特許第6222684号(P6222684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222684
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】赤色発光半導体素子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20171023BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20171023BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20171023BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01L33/32
   C09K11/62
   C09K11/64
   C09K11/08 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-47022(P2013-47022)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-175482(P2014-175482A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康文
(72)【発明者】
【氏名】小泉 淳
【審査官】 小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−043807(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/128643(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を用いた赤色発光半導体素子の製造方法であって、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料として、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、900〜1100℃の温度条件の下で、EuまたはPrを、Ga、InあるいはAlと置換するように添加した活性層を、p型層とn型層の間に、p型層とn型層の形成と一連の形成工程において形成するに際して、EuまたはPrと共にOを添加して、
前記活性層における光出力が100μW以上の赤色発光半導体素子を製造することを特徴とする赤色発光半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記母体材料に添加される元素が、Euであることを特徴とする請求項1に記載の赤色発光半導体素子の製造方法。
【請求項3】
Euが、(ビス(テトラメチルモノアルキルシクロペンタジエニル)ユーロピウム)により供給されることを特徴とする請求項2に記載の赤色発光半導体素子の製造方法。
【請求項4】
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料に用いた赤色発光半導体素子であって、
基板上に、p型層とn型層に挟まれた活性層を有しており、
前記活性層は、GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶に、EuまたはPrが、Ga、InあるいはAlと置換するように添加して形成され、さらに、EuまたはPrと共にOが添加された活性層であり、
前記活性層における光出力が100μW以上であることを特徴とする赤色発光半導体素子。
【請求項5】
前記活性層において、Oの添加濃度が、1×1017〜1×1020cm−3であることを特徴とする請求項4に記載の赤色発光半導体素子。
【請求項6】
前記活性層に形成された発光中心の数が、2〜6であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の赤色発光半導体素子。
【請求項7】
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を用いた赤色発光半導体素子であって、
基板上に、p型層とn型層に挟まれた活性層を有しており、
前記活性層は、GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶に、EuまたはPrが、Ga、InあるいはAlと置換するように添加して形成され、さらに、EuまたはPrと共に、Oが1×1017〜1×1020cm−3の濃度で添加された活性層であり、
前記活性層における光出力が100μW以上であることを特徴とする赤色発光半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤色発光半導体素子とその製造方法に関し、詳しくはGaN、InN、AlN等の特定の母体材料(母材)にEuまたはPrが添加された活性層をn型層とp型層との間に設けた優れた発光特性を備えた赤色発光半導体素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)などの窒化物半導体は、青色発光デバイスを構成する半導体材料として注目されており、近年では、GaNにインジウム(In)を高濃度添加することにより、緑色さらには赤色発光デバイスを実現できると期待されている。しかし、高In組成になるに従い、In組成の揺らぎやピエゾ電界効果が顕著になるため、窒化物半導体を用いた赤色発光デバイスの実現には至っていないのが現状である。
【0003】
一方、窒化物半導体のワイドギャップに着目し、GaNを添加母体としてユーロピウム(Eu)やプラセオジム(Pr)が添加された半導体が赤色発光デバイスとして有望視されている。
【0004】
このような状況下、本発明者らは、世界に先駆けてEuまたはPr添加GaNを活性層とする赤色発光ダイオード(LED)の実現に成功した(特許文献1)。
【0005】
そして、このような赤色発光ダイオードの実現により、既に開発されている青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードと併せて、同一基板上に窒化物半導体を用いた光の三原色の発光ダイオードを集積化することが可能となるため、小型で高精細なフルカラーディスプレイや、現在の白色LEDには含まれていない赤色領域の発光が加えられたLED照明などの分野への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/128643号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した赤色発光ダイオードの光出力は、現状では、未だ100μW程度であり、実用化には発光強度(光出力)の更なる向上が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、EuまたはPrが添加された窒化物半導体層を活性層とする赤色発光半導体素子において、従来よりも発光強度が向上した赤色発光半導体素子とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の各請求項に示す発明により、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を用いた赤色発光半導体素子の製造方法であって、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料として、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、900〜1100℃の温度条件の下で、EuまたはPrを、Ga、InあるいはAlと置換するように添加した活性層を、p型層とn型層の間に、p型層とn型層の形成と一連の形成工程において形成するに際して、EuまたはPrと共にOを添加して、
前記活性層における光出力が100μW以上の赤色発光半導体素子を製造することを特徴とする赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0011】
即ち、GaN、InN、AlN、またはGaN、InN及びAlNから選択される2以上からなる混晶を母体材料とする活性層を、p型層とn型層の間に、900〜1100℃の温度条件の下で、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、p型層とn型層の形成と一連の形成工程において形成するに際して、Ga原料及びN原料(GaNの場合)、In原料及びN原料(InNの場合)またはAl原料及びN原料(AlNの場合)に、Eu有機原料及び酸素を添加することを特徴とする赤色発光半導体素子の製造方法である。酸素の添加は、例えばアルゴン等の不活性ガス中に混合した酸素ガスを、エピタキシャル工程において、前記原料に共存させることにより行うことができる。
【0012】
EuやPr添加による発光は結晶場に強く依存するため、光出力の向上を図るためには、活性層の発光中心であるEuイオンやPrイオンの発光遷移確率を高めることが必須である。
【0013】
しかし、EuイオンやPrイオンの発光は4f殻内遷移によっており、これらの希土類元素における4f殻内遷移は禁制遷移であるため、発光遷移確率を高めて、高い発光強度を得るためには結晶場内にEuやPrを取り込むことにより、結晶場におけるEuイオンやPrイオンの周辺局所構造の対称性を低下させる必要がある。
【0014】
しかし、単にEuやPrを添加した場合には、EuイオンやPrイオンの周辺局所構造が、励起効率や遷移確率が様々に異なった状態で同時に形成されるため、発光中心が多く形成されて、ブロードな発光スペクトルを示し、発光強度(光出力)の向上が抑えられてしまう。
【0015】
従って、GaNなどの結晶成長時に、EuやPrの添加に加えて、EuイオンやPrイオンの周辺局所構造の形成を意図的に制御することができる材料を共添加して、発光中心を選択的に成長させて、形成される発光中心の数を低減させて単純化を図ることができれば、発光波長の意図的制御を実現することができ、発光強度の飛躍的な向上を実現できる可能性がある。
【0016】
本発明者は、種々の実験と検討の結果、有機金属気相エピタキシャル法(OMVPE法)を用いた活性層の形成に際して、EuやPrに加えてO(酸素)を共添加することにより、EuイオンやPrイオンの周辺局所構造の形成を意図的に制御して、Euの発光中心を選択的に形成することができ、Euの発光波長の意図的制御が実現できることを見出した。さらにEuの発光中心を単純化できること、そして、これにより、発光強度が飛躍的に増大した赤色発光半導体素子が製造できることを見出した。
【0017】
具体的には、所定の成長温度の下、活性層のEuやPrはGaと置換する形で配置されるが、このとき、共添加されたOはEuやPrとの結合力が強くEuイオンやPrイオンの近傍を選択して積極的に入っていくため、Euイオン周辺局所構造の揺らぎに起因するブロードな発光スペクトルにおいて形成された短波長側のピークが消えて、波長621nm付近にシャープなピークが集中して形成されることが分かり、形成される発光中心の数を低減させて単純化できることが分かった。
【0018】
そして、Oの共添加濃度を適切に制御して発光中心の形成を単純化させることにより、フォトルミネセンススペクトル(Photoluminescence Spectrum:PLスペクトル)において、NTSC色域、HDTV色域に限定されず赤みが感じられる波長621nm付近でのピークをよりシャープにさせることができ、活性層において100μW以上の高い発光強度を得ることができる。
【0019】
また、Oが共添加された活性層は、その表面の荒れが改善されて、pn接合によりLEDなどを作製しても漏れ電流を生じることがなく、安定した特性を発揮させることできることも分かった。
【0020】
なお、本請求項の発明においては、活性層の形成に用いるOMVPE法における温度条件が重要である。即ち、温度が低すぎると異なる結晶場のEuイオンやPrイオンが増加して上記621nm付近におけるピークが減少する一方、温度が高すぎるとEuイオンやPrイオンが表面から脱離してEuやPrの添加が困難となる。好ましい温度条件は900〜1100℃であり、950〜1050℃であるとより好ましい。
【0021】
また、p型層と活性層とn型層の形成を一連の形成工程、即ち途中で反応容器から取り出すことなく、反応容器内において各層を、p型層、活性層、n型層の順、又は、n型層、活性層、p型層の順で形成することにより、各層間に界面準位が存在せず、キャリアを効率的に注入できる。これらのため、数V程度の低電圧動作が可能となる。
【0022】
なお、前記した途中で反応容器から取り出さないという観点から、n型層、p型層もOMVPE法により形成することが好ましいが、他の成長法を排除するものではない。また、n型層、p型層は活性層に必ずしも接している必要はなく、例えば、活性層との間にキャリアブロック層などが設けられていてもよい。
【0023】
また、本請求項の発明においては、母材としてはGaNに限定されず、InN、AlNまたはこれらの混晶(InGaN、AlGaN等)を母材としても上記の効果と同様の効果を得ることができる。
【0024】
そして、本請求項の発明により、前記したような大きな経済的効果を提供することができる。即ち、発光中心が単純化されて高い光出力のデバイス特性に優れた赤色発光ダイオードの実現により、「赤・緑・青」の光の三原色の発光ダイオードを実用化レベルで集積化することが可能となるため、小型かつ高精細な高出力の発光ダイオードを用いたフルカラーディスプレイを実現することができる。
【0025】
また、現在の白色LEDには含まれていない赤色領域の強度の高い発光を加えることにより、現在赤色LEDとして使用されているAlGaInP系LEDの代替のみならず、周囲の温度によって発光波長が変化しないという希土類元素の特性を生かした高輝度LED照明が可能となる。
【0026】
請求項2に記載の発明は、
前記母体材料に添加される元素が、Euであることを特徴とする請求項1に記載の赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0027】
EuやPrは、外殻電子が内殻電子により遮蔽されており、殻内遷移に伴い、NTSC色域、HDTV色域に限定されず赤みが感じられる発光をするため、いずれを用いてもよいが、赤色発光効率がより高いEuを用いることが好ましい。また、Euはカラーテレビの赤色蛍光体としての実績もあり、Prに比べて入手も容易である。
【0028】
請求項3に記載の発明は、
Euが、(ビス(テトラメチルモノアルキルシクロペンタジエニル)ユーロピウム)により供給されることを特徴とする請求項2に記載の赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0029】
Euを供給するEu原料(Eu有機原料)としては、蒸気圧が高く、効率的な添加を行うことができるEu化合物が好ましいが、Eu[C(CHR](R:アルキル基)で示される(ビス(テトラメチルモノアルキルシクロペンタジエニル)ユーロピウム)がより好ましく、この内でも、ビス(ノルマルプロピルテトラメチルシクロペンタジエニル)ユーロピウム(EuCppm)が好ましい。
【0030】
即ち、例えば、Eu(C1119やEu(Cなどの化合物は比較的蒸気圧が高いため、従来よりEu供給源(Eu有機原料)として一般的に使用されているが、使用温度である150℃付近でも固体であるため、供給時の安定性にしばしば問題が生じていた。また、その構造中に酸素を有しているため、Euの添加処理の際、酸素による母体材料の劣化も考えられる。そして、Oを共添加する際には、構造中の酸素量についても考慮する必要があるため、O共添加における添加濃度の制御も容易とは言えなかった。
【0031】
これに対して、(ビス(テトラメチルモノアルキルシクロペンタジエニル)ユーロピウム)は、融点が比較的低く(例えば、EuCppmは49℃)、使用温度において液体であるため、バブリングにより安定的に供給することができる。また、その構造中に酸素を含んでいないため、酸素フリーでの成膜が可能となると共に、Oの共添加における制御を確実且つ容易に行うことができる。
【0032】
請求項4に記載の発明は、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料に用いた赤色発光半導体素子であって、
基板上に、p型層とn型層に挟まれた活性層を有しており、
前記活性層は、GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶に、EuまたはPrが、Ga、InあるいはAlと置換するように添加して形成され、さらに、EuまたはPrと共にOが添加された活性層であり、
前記活性層における光出力が100μW以上であることを特徴とする赤色発光半導体素子である。
【0033】
前記の通り、Oが共添加された赤色発光半導体素子は、EuイオンやPrイオンの周辺局所構造の形成が意図的に制御されて、発光中心が単純化されると共に活性層の表面の荒れが改善されているため、発光強度が大きく向上して、活性層において100μW以上の高い発光強度の赤色発光半導体素子を提供することができる。
【0034】
なお、活性層が形成される基板としては、通常サファイアが用いられるが、これに限定されるものではなく、例えば、Si、GaN、GaAs等を用いることもできる。
【0035】
請求項5に記載の発明は、
前記活性層において、Oの添加濃度が、1×1017〜1×1020cm−3であることを特徴とする請求項4に記載の赤色発光半導体素子である。
【0036】
Oの添加濃度としては、Euと同程度が好ましく、最大でもEuの4倍以下であることが好ましいが、1×1017〜1×1020cm−3であると、形成される発光中心の数が適切に制御されて単純化されるためより好ましい。1×1019〜1×1020cm−3であるとさらに好ましい。
【0037】
請求項6に記載の発明は、
前記活性層に形成された発光中心の数が、2〜6であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の赤色発光半導体素子である。
【0038】
意図的なOの共添加を行うことにより、発光中心の数が2〜6まで単純化されていると、より高い発光強度を得ることができる。
【0040】
Oが共添加された赤色発光半導体素子は、Euイオンの周辺局所構造が劇的に変化して、Eu発光中心が単純化されているため、発光強度が大きく向上し、従来にない100μW以上の高い光出力の赤色発光半導体素子を提供することができる。
【0041】
請求項に記載の発明は、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を用いた赤色発光半導体素子であって、
基板上に、p型層とn型層に挟まれた活性層を有しており、
前記活性層は、GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶に、EuまたはPrが、Ga、InあるいはAlと置換するように添加して形成され、さらに、EuまたはPrと共に、Oが1×1017〜1×1020cm−3の濃度で添加された活性層であり、
前記活性層における光出力が100μW以上であることを特徴とする赤色発光半導体素子。
【0042】
上記のような赤色発光半導体素子は、Oが適切に共添加されて発光中心が単純化されているため、前記したように発光強度が大きく向上し、活性層において100μW以上の高い光出力の赤色発光半導体素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、EuまたはPrが添加された窒化物半導体層を活性層とする赤色発光半導体素子において、従来よりも発光強度が向上した赤色発光半導体素子とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の1実施の形態に係る赤色発光半導体素子の基本的な構造を示す図である。
図2】赤色発光半導体素子のPLスペクトルを示す図である。
図3】Eu添加GaN層のCEESマッピング像である。
図4】Eu添加GaN層の表面モフォロジを示す微分干渉顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0046】
(赤色発光半導体素子の構造)
図1に本実施の形態における赤色発光半導体素子の基本的な構造を示す。図1において、20はGaN母材にEuと共にOが共添加(ドープ)されたEuドープGaN層(Eu添加GaN層)、30はアンドープGaN層、40は低温GaNバッファ層、50はサファイア基板である。
【0047】
本実験例においては、Oの共添加量が異なるEu添加GaN層が活性層として形成された実験例1〜3の赤色発光半導体素子を作製し、その発光中心と発光強度を測定した。
【0048】
1.赤色発光半導体素子の作製
最初に、有機金属気相成長法(OMVPE法)を用いて、サファイア基板50上に低温GaNバッファ層(厚さ30nm)40を成長させた。
【0049】
次に、低温GaNバッファ層40の上に、同様に、OMVPE法を用いて、アンドープGaN層(厚さ1700nm)30を成長させた。
【0050】
次に、アンドープGaN層30の上に、図示しないn層(厚さ2500nm)を形成した。
【0051】
次に、n層の上に、GaN母材にOが共添加されたEuドープGaN層(厚さ300nm)20を活性層として積層した。
【0052】
次に、EuドープGaN層20の上に、図示しないp層(厚さ70nm)を形成した。
【0053】
次に、p層の上に、図示しないp−GaNコンタクト層(厚さ20nm)を積層した。
【0054】
各実験例において、Ga原料としてはトリメチルガリウム(TMGa)を用い、供給量は0.55sccmとした。
【0055】
また、N原料としてはアンモニア(NH)を用い、供給量は4.0slmとした。
【0056】
また、Eu原料としては、キャリアガス(水素ガス:H)でバブリングしたEuCppmを用い、供給量は1.5slmとした(供給温度:115℃)。
【0057】
また、Oの共添加は、Arガスで濃度10ppmに希釈した酸素ガスOを、供給量を100sccm(実験例1)、300sccm(実験例2)、1000sccm(実験例3)と変量して、流量40slmのキャリアガスと共に供給することにより行った。
【0058】
そして、Oが共添加されたEu添加GaN層20の形成は、温度1030℃、圧力100kPaの成長条件下、成長速度0.8μm/hで行った。
【0059】
このとき、OMVPE装置の配管バルブ等を通常仕様のもの(耐熱温度80〜100℃)から高温特殊仕様のものに変更することにより、Eu原料の供給温度を115〜135℃の十分高い温度に保って、十分な量のEuが反応管に供給できるようにした。
【0060】
なお、各層の形成は、途中で試料を反応管より取り出すことなく、成長の中断がないように一連の工程で行った。
【0061】
2.比較試験体の作製
別途、比較のために、Oの共添加を行わなかったこと以外は上記と同じ条件で、Eu添加GaN層を活性層として積層した赤色発光半導体素子(比較例)を作製した。
【0062】
3.発光特性
次に、各実験例および比較例で得られた赤色発光半導体素子について、ヘリウム・カドミウムレーザーを用いて、各活性層からのフォトルミネッセンススペクトル(PLスペクトル)を測定した(測定温度:室温)。
【0063】
図2に結果を示す。なお、図2において、縦軸はPL強度(任意単位、a.u.)であり、横軸は波長(nm)である。
【0064】
図2より、Oの供給量の増加に伴って、短波長側のピークが消えてピークが波長621nm付近に集中しており、発光スペクトルが単純化されていることが分かる。
【0065】
4.Eu発光中心
次に、実験例1および比較例で得られた赤色発光半導体素子を用いて、Eu発光中心の同定を行った。
【0066】
具体的には、Combined Excitation−Emission Spectroscopy(CEES)測定を用いて、Eu発光中心の同定を行った。
【0067】
この測定方法を用いた場合、結晶場分裂しないEuの準位間を直接励起することにより、発光中心の数と種類を同定することができる。
【0068】
温度10Kにおける測定結果をマッピングしたCEESマッピング像を図3に示す。なお、図3において、(a)は比較例、(b)は実験例1におけるCEESマッピング像であり、横軸は発光エネルギー、縦軸は励起エネルギーである。
【0069】
図3(a)に示すように、Oの共添加がない場合には、OMVPE法により作製されたEu添加GaNのこれまでに同定されている発光中心、即ち、Woodwardらによって同定(文献「Site and sample dependent electron−phonon coupling of Eu ions in epitaxial−grown GaN layers Optical」、Optical Materials、33(2011)、1050−1054参照)されたOMVPE1〜8の8本のEu発光中心と共に、ブロードな発光を示す発光中心が観察されている。そして、これらは、図2に示した比較例におけるブロードな発光スペクトルに対応している。
【0070】
これに対して、Oの共添加がなされた場合には、図3(b)に示すように、OMVPE4とOMVPE7のみが顕著に観察され、発光中心の単純化が行われていることが分かる。そして、この結果は、図2に示した実験例1における発光スペクトルの単純化に対応している。
【0071】
以上の発光スペクトルの測定およびEu発光中心の同定結果より、Oの共添加を意図的に行うことにより、EuとOを含む発光中心が優先的に形成され、発光中心が単純化されることが確認できた。
【0072】
そして、このように発光中心を単純化することにより発光強度の向上を図ることが可能となり、100μW以上の優れた光出力の赤色発光半導体素子を提供することができる。
【0073】
5.表面状態
次に、実験例1および比較例において形成されたEu添加GaN層の表面モフォロジ(荒れの状況)を、微分干渉顕微鏡を用いて観察した。
【0074】
観察結果を図4に示す。なお、図4において、(a)は比較例、(b)は実験例1における微分干渉顕微鏡写真である。
【0075】
図4より、Oの共添加がない場合には表面に荒れが発生するが、Oの共添加を行うことにより荒れの発生が緩和されており、Oの共添加がEu添加GaNの表面モフォロジを改善させていることが分かる。
【0076】
荒れた表面モフォロジのEu添加GaN層が形成された赤色発光半導体素子をpn接合してLEDなどを作製しようとすると、接合面が荒れているため、漏れ電流が発生しやすく、安定した特性の出力を得ることができない。
【0077】
これに対して、本発明を適用した場合には、Oの共添加により表面モフォロジが改善されているため、漏れ電流の発生を抑制し、安定した特性の出力を発揮させることができる。
【0078】
以上のように、本発明においては、適切にOを共添加することにより、発光中心の形成を制御して、100μW以上の優れた光出力の赤色発光半導体素子を製造して提供することが可能となる。
【0079】
そして、これにより、前記したような小型かつ高精細な高出力の発光ダイオードを用いたフルカラーディスプレイや、高輝度LED照明の実現が可能となる。
【符号の説明】
【0080】
20 EuドープGaN層
30 アンドープGaN層
40 低温GaNバッファ層
50 サファイア基板
図1
図2
図3
図4