(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記グリッド縞が検出された場合、前記グリッド縞除去処理が行われた放射線画像を表示手段に表示し、前記グリッド縞が検出されなかった場合、前記散乱線除去処理が行われた放射線画像および該散乱線除去処理が行われる前の放射線画像を、前記表示手段に表示する表示制御手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の放射線画像処理装置。
前記グリッド縞が検出されなかった場合、前記散乱線除去処理が行われた放射線画像および該散乱線除去処理が行われる前の放射線画像を記憶し、一定時間経過後に前記散乱線除去処理が行われる前の放射線画像を削除する記憶手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の放射線画像処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態による放射線画像処理装置を適用した放射線画像撮影システムの構成を示す概略ブロック図である。
図1に示すように、本実施形態による放射線画像撮影システムは、放射線源2と、ラック(立位撮影台)3に保持された放射線検出器4と、自由な位置において撮影を行うための放射線検出器5と、システムの制御を行うためのコンソール6とを備える。なお、コンソール6は、コンピュータ7と、コンピュータ7に接続された表示部8および入力部9とを備える。なお、
図1においては、放射線検出器5は、患者である被写体Mが横臥するためのベッド(臥位撮影台)10に設置された状態を示している。また、ラック3の前方空間は立位での放射線撮影を行う際の被写体Mの撮影位置11とされ、ベッド10の上方空間は臥位での放射線撮影を行う際の被写体Mの撮影位置12とされている。
【0031】
なお、放射線検出器4,5の被写体側には、被写体Mにおいて散乱した放射線の放射線検出器4,5への入射を防止するためのグリッド14,15が、出し入れ自在に設けられている。本実施形態においては、グリッド14は揺動可能なブッキーグリッドであり、グリッド15は静止グリッドである。
【0032】
また、放射線撮影室1には、単一の放射線源2からの放射線によって立位および臥位の双方での放射線撮影を可能とするために、放射線源2を、水平な軸回り(
図2の矢印A方向)に回動可能で、鉛直方向(
図2の矢印B方向)に移動可能で、さらに水平方向(
図2の矢印C方向)に移動可能に支持する支持移動機構17が設けられている。
【0033】
支持移動機構17は、放射線源2を水平な軸回りに回動させる駆動源と、放射線源2を鉛直方向に移動させる駆動源と、放射線源2を水平方向に移動させる駆動源とを備えている。なお、放射線源2および支持移動機構17の駆動は、放射線源2に設けられた放射線コントローラ20、および駆動コントローラ21によりそれぞれ行われる。
【0034】
放射線検出器4,5は、放射線画像の記録と読み出しを繰り返して行うことができるものであり、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、いわゆる間接型の放射線検出器を用いるようにしてもよい。また、放射線画像信号の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチをオン・オフさせることによって放射線画像信号が読み出される、いわゆるTFT読出方式のものや、読取光を照射することによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることが望ましいが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。
【0035】
放射線検出器4は、ラック3の予め定められた位置に位置決めされる。放射線検出器5は、自由な位置に設置して使用することが可能である。放射線検出器4,5からの電荷信号の読み出しは、コンソール6からの指示により行われる。
【0036】
本実施形態による放射線画像撮影システムでは、放射線源2および支持移動機構17とコンソール6とをケーブルで接続して有線通信により各種情報の送受信を行う。なお、本実施形態では、放射線検出器4,5とコンソール6とは、ケーブルを用いて有線通信により各種情報の送受信を行うようにしているが、無線通信によって各種情報の送受信を行うようにしてもよい。
【0037】
コンソール6のコンピュータ7は、中央処理装置(CPU)、半導体メモリ、通信インターフェースおよびハードディスクやSSD等のストレージデバイス等を備えており、これらのハードウェアによって、
図2に示すような制御部31、画像取得部32、グリッド縞検出部33、グリッド縞除去部34、散乱線除去部35、画像処理部36、表示制御部37および記憶部38が構成されている。なお、制御部31、画像取得部32、グリッド縞検出部33、グリッド縞除去部34、散乱線除去部35、表示制御部37および記憶部38が、本発明の放射線画像処理装置を構成する。
【0038】
制御部31は、各種のコントローラ20,21に対して所定の制御信号を出力してこれらの制御を行ったり、システム全体の制御を行ったりするものである。
【0039】
画像取得部32は、放射線検出器4,5から電荷信号を読み出して被写体Mの放射線画像を取得する。なお、画像取得部32は、放射線検出器4,5から読み出された電荷信号を電圧信号に変換するチャージアンプや、チャージアンプから出力された電圧信号をサンプリングする相関2重サンプリング回路や、電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換部等が設けられた回路基板等からなる。
【0040】
グリッド縞検出部33は、放射線画像において、撮影時に使用するグリッドに起因する縞模様であるグリッド縞の有無を検出する。具体的には、放射線画像を周波数解析して周波数スペクトルを求め、周波数スペクトルにおけるある周波数成分にピークが存在するか否かを判定する。ここで、グリッドを使用して撮影を行うことにより取得した放射線画像においては、グリッドの周期に起因する周期縞および周期縞に起因して放射線画像のサンプリングにより発生するモアレが含まれるため、周波数スペクトルにおいては、グリッドの周期およびモアレに対応する周波数成分にピークが存在することとなる。したがって、グリッド縞検出部33は、求めた周波数スペクトルにピークが存在するか否かを判定することにより、放射線画像におけるグリッド縞の有無を検出する。
【0041】
グリッド縞除去部34は、グリッド縞検出部33により放射線画像にグリッド縞が検出された場合に、放射線画像に対してグリッド縞を除去するグリッド縞除去処理を行う。グリッド縞除去処理としては、例えばグリッド縞に対応する周波数成分を低減するためのフィルタによるフィルタリング処理を用いることができる。
【0042】
散乱線除去部35は、グリッド縞検出部33により放射線画像にグリッド縞が検出されなかった場合に、放射線画像に対して散乱線を除去する散乱線除去処理を行う。
図3は散乱線除去部の構成を示す概略ブロック図である。
図3に示すように、散乱線除去部35は、放射線画像の撮影時に、散乱線を除去するために使用が想定される、仮想的なグリッドの特性である仮想グリッド特性を取得する特性取得部41と、放射線画像に含まれる放射線の散乱成分を表す散乱成分情報を取得する散乱情報取得部42と、特性取得部41が取得した仮想グリッド特性および散乱情報取得部42が取得した散乱成分情報に基づいて、放射線検出器4,5により取得された放射線画像の散乱線除去処理を行う除去処理部43とを備える。
【0043】
特性取得部41は、操作者による入力部9からの入力により仮想グリッド特性を取得する。本実施形態においては、仮想グリッド特性は、仮想グリッドについての散乱線透過率Ts、および被写体Mを透過して直接放射線検出器4,5に照射される一次線の透過率(一次線透過率)Tpとする。なお、散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpは0〜1の間の値をとる。
【0044】
特性取得部41は、散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpの値の入力を直接受け付けることにより仮想グリッド特性を取得してもよいが、本実施形態においては、グリッドの種類を表すグリッド情報、被写体についての情報(被写体情報)、および放射線画像の取得時の撮影条件の少なくとも1つの指定を受け付けることにより、仮想グリッド特性、すなわち散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpを取得する。
【0045】
ここで、グリッド情報とは、グリッド比、グリッド密度、収束型か平行型か、収束型の場合の集束距離、インタースペース素材(アルミニウム、ファイバー、ベークライト等)等の、グリッドの種類を特定する情報の少なくとも1つを含む。散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpはグリッドの種類に応じて異なるものとなる。このため、グリッド情報に関して、各種グリッド情報の少なくとも1つと仮想グリッド特性とを対応付けたテーブルが記憶部38に記憶されている。
【0046】
被写体情報は、胸部、腹部および頭部等の被写体の種類を含む。ここで、放射線画像の撮影時には、一般的に撮影部位に応じて使用するグリッドの種類が決められており、グリッドの種類に応じて散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpが異なるものとなる。このため、被写体情報に関して、各種被写体情報と仮想グリッド特性とを対応付けたテーブルが記憶部38に記憶されている。
【0047】
撮影条件は、撮影時の撮影距離(SID)、撮影線量、管電圧、線源のターゲットおよびフィルタの材質、並びに撮影に使用される放射線検出器の種類等のうちの少なくとも1つを含む。ここで、放射線画像の撮影時には、一般的に撮影条件に応じて使用するグリッドの種類が決められており、グリッドの種類に応じて散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpが異なるものとなる。このため、撮影条件に関して、各種撮影条件と仮想グリッド特性とを対応付けたテーブルが記憶部38に記憶されている。なお、各種撮影条件は、放射線画像撮影システムが設置される施設に応じて決まっていることが多い。このため、実際の撮影時の撮影条件が不明である場合は、施設に応じた撮影条件を使用すればよい。
【0048】
特性取得部41は、記憶部38に記憶されたテーブルを参照して、入力部9から入力されたグリッド情報、被写体情報および撮影条件の少なくとも1つに基づいて、仮想グリッド特性を取得する。なお、グリッド情報、被写体情報および撮影条件は、入力部9の直接の入力を受け付ければよいが、各種グリッド情報、各種被写体情報および各種撮影条件のリストを表示部8に表示し、リストからのグリッド情報、被写体情報および撮影条件の少なくとも1つの選択を受け付けることにより、グリッド情報、被写体情報および撮影条件の入力を行うようにしてもよい。また、撮影条件については、放射線コントローラ20から取得するようにしてもよい。
【0049】
なお、撮影条件が撮影線量である場合、厚さが既知のアクリルモデルを被写体とともに撮影し、取得された放射線画像におけるアクリルモデルの部分の濃度に基づいて、撮影線量を取得するようにしてもよい。この場合、アクリルモデルの濃度と撮影線量とを対応付けたテーブルを記憶部38に記憶しておき、アクリルモデルの濃度に基づいてこのテーブルを参照して撮影線量を取得すればよい。また、放射線検出器4,5に直接放射線が照射することにより得られる素抜け領域が放射線画像に含まれる場合、素抜け領域の濃度に基づいて、撮影線量を取得するようにしてもよい。この場合、素抜け領域の濃度と撮影線量とを対応付けたテーブルを記憶部38に記憶しておき、素抜け領域の濃度に基づいてこのテーブルを参照して撮影線量を取得すればよい。また、線量計を用いて撮影線量を測定し、測定した撮影線量を撮影条件として用いてもよい。
【0050】
また、本実施形態においては,散乱線除去処理は、後述するように放射線画像を周波数分解することにより行われる。本実施形態においては、仮想グリッド特性は、周波数分解による得られる放射線画像の複数の周波数帯域のそれぞれについて取得される。このため、上記テーブルにおける仮想グリッド特性は、複数の周波数帯域のそれぞれに対応付けられたものとなっている。
【0051】
また、グリッド情報、被写体情報および撮影条件のすべてと仮想グリッド特性とを対応付けたテーブルを記憶部38に記憶しておき、グリッド情報、被写体情報および撮影条件のすべてに基づいて仮想グリッド特性を取得するようにしてもよい。この場合、テーブルは、各種グリッド情報、各種被写体情報および各種撮影条件と、仮想グリッド特性とを対応付けた少なくとも4次元のテーブルとなる。
【0052】
なお、グリッドを使用することによって増加する照射線量の増加率である露出倍数、グリッドを使用した場合と使用しない場合とのコントラストの比率であるコントラスト改善係数、および一次X線透過率の散乱X線透過率に対する比率である選択度は、グリッドの特性を表す特性値であり、これらの特性値から散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpを算出することができる。このため、特性取得部41において、露出倍数、コントラスト改善係数および選択度の少なくとも1つの指定を受け付けることにより、仮想グリッド特性、すなわち散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpを算出して取得するようにしてもよい。
【0053】
また、本実施形態において散乱線除去部35は、仮想グリッド特性のみならず、散乱成分情報にも基づいて散乱線除去処理を行う。このため、散乱情報取得部42は散乱成分情報を取得する。本実施形態においては、散乱成分情報は、例えば被写体Mが胸部であれば、縦隔が存在する放射線画像の中央部分ほど散乱線が多く、肺野が存在する周辺部ほど散乱線が散乱線が少ないという、放射線画像における散乱線含有率分布とする。
【0054】
散乱情報取得部42は、撮影により取得された放射線画像を解析することにより、散乱成分情報すなわち散乱線含有率分布を取得する。放射線画像の解析は、放射線画像の撮影時における照射野情報、被写体情報および撮影条件に基づいて行う。
【0055】
照射野情報とは、照射野絞りを用いて撮影を行った場合における、放射線画像に含まれる照射野の位置および大きさに関する照射野分布を表す情報である。被写体情報とは、上述した胸部、腹部および頭部等の被写体の種類に加えて、被写体の放射線画像上での位置、被写体の組成の分布、被写体の大きさおよび被写体の厚さ等に関する情報である。撮影条件とは、撮影時の照射線量(管電流×照射時間)、管電圧、撮影距離(放射線源から被写体までの距離と被写体から放射線検出器までの距離との合計)、エアギャップ量(被写体から放射線検出器までの距離)、および放射線検出器の特性等に関する情報である。これらの照射野情報、被写体情報および撮影条件は、放射線画像に含まれる散乱線の分布を決める要因となっている。例えば、散乱線の大小は照射野の大きさにより左右され、被写体の厚さが大きいほど散乱線は多くなり、被写体と放射線検出器との間に空気が存在すると散乱線が減少する。したがって、これらの情報を用いることにより、より正確に散乱線含有率分布を取得することができる。
【0056】
散乱情報取得部42は、撮影により取得した放射線画像内の被写体厚の分布T(x,y)から、下記の式(1)、(2)にしたがって一次線像および散乱線像を算出し、算出した一次線像および散乱線像から式(3)に基づいて、散乱線含有率分布S(x,y)を算出する。なお、散乱線含有率分布S(x,y)は0〜1の間の値をとる。
【0057】
Icp(x,y) = Io(x,y)×exp(-μ×T(x,y)) …(1)
Ics(x,y) = Io(x,y)*Sσ(T(x,y)) …(2)
S(x,y) = Ics(x,y)/(Ics(x,y)+Icp(x,y)) …(3)
ここで、(x,y)は放射線画像の画素位置の座標、Icp(x,y)は画素位置(x,y)における一次線像、Ics(x,y)は画素位置(x,y)における散乱線像、Io(x,y)は画素位置(x,y)における被写体表面への入射線量、μは被写体の線減弱係数、Sσ(T(x,y))は画素位置(x,y)における被写体厚に応じた散乱の特性を表す畳みこみカーネルである。式(1)は公知の指数減弱則に基づく式であり、式(2)は「J M Boon et al, An analytical model of the scattered radiation distribution in diagnostic radiolog, Med. Phys. 15(5), Sep/Oct 1988」(参考文献1)に記載された手法に基づく式である。なお、被写体表面への入射線量Io(x,y)は、どのような値を定義してもS(x,y)を算出する際に除算によってキャンセルされるため、例えば値を1とする等、任意の値とすればよい。
【0058】
また、被写体厚の分布T(x,y)は、放射線画像における輝度分布が被写体の厚さの分布と略一致するものと仮定し、放射線画像の画素値を線減弱係数値により厚さに変換することにより算出すればよい。これに代えて、センサ等を用いて被写体の厚さを計測してもよく、立方体あるいは楕円柱等のモデルで近似してもよい。
【0059】
ここで、式(2)における*は畳みこみ演算を表す演算子である。カーネルの性質は、被写体の厚さの他に、照射野の分布、被写体の組成の分布、撮影時の照射線量、管電圧、撮影距離、エアギャップ量、および放射線検出器の特性等によっても変化する。参考文献1に記載された手法によれば散乱線は一次線に対する位置拡張関数(point spread function、式(2)におけるSσ(T(x,y)))の畳みこみにより近似することができる。なお、Sσ(T(x,y))は、照射野情報、被写体情報および撮影条件等に応じて実験的に求めることができる。
【0060】
本実施形態においては、撮影時の照射野情報、被写体情報および撮影条件に基づいてSσ(T(x,y))を算出してもよいが、各種照射野情報、各種被写体情報および各種撮影条件とSσ(T(x,y))とを対応付けたテーブルを記憶部38に記憶しておき、撮影時の照射野情報、被写体情報および撮影条件に基づいて、このテーブルを参照してSσ(T(x,y))を求めるようにしてもよい。なお、Sσ(T(x,y))をT(x,y)にて近似するようにしてもよい。
【0061】
除去処理部43は、仮想グリッド特性および散乱成分情報に基づいて、放射線画像における散乱線と見なせる周波数帯域の周波数成分を低減させることにより、散乱線除去処理を行う。このため、除去処理部43は、放射線画像を周波数分解して複数の周波数帯域毎の周波数成分を取得し、少なくとも1つの周波数成分のゲインを低減する処理を行い、処理済みの周波数成分およびこれ以外の周波数成分を合成して、散乱線除去処理済みの放射線画像を取得する。なお、周波数分解の手法としては、放射線画像を多重解像度変換する手法の他、ウェーブレット変換、フーリエ変換等、公知の任意の手法を用いることができる。
【0062】
除去処理部43は、仮想グリッド特性である散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tp、並びに散乱線含有率分布S(x,y)から、周波数成分を変換する変換係数R(x,y)を下記の式(4)により算出する。
【0063】
R(x,y) = S(x,y)×Ts + (1-S(x,y))×Tp …(4)
散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tp、並びに散乱線含有率分布S(x,y)は0〜1の間の値となるため、変換係数R(x,y)も0〜1の間の値となる。除去処理部43は、変換係数R(x,y)を複数の周波数帯域のそれぞれについて算出する。
【0064】
なお、以降の説明において、放射線画像の画素値をI(x,y)、周波数分解により得られる周波数成分画像をI(x,y,r)、周波数合成をI(x,y)=ΣrI(x,y,r)、周波数帯域毎の変換係数をR(x,y,r)、周波数帯域毎の散乱線透過率および一次線透過率をTs(r)、Tp(r)で表すものとする。なお、rは周波数帯域の階層を表し、rが大きいほど低周波であることを表すものとする。したがって、I(x,y,r)は、ある周波数帯域の周波数成分画像となる。散乱線含有率分布S(x,y)は放射線画像についてのものをそのまま用いればよいが、散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpと同様に周波数帯域のそれぞれについて取得するようにしてもよい。
【0065】
本実施形態においては、周波数成分毎に変換係数R(x,y,r)を算出し、周波数成分画像I(x,y,r)に対して対応する周波数帯域の変換係数R(x,y,r)を乗算して、周波数成分画像I(x,y,r)の画素値を変換し、変換係数R(x,y,r)が乗算された周波数成分画像I(x,y,r)(すなわち、I(x,y,r)×R(x,y,r))を周波数合成して処理済みの放射線画像I′(x,y)を取得する。したがって、除去処理部43において行われる処理は、下記の式(5)により表される。なお、変換係数R(x,y,r)は0〜1の間の値となるため、周波数成分(x,y,r)に対して対応する周波数帯域の変換係数R(x,y,r)を乗算することにより、その周波数成分の画素位置(x,y)における画素値すなわちゲインが低減されることとなる。
【0066】
I’(x,y)=Σr{I(x,y,r)×R(x,y,r)}
=Σr{I(x,y,r)×(S(x,y)×Ts(r)+(1-S(x,y))×Tp(r))} …(5)
ここで、本実施形態においては、放射線画像を6つの周波数帯域に周波数分解するものとし、散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpは6つの周波数帯域について取得されるものとする。この場合、散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpは、例えば下記式(6)に示す値となる。なお、式(6)では右側ほど低周波数帯域の値を表すものとする。
【0067】
Ts={0.7, 0.7, 0.7, 0.7, 0.3, 0.2}
Tp={0.7, 0.7, 0.7, 0.7, 0.7, 0.7} …(6)
式(6)に示すように、散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpは、高周波数帯域(r=1〜4)では同一の値であるが、低周波数帯域(r=5〜6)においては、散乱線透過率Tsの方が低い値となる。これはグリッドは散乱線の周波数成分が支配的である低周波帯域ほどその除去率が高いが、一次線については除去率の周波数依存性が小さいからである。
【0068】
図4は胸部の放射線画像における散乱線含有率分布S(x,y)を示す図である。
図4においては、散乱線含有率分布S(x,y)が高いほど各画素位置における輝度が高くなっている。
図4より胸部の画像においては縦隔部および肺野の周囲において散乱線の含有率が高いことが分かる。このような散乱線含有率分布S(x,y)を示す場合において、式(4)、(6)に基づいて算出した変換係数を
図5に示す。
図5において、輝度が低いほど値が小さく、より大きく画素値が低減されることとなる。
図4および
図5を比較すると、散乱線の含有率が高い縦隔部および肺野の周囲において、変換係数の値が小さくなっていることが分かる。したがって、このように算出した変換係数を用いて式(5)に示す処理を行うことにより取得された処理済みの放射線画像においては、使用が想定されるグリッドの種類に応じて散乱線成分が除去されたものとなる。
【0069】
なお、除去処理部43においては、下記のようにして放射線画像の散乱線を除去するようにしてもよい。まず、上記と同様に周波数合成をI(x,y)=ΣrI(x,y,r)で表すとすると、除去処理部43は、周波数成分画像I(x,y,r)を、下記の式(7)により、散乱線含有率分布S(x,y)を用いて、散乱成分Ics(x,y,r)と一次線成分Icp(x,y,r)とに分解する。
【0070】
Ics(x,y,r)= S(x,y)×I(x,y,r)
Icp(x,y,r)=(1-S(x,y))×I(x,y,r) …(7)
さらに除去処理部43は、下記の式(8)により、散乱成分Ics(x,y,r)および一次線成分Icp(x,y,r)のそれぞれに対して、仮想グリッド特性である散乱線透過率Ts(r)および一次線透過率Tp(r)を適用して画像変換し、変換された散乱成分Ics′(x,y,r)および一次線成分Icp′(x,y,r)を算出する。
【0071】
Ics′(x,y,r)=Ics(x,y,r)×Ts(r)=S(x,y)×I(x,y,r)×Ts(r)
Icp′(x,y,r)=Icp(x,y,r)×Tp(r)=(1-S(x,y))×I(x,y,r)×Tp(r) …(8)
そして下記の式(9)により、Ics′(x,y,r)および一次線成分Icp′(x,y,r)を周波数合成して、処理済みの放射線画像I(x,y)′を算出する。
【0072】
I′(x,y)=Σr{Ics′(x,y,r)+Icp′(x,y,r)}
=Σr{S(x,y)×I(x,y,r)×Ts(r)+(1-S(x,y))×I(x,y,r)×Tp(r)}
=Σr{I(x,y,r)×(S(x,y)×Ts(r)+(1-S(x,y))×Tp(r))} …(9)
画像処理部36は、グリッド縞除去処理が行われた放射線画像、散乱線除去処理が行われた放射線画像、および処理前の放射線画像に対して、ノイズを除去するノイズ除去処理、階調処理および周波数処理等の画像処理を行って処理済みの放射線画像を取得する。
【0073】
表示制御部37は、グリッド縞が検出された場合、グリッド縞除去処理が行われた放射線画像を表示部8に表示し、グリッド縞が検出されなかった場合、散乱線除去処理が行われた放射線画像および散乱線除去処理が行われる前の放射線画像を表示部8に表示する。なお、グリッド縞除去処理が行われた放射線画像、散乱線除去処理が行われた放射線画像および処理前の放射線画像は、画像処理が行われて表示部8に表示される。以降の説明において、グリッド縞除去処理および画像処理が行われた放射線画像を放射線画像G1、散乱線除去処理および画像処理が行われた放射線画像を放射線画像G2、画像処理のみが行われた放射線画像を放射線画像G0とする。
【0074】
次いで、第1の実施形態において行われる処理について説明する。
図6,7は第1の実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。画像取得部32が、放射線検出器4,5から放射線画像を取得すると(ステップST1)、グリッド縞検出部33が、放射線画像のグリッド縞の有無を検出する(ステップST2)。グリッド縞が検出されると(ステップST2:肯定)、グリッド縞除去部34が放射線画像にグリッド縞除去処理を行い(ステップST3)、画像処理部36がグリッド縞除去処理が行われた放射線画像に画像処理を行って処理済みの放射線画像G1を生成する(ステップST4)。また、制御部31が、処理前の放射線画像を削除する(ステップST5)。そして、表示制御部37が、放射線画像G1を表示部8に表示する(ステップST6)。
【0075】
図8は放射線画像G1の確認画面を示す図である。
図8に示すように、確認画面50には、処理済みの放射線画像を表示する画像表示領域51、確認完了ボタン52および再撮影ボタン53が表示されている。また、画像表示領域51には放射線画像G1とともに放射線画像に対して行われた処理を示すアイコンが表示される。なお、
図8に示す確認画面50において、画像表示領域51に表示される放射線画像G1には、グリッド縞除去処理が行われたことを示す、「G」の文字を含むアイコン54が表示される。
【0076】
次いで、制御部31は再撮影ボタン53が選択されたか否かを判定し(ステップST7)、ステップST7が肯定されると、再撮影を行うべく処理を終了する。ステップST7が否定されると、制御部31は確認完了ボタン52が選択されたか否かを判定し(ステップST8)、ステップST8が否定されるとステップST7に戻る。一方、ステップST8が肯定されると処理を終了する。なお、処理済みの放射線画像G1は、記憶部38に保存されるか、コンソール6とネットワーク接続されたサーバに送信されて保存される。
【0077】
一方、グリッド縞が検出されないと(ステップST2:否定)、散乱線除去部35が放射線画像に散乱線除去処理を行い(ステップST11)、画像処理部36が散乱線除去処理が行われた放射線画像および処理前の放射線画像に画像処理を行って、処理済みの放射線画像G0,G2を生成する(ステップST12)。そして、表示制御部37が、放射線画像G2を表示部8に表示する(ステップST13)。この場合、確認画面50の画像表示領域51には、
図9に示すように、放射線画像に対して行われた処理が散乱線除去処理および画像処理であることを示す、「S」の文字を含むアイコン55が付与された放射線画像G2が表示される。
【0078】
制御部31は、アイコン55が選択されたか否かを判定する(ステップST14)。ステップST14が肯定されると、表示制御部37は、表示部8に表示する放射線画像を切り替え(ステップST15)、ステップST14に戻る。この場合、放射線画像G2に代えて、画像処理のみが施された放射線画像G0が表示部8に表示される。なお、確認画面50の画像表示領域51には、
図10に示すように、放射線画像に対して行われた処理が画像処理のみであることを示す、「O」の文字を含むアイコン56が付与された放射線画像G0が表示される。一方、制御部31は、ステップST14においてアイコン56が選択されたか否かを判定し、ステップST14が肯定されると、放射線画像G2を再度表示部8に表示する。
【0079】
ステップST14が否定されると、制御部31は再撮影ボタン53が選択されたか否かを判定し(ステップST16)、ステップST16が肯定されると、再撮影を行うべく処理を終了する。ステップST16が否定されると、制御部31は確認完了ボタン52が選択されたか否かを判定し(ステップST17)、ステップST17が否定されるとステップST14に戻る。一方、ステップST17が肯定されると、表示されていない方の放射線画像を削除し(ステップST18)、処理を終了する。すなわち、放射線画像G2が表示されていれば放射線画像G0を削除し、放射線画像G0が表示されていれば放射線画像G2を削除する。なお、削除されなかった処理済みの放射線画像は、記憶部38に保存されるか、コンソール6とネットワーク接続されたサーバに送信されて保存される。
【0080】
このように、第1の実施形態においては、グリッド縞の有無を検出し、グリッド縞が検出された場合、グリッド縞除去処理を行い、グリッド縞が検出されなかった場合、散乱線除去処理を行い、グリッド縞が検出された場合、グリッド縞が除去された放射線画像G1を表示し、グリッド縞が検出されなかった場合、散乱線除去処理が行われた放射線画像G2および散乱線除去処理が行われる前の放射線画像G0を表示するようにしたものである。このため、操作者は何ら操作を行わなくても、撮影時におけるグリッドの使用の有無に応じた適切な処理を放射線画像に対して行うことができるため、操作者の負担を軽減し、かつ効率よくグリッド縞除去処理および散乱線除去処理を行うことができる。
【0081】
ここで、本実施形態においては、ブッキーグリッドを使用した場合、放射線画像からはグリッド縞は検出されないため、散乱線除去処理が行われてしまう。ブッキーグリッドを使用して撮影を行うことにより取得した放射線画像は散乱線が除去されているため、散乱線除去処理を行うと、非常に低線量にて撮影したようなノイズの多い画像となる。本実施形態によれば、散乱線除去処理が行われた放射線画像G2および散乱線除去処理が行われる前の放射線画像G0を表示するようにしたため、操作者は、表示された画像がブッキーグリッドを使用して撮影を行うことにより取得した放射線画像に対して散乱線除去処理を行ったものか否かを確認することができ、さらに操作者の操作により散乱線除去処理が行われる前の放射線画像を削除することができる。これにより、ブッキーグリッドを使用して撮影を行うことにより取得した放射線画像に対して散乱線除去処理を行った放射線画像が残ってしまい、診断に供されることを防止することができる。
【0082】
なお、上記第1の実施形態においては、グリッド縞が検出されなかった場合に、確認完了ボタン52が選択されると、表示されていない方の放射線画像を削除しているが、双方の放射線画像G0,G2を保存するようにしてもよい。また、双方の放射線画像G0,G2が保存された場合、保存してから一定時間経過後に、表示されなかった方の放射線画像を削除するようにしてもよい。
【0083】
また、上記第1の実施形態においては、放射線画像G0,G2を並べて表示し、不要な放射線の画像の選択を受け付けることにより、選択された方の放射線画像を削除するようにしてもよい。
【0084】
次いで、本発明の第2の実施形態について説明する。
図11は、本発明の第2の実施形態における放射線画像撮影システムのコンピュータ内部の概略構成を示すブロック図である。なお、
図11において
図2と同一の構成については同一の参照番号を付与し、詳細な説明は省略する。第2の実施形態においては、放射線画像にグリッド縞が検出されなかった場合に、放射線画像の散乱線量を推定する散乱線量推定部39と、推定した散乱線量に基づいてグリッドの使用の有無を判定する判定部40とを備えた点が第1の実施形態と異なる。
【0085】
図12は散乱線量推定部39の構成を示す概略ブロック図である。
図12に示すように、散乱線量推定部39は、仮想モデル取得部61、推定画像生成部62、修正部63および散乱線量決定部64を備える。
【0086】
仮想モデル取得部61は、初期体厚分布T0(所定の体厚分布)を有する被写体Mの仮想モデルKを取得する。
【0087】
推定画像生成部62は、仮想モデルKに基づいて、仮想モデルの放射線撮影により得られる一次線画像を推定した推定一次線画像Ipと、仮想モデルの放射線撮影により得られる散乱線画像を推定した推定散乱線画像Isとを合成した画像を、被写体Mの放射線撮影により得られる放射線画像を推定した推定画像Imとして生成する。
【0088】
修正部63は、推定画像Imと放射線画像とに基づいて、推定画像Imと放射線画像の違いが小さくなるように仮想モデルKの初期体厚分布T0を修正する。
【0089】
散乱線量決定部64は、修正された体厚分布Tn−1(nは自然数)に基づいて、放射線画像の散乱線量を決定する。
【0090】
また、第2の実施形態においては、記憶部38には、初期体厚分布T0(x,y)を有する被写体Mの仮想モデルKが記憶される。なお、体厚とは、照射された放射線の経路上における空気領域を除いた被写体領域の厚さの総計を意味する。
【0091】
次いで、第2の実施形態において行われる処理について説明する。
図13は第2の実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。なお、
図13に示すフローチャートは第1の実施形態におけるステップST2が否定された場合に行われる処理であるため、ステップST2が否定された以降の処理を表すものとなっている。ステップST2が否定されると、散乱線量推定部39が散乱線量の推定処理を行う(ステップST31)。
【0092】
図14は散乱線量推定処理のフローチャートである。散乱線量推定部39の仮想モデル取得部61は、記憶部38から、初期体厚分布T0(x,y)を有する被写体Mの仮想モデルKを取得する(ステップST41)。仮想モデルKは、初期体厚分布T0(x,y)に従った体厚がxy平面上の各位置に対応付けられた被写体Mを仮想的に表すデータである。また、仮想モデルKに含まれる構造物(ここでは肺野、骨、臓器等の解剖学的構造物)と構造物の配置と、構造物の放射線に対する特性等を示す特性情報は、比較用被写体の胸腹部の肺野、骨等の解剖学的構造物の配置および組成に基づいて設定されている。
【0093】
また、仮想モデルKの初期体厚分布T0(x,y)は任意の分布とされてよいが、本実施形態においては、仮想モデル取得部61によって初期体厚分布T0が生成されて取得される。仮想モデル取得部61は、被写体Mの撮影線量、管電圧、SID等の撮影条件を取得し、記憶部38から被写体Mの撮影条件に応じた画素値と体厚とを対応付けたテーブルを取得する。
図15に画素値と体厚とを対応付けたテーブルの例を示す。そして、仮想モデル取得部61は、
図15に示すテーブルに基づいて、被写体Mの放射線画像の各画素の画素値に対応する体厚を特定することにより、放射線画像の体厚分布を取得する。そして、仮想モデル取得部61は、放射線画像の体厚分布を仮想モデルKの初期体厚分布T0(所定の体厚分布)として取得する。なお、初期体厚分布T0は、本実施形態のように仮想モデルKの取得処理の際に生成されてもよく、仮想モデルKの取得処理に先立って予め設定されていてもよい。以上の処理は下記の式(11)により表される。なお、I(x,y)は、放射線画像における各画素の画素値、T0(x,y)は各画素位置における初期体厚分布を示す。
【数1】
【0094】
次いで推定画像生成部62は、放射線画像と同等の撮影条件で仮想モデルKを撮影した場合に得られる推定一次線画像Ipと、放射線画像と同等の撮影条件で仮想モデルKを撮影した場合に得られる推定散乱線画像Isとを合成した推定画像Imを生成する(ステップST42)。
図16および
図17は、推定画像Imの生成方法を説明するための図である。
【0095】
図16に示すように、推定画像生成部62は、放射線画像と同等の撮影条件で仮想モデルKを撮影した場合に得られる推定一次線画像Ipを下記式(12)に従って生成し、生成した推定一次線画像Ipを用いて、式(13)に従って推定散乱線画像Isを生成する。そして、推定画像生成部62は、式(14)に示すように推定一次線画像Ipと推定散乱線画像Isとを合成することにより、推定画像Imを生成する(ステップST42)。なお、推定一次線画像Ipと推定散乱線画像Isとを1回目に作成する際には、推定式(12)、式(13)において初期体厚分布T0(x,y)が用いられる(式(12)、(13)においてn=1である)。
【数2】
【数3】
【数4】
【0096】
ここで、(x,y)は放射線画像の画素位置の座標、Ip(x,y)は画素位置(x,y)における推定一次線画像、Is(x,y)は画素位置(x,y)における推定散乱線画像、Io(x,y)は画素位置(x,y)における線量、Im(x,y)は画素位置(x,y)における推定画像、μは被写体の線減弱係数、Ks(x,y,Tn(x’,y’),θx’,y’)は画素位置(x,y)における被写体厚に応じた点拡散関数(Point Spread Function)を表す畳みこみカーネルである。なお、線量Io(x,y)は、被写体が存在しないと仮定した際に放射線検出器4,5により検出される放射線の線量であり、放射線源2と放射線検出器4,5の検出面との距離(SID)、管電圧およびmAs値に応じて変化する。また、θx’,y’は、管電圧等の撮影条件や仮想モデルKの特性情報によって特定されるパラメータを表している。
【0097】
なお、推定画像Imは、仮想モデルKを放射線撮影した場合に得られると推定される画像であればよく、推定一次線画像Ipと推定散乱線画像Isとを合成した画像と実質的に見なせるものであればよい。例えば、
図17に示すように、式(12)〜(14)に替えて下記式(15)を用いて、一次線成分と散乱成分とを合わせたカーネルを畳みこみ積分して推定画像Imを生成してもよい。ここで、Kp+s(x,y,Tn−1(x’,y’),θx’,y’)は、一次線成分と散乱成分とを合わせた点拡散関数を表すカーネルである。また、放射線撮影により得られた画像から推定一次線画像および推定散乱線画像を合成した推定画像を生成可能であれば、任意のモデル関数を用いてよい。
【0098】
なお、Ks(x,y,Tn(x’,y’),θx’,y’)、Kp+s(x,y,Tn−1(x’,y’),θx’,y’)は、撮影条件等に応じて実験的に求めることができる。
【0099】
本実施形態においては、撮影時の撮影条件に基づいてカーネルKs(x,y,Tn(x’,y’),θx’,y’)、Kp+s(x,y,Tn−1(x’,y’),θx’,y’)を算出してもよいが、各種撮影条件とカーネルKs(x,y,Tn(x’,y’),θx’,y’)、Kp+s(x,y,Tn−1(x’,y’),θx’,y’)とを対応付けたテーブルを記憶部38に記憶しておき、撮影時の照射野情報、被写体情報および撮影条件に基づいて、このテーブルを参照してカーネルKs(x,y,Tn(x’,y’),θx’,y’)、Kp+s(x,y,Tn−1(x’,y’),θx’,y’)を求める。
【数5】
【0100】
図14のフローチャートに従って、続く処理を説明する。続いて、散乱線量決定部64は、放射線画像と推定画像Imとの違いが終了条件を満たすか否かを判定する(ステップST43)。ここでは、式(16)および式(17)に示すように、下記の放射線画像と推定画像Imとの違いを表すエラー値Verrorを定義し、終了条件としてエラー値Verrorがしきい値以下であるか否かを判定する。また、式(17)に示すように、放射線画像から推定画像Imを減算した差分画像Idの各画素値の2乗和をエラー関数ferrorとして規定する。なお、終了条件として、放射線画像と推定画像Imとの違いが許容可能な程度に十分小さくなったことを判定可能なあらゆる判定手法を適用可能である。
【数6】
【数7】
【0101】
また、上記例に限定されず、エラー関数ferrorを、放射線画像と推定画像Imとの違いを表すあらゆる方法で規定することができる。例えば、下記式(18)に示すように、放射線画像から推定画像Imを減算した差分画像Idの各画素値の絶対値の総和をエラー関数ferrorとしてもよい。
【数8】
【0102】
散乱線量決定部64は、エラー値Verrorが終了条件を満たさない場合には(ステップST43:No)、体厚分布Tn−1(n=1の場合には、初期体厚分布T0)を修正する修正処理を行う(ステップST44)。
【0103】
体厚分布Tn−1の修正処理を行うために、放射線画像と推定画像Imとの違いが小さくなるように体厚分布Tn−1の各位置の修正値を取得できる任意の方法を適用可能である。本実施形態では、仮想モデルKの一画素以上の部分領域毎に、仮想モデルKの体厚分布Tn−1を変動させて、推定画像Imと放射線画像との違いを小さくする部分領域の体厚を算出する処理を実施する。そして、算出された各部分領域の体厚によって仮想モデルの体厚分布を修正する。
【0104】
具体的には、本実施形態は、最急降下法を用いて体厚分布Tn−1の体厚の修正値を求めるものとする。下記式(19)、(20)を用いて、仮想モデルKの画素のうち、Tn−1(x,y)において1つの特定の座標の体厚のみを変動させて、エラー関数ferrorの一次偏微分(勾配)に基づいて繰り返しdTn−1(x,y)を算出することにより、エラー関数ferrorの出力値を最小化することができる。そして、エラー関数ferrorの出力値を最小化した際の、1つの特定の座標の体厚を、その特定の座標の体厚の修正値として決定する。また、他の画素についても同様に、それぞれ体厚の修正値を求めることにより、各画素の体厚分布を修正し、修正した体厚分布Tnを取得する。
【数9】
【数10】
【数11】
【0105】
ただし、式(19)において、αは、体厚の更新速度を表すパラメータである更新係数である。式(20)に示すKp+sの微分値部分の算出方法の一例として、例えば、Tn−1(x,y)に極めて小さい値dtを加えたとき値の変化を式(21)によって算出して、式(20)のKp+sの値とすることができる。なお、式(11)〜(21)において、同じ要素には同じ符号を付して、説明を省略する。放射線画像と推定画像Imとの違いを表すエラー値Verrorを最小化するあらゆる最適化手法を適用可能であり、例えば、シンプレックス法や最急降下法、共役勾配法を用いることができる。
【0106】
修正された体厚分布Tnを取得すると、散乱線量決定部64は、nの値を1つ増加して更新し(n=n+1とする)、仮想モデル取得部61は修正された体厚分布Tnを取得する(ステップST41)。そして、取得された体厚分布Tnに対して、推定画像生成部62および散乱線量決定部64はステップST41〜ステップST43の処理をそれぞれ上記と同様に実行する。そして、放射線画像と推定画像Imとの違いを示すエラー値Verrorが終了条件を満たすまで、上記同様に、体厚分布Tnの修正処理(ステップST44)と、修正された体厚分布Tnを有する仮想モデルKの取得処理(ステップST41)と、体厚分布Tnを用いた新たな推定画像Imの生成処理(ステップST42)と、新たに生成された推定画像Imと放射線画像との違いが終了条件を満たすかを判定する処理(ステップST43)の処理とが繰り返される。
【0107】
一方、散乱線量決定部64は、エラー値Verrorが終了条件を満たしていることを判定した場合には(ステップST43:Yes)、終了条件を満たした際にエラー値Verrorに用いられた体厚分布Tnを放射線画像の体厚分布Tkとして決定し、体厚分布Tkを得た際に、推定画像生成部62が生成した推定散乱線画像Isの代表値を、放射線画像の散乱線量に決定して散乱線量推定処理を終了する(ステップST45)。ここで、推定散乱線画像Isの代表値としては、推定散乱線画像Isの画素値の平均値、分散値、中央値、最大値、および最頻度値等の種々の値を用いることができる。
【0108】
なお、散乱線量推定処理としては、上記の手法に限定されるものではなく、放射線画像においては、被写体が存在しない直接放射線領域と被写体領域との境界部分で散乱線が多く発生するという事実に基づいて、放射線画像に対して被写体認識処理を行い、認識した被写体の境界付近の画素値の分散を算出し、これを散乱線量として用いる手法等、任意の手法を用いることが可能である。
【0109】
図13に戻り、散乱線量推定処理に続いて、判定部40が、散乱線量が予め定められたしきい値Th1より大きいか否かを判定することにより、放射線画像がグリッドを使用して取得されたものであるか否かを判定する(ステップST32)。散乱線量がしきい値Th1よりも大きい場合、取得された放射線画像は散乱線が多く含まれていることから、グリッドを使用しないで取得されたものであると判定される。このため、ステップST32が肯定され、散乱線除去部35が放射線画像に散乱線除去処理を行い(ステップST33)、画像処理部36が散乱線除去処理が行われた放射線画像に画像処理を行って処理済みの放射線画像G2を生成する(ステップST34)。なお、この場合、処理前の放射線画像は削除しても削除しなくてもよい。
【0110】
一方、散乱線量がしきい値Th1以下の場合、取得された放射線画像は散乱線量が少なく、かつグリッド縞も含まれないことから、ブッキーグリッドを使用して撮影を行うことにより取得されたものと判定される。このため、ステップST32が否定され、画像処理部36が放射線画像に画像処理のみを行って処理済みの放射線画像G0を生成する(ステップST35)。
【0111】
そして、表示制御部37が、放射線画像G2または放射線画像G0を表示部8に表示する(ステップST36)。放射線画像G2が表示された場合には、放射線画像G2には、
図9に示すように、放射線画像に対して行われた処理が散乱線除去処理および画像処理であることを示す、「S」の文字を含むアイコン55が付与され、放射線画像G0が表示された場合には、
図10に示すように、放射線画像G0には、放射線画像に対して行われた処理が画像処理のみであることを示す、「O」の文字を含むアイコン56が付与される。
【0112】
続いて、制御部31は再撮影ボタン53が選択されたか否かを判定し(ステップST37)、ステップST37が肯定されると、再撮影を行うべく処理を終了する。ステップST37が否定されると、制御部31は確認完了ボタン52が選択されたか否かを判定し(ステップST38)、ステップST38が否定されるとステップST37に戻る。一方、ステップST38が肯定されると処理を終了する。なお、処理済みの放射線画像は、記憶部38に保存されるか、コンソール6とネットワーク接続されたサーバに送信されて保存される。
【0113】
このように、第2の実施形態においては、グリッド縞が検出されなかった場合、放射線画像の散乱線量を推定し、散乱線量に基づいてグリッドの使用の有無を判定し、グリッドの使用がないと判定された場合に、散乱線除去処理を行うようにしたため、ブッキーグリッドを使用した場合のように、放射線画像に含まれる散乱線量が少ない場合には、散乱線除去処理を行わないようにすることができる。したがって、ブッキーグリッドを使用して撮影を行うことにより取得した放射線画像に対して、散乱線除去処理が行われてしまうことを防止することができる。
【0114】
次いで、本発明の第3の実施形態について説明する。なお、第3の実施形態においては、第2の実施形態と行われる処理のみが異なるため、ここでは構成についての詳細な説明は省略する。
図18は第3の実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。なお、
図18に示すフローチャートは第1の実施形態におけるステップST2が否定された場合に行われる処理であるため、ステップST2が否定された以降の処理を表すものとなっている。ステップST2が否定されると、散乱線量推定部39が散乱線量の推定処理を行う(ステップST51)。
【0115】
次いで、散乱線除去部35が放射線画像に散乱線除去処理を行い(ステップST52)、画像処理部36が散乱線除去処理が行われた放射線画像および処理前の放射線画像に画像処理を行って処理済みの放射線画像G0,G2を生成する(ステップST53)。続いて、判定部40が、散乱線量が予め定められたしきい値Th1より大きいか否かを判定することにより、放射線画像がグリッドを使用して取得されたものであるか否かを判定する(ステップST54)。散乱線量がしきい値Th1よりも大きい場合、取得された放射線画像は散乱線が多く含まれていることから、グリッドを使用しないで取得されたものであると判定される。このため、ステップST54が肯定され、表示制御部37が、放射線画像G2を表示部8に表示する(ステップST55)。この場合、放射線画像G2には、
図9に示すように、放射線画像に対して行われた処理が散乱線除去処理および画像処理であることを示す、「S」の文字を含むアイコン55が付与される。
【0116】
一方、散乱線量がしきい値Th1以下の場合、取得された放射線画像は散乱線量が少なく、かつグリッド縞も含まれないことから、ブッキーグリッドを使用して撮影を行うことにより取得されたものと判定される。このため、ステップST54が否定され、表示制御部37が、放射線画像G0を表示部8に表示する(ステップST56)。この場合、放射線画像G0には、
図10に示すように、放射線画像に対して行われた処理が画像処理のみであることを示す、「O」の文字を含むアイコン56が付与される。
【0117】
制御部31は、アイコンが選択されたか否かを判定する(ステップST57)。ステップST57が肯定されると、表示制御部37は、表示部8に表示する放射線画像を切り替え(ステップST58)、ステップST57に戻る。
【0118】
ステップST57が否定されると、制御部31は再撮影ボタン53が選択されたか否かを判定し(ステップST59)、ステップST59が肯定されると、再撮影を行うべく処理を終了する。ステップST59が否定されると、制御部31は確認完了ボタン52が選択されたか否かを判定し(ステップST60)、ステップST60が否定されるとステップST57に戻る。一方、ステップST60が肯定されると、表示されていない方の放射線画像を削除し(ステップST61)、処理を終了する。すなわち、放射線画像G2が表示されていれば放射線画像G0を削除し、放射線画像G0が表示されていれば放射線画像G2を削除する。なお、削除されなかった処理済みの放射線画像は、記憶部38に保存されるか、コンソール6とネットワーク接続されたサーバに送信されて保存される。
【0119】
このように、第3の実施形態においては、放射線画像の散乱線量を推定し、散乱線量に基づいてグリッドの使用の有無を判定し、判定結果に基づいて、散乱線除去処理が行われた放射線画像および散乱線除去処理が行われる前の放射線画像のいずれを表示するかを決定するようにしたものである。このため、ブッキーグリッドを使用した場合のように、放射線画像に含まれる散乱線量が少ない場合には、散乱線除去処理を行わなかった放射線画像を先に表示するようにすることができる。
【0120】
なお、上記実施形態においては、2つの放射線検出器4,5を使用して、グリッド無し撮影、静止グリッドを使用した撮影およびブッキーグリッドを使用した撮影を行っているが、1つの放射線検出器のみを使用して、グリッド無し撮影、静止グリッドを使用した撮影およびブッキーグリッドを使用した撮影を行うようにしてもよい。この場合、静止グリッドおよびブッキーグリッドの双方が、放射線検出器に取り外し自在に設けられることとなる。
【0121】
また、上記実施形態においては、グリッド縞が検出されなかった放射線画像に対して散乱線除去処理を行っているが、グリッド縞が検出された放射線画像に対して散乱線除去処理を行うようにしてもよい。この場合、放射線画像に対して、グリッド縞除去処理を行った後に散乱線除去処理を行う。
【0122】
このような処理を行うことにより、例えば、グリッド比が3:1であるグリッドを用いて撮影した放射線画像に基づいて、使用したグリッドとは異なる、10:1のグリッド比をもつグリッドを用いて撮影したかのような放射線画像を仮想的に取得することが可能となる。具体的には、式(6)に示す周波数帯域毎の散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpを、撮影時のグリッド情報と仮想的に使用を所望するグリッドのグリッド情報と対応付けたテーブルを、予め実験的に作成して記憶部38に記憶しておく。そして、撮影時に使用したグリッドの種類を表すグリッド情報を取得し、取得したグリッド情報と仮想的に使用を所望するグリッドのグリッド情報に基づいて、上記テーブルを参照して散乱線透過率Tsおよび一次線透過率Tpを取得し、散乱線除去処理を行えばよい。なお、グリッド情報は、入力部9からの入力により取得してもよく、例えば特許文献3に記載されたように、グリッドの種類に応じた突起をグリッドに形成しておき、その突起を検出することによりグリッド情報を取得するようにしてもよい。
【0123】
また、病気の治癒状況あるいは進行状況の診断を行うために、過去の放射線画像を用いて経時比較観察を行う場合がある。このような場合において、散乱線除去グリッドを使用せずに撮影を行うことにより取得した放射線画像(第1の放射線画像とする)と、散乱線除去グリッドを使用して撮影を行うことにより取得した放射線画像(第2の放射線画像とする)とを比較する場合には、第1の放射線画像に対してグリッドに起因する縞模様を除去する処理を施した際の処理条件に応じて、本実施形態の散乱線除去処理の条件を修正し、第1および第2の放射線画像の画質を一致させるようにすることが好ましい。
【0124】
また、上記実施形態においては、放射線検出器4,5を用いて被写体の放射線画像を撮影する撮影装置10において取得した放射線画像を用いて散乱線除去処理を行っているが、特開平8−266529号公報、特開平9−24039号公報等に示される放射線検出体としての蓄積性蛍光体シートに被写体の放射線画像情報を蓄積記録し、蓄積性蛍光体シートから光電的に読み取ることにより取得した放射線画像を用いた場合においても、本発明を適用できることはもちろんである。