特許第6222894号(P6222894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6222894-表皮肥厚促進剤 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222894
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】表皮肥厚促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/67 20060101AFI20171023BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20171023BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20171023BHJP
   A61K 31/07 20060101ALI20171023BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20171023BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20171023BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20171023BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   A61K8/67
   A61K8/60
   A61Q19/08
   A61K31/07
   A61K31/355
   A61K31/704
   A61P17/00
   A61P43/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-81803(P2012-81803)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209334(P2013-209334A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 綾子
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/072629(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/102462(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第1704853(EP,A2)
【文献】 特開2012−036176(JP,A)
【文献】 特開2007−153801(JP,A)
【文献】 特開2006−008538(JP,A)
【文献】 特開平05−186343(JP,A)
【文献】 特開2008−088127(JP,A)
【文献】 特開平06−247853(JP,A)
【文献】 特開2009−155326(JP,A)
【文献】 特開2002−212052(JP,A)
【文献】 特開2006−028148(JP,A)
【文献】 特開2006−265253(JP,A)
【文献】 特開2004−051627(JP,A)
【文献】 特開2005−206573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00−31/327
A61K 31/33−31/44
A61K 47/00−47/48
A61Q 1/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)レチノイド、(B)トコフェロール、またはトコフェロール有機酸エステル若しくはその塩(但し、トコフェリルレチノエートを除く。)、及び(C)グリチルリチン酸またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする表皮肥厚促進剤であって、
当該表皮肥厚促進剤は皮膚外用剤として調製され、皮膚外用剤中の(A)成分の割合が0.001〜5重量%、(B)成分の割合が1〜5重量%、(C)成分の割合が0.1〜12重量%である、表皮肥厚促進剤。
【請求項2】
上記(A)レチノイドがレチノール脂肪酸エステルである請求項1記載の表皮肥厚促進剤。
【請求項3】
上記(B)成分がトコフェロール有機酸エステル(但し、トコフェリルレチノエートを除く。)である請求項1または2に記載する表皮肥厚促進剤。
【請求項4】
(A)成分の割合が0.001〜5重量%、(B)成分の割合が1〜5重量%、(C)成分の割合が0.1〜12重量%となるように請求項1乃至のいずれかに記載する表皮肥厚促進剤を含有する、表皮肥厚促進作用を有する皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮肥厚促進剤、及び表皮肥厚促進剤を含有する皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、紫外線などの外界からの刺激に常に晒されており、常に一定の厚みを保持することで内部組織を保護している。
【0003】
従来からレチノールは、皮膚に対して細胞分化抑制により角化を抑制することが報告されている。特にこれを連用することにより、表皮においてはその肥厚、角層構造の接着緻密化、真皮においては線維芽細胞の活性化、細胞数増加、真皮層におけるコラーゲンの増加などがみられることが示されている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、レチノールは酸化されやすい物質であるため、水を多く含む水性製剤(ローション、エッセンス、水性クリーム、水性ジェル、シートマスク、スプレーなど)への安定性が悪いという問題がある。これを解決する方法として、水素添加リン脂質からなる脂質二分子膜中に、レチノイドを内包し、さらにビタミンEまたはその誘導体などの疎水性抗酸化剤を共存させ、水系製剤に分散または乳化して水性製剤を調製する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また尿素は、その優れた保湿作用から、その効果を期待して、従来より皮膚外用剤の配合成分として使用されている。特許文献2には、尿素を配合した保湿性の皮膚外用剤の使用感を高めるためにレチノールまたはその誘導体を併用することが記載されており、さらに保湿性と使用感を向上させるために、トコフェロールまたはその誘導体を配合することが記載されている。しかし、尿素には、保湿作用とともに角質溶解作用があることも古くから知られており、魚鱗癬、乾癬、老人性乾皮症などの角化異常の治療のための外用剤に使用されている(特許文献3〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−256268号公報
【特許文献2】特開2008−31159号公報
【特許文献3】特開昭60−89408号公報
【特許文献4】特開昭61−130204号公報
【特許文献5】特開昭61−200904号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本香粧品科学会誌 16(3) 172-174(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、表皮肥厚促進剤を提供することを目的とする。また、本発明は当該表皮肥厚促進剤を含有する皮膚外用剤、特に皮膚に張りや弾力性を与えて小じわを目立たなくし、肌のきめを整えること等により、老化を防止し皮膚の若返りを図るうえで有効な皮膚外用剤、皮膚の創傷治癒を促進するのに有効な皮膚外用剤、または毛孔性苔癬(毛孔性角化症)等の皮膚疾患症状の改善に有効な皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を進めていたところ、レチノイドとトコフェロールまたはその誘導体とを併用することにより、表皮の肥厚を促進することができること、またこれらにさらに尿素またはグリチルリチン酸若しくはその塩を併用することにより、更に一層表皮の肥厚を促進することができることを見出した。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
【0011】
(I)表皮肥厚促進剤
(I-1)(A)レチノイド、及び(B)トコフェロールまたはその誘導体を有効成分として含有することを特徴とする表皮肥厚促進剤。
(I-2)さらに(C)グリチルリチン酸またはその塩、及び(D)尿素から選択されるいずれか少なくとも一種を含有することを特徴とする、(I-1)記載の表皮肥厚促進剤。
(I-3)(A)成分が、レチノールまたはレチノール脂肪酸エステルである(I-1)または(I-2)記載の表皮肥厚促進剤。
(I-4)(B)成分が、トコフェロールまたはトコフェロール有機酸エステルである、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する表皮肥厚促進剤。
(I-5)(C)成分が、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、及びグリチルリチン酸二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つである、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する表皮肥厚促進剤。
【0012】
(II)皮膚外用剤
(II-1)(I-1)または(I-2)に記載する表皮肥厚促進剤を含有する皮膚外用剤。
(II-2)(A)レチノイド、(B)トコフェロールまたはその誘導体、及び(C)グリチルリチン酸またはその塩;または
(A)レチノイド、(B)トコフェロールまたはその誘導体、(C)グリチルリチン酸またはその塩、及び(D)尿素
を有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(II-2)皮膚外用剤が、医薬組成物、医薬部外品組成物または化粧料組成物である(II-1)に記載する皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の皮膚肥厚促進剤及び皮膚外用剤によれば、表皮の肥厚が促進されることにより、肌の張りや弾力性が向上して小じわが目立たなくなり、また、肌のきめを整えることも可能である。このため、皮膚の老化を防止し若返りを図るうえで有効である。また本発明の皮膚肥厚促進剤及び皮膚外用剤によれば、表皮角化細胞の増殖が促進されるため、皮膚の創傷治癒を促進するうえで有効である。また本発明の皮膚肥厚促進剤及び皮膚外用剤によれば、毛孔性苔癬(毛孔生角化症)やにきび(面皰)などの皮膚疾患症状を改善することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)実施例3の被験試料を塗布したマウス皮膚組織の染色画像、(B)対照例の被験試料を塗布したマウス皮膚組織の染色画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)表皮肥厚促進剤
本発明の表皮肥厚促進剤は、(A)レチノイド、及び(B)トコフェロールまたはその誘導体を有効成分として含有することを特徴とする。また本発明の表皮肥厚促進剤は、上記(A)及び(B)成分に加えて、(C)グリチルリチン酸またはその塩、及び(D)尿素から選択されるいずれか少なくとも一種を含有することを特徴とする。
【0016】
以下、これらの成分について説明する。
【0017】
(A)レチノイド
本発明においてレチノイドとは、レチノール(ビタミンA)及び当該レチノールと構造及び機能が類似する化合物の総称である。具体的には、レチノール;酢酸レチノール、プロピオン酸レチノール、酪酸レチノール、オクチル酸レチノール、ラウリル酸レチノール、パルミチン酸レチノール、ステアリン酸レチノール、ミリスチン酸レチノール、オレイン酸レチノール、リノレン酸レチノール、及びリノール酸レチノール等のレチノール脂肪酸エステル;レチナールやレチノイン酸などのレチノール酸化物;レチノイン酸メチル、レチノイン酸エチル、レチノイン酸レチノール、レチノイン酸トコフェロール(ここでトコフェロールは、α、β、γ、δのいずれであってもよい)等のレチノイン酸エステル;並びにこれらの塩等を挙げることができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0018】
レチノイドとして、好ましくはレチノール及びレチノール脂肪酸エステルであり、より好ましくはレチノール脂肪酸エステルである。レチノール脂肪酸エステルのなかでも、好ましくはパルミチン酸レチノール、リノール酸レチノール、及びプロピオン酸レチノールであるが、より好ましくはパルミチン酸レチノールである。
【0019】
レチノイドの塩としては、薬学的に許容される塩であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではない。例えば、レチノイドの種類に応じて、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩;カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸等の無機酸塩;クエン酸、コハク酸塩、酢酸塩、酒石酸塩または乳酸塩等の有機酸塩;等を適宜選択使用することができる。
【0020】
なお、本発明で用いるレチノイドは、その由来及び状態(精製の有無)を問わない。例えば、動物から抽出精製して得られる肝油や日本薬局方記載のビタミンA油(1gにつき3万ビタミンA単位(IU)以上を含む)、であってもよい。
【0021】
表皮肥厚促進剤中のレチノイドの含有割合としては、レチノイドと後述する少なくともトコフェロールまたはその誘導体を配合した表皮肥厚促進剤が表皮肥厚促進作用を発揮する割合であればよく、その限りにおいて特に制限されないが、通常1〜30重量%、好ましくは2〜25重量%、より好ましくは4〜20重量%を挙げることができる。
【0022】
(B)トコフェロールまたはその誘導体
本発明においてトコフェロールは、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、及びδ−トコフェロールのいずれでもよい。好ましくは、α−トコフェロール及びδ−トコフェロールであり、より好ましくはα位−トコフェロールである。これらのトコフェロールは、d体、dl体のいずれであってもよい。
【0023】
またトコフェロール誘導体は、酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、及びリノレン酸トコフェロール等のトコフェロール有機酸エステルを挙げることができる。好ましくは酢酸トコフェロール、及びニコチン酸トコフェロールであり、より好ましくは酢酸トコフェロールである。なお、トコフェロール有機酸エステルは、有機酸がモノカルボン酸でない場合は塩の形態を有するものであってもよく、かかる塩としてはコハク酸トコフェロールカルシウム等を例示することができる。これらのトコフェロール誘導体も、d体、dl体のいずれであってもよい。
【0024】
上述するトコフェロール及びその誘導体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0025】
表皮肥厚促進剤中のトコフェロールまたはその誘導体の含有割合としては、レチノイド及びトコフェロールまたはその誘導体を配合した表皮肥厚促進剤が、表皮肥厚促進作用を発揮するような割合であればよく、その限りにおいて特に制限されないが、通常5〜99重量%、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは15〜70重量%を挙げることができる。
【0026】
(C)グリチルリチン酸またはその塩
本発明の表皮肥厚促進剤には、上記(A)及び(B)成分に加えて、当該グリチルリチン酸またはその塩を配合することができ、斯くして、より一層効果の高い表皮肥厚促進剤を得ることができる。
【0027】
グリチルリチン酸は、マメ科の多年草である甘草(Glycyrrhiza glabra L.)などの根に含まれている配糖体であり、分子中にカルボキシル基を有していることからグリチルリチン酸と呼ばれるが、単にグリチルリチンとも呼ばれる。
【0028】
グリチルリチン酸の塩としては、薬学的に許容される塩であればよく、その限りにおいて特に制限されないが、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、及びグリチルリチン酸三ナトリウム等のアルカリ金属塩;グリチルリチン酸モノアンモニウムやグリチルリチン酸二アンモニウム等のアンモニウム塩などを例示することができる。
【0029】
なお、本発明で用いるグリチルリチン酸またはその塩は、その由来及び状態(精製の有無)を問わない。例えば、グリチルリチン酸又はその塩を含む生薬、生薬抽出物又は生薬エキス等を用いてもよく、例えば、かかるものとして、カンゾウ、カンゾウエキス、葛根湯エキス、麻黄湯エキス、小青竜湯エキス、小柴胡湯エキス、柴胡桂枝湯エキス、桂枝湯エキス等を挙げることができる。好ましくはグリチルリチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、カンゾウ、カンゾウエキスである。
【0030】
生薬エキスは、例えば、生薬を水抽出又はエタノール等の有機溶媒抽出し、不溶分を除去・乾固して製造することもでき、市販品を用いることもできる。市販品の例としては、例えばカンゾウエキスとしては、「カンゾウ乾燥エキス」(カンゾウの水製乾燥エキス、日本粉末薬品製)、「カンゾウ流エキス」(カンゾウの水・エタノール製流エキス、アルプス薬品製)、「スターリチン」(酵素分解カンゾウ、丸善製薬社製)、「グリチミンW」(グリチルリチン17.5%含有、丸善製薬社製)、「カンゾウ乾燥エキスE」(カンゾウの水製乾燥エキス、松浦薬業製)等を例示することができる。
【0031】
本発明の表皮肥厚促進剤において、これら上述するグリチルリチン酸またはその塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0032】
表皮肥厚促進剤中のグリチルリチン酸またはその塩の含有割合としては、(A)及び(B)成分に加えて、グリチルリチン酸またはその塩を配合した表皮肥厚促進剤が、表皮肥厚促進作用を発揮するような割合、好ましくはグリチルリチン酸またはその塩を配合する前の表皮肥厚促進剤よりも表皮肥厚促進作用が増強するような割合であればよく、その限りにおいて特に制限されないが、通常0.1〜40重量%、好ましくは10〜35重量%、より好ましくは20〜35重量%を挙げることができる。
【0033】
(D)尿素
本発明の表皮肥厚促進剤には、上記(A)及び(B)成分に加えて(D)尿素を配合することができ、斯くして、より一層効果の高い表皮肥厚促進剤を得ることができる。また、本発明の表皮肥厚促進剤には、(A)、(B)及び(C)成分に加えて、(D)尿素を配合してもよい。
【0034】
表皮肥厚促進剤中の尿素の含有割合としては、(A)及び(B)成分に加えて、尿素を配合した表皮肥厚促進剤が、表皮肥厚促進作用を発揮するような割合、好ましくは尿素を配合する前の表皮肥厚促進剤よりも表皮肥厚促進作用が増強するような割合であればよく、その限りにおいて特に制限されないが、通常0.1〜90重量%、好ましくは10〜85重量%、より好ましくは20〜80重量%を挙げることができる。
【0035】
本発明の表皮肥厚促進剤は、上記(A)及び(B)成分、または(A)及び(B)成分に更に(C)成分及び(D)成分の少なくとも一種を含有するものであればよく、後述する皮膚外用剤の有効成分として、皮膚外用剤の形態に調製して使用される。
【0036】
(2)皮膚外用剤
上記するように、本発明の表皮肥厚促進剤は、皮膚外用剤の有効成分として使用することができる。皮膚外用剤は、本発明の効果、つまり表皮肥厚促進作用及びそれから派生する効果を有効に利用することのできる各種の分野、例えば、ヒトに適用される外用医薬品、外用医薬部外品、化粧品等の分野で用いることが可能である。なお、表皮肥厚促進作用から派生する効果としては、前述するように、肌の張りや弾力性が向上させて小じわを目立たなくする効果、肌のきめを整える効果、皮膚の老化を防止し若返りを図る効果、皮膚の創傷治癒を促進する効果を例示することができる。
【0037】
このため、本発明の表皮肥厚促進剤は、そのまま外用医薬品、外用医薬部外品、または化粧品等としてもよいが、通常は、外用医薬品、外用医薬部外品、または化粧品の分野において許容される担体や添加剤と混合して、目的や用途に応じて様々な剤型の皮膚外用剤として調製される。
【0038】
本発明の皮膚外用剤は、上記(A)及び(B)成分、または(A)及び(B)成分に更に(C)成分及び(D)成分の少なくとも一種を、表皮肥厚促進作用を発揮する有効量含有するものであればよく、その限りにおいて、(A)〜(D)成分の含有割合は特に制限されないが、皮膚外用剤100重量%中の各成分の含有割合の一例として下記の範囲を例示することができる。
(A)成分:0.001〜5重量%、好ましくは0.01〜3重量%、より好ましくは0.1〜1重量%
(B)成分:0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%
(C)成分:0〜20重量%、好ましくは8〜15重量%、より好ましくは10〜12重量%
(D)成分:0〜5重量%、好ましくは0.01〜3重量%、より好ましくは0.1〜1重量%。
【0039】
また本発明の皮膚外用剤は、本発明の効果を損なわない限り、他成分として、皮膚に対して生理作用を発揮する活性物質、または皮膚に対して生理活性を発揮しない担体や添加剤などの非活性物質を配合することもできる。
【0040】
活性物質としては、保湿剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、細胞賦活剤、しわ抑制剤等を例示することができる。これらの具体的な成分は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限されず、皮膚外用剤(医薬品、医薬部外品、及び化粧品を含む)に使用されているもの若しくは今後使用されるもののなかから任意に選択することができる。
【0041】
非活性物質(担体または添加剤)としては、基剤、溶解補助剤、分散剤、懸濁化剤、界面活性剤、増粘剤、安定剤(保存剤)、pH調整剤、着色料、香料などを例示することができる。これらの成分は、後述する表皮肥厚促進剤の形態(剤型)に応じて、1種または2種以上を適宜選択して配合することができる。
【0042】
ここで基剤としては、水;パラフィン、流動パラフィン、ゲル化炭化水素、オゾケライト、セレシン、ワセリン、ハードファット、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素;トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル(トリオクタノイン)等のトリ脂肪酸グリセリド;ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベヘニルアルコール、2−ヘキシルデカノール等の高級アルコール;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸及びそのエステル;高重合メチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン共重合体、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)・メチルポリシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルセチルオキシシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルステアロキシシロキサン共重合体、アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステル、架橋型メチルポリシロキサン、架橋型メチルフェニルポリシロキサン、架橋型ポリエーテル変性シリコーン、架橋型アルキルポリエーテル変性シリコーン、架橋型アルキル変性シリコーン等の重合型シリコーン(シリコーン樹脂);エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、トリエチレングリコールジアセタート、ヘキシレングリコールジアセタート、及び2-メチル-2-プロペン-1,1-ジオールジアセタート等の酢酸グリコール;トリエチレングリコールジバレラート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチラート等のグリコールエステル;エチレングリコールジアクリラート、ジエチレングリコールジアクリラート、プロピレングリコールモノアクリラート、2,2-ジメチル-トリメチレングリコールジアクリラート、及び1,3-ブチレングリコールジアクリラート等のグリコールアクリラート;エチレングリコールジニトラート、ジエチレングリコールジニトラート、トリエチレングリコールジニトラート、及びプロピレングリコールジニトラート等のグリコールジニトラート;2,2′-[1,4-フェニレンジオキシ]ジエタノール、ジオキサン、ブチレングリコールアジピン酸ポリエステルなどを挙げることができる。好ましくは、軟膏を調製するための水性基剤であり、水、パラリン、流動パラフィン、シリコーン樹脂、セチルアルコール、ステアリルアルコール、及びグリコール類を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0043】
界面活性剤としては、モノステアリン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸等のグリセリン脂肪酸類;モノイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル等のポリグリセリン脂肪酸類;ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ペンタ−2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ−2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類;モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80などの硬化ヒマシ油誘導体;モノラウリル酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート80)などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(ポリソルベート類);その他、ポリオキシエチレンモノヤシ油脂肪酸グリセリル、グリセリンアルキルエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ステアリルアミン、オレイルアミンなどを例示することができる。好ましくは、軟膏の調製に使用される界面活性剤であり、例えばソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0044】
増粘剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース類;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸類;グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム等のガム類;その他、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ベントナイト、デキストリン脂肪酸エステル、ペクチンなどを挙げることができる。好ましくは、軟膏を調製するために用いられる増粘剤である。
【0045】
安定剤(保存剤)としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール、1,2−ヘキサンジオール、エデト酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0046】
pH調整剤としては、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸など)、有機酸(乳酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、コハク酸ナトリウム、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、プロピオン酸、酢酸、アスパラギン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、グルタミン酸、アミノエチルスルホン酸など)、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム、無機塩基(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、有機塩基(モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、リジンなど)などを挙げることができる。
【0047】
本発明の皮膚外用剤は、種々の形態に調製することができる。
【0048】
例えば、皮膚外用剤が外用医薬品または外用医薬部外品である場合、液剤(ローション剤、懸濁液剤、乳液剤、エアゾール剤)、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤(ジェル剤)、貼付剤の形態などを例示することができる。好ましくは軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤であり、より好ましくは軟膏剤である。当該外用医薬品または外用医薬部外品は、表皮の角化細胞の増殖を促進し、また表皮の肥厚を促進することで、皮膚の創傷治癒を促進する製剤として、また毛孔性苔癬(毛孔性角化症)治療薬、にきび(面皰)治療薬等として有効である。
【0049】
また、皮膚外用剤が化粧品または外用医薬部外品(薬用化粧品)である場合、制限されるものではないが、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ローション、オイル及びパック等の基礎化粧料;ファンデーション、頬紅、白粉等のメイクアップ化粧料;洗顔料、クレンジング、ボディ洗浄料等の皮膚洗浄料;マッサージ剤、清拭剤;清浄剤;入浴剤等が挙げられる。
【0050】
当該化粧品または外用医薬部外品(薬用化粧品)によれば、表皮の角化細胞の増殖を促進し、また表皮の肥厚を促進することで、肌の張りや弾力性が向上させて小じわを目立たなくし、肌のきめを整え、また皮膚の老化を防止し若返りを図る効果を期待することができる。
【0051】
本発明の皮膚外用剤は、目的に応じて上述する各種製剤形態に調製され、皮膚に適用することができる。その適用量は、患者の年齢、製剤の形態、皮膚症状の程度、及び投与方法(塗布またはパック)に応じて、適宜設定することができる。例えば、皮膚外用剤に含まれているレチノイドの量に換算して、その1回塗布量として、通常0.003〜15mg程度、好ましくは0.03〜9mg程度、より好ましくは0.3〜3mg程度である。1日に1回〜複数回塗布することもできる。
【0052】
なお、本発明の皮膚外用剤は、その効果を有効に発揮するためには連用することが好ましい。例えば少なくとも1週間以上、より好ましくは2週間以上、継続して使用することが推奨される。
【実施例】
【0053】
以下、実験例を用いて、本発明の構成及びその効果を説明する。ただし、本件発明はかかる実施例によって、なんら制限されるものではない。
【0054】
実験例1
1.実験方法
1-1.被験試料の調製
表1に記載する成分を定法に従って混合し、軟膏(参考例1及び2、実施例、対照例)を調製し、これを下記の表皮肥厚度測定の被験試料とした。
【0055】
【表1】
【0056】
1-2. 表皮肥厚度測定
上記で調製した被験試料(参考例1及び2、実施例、対照例)を、ヘアレスマウス(HR-1)(n=1)の背部の皮膚に4週間(月〜金曜日、1日1回)塗布した後、皮膚組織を剥離し、剥離した皮膚組織について下記の方法に従って表皮肥厚度を測定した。
【0057】
まず採取したマウス皮膚組織をホルマリンに固定し、パラフィンにて包埋した。その後、4μmの厚さに組織を薄切することで切片を作製した後、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行った。次いで、染色した組織切片を光学顕微鏡(BX51, OLYMPUS/AxioCam MRc, ZEISS)を用いて観察及び写真撮影を行った。表皮肥厚度の解析は、画像解析ソフトウェア(AxioVision, ZEISS)を用いて、200倍の倍率で撮影した組織染色画像から表皮の厚さを測定した。1視野(1画像)ごとに表皮の厚さを3か所測定し、その操作を10視野において同様に行った。1枚の組織切片から測定した計30か所の厚さの平均値をもって表皮肥厚度(μm)とした。
【0058】
2.実験結果
結果を表2に示す。表2には、参考例1及び2並びに実施例の被験試料を塗布した際に得られる表皮肥厚度(平均値)と、対照例の被験試料による表皮肥厚度の平均値(41.0μm)を100%として算出した値(表皮肥厚度の増大率)を併せて示す。また、実施例3及び対照例の被験試料を塗布した皮膚組織の染色画像を図1(A:実施例、B:対照例)に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
この結果から、レチノールまたはその誘導体とトコフェロールまたはその誘導体を併用することにより、表皮角化細胞の増殖を促進して表皮の肥厚を促進することができること(参考例1)、さらにこれらの成分による表皮肥厚促進作用は、さらに尿素(参考例2)またはグリチルリチン酸若しくはその塩(実施例)を併用することで、さらに増強することがわかる。つまり、これはレチノールまたはその誘導体とトコフェロールまたはその誘導体との組み合わせは表皮肥厚促進剤として有効であること、またこれらの組み合わせに、さらに尿素または/およびグリチルリチン酸若しくはその塩を組み合わせたもの、特にグリチルリチン酸若しくはその塩を組み合わせたものは一層、表皮肥厚促進剤として有効であることを意味する。
図1