(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0012】
<アルデヒドの製造方法>
本発明の一態様であるアルデヒドの製造方法(以下、「本発明のアルデヒドの製造方法」と略す場合がある。)は、下記反応式(I)で表されるような、触媒存在下で1,2−ジオールからアルデヒドを生成する反応工程(以下、「反応工程」と略す場合がある。)を含むアルデヒドの製造方法であり、触媒が酸化タングステンと担体を複合化した酸化タングステン−担体複合体であることを特徴とする。
【化1】
本発明者らは、工業的に有用なアルデヒドを効率的に製造することができる方法を求めて検討を重ねた結果、1,2−ジオールからアルデヒドを生成する反応において、酸化タングステンと担体を複合化した酸化タングステン−担体複合体触媒を用いることにより、高転化率かつ高選択率でアルデヒドを合成できることを見出したのである。本発明のアルデヒドの製造方法は、例えばバイオディーゼル等の副産物であるグリセリンを有効活用して、化学中間製品等を製造することができる有用な方法となる。具体的には、グリセリンをプロピレングリコールに変換した上で、本発明のアルデヒドの製造方法を利用することにより、プロピオンアルデヒド(プロパナール)を効率的に製造することができるのである。
近年、地球環境問題とりわけ二酸化炭素による温暖化現象が一段と顕在化してきており、化石燃料を消費し続ける限り、大気中への二酸化炭素の蓄積は解消できないことは確実である。本発明のアルデヒドの製造方法は、化石資源を使用せずにアルデヒドを製造できる方法であり、二酸化炭素の削減に貢献できる方法なのである。
なお、本発明において「1,2−ジオール」とは、下記式(II)で表される化合物のように、炭素鎖の末端とその隣接した位置にそれぞれヒドロキシル基を有するジオール類を意味し、例えば他の官能基の存在によってヒドロキシル基の結合位置が1位と2位ではない化合物であっても、炭素鎖の末端とその隣接した位置にそれぞれヒドロキシル基を有する化合物であれば、本発明における「1,2−ジオール」に含まれるものとする。
【化2】
(式(II)中、Rは窒素原子、
水素と結合していない酸素原子、及びハロゲン原子から
なる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
また、「アルデヒド」とは、前述の「1,2−ジオール」から生成するアルデヒド化合物を意味し、下記式(III)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
(式(III)中、Rは窒素原子、
水素と結合していない酸素原子、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
さらに、「酸化タングステン」は、タングステン(W)原子と酸素(O)原子からなる化合物(水素(H)原子は含んでもよい。)であれば、タングステンの酸化数、組成、結晶構造等は特に限定されないものとする。なお、ケイタングステン酸(H
4(SiW
12O
40))やホスホタングステン酸(H
3(PW
12O
40))等のように、タングステン酸(W
mO
n)
x−骨格にヘテロ原子が挿入されたヘテロポリタングステン酸は、本発明における「酸化タングステン」には含まれないものとする。
加えて、「酸化タングステンと担体を複合化した酸化タングステン−担体複合体」とは、酸化タングステンと担体とが物理的又は化学的に結合している物質を意味し、酸化タングステンが担体に担持されている状態であっても、或いは酸化タングステンが担体内部に取り込まれて複合化している状態であってもよいことを意味する。
【0013】
本発明のアルデヒドの製造方法は、触媒が酸化タングステンと担体を複合化した酸化タングステン−担体複合体であることを特徴とするが、以下、酸化タングステン−担体複合体について詳細に説明する。
前述のように、酸化タングステンは、タングステン(W)原子と酸素(O)原子からなる化合物(水素(H)原子は含んでもよい。)であれば、その他については特に限定されないが、タングステンの酸化数、組成、結晶構造等について具体例を挙げて説明する。
タングステンの酸化数は、1〜6価の何れであってもよいが、6価であることが好ましい。
酸化タングステンの組成は、酸化タングステン(W
2O
3)、二酸化タングステン(WO
2)、三酸化タングステン(WO
3)、又はこれらの混晶の何れであってもよいが、三酸化タングステン(WO
3)であることが好ましい。
酸化タングステンの結晶構造は、正方晶、斜方晶、単斜晶、三斜晶、非晶質等あるが、非晶質であることが好ましい。
【0014】
担体は、特に限定されず、公知のものを適宜選択することができるが、シリカ(SiO
2)、ゼオライト、チタニア、ジルコニア等が挙げられる。これらの中でも、シリカが特に好ましい。担体がシリカであると、反応の転化率とアルデヒドの選択率がより高くなる傾向にある。
なお、担体は市販されているものが存在し、例えばシリカ(SiO
2)としては、富士シリシア化学製のCARiACT Q10(細孔分布ピーク:10nm)、CARiACT
Q6(細孔分布ピーク:6nm)、CARiACT Q15(細孔分布ピーク:15nm)等が挙げられる。ゼオライトとしては、日揮触媒化成製のシリカアルミナN631L等が挙げられる。ジルコニアとしては、第一稀元素化学工業製のRSC−HP等が挙げられる。
【0015】
前述のように、酸化タングステンと担体とが物理的又は化学的に結合しているものであれば、その他については特に限定されないが、酸化タングステンが担体に担持されているものであることが好ましい。
【0016】
酸化タングステン−担体複合体の酸化タングステンの含有量は、特に限定されず目的に応じて適宜選択することができるが、通常5.0質量%以上、好ましくは9.3質量%以上、より好ましくは14.5質量%以上であり、通常40質量%以下、好ましくは29.6質量%以下、より好ましくは25.5質量%以下である。上記範囲内であると、反応の転化率とアルデヒドの選択率がより高くなる傾向にある。
【0017】
酸化タングステン−担体複合体の調製方法は、特に限定されず、無機化合物を複合化する公知の方法を適宜採用することができるが、例えば酸化タングステン前駆体と担体を接触させた生成物を焼成して調製する方法が挙げられる。より具体的には、酸化タングステン前駆体を含んだ溶液を担体と接触させた後、乾燥させて、再度接触させる操作を繰り返し、その生成物を焼成して調製する方法である。
【0018】
酸化タングステン前駆体としては、塩化タングステン、臭化タングステン、ヨウ化タングステン等のハロゲン化タングステン、タングステン酸ナトリウム(Na
2WO
4)、タングステン酸アンモニウム五水和物((NH
4)
10W
12O
41・5H
2O)、メタタングステナンモニウム((NH
4)
6H
2W
12O
40)等のタングステン酸塩等が挙げられ
るが、タングステン酸アンモニウム五水和物が特に好ましい。
【0019】
酸化タングステン前駆体と担体を接触させる方法としては、酸化タングステン前駆体溶液に担体を含浸する方法、酸化タングステン前駆体溶液を担体に滴下する方法、酸化タングステン前駆体溶液を担体に吹き付ける方法等が挙げられる。なお、酸化タングステン前駆体を溶解させる溶媒(溶液)は、酸化タングステン前駆体の種類に応じて適宜選択されるべきであるが、タングステン酸アンモニウム五水和物の場合は、30質量%過酸化水素水溶液が挙げられる。
【0020】
焼成温度は、通常260℃以上、好ましくは275℃以上、より好ましくは290℃以上であり、通常360℃以下、好ましくは345℃以下、より好ましくは330℃以下である。上記範囲内であると、反応の転化率とアルデヒドの選択率がより高くなる傾向にある。
【0021】
焼成時間は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上であり、通常500時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは25時間以下である。上記範囲内であると、反応の転化率とアルデヒドの選択率がより高くなる傾向にある。
【0022】
酸化タングステン−担体複合体は、寿命が1年以上の触媒となり得る。なお、「寿命」とは、触媒活性が90%まで低下するまでの反応総時間を意味するものとする。
【0023】
本発明のアルデヒドの製造方法は、触媒存在下で1,2−ジオールからアルデヒドを生成する反応工程を含む方法であるが、触媒が前述の酸化タングステン−担体複合体であれば、その他については特に限定されない。以下、反応工程について詳細に説明する。
【0024】
前述のように、1,2−ジオールは、炭素鎖の末端とその隣接した位置にそれぞれヒドロキシル基を有するジオール類であるが、下記式(II)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
(式(II)中、Rは窒素原子、
水素と結合していない酸素原子、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
なお、「窒素原子、
水素と結合していない酸素原子、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい」とは、フルオロ基(−F)等の窒素原子、酸素原子、又はハロゲン原子を含む官能基を含んでいてもよいことを意味するほか、イミノ基(−NH−)、エーテル基(−O−)等の窒素原子、
水素と結合していない酸素原子、又はハロゲン原子を含む連結基を炭素骨格の内部又は末端に含んでいてもよいことを意味する。
また、「炭化水素基」とは、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、分岐構造、環状構造、炭素−炭素不飽和結合のそれぞれを有していてもよい(分岐構造、環状構造、及び炭素−炭素不飽和結合からなる群より選ばれる少なくとも1種を有していてもよい)炭化水素基を意味する。
Rの炭素数は、好ましくは8以下、より好ましくは6以下であり、通常1以上である。
具体的な1,2−ジオールとしては、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0025】
前述のように、アルデヒドは、1,2−ジオールから生成するアルデヒド化合物であるが、下記式(III)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
(式(III)中、Rは窒素原子、酸素原子、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
具体的なアルデヒドとしては、プロピオンアルデヒド(プロパナール)、ブチルアルデヒド(ブタール)、3−メチル−ブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド(バレルアルデヒド)等が挙げられる。
【0026】
反応工程の反応温度は、通常230℃以上、好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上であり、通常350℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは290℃以下である。
【0027】
反応工程の反応圧力は、通常0.01MPa以上、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.08MPa以上であり、通常0.5MPa以下、好ましくは0.2MPa以下、より好ましくは0.12MPa以下である。
【0028】
反応工程の反応系には、触媒や1,2−ジオールのほか、水、水素ガス、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)等が存在していてもよい。
本反応工程は水の存在下で行われるのが好ましく、反応系における水の存在量(質量)は、1,2−ジオールに対して、好ましく1倍量以上、より好ましくは1.5倍量以上であり、通常9倍量以下、好ましくは6倍量以下、より好ましくは4倍量以下である。
反応系における水素ガスの分圧は、通常0.006MPa以上、好ましくは0.041MPa以上、より好ましくは0.072MPa以上であり、通常0.47MPa以下、好ましくは0.18MPa以下、より好ましくは0.12MPa以下である。
反応系における不活性ガスの分圧は、通常0.006MPa以上、好ましくは0.041MPa以上、より好ましくは0.072MPa以上であり、通常0.47MPa以下、好ましくは0.18MPa以下、より好ましくは0.12MPa以下である。
【0029】
反応工程は、特定量の1,2−ジオール等を反応系に投入して、反応後にアルデヒドを回収する回分式であっても、1,2−ジオール等を逐次供給して、生成したアルデヒドを逐次回収する連続式であってもよいが、工業的な観点から、連続式であることが好ましい。
なお、連続式である場合、1,2−ジオール等を気体として(ガス化して)供給することが好ましく、キャリアーガスを供給して行われることがより好ましい。
キャリアーガスとしては、前述の水素ガス、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)、又はこれらの混合ガスが挙げられる。
キャリアーガスの供給速度は、酸化タングステン−担体複合体1gに対して、通常20mL/min以上、好ましくは40L/min以上、より好ましくは60mL/min以上であり、通常240mL/min以下、好ましくは180mL/min以下、より好ましくは120mL/min以下である。
1,2−ジオールは、そのまま供給されるほか、水に溶解させた1,2−ジオール水溶液を、液体又は気体として(ガス化して)供給してもよい。
1,2−ジオール水溶液を用いる場合の1,2−ジオールの濃度は、通常1.0質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、通常90質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
1,2−ジオール水溶液を用いる場合の供給速度は、酸化タングステン−担体複合体1
.0gに対し、液供給速度として、通常0.05g/Hr以上、好ましくは0.1g/Hr以上、より好ましくは1.0g/Hr以上であり、通常10g/Hr以下、好ましくは8.0g/Hr以下、より好ましくは5.0g/Hr以下である。
【0030】
反応工程に使用する反応器は、特に限定されず、回分反応器、連続槽型反応器、連続管型反応器の何れであってもよいが、1,2−ジオール等を気体として供給する連続式である場合には、固定床常圧気相流通反応装置を使用することが好ましい。なお、反応器の材質は、ステンレスが好ましいが、その他、高温に耐え得る材質であれば何れの材料でも使用可能である。また、触媒は所定の反応温度に加熱した後、水素ガス等を供給して、1〜2時間程度保持することにより活性化することができる。
【0031】
<酸化タングステン−担体複合体の製造方法>
前述のように、本発明のアルデヒドの製造方法に使用する酸化タングステン−担体複合体は、例えば酸化タングステン前駆体と担体を接触させた生成物を焼成することによって調製することができるが、その中でも特に260〜360℃で1〜500時間焼成した酸化タングステン−担体複合体は、反応の転化率とアルデヒドの選択率が非常に高くなる傾向にある。
従って、酸化タングステン前駆体と担体を接触させる接触工程(以下、「接触工程」と略す場合がある。)、及び前記接触工程で得られた生成物を260〜360℃で1〜500時間焼成する焼成工程(以下、「焼成工程」と略す場合がある。)を含む酸化タングステン−担体複合体の製造方法も、本発明の一態様である。
接触工程における酸化タングステン前駆体と担体を接触させる方法としては、酸化タングステン前駆体溶液に担体を含浸する方法、酸化タングステン前駆体溶液を担体に滴下する方法、酸化タングステン前駆体溶液を担体に吹き付ける方法等が挙げられる。なお、酸化タングステン前駆体を溶解させる溶媒(溶液)は、酸化タングステン前駆体の種類に応じて適宜選択されるべきであるが、タングステン酸アンモニウム五水和物の場合は、30%過酸化水素水溶液が挙げられる。
焼成工程における焼成温度は、通常260℃以上、好ましくは275℃以上、より好ましくは290℃以上であり、通常360℃以下、好ましくは345℃以下、より好ましくは330℃以下である。
焼成工程における焼成時間は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上であり、通常500時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは25時間以下である。
本発明の酸化タングステン−担体複合体の製造方法によって得られる酸化タングステン−担体複合体の用途は、特に限定されず、目的に応じて様々なものに利用することができるが、その用途は触媒であることが好ましく、1,2−ジオールからアルデヒドを生成する反応用の触媒であることがより好ましい。
また、酸化タングステン−担体複合体の製造方法における酸化タングステン前駆体や担体等の詳細は、前述の通りである。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0033】
<酸化タングステン−担体複合体の調製>
(実施例1)
タングステン酸アンモニウム五水和物((NH
4)
10W
12O
41・5H
2O)を酸化タングステンの前駆体として用い、担体シリカ(フジシリシア製のシリカCARiACT
Q−10)上に三酸化タングステン(WO
3)を9.3重量%担持した酸化タングステ
ン−担体複合体を調製した(なお、三酸化タングステン(WO
3)の担持量(含有量)は、WO
3質量/触媒質量(担体質量+WO
3質量)で計算されるWO
3質量%である。WO
3質量は前駆体質量×化学組成式中のWO
3の量論割合から算出した。)詳細な触媒調製手順は、以下の通りである。
30質量%過酸化水素溶液にタングステン酸アンモニウム五水和物((NH
4)
10W
12O
41・5H
2O)を溶解した原料溶液を調製し、これを担体に滴下した後、80℃に加熱して水分を蒸発させた。必要量の原料溶液を滴下する操作を繰り返して、得られた試料を110℃で12時間乾燥させた。さらに260℃(焼成温度)で3時間焼成して酸化タングステン−担体複合体を調製した。得られた酸化タングステン−担体複合体について、X線回折測定(XRD,8 ADVANCE [Bruker製]、 光源:CuKα線)を行った結果を
図1に示す。
【0034】
(実施例2)
焼成温度を320℃に変更した以外、実施例1と同様にして酸化タングステン−担体複合体を調製した。得られた酸化タングステン−担体複合体について、X線回折測定(XRD)を行った結果を
図1に示す。
【0035】
(実施例3)
焼成温度を380℃に変更した以外、実施例1と同様にして酸化タングステン−担体複合体を調製した。得られた酸化タングステン−担体複合体について、X線回折測定(XRD)を行った結果を
図1に示す。
【0036】
(比較例1)
焼成温度を450℃に変更した以外、実施例1と同様にして酸化タングステン−担体複合体を調製した。得られた酸化タングステン−担体複合体について、X線回折測定(XRD)を行った結果を
図1に示す。
【0037】
(比較例2)
焼成温度を520℃に変更した以外、実施例1と同様にして酸化タングステン−担体複合体を調製した。得られた酸化タングステン−担体複合体について、X線回折測定(XRD)を行った結果を
図1に示す。
【0038】
(比較例3)
焼成温度を600℃に変更した以外、実施例1と同様にして酸化タングステン−担体複合体を調製した。得られた酸化タングステン−担体複合体について、X線回折測定(XRD)を行った結果を
図1に示す。
【0039】
図1のX線回折測定(XRD)の結果から明らかなように、380℃以下の焼成温度ではシリカに由来するピークしか検出されない一方、450℃以上の焼成温度では、非晶性の三酸化タングステン(WO
3)が結晶化したことに由来するピークが観測された。
【0040】
<1,2−ジオールからアルデヒドを生成する反応>
以下の実施例における反応は、内径17mm、全長300mmの反応器を備えた固定床常圧流通反応装置を用いて行った。該反応器は、上部にキャリアーガス導入口と原料供給口が、下部に反応粗液捕集容器(冷却)と接続した反応ガス流出口を備えている。捕集容器に補修された反応粗液は、ガスクロマトグラフィー(島津GC−2014型、検出限界:0.01%)を用いて分析され、検量線にて補正後、原料の1,2−ジオールの残量、アルデヒド等の生成物の収量を決定し、この値から転化率(モル%)、選択率(モル%)及び収率(モル%)を算出した。
【0041】
(実施例4〜
6、参考例1:焼成温度の影響)
実施例1〜3、及び比較例1〜3で調製した酸化タングステン−担体複合体0.5gをそれぞれ触媒として前述の固定床常圧流通反応装置に充填し、触媒層を250℃に加熱して、水素ガス雰囲気下で1時間保持して、触媒を活性化した。
次にキャリアーガス(水素ガス)を30mL/minで供給するとともに、20質量%の1,2−プロパンジオール水溶液を反応器上部より液供給速度1.32g/Hrで供給して、5時間反応させた。触媒層を通過した原料の1,2−プロパンジオールと生成物を含む反応粗液をドライアイス−アセトンで捕集し、それを1時間毎に回収して、ガスクロマトグラフィー分析を行った。
反応粗液中に含まれる主な化合物は、未反応の1,2−プロパンジオールと生成物であるプロピオンアルデヒド(プロパナール)、アセトン、ジオキソラン(2−エチル−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、アリルアルコールであることが確認された。
反応開始から5時間後まで(反応初期)の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表1に示す。なお、表1の数値は1時間毎に回収した反応粗液の分析結果の平均値である。
【表1】
【0042】
酸化タングステン−担体複合体の焼成温度が所定の範囲であると、転化率とアルデヒド(プロパナール)の選択率がより高くなることが明らかである。
【0043】
(実施例8)
三酸化タングステン(WO
3)の含有量を18.2質量%に変更した以外は、実施例5と同様の方法で反応を行った。反応開始から5時間後までの転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表2に示す。
【0044】
(比較例4)
酸化タングステン−担体複合体を、担体シリカ(フジシリシア製のシリカCARiACT Q−10)上に酸化モリブデン(MoO
3)を14.3質量%担持した酸化モリブデン−担体複合体(焼成温度:400℃)に変更した以外は、実施例5と同様の方法で反応を行った。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表2に示す。
【0045】
(比較例5)
酸化タングステン−担体複合体を、担体シリカ(フジシリシア製のシリカCARiACT Q−10)上に酸化バナジウム(V
2O
5)を8.6質量%担持した酸化バナジウム−担体複合体(焼成温度:400℃)に変更した以外は、実施例5と同様の方法で反応を行った。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表2に示す。
【0046】
(比較例6)
酸化タングステン−担体複合体を、担体シリカ(フジシリシア製のシリカCARiACT Q−10)上に酸化クロム(Cr
2O
5)を7.1質量%担持した酸化クロム−担体複合体(焼成温度:500℃)に、さらに触媒層の温度(反応温度)を300℃に変更した以外は、実施例5と同様の方法で反応を行った。反応開始から5時間後まで(反応初期)の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表2に示す。
【表2】
【0047】
酸化タングステン−担体複合体を触媒として用いると、転化率とアルデヒド(プロパナール)の選択率がより高くなることが明らかである。
【0048】
(実施例9〜13:酸化タングステンの含有量の影響)
酸化タングステンの含有量を表3に記載の所定量に変更した以外は、実施例5と同様の方法で反応を行った。なお、実施例11は、キャリアーガスを水素ガスから窒素ガスに変更(流量:30mL/min)して行った。反応開始から5時間後まで(反応初期)の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表3に示す。
【表3】
【0049】
酸化タングステン−担体複合体の酸化タングステンの含有量が所定の範囲であると、転化率とアルデヒド(プロパナール)の選択率がより高くなることが明らかである。また、水素ガスのみならず、不活性ガスである窒素ガス雰囲気下でも、高転化率かつ高選択率で
アルデヒド(プロパナール)が得られることが明らかである。
【0050】
(実施例14〜18:担体の影響)
担体と酸化タングステンの含有量を表4に記載の所定のものに変更した以外は、実施例5と8同様の方法で反応を行った。反応開始から5時間後まで(反応初期)の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表4に示す。
【表4】
【0051】
担体がシリカであると、転化率とアルデヒド(プロパナール)の選択率がより高くなることが明らかである。
【0052】
(実施例19〜21:反応温度の影響)
触媒層の温度(反応温度)を表5に記載の所定の温度に変更した以外は、実施例5と同様の方法で反応を行った。反応開始から5時間後まで(反応初期)の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表5に示す。
【表5】
【0053】
反応温度が所定の範囲であると、転化率とアルデヒド(プロパナール)の選択率がより高くなることが明らかである。
【0054】
(実施例22〜24:キャリアーガスの流量の影響)
キャリアーガス(水素ガス)の流量を表6に記載の所定量に変更した以外は、実施例5と同様の方法で反応を行った。反応開始から5時間後まで(反応初期)の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表6に示す。
【表6】
【0055】
キャリアーガス(水素ガス)の流量が所定の範囲であると、転化率とアルデヒド(プロパナール)の選択率がより高くなることが明らかである。
【0056】
(実施例25〜28:1,2−ジオールの濃度の影響)
供給する1,2−プロパンジオール水溶液における1,2−プロパンジオールの濃度を表7に記載の所定濃度に変更した以外は、実施例8と同様の方法で反応を行った。反応開始から5時間後まで(反応初期)の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表7に示す。
【表7】
【0057】
2−プロパンジオール水溶液における1,2−プロパンジオールの濃度が所定の範囲であると、転化率とアルデヒド(プロパナール)の選択率がより高くなることが明らかである。
【0058】
(実施例29〜31:反応期間の影響)
実施例8の反応について、反応開始から1月経過した後、6月経過した後、1年経過した後の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表8に示す。
【表8】
【0059】
反応開始から1年経過した後であっても、転化率とアルデヒド(プロパナール)の選択率の大幅な低下が見られないことが明らかである。