特許第6222404号(P6222404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222404
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】顔料捺染剤及びそれを用いた布帛
(51)【国際特許分類】
   D06P 1/44 20060101AFI20171023BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20171023BHJP
   D06C 23/00 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   D06P1/44 J
   D06P1/44 M
   D06P5/00 111Z
   D06C23/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-520660(P2017-520660)
(86)(22)【出願日】2016年5月19日
(86)【国際出願番号】JP2016064853
(87)【国際公開番号】WO2016190208
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2017年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-108678(P2015-108678)
(32)【優先日】2015年5月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】山口 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】河中 俊介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 賢志
(72)【発明者】
【氏名】梶川 正浩
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−151259(JP,A)
【文献】 特開昭62−156362(JP,A)
【文献】 特開2002−180386(JP,A)
【文献】 特開昭61−155474(JP,A)
【文献】 特開平09−250086(JP,A)
【文献】 特開平08−291474(JP,A)
【文献】 特開2002−309489(JP,A)
【文献】 特開2007−231459(JP,A)
【文献】 特開平02−284950(JP,A)
【文献】 特開平11−293195(JP,A)
【文献】 特開平02−305871(JP,A)
【文献】 特開昭52−147654(JP,A)
【文献】 特開2000−119587(JP,A)
【文献】 特開昭60−224852(JP,A)
【文献】 特開2013−245333(JP,A)
【文献】 特開2007−291160(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0046151(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0167610(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1978575(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103526599(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/44
D06C 23/00
D06P 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する重合性単量体(a1)及び加水分解性シリル基を有する重合性単量体(a2)を含む重合性単量体を重合して得られた重合体(A)及び酸化チタン(B)を含有する顔料捺染剤であって、
前記酸化チタン(B)が、白色顔料としての酸化チタンであり、
前記重合体(A)単独でのフィルムの伸び率が1,200〜5,000%の範囲であり、1,000%モジュラスが0.1MPa以上であり、
前記重合体(A)が、カルボキシル基を有する重合性単量体(a1)と、加水分解性シリル基を有する重合性単量体(a2)と、その他の重合性単量体(a3)との重合物であり、
前記カルボキシル基を有する重合性単量体(a1)が、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、及び無水マレイン酸からなる群より選ばれる1種以上であり、
前記加水分解性シリル基を有する重合性単量体(a2)が、ビニルシラン化合物であり、
前記その他の重合性単量体(a3)が、ホモポリマーのガラス転移温度が−20℃以下である重合性単量体を含むものであり、
前記顔料捺染剤が、コロイド状シリカを含む重合性単量体を乳化重合して得られる水性樹脂分散体を含まないものであることを特徴とする顔料捺染剤。
【請求項2】
前記重合体(A)の原料となる重合性単量体全量中の前記重合性単量体(a1)の比率が0.1〜10質量%の範囲であり、前記重合性単量体(a2)の比率が0.1〜5質量%の範囲である請求項1記載の顔料捺染剤。
【請求項3】
さらに体質顔料(C)及び/又は前記酸化チタン(B)以外の顔料(D)を含有する請求項1又は2記載の顔料捺染剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の顔料捺染剤で印捺されたことを特徴とする布帛。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の顔料捺染剤と染料捺染剤とが重ねて印捺された部分を有する請求項4記載の布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害なホルムアルデヒドを発生させることなく、印捺した布帛に優れた風合いを付与でき、印捺部に高い耐洗濯性及び耐摩擦性を付与でき、さらに布帛上に染料捺染剤を重ねて印捺した部分にも高い耐洗濯性を付与することのできる顔料捺染剤及びそれを用いた布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顔料捺染剤のバインダー樹脂には、耐洗濯性、耐摩擦性等を付与するために、N−メチロール(メタ)アクリルアミドのような反応性官能基を有する重合性単量体を用いた重合体が用いられていた。この重合体は、反応性官能基を有するため、その官能基の架橋反応により、高い耐洗濯性及び耐摩擦性を付与することはできるが、この架橋反応時に有害なホルムアルデヒドを発生するという問題があった。
【0003】
上記のホルムアルデヒドの問題を解決する方法としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミド以外のもので架橋反応を行うことが提案されており、例えば、オキサゾリン化合物、ブロックイソシアネート化合物等の架橋剤を用いることが試みられている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらの架橋剤を含有する顔料捺染剤は、顔料に酸化チタンを用いた場合、布帛に優れた風合いと印捺部に高い耐洗濯性、耐摩擦性等を十分に付与することができなかった。
【0004】
また、従来の顔料捺染剤では、布帛上に印捺した後、その上にさらに染料捺染剤を印捺した場合、又は、染料捺染剤を印捺した後、その上にさらに顔料捺染剤を印捺した場合、顔料と染料が重なった印捺部(以下、「染料重色部」と略記する。)の耐洗濯性が低下するという問題もあった。
【0005】
そこで、有害なホルムアルデヒドを発生させることなく、印捺した布帛に優れた風合いを付与でき、印捺部に高い耐洗濯性及び耐摩擦性を付与でき、さらに染料重色部にも高い耐水性を付与することのできる顔料捺染剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−150010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、有害なホルムアルデヒドを発生させることなく、印捺した布帛に優れた風合いを付与でき、印捺部に高い耐洗濯性及び耐摩擦性を付与でき、さらに染料重色部にも高い洗濯性を付与することのできる顔料捺染剤それを用いた顔料捺染剤及びそれを用いた布帛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、カルボキシル基を有する重合性単量体及び加水分解性シリル基を有する重合性単量体を含む重合性単量体を重合させて得られた重合体を用い、かつ前記重合体単独でのフィルムの伸び率及び1,000%モジュラスを特定の範囲とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、カルボキシル基を有する重合性単量体(a1)及び加水分解性シリル基を有する重合性単量体(a2)を含む重合性単量体を重合して得られた重合体(A)及び酸化チタン(B)を含有する顔料捺染剤であって、前記重合体(A)単独のフィルムの伸び率が1,200〜5,000%の範囲であり、1,000%モジュラスが0.1MPa以上であることを特徴とする顔料捺染剤及びそれを用いた布帛を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の顔料捺染剤は、顔料として酸化チタンを含有していても、布帛に印捺しても布帛本来の風合いが損なうことなく、印捺部の耐洗濯性、耐摩擦性等に優れ、さらに染料重色部の耐洗濯性に優れることから、自然な風合いで、洗濯等での色落ちが抑制されたプリント布帛を得ることができる。また、本発明の顔料捺染剤は、染料捺染剤との併用で、デザインに制約を受けることなく様々なデザインのプリントを布帛に施すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の顔料捺染剤は、カルボキシル基を有する重合性単量体(a1)及び加水分解性シリル基を有する重合性単量体(a2)を含む重合性単量体を重合して得られた重合体(A)及び酸化チタン(B)を含有する顔料捺染剤であって、前記重合体(A)単独のフィルムの伸び率が1,200〜5,000%の範囲であり、1,000%モジュラスが0.1MPa以上のものである。
【0012】
前記重合性単量体(a1)は、カルボキシル基を有する重合性単量体であるが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水マレイン酸、シトラコン酸等が挙げられる。
【0013】
前記重合性単量体(a2)は、加水分解性シリル基を有する重合性単量体であるが、例えば、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物;3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン化合物などが挙げられる。
【0014】
上記の重合性単量体(a1)及び(a2)は、それぞれ1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0015】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルの一方又は両方をいう。
【0016】
上記のカルボキシル基を有する重合性単量体(a1)及び加水分解性シリル基を有する重合性単量体(a2)以外の前記重合体(A)の原料として用いることのできるその他の重合性単量体(a3)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;トリメチルシロキシエチル(メタ)アクリレート等のシラン系(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルキルポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート等のフッ素系(メタ)アクリレート;スチレン、スチレン誘導体(p−ジメチルシリルスチレン、(p−ビニルフェニル)メチルスルフィド、p−ヘキシニルスチレン、p−メトキシスチレン、p−tert−ブチルジメチルシロキシスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン等)、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールテトラ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートトリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド化合物;アクリロニトリル;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等のビニルピリジン化合物;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられる。これらの重合性単量体(a3)は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0017】
また、前記重合性単量体(a3)の中でも、前記重合体(A)単独のフィルムの伸び率を1,200〜5,000%の範囲とし、1,000%モジュラスが0.1MPa以上とするために、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート等のホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が−20℃以下となる重合性単量体を用いることが好ましい。
【0018】
前記重合体(A)の原料となる前記重合性単量体(a1)〜(a3)の全量中の前記重合性単量体(a1)の比率は、本発明の顔料捺染剤に水へのより良好な分散性を付与でき、さらに印捺部により高い耐洗濯性及び耐摩擦性を付与できることから、0.1〜10質量%の範囲が好ましく、0.5〜8質量%の範囲がより好ましく、1〜6質量%の範囲がさらに好ましい。
【0019】
また、前記重合体(A)の原料となる前記重合性単量体(a1)〜(a3)の全量中の前記重合性単量体(a2)の比率は、本発明の顔料捺染剤で印捺した布帛により優れた風合いを付与でき、さらに印捺部により高い耐洗濯性及び耐摩擦性を付与できることから、0.1〜5質量%の範囲が好ましく、0.2〜3.5質量%の範囲がより好ましく、0.5〜2.5質量%の範囲がさらに好ましい。
【0020】
前記重合体(A)の製造方法としては、例えば、公知の乳化重合法を用いることができる。
【0021】
前記重合体(A)単独でのフィルムの伸び率は、1,200〜5,000%の範囲であるが、印捺部により高い耐洗濯性及び耐摩擦性を付与できることから、1,500〜4,000%の範囲が好ましい。また、前記フィルムの1,000%モジュラスは、0.1MPa以上であるが、その上限は、印捺部により柔軟な風合いで高い耐洗濯性及び耐摩擦性を付与できることから、3MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。
【0022】
なお、前記重合体(A)単独でのフィルムの伸び率及び1,000%モジュラスは、前記前記重合体(A)単独でフィルムを作製し、引張試験機によって測定した値である。引張試験機としては、例えば、株式会社オリエンテック製「テンシロン」、株式会社島津製作所製「オートグラフ」等を用いることができる。また、前記重合体(A)単独のフィルムの作製方法としては、例えば、フィルムの厚さが約0.5mmになる量の前記重合体(A)を、ガラス製の型に流し込み、加熱乾燥させた後に剥がす方法等が挙げられる。
【0023】
本発明の顔料捺染剤は、酸化チタン(B)を含有するものである。前記酸化チタン(B)は、本発明の顔料捺染剤を白く着色するために用いるもので、アナターゼ型(正方晶)、ルチル型(正方晶)及びブルッカイト型(斜方晶)があるが、触媒としても活性が低く、熱安定性に優れるルチル型の他、アナターゼ型も用いることができる。
【0024】
また、前記酸化チタン(B)は、前記重合体(A)に直接加えて均一に混合してもよいが、予め前記酸化チタン(B)を界面活性剤や顔料分散剤とともに水中に分散した分散液を調製した後、その分散液を前記重合体(A)に加えて均一に混合する方法を用いると、隠ぺい性や混和性が向上することから好ましい。
【0025】
さらに、本発明の顔料捺染剤中に、前記酸化チタン(B)以外に、隠ぺい性を高める目的で、シリカ、アルミナシリケート、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料(C)を配合してもよい。
【0026】
また、前記体質顔料(C)は、前記重合体(A)に直接加えて均一に混合してもよいが、予め前記体質顔料(C)を界面活性剤や顔料分散剤とともに水中に分散した分散液を調製した後、その分散液を前記重合体(A)に加えて均一に混合する方法を用いると、隠ぺい性や混和性が向上することから好ましい。
【0027】
本発明の顔料捺染剤には、所望の色相とするために前記酸化チタン(B)以外のその他の顔料(D)を配合してもよい。前記その他の顔料(D)としては、特に制限はなく有機顔料も無機顔料も用いることができる。前記有機顔料としては、例えば、レーキレッド、パーマネントレッド、ブリリアントカーミン、カルシウムレーキ、ナフトールASレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ジスアゾイエローHR、ピラゾロンレッド、縮合アゾイエロー、縮合アゾレッド、縮合アゾブラウン、ニッケルアゾイエロー等のアゾ顔料;フタロシアニンブルー、塩素化フタロシアニングリーン、臭素化フタロシアニングリーン等のフタロシアニン顔料;アンスラキノンイエロー、ジアンスラキノニルレッド、インダンスレンブルー、チオインジゴボルドー、ペリノンオレンジ、ペリレンスカーレット、ペリレンオレンジ、ペリレンレッド、ペリレンマルーン、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンスカーレット、ジオキサジンバイオレット、イソインドリノンイエロー、キノフタロンイエロー、イソインドリンイエロー、ジケトピロロピロールレッド等の縮合多環顔料などが挙げられる。
【0028】
また、前記無機顔料としては、例えば、亜鉛華、弁柄、鉄黒、酸化クロム等の金属酸化物顔料;チタンイエロー、亜鉛−鉄ブラウン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロムブラック、銅−鉄ブラック等の金属複合酸化物顔料;黄鉛、モリブテートオレンジ等のクロム酸顔料;紺青等のフェロシアン化物顔料;カドミウムイエロー、カドミウムレッド、硫化亜鉛、硫化バリウム等の硫化物顔料;群青、炭酸カルシウム、コバルトバイオレット、黄色酸化鉄、カーボンブラック等が挙げられる。これらの有機顔料及び無機顔料は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0029】
前記その他の顔料(D)は、前記酸化チタン(B)と同様に、前記重合体(A)に直接加えて均一に混合してもよいが、予め前記顔料(D)を界面活性剤や顔料分散剤とともに水中に分散した分散液を調製した後、その分散液を前記重合体(A)に加えて均一に混合する方法を用いると、彩度や混和性が向上することから好ましい。また、分散液を調製する際には、各顔料の分散液を個別に調製しても、前記酸化チタン(B)や前記体質顔料(C)とともに水中に分散してもよい。
【0030】
本発明の顔料捺染剤における前記酸化チタン(B)、前記体質顔料(C)及び前記その他の顔料(D)の配合量は、所望とする色相によって異なるが、通常は、本発明の顔料捺染剤中に前記酸化チタン(B)、前記体質顔料(C)及び前記その他の顔料(D)の合計で、5〜40質量%の範囲が好ましい。
【0031】
本発明の顔料捺染剤には、印捺(プリント)方式に応じた粘度等の適性を付与するため、捺染糊等を配合することができる。捺染糊は、顔料捺染剤を増粘させ、スクリーン印刷等への印刷適性を付与する材料で、例えば、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、プロピオキシセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸エステル、ポリカルボン酸塩等を水に溶解又は分散させたものが挙げられる。
【0032】
本発明の顔料捺染剤には、上記したものの他、アンモニア水等のpH調整剤、ミネラルスピリット等の石油系溶剤、乳化剤、増粘剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散剤、撥水剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤などの添加剤を配合することができる。
【0033】
本発明の顔料捺染剤を布帛に印捺する方法としては、例えば、ローラー捺染機や、フラットスクリーン、ロータリースクリーン捺染機等を用いてゴム、ウレタン樹脂等のスキージでスクリーン印刷する方法が挙げられる。また、スクリーン印刷に用いるスクリーンは、通常、60〜300メッシュのものを用いる。印捺後は、100〜150℃で1〜5分の乾燥・熱処理工程を行い、布帛への顔料捺染剤の定着を行う。
【0034】
また、本発明の顔料捺染剤を布帛に印捺した後、染料捺染剤を印捺する場合、本発明の顔料捺染剤を布帛に印捺した後、一度乾燥して染料捺染剤を印捺する方法(ウェット・オン・ドライ方式)でも、本発明の顔料捺染剤を布帛に印捺した後、乾燥せずに染料捺染剤を印捺する方法(ウェット・オン・ウェット方式)でも構わない。
【0035】
本発明の顔料捺染剤を布帛に印捺する方法として、上記のスクリーン印刷以外に、グラビアコート、ロールコート、コンマコート、エアナイフコート、キスコート、ワイヤーバーコート、フローコート等の各種印刷方法も用いることができる。さらに、本発明の顔料捺染剤を浸漬(パディング法)、スプレー方式、インクジェット方式によって、布帛に塗布することもできる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により、本発明について具体的に説明する。
【0037】
(合成例1:重合体(A−1)の合成)
アクリル酸(以下、「AA」と略記する。)8質量部、無水マレイン酸(以下、「MAH」と略記する。)12質量部、ビニルトリエトキシシラン(以下、「VSi」と略記する。)2質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(以下、「2EHA」と略記する。)277質量部、スチレン(以下、「St」と略記する。)100質量部、水200質量部及び非イオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製「ノイゲンEA−207D」、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル)10質量部を混合した後、ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製「TKホモディスパー」)を用いて乳化して単量体乳化物を調製した。
【0038】
次いで、撹拌機、窒素導入管及び還流冷却器を取り付けたフラスコに、水300質量部を入れ窒素ガス雰囲気下で撹拌混合しながら50℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム(以下、「APS」と略記する。)2質量部及びメタ重亜硫酸ナトリウム(以下、「SMS」と略記する。)2質量部をフラスコ内に添加して溶解した。その後、上記で調製した単量体乳化物、5質量%APS水溶液40質量部及び5質量%SMS水溶液40質量部を3時間かけてフラスコ内に滴下した。なお、この滴下中のフラスコ内の温度は50〜60℃にコントロールした。滴下終了後、60℃でさらに1時間反応して重合体(A−1)を得た。その後、室温まで冷却した後、25質量%アンモニア水9質量部を加えて中和し、不揮発分が36質量%となるように水を加えて均一に混合して、重合体(A−1)の水性樹脂エマルジョンを得た。
【0039】
(合成例2〜4:重合体(A−2)〜(A−4)の合成)
下記の表1に示した原料を用いた以外は合成例1と同様に行い、重合体(A−2)〜(A−4)の水性樹脂エマルジョンを得た。
【0040】
(比較合成例1及び:重合体(RA−1)及び(RA−2)の合成)
下記の表1に示した原料を用いた以外は合成例1と同様に行い、比較用の重合体(RA−1)及び(RA−2)の水性樹脂エマルジョンを得た。
【0041】
[フィルム物性の測定]
上記の合成例1〜4、合成比較例1及び2で得られた重合体(A−1)〜(A−4)、(RA−1)及び(RA−2)について、それぞれ、ガラス製の型に流し込み、加熱乾燥させることによって膜厚0.5mmのフィルムを作製した。次いで、得られたフィルムについて、引張試験機(株式会社オリエンテック製「テンシロン RTC−1310A」を用い、伸び率及び1000%モジュラスを測定した。
【0042】
上記の合成例1〜3、合成比較例1及び2で得られた重合体(A−1)〜(A−4)、(RA−1)及び(RA−2)の原料組成及びフィルム物性を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1中の略号は、下記のものを表す。
IA:イタコン酸
EA:エチルアクリレート
AN:アクリロニトリル
BA:n−ブチルアクリレート
GMA:グリシジルメタクリレート
【0045】
(実施例1:顔料捺染剤(1)の調製)
合成例1で得られた重合体(A−1)の水性アクリル樹脂エマルジョン30質量部、エチレングリコール3質量部、水4.5質量部及び白色顔料分散液(DIC株式会社製「WHITE 70 BASE」、顔料分50質量%)60質量部を分散攪拌機を用いて均一に混合した。次いで、増粘剤(DIC株式会社製「RYUDYE−W NT CONC 117」)1.5質量部及び25質量%アンモニア水1質量部を加え、分散撹拌機を用いて均一に混合して顔料捺染剤(1)を得た。
【0046】
(実施例2〜4:顔料捺染剤(2)〜(4)の調製)
実施例1で用いた重合体(A−1)の水性樹脂エマルジョンに代えて、合成例2〜4で得られた重合体(A−2)〜(A−4)の水性樹脂エマルジョンをそれぞれ用いた以外は実施例1と同様に行い、顔料捺染剤(2)〜(4)を得た。
【0047】
(比較例1及び2:顔料捺染剤(R1)及び(R2)の調製)
実施例1で用いた重合体(A−1)の水性樹脂エマルジョンに代えて、比較合成例1及び2で得られた重合体(RA−1)及び(RA−2)の水性樹脂エマルジョンをそれぞれ用いた以外は実施例1と同様に行い、比較用の顔料捺染剤(R1)及び(R2)を得た。
【0048】
[評価用布帛の作製]
上記の実施例1〜3、比較例1及び2で得られた顔料捺染剤(1)〜(4)、(R1)及び(R2)を、それぞれオートスクリーン捺染機(辻井染機工業株式会社製)を使用して、135メッシュの長方形柄のスクリーンにて、B4サイズの綿ブロード上に印捺した。次いで、印捺した綿ブロードをパッドドライヤー(辻井染機工業株式会社製)で100℃、1分の乾燥をした後、140℃、2分の熱処理をして評価用布帛を得た。
【0049】
[風合いの評価]
上記で得られた評価用布帛を触手により、以下の基準に従って評価した。
○:プリント面と生地の境目が感じられない柔軟な触感である。
△:プリント面と生地の境目がわずかに感じられる程度の触感である。
×:プリント面と生地の境目が感じられる堅い触感である。
【0050】
[耐洗濯性の評価]
上記で得られた評価用布帛について、JIS L 0844:2005のA−4法に準拠して、試験を繰り返し30回行った後、JIS L 0801:2004の変退色用グレースケールを用いた視感法の判定基準にしたがって、1級〜5級で等級を判定して耐洗濯性を評価した。なお、等級は、1級が最も退色が大きく、5級に近づくほど退色が少ない。
【0051】
[耐摩擦性の評価]
上記で得られた評価用布帛について、JIS L 0849:2004に準拠して、学振型摩擦堅牢度試験機を使用して、乾式及び湿式の試験を行った後、JIS L 0801:2004の変退色用グレースケールを用いた視感法の判定基準にしたがって、1級〜5級で等級を判定して耐摩擦性を評価した。なお、等級は、1級が最も耐摩耗性が低く(退色が大きく)、5級に近づくほど耐摩耗性が高い(退色が少ない)。
【0052】
(調製例1:エマルジョン糊の調製)
ミネラルスピリット(エクソンモービル社製「エクソールD40」)50質量部、乳化増粘剤(DIC株式会社製「RYUDYE−W REDUCER CONC 720ENF」)5質量部、及び水45質量部を混合し、ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製「TKホモミキサー」)を用いて乳化してエマルジョン糊を得た。
【0053】
(調製例2:染料捺染剤の調製)
水10質量部、4質量%アルギン酸ナトリウム水溶液20質量部、6質量%カルボキシメチルセルロース水溶液20質量部、調製例1で得られたエマルジョン糊40質量部、炭酸水素ナトリウム2質量部、尿素10質量部及び染料(日本化薬株式会社製「Kayacion Red P−BN Liquid33」又は「Kayacion Blue P−NFB Liquid50」)5質量部を、分散撹拌機を用いて均一に混合して染料併用加工に使用する染料捺染剤を得た。
【0054】
[染料併用加工した評価用布帛の作製]
上記の実施例1〜3、比較例1及び2で得られた顔料捺染剤(1)〜(3)、(R1)及び(R2)を、それぞれオートスクリーン捺染機(辻井染機工業株式会社製)を使用して、135メッシュの長方形柄のスクリーンにて、B4サイズの綿ブロード上に印捺した後、続けて調製例2で得られた染料捺染剤を顔料捺染剤と同様に2回連続して印捺した。次いで、パッドドライヤー(辻井染機工業株式会社製)で100℃、1分の乾燥をした後、100℃、8分のスチーミング工程を行い、染料を発色させた。その後、80℃の温水で10分洗浄して未染着の染料を洗い流した後、自然乾燥させて染料重色加工した評価用布帛を得た。
【0055】
[染料重色加工布帛の評価]
上記で得られた染料重色加工した評価用布帛について、上記の耐洗濯性の評価と同様に試験し、染料重色部の耐洗濯性を評価した。
【0056】
上記の実施例1〜4、比較例1及び2で得られた顔料捺染剤(1)〜(4)、(R1)及び(R2)を用いた評価結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表1に示した評価結果から、本発明の顔料捺染剤(実施例1〜4)で印捺した布帛は、布帛本来の風合いを損なうことなく、耐洗濯性、耐摩擦性に優れ、また染料捺染剤を重ねて印捺した部分(染料重色部)の耐水性にも問題がないことが確認できた。
【0059】
一方、比較例1は、加水分解性シリル基を有する重合性単量体(a2)を用いなかった重合体を用い、当該重合体のフィルムの1,000%モジュラスが0.1MPa未満の例であるが、本発明の顔料捺染剤と比較して、耐洗濯性、湿式での耐摩擦性及び染料重色部の耐洗濯性に劣ることが確認できた。
【0060】
比較例2は、顔料捺染剤に用いる重合体単独でのフィルムの伸び率が1,200%未満の例であるが、本発明の顔料捺染剤と比較して、布帛本来の風合いを損ない、耐洗濯性、湿式での耐摩擦性及び染料重色部の耐洗濯性に劣ることが確認できた。