【実施例】
【0020】
次に実施例を示し、本発明を詳細に説明する。なお、以下に記載する実施例は本発明を説明するものであり、本発明は実施例の記述に限定されるものではない。
[実施例1]
原料乳15kgに対してLMBを1.5%となるように添加した。使用したLMBは油分を64%(遊離脂肪酸11%)含んでいた。その後、一般的なカマンベールの製造工程に従って、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った後、100gずつ型詰めを行った。そして、型詰めをした後、反転及び加塩を行い、10〜15℃で数週間熟成を行った。
[実施例2]
原料乳に対してLMBを0.03%になるように溶解した。その後、実施例1と同様に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[実施例3]
原料乳に対してLMBを0.015%となるように溶解した。その後、実施例1と同様に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[実施例4]
原料乳に対してEMCを0.63%になるように溶解した。使用したEMCは油分が28.8%(遊離脂肪酸0.7%)で遊離アミノ酸を12.8mg/g含んでいた。その後、一般的なカマンベールの製造工程に従って、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[実施例5]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が80℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例6]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が85℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例7]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が90℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例8]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が95℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例9]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が100℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例10]
実施例2の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が85℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例11]
実施例2の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が90℃となる条件でレトルト処理を行った。
【0021】
[比較例1]
一般的なカマンベールの製造工程に従って、原料乳に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビを添加し、チーズカード形成及びホエー排除を行った。100gずつ型詰めを行った後、反転及び加塩を行い、熟成を行った。
[比較例2]
原料乳に対してLMBを0.010%となるように溶解した。その後、実施例1と同様に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[比較例3]
原料乳に対してEMCを0.60%となるように溶解した。その後、実施例4と同様に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[比較例4]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が80℃となる条件でレトルト処理を行った。
[比較例5]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が85℃となる条件でレトルト処理を行った。
[比較例6]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が90℃となる条件でレトルト処理を行った。
[比較例7]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が95℃となる条件でレトルト処理を行った。
[比較例8]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が100℃となる条件でレトルト処理を行った。
【0022】
[試験例1]
実施例1〜11および比較例1〜8を用いて官能評価を行った。
官能評価は次の通り行った。実施例試料および比較例試料をそれぞれブレンダーで外皮と中身を均一のペースト状に粉砕したものを評価した。「コク味」と「おいしさ」について、訓練されたパネラー6名を用いた官能評価を実施した結果を表1、2、3に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
LMB1.5%の添加により、コク味の増強効果が認められた。しかしながら、おいしさには変化がなかった。
【0025】
【表2】
【0026】
LMBの添加量については、比較例2であるLMB0.010%添加では、コク味の増強は認められなかったが、実施例3,2,1とLMB添加量が増加するほどコク味が増強することが確認できた。EMCについては、0.60%を含有する比較例3よりも0.63%を含有する実施例4の方がコク味が増加することが判った。
【0027】
【表3】
【0028】
LMB1.5%を添加した水準において、90℃および95℃の温度処理(それぞれ、実施例7および実施例8)により、コク味が劇的に増加することが判った。LMB0.03%の水準においても85℃で処理した実施例10よりも90℃で処理した実施例11の方が顕著にコク味が増加した。一方で、100℃で処理した実施例9および比較例8では、より低温で処理した場合に比べてコク味とともにおいしさが減少することが判った。これは、焦げ臭がおいしさにおいて悪い影響を与えたことによるものと考えられた。これより、望ましい温度条件は90℃以上100℃未満の範囲にあることが判った。
【0029】
実施例2及び3と比較例1及び2の官能評価の結果、実施例2及び3の方が比較例1及び2よりも、コク味の強さ、おいしさを強く感じると評価された。この結果から、カマンベールチーズらしさを強化してコク味を増強するLMBの添加濃度は0.015%以上であることがわかった。
【0030】
実施例4と比較例1及び3の官能評価の結果、実施例4の方が比較例1及び3よりも、香りの強さ、コク味の強さ、おいしさを強く感じると評価された。この結果から、カマンベールチーズらしさを強化してコク味を増強するEMCの添加濃度は0.63%以上であることがわかった。
【0031】
[試験例2]
実施例1〜4および比較例1〜3を用いてSPMEを用いたGC−MSによる香気成分分析を行った。
香気成分分析は次の通り行った。SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を用い、20ml容器に封入した1gのサンプルを37℃で60分加温し、ヘッドスペースを60分間吸着させ、GC−MSによる測定を行った。GC−MSは、GC装置としてAgilent 7890(アジレント・テクノロジー社)を使用し、MSDとしてAgilent 5975C(アジレント・テクノロジー社)を使用し、カラムは、Agilent DB−5ms(30m×0.32mm×0.52mm)(アジレント・テクノロジー社)を用いた。GC−MSの条件としては、40℃で8分間処理した後、毎分4℃ずつ230℃まで昇温させ、230℃で20分間保持した。この時のメチルケトン類及び2級アルコール類、フラン類、ピラジン類の含量をMSDによって測定した。濃度を定量する際の内部標準としては、2‐メチル‐2‐ブテナールを用いた。香気成分分析の結果を表4および表5に示す。
【0032】
【表4】
【0033】
表4より、LMBまたはEMCを原料として添加することで、メチルケトン類と2級アルコール類が増加することが確認された。
【0034】
【表5】
【0035】
官能評価結果において、コク味とおいしさにおいて評価が高かった実施例7、8、11のメチルケトン類は340ppb以上、2級アルコール類は53ppb以上、フラン類は0.5%以上、ピラジン類は0.5%以上であることが確認された。
実施例9、10の各成分の含有量は上記の数値以上であり、コク味は高い値を示したが、おいしさが大きく低下した。これは、焦げ臭によるものであり、フラン類とピラジン類の値には上限があり、フラン類は2.5ppb以下、ピラジン類は2.0ppb以下であることが望ましいことが判った。
【0036】
[試験例3]
LMBを添加するタイミングとカマンベールチーズの風味との関係を確かめるため、比較例1,7の試料について、0.22%のLMB(原料乳に対してLMBを0.03%添加して得られるカマンベール中に含有されるLMB量に相当)を添加し、グラインダーにより混合分散させた試料(比較例9および比較例10)を調製した。グラインダーによる処理によって官能評価が影響を受ける可能性があるため、実施例11の試料に対して同様にグラインダーによる分散化処理を行って、比較対照として試料(実施例12)を調製した。これら試料について、官能評価を実施した結果を表6に示す。
【0037】
【表6】
【0038】
LMBを添加しない原料乳を用いて得られたカマンベールチーズを90℃加温した後にLMBを添加した比較例品9と10のコク味は、実施例12のコク味よりも低いことが判った。この結果、LMB自体にも風味はあるが、原料に添加することで、乳酸菌および白カビの代謝、さらに加熱処理による化学変化が加わり、得られるカマンベールチーズのコク味が増強されることが判る。