特許第6222351号(P6222351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222351
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】磁気検出装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20171023BHJP
   H01L 43/00 20060101ALI20171023BHJP
   G01C 17/30 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   G01R33/02 D
   G01R33/02 L
   H01L43/00
   G01C17/30 A
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-517833(P2016-517833)
(86)(22)【出願日】2015年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2015057237
(87)【国際公開番号】WO2015170509
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2017年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-97251(P2014-97251)
(32)【優先日】2014年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知彦
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/110456(WO,A1)
【文献】 特開昭63−152185(JP,A)
【文献】 特開平10−022545(JP,A)
【文献】 特開2010−101648(JP,A)
【文献】 特許第5066576(JP,B2)
【文献】 特開2008−134236(JP,A)
【文献】 特開2014−153309(JP,A)
【文献】 実開昭48−014275(JP,U)
【文献】 特開2001−013231(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0106410(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0164080(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00
G01R 33/02
G01C 17/30
H01L 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板の一面側に配設され、延在する第1軸方向の外部磁場成分に感応する第1感磁ワイヤーと該第1感磁ワイヤーを周回する第1検出コイルとからなる第1マグネトインピーダンス素子(「MI素子」という。)と、
を備える磁気検出装置であって、
前記第1検出コイルは、1本の連続した前記第1感磁ワイヤーに沿って並存する左側コイル部と右側コイル部とからなり、
さらに、該左側コイル部と該右側コイル部の中間上で前記基板の他面側または該基板内に少なくとも一部が配設されて、該基板に交差する第3軸方向の外部磁場成分を該第1軸方向の成分を有する測定磁場へ変向し得る軟磁性材からなる磁場変向体を備え、
該左側コイル部から得られる左側出力と該右側コイル部から得られる右側出力とに基づいて該第3軸方向の外部磁場成分が検出され得ることを特徴とする磁気検出装置。
【請求項2】
前記磁場変向体は、前記第1感磁ワイヤーに近い側に縮小部を有すると共に該第1感磁ワイヤーに遠い側に拡大部を有する請求項1に記載の磁気検出装置。
【請求項3】
前記左側コイル部と前記右側コイル部は巻数が同じであり、
さらに、該左側コイル部と該右側コイル部の巻回方向に応じて、前記左側出力と前記右側出力の差または和により前記第3軸方向の外部磁場成分を検出する演算回路を備える請求項1または2に記載の磁気検出装置。
【請求項4】
前記演算回路は、前記左側出力と前記右側出力の差と和を切り替えて、前記第1軸方向の外部磁場成分と前記第3軸方向の外部磁場成分との検出を可能とする切替回路を含む請求項3に記載の磁気検出装置。
【請求項5】
さらに、前記基板の一面側に配設され、前記第1軸方向とは異なる第2軸方向へ延在して該第2軸方向の外部磁場成分に感応する第2感磁ワイヤーと該第2感磁ワイヤーを周回する第2検出コイルとからなる第2MI素子を備える請求項1〜4のいずれかに記載の磁気検出装置。
【請求項6】
さらに、前記磁場変向体とは別に、該磁場変向体による前記外部磁場成分の変向を補助する一対の補助磁場変向体を備え、
該一対の補助磁場変向体は、該磁場変向体に対して対称的に配置されている請求項1〜5のいずれかに記載の磁気検出装置。
【請求項7】
前記検出コイルは、複数の分割コイル部からなり、
前記磁場変向体は、それぞれの該分割コイル部の中間に配設される複数個からなる請求項1〜6のいずれかに記載の磁気検出装置。
【請求項8】
基板と、
該基板の一面側に配設され、延在する一軸方向の外部磁場成分に感応する感磁ワイヤーと一本の連続した該感磁ワイヤーを周回する左側コイル部と右側コイル部を有する検出コイルとからなるMI素子と、
該左側コイル部と該右側コイル部の中間上で該基板の他面側または該基板内に少なくとも一部が配設されて、該基板に交差する他軸方向の外部磁場成分を該一軸方向の成分を有する測定磁場へ変向し得る軟磁性材からなる磁場変向体とを備える磁気検出装置の製造方法であって、
複数の前記基板となり得る分割前のベース基板と該ベース基板の一面側に実装された複数の前記MI素子と該MI素子の位置に対応して該ベース基板の他面側または該ベース基板内に配設された複数の前記磁場変向体とからなる合体ベース基板を、複数の前記磁気検出装置に分割する分割工程を備えることを特徴とする磁気検出装置の製造方法。
【請求項9】
前記合体ベース基板は、前記分割前のベース基板の一面側に前記複数のMI素子が所定位置に実装されてなる実装ベース基板の他面側に、前記複数の磁場変向体となり得る分割前の軟磁性板に該MI素子の所定位置に対応した変向体パターンが形成された変向体パターン板を接合する接合工程を経て得られた接合ベース基板であり、
前記分割工程は、該接合ベース基板を複数の前記磁気検出装置に分割する工程である請求項8に記載の磁気検出装置の製造方法。
【請求項10】
前記磁場変向体は、前記感磁ワイヤーに近い側に縮小部を有すると共に該感磁ワイヤーに遠い側に拡大部を有するテーパー状であり、
前記変向体パターン板は、前記軟磁性板へのハーフエッチングにより前記変向体パターンが一面側に形成されてなる請求項9に記載の磁気検出装置の製造方法。
【請求項11】
前記接合工程は、前記実装ベース基板の他面側に前記変向体パターン板の一面側を接合する工程であり、
さらに、該接合工程後で前記分割工程前に、該変向体パターン板の他面側をエッチングして該変向体パターン板から分離した前記複数の磁場変向体を得る分離工程を備える請求項9または10に記載の磁気検出装置の製造方法。
【請求項12】
前記ベース基板は、前記複数の磁場変向体を内蔵した内蔵ベース基板であり、
前記合体ベース基板は、該内蔵ベース基板の一面側に前記複数のMI素子を該磁場変向体に対応した所定位置に実装する実装工程を経て得られる請求項8に記載の磁気検出装置の製造方法。
【請求項13】
前記内蔵ベース基板は、前記軟磁性材のメッキにより前記複数の磁場変向体を形成する工程と該磁場変向体を埋設する樹脂層を形成する工程とを経て得られる請求項12に記載の磁気検出装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトインピーダンス素子(Magneto-Impedance element:「MI素子」という。)により磁気を検出する磁気検出装置(「MIセンサ」単体を含む。)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より方位等を知るために磁気測定がなされている。例えば、電子コンパスなどでは、正確な方位を知るために3次元の磁気ベクトルが測定されている。この磁気ベクトルの測定は磁気センサによりなされる。この磁気センサには、ホール素子、MR素子等もあるが、近年、そのような従来の素子とは構造や原理が全く異なり、桁違いに高感度なMI素子が注目されている。
【0003】
MI素子は、アモルファスワイヤー等の感磁ワイヤーに高周波のパルス電流等を流すと、表皮効果によりそのインピーダンスが磁場に応じて変化するマグネト・インピーダンス効果(「MI効果」という。)を利用したものである。そのインピーダンス変化を直接的に測定する他、そのMI効果の起源となる感磁ワイヤーに生じる磁束量の変化を、その感磁ワイヤーの周囲に巻回した検出コイル(ピックアップコイル)を介して間接的に測定することによっても、外部磁場等の磁気検出が可能となる。
【0004】
もっとも、MI素子は、基本的に感磁ワイヤーの延在する方向の磁場成分しか検出できない。このため従来のMIセンサでは、特許文献1にもあるように、検出する磁気ベクトルの成分ごとにMI素子を個別に設ける必要があった。例えば、外部磁場の三次元成分を計測する場合、基板平面(X−Y平面)上にX軸用MI素子とY軸用MI素子を設けると共に、その基板平面の垂直方向にZ軸用MI素子を設ける必要があった。このZ軸用MI素子は、その構造上、他のMI素子と同様にZ軸方向にある程度の長さを有する。このため従来の三次元磁気検出装置では、Z軸方向の小型化、薄型化が困難であった。
【0005】
ところで、MI素子を組み込んだMIセンサは、既に、各種の携帯情報端末等に組み込まれており、その高性能化(高感度化、高精度化)と共に、さらなる小型化が強く要請されている。そこで、Z軸用MI素子を省略して、X軸用MI素子とY軸用MI素子によりZ軸方向の磁気成分を計測可能とする提案が特許文献2でなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2005/008268号公報
【特許文献2】WO2010/110456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2は、例えば、対向した一対のX軸用MI素子と対向した一対のY軸用MI素子を直交配置すると共に、それらの中心に軟磁性材からなる磁場変向体を設けて、各MI素子から得られる検出電圧を演算することにより、Z軸方向の磁気成分を求める磁気検出装置を提案している。この場合、Z軸用MI素子を省略できるため、磁気検出装置の大幅な小型化を図ることが可能となる。
【0008】
もっとも、特許文献2の磁気検出装置では、一対のX軸用MI素子またはY軸用MI素子を対向配置しなければならない。また、それらのMI素子の対称点に磁場変向体を配置しなければならず、それらの配置自由度等が制限的であった。このため特許文献2の磁気検出装置は、さらなる小型化等を図るために改善する余地を残していた。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来よりもさらなる小型化や薄型化を図り得る磁気検出装置と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、例えば、X軸用MI素子またはY軸用MI素子を構成する検出コイルの中間位置の延長上(基板に交差する方向上)に、軟磁性体(磁場変向体)を配置し、その軟磁性体の延在方向であるZ軸方向の磁気成分を、X軸用MI素子またはY軸用MI素子から得られた検出電圧に基づいて算出することにより、Z軸用MI素子を省略することを思いついた。この成果をさらに発展させることにより、以降に述べる一連の本発明は完成した。
【0011】
《磁気検出装置》
(1)すなわち本発明の磁気検出装置は、基板と、該基板の一面側に配設され、延在する第1軸方向の外部磁場成分に感応する第1感磁ワイヤーと該第1感磁ワイヤーを周回する第1検出コイルとからなる第1マグネトインピーダンス素子(「MI素子」という。)と、を備える磁気検出装置であって、前記第1検出コイルは、1本の連続した前記第1感磁ワイヤーに沿って並存する左側コイル部と右側コイル部とからなり、さらに、該左側コイル部と該右側コイル部に関して対称的な位置上で前記基板の他面側または該基板内に少なくとも一部が配設されて、該基板に交差する第3軸方向の外部磁場成分を該第1軸方向の測定磁場成分へ変向し得る軟磁性材からなる磁場変向体を備え、該左側コイル部から得られる左側出力と該右側コイル部から得られる右側出力とに基づいて該第3軸方向の外部磁場成分が検出され得ることを特徴とする。
【0012】
(2)本発明に係る磁場変向体は、基板の一面側に配設された感磁ワイヤーでは本来感応できない基板に交差する他軸方向(第3軸方向)の外部磁場成分(適宜、単に「磁気成分」という。)を、その感磁ワイヤーにより感応し得る一軸方向(第1軸方向)の測定磁場成分へ変向する。しかも、その磁場変向体は、一つのMI素子の検出コイルを構成する左側コイル部と右側コイル部に関して対称的な位置(例えば、左側コイル部と右側コイル部の中間または各コイル部の中間等)上で、基板の他面側または基板内に少なくとも一部が配設されている。このため、一対のMI素子を設けるまでもなく、一つのMI素子で、その左側コイル部から得られる左側出力とその右側コイル部から得られる右側出力とに基づいて、他軸方向(第3軸方向)の磁気成分を検出することが可能となる。これにより、磁気検出装置の基板に交差する方向の高さ(第3軸方向の高さ)を抑制できることは勿論、MI素子の配置自由度や磁気検出装置の設計自由度も高まり、磁気検出装置のさらなる薄型化、小型化、高性能化等を図ることが容易となり得る。
【0013】
(3)本発明の磁気検出装置は、少なくとも一つのMI素子を備え、そのMI素子が実装されている基板に交差(特に直交)する方向の磁気成分(他軸方向の磁気成分)が、そのMI素子により検出可能であれば足る。従って、そのMI素子は、他軸方向の磁気成分の検出に利用される限り、必ずしも、それ自身の延在する一軸方向の磁気成分の検出に利用される必要はない。もっとも、磁気検出装置の薄型化、小型化、低コスト化等を考慮すると、一つのMI素子で、両軸方向の磁気成分がそれぞれ検出可能であると好ましい。このような一つのMI素子による二方向成分の検出は、左側出力と右側出力の演算を切り替えることにより容易に行うことができる。
【0014】
例えば、左側コイル部と右側コイル部の巻数が同じである場合、左側コイル部と右側コイル部の巻回方向に応じて、左側出力と右側出力の差または和を切り替えて演算することにより一軸方向の磁気成分を検出することも、他軸方向の磁気成分を検出することも可能となる。より具体的にいうと、左側コイル部と右側コイル部の巻回方向が同じなら、左側出力と右側出力の差に基づいて他軸方向の磁気成分が検出され、それらの和に基づいて一軸方向の磁気成分が検出される。各コイル部の巻回方向(または配線方法)が逆の場合は、各出力の演算も逆に行えば、同様な結果を得ることができる。そして本発明の磁気検出装置は、このような各コイル部からの出力に基づいて、各方向の磁気成分を検出する演算回路を備えると好適である。さらにいえば、この演算回路は、左側出力と右側出力の差と和を切り替えて、一軸方向(第1軸方向)の磁気成分と他軸方向(第3軸方向)の磁気成分を共に検出可能とする切替回路を含むと好ましい。
【0015】
本発明の磁気検出装置により、外部磁場の三次元成分(例えば、X成分、Y成分、Z成分)を検出する場合、基板上の一面側に第1軸方向とは異なる第2軸方向の磁気成分を検出するMI素子を少なくとも一つ設けるとよい。すなわち、本発明の磁気検出装置は、基板の一面側に配設され、第1軸方向とは異なる第2軸方向へ延在して第2軸方向の磁気成分に感応する第2感磁ワイヤーと第2感磁ワイヤーを周回する第2検出コイルとからなる第2MI素子をさらに備えると好適である。
【0016】
第2MI素子は、必ずしも第3軸方向の磁気成分を検出するものでなくてもよい。但し、第1MI素子と共に第2MI素子も独立して第3軸方向の磁気成分を検出するものであると、両検出結果を利用することにより、第3軸方向の磁気成分をより精確に検出することが可能となる。さらに本発明の磁気検出装置は、第1軸方向の磁気成分を検出する第1MI素子および/または第2軸方向の磁気成分を検出する第2MI素子が、それぞれ、基板の一面側に複数配設されていてもよい。1つでは十分な感度が得にくい場合でも、複数配設することにより、より高出力を得て、感度を高めることができる。そして、それらMI素子の全部または一部が、個別または共通の磁場変向体を介して、基板に交差する第3軸方向の磁気成分を検出するものであるとより好ましい。
【0017】
上述した本発明では、薄型化や小型化に最適な磁気検出装置として、基板の一面側にMI素子が配設され、その基板内またはその他面側に磁場変向体が配設される場合を示した。但し、少なくとも一つの検出コイルの中間(必ずしも中央である必要はない)上に磁場変向体が配設される限り、磁場変向体の具体的な数や配置方法(組合せ)等は問わない。本発明の延長上であれば、MI素子と磁場変向体は、例えば、基板の両面側にそれぞれ配設されても、基板の同面側に配設されてもよい。さらに、検出コイルの中間上に少なくとも一つの磁場変向体(主磁場変向体)が配設されると共に、検出コイルの端部(端近傍)等にも別の磁場変向体(補助磁場変向体)が配設されていると好ましい。これにより、主磁場変向体によって集磁および変向された他軸方向の外部磁場成分が、検出コイルの一軸方向の成分を有する方向へ変向され易くなって好ましい。なお、補助磁場変向体は、主磁場変向体と同じ軸上(第3軸上)になければ(主磁場変向体の両側にあれば)、必ずしも検出コイルの端部である必要はなく、検出コイルの中間(例えば検出コイルの中央部と端部との中間)でもよい。但し、主磁場変向体および/または補助磁場変向体が、基板内に配設(埋設等)された状態であると、磁気検出装置の薄型化や小型化をさらに図ることができて好ましい。
【0018】
磁場変向体を対称的に配置する場合であれば、主磁場変向体を検出コイルの中央上に配置して、一対の補助磁場変向体をそれぞれ右側コイルの右端側(右端近傍)と左側コイルの左端側(左端近傍)に配置すると好ましい。なお、主磁場変向体と補助磁場変向体は、基板内にあっても、基板の同面側または異面側にあってもよい。補助磁場変向体が一対ある場合、各補助磁場変向体は、基板内またはその同面側にある方が対称性を確保できて好ましい。
【0019】
本発明の磁気検出装置のさらなる小型化(薄型化を含む)を図る場合に、単純に磁場変向体を小型化すると、磁場変向体一つあたりの磁場集積能力(集磁能力)が低下し得る。そこで小型化した磁場変向体を検出コイルの中間に複数配設したり、さらには、検出コイルの中間に配設する磁場変向体とは別の磁場変向体を検出コイルの中間外(例えば、検出コイルの両端側)に配設することも考えられる。
【0020】
検出コイルの中間に複数の磁場変向体を配設する場合、検出コイルも各磁場変向体に対応して複数に分割すると好ましい。例えば、n個の磁場変向体を配設する場合なら、検出コイルをn個(n:正整数)に分割し、それぞれの分割コイル部の中間に磁場変向体を配設するとよい。なお、ここでいう各分割コイル部も、左側コイル部(左側分割コイル部)と右側コイル部(右側分割コイル部)からなる。換言するなら、一つの検出コイルは、n個の左側分割コイル部とn個の右側分割コイル部に分割される。このように本明細書では、左側分割コイル部と右側分割コイル部の一対を1ユニットとして考え、そのユニット数を分割数とした。
【0021】
(4)本発明の磁気検出装置は、MI素子を備えたMIセンサでもよいし、さらに、そのMIセンサを備えた各種の情報端末や計測装置等でもよい。また本発明の磁気検出装置は、感磁ワイヤーと検出コイルを備えるMI素子の他に、その感磁ワイヤーに高周波電圧(電流)を供給するパルス発振回路、検出コイル(特に各コイル部)から得られた検出電圧をサンプリングして出力する信号処理回路、それらの出力に基づいて演算を行い、各方向の磁気成分を算出する演算回路等を含むと好ましい。特に本発明の磁気検出装置がMIセンサである場合、それら各回路は、集積回路(駆動回路)としてMI素子が実装される基板内に形成されていると、MIセンサの薄型化や小型化を図れて好適である。なお、MI素子の基板への実装は、ワイヤーボンディングの他、フリップチップ、特にウエハーレベルCSP(Wafer Level Chip Size Package)に依ると、MIセンサのさらなる薄型化、小型化を図れて好ましい。
【0022】
《磁気検出装置の製造方法》
本発明の磁気検出装置は、種々の製造方法により得ることができるが、次のような本発明の製造方法によれば、効率的に生産することが可能となる。すなわち、基板と、該基板の一面側に配設され、延在する一軸方向の外部磁場成分に感応する感磁ワイヤーと一本の連続した該感磁ワイヤーを周回する左側コイル部と右側コイル部を有する検出コイルとからなるMI素子と、該左側コイル部と該右側コイル部の中間上で該基板の他面側または該基板内に少なくとも一部が配設されて、該基板に交差する他軸方向の外部磁場成分を該一軸方向の成分を有する測定磁場へ変向し得る軟磁性材からなる磁場変向体とを備える磁気検出装置の製造方法であって、複数の前記基板となり得る分割前のベース基板と該ベース基板の一面側に実装された複数の前記MI素子と該MI素子の位置に対応して該ベース基板の他面側または該ベース基板内に配設された複数の前記磁場変向体とからなる合体ベース基板を、複数の前記磁気検出装置に分割する分割工程を備えることを特徴とする磁気検出装置の製造方法を用いると好適である。
【0023】
ここで合体ベース基板は、例えば、前記分割前のベース基板の一面側に前記複数のMI素子が所定位置に実装されてなる実装ベース基板の他面側に、前記複数の磁場変向体となり得る分割前の軟磁性板に該MI素子の所定位置に対応した変向体パターンが形成された変向体パターン板を接合する接合工程を経て得られた接合ベース基板である。この場合、前記分割工程は、該接合ベース基板を複数の前記磁気検出装置に分割する工程となる。
【0024】
またベース基板が、前記複数の磁場変向体を内蔵した内蔵ベース基板である場合なら、合体ベース基板は、例えば、該内蔵ベース基板の一面側に前記複数のMI素子を該磁場変向体に対応した所定位置に実装する実装工程を経て得られる。なお、このような内蔵ベース基板は、例えば、フォトリソグラフィ等を用いて、軟磁性材のメッキにより複数の磁場変向体を形成する工程と磁場変向体を埋設する樹脂層を形成する工程とを経て得られる。
【0025】
《その他》
(1)本明細書でいう「検出コイル」は、ワイヤーを実際に巻回したものでもよいが、フォトリソグラフィ等により形成された配線パターンより構成されたものであると、磁気検出装置のさらなる薄型化、小型化等を図れて好ましい。また、本発明に係る検出コイルは、左側コイル部と右側コイル部を有すれば足り、他の検出コイルの有無は問わない。左側コイル部と右側コイル部の巻数、コイルの巻径等の出力電圧の大きさに影響する仕様は、異なっていてもよいが、同一であると、磁場変向体が左側コイルと右側コイルの中央に配設された場合には、2つのコイルの出力の絶対値が等しくなるため、上述した演算が容易となって好ましい。また磁場変向体が配設される位置も、一つの検出コイル内であればよいが、左側コイル部と右側コイル部の中央でかつ基板に垂直な方向上にあれば、その演算が容易となって好ましい。
【0026】
(2)本明細書でいう「変向」とは、感磁ワイヤーによって感応されない磁場成分の方向を、その感磁ワイヤーが感応し得る方向へ変えることをいう。この変向により、本来なら感磁ワイヤーに感応しない磁場成分の少なくとも一部が、その感磁ワイヤーで検出可能となる。
【0027】
(3)本明細書「外部磁場」とは、外部から磁気検出装置へ作用する磁場(環境磁場)であって、磁気検出装置の本来的な検出対象となる磁場である。「測定磁場」とは、磁場変向体により影響を受けた外部磁場のうちで、実際に感磁ワイヤーに感応してMI素子により検出または測定され得る磁場である。また本明細書でいう「第1」、「第2」、「第3」、「一方」、「他方」、「一面側」、「他面側」、「左側」、「右側」等は、各部材や各部を区別して説明のために便宜的に用いているに過ぎず、それら自体に特別の意味はない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】第1実施例に係るMIセンサを示す平面図である。
図1B】その平面図中に示したA−Aにおける部分断面図である。
図2】MI素子の概要を示す平面図である。
図3】MI素子に係るMIセンサの電気回路図である。
図4A】MI素子へ加えるパルス電流波形を示す波形図である。
図4B】そのパルス電流波形の立上り、立下り時間から周波数を求める方法を説明する説明図である。
図5】MIセンサに作用するZ軸方向の磁束線を示す図である。
図6】実装ベース基板の製造過程を説明する図である。
図7】変向体パターン板の製造過程を説明する図である。
図8】MIセンサの製造過程を説明する図である。
図9】第2実施例に係るMIセンサを示す平面図である。
図10】第3実施例に係るMIセンサを示す要部断面図である。
図11A】第4実施例に係るMIセンサを示す要部断面図である。
図11B】その検出コイル(分割コイル部)の接続形態を示す図である。
図12A】第5実施例に係るMIセンサを示す要部断面図である。
図12B】その検出コイル(分割コイル部)の接続形態を示す図である。
図13】第6実施例に係るMIセンサの断面とそのMIセンサに作用するZ軸方向の磁束線を示す図である。
図14】そのMIセンサの製造過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の磁気検出装置のみならず、その製造方法にも該当し得る。製造方法に関する構成要素は、プロダクトバイプロセスクレームとして理解すれば物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0030】
《MI素子》
本発明に係るMI素子は、外部磁場(磁界)などの磁気に感応してインピーダンス変化や磁束量変化を生じ得る感磁ワイヤーと、その感磁ワイヤーの変化量を検出する検出手段である検出コイルを有する。感磁ワイヤーは、例えば、軟磁性材からなる相応な長さを有するワイヤー(線材)または薄膜からなる。特に感度やコスト等の点で、感磁ワイヤーは零磁歪のアモルファスワイヤーが好ましい。このアモルファスワイヤーは、例えば、Co−Fe−Si−B系合金からなる直径1〜30μmのワイヤーであり、特許第4650591号公報等に詳細が記載されている。
【0031】
感磁ワイヤーは、搭載面に接して設けられても、絶縁体等を介して搭載面から浮上して設けられても、さらには溝などに埋設されてもよい。検出コイルは、そのような感磁ワイヤーの配設態様に応じて、感磁ワイヤーを周回するものであれば足りるが、フォトリソグラフィにより形成されたものであると、MI素子の薄型化または小型化を図れて好ましい。
【0032】
《磁場変向体》
磁場変向体は、感磁ワイヤーが配設された基板に交差する他軸方向の磁気成分を、感磁ワイヤーの延在方向(一軸方向)へ変向し得るものである限り、その形態は問わない。磁場変向体は、例えば、柱状(円柱状、角柱状等)、筒状、板状等、MI素子の数や配置に応じて種々の形態をとり得る。なお、同一基板上に複数のMI素子が実装される場合に、各MI素子毎に分離独立した磁場変向体が配設されてもよいし、各MI素子の配置に対応した一体化した磁場変向体が配設されてもよい。
【0033】
基板上に配設されたMI素子により、その基板に交差する他軸方向の磁気成分を高感度で検出するために、磁場変向体による外部磁場の集磁効果(レンズ効果)や変向効果が高いほど好ましい。そこで磁場変向体は、(第1)感磁ワイヤーに近い側に縮小部を有すると共に、その感磁ワイヤーに遠い側に拡大部を有すると好ましい。この場合、拡大部を通過する他軸方向(第3軸方向)の磁気成分が縮小部に収束され、MI素子(感磁ワイヤー)へ効率的に誘導され、その磁気成分をより高感度に検出することが可能となる。なお、縮小部および拡大部を有する磁場変向体も、上記の集磁効果がある限り、その具体的な形状変化は問わない。磁場変向体は、例えば、拡大部から縮小部へ至る側線が直線的に変化する形状(円錐台状、角錐台等の錐台状等のテーパー状)でもよいし、拡大部から縮小部へ至る側線が曲線的に変化する形状(テーパー状)でもよい。また磁場変向体は、拡大部から縮小部へ、断面積が階段状に変化する段付き形状(2段でも3段以上)等でもよい。
【0034】
このような磁場変向体は、種々の方法で製造され得るが、MI素子に用いられる磁場変向体は微小(外径または高さが0.5mm以下)であり、さらに、MI素子の配置に対応して精確に配設される必要がある。そこで磁場変向体は、ハーフエッチングにより軟磁性板に変向体パターンが形成された変向体パターン板を、複数のMI素子を実装した実装ベース基板に接合した後に、それぞれ分割されて形成されたものであると好ましい。
【0035】
軟磁性板の一面側をエッチングしつつ他面側を残存させるハーフエッチングにより、多数の微細な磁場変向体が正確に配列された変向体パターン板を効率的に製造できる。この変向体パターン板は、多数の磁場変向体が連結された状態となっているため、それらを一括的に取り扱うことができ、ベース基板に実装された多数のMI素子との位置合わせも正確かつ容易に行うことができる。また、エッチングを利用しているため、磁場変向体の形状自由度も大きく、上述した縮小部と拡大部の形成も容易である。例えば、軟磁性板をハーフエッチングしエッチング部分を樹脂で充填して、その一面側に磁場変向体となる錐台状の島が規則的に点在した変向体パターンを形成する。こうして得られた変向体パターン板を拡大部側となる面からエッチングして、連結させた状態となっている磁場変向体を1つずつに分割し、エッチング部分を樹脂で充填すれば、縮小部と拡大部を有する複数の磁場変向体が規則正しく並んだ状態の変向体パターン板が容易に得られる。この変向体パターン板は既に前工程で実装ベース基板と接合された状態となっていると、その後分割により容易に複数の磁気検出装置を製造できる。また、この変向体の分割を接合前に行っておくこともできる。
【0036】
この他、磁場変向体は、フォトリソグラフィ等による軟磁性材のメッキ工程を経て製造することもできる。また、こうして形成した複数の磁場変向体を樹脂で囲繞(埋設)した内蔵ベース基板上に、複数のMI素子を実装(搭載)して、合体ベース基板を製作してもよい(実装工程)。この場合、磁場変向体とMI素子をより高精度に位置合せすることが容易となり、また、磁場変向体とMI素子を一層接近させて配設することも可能となる。さらに、このような合体ベース基板を分割(分離)して得られた個々のMIセンサ(磁気検出装置)は、MI素子が搭載される基板内に磁場変向体があるため、薄型化や小型化のみならず、取扱性や汎用性に非常に優れる。
【0037】
なお、磁場変向体(または変向体パターン板)を構成する軟磁性材は、高透磁率なものほど、集磁効果が大きくて好ましく、例えば、パーマロイ合金、純Ni、純鉄、センダスト、パーメンジュール等を用いるとよい。
【実施例】
【0038】
《第1実施例》
[装置概要]
本発明の磁気検出装置に係る一実施例であるMIセンサ1の平面図を図1Aに示した。また、その図1A中に示したA−A線における部分断面図を図1Bに示した。
【0039】
MIセンサ1は、地磁気等の外部磁場を検出する4つのMI素子M1〜M4と、略円錐台状の集磁ヨークF1〜F4(磁場変向体)と、Si基板上にパルス発信回路(駆動回路)、信号処理回路、演算回路等を含む集積回路(ASIC:application specific integrated circuit)が形成された回路基板S(本発明でいう「基板」に相当する。)と、回路基板Sの上下面にそれぞれ形成された絶縁樹脂層R11、R12とを有する。なお、図1Bには、集積回路とMI素子との間の電気的接続のためのワイヤーボンディングを省略したウエハーレベルCSPを実現するために、MI素子M1の周囲にバンプB11、B12が形成されている。また、特に断らない限り、各回路等はフォトリソグラフィにより形成される。
【0040】
MIセンサ1は、外部磁場の三次元成分を検出するために、回路基板S上に、MI素子M1〜M4がフリップチップにより正方形状に実装されている。そしてX軸方向に並行に実装されたMI素子M1、M3によりX軸方向の磁気成分(単に「X成分」という。)が検出され、Y軸方向に並行に実装されたMI素子M2、M4によりY軸方向の磁気成分(単に「Y成分」という。)が検出され得る。
【0041】
これらMI素子M1〜M4によりZ軸方向の磁気成分(単に「Z成分」という。)の検出をも可能とすべく、MI素子M1〜M4の各中央位置に対応する回路基板Sの裏側に、集磁ヨークF1〜F4がそれぞれ配設されている。なお、MI素子M1〜M4と集磁ヨークF1〜F4のそれぞれは同一であるため、以下では、適宜、MI素子M1と集磁ヨークF1を代表的に取り上げて説明し、他のMI素子M2〜M4と集磁ヨークF2〜F4に関する説明は省略する。
【0042】
集磁ヨークF1は、高透磁率(μ=180000)のパーマロイ合金(78質量%Ni−Fe)からなり、大径円柱状の拡大部F11と、その拡大部F11から滑らかに断面が減少した円錐台状の縮小部F12とを有する。集磁ヨークF1の存在により、外部磁場の磁束線は変向される。特に、拡大部F11を通過する外部磁場のZ成分は、高透磁率な集磁ヨークF1に集磁されて、縮小部F12の先端面側(回路基板Sの他面側)へ収束するように誘導される。収束した外部磁場(特にそのZ成分)の磁束線は、その縮小部F12の先端面から回路基板Sを通過して、MI素子M1の中央から放射状に(左右方向へ均等に)拡散していく(図5参照)。その際、回路基板Sに関して集磁ヨークF1の反対側(図5の下側)にあるMI素子M1の両端付近に、さらに別の磁場変向体を設ければ(後述の図10参照)、集磁ヨークF1の縮小部F12から拡散した磁束線を、さらにMI素子M1のワイヤー軸方向へ変向させることができる。
【0043】
MI素子M1は、図2に示すように感磁ワイヤーW1と、その周囲に巻回された検出コイルC1と、感磁ワイヤーW1および検出コイルC1に接続される端子群T1とからなる。感磁ワイヤーW1は、Co−Fe−Si−B系合金製の零磁歪アモルファスワイヤーからなる。検出コイルC1は、左側コイル部C11と右側コイル部C12とからなる。左側コイル部C11と右側コイル部C12は、巻数、巻径、巻回方向、ピッチ等、出力の大きさに影響する仕様が全て同じで、集磁ヨークF1の中心軸が通過する中心位置(点)に関して左右対称に形成されている。各コイル部C11、C12と端子群T1は、フォトリソグラフィを用いて回路基板S上に形成される。端子群T1は、感磁ワイヤーW1にパルス信号を供給するための端子T101、T102と、左側コイル部C11で生じた起電力を出力する端子T111、T112と、右側コイル部C12で生じた起電力を出力する端子T121、T122とからなる。
【0044】
回路基板Sに形成される集積回路(ASIC)は、図3に示すように、感磁ワイヤーW1にパルス信号を供給するパルス発信回路(駆動回路)と、左側コイル部C11からの出力(電圧)V11と右側コイル部C12からの出力(電圧)V12を得る信号処理回路と、演算回路(切替回路を含む。)とからなる。
【0045】
パルス発信回路と信号処理回路は次のように作動する。先ず、パルス発振回路により発生した高周波(例えば200MHz相当)のパルス電流が感磁ワイヤーW1へ供給される。このパルス電流により感磁ワイヤーW1のワイヤー円周方向に生じた磁場と外部磁場とが作用して、その軸方向に作用する磁気成分に対応した電圧が左側コイル部C11と右側コイル部C12に発生する。なお、ここでいう周波数は、図4Aに示すパルス電流波形パルスの「立ち上がり」若しくは「立ち下り」の時間Δtを求め、そのΔtが図4Bに示すように4分の1周期に相当するとして求めたものである。
【0046】
次に、信号処理回路中のサンプルタイミング調整回路により、上記のパルス電流が立ち上がったあと、所定のタイミングで、アナログスイッチを短時間スイッチをオン−オフする。これによりアナログスイッチは、左側コイル部C11と右側コイル部C12にそれぞれ発生した各電圧をサンプリングする。サンプリング電圧は、それぞれ増幅器により増幅されて出力V11、V12が得られる。なお、パルス電流が立ち上がる時ではなく遮断されるとき(パルス電流が立ち下るとき)に処理してV11、V12を得ることもできる。
【0047】
演算回路は、出力V11と出力V12の和と差を交互に演算し、出力V11と出力V12の和に基づき外部磁場のX成分を指標する出力を行い、出力V11と出力V12の差に基づき外部磁場のZ成分を指標する出力を行う。なお、和と差でX成分とZ成分を指標する出力ができる理由について以下に説明する。
【0048】
[磁場検出]
MI素子M1の周囲に生じる外部磁場の磁束線(磁力線)は、集磁ヨークF1によって各方向へ変向され得る。特に、外部磁場のZ成分(回路基板Sに直交する方向成分)の磁束線は、集磁ヨークF1によって、図5に示すように大きく変向される。もっとも、集磁ヨークF1は、MI素子M1の対称な左側コイル部C11と右側コイル部C12の中央に配置されているため、外部磁場の変向により各コイル部に現れる出力への影響も対称的となる。
【0049】
ここで集磁ヨークF1により変向された外部磁場のZ成分である変向磁気成分(測定磁場/磁気ベクトルH)を観ると、左側コイル部C11と右側コイル部C12は、前述した通り、出力の大きさに影響する仕様が全て同一となっているので、左側コイル部C11の出力V11と右側コイル部C12の出力V12との出力差(V11−V12)は、MI素子M1の周囲に生じている元の外部磁場のX軸方向の成分の影響が相殺されて、左側コイル部C11と右側コイル部C12に逆向きに作用する変向磁気成分のさらなるX成分(Hx)の影響だけが反映されたものとなる。なお、変向磁気成分のZ成分(Hz)は感磁ワイヤーW1が感応しないため、当然、上記の出力差に影響はしない。この出力差に適当な係数を乗じて演算すれば、その出力差から元の外部磁場のZ成分を求めることが可能となる。
【0050】
ちなみに、出力V11と出力V12の出力和(V11+V12)は、変向磁気成分のX成分(Hx)の影響が相殺され、上述したように変向磁気成分のZ成分(Hz)の影響もなく、元の外部磁場のX成分が集磁ヨークF1により変向されて生じた磁気成分のさらなるX成分(X軸方向への投影成分)の影響だけが反映されたものとなる。この出力和に適当な係数を乗じて演算すれば、その出力和から元の外部磁場のX成分を求めることが可能となる。このような事情はMI素子M3についても同様である。また、同様の考え方で、MI素子M2とMI素子M4によりY成分とZ成分を検出することができる。
【0051】
なお、外部磁場の各軸方向の成分は、一つのMI素子の出力のみに依ることなく、複数のMI素子の出力の平均値(例えば相加平均)に基づいて算出されると好ましい。さらに、集磁ヨークの形状、MI素子の配置や特性等を考慮して、出力値に適切な補正係数または補正項が加味され得ることは当然である。このような演算処理は、上述した演算回路でなされてもよいし、MIセンサ1を搭載する情報端末等のプログラムでなされてもよい。演算処理に関する基本的な考え方は、WO2010/110456号公報等にも詳述されている。
【0052】
[製造方法]
MIセンサ1の各製造工程を図6図8に示した。先ず、図6に示すように、シリコンウェハーに上述したパルス発振回路、信号処理回路、演算回路からなる集積回路を多数形成したベース基板SB0を用意する(工程P11)。このベース基板SB0の一面側の所定位置に多数のMI素子Mをフリップチップにより実装する(工程P12)。フォトリソグラフィにより、そのベース基板SB0上に、集積回路用電源供給及び通信入出力用のCuポストQを形成し(工程P13)、その表面を絶縁樹脂RB1で被覆充填した後(工程P14)、さらに外部回路との接続用バンプBを形成する(工程P15)。最後に、ベース基板SB0の他面側を研磨(バックグラインド)して実装ベース基板SB1を得る(工程P16)。
【0053】
次に、図7に示すように、実装ベース基板SB1の大きさに対応したパーマロイ合金製の軟磁性板FBを用意する(工程P21)。この軟磁性板FBに対して、フォトリソグラフィを用いて、ハーフエッチングする(工程P22)。このエッチングの際、浸食される軟磁性板FBの表面部分は、表面側が広く内部ほど狭いテーパー状に浸食される。このため、その表面側に縮小部F02が形成され、内部側に拡大部F01が形成された円錐台状島F0が多数配列した変向体パターンが自ずと形成される。こうして、多数の円錐台状島F0が軟磁性板FBの残存部F03により連結された変向体パターン板FPが得られる。この変向体パターン板FPのパターン面側に絶縁樹脂RB2を充填して、その表面を平坦化する(工程P23)。こうして樹脂充填された変向体パターン板FP1が得られる。
【0054】
そして、図8に示すように、上述した工程を経て得られた実装ベース基板SB1の他面側と樹脂充填した変向体パターン板FP1のパターン面側とを、正確に位置合わせして対向配置し、絶縁樹脂RB2を介して接合する(工程P31/接合工程)。その接合後、変向体パターン板FP1の他面側(パターン面側の反対面側)にレジストrgをフォトリソグラフィより作成する(工程P32)。そして変向体パターン板FP1の残存部F03をエッチングして取り除く(工程P33/分離工程)。これにより、各MI素子の中央に、拡大部と縮小部を有する集磁ヨークFが配置された状態となる。その上に、絶縁樹脂RB2をさらに充填して、その表面を平坦化する(工程P34)。こうして、多数のMI素子Mと集磁ヨークFが正確に配置された多数のMIセンサを有する接合ベース基板SU(合体ベース基板)が得られる。この接合ベース基板SUをダイシングすることにより、多数のMIセンサ1が一度に得られる(分割工程)。なお、本実施例では、接合値に残存部をエッチングして集磁ヨークFを作製した例を示したが、接合前に同様の工程で分割された集磁ヨークFが多数配置された板を作製しておき、その後に接合するようにしてもよい。
【0055】
《第2実施例》
第1実施例の集磁ヨークF1の形状を変向した集磁ヨークFWを配置したMIセンサ2を図9に示した。なお、第1実施例の場合と同様な構成には、同符号を付してそれに関する説明を以下省略する。他の実施例についても同様である。
【0056】
MIセンサ2の集磁ヨークFWは十字状をしており、回路基板Sの他面側中央に配置されている。集磁ヨークFWの延在部FW1〜FW4は、各MI素子M1〜M4のそれぞれの中央位置に位置しており、集磁ヨークFWはそれらが中央部FW0で連結された一体構造となっている。このような対称形状の集磁ヨークFWでも、集磁ヨークF1等と同様な機能を果たし得る。
【0057】
この集磁ヨークFWを備えたMIセンサ2も、前述した変向体パターン板FP1に替えて、ハーフエッチングによりパーマロイ合金製の軟磁性板FBに正方形状の窪みを多数形成した変向体パターン板FP’(図略)を用いることにより、効率的に生産し得る。
【0058】
《第3実施例》
集磁ヨークF1を小型化した集磁ヨークFsを、回路基板SのMI素子M1側の両端付近に配置したMIセンサ3を図10に示した。このように集磁ヨークF1(主磁場変向体)と集磁ヨークFs(補助磁場変向体)を配置することにより、回路基板Sに交差する磁束線の収束や変向をより制御し易くなる。
【0059】
《第4実施例》
集磁ヨークF1を小型化した二つの集磁ヨークFs1、Fs2を、MI素子Mdの中間に均等に配置したMIセンサ4を図11Aに示した。MIセンサ4の検出コイルCdは、2ユニットに分割された分割コイル部Cd1、Cd2からなる。分割コイル部Cd1は左側分割コイル部Cd11と右側分割コイル部Cd12からなり、分割コイル部Cd2は左側分割コイル部Cd21と右側分割コイル部Cd22からなる。集磁ヨークFs1は分割コイル部Cd1の中央、つまり左側分割コイル部Cd11と右側分割コイル部Cd12の間に配設され、集磁ヨークFs2は分割コイル部Cd2の中央、つまり左側分割コイル部Cd21と右側分割コイル部Cd22の間に配設される。MIセンサ4によれば、その小型化を図りつつ、外部磁場のZ成分を高感度に検出できる。なお、本実施例では、左側分割コイル部Cd11と左側分割コイル部Cd21、右側分割コイル部Cd12と右側分割コイル部Cd22が、それぞれ同極性(巻回方向)となるように接続されている場合を一例として示したが、それら4つの各コイル部はそれぞれ独立したものでもよい。
【0060】
《第5実施例》
MIセンサ4に対して、検出コイルを2分割から7分割の分割コイル部Cd1〜Cd7とし、集磁ヨークを7つの集磁ヨークFs1〜Fs7として、さらなる小型化・薄型化を図ったMIセンサ5を図12Aおよび図12Bに示した。
【0061】
《第6実施例》
(1)上述した回路基板Sを、集磁ヨークFiを内蔵した内蔵回路基板S2(本発明でいう「基板」に相当する。)に変更したMIセンサ6を図13に示した。集磁ヨークFiも、集磁ヨークF1等と同様に、パーマロイ合金からなり、大径円板状の拡大部Fi1と、その拡大部Fi1から延在する円柱状の縮小部Fi2とを有する。集磁ヨークFiの作用効果およびMIセンサ6の作動は、MIセンサ1の場合と同様である。
【0062】
もっとも、本実施例のように集磁ヨークFiを内蔵した内蔵回路基板S2では、図5に示したMIセンサ1よりも、集磁ヨークFiとMI素子Mの距離をさらに近接させることができる。この結果、MIセンサ自体のさらなる薄型化、小型化だけではなく、その感度の向上も併せて図ることができる。例えば、集磁ヨークの上端面と感磁ワイヤーとの距離(ギャップ)を1/5(例えば0.1mmから0.02mm)にすると、MIセンサの出力(感度)は約3.5倍にもなることを本発明者は確認している。
【0063】
また、集磁ヨークを内蔵した基板を採用することにより、汎用性の向上等を図ることができる。さらに、その集磁ヨークの拡大部の面積を拡張することにより、外部磁場のZ成分の集磁性が向上し、拡大部の薄型化と外部磁場のZ成分検出の高感度化との両立も可能となる。
【0064】
(2)内蔵回路基板S2は、例えば、図14に示す工程を経て製造される。先ず、シリコンウェハーからなるSi基板S0を用意する(工程P61)。なお、このSi基板S0は回路基板Sの製作に用いたSi基板と同様である。
【0065】
Si基板S0上に拡大部Fi1となるパーマロイ合金の第1メッキ層を形成する(工程P62)する。次に、その第1メッキ層上に縮小部Fi2となるパーマロイ合金の第2メッキ層を形成する(工程P63)。これらメッキ層の形成工程(メッキ工程)もフォトリソグラフィによりなされる。
【0066】
こうして積層形成された拡大部Fi1および縮小部Fi2を熱処理(焼鈍)する(工程P64)。この熱処理により、各メッキ工程で拡大部Fi1と縮小部Fi2に導入された内部応力が除去され、軟磁性特性に優れた拡大部Fi1と縮小部Fi2からなる集磁ヨークFiが得られる。
【0067】
Si基板S0上に形成された集磁ヨークFiを囲繞する絶縁樹脂層Riを樹脂モールドにより形成する(工程P65)。この絶縁樹脂層Riの上端面を研磨して平坦にする(工程P66)。なお、熱処理工程(工程P64)後から研磨工程(工程P66)前の間に、MIセンサ6の駆動に必要な回路を形成しておく。こうして集磁ヨークFiを内蔵した内蔵ベース基板SBiが得られる。
【0068】
内蔵ベース基板SBi上に、MI素子Mをフリップチップ等により実装する(工程P67/実装工程)。これ以降は、図6に示したような各工程を行い、内蔵ベース基板SBiの片面側(Si基板S0の他面側)を研磨(バックグラインド)等する。こうして合体ベース基板SU2が得られる。この合体ベース基板SU2をダイシングすることにより(分割工程)、多数のMIセンサ6が得られる。なお、各MIセンサは、WO2014/054371号公報等に詳述されている方法で、内蔵ベース基板SBi等の表面に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 MIセンサ(磁気検出装置)
M1 MI素子
W1 感磁ワイヤー
C1 検出コイル
C11 左側コイル部
C12 右側コイル部
F1 集磁ヨーク(磁場変向体)
S 回路基板(基板)
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14