特許第6226380号(P6226380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226380
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】油脂抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 3/10 20060101AFI20171030BHJP
   B01D 11/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C11B3/10
   B01D11/00
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-42698(P2014-42698)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-168718(P2015-168718A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年2月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2014年2月18日岐阜大学において開催された公益社団法人化学工学会第79年会要旨集で公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】土屋 陽子
(72)【発明者】
【氏名】佐古 猛
(72)【発明者】
【氏名】岡島 いづみ
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮
【審査官】 吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−131303(JP,A)
【文献】 特開昭61−078899(JP,A)
【文献】 特開2014−005440(JP,A)
【文献】 特開昭61−183395(JP,A)
【文献】 特開昭61−221299(JP,A)
【文献】 特開平02−289692(JP,A)
【文献】 特開平07−087886(JP,A)
【文献】 特開平02−292396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 3/10
B01D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分、リン及び遊離脂肪酸を含む油脂含有物を、超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素と接触させてトリグリセライドを主成分とする油脂を選択的に抽出する方法において、前記超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素に、エントレーナとして極性非プロトン性溶媒及び無極性溶媒から選択される1種以上の溶媒を添加することを特徴とする油脂抽出方法。
【請求項2】
前記エントレーナはテトラヒドロフランまたはヘキサンである請求項1に記載の油脂抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂抽出方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、油糧植物等の油脂含有物から油脂(トリグリセライド)を抽出するのに好適な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油糧植物等の油脂含有物から油脂を採取する方法としては、圧搾法やヘキサン等を抽出溶剤として利用する溶剤抽出法が一般的な手法として知られている。これらの手法により油脂を採取する場合、油脂含有物由来の不純物である水分、リン(リン脂質に由来)及び遊離脂肪酸が抽出した油脂に混在してしまう。これらの不純物は、油脂をバイオ燃料として利用する際の機器の腐食やエンジントラブルの要因等となり得る。また、油脂の劣化の要因ともなり得る。したがって、これらの不純物は、少なくとも脱水処理、脱ガム処理、及び脱酸処理により除去する必要がある。しかし、これらの処理には多大な手間やコストを要する。このことが、油糧植物等の油脂含有物から抽出される油脂の利用促進を阻害する要因となっている。
【0003】
かかる問題点に鑑み、本願発明者は、非特許文献1において、超臨界流体又は亜臨界流体を用いた油脂抽出方法について報告している。具体的には、超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素をジャトロファ(Jatropha curcas)と米糠から油脂を抽出する場合、油脂と他の成分の抽出時間(抽出タイミング)が異なるので、油脂を選択的に抽出できること、さらには圧搾法や溶剤抽出法と比較して油脂の抽出率が向上することを報告している。
【0004】
非特許文献1の抽出方法を採用すれば、水分、リン及び遊離脂肪酸を含む油脂含有物から、水分、リン及び遊離脂肪酸の抽出を抑えながら、油脂を選択的に抽出することが可能となる。したがって、脱水処理、脱ガム処理、及び脱酸処理を行う手間及びコストを省くことが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電力中央研究所報告 V11037
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1において報告されている油脂抽出方法を採用すると、油脂の抽出に長時間を要するという欠点があった。
【0007】
そこで、本発明は、水分、リン及び遊離脂肪酸を含む油脂含有物から超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素を用いて油脂を抽出するに際し、水分、リン及び遊離脂肪酸の抽出を抑えて、油脂を選択的且つ短時間に抽出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、本願発明者は、エントレーナ(助溶剤)の利用により油脂の抽出速度を向上することについて鋭意検討した。
【0009】
まず、エントレーナとして一般的なアルコールについて検討した。具体的には、水分、リン及び遊離脂肪酸を含む油脂含有物であるジャトロファ(種子)から超臨界二酸化炭素を用いて油脂を抽出するに際し、エントレーナとしてメタノール又はエタノールを利用して検討を行った。ところが、この場合には、油脂の抽出速度を向上させることができる反面、リンの抽出を抑えることができず、油脂の選択的な抽出が困難であることがわかった。
【0010】
本願発明者はこの結果を受けてさらに鋭意検討を行ったところ、エントレーナとしてテトラヒドロフランを利用した場合には、エントレーナとしてメタノールやエタノールを用いた場合と異なり、油脂の抽出速度の向上とリンの抽出の抑制が両立することを知見するに至った。また、一定時間が経過すると水分と遊離脂肪酸の抽出も抑えられた。したがって、エントレーナとしてテトラヒドロフランを利用した場合には、水分、リン及び遊離脂肪酸の抽出を抑えて、油脂を選択的且つ短時間に抽出することが可能であることを知見するに至った。エントレーナとしてヘキサンを利用した場合にも、同様の結果が得られた。
【0011】
本願発明者は、これらの知見から、油脂含有物から油脂を抽出するための油脂抽出溶媒として超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素を使用するに際し、テトラヒドロフラン等の極性非プロトン性溶媒及びヘキサン等の無極性溶媒から選択される1種以上をエントレーナとして使用することで、水分、リン及び遊離脂肪酸の抽出を抑えて、油脂を選択的且つ短時間に抽出することができる可能性が導かれることを知見するに至り、さらに種々検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、水分、リン及び遊離脂肪酸を含む油脂含有物を、超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素と接触させてトリグリセライドを主成分とする油脂を選択的に抽出する方法において、超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素に、エントレーナとして極性非プロトン性溶媒及び無極性溶媒から選択される1種以上の溶媒を添加するようにしている。
【0013】
ここで、本発明において、エントレーナはテトラヒドロフランまたはヘキサンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水分、リン及び遊離脂肪酸を含む油脂含有物から、油脂抽出溶媒として超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素を用いて油脂を抽出するに際し、水分、リン及び遊離脂肪酸の抽出を抑えて、油脂を選択的且つ短時間に抽出することが可能となる。したがって、油脂抽出溶媒として超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素を用いた場合の、脱水処理、脱ガム処理、及び脱酸処理を省くことができるという利点をそのままに、より短時間に油脂を抽出することが可能となり、油糧植物等の油脂含有物から高い生産性をもって良質な油脂を抽出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の油脂抽出方法を実施するための装置の一例を示す構成概略図である。
図2】実施例において使用した試験装置の構成概略図である。
図3】各種エントレーナを用いた場合の抽出物の抽出率を示す図である。
図4】各種エントレーナを用いた場合の、抽出物中の油脂及び遊離脂肪酸の含有率並びにリン含有量の経時変化を示す図である(二酸化炭素流量4mL/分)。
図5】各種エントレーナを用いた場合の、抽出物中の油脂及び遊離脂肪酸の含有率並びにリン含有量の経時変化を示す図である(二酸化炭素流量8mL/分)。
図6】ジャトロファ種子粉砕物の粒径が油脂抽出率に与える影響を示す図である。
図7】ジャトロファ種子の含水率と抽出物の抽出率の関係を示す図である。
図8】超臨界二酸化炭素を用いた場合の抽出物の抽出率と亜臨界二酸化炭素を用いた場合の抽出物の抽出率を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
本発明の油脂抽出方法は、水分、リン及び遊離脂肪酸を含む油脂含有物を、超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素と接触させると共に、極性非プロトン性溶媒及び無極性溶媒から選択される1種以上のエントレーナと接触させる工程を含むようにしている。
【0018】
換言すれば、本発明の油脂抽出方法では、油脂抽出対象を、水分、リン及び遊離脂肪酸を含む油脂含有物とし、油脂抽出溶媒として超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素を使用し、エントレーナ(助溶剤)として極性非プロトン性溶媒及び無極性溶媒から選択される1種以上を使用し、油脂抽出対象に油脂抽出溶媒とエントレーナを接触させるようにしている。これにより、油脂抽出対象から油脂を選択的且つ短時間に抽出することができ、高い生産性をもって良質な油脂を抽出することが可能となる。
【0019】
本発明の油脂抽出方法は、例えば図1に示す油脂抽出装置を用いて実施される。
【0020】
図1に示す油脂抽出装置1において、二酸化炭素のガスシリンダ2と抽出容器6は、冷却器3及び第一高圧ポンプ4を介して接続されている。シリンダ2から供給される二酸化炭素は冷却器3で冷却され、液体二酸化炭素が第一高圧ポンプ4により抽出容器6内に圧入され、抽出容器6内の圧力が上昇する。
【0021】
エントレーナは、貯留槽20に貯留され、第二高圧ポンプ21を介して液体二酸化炭素供給ラインの第一高圧ポンプよりも下流の位置に供給され、加圧された液体二酸化炭素と共に抽出容器6内に圧入される。
【0022】
捕捉容器10は、背圧弁9を介して抽出容器6と接続されている。
【0023】
抽出容器6内では、超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素並びにエントレーナが油脂含有物と接触し、超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素に抽出物が抽出される。そして、背圧弁9により抽出容器6内の圧力を一定に保持しながら、捕捉容器10内に油脂を捕捉可能としている。つまり、背圧弁9から常温・常圧下に排出された超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素は気化し、抽出物が捕捉容器10内に捕捉される。抽出容器6(さらには、液体二酸化炭素とエントレーナの供給ライン等)は、必要に応じて恒温槽8により温度制御される。
【0024】
以下、油脂抽出対象、油脂抽出溶媒である超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素、及びエントレーナについて詳細に説明する。
【0025】
<油脂抽出対象>
本発明の適用対象となる油脂含有物には、水分、リン及び遊離脂肪酸を含むあらゆる油脂含有物が包含される。具体例としては、ジャトロファ、米糠、ダイズ、ナタネ、ゴマ、ヒマワリ、ベニバナ、綿実、落花生、オリーブ、パーム、トウモロコシ胚芽、ポンガミア等の油糧植物等が挙げられる。
【0026】
また、油糧植物から油脂を採取した後の滓等も本発明の油脂抽出方法の適用対象となり得る。例えば、ジャトロファ、ダイズ、ナタネ、ゴマ、ヒマワリ、ベニバナ、綿実、落花生、オリーブ、パーム等から油脂を採取した後の滓を本発明の油脂抽出方法の適用対象としてもよい。このようなものも、広義には油糧植物に包含される。
【0027】
油脂含有物は、油脂抽出溶媒及びエントレーナとの接触性を高めるために、ミル等を用いて適宜粉砕される。粉砕物の粒径は、例えば、0.5〜2mm程度とすることが好適であり、0.5〜1.5mm程度とすることがより好適であり、0.5〜1.0mm程度とすることがさらに好適である。
【0028】
また、油脂含有物は、乾燥等の水分低減処理を施してから油脂抽出処理に供するようにしてもよい。この場合、油脂抽出速度がさらに向上し得る。
【0029】
<油脂抽出溶媒>
油脂抽出溶媒として超臨界二酸化炭素を用いる場合、油脂抽出装置1の設置環境が31.1℃未満であれば、恒温槽8により抽出容器6を加熱して、二酸化炭素の臨界温度である31.1℃以上とする。尚、温度を高温に設定しすぎると油脂の酸価が上昇して劣化することがある。また、油脂抽出に対する温度の影響は小さい。したがって、油脂抽出溶媒を超臨界二酸化炭素とする場合には、二酸化炭素の超臨界状態が安定に維持され得る範囲で且つ油脂の酸価が上昇しにくい温度に設定することが好適である。例えば、31.1℃〜40℃程度、好適には33℃〜38℃、より好適には35℃程度とすればよいが、必ずしもこの温度範囲に限定されるものではない。
【0030】
また、抽出容器6内の圧力については、二酸化炭素の臨界圧力である7.38MPa以上に制御する。尚、圧力を高める程、超臨界二酸化炭素への油脂の溶解力が増大すると考えられることから、抽出容器6内の圧力は、15MPa以上とすることが好適であり、20MPa以上とすることがより好適であり、25MPa以上とすることがさらに好適であり、30MPa以上とすることがさらになお好適である。圧力の上限値については、特に限定されるものではないが、抽出容器6に要求される耐圧性能、並びに加圧に必要となるエネルギーに対する超臨界二酸化炭素の油脂溶解力の上昇量を考慮すると、最大でも35MPa〜40MPa程度とすれば十分であると考えられる。
【0031】
ここで、油脂抽出溶媒は、超臨界二酸化炭素ではなく亜臨界二酸化炭素であってもよい。亜臨界二酸化炭素の温度条件については、二酸化炭素が亜臨界状態を維持する限り、特に限定されるものではないが、10℃以上、好適には15℃以上、より好適には20℃以上、さらに好適には25℃以上、さらになお好適には30℃以上である。圧力条件についても二酸化炭素が亜臨界状態を維持する限り、特に限定されるものではない。例えば、臨界圧力(7.38MPa)近傍の圧力であれば、二酸化炭素は亜臨界状態となり得るので、このような圧力条件を採用してもよいが、圧力を高める程、亜臨界二酸化炭素の油脂の溶解力が増大するものと考えられることから、15MPa以上とすることが好適であり、20MPa以上とすることがより好適であり、25MPa以上とすることがさらに好適であり、30MPa以上とすることがさらになお好適である。圧力条件の上限値については、超臨界二酸化炭素の場合と同様、最大でも35MPa〜40MPa程度とすれば十分であると考えられる。
【0032】
<エントレーナ>
本発明では、エントレーナとして、無極性溶媒及び極性非プロトン性溶媒から選択される1種以上が用いられる。無極性溶媒及び極性非プロトン性溶媒から選択される1種以上をエントレーナとして使用することで、油脂含有物からの油脂の抽出速度を高めることができる。また、リンは殆ど抽出されず、水分と遊離脂肪酸についても一定時間が経過すると抽出が抑えられるようになる。したがって、水分、リン及び遊離脂肪酸の抽出を抑えて、油脂を選択的且つ短時間に抽出することが可能となる。
【0033】
エントレーナとして用いることのできる極性非プロトン性溶媒は、油脂含有物からの油脂の選択的な抽出及び短時間の抽出が可能である限りにおいて、特に限定されるものではない。例示すると、エーテル類、エステル類、ケトン類及び酸無水物類等が挙げられ、好適にはテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ホルムアミド、及びジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられ、より好適にはテトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。
【0034】
エントレーナとして用いることのできる無極性溶媒もまた、油脂含有物からの油脂の選択的な抽出及び短時間の抽出が可能である限りにおいて、特に限定されるものではない。例示すると、炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカン及び芳香族炭化水素等)、好適には炭素数5以上の炭化水素、より好適には炭素数5〜7の炭化水素、さらに好適には炭素数5〜7のアルカン、さらになお好適にはヘキサンが挙げられる。
【0035】
ここで、より毒性が低く、環境負荷が小さく、且つ低コストな溶剤をエントレーナとして採用することが好適である。かかる観点からすれば、テトラヒドロフランをエントレーナとして採用することが好適であると言える。
【0036】
エントレーナの添加量については、少なすぎると十分な添加効果が得られないことがある。逆に、多く添加しすぎても添加量に対する添加効果の大きな上昇が見込めず、コスト的にも不利となることから、抽出容器6内の二酸化炭素の質量に対して2〜10wt%とするのが好適であり、5〜10wt%程度とするのがより好適であり、7〜8wt%程度とするのがさらに好適である。
【0037】
油糧植物の中には、ジャトロファのように、植物体(例えば種子等)と油脂との親和性が強く、油脂が抽出されにくいものもある。実際、ジャトロファについては、エントレーナを利用することなく、超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素のみで油脂抽出を行う場合には、長時間を要する。これに対し、本発明では、エントレーナの添加効果によって、植物体(例えば種子等)と油脂の親和性を低減させることができ、油脂を短時間に抽出することが可能になるものと考えられる。つまり、本発明の油脂抽出方法は、油糧植物等の油脂含有物全般からの油脂抽出に対して効果的であることは勿論のこと、ジャトロファ等のように植物体と油脂との親和性が強い油糧植物からの油脂抽出に対して極めて効果的である。
【0038】
また、本発明において、油脂抽出物から抽出される抽出物は、油脂を主成分とするが、水分と遊離脂肪酸も含まれる。しかし、水分と遊離脂肪酸は、抽出初期には多く抽出されるものの、一定時間を経過するとこれらの抽出量は抑えられる。一方で、油脂は水分と遊離脂肪酸の抽出が抑えられた後も十分に抽出される。そして、エントレーナとして、無極性溶媒及び極性非プロトン性溶媒から選択される1種以上を用いることによって、油脂抽出物に含まれるリン脂質等に由来するリン成分が殆ど抽出されなくなる。したがって、一定時間が経過して水分と遊離脂肪酸の抽出が抑えられるようになった段階で、抽出物を回収すれば、水分、リン及び遊離脂肪酸を殆ど含まない油脂を回収することができ、油脂の選択的な抽出が可能となる。
【0039】
上述の実施形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0040】
例えば、上述の実施形態では、油脂含有物として、油糧植物、つまり固体の油脂含有物を例示したが、油脂含有物は液体であってもよい。例えば、油脂含有物は、植物油や動物油であってもよい。植物油としては、油糧植物を圧搾したり溶剤抽出したりすること等により得られる米糠油、ジャトロファ油、ダイズ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、綿実油、落花生油、オリーブ油、パーム油、トウモロコシ胚芽油、ポンガミア油等、またはこれらの廃油等を挙げることができ、特に米糠油や圧搾して得られるジャトロファ油が好適であるが、これらに限定されるものではない。動物油としては、牛脂、ラード等、またはこれらの廃油等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。植物油や動物油を本発明における油脂抽出対象とした場合においても、これらに含まれる水分、リン及び遊離脂肪酸が抽出されるのを抑えて、油脂を選択的且つより短時間(つまり、エントレーナを利用することなく、超臨界二酸化炭素又は亜臨界二酸化炭素のみで油脂抽出を行う場合よりも短時間)に抽出することが可能となる。
【0041】
また、図1に示す装置1では、捕捉容器10を1つとしているが、捕捉容器10の後段にさらに1つ以上の捕捉容器を設置しても構わない。また、捕捉容器10は、大気中に設置してもよいし、水槽や氷槽等に設置してもよい。また、抽出容器6内に圧入される液体二酸化炭素の温度が、抽出容器6内の温度を低下させて二酸化炭素が超臨界状態又は亜臨界状態になるのを妨げる場合には、例えばポンプ4と圧力容器6との間に予熱部を備えるようにしてもよい。つまり、図1に示す油脂抽出装置1は、本発明の油脂抽出方法を実施できる限りにおいて、適宜その構成を変更しても構わない。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0043】
尚、本実施例における図中の「MG」はモノグリセライドを意味し、「DG」はジグリセライドを意味し、「TG」はトリグリセライドを意味し、「FFA」は遊離脂肪酸を意味している。
【0044】
<実施例1>
(1)試験装置及び操作
図2に示す試験装置を使用して試験を行った。実質的な装置構成は図1に示す油脂抽出装置1と同じである。抽出方式は、油脂抽出溶媒の供給と油脂含有物からの抽出物の取り出しを連続的に行う半回分式とした。
【0045】
抽出容器6はステンレス鋼(SUS316)製とし、サイズは、内径49.2mm、内部高さ69.2mm、内容量180cmとした。液体二酸化炭素とエントレーナの流入口となる抽出容器6の底部にはハニカム型の底板を取り付けた。抽出容器6は液体二酸化炭素とエントレーナの供給ラインと共に恒温槽8内に設置し、抽出容器6内を35℃に制御した。図中点線はリボンヒーターであり、必要に応じて配管内を適宜加熱した。また、図中Pは圧力計であり、Tは熱電対である。
【0046】
まず、抽出容器6内に油脂含有物100gを封入し、抽出容器6内の空気を二酸化炭素ガスで置換した。次に、シリンダ2から供給された二酸化炭素ガスを冷却器3で冷却して液体二酸化炭素とし、これを第一高圧ポンプ4で加圧して、最終的に超臨界状態で抽出容器6に4mL/分で導入した。尚、符号2aは減圧弁である。抽出容器6内を35℃まで昇温して30MPaまで昇圧した後、溶解平衡に到達させるために、超臨界二酸化炭素を抽出容器6内に二時間保持した後、抽出試験を開始した。
【0047】
油脂抽出物からの抽出物が溶解した超臨界二酸化炭素は、背圧弁9から常温・常圧下に排出して気化させ、抽出物を捕捉容器10内に捕捉するようにした。捕捉容器10は2つ準備し、いずれも氷槽11内に設置した。捕捉容器10及びフィルタ12を通過したガスの積算流量を計測する積算流量計13をフィルタ12の後段に設置した。
【0048】
(2)分析方法
捕捉容器10に捕捉された抽出物の質量は、電子秤量計(精度:0.1mg)で秤量した。
【0049】
排出された二酸化炭素の質量は、積算流量計13により計測された二酸化炭素ガスの積算流量に基づいて、理想気体方程式(室温及び大気圧、精度:3.6×10−3g)を利用して計算した。
【0050】
抽出物中のモノグリセライド、ジグリセライド、及びトリグリセライドの含有量は、オンカラムインジェクターとZB−5HTキャピラリカラム(15m×0.32mm ID;df=0.1μm;Phenomenex製)を備えたガスクロマトグラフィー(GC−2010、島津製作所製)により測定した。分析条件は、EN14105(Fat and oil derivatives. Fatty acid methyl esters (FAME). Determination of free and total glycerol and mono-, di-, triglyceride contents (Reference method).)に準拠した方法で実施した。
【0051】
抽出物中の遊離脂肪酸の含有量は、価数分析(JIS K 0070:「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」日本規格協会、1992.)の結果から算出した。
【0052】
抽出物中のリンの含有量は、JPI法準拠により測定した。
【0053】
抽出物中の水分の含有量は、カールフィッシャー法(JIS K2275)により測定した。
【0054】
(3)油脂含有物
本実施例では、油脂含有物としてジャトロファ種子を用いた。このジャトロファ種子は、フィリピン国内にて収穫された後に十分に乾燥され、その後日本に輸入されたものである。殻を含むジャトロファ種子をミルで1mm程度に粉砕し、抽出試験に供した。
【0055】
(4)試験結果
(4−1)エントレーナの検討
超臨界二酸化炭素を油脂抽出溶媒とした油脂抽出におけるエントレーナの添加効果を検討した。
【0056】
エントレーナは、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、ヘキサン(Hexane)、又はテトラヒドロフラン(THF)とした。
【0057】
エントレーナは、貯留槽20から第二高圧ポンプ21を介して、液体二酸化炭素供給ラインの第一高圧ポンプ4よりも下流の位置に添加した。符号22は電子秤量計である。
【0058】
エントレーナの添加量は、抽出容器6中の二酸化炭素質量流量に対して5wt%とした。
【0059】
まず、各種エントレーナを添加した場合の、排出された二酸化炭素の質量と抽出物の質量の関係について検討した結果を図3に示す。
【0060】
エントレーナを添加することで、エントレーナを添加しない場合(つまり、超臨界二酸化炭素のみで抽出を行う場合)と比較して、排出された二酸化炭素の質量に対する抽出物の質量が増大することがわかった。したがって、エントレーナを添加することで、油脂含有物からの抽出物の抽出効率が増大することが明らかとなった。
【0061】
次に、各種エントレーナを添加した場合の、抽出物中の油脂(トリグリセライド)及び遊離脂肪酸の含有率、並びにリン(P)の含有量の経時変化を図4に示す。
【0062】
抽出物中の油脂の含有率は、エントレーナを添加した場合、抽出試験開始から6時間で最大レベルに到達した。エントレーナを添加しなかった場合は、エントレーナを添加した場合と比較して抽出物中の油脂の含有率が低く、しかも徐々に少しずつ増加する傾向が見られた。抽出物中の遊離脂肪酸の含有率は、抽出試験開始から6時間経過時から急速に減少した。このことから、油脂は遊離脂肪酸から分離し得ることが明らかとなった。また、エントレーナを添加することで、油脂含有物からの油脂の抽出速度を確実に向上させることが可能であることが明らかとなった。
【0063】
抽出試験開始から12時間後の抽出物中の油脂の含有率は、エントレーナとしてヘキサンとTHFを用いた場合よりもメタノール又はエタノールを用いた場合の方が優れていた。しかしながら、エントレーナとしてメタノール又はエタノールを用いた場合、抽出物にリンが抽出されることが明らかとなった。一方で、エントレーナとしてヘキサン又はTHFを用いた場合には抽出物にリンが殆ど抽出されなかった。この結果から、エントレーナとしての、メタノールやエタノール等のアルコールの使用は、油脂の選択的な抽出においては適していないことが明らかとなった。
【0064】
以上の結果から、エントレーナとしては、THFまたはヘキサンの使用が好適であることがわかった。
【0065】
(4−2)油脂抽出条件の検討
油脂抽出時間をさらに短縮するために、油脂抽出条件をさらに検討した。二酸化炭素の流量を4mL/分から8mL/分に増大させ、且つTHFをエントレーナとしてその添加量を2.5wt%、5wt%、又は7.5wt%とした場合の、抽出物中の油脂(トリグリセライド)及び遊離脂肪酸の含有率の経時変化を図5に示す。
【0066】
THFの添加量を2.5wt%とした場合には、抽出物中の油脂の含有率が抽出試験開始から4.5時間で最大に達した。また、遊離脂肪酸の含有率は、抽出試験開始から3時間経過後には十分に抑えられることが明らかとなった。
【0067】
THFの添加量を5wt%、7.5wt%とした場合には、抽出物中の油脂の含有率が抽出試験開始から3時間で最大に達した。また、THFの添加量を7.5wt%とした場合には、抽出物中の油脂の含有率が90%以上にまで達することが明らかとなった。さらに、遊離脂肪酸の含有率は、抽出試験開始から3時間経過後には十分に抑えられることが明らかとなった。
【0068】
また、THFの添加量を7.5wt%とした場合、抽出試験開始から4.5時間経過後には油脂は殆ど抽出されなくなった。
【0069】
表1に、二酸化炭素の流量を8mL/分とし、THFの添加量を7.5wt%とした場合の、抽出物の組成を示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示される結果から、抽出開始90分後〜180分後において、遊離脂肪酸と水分の含有量が大幅に減少し、抽出開始180分後〜270分後においては、遊離脂肪酸と水分の含有量が極めて大幅に減少していることが確認できた。
【0072】
以上の結果から、エントレーナとしてTHFを用い、その添加量や二酸化炭素の流量等を調整することによって、水分、リン及び遊離脂肪酸を含む油脂含有物から、超臨界二酸化炭素を用いて油脂を抽出するに際し、水分、リン及び遊離脂肪酸の抽出を抑えて、油脂を選択的且つ短時間に抽出できることが明らかとなった。
【0073】
具体的には、二酸化炭素の流量を8mL/分とし、THFの添加量を7.5wt%とした場合には、抽出試験開始からから3時間分の抽出物は廃棄し、その後1.5〜2時間程度回収物を回収することで、油脂を高濃度に回収できることが明らかとなった。
【0074】
(4−3)ジャトロファ種子粉砕物の粒径の検討
ジャトロファ種子粉砕物の粒径が抽出物に与える影響について検討した。
【0075】
ジャトロファ種子粉砕物を篩い分けして、以下の2種の粒径のものを準備した。
(a)0.5mm以上1.0mm未満
(b)1.0mm以上1.4mm未満
【0076】
二酸化炭素の流量を8mL/分とし、THFの添加量を5wt%として、上記3種の粒径のジャトロファ種子粉砕物について、抽出試験を行った。結果を図6に示す。
【0077】
ジャトロファ種子粉砕物の粒径が小さい方が、わずかに抽出物の抽出率が増加することが明らかとなった。したがって、ジャトロファ種子粉砕物は、抽出容器6に封入する前に適切に篩い分けしておくことが好適であると考えられた。
【0078】
(4−4)油脂含有物に含まれる水分が抽出効率に与える影響の検討
ジャトロファ種子の未処理品と乾燥処理品を用いて、油脂含有物に含まれる水分が抽出効率に与える影響について検討した。
【0079】
乾燥処理品は、ジャトロファ種子の殻をむいた後、すり砕き、乾燥して、試験に供した。尚、ジャトロファ種子の殻には殆ど油分が含まれていない。未処理品は乾燥処理を行わずに抽出試験に供した。未処理品の含水率は4.4%であり、乾燥処理品の含水率は2.3%であった。
【0080】
この試験では、油脂抽出処理の際にエントレーナは添加しなかった。
【0081】
未処理品と乾燥処理品について、排出された二酸化炭素の質量と抽出物の質量の関係について検討した結果を図7に示す。乾燥処理品の場合の抽出物の抽出効率は、未処理品の場合の抽出物の抽出率と比較すると、25%程度増大していた。したがって、乾燥処理のような水分低減処理は、油脂含有物からの抽出物の抽出効率を改善する効果があることが明らかとなった。但し、ジャトロファ種子は、乾燥処理を行わずとも含水率が4.4%と低いことから、乾燥処理による抽出率の向上効果はそれほど大きなものではなく、乾燥等の水分低減処理を必須の処理とする必要はないと考えられた。
【0082】
(4−5)油脂抽出溶媒の違い抽出効率に与える影響の検討
油脂抽出溶媒として亜臨界二酸化炭素を用いた場合に抽出効率に与える影響について、油脂抽出溶媒として超臨界二酸化炭素を用いた場合と比較検討した。
【0083】
亜臨界二酸化炭素は、抽出容器6内の温度を25℃に制御することで生成させた。超臨界二酸化炭素は、上記の通り抽出容器6内の温度を35℃に制御することで生成させた。また、この抽出試験は、油脂抽出溶媒を超臨界二酸化炭素とした場合及び亜臨界二酸化炭素とした場合のいずれにおいても、エントレーナを添加せずに実施した。
【0084】
試験結果を図8に示す。CO質量2000gまでは、超臨界二酸化炭素を用いた場合よりも亜臨界二酸化炭素を用いた場合の方が抽出率が若干低下する傾向が見られたものの、亜臨界二酸化炭素を用いた場合にも超臨界二酸化炭素を用いた場合と同様にCO質量の増加に伴って抽出率が増加する傾向が見られ、最終的には同じ抽出率となることが明らかとなった。このことから、亜臨界二酸化炭素を用いた場合にも、超臨界二酸化炭素を用いた場合と同様の油脂抽出傾向を示すことが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8