特許第6222296号(P6222296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222296
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】多孔質膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20171023BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20171023BHJP
   C08J 9/42 20060101ALI20171023BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01M2/16 M
   C08J9/28CEP
   C08J9/42
   H01M2/16 P
   H01M2/16 L
   H01M10/0566
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-126312(P2016-126312)
(22)【出願日】2016年6月27日
(62)【分割の表示】特願2014-153627(P2014-153627)の分割
【原出願日】2014年7月29日
(65)【公開番号】特開2017-4960(P2017-4960A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113000
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100151909
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 徹
(72)【発明者】
【氏名】緒方 俊彦
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−280911(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165624(WO,A1)
【文献】 特開2011−018590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
C08J 9/28
C08J 9/42
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂と、を含み、
前記ノニオン性の親水性基が、ポリオキシエチレン構造を有し、
前記無機粉末とバインダー樹脂との合計量に対する前記無機粉末の割合が70質量%以上であり、
水分含有量が0.15%未満である非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項2】
疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物がノニオン性界面活性剤である請求項1に記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項3】
無機粉末が、金属酸化物、又は金属炭酸化物である請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項4】
無機粉末が、アルミナである請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項5】
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解液二次電池用多孔膜。
【請求項6】
バインダー樹脂が、水溶性の樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔質膜と、当該多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔質膜を含む非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項9】
請求項7または8に記載の非水電解液二次電池用セパレータを用いた非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液電池は、パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用されている。
非水電解液電池には、通常、正極と負極とを分離する部材としてセパレータが用いられている。従来、セパレータにはポリオレフィンからなる多孔質膜が用いられてきたが、耐熱性が十分でないという問題を有していた。
耐熱性に優れたセパレータとして、例えば、特許文献1には、ポリオレフィンからなる多孔質膜に、無機粉末とポリビニルアルコールからなる多孔質膜を積層したセパレータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−186721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリオレフィンからなる多孔質膜に、無機粉末を含む多孔質膜を積層したセパレータは、カールし易く、電池組み立て時の作業性が低下する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の発明を含む。
[1] 疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂と、を含む多孔質膜。
[2] 疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物がノニオン性界面活性剤である[1]に記載の多孔質膜。
[3] 無機粉末が、金属酸化物、金属水酸化物、又は金属炭酸化物である[1]又は[2]に記載の多孔質膜。
[4] ノニオン性の親水性基が、ポリオキシエチレン構造を有する[1]〜[3]のいずれかに記載の多孔質膜。
[5] バインダー樹脂が、水溶性の樹脂である[1]〜[4]のいずれかに記載の多孔質膜。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載の多孔質膜と、[1]〜[5]のいずれかに記載の多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された積層多孔質フィルム。
[7] 疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂と、溶媒と、を含む塗工液。
[8] [1]〜[5]のいずれかに記載の多孔質膜を含む非水電解液電池用セパレータ。
[9] [8]に記載の非水電解液電池用セパレータを用いた非水電解液電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポリオレフィンからなる多孔質膜と、無機粉末を含む多孔質膜とを積層した、カールし難い積層多孔質フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<本発明の多孔質膜>
本発明の多孔質膜(以下、本多孔質膜ということがある)は、その内部に連結した細孔を有する構造であり、多孔質であるため、一方の面から他方の面に気体、液体及びイオン等が透過可能であり、さらに、無機粉末を含むため耐熱性が高く、本多孔質膜を含む積層多孔質フィルムに高温時における形状安定性を付与することができる。よって、本多孔質膜は、非水電解液電池用セパレータに好適に含まれる。
【0008】
さらに、本多孔質膜は、疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物(以下、本化合物ということがある)を含むことによって、カールを抑制することができる。
ポリオレフィンからなる多孔質膜と、無機粉末を含む多孔質膜とは、極性が異なるため、水との親和性が異なり、同じ環境に置かれたときの吸水量が異なることがある。そのため、吸水したときのそれぞれの膜の寸法変化量に違いが生じ、積層多孔質フィルムにカールが発生する。
無機粉末は一般的に極性が高いため、水との相互作用が強い。このような無機粉末と、本化合物が有するノニオン性の親水性基とが、相互作用することによって、無機粉末の表面に本化合物が付着し、そして、本化合物が有する疎水性基によって無機粉末の表面を覆うことによって、無機粉末と水との相互作用を低減することができると考えられる。よって、本多孔質膜の水分含有量を低くすることができ、ポリオレフィンからなる多孔質膜の水分含有量と近くなるためカールは抑制される。
【0009】
本多孔質膜の水分含有量は、好ましくは0.15%未満である。多孔質膜の水分含有量が0.15%未満だとカールの発生量がより少なくなり、また、本多孔質膜を用いた非水電解液電池の充放電サイクル特性が高くなる傾向がある。
【0010】
<疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物>
ノニオン性の親水性基をしては、ポリオキシエチレン構造を有する基、及びヒドロキシ基等が挙げられる。また、本化合物は、好ましくはアニオン性基及びカチオン性基等のイオン性基を有さない。本明細書におけるアニオン性基とは、スルホン酸塩及びカルボン酸塩等の塩、及び、スルホン酸及びカルボン酸等のpKaが10未満の酸基のことである。
すなわち、pKaが10以上である一般的なヒドロキシ基はアニオン性基ではなく、ノニオン性基に該当する。
【0011】
疎水性基としては、炭化水素基、フッ化炭素基を含む基、及び、ケイ素を含む基等が挙げられ、好ましくは炭化水素基である。
【0012】
炭化水素基は、好ましくは炭素数3〜30の炭化水素基である。炭素数3〜30の炭化水素基としてはプロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基(=エイコシル基)、ヘンイコシル基(=ヘンエイコシル基)、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基、プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基(=エイコセニル基)、ヘンイコセニル基(=ヘンエイコセニル基)、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基、プロピニル基、2−プロピニル基、イソプロピニル基、ブチニル基、イソブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、トリデシニル基、テトラデシニル基、ペンタデシニル基、ヘキサデシニル基、ヘプタデシニル基、オクタデシニル基、ノナデシニル基、イコシニル基(=エイコシニル基)、ヘンイコシニル基(=ヘンエイコシニル基)、ドコシニル基、トリコシニル基、テトラコシニル基、ペンタコシニル基、ヘキサコシニル基、ヘプタコシニル基、オクタコシニル基、ノナコシニル基、及びトリアコンチニル基等が挙げられる。
【0013】
フッ化炭素基を含む基は、好ましくは炭素数3〜30のフッ化炭素基を含むである。炭素数3〜30のフッ化炭素基を含む基としては、上記炭化水素基の水素原子の一部または全てがフッ素原子に置き換わった基が挙げられる。例えば、パーフルオロプロピル基、イソパーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、イソパーフルオロブチル基、sec−パーフルオロブチル基、t−パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、イソパーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、イソパーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、イソパーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、イソパーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、イソパーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロウンデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロトリデシル基、パーフルオロテトラデシル基、パーフルオロペンタデシル基、パーフルオロヘキサデシル基、パーフルオロヘプタデシル基、パーフルオロオクタデシル基、パーフルオロノナデシル基、パーフルオロイコシル基(=パーフルオロエイコシル基)、パーフルオロヘンイコシル基(=パーフルオロヘンエイコシル基)、パーフルオロドコシル基、パーフルオロトリコシル基、パーフルオロテトラコシル基、パーフルオロペンタコシル基、パーフルオロヘキサコシル基、パーフルオロヘプタコシル基、パーフルオロオクタコシル基、パーフルオロノナコシル基、パーフルオロトリアコンチル基、パーフルオロプロペニル基、パーフルオロアリル基、イソパーフルオロプロペニル基、パーフルオロブテニル基、イソパーフルオロブテニル基、パーフルオロペンテニル基、パーフルオロヘキセニル基、パーフルオロヘプテニル基、パーフルオロオクテニル基、パーフルオロノネニル基、パーフルオロデセニル基、パーフルオロウンデセニル基、パーフルオロドデセニル基、パーフルオロトリデセニル基、パーフルオロテトラデセニル基、パーフルオロペンタデセニル基、パーフルオロヘキサデセニル基、パーフルオロヘプタデセニル基、パーフルオロオクタデセニル基、パーフルオロノナデセニル基、パーフルオロイコセニル基(=パーフルオロエイコセニル基)、パーフルオロヘンイコセニル基(=パーフルオロヘンエイコセニル基)、パーフルオロドコセニル基、パーフルオロトリコセニル基、パーフルオロテトラコセニル基、パーフルオロペンタコセニル基、パーフルオロヘキサコセニル基、パーフルオロヘプタコセニル基、パーフルオロオクタコセニル基、パーフルオロノナコセニル基、パーフルオロトリアコンテニル基、パーフルオロプロピニル基、2−パーフルオロプロピニル基、イソパーフルオロプロピニル基、パーフルオロブチニル基、イソパーフルオロブチニル基、パーフルオロペンチニル基、パーフルオロヘキシニル基、パーフルオロヘプチニル基、パーフルオロオクチニル基、パーフルオロノニニル基、パーフルオロデシニル基、パーフルオロウンデシニル基、パーフルオロドデシニル基、トリデシニル基、テトラデシニル基、ペンタデシニル基、ヘキサデシニル基、ヘプタデシニル基、パーフルオロオクタデシニル基、パーフルオロノナデシニル基、パーフルオロイコシニル基(=パーフルオロエイコシニル基)、パーフルオロヘンイコシニル基(=パーフルオロヘンエイコシニル基)、パーフルオロドコシニル基、パーフルオロトリコシニル基、パーフルオロテトラコシニル基、パーフルオロペンタコシニル基、パーフルオロヘキサコシニル基、パーフルオロヘプタコシニル基、パーフルオロオクタコシニル基、パーフルオロノナコシニル基、及びパーフルオロトリアコンチニル基が挙げられる。
また、前記炭化水素基及びフッ化炭素基は、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、及びアミド結合等で連結されていてもよい。
【0014】
ケイ素を含む基としてはアルキルシリル基、ジアルキルシリル基、トリアルキルシリル基、アルキルシロキサン、ジアルキルシロキサン、トリアルキルシロキサン等が挙げられる。
【0015】
本化合物は、好ましくはノニオン性の界面活性剤である。
【0016】
本化合物としては、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジブロック共重合体、ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールトリブロック共重合体等のポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレンオキサイドポリプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体等のポリオキシエチレン構造を有する化合物;及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のソルビタン誘導体等が挙げられる。好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテルである。
【0017】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンメチルエーテル、ポリオキシエチレンエチルエーテル、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンイソプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンイソブチルエーテル、ポリオキシエチレンsec−ブチルエーテル、ポリオキシエチレン−t−ブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンイソペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンイソヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンイソノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンウンデシルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンペンタデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプタデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル、ポリオキシエチレンノナデシルエーテル、ポリオキシエチレンイコシルエーテル(=ポリオキシエチレンエイコシルエーテル)、ポリオキシエチレンヘンイコシルエーテル(=ポリオキシエチレンヘンエイコシルエーテル)、ポリオキシエチレンドコシルエーテル、ポリオキシエチレントリコシルエーテル、ポリオキシエチレンテトラコシルエーテル、ポリオキシエチレンペンタコシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサコシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプタコシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタコシルエーテル、ポリオキシエチレンノナコシルエーテル、及びポリオキシエチレントリアコンチルエーテル等が挙げられる。
【0018】
本化合物は市場から容易に入手することができる。市販品としては、「エマルゲン(登録商標、花王株式会社製)」、「ニューコール(日本乳化剤株式会社製)」、「レオックス(登録商標、ライオン株式会社製)」、「レオコール(登録商標、ライオン株式会社製)」、「ライオノール(登録商標、ライオン株式会社製)」、「レオソルブ(登録商標、ライオン株式会社製)」、「ラオール(登録商標、ライオン株式会社製)」、「エマルミン(登録商標、三洋化成工業株式会社製)」、「サンノニック(登録商標、三洋化成工業株式会社製)」、「ニューポール(登録商標、三洋化成工業株式会社製)」、及び「サンモリン(登録商標、三洋化成工業株式会社製)」等が挙げられる。
【0019】
無機粉末100質量部に対する本化合物の含有量は、好ましくは0.05〜10質量部である。好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.2質量部以上であり、さらに好ましくは0.3質量部以上である。また、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは3質量部以下であり、さらに好ましくは1.5質量部以下である。
無機粉末100質量部に対する、本化合物の含有量が10質量部を超えると本多孔質膜の耐熱性を損なう傾向がある。
【0020】
<無機粉末>
無機粉末としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、及び金属の硫酸塩等が挙げられ、好ましくは、金属酸化物、金属水酸化物、及び金属炭酸化物であり、さらに好ましくは金属酸化物である。
【0021】
金属酸化物には、金属水酸化物及び金属炭酸化物等のその他の金属成分が含まれてもよい。金属酸化物に含まれるその他の金属成分の割合は、金属酸化物全量に対して、通常30%以下であり、好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは1%以下である。金属酸化物の中でも、化学安定性、高温における形状安定性をより高める点で、アルミナが好ましく、中でもα−アルミナがより好ましい。
【0022】
具体的な無機粉末としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、マイカ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。これらは、単独あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本多孔質膜における無機粉末の割合は、通常本多孔質膜の50質量%を超え、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。また、好ましくは99.5%以下であり、より好ましくは99%いかであり、さらに好ましくは98%以下である。
【0024】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂は、無機粉末同士結着させるものであり、また、本多孔質膜と、本多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜(以下、その他の多孔質膜ということがある)とを結着させる機能も有する。バインダー樹脂は、非水電解液電池の電解液に対して不溶であり、非水電解液電池の使用範囲で電気化学的に安定である樹脂が好ましい。バインダー樹脂としては、例えば、ポリエチレン、及びポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン、及びポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物;メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、及びスチレン−アクリル酸エステル共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル共重合体;エチレンプロピレンラバー等のゴム類;ポリ酢酸ビニル;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステル、芳香族ポリエステル、及びポリエーテルエーテルケトン等の融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリカーボネート;ポリアセタール;並びに、カルボキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、及びポリメタクリル酸等の水溶性の樹脂等の重合体が挙げられる。
中でも、含フッ素樹脂、含フッ素ゴム、融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂、及び水溶性の樹脂が好ましい。含フッ素樹脂、含フッ素ゴム、及び融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂は、非水電解液電池の使用範囲での安定性がより高いため好ましい。
水溶性の樹脂は、プロセスや環境負荷の点で好ましい。水溶性の樹脂の中でも、カルボキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウムが好ましく、セルロースエーテルがより好ましい。これらのバインダー樹脂は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
セルロースエーテルとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、及びオキシエチルセルロース等が挙げられる。中でも、化学的、熱的な安定性に優れたCMC、HECが好ましく、CMCがより好ましい。
【0026】
ポリアミドは、好ましくは芳香族ポリアミドであり、特に好ましくは、パラ配向芳香族ポリアミド(以下、「パラアラミド」ということがある。)である。
【0027】
パラアラミドは、通常、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られ、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。パラアラミドとしては、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが挙げられる。
【0028】
ポリイミドは、好ましくは芳香族ポリイミドであり、より好ましくは全芳香族ポリイミドである。芳香族ポリイミドは、通常、芳香族の二酸無水物とジアミンの縮重合で製造される。二酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’、4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。ジアミンとしては、例えば、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、及び1,5’−ナフタレンジアミンが挙げられる。
【0029】
ポリアミドイミドは、好ましくは芳香族ポリアミドイミドである。芳香族ポリアミドイミドは、通常、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られ、また、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合からも得ることができる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、及びテレフタル酸が挙げられる。芳香族二酸無水物としては、例えば、無水トリメリット酸が挙げられる。芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリランジイソシアネート、及びm−キシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0030】
本多孔質膜中のバインダー樹脂と無機粉末の合計量に対する、無機粉末の割合は、通常50質量%を超え、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。また、好ましくは99.5%以下であり、より好ましくは99%いかであり、さらに好ましくは98%以下である。無機粉末の割合が、上記特定の範囲であることで、イオン透過性と、粉落ちのし難さとのバランスに優れる本多孔膜が得られる。粉落ちとは、本多孔質膜から無機粉末が剥がれる現象である。
【0031】
本多孔質は、本多孔質の機能を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分として、例えば、分散剤、可塑剤、pH調製剤が挙げられる。
【0032】
本多孔質膜の厚さは、通常0.1〜20μmであり、好ましくは1〜10μmである。
厚さが0.1μm未満であると、本多孔質膜を含む非水電解液電池用セパレータの耐熱性が不十分になる傾向がある。例えば、本多孔質膜と、ポリオレフィンからなる多孔質膜と、が積層された積層多孔質フィルムを非水電解液電池用セパレータに用いた場合には、本多孔質膜の厚さが0.1μm未満であると、非水電解液電池に事故等により発熱が生じたときにポリオレフィンからなる多孔質膜の熱収縮に抗しきれず該セパレータが収縮する恐れがあり、20μmを超えると、該セパレータの厚さが厚くなり、電池の容量が小さくなる恐れがある。
【0033】
本多孔質膜の空隙率は、通常20〜80体積%であり、好ましくは30〜70体積%である。
空隙率が20体積%未満では電解液の保持量が少なくなる虞があり、80体積%を超えると本多孔質膜の耐熱性を損なう虞がある、すなわち電池が激しく発熱したときに電流が遮断できなくなる虞がある。
【0034】
本多孔質膜が有する孔の孔径は、優れたイオン透過性を有し、かつ正極や負極への粒子の入り込みを防止する観点から、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0035】
本多孔質膜の透過率は、通常、透気度で表される。本多孔質膜の透気度は、通常30〜1000sec/100ccであり、好ましくは50〜800sec/100ccである。
【0036】
本多孔質膜の目付は、通常4〜20g/mであり、好ましくは5〜12g/mである。目付けが4g/m未満であると、強度が不十分となる虞があり、20g/mを超えると、本多孔質膜の厚さが厚くなり、電池の容量が小さくなる虞がある。
【0037】
<積層多孔質フィルム>
本多孔質膜は、その他の多孔質膜と積層した積層多孔質フィルム(以下、本積層多孔質フィルムということがある)として非水電解液電池用セパレータに用いられる。該その他の多孔質膜としては、例えば、ビスコースレーヨン、天然セルロース等の抄紙;セルロース、ポリエステル等の繊維を抄紙して得られる混抄紙;電解紙;クラフト紙;マニラ紙;ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布、ガラス繊維、多孔質ポリオレフィン(例えば、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレン)、多孔質ポリエステル、アラミド繊維、ポリブチレンテレフタレート不織布、パラ系全芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの共重合体、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂等の不織布又は多孔質膜;プロトン伝導型ポリマー;等の膜が挙げられる。好ましくはポリオレフィンからなる多孔質膜(以下、ポリオレフィン膜ということがある)である。
【0038】
本積層多孔質フィルムは、その他の多孔質膜と本多孔質膜とを複数有していてもよく、例えば、その他の多孔質膜の両面に本多孔質膜が積層されていてもよい。また、その他の多孔質膜の両面に本多孔質膜が積層される場合には、本多孔質膜はそれぞれ異なる本化合物、無機粉末及びバインダー樹脂を含んでいてもよい。
【0039】
ポリオレフィン膜は、電池が激しく発熱した時に、溶融して無孔化することにより、本積層多孔質フィルムにシャットダウンの機能を付与する。また、本多孔質膜は、シャットダウンが生じる高温における耐熱性を有しているので、本積層多孔質フィルムは高温でも形状安定性を有する。
【0040】
本積層多孔質膜の水分含有量は、好ましくは0.15%未満である。
多孔質膜の水分含有量が0.15%以上だと電池の充放電サイクル特性を損なう虞がある。
【0041】
本積層多孔質フィルムを非水電解液電池用セパレータとして含む非水電解液電池の50%破壊電圧は、好ましくは4.40V以上である。当該非水電解液二次電池は、電池電圧が4.40V以上と大きく、電池容量が大きい場合でも、内部短絡が生じた際の異常発熱が抑制される、つまりは内部短絡に対する安全性に優れるものとなる。
【0042】
本積層多孔質フィルムの膜抵抗は、電池特性(イオン透過性、負荷特性)の点から、好ましくは0.25〜5.00Ω・cmである。膜抵抗が0.25Ω・cm未満であると、イオン透過性には優れるものの、微小短絡が発生する危険性が高まる恐れがあり、5.00Ω・cmを超えると、良好なイオン透過性が得られず、電池特性が悪化する恐れがある。膜抵抗を大きくするには、例えば、その他の多孔質膜および/または本多孔質膜の、厚さを厚くしたり、空隙率を低くすればよく、膜抵抗を小さくするには、その他の多孔質膜および/または本多孔質膜の、厚さを薄くしたり、空隙率を高くすればよい。
【0043】
本積層多孔質フィルムの厚さは、通常5〜75μmであり、好ましくは10〜50μmである。本積層多孔質フィルムの厚さが5μm未満であると、積層多孔質フィルムが破膜しやすくなる恐れがあり、75μmを超えると、本積層多孔質フィルムの厚さが厚くなり、電池の容量が小さくなる恐れがある。
【0044】
本積層多孔質フィルムに含まれる本多孔質膜の体積目付は、加熱時の安定性および電池特性の点から、通常0.5〜20cc/mであり、好ましくは1〜10cc/mである。体積目付が0.5cc/m未満であると、本積層多孔質フィルムが加熱されたときに破膜しやすくなる恐れがあり、20cc/mを超えると、本積層多孔質フィルムの厚さが厚くなり、電池の容量が小さくなる恐れがある。ただし、本多孔質膜がその他の多孔質膜の両面に積層される場合、体積目付は、両面の合計値とする。
【0045】
本積層多孔質フィルムの透気度は、通常50〜2000sec/100cc、好ましくは70〜1000sec/100ccである。透気度が2000sec/100ccを超えると、電池特性(イオン透過性、負荷特性)を損なう恐れがある。
【0046】
本積層多孔質フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の多孔質膜と本多孔質膜以外の、例えば、接着層、保護層等の多孔質層を含んでもよい。
【0047】
<ポリオレフィン膜>
ポリオレフィン膜に含まれるポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、又は1−ヘキセン等を重合して得られる高分子量の単独重合体、又は共重合体が挙げられる。好ましくは、高分子量ポリエチレンである。これらのポリオレフィンは、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
ポリオレフィンの分子量は、本積層多孔質フィルムを非水電解液電池用セパレータとして非水電解液電池に使用した場合に、本ポリオレフィン膜の電解液への溶解を防止する観点から、重量平均分子量が1×10〜15×10であると好ましい。
【0049】
ポリオレフィン膜に含まれるポリオレフィンの割合は、通常、ポリオレフィン膜に含まれる固形分全体の50体積%を超え、好ましくは70体積%以上であり、より好ましくは90体積%以上であり、さらに好ましくは95体積%以上である。
【0050】
ポリオレフィン膜は、ポリオレフィン膜の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン以外の成分を含んでいてもよい。
【0051】
ポリオレフィン膜の厚さは、通常4〜50μmであり、好ましくは5〜30μmである。厚さが4μm未満であると、本積層多孔質フィルムの強度が不十分となる虞があり、50μmを超えると、本積層多孔質フィルムの厚さが厚くなり、電池の容量が小さくなる虞がある。
【0052】
ポリオレフィン膜の空隙率は、通常20〜80体積%であり、好ましくは30〜70体積%である。
空隙率が20体積%未満では電解液の保持量が少なくなる虞があり、80体積%を超えるとシャットダウンが生じる高温における無孔化が不十分となる虞がある、すなわち電池が激しく発熱したときに電流が遮断できなくなる虞がある。
【0053】
ポリオレフィン膜が有する孔の孔径は、本積層多孔質フィルムを非水電解液電池用セパレータとして用いた際に、優れたイオン透過性を有し、かつ正極や負極への粒子の入り込みを防止する点から、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0054】
ポリオレフィン膜は、その内部に連結した細孔を有す構造であり、一方の面から他方の面に気体、液体及びイオン等が透過可能である。その透過率は、通常、透気度で表される。ポリオレフィン膜の透気度は、通常30〜1000sec/100ccであり、好ましくは50〜800sec/100ccである。
【0055】
ポリオレフィン膜の目付は、通常4〜15g/mであり、好ましくは5〜12g/mである。目付けが4g/m未満であると、本積層多孔質フィルムの強度が不十分となる恐れがあり、15g/mを超えると、本積層多孔質フィルムの厚さが厚くなり、電池の容量が小さくなる恐れがある。
【0056】
<本多孔質膜の製造方法>
本多孔質膜の製造方法としては、本化合物と、無機粉末と、バインダー樹脂とを含有する塗工液(以下、本塗工液ということがある)を基材に塗工して本多孔質膜を形成し、その後、基材を除去することによって形成する方法、及び、本塗工液を基材に塗工した後、本塗工液と混合可能でバインダー樹脂を溶解しない溶媒中に浸漬させ、乾燥することによって多孔質膜を形成し、その後、基材を除去する方法等が挙げられる。
【0057】
本塗工液には、通常、バインダー樹脂を溶解する溶媒が含まれる。また、本塗工液には、本発明の目的を損なわない範囲で、pH調整剤、分散剤、可塑剤、及びアルコール等が含まれていてもよく、好ましくはアルコールが含まれる。
【0058】
前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、イソヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、イソヘプチルアルコール、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、デシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びブタンジオール等が挙げられる。
【0059】
本塗工液におけるアルコールの含有量は、特に制限されず、その他の多孔質膜への塗工を行いやすい性状が得られる様な量とすればよい。本塗工液におけるアルコールの含有量は、バインダー樹脂1質量部に対して、好ましくは1〜1000質量部であり、より好ましくは2〜500質量部であり、さらに好ましくは3〜300質量部であり、さらにより好ましくは5〜200質量部である。
【0060】
<その他の多孔質膜の製造方法>
その他の多孔質膜は、公知の方法によって製造してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0061】
<ポリオレフィン膜の製造方法>
ポリオレフィン膜には、ポリオレフィンを用いて形成したフィルムやシートに、一軸または二軸延伸を施して微細な空孔を形成したもの等を用いることができる。ポリオレフィン膜の製造方法としては、例えば、特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法が挙げられる。例えば、ポリオレフィン膜が、重量平均分子量が100万を超える高分子量ポリエチレンと重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィンとを含むポリオレフィン樹脂から形成される場合には、製造コストの点から、以下の各工程を含む方法により製造することが好ましい。
(a)高分子量ポリエチレン100質量部と、低分子量ポリオレフィン5〜200質量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100〜400質量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る。
(b)前記ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する。
(c)工程(b)で得られたシート中から無機充填剤を除去する。
(d)工程(c)で得られたシートを延伸してポリオレフィン膜を得る。
を含む方法である。
【0062】
<本積層多孔質フィルムの製造方法>
本多孔質膜とその他の多孔質膜とを積層する方法としては、その他の多孔質膜と本多孔質膜とを別々に製造してそれぞれを積層する方法、並びに、その他の多孔質膜に、本塗工液を塗工して本多孔質膜を形成する方法等が挙げられ、より簡便であることから後者の方法が好ましい。
【0063】
その他の多孔質膜に、本塗工液を塗工して本多孔質膜を形成する方法としては、例えば、以下の各工程を含む方法が挙げられる。
(a)本化合物及びバインダー樹脂が溶媒に溶解した溶液に、無機粉末が分散した塗工液を調製する。
(b)該塗工液をその他の多孔質膜に塗工し、塗工膜を形成する。
(c)溶媒除去、又はバインダー樹脂を溶解しない溶媒への浸漬等の手段で、前記塗工膜からバインダー樹脂を析出させ、必要に応じて乾燥する。
【0064】
バインダー樹脂が芳香族ポリアミドである場合の、バインダー樹脂を溶解する溶媒としては、極性アミド系溶媒、及び極性尿素系溶媒が挙げられる。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、及びテトラメチルウレア等が挙げられる。
【0065】
パインダー樹脂がパラアラミドである場合は、パラアラミドの溶媒への溶解性を改善する目的で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物を添加することが好ましい。具体例としては、塩化リチウム、及び塩化カルシウム等が挙げられる。前記塩化物の添加量は、パラアミドが有するアミド基1.0モル当たり0.5〜6.0モルの範囲が好ましく、1.0〜4.0モルの範囲がさらに好ましい。塩化物が0.5モル未満では、パラアラミドの溶解性が不十分となる場合があり、6.0モルを越えると実質的に塩化物の溶媒への溶解度を越えるので好ましくない場合がある。一般に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物が2質量%未満では、パラアラミドの溶解性が不十分となる場合があり、10質量%を越えると該塩化物の溶解性が不十分となる場合がある。
【0066】
バインダー樹脂が芳香族ポリイミドである場合の、バインダー樹脂を溶解する溶媒としては、芳香族ポリアミドを溶解する溶媒として例示したもののほか、ジメチルスルホキサイド、クレゾール、及びo−クロロフェノール等が好適に使用できる。
【0067】
バインダー樹脂が水溶性の樹脂である場合の、バインダー樹脂を溶解する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどを単独、または相溶する範囲で複数混合することが挙げられる。中でも、プロセスや環境負荷の点から、媒体の80質量%以上が水であることが好ましく、水のみがより好ましい。
【0068】
溶媒が水を含む場合は、その他の多孔質膜上に塗工する前に、予めその他の多孔質膜に親水化処理を行うことが好ましい。その他の多孔質膜を親水化処理することにより、より塗布性が向上し、より均質な本多孔質膜を得ることができる。この親水化処理は、特に溶媒中の水の濃度が高いときに有効である。
その他の多孔質膜の親水化処理は、いかなる方法でもよく、具体的には酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
ここで、コロナ処理は、比較的短時間でその他の多孔質膜を親水化できることに加え、コロナ放電による改質が、その他の多孔質膜の表面近傍のみに限られ、その他の多孔質膜内部の性質を変化させることなく、高い塗工性を確保できるという利点がある。
【0069】
その他の多孔質膜上に塗布された塗工液からの溶媒の除去は、加熱乾燥による方法が一般的である。加熱乾燥前の塗工膜を、バインダー樹脂を溶解しない溶媒中に浸漬してバインダー樹脂を析出させた後に、溶媒を加熱乾燥により除去することもできる。なお、塗工液をその他の多孔質膜の上に塗布した場合、溶媒の乾燥温度は、乾燥後のその他の多孔質膜の透気度を変化させない温度が好ましい。
【0070】
本塗工液をその他の多孔質膜に塗工する方法は、均一にウェットコーティングできる方法であれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、キャピラリーコート法、スピンコート法、スリットダイコート法、スプレーコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコーター法、グラビアコーター法、及びダイコーター法などを採用することができる。形成される本多孔質膜の厚さは、本塗工液の塗工量、本塗工液の濃度、及び無機粉末とバインダー樹脂との含有量比を調節することによって制御することができる。なお、塗工時には支持体として、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、又はドラム等を用いることができる。
【0071】
本塗工液を調製する方法としては、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、又はメディア分散法等の方法で攪拌する方法が挙げられる。より均一に無機粉末を分散させることができるため、高圧分散法がより好ましい。
【0072】
<非水電解液電池>
非水電解液電池は、正極と、負極と、該正極と該負極の対向面間に挟まれた非水電解液電池用セパレータと、非水電解液とを備える。
【0073】
非水電解液としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiC(SOCF、Li10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlClなどのうち1種または2種以上の混合物が挙げられる。リチウム塩として、これらの中でもフッ素を含むLiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、およびLiC(CFSOからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0074】
非水電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、Y−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物または前記の物質にフッ素基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの2種以上を混合して用いる。
【0075】
これらの中でもカーボネート類を含むものが好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合物がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートの混合物としては、作動温度範囲が広く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合物が好ましい。
【0076】
正極は、通常、正極活物質、導電剤およびバインダーを含む合剤を集電体上に担持したものを用いる。具体的には、該正極活物質として、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料を含み、導電剤として炭素質材料を含み、バインダーとして熱可塑性樹脂などを含むものを用いることができる。該リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、V、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属を少なくとも1種含むリチウム複合酸化物が挙げられる。中でも好ましくは、平均放電電位が高いという点で、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウムなどのα−NaFeO型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネルなどのスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0077】
リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでもよく、特にTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、前記の少なくとも1種の金属元素が0.1〜20モル%であるように該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル性が向上するので好ましい。
【0078】
バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド、ビニリデンフロライドの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフロロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0079】
導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素質材料が挙げられる。導電材として、それぞれ単独で用いてもよいし、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いてもよい。
【0080】
負極としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金などを用いることができる。リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などの炭素質材料、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物が挙げられる。炭素質材料として、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いため正極と組み合わせた場合大きなエネルギー密度が得られるという点で、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料が好ましい。
【0081】
負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、特にリチウム二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工しやすいという点でCuが好ましい。該負極集電体に負極活物質を含む合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、または溶媒などを用いてペースト化し集電体上に塗布乾燥後プレスするなどして圧着する方法が挙げられる。
【0082】
なお、本発明の電池の形状は、特に限定されるものではなく、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型、ラミネート型などのいずれであってもよい。
【実施例】
【0083】
以下の各実施例、比較例及び参考例において、積層多孔質フィルムの各物性は、以下の方法で測定した。
(1)カール測定:積層多孔質フィルムを8cm×8cm角の正方形に切り出し、室温下、露点−30℃で1日保持した後、端部の持ち上がった高さを測定した。
また、外観を以下の基準で判断を行った。Cは完全にカールした状態を示し、A、Bの状態が好ましく、Aがより好ましい。
A:端部の持ち上がりなし。
B:端部のみ持ち上がるが、端部以外の大部分は持ち上がりなく平坦な状態でいる。
C:両端が近づき、筒状に巻き込んでいる。
(2)寸法保持率:積層多孔質フィルムを5cm×5cm角の正方形に切り出し、中央に4cm角で正方形の罫書き線を描き、紙2枚の間に挟み、150℃のオーブンで1時間保持した後、取り出して正方形の寸法を測定し、寸法保持率を計算した。寸法保持率の計算方法は次の通りである。
垂直方向(TD)の加熱前の罫書き線の長さ:W1
垂直方向(TD)の加熱後の罫書き線の長さ:W2
垂直方向(TD)の寸法保持率(%)=W2/W1×100
(3)透気度:JIS P8117に準拠して測定した。
【0084】
(実施例1)
アルミナ微細粒子(住友化学社製;商品名「AKP3000」)100質量部、カルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム製、品番1110)3質量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(三洋化成工業株式会社製;サンモリン(登録商標)11)0.5質量部の混合物に、固形分が29重量%となるように水を添加し、得られた混合物を自転・公転ミキサー「あわとり練太郎」(株式会社シンキー製;登録商標)で室温下、2000rpm、30秒の条件で2回攪拌・混合した。得られた混合物にイソプロピルアルコール14質量部を加え、固形分が28重量%となるような均一なスラリーとして塗工液を得た。得られた塗工液を、コロナ処理20W/(m/分)を施したポリエチレンからなる多孔質膜(厚さ12μm、空隙率41%)上に、ドクターブレード法により塗布し、得られた塗布物である積層体を65℃で5分間乾燥させて、本多孔質膜と、ポリエチレンからなる多孔質膜と、が積層された積層多孔質フィルム(1)を得た。積層多孔質フィルム(1)における本多孔質膜の目付は6.2g/mであった。積層多孔質フィルム(1)の各物性を表1に示す。
【0085】
(実施例2)
実施例1におけるポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5質量部を、1質量部とした以外は実施例1と同様にして積層多孔質フィルム(2)を得た。積層多孔質フィルム(2)における本多孔質膜の目付は6.6g/mであった。積層多孔質フィルム(2)の各物性を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
実施例1におけるポリオキシエチレンアルキルエーテル0.5質量部を、加えなかった以外は実施例1と同様にして積層多孔質フィルム(3)を得た。積層多孔質フィルム(3)における本多孔質膜の目付は6.9g/mであった。積層多孔質フィルム(3)の各物性を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
実施例1及び2で得られた積層多孔質フィルム(1)及び(2)は、高い寸法変化率及び透気度を保ちながら、カール量を低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、カールし難い、ポリオレフィンからなる多孔質膜と、無機粉末を含む多孔質膜と、を積層した積層多孔質フィルムが得られる。