【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、農林水産省、「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Hidenori Tani,Anal. Chem.,2007年,Vol.79,pp.5608-5613
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プライマーセットが、更に、前記F3領域に同じF3配列を有するF3プライマー、前記B3c領域に相補的なB3配列を有するB3プライマー、前記LBc領域に同じLBc配列をもつLBcプライマーおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される更なるプライマーを含む、請求項1に記載の方法。
前記特定の核酸について種類毎に、前記プライマーセットが、更に、前記F3領域に同じF3配列を有するF3プライマー、前記B3c領域に相補的なB3配列を有するB3プライマー、前記LBc領域に同じLBc配列をもつLBcプライマーおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される更なるプライマーを含む、請求項3に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0014】
当該方法により、検体中の特定の核酸の量を測定することが可能である。当該方法は、目的とする特定の核酸の検体中の存在量を知るために、検出されるべき核酸を標的鋳型核酸として、プライマーセットで増幅すると共に、同一のプライマーセットを用いて競合的に濃度標準核酸を鋳型として増幅する。これらの競合的な増幅は、1つの反応環境内で行われる。このとき、濃度標準核酸の量は既知である。得られた増幅産物を、核酸プローブと反応させ、生じたハイブリダイゼーションを検出する。標的鋳型核酸に基づくハイブリダイゼーション量と、濃度標準核酸に基づくハイブリダイゼーション量とを比較することにより、検体中の標的鋳型核酸の量を決定する。濃度標準核酸の種類を増やし、それぞれの濃度標準核酸の量を異なる量、例えば、段階的に異なる量として、それらを検体と共に1つの反応環境内で同一のプライマーセットにより増幅することにより、より詳細に標的鋳型核酸の量を決定することが可能である。
【0015】
言い換えれば、使用する濃度標準核酸の種類およびその数、並びに濃度によって、当該定量方法の精度を所望に応じて調整することが可能である。大まかな存在量が知りたい場合には、より少ない種類、例えば、1種類または2種類などの濃度標準核酸を使用してもよい。また、所望に応じて特定の基準、例えば、閾値を予め定めておき、その基準値よりも検体中の菌量が多いのか、少ないのかを判定する方法として当該方法を使用することも可能である。
【0016】
検体に含まれる核酸を「検体核酸」と称する。検体核酸のうち、プライマーにより増幅することにより定量されるべき核酸を「標的鋳型核酸」と称する。プライマーにより増幅されるべき核酸を「鋳型配列」と称す。鋳型配列を含む核酸を「鋳型核酸」または「鋳型」と称す。
【0017】
図1を参照して標的鋳型核酸1とプライマーセットについて説明する。
【0018】
標的鋳型核酸1は、その5’末端側からF3領域、F2領域、第1のプローブ結合領域2およびF1領域をこの順番で含み、且つ3’末端側からB3c領域、B2c領域、LBc領域およびB1c領域をこの順番で含む。標的鋳型核酸1が二本鎖で存在する場合には、その相補配列である標的鋳型核酸3は、その5’末端側からB3領域、B2領域、LB領域およびB1領域をこの順番で含み、且つ3’末端側からF3c領域、F2c領域、第1のプローブ結合領域の相補領域、およびF1c領域をこの順番で含む。F3領域、F2領域、F1領域、B3領域、B2領域、B1領域、LB領域は、それぞれF3配列、F2配列、F1配列、B3配列、B2配列、B1配列、LB配列を有する。F3c領域、F2c領域、F1c領域、B3c領域、B2c領域、B1c領域、LBc領域は、それぞれF3領域、F2領域、F1領域、B3領域、B2領域、B1領域、LB領域に相補的な配列を有する。
【0019】
プライマーセットは、第1のプライマー4と第2のプライマー5とを含む。第1のプライマー4は、5’末端側にF1に相補的なF1c配列を有し、且つ3’末端側にF2に同じF2配列を有するFIPプライマーである。第2のプライマー5は、5’末端側にB1cに同じB1c配列を有し、且つ3’末端側にB2cに相補的なB2配列を有するBIPプライマーである。
【0020】
濃度標準核酸6は、その5’末端側からF3領域、F2領域、第2のプローブ結合領域7およびF1領域をこの順番で含み、且つ3’末端側からB3c領域、B2c領域、LBc領域およびB1c領域をこの順番で含む。第2のプローブ結合領域7の配列は、第1のプローブ結合領域2の配列と異なる。即ち、濃度標準核酸6は、標的鋳型核酸1における第1のプローブ結合領域2の配列以外は、標的鋳型核酸1の構成と同じである。
図1には示さないが、濃度標準核酸6が二本鎖で存在する場合には、その相補配列である配列は、その5’末端側からB3領域、B2領域、LB領域およびB1領域をこの順番で含み、且つ3’末端側からF3c領域、F2c領域、第2のプローブ結合領域の相補領域、およびF1c領域をこの順番で含む。
【0021】
前記検体と、前記プライマーセットと、既知の濃度の前記第1の濃度標準核酸とを1つの反応環境内に持ち込み、LAMP法により増幅反応を行って増幅産物を得る。
【0022】
標的鋳型核酸1と濃度標準核酸6の配列は、プローブ結合領域の配列のみが異なり、同じプライマーセットによりそれぞれ増幅される。同じプライマーセットにより、標的鋳型核酸1と濃度標準核酸6とを1つの反応環境内において競合的に共増幅した場合、反応環境内において、より多く存在する方が優先的に増幅される。
【0023】
得られた増幅産物を基体に固定化された核酸プローブ群と反応させ、生じたハイブリダイゼーション量によって、目的とする標的鋳型核酸の検体中の存在量を判定する。
【0024】
この方法において、互いに異なる濃度を有する複数の濃度標準核酸を用いてもよい。例えば、第1〜第nまでの複数の濃度標準核酸を用いる場合、第1〜第nの濃度標準核酸の各プローブ結合領域は、第2
1〜第2
nのプローブ結合領域をそれぞれ含む。ここで、nは2以上の整数である。第2
1〜第2
nのプローブ結合領域は、何れも標的鋳型核酸1に含まれる第1のプローブ結合領域2の配列とは異なり、且つ他の第2
1〜第2
nのプローブ結合領域の配列は、互いに異なる配列を有する。各濃度標準核酸のプライマー結合領域は、プローブ結合領域以外の配列は標的鋳型核酸1と同じである。複数の濃度標準核酸を使用する場合には、1つの反応環境内で、検体と、第1〜第nの濃度標準核酸のうちの何れか1種類と、プライマーセットとを持ち込む。用意される反応環境は、第1〜第nの反応環境であり、準備された第1〜第nの濃度標準核酸の全てについてそれぞれ競合的に増幅反応を行う。増幅反応の後に、第1〜第nの反応環境においてそれぞれ得られた第1〜第nの増幅産物を1つに合わせる。1つに合わせられた増幅産物は、第1〜第nの増幅産物、即ち、例えば、nが3であった場合、第1の増幅産物、第2の増幅産物、第3の増幅産物を含む。その後、合わせられた増幅産物を核酸プローブ群と反応させて、生じたハイブリダイズ信号を検出し、得られたハイブリダイズ信号の有無または大きさを互いに比較することにより、検体中の標的鋳型核酸1の濃度を判定する。
【0025】
本方法の原理について
図2を参照しながら説明する。検体を準備する。検出されるべき標的鋳型核酸1を選択する。標的鋳型核酸1は、第1のプローブ結合領域2を含む。標的鋳型核酸1をLAMP増幅するためのプライマーセットと、濃度標準核酸6とを準備する。プライマーセットは、第1のプライマー4と第2のプライマー5を備える。濃度標準核酸6は、第1のプローブ結合領域2とは異なる配列を有する第2のプローブ結合領域7を有する。次に、検体と、濃度標準核酸6と、プローブセットとを1つの反応環境内に持ち込み、競合的にLAMP増幅反応を行う。
【0026】
(a−1)に示すように、例えば、標的鋳型核酸1と濃度標準核酸6との反応環境内の存在比が10:1である場合、即ち、反応環境内に存在する標的鋳型核酸の量と濃度標準核酸の量に偏りがある場合、存在量が大きい方の鋳型が優先的に増幅される。増幅により得られる増幅産物量のイメージを
図2(a−2)に示す。
図2(a−2)のように、存在量が大きい方の鋳型からの増幅産物が、他方の鋳型からの増幅産物量よりも多く存在する。
【0027】
(b−1)に示すように、例えば、標的鋳型核酸1と濃度標準核酸6との反応環境内の存在比が1:1である場合、即ち、反応環境内に存在する標的鋳型核酸の量と濃度標準核酸の量が等しい場合、増幅反応は2つの鋳型について等しく進行する。即ち、
図2(b−2)に示すように、標的鋳型核酸1および濃度標準核酸6のそれぞれからの増幅産物は等しい量で存在する。
【0028】
従って、既知の濃度の濃度標準核酸と検体とを競合的にLAMP増幅反応を行った後に、増幅産物を検出することにより、濃度標準核酸の濃度を指標に検体中の標的鋳型核酸の濃度を判定することが可能である。
【0029】
核酸プローブと増幅産物との反応は、DNAチップを用いて行ってよい。
【0030】
「核酸プローブ」とは、標的配列に対して相補的な配列を含む核酸である。核酸プローブは、それ自身公知の固相に対して固定化されてもよい。好ましい核酸プローブは、基体表面に固定化されて使用される。そのような基体と、基体に固定化された核酸プローブとを含む装置は、一般的にDNAチップにより行われてよい。「DNAチップ」とは、検出しようとする核酸に相補的な配列を有する核酸プローブと、検出対象の核酸との間のハイブリダイゼーション反応を利用して、核酸を解析する装置である。DNAチップの語は、一般的に使用される「核酸チップ」、「マイクロアレイ」および「DNAアレイ」などの用語と同義であり、互いに交換可能に使用される。
【0031】
核酸プローブは、標的鋳型核酸に由来する増幅産物と、増幅時に使用された全ての濃度標準核酸にそれぞれ由来する全ての増幅産物が検出できるように用意される。例えば、標的鋳型核酸と、1種類の濃度標準核酸を共増幅する場合、DNAチップは、第1の固定化領域に固定化された第1の核酸プローブ8と、第2の固定化領域に固定化された第2の核酸プローブ9を備える。
図1に示すように、第1の核酸プローブ8は、5’側のF2領域と3’側の第1のプローブ結合領域2を含む第1の標的配列に相補的な配列を有する。第2の核酸プローブ9は、5’側のF2領域と3’側の第2のプローブ結合領域7を含む第2の標的配列に相補的な配列を有する。更に、DNAチップは、第1の核酸プローブ8および第2の核酸プローブ9にそれぞれ相補的な第3の核酸プローブおよび/または第4の核酸プローブを更に含んでもよい。
【0032】
第1〜第nの濃度標準核酸を用いる場合には、第2
1〜第2
nの核酸プローブ、即ち、n種類の互いに配列の異なる核酸プローブが用意される。ここでnは、2以上の整数である。各核酸プローブは、それぞれの濃度標準核酸が含むF2領域と第2
1〜第2
nのプローブ結合領域の何れか1つの配列とをそれぞれ含む第2
1〜第2
nの標的配列に相補的な配列を有する。即ち、第2
1の核酸プローブは、5’側のF2領域と3’側の第2
1のプローブ結合領域とを含む第2
1の標的配列に相補的な配列を有する。第2
nの核酸プローブは、5’側のF2領域と3’側の第2
nのプローブ結合領域とを含む第2
nの標的配列に相補的な配列を有する。このような第2
1〜第2
nの核酸プローブは、DNAチップの第2
1〜第2
nの固定化領域に種類毎にそれぞれ固定化されていてもよい。
【0033】
或いは、第1の核酸プローブ8は、F2領域および第1のプローブ結合領域2を含む第1の標的配列と同じ配列を有してもよい。また、第2の核酸プローブ9は、F2領域および第2のプローブ結合領域7を含む第2の標的配列と同じ配列を有してもよい。同様に第nの核酸プローブは、F2領域および第2
nのプローブ結合領域を含む第nの標的配列と同じ配列を有してもよい。
【0034】
「標的配列」とは、鋳型核酸を、プライマーセットを用いて増幅して得られた増幅産物の配列のうち、核酸プローブと結合させることによって検出されるべき配列である。標的配列を含む核酸を標的核酸という。標的配列は、鋳型核酸の配列のうちの、F2領域とプローブ結合領域とを含む、またはF2領域とプローブ結合領域とからなる。標的配列は、核酸プローブを用いて標的核酸を検出するために利用される。
【0035】
核酸プローブは、DNAチップに固定化されて使用されてよい。好ましくは1つのDNAチップに検出に使用されるべき核酸プローブが全て含まれる。好ましくは、1つのDNAチップに含まれる核酸プローブは、標的鋳型核酸に由来する増幅産物と、その定量のために使用される全ての濃度標準核酸に由来する増幅産物とを含み、それらを同時に検出する。しかしながら、目的とする定量に必要とされる核酸プローブが複数の基体に固定化されて、使用されてもよい。
【0036】
検体に含まれる複数種類の特定の核酸を同時に定量することも可能である。その場合、検出されるべき全ての特定の核酸について、それぞれ標的鋳型配列を決定し、それらの標的鋳型配列の全てをそれぞれ増幅するためのプライマーセットと、それぞれの標的鋳型配列と競合して増幅させるべき濃度標準核酸と、得られた全ての検出されるべき増幅産物を検出するための核酸プローブが準備される。これらの配列および核酸は、上述した構成と同様の構成で準備されればよい。また、複数種類の特定の核酸のために準備された核酸プローブは、1つの基体に固定化されてもよく、複数の基体に固定化されてもよい。
【0037】
複数の種類の特定の核酸について、それぞれの反応環境内で、それぞれの濃度標準核酸と競合してLAMP法により増幅反応を行う。その後、得られた全ての増幅産物を1つに合せて、1つの増幅産物混合物を得る。この増幅産物混合物を、例えば、全ての核酸プローブを備えるDNAチップに対して持ち込み、核酸プローブと反応させる。得られたハイブリダイズ信号から、複数種類の特定の核酸を同時に定量することが可能となる。
【0038】
検体は、核酸を含む何れかの物質であればよく、例えば、個体の体液、組織、器官、尿、便、乳汁中、血液、血清、血漿、吐しゃ物、組織擦過検体等、定量対象となる核酸が定量する価値のある典型的濃度で存在する試料であればよい。「核酸」とは、DNA、RNA、PNA、LNA、S−オリゴ、メチルホスホネートオリゴなど、その一部の構造を塩基配列によって表すことが可能な物質を総括的に示す語である。例えば、核酸は、天然由来のDNAおよびRNAなど、一部分または完全に人工的に合成および/または設計された人工核酸など、並びにそれらの混合物などであってよい。「検体」とは、実施形態の方法が実施されるべき対象であり、核酸を含む可能性のある試料であればよい。検体は、増幅反応および/またはハイブリダイゼーション反応を妨害しない状態であることが好ましい。例えば、生体などから得られた材料を、本実施形態に従う検体として使用するためには、それ自身公知の何れかの手段により前処理を行ってもよい。例えば、検体は液体であってもよい。
【0039】
定量されるべき核酸は、例えば、外因性の核酸であってよく、例えば、微生物、細菌、ウイルス、マイコプラズマ、藻類、真菌類などの核酸であってよい。また、検出されるべき核酸は、個体に内在する何れかの核酸であってもよく、例えば、個体の体内、例えば、血液または組織、尿、唾液または乳汁などに発現したmRNAなどであってもよい。
【0040】
「1つの反応環境内」とは、例えば、そこにおいて反応を行うことの可能な1つの反応場のことを示す。例えば、試験管、カップ、ウェルなどの反応容器の内部を反応環境と解すればよい。
【0041】
実施形態によれば、病原体の生体内濃度、血中濃度、組織中濃度、尿中濃度、唾液中濃度または乳汁中濃度を測定することが可能である。
【0042】
2つの配列が「同一」または「同じ」とは、2つの配列がその全長に亘り、90%以上、95%以上、98%以上または100%で互いに等しい配列をいう。2つの配列が「相補的」であるとは、2つの配列がその全長に亘り、90%以上、95%以上、98%以上または100%で互いに相補的な配列をいう。
【0043】
上述において、DNAチップに関する記載をしたが、核酸プローブが固定化されて使用される場合、その基体は、DNAチップのための基板に限定されるものではない。例えば、基体は、磁性ビーズ、マイクロタイタープレートおよびチューブなどの不溶性支持体であってもよい。
【0044】
実施形態によれば、検体に含まれる検体核酸を標的鋳型核酸としてLAMP増幅する際に、その同じ反応環境に既知の濃度の濃度標準核酸を混在させ、その結果として得られる増幅産物を比較し、それにより検体核酸と濃度標準核酸のどちらが増幅するかが判定される。それにより、標的鋳型核酸の量を推定することが可能である。このような方法により、体内病原体濃度およびmRNA量を簡便に測定することが可能である。またそれにより、細菌性およびウイルス性の感染症の病態把握や治療の方針の決定に役立つ。
【0045】
増幅産物の核酸の全体構造は、PCR産物のような2本鎖の直鎖状DNAであっても、環状のDNAであってもよい。増幅産物の長さは、直鎖状のDNAであれば、200塩基対以上5000塩基対以下の長さが好ましい。環状であれば、200塩基対以上10000塩基対以下の長さが好ましい。検出に使用される配列以外の領域に、検出部分およびプライマー領域と相同な配列もしくは類似した配列が存在しないことを確認して使用することが好ましい。また、増幅産物が極端に立体構造を取らないよう、GC含量の高い領域を含まないよう、互いに相補的な配列を含まないよう工夫することも好ましい。プライマーセットに含まれる各プライマーおよび濃度標準核酸の合成方法は、PCR法のような2本鎖DNA合成法や、プラスミド等に組み込んだクローニング産物として得ることも可能である。クローニングに使うベクター種は、特に制限するものではない。
【0046】
標的鋳型核酸がRNAの場合は、濃度標準核酸もRNAであることが望ましい。その場合には、プローブ部分を別配列に置き換えたDNA断片を、一度SP6およびT7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含む転写ベクターに組み込んで、そこからRNA転写を行って必要なRNAを得ることができる。転写に使うベクターや酵素については、特に制限するものではない。
【0047】
濃度標準核酸上のプローブ結合領域の配列は、標的鋳型核酸上のプローブ結合領域とTm値や長さが似通っていることが好ましい。また、濃度標準核酸または標的鋳型核酸として用いる核酸全体の他の部分の配列とも、相同でない配列もしくは相補的でない配列を選ぶことが必要である。さらに念のために、検査されるべき生物種には感染しない病原体の塩基配列、または検査されるべき生物種のゲノム上の配列とは異なる配列を、濃度標準核酸のプローブ結合領域の配列として選択することも好ましい。
【0048】
表1に、牛の乳房炎の原因菌としての大腸菌(エンテロバクテリア科の菌)、連鎖球菌、ブドウ球菌を測定する検査に使用することが可能な濃度標準物質のプローブ結合領域2のための配列の例を示す。
【表1】
【0049】
濃度標準核酸のプローブ結合領域2のための配列は、検出されるべき核酸と関係のない生物種から選択してくることが好ましい。表1の例には、ヒトB型肝炎ウイルスのゲノム配列に基づいて作成したプローブ結合領域の配列候補を20種類示した。また、プローブ結合領域の配列は、標的鋳型配列においてプローブ結合領域と設定された領域と比べて、長さとTm値があまり変わらないものを選択する必要がある。なお、表1に示した配列は、肝炎ウイルスなどのヒトの感染症の病原体に対する定量系を設計する場合には使用できない。
【0050】
また、牛には感染しないヒトのB型肝炎ウイルスのゲノムの一部を用いている。プローブ配列の長さは、15塩基から35塩基程度の長さで、Tm値は62℃〜78℃までの間で選ぶことが好ましい。
【0051】
図3には、濃度標準核酸を2種類用いる場合の測定例を示した。反応環境である2つのチューブにそれぞれ添加する2種類の濃度標準核酸は、互いに添加量が異なる。この
図3(a)の例では、低濃度の濃度標準核酸を10コピー(即ち、1E+01copy)、高濃度の濃度標準核酸を100コピー(即ち、1E+02copy)添加している。定量されるべき標的鋳型核酸の濃度は、標的鋳型核酸の増幅産物の量と、2種類の濃度標準核酸、即ち、第1および第2の濃度標準核酸についての増幅産物の量とを比較することにより得られる。例えば、反応環境中の標的鋳型核酸の濃度が、低濃度の第1の濃度標準核酸よりも低い濃度の場合の結果は、(b)および(c)に示される。この場合、第1および第2の濃度標準核酸の増幅産物は、何れも標的鋳型核酸の増幅産物の量よりも多く、標的鋳型核酸の増幅は低い。反応環境中の標的鋳型核酸の濃度が、低濃度の第1の濃度標準核酸よりも高く、高濃度の第2の濃度標準核酸よりも低い濃度の場合の結果は(d)および(e)に示される。この場合、標的鋳型核酸と第2の濃度標準核酸の増幅産物が多く、第1の濃度標準核酸の増幅産物は少ない。標的鋳型核酸の濃度が、高濃度の第2の濃度標準核酸よりも高い濃度の場合の結果は、(f)および(g)に示される。この場合、標的鋳型核酸のみが増幅し、第1および第2の濃度標準核酸の増幅は低い。このように2種類の濃度標準核酸と、検体核酸である標的鋳型核酸との増幅産物の存在の量の関係から、反応環境中の標準鋳型核酸の濃度を、例えば、3段階に測り分けることができる。
【0052】
図4には、3つの異なる濃度、即ち、1×10
1(1.00E+01)、1×10
3(1.00E+03)および1×10
5(1.00E+05)の濃度で、それぞれ標的鋳型核酸Aを含む検体について、5種類の濃度標準核酸を用いて定量する例を示す。検体毎に、それぞれ5つの反応環境、例えば、反応容器を用意し、競合的に増幅反応を行う。5種類の濃度標準核酸は、互いに異なる添加量で添加される。各競合的増幅反応の結果
図4(A)〜(O)と、検体毎にDNAチップにより検出されるハイブリダイズ信号の例を
図4(P)〜(R)に示す。
【0053】
まず、反応環境1におけるそれぞれの濃度で持ち込まれた各濃度標準核酸と、1×10
1(即ち、1.00E+01)の濃度で反応環境に存在する標的鋳型核酸との反応について説明する。
【0054】
検体1については、反応環境1においては、標的鋳型核酸Aと1×10
1の濃度で存在する第1の濃度標準核酸Bとの間で増幅反応が競合する。反応環境2では、標的鋳型核酸Aと1×10
2(即ち、1E+02)の濃度で存在する第2の濃度標準核酸Cとの間で増幅反応が競合する。反応環境3では、標的鋳型核酸Aと1×10
3(即ち、1.00E+03)の濃度で存在する第3の濃度標準核酸Dとの間で増幅反応が競合する。反応環境4では、標的鋳型核酸Aと1×10
4(即ち、1.00E+04)の濃度で存在する第4の濃度標準核酸Eとの間で増幅反応が競合する。反応環境5では、標的鋳型核酸Aと1×10
5(即ち、1.00E+05)の濃度で存在する第5の濃度標準核酸Fとの間で増幅反応が競合する。反応環境1では、2つの核酸は等量で存在するために、(A)に示すように両方の核酸が同様に増幅される。反応環境2〜5では、第2の濃度標準核酸B〜第5の濃度標準核酸Fの方が何れの場合も多く存在するために、第2の濃度標準核酸B〜第5の濃度標準核酸Fが標的鋳型核酸Aに優先して増幅される(それぞれ(D)、(G)、(J)および(M)を参照)。検体1について得られた増幅産物を混合して得た混合物1についてDNAチップで検出した結果を(P)に示す。この結果から、標的鋳型核酸Aは、1×10
1の濃度であると判定する。
【0055】
検体2では、標的鋳型核酸Aは、1×10
3の濃度で存在する。この場合、反応環境1および2では、標的鋳型核酸Aの方が濃度標準核酸BおよびCよりも多く存在する。従って、反応環境1および2では、(B)および(E)に示すように、標的鋳型核酸Aが優先して増幅される。反応環境3では、2つの核酸は等量で存在するために、(H)に示すように両方の核酸が同様に増幅される。反応環境4および環境5では、第4の濃度標準核酸E〜第5の濃度標準核酸Fの方が何れの場合も多く存在するために、第2の濃度標準核酸E〜第5の濃度標準核酸Fが標的鋳型核酸Aに優先して増幅される(それぞれ(K)および(N)を参照)。検体2について得られた増幅産物を混合して得られた混合物2についてDNAチップで検出した結果を(Q)に示す。この結果から、標的鋳型核酸Aは、1×10
3の濃度であると判定する。
【0056】
検体3では、標的鋳型核酸Aは、1×10
5の濃度で存在する。この場合、反応環境1〜4では、標的鋳型核酸Aの方が濃度標準核酸B〜Fよりも多く存在する。従って、反応環境1〜4では、(C)、(F)、(I)および(L)に示すように、標的鋳型核酸Aが優先して増幅される。反応環境5では、2つの核酸は等量で存在するために、(O)に示すように両方の核酸が同様に増幅される。検体3について、それぞれの反応環境で得られた増幅産物を混合した混合物3についてDNAチップで検出した結果を(R)に示す。この結果から、標的鋳型核酸Aは、1×10
5の濃度であると判定する。
【0057】
このように、標的鋳型核酸濃度よりも低い濃度で濃度標準核酸が存在する場合には、そのような濃度の濃度標準核酸に由来するハイブリダイズ信号は得られない。従って、濃度標準核酸の濃度を所望に応じた数だけ段階的に用意することにより、標的鋳型核酸の量を判定することが可能である。また、大凡の標的鋳型核酸の量を知りたい場合には、濃度標準核酸の濃度の数を減らせばよい。濃度標準核酸の濃度は、必要に応じて何段階にでもすることが可能である。濃度を変えて使用される濃度標準核酸はプローブ結合領域の配列が互いに異なればよい。
【0058】
濃度標準核酸の添加量は、例えば、等倍希釈であっても、任意の異なる倍数で希釈してもよい。例えば、2倍ずつ希釈してもよく、必要な整数倍で希釈してもよく、必要なピッチで刻んで希釈すればよい。所望に応じて、濃度標準核酸の濃度を設定すればよい。
【0059】
例えば、標的鋳型核酸の濃度の判定の例を
図5に示す。
図5(a)の場合には、何れの濃度の濃度標準核酸も、標的鋳型核酸よりも優先して増幅されている。従って、この場合には、標的鋳型核酸は、最も低い濃度の濃度標準核酸以下の濃度であると判定する。また、更に、同一基体上に定性検査用の核酸プローブも固定化しておくことにより、低濃度であっても陽性であるのか、陰性であるかの判定も可能になる。
【0060】
図には示さないが、標的鋳型核酸のみが優先して増幅されて、何れの濃度標準核酸の増幅も検出されなかった場合には、標的鋳型核酸は、最高濃度で存在する濃度標準核酸の濃度以上であると判定する。
【0061】
図5(b)〜(d)の場合には、ハイブリダイズ信号が中間の値を示す結果があった場合のグラフである。この場合、その反応環境内では、標的鋳型核酸と濃度標準核酸の濃度が拮抗していたと考えられる。この場合は、(b)または(c)のように、最も低いハイブリダイズ信号の2倍以上の信号が得られれば、その反応において濃度標準核酸の増幅が勝ったと判定すればよい。(d)のように最も低いハイブリダイズ信号の2倍に満たないハイブリダイズ信号であって場合、その濃度標準核酸の濃度と標的鋳型核酸は同じ濃度含まれていたと判定する。
図5(c)の例の場合、濃度標準核酸Eが1×10
4(即ち、1E+04)コピーの濃度で添加されていたとすると、(c)の標的鋳型核酸は、1×10
4コピー(即ち、1E+04)以上、1×10
5(即ち、1E+05)コピー以下だったと判定し、(D)の検体は、標的鋳型核酸が1×10
4(即ち、1E+04)コピーだったと判定する。
【0062】
また、実施形態によれば、上述の定量方法を用いて、牛乳房炎の原因菌である大腸菌群、ブドウ球菌、連鎖球菌の3種の菌群を定量する検査法と、そのために必要なプローブ、プライマー、濃度標準核酸も提供される。
【0063】
牛乳房炎は、酪農業界にとっては、毎年大きな経済的損失を出す乳牛の疾病である。その根絶を目指して、検査法の整備が計画されているが、これまでのところ、細菌培養による検査法しか存在しない。そこにDNAチップに代表される遺伝子検査が参入しようとした場合、その感度の高さが逆に問題になる。数個でもその存在が確認されただけで、即対策が必要な黄色ブドウ球菌、Streptococcus agalactiaeのような菌種とは異なり、先述した大腸菌群(即ち、エンテロバクテリア科の菌)、ブドウ球菌、連鎖球菌は、少ない菌数の感染ならば問題にならないことが多い常在菌である。よって、高感度の遺伝子検査では、ある程度の菌量までは切り捨てて、必要な濃度以上を陽性と判定する感度調整(足切り)が必要になる。
【0064】
この牛乳房炎の原因菌3菌種に対して、当該核酸の定量方法を適用することも可能である。牛乳房炎場合は、対象になる数値は既存の検査法である細菌培養法の結果であるCFU(colony forming unit)/mLという数値を参考にするしかない。この数値は、1mLの検体を培養したら、何個のコロニーが形成されるというものである。しかしながら、実際の1コロニーが1細胞に由来するとは限らないし、検体中にはコロニーを形成できないような生菌も含まれている。従って、CFU/mLは、あくまでも目安の数字と考えてよい。従って、遺伝子検査の対象としては、細菌のゲノムだけではなく、1細胞中に数コピー含まれているために観察のしやすい16S rRNAを標的鋳型核酸として使用することも好ましい。例えば、これらの3種類の菌の16S rRNAを標的鋳型核酸として選択し、プライマーおよび濃度標準核酸を設計して当該定量方法を行うことが可能である。また更に、実際の臨床症状と照らし合わせて、足切りラインを決定することも可能である。
【0065】
大腸菌群、ブドウ球菌および連鎖球菌の定量のために使用できるプライマーの例を表2に示す。
【表2】
【0066】
大腸菌群のゲノムを使っての定量については、結果は大腸菌全体の総数を示すものである。一方の16S rRNAを標的鋳型核酸とした大腸菌、ブドウ球菌および連鎖球菌の検出は、16S rRNAが1細胞内に数コピー存在しているので、検出量が菌数になるものではない。菌数を得るためには、検出量を1細胞内のコピー数で割ればよい。
【0067】
表3に、上記の3つの菌を検出するための核酸プローブの例を示す。
【表3】
【0068】
表4に上記の3つの菌を定量するための標的鋳型核酸と濃度標準核酸の例を示す。
【表4-1】
【0073】
表4−1の(1)(a)には、エンテロバクテリア科の菌の16S rRNAのための配列番号60で示される標的鋳型核酸の例を示した。また、そこには、その配列におけるLAMPプライマーセットのためのF1、F2、F3、B1、B2、B3およびLBc領域を四角で示した。表4−1の(1)(b)および(c)には、配列番号60と一緒に使用するための濃度標準核酸1(配列番号61)と濃度標準核酸2(配列番号62)をそれぞれ示し、更にLAMPプライマーセットのための各領域を四角で示した。
【0074】
表4−2の(2)(a)には、エンテロバクテリア科の菌のrpoAのための配列番号63で示される標的鋳型核酸の例を示した。また、そこには、その配列におけるLAMPプライマーセットのためのF1、F2、F3、B1、B2、B3およびLBc領域を四角で示した。表4−2の(2)(b)および(c)には、配列番号63と一緒に使用するための濃度標準核酸1(配列番号64)と濃度標準核酸2(配列番号65)をそれぞれ示し、更にLAMPプライマーセットのための各領域を四角で示した。
【0075】
表4−3の(3)(a)には、ブドウ球菌の16S rRNAのための配列番号66で示される標的鋳型核酸の例を示した。また、そこには、その配列におけるLAMPプライマーセットのためのF1、F2、F3、B1、B2、B3およびLBc領域を四角で示した。表4−3の(3)(b)および(c)並びに表4−4の(d)には、配列番号66と一緒に使用するための濃度標準核酸1(配列番号67)、濃度標準核酸2(配列番号68)および濃度標準核酸3(配列番号69)をそれぞれ示し、更にLAMPプライマーセットのための各領域を四角で示した。
【0076】
表4−4の(4)の(a)には、連鎖球菌の16S rRNAのための配列番号70で示される標的鋳型核酸の例を示した。また、そこには、その配列におけるLAMPプライマーセットのためのF1、F2、F3、B1、B2、B3およびLBc領域を四角で示した。表4−4の(4)(b)並びに表4−5の(c)および(d)には、配列番号70と一緒に使用するための濃度標準核酸1(配列番号71)、濃度標準核酸2(配列番号72)および濃度標準核酸3(配列番号73)をそれぞれ示し、更にLAMPプライマーセットのための各領域を四角で示した。
【0077】
それぞれの菌の定量のために、これらの標的鋳型核酸と濃度標準核酸との組み合わせを使用することが可能である。また、これらの標的鋳型核酸および濃度標準核酸は、上記の各表において示されたLAMPプライマーセットのための各領域と上述したプローブ結合領域とを含むように設計されればよい。従って、各表に示された配列よりも長い配列であってもよく、短い配列であってもよい。また、プローブ結合領域の配列も表4−1〜表4−5に示される濃度標準核酸に限定されるものではなく、上述の表1に示されるプローブ結合領域の候補配列などを使用することも可能である。また、当業者であれば、表1に示されるプローブ結合領域の候補配列を参考にすることにより、適切な長さと適切なTm値を有し、且つオリジナルの配列とハイブリダイゼーションにより判別可能な配列を、適宜、設計することが可能であり、そのような配列についても本実施形態においてプローブ結合領域の配列として置き換えて使用されてよい。
【0078】
例えば、牛における乳房炎の検査は次のように行うことが可能である。検査対象となるサンプルは、牛の乳汁(ミルク)であってよい。採取された乳汁から、病原体の遺伝子を抽出する方法は、例えばFAST−ID DNA抽出キット(日本認証サービス株式会社製)などの市販のキットを選択することができるが、それらに特に限定するものではない。抽出された病原体のゲノムは、TEバッファーなどの一般的な緩衝液に溶解した状態で得られる。すぐに検査に供さない場合は、−20℃以下の環境で保存すればよい。
【0079】
抽出されたゲノムは、次にLAMP反応によって必要な増幅を行う。このとき、定量に必要な競合反応だけでなく、通常の菌特異的なLAMP反応も同時に行われてよい。これにより、特定の菌の定性試験を同時に行うことが可能である。例えば、特定の菌が存在する場合には結果は陽性となり、特定の菌が存在しない場合には結果は陰性となる。この試験は、陽性−陰性試験とも称される検査である。牛乳房炎に関連する前述の3種の原因菌を検査するためのLAMP増幅を行うための複数の容器を備えた容器セットの1例を
図6に示す。
図6(a)は、大腸菌群用とブドウ球菌用の反応容器、即ち、反応環境である。容器(1)は、大腸菌群の定性試験用容器であり、容器(2)、(3)および(4)は、大腸菌群の定量用容器である。容器(5)はブドウ球菌の定性試験用容器であり、容器(6)、(7)および(8)は、ブドウ球菌の定量用容器である。
図6(b)は、連鎖球菌用の反応容器と、他の菌の定性試験用の反応容器と、コントロール用の反応容器を含む。容器(9)は、連鎖球菌の定性試験用容器であり、容器(10)、(11)および(12)は、連鎖球菌の定量用容器である。容器(13)および(14)は、それぞれ単数または複数の任意の菌を増幅するための反応容器である。容器(15)および(16)はコントロール用の容器である。各定量用の容器にはそれぞれ3種類の異なる濃度に調製された3種類の濃度標準核酸を添加する。このように複数の容器を備える容器セットは、同じ条件で増幅反応を行うことが用意であるので好ましい。このような容器セットにおいて同時に使用されるプライマーセットの設計は、反応の至適温度が同じ温度になるように行うことが好ましい。
【0080】
定性試験用のプライマーセットは、検出されるべき特定の菌種の核酸を特異的に増幅することが可能なプライマーセットであればよい。定量検査と同じ温度が反応の至適温度であり、反応開始時間もほぼ同じ増幅反応を採用することが好ましい。
【0081】
当該3種類の菌以外の菌も上記容器(13)および(14)において、定性用に増幅してもよい。また更に、更なる反応容器を用意して、容器セットに含ませてもよい。例えば、マイコプラズマ、コリネバクテリウム、緑膿菌、酵母様真菌および/またはカンジダなどの定性検査を大腸菌群、ブドウ球菌および連鎖球菌の定量および定性試験と同時に行ってもよい。必要に応じて、それらの追加菌種に対しても、定量検査を行うための容器を容器セットに搭載してもよい。
【0082】
容器セットにおける増幅は、次のように行ってもよい。それぞれの容器に、予め作製したLAMP反応液と、乳汁から抽出したゲノム核酸を標的鋳型核酸として添加する。このときに、定量用の容器には、濃度標準核酸も添加する。乳汁から抽出したゲノム核酸は、必要であれば予め熱変性を加えてもよい。熱変性の条件は、80℃〜95℃の温度で1〜5分間程度でよいが、これに限定するものではない。熱変性の後、サンプルを氷上に移して急冷の工程を加えることも好ましい。
【0084】
・LAMP反応液組成
20mM Tris−HCl (pH8.8)
10mM KCl
8mM MgSO
4
10mM (NH
4)
2SO
4
0.1% Tween20
0.8M Betaine
1.4mM each dNTPs。
【0085】
この組成の反応液で、総量25μLで反応を行う際には、下記の濃度でそれぞれのプライマーを持ち込めばよい。
【0086】
・primer 添加量
FIP 40pmoL
BIP 40pmoL
F3 5pmoL
B3 5pmoL
Loop 20pmoL。
【0087】
さらに、総量25μLにて反応を行う際には、酵素液として、例えばBst DNA Polymeraseを、1〜2μL(8unit/uL)で添加する。増幅のための酵素はBst DNA polymeraseに限定されるものではなく、鎖置換活性を有する酵素であれば、他の酵素が使用されてもよい。また、標的鋳型核酸がRNAの場合には、この酵素液に逆転写酵素を加えればよい。
【0088】
反応液と鋳型を混合した液を、PCRチューブに入れて反応を開始する。反応温度は、使用する酵素や標的鋳型核酸の特性によって至適とされるところは変わるので、適宜選択すればよい。例えば、概ね59℃〜66℃の範囲内で選ばれることが多く、ここにおいてもこの範囲であってもよい。反応装置は、通常のLAMP反応の検出に使用される濁度測定装置であってもよく、通常のPCRに使用するサーマルサイクラーであってもよい。反応時間は、使用するプライマーの特性によって変わるので、適宜選択すればよい。例えば、30分〜60分の間で選ばれることが多く、ここにおいてもこの範囲であってもよい。濃度の異なる2種類の鋳型を混在させて競合的LAMP反応を行うことは個々において初めてなされることである。しかしながら、このような反応条件であっても、反応時間を長くすることにより、混在している量の少ない方の鋳型が増幅する現象は確認されなかった。
【0089】
検出手段は、DNAチップなどの不溶性基盤上にDNA断片が核酸プローブとして固定化されており、その相補配列同士が互いに結合するか否かを検出することにより、溶液内に存在する核酸断片の配列の一部を読み取る原理の測定法であればよい。例えば、マイクロタイタープレートやビーズのように、プローブ毎にハイブリ反応環境を変える必要のある基盤では、定性用の増幅産物は、それに適応した定性用の核酸プローブに反応させて、相補鎖を形成するかどうかを確認すればよい。定量用の増幅産物は、1つの競合して行った増幅反応による増幅産物を、標的鋳型核酸検出用の核酸プローブと濃度標準核酸検出用の核酸プローブとに同時に反応させることが好ましい。また、異なる容器内で行われたそれぞれの反応により得られた全ての反応産物を1つに合わせて、検出されるべき標的核酸に対応するように構成された複数種類の核酸プローブを1つの基体に固定化されたDNAチップに対して添加することにより検出を行ってもよい。
【0090】
牛乳房炎では、常在菌と病原菌とが共存して乳汁に存在する。従って、常在菌と病原菌とを識別して定量するために、菌量を指標にした足切りラインを決定することも好ましい。
【0091】
足切りラインの決定は、まず、常在菌として大腸菌群、ブドウ球菌および連鎖球菌を含むサンプルと、病原体として大腸菌群、ブドウ球菌および連鎖球菌を含むサンプルについて、それらを常在菌または病原体として測り分けられる濃度標準核酸の量を決定することが必要である。
【0092】
図7には、大腸菌群の陽性検体で、培養法で700cfu/mLという数値を示した乳汁からの抽出産物について定量方法を行った結果の1例を示す。この場合、濃度標準核酸は、低い方で2e+01copy/reactionを持ち込み、高いほうで2e+02copy/reactionを持ち込んでいる。培養法での700cfu/mLという結果は、本発明では2e+01copy/reactionの濃度標準核酸より持ち込みゲノム数が少ないということになる。もし、この菌量が、乳房炎原因菌としては問題視しないような低菌量とするならば、この菌は2e+01copy/reactionの濃度標準核酸を足切りラインとして、それ以下を陰性と判断すると定めることができる。ただし、培養法では100cfu/mLという数値も出る。仮に、100cfu/mLで切ったほうがいい菌に対しては、2e+01copy/reactionより少ない領域に足切りラインを引く必要ある。その場合、鋳型量が少なすぎてサンプリング誤差を生む可能性がある。従って、1細胞に1ゲノムしかないゲノム核酸を標的鋳型核酸にするのではなく、数コピー存在する16s rRNAを標的鋳型核酸として使うことが好ましい。この核酸を用いれば、仮に1cfu/mLが足切りラインであっても、濃度標準核酸は1copy/mLでなくても構わないことになる。ただし、多くの検体を経験することにより、より臨床的に意味のある足切りラインを菌種毎に設定することも可能である。
【0093】
実施形態はまた、検体に存在する菌が常在菌であるか、病原菌であるかを判定するための基準、即ち、足切りラインを作製する方法を提供する。この方法により、偽陽性の判定を防止することが可能である。また、この足切りラインを作製する方法によって、特定の菌の検出するための手段、例えば、検出装置または検出方法における検出感度を調整することが可能である。
【0094】
また更に実施形態は、検体中に含まれる特定の菌が常在菌か、病原菌であるかの判断をするため方法を提供する。例えば、検体中に含まれる特定の菌が常在菌であるか否かを判定する方法は、
(a)核酸を含む検体を準備することと、
(b)その5’末端側からF3領域、F2領域、第1のプローブ結合領域およびF1領域をこの順番で含み、且つ3’末端側からB3c領域、B2c領域、LBc領域およびB1c領域をこの順番で含む標的鋳型配列を増幅するための第1のプライマーと第2のプライマーとを含むプライマーセットであり、第1のプライマーが、5’末端側にF1に相補的なF1c配列を有し、且つ3’末端側にF2に同じF2配列を有するFIPプライマーであり、第2のプライマーが5’末端側にB1cに同じB1c配列を有し、且つ3’末端側にB2cに相補的なB2配列を有するBIPプライマーであるプライマーセットを準備することと、
(c)第1の濃度標準核酸〜第3の濃度標準核酸を準備すること;ここで、第1の濃度標準核酸は、その5’末端側からF3領域と、F2領域と、他のプローブ結合領域とは配列の異なる第2のプローブ結合領域と、F1領域とをこの順番でそれぞれ含み、且つ3’末端側からB3c領域と、B2c領域と、LBc領域と、B1c領域とをこの順番でそれぞれ含み、第2の濃度標準核酸は、その5’末端側からF3領域と、F2領域と、他のプローブ結合領域とは配列の異なる第3のプローブ結合領域と、F1領域とをこの順番でそれぞれ含み、且つ3’末端側からB3c領域と、B2c領域と、LBc領域と、B1c領域とをこの順番でそれぞれ含み、第3の濃度標準核酸は、その5’末端側からF3領域と、F2領域と、他のプローブ結合領域とは配列の異なる第4のプローブ結合領域と、F1領域とをこの順番でそれぞれ含み、且つ3’末端側からB3c領域と、B2c領域と、LBc領域と、B1c領域とをこの順番でそれぞれ含む、
(d)予め低濃度であると定めた濃度の第1の濃度標準核酸、予め中程度濃度であると定めた濃度の第2の濃度標準核酸、および予め高濃度であると定めた濃度の第3の濃度標準核酸を、前記濃度標準核酸の種類毎に第1〜第3の反応環境内に、前記検体と、前記プライマーセットと共にそれぞれ持ち込み、LAMP法により増幅反応をそれぞれ行って、増幅産物をそれぞれ得ることと、
(e)前記第1〜第3の反応環境内で得られた第1〜第3の増幅産物を1つに合わせることと、
(f)基体に固定化された第1〜第4の核酸プローブと、(e)で得られた前記合わせられた増幅産物とを反応させること;ここで、前記第1の核酸プローブは、当該基体の第1の固定化領域に固定化され、前記F2領域および第1のプローブ結合領域を含む第1の標的配列またはその相補配列に相補的であり、前記第2の核酸プローブは、前記基体の第2の固定化領域に固定化され、前記F2領域および第2のプローブ結合領域を含む第2の標的配列またはその相補配列に相補的であり、第3の核酸プローブは、当該基体の第3の固定化領域に固定化され、前記F2領域および第3のプローブ結合領域を含む第3の標的配列またはその相補配列に相補的であり、第4の核酸プローブは、当該基体の第4の固定化領域に固定化され、前記F2領域および第4のプローブ結合領域を含む第4の標的配列またはその相補配列に相補的である、
(g)(f)において生じた第1〜第4の核酸プローブのそれぞれについてのハイブリダイゼーション量をそれぞれ検出し、互いに比較することにより、検体に含まれる特定の核酸を定量することと、
を含む。
【0095】
検体中に含まれる菌が常在菌か、病原菌であるかの判断は、例えば、(g)において定量された当該菌量が、低菌量であると判定された場合に、常在菌であると判定されてよい。或いは、(g)において定量された当該菌量が、低菌量または中程度の菌量であると判定された場合に、常在菌であると判定されてよい。この場合、低菌量または中程度の菌量を、予め定めた基準値、即ち、足切りラインとして設定すればよい。
【0096】
特定の濃度を、予め低濃度であると定める、予め中程度濃度であると定める、または予め高濃度であると定めるための方法として、例えば、それ自身公知の方法、例えば、培養法、Real time PCR法、FISH法(Fluorescence in situ Hybridization法)および各種細菌カウンターを利用する方法などが利用されてよい。培養法とは、サンプルを培地に塗布して培養し、生成したコロニー数を元のサンプル濃度に換算することにより菌量を決定する方法である。Real time PCR法とは、PCR法を利用した核酸定量法であり、濃度標準核酸との増幅立ち上がり時間との比較により菌量を決定する方法である。FISH法とは、核酸定量法の一種であるが、FITCまたはCY3により蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブがハイブリダイズすることで信号をカウントすることにより菌量を決定する方法である。その他の各種細菌カウンターを利用する方法とは、各メーカーによって独自に開発された種々のマーカーを用いて、そのマーカーが示す信号をカウントすることにより菌量を決定する方法である。
【0097】
或いは、特定の検体に含まれる特定の菌が、この範囲であれば常在菌であると判断するための数値が具体的に示されているものに関しては、そのような数値を足切りラインとしてもよい。その場合、そのような数値で表される菌量を、当該判別方法の低菌量または中程度の菌量と定め、濃度基準核酸を準備し、競合的な増幅反応に用いればよい。そのような数値は、例えば、ヒトが一日に排泄する糞便における常在菌としての大腸菌群の量について公知であり、その菌量は、平均で10
11から10
13個であるであると言われている。
【0098】
このような検体中に含まれる菌が常在菌か、病原菌であるかの判断を行う方法は、それ自身公知の定性試験法、および/またはより精度の高い定性および/または定量試験法と併用して用いられてよい。それにより、更に精密に試験されるべき菌を特定することが可能である。
【0099】
[例]
[例1]
大腸菌の標準株(ATCC: 25922)のrpoA遺伝子をクローン化したもの(配列番号63)を陽性コントロールとして使用し、1種類の濃度標準核酸(配列番号64)との競合反応を行って、DNAチップで検出した。その結果を
図8に示す。上段の
図8(a)〜(c)のグラフには、それぞれの反応に添加した陽性コントロールのコピー数と濃度標準核酸のコピー数を図示する。下段の
図8(d)〜(f)のグラフには、それぞれの競合増幅反応により得られた増幅産物の量をDNAチップにより測定した結果を示す。これらの結果から、添加した濃度標準核酸のコピー数の大きさに応じて、増幅産物が生成されていることが確認できた。
【0100】
[例2]
(1)大腸菌群、ブドウ球菌、連鎖球菌の定量のための標的鋳型核酸
大腸菌群のための標的鋳型核酸(配列番号60)、ブドウ球菌のための標的鋳型核酸(配列番号66)、連鎖球菌のための標的鋳型核酸(配列番号70)を選択した。
【0101】
(2)大腸菌群、ブドウ球菌、連鎖球菌の定量のための核酸プローブおよびプライマーの設計
大腸菌群、ブドウ球菌および連鎖球菌の定量のためのプライマーセットおよび核酸プローブを設計した。設計されたプライマーセットを表2に、核酸プローブを表3に示す。全ての核酸プローブは、1つのDNAチップに固定化されたものを使用した。
【0102】
(3)大腸菌群、ブドウ球菌、連鎖球菌の定量のための濃度標準核酸
上記(1)および(2)の配列に基づいて、大腸菌群のための濃度標準核酸1(配列番号61)および濃度標準核酸2(配列番号62)、ブドウ球菌のための濃度標準核酸1(配列番号67)および濃度標準核酸2(配列番号68)、連鎖球菌のための濃度標準核酸1(配列番号71)および濃度標準核酸2(配列番号72)を設計し、これらを用意した。
【0103】
(4)牛乳房炎原因菌である大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌における、乳房炎発症牛の乳汁での細菌培養検査結果とDNAチップによる定量結果の比較について
乳房炎原因菌の3菌種について実施形態の定量方法を行った。更に、それにより得られた結果と、細菌培養を利用する定量法により得られる結果とを比較した。
【0104】
材料
北海道十勝地方のA農場で乳房炎を発症した牛から絞った乳汁を、そのまま冷蔵保存状態で東京近郊の実験施設に輸送し、採取した翌日から細菌培養検査を開始した。同じ乳汁は、培養検査開始からさらに1日間長く冷蔵状態で保管されたあと、DNAチップ検査に供した。
【0105】
核酸抽出法
乳汁からの核酸抽出は、FAST−ID DNA抽出キット(日本認証サービス株式会社製)の推奨方法に、固形物及び脂肪分、菌の外殻を破壊する目的でビーズビーティング処理を追加し、さらにタンパク質と脂質をさらに除去する目的で、硫酸アンモニウムと酢酸による沈殿処理を追加して行った。乳汁は、1検査あたり、200μL〜400μLを使用し、抽出後の核酸は、60μLのTE緩衝液に溶解した。抽出後のサンプルは、その後の増幅反応に供するまで、−20℃にて保管された。
【0106】
LAMP増幅反応
LAMP反応組成は、下記の通りであった。
【0107】
・LAMP反応液組成
20mM Tris−HCl (pH8.8)
10mM KCl
8mM MgSO
4
10mM (NH
4)
2SO
4
0.1% Tween20
0.8M Betaine
1.4mM each dNTPs
Bst DNA Polymerase 8unit。
【0108】
この組成の反応液に、下記の濃度でそれぞれのプライマーを持ち込んだ。
【0109】
・primer 添加量
FIP 40pmoL
BIP 40pmoL
F3 5pmoL
B3 5pmoL
Loop 20pmoL。
【0110】
以上の組成で、25μLの反応スケールで反応を行った。抽出産物は、熱処理を施したものをそれぞれの反応チューブに2μLずつ添加し、濃度標準核酸は1e+01copy/μLのものと1e+02copy/μLに希釈したものを、それぞれ2μLずつ添加した。反応は61℃にて1時間行った。
【0111】
DNAチップ測定
DNAチップは、表3に記載した核酸プローブを種類毎に固相したものを用いて、増幅産物を1反応あたり2μLずつ添加して測定した。
【0112】
測定装置は、ジェネライザー2C600装置を用いた。反応条件を表5に示す。
【表5】
【0113】
結果
測定結果は、
図9に示した。それぞれの菌種毎に、DNAチップで陽性と判定された検体の中から、培養法での結果が高菌濃度と判定されたものと、陰性と判定されたものを1例ずつ選択した。各菌種とも、培養陰性となったものは、DNAチップでも標的鋳型核酸に対応したプローブの電流値が上がらず、2濃度の濃度標準核酸は両方とも電流値が上がっていた。これらは、定性のDNAチップ検査では陽性となったが、菌量が少ないと判定されるため足切り対象となる。一方、培養法で高菌量と判定された検体でのDNAチップの結果は標的鋳型核酸に対応したプローブの電流値だけが上昇し、2濃度の濃度標準核酸は両方とも電流値が上がらなかった。これらの検体は、培養法の結果と合致して、菌量が多かったと判定された。
【0114】
[例3]
牛乳房炎原因菌の定性検査と、ブドウ球菌、連鎖球菌の定量検査を1チップ上での同時検査
牛乳房炎の乳汁中に含まれる他の原因菌の有り無しを調べる定性検査では、多くのLAMP産物を一度に集めて1チップ上で検査を行う必要がある。そのようなチップに対して、更に、定量用のLAMP産物を添加しても、定性検査および定量検査の両検査の結果に支障があるか否かについて試験した。
【0115】
材料および核酸抽出法
材料および核酸抽出法は、例2と同じものを使用した。
【0116】
LAMP増幅
定量用の増幅は、例2と同じ条件により行った。定性用のプライマーは、ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、Streotpcpccus、Enterococcus、Streptococcus agalactiae、Streptococcus uberis、Enterobacteria科、E.coli、Klebsiella spp、Corinebacterium bovis、Arcanobacterium pyogenes、Mycoplasma、Mycoplasma bovis、Prototheca、緑膿菌、Candidaのそれぞれについて、特異的に増幅するプライマーを選択し、それぞれ個別の反応チューブ内で増幅した。使用されたプライマーは上述の表2に示した通りである。
【0117】
・DNAチップ測定
DNAチップとして、
図10に示す流路を反応部として備える装置を使用した。
図10(a)は、DNAチップ80の平面図であり、
図10(b)は、
図10(a)のDNAチップ80の線B−Bに沿った断面図である。DNAチップ80は、支持体81と、被覆体82と、流路83と、核酸プローブ85とを備える。流路83は、支持体81の1つの面と被覆体82の1つの面に形成された凹部とにより規定される。流路83は、対向する部分が互いに平行な波線状である。流路83は、一方の端部から他方の端部に向う流れ方向を有する。被覆体82は、流路83内の液体を密封するように支持体81に対して密着して配置されている。
【0118】
複数のプローブ固定化領域84は、流路83の流れ方向に沿って、流路83の底面に配置されている。複数のプローブ固定化領域5のそれぞれには、互いに異なる目的配列にハイブリダイズするように構成された複数種類のプローブ核酸85がそれぞれ固定化されている。複数のプローブ固定化領域84にそれぞれ固定されたプローブ核酸85と増幅産物とのハイブリダイゼーションが、それぞれ独立して行われるように、プローブ固定化領域5は配置されている。流路83へのサンプルの添加は、流入口86から行った。サンプルの排出は、流出口87から行った。従って、流入口86が、流路83の上流であり、流出口87が流路83の下流である。
【0119】
プローブ固定化領域84に固定化されるブドウ球菌および連鎖球菌を定量するための核酸プローブを表3に示した。また、大腸菌、コリネバクテリウム属、マイコプラズマ、藻類、緑膿菌および酵母様真菌を定性するために、これらに特異的な配列を有するように設計された核酸プローブを用意した。更に、ブドウ球菌および連鎖球菌を定性するために、これらの菌を特異的に検出するための核酸プローブを用意した。コントロールのために結核菌、B型肝炎ウイルス(HBV)キメラおよびHPVからの配列を特異的に検出するための核酸プローブを用意した。
【0120】
流路83の上流に定性試験用の核酸プローブを固定化した。その下流にブドウ球菌および連鎖球菌の定量用プローブを固定化した。その下流に、陽性コントロール(結核菌+HBVキメラ;
図11中「p」で示す)と陰性コントロール(HBV;
図11中「n」で示す)のための核酸プローブを固定化した。陽性コントロールとは、陽性の場合のLAMP増幅の正常性とDNAチップ測定の正常性を確認する目的で添加し、陰性コントロールとはDNAチップ測定における非特異反応の有無を確認する目的で添加した。
【0121】
・結果
同様に測定した2例の結果を
図11に示す。(A)のグラフを得るための試験において使用した検体についての結果を説明する。(A)のグラフに示す定性試験の結果では、ブドウ球菌陽性、連鎖球菌も陽性であった(
図11(A)の「ブドウ」および「連鎖球菌」のカラムを参照されたい)。(A)のグラフに示す定量試験の結果からは、ブドウ球菌は、両方の濃度標準核酸(C1、C3)が電流値増加なく、標的鋳型核酸(T)だけが増加していた(
図11(A)の「CNS comp」を参照されたい)。従って、高菌量と判定された。連鎖球菌は、標的鋳型核酸(T)と高濃度の濃度標準核酸(C10)の電流値が上がっていることから、中程度の菌量であったと判定された(
図11(A)の「Strept comp」を参照されたい)。したがって、(A)のグラフを得るための試験において使用した検体は足切り対象にはならないと判定した。
【0122】
一方の(B)のグラフを得るための試験において使用した検体は、定性試験の結果では、ブドウ球菌陽性、連鎖球菌も陽性となっていた。(B)のグラフに示す定量試験の結果では、ブドウ球菌は、標的鋳型核酸(T)と高濃度の濃度標準核酸(C3)の電流値が上がっていた(
図11(B)の「CNS comp」を参照されたい)。従って、ブドウ球菌は、中程度の菌量であったと判定された。連鎖球菌は、濃度標準核酸(C9、C10)の電流値だけが上昇し、標的鋳型核酸(T)が上昇していないことから、低菌量であると判定された(
図11(B)の「Strept comp」を参照されたい)。したがって、(B)のサンプルは連鎖球菌に関して足切り対象にすべきであると判定した。
【0123】
[例4]足切りの効果について
牛乳房炎原因菌の検査において、試験結果の足切りをすることによる検出手段の感度調整を行うことの意義を実際の検体に関する結果を集計して調べた。
【0124】
材料、核酸抽出法およびLAMP増幅についての詳細は、例2および3に記載のものと同様である。
【0125】
結果
牛4頭に関して、4分房それぞれから採取した乳汁から、培養検査の結果と同じサンプルによるDNAチップ検査(フィールド試験2−1;FT2−1)の結果と、3ヶ月後に同じ牛から再度採取した乳汁からのDNAチップ検査(フィールド試験2−2;FT2−2)の結果を示した(表6−1〜表6−6)。
【表6-1】
【0131】
DNAチップ検査の検出結果の表記のうち、「白丸」は陽性と判定されたものを示す。FT2−1とFT2−2により得られた結果を示す各表において、最右の2項目に定量試験の結果を「L」、「M」および「H」の記号により示した。「L」は低菌量であり、「M」は中程度の菌量であり、「H」は高菌量を示す。FT2−1と2−2の両方において、CNS(ブドウ球菌)とStreptococcus、Enterococcus(共に連鎖球菌)の欄が、陽性率が高かった。これに対して、培養法の結果が特に連鎖球菌では陽性がほとんどなく、培養結果とDNAチップ検査の結果が乖離していることが分かった。これは、培養法が、常在菌のような菌量の少ない菌を陽性と判定しない程度の感度であるのに対して、DNAチップが過剰に高感度であることが原因であると考えた。これらの結果に加えて、更に、実施形態に従う定量方法により得られた結果を考慮すると、「L」と示された低菌量で存在する菌は、常在菌であると判定されるべきであり、従って、足切り対象であると判定できた。このように足切りを行うことで、陽性率が低く抑えられ、偽陽性の結果が生じることを予防できる。更に、「M」と示された中程度の菌量で存在する菌も、ブドウ球菌においては足切り対象に入れてもよいと思われた。一方の連鎖球菌については、「L」と示された低菌量で存在する菌について、足切りを行って、対象を陰性と判定することにより、陽性率が低く抑えられることがわかった。
【0132】
更に、FT2−1において使用したDNAチップと同様のDNAチップを用いて、上記の方法と同様の方法により、複数の菌の検出を行った。また、同時に、大腸菌、ブドウ球菌および連鎖球菌について例2と同様の方法により定量を行った。それにより得られた検出結果について、足切りを行う前と足切りを行った後のデータを得て、それらを比較した。その結果を
図12Aに示す。また、
図12Aの一部を拡大した図を
図12Bに示す。
【0133】
図12Bにおいて、大腸菌については、低菌量で存在する菌を足切りの対象とした。ブドウ球菌については、中菌量で存在する菌および低菌量で存在する菌を足切りの対象とした。連鎖球菌については、低菌量で存在する菌について足切りの対象とした。
【0134】
図12AおよびBでは、陽性の結果を黒丸で示している。
図12Aに示すように、足切り前には、検査された検体中のほとんどにおいて、大腸菌、ブドウ球菌および連鎖球菌は陽性の結果となっていた。しかしながら、実施形態の定量法により菌量を定量し、予め設定した菌量を閾値(または基準値)として足切りをすることにより、真に菌量の多い検体だけを陽性と判定することが可能になった。
【0135】
以上のことから、常在菌が存在するような疾患の高感度遺伝子検査においては、定量することが不可欠であることが確認された。偽陽性を排除することを可能にすることにより、常在菌であるか否かを判定し、病原菌のみをより精度よく検出することが可能となる。