(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マトリックス樹脂組成物は、キュラストメーターで測定した100℃における硬化完了時間が360分以内である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のトウプリプレグ。
前記成分(A)の100質量部に対する前記成分(B)および前記成分(C)の合計の含有量が、2〜12質量部である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のトウプリプレグ。
金属ライナーまたは樹脂ライナーと、前記金属ライナーまたは樹脂ライナーの表面の一部または全部を覆うように配置された補強層とを有する複合材料補強圧力容器であって、
前記補強層が、請求項1〜9のいずれか一項に記載のトウプリプレグの硬化物である複合材料補強圧力容器。
請求項1〜9のいずれか一項に記載のトウプリプレグを、回転する金属ライナーまたは樹脂ライナーに巻き付けて圧力容器中間体を作製するフィラメントワインディング工程、および
前記圧力容器中間体を加熱し、前記トウプリプレグに含まれるマトリックス樹脂組成物を硬化させる硬化工程を含む、複合材料補強圧力容器の製造方法。
成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)を含み、前記成分(A)はエポキシ樹脂であり、前記成分(B)はジシアンジアミドであり、前記成分(C)は硬化促進剤であり、前記成分(D)はコアシェル型ゴム粒子であり、前記成分(A)の100質量部に対する前記成分(D)の含有量が20〜70質量部であり、30℃における粘度が3Pa・sec〜80Pa・secであり、昇温速度2℃/分で室温から130℃まで昇温して粘度測定した際に得られる最低粘度が0.04Pa・sec〜1Pa・secであるマトリックス樹脂組成物を調製する調製工程、
前記マトリックス樹脂組成物を強化繊維束に含浸させ、樹脂含浸強化繊維束を作製する含浸工程、
前記樹脂含浸強化繊維束を、回転する金属ライナーまたは樹脂ライナーに巻き付けて圧力容器中間体を作製するフィラメントワインディング工程、および
前記圧力容器中間体を加熱し、前記樹脂含浸強化繊維束に含まれるマトリックス樹脂組成物を硬化させる硬化工程を含む、複合材料補強圧力容器の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、エポキシ樹脂(以下、「成分(A)」とも言う。)、ジシアンジアミド(以下、「成分(B)」とも言う。)、硬化促進剤(以下、「成分(C)」とも言う。)およびコアシェル型ゴム粒子(以下、「成分(D)」とも言う。)を含むマトリックス樹脂組成物が、強化繊維束に含浸されてなるトウプリプレグに存し、前記成分(A)の100質量部に対する前記成分(D)の含有量が20〜70質量部であり、前記マトリックス樹脂組成物の30℃における粘度が3Pa・sec〜80Pa・secであり、前記マトリックス樹脂組成物を昇温速度2℃/分で室温から130℃まで昇温して粘度測定した際に得られる最低粘度(以下、「粘度A」とも言う。)が0.04Pa・sec〜1Pa・secである。
なお、本発明における粘度は、特に断りがない限り、レオメーター(回転型動的粘弾性測定装置)にて測定した値である。
【0022】
<トウプリプレグ>
トウプリプレグは、数千〜数万本の強化繊維のフィラメントが一方向に配列した強化繊維束に、マトリックス樹脂組成物を含浸させた後、これを紙管等のボビンに巻き取ることにより得られる細幅の中間基材である。
なお、本明細書においては、このようにボビンに巻き取られたもの、あるいは、巻き取られた後に解舒されたものを「トウプリプレグ」と称し、単にマトリックス樹脂組成物が含浸された強化繊維束を「樹脂含浸強化繊維束」と称する。
本発明のトウプリプレグは、後述するマトリックス樹脂組成物を強化繊維束に含浸させることにより得られる。
【0023】
(強化繊維束)
強化繊維束を構成するフィラメントの繊維径および本数に特に制限はないが、繊維径は3〜100μmであることが好ましく、4〜30μmがより好ましく、5〜15μmがさらに好ましく、本数は1,000〜70,000本であることが好ましく、3,000〜60,000本がより好ましく、5,000〜50,000本がさらに好ましい。
なお、本明細書における「繊維径」とは、それぞれの繊維の断面の等面積円相当直径を意味する。
【0024】
強化繊維束を構成するフィラメントの繊維径が、前記下限値以上であれば、例えばフィラメントが、各種加工プロセスにおいて、ロールやボビン等の表面で横移動(繊維方向と直交する方向への移動を意味する。以下同様。)を起こす際に、切断したり毛羽だまりが生じたりすることを抑制でき、前記上限値以下であれば、フィラメントが硬くなり、屈曲性が低下することを抑制できる。
【0025】
強化繊維束にはガラス繊維、炭素繊維(なお、本明細書においては、黒鉛繊維も炭素繊維に含まれる。)、アラミド繊維、ボロン繊維等、通常の繊維強化複合材料に使用される強化繊維を使用することができる。なかでも、比強度が高い炭素繊維が好ましく、JIS R 7601に準拠したストランド強度が3500MPa以上の炭素繊維がより好ましく、ストランド強度4500MPa以上の炭素繊維がさらに好ましく、ストランド強度が5000MPa以上の炭素繊維が特に好ましい。
本発明のトウプリプレグが圧力容器や緊張材に使用される場合、使用する炭素繊維束のストランド強度は高いほど好ましい。
【0026】
なお、強化繊維束が炭素繊維束である場合、フィラメントの繊維径は3〜12μmが好ましく、4〜9μmがより好ましく、4〜7μmがさらに好ましく、本数は1,000〜70,000本であることが好ましく、6,000〜60,000本がより好ましく、12,000〜50,000本がさらに好ましい。
繊維径が前記下限値以上であれば、例えばフィラメントが、各種加工プロセスにおいて、ロールやボビン等の表面で横移動を起こす際に、切断したり毛羽だまりが生じたりすることを抑制でき、前記上限値以下であれば、炭素繊維の製造が容易である。
【0027】
(トウプリプレグの解舒性)
トウプリプレグの製造方法に関しては後述するが、トウプリプレグはシート状のプリプレグとは異なり、通常は、フィルムや離型紙で表面を覆われることなく、ガラス繊維束や炭素繊維束と同様にそのまま紙管等に巻き取られる。そして、このように紙管に巻かれたトウプリプレグが解舒されて使用される。
【0028】
したがって、トウプリプレグのタック性が強すぎると、解舒する際の抵抗が強いために高速で解舒ができない、あるいは、強化繊維束の単糸が、紙管に巻かれたトウプリプレグ表面に絡め取られてしまうために解舒が容易でない等の問題が生じる。
【0029】
(トウプリプレグのタック)
トウプリプレグのタックは、平均最大ストレス値で表すことができる。なお、本明細書において、ストレス値とは、プランジャーと試料の接触面に生じる引張応力を意味し、平均最大ストレス値は、以下に述べるタック試験により得られる値を意味する。
【0030】
[タック試験]
装置:タックテスターTA−500(株式会社ユービーエム製)
プランジャーの試料との接触面積:約3.1cm
2
プランジャー押しつけ時間:10秒
プランジャー押しつけ荷重:90,000Pa
プランジャー上昇速度:1mm/秒
測定環境温度:23℃
測定環境湿度:50%RH
【0031】
手順:
1)トウプリプレグを試料台に置き固定する。この際、プランジャーと接触するトウプリプレグの面は、当該トウプリプレグが紙管に巻かれていた時の内側面(即ち紙管側の面)とする。
2)プランジャーに90,000Paの荷重をかけ、トウプリプレグに10秒間押し当てる。
3)プランジャーを1mm/秒で上昇させる。
4)プランジャーを上昇させる間のストレス値の最大値を最大ストレス値とし、合計3回測定して、得られた最大ストレス値の平均値を平均最大ストレス値とする。
【0032】
本発明のトウプリプレグにおける平均最大ストレス値は、2kPa以上65kPa以下とすることが好ましく、10kPa以上50kPa以下とすることがさらに好ましい。トウプリプレグの平均最大ストレス値が、前記下限値以上であれば、FW工程におけるマンドレルに対する適度な粘着性を持たせることができ、マンドレルへの巻き付け時に滑ってしまう等の問題を回避できる。また、前記上限値以下であれば、ボビン巻きからの高速解舒が可能になり、また、解舒後のトウプリプレグが折りたたまれたまま、ライナーに巻き付けられることを防止できる。
【0033】
(トウプリプレグを使用する環境温度におけるマトリックス樹脂組成物の粘度)
トウプリプレグのタック性やドレープ性の強弱に影響を与える大きな因子として、トウプリプレグに含浸されたマトリックス樹脂組成物の粘度が挙げられる。特に、トウプリプレグを使用する環境温度でのマトリックス樹脂組成物の粘度が、トウプリプレグのタック性やドレープ性に大きな影響を与える。
本発明のトウプリプレグにおいては、マトリックス樹脂組成物の30℃における粘度は3Pa・sec〜80Pa・secであり、5Pa・sec〜70Pa・secが好ましく、5Pa・sec〜50Pa・secがさらに好ましい。
マトリックス樹脂組成物の30℃における粘度が上記範囲にあれば、ボビンからの解舒性やタック性、ドレープ性に優れたトウプリプレグが得られる。
【0034】
マトリックス樹脂組成物の30℃における粘度が前記上限値以下であれば、トウプリプレグのタック性が強くなりすぎず、トウプリプレグが適度なドレープ性を有するため、ライナー等のマンドレルに巻き付ける際に、隣接するトウプリプレグ間に空隙を生じさせることなくライナーに巻き付けることができる。
また、マトリックス樹脂組成物の30℃における粘度が前記下限値以上であれば、トウプリプレグが適度なタック性を有し、ライナー等のマンドレルに対する適度な粘着性を持たせることができ、マンドレルへの巻き付け時に滑ってしまう等の問題を回避することができる。また、トウプリプレグが柔らかくなりすぎないため、FW工程におけるガイド通過時のトウプリプレグの形状変化を防ぐことができる。
【0035】
(トウプリプレグを硬化させる温度におけるマトリックス樹脂組成物の粘度)
トウプリプレグの樹脂フローに影響を与える大きな因子として、トウプリプレグに含浸されたマトリックス樹脂組成物の粘度が挙げられる。特に、トウプリプレグを硬化させる温度でのマトリックス樹脂組成物の粘度が、トウプリプレグの樹脂フローに大きな影響を与える。
本発明のトウプリプレグにおいては、マトリックス樹脂組成物の粘度Aは0.04Pa・sec〜1Pa・secであり、0.05Pa・sec〜0.5Pa・secであることが好ましい。
マトリックス樹脂組成物の粘度Aが上記範囲内にあれば、硬化中に適度な樹脂フローを生じさせることができる。
【0036】
マトリックス樹脂組成物の粘度Aが前記上限値以下であれば、以下に挙げるような不具合を防止することができる。
・硬化過程で生じる樹脂フローの量が少なくなりすぎて、トウプリプレグを巻き付ける際に生じるトウプリプレグ間の空隙が埋まらず、複合材料補強圧力容器の補強層中にボイドが多く発生してしまう。
・複合材料補強圧力容器の補強層の表層にほとんどマトリックス樹脂組成物が存在せず、強化繊維束が露出し、複合材料補強圧力容器の外観が悪化してしまう。
また、マトリックス樹脂組成物の粘度Aが前記下限値以上であれば、以下に挙げるような不具合を防止することができる。
・硬化過程で生じる樹脂フローの量が多くなりすぎて、トウプリプレグ中のマトリックス樹脂組成物が不足することにより、複合材料補強圧力容器の補強層中にボイドが多く発生してしまう。
・複合材料補強圧力容器の外観が悪化してしまう。
【0037】
(マトリックス樹脂組成物の含有量)
トウプリプレグのタック性の強弱に影響を与える他の因子として、トウプリプレグに含浸されたマトリックス樹脂組成物の含有量が挙げられる。
【0038】
本発明のトウプリプレグの100質量%に占めるマトリックス樹脂組成物の含有量は、20質量%以上40質量%以下が好ましい。トウプリプレグの100質量%に占めるマトリックス樹脂組成物の含有量が前記下限値以上であれば、強化繊維束中に十分な量のマトリックス樹脂組成物を容易に行き渡らせることができ、得られる繊維強化複合材料中の空隙の発生を防ぐことができる。また、前記上限値以下であれば、トウプリプレグに適度なタック性を持たせることができる。さらに、繊維強化複合材料の繊維含有体積率を高くできるため、得られる繊維強化複合材料の機械的特性が効果的に発現する。
特に、解舒性や工程通過性、形態保持性が優れ、かつ機械的特性が高い繊維強化複合材料を得られるトウプリプレグとするには、トウプリプレグの100質量%に占めるマトリックス樹脂組成物の含有量を、20質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。
【0039】
また、トウプリプレグに含浸されたマトリックス樹脂組成物の含有量は、トウプリプレグの取扱い性や繊維強度発現率にも大きな影響を与える。強化繊維の繊維強度発現率とは、強化繊維自体の引っ張り強度(ストランド強度)に対する、該強化繊維を含む繊維強化複合材料の繊維方向の引っ張り強度の割合である。
トウプリプレグの100質量%に占めるマトリックス樹脂組成物の含有量を、前記下限値以上にすることで、強化繊維束中に、十分な量のマトリックス樹脂組成物を容易に行き渡らせることができ、繊維強度発現率を高くすることができる。
【0040】
(マトリックス樹脂組成物)
[成分(A):エポキシ樹脂]
成分(A)はエポキシ樹脂である。本明細書において「エポキシ樹脂」という用語は、分子内に1つ以上のエポキシ基を有する化合物という化学物質のカテゴリーの名称として用いる。
エポキシ樹脂は、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
成分(A)は、分子内に芳香族環を有する2官能のエポキシ樹脂(以下、「成分(A1)」とも言う。)を含有することが好ましく、分子内に芳香族環を有する25℃で液状の2官能エポキシ樹脂(以下、「成分(A1−1)」とも言う。)を含むことが特に好ましい。
なお、「2官能エポキシ樹脂」とは、分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を意味する。
成分(A1−1)を用いることにより、マトリックス樹脂組成物の粘度を適切な範囲に調整することができ、かつ、硬化物の機械的特性を適正な範囲に調整することができる。成分(A1)が含有する芳香族環としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環等が挙げられる。
【0042】
具体的には、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、レゾルシン型、ヒドロキノン型、ビスフェノキシエタノールフルオレン型、ビスフェノールフルオレン型、ビスクレゾールフルオレン型、およびノボラック型等のジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テレフタル酸型等のジグリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
マトリックス樹脂組成物の粘度を適切な範囲に容易に調整することができ、かつ硬化物の機械的特性を適正な範囲に調整することができる点から、成分(A1−1)のなかでも、分子内に芳香族環を有する25℃で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく、特にエポキシ当量が170g/eq以上200g/eq以下である、25℃で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
成分(A)の100質量部に占める成分(A1)の含有量は、10〜100質量部が好ましく、25〜100質量部がより好ましい。成分(A)の100質量部に占める成分(A1)の含有量が前記下限値以上であれば、機械的特性が良好なマトリックス樹脂組成物の硬化物を得ることができる。
また、成分(A)が成分(A1−1)を含む場合、成分(A)の100質量部に占める成分(A1−1)の含有量は、20〜100質量部が好ましく、50〜100質量部がより好ましい。成分(A)の100質量部に占める成分(A1−1)の含有量が前記下限値以上であれば、機械的特性が良好なマトリックス樹脂組成物の硬化物を得られることに加え、前述した30℃におけるマトリックス樹脂組成物の粘度を適切な範囲に調整することがより容易になる。
【0043】
また、成分(A)は、分子内に芳香族環を有さず、比較的低粘度のエポキシ樹脂、具体的には、25℃における粘度が15Pa・sec以下である2官能エポキシ樹脂(以下、「成分(A2)」とも言う。)を含むことが好ましい。
低粘度の成分(A2)を併用することにより、トウプリプレグを使用する環境温度におけるマトリックス樹脂組成物の粘度を、容易に適切な範囲に調整することができ、優れた解舒性、ドレープ性、タック性を有するトウプリプレグを提供することができる。さらに、マトリックス樹脂組成物の粘度Aを、硬化過程で適度な樹脂フローが生じる範囲に、容易に調整することができる。
【0044】
また、成分(A2)としては、分子内に芳香族環を有さず、25℃における粘度が15Pa・sec以下であることに加え、分子内に脂環式構造を有する2官能エポキシ樹脂(以下、「成分(A2−1)」とも言う。)であることが好ましい。脂環式構造を有するエポキシ樹脂を含むことにより、本発明に用いられるマトリックス樹脂組成物は粘度が低くなり、かつ、繊維強化複合材料における繊維強度発現率を高めることができる。特に、脂肪族環にグリシジル基等のエポキシ基を含む置換基が結合した化合物は、これをマトリックス樹脂組成物に配合することにより、耐熱性が高い硬化物を得ることができるため、より一層好ましい。
【0045】
脂肪族環にグリシジル基等のエポキシ基を含む置換基が結合した化合物としては、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、メチルテトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等が挙げられるが、上記効果の観点からヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルが特に好ましい。
【0046】
成分(A)の100質量%に占める成分(A2)の含有量は、2〜80質量部が好ましく、2〜50質量部がより好ましく、4〜35質量部がさらに好ましい。
成分(A)に占める成分(A2)の含有量が前記下限値以上であれば、マトリックス樹脂組成物の粘度の調整を容易に行うことができ、前記上限値以下であれば、マトリックス樹脂組成物の粘度が必要以上に低くなることを抑制でき、またマトリックス樹脂組成物の硬化物の高い耐熱性の維持や、マトリックス樹脂組成物の高い反応性の維持が容易となる。
【0047】
また、成分(A)が成分(A2−1)を含む場合、成分(A)の100質量部に占める成分(A2−1)の含有量は、2〜80質量部が好ましく、2〜50質量部がより好ましく、4〜35質量部がさらに好ましい。
成分(A)に占める脂環式構造を有するエポキシ樹脂の含有量が前記範囲内であれば、上述した脂環式構造を有するエポキシ樹脂の効果が充分に発揮される。
すなわち、成分(A)に占める脂環式構造を有するエポキシ樹脂の含有量が前記下限値以上であれば、マトリックス樹脂組成物の粘度を適度に低下させ、かつ得られる繊維強化複合材料における繊維強度発現率を高めることができる。特に、当該エポキシ樹脂が脂肪族環にグリシジル基等のエポキシ基を含む置換基が結合した化合物である場合、マトリックス樹脂組成物の硬化物の耐熱性が高くなる点でも好ましい。また、成分(A)に占める脂環式構造を有するエポキシ樹脂の含有量が前記上限値以下であれば、マトリックス樹脂組成物の硬化物の高い耐熱性の維持や、マトリックス樹脂組成物の高い反応性の維持が容易となる。
【0048】
成分(A)は、成分(A1)および成分(A2)を含むことが好ましく、成分(A1−1)および成分(A2)を含むことがより好ましく、成分(A1−1)および成分(A2−1)を含むことがさらに好ましい。
【0049】
成分(A)としては、成分(A1)および成分(A2)以外にも、耐熱性向上や粘度調整を目的として、各種のエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、3官能以上のエポキシ樹脂や、脂肪族骨格をもつ成分(A1)および成分(A2)以外の2官能のエポキシ樹脂が挙げられる。
3官能のエポキシ樹脂としてはトリアジン骨格含有エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、アミノクレゾール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
4官能以上のエポキシ樹脂としてはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0050】
成分(A1)および成分(A2)以外のエポキシ樹脂の含有量は、樹脂の種類および配合の目的により好ましい範囲が異なるが、本発明のトウプリプレグに含浸されるマトリックス樹脂組成物の30℃における粘度および粘度Aが、前述した範囲となるよう選択することが好ましい。
【0051】
[成分(B):ジシアンジアミド]
成分(B)はジシアンジアミドである。
成分(B)は、粒子状の熱活性型の潜在性硬化剤であり、これを含むマトリックス樹脂組成物は安定性、具体的には、調製工程における安定性や室温での保存安定性、および強化繊維束にマトリックス樹脂組成物を含浸させる工程で受ける熱に対する安定性に優れている。
すなわち、成分(B)は、一般的なトウプリプレグを使用する環境温度(具体的には20℃〜30℃)、マトリックス樹脂組成物の調製工程(具体的には40℃〜60℃)、強化繊維束へのマトリックス樹脂組成物を含浸する工程(具体的には60℃〜80℃)ではエポキシ樹脂成分にほとんど溶解せず、粒子状のままエポキシ樹脂成分に分散した状態で存在するため、エポキシ樹脂中のエポキシ基と接触する面積が小さく、反応性をほとんど示さない。
【0052】
また、成分(B)は粒子状であるため、強化繊維束中に含むことで単繊維同士が密に充填することを防ぐ効果が得られる。これにより強化繊維束中の空隙の体積を大きくして、強化繊維束中により多くのマトリックス樹脂組成物を含浸させることが可能となる。トウプリプレグ中に、十分な量のマトリックス樹脂組成物を含浸させることができれば、トウプリプレグ表面に存在するマトリックス樹脂組成物を減らすことができ、トウプリプレグ表面に存在するマトリックス樹脂組成物を減らすことで、トウプリプレグのタックを適度な範囲にすることができる。また、トウプリプレグをボビンに巻き取る際にトウプリプレグが滑ってしまうことによる、トウプリプレグの巻き形態のひずみを抑制することができる。
【0053】
[成分(C):硬化促進剤]
成分(C)は硬化促進剤である。
硬化促進剤は、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
成分(C)は、成分(B)の硬化性を高めるために用いる。硬化促進剤としては、例えば、尿素誘導体、イミダゾール誘導体、エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物、エポキシ樹脂アミンアダクト化合物、変性脂肪族アミン化合物、ルイス酸錯体、オニウム塩、フェノール化合物等が挙げられる。
なかでも、マトリックス樹脂組成物の貯蔵安定性と低温での硬化性とのバランスを両立できる点から、尿素誘導体、イミダゾール誘導体が好適に用いられ、特に、尿素誘導体としては、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、4,4’−メチレンビス(ジフェニルジメチルウレア)、2,4−トルエンビス(3,3−ジメチルウレア)等、イミダゾール誘導体としては、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン、1−シアノ−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が好ましい。
【0054】
マトリックス樹脂組成物中の成分(C)の含有量は、成分(C)の種類や、所望の硬化温度により異なるが、得られるトウプリプレグのタック性や貯蔵安定性、硬化時の発熱量および硬化物の特性を適正な範囲とするため、成分(A)の100質量部に対して、0.1〜10質量部とすることが好ましく、0.3〜8質量部がよりに好ましく、0.5〜7質量部がさらに好ましい。
【0055】
なお、成分(A)の100質量%に対する成分(B)および(C)の合計の含有量は、2〜12質量部であることが好ましく、3〜9質量部がより好ましい。
成分(A)に対する成分(B)および成分(C)の合計の含有量が前記下限値以上であれば、低温での硬化性を高めることができ、前記上限値以下であれば、得られるトウプリプレグのタックが低くなりすぎない。
【0056】
成分(A)に対する成分(B)の含有量が上記から導かれる適切な範囲内であれば、得られるトウプリプレグのタック、マトリックス樹脂組成物の保存安定性、硬化時の発熱量および硬化物の特性を適正な範囲とすることができる。
【0057】
[成分(D):コアシェル型ゴム粒子]
成分(D)はコアシェル型ゴム粒子である。
成分(D)は、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
マトリックス樹脂組成物に成分(D)が配合されることにより、マトリックス樹脂組成物の30℃における粘度を大きく上昇させることなく粘度Aを上昇させることができ、かつ、マトリックス樹脂組成物の硬化物の耐熱性を損なうことなく靱性を向上させることができる。
【0058】
「コアシェル型ゴム粒子」とは、架橋されたゴム状ポリマーを主成分とする(粒子状のコア成分の100質量部のうち50質量部以上を占めることを意味する。)粒子状のコア成分の表面に、コア成分とは異種のシェル成分ポリマーをグラフト重合することで粒子状コア成分の表面の一部あるいは全体をシェル成分で被覆したゴム粒子である。
【0059】
成分(D)を構成するコア成分としては、例えばブタジエンゴム(BR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Si)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPR)等が挙げられる。なかでもスチレンとブタジエンから構成される架橋ゴム状ポリマーが、靭性向上効果が高く好ましい。
【0060】
成分(D)を構成するシェル成分は、前記したコア成分にグラフト重合されており、コア成分を構成するポリマーと共有結合していることが好ましい。
【0061】
かかるシェル成分を構成する成分としては、例えばアクリル酸エステル系モノマー、およびメタクリル酸エステル系モノマー、および芳香族系ビニルモノマー等からなる群から選択される少なくとも1種が重合したポリマーを用いることができる。
コア成分としてスチレンとブタジエンから構成される架橋ゴム状ポリマーを使用する場合、シェル成分としては、(メタ)アクリル酸エステルであるメタクリル酸メチルと芳香族ビニル化合物であるスチレンの混合物をコア成分にグラフト重合させたものであることが好ましい。
【0062】
また、前記シェル成分には、マトリックス樹脂組成物中における粒子の分散状態を安定化させるために、成分(A)と反応する官能基が導入されていることが好ましい。
かかる官能基としては、たとえばヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基が挙げられ、なかでもエポキシ基が好ましい。エポキシ基を導入する方法としては、前記したシェル成分に、例えばメタクリル酸グリシジルを併用して、コア成分にグラフト重合する方法がある。
【0063】
成分(D)として市販品を用いることもできる。
具体的な市販品としては、例えばアクリルゴムを使用したコアシェル型ゴム粒子(製品名「W−5500」(三菱レイヨン(株)製)、製品名「J−5800」(三菱レイヨン(株)製))、シリコーン・アクリル複合ゴムを使用したコアシェル型ゴム粒子(製品名「SRK−200E」(三菱レイヨン(株)製))、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなるコアシェル型ゴム粒子(製品名「パラロイドEXL−2655」(呉羽化学工業(株)製))、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなるコアシェル型ゴム粒子(製品名「スタフィロイドAC−3355」(武田薬品工業(株)製)、製品名「TR−2122」(武田薬品工業(株)製))、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなるコアシェル型ゴム粒子(製品名「PARALOID EXL−2611」(Rohm&Haas社製)、製品名「EXL−3387」(Rohm&Haas社製))等を挙げることができる。
【0064】
成分(D)は、マトリックス樹脂組成物の調製時に、攪拌機やロールミル等を使用して成分(A)中へ分散してもよいが、成分(D)が成分(A)にあらかじめ分散されたマスターバッチ型のコアシェル型ゴム粒子分散エポキシ樹脂を用いると、マトリックス樹脂組成物の調製時間を短縮できるだけでなく、マトリックス樹脂組成物中の成分(D)の分散状態を良好にすることができるので好ましい。
【0065】
このようなマスターバッチ型のコアシェル型ゴム粒子分散エポキシ樹脂としては、例えばアクリルゴムを含有したエポキシ樹脂(製品名「BPF307」(日本触媒(株)製)、製品名「BPA328」(日本触媒(株)製));スチレンおよびブタジエンの共重合体のコア成分とメタクリル酸メチルを含み、かつエポキシ樹脂と反応する官能基を有するシェル成分とからなるコアシェル型ゴム粒子を含有したエポキシ樹脂(製品名「MX−113」(カネカ(株)製)、製品名「MX−416」(カネカ(株)製))、ブタジエンゴムを含有したエポキシ樹脂(製品名「MX−156」(カネカ(株)製))、シリコーンゴムを含有したエポキシ樹脂(製品名「MX−960」(カネカ(株)製))等が挙げられる。
【0066】
特に、マトリックス樹脂組成物の30℃における粘度を大きく上昇させることなく粘度Aを上昇させるため、成分(A)の100質量%に対する成分(D)の含有量は、20〜70質量%であり、30〜45質量%とすることがより好ましい。
成分(A)に対する成分(D)の含有量が前記下限値以上であれば、粘度Aを上昇させる効果を十分得ることができ、硬化過程での樹脂フローが多くなりすぎることを防ぐことができる。このようなマトリックス樹脂組成物を用いて得られた複合材料補強圧力容器は、高いタンクバースト圧(破壊圧力)を実現できる点でも好ましい。
成分(A)に対する成分(D)の含有量が前記上限値以下であれば、粘度Aが上昇することにより、硬化過程での樹脂フローが少なくなりすぎることを防ぐことができる。このようなマトリックス樹脂組成物を用いて得られた複合材料補強圧力容器は、高いタンクバースト圧(破壊圧力)を実現できる点でも好ましい。
【0067】
マトリックス樹脂組成物の硬化物中における成分(D)の一次粒子径は、30nm以上1000nm以下であることが好ましく、50nm以上500nm以下であることがより好ましい。
マトリックス樹脂組成物の硬化物中における成分(D)の一次粒子径が前記下限値以上であれば、一般的なトウプリプレグを使用する環境温度(具体的には20℃〜30℃)、マトリックス樹脂組成物の調製工程(具体的には40℃〜60℃)、強化繊維束へのマトリックス樹脂組成物を含浸する工程(具体的には60℃〜80℃)におけるマトリックス樹脂組成物の粘度を適度に低く保つことができるため、マトリックス樹脂組成物の調製やトウプリプレグの作製がより容易になるため好ましく、前記上限値以下であれば、粘度Aを上昇させる効果を十分得ることができ、硬化過程での樹脂フローが多くなりすぎることを防ぐことができる。このようなマトリックス樹脂組成物を用いて得られた複合材料補強圧力容器は、高いタンクバースト圧(破壊圧力)を実現できる点でも好ましい。
ここで、成分(D)の一次粒子径とは、一次粒子の体積平均粒径を表し、例えばナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製)を用いて測定することができる。
【0068】
[任意成分]
マトリックス樹脂組成物には、シリカ粉末、アエロジル、マイクロバルーン、三酸化アンチモン、アルミナ、酸化チタン等の無機粒子、リン化合物等の難燃剤、カーボンブラック、活性炭等の炭素粒子、また、消泡剤、湿潤剤等の添加剤を、目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。
【0069】
(マトリックス樹脂組成物の低温硬化性)
複合材料補強圧力容器のライナーは、アルミニウム等の金属ライナーと、ポリアミドやポリエチレン等のプラスチックライナーに大きく分けられる。プラスチックライナーを繊維強化複合材料で補強した圧力容器は、金属ライナーを使用した圧力容器と比較して軽量かつ安価である点で優れている。しかし、強化繊維束に含浸させるマトリックス樹脂組成物は熱により硬化させることが多いため、容器内部のライナーには該マトリックス樹脂組成物の硬化時の加熱に加え、樹脂自体の硬化反応熱が加わり、変形あるいは劣化するおそれがある。
プラスチックライナーにトウプリプレグをFW工程により巻き付け、該トウプリプレグに含まれるマトリックス樹脂組成物を熱により硬化させる場合、プラスチックライナーが変形あるいは劣化しない低い温度(80〜120℃)で硬化させる必要がある。また短時間で硬化を完了させることにより、成形サイクルを短くすることができ圧力容器の生産性を向上させることができる。
【0070】
ある温度でのマトリックス樹脂組成物の硬化性は、キュラストメーターを用いて測定することができる。キュラストメーターとは、配合ゴムの加硫特性や、熱硬化性樹脂の硬化過程を測定する試験機であり、一定の温度と圧力のもとで、一定振幅で振動変形を与えた時に発生する応力(トルク)の変化を経時的に測定するものである。
【0071】
マトリックス樹脂組成物は、キュラストメーターで測定した100℃における硬化完了時間が360分以内であることが好ましく、240分以内がより好ましい。
【0072】
キュラストメーターによる測定は、ゴム加硫試験の工業規格JIS K6300に基づいて試験を行う。この時、振動数は100cpm、振幅角度は±1/4°、ダイス形状はWP−100とした。
【0073】
キュラストメーターのトルク−時間曲線は、測定されたトルクを縦軸とし、横軸を時間として得られる曲線である。通常、樹脂の硬化反応が進むに従いトルクは上昇し、硬化反応が終わりに近づくとトルクは飽和を迎える。
【0074】
本発明における硬化完了時間は、トルク−時間曲線の接線の傾きが最大値となった後、その傾きが最大値の1/30となる時間とした。
このような硬化特性を有するマトリックス樹脂組成物は、前述した成分(A)〜(D)を配合し、且つ前述した粘度特性を有するよう調製することにより、容易に得ることができる。
【0075】
(マトリックス樹脂組成物の調製方法)
本発明のトウプリプレグ用マトリックス樹脂組成物は、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、各成分をプラネタリミキサーやニーダーにて混練する方法がある。本発明の成分は粒子状のまま成分(A)に分散される場合があるが、成分(B)は凝集性を有しているため分散不良となる可能性がある。したがって、成分(B)、あるいは一部の粒子状の成分(C)を、成分(A)の一部を使用して予備混練を行いマスターバッチ化することが好ましい。予備混練は三本ロールミルやボールミル等の混練装置を使用することが好ましい。成分(B)や一部の粒子状の成分(C)をあらかじめマスターバッチ化することで、分散不良による硬化物中の物性ムラや硬化不良、および強化繊維束へのマトリックス樹脂組成物の含浸不良を防ぐことができる。
【0076】
(トウプリプレグの製造方法)
本発明のトウプリプレグは公知の製造方法で作製することができるが、なかでも、以下の工程(1)〜(4)を経て製造することが好ましい。
工程(1):ボビンから引き出した強化繊維束に張力をかけ、(必要に応じて加熱し)拡幅する。
工程(2):拡幅された強化繊維束の少なくとも片面に、(必要に応じて加熱した)マトリックス樹脂組成物を、単位量の強化繊維束に供給されるマトリックス樹脂組成物が所定の量となるように供給する。
工程(3):供給したマトリックス樹脂組成物を強化繊維束へ含浸させ、樹脂含浸強化繊維束とする。
工程(4):樹脂含浸強化繊維束を(必要に応じて室温程度まで冷却して)紙管等のボビンに巻き取る。
【0077】
マトリックス樹脂組成物を含浸させる強化繊維束は、マトリックス樹脂組成物との接触面積が広くなるため、拡幅され扁平形状であることが好ましい。
【0078】
強化繊維束を拡幅する方法としては、円筒バーに擦過させる方法、振動を加える方法、押しつぶす方法等が挙げられる。
【0079】
さらに、強化繊維束を拡幅する際は加熱しておくことが好ましく、強化繊維に付着しているサイズ剤の種類によるが、通常、50〜150℃程度に強化繊維束を加熱することがより好ましい。また拡幅時に強化繊維束を加熱しておくことにより、続く工程(3)において該強化繊維束に含浸させるマトリックス樹脂組成物の温度が低下しないという効果もある。加熱方法に特に制限はなく、加熱体との接触加熱、および赤外線加熱、雰囲気加熱等の非接触加熱法がいずれも使用可能である。
【0080】
前記工程(1)における強化繊維束の拡幅は、インラインで実施してもオフラインで実施してもよい。例えば市販の拡幅されたテープ状強化繊維束は、オフラインで拡幅された強化繊維束とみなされる。
【0081】
強化繊維束へのマトリックス樹脂組成物の供給方法としては、強化繊維束をレジンバス内に通過させてマトリックス樹脂組成物を含浸させた後、オリフィス、ロール等によって余剰のマトリックス樹脂組成物を搾り取り樹脂含有量を調整する「レジンバス法」、回転ロール上にマトリックス樹脂組成物層を形成し、これをトウに転写するような転写ロール式の含浸法(例えばドクターブレードを持つ回転ドラムによる含浸法)である「回転ロール法」、紙上にマトリックス樹脂層を形成し、トウに転写する「紙上転写法」、特開平09−176346号公報、特開2005−335296号公報、特開2006−063173号公報等に記載された「ノズル滴下法」、特開平08−073630号公報、特開平09−031219号公報等に記載された「樹脂接触並びにトウ移動法」等が挙げられる。
【0082】
これらのなかでも、マトリックス樹脂組成物の供給量の制御や実施の容易さの点で、回転ロール法や、樹脂接触並びにトウ移動法が好ましい。また、強化繊維束の幅は通常安定しておらず、その広がり方にはばらつきがある。したがって、特開平08−073630号公報に記載のとおり、強化繊維束を拡幅した後、マトリックス樹脂組成物の接触直前、あるいは接触時にトウ幅を狭めて安定化することが効果的である。具体例としては、樹脂吐出口、塗工部、またはその直前の位置に所定幅の溝を設けて、強化繊維束を、該溝内を走行させて強化繊維束の幅を狭める方法がある。
【0083】
強化繊維束へのマトリックス樹脂組成物の含浸は、公知の方法にて行うことができる。なかでも、加熱ロールや熱板等の加熱体に擦過させる方法、マトリックス樹脂組成物が供給された強化繊維束を加熱炉内、すなわち加熱雰囲気内を空走させる方法、赤外線加熱等の非接触加熱手段で加熱する方法が好ましい。強化繊維束へマトリックス樹脂組成物が供給されてから加熱体により加熱されるまでの間、および加熱体と加熱体との間で強化繊維束やマトリックス樹脂組成物の温度が下がらないように、非接触加熱手段で加熱しておくことがより一層好ましい。
【0084】
また、強化繊維束へマトリックス樹脂組成物を含浸させる工程において、強化繊維束へ外力を加えて強化繊維束を構成するフィラメントをロール表面で横移動させること等により、強化繊維束の断面形状を変化させることが好ましい。このような操作により、フィラメント同士の相対位置を変化させて、マトリックス樹脂組成物とフィラメントの接触機会を増やすことができる。結果、単なる加圧や毛細管現象による含浸効果を上回る、均一な含浸効果をあげることができる。
【0085】
フィラメント同士の相対位置を変化させる操作として、具体的には、強化繊維束を折り畳む、強化繊維束を拡幅する、強化繊維束を縮幅する、または強化繊維束を加撚する等が挙げられる。これらの操作において、折り畳み操作と加撚操作は、縮幅操作と同様に強化繊維束の幅を狭める傾向にある。そして強化繊維束の幅を狭める作用を有する操作と、強化繊維束の幅を拡大する操作とを併用すると、均一含浸の効果がより高くなる。なお、加撚はマトリックス樹脂組成物の含浸時に行なえばよく、含浸後に撚りのない状態が必要である場合には、含浸後に撚り戻しをすればよい。また、加撚と同時にあるいは直後に擦過を加えれば、強化繊維束の幅は広がる傾向となり、更に強化繊維束の厚さ方向にマトリックス樹脂組成物が移動するため、含浸の均一性は高くなる。
【0086】
フィラメントをロール表面で横移動させる際、強化繊維束の走行速度未満の周速で回転するロールに強化繊維束を接触させて擦過させることは、毛羽の堆積防止やロールのクリーニングの面から有用である。擦過されていれば強化繊維束はロール表面で絡まりつくこともなく、またロールは強化繊維束で擦られ、かつ回転しているので強化繊維束と接触する面は常にクリーニングされている状態となる。ただし、ロールの周速は強化繊維束の走行速度の50%以上99%以下とすることが好ましく、80%以上95%以下とすることがより好ましい。ロールの周速が強化繊維束の走行速度に対し前記下限値以上であれば、強く擦過されることによる強化繊維束の毛羽立ちを抑制することができ、後の工程で巻きつきが生じたり、ボビンに巻き取られたトウプリプレグを解舒する際に問題が生じたりすることを抑制することができる。
【0087】
マトリックス樹脂組成物を均一に含浸させた強化繊維束は、紙管等のボビンへの巻取り工程までに室温程度まで冷却しておくことが好ましい。十分に冷却しない状態で、紙管等のボビンに巻き取ってしまうと、マトリックス樹脂組成物が低粘度であるため、巻き取る際に滑りが生じて巻き形態が乱れたり、ボビンに巻かれたトウプリプレグの層中で温度が高い状態が比較的長時間続くことにより、トウプリプレグのシェルフライフが短くなったりする場合がある。強化繊維束の冷却は、冷却体への擦過や非接触冷却手段等、公知の冷却手段を使用して行うことができる。
【0088】
[複合材料補強圧力容器]
本発明の複合材料補強圧力容器は、金属ライナーまたは樹脂ライナーと、前記金属ライナーまたは樹脂ライナーの表面の一部または全部を覆うように配置された複合材料補強層とを有する複合材料補強圧力容器であり、複合材料補強層は本発明のトウプリプレグの硬化物である。
すなわち、本発明の複合材料補強圧力容器は、本発明のトウプリプレグの硬化物が、複合材料補強層として金属ライナーまたは樹脂ライナー等のライナーに巻き付ついた複合材料補強圧力容器である。
【0089】
[複合材料補強圧力容器の製造方法]
本発明の複合材料補強圧力容器の製造方法は、
・本発明のトウプリプレグもしくは前述の工程(3)で製造した樹脂含浸強化繊維束をライナーに巻き付けて圧力容器中間体とするFW工程と、
・FW工程を経て得られた圧力容器中間体を加熱し、トウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束に含まれるマトリックス樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、
を含む。
【0090】
[FW工程]
FW工程は、本発明のトウプリプレグもしくは前述の工程(3)で製造した樹脂含浸強化繊維束をライナーに巻き付け、圧力容器中間体とする工程である。
トウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束は、回転するライナーに巻き付けられることが好ましい。ライナーは、金属ライナーまたは樹脂ライナーであることが好ましい。
【0091】
フィラメントワインディング機(FW機)としては、従来公知のものを使用できる。複合材料補強圧力容器を作製する場合には、ライナーをマンドレルとしてトウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束を巻き付ける。FW機は、1本のトウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束をマンドレルに巻き付けるものであってもよいし、複数本のトウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束を同時にマンドレルに巻き付けられるものであってもよい。
【0092】
ライナーにトウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束を巻き付ける際には、強化繊維の異方性材料としての特質を生かすため、異なる特性を有する複合材料が積層された構造となるように巻き付けることが好ましい。トウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束からなる層が硬化したものが複合材料補強層(以下、単に「補強層」とも言う。)である。
【0093】
補強層の構成や厚み、トウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束をライナーへ巻き付ける角度は、容器の用途や形状、容器に要求される耐圧性能等に応じて自由に選択することができる。
【0094】
トウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束の巻き付け方としては、フープ巻きとヘリカル巻きが知られており、容器の用途や形状、容器に要求される耐圧性能等に応じて自由に選択することができる。慣用として、鏡部および胴部を補強する補強層を「ヘリカル層」、胴部を補強する補強層を「フープ層」と称する。
【0095】
[硬化工程]
硬化工程は、FW工程を経て得られた圧力容器中間体を加熱し、トウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束に含まれるマトリックス樹脂組成物を硬化させる工程である。トウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束が硬化することにより補強層が形成される。
硬化温度、硬化時間、昇温速度、降温速度は、マトリックス樹脂組成物の配合組成に応じて決定されるが、本発明のトウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束は80〜150℃の温度で、1〜10時間加熱することが好ましい。なお、プラスチックライナーを使用する場合を考慮すると、温度範囲は80〜120℃とすることがより好ましく、本発明のトウプリプレグもしくは樹脂含浸強化繊維束はこの温度範囲でも充分硬化可能である。加熱条件は1段階でも良く、複数の加熱条件を組み合わせた多段階加熱でもよい。特に燃料電池に使用される水素ガスを充填する様な、補強層が比較的厚い複合材料補強圧力容器の場合や、高温(100℃以上)、かつ短時間(2時間以内)で硬化を行う場合には、複数の加熱条件を組み合わせた多段階加熱で硬化することが好ましい。
高温で加熱する前に、より低温(100℃未満)での硬化時間を設けることで、マトリックス樹脂組成物の発熱反応が急激に生じることによる、補強層の内部の焼け等の不具合の発生を防ぐことができる。
加熱する方法は、真空バッグとヒーターを用いる方法、熱収縮テープを巻き付けてオーブン中で加熱して、加熱と加圧を同時に行う方法、ライナー内部に加圧物質を充填し内圧をかけながら加熱する方法等が用いられ、これらを硬化条件に応じて組み合わせることもできる。
なお、本発明の複合材料補強圧力容器は、前述した樹脂含浸強化繊維束を用い、いわゆるウェット・フィラメントワインディング法にて作製することもできる。
【0096】
[その他の用途]
本発明のトウプリプレグは、複合材料補強圧力容器以外にも好適に使用することができる。例えば、細長いマンドレルにFW法にてトウプリプレグを巻き付けて硬化させることにより得られる複合体管状体は、つぶし強度が高く、ゴルフシャフトや釣竿ロッド、ドライブシャフト等、ねじり強度や曲げ強度が求められる用途に好適にも用いることができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0098】
各例で用いた樹脂組成物の原料、調製方法、および各物性の測定方法を以下に示す。表中の各成分の数値は、マトリックス樹脂組成物に配合する各成分の質量部数を表す。
【0099】
<原料>
(成分(A1))
・jER828
「製品名」jER828、「成分」ビスフェノールA型エポキシ樹脂(液状の2官能エポキシ樹脂)(エポキシ当量:189g/eq)、「供給元」三菱化学株式会社
・jER1001
「製品名」jER1001、「成分」ビスフェノールA型エポキシ樹脂(固形の2官能エポキシ樹脂)(エポキシ当量:475g/eq)、「供給元」三菱化学株式会社
【0100】
(成分(A2))
・CY−184
「製品名」Araldite CY184、「成分」ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル(エポキシ当量:158g/eq)、「供給元」ハンツマン・ジャパン株式会社
【0101】
(成分(A1)および(A2)以外の成分(A))
・N−775
「製品名」N−775、「成分」フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:187g/eq)、「供給元」DIC株式会社
・予備反応エポキシ樹脂
jER828とセイカキュアS(4、4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)を100:9(単位:質量部)で混合し、150℃で加熱し、90℃においてB型粘度計で測定した粘度が9Pa・sとなるように予備反応させたもの。
【0102】
(成分(A)と成分(D)との混合物)
・MX−257
「製品名」KANE ACE MX−257、「成分」ビスフェノールA型エポキシ樹脂(2官能エポキシ樹脂。エポキシ当量:189g/eq)63質量%およびブタジエン系コアシェル型ゴム粒子(体積平均粒径:200nm)37質量%、「供給元」株式会社カネカ
・MX−154
「製品名」KANE ACE MX−154、「成分」ビスフェノールA型エポキシ樹脂(2官能エポキシ樹脂。エポキシ当量:189g/eq)60質量%およびブタジエン系コアシェル型ゴム粒子(体積平均粒径:100nm)40質量%、「供給元」株式会社カネカ
・MX−125
「製品名」KANE ACE MX−125、「成分」ビスフェノールA型エポキシ樹脂(2官能エポキシ樹脂。エポキシ当量:189g/eq)75質量%およびブタジエン系コアシェル型ゴム粒子(体積平均粒径:100nm)25質量%、「供給元」株式会社カネカ
【0103】
(成分(B))
・DICY
「製品名」jERキュア DICY7、「成分」ジシアンジアミド、「供給元」三菱化学株式会社
【0104】
(成分(C))
・オミキュア94
「製品名」オミキュア94、「成分」3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、「供給元」ピイ・ティ・アイ・ジャパン株式会社
・オミキュア52
「製品名」オミキュア52、「成分」4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、「供給元」ピイ・ティ・アイ・ジャパン株式会社
・オミキュア24
「製品名」オミキュア24、「成分」2,4−トルエンビス(3,3−ジメチルウレア)、「供給元」ピイ・ティ・アイ・ジャパン株式会社
・DCMU99
「製品名」DCMU99、「成分」3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、「供給元」保土ヶ谷化学工業株式会社
・2MZA−PW
「製品名」キュアゾール2MZA−PW、「成分」2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン、「供給元」四国化成株式会社
・2PZCNS−PW
「製品名」キュアゾール2PZCNS−PW、「成分」1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、「供給元」四国化成株式会社
【0105】
(成分(B)以外のエポキシ樹脂硬化剤)
・DY9577
「製品名」ACCELERATOR DY9577 ES、「成分」三塩化ホウ素−アミン錯体、「供給元」ハンツマン・ジャパン株式会社
・PN−40
「製品名」アミキュアPN−40、「成分」イミダゾールアダクト、「供給元」味の素ファインテクノ株式会社
・MY−H
「製品名」アミキュアMY−H、「成分」3級アミンアダクト、「供給元」味の素ファインテクノ株式会社
【0106】
(任意成分)
・BYK−A506
「製品名」BYK−A506、「成分」フッ素変性ポリシロキサン 1質量%およびシクロヘキサノン 99質量%、「供給元」ビックケミー・ジャパン株式会社
【0107】
<評価および評価方法>
(マトリックス樹脂組成物の硬化完了時間)
以下の条件で、JIS K6300に準じた100℃における硬化完了時間を測定した。なお、硬化完了時間は、トルク−時間曲線の接線の傾きが最大値となった後、その傾きが最大値の1/30となる時間とした。表中では「硬化完了時間」と称する。
測定機器:JSRトレーディング株式会社製 キュラストメーター7TypeP
振動数:100cpm
振幅角度:±1/4°
ダイス形状:WP−100
【0108】
(マトリックス樹脂組成物の粘度)
以下の通り、マトリックス樹脂組成物の粘度測定を行った。表中では、30℃における粘度を「30℃時の粘度」、室温から硬化温度である130℃まで昇温して粘度測定した際に得られる最低粘度を「粘度A」と称する。
装置:AR−G2(ティー・エー・インスツルメント社製)
使用プレート:35mmΦパラレルプレート
プレートギャップ:0.5mm
測定周波数:10rad/sec
昇温速度:2℃/min
ストレス:300Pa
【0109】
(トウプリプレグのタック)
以下に述べるタック試験を行い、得られた平均最大ストレス値を、トウプリプレグのタックとした。表中では「AMS値」と称する。
【0110】
装置:タックテスターTA−500(株式会社ユービーエム製)
プランジャーの試料との接触面積:約3.1cm
2
プランジャー押しつけ時間:10秒
プランジャー押しつけ荷重:90,000Pa
プランジャー上昇速度:1mm/秒
測定環境温度:23℃
測定環境湿度:50%RH
【0111】
手順:
1)トウプリプレグを試料台に置き固定する。この際、プランジャーと接触するトウプリプレグの面は、当該トウプリプレグが紙管に巻かれていた時の内側面(即ち紙管側の面)とする。
2)プランジャーに90,000Paの荷重をかけ、トウプリプレグに10秒間押し当てる。
3)プランジャーを1mm/秒で上昇させる。
4)プランジャーを上昇させる間のストレス値の最大値を最大ストレス値とし、合計3回測定して、得られた最大ストレス値の平均値を平均最大ストレス値とする。
【0112】
(トウプリプレグの解舒性、形態保持性、工程通過性)
以下の方法で、複合材料補強圧力容器の製造する際におけるトウプリプレグの解舒性、形態保持性、工程通過性を評価した。いずれも問題が生じることなく複合材料補強圧力容器が製造できた場合は「A」、少し問題はあるがおおよそ安定して複合材料補強圧力容器を製造できた場合は「B」、いずれかに明らかな問題が生じた場合は「C」と評価した。表中では「評価T」と称する。
なお、「解舒性に問題が生じる」とはFW工程においてボビンに巻き取られたトウプリプレグを解舒の際にリンガーが発生しない、すなわちトウプリプレグの強化繊維束の単糸が下層のトウプリプレグ表面のマトリックス樹脂組成物のベタツキに絡めとられて上手く解舒できない状態を意味し、「形態保持性に問題が生じる」とはFW工程においてテープ状のトウプリプレグが工程通過中に折り畳まれ細い紐状になり、マンドレルに巻き付けた際に巻きが大きく乱れてしまったり、巻かれたトウプレグの間に大きな隙間が生じてしまったりする状態を意味し、「工程通過性に問題が生じる」とはFW工程においてトウプリプレグが各ロールと擦過し、通過する際にロール表面に付着したマトリックス樹脂組成物によりトウプリプレグの強化繊維束単糸が絡めとられてしまい、当該巻きつきが原因で工程が通過できない状態を意味する。
【0113】
(複合材料補強圧力容器の破壊圧力)
水圧破壊試験機に複合材料補強圧力容器をセットし、圧力容器内に水を満たした後、昇圧速度15MPa/分で複合材料補強圧力容器に水圧を負荷し、複合材料補強圧力容器が破裂したときの水圧を複合材料補強圧力容器の破壊圧力とした。表中では「破壊圧力」と称する。
【0114】
(複合材料補強圧力容器の外観)
複合材料補強圧力容器を目視で観察し、ほとんど樹脂フローが生じなかったり、非常に多くの樹脂フローが生じたりして、表層や強化繊維束と強化繊維束との間に硬化したマトリックス樹脂組成物がほとんど存在していなかった場合を「C」と評価し、表層や強化繊維束と強化繊維束との間に硬化したマトリックス樹脂組成物が少量存在していた場合を「B」と評価し、適切な量の樹脂フローが生じ、表層や強化繊維束と強化繊維束との間に硬化したマトリックス樹脂組成物が適度に存在した場合を「A」と評価した。表中では「外観」と称する。
【0115】
(複合材料補強圧力容器のボイド)
後述の表1に記載のラミネートNo.1にあたる繊維強化複合材料層部分を含むように複合材料補強圧力容器の一部を切り出し、その断面を観察した。切り出した繊維強化複合材料層部分は、断面観察前にREFINE−POLISHER APM−122(リファインテック株式会社製)を使用して観察面の研磨を行った。断面の観察には工業用顕微鏡ECLIPSE LV100ND(株式会社ニコン製)を使用し、200倍に拡大しラミネートNo.1にあたる繊維強化複合材料層部分の断面写真を得、断面写真からボイド部分を切り抜き、その質量からボイド率を以下の式に従って算出した。
(ボイド率)=(ボイド部分の質量)÷(断面写真中の繊維強化複合材料部分の質量)×100
ボイド率が2%より大きい場合は「C」と評価し、ボイド率が1.5〜3%の場合を「B」、ボイド率が1.5%以下の「A」と評価した。表中では「ボイド」と称する。
【0116】
実施例1
(マトリックス樹脂組成物の調製)
表に記載の各成分を記載の割合で含有するマトリックス樹脂組成物を、以下にしたがって調製した。
【0117】
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、jER828とDICYのマスターバッチを8質量部(jER828を4質量部、およびDICYを4質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを2質量部(jER828を1質量部、およびオミキュア94を1質量部含む)、MX−257を70質量部、CY−184を25質量部、BYK A506を0.3質量部秤量して加え、オイルバスを使用してガラスフラスコの内容物を40℃〜50℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物(1)を得た。
【0118】
(トウプリプレグの作製)
強化繊維束として、フィラメント数30,000本の炭素繊維「37−800WD」(三菱レイヨンカーボンファイバーアンドコンポジッツ社製、引張強度5520MPa、引張弾性率255GPa)を用い、マトリックス樹脂として上記で製造したマトリックス樹脂組成物(1)を用いてトウプリプレグを作製した。具体的な作製方法を以下に示す。
【0119】
クリールから強化繊維束を送り出し、表面温度が100℃程度に加温された開繊バーを通し、幅10〜15mmに拡幅させた。拡幅された強化繊維束を、40℃程度に加温されたマトリックス樹脂組成物が塗工されたタッチロールに接触させ、強化繊維束にマトリックス樹脂組成物を供給した。マトリックス樹脂組成物が供給された強化繊維束を、80℃程度に加温された含浸ロールに擦過させることにより、マトリックス樹脂組成物を強化繊維束内部まで含浸させた後、ワインダーにて紙管に巻き取りトウプリプレグ(1)を得た。なお、ドクターブレードとタッチロール間のクリアランスを調整することによって、強化繊維束に対する樹脂の付着量、すなわちトウプリプレグの樹脂含有率を調整した。
【0120】
(複合材料補強圧力容器の製造)
FW装置を用いて、上記で製造したトウプリプレグ(1)を、容量9リットルのアルミニウム製ライナー(全長540mm、胴部長さ415mm、胴部外径163mm、胴部の中央での肉厚3mm)に巻き付けた。使用したアルミニウム製のライナーは、JIS H 4040のA6061−T6に規定されるアルミニウム素材に熱処理を施した材料からなるものである。
【0121】
トウプリプレグは、紙管から巻き出し、ガイドロールを介して位置を調整した後に、以下のようにライナーへ巻き付けた。
まず、ライナーの胴部に接する第一層目として、胴部上にライナーの回転軸方向に対し88.6°をなすよう、トウプリプレグを巻き付けた(ラミネートNo.1)。その後、ライナーの回転軸方向に対し11.0°の角度でトウプリプレグを巻き付け(ラミネートNo.2)、ライナーの鏡部を補強するヘリカル層を積層し、以降、表1に示す、ラミネートNo.3〜No.8に記載の角度と層の厚みでトウプリプレグを順次をライナーに巻き付けて、圧力容器中間体(1)を作製した。
【0122】
【表1】
【0123】
上記で製造した圧力容器中間体(1)をFW装置から外し、加熱炉内に吊り下げ、炉内温度を2℃/分で130℃まで昇温した後、130℃で2時間保持して硬化させた。その後、炉内温度を1℃/分で60℃まで冷却し、複合材料補強圧力容器(1)を得た。
【0124】
得られたマトリックス樹脂組成物(1)、トウプリプレグ(1)、複合材料補強圧力容器(1)について、それぞれ上述の評価を行った。結果を表に示す。
【0125】
実施例2〜12、比較例1〜5
実施例2〜12および比較例1〜5として、表に示した各成分を記載の割合で含有するマトリックス樹脂組成物を各々製造し、得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
得られたマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、複合材料補強圧力容器について、実施例1と同様の評価を行った。
また、
図3に実施例2、比較例2、比較例3、比較例4におけるマトリックス樹脂組成物の粘度測定結果を示す。固形のエポキシ樹脂を使用してマトリックス樹脂組成物の粘度Aを調整した比較例3は30℃時の粘度が高粘度になったのに対し、成分(D)を含むエポキシ樹脂を使用した場合、マトリックス樹脂組成物の粘度Aを調整しても30℃時の粘度を適切な範囲に保つことができた。
【0126】
なお、各例におけるマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器は、具体的には以下のように製造した。
【0127】
(実施例2)
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、jER828とDICYのマスターバッチを8質量部(jER828を4質量部、およびDICYを4質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを2質量部(jER828を1質量部、およびオミキュア94を1質量部含む)、MX−257を70質量部、jER828を25質量部とBYK A506を0.3質量部秤量して加え、ウォーターバスを使用してガラスフラスコの内容物を40℃〜50℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1の方法と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0128】
(実施例3)
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、jER828とDICYのマスターバッチを8質量部(jER828を4質量部、およびDICYを4質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを2質量部(jER828を1質量部、およびオミキュア94を1質量部含む)、MX−257を50質量部、jER828を45質量部、BYK A506を0.3質量部秤量して加え、ウォーターバスを使用してガラスフラスコの内容物を40℃〜50℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1の方法と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0129】
(実施例4)
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、jER828とDICYのマスターバッチを8質量部(jER828を4質量部、およびDICYを4質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを2質量部(jER828を1質量部、およびオミキュア94を1質量部含む)、MX−257を50質量部、jER828を20質量部、CY−184を25質量部、BYK A506を0.3質量部秤量し、ウォーターバスを使用してガラスフラスコの内容物を40℃〜50℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1の方法と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
実施例4で得た複合材料補強圧力容器の、ラミネートNo.1にあたる繊維強化複合材料層部分の断面写真を
図1として示す。
【0130】
(実施例5)
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、jER1001を20質量部、CY−184を25質量部、MX−257を50質量部秤量して加え、オイルバスを使用してガラスフラスコの内容物を90℃〜120℃に加温しながら均一になるまで撹拌した後、ガラスフラスコをオイルバスから取り出し、内容物の温度が60℃以下となるまで放冷した。そこへさらに、jER828とDICYのマスターバッチを8質量部(jER828を4質量部、およびDICYを4質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを2質量部(jER828を1質量部、およびオミキュア94を1質量部含む)、BYK A506を0.3質量部秤量して加え、オイルバスを使用してガラスフラスコの内容物を55℃〜65℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1の方法と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0131】
(実施例6)
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、jER828を18質量部、MX−257を50質量部、CY−184を25質量部秤量して加え、オイルバスを使用してガラスフラスコの内容物を40℃〜60℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、さらにjER828とDICYのマスターバッチを10質量部(jER828を5質量部、およびDICYを5質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを4質量部(jER828を2質量部、およびオミキュア94を2質量部含む)秤量して加え、40℃〜60℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体を製造した。得られた圧力容器中間体をFW装置から外し、加熱炉内に吊り下げて、炉内温度を1℃/分で100℃まで昇温した後、100℃で6時間保持して硬化させた点以外は、実施例1と同様に複合材料補強圧力容器を製造した。
【0132】
(実施例7)
マトリックス樹脂組成物の組成を表に記載の通りとした以外は、実施例6と同様にしてマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0133】
(実施例8)
マトリックス樹脂組成物の組成を表に記載の通りとし、jER828と2MZA−PWとを質量比で1:1の割合でマスターバッチとしたものを使用した以外は、実施例1と同様にしてマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0134】
(実施例9)
マトリックス樹脂組成物の組成を表に記載の通りとし、jER828と2MZA−PWとを質量比で1:1の割合でマスターバッチとしたものを使用した以外は、実施例1と同様にしてマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0135】
(実施例10)
マトリックス樹脂組成物の組成を表3に記載の通りとし、jER828と2PZCNS−PWとを質量比で1:1の割合でマスターバッチとしたものを使用した以外は、実施例1と同様にしてマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0136】
(実施例11)
マトリックス樹脂組成物の組成を表に記載の通りとし、jER828とオミキュア52とを質量比で1:1の割合でマスターバッチとしたものを使用した以外は、実施例1と同様にしてマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0137】
(実施例12)
マトリックス樹脂組成物の組成を表に記載の通りとし、jER828とオミキュア24とを質量比で1:1の割合でマスターバッチとしたものを使用した以外は、実施例6と同様にしてマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0138】
(実施例13)
マトリックス樹脂組成物の組成を表に記載の通りとし、jER828とDCMU99とを質量比で1:1の割合でマスターバッチとしたものを使用した以外は、実施例1と同様にしてマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0139】
(比較例1)
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、jER828とDICYのマスターバッチを8質量部(jER828を4質量部、およびDICYを4質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを2質量部(jER828を1質量部、およびオミキュア94を1質量部含む)、MX−257を30質量部、jER828を65質量部、BYK A506を0.3質量部秤量して加え、ウォーターバスを使用してガラスフラスコの内容物を40℃〜50℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1の方法と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0140】
(比較例2)
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、jER828とDICYのマスターバッチを8質量部(jER828を4質量部、およびDICYを4質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを2質量部(jER828を1質量部、およびオミキュア94を1質量部含む)、MX−257を10質量部、jER828を85質量部、BYK A506を0.3質量部秤量して加え、ウォーターバスを使用してガラスフラスコの内容物を40℃〜50℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1の方法と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0141】
(比較例3)
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、N−775を32質量部、jER828を62質量部秤量して加え、オイルバスを使用してガラスフラスコの内容物を90℃〜120℃に加温しながら均一になるまで撹拌した後、ガラスフラスコをオイルバスから取り出し、内容物の温度が60℃以下となるまで放冷した。そこへさらに、jER828とDICYのマスターバッチを9.6質量部(jER828を4.8質量部、およびDICYを4.8質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを2.4質量部(jER828を1.2質量部、およびオミキュア94を1.2質量部含む)、BYK A506を0.3質量部秤量して加え、オイルバスを使用してガラスフラスコの内容物を55℃〜65℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1の方法と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
比較例3で得た複合材料補強圧力容器の、ラミネートNo.1にあたる繊維強化複合材料層部分の断面写真を
図2として示す。
【0142】
(比較例4)
jER828とDICYとを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物を混練し、マスターバッチとした。続いて、jER828とオミキュア94とを質量比で1:1の割合で混合し、三本ロールミルを使用して混合物をさらに混練し、マスターバッチとした。
ガラスフラスコに、N−775を25質量部、jER828を69質量部秤量して加え、オイルバスを使用してガラスフラスコの内容物を90℃〜120℃に加温しながら均一になるまで撹拌した後、ガラスフラスコをオイルバスから取り出し、内容物の温度が60以下となるまで放冷した。そこへさらに、jER828とDICYのマスターバッチを9.6質量部(jER828を4.8質量部、およびDICYを4.8質量部含む)、jER828とオミキュア94のマスターバッチを2.4質量部(jER828を1.2質量部、およびオミキュア94を1.2質量部含む)、BYK A506を0.3質量部秤量して加え、オイルバスを使用してガラスフラスコの内容物を55℃〜65℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1の方法と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0143】
(比較例5)
ガラスフラスコに、jER828を100質量部、DY9577を10質量部、BYK A506を0.3質量部秤量して加え、ウォーターバスを使用してガラスフラスコの内容物を50℃〜60℃に加温しながら均一になるまで撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
得られたマトリックス樹脂組成物を用いて、実施例1の方法と同様にしてトウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0144】
(比較例6)
マトリックス樹脂組成物の組成を表に記載の通りとし、マスターバッチを秤量する前にマスターバッチ以外を秤量し、予備反応エポキシ樹脂が均一に溶解するまで80℃で撹拌してからマスターバッチを添加した以外は、実施例6と同様にしてマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0145】
(比較例7)
マトリックス樹脂組成物の組成を表に記載の通りとし、マスターバッチを秤量する前にマスターバッチ以外を秤量し、N−775が均一に溶解するまで110℃で撹拌してからマスターバッチを添加した以外は、実施例6と同様にしてマトリックス樹脂組成物、トウプリプレグ、圧力容器中間体、複合材料補強圧力容器を製造した。
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
実施例1〜5にて得られたトウプリプレグは、いずれも工程通過性、形態保持性、解舒性に優れ、かつ硬化の際の樹脂フローが適切に調整されたものであり、結果として繊維強化複合材料層中にボイドが少なく、このため強化繊維の強度発現効率が優れ、優れた破壊圧力を示した。特に、(A2)成分を併用した実施例1、4および5は非常に優れた破壊圧力を示した。
実施例6〜13にて得られたトウプリプレグも、工程通過性、形態保持性、解舒性に優れ、かつ硬化の際の樹脂フローが適切に調整されたものであり、結果として繊維強化複合材料層中にボイドが少なく、このため強化繊維の強度発現効率が優れ、優れた破壊圧力を示し、かつ適切なタックを有していた。特に、実施例6〜8、11及び12で使用したマトリックス樹脂組成物は100℃で360分以内に硬化が完了し、優れた低温硬化性を有することが確認された。
これらのようなトウプリプレグは、プラスチックライナー等のライナーを使用した複合材料補強圧力容器に好適に用いることができる。
【0149】
成分(A)に対する成分(D)の含有量が低い比較例1〜4は、マトリックス樹脂組成物の粘度の調整が不良となり、得られた複合材料補強圧力容器の外観及びボイドの一方又は両方において問題があった。
比較例5で得られたトウプリプレグは、そのマトリックス樹脂組成物の30℃時の粘度および粘度Aは適切であったものの、成分(B)を含有しておらず、タック(平均最大ストレス値)が大きく、解舒性が不良であった。また、形態保持性が不良であり、FW工程における工程通過時に、トウプリプレグが折り畳まれたままマンドレルに巻き付けられてしまった。工程通過性にも問題があり、FW工程においてトウプリプレグがロール表面を擦過して通過する際に、ロール表面に付着したマトリックス樹脂組成物によりトウプリプレグの強化繊維束から単糸が絡め取られ、トウプリプレグがロールに巻き付いてしまった。
比較例6で得られたトウプリプレグは、FW工程においてトウプリプレグがロール表面を擦過して通過する際に、ロール表面に付着したマトリックス樹脂組成物によりトウプリプレグの強化繊維束から単糸が絡め取られ、トウプリプレグがロールに巻き付いてしまい、工程通過性が不良であった。
比較例7で得られたトウプリプレグは、解舒する際に、トウプリプレグの強化繊維束の単糸が下層のトウプリプレグ表面のべたつきに絡め取られて解舒がうまくできず、解舒性が不良であり、また、FW工程において、トウプリプレグがロール表面を擦過して通過する際に、ロール表面に付着したマトリックス樹脂組成物によりトウプリプレグの強化繊維束から単糸が絡め取られ、トウプリプレグがロールに巻き付いてしまい、工程通過性が不良であった。
【0150】
(実施例14)
市販の一方向炭素繊維プリプレグ「TR350G125SM」(三菱レイヨン株式会社製)を、繊維方向を基準として長さ650mm、幅64.2mmに裁断し、予め離型剤を塗布しておいた外径10mm、長さ1400mmのマンドレルに、マンドレルの軸方向に対してプリプレグの繊維方向が平行(0°)となるように2層相当巻き付けた。プリプレグを巻き付けたマンドレル上に、FW装置を用いて、実施例6で作製したトウプリプレグをマンドレルの軸方向に対して±45°となるように2層巻き付けた。ポリエチレンテレフタレート製のテープを最外層に巻き付けた後、加熱炉内に吊り下げて、炉内温度を2℃/分で130℃まで昇温した後、130℃で2時間保持して硬化させた。
炉内温度を1℃/分で60℃まで冷却した後、炉内から取り出し、脱芯機を用いてマンドレルから脱芯し、複合材料管状体を得た。
【0151】
(管状体のつぶし強度の評価)
得られた複合材料管状体を、長さ10mmに切断し、切断面を研磨して試験片を作製した。試験片に対し、軸と垂直方向に上方から荷重をかけて、試験片が破断した時の荷重を測定した。
【0152】
(比較例8)
比較例1で作製したトウプリプレグを使用した以外は、実施例14と同様にして複合材料管状体を得た。
得られた複合体管状体を用い、実施例14と同様に管状体のつぶし強度を評価した。
【0153】
【表4】
【0154】
実施例6にて得られたトウプリプレグを用いることにより、つぶし強度が高い複合体管状体が得られた。このように、本発明のトウプリプレグは、ゴルフシャフトや釣竿ロッド、ドライブシャフト等、ねじり強度や曲げ強度が求められる用途にも好適に用いることができる。
成分(A)(エポキシ樹脂)、成分(B)(ジシアンジアミド)、成分(C)(硬化促進剤)、成分(D)(コアシェル型ゴム粒子)を含み、前記成分(A)に対する前記成分(D)の含有量が、前記成分(A)の100質量部に対して20〜70質量部であり、30℃における粘度が3Pa・sec〜80Pa・secであり、昇温速度2℃/分で室温から130℃まで昇温して粘度測定した際に得られる最低粘度が0.04Pa・sec〜1Pa・secであるマトリックス樹脂組成物が強化繊維束に含浸されてなる、ドレープ性、タック性に優れ、かつベタツキが少なく高速での解舒が可能なトウプリプレグ、およびこれを用いて得られる補強層中にボイドが少なく高い破壊圧力を有し、さらに適度な樹脂フローにより優れた外観を有する複合材料補強圧力容器を提供する。