(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御手段は、前記振動信号の時間変化に相当する波形をフーリエ変換して、振動を周波数成分に分ける解析手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の切削装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係る切削装置の構成例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、切削装置2は、各構成を支持する基台4を備えている。
【0013】
基台4の上面には、X軸方向(前後方向、加工送り方向)に長い矩形状の開口4aが形成されている。この開口4a内には、X軸移動テーブル6、X軸移動テーブル6をX軸方向に移動させるX軸移動機構(不図示)、及びX軸移動機構を覆う防水カバー8が設けられている。
【0014】
X軸移動機構は、X軸方向に平行な一対のX軸ガイドレール(不図示)を備えており、X軸ガイドレールには、X軸移動テーブル6がスライド可能に設置されている。X軸移動テーブル6の下面側には、ナット部(不図示)が固定されており、このナット部には、X軸ガイドレールと平行なX軸ボールネジ(不図示)が螺合されている。
【0015】
X軸ボールネジの一端部には、X軸パルスモータ(不図示)が連結されている。X軸パルスモータでX軸ボールネジを回転させることで、X軸移動テーブル6はX軸ガイドレールに沿ってX軸方向に移動する。
【0016】
X軸移動テーブル6上には、板状の被加工物(不図示)を吸引保持するチャックテーブル10が設けられている。被加工物は、例えば、円盤状の半導体ウェーハ、樹脂基板、セラミックス基板等であり、下面側をチャックテーブル10に吸引保持される。
【0017】
チャックテーブル10は、モータ等の回転機構(不図示)と連結されており、Z軸方向(鉛直方向)に伸びる回転軸の周りに回転する。また、チャックテーブル10は、上述のX軸移動機構でX軸方向に移動する。チャックテーブル10の周囲には、被加工物を支持する環状のフレーム(不図示)を挟持固定するためのクランプ12が設けられている。
【0018】
チャックテーブル10の表面(上面)は、被加工物を吸引保持する保持面10aとなっている。この保持面10aは、チャックテーブル10の内部に形成された流路(不図示)を通じて吸引源(不図示)と接続されている。
【0019】
基台4の上面には、切削ユニット(切削手段)14を支持する門型の支持構造16が、開口4aを跨ぐように配置されている。支持構造16の前面上部には、切削ユニット14をY軸方向(割り出し送り方向)及びZ軸方向に移動させる切削ユニット移動機構18が設けられている。
【0020】
切削ユニット移動機構18は、支持構造16の前面に配置されY軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール20を備えている。Y軸ガイドレール20には、切削ユニット移動機構18を構成するY軸移動テーブル22がスライド可能に設置されている。
【0021】
Y軸移動テーブル22の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が固定されており、このナット部には、Y軸ガイドレール20と平行なY軸ボールネジ24が螺合されている。Y軸ボールネジ24の一端部には、Y軸パルスモータ(不図示)が連結されている。Y軸パルスモータでY軸ボールネジ24を回転させれば、Y軸移動テーブル22は、Y軸ガイドレール20に沿ってY軸方向に移動する。
【0022】
Y軸移動テーブル22の表面(前面)には、Z軸方向に平行な一対のZ軸ガイドレール26が設けられている。Z軸ガイドレール26には、Z軸移動テーブル28がスライド可能に設置されている。
【0023】
Z軸移動テーブル28の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が固定されており、このナット部には、Z軸ガイドレール26と平行なZ軸ボールネジ30が螺合されている。Z軸ボールネジ30の一端部には、Z軸パルスモータ32が連結されている。Z軸パルスモータ32でZ軸ボールネジ30を回転させれば、Z軸移動テーブル28は、Z軸ガイドレール26に沿ってZ軸方向に移動する。
【0024】
Z軸移動テーブル28の下部には、被加工物を切削する切削ユニット14が設けられている。また、切削ユニット14と隣接する位置には、被加工物の上面側を撮像するカメラ34が設置されている。上述のようにY軸移動テーブル22及びZ軸移動テーブル28を移動させることで、切削ユニット14及びカメラ34は、Y軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0025】
図2は、切削ユニット14の構造を模式的に示す分解斜視図であり、
図3は、切削ユニット14の断面等を模式的に示す図である。なお、
図2及び
図3では、切削ユニット14の構成の一部を省略している。
【0026】
切削ユニット14は、Z軸移動テーブル28の下部に固定されたスピンドルハウジング36を備えている。このスピンドルハウジング36は、略直方体状のハウジング本体38と、ハウジング本体38の一端側に固定された円柱状のハウジングカバー40とを含む。
【0027】
ハウジング本体38の内部には、Y軸の周りに回転するスピンドル42が収容されている。スピンドル42の一端側は、ハウジング本体38から外部に突出している。スピンドル42の他端側には、スピンドル42を回転させるためのモータ(不図示)が連結されている。
【0028】
ハウジングカバー40の中央には、円形の開口40aが形成されている。また、ハウジングカバー40のハウジング本体38側には、ネジ孔40bの形成された係止部40cが設けられている。スピンドル42の一端側を開口40aに挿通し、係止部40cのネジ孔40bを通じてハウジング本体38のネジ孔38aにネジ44(
図3)を締め込めば、ハウジングカバー40をハウジング本体38に固定できる。
【0029】
スピンドル42の一端部には、開口42aが形成されており、当該開口42aの内壁面には、ネジ溝が設けられている。このスピンドル42の一端部には、第1のフランジ部材46が装着される。
【0030】
第1のフランジ部材46は、径方向外向きに延出したフランジ部48と、フランジ部48の表裏面からそれぞれ突出する第1のボス部50及び第2のボス部52とを含む。第1のフランジ部材46の中央には、第1のボス部50、フランジ部48、及び第2のボス部52を貫通する開口46aが形成されている。
【0031】
第1のフランジ部材46の開口46aには、裏面側(スピンドルハウジング36側)からスピンドル42の一端部が嵌め込まれる。この状態で、開口46a内にワッシャー56を位置付け、当該ワッシャー56を通じて固定用のボルト58を開口42aに締め込めば、第1のフランジ部材46はスピンドル42に固定される。なお、ボルト58の外周面58aには、開口42aのネジ溝に対応するネジ山が設けられている。
【0032】
フランジ部48の外周側の表面は、切削ブレード60の裏面に当接する当接面48aとなっている。この当接面48aは、Y軸方向(スピンドル42の軸心方向)から見て円環状に形成されている。
【0033】
第1のボス部50は円筒状に形成されており、その先端側の外周面50aには、ネジ山が設けられている。切削ブレード60の中央には、円形の開口60aが形成されている。この開口60aに第1のボス部50を挿通することで、切削ブレード60は、第1のフランジ部材46に装着される。
【0034】
切削ブレード60は、いわゆるハブブレードであり、円盤状の支持基台62の外周に、被加工物を切削する円環状の切り刃64が固定されている。切り刃64は、金属や樹脂等のボンド材(結合材)に、ダイヤモンドやCBN(Cubic Boron Nitride)等の砥粒を混合して所定厚みに形成されている。なお、切削ブレード60として、切り刃のみで構成されたワッシャーブレードを用いてもよい。
【0035】
この切削ブレード60を第1のフランジ部材46に装着した状態で、切削ブレード60の表面側には、円環状の第2のフランジ部材66が配置される。第2のフランジ部材66の中央には、円形の開口66aが形成されており、当該開口66aの内壁面には、第1のボス部50の外周面50aに形成されたネジ山に対応するネジ溝が設けられている。
【0036】
第2のフランジ部材66の外周側の裏面は、切削ブレード60の表面に当接する当接面66b(
図3)となっている。当接面66bは、第1のフランジ部材46の当接面48aと対応する位置に設けられている。
【0037】
この第2のフランジ部材66の開口66aに、第1のボス部50の先端を締め込むことで、切削ブレード60は、第1のフランジ部材46と第2のフランジ部材66とで挟持される。
【0038】
このように構成された切削ユニット14には、切削ブレード60の振動を検出するための振動検出機構が設けられている。振動検出機構は、切削ブレード60の振動に対応した振動信号を発生する振動信号発生装置(振動信号発生手段)68(
図3)を含んでいる。
【0039】
振動信号発生装置68は、第1のフランジ部材46の内部に固定された超音波振動子70を備えている。この超音波振動子70は、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO
3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zi,Ti)O
3)、リチウムナイオベート(LiNbO
3)、リチウムタンタレート(LiTaO
3)等の材料で形成されており、切削ブレード60の振動を電圧(振動信号)に変換する。
【0040】
通常、この超音波振動子70は、所定の周波数の振動に対して共振するように構成されている。そのため、超音波振動子70の共振周波数に応じて、振動検出機構で検出できる振動の周波数が決まる。
【0041】
例えば、本実施の形態に係る切削装置2では、共振周波数の異なる超音波振動子70をそれぞれ備えた複数の第1のフランジ部材46から、検出すべき切削ブレード60の振動の周波数に対応した第1のフランジ部材46を選択してスピンドル42に装着する。
【0042】
これにより、切削ブレード60や被加工物の種類(材質、大きさ、重量等)、発生頻度の高い異常の態様等に応じて、振動検出機構を最適化できる。各第1のフランジ部材46の対応周波数は、例えば、50kHz〜100kHz、100kHz〜300kHz、300kHz〜500kHzとする。この場合、3種類の第1のフランジ部材46を交換することで、50kHz〜500kHzの周波数範囲の振動を適切に検出できる。
【0043】
なお、第1のフランジ部材46を交換することなく広い周波数範囲の振動を検出できるように、共振周波数の異なる複数の超音波振動子70を第1のフランジ部材46に設けても良い。例えば、50kHz〜100kHz、100kHz〜300kHz、300kHz〜500kHzに対応可能な3種類の超音波振動子70を同じ第1のフランジ部材46に設ける。この場合、第1のフランジ部材46を交換することなく50kHz〜500kHzの周波数範囲の振動を適切に検出できる。
【0044】
超音波振動子70には、超音波振動子70で発生する電圧を伝送するための非接触型の伝送路(伝送手段)72(
図3)が接続されている。この伝送路72は、超音波振動子70に接続された第1のインダクタ(第1のコイル手段)74と、第1のインダクタ74に対して所定の間隔で対向する第2のインダクタ(第2のコイル手段)76とを含む。
【0045】
第1のインダクタ74及び第2のインダクタ76は、代表的には、導線が巻回された円環状のコイルであり、それぞれ、第1のフランジ部材46及びハウジングカバー40に固定されている。
【0046】
図4は、超音波振動子70及び第1のインダクタ74の配置を模式的に示す図である。本実施の形態では、
図4に示すように、Y軸方向(スピンドル42の軸心Oの方向)から見て第1のインダクタ74と重なる位置に、2個の同じ超音波振動子70が配置されている。
【0047】
2個の超音波振動子70は、スピンドル42の軸心Oに関して対称に配置されている。このように、複数の超音波振動子70をスピンドル42の軸心Oに関して対称に配置することで、切削ブレード60の振動を高精度に検出できる。なお、超音波振動子70の数、配置、形状等は、
図4に示す態様に限定されない。
【0048】
第1のインダクタ74と第2のインダクタ76とは対向しており、磁気的に結合されている。そのため、超音波振動子70で発生した電圧は、第1のインダクタ74と第2のインダクタ76との相互誘導によって、第2のインダクタ76側に伝送される。
【0049】
第2のインダクタ76には、制御装置(制御手段)78が接続されている。この制御装置78は、第2のインダクタ76から伝送される電圧に基づいて切削ブレードの振動状態を判定する。
【0050】
具体的に、制御装置78は、第2のインダクタ76から伝送された電圧(振動信号)等の情報を記憶する記憶部(記憶手段)78aと、任意の単位時間あたりに伝送される電圧(振動信号)の時間変化に相当する波形(時間領域の波形)をフーリエ変換(例えば、高速フーリエ変換)によってスペクトル解析する解析部(解析手段)78bと、切削ブレード60の状態を判定する比較判定部(比較判定手段)78cと、を含む。なお、スペクトル解析の単位時間としては、1本のラインの切削に要する時間(1カットライン毎)、1枚の被加工物の切削に要する時間(1ワーク毎)、任意の距離を切削するのに要する時間(カット距離毎)等、様々な態様が考えられる。各部の詳細は後述する。
【0051】
図5(A)は、制御装置78に伝送される電圧の波形(時間領域の波形)の例を示すグラフであり、
図5(B)は、フーリエ変換後の波形(周波数領域の波形)の例を示すグラフである。なお、
図5(A)では、縦軸が電圧(V)を、横軸が時間(t)をそれぞれ示し、
図5(B)では、縦軸が振幅を、横軸が周波数(f)をそれぞれ示す。
【0052】
振動信号発生装置68からの電圧(振動信号)の波形を制御装置78の解析部78bでフーリエ変換すれば、
図5(B)に示すように、切削ブレード60の振動を主要な周波数成分に分けて、切削中に発生する異常を容易に解析できる。これにより、切削中の異常をリアルタイムに精度よく検出できる。
【0053】
以下、本実施の形態に係る切削装置2で実施される異常の検出フローについて説明する。初めに、検出の前処理として、バックグラウンドレベルに相当する基準信号を取得する基準信号取得ステップを実施する。この基準信号取得ステップでは、まず、各部に異常のない状態で切削ブレード60を回転させる。
【0054】
その結果、超音波振動子70から、スピンドル42の回転に伴う切削ブレード60の振動に起因する電圧(振動信号)が発生する。発生した電圧の時間変化に相当する波形(時間領域の波形)は、制御装置78の記憶部78aに記憶される。
【0055】
次に、制御装置78の解析部78bが、記憶部78aに記憶された上記電圧の波形を読み出し、フーリエ変換(高速フーリエ変換)する。その結果、時間領域における電圧(振動信号)の波形は、基準信号(周波数領域の波形)に変換される。
図6(A)は、基準信号の例を示すグラフである。得られた基準信号は、記憶部78aに記憶される。
【0056】
基準信号取得ステップの後には、実際の検出ステップが開始される。実際の検出ステップでは、初めに、被加工物を切削して判定の対象となる判定対象信号を取得する判定対象信号取得ステップを実施する。この判定対象信号取得ステップでは、まず、切削ブレード60を回転させて被加工物を切削する。
【0057】
その結果、超音波振動子70から、被加工物の切削に伴う切削ブレード60の振動に起因する電圧(振動信号)が発生する。発生した電圧の時間変化に相当する波形(時間領域の波形)は、制御装置78の記憶部78aに記憶される。
【0058】
次に、制御装置78の解析部78bが、記憶部78aに記憶された上記電圧の波形を読み出し、フーリエ変換(高速フーリエ変換)する。その結果、時間領域における電圧(振動信号)の波形は、判定対象信号(周波数領域の波形)に変換される。
図6(B)は、判定対象信号の例を示すグラフである。得られた判定対象信号は、記憶部78aに記憶される。
【0059】
判定対象信号取得ステップの後には、判定対象信号を基準信号と比較して切削ブレードの状態を判定する比較判定ステップを実施する。この比較判定ステップでは、まず、比較判定部78cが、記憶部78aに記憶された基準信号及び判定対象信号を読み出して、判定対象信号から基準信号を除去する。
【0060】
具体的には、検出対象の全周波数範囲で、判定対象信号の信号強度(振幅)から基準信号の信号強度(振幅)を減じる(減算する)。この時、判定対象信号中の基準信号を適切に除去できるように、判定対象信号又は基準信号の信号強度(振幅)に任意の値を乗じても良い。
【0061】
図6(C)は、判定対象信号から基準信号を除去して得られる信号の例を示すグラフである。このように、判定対象信号から基準信号を除去することで、切削ブレード60の状態を適切に判定して、切削中の異常を検出できる。
【0062】
具体的には、例えば、判定対象信号から基準信号を除去して得られる信号を、記憶部78aにあらかじめ記憶しておいた異常判定信号と比較することで、切削中の異常の有無を判定できる。すなわち、異常判定信号中の振動モード(振動成分)の一部又は全部と、判定対象信号から基準信号を除去して得られる信号中の振動モードとが一致する場合に、比較判定部78cは、当該振動モードに対応する異常が発生したと判定する。
【0063】
なお、異常判定信号は、切削に異常が生じる際の切削ブレード60の振動に起因する電圧(振動信号)の波形を、解析部78bにおいてフーリエ変換(高速フーリエ変換)することで得られる。
【0064】
以上のように、本実施の形態に係る切削装置2は、切削ブレード60の振動に対応した振動信号を発生する振動信号発生装置(振動信号発生手段)68と、振動信号発生装置68で発生した振動信号に基づいて切削ブレード60の状態を判定する制御装置(制御手段)78と、を備えるので、切削ブレード60の振動を伴う切削中の異常を適切に検出できる。
【0065】
また、本実施の形態に係る切削装置2では、電圧(振動信号)の時間変化に相当する波形(時間領域の波形)をフーリエ変換するので、電圧(振動信号)を直接に解析する場合と比較して、切削中に発生する異常の解析が容易になる。これにより、切削中の異常を高い精度で検出できる。
【0066】
なお、本発明は上記実施の形態の記載に限定されない。例えば、電圧(振動信号)をフーリエ変換せずに解析しても良い。その他、上記実施の形態に係る構成、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。