特許第6226724号(P6226724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6226724複合成形体の製造方法及び放熱性を向上させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226724
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】複合成形体の製造方法及び放熱性を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   B29C45/14
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-251315(P2013-251315)
(22)【出願日】2013年12月4日
(65)【公開番号】特開2014-139003(P2014-139003A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2016年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-279918(P2012-279918)
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】近藤 秀水
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−119611(JP,A)
【文献】 特開2012−232583(JP,A)
【文献】 特開2013−052671(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/151099(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 65/00−65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂部と、前記樹脂部と接合する金属部と、を備える複合成形体の製造方法であって、
前記金属部における前記樹脂部との接合予定面にウェットエッチングによって粗面を形成する粗面化工程と、
前記粗面化工程後の金属部を、射出成形用金型内に配置し、溶融状態の前記熱可塑性樹脂組成物を前記射出成形用金型内に射出することで樹脂部を形成し、かつ、樹脂部と金属部とを一体化する一体化工程と、を有し、
JIS B 0601に準じて測定した前記粗面における十点平均粗さRzは10μm以上であり、
前記樹脂部と前記金属部との接合強度が10MPa以上である複合成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ウェットエッチングは、化学エッチングである請求項1に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂部は絶縁部であり、前記金属部は導電性放熱部であり、
前記複合成形体は、前記絶縁部を介して前記導電性放熱部と連結する導電性発熱部をさらに備え、
前記導電性発熱部と前記絶縁部とを連結する連結工程を、さらに有する請求項1又は2に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂部と、前記樹脂部と接合する金属部と、を備え、前記樹脂部は絶縁部であり、前記金属部は導電性放熱部である複合成形体において、
前記樹脂部と前記金属部との接合予定面にウェットエッチングにより粗面を形成し、
JIS B 0601に準じて測定した前記粗面における十点平均粗さRzを10μm以上とし、
前記樹脂部と前記金属部との接合強度を10MPa以上にすることによって前記樹脂部からの前記金属部への放熱性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形体の製造方法及び放熱性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやアルミニウム合金等の金属部と、熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂部とが一体化されてなる複合成形体は、従来から、インパネ周りのコンソールボックス等の自動車の内装部材やエンジン周り部品や、インテリア部品、デジタルカメラや携帯電話等の電子機器の外装部材等に用いられている。
【0003】
金属部と樹脂部とを一体化する方法としては、金属部の表面を加工し微小な凹凸を形成する方法、接着剤や両面テープを用いて接着する方法、金属部及び/又は樹脂部に折り返し片や爪等の固定部材を設け、この固定部材を用いて両者を固着させる方法、ねじ等を用いて接合する方法等がある。これらの中でも、金属部に微小な凹凸を形成する方法や接着剤を用いる方法は、最近、複合成形体を設計する際における自由度が高いため、頻繁に用いられる傾向にある。
【0004】
ここで、金属部と樹脂部とを一体化するための接着剤は高価であることが知られる。また、上記の複合成形体の製造においては、樹脂部と金属部とを別々に成形加工し、その後、一体化する必要があるため、複合成形体の生産性が低下する問題がある。
【0005】
上記の問題点を解決する複合成形体の製造方法として、予め表面が化学エッチングされた金属部を射出成形用の金型のキャビティ内に配置し、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物をキャビティ内に射出して、金属部と樹脂部とが一体となった複合成形体を製造する複合化成形法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記複合化成形法によれば、接着剤を使用する必要がないため、複合成形体の製造コストを削減することができる。また、複合成形体における樹脂部の成形加工時に樹脂部と金属部とが一体化されるため、接着剤を用いる方法と比較して必要な工程が少なく、生産性にも優れる。
【0007】
しかし、この複合化成形法によっても、得られる複合成形体における樹脂部と金属部との密着力が小さいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−225352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者が検討した結果、複合成形体における樹脂部と金属部との密着力が小さいと、複合成形体の気密性が劣るだけではなく、樹脂部と金属部との間の界面において熱伝達が十分でないため複合成形体の放熱性も劣る点が見出された。
【0010】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、複合成形体の放熱性を改善する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定の工程を備える製造方法によって、得られる複合成形体の接合強度を所定の範囲とすることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂部と、上記樹脂部と接合する金属部と、を備える複合成形体の製造方法であって、
上記金属部における上記樹脂部との接合予定面にウェットエッチングによって粗面を形成する粗面化工程と、
上記粗面化工程後の金属部を、射出成形用金型内に配置し、溶融状態の上記熱可塑性樹脂組成物を上記射出成形用金型内に射出することで樹脂部を形成し、かつ、樹脂部と金属部とを一体化する一体化工程と、を有し、
JIS B 0601に準じて測定した上記粗面における十点平均粗さRzは10μm以上であり、
上記樹脂部と上記金属部との接合強度が10MPa以上である複合成形体の製造方法。
【0013】
(2) 上記ウェットエッチングは、化学エッチングである(1)に記載の複合成形体の製造方法。
【0014】
(3) 上記樹脂部は絶縁部であり、上記金属部は導電性放熱部であり、
上記複合成形体は、上記絶縁部を介して上記導電性放熱部と連結する導電性発熱部をさらに備え、
上記導電性発熱部と上記絶縁部とを連結する連結工程を、さらに有する(1)又は(2)に記載の複合成形体の製造方法。
【0015】
(4) 熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂部と、上記樹脂部と接合する金属部と、を備え、上記樹脂部は絶縁部であり、上記金属部は導電性放熱部である複合成形体において、上記樹脂部と上記金属部との接合強度を10MPa以上にすることによって上記樹脂部からの上記金属部への放熱性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複合成形体の放熱性を改善する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明における放熱構造体を模式的に示す斜視図である。
図2】実施例及び比較例で使用した複合成形体を模式的に示す図である。(a)は分解斜視図であり、(b)は斜視図であり、(c)は金属部のみを示す図である。
図3】実施例にて行った、樹脂部と金属部との間の接合強度の測定方法を模式的に示す図である。
図4】実施例にて行った、放熱性評価の評価方法を模式的に示す図である。
図5】実施例にて行った、気密性評価の評価用サンプル(A)及び評価用サンプル中のインサート金属部品(B)を模式的に示す図である。
図6】実施例にて行った、気密性評価の試験装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
<複合成形体の製造方法>
本発明の複合成形体の製造方法は、粗面化工程と一体化工程とを少なくとも有する。以下、本発明の複合成形体の製造方法について詳述する。
【0020】
複合成形体を製造するにあたっては、まず、金属部及び樹脂部の原料となる、金属及び熱可塑性樹脂組成物を準備する。
【0021】
金属部を構成する金属の種類は特に限定されず、用途等に応じて適宜好ましい種類の金属を使用することができる。例えば、鋼、鋳鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、金、銀、真鍮等の金属、アルミ合金、亜鉛合金、マグネシウム合金、錫合金等の合金を使用することができる。
【0022】
上記金属部の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。このような方法として、例えば、高圧鋳造法を挙げることができる。高圧鋳造法は、金型に溶融した金属を圧入することにより、高い寸法精度の鋳物を短時間に大量に生産する鋳造方式である。また、製造された金属部を所望の形状に成形するために、工作機械による切削加工等を用いてもよい。
【0023】
樹脂部を構成する熱可塑性樹脂組成物の種類は特に限定されず、用途等に応じて適宜好ましい熱可塑性樹脂組成物を用いることができる。
【0024】
本発明の特徴の一つは、熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の種類によらず、樹脂部と金属部との密着性を高めることができる点にある。従って、熱可塑性樹脂の種類によらず、本発明の効果を奏する。このため、例えば、以下のようにして使用する熱可塑性樹脂の種類を決定することができる。
【0025】
本発明の製造方法で製造される複合成形体の最適な用途の一例として、放熱構造体(詳細については後述する)を挙げることができる。複合成形体が放熱構造体として使用される場合には、熱可塑性樹脂組成物が、高い耐熱性を有し、かつ、高い熱伝導性を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0026】
優れた耐熱性を有し、かつ、熱伝導性の高い熱可塑性樹脂としては、ポリアリーレンサルファイド系樹脂が挙げられる。
【0027】
このように、本発明の製造方法によれば、熱可塑性樹脂の種類によらず、金属部と樹脂部との密着力を向上させることができるため、用途に応じて、最適な熱可塑性樹脂を選択することができる。
【0028】
[粗面化工程]
粗面化工程は、金属部における、上記金属部と上記樹脂部との接合予定面に、ウェットエッチングによって粗面を形成する工程である。接合予定面とは、金属部の表面の一部又は全部を指し、後述する一体化工程において上記金属部と上記樹脂部とが実際に接合する面を全て、又は少なくとも一部含む。
【0029】
接合予定面に粗面を形成することで、製造される複合成形体の樹脂部と金属部との密着力を向上させることができるだけでなく、樹脂部と金属部との間の界面における熱伝導が円滑になる。
【0030】
本発明における粗面化工程では、接合予定面にウェットエッチングによって粗面が形成される。粗面化工程において形成される粗面は、表面の微細な凹凸である。凹凸の粗さは、JIS B 0601に準じて測定した粗面における金属表面粗さ(十点平均粗さRz)が10μm以上(好ましくは、10〜100μm)となるようにする。粗面の金属表面粗さをかかる範囲にすることで、金属部における接合予定面に十分な凹凸を付与でき、後述する一体化工程において射出された溶融状態の熱可塑性樹脂組成物が該凹凸に入り込み、樹脂部と金属部との接合強度が高まる。粗面における金属表面粗さは、ウェットエッチングの条件(処理時間、処理液の種類)を調整することで容易に所望の範囲に調整することができる。特に、処理液の種類によっては、粗面の表面上の水酸基量を増やすことができるため、樹脂部と金属部との接合強度の化学結合による向上も期待できる。
【0031】
ウェットエッチングとしては、接合予定面に粗面を形成できる技術であれば特に限定されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、液剤(例えば、過酸化水素、硫酸、ベンゾトリアゾール、塩化ナトリウム等を含む水溶液)を使用した化学エッチングが好適に使用できる。化学エッチングは、必要な処理を容易に行うことができ、得られる複合成形体の気密性が高い点で好ましい。得ようとする粗面の凹凸の大きさや、粗さ等に応じて、適宜ウェットエッチングの方法を選択できる。
【0032】
[一体化工程]
一体化工程とは、上記粗面化工程後の金属部を、射出成形用金型内に配置し、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を射出成形用金型内に射出し、樹脂部と金属部とを一体化する工程を指す。
【0033】
射出成形の条件は特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物の物性や、金属部に形成された粗面の状態に応じて、適宜、好ましい条件を設定することができる。
【0034】
射出成形用金型内に射出された熱可塑性樹脂組成物が固化し、金属部と樹脂部とが一体化することで、本発明の複合成形体は完成する。金型から複合成形体を取り出すことで、本発明の複合成形体が得られる。
【0035】
[樹脂部と金属部との接合強度]
本発明における複合成形体の樹脂部と金属部との接合強度は10MPa以上(好ましくは10〜50MPa)である。発明者らが検討した結果、複合成形体における樹脂部と金属部との接合強度が10MPa以上であれば、樹脂部と金属部との密着力が高いだけではなく、樹脂部と金属部との間の界面における熱伝達が良好であることが見出された。従って、本発明における複合成形体は気密性だけではなく、放熱性も高い。よって、本発明における複合成形体は、自動車用部品、電子部品等の、高い放熱性を備えることが求められる成形体として好ましく使用できる。
【0036】
複合成形体における樹脂部と金属部との接合強度は、下記のように測定する。図2に示す形状を有する複合成形体の金属部の真ん中を切断することにより2つに分割し、評価用サンプルを得る。得られた評価用サンプルを図3に示すように台座(冶具)上に配置し、1mm/minの速度で矢印方向に金属部から樹脂部を押し剥がすように冶具を動かす。金属部から樹脂部が剥がれた時点での強度を接合強度として測定する。
【0037】
<放熱構造体>
本発明の製造方法は、放熱構造体を製造する方法として好ましい。まず、放熱構造体について、図1を用いて説明する。図1には放熱構造体1の一例を示す。放熱構造体1は、絶縁部2と、導電性放熱部3と、導電性発熱部4とを備える。図1に示すように、導電性放熱部3と導電性発熱部4とが絶縁部2を介して連結する。
【0038】
絶縁部2が上述の複合成形体における樹脂部に相当し、導電性放熱部3が上述の複合成形体における金属部に相当する。
【0039】
本発明の方法で製造された放熱構造体は、絶縁部2と導電性放熱部3との密着力及び絶縁部2と導電性発熱部4との密着力が強いために、絶縁部2と導電性放熱部3及び絶縁部2と導電性発熱部4との間の界面における熱の伝達が円滑である。このため、本発明の方法で製造された放熱構造体1は、放熱構造体としての性能も高い。
【0040】
特に、本実施形態のように放熱部及び発熱部がともに導電性である場合には、放熱部と発熱部との間を電気的に絶縁する必要がある。このような放熱構造体の場合、導電性放熱部3と導電性発熱部4との間に絶縁部2を配置することによって熱の伝達が大きく妨げられることが問題となるが、本発明の方法で製造された放熱構造体は、絶縁部と導電性放熱部との間の熱の伝達がスムーズであるため、上記の問題は生じない。なお、導電性発熱部4としては、例えば電子部品等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<複合成形体の製造方法>
実施例及び比較例で使用した複合成形体の模式図を図2に示した。(a)は複合成形体の分解斜視図であり、(b)は複合成形体の斜視図であり、(c)は金属部のみを示す図である。この複合成形体を以下の方法で製造した。なお、図2中の寸法の単位はmmである。
【0043】
樹脂部を構成する熱可塑性樹脂組成物として、ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物(充填材料としてガラスファイバーを35質量%含み、溶融粘度が160Pa・s(310℃、1000s−1)の樹脂組成物、ポリプラスチックス社製、「1135MF1」)を用いた。なお、ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度は、以下のようにして測定した。
(ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物の溶融粘度の測定)
東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec−1での溶融粘度を測定した。
【0044】
金属部として、アルミニウム(A5052、厚さ2mm)から構成される板状物を用いた。当該金属部は、図2(a)の斜線で示す部分に接合予定面を有する。金属部の接合予定面に、下記のエッチング1又は2のうちのいずれかを施した。
【0045】
<エッチング1>
金属部の接合予定面に、下記組成のエッチング液A(水溶液)に1分間浸漬して防錆皮膜除去を行い、次に下記組成のエッチング液B(水溶液)に5分間浸漬して金属部品表面をエッチングした。このエッチングによれば、金属部品表面は粗面化される。
[エッチング液A(温度20℃)]
過酸化水素 26g/L
硫酸 90g/L
[エッチング液B(温度25℃)]
過酸化水素 80g/L
硫酸 90g/L
ベンゾトリアゾール 5g/L
塩化ナトリウム 0.2g/L
【0046】
<エッチング2>
金属部の接合予定面に、下記組成のエッチング液A(水溶液)に1分間浸漬して防錆皮膜除去のみを行った。このエッチングによれば、金属部品表面は粗面化されない。
[エッチング液A(温度20℃)]
過酸化水素 26g/L
硫酸 90g/L
【0047】
エッチング1(実施例1)又はエッチング2(比較例1)を施された金属部を、それぞれ金型に配置し、一体化工程を行った。成形条件は以下の通りである。使用した複合成形体の形状は図2に示す通りである。
[成形条件]
成形機:ソディックTR−40VR(縦型成形機)
シリンダー温度:310℃−320℃−310℃−290℃
金型温度:160℃
射出速度:100mm/s
保圧力:98MPa×5秒
【0048】
<評価>
上記の方法で作成した複合成形体について、接合部分の接合強度、放熱性及び気密性の評価を行った。また、金属部にエッチングを施さず、金属部における一方の接合面(接合面1)では一液性エポキシ樹脂接着剤(「XNR3503」ナガセケムテックス製(硬化条件:120℃×10min))を使用して樹脂部と金属部とを接合させ、金属部における他方の接合面(接合面2)では加熱硬化型シリコーン接着シール材(「TSE322」、モーメンティブ製(硬化条件:150℃×60min))を使用して樹脂部と金属部とを接合した複合成形体(表1中の「比較例2」に相当)についても同様に評価を行った。具体的な評価方法は以下の通りである。
【0049】
[接合強度]
図2に示す形状を有する複合成形体の金属部の真ん中を切断することにより2つに分割し、評価用サンプルを得た。得られた評価用サンプルを図3に示すように台座(冶具)上に配置し、1mm/minの速度で矢印方向に金属部から樹脂部を押し剥がすように冶具を動かした。金属部から樹脂部が剥がれた時点での強度を接合強度として測定した。なお、測定機器としてテンシロンUTA−50kN(オリエンテック社製)を使用した。測定結果を表1に示した(値は3回の試験における平均値である)。
【0050】
[放熱性評価]
図4に示すように表面温度150℃のアルミ台(ホットプレート上に設置)に複合成形体を配置し、配置直後の金属部の樹脂側端面から3mm離れた部分の樹脂部の面(測定面)の温度をサーモグラフィー装置(チノー製 ThermaCAM CPA−7800)を用いて測定した。計測された温度が高いほど、複合成形体の放熱性が高いことを示す。各複合成形体についての測定結果を表1に示した。
【0051】
[気密性評価]
図5に示す評価用サンプルを使用し、図6に示す試験装置を用いて気密性の評価を行った。なお、この評価サンプルにおいて、樹脂成形品は樹脂部に相当し、インサート金属部品は金属部に相当する。まず、耐圧気密容器の金属製容器部に複合成形体をゴム製Oリングを介してセットし、次に金属製上蓋部で複合成形体を挟み込むように固定した(容器部と上蓋部にはそれぞれ雄雌ネジが切ってあり、これにより固定した)。この耐圧気密容器を水槽に投入し、所望の圧力に達するまで圧縮エアーバルブを徐々に開放して耐圧気密容器内の圧力を上げていき、金属部からのエアー漏れの有無を確認した。所定の圧力をかけて1分間の静置状態においてエアー漏れがなければ、当該圧力下での気密性が良好である(「OKである」とも言う)と判定した。試験は0.1MPaの圧力から開始し、OKであれば順次0.1MPaずつ上げていき、最大0.6MPaまで試験を行った。各複合成形体について、エアー漏れが認められた圧力を表1に記載した。
【0052】
[金属表面粗さ(十点平均粗さRz)]
上記エッチング1又は2のうちのいずれかを施した各金属部の接合予定面、及びエッチングを施していない金属部の接合予定面について、レーザー顕微鏡((株)キーエンス社製 VK−9510)にて接合予定面の表面を観察し、JIS B 0601に基づいて十点平均粗さRzを求めた。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す通り、ウェットエッチングによって金属部に形成された、十点平均粗さRzが10μm以上である粗面を介して金属部と樹脂部とが接合していると、樹脂部と金属部との接合強度が高まり、放熱性及び気密性が顕著に高くなることが分かる。
【符号の説明】
【0055】
1 放熱構造体
2 絶縁部
3 導電性放熱部
4 導電性発熱部
図1
図2
図3
図4
図5
図6