【実施例】
【0038】
《第1実施例》
[装置概要]
本発明の磁気検出装置に係る一実施例であるMIセンサ1の平面図を
図1Aに示した。また、その
図1A中に示したA−A線における部分断面図を
図1Bに示した。
【0039】
MIセンサ1は、地磁気等の外部磁場を検出する4つのMI素子M1〜M4と、略円錐台状の集磁ヨークF1〜F4(磁場変向体)と、Si基板上にパルス発信回路(駆動回路)、信号処理回路、演算回路等を含む集積回路(ASIC:application specific integrated circuit)が形成された回路基板S(本発明でいう「基板」に相当する。)と、回路基板Sの上下面にそれぞれ形成された絶縁樹脂層R11、R12とを有する。なお、
図1Bには、集積回路とMI素子との間の電気的接続のためのワイヤーボンディングを省略したウエハーレベルCSPを実現するために、MI素子M1の周囲にバンプB11、B12が形成されている。また、特に断らない限り、各回路等はフォトリソグラフィにより形成される。
【0040】
MIセンサ1は、外部磁場の三次元成分を検出するために、回路基板S上に、MI素子M1〜M4がフリップチップにより正方形状に実装されている。そしてX軸方向に並行に実装されたMI素子M1、M3によりX軸方向の磁気成分(単に「X成分」という。)が検出され、Y軸方向に並行に実装されたMI素子M2、M4によりY軸方向の磁気成分(単に「Y成分」という。)が検出され得る。
【0041】
これらMI素子M1〜M4によりZ軸方向の磁気成分(単に「Z成分」という。)の検出をも可能とすべく、MI素子M1〜M4の各中央位置に対応する回路基板Sの裏側に、集磁ヨークF1〜F4がそれぞれ配設されている。なお、MI素子M1〜M4と集磁ヨークF1〜F4のそれぞれは同一であるため、以下では、適宜、MI素子M1と集磁ヨークF1を代表的に取り上げて説明し、他のMI素子M2〜M4と集磁ヨークF2〜F4に関する説明は省略する。
【0042】
集磁ヨークF1は、高透磁率(μ=180000)のパーマロイ合金(78質量%Ni−Fe)からなり、大径円柱状の拡大部F11と、その拡大部F11から滑らかに断面が減少した円錐台状の縮小部F12とを有する。集磁ヨークF1の存在により、外部磁場の磁束線は変向される。特に、拡大部F11を通過する外部磁場のZ成分は、高透磁率な集磁ヨークF1に集磁されて、縮小部F12の先端面側(回路基板Sの他面側)へ収束するように誘導される。収束した外部磁場(特にそのZ成分)の磁束線は、その縮小部F12の先端面から回路基板Sを通過して、MI素子M1の中央から放射状に(左右方向へ均等に)拡散していく(
図5参照)。その際、回路基板Sに関して集磁ヨークF1の反対側(
図5の下側)にあるMI素子M1の両端付近に、さらに別の磁場変向体を設ければ(後述の
図10参照)、集磁ヨークF1の縮小部F12から拡散した磁束線を、さらにMI素子M1のワイヤー軸方向へ変向させることができる。
【0043】
MI素子M1は、
図2に示すように感磁ワイヤーW1と、その周囲に巻回された検出コイルC1と、感磁ワイヤーW1および検出コイルC1に接続される端子群T1とからなる。感磁ワイヤーW1は、Co−Fe−Si−B系合金製の零磁歪アモルファスワイヤーからなる。検出コイルC1は、左側コイル部C11と右側コイル部C12とからなる。左側コイル部C11と右側コイル部C12は、巻数、巻径、巻回方向、ピッチ等、出力の大きさに影響する仕様が全て同じで、集磁ヨークF1の中心軸が通過する中心位置(点)に関して左右対称に形成されている。各コイル部C11、C12と端子群T1は、フォトリソグラフィを用いて回路基板S上に形成される。端子群T1は、感磁ワイヤーW1にパルス信号を供給するための端子T101、T102と、左側コイル部C11で生じた起電力を出力する端子T111、T112と、右側コイル部C12で生じた起電力を出力する端子T121、T122とからなる。
【0044】
回路基板Sに形成される集積回路(ASIC)は、
図3に示すように、感磁ワイヤーW1にパルス信号を供給するパルス発信回路(駆動回路)と、左側コイル部C11からの出力(電圧)V11と右側コイル部C12からの出力(電圧)V12を得る信号処理回路と、演算回路(切替回路を含む。)とからなる。
【0045】
パルス発信回路と信号処理回路は次のように作動する。先ず、パルス発振回路により発生した高周波(例えば200MHz相当)のパルス電流が感磁ワイヤーW1へ供給される。このパルス電流により感磁ワイヤーW1のワイヤー円周方向に生じた磁場と外部磁場とが作用して、その軸方向に作用する磁気成分に対応した電圧が左側コイル部C11と右側コイル部C12に発生する。なお、ここでいう周波数は、
図4Aに示すパルス電流波形パルスの「立ち上がり」若しくは「立ち下り」の時間Δtを求め、そのΔtが
図4Bに示すように4分の1周期に相当するとして求めたものである。
【0046】
次に、信号処理回路中のサンプルタイミング調整回路により、上記のパルス電流が立ち上がったあと、所定のタイミングで、アナログスイッチを短時間スイッチをオン−オフする。これによりアナログスイッチは、左側コイル部C11と右側コイル部C12にそれぞれ発生した各電圧をサンプリングする。サンプリング電圧は、それぞれ増幅器により増幅されて出力V11、V12が得られる。なお、パルス電流が立ち上がる時ではなく遮断されるとき(パルス電流が立ち下るとき)に処理してV11、V12を得ることもできる。
【0047】
演算回路は、出力V11と出力V12の和と差を交互に演算し、出力V11と出力V12の和に基づき外部磁場のX成分を指標する出力を行い、出力V11と出力V12の差に基づき外部磁場のZ成分を指標する出力を行う。なお、和と差でX成分とZ成分を指標する出力ができる理由について以下に説明する。
【0048】
[磁場検出]
MI素子M1の周囲に生じる外部磁場の磁束線(磁力線)は、集磁ヨークF1によって各方向へ変向され得る。特に、外部磁場のZ成分(回路基板Sに直交する方向成分)の磁束線は、集磁ヨークF1によって、
図5に示すように大きく変向される。もっとも、集磁ヨークF1は、MI素子M1の対称な左側コイル部C11と右側コイル部C12の中央に配置されているため、外部磁場の変向により各コイル部に現れる出力への影響も対称的となる。
【0049】
ここで集磁ヨークF1により変向された外部磁場のZ成分である変向磁気成分(測定磁場/磁気ベクトルH)を観ると、左側コイル部C11と右側コイル部C12は、前述した通り、出力の大きさに影響する仕様が全て同一となっているので、左側コイル部C11の出力V11と右側コイル部C12の出力V12との出力差(V11−V12)は、MI素子M1の周囲に生じている元の外部磁場のX軸方向の成分の影響が相殺されて、左側コイル部C11と右側コイル部C12に逆向きに作用する変向磁気成分のさらなるX成分(Hx)の影響だけが反映されたものとなる。なお、変向磁気成分のZ成分(Hz)は感磁ワイヤーW1が感応しないため、当然、上記の出力差に影響はしない。この出力差に適当な係数を乗じて演算すれば、その出力差から元の外部磁場のZ成分を求めることが可能となる。
【0050】
ちなみに、出力V11と出力V12の出力和(V11+V12)は、変向磁気成分のX成分(Hx)の影響が相殺され、上述したように変向磁気成分のZ成分(Hz)の影響もなく、元の外部磁場のX成分が集磁ヨークF1により変向されて生じた磁気成分のさらなるX成分(X軸方向への投影成分)の影響だけが反映されたものとなる。この出力和に適当な係数を乗じて演算すれば、その出力和から元の外部磁場のX成分を求めることが可能となる。このような事情はMI素子M3についても同様である。また、同様の考え方で、MI素子M2とMI素子M4によりY成分とZ成分を検出することができる。
【0051】
なお、外部磁場の各軸方向の成分は、一つのMI素子の出力のみに依ることなく、複数のMI素子の出力の平均値(例えば相加平均)に基づいて算出されると好ましい。さらに、集磁ヨークの形状、MI素子の配置や特性等を考慮して、出力値に適切な補正係数または補正項が加味され得ることは当然である。このような演算処理は、上述した演算回路でなされてもよいし、MIセンサ1を搭載する情報端末等のプログラムでなされてもよい。演算処理に関する基本的な考え方は、WO2010/110456号公報等にも詳述されている。
【0052】
[製造方法]
MIセンサ1の各製造工程を
図6〜
図8に示した。先ず、
図6に示すように、シリコンウェハーに上述したパルス発振回路、信号処理回路、演算回路からなる集積回路を多数形成したベース基板SB0を用意する(工程P11)。このベース基板SB0の一面側の所定位置に多数のMI素子Mをフリップチップにより実装する(工程P12)。フォトリソグラフィにより、そのベース基板SB0上に、集積回路用電源供給及び通信入出力用のCuポストQを形成し(工程P13)、その表面を絶縁樹脂RB1で被覆充填した後(工程P14)、さらに外部回路との接続用バンプBを形成する(工程P15)。最後に、ベース基板SB0の他面側を研磨(バックグラインド)して実装ベース基板SB1を得る(工程P16)。
【0053】
次に、
図7に示すように、実装ベース基板SB1の大きさに対応したパーマロイ合金製の軟磁性板FBを用意する(工程P21)。この軟磁性板FBに対して、フォトリソグラフィを用いて、ハーフエッチングする(工程P22)。このエッチングの際、浸食される軟磁性板FBの表面部分は、表面側が広く内部ほど狭いテーパー状に浸食される。このため、その表面側に縮小部F02が形成され、内部側に拡大部F01が形成された円錐台状島F0が多数配列した変向体パターンが自ずと形成される。こうして、多数の円錐台状島F0が軟磁性板FBの残存部F03により連結された変向体パターン板FPが得られる。この変向体パターン板FPのパターン面側に絶縁樹脂RB2を充填して、その表面を平坦化する(工程P23)。こうして樹脂充填された変向体パターン板FP1が得られる。
【0054】
そして、
図8に示すように、上述した工程を経て得られた実装ベース基板SB1の他面側と樹脂充填した変向体パターン板FP1のパターン面側とを、正確に位置合わせして対向配置し、絶縁樹脂RB2を介して接合する(工程P31/接合工程)。その接合後、変向体パターン板FP1の他面側(パターン面側の反対面側)にレジストrgをフォトリソグラフィより作成する(工程P32)。そして変向体パターン板FP1の残存部F03をエッチングして取り除く(工程P33/分離工程)。これにより、各MI素子の中央に、拡大部と縮小部を有する集磁ヨークFが配置された状態となる。その上に、絶縁樹脂RB2をさらに充填して、その表面を平坦化する(工程P34)。こうして、多数のMI素子Mと集磁ヨークFが正確に配置された多数のMIセンサを有する接合ベース基板SU(合体ベース基板)が得られる。この接合ベース基板SUをダイシングすることにより、多数のMIセンサ1が一度に得られる(分割工程)。なお、本実施例では、接合値に残存部をエッチングして集磁ヨークFを作製した例を示したが、接合前に同様の工程で分割された集磁ヨークFが多数配置された板を作製しておき、その後に接合するようにしてもよい。
【0055】
《第2実施例》
第1実施例の集磁ヨークF1の形状を変向した集磁ヨークFWを配置したMIセンサ2を
図9に示した。なお、第1実施例の場合と同様な構成には、同符号を付してそれに関する説明を以下省略する。他の実施例についても同様である。
【0056】
MIセンサ2の集磁ヨークFWは十字状をしており、回路基板Sの他面側中央に配置されている。集磁ヨークFWの延在部FW1〜FW4は、各MI素子M1〜M4のそれぞれの中央位置に位置しており、集磁ヨークFWはそれらが中央部FW0で連結された一体構造となっている。このような対称形状の集磁ヨークFWでも、集磁ヨークF1等と同様な機能を果たし得る。
【0057】
この集磁ヨークFWを備えたMIセンサ2も、前述した変向体パターン板FP1に替えて、ハーフエッチングによりパーマロイ合金製の軟磁性板FBに正方形状の窪みを多数形成した変向体パターン板FP’(図略)を用いることにより、効率的に生産し得る。
【0058】
《第3実施例》
集磁ヨークF1を小型化した集磁ヨークFsを、回路基板SのMI素子M1側の両端付近に配置したMIセンサ3を
図10に示した。このように集磁ヨークF1(主磁場変向体)と集磁ヨークFs(補助磁場変向体)を配置することにより、回路基板Sに交差する磁束線の収束や変向をより制御し易くなる。
【0059】
《第4実施例》
集磁ヨークF1を小型化した二つの集磁ヨークFs1、Fs2を、MI素子Mdの中間に均等に配置したMIセンサ4を
図11Aに示した。MIセンサ4の検出コイルCdは、2ユニットに分割された分割コイル部Cd1、Cd2からなる。分割コイル部Cd1は左側分割コイル部Cd11と右側分割コイル部Cd12からなり、分割コイル部Cd2は左側分割コイル部Cd21と右側分割コイル部Cd22からなる。集磁ヨークFs1は分割コイル部Cd1の中央、つまり左側分割コイル部Cd11と右側分割コイル部Cd12の間に配設され、集磁ヨークFs2は分割コイル部Cd2の中央、つまり左側分割コイル部Cd21と右側分割コイル部Cd22の間に配設される。MIセンサ4によれば、その小型化を図りつつ、外部磁場のZ成分を高感度に検出できる。なお、本実施例では、左側分割コイル部Cd11と左側分割コイル部Cd21、右側分割コイル部Cd12と右側分割コイル部Cd22が、それぞれ同極性(巻回方向)となるように接続されている場合を一例として示したが、それら4つの各コイル部はそれぞれ独立したものでもよい。
【0060】
《第5実施例》
MIセンサ4に対して、検出コイルを2分割から7分割の分割コイル部Cd1〜Cd7とし、集磁ヨークを7つの集磁ヨークFs1〜Fs7として、さらなる小型化・薄型化を図ったMIセンサ5を
図12Aおよび
図12Bに示した。
【0061】
《第6実施例》
(1)上述した回路基板Sを、集磁ヨークFiを内蔵した内蔵回路基板S2(本発明でいう「基板」に相当する。)に変更したMIセンサ6を
図13に示した。集磁ヨークFiも、集磁ヨークF1等と同様に、パーマロイ合金からなり、大径円板状の拡大部Fi1と、その拡大部Fi1から延在する円柱状の縮小部Fi2とを有する。集磁ヨークFiの作用効果およびMIセンサ6の作動は、MIセンサ1の場合と同様である。
【0062】
もっとも、本実施例のように集磁ヨークFiを内蔵した内蔵回路基板S2では、
図5に示したMIセンサ1よりも、集磁ヨークFiとMI素子Mの距離をさらに近接させることができる。この結果、MIセンサ自体のさらなる薄型化、小型化だけではなく、その感度の向上も併せて図ることができる。例えば、集磁ヨークの上端面と感磁ワイヤーとの距離(ギャップ)を1/5(例えば0.1mmから0.02mm)にすると、MIセンサの出力(感度)は約3.5倍にもなることを本発明者は確認している。
【0063】
また、集磁ヨークを内蔵した基板を採用することにより、汎用性の向上等を図ることができる。さらに、その集磁ヨークの拡大部の面積を拡張することにより、外部磁場のZ成分の集磁性が向上し、拡大部の薄型化と外部磁場のZ成分検出の高感度化との両立も可能となる。
【0064】
(2)内蔵回路基板S2は、例えば、
図14に示す工程を経て製造される。先ず、シリコンウェハーからなるSi基板S0を用意する(工程P61)。なお、このSi基板S0は回路基板Sの製作に用いたSi基板と同様である。
【0065】
Si基板S0上に拡大部Fi1となるパーマロイ合金の第1メッキ層を形成する(工程P62)する。次に、その第1メッキ層上に縮小部Fi2となるパーマロイ合金の第2メッキ層を形成する(工程P63)。これらメッキ層の形成工程(メッキ工程)もフォトリソグラフィによりなされる。
【0066】
こうして積層形成された拡大部Fi1および縮小部Fi2を熱処理(焼鈍)する(工程P64)。この熱処理により、各メッキ工程で拡大部Fi1と縮小部Fi2に導入された内部応力が除去され、軟磁性特性に優れた拡大部Fi1と縮小部Fi2からなる集磁ヨークFiが得られる。
【0067】
Si基板S0上に形成された集磁ヨークFiを囲繞する絶縁樹脂層Riを樹脂モールドにより形成する(工程P65)。この絶縁樹脂層Riの上端面を研磨して平坦にする(工程P66)。なお、熱処理工程(工程P64)後から研磨工程(工程P66)前の間に、MIセンサ6の駆動に必要な回路を形成しておく。こうして集磁ヨークFiを内蔵した内蔵ベース基板SBiが得られる。
【0068】
内蔵ベース基板SBi上に、MI素子Mをフリップチップ等により実装する(工程P67/実装工程)。これ以降は、
図6に示したような各工程を行い、内蔵ベース基板SBiの片面側(Si基板S0の他面側)を研磨(バックグラインド)等する。こうして合体ベース基板SU2が得られる。この合体ベース基板SU2をダイシングすることにより(分割工程)、多数のMIセンサ6が得られる。なお、各MIセンサは、WO2014/054371号公報等に詳述されている方法で、内蔵ベース基板SBi等の表面に形成されてもよい。