特許第6222647号(P6222647)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許62226471,3−βガラクトシル−N−アセチルヘキソサミンホスホリラーゼの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222647
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】1,3−βガラクトシル−N−アセチルヘキソサミンホスホリラーゼの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20171023BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20171023BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20171023BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
   C12N1/20 AZNA
   C12N9/12
   C12Q1/48 Z
   C12N1/20 AZNA
   C12R1:01
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-63482(P2013-63482)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-187886(P2014-187886A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター、基礎的試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1540
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1541
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1542
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100170221
【弁理士】
【氏名又は名称】小瀬村 暁子
(72)【発明者】
【氏名】北岡 本光
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−341883(JP,A)
【文献】 特開2008−154495(JP,A)
【文献】 Applied and Environmental Microbiology,2012年,78(14),5002-5012, Supplemental material
【文献】 Journal of Molecular Microbiology and Biotechnology,2007年,12,9-19
【文献】 Applied microbiology and Biotechnology,2006年,72(5),975-981
【文献】 Applied and Environmental Microbiology,2003年,69(1),24-32
【文献】 Biotechnology and Applied Biochemistry,1999年,29,3-10
【文献】 Applied and Environmental Microbiology,2007年,73(20),6444-6449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−9/99
C12Q 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロースを炭素源として、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガムJCM1217株と比較して10倍以上高い1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(GLNBP)生産能を示す、ビフィドバクテリウム・ロンガムである、GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌。
【請求項2】
ビフィドバクテリウム・ロンガムが、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガムである、請求項に記載のGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌。
【請求項3】
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガムGLN-1株(受託番号NITE P-1540)、GLN-15株(受託番号NITE P-1541)若しくはGLN-16株(受託番号NITE P-1542)又はそれらの変異株である、請求項1又は2に記載のGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌を、スクロースを炭素源として含む培地において培養し、生産されたGLNBPを回収することを含む、GLNBPの製造方法。
【請求項5】
スクロースを炭素源として含む培地において、GLNBP遺伝子を有するビフィドバクテリウム属菌を培養し、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガムJCM1217株と比較して10倍以上高いGLNBP生産能を示す菌を選抜することを含む、GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌をスクリーニングする方法であって、前記培養前に、GLNBP遺伝子を有するビフィドバクテリウム属菌にランダム変異を導入することをさらに含む、方法
【請求項6】
前記変異をUV照射により導入する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ビフィドバクテリウム属菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムである、請求項5又は6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(GLNBP)高生産能を示すビフィドバクテリウム属菌、該菌を用いたGLNBPの製造方法、及び該菌のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-βガラクトシル−N−アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.211;別名1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ、又はガラクト-N-ビオース/ラクト-N-ビオースIホスホリラーゼ)(以下、GLNBPと略称することがある)は、ラクトNビオース(別名ガラクトピラノシルβ1,3N-アセチルグルコサミン)をガラクトース-1-リン酸とN-アセチルグルコサミンに加リン酸分解する活性及びその逆反応触媒活性を有する、ビフィドバクテリウム属菌の菌体内酵素として知られている(例えば、特許文献1)。GLNBPの存在はビフィドバクテリウム属菌の間で広く見出されている(非特許文献1)。GLNBPは、食品用素材や医薬品用素材として利用することができる種々のラクトNビオース誘導体、例えばラクト-N-ビオースI(以下、LNBと略称することがある)やガラクト-N-ビオース(以下、GNBと略称することがある)等の製造に用いられている(例えば、特許文献2)。
【0003】
多くのビフィドバクテリウム属菌では、GLNBP活性(生産)の誘導にLNB等の高価な糖を炭素源として必要とする(非特許文献1)。そのため、ビフィドバクテリウム属菌からGLNBPを安価に調製することは難しい。一方、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)は、比較的安価な糖であるグルコースを炭素源とした培地でもGLNBPを生産するが、その培養液当たりの活性は低く、効率的にGLNBPを生産させることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−341883号公報
【特許文献2】特開2008−154495号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.-z. Xiao, et al., Appl. Environ. Microbiol., (2010) 76(1), p.54-59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、GLNBP高生産能を示すビフィドバクテリウム属菌を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、スクロースを炭素源としてGLNBP高生産能を示すビフィドバクテリウム属菌が高頻度に出現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0009】
[1] スクロースを炭素源として、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガムJCM1217株と比較して10倍以上高い1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(GLNBP)生産能を示す、GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌。
【0010】
一実施形態では、上記ビフィドバクテリウム属菌は、ビフィドバクテリウム・ロンガムであり、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガムであってもよい。
【0011】
上記GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌としては、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガムGLN-1株(受託番号NITE P-1540)、GLN-15株(受託番号NITE P-1541)若しくはGLN-16株(受託番号NITE P-1542)又はそれらの変異株が挙げられる。
【0012】
[2] 上記[1]のGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌を、スクロースを炭素源として含む培地において培養し、生産されたGLNBPを回収することを含む、GLNBPの製造方法。
【0013】
[3] スクロースを炭素源として含む培地において、GLNBP遺伝子を有するビフィドバクテリウム属菌を培養し、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガムJCM1217株と比較して10倍以上高いGLNBP生産能を示す菌を選抜することを含む、GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌をスクリーニングする方法。
【0014】
一実施形態では、前記培養前に、GLNBP遺伝子を有するビフィドバクテリウム属菌に変異を導入することをさらに含んでよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、スクロースを炭素源としてGLNBP高生産能を示すビフィドバクテリウム属菌が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
1. GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌
本発明は、GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌に関する。本発明に係るGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌は、特にスクロースを炭素源とした場合に、従来のビフィドバクテリウム属菌と比較してGLNBPを高生産することができる。本発明において、炭素源とは、1以上の炭素原子を含む化合物であって、本発明のビフィドバクテリウム属菌が吸収し生体構成炭素として利用する(資化する)化合物をいう。
【0018】
本発明において、ビフィドバクテリウム属菌とは、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する細菌をいう。本発明において、ビフィドバクテリウム属菌は、1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ遺伝子(GLNBP遺伝子)を有する。GLNBP遺伝子は、ビフィドバクテリウム属菌が生来有している内在性のものであることが好ましい。
【0019】
本発明において、ビフィドバクテリウム属菌が有するGLNBP遺伝子は、配列番号1に示すBifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株のGLNBP遺伝子の塩基配列、又は配列番号1に示す塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、例えば97%以上又は98%以上の塩基配列同一性を有し、かつGLNBP活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってよい。あるいは、本発明において、ビフィドバクテリウム属菌が有するGLNBP遺伝子は、配列番号2に示すBifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株のGLNBPタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子、又は配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、例えば97%以上又は98%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつGLNBP活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってよい。
【0020】
本発明におけるビフィドバクテリウム属菌は、天然源から分離した野生型ビフィドバクテリウム属菌であってよく、その変異型ビフィドバクテリウム属菌であってもよい。変異型ビフィドバクテリウム属菌は、自然突然変異又は人為的突然変異により、遺伝的な変異が生じた菌であってよい。人為的突然変異の導入は当業者に周知のいかなる方法で行ってもよく、例えば、X線照射及びUV照射等の物理的方法、並びに5-ブロモウラシル若しくは2-アミノプリン等の塩基類似物質、亜硝酸、ヒドロキシアミン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)等の突然変異剤を使用する化学的方法を用いてよい。
【0021】
本発明におけるビフィドバクテリウム属菌は、スクロースを炭素源として増殖できる(スクロース資化性である)ことが好ましく、そのような菌としては、限定するものではないが、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・インファンティス(Bifidobacterium longum subsp. infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブエスピー・アニマリス(Bifidobacterium animalis subsp. animalis)等が挙げられる(非特許文献1)。一実施形態では、ビフィドバクテリウム属菌は、Bifidobacterium longumであり、例えば、Bifidobacterium longum subsp. longumであってもよい。ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)はGLNBP遺伝子を有するが、スクロースを炭素源として増殖することができないため、本発明には適さない。
【0022】
本発明に係るGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌は、スクロースを炭素源として、Bifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株と比較して高いGLNBP生産能を示す。上記JCM1217株は、スクロースを炭素源とした場合にGLNBP生産能が低い従来のビフィドバクテリウム属菌の代表例である。
【0023】
本発明に係るGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌の、スクロースを炭素源とした場合のGLNBP生産能は、上記JCM1217株と比較して、10倍以上、15倍以上、20倍以上、22倍以上、24倍以上、25倍以上又は26倍以上高いことが好ましい。
【0024】
例えば、本発明に係るGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属は、スクロースを炭素源とした場合、例えば後述の実施例に記載するように0.5%又は1%スクロースを炭素源とした培地(例えば1%スクロースを炭素源とした培地1)で培養した場合、培養液あたり30ユニット/L以上、40ユニット/L以上、50ユニット/L以上、60ユニット/L以上又は70ユニット/L以上の量のGLNBPを生産できることが好ましい。本発明において、終濃度10 mM LNB、10 mMリン酸を含む50 mM MOPS緩衝液(pH7.0)の反応液において30℃で1分間に1μモルのLNBを加リン酸分解するGLNBP酵素量(酵素活性)を1ユニットと定義する。
【0025】
本発明において、スクロースを炭素源とした場合のGLNBP生産能は、炭素源として1%スクロースを含む培地において培養した後の菌体中のGLNBP活性を指標として評価する。GLNBP生産能を評価するための培養に使用される培地は、評価対象であるビフィドバクテリウム属菌及び比較対象であるBifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株がその培地で増殖可能である限り、ビフィドバクテリウム属菌の培養に通常使用される培地であってよく、一般に、炭素源、窒素源、無機塩類等を含む合成培地であることが多い。ここでは、炭素源としては1%スクロースを用いる。窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、魚肉エキス、肉エキス、普通ブイヨン等を用いてよく、無機塩類としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム等を用いてよい。培地は、これらの成分の他に、微量栄養素(例えばビタミン、アミノ酸、核酸成分)、生育因子、還元剤(例えばアスコルビン酸ナトリウム、システイン塩酸塩)、Tween 80等の他の成分を必要に応じて含んでもよい。培地は、液体培地が好ましい。好適な液体培地の組成の例は、後述の表1に示す通りである。
【0026】
培養条件は、評価対象であるビフィドバクテリウム属菌によって異なるが、ビフィドバクテリウム属菌の培養に通常使用する条件とすることができる。例えば、培養方法は、嫌気条件下での静置培養又は撹拌培養であってよく、培養温度は、好ましくは25℃〜45℃、より好ましくは30℃〜40℃であってよい。培養時間は、典型的には、12時間〜48時間、好ましくは24時間〜32時間であってよい。
【0027】
培養後の菌体は、遠心分離又は濾過等の周知の方法によって回収し、得られた菌体から、超音波破砕機等により細胞を破砕することによって又はタンパク質抽出試薬によって細胞抽出液を得て、それを酵素抽出液としてGLNBP活性の測定を行う。
【0028】
GLNBP活性は、当業者に公知の方法によって測定することができ、例えばXiao et al.(非特許文献1)に記載された方法、Nihiraらの方法(T. Nihira, et al., Anal. Biochem., (2007) 371(2), p.259-261)等を利用することができる。本発明では、α-D-ガラクトース1-リン酸の比色定量法であるNihiraらの方法を利用してGLNBP活性を測定することができる。測定方法の詳細については後述の実施例を参照することができる。Nihiraらの方法によるGLNBP活性の測定方法は、簡単に説明すると、反応容器(例えば96穴マイクロプレートウェル)中、ラクト-N-ビオースI(LNB)、リン酸、UDP-グルコース、グルコース1,6-ビスリン酸、チオNAD、MgCl2、ホスホグルコムターゼ、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、UDP-グルコース-ヘキソース1リン酸ウリジリルトランスフェラーゼを含む緩衝液(典型例では、終濃度10 mM LNB、10 mM リン酸、0.25 mM UDP-グルコース、0.025 mMグルコース1,6-ビスリン酸、0.25 mMチオNAD、2.5 mM MgCl2、5 U/mL ホスホグルコムターゼ、5 U/mLグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、0.2 U/mL UDP-グルコース-ヘキソース1リン酸ウリジリルトランスフェラーゼを含む50 mM MOPS緩衝液(pH7.0))に、酵素GLNBP(本発明では上記スクロースを炭素源として含む培地における培養後の菌体からの酵素抽出液)を適量加えて反応液(例えば200 μL)を調製し、30℃にて所定の時間インキュベートして酵素反応を行い、マイクロプレートリーダー等で波長400 nmの吸光度を連続的に測定し、その増加速度を求めることにより活性を測定する方法である。この測定方法により、スクロースを炭素源として含む培地における培養後の目的のビフィドバクテリウム属菌の菌体中のGLNBPの酵素活性を測定し、同一培養条件における培養後のBifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株の酵素の活性と比較し、GLNBP高生産能を確認することができる。
【0029】
GLNBP生産能についての比較対象であるBifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)微生物材料開発室(Japan Collection of Microorganisms)(RIKEN BRC-JCM; 〒305-0074 茨城県つくば市高野台3-1-1)のJCMカタログから入手することができる。
【0030】
本発明に係るGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌の例として、Bifidobacterium longum subsp. longum GLN-1株、GLN-15株及びGLN-16株並びにそれらの変異株が挙げられる。Bifidobacterium longum subsp. longum GLN-1株、GLN-15株及びGLN-16株は、本発明においてBifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株に変異を導入して作製され、2013年2月13日付で、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、それぞれ受託番号NITE P-1540、NITE P-1541及びNITE P-1542として寄託されている。本発明において、Bifidobacterium longum subsp. longum GLN-1株、GLN-15株又はGLN-16株の「変異株」とは、該GLN-1株、GLN-15株又はGLN-16株の細菌細胞を継代培養等により増殖させ維持した菌株であって、自然突然変異又は人為的突然変異により、遺伝的な変異が生じた菌株をいう。本発明に係る変異株も、親株である上記GLN-1株、GLN-15株又はGLN-16株と同様に、スクロースを炭素源とした場合にGLNBP高生産能を示す。
【0031】
本発明に係るGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌は、スクロースを炭素源とした場合のGLNBPの生産能が、スクロース以外の糖(例えば、グルコース、ガラクトース、フラクトース、ラクトース及びLNB)を炭素源とした場合のGLNBPの生産能より高いことが好ましい。
【0032】
2. GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌を利用したGLNBPの製造方法
本発明はまた、上記のような本発明に係るビフィドバクテリウム属菌を利用したGLNBPの製造方法に関する。該方法は、上記のような本発明に係るGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌を、スクロースを炭素源として含む培地において培養し、生産されたGLNBP(好ましくは菌体中に生産されたGLNBP)を回収することを含む。
【0033】
本発明において、ビフィドバクテリウム属菌を用いたGLNBPの製造のための培養に使用される培地は、本発明に係るビフィドバクテリウム属菌がその培地で増殖可能である限り、ビフィドバクテリウム属菌の培養に通常使用される培地であってよい。ビフィドバクテリウム属菌の培養に通常使用される培地は、一般に、炭素源、窒素源、無機塩類等を含む合成培地であることが多い。本発明において、炭素源としてはスクロースを用いる。窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、魚肉エキス、肉エキス、普通ブイヨン等を用いてよい。無機塩類としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム等を用いてよい。培地は、これらの成分の他に、微量栄養素(例えばビタミン、アミノ酸、核酸成分)、生育因子、還元剤(例えばアスコルビン酸ナトリウム、システイン塩酸塩)、Tween 80等の他の成分を必要に応じて含んでもよい。
【0034】
培地のスクロース濃度は特に限定しないが、好ましくは0.05%〜10%、より好ましくは0.1%〜2%である。
【0035】
培地は、寒天やゼラチンを加えて固化した固体培地、低濃度の寒天を加えた半流動培地、培地成分のみを含む液体培地を用いることができるが、液体培地が好ましい。
【0036】
好適な液体培地の組成の例は、以下の通りである(濃度は全て重量%である;明細書中において同じ)。
【0037】
【表1】
【0038】
培養条件は、用いるビフィドバクテリウム属菌によって異なるが、ビフィドバクテリウム属菌の培養に通常使用する条件とすることができる。例えば、培養方法は、嫌気条件下での静置培養又は撹拌培養とし得る。培養温度は、好ましくは25℃〜45℃、より好ましくは30℃〜40℃であってよい。培養時間は、典型的には、12時間〜48時間、好ましくは24時間〜32時間であってよい。
【0039】
培養後の菌体は、遠心分離又は濾過等の周知の方法によって回収することができる。得られた菌体から、超音波破砕機等により細胞を破砕することによって又はタンパク質抽出試薬によって細胞抽出液を得て、それを酵素抽出液として回収してもよい。また、その酵素抽出液を、当業者に周知のタンパク質分離精製回収法、例えば、クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー等)、電気泳動法、限外濾過等に供することよって目的とするGLNBPを分離又は精製し、回収してもよい。
【0040】
本発明のGLNBPの製造方法によれば、GLNBPを効率よく製造することができ、高活性なGLNBP酵素液を容易に調製することができる。
【0041】
3. GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌をスクリーニングする方法
本発明はまた、GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌をスクリーニングする方法に関する。具体的には、本方法は、スクロースを炭素源として含む培地において、GLNBP遺伝子を有するビフィドバクテリウム属菌を培養し、Bifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株と比較して高いGLNBP生産能を示す菌を選抜することを含む。
【0042】
本方法において、上記JCM1217株は、上記「1. GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌」に記載した通りに入手することができる。GLNBP生産能は、上記「1. GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌」に記載した通りに、すなわち、1%スクロースを炭素源として含む培地で培養し、菌体から得られた酵素抽出液において、例えばNihiraらの方法(T. Nihira, et al., Anal. Biochem., (2007) 371(2), p.259-261)等を利用して菌体中のGLNBP活性を指標として評価することができる。
【0043】
本方法では、上記JCM1217株と比較して、10倍以上、15倍以上、20倍以上、22倍以上、24倍以上、25倍以上又は26倍以上高いGLNBP生産能を示す菌を選抜することが好ましい。例えば、本方法では、培養液あたり30ユニット/L以上、40ユニット/L以上、50ユニット/L以上、60ユニット/L以上又は70ユニット/L以上のGLNBP活性を示す菌を選抜し得る。
【0044】
本方法では、そのような高いGLNBP生産能を示す菌を選抜するために、1%以外のスクロース濃度(例えば0.05〜10%スクロース、具体的には0.5%スクロース)を示す培地を用いてGLNBP生産能が他のビフィドバクテリウム属菌よりも高い菌を予め選抜してもよい。
【0045】
本方法の一実施形態では、前記培養前に、GLNBP遺伝子を有するビフィドバクテリウム属菌に変異を導入することをさらに含んでもよい。変異の導入は当業者に周知のいかなる方法で行ってもよく、例えば、X線照射及びUV照射等の物理的方法、並びに5-ブロモウラシル若しくは2-アミノプリン等の塩基類似物質、亜硝酸、ヒドロキシアミン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)等の突然変異剤を使用する化学的方法を用いてよい。これらの方法によって、GLNBP遺伝子を有するビフィドバクテリウム属菌のゲノムにランダム変異が導入されることが好ましい。
【0046】
本方法により、GLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌(変異株)を取得できる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
(培地)
以下の実施例において培地1の組成は次のとおりである。
【0049】
【表2】
【0050】
以下の実施例では、グルコース、スクロース等を炭素源としてさらに添加した培地1を使用した。
【0051】
[実施例1]
(グルコースを炭素源とする培地を用いたGLNBP高生産株のスクリーニング)
独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)微生物材料開発室(Japan Collection of Microorganisms; JCM)より入手したBifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株を、5 mLの1%グルコースを炭素源とした培地1に植菌し、37℃で24時間嫌気条件にて静置培養した。嫌気条件は、アネロパック−ケンキ(三菱ガス化学株式会社)を使用して作製した(以降の嫌気条件でも同様とした)。得られた培養液を適宜希釈し、1%グルコースを炭素源とした培地1のプレート(寒天1.5%を含む)にプレーティングした。生残率0.1〜1%の条件でUV殺菌灯照射し(15W 殺菌灯(日立 GL-15)を用いて距離50cmで45秒間)、突然変異を導入した。このプレートを37℃で嫌気培養し、コロニー群を得た。
【0052】
続いて、このコロニー群からランダムに選択した8000コロニーについて、得られた各コロニーを、V底96穴マイクロプレートを用い、200 μLの1%グルコースを炭素源とした培地1にそれぞれ植菌し、37℃で24時間嫌気条件にて静置培養した。培養液をマイクロプレート上で遠心分離し上清を除去した後、菌体に、N−アセチルムラミデイス(生化学工業)を終濃度0.2 mg/mLとなるように添加したタンパク質抽出試薬BugBuster(登録商標)Master Mix(Novagen社)を200 μL加えて25℃にて2時間振とうすることにより、酵素(1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ)を抽出した。
【0053】
酵素活性は、Nihiraらの方法(T. Nihira, et al., Anal. Biochem., (2007) 371(2), p.259-261)に従って30℃において測定した。具体的には、96穴マイクロプレートウェル中で終濃度10 mM LNB、10 mMリン酸、0.25 mM UDP-グルコース、0.025 mM グルコース1,6-ビスリン酸、0.25 mMチオNAD、2.5 mM MgCl2、5 U/mL ホスホグルコムターゼ、5 U/mLグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、0.2 U/mL UDP-グルコース-ヘキソース1リン酸ウリジリルトランスフェラーゼを含む50 mM MOPS緩衝液(pH7.0)にGLNBP酵素抽出液を適量加えて、200 μLの反応液を調製し、マイクロプレートリーダー中で30℃にて反応を行い、波長400 nmの吸光度を連続的に測定した。得られた測定値から以下の式に従って酵素活性添加量(ユニット)を算出し、それに基づき培養液あたりのGLNBP酵素活性(ユニット/L)を算出した。
【0054】
【数1】
【0055】
算出された活性値に基づき、変異導入前のJCM1217株と比べて高い活性を示した変異株を選抜した(一次スクリーニング)。この一次スクリーニングで得られた変異株を5 mLの1%グルコースを炭素源とした培地1に植菌し37℃で24時間嫌気条件にて静置培養した。培養液を遠心分離して得られた菌体について上記の方法に従ってGLNBP活性を測定し、活性(酵素生産性)の再現性の良い3株を選抜した(二次スクリーニング)。変異導入前のJCM1217株(親株)のGLNBP活性(酵素生産性)が0.5ユニット/Lであったのと比較して、得られた3つの変異株のGLNBP活性はいずれも2ユニット/L以上であった。
【0056】
次に、得られた各変異株を、5 mLの1%スクロースを炭素源とした培地1に植菌し、37℃で24時間嫌気条件にて静置培養した。遠心分離して得られた菌体について、上記の方法に従ってGLNBP活性を測定した結果、1株のみ顕著に高い62ユニット/Lの活性を示した。この株をGLN-1株と命名した。他の2株の活性は10ユニット/L以下であった。同様に測定したJCM1217株の活性は2.5ユニット/Lであり、1%スクロース条件下ではGLN-1株はJCM1217株と比べて20倍以上高い酵素生産性を示した。
【0057】
このように、グルコースを炭素源とする培地を用いたスクリーニングによって、8000コロニーから、GLNBP高生産能を示す変異株が1株得られた(取得率0.0125%)。
【0058】
[実施例2]
(種々の糖を炭素源とする培養時のGLNBP活性の比較)
変異導入前のJCM1217株(親株)と実施例1で得られた変異株(GLN-1株)を、種々の糖(0.5%)を炭素源とした培地1(5 mL)に植菌し、37℃で24時間嫌気条件にて静置培養した。遠心分離して得られた菌体について、実施例1に記載の方法に従ってGLNBP活性を測定した。
【0059】
結果を表3に示す。JCM1217株は、LNBを炭素源とした場合でのみやや高い活性を示し(21.9ユニット/L)、スクロースを炭素源とした場合では活性は低かった(6.0ユニット/L)。一方、GLN-1株は、スクロースを炭素源とする培地で培養した場合のみ非常に高い活性を示した(72.5ユニット/L)。
【0060】
【表3】
【0061】
[実施例3]
(ラージスケールでのGLNBPの製造)
実施例1で得られたGLN-1株を、1 Lの1%スクロースを炭素源とした培地1に植菌し、37℃で32時間嫌気条件にて撹拌培養した。遠心分離して得られた菌体について、実施例1に記載の方法に従ってGLNBP活性を測定した結果、ラージスケールでも67ユニット/Lの非常に高い酵素生産性を示すことがわかった。
【0062】
[実施例4]
(スクロースを炭素源とする培地を用いたGLNBP高生産株のスクリーニング)
変異株のスクリーニング用液体培地においてグルコースをスクロースに変更したこと以外は実施例1と同様のスクリーニングを行った。その結果、4000コロニーから変異導入前のJCM1217株と比べて高い活性を示す変異株を2株得ることに成功し(取得率0.05%)、それぞれGLN-15株及びGLN-16株と命名した。GLN-15株及びGLN-16株を、5 mLの1%スクロースを炭素源とした培地1に植菌し37℃で24時間嫌気条件にて静置培養し、遠心分離して得られた菌体について実施例1に記載の方法に従ってGLNBP活性を測定した。その結果、GLN-15株及びGLN-16株は、それぞれ65ユニット/L及び53ユニット/LのGLNBP活性(酵素生産性)を示した。同条件でのJCM1217株の活性は2.5ユニット/Lであり(実施例1)、GLN-15株及びGLN-16株は共に、JCM1217株と比べて20倍以上高い酵素生産性を示した。
【0063】
したがって、スクロースを炭素源とする培地を用いたスクリーニング法により、グルコースを炭素源とする培地を用いたスクリーニング法(実施例1)と比較して4倍の効率で、GLNBP高生産能を示す変異株を得ることに成功した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係るGLNBP高生産性ビフィドバクテリウム属菌を利用して、比較的安価にかつ効率よくGLNBPを製造することができ、製造されたGLNBPはLNB等のラクト-N-ビオース誘導体の製造に有用である。本発明により製造されたGLNBPは、好ましくは遺伝子組換え酵素ではなく、かつ病原性のないビフィドバクテリウム属菌に由来し、食品用素材としてのラクト-N-ビオース誘導体の製造にも用いることができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]