特許第6222268号(P6222268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6222268電子受容性化合物及びその製造方法、該化合物を含む重合開始剤、有機エレクトロニクス材料、これらを用いた有機薄膜、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、表示素子、照明装置、並びに表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222268
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】電子受容性化合物及びその製造方法、該化合物を含む重合開始剤、有機エレクトロニクス材料、これらを用いた有機薄膜、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、表示素子、照明装置、並びに表示装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20171023BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20171023BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H05B33/10
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   H05B33/22 D
【請求項の数】5
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2016-75760(P2016-75760)
(22)【出願日】2016年4月5日
(62)【分割の表示】特願2011-122219(P2011-122219)の分割
【原出願日】2011年5月31日
(65)【公開番号】特開2016-122667(P2016-122667A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2016年4月28日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】舟生 重昭
(72)【発明者】
【氏名】浅野 直紀
【審査官】 野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−100083(JP,A)
【文献】 特開2006−233162(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/089024(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/040531(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/10
H05B 33/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送性化合物と、有機カチオン及びその対アニオンからなるイオン化合物とを溶解
混合した後に、100℃以上の温度下で乾燥することを含み、
前記対アニオンが、下記一般式(12c)、(13c)、(14c)、又は(15c)
で表されるアニオンを含む、電子受容性化合物の製造方法。
(式中、RF1〜RF10は、それぞれ独立に電子求引性の有機置換基(これらの構造中
にさらに置換基及び/又はヘテロ原子をもっていてもよく、またRF1〜RF9は、それ
ぞれが結合して環状又はポリマー状になっていてもよい。)を表す。
【請求項2】
前記アニオンが、下記いずれかの式で表されるアニオンを含む、請求項1に記載の電子
受容性化合物の製造方法。
【請求項3】
前記有機カチオンが、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウム、カルベニウム、ア
ニリニウム、アンモニウム、セレニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、オキソニウム
、キノリニウム、ピロリジニウム、アミニウム、イモニウム、又はトロピリウムを含む、
請求項1又は2に記載の電子受容性化合物の製造方法。
【請求項4】
電荷輸送性化合物が、芳香族アミン化合物、カルバゾール化合物、及びチオフェン化合
物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の電
子受容性化合物の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥を120〜300℃の温度下で行う、請求項1〜4のいずれかに記載の電子受
容性化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子受容性化合物及びその製造方法、該化合物を含む重合開始剤、有機エレクトロニクス材料、これらを用いた有機薄膜、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子ということもある)、表示素子、照明装置、並びに表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。
【0003】
有機エレクトロニクス素子の一例として有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタなどが挙げられる。
【0004】
有機エレクトロニクス素子の中でも有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプの代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0005】
近年、有機EL素子の発光効率・寿命を改善する目的で、電荷輸送性の化合物に電子受容性化合物を混合して用いる試みがなされている。
例えば、特許文献1には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(4−ブロモフェニルアミニウムヘキサクロロアンチモネート)(tris(4-bromophenylaminium hexachloroantimonate):TBPAH)を混合することで、低電圧駆動が可能な有機電界発光素子が得られることが開示されている。
また、特許文献2には、正孔輸送性化合物に、電子受容性化合物として塩化鉄(III)(FeCl)を真空蒸着法により混合して用いることが開示されている。
また、特許文献3には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(tris(pentafluorophenyl)borane:PPB)を、湿式成膜法により混合して正孔注入層を形成することが開示されている。
また、特許文献4には、電荷輸送膜用組成物として、イオン化合物と電荷輸送性化合物からなる組成物が開示されている。
【0006】
このように、電荷輸送性化合物へ電子受容性化合物を混合したときに生成する、電荷輸送性化合物のラジカルカチオンと対アニオンからなる化合物を生成させることが重要であると考えられる。
【0007】
しかしながら、これら文献において、本発明に係る電子受容性化合物、該電子受容性化合物の製造方法、また該化合物を利用した旨については記載されていない。
【0008】
また、電荷輸送性化合物のラジカルカチオンと対アニオンからなる化合物を生成させる際に残存するであろう、カチオン化合物およびその分解物に起因する不純物については記載されていない。
【0009】
一方、有機EL素子は、用いる材料及び製膜方法から低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子の2つに大別される。高分子型有機EL素子は、有機材料が高分子材料により構成されており、真空系での成膜が必要な低分子型有機EL素子と比較して、印刷やインクジェットなどの簡易成膜が可能なため、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な素子である。
【0010】
低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子とも、これまで精力的に研究が行われてきたが、未だに発光効率の低さ、素子寿命の短さが大きな問題となっている。この問題を解決する一つの手段として、低分子型有機EL素子では多層化が行われている。
【0011】
図1に多層化された有機EL素子の一例を示す。図1において、発光を担う層を発光層1、それ以外の層を有する場合、陽極2に接する層を正孔注入層3、陰極4に接する層を電子注入層5と記述する。さらに、発光層1と正孔注入層3の間に異なる層が存在する場合、正孔輸送層6と記述、さらに発光層1と電子注入層5の間に異なる層が存在する場合、電子輸送層7と記述する。なお、図1において、8は基板である。
【0012】
低分子型有機EL素子は蒸着法で製膜を行うため、用いる化合物を順次変更しながら蒸着を行うことで容易に多層化が達成できる。一方、高分子型有機EL素子は印刷やインクジェットといった湿式プロセスを用いて製膜を行うため、上層を塗布する際に下層が溶解してしまうという課題が生じる。そのため、高分子型有機EL素子の多層化は低分子型有機EL素子に比べ困難であり、発光効率の向上、寿命の改善効果を得ることができなかった。
【0013】
この問題に対処するために、これまでにいくつかの方法が提案されている。一つは、溶解度の差を用いる方法である。例えば、水溶性であるポリチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)からなる正孔注入層、トルエン等の芳香族系有機溶媒を用いて製膜された発光層の2層構造からなる素子である。この場合、PEDOT:PSS層はトルエン等芳香族溶媒に溶解しないため、2層構造を作製することが可能となっている。
【0014】
また、非特許文献1には、溶解度の大きく異なる化合物を利用した3層構造の素子が提
また、特許文献5には、PEDOT:PSS上にインターレイヤー層と呼ばれる層を導入した3層構造の素子が開示されている。
また、非特許文献2〜4、特許文献6にはこのような課題を克服するために、シロキサン化合物やオキセタン基、ビニル基などの重合反応を利用して化合物の溶解度を変化させ、薄膜を溶剤に対して不溶化する方法が開示されている。
【0015】
これらの多層化を図る方法は重要であるが、水溶性のPEDOT:PSSを使用すると薄膜中に残存する水分を除去する必要があることや、溶解度差を利用するには使用できる材料が限られてしまう、シロキサン化合物が空気中の水分に不安定といった問題点や素子特性が十分ではない問題点があった。
【0016】
上記重合反応を利用するには、光や熱などの刺激により反応・分解して酸や塩基、ラジカル等を発生する適切な重合開始剤を添加する必要がある。
【0017】
特許文献7、特許文献8、特許文献9にはフッ素を含有した光酸発生剤あるいは開始剤が開示されている。
しかしながら、これら文献において本発明における電子受容性化合物を含有する重合開始剤を用いた有機エレクトロニクス材料に関する記載はない。また、特許文献5には本発明類似の化合物が記載されているが、該化合物を重合開始剤として利用した記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第3748491号公報
【特許文献2】特開平11−251067号公報
【特許文献3】特許第4023204号公報
【特許文献4】特開2006−233162号公報
【特許文献5】特開2007−119763号公報
【特許文献6】国際公開第2008/010487号
【特許文献7】特開2003−215791号公報
【特許文献8】特開2009−242391号公報
【特許文献9】特許第3985020号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Y. Goto, T. Hayashida, M. Noto, IDW ‘04 Proceedings of The 11th International Display Workshop, 1343-1346(2004)
【非特許文献2】H. Yan, P. Lee, N. R. Armstrong, A. Graham, G. A. Evemenko, P. Dutta, T. J. Marks, J. Am. Chem. Soc., 127, 3172-4183(2005)
【非特許文献3】E. Bacher, M.Bayerl, P. Rudati, N. Reckfuss, C. David, K. Meerholz, O. Nuyken, Macromolecules, 38, 1640(2005)
【非特許文献4】M. S. Liu, Y. H. Niu, J. W. Ka, H. L. Yip, F. Huang, J. Luo, T. D. Wong, A. K. Y. Jen, Macromolecules, 41, 9570(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
有機EL素子の高効率化、長寿命化のためには、有機層を多層化し、各々層の機能を分離することが望ましいが、大面積でも製膜が容易な湿式プロセスを用いて有機層を多層化するためには、上述のように、下層が上層製膜時に溶解しないようにする必要があり、重合反応を利用した溶剤への溶解度の変化が用いられてきた。
【0021】
また、有機EL素子の低駆動電圧化のため、電荷輸送性化合物に電子受容性化合物を添加することで、電荷輸送性化合物の電荷輸送性を向上させる試みがなされているが、特性はいまだ十分なものではなかった。
【0022】
本発明は、上記した問題に鑑み、安定的かつ容易に薄膜を形成、あるいは有機薄膜層の多層化を容易に行うことができ、有機エレクトロニクス素子、特に高分子型有機EL素子の生産性を向上させる上で有用な重合開始剤、電子受容性化合物、有機エレクトロニクス材料およびそれらの製造方法、該有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物、該有機エレクトロニクス材料、及び該インク組成物から形成された有機薄膜を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、従来よりも電荷輸送性に優れた有機薄膜、該薄膜を用いた有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子、照明装置、表示素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、鋭意検討した結果、電荷輸送性化合物と、有機カチオン及びその対アニオンからなる化合物とを溶解混合した後に乾燥を行う電子受容性化合物の製造方法が、簡便に高純度な電子受容性化合物を製造するために有用であることを見出し、該製造方法により得られる電子受容性化合物、該電子受容性化合物を含む重合開始剤ならびに有機エレクトロニクス材料、さらに該有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物、さらに該有機エレクトロニクス材料または該インク組成物を用いて形成された有機薄膜が、有機EL素子の特性を向上させるために重要な電荷輸送性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(26)の事項をその特徴とするものである。
【0024】
(1)電荷輸送性化合物と、有機カチオン及びその対アニオンからなるイオン化合物とを溶解混合した後に、乾燥することを特徴とする電子受容性化合物の製造方法。
【0025】
(2)有機カチオンが、下記一般式(1b)〜(3b)で表される有機カチオンのうちのいずれかであることを特徴とする前記(1)に記載の電子受容性化合物の製造方法。
【0026】
【化1】
(式中、R11〜R34は、それぞれ独立に、任意の有機基を表す。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに連結して環を形成していてもよい。Aは長周期型周期表の第17族又は第14族に属する元素を表し、Aは長周期型周期表の第16族または第14族に属する元素を表し、Aは長周期型周期表の第15族に属する元素を表す。)
【0027】
(3)対アニオンが、下記一般式(4b)〜(7b)で表されるアニオンのうちのいずれかであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の電子受容性化合物の製造方法。
【0028】
【化2】
(式中、Y〜Yは、それぞれ独立に二価の連結基、R〜R10は、それぞれ独立に電子求引性の有機置換基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよく、また、R及びR、R4〜R6またはR〜R10はそれぞれが結合して環状あるいはポリマー状になってもよい。)を表す。Lは一価のカチオンを表す。Eは酸素原子、Eは窒素原子、Eは炭素原子、Eはホウ素原子またはガリウム原子を表す。)
【0029】
(4)電荷輸送性化合物が、芳香族アミン、カルバゾール、又はチオフェン化合物であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の電子受容性化合物の製造方法。
【0030】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法により製造されてなる電子受容性化合物。
【0031】
(6)アミニウムカチオンラジカル、カルバゾリウムカチオンラジカル、又はチオフェニウムカチオンラジカルと、下記一般式(8b)〜(11b)で表される対アニオンのうちのいずれかとからなることを特徴とする電子受容性化合物。
【0032】
【化3】
(式中、Y〜Yはそれぞれ独立に二価の連結基、R〜R10はそれぞれ独立に、電子求引性の有機置換基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよく、また、R及びR、R4〜R6またはR〜R10はそれぞれが結合して環状あるいはポリマー状になってもよい。)を表す。Lは一価のカチオンを表す。Eは酸素原子、Eは窒素原子、Eは炭素原子、Eはホウ素原子またはガリウム原子を表す。)
【0033】
(7)前記(5)又は(6)に記載の電子受容性化合物を少なくとも1つ含むことを特徴とする重合開始剤。
【0034】
(8)前記(5)又は(6)に記載の電子受容性化合物を少なくとも1つ含むことを特徴とする有機エレクトロニクス材料。
【0035】
(9)さらに少なくとも1つの電荷輸送性化合物を含むことを特徴とする前記(8)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0036】
(10)電荷輸送性化合物がオリゴマー又はポリマーであることを特徴とする前記(9)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0037】
(11)電荷輸送性化合物が一つ以上の重合可能な置換基を有することを特徴とする前記(9)又は(10)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0038】
(12)前記(7)に記載の重合開始剤及び/又は前記(8)〜(11)のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料を少なくとも1つ含むことを特徴とする有機薄膜。
【0039】
(13)前記(8)〜(11)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含むインク組成物。
【0040】
(14)前記(12)に記載の有機薄膜を少なくとも1つ含む有機エレクトロニクス素子。
【0041】
(15)前記(12)に記載の有機薄膜を少なくとも1つ含む有機エレクトロルミネセンス素子。
【0042】
(16)有機薄膜の少なくとも1つが正孔注入層であることを特徴とする前記(15)に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0043】
(17)有機薄膜の少なくとも1つが正孔輸送層であることを特徴とする前記(15)又は(16)に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0044】
(18)基板が、フレキシブル基板であることを特徴とする前記(15)〜(17)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0045】
(19)基板が、樹脂フィルムであることを特徴とする前記(15)〜(18)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0046】
(20)前記(15)〜(19)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた表示素子。
【0047】
(21)前記(15)〜(19)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた照明装置。
【0048】
(22)前記(21)に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えた表示装置。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、簡便な方法で電荷輸送性を向上させるための電子受容性化合物を高純度で製造できる。また、該電子受容性化合物は高活性な重合開始剤としても使用でき、該重合開始剤を使用することで安定的かつ容易に薄膜を形成でき、有機薄膜層の多層化を容易に行うことができる。それゆえ、有機エレクトロニクス素子、特に高分子型有機EL素子の生産性を向上させる上で極めて有用な有機エレクトロニクス材料およびインク組成物を提供することができる。
さらには、該有機エレクトロニクス材料およびインク組成物により形成された有機薄膜は、電荷輸送性を妨げる不純物を含んでいないため、電荷輸送性に優れており、高効率で長寿命な有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】多層化された有機EL素子の一例を示す模式図である。
図2】実施例4及び比較例4における印加電圧と電流密度との関係をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
<電子受容性化合物の製造方法>
本発明の電子受容性化合物の製造方法は、電荷輸送性化合物と、有機カチオン及びその対アニオンからなるイオン化合物とを溶解混合した後に、乾燥することを特徴としている。
【0052】
ここで、本発明における「溶解混合」について詳細に述べる。本発明において溶解混合とは、電荷輸送性化合物及び/又は有機カチオンおよびその対アニオンからなる化合物が溶解する溶媒中に全て溶解または一部溶解させて混合する操作を言い、溶解しない部分については溶媒中に分散していてもかまわない。ただし、電荷輸送性化合物及び/又は有機カチオン及びその対アニオンからなるイオン化合物が常温で液体の場合や、加温することで溶融する性質の場合は、溶媒を含まずに混合してもよい。
【0053】
溶解混合に用いる溶媒としては、特に制限はないが、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトンなどが挙げられるが、溶解性の観点から好ましくは芳香族溶媒、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテル、ハロゲン系溶媒を使用することができる。
【0054】
また、溶媒中で溶解混合する際の溶媒量について特に制限はないが、電荷輸送性化合物1gに対して100mL以下が好ましく、50mL以下がより好ましい。溶媒量が100mL以下であると、溶媒を留去する工程を短時間で終了させることができる。
【0055】
ここで、本発明における「乾燥」について詳細に述べる。本発明において乾燥とは、溶解混合に用いた溶媒を留去する目的、およびその他の不純物を除去する目的のために行うものである。
【0056】
乾燥は、減圧下で行うことが好ましい。減圧度に特に制限はないが、好ましくは2.0×10Pa以下、より好ましくは1.0×10Paである。2.0×10Pa以下であると、溶媒およびその他の不純物を除去する時間を短くすることができる。
【0057】
さらに、乾燥は100℃以上の温度下で行うことが好ましく、より好ましくは120℃以上であり、上限は通常300℃である。100℃以上の温度であると、高沸点の溶媒や不純物についても除去するだけでなく、高融点および高沸点の不純物を分解し、除去しやすくなるとともに、溶媒や不純物の除去を短時間で行うことができる。
【0058】
[電荷輸送性化合物]
ここで、本発明における「電荷輸送性化合物」について詳細に述べる。本発明において電荷輸送性化合物とは、市販のものでもよく、当業者公知の方法で合成したものであってもよく、特に制限はない。また、正孔または電子の輸送能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されないが、芳香環を有するアミン(芳香族アミン)、カルバゾール、又はチオフェン化合物であることが好ましく、例えば、下記一般式(1)〜(58)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0059】
【化4】
【0060】
【化5】
【0061】
【化6】
【0062】
【化7】
【0063】
【化8】
【0064】
(式中、Eはそれぞれ独立に−R1、−OR2、−SR3、−OCOR4、−COOR5、−SiR678、ハロゲン元素、または一般式(59)〜(61)(ただし、R〜R11は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、または炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、aおよびbおよびcは、1以上の整数を表す。ここで、アリール基とは、芳香族炭化水素から水素原子一個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子1個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。)、または下記置換基群(A)〜置換基群(N)において表される基のいずれかを表す。Arは、それぞれ独立に炭素数2〜30個のアリーレン基、もしくはヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基とは芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。XおよびZはそれぞれ独立に二価の連結基で、特に制限はないが、前記Rのうち水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基や後記連結基群(A)で例示される基が好ましい。xは0〜2の整数を表す。Yは前記三価の連結基であり、前記Rのうち、水素原子を2つ以上有する基から2つの水素原子を除去した基を表す。)
【0065】
置換基群(A)
【化9】
【0066】
置換基群(B)
【化10】
【0067】
置換基群(C)
【化11】
【0068】
置換基群(D)
【化12】
【0069】
置換基群(E)
【化13】
【0070】
置換基群(F)
【化14】
【0071】
置換基群(G)
【化15】
【0072】
置換基群(H)
【化16】
【0073】
置換基群(I)
【化17】
【0074】
置換基群(J)
【化18】
【0075】
置換基群(K)
【化19】
【0076】
置換基群(L)
【化20】
【0077】
置換基群(M)
【化21】
【0078】
置換基群(N)
【化22】
【0079】
連結基群(A)
【化23】
【0080】
ここで、本発明における「有機カチオン及びその対アニオンからなる化合物」について詳細に以下に述べる。
【0081】
[有機カチオン]
本発明において、「有機カチオン」とは、非金属元素上に電荷が存在しているカチオンを言う。非金属元素としては、炭素、ケイ素、ゲルマニウム等の14族元素、窒素、リン、ヒ素等の15族元素、酸素、硫黄、セレン等の16族元素、ヨウ素、臭素、塩素等の17族元素、水素が挙げられ、それらを含む有機カチオンの例としては、カルベニウム、トロピリウムなどの炭素カチオン、ピリジニウム、キノリニウム、アニリニウム、アンモニウムなどの窒素カチオン、水素カチオン、ヨードニウム、ブロモニウム、クロロニウム、スルホニウム、オキソニウム、セレノニウム、アルソニウム、ボロニウムなどのその他のカチオンが挙げられる。
【0082】
本発明における有機カチオンは、入手性の容易さの観点から下記一般式(1b)〜(3b)で表されるカチオンであることが好ましい。
【0083】
【化24】
【0084】
(式中、R11〜R34は、各々独立に、任意の有機基を表す。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに連結して環を形成していても良い。Aは長周期型周期表の第17族または第14族に属する元素を表し、Aは長周期型周期表の第16族または第14族に属する元素を表し、Aは長周期型周期表の第15族に属する元素を表す。)
【0085】
上記一般式におけるR11〜R34は、化合物の安定性、溶媒への溶解性の観点から、各々独立に、置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基であることが好ましい。
化合物の安定性、合成及び精製のし易さから、前記一般式(1b)におけるAが臭素原子、ヨウ素原子または炭素原子であり、前記一般式(2b)におけるAが酸素原子、炭素原子、硫黄原子またはセレン原子であり、前記一般式(3b)におけるAが窒素原子、リン原子またはヒ素原子であることが好ましい。
すなわち、本発明におけるイオン化合物のカチオンは、より好ましくは、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウム、カルベニウム(トリチル)、アニリニウム、アンモニウム、セレニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、オキソニウム、キノリニウム、ピロリジニウム、アミニウム、イモニウム、トロピリウムなどである。
【0086】
例えば、スルホニウムイオンとしては、トリフェニルスルホニウム、トリ−p−トリルスルホニウム、トリ−o−トリルスルホニウム、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、1−ナフチルジフェニルスルホニウム、2−ナフチルジフェニルスルホニウム、トリス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、トリ−1−ナフチルスルホニウム、トリ−2−ナフチルスルホニウム、トリス(4−ヒドロキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4−(p−トリルチオ)フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−(4−メトキシフェニルチオ)フェニルビス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルビス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジ−p−トリルスルホニウム、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド、ビス〔4−{ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホニオ}フェニル〕スルフィド、ビス{4−[ビス(4−フルオロフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、ビス{4−[ビス(4−メチルフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、ビス{4−[ビス(4−メトキシフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、4−(4−ベンゾイル−2−クロロフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(4−ベンゾイル−2−クロロフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、7−イソプロピル−9−オキソ−10−チア−9,10−ジヒドロアントラセン−2−イルジ−p−トリルスルホニウム、7−イソプロピル−9−オキソ−10−チア−9,10−ジヒドロアントラセン−2−イルジフェニルスルホニウム、2−[(ジ−p−トリル)スルホニオ]チオキサントン、2−[(ジフェニル)スルホニオ]チオキサントン、4−[4−(4−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−[4−(4−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニルジフェニルスルホニウム、4−[4−(ベンゾイルフェニルチオ)]フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−[4−(ベンゾイルフェニルチオ)]フェニルジフェニルスルホニウム、5−(4−メトキシフェニル)チアアンスレニウム、5−フェニルチアアンスレニウム、5−トリルチアアンスレニウム、5−(4−エトキシフェニル)チアアンスレニウム、5−(2,4,6−トリメチルフェニル)チアアンスレニウムなどのトリアリールスルホニウム;ジフェニルフェナシルスルホニウム、ジフェニル4−ニトロフェナシルスルホニウム、ジフェニルベンジルスルホニウム、ジフェニルメチルスルホニウムなどのジアリールスルホニウム;フェニルメチルベンジルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、4−メトキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、4−アセトカルボニルオキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、2−ナフチルメチルベンジルスルホニウム、2−ナフチルメチル(1−エトキシカルボニル)エチルスルホニウム、フェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−メトキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−アセトカルボニルオキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、2−ナフチルメチルフェナシルスルホニウム、2−ナフチルオクタデシルフェナシルスルホニウム、9−アントラセニルメチルフェナシルスルホニウムなどのモノアリールスルホニウム;ジメチルフェナシルスルホニウム、フェナシルテトラヒドロチオフェニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ベンジルテトラヒドロチオフェニウム、オクタデシルメチルフェナシルスルホニウムなどのトリアルキルスルホニウムなどが挙げられ、これらは以下の文献に記載されている。
【0087】
トリアリールスルホニウムに関しては、米国特許第4231951号、米国特許第4256828号、特開平7−61964号、特開平8−165290号、特開平7−10914号、特開平7−25922号、特開平8−27208号、特開平8−27209号、特開平8−165290号、特開平8−301991号、特開平9−143212号、特開平9−278813号、特開平10−7680号、特開平10−287643号、特開平10−245378号、特開平8−157510号、特開平10−204083号、特開平8−245566号、特開平8−157451号、特開平7−324069号、特開平9−268205号、特開平9−278935号、特開2001−288205号、特開平11−80118号、特開平10−182825号、特開平10−330353、特開平10−152495、特開平5−239213号、特開平7−333834号、特開平9−12537号、特開平8−325259号、特開平8−160606号、特開2000−186071号(米国特許第6368769号)など;ジアリールスルホニウムに関しては、特開平7−300504号、特開昭64−45357号、特開昭64−29419号など;モノアリールスルホニウムに関しては、特開平6−345726号、特開平8−325225号、特開平9−118663号(米国特許第6093753号)、特開平2−196812号、特開平2−1470号、特開平2−196812号、特開平3−237107号、特開平3−17101号、特開平6−228086号、特開平10−152469号、特開平7−300505号、特開2003−277353、特開2003−277352など;トリアルキルスルホニウムに関しては、特開平4−308563号、特開平5−140210号、特開平5−140209号、特開平5−230189号、特開平6−271532号、特開昭58−37003号、特開平2−178303号、特開平10−338688号、特開平9−328506号、特開平11−228534号、特開平8−27102号、特開平7−333834号、特開平5−222167号、特開平11−21307号、特開平11−35613号、米国特許第6031014号などに記載のものが挙げられる。
【0088】
ヨードニウムイオンとしては、ジフェニルヨードニウム、ジ−p−トリルヨードニウム、ビス(4−ドデシルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−メトキシフェニル)ヨードニウム、(4−オクチルオキシフェニル)フェニルヨードニウム、ビス(4−デシルオキシフェニル)ヨードニウム、4−(2−ヒドロキシテトラデシルオキシ)フェニルフェニルヨードニウム、4−イソプロピルフェニル(p−トリル)ヨードニウム、イソブチルフェニル(p−トリル)ヨードニウムなどが挙げられ、これらは、Macromolecules,10,1307(1977)、特開平6−184170号、米国特許第4256828号、米国特許第4351708号、特開昭56−135519号、特開昭58−38350号、特開平10−195117号、特開2001−139539号、特開2000−510516号、特開2000−119306号などに記載されている。
【0089】
セレニウムイオンとしては、トリフェニルセレニウム、トリ−p−トリルセレニウム、トリ−o−トリルセレニウム、トリス(4−メトキシフェニル)セレニウム、1−ナフチルジフェニルセレニウム、トリス(4−フルオロフェニル)セレニウム、トリ−1−ナフチルセレニウム、トリ−2−ナフチルセレニウム、トリス(4−ヒドロキシフェニル)セレニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルセレニウム、 4−(p−トリルチオ)フェニルジ−p−トリルセレニウムなどのトリアリールセレニウム;ジフェニルフェナシルセレニウム、ジフェニルベンジルセレニウム、ジフェニルメチルセレニウムなどのジアリールセレニウム;フェニルメチルベンジルセレニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルベンジルセレニウム、フェニルメチルフェナシルセレニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルフェナシルセレニウム、4−メトキシフェニルメチルフェナシルセレニウムなどのモノアリールセレニウム;ジメチルフェナシルセレニウム、フェナシルテトラヒドロセレノフェニウム、ジメチルベンジルセレニウム、ベンジルテトラヒドロセレノフェニウム、オクタデシルメチルフェナシルセレニウムなどのトリアルキルセレニウムなどが挙げられ、これらは特開昭50−151997号、特開昭50−151976号、特開昭53−22597号などに記載されている。
【0090】
アンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチル−n−プロピルアンモニウム、トリメチルイソプロピルアンモニウム、トリメチル−n−ブチルアンモニウム、トリメチルイソブチルアンモニウム、トリメチル−t−ブチルアンモニウム、トリメチル−n−ヘキシルアンモニウム、ジメチルジ−n−プロピルアンモニウム、ジメチルジイソプロピルアンモニウム、ジメチル−n−プロピルイソプロピルアンモニウム、メチルトリ−n−プロピルアンモニウム、メチルトリイソプロピルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウム;N,N−ジメチルピロリジニウム、N−エチル−N−メチルピロリジニウム、N,N−ジエチルピロリジニウムなどのピロリジニウム;N,N'−ジメチルイミダゾリニウム、N,N'−ジエチルイミダゾリニウム、N−エチル−N'−メチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−2−メチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−4−メチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウムなどのイミダゾリニウム;N,N'−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム、N,N'−ジエチルテトラヒドロピリミジニウム、N−エチル−N'−メチルテトラヒドロピリミジニウム、1,2,3−トリメチルテトラヒドロピリミジニウムなどのテトラヒドロピリミジニウム;N,N'−ジメチルモルホリニウム、N−エチル−N−メチルモルホリニウム、N,N−ジエチルモルホリニウムなどのモルホリニウム;N,N−ジメチルピペリジニウム、N−エチル−N'−メチルピペリジニウム、N,N'−ジエチルピペリジニウムなどのピペリジニウム;N−メチルピリジニウム、N−エチルピリジニウム、N−n−プロピルピリジニウム、N−イソプロピルピリジニウム、N−n−ブチルピリジニウム、N−ベンジルピリジニウム、N−フェナシルピリジウムなどのピリジニウム;N,N'−ジメチルイミダゾリウム、N−エチル−N−メチルイミダゾリウム、N,N'−ジエチルイミダゾリウム、1,2−ジエチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチル−2−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−n−プロピル−2,4−ジメチルイミダゾリウムなどのイミダゾリウム;N−メチルキノリウム、N−エチルキノリウム、N−n−プロピルキノリウム、N−イソプロピルキノリウム、N−n−ブチルキノリウム、N−ベンジルキノリウム、N−フェナシルキノリウムなどのキノリウム;N−メチルイソキノリウム、N−エチルイソキノリウム、N−n−プロピルイソキノリウム、N−イソプロピルイソキノリウム、N−n−ブチルイソキノリウム、N−ベンジルイソキノリウム、N−フェナシルイソキノリウムなどのイソキノリウム;ベンジルベンゾチアゾニウム、フェナシルベンゾチアゾニウムなどのチアゾニウム;ベンジルアクリジウム、フェナシルアクリジウムなどのアクリジウムが挙げられる。
【0091】
これらは、米国特許第4069055号、特許第2519480号、特開平5−222112号、特開平5−222111号、特開平5−262813号、特開平5−255256号、特開平7−109303号、特開平10−101718号、特開平2−268173号、特開平9−328507号、特開平5−132461号、特開平9−221652号、特開平7−43854号、特開平7−43901号、特開平5−262813号、特開平4−327574、特開平2−43202号、特開昭60−203628号、特開昭57−209931号、特開平9−221652号などに記載されている。
【0092】
ホスホニウムイオンとしては、例えば、テトラフェニルホスホニウム、テトラ−p−トリルホスホニウム、テトラキス(2−メトキシフェニル)ホスホニウム、テトラキス(3−メトキシフェニル)ホスホニウム、テトラキス(4−メトキシフェニル)ホスホニウムなどのテトラアリールホスホニウム;トリフェニルベンジルホスホニウム、トリフェニルフェナシルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム、トリフェニルブチルホスホニウムなどのトリアリールホスホニウム;トリエチルベンジルホスホニウム、トリブチルベンジルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラヘキシルホスホニウム、トリエチルフェナシルホスホニウム、トリブチルフェナシルホスホニウムなどのテトラアルキルホスホニウムなどが挙げられる。これらは、特開平6−157624号、特開平5−105692号、特開平7−82283号、特開平9−202873号などに記載されている。
【0093】
オキソニウムイオンとしては、トリメチルオキソニウム、トリエチルオキソニウム、トリプロピルオキソニウム、トリブチルオキソニウム、トリヘキシルオキソニウム、トリフェニルオキソニウム、ピリリニウム、クロメニリウム、キサンチリウムが挙げられる。
【0094】
トロピリウムイオンとしては、例えば、J. Polym. Sci. Part A;Polym. Chem.,42,2166(2004)に記載されている。
【0095】
[対アニオン]
本発明において、有機カチオンと対をなしているアニオンは、塩素イオンや臭素イオンなどのハロゲン化物イオン、リン酸イオン、硫酸イオンなどの無機酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオンなどの有機酸イオン等、公知のアニオンが挙げられ、特に制限はないが、入手の容易さ、電子受容性化合物が容易に製造できる観点から、下記一般式(4b)〜(7b)で挙げられるアニオンであることが好ましい。
【0096】
【化25】
【0097】
(式中、Y〜Yはそれぞれ独立に二価の連結基、R〜R10はそれぞれ独立に、電子求引性の有機置換基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよく、また、R及びR、R4〜R6またはR〜R10はそれぞれが結合して環状あるいはポリマー状になってもよい。)を表す。Eは酸素原子、Eは窒素原子、Eは炭素原子、Eはホウ素原子またはガリウム原子を表す。)
【0098】
電子求引性の有機置換基(上記式中のR〜R10)の例示としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基、メシル基等のアルキルスルホニル基、トシル基等のアリールスルホニル基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数が通常1以上12以下、好ましくは6以下のアシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数が通常2以上10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の炭素数が通常3以上好ましくは4以上25以下好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基、アセトキシ基等の炭素数が通常2以上20以下のアシルオキシ基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の炭素数が通常1以上10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル、アルケニル、アルキニル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル基、ペンタフルオロフェニル基などの炭素数が通常6以上20以下のハロアリール基などが挙げられる。これらの中でも、負電荷を効率よく非局在化できる観点から、より好ましくは、上記有機基のうち水素原子を有する基の水素原子の一部または全てをフッ素等のハロゲン原子で置換した基、例えば、炭素数1〜20のヘテロ原子を含んでもよい直鎖状、分岐状もしくは環状のパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキルスルホニル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルキルオキシスルホニル基、パーフルオロアリールスルホニル基、パーフルオロアリールオキシスルホニル基、パーフルオロアシル基、パーフルオロアルコキシカルボニル基、パーフルオロアシルオキシ基、パーフルオロアリールオキシカルボニル基、パーフルオロアルケニル基、パーフルオロアルキニル基であり、下記構造式群(1)で表されるが、これに限定されるものではない。また、これらの中でも、炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3〜6の環状パーフルオロアルキル基、炭素数6〜18のパーフルオロアリール基が好ましい。
【0099】
構造式群(1)
【化26】
【0100】
また、前記一般式におけるY〜Yは2価の連結基を示すが、下記一般式(1c)〜(11c)のいずれか1種であることが好ましい。
【0101】
【化27】
(式中、Rは任意の有機基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよい)を表す。)
【0102】
一般式(7c)〜(11c)におけるRは、電子受容性の向上、溶媒への溶解性の観点から、各々独立に、置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基であることが好ましく、より好ましくは前記置換基のうち、電子求引性の置換基を有する有機基であり、例えば、前記構造式群(1)の基が挙げられる。
【0103】
また、本発明におけるアニオンは負電荷が主として酸素原子、窒素原子、炭素原子、ホウ素原子またはガリウム原子上にあるものが好ましく、特に限定されないが、より好ましくは酸素原子、窒素原子、炭素原子、ホウ素原子上にあるものであり、最も好ましくは下記一般式(12c)、(13c)、(14c)、(15c)で表されるものである。
【0104】
【化28】
(式中、RF1〜RF10はそれぞれ独立に電子求引性の有機置換基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよく、またRF1〜RF9はそれぞれが結合して環状あるいはポリマー状になってもよい。)を表し、特に限定されないが、例えば、前記構造式群(1)で示される基が挙げられる。)
【0105】
<電子受容性化合物>
本発明の電子受容性化合物の第1の態様は、既述の本発明の製造方法で製造されてなる電子受容性化合物である。本発明の電子受容性化合物は、電荷輸送性の向上に必要な電子受容性を有するだけでなく、電荷輸送を妨げる不純物が少なくなるため、好ましい。
【0106】
本発明の電子受容性化合物の第2の態様は、アミニウムカチオンラジカル、カルバゾリウムカチオンラジカル、又はチオフェニウムカチオンラジカルと、下記一般式(8b)〜(11b)で表される対アニオンのうちのいずれかとからなる。
【0107】
【化29】
(式中、Y〜Yはそれぞれ独立に二価の連結基、R〜R10はそれぞれ独立に、電子求引性の有機置換基(これらの構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよく、また、R及びR、R4〜R6またはR〜R10はそれぞれが結合して環状あるいはポリマー状になってもよい。)を表す。Eは酸素原子、Eは窒素原子、Eは炭素原子、Eはホウ素原子またはガリウム原子を表す。)
【0108】
電子求引性の有機置換基および二価の連結基は、前記構造式群(1)および(1c)〜(11c)のいずれか1種であることが好ましい。
【0109】
カチオンラジカルは、繰り返し単位を持たない低分子からなっていてもよいし、繰り返し単位を有する高分子からなっていてもよく特に限定されないが、前記一般式(1)〜(58)で表される低分子芳香族アミン、カルバゾール、チオフェン化合物、または以下の一般式(1a)〜(84a)で表される高分子芳香族アミン、カルバゾール、またはチオフェン化合物の構造から、一電子を取り除いた構造が挙げられる。また、電子受容性化合物1分子中に含まれるカチオンラジカル、すなわちアミニウム、カルバゾリウム、チオフェニウム等の部位の数は1つであっても複数であってもよい。
【0110】
【化30】
【0111】
【化31】
【0112】
【化32】
【0113】
【化33】
【0114】
【化34】
【0115】
【化35】
【0116】
【化36】
【0117】
【化37】
【0118】
【化38】
【0119】
【化39】
【0120】
【化40】
【0121】
<重合開始剤>
本発明の重合開始剤は、前記本発明の電子受容性化合物を少なくとも1つ含むことを特徴としている。本発明の重合開始剤は、特に、後記のような有機エレクトロニクス材料に使用することで、重合開始剤としての機能のみならず、電荷輸送性能に優れるという効果を奏する。
本発明の重合開始剤は、電荷輸送性を妨げるカチオンを含まず、高い重合開始活性を有するという観点から、アミニウムカチオンラジカル、カルバゾリウムカチオンラジカル、又はチオフェニウムカチオンラジカルと、前記一般式(8b)〜(11b)で表される対アニオンのうちのいずれかとからなる電子受容性化合物を含むことが特に好ましい。
【0122】
<有機エレクトロニクス材料>
本発明における有機エレクトロニクス材料は、本発明の電子受容性化合物を少なくとも1つ含むことを特徴としている。本発明の電子受容性化合物は重合開始剤として機能し、当該重合開始能により、公知の重合性官能基を有する化合物を重合させることができる点で好ましく、また電子受容性化合物としての機能により、電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物を生成し、電荷の輸送性を向上できる点で好ましい。
【0123】
本発明の有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性に優れるイオン化合物を生成させるため、前記電子受容性化合物の他に電荷輸送性化合物を含んでいることが好ましい。ここでいう電荷輸送性化合物は特に制限されないが、例えば、前記一般式(1)〜(58)で表される化合物が挙げられる。
【0124】
さらに、溶媒への溶解度、成膜性の観点から、前記電荷輸送性化合物はポリマーまたはオリゴマーであることが好ましい。
【0125】
また、前記ポリマー又はオリゴマーは前記一般式(1a)〜(84a)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0126】
また、前記電荷輸送性化合物がポリマー又はオリゴマーである場合、溶剤への溶解性、成膜性の観点から数平均分子量が、1,000以上1,000,000以下であることが好ましい。より好ましくは2,000以上900,000以下、さらに好ましくは3,000以上800,000以下である。1,000より小さいと化合物が結晶化しやすくなり、成膜性に劣ってしまう。また、1,000,000より大きいと溶剤への溶解度が低下し、塗布溶液や塗布インクを作製するのが困難になる。
【0127】
また上記電荷輸送性化合物は溶解度を変化させるため、一つ以上の「重合可能な置換基」を有することが好ましい。ここで、上記「重合可能な置換基」とは、重合反応を起こすことにより2分子以上の分子間で結合を形成可能な置換基のことであり、以下、その詳細について述べる。
【0128】
上記重合可能な置換基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、アレーン基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、フリル基、ピロール基、チオフェン基、シロール基等を挙げることができる)、小員環を有する基(たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)、ラクトン基、ラクタム基、またはシロキサン誘導体を含有する基等が挙げられる。また、上記基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせなども利用できる。例えば、エステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基などの組み合わせである。重合可能な置換基としては、特に、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基、アクリレート基、メタクリレート基が反応性の観点から好ましく、オキセタン基が最も好ましい。重合性置換基の自由度を上げ、硬化反応を生じさせやすくする観点から、電荷輸送性化合物における重合性置換基が、炭素数1〜8のアルキル鎖で連結されていることがより好ましい。また、ITOなどの親水性電極との親和性を上げる観点からは、前記アルキル鎖がエチレングリコールやジエチレングリコールなどの親水性基であるとより好ましい。また、対応する化合物の調製が容易になる観点からは、前記アルキル鎖の末端部、すなわち重合性置換基との連結部、電荷輸送性化合物との連結部において、エーテル結合を有していてもよく、具体的には前記置換基群(A)〜(C)で表される。
【0129】
また、本発明におけるポリマー又はオリゴマーは、溶解度や耐熱性、電気的特性の調整のため、上記繰り返し単位の他に、上記アリーレン基、ヘテロアリーレン基として、下記構造式群(O)で表される構造を共重合繰り返し単位として有する共重合体であってもよい。この場合、共重合体では、ランダム、ブロックまたはグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。また、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。
【0130】
構造式群(O)
【化41】
【0131】
本発明に係る重合開始剤たる電子受容性化合物において、重合を開始させる契機としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加など、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に限定されないが、光照射および/または加熱であることが好ましく、重合開始工程が簡便に行える観点から加熱によることが最も好ましい。すなわち、本発明の電子受容性化合物は、熱重合開始剤として使用することができる。
【0132】
本発明において、重合開始剤たる電子受容性化合物を用いる条件は、重合可能な置換基を有する電荷輸送性化合物の質量に対し、0.1〜50質量%の重合開始剤を用いて薄膜を形成したのち、真空中、大気下あるいは窒素雰囲気下で加熱すればよい。加熱温度・時間は、重合反応を十分に進行させられればよく、特に制限はないが、温度については、種々の基板を適用できることから、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。時間は、生産性を上げる観点から、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、さらに好ましくは30分以下である。
【0133】
また、本発明の有機エレクトロニクス材料は、上記電子受容性化合物の他、感光性および/または感熱性を向上させるための増感剤を含んでいてもよい。
【0134】
<有機薄膜>
本発明の有機薄膜は、既述の本発明の重合開始剤及び/又は既述の本発明の有機エレクトロニクス材料を少なくとも1つ含むことを特徴としている。
本発明の有機薄膜は、本発明の重合開始剤による優れた重合開始能により低温硬化可能で、有機薄膜の積層構造の作製が可能であり、また本発明の有機エレクトロニクス材料の優れた電子輸送性により有機EL素子に適用した場合、駆動電圧の低下、電流密度の向上を図ることができる。
【0135】
<インク組成物>
本発明のインク組成物は、既述の本発明の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含むことを特徴としている。本発明のインク組成物は、上述の本発明の有機薄膜を形成するのに有用であり、例えば、当該インク組成物を基板に塗布することによって有機薄膜が得られる。
本発明のインク組成物は、上記成分の他、その他の添加剤、例えば重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤などを含んでいてもよい。前記溶媒としては、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられるが、好ましくは芳香族溶媒、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテルを使用することができる。
本発明のインク組成物において、溶媒に対する有機エレクトロニクス材料の含有量は、 種々の塗布プロセスに適用できる観点から0.1〜30質量%とすることが好ましい。
【0136】
<有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子>
本発明の有機エレクトロニクス素子は、既述の本発明の有機薄膜を少なくとも1つ含むことを特徴としている。
同様に、本発明の有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)は、既述の本発明の有機薄膜を少なくとも1つ含むことを特徴としている。
いずれの素子も、有機薄膜として、本発明の有機薄膜を含み、有機薄膜の多層化が容易であるとともに、電荷輸送性に優れており、高効率で長寿命な素子である。
以下に、本発明のEL素子について詳述する。
【0137】
[有機EL素子]
本発明の有機エレクトロニクス素子は、電子受容性化合物を含む有機エレクトロニクス材料からなる有機薄膜を含むことをその特徴とするものである。本発明の有機EL素子は、発光層、重合層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されず、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層などの他の層を有していてもよい。また、正孔注入層又は正孔輸送層に、本発明の有機薄膜を適用することが好ましい。
以下、各層について詳細に説明する。
【0138】
[発光層]
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマーまたはオリゴマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクリドン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))、スチルベン、これらの誘導体があげられる。蛍光発光を利用するポリマーまたはオリゴマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、及びこれらの誘導体や混合物が好適に利用できる。
【0139】
一方、近年有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(M.A.Baldo et al.,Nature,vol.395,p.151(1998)、M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,vol.75,p.4(1999)、M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)参照。)。
【0140】
本発明の有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが好ましい。燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート〕、緑色発光を行うIr(ppy)〔ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〕(前記M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)参照)又はAdachi etal.,Appl.Phys.Lett.,78no.11,2001,1622に示される赤色発光を行う(btp)Ir(acac){bis〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C3〕イリジウム(アセチル−アセトネート)}、Ir(piq)〔トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム〕等が挙げられる。
【0141】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。またこれらの誘導体も好適に使用できる。
【0142】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。
ホスト材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、デンドリマーなども使用できる。
【0143】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-biphenyl)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-2,2’-dimethylbiphenyl)などが、高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレンなどが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0144】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。
塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができ、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。
【0145】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0146】
[陽極]
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0147】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-. phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole) (PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。
【0148】
[基板]
本発明の有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはなく、また、透明のものであれば特に制限は無いが、ガラス、石英、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。樹脂フィルムを用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり(つまり、フレキシブル基板)、特に好ましい。
【0149】
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0150】
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気や酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素や窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0151】
[発光色]
本発明の有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、白色発光素子は家庭用照明、車内照明、時計や液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0152】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させることで白色発光を得ている。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、赤色の3つの発光極大波長を含有するもの、青色と黄色、黄緑色と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有するものが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0153】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本発明の表示素子は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。
例えば、赤・緑・青(RGB)の各画素に対応する素子として、本発明の有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。
画像の形成には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるため文字などの表示に用いる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレイ用として用いられる。
【0154】
また、本発明の照明装置は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。さらに、本発明の表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えたことを特徴としている。バックライト(白色発光光源)として上述の本発明の照明装置を用い、表示手段として液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置としてもよい。この構成は、公知の液晶表示装置において、バックライトのみを本発明の照明装置に置き換えた構成であり、液晶素子部分は公知技術を転用することができる。
【実施例】
【0155】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0156】
<電子受容性化合物の合成>
(電子受容性化合物1)
4,4’−ジブロモ−4’’−n−ブチルトリフェニルアミン(1.63g,3.55mmol)と、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(3.61g,3.55mmol)とを三つ口フラスコ中でクロロベンゼン(15mL)に溶解した。撹拌下オイルバスで加熱しながら真空ポンプでフラスコ内を減圧し、溶媒を留去した。その後、オイルバスを200℃に昇温し、減圧状態のままで加熱乾燥を10時間行った。フラスコを十分放冷した後に、得られた黒色固体をヘキサンにてろ過し、減圧下で十分に乾燥した。黒色の固体として電子受容性化合物1を3.11g得た。収率は77.0%であった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0157】
【化42】
【0158】
(電子受容性化合物2)
N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(1.88g,3.63mmol)と、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(3.69g,3.63mmol)とを三つ口フラスコ中でクロロベンゼン(15mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物1の合成と同様にして、黒色の固体として電子受容性化合物2を4.12g得た。収率は94.9%であった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0159】
【化43】
【0160】
(電子受容性化合物3)
4,4’−ジブロモ−4’’−n−オクチルトリフェニルアミン(1.07g,2.07mmol)と、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(2.10g,2.07mmol)とを三つ口フラスコ中でクロロベンゼン(15mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物1の合成と同様にして、黒色の固体として電子受容性化合物3を1.58g得た。収率は63.9%であった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0161】
【化44】
【0162】
(電子受容性化合物4)
9,9−ジオクチルフルオレン−N−(4−n−ブチルフェニル)ジフェニルアミン交互共重合体(Mw=10,000,319mg)と、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(469mg,0.462mmol)とを三つ口フラスコ中でクロロベンゼン(10mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物1の合成と同様にして、黒色の固体として電子受容性化合物4を586mg得た。収率は92.6%であった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0163】
【化45】
【0164】
(電子受容性化合物5)
4,4’−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)ビフェニル(304mg,0.627mmol)と、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(637mg,0.627mmol)とを三つ口フラスコ中でクロロベンゼン(10mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物1の合成と同様にして、黒色の固体として電子受容性化合物5を546mg得た。収率は74.8%であった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0165】
【化46】
【0166】
(電子受容性化合物6)
4,4’−ジブロモ−4’’−n−ブチルトリフェニルアミン(226mg,0.492mmol)と、4,4’−ビス(t−ブチル)ジフェニルヨードニウム ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(479mg,0.492mmol)とを三つ口フラスコ中でo−ジクロロベンゼン(15mL)に溶解した。撹拌下オイルバスで加熱しながら真空ポンプでフラスコ内を減圧し、溶媒を留去した。その後、オイルバスを200℃に昇温し、減圧状態のままで加熱乾燥を10時間行った。フラスコを十分放冷した後に、得られた黒色固体をヘキサンにてろ過し、減圧下で十分に乾燥した。黒色の固体として電子受容性化合物6を287mg得た。収率は56.1%だった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0167】
【化47】
【0168】
(電子受容性化合物7)
N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニルベンジジン(535mg,0.908mmol)と、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(923mg,0.908mmol)を三つ口フラスコ中でクロロベンゼン(10mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物1の合成と同様にして、黒赤色の固体として電子受容性化合物7を994mg得た。収率は86.3%だった。以下の過程を下記反応式に示す。
【0169】
【化48】
【0170】
(電子受容性化合物8)
N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(168mg,0.325mmol)と、4,4’−ビス(t−ブチル)ジフェニルヨードニウム ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(317mg,0.325mmol)とを三つ口フラスコ中でo−ジクロロベンゼン(15mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物6の合成と同様にして、黒色の固体として電子受容性化合物8を178mg得た。収率は49.8%だった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0171】
【化49】
【0172】
(電子受容性化合物9)
N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニルベンジジン(184mg,0.313mmol)と、4,4’−ビス(t−ブチル)ジフェニルヨードニウム ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(305mg,0.313mmol)とを三つ口フラスコ中でo−ジクロロベンゼン(15mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物6の合成と同様にして、黒緑色の固体として電子受容性化合物9を169mg得た。収率は46.2%だった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0173】
【化50】
【0174】
(電子受容性化合物10)
4,4’−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)ビフェニル(151mg,0.312mmol)と、4,4’−ビス(t−ブチル)ジフェニルヨードニウム ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(304mg,0.312mmol)とを三つ口フラスコ中でo−ジクロロベンゼン(15mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物6の合成と同様にして、濃緑色の固体として電子受容性化合物10を175mg得た。収率は52.7%だった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0175】
【化51】
【0176】
(電子受容性化合物11)
N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(248mg,0.481mmol)と、4,4’−ビス(t−ブチル)ジフェニルヨードニウム ペンタフルオロベンゼンスルホナート(308mg,0.481mmol)とを三つ口フラスコ中でo−ジクロロベンゼン(15mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物6の合成と同様にして、濃緑色の固体として電子受容性化合物11を247mg得た。収率は67.2%だった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0177】
【化52】
【0178】
(電子受容性化合物12)
N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニルベンジジン(289mg,0.491mmol)と4,4’−ビス(t−ブチル)ジフェニルヨードニウム ペンタフルオロベンゼンスルホナート(314mg,0.491mmol)とを三つ口フラスコ中でo−ジクロロベンゼン(15mL)に溶解した。その後、電子受容性化合物6の合成と同様にして、濃緑色の固体として電子受容性化合物12を212mg得た。収率は51.7%だった。以上の過程を下記反応式に示す。
【0179】
【化53】
【0180】
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール(15ml)を加え、30分間攪拌した。同様に、サンプル管にトリス(t−ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5ml)を加え、5分間攪拌した。これらの溶液を混合し室温で30分間攪拌し触媒とした。
【0181】
<電荷輸送性化合物の合成>
三口丸底フラスコに、下記モノマー1(4.0mmol)、下記モノマー2(5.0mmol)、下記モノマー3(2.0mmol)、アニソール(20ml)を加え、さらに調製したPd触媒溶液(7.5ml)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20ml)を加えた。すべての溶媒は30分以上窒素バブルにより脱気した後、使用した。この混合物を2時間加熱・還流した。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。
【0182】
【化54】
【0183】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過し、トルエンに溶解し、triphenylphosphine,polymer−bound on styrene−divinylbenzene copolymer(strem chemicals社 、ポリマー100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、triphenylphosphine,polymer−bound on styrene−divinylbenzene copolymerと不溶物をろ過して取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。残さをトルエンに溶解した後、メタノール−アセトン(8:3)から再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−アセトン(8:3)で洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、ポリマー1を得た。分子量は、溶離液にTHFを用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。得られたポリマー1の数平均分子量は7,800、重量平均分子量は31,000であった。
【0184】
<重合開始活性の評価>
[実施例1]
ポリマー1(4.5mg)のトルエン溶液(900μl)と前記電子受容性化合物2の酢酸エチル溶液(電子受容性化合物2 5μg/1μL、100μL)を混合した塗布溶液を、3000rpmで石英板上にスピンコートした。ついで、ホットプレート上180℃で10分間加熱して重合反応を行った。加熱後にトルエン溶媒に石英板を1分間浸漬し、洗浄をおこなった。洗浄前後のUV−visスペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、残膜率を測定したところ、98%であった。
残膜率(%)=洗浄後Abs/洗浄前Abs×100
【0185】
[実施例2]
実施例1における電子受容性化合物2を電子受容性化合物3に変更したこと以外は同様にして残膜率を測定したところ、94%であった。
【0186】
[比較例1]
実施例1の電子受容性化合物2をジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート(Aldrich製)に変えた以外は同様にして、残膜率を測定したところ、10%であった。
【0187】
[比較例2]
実施例1の電子受容性化合物2をトリフェニルスルホニウム テトラフルオロボラート(東京化成工業製)に変えた以外は同様にして薄膜を作製し、残膜率を求めたところ、8%であった。
【0188】
【表1】
【0189】
実施例1、2および比較例1、2の比較により、本発明の電子受容性化合物は低温で硬化可能な重合開始剤として機能していることがわかる。また、これにより、有機薄膜の積層構造を作製可能であることがわかる。
【0190】
<有機EL素子の作製>
[実施例3]
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、上記で得たポリマー1(4.5mg)、前記電子受容性化合物2の酢酸エチル溶液(電子受容性化合物2:5μg/1μL、100μL)、トルエン(400μL)を混合した塗布溶液を、3000min−1でスピンコートした後、ホットプレート上で180℃、10分間加熱して硬化させ、正孔注入層(40nm)を形成した。
【0191】
次に、窒素中、CDBP(15mg)、FIr(pic)(0.9mg)、Ir(ppy)3(0.9mg)、(btp)2Ir(acac)(1.2mg)、ジクロロベンゼン(0.5mL)の混合物を、3000rpmにてスピンコートし、次いで80℃で5分間乾燥させて発光層(40nm)を形成した。さらに、実施例1と同様にして、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着し、封止処理して白色有機EL素子および照明装置を作製した。
【0192】
この白色有機EL素子および照明装置に電圧を印加したところ、3.5Vで白色発光が観測された。
【0193】
[比較例3]
正孔注入層の形成時に前記電子受容性化合物の酢酸エチル溶液を加えなかった以外、実施例4と同様にして白色有機EL素子および照明装置を作製した。
【0194】
この白色有機EL素子および照明装置に電圧を印加したところ、10.0Vで白色発光が観測されたが、発光寿命は実施例4の1/3であった。
【0195】
[実施例4]
上記で得たポリマー1(9.5mg)をトルエン(510μL)に溶解し、前記電子受容性化合物2の酢酸エチル溶液(電子受容性化合物2:5μg/1μL、210μL)を加えた塗布溶液を調製した。ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、窒素雰囲気下で塗布溶液を3000min−1でスピンコートした後、ホットプレート上で180℃、10分間加熱して硬化させ、正孔注入層(60nm)を形成した。
【0196】
次に、窒素雰囲気下で下記黄緑色発光ポリマ(10mg)、トルエン(566μL)の混合物を4000min−1でスピンコートし、次いで80℃で5分間乾燥させて発光層(100nm)を形成した。次に得られたITOガラス基板を真空蒸着機中に移し、Ba(3nm)、Al(100nm)を順に蒸着した。
Alを蒸着後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITOガラス基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い、有機EL素子を作製した。
【0197】
【化55】
【0198】
この有機EL素子に電圧を印加したところ、3.0Vで黄緑色発光が観測された。
【0199】
[比較例4]
実施例4における電子受容性化合物2を4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートに変えた以外は同様にして有機EL素子を作製し、電圧を印加したところ、3.5Vで黄緑色発光が観測された。
【0200】
実施例4および比較例4の有機EL素子における印加電圧と電流密度の関係を図2に示す。
【0201】
実施例3と比較例3および実施例4と比較例4の比較により、本発明の電子受容性化合物を含む有機エレクトロニクス材料を用いることで、電荷輸送性に優れた薄膜が得られ、有機EL素子の低駆動電圧下、長寿命化、電流密度の向上を図れることがわかる。
【符号の説明】
【0202】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板
図1
図2