(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223730
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】加工廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/38 20060101AFI20171023BHJP
C04B 7/44 20060101ALI20171023BHJP
C04B 7/52 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
C04B7/38
C04B7/44
C04B7/52
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-137763(P2013-137763)
(22)【出願日】2013年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-10021(P2015-10021A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】渕上 智
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−179543(JP,A)
【文献】
特開2000−239050(JP,A)
【文献】
特開2013−079165(JP,A)
【文献】
特開2003−002706(JP,A)
【文献】
特開2002−052378(JP,A)
【文献】
特開2007−260654(JP,A)
【文献】
特開2009−189989(JP,A)
【文献】
特開2002−079300(JP,A)
【文献】
特開2007−071456(JP,A)
【文献】
特開2004−238244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン、石英、アルミニウム合金及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる基材の切断、切削、研削又は研磨加工の際に用いられた加工液の廃液の処理方法であって、
該加工廃液をセメント製造用石炭の貯炭時の飛散防止液の少なくとも一部とし、セメント製造時の原燃料の一部として用いることを特徴とする加工廃液の処理方法。
【請求項2】
シリコン、石英、アルミニウム合金及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる基材の切断、切削、研削又は研磨加工の際に用いられた加工液の廃液の処理方法であって、
該加工廃液をセメント製造時に用いるスタビライザーの散水用液の少なくとも一部として使用し、セメント製造時の原燃料の一部として用いることを特徴とする加工廃液の処理方法。
【請求項3】
シリコン、石英、アルミニウム合金及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる基材の切断、切削、研削又は研磨加工の際に用いられた加工液の廃液の処理方法であって、
該加工廃液をセメント製造時に用いるドライヤー注水液の少なくとも一部として使用し、セメント製造時の原燃料の一部として用いることを特徴とする加工廃液の処理方法。
【請求項4】
シリコン、石英、アルミニウム合金及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる基材の切断、切削、研削又は研磨加工の際に用いられた加工液の廃液の処理方法であって、
該加工廃液をセメント製造時に用いる石炭あるいは原料輸送工程中の居付き防止液の少なくとも一部として使用し、セメント製造時の原燃料の一部として用いることを特徴とする加工廃液の処理方法。
【請求項5】
シリコン、石英、アルミニウム合金及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる基材の切断、切削、研削又は研磨加工の際に用いられた加工液の廃液の処理方法であって、
該加工廃液をセメント製造時に用いる原料の粉砕助剤として使用し、セメント製造時の原燃料の一部として用いることを特徴とする加工廃液の処理方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の処理方法を適用して加工廃液をセメント原燃料の一部として用いるセメントクリンカーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン、石英、アルミニウム合金及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる基材の加工に用いた加工廃液の処理方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
電器・電子分野における近年の技術発達は、シリコン基板やサファイア基板などの各種基板材料の需要の急速な増大をもたらしている。
【0003】
例えば、サファイア単結晶基板は青色LEDや白色LEDを作製する際のエピタキシャル成長基板として広く利用されている。近年、これらのLEDは省エネルギーの観点からLEDテレビやLED照明などとして需要が拡大傾向にあり、サファイア基板の需要も拡大が予想されている。
【0004】
このようなサファイア基板の製造方法の例としては、チョクラルスキー法やキロポーラス法でインゴットを製造し、これを円筒状のコアと呼ばれる部材に加工、さらに該コアを切断、研削、研磨等する方法が代表的なものである(例えば、特許文献1、2等参照)。
【0005】
また各種半導体チップの原材料として多量のシリコン基板も作成されており、やはり製造したインゴットに対して切断、研磨等の加工が施されて製品となる。
【0006】
上記加工に際しては、冷却液、研磨スラリー、ラッピングオイル等の加工液が使用される。使用を終えた加工液中には、被加工物の微粒子(加工屑)、例えば、シリコンであればケイ素、サファイアであれば酸化アルミの微粒子が多量に含まれることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−49608号公報
【特許文献2】特開2004−168622号公報 実施例の欄
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような使用済みの加工液(加工廃液)のリサイクルは困難であり、従来は、凝集剤で固形分を除くなどの排水処理を行い、その後、焼却炉で焼却するような処理方法しかなかった。
【0009】
一方、近年の環境意識の高まりにより、埋め立て等に供される廃棄物の低減が強く求められている。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み、加工廃液の有用な処理方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ね、シリコン、サファイア等の構成元素は、ポルトランドセメントクリンカー(以下、単にクリンカーという)の構成元素と同じ点に着目した。さらに、加工液中に含まれる研磨材も、シリカ、アルミナなどポルトランドセメントクリンカーの構成元素と重なるものが多く、さらには加工液に含まれる界面活性剤、消泡剤などの有機成分は熱源となる点に着目し本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、シリコン、石英、アルミニウム合金及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる基材の切断、切削、研削又は研磨加工の際に用いられた加工液の廃液の処理方法であって、
該加工廃液をセメント製造時の原燃料の一部として用いることを特徴とする加工廃液の処理方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば加工廃液をセメント製造の原燃料として用いることにより、金属等の元素はクリンカー構成物質として、有機分は熱源として完全にリサイクルができる。従って、従来の方法に比べて遙かに環境負荷の少ない有用な方法ということできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。本発明は、シリコン、石英、アルミニウム合金及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる基材の切断、切削、研削又は研磨加工の際に用いられた加工液の廃液の処理方法である。切断、切削、研削又は研磨加工に伴い、当該シリコン及び石英からはケイ素を主成分とする加工屑が、アルミニウム合金及び酸化アルミニウムからはアルミニウムを主成分とする加工屑が削り取られ、これらはクリンカーの構成物質となり得る。
【0015】
上記基材を加工して得ようとする物は特に限定されるものではなく、基板、レンズなどの他、各種の形状を有する装置部品・機械部品などでもよい。
【0016】
加工に際して用いる加工液も公知の如何なる加工液でもよく、各種冷却液、研磨スラリー、ラッピングオイル等でよい。本発明の効果をより顕著にするために、当該加工液は、シリカ、アルミナ、ダイヤモンド、炭化ケイ素等の遊離砥粒を含有するものであることが好ましい。これら遊離砥粒はクリンカー焼成反応により分解されクリンカーの構成成分となるか、または燃焼して熱源となる。
【0017】
当該加工液には有機成分が含まれていても良く、例えば、不揮発性アルコール、界面活性剤、消泡剤などが含まれていてもよい。これら有機成分は最終的には燃焼して熱源となる。
【0018】
切断、切削、研削又は研磨加工方法は、加工液を用いる方法であれば公知の如何なる方法でもよく、特に限定されるものではない。
【0019】
本発明は、上記加工により排出される加工廃液をセメント製造時の原燃料の一部として用いることを特徴とする。原燃料の一部としての使用方法は特に限定されないが、例を挙げると以下の通りである。
【0020】
(1)石炭の貯炭時の飛散防止液
現在、セメント製造工場ではエネルギー源として石炭が使用されるのが通常である。この石炭は、工場に搬入後、使用までは野積みにされることが一般的であるが、微粉の飛散防止のために定常的に散水が行われている。本発明の一態様においては、このような飛散防止水の少なくとも一部として上記加工廃液を利用する。加工廃液中に含まれる水分は経時的に蒸発するが、加工屑や研磨砥粒に由来するシリカ、アルミナなどの固形分は石炭上に残存し、該石炭がセメントキルンに吹き込まれる際に一緒にキルン内に持ち込まれ、そこで反応してクリンカーの構成成分の一部となり、またダイヤモンドや有機成分は石炭と共に燃焼して熱源となる。
【0021】
このような目的で用いる場合には、加工廃液としては有機溶媒を含まない水系の加工廃液であることが、環境負荷の点から好適である。
【0022】
(2)キルン・仮焼炉への直接吹き込み
本発明の他の態様としては、加工廃液をセメントキルンの窯尻・仮焼炉又は窯前からキルン内に直接吹き込む方法が挙げられる。加工廃液は通常はスラリー状であるため、例えば重油バーナーなどを改良して吹き込みに利用することができる。このような目的で用いる場合には、固形分以外の液状成分のうちの50質量%以上が有機成分である有機系の加工廃液が適している。例えば、ラッピングオイルの廃液などが挙げられる。
【0023】
(3)スタビライザーの散水用液
焼成工程から排出される熱ガスは、排熱ボイラー等により熱回収が行なわれるが、さらに原料乾燥用熱源としても利用される。その際、原料乾燥に利用される排熱ガスは、その調湿・調温のため散水が行なわれる。本発明の一態様においては、このような調湿・調温水の少なくとも一部として上記加工廃液を利用する。加工廃液中に含まれる水分は経時的に蒸発するが、加工屑や研磨砥粒に由来するシリカ、アルミナなどの固形分は原料中に残存し、該原料が焼成工程に供給される際、一緒にキルン内に持ち込まれ、そこで反応してクリンカーの構成成分の一部となり、またダイヤモンドや有機成分は燃焼して熱源となる。
【0024】
このような目的で用いる場合には、加工廃液としては有機溶媒を含まない水系の加工廃液であることが、環境負荷の点から好適である。
【0025】
(4)ドライヤー注水液
原料乾燥に利用される排熱ガスは、調湿・調温されるが、原料乾燥工程では、さらに調湿・調温のため注水あるいは散水にとって制御される。本発明の一態様においては、このような調湿・調温水の少なくとも一部として上記加工廃液を利用する。加工廃液中に含まれる水分は経時的に蒸発するが、加工屑や研磨砥粒に由来するシリカ、アルミナなどの固形分は原料中に残存し、該原料が焼成工程に供給される際、一緒にキルン内に持ち込まれ、そこで反応してクリンカーの構成成分の一部となり、またダイヤモンドや有機成分は燃焼して熱源となる。
【0026】
このような目的で用いる場合には、加工廃液としては有機溶媒を含まない水系の加工廃液であることが、環境負荷の点から好適である。
【0027】
(5)石炭あるいは原料輸送工程中の居付き防止液
乾燥前の石炭あるいは原料の輸送工程中の輸送機の乗り継ぎ部やシュート部等の居付きが発生し易い部分に、居付き防止あるいは居付き除去等に散水あるいは注水が行なわれる。本発明の一態様においては、このような居付き防止あるいは居付き除去水の少なくとも一部として上記加工廃液を利用する。加工廃液中に含まれる水分は経時的に蒸発するが、加工屑や研磨砥粒に由来するシリカ、アルミナなどの固形分は石炭あるいは原料上に残存し、該石炭あるいは原料がセメントキルンに導入される際、一緒にキルン内に持ち込まれ、そこで反応してクリンカーの構成成分の一部となり、またダイヤモンドや有機成分は燃焼して熱源となる。
【0028】
このような目的で用いる場合には、加工廃液としては有機溶媒を含まない水系の加工廃液であることが、環境負荷の点から好適である。
【0029】
(6)粉砕助剤
クリンカーの製造においては、石灰石等の原料がボールミル、竪型ミルなどで焼成反応に適した粒度まで粉砕される。本発明においては加工廃液を当該粉砕の粉砕助剤として用いることができる。
【0030】
即ち、加工廃液には、加工屑や砥粒に加えて、不揮発性有機溶剤、界面活性剤、消泡剤などの有機成分が含まれることが多いが、このような有機成分は一般に粉砕助剤として作用する。従って、当該粉砕に際して、加工廃液を適量添加しておけば、効率的な粉砕が可能となる。また粉砕が終わった原料はキルン内で焼成されるため、加工屑や砥粒、有機成分はクリンカー製造の原燃料となる。
【0031】
なお、セメント製造においては、焼成して得られたクリンカーを粉砕する工程も存在し、この工程で加工廃液を粉砕助剤として用いることも可能であるが、製品であるセメント中に加工屑や砥粒がそのまま残存しない点で、原料粉砕時の粉砕助剤とすることが好ましい。