【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の各請求項に示す発明により、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を用いた赤色発光半導体素子の製造方法であって、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料として、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、900〜1100℃の温度条件の下で、EuまたはPrを、Ga、InあるいはAlと置換するように添加した活性層を、p型層とn型層の間に、p型層とn型層の形成と一連の形成工程において形成するに際して、EuまたはPrと共にOを添加して、
前記活性層における光出力が100μW以上の赤色発光半導体素子を製造することを特徴とする赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0011】
即ち、GaN、InN、AlN、またはGaN、InN及びAlNから選択される2以上からなる混晶を母体材料とする活性層を、p型層とn型層の間に、900〜1100℃の温度条件の下で、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、p型層とn型層の形成と一連の形成工程において形成するに際して、Ga原料及びN原料(GaNの場合)、In原料及びN原料(InNの場合)またはAl原料及びN原料(AlNの場合)に、Eu有機原料及び酸素を添加することを特徴とする赤色発光半導体素子の製造方法である。酸素の添加は、例えばアルゴン等の不活性ガス中に混合した酸素ガスを、エピタキシャル工程において、前記原料に共存させることにより行うことができる。
【0012】
EuやPr添加による発光は結晶場に強く依存するため、光出力の向上を図るためには、活性層の発光中心であるEuイオンやPrイオンの発光遷移確率を高めることが必須である。
【0013】
しかし、EuイオンやPrイオンの発光は4f殻内遷移によっており、これらの希土類元素における4f殻内遷移は禁制遷移であるため、発光遷移確率を高めて、高い発光強度を得るためには結晶場内にEuやPrを取り込むことにより、結晶場におけるEuイオンやPrイオンの周辺局所構造の対称性を低下させる必要がある。
【0014】
しかし、単にEuやPrを添加した場合には、EuイオンやPrイオンの周辺局所構造が、励起効率や遷移確率が様々に異なった状態で同時に形成されるため、発光中心が多く形成されて、ブロードな発光スペクトルを示し、発光強度(光出力)の向上が抑えられてしまう。
【0015】
従って、GaNなどの結晶成長時に、EuやPrの添加に加えて、EuイオンやPrイオンの周辺局所構造の形成を意図的に制御することができる材料を共添加して、発光中心を選択的に成長させて、形成される発光中心の数を低減させて単純化を図ることができれば、発光波長の意図的制御を実現することができ、発光強度の飛躍的な向上を実現できる可能性がある。
【0016】
本発明者は、種々の実験と検討の結果、有機金属気相エピタキシャル法(OMVPE法)を用いた活性層の形成に際して、EuやPrに加えてO(酸素)を共添加することにより、EuイオンやPrイオンの周辺局所構造の形成を意図的に制御して、Euの発光中心を選択的に形成することができ、Euの発光波長の意図的制御が実現できることを見出した。さらにEuの発光中心を単純化できること、そして、これにより、発光強度が飛躍的に増大した赤色発光半導体素子が製造できることを見出した。
【0017】
具体的には、所定の成長温度の下、活性層のEuやPrはGaと置換する形で配置されるが、このとき、共添加されたOはEuやPrとの結合力が強くEuイオンやPrイオンの近傍を選択して積極的に入っていくため、Euイオン周辺局所構造の揺らぎに起因するブロードな発光スペクトルにおいて形成された短波長側のピークが消えて、波長621nm付近にシャープなピークが集中して形成されることが分かり、形成される発光中心の数を低減させて単純化できることが分かった。
【0018】
そして、Oの共添加濃度を適切に制御して発光中心の形成を単純化させることにより、フォトルミネセンススペクトル(Photoluminescence Spectrum:PLスペクトル)において、NTSC色域、HDTV色域に限定されず赤みが感じられる波長621nm付近でのピークをよりシャープにさせることができ、
活性層において100μW以上の高い発光強度を得ることができる。
【0019】
また、Oが共添加された活性層は、その表面の荒れが改善されて、pn接合によりLEDなどを作製しても漏れ電流を生じることがなく、安定した特性を発揮させることできることも分かった。
【0020】
なお、本請求項の発明においては、活性層の形成に用いるOMVPE法における温度条件が重要である。即ち、温度が低すぎると異なる結晶場のEuイオンやPrイオンが増加して上記621nm付近におけるピークが減少する一方、温度が高すぎるとEuイオンやPrイオンが表面から脱離してEuやPrの添加が困難となる。好ましい温度条件は900〜1100℃であり、950〜1050℃であるとより好ましい。
【0021】
また、p型層と活性層とn型層の形成を一連の形成工程、即ち途中で反応容器から取り出すことなく、反応容器内において各層を、p型層、活性層、n型層の順、又は、n型層、活性層、p型層の順で形成することにより、各層間に界面準位が存在せず、キャリアを効率的に注入できる。これらのため、数V程度の低電圧動作が可能となる。
【0022】
なお、前記した途中で反応容器から取り出さないという観点から、n型層、p型層もOMVPE法により形成することが好ましいが、他の成長法を排除するものではない。また、n型層、p型層は活性層に必ずしも接している必要はなく、例えば、活性層との間にキャリアブロック層などが設けられていてもよい。
【0023】
また、本請求項の発明においては、母材としてはGaNに限定されず、InN、AlNまたはこれらの混晶(InGaN、AlGaN等)を母材としても上記の効果と同様の効果を得ることができる。
【0024】
そして、本請求項の発明により、前記したような大きな経済的効果を提供することができる。即ち、発光中心が単純化されて高い光出力のデバイス特性に優れた赤色発光ダイオードの実現により、「赤・緑・青」の光の三原色の発光ダイオードを実用化レベルで集積化することが可能となるため、小型かつ高精細な高出力の発光ダイオードを用いたフルカラーディスプレイを実現することができる。
【0025】
また、現在の白色LEDには含まれていない赤色領域の強度の高い発光を加えることにより、現在赤色LEDとして使用されているAlGaInP系LEDの代替のみならず、周囲の温度によって発光波長が変化しないという希土類元素の特性を生かした高輝度LED照明が可能となる。
【0026】
請求項2に記載の発明は、
前記母体材料に添加される元素が、Euであることを特徴とする請求項1に記載の赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0027】
EuやPrは、外殻電子が内殻電子により遮蔽されており、殻内遷移に伴い、NTSC色域、HDTV色域に限定されず赤みが感じられる発光をするため、いずれを用いてもよいが、赤色発光効率がより高いEuを用いることが好ましい。また、Euはカラーテレビの赤色蛍光体としての実績もあり、Prに比べて入手も容易である。
【0028】
請求項3に記載の発明は、
Euが、(ビス(テトラメチルモノアルキルシクロペンタジエニル)ユーロピウム)により供給されることを特徴とする請求項2に記載の赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0029】
Euを供給するEu原料(Eu有機原料)としては、蒸気圧が高く、効率的な添加を行うことができるEu化合物が好ましいが、Eu[C
5(CH
3)
4R]
2(R:アルキル基)で示される(ビス(テトラメチルモノアルキルシクロペンタジエニル)ユーロピウム)がより好ましく、この内でも、ビス(ノルマルプロピルテトラメチルシクロペンタジエニル)ユーロピウム(EuCp
pm2)が好ましい。
【0030】
即ち、例えば、Eu(C
11H
19O
2)
3やEu(C
5H
7O
2)
3などの化合物は比較的蒸気圧が高いため、従来よりEu供給源(Eu有機原料)として一般的に使用されているが、使用温度である150℃付近でも固体であるため、供給時の安定性にしばしば問題が生じていた。また、その構造中に酸素を有しているため、Euの添加処理の際、酸素による母体材料の劣化も考えられる。そして、Oを共添加する際には、構造中の酸素量についても考慮する必要があるため、O共添加における添加濃度の制御も容易とは言えなかった。
【0031】
これに対して、(ビス(テトラメチルモノアルキルシクロペンタジエニル)ユーロピウム)は、融点が比較的低く(例えば、EuCp
pm2は49℃)、使用温度において液体であるため、バブリングにより安定的に供給することができる。また、その構造中に酸素を含んでいないため、酸素フリーでの成膜が可能となると共に、Oの共添加における制御を確実且つ容易に行うことができる。
【0032】
請求項4に記載の発明は、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料に用いた赤色発光半導体素子であって、
基板上に、p型層とn型層に挟まれた活性層を有しており、
前記活性層は、GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶に、EuまたはPrが、Ga、InあるいはAlと置換するように添加して形成され、さらに、EuまたはPrと共にOが添加された活性層であり、
前記活性層における光出力が100μW以上であることを特徴とする赤色発光半導体素子である。
【0033】
前記の通り、Oが共添加された赤色発光半導体素子は、EuイオンやPrイオンの周辺局所構造の形成が意図的に制御されて、発光中心が単純化されると共に活性層の表面の荒れが改善されているため、発光強度が大きく向上して、
活性層において100μW以上の高い発光強度の赤色発光半導体素子を提供することができる。
【0034】
なお、活性層が形成される基板としては、通常サファイアが用いられるが、これに限定されるものではなく、例えば、Si、GaN、GaAs等を用いることもできる。
【0035】
請求項5に記載の発明は、
前記活性層において、Oの添加濃度が、1×10
17〜1×10
20cm
−3であることを特徴とする請求項4に記載の赤色発光半導体素子である。
【0036】
Oの添加濃度としては、Euと同程度が好ましく、最大でもEuの4倍以下であることが好ましいが、1×10
17〜1×10
20cm
−3であると、形成される発光中心の数が適切に制御されて単純化されるためより好ましい。1×10
19〜1×10
20cm
−3であるとさらに好ましい。
【0037】
請求項6に記載の発明は、
前記活性層に形成された発光中心の数が、2〜6であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の赤色発光半導体素子である。
【0038】
意図的なOの共添加を行うことにより、発光中心の数が2〜6まで単純化されていると、より高い発光強度を得ることができる。
【0040】
Oが共添加された赤色発光半導体素子は、Euイオンの周辺局所構造が劇的に変化して、Eu発光中心が単純化されているため、発光強度が大きく向上し、従来にない100μW以上の高い光出力の赤色発光半導体素子を提供することができる。
【0041】
請求項
7に記載の発明は、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を用いた赤色発光半導体素子であって、
基板上に、p型層とn型層に挟まれた活性層を有しており、
前記活性層は、GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶に、EuまたはPrが、Ga、InあるいはAlと置換するように添加して形成され、さらに、EuまたはPrと共に、Oが1×10
17〜1×10
20cm
−3の濃度で添加された活性層であり、
前記活性層における光出力が100μW以上であることを特徴とする赤色発光半導体素子。
【0042】
上記のような赤色発光半導体素子は、Oが適切に共添加されて発光中心が単純化されているため、前記したように発光強度が大きく向上し、
活性層において100μW以上の高い光出力の赤色発光半導体素子を提供することができる。