特許第6226415号(P6226415)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6226415風味を強化した白カビチーズおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226415
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】風味を強化した白カビチーズおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/068 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   A23C19/068
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-119843(P2013-119843)
(22)【出願日】2013年6月6日
(65)【公開番号】特開2014-236674(P2014-236674A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木愛
(72)【発明者】
【氏名】塩田誠
(72)【発明者】
【氏名】岩澤愛
(72)【発明者】
【氏名】木村彰
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−075012(JP,A)
【文献】 特開2000−004785(JP,A)
【文献】 特開2007−097591(JP,A)
【文献】 特開2008−118856(JP,A)
【文献】 特表2011−512809(JP,A)
【文献】 特開2009−296972(JP,A)
【文献】 特表2011−525356(JP,A)
【文献】 特開昭61−152235(JP,A)
【文献】 特開昭51−015676(JP,A)
【文献】 日本食品工業学会誌,1985年,Vol.32, No.11,pp.787-790
【文献】 J. Dairy Sci.,1985年,Vol.68, No.1,pp.11-15
【文献】 季刊香料,1985年,No.148,pp.37-45
【文献】 月刊フードケミカル,2013年 6月 1日,Vol.29, No.6,pp.35-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/FSTA/BIOSIS(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルケトンの含有量が340ppb以上、2級アルコールの含有量が53ppb以上であり、かつフラン類の含有量が0.5〜2.5ppb、ピラジン類の含有量が0.5〜2.0ppbであることを特徴とするコク味が付与されたカマンベールチーズ。
【請求項2】
原料乳に乳脂の部分分解物を添加する工程と、前記乳脂の部分分解物を添加した原料乳に乳酸菌、凝乳酵素、白カビを添加してチーズカードを形成する工程と、前記形成したチーズカードからホエーを排除する工程と、前記ホエーを排除したカードに加塩する工程と、加熱工程とを有することを特徴とするカマンベールチーズの製造方法。
【請求項3】
前記乳脂の部分分解物の脂肪分が25%以上である、ことを特徴とする請求項2に記載のカマンベールチーズの製造方法。
【請求項4】
前記乳脂の部分分解物がチーズの部分分解物EMC及び又はバターの部分分解物LMBである、ことを特徴とする請求項2または3に記載のカマンベールチーズの製造方法。
【請求項5】
前記チーズの部分分解物の添加量が原料乳に対してEMC0.63%以上及び又は原料乳に対してLMB0.015%以上である、ことを特徴とする請求項4に記載のカマンベールチーズの製造方法。
【請求項6】
前記レトルト処理の温度が90℃以上であることを特徴とする請求項5に記載のカマンベールチーズの製造方法。
【請求項7】
前記レトルト処理の温度が90℃以上100℃未満であることを特徴とする請求項6に記載のカマンベールチーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましいコク味を強化した白カビチーズとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、国内のナチュラルチーズの消費量は増加傾向にあり、その中でも白カビチーズは柔らかな物性とカビによる熟成チーズでありながら穏やかな風味を有しているため、国内生産が盛んで広く普及している。現在の国産白カビチーズは、輸入白カビチーズと比較して、風味がより穏やかであるという特徴を有している。一方、食の好みの多様化や本格嗜好から、風味の強い輸入白カビチーズも好まれている。
白カビチーズの風味は、凝乳酵素、スターターとして使用する乳酸菌やカビ、乳原料由来の微生物や酵素等の作用によって、熟成中に原料中のタンパク質や脂肪や糖が分解されることによって生成する。特に白カビを表面に生やして熟成したチーズは比較的短時間で熟成し、白カビチーズ独特の良好な風味を有する。白カビチーズの一種であるカマンベールチーズのフレーバー成分に注目した場合、脂肪由来のメチルケトンや2級アルコールがカマンベールチーズのカマンベールチーズらしい白カビ風味に重要な因子であることが報告されている(非特許文献1)。
白カビチーズの風味形成に関する方法としては、例えば、アミノ酸やペプチドといった水溶性呈味成分に着目し、ペニシリウム・カゼイコラムが菌体外に産生する酵素を用いてチーズスラリーを形成させて、従来のチーズよりアミノ酸やその他の水溶性タンパク質を多く含むチーズにする方法がある(特許文献1)。また、全乳を限外濾過膜で濃縮した濃縮乳でカビを培養して、味や風味が強いチーズ組成物を得る方法がある(特許文献2)。さらに、複雑な培養制御、添加酵素の反応制御やカビからの酵素精製等の作業をすることなく、良好な風味を有するカビ系チーズを得るため、無脂乳固形分15重量%以下及び脂肪分65重量%以上となるように調製した乳原料にカビを接種し、発酵させる方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2622864号公報
【特許文献2】特許第2801376号公報
【特許文献3】特許第4210017号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P. Molimard and H. E. Spinnler., 1996, J. Dairy Sci, 79, 169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1、2に記載されるような方法には、上述したようなカマンベールチーズ特有の風味を特異的に増強することは開示されていない。特許文献3はカビ系チーズとしてカマンベールチーズ風味およびブルーチーズ風味に関する記載があるが、風味に寄与するフレーバー成分についての具体的な開示はない。また、良好なカビ系チーズの風味を得るために、煩雑な培養制御や酵素の反応制御や原料乳の無脂乳固形分の調製の操作が必要であった。
非特許文献1には、メチルケトンや2級アルコールがカマンベールチーズのカマンベールチーズらしい白カビ風味に重要な因子であることが報告されているものの、フラン類やピラジン類と白カビ風味との関係やコク味についての記載はない。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、煩雑な操作を必要とせずにカマンベールチーズに好ましいコク味を特異的に強化したカマンベールチーズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、カマンベールチーズの製造方法を検討した結果、乳脂の部分分解物を添加した原料乳を用い、その原料乳に乳酸菌、凝乳酵素、白カビを添加してチーズカードを形成し、ホエーを排除し、加塩することにより、メチルケトン類や2級アルコール類の前駆物質である脂肪や脂肪酸を製造の初期段階から増加させておき、カマンベールチーズらしさに重要な香気成分であり、白カビによる脂肪の代謝物であるメチルケトン類や2級アルコール類の含有量を特異的に強化した白カビチーズが得られることを見出した。さらに、レトルト殺菌処理条件を調整することにより、白カビチーズらしい香気に関与するメチルケトン類、香ばしい香りに関与するフラン類やピラジン類を増加させることで、特有のコク味を強化したカマンベールチーズが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、メチルケトンの含有量が340ppb以上、2級アルコールの含有量が53ppb以上でありかつフラン類の含有量が0.5ppb以上、2.5ppb以下であり、さらにピラジン類の含有量が0.5ppb以上、2.0ppb以下であることを特徴とするカマンベールチーズである。
【0008】
各成分の含有量を上記の範囲にあるカマンベールチーズは、コク味が強化された嗜好性の高いカマンベールチーズである。
【0009】
また、本発明は、原料乳に乳脂の部分分解物を添加する工程と、前記乳脂の部分分解物を添加した原料乳に乳酸菌、凝乳酵素、白カビを添加してチーズカードを形成する工程と、前記形成したチーズカードからホエーを排除する工程と、前記ホエーを排除したカードに加塩する工程と、レトルト処理工程とを有することを特徴とするカマンベールチーズの製造方法である。
【0010】
原料乳に添加する乳脂の部分分解物としては、チーズの部分分解物であるEMC(Enzyme Modified Cheese)、又はバターの部分分解物であるLMB(Lipid Modified Butter)を使用することができる。
バターの部分分解物であるLMBを使用する場合は、原料乳に対してLMBを0.015%以上添加することが好ましい。
チーズの部分分解物であるEMCを添加する場合は、原料乳に対してEMCを0.63%以上添加することが好ましい。
【0011】
また、レトルト処理工程は、チーズの中心温度を90℃以上、望ましくは90℃以上100℃未満に加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カマンベールチーズらしさを感じさせる重要な香気成分であるメチルケトン類や2級アルコール類の含有量を特異的に増加させ、さらにフラン類とピラジン類との相乗作用により、好ましいコク味を強化したカマンベールチーズを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0014】
本発明において製造されるチーズはカマンベールチーズである。
本発明では、原料乳に対して乳脂の部分分解物を添加してから、一般的なカマンベールチーズの製造工程にしたがって、乳酸菌、乳酵素、白カビの添加を行う。
乳脂の部分分解物としては、特に限定されないが、チーズに脂質分解酵素を処理したもの(EMC)、又はバターに脂質分解酵素を処理したもの(LMB)を使用することができる。乳脂の部分分解物は、脂肪分が25%以上であることが好ましい。
これらの部分分解物は、1種のみを添加しても、異なる2種以上を添加してもよい。
EMC及び/又はLMBを原料乳に添加することにより、乳由来の原料にてメチルケトン類や2級アルコール類の前駆物質である脂肪や脂肪酸を増加させることができる。
さらに、一般的なカマンベールの製造工程にしたがって、チーズカードの形成及びホエー排除を行った後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
【0015】
本発明では、予め乳脂の部分分解物を添加した原料乳を使用しているため、加塩工程後のチーズの熟成過程において、原料乳に添加された乳脂の部分分解物に含まれる脂肪や脂肪酸が分解されることで、チーズに含まれるメチルケトン類や2級アルコール類の含有量が特異的に増強される。
【0016】
上記のように得られたカマンベールチーズは、メチルケトンを340ppb以上含み、2級アルコールを52ppb以上含んでおり、何も添加しない原料乳を用いて一般的な工程によって製造したカマンベールチーズに比べて、白カビ風味を強く感じるとともにコク味も感じることができる。
【0017】
乳脂の部分分解物としてEMCを使用する場合は、原料乳に対してEMCを0.63%以上となるように乳原料に溶解して添加することが好ましい。
LMBを使用する場合は、原料乳に対してEMCを0.015%以上となるように乳原料に溶解して添加することが好ましい。
【0018】
なお、EMC及び/又はLMBを添加した原料乳に添加する乳酸菌、凝乳酵素、白カビは特に限定されない。また、EMC及び/又はLMBを添加した原料乳のpHが低下する場合は乳酸菌の接種を遅らせること及び/又は凝乳酵素の添加量を減少させる等の方法をとってもよい。
【0019】
さらに、上記によって製造されたカマンベールチーズにレトルト処理を行うことによって、香ばしい香りに関与するフラン類及びピラジン類の含有量を増加させることができる。レトルト処理を行わない場合のカマンベールチーズに含有されるフラン類及びピラジン類の含有量は、0.1ppb以下であるが、レトルト処理を行うことで含有量を増加させることができ、0.5ppb以上とすると、コク味が劇的に向上する。レトルト処理の温度は、90℃以上が好ましい。
【実施例】
【0020】
次に実施例を示し、本発明を詳細に説明する。なお、以下に記載する実施例は本発明を説明するものであり、本発明は実施例の記述に限定されるものではない。
[実施例1]
原料乳15kgに対してLMBを1.5%となるように添加した。使用したLMBは油分を64%(遊離脂肪酸11%)含んでいた。その後、一般的なカマンベールの製造工程に従って、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った後、100gずつ型詰めを行った。そして、型詰めをした後、反転及び加塩を行い、10〜15℃で数週間熟成を行った。
[実施例2]
原料乳に対してLMBを0.03%になるように溶解した。その後、実施例1と同様に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[実施例3]
原料乳に対してLMBを0.015%となるように溶解した。その後、実施例1と同様に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[実施例4]
原料乳に対してEMCを0.63%になるように溶解した。使用したEMCは油分が28.8%(遊離脂肪酸0.7%)で遊離アミノ酸を12.8mg/g含んでいた。その後、一般的なカマンベールの製造工程に従って、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[実施例5]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が80℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例6]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が85℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例7]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が90℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例8]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が95℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例9]
実施例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が100℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例10]
実施例2の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が85℃となる条件でレトルト処理を行った。
[実施例11]
実施例2の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が90℃となる条件でレトルト処理を行った。
【0021】
[比較例1]
一般的なカマンベールの製造工程に従って、原料乳に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビを添加し、チーズカード形成及びホエー排除を行った。100gずつ型詰めを行った後、反転及び加塩を行い、熟成を行った。
[比較例2]
原料乳に対してLMBを0.010%となるように溶解した。その後、実施例1と同様に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[比較例3]
原料乳に対してEMCを0.60%となるように溶解した。その後、実施例4と同様に、乳酸菌、凝乳酵素、白カビの添加を行い、カード形成及びホエー排除を行った。その後、型詰め、反転および加塩を行い、熟成を行った。
[比較例4]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が80℃となる条件でレトルト処理を行った。
[比較例5]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が85℃となる条件でレトルト処理を行った。
[比較例6]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が90℃となる条件でレトルト処理を行った。
[比較例7]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が95℃となる条件でレトルト処理を行った。
[比較例8]
比較例1の熟成後、得られたカマンベールチーズの中心温度が100℃となる条件でレトルト処理を行った。
【0022】
[試験例1]
実施例1〜11および比較例1〜8を用いて官能評価を行った。
官能評価は次の通り行った。実施例試料および比較例試料をそれぞれブレンダーで外皮と中身を均一のペースト状に粉砕したものを評価した。「コク味」と「おいしさ」について、訓練されたパネラー6名を用いた官能評価を実施した結果を表1、2、3に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
LMB1.5%の添加により、コク味の増強効果が認められた。しかしながら、おいしさには変化がなかった。
【0025】
【表2】
【0026】
LMBの添加量については、比較例2であるLMB0.010%添加では、コク味の増強は認められなかったが、実施例3,2,1とLMB添加量が増加するほどコク味が増強することが確認できた。EMCについては、0.60%を含有する比較例3よりも0.63%を含有する実施例4の方がコク味が増加することが判った。
【0027】
【表3】
【0028】
LMB1.5%を添加した水準において、90℃および95℃の温度処理(それぞれ、実施例7および実施例8)により、コク味が劇的に増加することが判った。LMB0.03%の水準においても85℃で処理した実施例10よりも90℃で処理した実施例11の方が顕著にコク味が増加した。一方で、100℃で処理した実施例9および比較例8では、より低温で処理した場合に比べてコク味とともにおいしさが減少することが判った。これは、焦げ臭がおいしさにおいて悪い影響を与えたことによるものと考えられた。これより、望ましい温度条件は90℃以上100℃未満の範囲にあることが判った。
【0029】
実施例2及び3と比較例1及び2の官能評価の結果、実施例2及び3の方が比較例1及び2よりも、コク味の強さ、おいしさを強く感じると評価された。この結果から、カマンベールチーズらしさを強化してコク味を増強するLMBの添加濃度は0.015%以上であることがわかった。
【0030】
実施例4と比較例1及び3の官能評価の結果、実施例4の方が比較例1及び3よりも、香りの強さ、コク味の強さ、おいしさを強く感じると評価された。この結果から、カマンベールチーズらしさを強化してコク味を増強するEMCの添加濃度は0.63%以上であることがわかった。
【0031】
[試験例2]
実施例1〜4および比較例1〜3を用いてSPMEを用いたGC−MSによる香気成分分析を行った。
香気成分分析は次の通り行った。SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を用い、20ml容器に封入した1gのサンプルを37℃で60分加温し、ヘッドスペースを60分間吸着させ、GC−MSによる測定を行った。GC−MSは、GC装置としてAgilent 7890(アジレント・テクノロジー社)を使用し、MSDとしてAgilent 5975C(アジレント・テクノロジー社)を使用し、カラムは、Agilent DB−5ms(30m×0.32mm×0.52mm)(アジレント・テクノロジー社)を用いた。GC−MSの条件としては、40℃で8分間処理した後、毎分4℃ずつ230℃まで昇温させ、230℃で20分間保持した。この時のメチルケトン類及び2級アルコール類、フラン類、ピラジン類の含量をMSDによって測定した。濃度を定量する際の内部標準としては、2‐メチル‐2‐ブテナールを用いた。香気成分分析の結果を表4および表5に示す。
【0032】
【表4】
【0033】
表4より、LMBまたはEMCを原料として添加することで、メチルケトン類と2級アルコール類が増加することが確認された。
【0034】
【表5】
【0035】
官能評価結果において、コク味とおいしさにおいて評価が高かった実施例7、8、11のメチルケトン類は340ppb以上、2級アルコール類は53ppb以上、フラン類は0.5%以上、ピラジン類は0.5%以上であることが確認された。
実施例9、10の各成分の含有量は上記の数値以上であり、コク味は高い値を示したが、おいしさが大きく低下した。これは、焦げ臭によるものであり、フラン類とピラジン類の値には上限があり、フラン類は2.5ppb以下、ピラジン類は2.0ppb以下であることが望ましいことが判った。
【0036】
[試験例3]
LMBを添加するタイミングとカマンベールチーズの風味との関係を確かめるため、比較例1,7の試料について、0.22%のLMB(原料乳に対してLMBを0.03%添加して得られるカマンベール中に含有されるLMB量に相当)を添加し、グラインダーにより混合分散させた試料(比較例9および比較例10)を調製した。グラインダーによる処理によって官能評価が影響を受ける可能性があるため、実施例11の試料に対して同様にグラインダーによる分散化処理を行って、比較対照として試料(実施例12)を調製した。これら試料について、官能評価を実施した結果を表6に示す。
【0037】
【表6】
【0038】
LMBを添加しない原料乳を用いて得られたカマンベールチーズを90℃加温した後にLMBを添加した比較例品9と10のコク味は、実施例12のコク味よりも低いことが判った。この結果、LMB自体にも風味はあるが、原料に添加することで、乳酸菌および白カビの代謝、さらに加熱処理による化学変化が加わり、得られるカマンベールチーズのコク味が増強されることが判る。