(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸素供給部は、少なくとも前記電極間のそれぞれの直下に設けられる供給孔から前記酸素含有ガスを泡状にして供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の電解装置。
請求項5又は6に記載の水酸化インジウム粉の製造方法によって生成された水酸化インジウム粉を用いて、酸化インジウム−酸化スズ系焼結体からなるスパッタリングターゲットを生成することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池用途とタッチパネル用途として透明導電膜の利用が増えており、それに伴ってスパッタリングターゲット等、透明導電膜形成用材料の需要が増加している。これの透明導電膜形成用材料には、酸化インジウム系焼結材料が主に使用されており、その主原料として酸化インジウム粉が使用されている。スパッタリングターゲットに使用される酸化インジウム粉は、高密度ターゲットを得るために出来るだけ粒度分布の幅が狭いことが望ましい。
【0003】
酸化インジウム粉の製造方法としては、主に、硝酸インジウム水溶液や塩化インジウム水溶液等の酸性水溶液をアンモニア水等のアルカリ性水溶液で中和して生じる水酸化インジウムの沈澱を乾燥し仮焼する、いわゆる中和法によって製造される。特許文献1に記載の中和法では、得られる酸化インジウム粉の凝集を抑制するために、7 0 〜 9 5 ℃ という高温の硝酸インジウム水溶液にアルカリを添加することで、針状の水酸化インジウムを得る方法が提案されている。この方法では、針状の水酸化インジウムを仮焼することで凝集の少ない酸化インジウム粉を得ることができる。
【0004】
しかしながら、中和法で製造した酸化インジウム粉は、粒径や粒度分布が不均一となり易く、スパッタリングターゲットを製造するとターゲットの密度が高くならず、密度にムラが生じるという問題やスパッタリングの際に異常放電が生じ易いといった問題が生じる。また、中和法では、酸化インジウム粉製造後に大量の窒素排水が発生するため排水処理コストが大きくなるという問題がある。
【0005】
このような問題を改善する方法としては、例えば、特許文献2では、金属インジウムを電解処理することで水酸化インジウムの沈殿を生じさせ、これを仮焼して酸化インジウム粉を製造する方法、いわゆる電解法が提案されている。当該電解法では、中和法に比べて、酸化インジウム粉の製造後の窒素排水量を格段に少なくすることができるほか、得られる酸化インジウム粉の粒径を均一化できる。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されている電解条件では、電解液のpH が中性に近いことから非常に微細であり凝集しやすいという問題がある。これを仮焼して得られる酸化インジウム粉は、一次粒子径は比較的均一であるものの、それら粒子が強く凝集した凝集粉が得られやすくなる。凝集によって、粒度分布の幅が広くなるため、ターゲットの高密度化が阻害されるという問題がある。
【0007】
一方、特許文献3では、電解法において、槽内の電解液のpHを均一化する目的で、電解液中に水酸化インジウム沈殿を懸濁させた状態に攪拌して電解する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、電解槽全体の液を撹拌することはできるものの、電極間等液の流れにくい箇所では十分な撹拌強度を得ることができないため、得られる水酸化物の粉末の諸特性のばらつきが発生する問題がある。
【0008】
一方、特許文献4では、電解槽にノズルを配置し、このノズルの開口部より流出させた電解液を、電解槽中の各陽極板と陰極板の間で回流させ、水酸化インジウム、又は水酸化インジウムを含む化合物を電解液中に析出させる方法が提案されている。しかしながら、アノード板とカソード板電解液を回流させるためには電解液の供給速度を高くする必要があるため、電極間では流れの強い箇所と弱い箇所が発生してしまい、撹拌強度が均一になりにくく、得られる水酸化物の粉末の諸特性のばらつきが発生する問題がある。
【0009】
また、特許文献5では、電解法で高密度のITOターゲット材料を得るための水酸化インジウムの二次粒子の粒度を所定範囲に揃えることによって、水酸化インジウム粉末を微細で高分散な粉末として、常圧焼結で高密度なITO焼結体を製造するITO焼結体の製造方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述した従来の電解法における電解沈殿工程では、十分に粒度の揃った電解沈殿粉を得るための技術が提供されているとは言い難かった。特に、電解槽の電極近傍における水酸化インジウム粉の粒成長度合及び凝集度合に依然としてばらつきが多くみられることに伴って、生成される水酸化インジウム粉が十分に高純度で粒度分布幅の狭いものとなっていなかった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電極近傍における水酸化インジウム粉の粒成長度合及び凝集度合のばらつきを抑制することで、高純度で粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を生成することの可能な、新規かつ改良された電解装置、水酸化インジウム粉の製造方法、及び当該水酸化インジウム粉を用いたスパッタリングターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、インジウムを電解して水酸化インジウム粉を生成する電解装置であって、電解液が貯留され、複数の電極が該電解液に浸漬して設けられる電解槽と、
前記電解槽内の前記電解液を調整する調整槽と、前記電解槽と前記調整槽との間で前記電解液を循環させる循環手段と、前記電解槽の槽底側に設けられ、少なくとも前記電極の間に酸素含有ガスを泡状にして前記槽底側から前記電解液中に供給する酸素供給部と、を備え、前記酸素供給部は、前記電解液の溶存酸素濃度が少なくとも10ppm以上となるように前記酸素含有ガスを供給して、該酸素含有ガスによって前記電解液を撹拌することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様によれば、酸素含有ガスで電解液を撹拌することによって、当該電解液の溶存酸素濃度を高められるので、電極近傍における電解液のpH値のばらつきと上昇を抑制して、粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を生成できる。
【0015】
このとき、本発明の一態様では、前記電解槽における前記電解液に対する水酸化インジウムの溶解度を10
−6〜10
−3mol/Lに制御すると共に、前記電解液の液面1m
2あたりにつき200〜600L/分の前記酸素含有ガスを前記酸素供給部から前記電解液に供給するように制御することとしてもよい。
【0016】
このようにすれば、電解液の溶存酸素濃度を少なくとも10ppm以上にしながら、当該電解液を泡状の酸素含有ガスで撹拌するので、電極近傍における電解液のpH値のばらつきと上昇を抑制して、粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を生成できる。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記酸素供給部は、少なくとも前記電極間のそれぞれの直下に設けられる供給孔から前記酸素含有ガスを泡状にして供給することとしてもよい。
【0018】
このようにすれば、電極近傍の電解液が酸素含有ガスで撹拌されるので、当該電極近傍における電解液のpH値のばらつきと上昇を抑制できる。
【0019】
また、本発明の一態様では、前記供給孔は、前記電極の幅方向に所定の間隔で複数設けられることとしてもよい。
【0020】
このようにすれば、電極近傍の電解液を酸素含有ガスによって、より効率的に撹拌されるので、当該電極近傍における電解液のpH値のばらつきと上昇を抑制できる。
【0021】
また、本発明の他の態様は、電解法を用いて陽極となるインジウムを電解して水酸化インジウム粉を生成する水酸化インジウム粉の製造方法であって、前記インジウムを電解する際に、電解液が貯留される電解槽
と前記電解液を調整する調整槽との間で前記電解液を循環させながら、前記電解槽に設けられる電極間に、泡状にした酸素含有ガスを前記電解槽の槽底側から前記電解液中に該電解液の溶存酸素濃度が少なくとも10ppm以上となるように供給して、前記電解液を撹拌することを特徴とする。
【0022】
本発明の他の態様によれば、酸素含有ガスで電解液を撹拌することによって、当該電解液の溶存酸素濃度を高められるので、電極近傍における電解液のpH値のばらつきと上昇を抑制して、粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を生成できるようになる。
【0023】
このとき、本発明の他の態様では、前記インジウムを電解する際に、前記電解液に対する水酸化インジウムの溶解度を10
−6〜10
−3mol/Lに制御すると共に、前記電解液の液面1m
2あたりにつき200〜600L/分の前記酸素含有ガスを前記電解液に供給するように制御することとしてもよい。
【0024】
このようにすれば、電解液の溶存酸素濃度を少なくとも10ppm以上にしながら、当該電解液を泡状の酸素含有ガスで撹拌するので、電極近傍における電解液のpH値のばらつきと上昇を抑制して、粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を生成できる。
【0025】
また、本発明の他の態様は、スパッタリングターゲットの製造方法であって、前述の何れかに記載の水酸化インジウム粉の製造方法によって生成された水酸化インジウム粉を用いて、酸化インジウム−酸化スズ系焼結体からなるスパッタリングターゲットを生成することを特徴とする。
【0026】
本発明の他の態様によれば、粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を用いることによって、相対密度が高い良質なITO焼結体を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、酸素含有ガスで電解液を撹拌することによって、電極近傍における電解液のpH値のばらつきと上昇を抑制するので、水酸化インジウム粉の粒成長度合及び凝集度合のばらつきを抑制して、高純度で粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を効率的に生成できる。このため、かかる水酸化インジウム粉を用いることで、相対密度が高い良質な焼結体からなるスパッタリングターゲットを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0030】
まず、本発明の一実施形態に係る電解装置の構成等について、図面を使用しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電解装置の概略構成図である。
【0031】
本発明の一実施形態に係る電解装置100は、電解法によって水酸化インジウム粉を生成する。電解装置100は、電解液102が貯留され、複数の電極103、104が設けられる電解槽101と、当該電解槽101に貯留される電解液102の温度やpH等を調整する不図示の調整槽を備える。電解槽101と調整槽は、循環手段となる不図示の循環ポンプを介して接続され、電解液が電解槽101と調整槽との間を循環するようになっている。
【0032】
電解槽101には、
図1に示すように、複数の電極として、陽極103と陰極104が電解液102に浸漬して交互に設けられている。本実施形態では、例えば、電極中心間距離が2.0cmとなるように陽極(アノード)103を4枚、陰極(カソード)104を5枚、それぞれ交互に配置し、陽極103と陰極104を導線105(例えば、2芯VVケーブル「JIS C 3342」、許容電流200A、公称断面積100mm
2)を用いて繋いで、整流器106と結線している。また、陰極104は、互いに導線107で電気的に接続されている。
【0033】
電解槽101の形状は、特に限定されず、一般的な直方体、立方体等の方形体等を適用することができ、槽内に配置する電極等の数や大きさ等を考慮して適宜決定される。また、電解槽101の四隅の形状は、水酸化インジウム粉の流動性を確保して、局所的な堆積が起こらないように、例えば角を丸くすることが好ましい。電解槽101の材質は、電解液102に溶解せず、かつ電解温度以上の耐熱性を有すればよく、PVCやPP、ステンレス、チタン等を用いることができる。
【0034】
陽極103には、金属インジウムを用いる。使用する金属インジウムは、特に限定されないが、水酸化インジウム粉及びこれを焼成して得られる酸化インジウム粉への不純物の混入を抑制するため高純度のものが望ましい。金属インジウムとしては、純度99.9999%(通称6N品)が好適品として挙げることができる。
【0035】
陽極103の厚みは、好ましくは極間距離が電解工程時間中で著しく変わらない程度の厚みにすることがよい。また、取扱い時の重量からみても、徒に厚くすることは好ましくない。
【0036】
陰極104には、導電性の金属やカーボン電極等が用いられ、例えば不溶性のチタンや白金を用いることができ、チタンを白金でコーティングしたものであってもよく、陽極103と同じ材料を利用してもよい。
【0037】
陽極103と陰極104の間の電極間距離は、特に指定されないが、10〜50mmが望ましい。50mmより広くなると、液抵抗による電圧降下が発生し、液温上昇を生じさせるため好ましくない。また10mmより狭くなると、電極間での接触・ショートが発生しやすくなるため好ましくない。
【0038】
電解槽101の構造において、陽極103と陰極104は、一般的な配置を採用してよく、例えば、互いに平行に配置することが好ましい。また、陽極103と陰極104の大きさは、生産規模に応じて決められるが、工業的な面を考慮して決められ、目標の製造量に見合うように決定してもよい。
【0039】
また、本実施形態では、電解装置100は、電解槽101の槽底側に設けられ、少なくとも陽極103と陰極104の電極間に、少なくとも酸素が含まれる酸素含有ガスを槽底側から電解液中に供給する酸素供給部110を備えることを特徴とする。
【0040】
本発明者らは、電解法で製造される水酸化インジウム粉の粒度が揃わない理由の1つとして、電解液102のpH値が中性に近く、電解液中への水酸化インジウムの溶解度が小さい場合には、一次粒径が小さくなるため、一次粒子が凝集しやすくなり、結果として二次粒子径が大きくなると共に、当該二次粒子のばらつきも大きくなることを解明した。また、電解法で製造される水酸化インジウム粉の粒度が揃わない理由の2つ目として、電解時に陰極104の表面では、下記の式1に示す反応が生じており、水素イオンを消費するため、電極近傍の液のpH値が上昇することを解明した。
2NO
3−+20H
++18e
−+3O
2 →2NO+10H
2O(式1)
【0041】
また、本発明者らは、電解法で製造される水酸化インジウム粉の粒度が均一にならない原因として、電極表面近傍の電解液102の流れが不均一になることにより、電極近傍でのpH値にばらつきが発生して、その結果、場所による一次粒子の粒成長度合及び凝集度合に違いが生じることを解明して、本発明に至った。
【0042】
さらに、本発明者らは、電解法では、陽極103の表面に電極の表面酸化反応による水酸化インジウム粉や酸化インジウム粉、金属インジウムのスラッジが発生して、陽極中に微量に残留していた不純物成分がこのスラッジ中に残留、濃縮されて、高濃度化してしまうことから、電極表面近傍の電解液102の流れや溶存酸素濃度の違いにより、電解中、陽極103の表面のスラッジが剥離し、剥離したスラッジが浮遊して水酸化インジウム粉の品位に違いが生じることを解明して、本発明に至った。
【0043】
このため、本発明の一実施形態では、酸素供給部110から電解液102に供給される空気等の酸素含有ガスで電解液102を撹拌しながら、電解液102の溶存酸素濃度を高めることによって、電極近傍のpH値のばらつきと上昇を抑制して、粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を生成するようにしている。
【0044】
本実施形態では、酸素供給部110として、
図1に示すように、酸素含有ガスを電解液に供給するためのガス配管111が側壁101a及び槽底101bに沿うように設けられる。ガス配管111には、槽底101bに沿う部位110bに所定の間隔で供給孔112が設けられ、当該供給孔112から電解液102に泡状の酸素含有ガスを供給する。なお、酸素供給部110のガス配管111の構成は、
図1に示す例に限定されず、例えば、ガス配管111が直接、電解槽101の槽底側の側壁101を貫通するようにして設けられてもよい。
【0045】
陽極103と陰極104の電極間における電解液102のpH値のばらつきと上昇を効率的に抑制するために、供給孔112は、
図1に示すように、少なくとも各電極103、104間に有するスペースの直下に配置されるように設けられる。そして、かかる供給孔112から当該電極間に酸素含有ガスを供給して、効率的に電解液102を撹拌しながら、当該電解液102の溶存酸素濃度を高めている。なお、本実施形態では、供給孔112は、
図1に示すように、各電極103、104間のそれぞれの直下以外にも、電解槽101の両端側に有する陰極104の外側の直下にも設けられ、当該電解槽101の両端側に有する陰極104の外側の直下の電解液102も酸素含有ガスで撹拌可能としている。
【0046】
ガス配管111に設置する供給孔112の大きさ、数は、任意に決めることができ、噴出させるガス量に応じて適宜決定される。電解液102の溶存酸素濃度を効率的に高めるためには、酸素含有ガスの気泡のサイズが数ミリ単位の微小な泡状にして供給することが好ましいので、例えば、供給孔112の内径の大きさをΦ3mm、供給孔112の間隔を30〜50mmにすれば好適である。なお、電解液102の撹拌効率を高めながら溶存酸素濃度を効率的に高めるために、
図2に示すように、酸素供給部110の槽底側のガス配管111b(111)が枝分かれして、当該枝分かれしたガス配管111aに供給孔112を電極103、104の幅方向に所定の間隔で複数設けられるようにしてもよい。
【0047】
酸素供給部110の供給孔112から噴出させる酸素含有ガスは、電解液中の溶存酸素濃度を高めるため、所定量以上の酸素が含まれている空気や酸素ガスが好ましい。一般的には、コストの観点から、酸素含有ガスとして空気を使用することが好ましい。その際に、電解液中に酸素含有ガスとなる空気に含まれるごみを取り込まないように、事前にフィルター等でごみを除去しておくことが望ましい。
【0048】
供給孔112から噴出した酸素含有ガスは、電解液中で泡状になって液面に浮上していく。そして、電解液中を当該泡状の酸素含有ガスが無数に浮上してから、崩壊することによって、電極間の電解液102が十分に撹拌されると同時に、電解液中の溶存酸素濃度を高めることができる。
【0049】
酸素供給部110の供給孔112から酸素含有ガスを供給する際に、電解液中の溶存酸素濃度が10ppm以上となるように酸素含有ガスを供給することが好ましい。電解液中に溶存酸素が十分に存在する10ppm以上であれば、陽極103から溶出したインジウムは、十分に酸化されて化学的に安定した3価のインジウム・イオンになる。しかし、溶存酸素濃度が不十分な10ppm未満に低下した場合、陽極表面では、1価インジウム・イオンのまま存在して、下記の式2に示す不均一化反応が進むので、微粉状のインジウムが発生して、当該インジウムを含むスラッジが成長してしまう。
3In
+→2In
3++In(式2)
【0050】
このようにインジウムを含むスラッジが成長すると、陽極103の表面からの当該スラッジの脱落、浮遊の原因となって、かかる浮遊スラッジが水酸化インジウム粉への汚染発生の原因となる。このため、本実施形態では、電解液中の溶存酸素濃度が10ppm以上となるように、酸素供給部110から泡状の酸素含有ガスを電解液102に供給している。
【0051】
また、酸素供給部110の供給孔112から噴出させる酸素含有ガスの量は、撹拌強度を得るために、ある程度は、多い方が望ましく、具体的には、液面1m
2あたり200〜600L/分とすることが望ましい。液面1m
2あたり200L/分よりも少ない場合は、電極間の液の撹拌が不十分となり、生成した水酸化インジウム粉の粒度分布の幅が広くなるため、好ましくない。一方、液面1m
2あたり600L/分よりも多い場合には、装置周辺に電解液がはねてしまい、電解液の減少や、作業環境の悪化を招くため、好ましくない。
【0052】
さらに、電解槽101における電解液102に対する水酸化インジウムの溶解度を10
−6〜10
−3mol/Lに制御すると共に、酸素供給部110の供給孔112から噴出させる酸素含有ガスの量、すなわち撹拌強度を液面1m
2あたり200〜600L/分とすることによって、電解液102の溶存酸素濃度を少なくとも10ppm以上にしながら、当該電解液102を泡状の酸素含有ガスで撹拌されるようになる。このため、電極近傍における電解液102のpH値のばらつきと上昇を抑制して、粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を生成できるようになる。
【0053】
このように、本実施形態では、空気等の酸素含有ガスで電解液102を撹拌することによって、電極近傍のpH値のばらつきと上昇を抑制するので、粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を効率的に生成できるようになる。また、電解液中の溶存酸素濃度を所定の大きさ以上となるように確保することで、陽極表面のスラッジの剥離、浮遊を抑制するので、高純度な水酸化インジウム粉が得られるようになる。さらに、当該水酸化インジウム粉を使用することによって、高密度、高純度な酸化インジウム−酸化スズ系焼結体からなるスパッタリングターゲットが得られるようになる。
【0054】
次に、本発明の一実施形態に係る水酸化インジウム粉の製造方法の概略について、図面を使用しながら説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る水酸化インジウム粉の製造方法の概略を示すフロー図である。
【0055】
本発明の一実施形態に係る水酸化インジウム粉の製造方法は、電気分解工程S11、電解液分離工程S12、洗浄工程S13、洗浄液脱水工程S14、及び乾燥工程S15を含む。そして、これらの工程S11乃至S15が
図3に示すフローで行われることによって、水酸化インジウム粉が生成される。
【0056】
(電気分解工程)
電気分解工程S11では、硝酸アンモニウム水溶液を電解液に用いた電解法により、インジウムを含むアノード(陽極)と、カソード(陰極)とを電解液に浸漬させ、電解反応により水酸化インジウム粉を含む電解スラリーを生成する。
【0057】
電気分解工程S11では、金属インジウムをアノード(陽極)とし、対極のカソード(陰極)に導電性の金属やカーボン電極を使用し、陽極及び陰極を電解液に浸漬して両極間に電位差を発生させて電流を生じさせることによって陽極金属が溶解し、水酸化インジウム粉が晶析して、水酸化インジウム粉を含む電解液からなる電解スラリーを得る。
【0058】
電解液としては、水溶性の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩等の一般的な電解質塩の水溶液を用いることができる。その中でも、硝酸アンモニウムが好ましい。硝酸アンモニウムは、水酸化インジウム粉を沈殿した後の乾燥、仮焼後に硝酸イオン及びアンモニウムイオンが窒素化合物として除去されて不純物として残らず、生成される水酸化インジウム粉の純度を高め、かつコストを削減することができる。
【0059】
電解液は、生成された水酸化インジウム粉の溶解度が10
−6〜10
−3mol/Lの範囲であることが好ましい。電解液では、水酸化インジウム粉の溶解度を10
−6〜10
−3mol/Lの範囲にすることで適度に一次粒子の成長が促進されるため、凝集が抑制され、粒度分布幅が広くならず、粒度分布幅が狭く、粒径が均一な水酸化インジウム粉を得ることができる。溶解度が10
−6mol/Lよりも低い場合には、水酸化インジウムの一次粒子が微細化してしまい、凝集が促進され、粒度分布の幅が広くなる。溶解度が10
−3mol/Lよりも高い場合には、水酸化インジウムが溶解してしまってスラリーを得ることができなくなってしまったり、水酸化インジウムの一次粒子径が成長しすぎてしまい、逆に粒度分布が大きくなってしまう。
【0060】
電解液は、硝酸アンモニウムの濃度を0.1〜2.0mol/L、pHを2.5〜4.0、液温を20〜60℃の範囲に調製することが好ましい。
【0061】
硝酸アンモニウムの濃度が0.1mol/Lより薄いと、電解時の電圧上昇が大きくなり、通電部が発熱したり、電力コストが高くなる等の問題が生じるため好ましくない。一方、硝酸アンモニウムの濃度が2.0mol/Lより濃くなると、電解液中の水酸化インジウムの溶解度が高くなるため、水酸化インジイウム粒子が粗大化し、粒径のばらつきが大きくなるため好ましくない。このため、硝酸アンモニウムの濃度は、0.1〜2.0mol/Lの範囲が好ましい。
【0062】
電解液のpHが2.5より小さい場合には、水酸化物の沈殿が生じず、一方、4.0よりも大きい場合には、水酸化物の析出速度が速過ぎて濃度不均一のまま沈殿が形成されるため粒度分布幅が広がってしまい好ましくない。このため、電解液のpHは、2.5〜8.0の範囲が好ましい。
【0063】
電解液の液温が20℃よりも低い場合には、析出速度が遅過ぎ、一方、60℃よりも高い場合には析出速度が速過ぎて濃度不均一のまま沈殿が形成されるため粒度分布幅が広がり好ましくない。このため、電解液の液温は、20〜60℃の範囲が好ましい。
【0064】
また、電解時の電流密度としては、4〜20A/dm
2が好ましく、広範囲の電流密度とすることができる。電流密度が4A/dm
2より低い場合には、水酸化インジウム粉の生産効率が低下してしまう。一方、電流密度が20A/dm
2を超える場合、電解液の上昇、陽極(金属インジウム)の表面に不動態化して電解し難くなるなどの問題が生じるので好ましくない。
【0065】
また、本実施形態では、前述した本発明の一実施形態に係る電解装置を用いて電解を行っている。すなわち、電解液中の溶存酸素濃度が10ppm以上となるように、泡状の酸素含有ガスを供給することによって電解槽内の電解液を撹拌するので、電極近傍のpH値のばらつきと上昇を抑制して、高純度で粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を効率的に生成できるようになる。
【0066】
(電解液分離工程)
電気分解工程S11が終了すると、次に、電解液分離工程S12に移行する。電解液分離工程S12では、電気分解工程S11により得られた電解スラリーから、電解液と水酸化インジウム粉を含むケーキとを固液分離する。
【0067】
本実施形態では、電解液分離工程S12で電解スラリーから電解液を分離するために、微細な粉末であっても目詰まりを起こし難く、水酸化インジウム粉の回収効率が高いクロスフロー方式のロータリーフィルタを使用する。ロータリーフィルタで使用するろ布は、水酸化インジウム粉の回収率を高めるため、できるだけ通気度が小さい方が望ましい。通気度が0.3cm
3/sec/cm
2以下のものが好ましい。
【0068】
(洗浄工程)
洗浄工程S13では、電解液分離工程S12で得られた水酸化インジウム粉を含むケーキには、電解液が含まれているため、洗浄液を加えて当該ケーキをリパルプ洗浄する。リパルプ洗浄に使用する洗浄液は、不純物が少ない方が望ましいため、本実施形態では、洗浄液として純水を用いる。洗浄液に用いる純水は、特に、JIS K0557に規定されたA2グレード以上であることが望ましい。これ以下のグレードである場合には、シリカ等の不純物が混入し、生成された水酸化インジウム粉を使用したスパッタリングターゲットを作製する際に問題となるため、好ましくない。
【0069】
リパルプ洗浄は、水酸化インジウム粉1kgに対して5〜20Lの純水を用いて洗浄することが望ましい。使用する純水の量が5Lより少ない場合には、水酸化インジウム粉内に電解液成分である例えば硝酸アンモニウムが多く残留してしまい、水酸化インジウム粉の乾燥時、水酸化インジウム粉を仮焼し、酸化インジウム粉を得る際に火災が発生する危険性が高くなる。一方、20Lの純水を使用すれば洗浄できるため、20Lよりも多く使用すると洗浄後の排水処理量が増加し、コストアップとなってしまう。このため、本実施形態では、リパルプ洗浄では、水酸化インジウム粉1kgに対して5〜20Lの純水を用いて洗浄するようにしている。
【0070】
洗浄工程S13では、電解スラリーを固液分離して得られたケーキに洗浄液を加えて必要に応じて撹拌を行う。洗浄工程S13では、リパルプ洗浄を1回以上行うことによって、電解スラリー中の電解液を除去でき、水酸化インジウム粉を洗浄することができる。
【0071】
(洗浄液脱水工程)
洗浄液脱水工程S14では、洗浄工程S13で得られた洗浄スラリーから洗浄液を脱水して、水酸化インジウム粉を得る。本実施形態では、洗浄液脱水工程S14における脱水には、微細な粉末であっても目詰まりを起こし難く回収効率の高いクロスフロー方式のロータリーフィルタを使用する。
【0072】
(乾燥工程)
乾燥工程S15では、洗浄液脱水工程S14で得られた水酸化インジウム粉を乾燥する。乾燥工程S15では、水酸化インジウム粉の乾燥方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スプレードライヤ、空気対流型乾燥炉、赤外線乾燥炉等の乾燥機を用いて乾燥することができる。
【0073】
乾燥条件は、水酸化インジウム粉の水分を除去できれば特に限定されないが、乾燥温度は、例えば、80℃〜150℃の範囲が好ましい。乾燥温度が80℃よりも低い場合には、乾燥が不十分となり、150℃よりも高い場合には、水酸化インジウムから酸化インジウムに変化してしまう。また、乾燥時間は、温度により異なるが、約10時間〜24時間程度である。
【0074】
(酸化インジウムの製造工程)
本実施形態では、前述した水酸化インジウム粉の製造方法によって生成された水酸化インジウム粉を用いて、酸化インジウム粉を生成する。酸化インジウム粉の製造工程では、乾燥工程による乾燥後の水酸化インジウム粉を仮焼して酸化インジウム粉を生成する。仮焼条件は、適宜決定するが、例えば仮焼温度600〜800℃、仮焼時間1〜10時間で行うことが好ましい。
【0075】
仮焼温度600℃よりも低いと、酸化インジウム粉のBET値が15m
2/gを超えてしまい、一次粒子が小さすぎるために、凝集性を有する粉末となる。これにより、得られた酸化インジウム粉では、高密度の焼結材料、例えば酸化インジウム錫(ITO)焼結材料を得ることができない。仮焼温度800℃より高いと、酸化インジウム粉のBET値が10m
2/g未満になり、一次粒子径が大きくなり、粒子間に生じる空孔も大きくなるため、焼結性が低下する。これにより、得られた酸化インジウム粉では、高密度の焼結材料を得ることができない。したがって、高密度の焼結材料を得るためには、仮焼温度を600℃〜800℃の範囲とすることが好ましい。
【0076】
得られた酸化インジウム粉は、比表面積のBET値が10〜15m
2/gの範囲内に制御されており、粒度分布の累積粒度10%径(D10)が0.2μm以上、累積粒度90%径(D90)が2.7μm以下である。このような酸化インジウム粉は、比表面積が制御されており、分散性が良く、凝集が少ないため、高密度の焼結材料を生成することができる。
【0077】
なお、酸化インジウム粉の製造工程では、水酸化インジウム粉をより所望の粒径とするため必要に応じて解砕又は粉砕を行ってもよい。また、この酸化インジウム粉の製造工程では、水酸化インジウム粉の電解の際に電解液に硝酸アンモニウムを用いた場合、硝酸アンモニウムの分解が生じ、酸化インジウム粉への混入を防止することができる。
【0078】
(スパッタリングターゲットの製造方法)
スパッタリングターゲットの製造方法は、まず、前述した酸化インジウム粉の製造方法により得られた酸化インジウム粉を酸化スズ粉等のターゲットの他の原料と所定の割合で混合し造粒粉を作製する。次に、造粒粉を用いて例えばコールドプレス法により成型体を作製する。
【0079】
その後、成型体を大気圧下で例えば1300〜1600℃の温度範囲内で焼結を行う。次に、必要に応じて、焼結体の平面や側面を研磨する等の加工を行う。そして、焼結体をCu製のバッキングプレートにボンディングすることにより、酸化インジウムスズスパッタリングターゲット(ITOスパッタリングターゲット)を得ることができる。
【0080】
本実施形態によるスパッタリングターゲットの製造方法では、原料となる酸化インジウム粉の比表面積が制御されており、分散性が良いものであるため、高密度の焼結体を得ることができ、スパッタリングターゲットの密度を高くすることできる。これにより、スパッタリングターゲットは、加工中に割れ欠けが生じず、スパッタの際に異常放電が発生することも抑制できる。
【実施例】
【0081】
次に、本発明の一実施形態に係る水酸化インジウム粉の製造方法の実施例及び比較例を用いて、本発明の一実施形態に係る水酸化インジウム粉の製造方法について、更に詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
(1)電気分解工程
電気分解工程では、前述した本発明の一実施形態に係る電解装置を用いて水酸化インジウム粉を生成した。電解装置は、電解槽(長さ40cm×幅40cm×高さ50cm)に陰極と陽極を配置した。電解槽には、pHを3.5に調整した液温40℃、1.0mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液を72L入れた。このときの電解液に対する水酸化インジウムの溶解度を確認したところ、10
−4mol/Lであった。
【0083】
また、陰極には、巾26cm、高さ40cm、厚み4mmのチタン金属板を5枚準備した。一方、陽極には、純度99.9999%のインジウム金属を巾26cm、高さ40cm、厚み8mmの板状に成型したものを4枚準備した。そして、これらの5枚の陰極と4枚の陽極を両極が互いに平行となるように、交互に配置して、その際に、陰極と陽極と間の距離を2.0cmに調節し配置した。また、4枚の陰極は、導線で電気的に接続されている。
【0084】
酸素供給部となるガス配管は、電解槽の底にそって、かつ電極表面に並行になるように、計10本設置した。ガス配管の1本の長さを35cmとし、ガス噴出用の穴の内径をΦ3mm、穴と穴の間隔を30mmとした。撹拌に使用した酸素含有ガスとして、空気を使用した。ガス量は、48L/分(液面1m
2あたり300L/分)とした。
【0085】
また、電極電流密度は、15A/dm
2に調節し、6時間電解を継続することで、水酸化インジウム粉を含む電解スラリーを得た。
【0086】
(2)電解液分離工程
次に、水酸化インジウム粉を含む電解スラリーの固液分離を行った。固液分離には、ロータリーフィルタ(寿工業(株)製RFU−02B)と、ろ布(KE−022、通気度0.1cm
3/sec/cm
2)を使用して行った。固液分離した結果、水酸化インジウム粉を含むケーキと、分離された電解液とが得られた。
【0087】
(3)洗浄工程
次に、水酸化インジウム粉を含むケーキをリパルプ洗浄する洗浄工程では、水酸化インジウムスラリーを30L入りステンレス容器に入れて、水酸化インジウム1kgに対して純水10Lを加えて、撹拌再分散した。これを上記固液分離工程と同じ方法で固液分離操作を行い再び、水酸化インジウム粉を含むケーキを得た。
【0088】
(4)乾燥工程及び酸化インジウムの製造工程
この方法で得られた水酸化インジウム粉を含むケーキを粘度調整してからスプレードライヤで噴霧乾燥したのち、大気中700℃で焼成した。
【0089】
(5)焼結体の製造工程
得られた酸化インジウム粉と酸化スズ粉を9:1の割合で混合したものをコールドプレス法によって所定の形状に成形した後、1500℃で60時間焼結してITO焼結体を得た。
【0090】
<実施例2>
実施例2は、ガス噴出量を32L/分(液面1m
2あたり200L/分)とした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム粉を作製し、その水酸化インジウム粉からITO焼結体を作製した。
【0091】
<実施例3>
実施例3は、ガス噴出量を96L/分(液面1m
2あたり600L/分)とした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム粉を作製し、その水酸化インジウム粉からITO焼結体を作製した。
【0092】
<比較例1>
比較例1は、ガス噴出量を16L/分(液面1m
2あたり100L/分)とした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム粉を作製し、その水酸化インジウム粉からITO焼結体を作製した。
【0093】
<比較例2>
比較例2は、ガス噴出量を160L/分(液面1m
2あたり1000L/分)とした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム粉を作製し、その水酸化インジウム粉からITO焼結体を作製した。
【0094】
<比較例3>
比較例3は、電解液に対する水酸化インジウム溶解度を10
−7mol/L(pHを4.5、液温を18℃)とした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム粉を作製し、その水酸化インジウム粉からITO焼結体を作製した。
【0095】
<比較例4>
比較例4は、電解液に対する水酸化インジウム溶解度を10
−1mol/L(pHを1.5、液温を55℃)とした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム粉を作製し、その水酸化インジウム粉からITO焼結体を作製した。
【0096】
<比較例5>
比較例5は、電解液を回流とした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム粉を作製し、その水酸化インジウム粉からITO焼結体を作製した。
【0097】
以下の表1に実施例1〜3、比較例1〜4における、電解液中の溶存酸素濃度、及び作製した水酸化インジウム粉の粒度分布と、当該水酸化インジウム粉に含まれる不純物の濃度を示す不純物品位と、当該水酸化インジウム粉を仮焼して作製した酸化インジウム粉の粒度分布と、当該酸化インジウム粉を焼結して得られた焼結体の相対密度を示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示すように、実施例1〜3では、粒度分布幅(最大値−最小値)が1.7〜1.9μmと極めて粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉が得られた。また、水酸化インジウム粉の不純物品位が19〜25ppmと低い値となっており、高純度な水酸化インジウム粉が得られた。さらに、得られた水酸化インジウム粉を仮焼して酸化インジウム粉としてからITO焼結体に焼結した結果、焼結密度は、何れも99.8%以上と極めて高い焼結密度を得ることができた。
【0100】
一方、比較例1では、ガス噴出量を少なくしたことで、電極間の液撹拌が不十分となり、結果として電極間のpH値にばらつきが生じることによって、実施例1〜3と比べて粒度分布幅の広い水酸化インジウム粉が得られた。また、電解液の溶存酸素濃度が低いために、スラッジの浮遊による不純物品位の高い水酸化インジウム粉が得られた。さらに、得られた水酸化インジウム粉から酸化インジウム粉、及びITO焼結体を作製した結果、焼結密度は、99.0%未満であり、焼結密度は、実施例1〜3と比べて低い結果となった。
【0101】
一方、比較例2では、ガス噴出量を多くしたことで、電解液の表面が非常に荒れ、電解液の揮発やミストの発生が多くなったため、途中で電解を中止した。
【0102】
一方、比較例3では、電解液のpHと液温を制御することで電解液中への水酸化インジウム溶解度を小さくした結果、実施例1〜3と比べて粒度分布幅の広い水酸化インジウム粉が得られた。また、得られた水酸化インジウム粉から酸化インジウム粉と、ITO焼結体を作製した結果、焼結密度は、99.0%未満であり、焼結密度は、実施例1〜3と比べて低かった。
【0103】
一方、比較例4では、電解液のpHと液温を制御することで電解液中への水酸化インジウム溶解度を大きくした結果、水酸化インジウム粉がすべて電解液に溶解してしまい、水酸化インジウムスラリーを生成できなかった。
【0104】
一方、比較例5では、電解液を回流させたことで、電極間では流れの強い箇所と弱い箇所が発生してしまい、撹拌強度が不均一になり、実施例1〜3と比べて粒度分布幅の広い水酸化インジウム粉が得られた。また、電解液の溶存酸素が低いために、スラッジの浮遊による不純物品位の高い水酸化インジウム粉が得られた。さらに、得られた水酸化インジウム粉から酸化インジウム粉、及びITO焼結体を作製した結果、焼結密度は99.0%未満であり、焼結密度は、実施例1〜3と比べて低かった。
【0105】
以上の結果から、本発明の一実施形態に係る水酸化インジウム粉の製造方法では、電解法によって水酸化インジウム粉を生成する際に、電解液中の水酸化インジウム溶解量を10
−6〜10
−3mol/Lに制御して、かつ、電解液の液面1m
2あたりにつき200〜600L/分の酸素含有ガスを電解液に供給して、電極間を酸素含有ガスで撹拌することによって、高純度で粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉を得ることができる。
【0106】
すなわち、かかる条件で電解液中に酸素含有ガスを供給することによって、電解液の溶存酸素濃度を10ppm以上とするので、高純度で粒度分布幅の狭い水酸化インジウム粉が得られる。これにより、スパッタリングターゲットを生成する際に、本発明の一実施形態に係る水酸化インジウム粉の製造方法で生成された水酸化インジウム粉を用いて生成された酸化インジウムを使用して、相対密度が高いITO焼結体を得ることができる。
【0107】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0108】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、電解装置の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。