特許第6226431号(P6226431)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226431
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】信号発生器
(51)【国際特許分類】
   G01J 9/04 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   G01J9/04
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-23926(P2015-23926)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-148522(P2016-148522A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】石澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】西川 正
【審査官】 塚本 丈二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−120202(JP,A)
【文献】 特開2009−116242(JP,A)
【文献】 特開2014−190759(JP,A)
【文献】 特表2013−546189(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0051807(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0070072(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0017833(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0185635(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 9/00−9/04
G02F 1/365
H01S 3/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続光を生成するレーザーから構成された第1光源と、
前記第1光源に対して1/n(nは2以上の整数)の波長のレーザー光を生成するレーザーから構成された第2光源と、
所定の周波数の第1信号を出力する第1信号発生部と、
所定の周波数の第2信号を出力する第2信号発生部と、
前記第1光源より出力された連続光より高調波を発生させる第1非線形結晶と、
前記第1非線形結晶より得られた高調波と前記第2光源より出力されたレーザー光とを合波する第1光学素子と、
前記第1光学素子による合波によって発生した干渉信号を検出して光電変換する第1光検出器と、
前記第1光検出器により光電変換されて出力された電気信号と、第1信号発生部より出力される第1信号とを比較し、この比較の状態をもとに前記第1光源の中心波長を制御する第1帰還制御部と、
前記第1帰還制御部に制御された前記第1光源より出力された連続光より第1周波数のパルス繰り返し周波数を有する光パルスを生成する光パルス生成手段と、
前記光パルス生成手段により生成された光パルスの光スペクトル帯域を拡大する非線形媒質と、
前記非線形媒質により拡大された光パルスより第n高調波を発生させる第2非線形結晶と、
前記第2非線形結晶より得られた第n高調波と前記第2光源より出力されたレーザー光とを合波する第2光学素子と、
前記第2光学素子による合波によって発生した干渉信号を検出して光電変換する第2光検出器と、
前記第2光検出器により光電変換されて出力された電気信号と、第1信号発生部より出力される第1信号とを比較し、この比較の状態をもとに前記第2信号発生部の初期位相を制御する第2帰還制御部と
を備え、
前記第1信号は、前記第2信号より低い周波数とされている
ことを特徴とする信号発生器。
【請求項2】
請求項1記載の信号発生器において、
前記第2光源は、パルスレーザー光を生成する狭線幅レーザーから構成されていることを特徴とする信号発生器。
【請求項3】
請求項2記載の信号発生器において、
前記狭線幅レーザーは、チタンサファイアレーザーであることを特徴とする信号発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光周波数コム安定化光源などの参照信号源として用いる信号発生器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、電気的方法で測定可能なマイクロ波以下のマイクロ波基準周波数をもとに、光の周波数を直接測定する新しい技術が開発されている(非特許文献1〜7参照)。この技術では、光周波数コム(Comb)を、光周波数のものさしとして光周波数計測に利用している。この光周波数コムでは、周波数領域において安定した光パルス列の一定の周波数間隔で現れる周波数の複数の線スペクトルを櫛目と見立てている。この櫛目の間隔がマイクロ波帯の光パルスの繰り返し周波数であり、各櫛目の光周波数は、隣り合う櫛目の間隔の周波数(マイクロ波周波数)の整数倍にオフセット光周波数を加えたものとなる。従って、光周波数コムでは、櫛目の間隔の周波数と整数値とにより各線スペクトルの光周波数が決定できる。
【0003】
このような光周波数コムを用いれば、電気的に測定可能な間隔周波数をもとに、光周波数の計測が行える。例えば、測定対象の光と光周波数コムとを混ぜ合わせ(干渉させ)たときに観察される光ビートを用いれば、光周波数コムの各線スペクトルの光周波数は既知であるので、測定対象の光の光周波数を求めることができる。このように直接光周波数を測定可能とする光周波数コムは、マイクロ波周波数を光の周波数領域にまでつなぐ周波数基準となる。光周波数コムは、高精度な周波数基準および関連する基礎物理学だけではなく、通信,精密計測,量子情報通信などの分野への応用が展開されていくものと考えられる。
【0004】
また近年、光周波数コムの周波数を安定化するレーザー光源が実現している(特許文献1および非特許文献1〜6参照)。この光源として、例えば、共振器を備えた受動モード同期レーザーが用いられている(非特許文献1〜3,5〜7参照)。受動モード同期レーザーは、パルスレーザー光を発振することができる。
【0005】
レーザーは、通常、光を増幅する利得媒質と、所定の共振器長(L)の共振器を備えている。この共振器の縦モードの共振周波数は、c/2L(cは光速)の整数倍である。また、レーザーが発振するレーザー光のスペクトル幅は非常に狭いが、このスペクトル幅よりも共振器の共振周波数の間が狭いと、共振器において複数のモード(周波数)が発振する。このように複数のモードが発振する状態において、各モードの位相を揃える(モード同期させる)ことにより、繰り返し周波数frep=c/(2L)で発振するレーザー光が強められる。このように、複数のモードをモード同期させることで、繰り返し周波数frepのパルスレーザー光を発振させることができる。
【0006】
このような、受動モード同期レーザーにより発振されるパルスレーザー光は、図4の(a)に示す「光搬送波包絡線」に示すようなパルスが、時間軸上に等しい時間間隔Tで並ぶ。一方、周波数軸上においては、図4の(b)に示すように、等しい周波数間隔frepで櫛状に並ぶ多数のモード(線スペクトル)の集合体となる。このように周波数軸上に櫛歯状に並ぶレーザー光の集合体が、光周波数コムとなる。
【0007】
一般に、時間軸上に並ぶ光搬送波電界のピークと、包絡線で示されるパルスレーザーのパルスのピークとは常に一致しているわけではなく、時間的にシフトしていき、この変化も一定ではない。なお、図4の(a)では、光搬送波電界のピークと、包絡線により示されるパルスのピークとが、Δφ,2Δφと時間とともにずれていく状態を示している。また、光搬送波電界のピークとパルスピークのずれΔφに対応し、図4の(b)に示すように、光周波数コムもオフセット周波数δだけオフセットされている。
【0008】
ところで、上述した包絡線で示すパルスのピーク間の時間幅Tと、図4の(b)に示す光周波数コムのモードの間隔である周波数間隔frepとの間には、「frep=1/T」という関係があり、光周波数コムの各モードのスペクトル周波数fnは、「fn=n×frep+δ(nは整数)」と表すことができる。また、包絡線のピークから計った光搬送波電界の位相(キャリアエンベロープ位相)をφとし、このφの隣り合うパルス(包絡線)の間のずれをΔφとすると、オフセット周波数δとレーザー繰り返し周波数であるfrepとの間には、「δ=(Δφ/2π)×frep」の関係が成り立っている。
【0009】
ここで、まず、受動モード同期レーザー発振器のスペクトルの周波数帯域を、例えばフォトニック結晶ファイバなどで生じる自己位相変調効果を用い、周波数帯域を2倍以上(帯域1オクターブ以上)に広げて白色光を発生させる。このことにより、光周波数コムの櫛目となるモードの数を増大させることができる。このようにして得られた白色光の長波長成分f1(=n×frep+δ)の第2高調波を発生させると、この周波数は、f1’=2×(n×frep+δ)となる。また、上記白色光の短波長成分f2は、「f2=2×n×frep+δ」と表せる。この短波長成分f2の光とf1’の光とを干渉させ、これにより発生するうなり信号(光ビート)を例えばフォトダイオードを用いて検出することで、f1’とf2との周波数差δ(=f1’−f2)の値を測定することができる。
【0010】
上述したことにより検出される光周波数δが、オフセット周波数と呼ばれ、キャリアエンベロープ位相差Δφに比例する。この周波数差δを外部からのマイクロ波基準周波数と比較し、比較により得られるこれらのずれの大きさをもとに、電子回路などを用いて共振器内における光が感じる非線形分散量や非線形屈折率にフィードバックをかけることで、前述した光周波数コムのオフセット周波数δ(キャリアエンベロープ位相φの差)が安定した状態で、受動モード同期レーザーより光周波数コムを得ることができる。
【0011】
また、受動モード同期レーザーの繰り返し周波数frepは、このレーザー光を受光しているフォトダイオードなどの光検出器からの繰り返し周波数信号をもとに、受動モード同期レーザーの共振器長にフィードバックをかけることで、ある有限の範囲内に固定することができる。
【0012】
上述したことにより、オフセット周波数と繰り返し周波数とを一定にした光周波数コム安定化光源が、共振器を備えた受動モード同期レーザーを基本に開発されている(非特許文献1〜6参照)。
【0013】
ところで、上述した受動モード同期レーザーを用いた光周波数コム光源では、キャリアエンベロープ位相を制御する手段として、共振器内に設置されたガラスウエッジの挿入量を変えて共振器における屈折率(分散量)を変化させることや、ポンプ光の強度を変えて利得媒質(例えばチタンサファイア結晶)の非線形屈折率を変化させるようにしている(非特許文献1〜3,5〜7参照)。従って、従来の技術では、周波数が安定な光周波数コムを得るためには、共振器を備えた受動モード同期レーザーを用いることが前提となる。
【0014】
受動モード同期レーザーを用いる場合、得られるレーザーの中心光周波数は共振器内に配置された利得媒質に依存し、例えば、利得媒質としてチタンサファイア結晶を用いた場合、発振可能なレーザーの波長は650〜1100nmの範囲となるが、最も効率よく発振できる波長は800nmである。このように、受動モード同期レーザーでは、得られるレーザーの中心光周波数が限定される。
【0015】
また、キャリアエンベロープ位相差の検出には、前述したように、フォトニック結晶ファイバや高非線形ファイバなどを用いてスペクトルを広帯域化した光を得られるだけのレーザー出力が必要となる。このため、用いることができるレーザーの種類が限定される。また、条件を満たすレーザーでは、共振器内に配置する利得媒質と光学部品との空間的配置などの制約から、共振器長を短くすることができず、共振器長で決定される繰り返し周波数は、1GHz程度が上限となる。
【0016】
さらに、繰り返し周波数を変化させるための共振器の長さの調節(制御)は、通常、共振器エンドミラーに固定したピエゾ素子などのアクチュエータで行っている。このため、繰り返し周波数の可変範囲も小さいものとなっている。例えば、繰り返し周波数が80MHzのレーザー光源の可変範囲は、77〜83MHz程度である。
【0017】
一方、安定な光周波数コムを得る方法として、連続的にレーザーを出す波長安定化連続波(CW; Continuous Wave)光源を用い、この光源に対して電気光学変調器で深い周波数変調をかけ、FM側帯波を発生させる方法が提案されている(非特許文献7参照)。この方法では、繰り返し周波数における制約は解消されるが、光周波数コムのオフセット光周波数は、もとになるCW光の中心波長によって決定されるため、得られる光周波数コムの安定化を実現するためには、例えば、アセチレンガスなどの吸収線にロックすることで得られる波長安定化光源などのCW光源が必要となり、外部からのマイクロ波参照周波数だけで光周波数コムの各モードの波長を固定することができず、得られる確度も劣るものとなる。
【0018】
上述した問題を解消するために、以下に示す技術が提案されている。まず、CW光源をより発生したレーザー光を第1周波数で位相変調することで、パルスの繰り返し周波数が第1周波数の光パルスを生成し、この光パルスの光スペクトル帯域を拡大させる。次に、帯域が拡大した光パルスより得られる長波長成分の第n高調波および短波長成分の第n−1高調波の周波数差の光信号に対応する電気信号と参照信号とを比較し、この比較の状態をフィードバックしてCW光源の中心波長を制御する(特許文献3参照)。
【0019】
しかし、上記技術では、位相変調器に基準信号を供給する基準周波数発生器に課題があった。数GHz以上といった高い繰り返し周波数の光周波数コムを発生させようとすると、基準周波数発生器も同じ周波数の基準信号を発生させる必要がある。このような高周波の基準信号を発生させるため、基準周波数発生器は、水晶発振器などが発振する信号を逓倍して、所望の信号を生成している。
【0020】
基準周波数発生器からの基準信号の位相雑音(時間ジッター)は、逓倍する前の信号が有する位相雑音が逓倍の次数に比例して増大する。基準周波数発生器が出力する基準信号の位相雑音が増大すると、光周波数コムの各モードの光スペクトルを拡大し、自己参照干渉計を用いてオフセット周波数を検出する際に位相雑音が大きくなるため、信号検出が困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特表2002−539627号広報
【特許文献2】特開2006−209067号公報
【特許文献3】特開2009−116242号公報
【特許文献4】特開2011−002580号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】D.J.Jones, et al. , "Carrier-Envelope Phase Control of Femtosecond Mode-Locked Lasers and Direct Optical Frequency Synthesis", Science, Vol.288, pp.635-639, 2000.
【非特許文献2】R.Holzwarth, et al. , "Optical Frequency Synthesizer for Precision Spectroscopy", Phys. Rev. Lett. , Vol.85, No.11, pp.2264-2267, 2000.
【非特許文献3】K.Sugiyama, et al. , "Frequency Control of a Chirped-Mirror-Dispersion-Controlled Mode-Locked Ti:Al2O3 Laser for Comparison between Microwave and Optical Frequencies", Proceedings of SPIE, Vol.4269, pp.95-104,2001
【非特許文献4】T.R.Schibli, et al. , "Frequency metrology with a turnkey all-fiber system", Optics Letters ,Vol.29, No.21, pp.2467-2469, 2004.
【非特許文献5】T.M.Foritier, et al. , "Octave-spanning Ti:sapphire laser with a repetition rate >1 GHz for optical frequency measurements and comparisons", Optics Letters ,Vol.31, No.7, pp.1011-1013, 2006.
【非特許文献6】I. Hartl, et al. , "Integrated self-referenced frequency-comb laser based on a combination of fiber and waveguide technology", Optics Express, Vol.13, No.17, pp.6490-6496,2005.
【非特許文献7】M.Kourogi, et al. , "Limit of Optical-Frequency Comb Generation Due to Material Dispersion", IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol.31, No.12, pp.2120-2126, 1995.
【非特許文献8】A. A. Savchenkov et al., "Phase noise of whispering gallery photonic hyper-parametric microwave oscillators", Optics Express, Vol. 16, No. 6, pp.4130-4144, 2008.
【非特許文献9】T. M. Fortier et al., "Generation of ultrastable microwaves via optical frequency division", Nature Photonics, vol. 5, pp. 425-429, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
以上に説明したように、高い繰り返し周波数の光周波数コムの発生においては、位相変調器に基準信号を供給する基準周波数発生器の位相雑音強度が影響し、連続波光源の中心周波数から離れた周波数における光周波数コムの線幅も広くなる。この結果、オフセット周波数の検出が困難になる、あるいは精度が低下し、高い繰り返し周波数の光周波数コムが、高い精度で得られないという問題があった。
【0024】
一方、無線通信においては、低い移動通信周波数の利用効率を向上させるだけでは、増大するトラフィック需要には対応しきれず、10GHz以上まで含めた高い周波数を利用することが予想される。このため、将来の無線通信として、帯域が20〜60GHzのミリ波の利用が検討されている。この場合、位相雑音が低いミリ波発生器が必要になるものと考えられる。現在利用可能なミリ波帯の信号発生器は、水晶発振器(10MHz)をベースにし、例えば25GHz程度のミリ波まで逓倍している。このため、得られる信号には、位相雑音が増大されるものとなる。
【0025】
これに対し、現在、光の高い周波数を利用してミリ波を発生させる方法が検討されている(非特許文献8,9参照)。これらは、10GHz以下の安定かつ低位相雑音のミリ波を発生する技術として、注目されている。しかしながら、上述した技術では、共振器構造によるレーザー光源を使用してマイクロ波やミリ波を発生させているため、得られる信号の周波数を可変とすることが困難である。
【0026】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、位相雑音が抑制されたマイクロ波やミリ波などの信号が、周波数が可変な状態で得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明に係る信号発生器は、連続光を生成するレーザーから構成された第1光源と、第1光源に対して1/n(nは2以上の整数)の波長のレーザー光を生成するレーザーから構成された第2光源と、所定の周波数の第1信号を出力する第1信号発生器と、所定の周波数の第2信号を出力する第2信号発生器と、第1光源より出力された連続光より高調波を発生させる第1非線形結晶と、第1非線形結晶より得られた高調波と第2光源より出力されたレーザー光とを合波する第1光学素子と、第1光学素子による合波によって発生した干渉信号を検出して光電変換する第1光検出器と、第1光検出器により光電変換されて出力された電気信号と、第1信号発生器より出力される第1信号とを比較し、この比較の状態をもとに第1光源の中心波長を制御する第1帰還制御部と、第1帰還制御部に制御された第1光源より出力された連続光より第1周波数のパルス繰り返し周波数を有する光パルスを生成する光パルス生成手段と、光パルス生成手段により生成された光パルスの光スペクトル帯域を拡大する非線形媒質と、非線形媒質により拡大された光パルスより第n高調波を発生させる第2非線形結晶と、第2非線形結晶より得られた第n高調波と第2光源より出力されたレーザー光とを合波する第2光学素子と、第2光学素子による合波によって発生した干渉信号を検出して光電変換する第2光検出器と、第2光検出器により光電変換されて出力された電気信号と、第1信号発生器より出力される第1信号とを比較し、この比較の状態をもとに第2信号発生器の初期位相を制御する第2帰還制御部とを備え、第1信号は、第2信号より低い周波数とされている。
【0028】
上記信号発生器において、第2光源は、パルスレーザー光を生成する狭線幅レーザーから構成されていればよい。この場合、狭線幅レーザーは、チタンサファイアレーザーであればよい。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したことにより、本発明によれば、位相雑音が抑制されたマイクロ波やミリ波などの信号が、周波数が可変な状態で得られるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の実施の形態1における信号発生器の構成を示す構成図である。
図2図2は、実施の形態における信号発生器のCW光源101より得られたSC光と波長可変レーザーとを用いて、SC光における各モードの位相雑音累積値の測定結果を示す特性図である。
図3図3は、本発明の実施の形態2における信号発生器の構成を示す構成図である。
図4図4は、光パルスにおける光搬送波のキャリアエンベロープ位相について示す説明図(a)、および光パルスの周波数軸上における線スペクトルの状態を示す説明図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0032】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における信号発生器の構成を示す構成図である。この信号発生器は、まず、位相変調方式用の連続波(CW)光源(第1光源)101と、高調波発生用の非線形結晶102と、狭線幅レーザー(第2光源)103と、第1光検出器104と、基準周波数発生部(第1信号発生部)105と、CW光源101の光周波数安定化用の第1帰還制御部106とを備える。
【0033】
また、実施の形態1における信号発生器は、信号発生部(第2信号発生部)107と、位相変調器108と、強度変調器109と、位相シフタ110と、光パルス化用の波長分散付与部111と、光増幅器112と、パルス圧縮用の分散補償部113と、広スペクトル域光発生用の非線形光学媒質114と、広スペクトル域光波長変換用の非線形結晶115と、第2光検出器116と、周波数フィルタ117と、第2帰還制御部118とを備える。また、信号発生器は、光を2分岐し、また合波する光学素子151,152,153,154を備える。これらは、例えば光カプラーから構成すればよい。
【0034】
まず、CW光源101の制御について説明する。CW光源101は、連続波レーザーから構成されている。非線形結晶102は、CW光源101より高調波を発生させる。狭線幅レーザー103は、パルスレーザー光を生成する狭線幅レーザーであり、例えば、チタンサファイアレーザーであり、出力されるレーザー光は、広帯域650−900nm、かつ、各光周波数コムの線幅が狭い。第1光検出器104は、CW光源101によるCW光と狭線幅レーザー103からの光との合波光の干渉信号を検出する。
【0035】
第1帰還制御部106は、計測された光周波数オフセットを、基準周波数発生部105より出力される第1信号に同期してCW光源101の中心波長を制御する。基準周波数発生部105は、例えば、GPS(Global Positioning System)衛星から送出されるGPS信号を受信し、受信したGPS信号を参照信号として出力するものである。GPS信号は、周波数が既知の電気信号であり、また、この周波数は高い確度が保たれている。
【0036】
より詳細に説明する。種光源として用いるCW光源101の光周波数をf1とすると、f1=fc1+Δf0と記述できる。なお、fc1は中心周波数、Δf0はCW光源101が持っている位相雑音である。CW光源101から出力されたCW光は、光学素子153で2分岐され、一方は、CW光源101の周波数安定化用に用いられ、他方は、位相変調方式光源の種光源として用いられる。
【0037】
光学素子153で2分岐された一方のCW光は、非線形結晶102へ入力し、高調波(例えば第2高調波:2f1)を発生させる。また、狭線幅レーザー103出力されるレーザー光の光周波数をf2とすると、f2=fc2+Δf2と記述できる。なお、fc2は中心周波数、Δf2は、狭線幅レーザー103より出力されるレーザー光が持っている位相雑音を示す。これらの、狭線幅レーザー103より出力されて光学素子151を反射したレーザー光と、CW光とは、光学素子(第1光学素子)152で合波し、合波したことにより発生する干渉信号f3が、第1光検出器104で検出される。
【0038】
第1帰還制御部106は、上述したように第1光検出器104で検出された干渉信号f3より得られる光周波数オフセットを、基準周波数発生部105より出力される第1信号に同期させ、CW光源101の中心波長を制御する。第1帰還制御部106では、干渉信号と基準周波数発生部105より出力される第1信号とを比較し、この比較の結果が一定となるように、CW光源101の共振周波数,注入電流,および温度などを可変してCW光源101から出力されるレーザーの中心周波数を制御する。
【0039】
基準周波数発生部105からは、所定の周波数のマイクロ波f4(第1信号)が出力されている。このマイクロ波f4が入力されている第1帰還制御部106では、CW光源101の中心周波数にフィードバック制御することで、CW光源101の中心周波数を周波数軸上に高確度に安定化する。CW光源101の中心周波数の制御は、例えば、ピエゾ素子または加熱素子あるいは電気光学素子により、CW光源101の外部共振器長を変化させることにより可能である。このようにフィードバック制御されているCW光源101の第2高調波の光周波数は、2f1=f2+f4と表せる。
【0040】
次に、2分岐された他方のCW光は、位相変調器108において信号発生部107から送信(出力)される周波数fr1の信号(第2信号)により位相変調されてスペクトル帯域を拡張する。なお、信号発生部107は、基準周波数発生部105より出力される第1信号に同期して周波数fr1の信号を出力する。また、位相変調器108の前段もしくは後段に強度変調器109を縦列配置し、位相変調器108によってダウンもしくはアップチャーピングした片方を選択して光透過させ、位相変調部108で発生したDCベース部分を取り除く。これにより、波長分散付与部111で各パルスのパルス幅を圧縮した際のDC成分の抑圧に寄与することができる。また、位相変調器108と強度変調器109で変調する時間調整のために、位相シフタ110を用いる。
【0041】
図1を用いて説明している実施の形態1では、位相変調器108の後段に強度変調器109を縦列して配置させているが、位相変調器108の前段に強度変調器109を縦列配置してもよい。この場合、光学素子153で2分岐された他方のCW光を、強度変調器109で強度変調してから位相変調器108で位相変調する構成となる。
【0042】
次に、波長分散付与部111が、強度変調器109より出力されたCW光に波長分散を与えて所定の繰り返し周波数の光パルス列に変換する。波長分散付与部111で適切な分散を与えることで、繰り返し周波数fr1の短光パルス列を発生することができる(特許文献2)。また、波長分散付与部111が波長フィルタを備えていれば、変換した光パルス列に残留するウィング成分を抑圧でき、クリーンパルス発生を可能にする。
【0043】
光増幅器112は、波長分散付与部111により光パルス列に変換された光(光パルス列)の光強度を増幅する。また、波長分散付与部111により発生した光パルス列は、光増幅器112によって光増幅する。ここでは、光増幅器112内の進行型自己位相変調効果などの非線形効果を用いて段階的に光増幅する手法を用い、光分裂を起こさずにスペクトル帯域幅を拡大し、次段の分散補償部113で短パルス発生を行う(特許文献3参照)。
【0044】
なお、CW光源101、位相変調器108、強度変調器109、波長分散付与部111からなるパルス光源部分は、ファブリペロー共振器内に電気光学変調器を設置することで深い周波数変調をCW光にかけ、FM側帯波を発生させる方法であってもよい(非特許文献7参照)。これらの位相変調器を用いてパルス列を発生させる手法では、共振器長の制約を受けないために、数十GHzの繰り返しパルス列の発生が実現可能となる。
【0045】
以上のようにして発生させた光パルス列は、非線形光学媒質114に入力し、広スペクトル帯域光(SC光)として出力される。非線形光学媒質114において、非線形感受率の大きい材料を使用すれば、高効率に所望の広スペクトル帯域光を発生でき、光周波数コム安定化に必要となるCW光源101からの供給エネルギーの最低閾値を低く抑制することが可能である。この点について、図2を用いて説明する。
【0046】
図2は、上述したことにより得られたSC光と波長可変レーザーとを用いて、SC光の各モードの位相雑音累積値の測定結果を示す特性図である。図2において、横軸には、SC光のモード次数ととり、縦軸には位相雑音累積値をとってプロットした。図2に示すように、SC光各モードの位相雑音累積値は、モード次数に対して線形に増加することが分かる。また同時に、傾きが、信号発生部107より出力される第2信号の位相雑音であることが実験から検証できた。
【0047】
従って、SC光のモード次数k(k=0,±1,±2,±3,・・・)の光周波数f1kは、「f1k=fc1+Δf0+k(fr1+Δf1)=(fc1+kfr1)+(Δf0+kΔf1)」と、表せる。ここで、Δf1は、信号発生部107より出力される第2信号がもつ位相雑音である。
【0048】
以上のようにして非線形光学媒質114により広スペクトル帯域とされたSC光は、非線形結晶115に入力する。このことにより、SC光モード次数kの高調波(例えば、第2高調波)が発生される。広スペクトル帯域(SC)光の第2高調波の場合、光周波数は、「2f1k=2fc1+2Δf0+2k(fr1+Δf1)=2(fc1+kfr1)+2(Δf0+kΔf1)」と表せる。
【0049】
SC光と干渉信号を得るための狭線幅レーザー103より出力されるレーザー光は、広帯域な波長域を持っている。従って、このレーザー光を用いることで、非線形結晶115を出力したSC光の、第2高調波の近傍の波長と干渉信号が得られる。
【0050】
ここで、狭線幅レーザー103より出力されるレーザー光の光周波数f5は、「f5=fc5+Δf2」と、表せる。fc5は、狭線幅レーザー103より出力されるレーザー光の、SC光モード次数kの高調波の光周波数近傍の光周波数コムである。また、狭線幅レーザー103より出力されるレーザー光の各光周波数コムは、同程度の位相雑音を持っているため、Δf2とする。
【0051】
非線形結晶115を出力したSC光の第2高調波と、狭線幅レーザー103より出力されて光学素子151を通過したレーザー光とは、光学素子(第2光学素子)154に入力して合波され、この結果、干渉信号が発生する。この干渉信号f6が、第2光検出器116で検出される。また、干渉信号f6に含まれる最も低い干渉信号周波数成分が、周波数フィルタ117で取り出される。
【0052】
ここで、上記干渉信号の中心周波数をfc6とすると、「fc6=2(fc1+kfr1)−fc5」と、表せる。また、干渉信号f6は、「f6={2(fc1+kfr1)−fc5}+{2(Δf0+kΔf1)−Δf2}=fc6+{2(Δf0+kΔf1)−Δf2}」と表せる。
【0053】
以上のようにして周波数フィルタ117で取り出された干渉信号f6は、第2帰還制御部118に入力する。第2帰還制御部118には、上記干渉信号f6と、基準周波数発生部105のマイクロ波周波数f4とが入力される。これらが入力された第2帰還制御部118は、第2光検出器116で検出され光電変換された干渉信号f6(電気信号)と、基準周波数発生部105より出力される第1信号とを比較し、この比較の状態をもとに信号発生部107をフィードバック制御する。第2帰還制御部118では、干渉信号f6および第1信号f4より、2(Δf0+kΔf1)−Δf2=0となるように、信号発生部107の初期位相を制御する。
【0054】
以上のようにして第2帰還制御部118を用いて制御された信号発生部107が出力する信号(第2信号)の位相雑音Δf1は、「Δf1=(Δf2−2Δf0)/2k」と記述でき、モード次数kに反比例して位相雑音を低減できる。
【0055】
例えば、位相変調レーザーを用いたスーパーコンティニューム(SC)光の波長1600nm成分の光周波数は、中心周波数を193.1THz,モード間隔を25GHzとした場合、モード次数230であるから、信号発生部107が出力する信号の位相雑音Δf1は、1次モードの460分の1の位相雑音になる。位相変調レーザーを用いたSC光の波長1100nm成分の光周波数は約3000次モードであるから、マイクロ波信号発生器の位相雑音Δf1は狭線幅レーザー位相雑音Δf2の約6000分の1の位相雑音になる。
【0056】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について図3を用いて説明する。図3は、本発明の実施の形態2における信号発生器の構成を示す構成図である。この信号発生器は、まず、CW光源101と、非線形結晶102と、狭線幅レーザー103と、第1光検出器104と、基準周波数発生部105と、第1帰還制御部106とを備える。
【0057】
また、実施の形態2における信号発生器は、信号発生部107と、位相変調器108と、強度変調器109と、位相シフタ110と、波長分散付与部111と、光増幅器112と、分散補償部113と、非線形光学媒質114と、非線形結晶115と、第2光検出器116と、周波数フィルタ117と、第2帰還制御部118とを備える。また、光学素子151,152,153,154を備える。
【0058】
上述した構成は、前述した実施の形態1と同様であり、説明は省略する。実施の形態2では、新たに、音響光学素子301および非線形媒質302を備える。音響光学素子301は、CW光源101より出力されるCW光の周波数を安定化させる。音響光学素子301は、前述した実施の形態1におけるCW光源101の周波数安定化にも使用できる。
【0059】
非線形媒質302は、狭線幅レーザー103より生成されてて光学素子151を通過したレーザー光の光パルス列を、広スペクトル帯域光(SC光)として出力する。実施の形態2では、非線形媒質302を用い、狭線幅レーザー103より出力されたレーザー光をSC光とし、光学素子154において非線形結晶115を出力したSC光の第n高調波と合波する。
【0060】
前述した実施の形態1では、非線形結晶115で第2高調波を発生させる場合について説明したが、光源101として位相雑音Δf0が小さいものを用い、非線形結晶115で3次や4次高調波などのn次の高調波を発生させ、非線形媒質302を用いた構成とすれば、信号発生部107が出力する信号の位相雑音を、狭線幅レーザー103より出力されたレーザー光の位相雑音の1/3、1/4にすることができる。n次の高調波を用いれば、信号発生部107より出力する第2信号の位相雑音Δf1は、1/nにまで抑圧できる。
【0061】
なお、上述では、第2光源として狭線幅レーザー103を用いるようにしたが、これに限るものではない、第2光源は、CW光源(第1光源)101に対して1/n(nは2以上の整数)の波長のレーザー光を生成するレーザーから構成すればよい。このような構成とすることで、非線形結晶115で第n高調波を生成させれば、信号発生部107が出力する信号の位相雑音を、第2光源より出力されたレーザー光の位相雑音の1/nにすることができる。
【0062】
以上に説明したように、本発明によれば、狭線幅レーザーに周波数安定化された受動モード同期レーザーから構成された第1光源を、第2信号発生部からの第2信号をもとにした位相変調および強度変調手段を用いて光パルス列を発生させ、この光パルス列と非線形光学媒質を用いて広帯域光を発生させ、この広帯域光の高調波成分と狭線幅レーザーとの干渉信号をもとに、第2帰還制御部で第2信号発生部にフィードバックさせたので、高調波次数に対応する反比例する抑圧比で、第2信号発生部が持つ位相雑音を抑圧させることができ、位相雑音が抑制されたマイクロ波やミリ波などの信号が、周波数が可変な状態で得られるようになる。
【0063】
本発明による信号発生器は、光周波数コム安定化光源に適用すれば、従来ではモード次数に線形増加していた輝線スペクトル線幅を狭帯域化できることから、従来以上に光コム各モードを利用した通信分野や分光学分野の発展に寄与する。また、信号発生器の位相雑音を、従来法である水晶発振器では到達できない低位相雑音を実現できることから、マイクロ波やミリ波の技術を利用している多くの分野の発展に大きく寄与できると考える。
【0064】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で設計を変更し、また、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0065】
101…CW光源、102…非線形結晶、103…狭線幅レーザー、104…第1光検出器、105…基準周波数発生器(第1信号発生部)、106…第1帰還制御部、107…信号発生器(第2信号発生部)、108…位相変調器、109…強度変調器、110…位相シフタ、111…波長分散付与部、112…光増幅器、113…分散補償部、114…非線形光学媒質、115…非線形結晶、116…第2光検出器、117…周波数フィルタ、118…第2帰還制御部、151…光学素子、152…光学素子(第1光学素子)、153…光学素子、154…光学素子(第2光学素子)。
図1
図2
図3
図4