特許第6223275号(P6223275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223275
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】水晶発振式膜厚計
(51)【国際特許分類】
   G01B 17/02 20060101AFI20171023BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20171023BHJP
   C23C 14/52 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   G01B17/02 A
   C23C14/24 U
   C23C14/52
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-101254(P2014-101254)
(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公開番号】特開2015-219053(P2015-219053A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年5月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】田島 三之
(72)【発明者】
【氏名】田村 博之
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−131708(JP,A)
【文献】 特開2005−345143(JP,A)
【文献】 特開2014−70969(JP,A)
【文献】 特開平11−160057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 17/02
C23C 14/24
C23C 14/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内で蒸発源から蒸発させた蒸着材料を基板表面に堆積させて薄膜を形成する真空蒸着装置における膜厚制御用の水晶発振式膜厚計において、前記蒸着材料とは異なる少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物から構成される有機材料を、水晶振動子の蒸着面側の電極膜上に予め蒸着により被覆して有機材料下地膜を形成し、この有機材料下地膜上に前記蒸着材料を蒸着させてこの蒸着材料の膜厚若しくは蒸着速度を計測するように構成したことを特徴とする水晶発振式膜厚計。
【請求項2】
前記有機材料下地膜を形成する前記有機材料は、前記基板表面への蒸着工程で用いる前記蒸着材料よりも蒸着膜密度が大きいことを特徴とする請求項1記載の水晶発振式膜厚計。
【請求項3】
前記水晶振動子の表面と裏面に形成される前記電極膜は、Alを含む複数の金属から形成されることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の水晶発振式膜厚計。
【請求項4】
前記水晶振動子は、表面若しくは裏面が凸状となる曲面で中央部より端部が薄い形状に設定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水晶発振式膜厚計。
【請求項5】
前記基板表面への蒸着工程で用いる前記蒸着材料は、有機ELデバイスを製造するための有機材料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水晶発振式膜厚計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧雰囲気を保持する真空槽内で基板に薄膜を形成させる真空蒸着装置における膜厚制御用の水晶発振式膜厚計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着法において基板に薄膜を形成させる真空蒸着装置において、膜厚及び蒸着速度(膜厚レート)を制御するために膜厚計が用いられている。膜厚計には測定方式により様々な種類のものがあるが、水晶振動子法が広く用いられている。
【0003】
水晶振動子法を用いた水晶発振式膜厚計は、水晶振動子の表面に蒸着物質が付着すると共振振動がその質量の変化によって変化することを利用したもので、例えば、この共振振動(発振周波数)の変化を測定することで膜厚や膜厚レートを計測し、これを蒸発源の加熱制御装置にフィードバックして、基板への蒸着薄膜の膜厚レートを一定に制御し膜厚を管理するものである。
【0004】
また、このような水晶振動式膜厚計による膜厚測定に際して、水晶振動子の電極膜上に薄膜が厚く蒸着されると、共振振動が不安定になったり、水晶振動子の等価直列抵抗(クリスタルインピーダンス)が上昇し、水晶振動子を流れる電流が低下して、共振振動が測定できなくなるといった現象が発生する。そのため、このように厚く蒸着されて共振振動が測定できなくなると、水晶振動子の寿命であると判断し、水晶振動子を新しい水晶振動子に切換えて使用している。
【0005】
従来、この水晶振動子の寿命を長くするためには、特許文献1(特開2000−101387号公報)によれば、薄膜が厚く蒸着されてもこの膜の割れや剥離が発生しにくいようにするために、水晶振動子の成膜面側の電極膜上に軟質金属膜を予め形成することで、膜の内部応力を緩和して膜の剥離や割れを防止している。
【0006】
また、特許文献2(特開2007−24909号公報)によれば、スパッタ成膜により、成膜工程で用いる成膜材料を水晶振動子の成膜側の表面に予め形成することで水晶振動子と成膜材料とが強力に密着するので、水晶振動子と成膜材料との剥離を抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−101387号公報
【特許文献2】特開2007−24909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2により知られた水晶振動子上に予め膜を形成する方法は、成膜材料の隔離を防ぎ、共振振動の不安定性を解消し、水晶振動子の寿命を長くする方法ではあるが、水晶振動子上に形成された膜が剥離せずとも、水晶振動子の等価直列抵抗が上昇し、水晶振動子を流れる電流が低下することで、共振振動が測定できなくなる場合があるために、水晶振動子の寿命を長くすることはできない。
【0009】
即ち、たとえ蒸着膜の剥離や割れが防止できたとしても、蒸着材料として比重が小さい有機材料を蒸着する場合は、この有機材料が電極上に成膜されて行きその蒸着膜の膜厚が大きくなるほど水晶振動子の厚みすべり振動に追従できなくなるため、振動自体は維持されても、蒸着膜の膜厚が厚くなるほど等価直列抵抗が上昇するため、発振周波数が測定できなくなるという問題は十分に解決することができなく、水晶発振式膜厚計の寿命はやはり短く、長くすることはできない。
【0010】
特に有機ELデバイスを製造するための蒸着材料は、比重が小さい有機材料であり、水晶振動子表面の電極膜(例えばAuやAg)との密着性が悪く、水晶振動子の厚みすべり振動に追従できず、いわばこの有機材料が電極膜上にただ乗っかっている状態となるため、蒸着膜の膜厚が増すと等価直列抵抗が上昇するために、水晶振動子の寿命は短い。
【0011】
本発明は、上記問題点を見い出しこれを解決したもので、蒸着材料とは異なる少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物から構成される有機材料を、水晶振動子の蒸着面側の電極膜上に予め蒸着により被覆して有機材料下地膜を形成し、水晶振動子の等価直列抵抗の上昇を抑制して、長寿命化が図れる優れた水晶発振式膜厚計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0013】
真空槽1内で蒸発源2から蒸発させた蒸着材料を基板3表面に堆積させて薄膜を形成する真空蒸着装置Dにおける膜厚制御用の水晶発振式膜厚計Mにおいて、前記蒸着材料とは異なる少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物から構成される有機材料を、水晶振動子4の蒸着面側の電極膜5上に予め蒸着により被覆して有機材料下地膜6を形成し、この有機材料下地膜6上に前記蒸着材料を蒸着させてこの蒸着材料の膜厚若しくは蒸着速度を計測するように構成したことを特徴とする水晶発振式膜厚計に係るものである。
【0014】
また、前記有機材料下地膜6を形成する前記有機材料は、前記基板3表面への蒸着工程で用いる前記蒸着材料よりも蒸着膜密度が大きいことを特徴とする請求項1記載の水晶発振式膜厚計に係るものである。
【0015】
また、前記水晶振動子4の表面と裏面に形成される前記電極膜5は、Alを含む複数の金属から形成されることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の水晶発振式膜厚計に係るものである。
【0016】
また、前記水晶振動子4は、表面若しくは裏面が凸状となる曲面で中央部より端部が薄い形状に設定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水晶発振式膜厚計に係るものである。
【0017】
また、前記基板3表面への蒸着工程で用いる前記蒸着材料は、有機ELデバイスを製造するための有機材料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水晶発振式膜厚計に係るものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上述のように構成したから、蒸着材料とは異なる少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物から構成される有機材料を、水晶振動子の蒸着面側の電極膜上に予め蒸着により被覆して有機材料下地膜を形成し、水晶振動子の等価直列抵抗の上昇を抑制して、長寿命化が図れる優れた水晶発振式膜厚計となる。
【0019】
即ち、水晶振動子の電極膜上に蒸着工程とは異なる有機材料を予め蒸着して有機材料下地膜を形成することで、電極膜に直接蒸着材料を蒸着する場合に比して、電極膜と有機材料下地膜との密着性は良く、またこの有機材料下地膜と前記蒸着材料と密着性も良く、またこの蒸着材料との相性も金属膜を下地膜とする場合よりも良好なため膜界面が金属膜に比べてあいまいとなり、蒸着材料による蒸着膜の膜厚が増しても、水晶振動子の等価直列抵抗の上昇は抑制されるため、寿命を長くすることができ、長時間のモニタリングが可能になる優れた真空蒸着装置における膜厚制御用の水晶発振式膜厚計となる。
【0020】
言い換えると、水晶振動子の電極膜上に予め前記有機材料下地膜を形成することで、電極膜と蒸着材料の密着性が悪く、蒸着膜が水晶振動子の共振振動に追従できず、水晶振動子からみると異物付着状態であるため、振動するためのエネルギー損失があり水晶振動子の等価直列抵抗が上昇してしまうような蒸着材料を蒸着する場合でも、これを蒸着する際の水晶振動子の等価直列抵抗の上昇が抑制されるため、寿命を長くすることができ、長時間のモニタリングが可能になる優れた真空蒸着装置における膜厚制御用の水晶発振式膜厚計となる。
【0021】
また、請求項2記載の発明においては、電極膜との密着性が更に向上し、剥離や割れも防止できる一層優れた水晶発振式膜厚計となる。
【0022】
また、請求項3記載の発明においては、蒸着材料との密着性が更に向上し、蒸着膜が水晶振動子の共振振動に追従できずに水晶振動子の等価直列抵抗が上昇して、水晶振動子を流れる電流が低下し、いずれは共振振動を測定できなくなることを抑制できる一層優れた水晶発振式膜厚計となる。
【0023】
また、請求項4記載の発明においては、水晶振動子を押さえている端部の振動影響が小さくでき、共振振動の不安定性が抑制され、水晶振動子をより長時間使用することが可能となる一層優れた水晶発振式膜厚計となる。
【0024】
また、請求項5記載の発明においては、有機ELデバイスの製造に適し、一層有用な水晶発振式膜厚計となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施例に係る水晶発振式膜厚計を用いた真空蒸着装置の第一例の概略構成図である。
図2】本実施例に係る水晶発振式膜厚計を用いた真空蒸着装置の第二例の概略構成図である。
図3】本実施例の概略構成説明図である。
図4】本実施例の有機材料蒸着による有機材料下地膜の膜厚に対する等価直列抵抗値安定時間比を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0027】
本発明の水晶発振式膜厚計Mは、真空蒸着装置Dにおいて、膜厚や蒸着速度(膜厚レート)を制御・管理するために用いられ、水晶振動子4の蒸着側の電極膜5上に少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物からなる有機材料を予め蒸着して有機材料下地膜6を形成した構成とすることで、電極膜5に直接蒸着材料が蒸着される場合に比して、電極膜5と有機材料下地膜6との密着性が良く、またこの有機材料下地膜6と前記蒸着材料との密着性も良く、またこの蒸着材料との相性も金属膜を下地膜とする場合よりも良好なため膜界面金属膜に比べてあいまいとなり、蒸着材料による蒸着膜の膜厚が増しても、水晶振動子4の等価直列抵抗の上昇は抑制され、寿命を長くすることができ、長時間のモニタリングが可能となる。
【0028】
例えば、有機ELデバイスを製造するための比重が小さい有機材料を蒸着する場合でも、水晶振動子表面の電極膜(例えばAuやAg)との密着性が良好となり、水晶振動子4の厚みすべり振動に対する追従性が向上し、水晶振動子4の等価直列抵抗の上昇が抑制され、寿命を長くすることができ、長時間のモニタリングが可能になる。
【0029】
従って、例えば、電極膜5上に有機材料下地膜6を形成するために予め蒸着する有機材料は、単独で蒸着した際に水晶振動子の等価直列抵抗が上昇しにくいものを選択する。例えば蒸着材料とする有機材料Aよりも電極膜5と密着性が良好で、水晶振動子4の厚みすべり振動の追従性が高くなり、また前記有機材料Aとの相性も金属膜を下地膜とする場合よりも良好とすることで、膜界面もあいまいになって、蒸着膜が厚みを増して行っても等価直列抵抗の上昇を抑制でき、発振振動数が安定して正確に測定できることになり、寿命を長くすることができるものを選択する。そのため、有機材料下地膜6を形成する有機材料Bは、前記蒸着材料(有機材料A)とは異なる少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物から構成される有機材料としている。
【0030】
また、単に、下地膜は有機材料Bでなく金属材料による金属膜とすれば、電極膜5との密着性は高まっても蒸着材料(有機材料A)との膜界面が発生するため、等価直列抵抗が上昇し寿命は短い。
【0031】
また、例えば、蒸着工程で蒸着する蒸着材料より膜密度が大きいものを用いることで、緻密な薄膜が形成され、電極膜5との密着性が更に向上し、蒸着工程の蒸着膜より膜の機械的強度が上がることで、剥離や割れも防止できる。
【0032】
例えば、有機材料下地膜6を形成する有機材料Bは、電極膜5より膜密度は小さいが、蒸着膜よりは大きく中間の膜密度とし、膜の機械的強度も上げることができる。
【0033】
更に、水晶振動子4の表面と裏面に形成される電極膜5は、Alを含む複数の金属を用いることで、AuやAgなどの反応性の低い金属で電極膜5を形成する場合と比較して、蒸着材料との密着性が更によくなり、蒸着膜が水晶振動子4の共振振動に追従できずに水晶振動子4の等価直列抵抗が上昇して、水晶振動子4を流れる電流が低下し、いずれは共振振動を測定できなくなることを抑制できる。
【0034】
また、水晶振動子4の蒸着面となる表面若しくは裏面のどちらか一方は、わずかに凸となる曲面とすることで、水晶振動子4を押さえている端部の振動影響が小さくでき、共振振動の不安定性が抑制され、水晶振動子4をより長時間使用することが可能となる。
【実施例】
【0035】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0036】
本実施例は、真空槽1内で蒸発源2から蒸発させた蒸着材料を基板3表面に堆積させて薄膜を形成する真空蒸着装置Dにおける膜厚制御用の水晶発振式膜厚計Mに本発明を適用したものである。
【0037】
図1は本実施例の水晶発振式膜厚計Mを用いた真空蒸着装置Dにおける概略構成(第一例)を示しているが、この実施例では、真空槽1の内部には蒸発源2と、蒸発源2と対向する位置に基板ホルダ7が配置されており、基板ホルダ7に基板3を保持し、蒸発源2から気化して射出された蒸着材料が基板3表面に堆積して薄膜(蒸着膜)を形成するように構成されている。
【0038】
この真空蒸着装置Dにおいて、蒸発源2から射出された蒸着材料が基板3表面へ到達して薄膜を形成する飛散過程を妨げない位置に、膜厚制御用モニタとして水晶発振式膜厚計Mが設置されており、水晶振動子4一個が配設されている。
【0039】
本実施例の水晶発振式膜厚計Mは、発信器8により一定の周波数で振動している水晶振動子4表面に、蒸発源2から射出された蒸着材料が堆積することで堆積量に応じて共振周波数が変化し、その共振周波数変化量から蒸着速度と膜厚を膜厚表示部11で算出し、その値を加熱制御部9へフィードバックすることで、蒸発源2のヒータパワーを制御して蒸着速度が一定になるようにしている。
【0040】
また、図2は、大型基板に長時間連続使用できる真空蒸着装置Dの概略構成(第二例)を示している。この図2に示す第二例の蒸発源2は、従来のポイントソースより、基板3若しくは蒸発源2の搬送方向と直交する横方向に長いラインソースを配設することで、大型化した基板3に対しても均一な蒸着膜を形成することができ、更に蒸発源2に収容できる蒸着材料の量が格段に多くなるため、長時間の連続蒸着が可能となる。
【0041】
この実施例での膜厚制御用モニタとしての水晶発振式膜厚計Mは、複数の水晶振動子4を配置しており、一つの水晶振動子4の寿命がきたら別の水晶振動子4に切り替えて使用することで、更に長時間にわたり連続して蒸着速度の監視が可能になる。
【0042】
更に、蒸発源2から射出された蒸着材料が水晶振動子4表面に付着する量を抑制し、一つの水晶振動子4を長時間使用できるように、開口部と非開口部を有する遮蔽部材であるチョッパ10が一定速度で回転するように配設してある。
【0043】
このような図1図2に示す真空蒸着装置Dにおける本実施例の膜厚制御モニタとしての水晶発振式膜厚計Mは、前記蒸着材料とは異なる少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物から構成される有機材料を、水晶振動子4の蒸着面側の電極膜5上に予め蒸着により被覆して有機材料下地膜6を形成している。
【0044】
また、この有機材料下地膜6を形成するため予めに蒸着する有機材料は、前述したように単独で蒸着した際に水晶振動子の等価直列抵抗が上昇しにくいものを選択する。具体的には、蒸着材料とする有機材料Aよりも電極膜5と密着性が良好で、水晶振動子4の厚みすべり振動の追従性が高くなり、また前記有機材料Aとの相性も金属膜を下地膜とする場合よりも良好とすることで、膜界面もあいまいになって、蒸着膜が厚みを増して行っても等価直列抵抗の上昇を抑制でき、発振振動数が安定して正確に測定できることになり、寿命を長くすることができるものを選択する。そのため、有機材料下地膜6を形成する有機材料Bは、前述のように前記蒸着材料(有機材料A)とは異なる少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物から構成される有機材料としている。
【0045】
また、単に、下地膜は有機材料Bでなく金属材料による金属膜とすれば、電極膜5との密着性は高まっても蒸着材料(有機材料A)との界面が発生するため、等価直列抵抗が上昇し寿命は短い。
【0046】
即ち、有機材料下地膜6を形成する有機材料Bは、蒸着材料(有機材料A)と相性が良い有機材料とし、且つ有機材料Aよりも電極膜5との密着性の高い有機材料Aとは異なる有機材料Bとしている。
【0047】
また、本実施例では、前述のように、蒸着工程で蒸着する蒸着材料(有機材料A)より膜密度が大きいものを用いて機械的強度を向上させ、剥離や割れも防止できるようにしている。
【0048】
また更に、水晶振動子4の表面と裏面に形成される電極は、Alを主成分とする合金を用いることで、AuやAgなどの反応性の低い金属で電極膜5を形成する場合と比較して、蒸着材料との密着性が一層良くなり、水晶振動子4の等価直列抵抗の上昇を抑制できるようにしている。
【0049】
図3は、本発明の水晶振動子4の概略構成であるが、前述のように水晶振動子(水晶)の表裏面にAlを主成分とする合金からなる電極膜5を形成した構成としている。Alは酸化しやすく、電極膜5表面は酸素で覆われた酸化膜が形成されており、反応性が高い酸素分子が、蒸着される有機材料の有機分子と電極膜5との密着性を向上させ、蒸着膜が水晶振動子4の共振振動に追従できなくならないようにしている。
【0050】
また、水晶振動子4の蒸着面となる表面若しくは裏面のどちらか一方を、わずかに凸となる曲面とすることで、水晶振動子4を押さえている端部の振動影響が小さくでき、共振振動の不安定性が抑制されるようにしている。
【0051】
より好ましくは、水晶振動子4の蒸着面の裏面側を曲面とすることで、蒸着時における材料付着状態での水晶振動子4の安定性が向上する。
【0052】
従って、本実施例は、前述のように予め水晶振動子4の表面の電極膜5上に予め有機材料下地膜6を形成するが、この有機材料下地膜6を形成する有機材料Bは、単独で蒸着した際に水晶振動子4の等価直列抵抗が上昇しにくく、電極膜5との密着性が蒸着材料(有機材料A)より良い有機材料Bとしている。
【0053】
仮に、電極膜5上に形成する予備膜(下地膜)として、金属膜を蒸着した場合、電極表面との密着性はより向上するが、前述のようにその上に形成する蒸着工程で用いる有機材料Aとの界面で密着性が悪くなるため、課題を解決することはできない。
【0054】
よって、有機材料下地膜6(予備膜)として有機材料Bを用いることで、電極膜5との密着性が向上するだけでなく、蒸着工程で用いる有機材料Aとは同じ有機材料同士であるため、膜同士の馴染みが良く、膜剥がれもおきにくく、また膜界面もあいまいとなり、膜厚が増しても等価直列抵抗の上昇が抑制され、寿命を長くすることができる。
【0055】
図4は、水晶振動子4の電極膜5上に、予め蒸着する予備膜として有機材料Bを蒸着して有機材料下地膜6を形成し、この有機材料下地膜6上に蒸着工程で用いる有機材料Aを蒸着する場合に、等価直列抵抗値が上昇せず安定している時間を表したグラフである。
【0056】
有機材料下地膜6の膜厚0.16μmの時の等価直列抵抗値の安定時間を1とし、有機材料下地膜6の膜厚が0.78μm,1.57μm,3.13μm時の等価直列抵抗値の安定時間比率を表している。
【0057】
有機材料下地膜6の膜厚が0.16μmの時と比較して、膜厚0.78μm,1.57μm,3.13μmと有機材料下地膜6の膜厚が厚くなるほど、等価抵抗値の安定時間比率が1.3,2.2,6.8と長くなっている。
【0058】
よって、有機材料下地膜6を厚く蒸着しておくほど、等価直列抵抗値の上昇を抑制することに効果がある。
【0059】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0060】
D 真空蒸着装置
M 水晶発振式膜厚計
1 真空槽
2 蒸発源
3 基板
4 水晶振動子
5 電極膜
6 有機材料下地膜
図1
図2
図3
図4