【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を61〜77%、Al
2O
3を7〜18%、MgOを3〜15%、CaOを0〜5%、ZrO
2を0〜4%、Na
2Oを8〜18%、K
2Oを0〜1.9%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が85%以下であり、MgOおよびCaOの含有量の合計が3〜15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるRが0.66以上である化学強化用ガラス(以下、第1の発明ということがある。)を提供する。なお、ここで用いられるガラスを本発明の第1のガラスといい、また、たとえば次式におけるSiO
2はSiO
2のモル百分率表示含有量である。
R=0.029×SiO
2+0.021×Al
2O
3+0.016×MgO−0.004×CaO+0.016×ZrO
2+0.029×Na
2O+0×K
2O−2.002。
本発明の第1のガラスのSiO
2、Al
2O
3、MgO、CaO、ZrO
2、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計は典型的には98.5%以上である。
【0011】
また、下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を61〜77%、Al
2O
3を9.1〜18%、MgOを3〜15%、CaOを0〜5%、ZrO
2を0〜4%、Na
2Oを8〜18%、K
2Oを0〜6%ならびにB
2O
3、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が85%以下であり、MgOおよびCaOの含有量の合計が3〜15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるR’が0.66以上である化学強化用ガラス(以下、第2の発明ということがある。)を提供する。なお、ここで用いられるガラスを本発明の第2のガラスという。
R’=0.029×SiO
2+0.021×Al
2O
3+0.016×MgO−0.004×CaO+0.016×ZrO
2+0.029×Na
2O+0×K
2O+0.028×B
2O
3+0.012×SrO+0.026×BaO−2.002。
本発明の第2のガラスのSiO
2、Al
2O
3、MgO、CaO、ZrO
2、Na
2O、K
2O、B
2O
3、SrOおよびBaOの含有量の合計は典型的には98.5%以上である。
【0012】
また、下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を61〜77%、Al
2O
3を1〜18%、MgOを3〜15%、CaOを0〜5%、ZrO
2を0〜4%、Na
2Oを8〜18%、K
2Oを0〜1.9%ならびにB
2O
3、SrO、BaO、ZnOおよびSnO
2のいずれか1成分以上を含有し、Li
2Oを含まず、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が65〜85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3〜15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるR”が0.66以上である化学強化用ガラス(以下、第3の発明ということがある。)を提供する。なお、ここで用いられるガラスを本発明の第3のガラスという。
R”=0.029×SiO
2+0.021×Al
2O
3+0.016×MgO−0.004×CaO+0.016×ZrO
2+0.029×Na
2O+0×K
2O+0.028×B
2O
3+0.012×SrO+0.026×BaO+0.019×ZnO+0.033×Li
2O+0.032×SnO
2−2.002。
本発明の第3のガラスのSiO
2、Al
2O
3、MgO、CaO、ZrO
2、Na
2O、K
2O、B
2O
3、SrO、BaO、ZnO、Li
2OおよびSnO
2の含有量の合計は典型的には98.5%以上である。
【0013】
また、下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を62〜77%、Al
2O
3を7〜18%、MgOを3〜15%、CaOを0〜5%、ZrO
2を0〜4%、Na
2Oを8〜18%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が85%以下であり、MgOおよびCaOの含有量の合計が3〜15%であり、Li
2OおよびK
2Oを含有しないものである化学強化用ガラス(以下、第4の発明ということがある。)を提供する。なお、K
2Oを含有しないこのガラスを本発明の第4のガラスといい、本発明の第1、第2、第3および第4のガラスを本発明のガラスと総称する。
【0014】
本発明者は、溶融カリウム塩にNa含有ガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換を何度も繰り返すことにより溶融カリウム塩中のNa濃度が上昇し、それとともに化学強化ガラスの表面圧縮応力が小さくなっていく現象とNa含有ガラスの組成との間に関係があるのではないかと考え、次のような実験を行った。
【0015】
まず、表1〜3にモル%表示で示す組成を有し、厚みが1.5mm、大きさが20mm×20mmであり、両面が酸化セリウムで鏡面研磨された29種のガラス板を用意した。
これらガラスのガラス転移点Tg(単位:℃)およびヤング率E(単位:GPa)を同表に示す。
なお、*を付しているものは組成から計算して求めたものである。
Tgは次のようにして測定した。すなわち、示差熱膨張計を用いて、石英ガラスを参照試料として室温から5℃/分の割合で昇温した際のガラスの伸び率を屈伏点まで測定し、得られた熱膨張曲線における屈曲点に相当する温度をガラス転移点とした。
Eは、厚さが5〜10mm、大きさが3cm×3cmのガラス板について超音波パルス法により測定した。
これら29種のガラス板を、KNO
3の含有割合が100%であり温度が400℃である溶融カリウム塩に10時間浸漬するイオン交換を行って化学強化ガラス板とし、その表面圧縮応力CS1(単位:MPa)を測定した。なお、ガラスA27はモバイル機器のカバーガラスに使用されているガラスである。
また、これら29種のガラス板を、KNO
3の含有割合が95%、NaNO
3の含有割合が5%であり温度が400℃である溶融カリウム塩に10時間浸漬するイオン交換を行って化学強化ガラス板とし、その表面圧縮応力CS2(単位:MPa)を測定した。なお、CS1、CS2は折原製作所社製表面応力計FSM−6000にて測定した。
CS1、CS2をそれらの比r=CS2/CS1とともに表1〜3の該当欄に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
これらの結果から、前記式で算出したR(表1〜3に記載する。)と前記rとの間に高い相関があることを見出した。
図1は、この点を明らかにするために横軸をR、縦軸をrとした作成した散布図であり、同図中の直線はr=1.033×R−0.0043、相関係数は0.97である。
なお、前記R’およびR”の値も表1〜3のRの欄の下に併記する。
【0020】
本発明者が見出した前記相関から、次のようなことがわかる。すなわち、溶融塩の交換頻度を少しでも減らすためには溶融塩中のNa濃度増加による表面圧縮応力Sの低下割合が小さいガラスすなわち前記rが大きいガラスを用いればよいが、そのためにはガラスの前記Rを大きくすればよいことがわかる。
また、従来使用されているガラスA27のrは0.65であるから、Rを0.66以上とすることによりrが概ね0.68以上となってガラスA27よりも明らかに大きくなり、溶融塩の交換頻度が顕著に減少し、あるいは溶融塩の管理を大幅に緩くすることが可能になる。
【0021】
化学強化ガラスの強度は表面圧縮応力に強く依存し、表面圧縮応力が小さいほど化学強化ガラスの強度が低くなる。このため、化学強化処理によって得られる表面圧縮応力が溶融塩中のNa濃度が0%のときの表面圧縮応力に比べて68%以上すなわちrが0.68以上である必要がある。このことから、溶融塩中のNa濃度をCとすると、使用可能なCの範囲は以下の式を満たす範囲である。
【0022】
0.68≦(r−1)×C/5+1
すなわち、C≦1.6/(1−r)でなければならない。
【0023】
rが0.68未満では、溶融塩中のNa濃度上昇による化学強化ガラスの表面圧縮応力Sの低下割合が大きいので、Na濃度が5.0%未満までの狭い範囲でしか使用できないため、交換頻度が多くなる。rが0.75、0.79および0.81の場合にはそれぞれNa濃度が6.4%以下、7.6%以下および8.4%以下のNa濃度の広い範囲で使用可能となり、rが0.75、0.79および0.81の場合には、rが0.68の場合に比べて交換頻度をそれぞれ78%、66%および59%に抑えることができる。したがって、rは好ましくは0.70以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.79以上、特に好ましくは0.81以上である。
【0024】
また、rが0.68未満では溶融塩中のNa濃度変化による化学強化ガラスの表面圧縮応力Sの変化が大きいので、表面圧縮応力の調整が難しくなり、溶融塩中のNa濃度の管理が厳しくなる。
【0025】
また、29種のガラスの中で最もrが大きいガラス1、ガラス2を他の27種のガラスと比べるとK
2Oを含有しないという点で共通する。一方、Rを算出する前記式におけるK
2Oに係る係数は0であり、同じアルカリ金属酸化物であるNa
2Oに係る係数0.029に比べて著しく小さいことからこの点を説明することが可能である。
本発明はこのような経緯により想到したものである。