特許第6223749号(P6223749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223749
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】中性子シンチレーター及び中性子検出器
(51)【国際特許分類】
   G01T 3/06 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   G01T3/06
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-178956(P2013-178956)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-49067(P2015-49067A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】福田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】石津 澄人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 洋明
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−200460(JP,A)
【文献】 特開2007−070496(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/083010(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/133796(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0040366(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム6及びホウ素10から選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含有する無機蛍光体粒子と、中性子捕獲同位体を含有せずかつ蛍光特性が前記無機蛍光体粒子とは異なる蛍光体とを含んでなる樹脂組成物からなり、かつ無機蛍光体粒子の発光波長において、無機蛍光体粒子の屈折率に対する樹脂の屈折率の比が、0.90〜1.10の範囲にあることを特徴とする中性子シンチレーター。
【請求項2】
中性子捕獲同位体を含有しない蛍光体が樹脂組成物を構成する樹脂成分に溶解している請求項1記載の中性子シンチレーター。
【請求項3】
無機蛍光体粒子が、目開き1000μmのふるいを全通し、目開き100μmのふるいを通過する粒子を実質的に含んでいない請求項1又は2記載の中性子シンチレーター。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項記載の中性子シンチレーターと光検出器とを具備することを特徴とする中性子検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子シンチレーター及び該中性子シンチレーターを用いる中性子検出器に関する。詳しくは、中性子検出効率が高く、且つ、バックグラウンドノイズとなるγ線の線量が高い場においても中性子を精度よく計測することができる新規な中性子シンチレーター及び中性子検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子検出器は、中性子利用技術を支える要素技術であって、貨物検査等の保安分野、中性子回折による構造解析等の学術研究分野、非破壊検査分野、或いはホウ素中性子捕捉療法等の医療分野等における中性子利用技術の発展に伴い、より高性能な中性子検出器が求められている。
【0003】
このような中性子検出器に求められる重要な特性として、中性子検出効率及び中性子とγ線との弁別能(以下、n/γ弁別能ともいう)が挙げられる。中性子検出効率とは、検出器に入射した中性子の数に対する検出器でカウントした中性子の数の比であって、検出効率が低い場合には、計測される中性子の絶対数が少なくなり、計測精度が低下する。また、γ線は、自然放射線として存在する他、中性子を検出するための検出系の構成部材、或いは被検査対象物に中性子が当たった際にも発生するので、n/γ弁別能が低く、γ線を中性子として計数してしまうと中性子計数精度が低下する。
【0004】
中性子を検出する場合は、中性子が物質中で何の相互作用もせずに透過する力が強いため、一般に中性子捕獲反応を利用して検出される。例えば、ヘリウム3と中性子との中性子捕獲反応によって生じるプロトン及びトリチウムを利用して検出するヘリウム3検出器が従来から知られている。この検出器は、ヘリウム3ガスを充填した比例計数管であって、検出効率が高くn/γ弁別能にも優れるが、ヘリウム3は高価な物質であり、しかも、その資源量には限りがあるという問題があった。
【0005】
昨今、上記ヘリウム3検出器に代わって、中性子シンチレーターを用いる中性子検出器の開発が進められている。中性子シンチレーターとは、中性子が入射した際に当該中性子の作用によって蛍光を発する物質のことをいい、当該中性子シンチレーターと光電子増倍管等の光検出器を組み合わせることにより、中性子検出器とすることができる。なお、当該中性子シンチレーターを使用する中性子検出器の前記各種性能は、中性子シンチレーターを構成する物質に依存する。例えば、中性子捕獲反応の効率が高い同位体を多量に含有すれば、中性子に対する検出効率が向上する。かかる同位体としてリチウム6やホウ素10が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
前記中性子検出器においては、中性子シンチレーターから発せられた光を光検出器が検出し、光検出器からパルス状の信号が出力される。一般に、中性子の数は当該パルス状の信号の強度、所謂波高値を以って計測される。すなわち、前記波高値について、所定の閾値を設け、当該閾値を超える波高値を示した事象を中性子入射事象として計数し、当該閾値に満たない波高値を示した事象はノイズとして扱われる。
【0007】
前記中性子シンチレーターを用いる中性子検出器は、中性子に対する検出効率が高いという利点を有するものの、γ線にも有感であり、n/γ弁別能が乏しいという問題があった。
【0008】
このような問題点を解決するために、我々は、リチウム6及びホウ素10から選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含有する無機蛍光体粒子を含んでなり、かつ、シンチレーション光の透過性の高い樹脂組成物からなる中性子シンチレーターを提案している(特願2012−271318)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/119378号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記樹脂組成物からなる中性子シンチレーターは高い中性子検出効率と優れた中性子とγ線との弁別能とを有しているが、樹脂組成物そのものの透明性を高いものとする必要がある。
【0011】
樹脂組成物の透明性を高いものとするためには、理論上、樹脂の屈折率と無機蛍光体粒子の屈折率を一致させればよい。
【0012】
しかしながら、有機物である樹脂の屈折率の制御には限界があり、様々な無機蛍光体粒子の全てに対して屈折率の一致した樹脂を提供することには限界がある。また、樹脂組成物の屈折率以外の物性を制御するなどの目的で樹脂組成を調整すると、屈折率を一致させることが困難な場合も多い。
【0013】
さらには、屈折率には温度依存性があり、これは物質毎に異なる。そのため室温で屈折率を一致させたとしても、使用温度が室温以外の際には、樹脂の屈折率と無機蛍光体粒子の屈折率の相違が生じ、結果として透明性を失わせることとなる。無論、使用温度が一定の場合には、当該使用温度での屈折率を一致させておけばよいが、屋外で使用する中性子検出器などは、使用する温度範囲が数十度以上とならざるを得ない場合も多い。
【0014】
あるいは、樹脂の屈折率と無機蛍光体粒子の屈折率が一致している場合でも、樹脂組成物に微少な気泡が混入していると透明性が低下する傾向が強い。
【0015】
そしてこれら要因により樹脂組成物の透明性が不十分なものとなると、中性子に起因する蛍光が十分に光検知器に導かれず、よって中性子とγ線との弁別能が不十分となるという問題があった。
【0016】
従って本発明は、屈折率の不一致等の要因によって樹脂組成物の光透過性が悪く、中性子に起因する蛍光が十分に取り出せない場合であっても中性子とγ線との弁別能に優れた中性子シンチレーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題に鑑み、本発明者等は鋭意検討を行った。そして、前記無機蛍光体粒子とは別に、中性子捕獲能を有さない蛍光体を樹脂組成物に含有せしめ、両蛍光体の蛍光特性の違いを解析することによって、中性子とγ線との弁別が容易になることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
即ち本発明は、リチウム6及びホウ素10から選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含有する無機蛍光体粒子と、中性子捕獲同位体を含有せずかつ蛍光特性が前記無機蛍光体粒子とは異なる蛍光体とを含んでなる樹脂組成物からなり、かつ無機蛍光体粒子の発光波長において、無機蛍光体粒子の屈折率に対する樹脂の屈折率の比が、0.90〜1.10の範囲にあることを特徴とする中性子シンチレーターである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、樹脂組成物の光透過性が十分でない場合であっても十分な中性子とγ線との弁別能を得られる。従って、樹脂の屈折率と無機蛍光体粒子の屈折率を無理に一致させたり、完璧な気泡抜きをしたりする必要性がなくなる。
【0020】
これにより、高性能の中性子シンチレーターを従来よりも容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本図は、実施例における内部透過率の測定方法を模式的に示した図である。
図2】本図は、実施例1で得られた中性子検出器に中性子を照射した際の信号波形を表す図である。
図3】本図は、実施例1で得られた中性子検出器にγ線を照射した際の信号波形を表す図である。
図4】本図は、実施例1において、波形解析機構を用いずに得られた波高分布スペクトルである。
図5】本図は、実施例1において、波形解析機構を用いて得られた波高分布スペクトルである。
図6】本図は、実施例2において、波形解析機構を用いずに得られた波高分布スペクトルである。
図7】本図は、実施例2において、波形解析機構を用いて得られた波高分布スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の中性子シンチレーターは、リチウム6及びホウ素10から選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含有する無機蛍光体粒子(以下、単に無機蛍光体粒子ともいう)を第一の構成要素とする。
【0023】
該無機蛍光体粒子においては、リチウム6またはホウ素10と中性子との中性子捕獲反応によって、それぞれα線及びトリチウムまたはα線とリチウム7(以下、2次粒子ともいう)が生じ、当該2次粒子によって、無機蛍光体粒子に4.8MeVまたは2.3MeVのエネルギーが付与される。当該エネルギーを付与されることによって、無機蛍光体粒子が励起され、蛍光を発する。
【0024】
かかる無機蛍光体粒子を用いた中性子シンチレーターは、リチウム6及びホウ素10による中性子捕獲反応の効率が高いため、中性子検出効率に優れており、また、中性子捕獲反応の後に無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーが高いため、中性子を検出した際に発せられる蛍光の強度に優れる。
【0025】
本発明において、無機蛍光体粒子中のリチウム6及びホウ素10の含有量(以下、中性子捕獲同位体含有量ともいう)は、それぞれ1atom/nm及び0.3atom/nm以上とすることが好ましく、それぞれ6atom/nm及び2atom/nm以上とすることが特に好ましい。なお、上記中性子捕獲同位体含有量とは無機蛍光体粒子1nmあたりに含まれる中性子捕獲同位体の個数をいう。中性子捕獲同位体含有量を上記範囲とすることによって、入射した中性子が中性子捕獲反応を起こす確率が高まり、中性子検出効率が向上する。
【0026】
かかる中性子捕獲同位体含有量は、無機蛍光体粒子の化学組成を選択し、また、無機蛍光体粒子の原料として用いるフッ化リチウム(LiF)あるいは酸化ホウ素(B)等におけるリチウム6およびホウ素10の同位体比率を調整することによって適宜調整できる。ここで、同位体比率とは、全リチウム元素に対するリチウム6同位体の元素比率及び全ホウ素元素に対するホウ素10同位体の元素比率であって、天然のリチウム及びホウ素ではそれぞれ約7.6%および約19.9%である。中性子捕獲同位体含有量を調整する方法としては、天然の同位体比を有する汎用原料を出発原料として、リチウム6およびホウ素10の同位体比率を所期の同位体比率まで濃縮して調整する方法、或いはあらかじめリチウム6およびホウ素10の同位体比率が所期の同位体比率以上に濃縮された濃縮原料を用意し、該濃縮原料と前記汎用原料を混合して調整する方法が挙げられる。
【0027】
一方、中性子捕獲同位体含有量の上限は特に制限されないが、60atom/nm以下とすることが好ましい。60atom/nmを超える中性子捕獲同位体含有量を達成するためには、あらかじめ中性子捕獲同位体を高濃度に濃縮した特殊な原料を多量に用いる必要があるため、製造にかかるコストが極端に高くなり、また、無機蛍光体粒子の種類の選択も著しく限定される。
【0028】
なお、上記無機蛍光体粒子中のリチウム6及びホウ素10の含有量は、あらかじめ無機蛍光体粒子の密度、無機蛍光体粒子中のリチウム及びホウ素の質量分率、及び原料中のリチウム6及びホウ素10の同位体比率を求め、それぞれ以下の式(1)及び式(2)に代入することによって求めることができる。
【0029】
リチウム6の含有量=ρ×WLi×CLi/(700−CLi)×A×10−23 (1)
ホウ素10の含有量=ρ×W×C/(1100−C)×A×10−23 (2)
(式中、ρはシンチレーターの密度[g/cm]、WLi及びWはそれぞれ無機蛍光体粒子中のリチウム及びホウ素の質量分率[質量%]、CLi及びCはそれぞれ原料におけるリチウム6およびホウ素10の同位体比率[%]、Aはアボガドロ数[6.02×1023]を示す)
前記無機蛍光体粒子は特に制限されず、従来公知の無機蛍光体を粒子状としたものを用いることができるが、具体的なものを例示すれば、Eu:LiCaAlF、Eu,Na:LiCaAlF、Eu:LiSrAlF、Ce:LiCaAlF、Ce,Na:LiCaAlF、Ce:LiSrAlF、Ce:LiYF、Eu:LiI、Ce:LiGd(BO、Ce:LiCsYCl、Ce:LiCsYBr、Ce:LiCsLaCl、Ce:LiCsLaBr、Ce:LiCsCeCl、Ce:LiRbLaBr等の結晶からなる無機蛍光体粒子、及び、LiO−MgO−Al−SiO−Ce系のガラスからなる無機蛍光体粒子等が挙げられる。
【0030】
本発明において、無機蛍光体粒子の発光する波長は、後述する樹脂と混合した際に透明性を得やすい点で、近紫外域〜可視光域であることが好ましく、可視光域であることが特に好ましい。
【0031】
本発明においては、無機蛍光体粒子に含有せしめる中性子捕獲同位体が、リチウム6のみであることが好ましい。中性子捕獲反応に寄与する中性子捕獲同位体をリチウム6のみとすることによって、常に一定のエネルギーを無機蛍光体粒子に付与することができ、また、4.8MeVもの極めて高いエネルギーを付与することができる。したがって、蛍光の強度のバラつきが少なく、且つ特に蛍光の強度に優れた中性子シンチレーターを得ることができる。
【0032】
中性子捕獲同位体としてリチウム6のみを含有する無機蛍光体粒子の中でも、化学式LiM(ただし、MはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素であり、MはAl、Ga及びScから選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、XはF、Cl、BrおよびIから選ばれる少なくとも1種のハロゲン元素である)で表わされ、少なくとも1種のランタノイド元素を含有するコルキライト型結晶、及び当該コルキライト型結晶であって、さらに少なくとも1種のアルカリ金属元素を含有するコルキライト型結晶が好ましい。
【0033】
当該コルキライト型結晶を具体的に例示すればEu:LiCaAlF、Eu,Na:LiCaAlF、Eu:LiSrAlF及びEu,Na:LiSrAlFからなる無機蛍光体粒子が、発光量が高く、また、潮解性が無く化学的に安定であるため最も好ましい。
【0034】
本発明においては、中性子シンチレーターのn/γ弁別能を向上せしめるための第一の手段として、前記無機蛍光体の形状を粒子状とすることを特徴の一つとする。以下、かかる無機蛍光体粒子を用いることによって、n/γ弁別能が向上する作用機序について説明する。
【0035】
一般に、γ線がシンチレーターに入射すると、シンチレーターの内部で高速電子が生成され、該高速電子が無機蛍光体粒子にエネルギーを付与することによって、無機蛍光体粒子が発光する。かかる発光によって出力される波高値が、中性子の入射による波高値と同程度に高く、両者を弁別できない場合には、γ線が中性子として計数され、中性子計数に誤差が生じる。特に、γ線の線量が高い場合には、該γ線による誤差が増大し、顕著に問題となる。
【0036】
γ線の入射によって中性子検出器から出力される波高値は、前記高速電子によって付与されるエネルギーに依存するため、該エネルギーを低減することによって、γ線が中性子シンチレーターに入射した際に出力される波高値を低減することができる。
【0037】
ここで、シンチレーターにγ線が入射した場合に生じる高速電子が、シンチレーターにエネルギーを付与しながらシンチレーター中を移動する飛程距離は数mm程度と比較的長い。本発明の中性子シンチレーターにおいては、無機蛍光体粒子を用いるため、当該無機蛍光体粒子にγ線が入射した際に生じる高速電子が、その全エネルギーを付与する前に無機蛍光体粒子から逸脱する。そのため、該高速電子から無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーが低減され、γ線が入射した際に出力される波高値が、中性子が入射した際の波高値よりも低くなるため、n/γ弁別能が向上する。
【0038】
本発明において、無機蛍光体粒子の形状は、前記説明したように、γ線の入射によって生じる高速電子が無機蛍光体粒子から逸脱し、n/γ弁別能が向上する形状であれば特に制限されない。一般にはサイズが小さい程、高速電子が無機蛍光体粒子から速やかに逸脱し、n/γ弁別能が向上する。しかしながら、無機蛍光体粒子はその種類及び製法に応じて平板状、角柱状、円柱状、あるいは球状等の種々の粒子形態を有し、前記高速電子の逸脱のし易さは、かかる粒子形態によって異なるため、前記高速電子を無機蛍光体粒子から速やかに逸脱させるために好適な形状を知ることは、一般には困難である。
【0039】
本発明者らの検討によれば、無機蛍光体粒子の形状を、その比表面積が50cm/cm以上である形状とすることが好ましく、比表面積が100cm/cm以上である形状とすることが特に好ましい。なお、本発明において、無機蛍光体粒子の比表面積とは、無機蛍光体粒子の単位体積当たりの表面積を言う。
【0040】
ここで、本発明における比表面積は単位体積当たりの表面積であるから、(1)無機蛍光体粒子の絶対的な体積が小さいほど大きくなる傾向にあり、また(2)形状が真球状である場合に最も比表面積は小さくなり、逆に無機蛍光体粒子の比表面積が大きいほど、該無機蛍光体粒子は真球状からかけ離れた形状となる。例えばX軸、Y軸及びZ軸方向に延びる辺を有する立方体で考えた場合、X=Y=Zの正6面体の場合に最も比表面積が小さく、いずれかの軸方向の長さを短くし、その分他の軸方向の辺を長くしたものは同じ体積でも比表面積が大きくなる。
【0041】
より具体的には、1辺が0.5cmの正6面体では比表面積が12cm/cmであるが、同0.1cmの正6面体(0.001cm)の場合には、その比表面積は60cm/cmである。さらに同じ体積(0.001cm)で厚みを0.025cmとした場合、縦横が0.2cm×0.2cmのサイズとなり、よって比表面積は100cm/cmとなる。
【0042】
換言すれば、比表面積が大きいということは少なくともいずれか1つの軸方向の長さが極めて小さい部分を有するということを示すものである。そしてこの小さい軸方向及びその軸方向に近い向きに走る前記γ線によって励起される高速電子は、前述のとおり速やかに結晶から逸脱するため、該高速電子から無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーを低減することができるものである。
【0043】
前記比表面積に基づく好適な無機蛍光体粒子の形状は、上記の如き知見及び考察により見出されたものであり、当該比表面積を、高速電子から無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーを考慮する上で、無機蛍光体粒子が種々の粒子形態を有することを加味した形状の指標として用いることができる。そして実用上、当該比表面積を好ましくは50cm/cm以上、より好ましくは比表面積が100cm/cm以上とすることによって、特にn/γ弁別能に優れた中性子検出器を得ることができる。
【0044】
なお、本発明において、前記比表面積の上限は、特に制限されないが、1000cm/cm以下とすることが好ましい。該比表面積が1000cm/cmを超える場合、すなわち無機蛍光体粒子の全ての軸方向の長さが極めて小さい場合には、前記リチウム6及びホウ素10と中性子との中性子捕獲反応で生じた2次粒子が、無機蛍光体粒子にその全エネルギーを付与する前に無機蛍光体粒子から逸脱する事象が生じるおそれがある。かかる事象においては、中性子の入射によって無機蛍光体粒子に与えられるエネルギーが低下するため、無機蛍光体の発光の強度が低下する。前記2次粒子の全エネルギーを確実に無機蛍光体粒子に与え、無機蛍光体の発光の強度を高めるためには無機蛍光体粒子の比表面積を500cm/cm以下とすることが特に好ましい。
【0045】
なお上記説明では軸という用語を用いたが、X,Y及びZの空間座標位置を示すために便宜的に用いただけであり、本発明で用いる無機蛍光体粒子がこれら特定の軸方向に辺を有する立方体に限定されるものでは無論ない。
【0046】
また無機蛍光体粒子が不定形の場合、上記比表面積は密度計及びBET比表面積計を用いて得られる密度及び質量基準の比表面積から容易に求めることができる。
【0047】
また別の観点から本発明で用いる無機蛍光体粒子の大きさを規定すると、目開き2mmのふるいを全通し、目開き100μmのふるいを通過する粒子を実質的に含んでいない粒子であることが好ましく、目開き1000μmのふるいを全通し、目開き100μmのふるいを通過する粒子を実質的に含んでいないことがより好ましい。ここで、目開き100μmのふるいを通過する粒子を実質的に含んでいないとは、同目開きの篩で5分間振とうした際の質量変化が5%以下であることを言う。
【0048】
本発明において、好適に用いられる無機蛍光体粒子の形状を具体的に例示すれば、平板状、角柱状、円柱状、球状、或いは不定形の粒子形態であって、等比表面積球相当径が50〜1500μm、特に好ましくは100〜1000μmである形状が挙げられる。
【0049】
前記無機蛍光体粒子の製造方法は特に限定されず、前記好適な形状の無機蛍光体粒子よりも大きな形状を有する無機蛍光体のバルク体を粉砕及び分級して、所期の形状の無機蛍光体粒子を得る方法、或いは、無機蛍光体の溶液を出発原料として粒子生成反応により、好適な形状の無機蛍光体粒子を直接得る方法が挙げられる。
【0050】
かかる製造方法の中でも、無機蛍光体のバルク体を粉砕及び分級する方法が、生産効率が高く、初期の無機蛍光体粒子を安価に得られるため好ましい。無機蛍光体のバルク体を粉砕する方法は特に限定されず、ハンマーミル、ローラーミル、ロータリーミル、ボールミル、或いはビーズミル等の公知の粉砕機をなんら制限なく用いることができる。中でも、比表面積が極端に大きい所謂微粉末の発生を抑制し、前記説明したような、好ましくは1000cm/cm以下、特に好ましくは500cm/cm以下の比表面積を有する無機蛍光体粒子を得るためには、ハンマーミル及びローラーミルを用いることが特に好ましい。
【0051】
また、前記無機蛍光体のバルク体を粉砕した無機蛍光体粒子を分級する方法は、乾式ふるい、湿式ふるい、或いは風力分級等の公知の方法を特に制限なく適用することができる。
【0052】
本発明の中性子シンチレーターは、前記無機蛍光体粒子を含んでなる樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ともいう)である。前記説明から理解されるように、本発明の無機蛍光体粒子は、一般に用いられる中性子捕獲能を有する無機蛍光体に比較してサイズが小さいため、単独の無機蛍光体粒子では中性子検出効率に乏しいという問題が生じる。かかる問題は、複数の無機蛍光体粒子を樹脂と混合し、当該樹脂中に分散せしめることによって解決することができ、前記優れたn/γ弁別能を有しながら、なおかつ高い中性子検出効率を有する中性子シンチレーターを得ることができる。
【0053】
当該樹脂組成物を構成する樹脂としては液状でも固体状でもよいが、取り扱いの容易さの観点から室温から使用温度域で固体状の樹脂が好ましい。
【0054】
本発明で使用可能な樹脂を具体的に例示すると、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、及びポリビニルアルコール等があげられる。また屈折率や強度等を調整する目的で、複数の樹脂を混合して用いてもよい。
【0055】
本発明において、樹脂組成物中の前期無機蛍光体粒子の割合は特に限定されないが、該樹脂組成物中の無機蛍光体粒子の体積分率を10%以上とすることが好ましく、20%以上とすることが特に好ましい。該樹脂組成物中の無機蛍光体粒子の体積分率をかかる範囲とすることによって、樹脂組成物の単位体積当たりの中性子検出効率を向上させることができる。一方、前記樹脂組成物中の無機蛍光体粒子の体積分率は50%以下とすることが好ましく、40%以下とすることが特に好ましい。体積分率がこの量以下とすることにより、無機蛍光体粒子から逸脱した高速電子が近傍の別の無機蛍光体粒子に入射して発光することを防止しやすくなる。
【0056】
本発明の中性子シンチレーターを構成する樹脂組成物は、前述の通り光透過率が低く、よって中性子に起因するシンチレーション光の取り出し効率が低くても、良好な中性子/γ線弁別能を有している。しかしながら、無機蛍光体粒子の発光波長において、少なくとも3%以上の内部透過率を有することが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが特に好ましい。
【0057】
ここで、内部透過率とは、前記有機樹脂に光を透過せしめた際に該有機樹脂の入射側および出射側の表面で生じる表面反射損失を除いた透過率であって、光路長1cm当りの値で表す。該光路長1cm当りの内部透過率(τ10)は、厚さの異なる一対の前記有機樹脂について、それぞれの表面反射損失を含む透過率を測定し、以下の式(3)に代入することによって求めることができる。
【0058】
log(τ10)={log(T)−log(T)}/(d−d) (3)
上記式中、d及びdは、一対の前記有機樹脂のcm単位の厚さを示し、d>dである。また、T及びTは、それぞれ厚さがd及びdの有機樹脂の表面反射損失を含む透過率を示す。
【0059】
内部透過率の上限は特に限定されず、例えば90〜100%と高くてもよいが、本発明においては、樹脂組成物の内部透過率が50%未満、特に30%未満の場合において特にその効果が高い。
【0060】
本発明における樹脂組成物の内部透過率を高めるためには、前記無機蛍光体粒子の発光波長において透明な樹脂(以下、単に透明樹脂ともいう)を用いることが好ましい。より具体的には、前記無機蛍光体粒子の発光波長における該樹脂の内部透過率が80%/cm以上であることが好ましく、90%/cm以上であることが特に好ましい。該樹脂の内部透過率は、樹脂単体を試料として、前記説明した樹脂組成物の内部透過率と同様にして求めることができる。かかる透明樹脂を具体的に例示すれば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、及びポリビニルアルコール等があげられる。また屈折率を調整するなどの目的で、複数の樹脂を混合して用いてもよい。
【0061】
なお内部透過率は、前述のとおり、樹脂組成物を構成する各要素(樹脂、無機蛍光体粒子及び充填材粒子など)の屈折率比によって左右される傾向が極めて強い。換言すれば、本発明においては、樹脂と、無機蛍光体粒子及び/又は充填材粒子との屈折率が無機蛍光体粒子の発光波長において10%以上異なっていてもよく、さらには20%以上異なっていても十分な性能を得ることが出来る。
【0062】
本発明における樹脂組成物は、第二の特徴として前記無機蛍光体粒子及び樹脂に加えて、中性子捕獲同位体を含有せずかつ蛍光特性が前記無機蛍光体粒子とは異なる蛍光体(以下、中性子不感蛍光体ともいう)をさらに含有する。
【0063】
この理由は以下の通りである。シンチレーターへのγ線の入射によって生じた高速電子は無機蛍光体粒子を発光させるのみではなく、中性子不感蛍光体にも到達してエネルギーを付与し、該中性子不感蛍光体も蛍光を発する。すなわち、γ線が入射した際には、無機蛍光体粒子と中性子不感蛍光体の双方がエネルギーを付与され蛍光を発する。一方、中性子が入射した際には、無機蛍光体粒子で生じた2次粒子は無機蛍光体粒子からほとんど逸脱しないため、ほぼ無機蛍光体粒子のみが蛍光を発する。
【0064】
そして、前記無機蛍光体粒子と該中性子不感蛍光体は、蛍光寿命や発光波長等の蛍光特性に差異を有するため、かかる蛍光特性の差異を利用して中性子とγ線を弁別することができる。すなわち、蛍光特性の差異を識別できる機構を中性子検出器に設けておき、無機蛍光体粒子に由来する蛍光と中性子不感蛍光体に由来する蛍光の双方が検出された場合にはγ線が入射した事象とし、無機蛍光体粒子に由来する蛍光のみが検出された場合には中性子が入射した事象として処理することができる。かかる処理を講じることによって、n/γ弁別能に特に優れた中性子検出器を得ることができる。
【0065】
蛍光特性の差異を識別できる機構を具体的に例示すれば、前記無機蛍光体粒子と中性子不感蛍光体の蛍光寿命の差異を識別でき得る波形解析機構、及び、無機蛍光体粒子と中性子不感蛍光体の発光波長を識別でき得る波長解析機構が挙げられる。
【0066】
以下、前記波形解析機構について、無機蛍光体粒子の蛍光寿命に比較して、中性子不感蛍光体の蛍光寿命が短い場合を例にとって、より具体的に説明する。
【0067】
前記中性子シンチレーターと光検出器と組み合わせてなる本発明の中性子検出器において、該光検出器より出力された信号は、中性子シンチレーターの蛍光寿命を反映したパルス状の信号である。該パルス状の信号について、信号の立ち上がりから所定の時間が経過するまでの時間範囲において、信号強度の積分値、所謂波高値を取得する。このとき、異なる2つの時間範囲で波高値を取得し、短い時間範囲の波高値をS、長い時間範囲の波高値をSとする。中性子が入射した事象においては、前記無機蛍光体粒子に由来する蛍光のみが観測されるため、前記波高値の比(S/S)は、無機蛍光体粒子の蛍光寿命に依存し、ほぼ一定の値となる。これに対して、γ線が入射した事象においては、前記無機蛍光体粒子に由来する蛍光に加えて、蛍光寿命の短い中性子不感蛍光体の蛍光が観測されるため、中性子が入射した事象に比較してSが相対的に大きくなり、S/Sも大きくなる。したがって、S/Sに閾値を設けておき、S/Sが該閾値を超える場合にはγ線が入射した事象とし、S/Sが該閾値以下の場合には中性子が入射した事象として処理することができる。具体的には、光検出器より出力された信号を、デジタルオシロスコープや高速デジタイザ等でデジタル化して記録し、記録したデジタル信号から前記S/Sを算出し、中性子とγ線の弁別を行えばよい。あるいは、光検出器より出力された信号を、積分時定数が異なる2つのアナログデジタル変換器に入力して、S及びSをそれぞれ取得し、S/Sを逐次求めてもよい。
【0068】
前記波形解析機構の異なる態様について説明する。まず、前記光検出器より出力された信号を、前置増幅器を介して主増幅器へ入力し、増幅・整形する。ここで、主増幅器で増幅・整形され、該主増幅器より出力される信号の強度は経時的に増加するが、かかる増加に要する時間(以下、立ち上がり時間ともいう)は、前記無機蛍光体粒子あるいは中性子不感蛍光体の蛍光寿命を反映しており、蛍光寿命が短い程、立ち上がり時間が短くなる。
【0069】
該立ち上がり時間を解析するため、主増幅器で増幅・整形された信号を波形解析器に入力する。波形解析器は、前記主増幅器より入力された信号を時間積分し、当該時間積分された信号強度が所定の閾値を超えた際にロジック信号を出力する。ここで、波形解析器には二段階の閾値が設けられており、第一のロジック信号と第二のロジック信号がある時間間隔を以て出力される。
【0070】
次に波形解析器から出力される二つのロジック信号を時間振幅変換器(Time to amplitude converter, TAC)に入力し、波形解析器から出力される二つのロジック信号の時間差をパルス振幅に変換して出力する。該パルス振幅は、波形解析器から出力される第一のロジック信号と第二のロジック信号の時間間隔、すなわち立ち上がり時間を反映する。
【0071】
前記説明から理解されるように、γ線が入射した事象においては、蛍光寿命の短い中性子不感蛍光体の蛍光が観測されるため、中性子が入射した事象に比較して相対的に立ち上がり時間が短くなり、該時間振幅変換器から出力されるパルス振幅も小さくなる。したがって、該パルス振幅に閾値を設けておき、パルス振幅が該閾値未満の場合にはγ線が入射した事象とし、パルス振幅が該閾値以上の場合には中性子が入射した事象として処理することができる。
【0072】
以下、前記波長解析機構について、より具体的に例示する。該波長解析機構は、光学フィルタ、該光学フィルタを介して中性子シンチレーターに接続される第二の光検出器、及び弁別回路により構成される。
【0073】
本態様において、中性子シンチレーターから放出される光の一部は前記光学フィルタを介さずに第一の光検出器に導かれ、他の一部は光学フィルタを介して第二の光検出器に導かれる。
【0074】
ここで、無機蛍光体粒子はAnmの波長で発光し、中性子不感蛍光体はAnmとは異なるBnmの波長で発光するものとする。すると、前記説明したように、γ線が入射した際には無機蛍光体粒子と中性子不感蛍光体の双方が蛍光を発するため、中性子シンチレーターからはAnm及びBnmの光が発せられ、中性子が入射した際には無機蛍光体粒子のみが蛍光を発するため、Anmの光のみが発せられる。
【0075】
本態様において、前記光学フィルタは、Anmの波長の光を遮り、且つBnmの波長の光を透過するフィルタである。したがって、中性子を照射した際に中性子シンチレーターから発せられたAnmの光は、第一の光検出器には到達するが、第二の光検出器には光学フィルタによって遮られるため到達しない。一方で、γ線を照射した際にシンチレーターから発せられた光の内、Anmの光については前記中性子を照射した場合と同様であるが、Bnmの光は、第一の光検出器に到達し、また光学フィルタを透過するため第二の光検出器にも到達する。
【0076】
そのため、Anmの光が第一の光検出器に入射し、該光検出器から信号が出力された際に、第二の光検出器から信号が出力されなければ中性子による事象とし、Bnmの光が第二の光検出器に入射して該光検出器から信号が出力されればγ線による事象として識別することができる。
【0077】
なお、本態様において、前記のように中性子とγ線を弁別するために弁別回路が設けられる。該弁別回路は、前記第一の光検出器からの信号に同期して動作し、該光検出器からの信号が出力された際に、第二の光検出器からの信号の有無を判定する回路である。該弁別回路として具体的なものを例示すれば、反同時計数回路、ゲート回路等が挙げられる。
【0078】
本発明に用いる中性子不感蛍光体は、公知の蛍光体を特に制限なく用いることができるが、粒子状の無機物質、あるいは有機物質を好適に用いることができる。
【0079】
粒子状の無機物質からなる中性子不感蛍光体(以下、中性子不感蛍光体粒子という)は、その種類に応じて様々な蛍光寿命や発光波長が得られる点で好ましい。さらに、中性子不感蛍光体粒子として、前記無機蛍光体粒子と同一の無機物質からなり、ドーパントの種類や濃度を変えて蛍光寿命あるいは発光波長を変化させたものが最も好ましい。すなわち、かかる中性子不感蛍光体粒子は、その屈折率が無機蛍光体粒子と一致しているため、樹脂との屈折率を整合させることが容易であり、特に内部透過率の高い樹脂組成物を得ることができる。また、中性子不感蛍光体粒子は、後述する充填剤粒子としての機能を有させることもできる。
【0080】
一方、有機物質からなる中性子不感蛍光体は、樹脂組成物に溶解し、均一に存在せしめることが容易であり、かつ高い光透過性を得やすい点で好ましい。さらに有機物質からなる蛍光体は、一般に前記無機蛍光体粒子に比較して蛍光寿命が短いため、蛍光寿命の差異を利用してn/γ弁別能を向上させるために好適に用いることができる。
【0081】
有機物質からなる中性子不感蛍光体を具体的に例示すれば、2,5−Dipheniloxazole、1,4−Bis(5−phenyl−2−oxazolyl)benzene、1,4−Bis(2−methylstyryl)benzene、アントラセン、スチルベン及びナフタレン、ならびにこれらの誘導体等の有機蛍光体が挙げられる。
【0082】
当該中性子不感蛍光体の含有量は、本発明の効果を発揮する範囲で適宜設定できるが、樹脂100質量%に対して0.01質量%以上とすることが好ましく、0.1質量%以上とすることが特に好ましい。含有量を0.01質量%以上とすることによって、前記高速電子から付与されたエネルギーによって、該中性子不感蛍光体が効率よく励起され、該中性子不感蛍光体からの発光の強度が増加する。また、当該中性子不感蛍光体の含有量の上限は特に制限されないが、濃度消光によって該中性子不感蛍光体の発光の強度が減弱することを防ぐ目的で、樹脂に対して10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましく、2質量%以下とすることが特に好ましい。当該中性子不感蛍光体の含有量をかかる範囲とすることによって、該中性子不感蛍光体からの発光の強度が増加し、前記無機蛍光体粒子との蛍光特性の差異を利用して中性子とγ線を弁別することが容易となる。
【0083】
本発明の樹脂組成物からなる中性子シンチレーターには、無機蛍光体粒子の存在間隔の調整、液状樹脂又は硬化前の固体樹脂の粘度調整、その他各種物性の調整のために、蛍光体ではない粒子(以下、充填材粒子)が含まれていてもよい。
【0084】
かかる充填材粒子を具体的に例示すると、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、炭酸マグネシウム、フッ化ストロンチウム、雲母(マイカ)、及び各種ガラス等の無機物粒子、或いはシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン及びスチレンブタジエン等の有機物粒子等が挙げられる。
【0085】
さらに充填材粒子としては、無機蛍光体粒子と同種であって、ドーピング元素がない無機物からなる充填材粒子が最も好ましい。すなわち、無機蛍光体粒子と同種の無機物からなる充填材粒子は、その比重が無機蛍光体粒子の比重と一致しているため、無機蛍光体粒子を前記樹脂組成物中に均一に分散せしめることができる。さらに、該充填材粒子は、その屈折率が無機蛍光体粒子の屈折率と一致しているため、無機蛍光体粒子と屈折率が近い樹脂を選択すれば、自ら該充填剤粒子と樹脂の屈折率が近くなり、樹脂組成物の内部透過率を高めることが容易にできる。より好ましくは前記化学式LiMで示され、ランタノイド元素などがドーピングされていない結晶である。
【0086】
当該充填材粒子の含有量は、無機蛍光体粒子の体積を100%とした場合、その20%相当以上とすることが好ましく、50%相当以上とすることが特に好ましい。かかる割合とすることによって、無機蛍光体粒子の分離を抑制する効果が充分に発揮される。なお、該充填材粒子の樹脂組成物への混合割合の上限は、特に制限されない。特に、中性子シンチレーターのn/γ弁別能を劇的に向上させる目的で、無機蛍光体粒子の体積分率を著しく低減する場合には、無機蛍光体粒子を均一に分散せしめるべく多量の充填材粒子を混合することが好ましい。但し、樹脂組成物を製造する際の粘性等を考慮すると、樹脂組成物全体に対する該充填剤粒子の体積分率は、80体積%未満が好ましく、50体積%未満がより好ましい。
【0087】
かかる充填材粒子の形状は特に制限されないが、無機蛍光体粒子同士の間隙に充填せしめるため、無機蛍光体粒子と同等の形状、またはその大きさが無機蛍光体粒子以下であることが好ましい。
【0088】
本発明において、前記樹脂組成物は無機蛍光体粒子と液体または粘体の樹脂を混合したスラリー状またはペースト状の樹脂組成物として用いても良く、或いは無機蛍光体粒子と液体または粘体の樹脂前駆体を混合した後に該樹脂前駆体を硬化せしめた固体状の樹脂組成物として用いても良い。
【0089】
本発明の中性子シンチレーターを構成する樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、以下のようにして好適に製造することができる。即ち、本発明における樹脂組成物をスラリー状またはペースト状の樹脂組成物の状態で用いる場合には、まず、無機蛍光体粒子と液体または粘体の樹脂を混合する。かかる混合操作においては、プロペラミキサー、プラネタリーミキサー、またはバタフライミキサー等の公知の混合機を特に制限なく用いることができる。この際、中性子不感蛍光体は事前に樹脂に混合(溶解性のものならば溶解)せしめてもよいし、無機蛍光体粒子と同時に、あるいは事後に混合してもよい。
【0090】
次いで、混合操作において樹脂組成物中に生じた気泡を脱泡することが好ましい。かかる脱泡操作においては、真空脱泡機、または遠心脱泡機等の脱泡機を特に制限なく用いることができる。かかる脱泡操作を行うことによって、気泡による無意味な光の散乱を抑制することができる。
【0091】
なお、前記混合操作及び脱泡操作において、樹脂組成物の粘度を低下せしめ、混合及び脱泡を効率よく行う目的で、樹脂組成物に有機溶媒を添加しても良い。
【0092】
本発明において樹脂組成物を固体状のものとして用いる場合には、液体または粘体の樹脂前駆体を用いて前記と同様に混合操作及び脱泡操作を行う。次いで、得られた無機蛍光体粒子と樹脂前駆体の混合物を所望の形状の鋳型に注入し、該樹脂前駆体を硬化せしめる。硬化せしめる方法は用いた樹脂前駆体に応じて適宜選択でき、特に制限されないが、加熱、紫外線照射、或いは触媒添加により、樹脂前駆体を重合する方法が好適である。
【0093】
本発明の樹脂組成物からなる中性子シンチレーターは、スラリー状またはペースト状で用いることができ、また、固体状で用いる場合にも所望の形状の鋳型によって成型できるため、任意の形状とすることが容易である。したがって、本発明によれば、用途に応じてファイバー状、中空チューブ状、或いは大面積の中性子シンチレーターを提供することができる。
【0094】
本発明の中性子検出器は、前記中性子シンチレーターと光検出器と組み合わせてなる。即ち、中性子の入射によって中性子シンチレーターから発せられた光は、光検出器によって電気信号に変換され、中性子の入射が電気信号として計測されるため、中性子計数等に用いることができる。本発明において、光検出器は特に限定されず、一般的な光電子増倍管、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、ガイガーモードアバランシェフォトダイオード等の従来公知の光検出器を何ら制限なく用いることができる。ただし、該光検出器を100〜200℃の高温環境下で用いる場合には、該温度範囲における動作特性に優れた高温用光電子増倍管を用いることが好ましい。かかる高温用光電子増倍管を具体的に例示すれば、浜松ホトニクス社製 R3991A、R1288A、R1288AH及びR5473−02が挙げられる。かかる高温環境下で使用可能な中性子検出器は、資源探査等の分野において、特に好適に使用できる。
【0095】
なお、本発明の中性子シンチレーターは、光検出器に対向する光出射面を有し、当該光出射面は平滑な面であることが好ましい。かかる光出射面を有することによって、中性子シンチレーターで生じた光を効率よく光検出器に入射できる。また、光検出器に対向しない面に、アルミニウム或いはポリテトラフロロエチレン等からなる光反射膜を施すことにより、中性子シンチレーターで生じた光の散逸を防止することができ、好ましい。
【0096】
本発明の中性子シンチレーターと光検出器とを組み合わせて中性子検出器を製作する方法は特に限定されず、例えば、光検出器の光検出面に中性子シンチレーターの光出射面を光学グリース或いは光学セメント等で光学的に接着し、光検出器に電源および信号読出し回路を接続して中性子検出器を製作することができる。なお、前記信号読出し回路は、一般に前置増幅器、整形増幅器、及びアナログデジタル変換器などで構成され、本発明においては前記波形解析機構あるいは波長解析機構がこれらに追加される。
【0097】
また、前記光反射膜が施された中性子シンチレーターを多数配列し、光検出器として位置敏感型光検出器を用いることにより、中性子検出器に位置分解能を付与することができる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0099】
実施例1
本実施例では、無機蛍光体粒子としてEuを0.04mol%ドープしたEu:LiCaAlF結晶を含み、中性子不感蛍光体として2,5−Dipheniloxazoleを含む樹脂組成物からなる中性子シンチレーターを用い、中性子検出器を製作した。なお、該Eu:LiCaAlF及び2,5−Dipheniloxazoleの蛍光寿命は、それぞれ1600nsec及び2nsecである。
【0100】
該Eu:LiCaAlF結晶は、中性子捕獲同位体としてリチウム6のみを含有する。該Eu:LiCaAlF結晶の密度は3.0g/cm、リチウムの質量分率は3.2質量%、原料におけるリチウム6の同位体比率は95%であり、したがってその中性子捕獲同位体含有量は、前記式(1)より、9.1atom/nmである。
【0101】
また、該Eu:LiCaAlF結晶に放射線を照射し、該Eu:LiCaAlF結晶の発光波長を蛍光光度計で測定した結果、370nmであった。なお、該放射線は、中性子照射時に生じる2次粒子の一つであるα線とし、線源としてAm−241を用いた。
【0102】
Eu:LiCaAlF結晶からなる無機蛍光体粒子の製造に際し、まず、約2cm角の不定形の形状を有する前記Eu:LiCAF結晶のバルク体を用意し、該バルク体をハンマーミルによって粉砕した後、乾式分級により分級して200μmの上側ふるいを通過し、100μmの下側ふるいに残留したものを集め不定形の無機蛍光体粒子を得た。
【0103】
該無機蛍光体粒子の質量基準の比表面積を、BET比表面積計を用いて測定したところ、0.015m/gであった。したがって、単位体積当たりの表面積は、450cm/cmであった。
【0104】
本実施例において、LiCaAlF結晶からなる充填材粒子を用いた。該LiCaAlF結晶の密度は3.0g/cm、リチウムの質量分率は3.7質量%、原料におけるリチウム6の同位体比率は7.6%であり、したがってその中性子捕獲同位体含有量は、前記式(1)より、0.73atom/nmであった。また、該LiCaAlF結晶の比重は、前記Eu:LiCaAlF結晶と同一であり、3.0g/cmであった。
【0105】
当該LiCaAlF結晶からなる充填材粒子は、無機蛍光体粒子と同様にバルク体を粉砕し、目開きが100μmのふるいを通過したものを用いた。
【0106】
本実施例では、シリコーン樹脂(信越化学製、KER−7030)を樹脂として用いた。該樹脂はA液とB液の2液からなり、等量の2液を混合して樹脂前駆体を調製した後、該樹脂前駆体を加熱により硬化せしめて使用することができる。また、該樹脂は、前記Eu:LiCaAlF結晶の発光波長である370nmにおいて、内部透過率が95%/cmである透明樹脂である。
【0107】
前記Eu:LiCaAlF結晶からなる無機蛍光体、LiCaAlF結晶からなる充填材、及び前記シリコーン樹脂の370nmにおける室温での屈折率を、屈折率計を用いて測定した。なお、かかる屈折率の測定においては、測定に適した所定の形状のEu:LiCaAlF結晶のバルク体、LiCaAlF結晶のバルク体及び樹脂のバルク体を用いた。屈折率計の光源として、Hgランプのi線(365.0nm)、及びh線(404.7nm)を用いた。各光源の波長及び該波長において測定された屈折率を、前記セルマイヤーの式(4)に代入して定数A及びBを求めた後、同式を用いて370nmにおける屈折率を求めた。その結果、Eu:LiCaAlF結晶、LiCaAlF結晶、及びシリコーン樹脂の370nmにおける屈折率は、それぞれ1.40、1.40及び1.41であり、無機蛍光体粒子の屈折率に対する透明樹脂の屈折率の比、及び充填材粒子の屈折率に対する透明樹脂の屈折率の比は、ともに1.01であった。
【0108】
本発明の中性子シンチレーターを以下の方法によって作製した。まず、等量のA液とB液を混合したシリコーン樹脂の樹脂前駆体19.9gを用意し、これに予め5質量%の2,5−Dipheniloxazoleを溶解せしめたトルエン溶液2.0gを加え、よく撹拌した。その後、真空下でトルエンを留去し、0.5質量%の2,5−Dipheniloxazoleを含むシリコーン樹脂の樹脂前駆体を得た。
【0109】
前記Eu:LiCaAlF結晶からなる無機蛍光体粒子10.0g、LiCaAlF結晶からなる充填材粒子10.0g、及び前記シリコーン樹脂の樹脂前駆体11.0gを混合容器に入れ、撹拌棒を用いてよく混合した後、該混合操作において混合物中に生じた気泡を、真空脱泡機を用いて脱泡した。
【0110】
次いで、直径が2cm、厚さが約0.3cm及び約1cmのポリテトラフロロエチレン製の鋳型にそれぞれ注入し、80℃で5時間加熱した後、100℃で24時間加熱して樹脂前駆体を硬化せしめ、無機蛍光体粒子及び中性子不感蛍光体を含む樹脂組成物からなる本発明の中性子シンチレーターを得た。
【0111】
該樹脂組成物の形状は、直径が2cm、厚さが0.3cmであり、体積は0.94mLであった。また、該樹脂組成物には無機蛍光体粒子及び充填材粒子が0.56gずつ含まれており、無機蛍光体粒子及び充填材粒子の密度から、これらの体積はともに0.19mLである。したがって、該樹脂組成物中の無機蛍光体粒子の体積分率は20体積%であり、充填材粒子の樹脂組成物への混合割合は、樹脂組成物全体に対して20体積%であった。
【0112】
該樹脂組成物について、無機蛍光体粒子の発光波長(370nm)における光路長1cm当りの内部透過率を以下の方法により測定した。まず、図1の左図に示すように波長が370nmの光を光検出器の光検出面に入射し、入射した光の強度(I)を測定した。次いで、直径が2cm、厚さが0.3cm(d)の樹脂組成物を図1の右図に示すように光検出器の光検出面に置き、波長が370nmの光を入射して、厚さが0.3cm(d)の樹脂組成物を介して光検出器に入射した光の強度(I)を測定した。該IをIで除することにより、厚さが0.3cm(d)の樹脂組成物の表面反射損失を含む透過率(T)を得た。同様にして、厚さが1cm(d)の樹脂組成物を介して光検出器に入射した光の強度(I)を測定し、樹脂組成物の表面反射損失を含む透過率(T)を得た。これらd、d、T及びTの値を前記式(3)に代入して光路長1cm当りの内部透過率を求めた結果、68%/cmであった。
【0113】
前記直径が2cm、厚さが0.3cmの樹脂組成物からなる中性子シンチレーターを光検出器に接続して本発明の中性子検出器を製作した。まず、前記中性子シンチレーターの直径が2cmの一面を光出射面とし、当該光出射面以外の面にテープ状のポリテトラフロロエチレンを巻いて光反射膜とした。次いで、光検出器として光電子増倍管(浜松ホトニクス社製 H6521)を用意し、当該光電子増倍管の光検出面と前記中性子シンチレーターの光出射面を光学グリースによって光学的に接着した後、該中性子シンチレーターと光検出器を遮光用のブラックシートで覆った。
【0114】
前記光電子増倍管に電源を接続し、該光電子増倍管の信号出力をデジタルオシロスコープに接続して本発明の中性子検出器を得た。
【0115】
本発明の中性子検出器の性能を以下の方法により評価した。なお、中性子を照射する場合には、2.4MBqの放射能のCf−252を20cm角の立方体形状の高密度ポリエチレンの中心に設置し、該高密度ポリエチレンに近接する位置にシンチレーターが配置されるように中性子検出器を設置し、該Cf−252からの中性子を高密度ポリエチレンで減速して照射した。一方、γ線を照射する場合には、0.83MBqの放射能のCo−60を中性子シンチレーターから5cmの距離に設置し、該Co−60からのγ線を照射した。0.83MBqの放射能のCo−60から5cmの距離におけるγ線の線量は、10mR/hもの極めて高い線量である。
【0116】
光電子増倍管に接続された電源を用いて、−1300Vの高電圧を光電子増倍管に印加した。中性子またはγ線を個別に照射し、これらの放射線の入射によって、中性子シンチレーターから発せられた光を光電子増倍管でパルス状の電気信号に変換し、当該電気信号をデジタルオシロスコープでデジタル化して記録した。中性子照射下及びγ線照射下で得られたパルス状の信号をそれぞれ図2及び図3に示す。なお、各図中の挿入図は時間0付近の拡大図である。図2及び図3から、中性子が入射した際には、蛍光寿命が長い無機蛍光体粒子のみが蛍光を発し、γ線が入射した際には、前記無機蛍光体粒子と蛍光寿命が短い中性子不感蛍光体の双方が蛍光を発することが分かる。
【0117】
得られたデジタル信号について、信号の立ち上がりから500nsecが経過するまでの時間範囲における信号強度を積分し、長い時間範囲の波高値(S)を取得した。該Sを横軸にとり、各Sの値を示した事象の頻度を縦軸にとって波高分布スペクトルを作成した。
【0118】
得られた波高分布スペクトルを図4に示す。図4の実線および点線は、それぞれ中性子およびγ線照射下での波高分布スペクトルである。なお、当該波高分布スペクトルにおいて、横軸を中性子ピークの波高値を1とした相対値で示した。
【0119】
図4より、γ線の入射によって生じる電気信号の波高値は、中性子ピークの波高値に比較して概ね低いが、一部は中性子ピークと同等の波高値であることが分かる。そのため、従来技術と同様に、波高値について所定の閾値を設け、当該閾値を超える波高値を示した事象を中性子入射事象として計数する場合には、かかる中性子ピークと同等の波高値を示すγ線入射事象が、中性子入射事象として誤って計数されるおそれがある。
【0120】
前記中性子ピークを正規分布関数でフィッティングして分散(σ)を求め、中性子ピークの波高値より3σ低い波高値に閾値を設けた。該閾値を図4に鎖線で示す。γ線を照射した場合について、該閾値を超える信号の頻度を300秒間計数し、計数率(counts/sec)を求めた結果、0.21Counts/secであり、中性子計数に対するγ線由来の誤差がわずかながら生じることが分かる。
【0121】
かかるγ線由来の誤差を除去するため、波形解析機構を用いて中性子とγ線を弁別した。前記デジタル信号について、前記Sに加えて、信号の立ち上がりから5nsecが経過するまでの短い時間範囲の波高値(S)を取得した。該Sを用いて波高分布スペクトルを作成する際に、S/Sが所定の閾値に満たない事象については、γ線入射事象として除去した。このようにして得られた波高分布スペクトルを図5に示す。
【0122】
図5より、前記中性子ピークと同等の波高値を示すγ線入射事象が除去できていることが分かる。
【0123】
前記と同様にして、波高値に閾値(図5の鎖線)を設け、γ線を照射した場合について、該閾値を超える信号の頻度を300秒間計数し、計数率(counts/sec)を求めた結果、0Counts/secであった。このことから、本発明の無機蛍光体と中性子不感蛍光体を含む樹脂組成物からなる中性子シンチレーターを用いれば、n/γ弁別能に特に優れた中性子検出が得られることが分かる。
【0124】
実施例2
実施例1のシリコーン樹脂に替えて、370nmにおける屈折率が1.62であり、内部透過率が92%であるシリコーン樹脂を用いる以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物からなる中性子シンチレーターを作製した。本実施例において、無機蛍光体粒子の屈折率に対する樹脂の屈折率の比、及び充填材粒子の屈折率に対する樹脂の屈折率の比は、ともに1.19であった。また、該樹脂組成物中の無機蛍光体粒子の体積分率は20体積%であり、充填材粒子の樹脂組成物への混合割合は、樹脂組成物全体に対して20体積%であった。
【0125】
該樹脂組成物は、前記無機蛍光体粒子及び充填剤粒子と樹脂の屈折率が一致していないため不透明であった。該樹脂組成物について、無機蛍光体粒子の発光波長における光路長1cm当りの内部透過率を、実施例1と同様にして測定した結果、26%/cmであった。
【0126】
実施例1と同様にして、該樹脂組成物を用いて中性子検出器を製作し、中性子シンチレーターから発せられた光を光電子増倍管でパルス状の電気信号に変換し、当該電気信号をデジタルオシロスコープでデジタル化して記録した。実施例1と同様に、中性子照射下では蛍光寿命が長い無機蛍光体粒子のみの蛍光が観測され、γ線照射下では無機蛍光体粒子の蛍光に加えて、蛍光寿命が短い中性子不感蛍光体の蛍光が観測された。
【0127】
実施例1と同様にして、得られたデジタル信号より波高値(S)を取得し、該Sを用いて波高分布スペクトルを作成した。
【0128】
得られた波高分布スペクトルを図6に示す。図6の実線および点線は、それぞれ中性子およびγ線照射下での波高分布スペクトルである。
【0129】
図6において、樹脂組成物が不透明であるが故に明瞭な中性子ピークが見られず、波高値について閾値を設けることが困難である。ここでは便宜的に波高値が0.6の位置に閾値を設けた。γ線を照射した場合について、該閾値を超える信号の頻度を300秒間計数し、計数率(counts/sec)を求めた結果、0.84Counts/secであった。
【0130】
次いで、実施例1と同様にして、波形解析機構を用いて中性子とγ線を弁別した上で波高分布スペクトルを作成した。得られた波高分布スペクトルを図7に示す。前記と同様にして、波高値に閾値(図7の鎖線)を設け、γ線を照射した場合について、該閾値を超える信号の頻度を300秒間計数し、計数率(counts/sec)を求めた結果、0.03Counts/secであった。このことから、本発明の無機蛍光体と中性子不感蛍光体を含む樹脂組成物からなる中性子シンチレーターを用いれば、シンチレーターの透明性が乏しい場合においても、n/γ弁別能に優れた中性子検出が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0131】
1 中性子シンチレーター
2 光検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7