗し、120℃で4時間乾燥したサンプルを銅箔除去樹脂シート硬化物サンプルとした。
【0160】
(熱拡散率の評価)
銅箔除去樹脂シート硬化物サンプルから10mm角のサンプルを切り出し、NETZSCH社製Nanoflash LFA447型を用いて、フラッシュ法により25℃における銅箔除去済みの樹脂シート硬化物の厚さ方向の熱拡散率を測定した。
【0161】
(比熱の評価)
銅箔除去樹脂シート硬化物サンプルから約3mm角のサンプルを、重量が20〜40mgになるように数枚切り出した。示差走査熱量計(PERKINELMER社製Pyris−1)を用いて、サファイアを基準試料として、25℃における銅箔除去済みの樹脂シート硬化物の比熱を測定した。
【0162】
(密度の評価)
アルキメデス法密度測定装置(アルファミラージュ社製SD−200L)を用いて、25℃における銅箔除去済みの樹脂シート硬化物の密度を測定した。
【0163】
(熱伝導率の評価)
上記で求めた熱拡散率、比熱および密度を、(式3)に代入し、樹脂硬化物シートの厚さ方向の熱伝導率を求めた。
【0164】
λ=α・Cp・ρ (式3)
【0165】
λ:熱伝導率(W/m・K)、α:熱拡散率(mm
2/s)
Cp:比熱(J/kg・K)、ρ:密度(g/cm
3)
【0166】
〔貯蔵弾性率およびガラス転移温度の測定〕
銅箔除去樹脂シート硬化物から長さ33mm×幅5mmの試料を切り出し、Rheometric Scientific社製SOLIDS ANALYZER IIを用いて、引っ張りモードで30〜350℃の貯蔵弾性率の温度依存性を測定した。
tanδのピーク温度を動的粘弾性測定におけるガラス転移温度(Tg)として読み取った。試験条件は昇温速度5℃/分、周波数10Hz、スパン間距離21mm、引張り歪量0.1%、空気雰囲気中とした。
【表1】
【0167】
(結果)
実施例1と比較例1の結果から、窒化ホウ素を無機充填材の主成分とすると、マトリックス樹脂の架橋密度が約13倍になると熱伝導率が3割高くなることが明らかになった。
一方、比較例2と比較例3の結果から、酸化アルミニウムを無機充填材の主成分とすると、マトリックス樹脂の架橋密度が約12倍になっても、1割の向上にとどまっていた。比較例2のガラス転移温度が実施例1と比べて45℃低下していることから、酸化アルミニウムの吸着水が硬化反応を阻害し架橋密度が下がったことが原因と考えられる。
【0168】
〔構造体の製造〕
<実施例2〜12、比較例4〜5>
実施例1の手順に従い、表2に示す材料を配合し、樹脂硬化物を得た。なお、表2に記載のない材料である、硬化促進剤、カップリング剤、分散剤は実施例1と同量を配合した。
【0169】
〔評価方法〕
上記で得られた樹脂組成物について、上記と同様にして、樹脂硬化物の熱伝導率およびガラス転移温度を測定した。また、以下のようにして、樹脂組成物の柔軟性、および樹脂組成物によって形成される樹脂硬化物の絶縁破壊電圧を評価した。結果を表2に示した。
【0170】
(柔軟性評価)
作製したB−ステージシートを長さ100mm、幅10mmに切出し、表面のPETフィルムを除去した。アルミ製で、直径が20〜140mm、20mm刻みの円板を多段に重ねた治具にサンプルをあてがい、25℃において破損せずに曲げられる最小径が、20mmの場合に◎で良好、40mmまたは60mmの場合に○、80mmまたは100mmの場合に△で実用の限界、120mm以上で×で不適と評価した。
【0171】
(絶縁破壊電圧測定)
金属製容器に銅箔除去樹脂シート硬化物サンプルを置き、シート状に電極(アルミ製平丸電極、直径25mm、接触面20mm)を設置した。次いでフロリナート絶縁油(3M社製 FC−40)を注ぎ、フロリナートに浸漬した状態で総研電製DAC−6032Cを用いて25℃における絶縁破壊電圧を測定した。測定条件は、周波数50Hz、昇圧速度500V/秒の一定速度昇圧とした。
【0172】
【表2】
【0173】
実施例1〜12は、比較例1〜5に比べて、硬化前に優れた柔軟性を有し、硬化後には高い熱伝導率を示している。
さらに詳細に確認すると、実施例1、実施例12および比較例4の比較では、TPM−Ep、PhN−Ep、BisAF−Epは水酸基当量がほぼ同等であり、配合量もほぼ同等であるが、熱伝導率が大きく異なっている。TPM−Epは繰り返し単位に反応性末端の分岐構造を有し架橋密度が高くなる樹脂骨格であるため、多官能型・直鎖構造のPhN−Epおよび二官能のBis−AFと比べて、熱伝導率が向上する効果が現れたといえる。
比較例1、4、5の結果は、実施例1と比較して熱伝導率が低下しており、エポキシ樹脂組成物の架橋密度が低いことが原因と考えられる。
【0174】
さらに、実施例1〜5の結果の比較から、二官能エポキシ樹脂または単核二価フェノール化合物を添加することで柔軟性が向上し、二官能エポキシ樹脂および単核二価フェノール化合物の両方を組み合わせると充分な柔軟性を得ることができた。一方、二官能エポキシ樹脂または単核二価フェノール化合物を添加することで、架橋密度が低下したと考えられ、熱伝導率は実施例1より低下した。なお、実施例6および7で使用のRCNはモノマーを含んでいるため、実施例4および5と同等の柔軟化効果が得られたと考えられる。
【0175】
実施例8〜10の結果は、実施例1、6、7と比較して、窒化ホウ素を減らし酸化アルミニウムの割合を無機充填材の34体積%まで増量することができると言える。
実施例11の結果は、実施例1と比較して、小粒径フィラーとして酸化アルミニウムよりも高い熱伝導率を有する窒化アルミ用いると、樹脂硬化物の熱伝導率が向上できると言える。