特許第6222223号(P6222223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6222223溶融ガラスの導管構造、該導管構造を用いた装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222223
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】溶融ガラスの導管構造、該導管構造を用いた装置および方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/43 20060101AFI20171023BHJP
   C03B 5/225 20060101ALI20171023BHJP
   F27D 3/14 20060101ALI20171023BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20171023BHJP
   F27D 1/06 20060101ALI20171023BHJP
   C04B 35/66 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
   C03B5/43
   C03B5/225
   F27D3/14 Z
   F27D1/00 N
   F27D1/06
   !C04B35/66
【請求項の数】18
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-513630(P2015-513630)
(86)(22)【出願日】2014年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2014058350
(87)【国際公開番号】WO2014174968
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2016年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-91280(P2013-91280)
(32)【優先日】2013年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】永井 研輔
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼本 浩明
(72)【発明者】
【氏名】椛島 修治
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/020754(WO,A1)
【文献】 特開2000−007346(JP,A)
【文献】 特開昭64−018937(JP,A)
【文献】 特開平02−180719(JP,A)
【文献】 “モルタル、タンプ材”,ガラス溶解炉用不定形耐火物,日本,AGCセラミックス株式会社,2014年 6月20日,URL:http://www.agcc.jp/2005/databank/01_02_04.html,URL,http://www.agcc.jp/2005/databank/01_02_04.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00 − 5/44
C03C 3/076 − 3/087
F27D 1/00 − 1/18
F27D 3/14
C04B 35/66
INTERGALD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導管と、該導管の周囲に設けられたバックアップと、で構成される溶融ガラスの導管構造であって、
前記導管は、その長手方向および周方向に電鋳レンガを配設してなる中空管であり、
前記バックアップは、前記導管の外側に設けられた耐火物層と、該耐火物層の外側に設けられた断熱材層と、で構成され、
前記耐火物層は、耐火レンガを前記導管の長手方向および周方向に沿って配設してなる耐火レンガ層と、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する不定形耐火物を施工し、該不定形耐火物を焼結させてなる不定形耐火物層と、を含み、
前記断熱材層は、固形断熱材を前記導管の長手方向および周方向に沿って配設してなる固形断熱材層を含み、
溶融ガラスが前記導管内を通過する時において、該ガラスの流動点と等しい温度になる部位が前記断熱材層内に位置するように、前記導管を構成する電鋳レンガ、前記不定形耐火物層を構成する不定形耐火物、および前記耐火レンガ層を構成する耐火レンガが選択されてなることを特徴とする溶融ガラスの導管構造。
【請求項2】
導管と、該導管の周囲に設けられたバックアップと、で構成される溶融ガラスの導管構造であって、
前記導管は、その長手方向および周方向に電鋳レンガを配設してなる中空管であり、
前記バックアップは、前記導管の外側に設けられた耐火物層と、該耐火物層の外側に設けられた断熱材層と、で構成され、
前記耐火物層は、少なくとも、前記導管の長手方向および周方向に沿って、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する不定形耐火物を施工し、該不定形耐火物を焼結させてなる不定形耐火物層を含み、
前記断熱材層は、固形断熱材を前記導管の長手方向および周方向に沿って配設してなる固形断熱材層を含み、
溶融ガラスが前記導管内を通過する時において、該ガラスの流動点と等しい温度になる部位が前記断熱材層内に位置するように、前記導管を構成する電鋳レンガ、および前記不定形耐火物層を構成する不定形耐火物が選択されてなることを特徴とする溶融ガラスの導管構造。
【請求項3】
前記耐火物層は、前記耐火レンガ層を2層以上有し、前記耐火レンガ層間に、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する不定形耐火物を施工し、該不定形耐火物を焼結させてなる第2の不定形耐火物層をさらに有する請求項1に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項4】
前記不定形耐火物は、Al23とSiO2の含有量の和(Al23+SiO2)が60%以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項5】
前記不定形耐火物層の圧縮強度が30〜200MPaである請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項6】
前記不定形耐火物が、キャスタブル耐火物、プラスチック耐火物およびラミング材からなる群から選択される1種以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項7】
前記耐火レンガは、緻密質アルミナ系レンガ、緻密質アルミナシリカ系レンガ、緻密質シリカ系レンガ、緻密質ジルコニア系レンガ、緻密質ジルコニアシリカ系レンガ、緻密質ジルコニアアルミナ系レンガ、緻密質アルミナジルコニアシリカ系レンガ、緻密質アルミナマグネシア系レンガ、および、緻密質ジルコニアマグネシア系レンガからなる群から選択される1種以上である請求項1、3〜6のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項8】
前記不定形耐火物層の径方向における厚みの合計が1〜500mmである請求項1〜7のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項9】
前記導管の径方向における電鋳レンガの厚みの合計が5〜1000mmである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項10】
前記耐火物層の径方向における厚みの合計が6〜1500mmである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項11】
前記耐火レンガ層の径方向における厚みの合計が5〜1000mmである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項12】
前記溶融ガラスの導管構造の径方向における厚みの合計が15〜3000mmである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項13】
上昇管、減圧脱泡槽および下降管を有する減圧脱泡装置の上昇管、減圧脱泡槽および下降管の少なくともいずれかとして用いられる請求項1〜12のいずれか一項に記載の溶融ガラスの導管構造。
【請求項14】
溶融ガラスの導管として請求項1〜13のいずれか一項に記載の導管構造を用いた減圧脱泡装置。
【請求項15】
上昇管、減圧脱泡槽および下降管を有する減圧脱泡装置を用いて溶融ガラスを減圧脱泡する方法であって、
前記上昇管、前記減圧脱泡槽および前記下降管のうち少なくとも一つに請求項1〜12のいずれか一項に記載の導管構造を用いた溶融ガラスの減圧脱泡方法。
【請求項16】
溶融ガラスの導管の少なくとも一部として請求項1〜12のいずれか一項に記載の導管構造を用いたガラス製造装置を用いるガラス製造方法であって、前記導管構造を通過する溶融ガラスの温度が1000〜1500℃である、ガラス製造方法。
【請求項17】
溶融ガラスの母組成が酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2が65〜75%、Al23が0〜5%、CaOが0〜15%、MgOが0〜15%、Na2Oが10〜20%およびK2Oが0〜3%である請求項16に記載のガラス製造方法。
【請求項18】
底部が電鋳レンガを配設してなるガラス溶解槽であって、前記底部をなす前記電鋳レンガの外側にはバックアップが設けられており、前記バックアップは、前記電鋳レンガの外側に設けられた耐火物層と、該耐火物層の外側に設けられた断熱材層と、で構成され、
前記耐火物層は、前記底部をなす前記電鋳レンガの外側に耐火レンガを配設してなる耐火レンガ層と、前記底部をなす前記電鋳レンガと前記耐火レンガ層との間に、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する不定形耐火物を施工し、該不定形耐火物を焼結させてなる不定形耐火物層と、を含み、
前記断熱材層は、固形断熱材を前記耐火レンガ層の外側に沿って配設してなる固形断熱材層を含み、
ガラス原料の溶解時において、該ガラスの流動点と等しい温度になる部位が前記断熱材層内に位置するように、前記電鋳レンガ、前記不定形耐火物層を構成する不定形耐火物、および前記耐火レンガ層を構成する耐火レンガが選択されてなることを特徴とするガラス溶解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスの導管構造に関する。本発明の溶融ガラスの導管構造は、ガラス製造装置の溶融ガラスの導管として使用することができ、例えば、減圧脱泡装置の上昇管、減圧脱泡槽または下降管として用いることができる。本発明の溶融ガラスの導管構造は、減圧脱泡装置の上昇管、減圧脱泡槽または下降管として好適である。
また、本発明は、溶融ガラスの導管、特に上昇管、減圧脱泡槽または下降管として、該導管構造を用いた減圧脱泡装置および該減圧脱泡装置を用いた溶融ガラスの減圧脱泡方法に関する。
また、本発明は、溶融ガラスの導管の少なくとも一部に、前記導管構造を用いるガラス製造方法に関する。
また、本発明は、ガラス原料の溶解および溶融ガラスの均質化および清澄をする、ガラス溶解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
減圧脱泡装置のようなガラス製造装置において、中空管からなる溶融ガラスの導管の構成材料として耐火レンガが使用される場合がある。耐火レンガとしては、耐熱性および溶融ガラスに対する耐食性に優れることから、電鋳レンガが通常使用されている。
しかしながら、電鋳レンガを用いて溶融ガラスの導管を作製する場合、継ぎ目の無い一体の中空管として作製することができない。このため、例えば、中心部に開口部を有するドーナツ形状に形成された電鋳レンガを複数準備し、これを積み重ねることによって中空管とする。ドーナツ形状をした電鋳レンガについても、継ぎ目の無いドーナツ形状の電鋳レンガを用いる場合もあるが、略扇形状または楔形状に形成された複数の電鋳レンガを準備し、これらを円周方向に沿って組み付けてドーナツ形状とするほうが一般的である。
【0003】
したがって、電鋳レンガを用いて溶融ガラスの導管を作製する場合、中空管の内面、すなわち、溶融ガラスと直接接触する流路にも電鋳レンガ間の目地部が不可避的に存在する。電鋳レンガは、気孔率の低い稠密な組織を有するため、焼成レンガに比べると目地部からの溶融ガラスのしみ出しは少ないと考えられる。だが、目地部からの溶融ガラスのしみ出しを完全に防止することは困難である。
溶融ガラスと直接接触する流路を構成する電鋳レンガ間の目地部を目地材で埋めることも考えられる。しかしながら、一般的に目地材は、電鋳レンガに比べてその稠密度が劣るため、溶融ガラスと直接接触する目地材は電鋳レンガに比べて浸食されやすい。このため、電鋳レンガ自体の浸食は少なくても、電鋳レンガ間の目地部の浸食は選択的に進むという問題がある。その結果、目地部が埋められていない場合よりも、目地部からの溶融ガラスのしみ出しを遅らせることはできるが、目地材が浸食されてしまうと、目地部から溶融ガラスがしみ出してくることとなる。
【0004】
溶融ガラスの導管の周囲には、バックアップ(支持構造)が設けられている。バックアップは、導管を中心方向に押圧することにより、ドーナツ形状に組み付けた電鋳レンガ間の目地部を密着させる。また、バックアップは、導管の断熱保温や補強等の機能を有している。
バックアップには、通常耐火レンガや固形断熱材が使用される。耐火レンガとしては、コスト面から通常焼成レンガ等が用いられる。焼成レンガには、様々な種類のものが存在しており、バックアップに要求される機能に応じて、所望の特性を有する焼成レンガが使用される。中でも溶融ガラスに対する耐食性に優れたものが好ましく使用される。また、バックアップに要求される機能のうち、断熱保温機能を発揮させるためには、固形断熱材が好ましく用いられる。
【0005】
固形断熱材は、断熱保温能力という点では申し分ないが、電鋳レンガや、焼成レンガの中でも溶融ガラスに対する耐食性に優れたものに比べて溶融ガラスに対する耐食性が劣っている。このため、導管を構成する電鋳レンガ間の目地部からしみ出した溶融ガラスがバックアップを構成する固形断熱材に到達した場合、固形断熱材を構成する断熱レンガが溶融ガラスによって著しく浸食されるおそれがある。バックアップを構成する固形断熱材が浸食されると、減圧脱泡装置自体の寿命が短くなるおそれがある。
【0006】
溶融ガラスと直接接触する耐火レンガの目地部の浸食を防止し、目地部からの溶融ガラスのしみ出しを防止するために、流路の断面を多角形形状に形成し、溶融ガラスの流速の遅い隅部に目地部を形成し、該目地部の外側部に冷却管を配置した溶融ガラスの導管構造が特許文献1に開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発明の場合、耐火レンガの目地部の外側部に冷却管等の冷却手段を設けることが必要であるため、導管構造が複雑になる。また、冷却管から水漏れが発生した場合、ヒートショックにより耐火レンガが割れるおそれがある。また、漏洩した冷却水によって周囲が汚染されるおそれがある。特許文献1では、耐火レンガの厚みを厚くすることなしに目地部の長さを長くするために、目地部を形成するユニットレンガの両端に、外方向に突出する耳部を設けることにより、目地部が流路の中心から放射状に伸びるように形成することを開示している。しかしながら、耐火レンガに耳部を設けた場合、レンガの内側部分と外側部分との温度差が大きくなり、レンガが割れるおそれがある。
【0008】
本願発明者らは、上述した特許文献1に記載の発明における問題点を解決するため、冷却手段を用いなくとも、レンガが割れることなく、導管を構成する電鋳レンガ間の目地部からしみ出した溶融ガラスによって、該導管のバックアップを構成する固形断熱材が浸食されることを防止する溶融ガラスの導管構造を、特許文献2に開示している。
特許文献2に記載の溶融ガラスの導管構造は、電鋳レンガを長手方向および周方向に配設してなる導管と、該導管の周囲に設けられたバックアップと、で構成される溶融ガラスの導管構造であって、該バックアップは、前記導管の外側に設けられた耐火物層と、該耐火物層の外側に設けられた断熱材層と、で構成され、溶融ガラスが前記導管内を通過する時において、該ガラスの流動点と等しい温度になる部位が該耐火物層内に位置するように、該導管を構成する電鋳レンガおよび該耐火レンガ層を構成する耐火レンガが選択されてなることを特徴とする。
【0009】
特許文献2に記載の導管構造では、導管を構成する電鋳レンガ間の目地部から溶融ガラスがしみ出した場合であっても、しみ出した溶融ガラスが耐火レンガ層を通過している間に、溶融ガラスの温度がそのガラスの流動点以下となる。そのため、電鋳レンガ間の目地部からしみ出した溶融ガラスが、耐火レンガ層よりも外側に位置する断熱材層に到達するおそれがない。したがって、電鋳レンガ間の目地部からしみ出した溶融ガラスによって、バックアップを構成する固形断熱材が浸食されるおそれがない。
また、特許文献2に記載の導管構造は、溶融ガラスのしみ出しを防止するために、冷却管等の冷却手段が不要である。このため、導管構造が複雑にならない。また、冷却管からの水漏れによって、耐火レンガが割れたり、漏洩した冷却水によって周囲が汚染されたりするおそれがない。
【0010】
一方、ガラス原料を溶解および溶融ガラスの均質化および清澄をするガラス溶解槽においても、溶融ガラスに直接接触する部位の耐火レンガには、電鋳レンガが通常使用される。
ガラス溶解槽を断熱構造とすることが求められる場合がある。例えば、特許文献3に記載のガラス溶解槽のように、溶融ガラスの流路なす溶解槽の底面から突出する敷居体が設けられている場合、溶融ガラスによる該敷居体の侵食を抑制するために、ガラス溶解槽を断熱構造にすることが求められる。
ガラス溶解槽を断熱構造にする場合、上述した溶融ガラスの導管構造と同様、電鋳レンガの外側に、耐火レンガとして焼成レンガが配設され、該焼成レンガの外側に固形断熱材が配設される。
このような構成のガラス溶解槽は、上述した溶融ガラスの導管構造と同様の問題を抱える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−128422号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/020754号
【特許文献3】国際公開WO2009/125750号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2に記載の導管構造において、導管を構成する電鋳レンガおよび該耐火レンガ層を構成する耐火レンガの選択とは、具体的には、以下のいずれかの選択を指す。
・電鋳レンガおよび耐火レンガの種類
・導管の径方向における電鋳レンガおよび耐火レンガの厚み
・導管の径方向に沿って配置する電鋳レンガおよび耐火レンガの層数
ここで、電鋳レンガおよび耐火レンガの種類の選択のみで、ガラスの流動点と等しい温度になる部位が耐火物層内に位置するようにすることは困難であり、後者の少なくとも一方の選択も必要となる。このため、導管構造を構成する電鋳レンガ層および耐火レンガ層の厚さが大きくなる。
【0013】
しかしながら、導管を構成する電鋳レンガおよび耐火レンガ層を構成する耐火レンガは、高価であるため、その使用量を削減すること、具体的には、導管構造を構成する電鋳レンガ層および耐火レンガ層の厚さを小さくすることが、導管構造の製造コスト削減の観点から望ましい。また、導管構造を構成する電鋳レンガ層および耐火レンガ層の厚さを小さくすることは、導管構造の重量削減、耐震強度の増大および小型化の効果も見込まれる。
【0014】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決するため、冷却手段を用いなくとも、レンガが割れることなく、導管を構成する電鋳レンガ間の目地部からしみ出した溶融ガラスによって、該導管のバックアップを構成する固形断熱材が浸食されることを防止し、かつ、製造コストが削減された溶融ガラスの導管構造を提供することを目的とする。
本発明の溶融ガラスの導管構造は、減圧脱泡装置の上昇管、減圧脱泡槽または下降管として用いることが好ましい。
また、本発明は、溶融ガラスの導管、特に上昇管、減圧脱泡槽または下降管として、本発明の溶融ガラスの導管構造を用いた減圧脱泡装置、および該減圧脱泡装置を用いた溶融ガラスの減圧脱泡方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、冷却手段を用いなくとも、レンガが割れることなく、導管を構成する電鋳レンガ間の目地部からしみ出した溶融ガラスによって、該導管のバックアップを構成する固形断熱材が浸食されることを防止し、かつ、製造コストが削減されたガラス溶解槽の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明は、導管と、該導管の周囲に設けられたバックアップと、で構成される溶融ガラスの導管構造であって、
前記導管は、その長手方向および周方向に電鋳レンガを配設してなる中空管であり、
前記バックアップは、前記導管の外側に設けられた耐火物層と、該耐火物層の外側に設けられた断熱材層と、で構成され、
前記耐火物層は、耐火レンガを前記導管の長手方向および周方向に沿って配設してなる耐火レンガ層と、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する不定形耐火物を施工し、該不定形耐火物を焼結させてなる不定形耐火物層と、を含み、
前記断熱材層は、固形断熱材を前記導管の長手方向および周方向に沿って配設してなる固形断熱材層を含み、
溶融ガラスが前記導管内を通過する時において、該ガラスの流動点と等しい温度になる部位が前記断熱材層内に位置するように、前記導管を構成する電鋳レンガ、前記不定形耐火物層を構成する不定形耐火物、および前記耐火レンガ層を構成する耐火レンガが選択されてなることを特徴とする溶融ガラスの導管構造(以下、「本発明の導管構造」という。)を提供する。
【0016】
本発明は、導管と、該導管の周囲に設けられたバックアップと、で構成される溶融ガラスの導管構造であって、
前記導管は、その長手方向および周方向に電鋳レンガを配設してなる中空管であり、
前記バックアップは、前記導管の外側に設けられた耐火物層と、該耐火物層の外側に設けられた断熱材層と、で構成され、
前記耐火物層は、少なくとも、前記導管の長手方向および周方向に沿って、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する不定形耐火物を施工し、該不定形耐火物を焼結させてなる不定形耐火物層を含み、
前記断熱材層は、固形断熱材を前記導管の長手方向および周方向に沿って配設してなる固形断熱材層を含み、
溶融ガラスが前記導管内を通過する時において、該ガラスの流動点と等しい温度になる部位が前記断熱材層内に位置するように、前記導管を構成する電鋳レンガ、および前記不定形耐火物層を構成する不定形耐火物が選択されてなることを特徴とする溶融ガラスの導管構造を提供する。
本発明の導管構造において、前記耐火物層は、前記耐火レンガ層を2層以上有し、前記耐火レンガ層間に、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する不定形耐火物を施工し、該不定形耐火物を焼結させてなる第2の不定形耐火物層をさらに有してもよい。
【0017】
本発明の導管構造において、前記不定形耐火物は、Al23とSiO2の含有量の和(Al23+SiO2)が60%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の導管構造において、前記不定形耐火物層の圧縮強度が30〜200MPaであることが好ましい。
【0019】
本発明の導管構造において、前記不定形耐火物が、キャスタブル耐火物、プラスチック耐火物およびラミング材からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の導管構造において、前記耐火レンガは、緻密質アルミナ系レンガ、緻密質アルミナシリカ系レンガ、緻密質シリカ系レンガ、緻密質ジルコニア系レンガ、緻密質ジルコニアシリカ系レンガ、緻密質ジルコニアアルミナ系レンガ、緻密質アルミナジルコニアシリカ系レンガ、緻密質アルミナマグネシア系レンガ、および、緻密質ジルコニアマグネシア系レンガからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0021】
本発明の導管構造において、前記不定形耐火物層の径方向における厚みの合計が1〜500mmであることが好ましい。
【0022】
本発明の導管構造において、前記導管の径方向における電鋳レンガの厚みの合計が5〜1000mmであることが好ましい。
【0023】
本発明の導管構造において、前記耐火物層の径方向における厚みの合計が6〜1500mmであることが好ましい。
【0024】
本発明の導管構造において、前記耐火レンガ層の径方向における厚みの合計が5〜1000mmであることが好ましい。
【0025】
本発明の導管構造は、前記溶融ガラスの導管構造の径方向における厚みの合計が15〜3000mmであることが好ましい。
【0026】
本発明の導管構造は、上昇管、減圧脱泡槽および下降管を有する減圧脱泡装置の上昇管、減圧脱泡槽および下降管の少なくともいずれかとして用いることが好ましい。
また、本発明は、溶融ガラスの導管として、本発明の導管構造を用いた減圧脱泡装置を提供する。
また、本発明は、上昇管、減圧脱泡槽および下降管を有する減圧脱泡装置を用いて溶融ガラスを減圧脱泡する方法であって、前記上昇管、前記減圧脱泡槽および前記下降管のうち少なくとも一つに本発明の導管構造を用いた溶融ガラスの減圧脱泡方法を提供する。
【0027】
また、本発明は、溶融ガラスの導管の少なくとも一部として、本発明の導管構造を用いたガラス製造装置を用いるガラス製造方法であって、本発明の導管構造を通過する溶融ガラスの温度が1000〜1500℃である、ガラス製造方法を提供する。
【0028】
本発明のガラス製造方法において、溶融ガラスの母組成が酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2が65〜75%、Al23が0〜5%、CaOが0〜15%、MgOが0〜15%、Na2Oが10〜20%およびK2Oが0〜3%であることが好ましい。
【0029】
また、本発明は、底部が電鋳レンガを配設してなるガラス溶解槽であって、前記底部をなす前記電鋳レンガの外側にはバックアップが設けられており、前記バックアップは、前記電鋳レンガの外側に設けられた耐火物層と、該耐火物層の外側に設けられた断熱材層と、で構成され、
前記耐火物層は、前記底部をなす前記電鋳レンガの外側に耐火レンガを配設してなる耐火レンガ層と、前記底部をなす前記電鋳レンガと前記耐火レンガ層との間に、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する不定形耐火物を施工し、該不定形耐火物を焼結させてなる不定形耐火物層と、を含み、
前記断熱材層は、固形断熱材を前記耐火レンガ層の外側に沿って配設してなる固形断熱材層を含み、
ガラス原料の溶解時において、該ガラスの流動点と等しい温度になる部位が前記断熱材層内に位置するように、前記電鋳レンガ、前記不定形耐火物層を構成する不定形耐火物、および前記耐火レンガ層を構成する耐火レンガが選択されてなることを特徴とするガラス溶解槽を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の導管構造は、溶融ガラスのしみ出しを防止するために、冷却管等の冷却手段が不要である。このため、導管構造が複雑にならない。また、冷却管からの水漏れによって、耐火レンガが割れたり、漏洩した冷却水によって周囲が汚染されたりするおそれがない。
【0031】
また、溶融ガラスが前記導管内を通過する時において、該ガラスの流動点と等しい温度になる部位が断熱材層内に位置するため、該ガラスの流動点と等しい温度になる部位が耐火物層内に位置する特許文献2に記載の導管構造に比べて、導管を構成する電鋳レンガ、および、耐火レンガ層を構成する耐火レンガの使用量を削減することができる。これにより、導管構造の製造コストが削減される。
【0032】
本発明の導管構造では、電鋳レンガ間の目地部からしみ出した溶融ガラスは、不定形耐火物層に到達すると、異質化されて、その粘度が大幅に上昇する。このため、不定形耐火物層の外側に位置する耐火レンガ層へと溶融ガラスがしみ出すのが抑制される。この結果、耐火レンガ層の外側に位置する断熱材へと溶融ガラスがしみ出すのが阻止される。本発明の導管構造では、電鋳レンガと断熱材層との間に不定形耐火物を施工し、該不定形耐火物を焼結させてなる不定形耐火物層には目地部が存在しないため、導管を構成する電鋳レンガ間の目地部からしみ出した溶融ガラスが、断熱材層へとしみ出すのを阻止する効果が高い。
なお、不定形耐火物層から外側へと溶融ガラスがしみ出すのが阻止できる場合は、耐火レンガ層の外側に不定形耐火物層を設けてもよく、また、不定形耐火物層のみで耐火物層を構成してもよい。
【0033】
本発明の減圧脱泡装置では、導管を構成する電鋳レンガ間の目地部からしみ出した溶融ガラスによって、バックアップを構成する固形断熱材が浸食されることが防止されている。このため、装置の寿命を大幅に延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本発明の溶融ガラスの導管構造を備えた減圧脱泡装置の断面図である。
図2図2は、図1の上昇管13とバックアップ15とを含んだ部位を示した部分拡大図である。
図3図3は、図2を線a−aで切断した断面図である。
図4図4は、図3と同様の図である。但し、導管構造の断面形状が図3とは異なっている。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明を説明する。図1に示す減圧脱泡装置1は、溶解槽30中の溶融ガラスGを減圧脱泡して、次の処理槽40に連続的に供給するプロセスに用いられるものである。
減圧脱泡装置1は、使用時その内部が減圧状態に保持される減圧ハウジング11を有する。減圧ハウジング11内には、減圧脱泡槽12がその長軸が水平方向に配向するように収納配置されている。減圧脱泡槽12の一端の下面には垂直方向に配向する上昇管13が、他端の下面には下降管14が取り付けられている。
減圧脱泡装置1において、減圧脱泡槽12、上昇管13および下降管14は、例えば、外形が矩形の断面を有する電鋳レンガ製の中空管である。上昇管13および下降管14の下端には、それぞれ白金または白金合金製の延長管20、21が設けられている。減圧ハウジング11内において、上昇管13および下降管14の周囲にはバックアップ15が配設されている。
減圧脱泡槽12の周囲には断熱材22が配設されている。
【0036】
図1に示す減圧脱泡装置1において、上昇管13とバックアップ15とを含んだ構造、および下降管14とバックアップ15とを含んだ構造が本発明の導管構造として構成されている。
【0037】
図2および図3において、本発明の導管構造として、減圧脱泡装置1の上昇管13を例にとって説明するが、下降管14においても上昇管13と同様であり、また、減圧脱泡槽12においても基本的に同様である。
上昇管13は、外形が矩形断面を有する中空管であり、溶融ガラスの流路をなす中空部分の断面形状は円形である。上昇管13は、電鋳レンガ13aを積み重ねることによって形成されている。図3に示すように、断面矩形で半円形状の切り欠きを有する電鋳レンガ13aを2個組み合わせることによって、矩形断面を有し、中空部分の断面形状が円形の中空管構造が形成される。上昇管13は、このような中空管構造を積み重ねることによって形成されている。
【0038】
上昇管13の下端付近を構成する電鋳レンガ13a間には、延長管20の上端部に設けられた固定用のフランジ20aが挿入されている。なお、延長管20は、白金または白金合金製であり、断面円形の筒状体である。また、上昇管13の下端部(すなわち、減圧ハウジング11の下端開口部)は、延長管20の上端付近に設けられたシール用のフランジ20bによってシールされている。
【0039】
上昇管13を構成する電鋳レンガ13aの種類は特に限定されず、炉材や溶融ガラスの導管の構成材料として使用される電鋳レンガとして公知のもの、または市販されている電鋳レンガから適宜選択することができる。具体的には、α−アルミナ質電鋳レンガ、α,β−アルミナ質電鋳レンガ、β−アルミナ質電鋳レンガといったアルミナ質電鋳レンガ、ジルコニア質電鋳レンガ、およびアルミナ−ジルコニア−シリカ(AZS)質電鋳レンガからなる群から選択される少なくとも1種の電鋳レンガが好ましくものとして挙げられる。
【0040】
図2および図3に示すように、バックアップ15は、上昇管13の外側に設けられた耐火物層16と、耐火物層16の外側に設けられた断熱材層19と、で構成される。図2および図3において、耐火物層16は、耐火レンガ17aを上昇管13の長手方向および周方向に沿って配設してなる耐火レンガ層17と、上昇管13と耐火レンガ層17との間に設けられた不定形耐火物層18と、で構成される。
一方、断熱材層19は、固形断熱材19aを上昇管13の長手方向および周方向に沿って配設してなる固形断熱材層である。
【0041】
耐火レンガ層17は、上昇管13と断熱材層19との間に設けられる耐火物層16の構成要素であるため、耐火レンガ層17に用いる耐火レンガ17aは、耐熱性および溶融ガラスに対する耐食性に優れていることが必要となる。このため、耐火レンガ17aには、焼成レンガの中でも溶融ガラスに対する耐食性に優れるもの(以下、「緻密質焼成レンガ」という。)が用いられる。本明細書において、緻密質焼成レンガとは、以下の特性のいずれかを有する焼成レンガを意味する。
・かさ比重(JIS R2205(1993年)):1.0超
・熱伝導率(1000℃):0.3超(W/mK)
・見かけ気孔率(JIS R2205(1993年)):60%未満
耐火レンガ17aとして使用する緻密質焼成レンガは、上記の3特性を全て有することが好ましい。
【0042】
緻密質焼成レンガの具体例としては、市販されている、例えば、緻密質アルミナ系焼成レンガ、緻密質アルミナシリカ系焼成レンガ、緻密質シリカ系焼成レンガ、緻密質ジルコニア系焼成レンガ、緻密質ジルコニアシリカ系焼成レンガ、緻密質ジルコニアアルミナ系焼成レンガ、緻密質アルミナジルコニアシリカ系焼成レンガ、緻密質アルミナマグネシア系焼成レンガ、および緻密質ジルコニアマグネシア系焼成レンガからなる群から選択される1種の緻密質焼成レンガが好ましいものとして挙げられる。
【0043】
不定形耐火物層18は、上昇管13を構成する電鋳レンガ13aと、耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17aと、の間に不定形耐火物を施工し、不定形耐火物を焼結させることにより形成される。具体的には、上昇管13を構成する電鋳レンガ13aと、耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17aとの間に不定形耐火物を充填する方法が最適であるが、上昇管13を構成する電鋳レンガ13aの表面に、吹付け法やこて塗り法を利用して不定形耐火物を塗工し、不定形耐火物を焼結して不定形耐火物層を形成することもできる。
したがって、不定形耐火物層18は、電鋳レンガ13aを配設してなる上昇管13、および、耐火レンガ17aを配設してなる耐火レンガ層17とは違い、目地部を持たない焼結体となる。このため、電鋳レンガ13a間の目地部からしみ出した溶融ガラスが、さらに外側にしみ出すのを防止するのに好適である。
【0044】
本発明における不定形耐火物層18は、電鋳レンガ13a間の目地部からしみ出した溶融ガラスが不定形耐火物層18に到達した際に、溶融ガラスを異質化させて、溶融ガラスを高粘度化させる。
このため、導管を構成する電鋳レンガ13a間の目地部から溶融ガラスがしみ出した場合であっても、しみ出した溶融ガラスが不定形耐火物層18よりも外側に位置する耐火レンガ層17へとしみ出すのが抑制される。そして、耐火レンガ層17を通過している間に、溶融ガラスがさらに高粘度化して、溶融ガラスのしみ出しが生じたとしても、しみ出しは耐火レンガ層17内で停止する。このため、耐火レンガ層17よりも外側に位置する断熱材層19に到達するおそれがない。
なお、不定形耐火物層で溶融ガラスが十分高粘度化され、不定形耐火物層の外側に位置する断熱材層に溶融ガラスがしみ出すのを阻止できる場合は、耐火レンガ層と不定形耐火層の順序を入れ替えてもよく、また、不定形耐火物層のみで耐火物層を構成してもよい。
【0045】
なお、本明細書における溶融ガラスの異質化とは、ガラスの組成や構造が変化して、溶融ガラスの粘度を上昇させる現象を指す。
なお、本明細書における溶融ガラスの異質化については、ガラスの高温粘度の指標として用いられる温度、Tlogη=2(粘度が102ポイズとなる温度、単位:℃)、および、Tlogη=4(粘度が104ポイズとなる温度、単位:℃)を目安にすることができる。溶融ガラスの異質化の前後で、温度T2、および、温度T4が150℃以上上昇することが好ましく、200℃以上上昇することがより好ましく、250℃以上上昇することがさらに好ましい。
溶融ガラスの異質化により、不定形耐火物層18のうち、溶融ガラスと接触した部位には異質化層が形成される。本発明の導管構造の使用過程で、不定形耐火物層18に亀裂が発生した場合でも、異質化層の形成によって亀裂が塞がれる。これにより、電鋳レンガ13a間の目地部からしみ出した溶融ガラスが、さらに外側にしみ出すのが防止される。
【0046】
したがって、不定形耐火物層18に用いる不定形耐火物は、溶融ガラスを異質化させて、粘度を上昇させることが可能な組成であることが求められる。
このため、本発明の導管構造において、不定形耐火物は、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する。ここにおいて表示された不定形の耐火物の組成は、不定形耐火物を施工し、焼成して得られた不定形耐火物層の組成を示すものであり、以下同様である。
これらの成分は、ガラスのネットワークフォーマーであるため、溶融ガラスと接触した際に該溶融ガラスを異質化させて、粘度を上昇させることができる。溶融ガラスがソーダライム系のガラスである場合には、Al23の効果がとくに高い。
但し、Al23の含有量が30%より低いと、溶融ガラスと接触した際に該溶融ガラスを異質化させて、粘度を上昇させる作用が不十分となる。Al23の含有量は50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。Al23の含有量が上記の範囲であると、異質化した溶融ガラスの粘度が高くなりやすい。
不定形耐火物層18に用いる不定形耐火物は、Al23とSiO2の含有量の和(Al23+SiO2)が60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0047】
不定形耐火物層18に用いる不定形耐火物は、上記の組成を満たす限り、その形態は限定されず、キャスタブル耐火物、プラスチック耐火物およびラミング材からなる群から選択される1種以上を用いることができる。したがって、これらの不定形耐火物のうち、2種以上を併用してもよい。
これら不定形耐火物のラミング材の具体例としては、市販されているアルミナを主成分とするタンプ材、キャスタブル耐火物の具体例としては、セミジルコン質不定形耐火物、高アルミナ質キャスティング材や高アルミナ質シール材などが挙げられる。
【0048】
不定形耐火物層18は、圧縮強度が30〜200MPaであることが好ましい。なお、この場合の圧縮強度は、不定形耐火物の焼結後の数値である。
【0049】
断熱材層19(すなわち、固形断熱材層)は、バックアップ15の機能のうち、主として上昇管13を断熱保温する機能を担う。このため、断熱材層19(固形断熱材層)は、断熱保温能力に優れた固形断熱材19aで構成される。本明細書において、固形断熱材とは、以下の特性のいずれかを有する固形断熱材を意味する。
・かさ比重(JIS R2205(1993年)):1.0以下
・熱伝導率(1000℃):0.3以下(W/mK)
・見かけ気孔率(JIS R2205(1993年)):60%以上
上記の特性を満たす固形断熱材の具体例としては、市販されているレンガや、マイクロサーム成形体(マイクロサーム社製、商品名)や、イソウールボード(イソライト工業社製、商品名)等の断熱ボードが挙げられる。
断熱材層19に使用する固形断熱材19aは上記の3特性を全て有することが好ましい。
【0050】
図2および図3において、上昇管13を径方向に見た場合、上昇管13を構成する電鋳レンガ13aは1層配設されており、耐火レンガ層17として1層の耐火レンガ17a(耐火レンガ層)が配設されており、断熱材層19として1層の固形断熱材19a(固形断熱材層)が配設されており、上昇管13を構成する電鋳レンガ13aと耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17aとの間に不定形耐火物層18が設けられている。なお、不定形耐火層は、耐火物層にあればよく、電鋳レンガ、耐火レンガ、不定形耐火物、固形断熱材の順番となる構成でもよい。また、これらは上昇管13を構成する電鋳レンガ13a、不定形耐火物層18、耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17a、断熱材層19を構成する固形断熱材19a(固形断熱材層)の位置関係を示しているのであって、必ずしも、1層の電鋳レンガ13a、1層の耐火レンガ17a、および1層の固形断熱材19a(固形断熱材層)を配設することを意味しているのではない。例えば、不定形耐火層は、耐火物層の間にあればよく、電鋳レンガ、耐火レンガ、不定形耐火物、耐火レンガ、固形断熱材の順番、または電鋳レンガ、耐火レンガ、不定形耐火物、耐火レンガ、不定形耐火物、固形断熱材の順番となる構成でもよい。
電鋳レンガを用いて減圧脱泡装置の上昇管13を作製する場合、組成が同一または組成が異なる電鋳レンガ13aを複数用いてもよい。複数の電鋳レンガ13aを使用する場合、それらは上昇管13の径方向に沿って、2層以上の層をなすように配設される。
【0051】
耐火レンガ層17の場合、組成が同一または組成が異なる耐火レンガ17aを複数用いて、それらを上昇管13の径方向に沿って、2層以上の層をなすように配設することが好ましい。以下、本明細書において、上昇管13の径方向(すなわち、断面方向)に沿って2層以上の層をなすように耐火レンガ17aを配設することを、「耐火レンガ層17を2層以上設ける」と言う。
耐火レンガ層17を2層以上設ける場合、2層以上の耐火レンガ層間に、第2の不定形耐火物層をさらに設けてもよい。この場合、不定形耐火物層に用いる不定形耐火物や不定形耐火物層の物性については、上記した通りである。また、耐火レンガ層17を3層以上設ける場合、第2の不定形耐火物層を2層以上設けてもよい。
断熱材層19の場合、組成が同一または組成が異なる固形断熱材19aを複数用いて、それらを上昇管13の径方向に沿って、2層以上の層をなすように配設することが好ましい。以下、本明細書において、上昇管13の径方向に沿って2層以上の層をなすように固形断熱材19aを配設することを、「断熱材層19が2層以上の固形断熱材層を含む」という。
【0052】
本発明の溶融ガラスの導管構造では、溶融ガラスが前記導管内を通過する時において、そのガラスの流動点と等しい温度になる部位が断熱材層内に位置するように、導管を構成する電鋳レンガ、不定形耐火物層を構成する不定形耐火物、および耐火レンガ層を構成する耐火レンガを選択する。
ガラスの流動点とは、ガラスの粘度ηがlogη(ポアズ)=5となる温度であり、ガラスの変形の目安となる温度であって、リリー点(Lillie Point)ともいう。1ポアズ=0.1Pa・s=0.1kg/m・sである。ガラスの流動点は、ガラスの種類によって異なる。例えば無アルカリガラスの場合、900〜1200℃程度であり、ソーダライムガラスの場合、850〜1150℃程度である。
【0053】
特許文献2の導管構造では、電鋳レンガの目地部からしみ出してきた溶融ガラスの流れを耐火物層内で停止させるために、ガラスの流動点と等しい温度になる部位が耐火物層内に位置するように、導管を構成する電鋳レンガ、および耐火レンガ層を構成する耐火レンガを選択していたが、本発明では、上述したように、溶融ガラスが不定形耐火物層との接触で異質化されて高粘度化し、溶融ガラスの流れが耐火レンガ層内で停止するため、ガラスの流動点と等しい温度になる部位が断熱材層内に位置するように、導管を構成する電鋳レンガ、不定形耐火物層を構成する不定形耐火物、および耐火レンガ層を構成する耐火レンガを選択することができる。これにより、特許文献2に記載の導管構造に比べて、導管を構成する電鋳レンガ、および、耐火レンガ層を構成する耐火レンガの使用量を削減することができる。
【0054】
図2に当てはめると、上昇管13を溶融ガラスが通過する際に、該溶融ガラスの流動点と等しい温度となる部位が断熱材層19内に位置するように、上昇管13を構成する電鋳レンガ13a、不定形耐火物層18を構成する不定形耐火物、および耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17aを選択する。より具体的には、上昇管13を構成する電鋳レンガ13a、不定形耐火物層18を構成する不定形耐火物、および耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17aについて以下の点を選択する。
・電鋳レンガ13a、不定形耐火物、および耐火レンガ17aの種類
・上昇管13の径方向における電鋳レンガ13a、不定形耐火物層18、および耐火レンガ17aの厚み
・上昇管13の径方向に沿って配置する電鋳レンガ13a、および耐火レンガ17aの層数や、不定形耐火物層の層数
電鋳レンガ13a、不定形耐火物層18、および耐火レンガ17aについて、上記の点を選択する際の考え方について以下に述べる。
【0055】
(a)レンガの種類
電鋳レンガには、気孔率が異なることによって熱伝導率が異なるものが存在する。そして、気孔率が高いものほど熱伝導率が低く、断熱保温能力が高いものとなる。したがって、上昇管13を構成する電鋳レンガ13aとして、気孔率が高く熱伝導率が低いレンガを使用した場合、電鋳レンガ13a通過前(すなわち、しみ出し前)の溶融ガラスの温度が同一であったとしても、気孔率が低く熱伝導率が高いレンガを使用した場合に比べて、電鋳レンガ13a通過後(すなわち、しみ出し後)の温度はより低くなる。
図2に当てはめると、電鋳レンガ13aの内壁面側、すなわち、溶融ガラスと接触するガラス流路側の温度が、電鋳レンガ13a通過前の溶融ガラスの温度となる。一方、電鋳レンガ13aの外壁面側、すなわち、不定形耐火物層18と接する壁面側の温度が電鋳レンガ13a通過後の溶融ガラスの温度となる。これに基づいて上記を言い換えると、気孔率が高く熱伝導率が低い電鋳レンガを使用した場合、電鋳レンガ13aの内壁面側の温度が同一であったとしても、気孔率が低く熱伝導率が高いレンガを使用した場合に比べて、電鋳レンガ13aの外壁面側の温度をより低くすることができる。電鋳レンガ13aの外壁面側の温度が低くなれば、電鋳レンガ13aの外側に位置する不定形耐火物層18の温度は当然低くなる。
耐火レンガ17aとして用いる緻密質焼成レンガにも、気孔率が異なることによって熱伝導率が異なるものが存在する。したがって、緻密質焼成レンガの中でも、気孔率が高く熱伝導率が低いレンガを使用すれば、耐火レンガ17aの内壁面側の温度が同一であったとしても、気孔率が低く熱伝導率が高いレンガを使用した場合に比べて、耐火レンガ17aの外壁面側の温度はより低くなる。
【0056】
(b)不定形耐火物の種類
不定形耐火物は、大別すると粉末状、練り土状、ペースト状のものがあり、その形態によって施工法が異なる。粉末状の不定形耐火物としては、たとえばキャスタブル耐火物があり、施工時に水を加えて流し込み施工する。キャスタブル耐火物にはコテ塗りできるものや、振動施工できるものもある。練り土状の不定形耐火物としては、プラスチック耐火物やラミング材があり、ランマーなどで打ち込んで施工する。ラミング材はプラスチック耐火物より硬く可塑性がないものである。不定形耐火物の材質としては高アルミナ質、シリカ−アルミナ質、ジルコン質、シルコニア質、など種々のものがある。また、かさ比重の大きいものや小さいものがある。
【0057】
(c)上昇管の径方向におけるレンガ、および不定形耐火物層の厚み
電鋳レンガや緻密質焼成レンガといったレンガによる断熱保温効果は、レンガの厚みによって異なり、レンガの厚みが大きくなるほど断熱保温効果が大きくなる。したがって、電鋳レンガ13aとして、上昇管13の径方向における厚みが大きいレンガを使用すれば、電鋳レンガ13aの内壁面側の温度が同一であったとしても、上昇管13の径方向における厚みが小さいレンガを使用した場合に比べて、電鋳レンガ13aの外壁面側における温度はより低くなる。但し、電鋳レンガ13aとして、上昇管13の径方向における厚みが極端に大きなレンガを使用した場合、レンガの内側部分と外側部分との温度差が大きくなるので、レンガが割れるおそれがある。この点については、不定形耐火物層18、および、耐火レンガ17aの場合も同様である。
【0058】
(d)上昇管の径方向に沿って配置するレンガの層数、および不定形耐火物層数
上記したように、上昇管13の径方向における電鋳レンガ13aの厚みは、内側部分と外側部分との温度差によってレンガが割れるおそれがあるため、極端に大きくすることができない。但し、レンガの厚みを大きくすることによって得られる断熱保温効果の向上は、上昇管13の径方向に沿って配置する電鋳レンガ13aの層数を増やすことによっても得ることができる。したがって、上昇管13の径方向における厚みが大きい電鋳レンガ13aを使用する代わりに、上昇管13の径方向における厚みが小さい電鋳レンガ13aを複数使用し、これらを上昇管13の径方向に沿って層をなすように配設することによって、径方向における上昇管13の厚みを同程度にしても良い。この点については、不定形耐火物層18、および耐火レンガ17aの場合も同様である。
【0059】
上記(c)および(d)は、言い換えると、上昇管13を溶融ガラスが通過する際に、その溶融ガラスの流動点と等しい温度となる部位が断熱材層19内に位置するように、上昇管13の径方向におけるレンガの厚みの合計や、不定形耐火物層の厚みの合計を選択すればよいということもできる。
すなわち、上昇管13の径方向に沿って2層以上の層をなすように電鋳レンガ13aを配設する場合には、上昇管13の径方向における電鋳レンガの厚みの合計が所定の厚みとなるように選択すればよいことになる。不定形耐火物層についても同様のことが言え、この場合、第2の不定形耐火物層を有する場合、これら不定形耐火物層の合計厚みの所定の厚みに選択すればよいことになる。耐火レンガ17aについても同様のことが言え、この場合、2層以上の耐火レンガ17aを含む場合、これら耐火レンガの合計厚みを所定の厚みに選択すればよいことになる。
【0060】
上昇管13を構成する電鋳レンガ13aの場合、上昇管13(すなわち、導管)の径方向における電鋳レンガの厚みの合計は、5〜1000mmであることが好ましく、10〜500mmであることがより好ましい。
不定形耐火物層18の場合、上昇管13の径方向における厚みの合計は、1〜500mmであることが好ましく、2〜500mmであることがより好ましい。
一方、耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17aの場合、上昇管13の径方向における耐火レンガ17aの厚みの合計は、5〜1000mmであることが好ましく、10〜1000mmであることがより好ましい。
また、上昇管13の径方向における耐火物層16の厚みの合計は、6〜1500mmであることが好ましく、12〜1000mmであることがより好ましい。
【0061】
断熱材層19の場合、上昇管13の径方向における固形断熱材層の厚みの合計は4〜500mmであることが好ましく、10〜500mmであることがより好ましい。
上記した説明は、導管構造として、減圧脱泡装置の上昇管13を例にとって行なったが、下降管14も減圧脱泡槽においても同様な構成が採用される。
【0062】
以上、本発明の導管構造について図を用いて説明したが、本発明の導管構造は図示した形態に限定されない。例えば、電鋳レンガ製の導管は、少なくとも中空管構造であれば特に限定されず、矩形断面以外のものであってもよい。図4は、本発明の導管構造の別の構成例を示しており、電鋳レンガ13a’が円形断面を有している。図4において、外形が半円弧状で内側に半円形状の切り欠きを有する電鋳レンガ13a’を2個組み合わせることによって、円形断面を有し、中空部分の断面形状が円形の中空管構造が形成される。図4において、電鋳レンガ13a’の外側には耐火レンガ層17a’が設けられており、耐火レンガ層17a’の外側には断熱材層19a’が設けられている。電鋳レンガ13a’と耐火レンガ層17a’との間には不定形耐火物層18’が設けられている。不定形耐火物層18’、耐火レンガ層17a’、および断熱材層19a’は、それぞれ円形断面を有している。また、電鋳レンガ13a’およびそのバックアップ(不定形耐火物層18’、耐火レンガ層17a’、および断熱材層19a’)を収容する減圧ハウジング11も円形断面を有している。
【0063】
電鋳レンガ製の導管の断面形状は、矩形または円形以外の形状であってもよく、例えば、楕円形状の中空管であってもよく、断面形状が矩形以外の多角形形状、例えば、六角形、八角形等の中空管であってもよい。溶融ガラスの流路をなす中空部分の断面形状も、円形以外の形状であってもよく、例えば、楕円形状であってもよく、矩形、六角形、八角形等の多角形形状であってもよい。電鋳レンガ製の導管が、これら他の形状の中空管である場合、導管の断面形状およびその中空部分の断面形状に応じて、所望の形状の電鋳レンガを使用すればよい。
また、耐火物層における耐火レンガの配置、および断熱材層における固形耐火物の配置も、導管の断面形状に応じて適宜選択することができる。
【0064】
本発明の溶融ガラスの減圧脱泡方法では、上昇管、減圧脱泡層および下降管のうち少なくとも一つに、本発明の導管構造を用いた減圧脱泡装置を使用し、溶解槽から供給される溶融ガラスを所定の減圧度に減圧された減圧脱泡槽を通過させて減圧脱泡を行う。
減圧脱泡装置の上昇管および下降管は減圧下におかれているため、溶融ガラスの圧力が上昇管および下降管の管壁にかかり、常圧にある場合と比較してガラスの素地が外部にしみ出しやすくなっている。よって、本発明においては、上昇管および下降管の少なくとも一方、好ましくはその両方に本発明の導管構造を用いることで、上記ガラスのしみ出しをより効果的に抑えることができ好ましい。なお、本発明の導管構造は、上昇管または下降管において、ガラスのしみ出しが発生しやすい部位などの上昇管または下降管の少なくとも一部に用いられてもよい。
また、減圧脱泡槽も減圧下におかれているため、上昇管や下降管の場合と同様にガラスがしみ出しやすくなっている。加えて、減圧脱泡槽は、上昇管や下降管の場合と比較して多くのガラスを蓄えているため、耐火物層や断熱材層の厚さが厚い場合が多い。さらに減圧脱泡槽は、耐火物層や断熱材層に支えられているため、ガラスの素地がもれると減圧脱泡槽が構造的に不安定になる場合がある。本発明においては、減圧脱泡槽に本発明の導管構造を用いることで、上記問題点を解決できることができ、好ましい。
本発明の溶融ガラスの減圧脱泡方法において、溶融ガラスは、減圧脱泡槽に連続的に供給・排出されることが好ましい。
【0065】
溶解槽から供給される溶融ガラスと減圧脱泡槽の内部との温度差が生じることを防止するために、減圧脱泡槽は、内部が1100〜1500℃、特に1250〜1450℃の温度範囲になるように加熱されていることが好ましい。なお、溶融ガラスの流量が1〜1000トン/日であることが生産性の点から好ましい。
減圧脱泡方法を実施する際、減圧ハウジングを外部から真空ポンプ等によって真空吸引することによって、減圧ハウジング内に配置された減圧脱泡槽の内部を、所定の減圧状態に保持する。ここで減圧脱泡槽内部は、38〜460mmHg(51〜613hPa)に減圧されていることが好ましく、より好ましくは、減圧脱泡槽内部は60〜253mmHg(80〜338hPa)に減圧されていることが好ましい。
【0066】
本発明によって脱泡されるガラスは、加熱溶融法により製造されるガラスである限り、制約されない。本発明によって脱泡されるガラスがアルカリ成分を含有するシリケートガラスである場合には、もとの粘度が比較的低いので異質化によるガラスの粘度変化が大きくなりやすい。特にソーダライムガラスは、アルミナ含有量が小さいので、導管構造中にしみ出した場合に、異質化が生じやすく、異質化による粘度上昇効果も大きいために、本発明の効果が大きく発揮される。
溶融ガラスの母組成の具体例としては以下の組成が挙げられる。
酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2が65〜75%、Al23が0〜5%、CaOが0〜15%、MgOが0〜15%、Na2Oが10〜20%およびK2Oが0〜3%。さらに好ましい例として、SiO2が65〜75%、Al23が0〜5%、CaOが5〜15%、MgOが0〜15%、Na2Oが10〜20%およびK2Oが0〜3%が挙げられる。最も好ましい例として、SiO2が65〜75%、Al23が0〜3%、CaOが5〜15%、MgOが0〜15%、Na2Oが10〜20%およびK2Oが0〜3%が挙げられる。
【0067】
減圧脱泡装置の各構成要素の寸法は、使用する減圧脱泡装置に応じて適宜選択することができる。図1に示す減圧脱泡槽12の場合、その寸法の具体例は以下の通りである。なお、断面矩形における外径および内径は一辺の寸法を示す。
・水平方向における長さ:1〜20m
・外径(断面矩形):1〜7m
・内径(断面矩形):0.2〜3m
上昇管13および下降管14の寸法の具体例は以下の通りである。
・長さ:0.2〜6m、好ましくは0.4〜4m
・外径(断面矩形):0.5〜7m、好ましくは0.5〜5m
・内径(断面円形):0.05〜0.8m、好ましくは0.1〜0.6m
【0068】
上述した電鋳レンガ層、不定形耐火物層、耐火レンガ層、および、断熱材層の配置は、ガラス溶解槽にも適用できる。
ガラス溶解槽では、溶融ガラスと直接接触する底部には、耐熱性および溶融ガラスに対する耐食性に優れる電鋳レンガが使用される。ガラス溶解槽を断熱構造とすることが求められる場合、電鋳レンガの外側に耐火レンガ層を設け、その耐火レンガ層の外側に断熱材層を設ける。ここで、電鋳レンガと耐火レンガ層との間に、不定形耐火物層を設け、溶融ガラスの存在時において、その溶融ガラスの流動点と等しい温度となる部位が断熱材層内に位置するように、電鋳レンガ、不定形耐火物層を構成する不定形耐火物、および耐火レンガ層を構成する耐火レンガを選択することで、ガラス溶解槽に使用する電鋳レンガ、および、耐火レンガ層を構成する耐火レンガの使用量を削減することができる。これにより、ガラス溶解槽の製造コストが削減される。
この場合のレンガ層(電鋳レンガ、耐火レンガ)、不定形耐火物層、断熱材層の厚みの範囲の設定については、前述の上昇管および下降管での条件の設定に準じ、使用時の溶融ガラスの温度範囲、不定形耐火物の充填方法は、従来技術の範囲である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0070】
以下に示す実施例では、不定形耐火物層に表1に示す組成の不定形耐火物(キャスタブル耐火物)を使用した。
【表1】
不定形耐火物層による溶融ガラスの異質化を下記手順で評価した。
不定形耐火物上にガラス素地を乗せ、例1については1200℃、例2については1300℃に1週間保持した後、6時間程度かけて室温まで冷却した。ガラスを付着させたまま不定形耐火物層を切り出して断面を研磨し、不定形耐火物のガラス素地との界面近傍のガラス組成を電子線マイクロアナライザ(EPMA)で定量分析した。また、定量によって得られた組成のガラスを作成し、その粘度を測定した。表2に、ガラス素地の組成、実施例1〜3の異質化したガラス組成、及びそれらの粘度を示す。
また、不定形耐火物層の圧縮強度をJIS R2206−1991に記載されている方法で評価した。その結果、不定形耐火物層の圧縮強度は140MPaであった。
【表2】

実施例1,2では、溶融ガラスの異質化により、ガラスの高温粘度の指標として用いられる温度(Tlogη=2、Tlogη=4)が300℃程度上昇した。実施例3では、Tlogη=2、Tlogη=4が180℃程度上昇した。この結果から、後述する実施例4の減圧脱泡装置の構成とした場合に、導管を構成する電鋳レンガ13a間の目地部から溶融ガラスがしみ出した場合であっても、しみ出した溶融ガラスが不定形耐火物層18よりも外側に位置する耐火レンガ層17へとしみ出すのが抑制されることがわかる。そして、耐火レンガ層17を通過している間に、溶融ガラスがさらに高粘度化して、溶融ガラスのしみ出しは、耐火レンガ層17内で停止する。このため、耐火レンガ層17よりも外側に位置する断熱材層19に到達するおそれがない。
【0071】
(比較例1)
比較例1では、不定形耐火物層に表3に記載した組成のようにAl23の量が少ない不定形耐火物(タンプ材)を使用して、実施例1〜3と同様の手順で溶融ガラスの異質化を評価した。表4に、ガラス素地の組成、異質化したガラス組成、及びそれらの粘度を示す。
【表3】
【表4】

比較例1は、実施例1〜3に比べて、溶融ガラスの異質化によるガラスの粘度上昇が少なく、溶融ガラスのしみ出しを抑制できない。
【0072】
(実施例4)
本実施例では、図1に示す減圧脱泡装置1を用いて溶融ガラスの減圧脱泡を実施する。減圧脱泡装置1において、上昇管13、下降管14およびこれらの周辺部位は、図2に示す構造を有している。
減圧脱泡装置1の各部の構成材料は以下の通りである。
・減圧ハウジング11:ステンレス
・減圧脱泡槽12:電鋳レンガ
・上昇管13、下降管14:電鋳レンガ
上昇管13の構造は、電鋳レンガ13a(アルミナ質電鋳レンガ)を2個組み合わせて図3に示す形状とし、これを上昇管13の長手方向に沿って積み重ねる。下降管14の構造も、上昇管13の構造と同様である。
・延長管20、21:白金
【0073】
上昇管13、下降管14の周囲には、図2に示す構成のバックアップ15を配設する。
すなわち、バックアップ15としては、上昇管13の外側に耐火物層16を設け、耐火物層16の外側に断熱材層19を設ける。耐火物層16としては、上昇管13の周方向に沿って、耐火レンガ17a(緻密質焼成レンガ)を配設してなる耐火レンガ層17を設ける。但し、上昇管13を構成する電鋳レンガ13aと、耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17aと、の間には、幅30mmの隙間を設けた。この隙間に、実施例1で使用した不定形耐火物を充填し、1300℃に加熱して焼結させることにより、耐火物層16のうち、不定形耐火物層18を形成した。
断熱材層19は、上昇管13の周方向に沿って、固形断熱材19a(例えば、けい藻土質断熱レンガ、粘土質断熱レンガ、高アルミナ質断熱レンガ等)を配設してなる固形断熱材層である。耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17aおよび固形断熱材層を構成する固形断熱材19aは、各層の長手方向に沿って積み重ねる。断熱材層19において、固形断熱材層と、減圧ハウジング11と、の間には、多孔構造の断熱材(図示せず)を充填する。
上昇管13、ならびにバックアップ15を構成する耐火物層16(不定形耐火物層18、耐火レンガ層17)および断熱材層19の具体的な構成を表5に示した。なお、下降管14とそのバックアップ15も同様の構成である。表5中のAは緻密質アルミナ系電鋳レンガで、Cは緻密質アルミナ−ジルコニア系焼成レンガ、Bは高アルミナ質キャスティング材、Dは固形断熱材である。
【0074】
【表5】
【0075】
溶融ガラスの減圧脱泡を以下の条件で実施する。
・減圧脱泡槽12内温度:1200℃
・減圧脱泡槽12内圧力:180mmHg(240hPa)
・溶融ガラス:ソーダライムガラス(流動点920℃)
・流量:50トン/日
【0076】
減圧脱泡実施時、上昇管13を構成する電鋳レンガ13a、不定形耐火物層18、耐火レンガ層17を構成する耐火レンガ17a、および断熱材層19を構成する固形耐火物19aおよびマイクロサーム成形体について、内壁面側の温度(内面温度)および外壁面側の温度(外面温度)を、熱電対を用いて測定する。結果を表5に示した。表5から明らかなように、溶融ガラスが導管内を通過する時において、その溶融ガラスの流動点(温度920℃)に等しい温度の部位は、断熱材層19内に位置している。
減圧脱泡開始から6ヶ月後、断熱材層19を構成する固形耐火物19aには、溶融ガラスによる浸食の兆候は認められない。また、レンガの割れも生じない。
【0077】
従来の上昇管13ならびにバックアップ15を構成する耐火物層16(耐火レンガ層17)および断熱材層19の具体的な構成(従来構造)を表6に示した。表中のEはシャモット質焼成レンガである。
【表6】
この構成では、ガラスの流動点(温度920℃)と等しい温度となる部位が、耐火レンガ層内に位置しており、特許文献2に記載の導管構造に相当する。
実施例4の構成は、実施例1、2の結果に基づいて、耐火レンガ層17および断熱材層19の厚みを設定変更したものである。
なお、実施例1、2の結果によれば、以下に示す表7の構成も可能である。この溶融ガラスの導管構造の構成は、導管と、その導管の周囲に設けられたバックアップと、で構成される溶融ガラスの導管構造であって、その導管は、その長手方向および周方向に電鋳レンガを配設してなる中空管であり、そのバックアップは、その導管の外側に設けられた耐火物層と、その耐火物層の外側に設けられた断熱材層と、で構成され、その耐火物層は、その導管の長手方向および周方向に沿って、酸化物基準の質量百分率表示で、Al23を30〜100%含有し、かつ、SiO2を0〜70%含有する不定形耐火物を施工し、その不定形耐火物を焼結させてなる不定形耐火物層からなり、その断熱材層は、固形断熱材をその導管の長手方向および周方向に沿って配設してなる固形断熱材層を含み、溶融ガラスが導管内を通過する時において、そのガラスの流動点と等しい温度になる部位がその断熱材層内に位置するように、その導管を構成する電鋳レンガ、その不定形耐火物層を構成する不定形耐火物が選択されてなることを特徴とする。この構成では、耐火レンガ層17は設けられておらず、耐火物層16が不定形耐火物層18のみで構成され、その不定形耐火物層18の外側に断熱材層19が位置している。この構成でも、導管を構成する電鋳レンガ間の目地部から溶融ガラスがしみ出した場合であっても、しみ出した溶融ガラスが不定形耐火物層よりも外側に位置する断熱材層へとしみ出すことを抑制できる。この構成でも、溶融ガラスが導管内を通過する時において、その溶融ガラスの流動点に等しい温度の部位は、断熱材層19内に位置している。
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の溶融ガラスの導管構造は、ガラス製造装置の溶融ガラスの導管として使用することができ、特に減圧脱泡装置の上昇管、減圧脱泡槽または下降管として好適である。かかる溶融ガラスの導管構造を用いれば、冷却手段の付設が不要となり、また溶融ガラスの減圧脱泡装置の長寿命化と製造コストの低減を図ることができ、またかかる減圧脱泡装置を用いればガラス製造装置、ガラス溶融槽の長寿命化を図ることができ、またかかる減圧脱泡装置、ガラス製造装置を用いれば、より長寿命化が図られた溶融ガラスの減圧脱泡方法、ガラス製造方法を提供することができ、ガラス製造分野において有用である。
なお、2013年4月24日に出願された日本特許出願2013−091280号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
【符号の説明】
【0079】
1:減圧脱泡装置
11:減圧ハウジング
12:減圧脱泡槽
13:上昇管
13a,13a’:電鋳レンガ
14:下降管
15:バックアップ
16:耐火物層
17,17a’:耐火レンガ層
17a:耐火レンガ
18,18’:不定形耐火物層
19,19a’:断熱材層
19a:固形断熱材(固形断熱材層)
20,21:延長管
20a:固定用のフランジ
20b:シール用のフランジ
22:断熱材
30:溶解槽
40:処理槽
図1
図2
図3
図4