【実施例】
【0035】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0036】
本実施例は、真空槽1内で蒸発源2から蒸発させた蒸着材料を基板3表面に堆積させて薄膜を形成する真空蒸着装置Dにおける膜厚制御用の水晶発振式膜厚計Mに本発明を適用したものである。
【0037】
図1は本実施例の水晶発振式膜厚計Mを用いた真空蒸着装置Dにおける概略構成(第一例)を示しているが、この実施例では、真空槽1の内部には蒸発源2と、蒸発源2と対向する位置に基板ホルダ7が配置されており、基板ホルダ7に基板3を保持し、蒸発源2から気化して射出された蒸着材料が基板3表面に堆積して薄膜(蒸着膜)を形成するように構成されている。
【0038】
この真空蒸着装置Dにおいて、蒸発源2から射出された蒸着材料が基板3表面へ到達して薄膜を形成する飛散過程を妨げない位置に、膜厚制御用モニタとして水晶発振式膜厚計Mが設置されており、水晶振動子4一個が配設されている。
【0039】
本実施例の水晶発振式膜厚計Mは、発信器8により一定の周波数で振動している水晶振動子4表面に、蒸発源2から射出された蒸着材料が堆積することで堆積量に応じて共振周波数が変化し、その共振周波数変化量から蒸着速度と膜厚を膜厚表示部11で算出し、その値を加熱制御部9へフィードバックすることで、蒸発源2のヒータパワーを制御して蒸着速度が一定になるようにしている。
【0040】
また、
図2は、大型基板に長時間連続使用できる真空蒸着装置Dの概略構成(第二例)を示している。この
図2に示す第二例の蒸発源2は、従来のポイントソースより、基板3若しくは蒸発源2の搬送方向と直交する横方向に長いラインソースを配設することで、大型化した基板3に対しても均一な蒸着膜を形成することができ、更に蒸発源2に収容できる蒸着材料の量が格段に多くなるため、長時間の連続蒸着が可能となる。
【0041】
この実施例での膜厚制御用モニタとしての水晶発振式膜厚計Mは、複数の水晶振動子4を配置しており、一つの水晶振動子4の寿命がきたら別の水晶振動子4に切り替えて使用することで、更に長時間にわたり連続して蒸着速度の監視が可能になる。
【0042】
更に、蒸発源2から射出された蒸着材料が水晶振動子4表面に付着する量を抑制し、一つの水晶振動子4を長時間使用できるように、開口部と非開口部を有する遮蔽部材であるチョッパ10が一定速度で回転するように配設してある。
【0043】
このような
図1,
図2に示す真空蒸着装置Dにおける本実施例の膜厚制御モニタとしての水晶発振式膜厚計Mは、前記蒸着材料とは異なる少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物から構成される有機材料を、水晶振動子4の蒸着面側の電極膜5上に予め蒸着により被覆して有機材料下地膜6を形成している。
【0044】
また、この有機材料下地膜6を形成するため予めに蒸着する有機材料は、前述したように単独で蒸着した際に水晶振動子の等価直列抵抗が上昇しにくいものを選択する。具体的には、蒸着材料とする有機材料Aよりも電極膜5と密着性が良好で、水晶振動子4の厚みすべり振動の追従性が高くなり、また前記有機材料Aとの相性も金属膜を下地膜とする場合よりも良好とすることで、膜界面もあいまいになって、蒸着膜が厚みを増して行っても等価直列抵抗の上昇を抑制でき、発振振動数が安定して正確に測定できることになり、寿命を長くすることができるものを選択する。そのため、有機材料下地膜6を形成する有機材料Bは、前述のように前記蒸着材料(有機材料A)とは異なる少なくとも一つ以上の炭素原子を含む有機物から構成される有機材料としている。
【0045】
また、単に、下地膜は有機材料Bでなく金属材料による金属膜とすれば、電極膜5との密着性は高まっても蒸着材料(有機材料A)との界面が発生するため、等価直列抵抗が上昇し寿命は短い。
【0046】
即ち、有機材料下地膜6を形成する有機材料Bは、蒸着材料(有機材料A)と相性が良い有機材料とし、且つ有機材料Aよりも電極膜5との密着性の高い有機材料Aとは異なる有機材料Bとしている。
【0047】
また、本実施例では、前述のように、蒸着工程で蒸着する蒸着材料(有機材料A)より膜密度が大きいものを用いて機械的強度を向上させ、剥離や割れも防止できるようにしている。
【0048】
また更に、水晶振動子4の表面と裏面に形成される電極は、
Alを主成分とする合金を用いることで、AuやAgなどの反応性の低い金属で電極膜5を形成する場合と比較して、蒸着材料との密着性が一層良くなり、水晶振動子4の等価直列抵抗の上昇を抑制できるようにしている。
【0049】
図3は、本発明の水晶振動子4の概略構成であるが、前述のように水晶振動子(水晶)の表裏面に
Alを主成分とする合金からなる電極膜5を形成した構成としている。
Alは酸化しやすく、電極膜5表面は酸素で覆われた酸化膜が形成されており、反応性が高い酸素分子が、蒸着される有機材料の有機分子と電極膜5との密着性を向上させ、蒸着膜が水晶振動子4の共振振動に追従できなくならないようにしている。
【0050】
また、水晶振動子4の蒸着面となる表面若しくは裏面のどちらか一方を、わずかに凸となる曲面とすることで、水晶振動子4を押さえている端部の振動影響が小さくでき、共振振動の不安定性が抑制されるようにしている。
【0051】
より好ましくは、水晶振動子4の蒸着面の裏面側を曲面とすることで、蒸着時における材料付着状態での水晶振動子4の安定性が向上する。
【0052】
従って、本実施例は、前述のように予め水晶振動子4の表面の電極膜5上に予め有機材料下地膜6を形成するが、この有機材料下地膜6を形成する有機材料Bは、単独で蒸着した際に水晶振動子4の等価直列抵抗が上昇しにくく、電極膜5との密着性が蒸着材料(有機材料A)より良い有機材料Bとしている。
【0053】
仮に、電極膜5上に形成する予備膜(下地膜)として、金属膜を蒸着した場合、電極表面との密着性はより向上するが、前述のようにその上に形成する蒸着工程で用いる有機材料Aとの界面で密着性が悪くなるため、課題を解決することはできない。
【0054】
よって、有機材料下地膜6(予備膜)として有機材料Bを用いることで、電極膜5との密着性が向上するだけでなく、蒸着工程で用いる有機材料Aとは同じ有機材料同士であるため、膜同士の馴染みが良く、膜剥がれもおきにくく、また膜界面もあいまいとなり、膜厚が増しても等価直列抵抗の上昇が抑制され、寿命を長くすることができる。
【0055】
図4は、水晶振動子4の電極膜5上に、予め蒸着する予備膜として有機材料Bを蒸着して有機材料下地膜6を形成し、この有機材料下地膜6上に蒸着工程で用いる有機材料Aを蒸着する場合に、等価直列抵抗値が上昇せず安定している時間を表したグラフである。
【0056】
有機材料下地膜6の膜厚0.16μmの時の等価直列抵抗値の安定時間を1とし、有機材料下地膜6の膜厚が0.78μm,1.57μm,3.13μm時の等価直列抵抗値の安定時間比率を表している。
【0057】
有機材料下地膜6の膜厚が0.16μmの時と比較して、膜厚0.78μm,1.57μm,3.13μmと有機材料下地膜6の膜厚が厚くなるほど、等価抵抗値の安定時間比率が1.3,2.2,6.8と長くなっている。
【0058】
よって、有機材料下地膜6を厚く蒸着しておくほど、等価直列抵抗値の上昇を抑制することに効果がある。
【0059】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。