(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有するノンアスベスト摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中に銅を含まない、又は該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、有機充填材として、カシューダストを1.5〜4.5質量%含有し、無機充填材として、粒子径30μm以下の酸化ジルコニウムを30〜45質量%含有し、かつ、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを含有しないノンアスベスト摩擦材組成物。
前記無機充填材が、酸化ジルコニウムと酸化ジルコニウム以外の無機充填材とからなり、該酸化ジルコニウム以外の無機充填材が、三硫化アンチモン、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、酸化鉄、バーミキュライト、粒状チタン酸カリウム、硫酸カルシウム、板状チタン酸カリウム、黒鉛、マイカ、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、γ−アルミナからなる群から選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。なお、本発明において、ノンアスベスト摩擦材組成物、ノンアスベスト摩擦材及びノンアスベスト摩擦部材とは、アスベストを実質的に含まない摩擦材組成物、摩擦材及び摩擦部材をいう。また、以下の記述において、それぞれノンアスベスト摩擦材組成物を単に「摩擦材組成物」、ノンアスベスト摩擦材を単に「摩擦材」、ノンアスベスト摩擦部材を単に「摩擦部材」と称することがある。
[ノンアスベスト摩擦材組成物]
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有する摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、有機充填材として、カシューダストを1.5〜4.5質量%含有し、無機充填材として、粒子径30μm以下の酸化ジルコニウムを30〜45質量%含有し、かつ、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを含有しないことを特徴とする。
上記構成により、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材は、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境への負荷が少なく、かつ優れた摩擦係数、耐クラック性、及び耐摩耗性を発現する。
【0012】
(結合材)
結合材は、摩擦材組成物に含まれる有機充填材、無機充填材及び繊維基材などを一体化し、強度を与えるものである。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる結合材としては、通常、摩擦材の結合材として用いられる熱硬化性樹脂であれば特に制限なく用いることができる。
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂/アクリルエラストマー分散フェノール樹脂、シリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等の各種エラストマー分散フェノール樹脂/アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0013】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中の上記結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能悪化をより抑制できる。
【0014】
(有機充填材)
有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性などを向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、有機充填材として、カシューダスト1.5〜4.5質量%を必須成分として含有することを特徴とする。
カシューダストは、カシューナッツオイルを硬化させたものを粉砕して得られるものであり、商業的に入手することができる。また、カシューダストを後述するゴム成分で被覆したものを用いてもよい。
カシューダストの粒子径は、分散性の観点から、850μm以下であることが好ましく、750μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることがより更に好ましい。
また、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中のカシューダストの含有量を1.5質量%以上とすることで優れた摩擦係数、耐クラック性、及び耐摩耗性が発現し、4.5質量%以下とすることで摩擦係数の低下及び耐クラック性の悪化を避けることができる。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中のカシューダストの含有量は、1.8〜4.2質量%であることが好ましく、2.0〜4.0質量%であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物には、上記カシューダスト以外の有機充填材を組み合わせて用いることができる。
上記カシューダスト以外の有機充填材としては、通常、摩擦材に用いられる有機充填材であれば特に制限はなく、ゴム系の充填材、例えば、天然ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。音振性能の観点から、カシューダストと上記ゴム系の充填材とを併用することが好ましい。
カシューダストと、上記カシューダスト以外の有機充填材とを組み合わせて用いる場合には、その比率は2/1〜10/1(質量比)であることが好ましく、2/1〜9/1(質量比)であることがより好ましく、2/1〜6/1(質量比)であることが更に好ましい。
【0016】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中の上記有機充填材の含有量は、カシューダストを含め、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、1〜5.5質量%であることが更に好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなること、鳴きなどの音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。
【0017】
(無機充填材)
無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるための摩擦調整剤として含まれるものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、無機充填材として、粒子径30μm以下の酸化ジルコニウム30〜45質量%を必須成分として含有し、かつ、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことを特徴とする。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中の上記酸化ジルコニウムの含有量を30質量%以上とすることで、優れた摩擦係数、耐クラック性、及び耐摩耗性が発現し、45質量%以下とすることで、耐摩耗性の悪化を避けることができる。上記酸化ジルコニウムの含有量は、31〜44質量%であることが好ましい。
また、酸化ジルコニウムの粒子径を30μm以下とすることで、優れた摩擦係数が発現し、耐摩耗性の悪化を避けることができる。酸化ジルコニウムの粒子径は、28μm以下であることが好ましく、26μm以下であることがより好ましい。
さらに、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、摩擦係数、及び耐摩耗性の観点から、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを含有しない。ここでいう「粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを含有しない」とは、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中に含有される酸化ジルコニウムのうち、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの割合が1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下であることをいう。より好ましくは、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が0質量%であることである。
上記酸化ジルコニウムの平均粒子径は、1〜7μmであることが好ましく、1〜6.5μmであることがより好ましい。酸化ジルコニウムの平均粒子径を1μm以上とすることで優れた摩擦係数、耐摩耗性が発現し、7μm以下とすることで、耐摩耗性の悪化を避けることができる。なお、酸化ジルコニウムの粒子径及び平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定などの方法を用いて測定することができる。例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920(堀場製作所製)で測定することができる。
【0018】
また、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物には、上記酸化ジルコニウム以外の無機充填材を組み合わせて用いることができる。該無機充填材としては、通常、摩擦材に用いられる無機充填材であれば特に制限はない。
上記酸化ジルコニウム以外の無機充填材としては、例えば三硫化アンチモン、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、酸化鉄、バーミキュライト、粒状チタン酸カリウム、硫酸カルシウム、板状チタン酸カリウム、黒鉛、マイカ、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、γ−アルミナ等の活性アルミナなどが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。対面材への攻撃性低下の観点から、黒鉛、硫酸バリウムを含有することが好ましい。
【0019】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中の上記無機充填材の含有量は、酸化ジルコニウムを含め、30〜85質量%であることが好ましく、55〜85質量%であることがより好ましく、70〜85質量%であることが更に好ましい。無機充填材の含有量を30〜85質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができる。
【0020】
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において機械的強度の向上などの補強作用を示すものである。
本発明で用いられる繊維基材としては、無機繊維、金属繊維、有機繊維、炭素系繊維等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
上記無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、シリケート繊維、ウォラストナイト等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、環境負荷物質低減の観点からは、これら無機繊維のうち、人体に経口吸引されやすい、チタン酸カリウム繊維やセラミック繊維を含有しないことが好ましく、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2Oなどを任意の組み合わせで含有した生分解性セラミック繊維や生分解性鉱物繊維が好ましい。
【0022】
ここでいう鉱物繊維とは、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維であり、Al元素を含む天然鉱物であることがより好ましい。具体的には、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2O等が含まれるもの、又はこれら化合物が単独で又は2種以上含有されるものを用いることができ、より好ましくはこれらのうちAl元素を含むものを、鉱物繊維として用いることができる。摩擦材組成物中に含まれる鉱物繊維全体の平均繊維長が大きくなるほど摩擦材組成物中の各成分との接着強度が低下する傾向があるため、鉱物繊維全体の平均繊維長は500μm以下が好ましい。より好ましくは、100〜400μmである。ここで、平均繊維長とは、該当する全ての繊維の長さの平均値を示した数平均繊維長のことをいう。例えば200μmの平均繊維長とは、鉱物繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長を測定し、その平均値が200μmであることを示す。
本発明で用いられる鉱物繊維は、人体有害性の観点で生体溶解性であることが好ましい。ここでいう生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、且つ呼吸による短期バイオ永続試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠がないか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生がないことを満たす繊維を示す(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外))。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO
2−Al
2O
3−CaO−MgO−FeO−Na
2O系繊維等が挙げられ、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2O等を任意の組み合わせで含有した繊維が挙げられる。市販品としてはLAPINUSFIBRES B.V社製のRoxulシリーズなどが挙げられる。「Roxul」は、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2O等が含まれる。
【0023】
上記金属繊維としては、耐クラック性及び耐摩耗性の向上のため、銅又は銅合金の繊維を用いることができる。銅又は銅合金の繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ただし、銅又は銅合金の繊維を含有させる場合、環境への負荷を考慮すると、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における銅の含有量が、銅元素として5質量%以下の範囲となることを要し、環境負荷の観点からは、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0024】
また、上記金属繊維として、摩擦係数向上、耐クラック性の観点から銅及び銅合金以外の金属繊維を用いてもよい。銅及び銅合金以外の金属繊維としては、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の金属単体又は合金形態の繊維や、鋳鉄繊維などの金属を主成分とする繊維が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
耐摩耗性の観点から、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中の銅及び銅合金以外の金属の含有量は、0.5質量%以下となる範囲であることを要する。耐摩耗性向上の観点からは、銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しないこと(含有量0質量%)が好ましい。
【0025】
本発明において、有機繊維とは、後述する炭素系繊維以外の、有機物を主成分とする繊維状の材料をいい、耐クラック性及び耐摩耗性の向上などのために用いられる。
上記有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維(架橋構造を有する)等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。有機繊維としては、耐摩耗性の観点から、アラミド繊維を用いることが好ましい。
【0026】
上記炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、活性炭繊維等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中の上記繊維基材の含有量は、銅又は銅合金の金属繊維を含め、5〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることが更に好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%の範囲とすることで、摩擦材としての適正な気孔率が得られるため、弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能悪化が避けられる。また適正な材料強度及び耐摩耗性が得られ、更に成形性も向上させることができる。
【0028】
(その他の材料)
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物には、前記の結合材、有機充填材、無機充填材、繊維基材以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。
例えば、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における銅の含有量が、銅元素として5質量%以下となる範囲で、銅粉、黄銅粉、青銅粉等の金属粉末などを配合することができる。また、耐摩耗性の観点から、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素系ポリマーのような有機添加剤などを配合することができる。
【0029】
[摩擦材及び摩擦部材]
また、本発明は、上述のノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供する。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、これを成形することにより、自動車などのディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材として使用することができる。本発明の摩擦材は良好な摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性を示すため、制動時に負荷の大きいディスクブレーキパッドの摩擦材に好適である。
さらに、上記摩擦材を用いることにより、該摩擦材が摩擦面となるように形成した摩擦部材を得ることができる。該摩擦材を用いて形成することができる本発明の摩擦部材としては、例えば、下記の構成などが挙げられる。
【0030】
(1)摩擦材のみの構成。
(2)裏金と、該裏金の上に摩擦面となる本発明のノンアスベスト摩擦材組成物からなる摩擦材とを有する構成。
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、及び、裏金と摩擦材との接着を目的とした接着層をさらに介在させた構成。
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材に用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化プラスチック等を用いることができ、例えば、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層及び接着層としては、通常、ブレーキシューなどの摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0031】
本発明の摩擦材は、一般に使用されている方法を用いて製造することができ、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を成形して、好ましくは加熱加圧成形して製造される。
具体的には、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を、レディーゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130〜160℃、成形圧力20〜50MPaの条件で2〜10分間成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理する。必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理を行うことによって摩擦材を製造することができる。
【0032】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材は、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れるため、ディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦部材の「上張り材」として有用であり、さらに摩擦材として高い耐クラック性を有するため、摩擦部材の「下張り材」として成形して用いることもできる。
なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近の剪断強度、耐クラック性向上を目的とした層のことである。
【実施例】
【0033】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物、摩擦材及び摩擦部材について、実施例を用いて更に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
[実施例1〜6及び比較例1〜10]
(ディスクブレーキパッドの作製)
表1及び表2に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例1〜6及び比較例1〜10の摩擦材組成物を得た。この摩擦材組成物をレディーゲミキサー((株)マツボー製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業(株)製)で予備成形した。得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間、成形プレス(三起精工(株)製)を用いて鉄製の裏金(日立オートモティブシステムズ(株)製)と共に加熱加圧成形した。得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、実施例1〜6及び比較例1〜10のディスクブレーキパッドを得た。なお、実施例及び比較例では、裏金の厚さ6mm、摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm
2のディスクブレーキパッドを作製した。
【0035】
(摩擦係数の評価)
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験における摩擦係数の平均値を算出した。
【0036】
(耐クラック性の評価)
耐クラック性は、JASO C427に示されるブレーキ温度400℃の制動(初速度50km/h、終速度0km/h、減速度0.3G、制動前ブレーキ温度100℃)を摩擦材が半分の厚みとなるまで繰り返し、摩擦材側面及び摩擦面のクラックの生成を測定した。クラックの生成は、下記に従い、3段階評点にて評価した。
水準1:クラックの発生無し
水準2:摩擦材の摩擦面又は側面に0.1mmのシックネスゲージが入らない程度のクラックが生成
水準3:摩擦材の摩擦面又は側面に0.1mmのシックネスゲージが入る程度のクラックが生成
なお、摩擦材の摩擦面及び側面の一方にシックネスゲージが入らない程度のクラックが生成し、他方にシックネスゲージが入る程度のクラックが生成した場合、水準3とする。
【0037】
(耐摩耗性の評価)
耐摩耗性は、自動車技術会規格JASO C427に基づき測定し、ブレーキ温度100℃及び300℃の制動1000回相当の摩擦材の摩耗量を評価した。
上記JASO C406、JASO C427準拠による摩擦係数、耐摩耗性、耐クラック性の評価は、ダイナモメータ(三起精工(株)製)を用い、イナーシャ7kgf・m・s
2で評価を行った。また、上記評価は、ベンチレーテッドディスクロータ(材質:FC190、(株)キリウ製)及び、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。
【0038】
評価結果を表1及び表2に示す。
表1及び表2における、各構成成分の詳細は以下の通りである。また、以下に記載した平均粒子径及び最大粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920(堀場製作所製)で測定した。
(結合材)
フェノール樹脂:日立化成工業(株)製(商品名:HP491UP)
(有機充填材)
カシューダスト:東北化工(株)製(商品名:FF−1056、最大粒子径500μm)
(無機充填材)
硫酸バリウム:堺化学(株)製(商品名:硫酸バリウムBA)
黒鉛:TIMCAL社製(商品名:KS75)
マイカ:イメリス社製(商品名:325HK、平均粒子径25μm、最大粒子径100μm)
チタン酸カリウム:(株)クボタ製(商品名:TAXA−MA、板状チタン酸カリウム)
硫化錫:Chemetall社製(商品名:Stannolube)
水酸化カルシウム:秩父石灰工業(株)製(商品名:SA−149)
酸化ジルコニウムA:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:BR−3QZ、平均粒子径2.0μm、最大粒子径15μm)
酸化ジルコニウムB:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:BR−QZ、平均粒子径6.5μm、最大粒子径26μm)
酸化ジルコニウムC:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:BR−12QZ、平均粒子径8.5μm、最大粒子径45μm)
(有機繊維)
アラミド繊維:東レ・デュポン(株)製(商品名:1F538)
(金属繊維)
銅繊維:Sunny metal社製(商品名:SCA−1070)
鉄繊維:GMT社製(商品名:#0)
(無機繊維)
鉱物繊維:LAPINUS FIBRES B.V社製(商品名:RB240Roxul 1000、平均繊維長300μm)
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
実施例1〜6は、銅の含有量が銅元素として5質量%を超える比較例1と同水準の摩擦係数、耐クラック性、及び耐摩耗性を示した。また、実施例1〜6は、カシューダストの含有量が1.5質量%未満の比較例2〜4、同含有量が4.5質量%を超える比較例5、酸化ジルコニウムの含有量が30質量%未満の比較例2、3及び6、同含有量が45質量%を超える比較例7、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを含む比較例8及び9、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%を超える比較例10と比較して、摩擦係数及び/又は耐クラック性及び/又は耐摩耗性が優れる。