(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料を分離するクロマトグラフ部と、前記クロマトグラフ部で分離された成分をイオン化するイオン源部と、前記イオン源部でイオン化された成分を質量毎に分離する質量分析部と、質量分離されたイオン成分を検出するイオン検出部と、前記イオン検出部の検出結果に基づいて、マススペクトルデータ及び1つ又は複数のマスクロマトグラムデータを生成するデータ処理部と、前記質量分析部及び前記イオン検出部の動作を制御する制御部とを有するクロマトグラフ質量分析装置の制御方法において、
前記制御部は、
前記1つ又は複数のマスクロマトグラムデータの各ピーク波形のベースラインによって定まる各ピークの開始時間および終了時間に基づいて、対応するイオン成分毎に、選択イオンモニタリングで使用する測定時間を決定する
ことを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置の制御方法。
【背景技術】
【0002】
近年、液体クロマトグラフ質量分析計を用いた定量分析法が生体サンプル中の薬剤成分や代謝物、環境試料中の残留物等に多く使用されている。液体クロマトグラフの高感度検出器には質量分析計が使用される。質量分析計には、例えば四重極型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、飛行時間型質量分析計があり、それらが測定目的に応じて使い分けられる。定量分析を目的とする場合には、多くの場合、四重極型質量分析計が使用される。
【0003】
四重極型質量分析計は、スキャン測定と選択イオンモニタリング(SIM)の2方式で質量数を測定することができる。スキャン測定では、所定の質量数の範囲内を走査し、設定された質量数範囲に含まれるイオンのスペクトルを検出する。このスキャン方法は、未知試料の定性分析等に用いられる。SIM測定では、予め指定された特定の質量数を有するイオンのクロマトグラムを選択的に検出する。この方法は、分析対象の成分が既知で、その成分の定量分析を高感度で行う場合に用いられる。
【0004】
従来、SIM測定のために質量数を決定する場合、予め対象サンプルをスキャン測定し、検出された成分のマススペクトルを確認し、SIM測定の対象とする質量数を測定者が判断する必要がある。その後、測定者が選択した質量数を用いて、マスクロマトグラムを表示し、各SIM測定の対象ピーク毎に特徴的な質量数を決定する。
【0005】
しかし、従来の液体クロマトグラフ質量分析計には、各ピークに最適な質量数(最大強度等)を自動的に選びだす手段がない。このため、この分析計は、測定者の判断に基づいて各ピークの質量数を選び出した後、選び出された質量数に対応するマスクロマトグラムを抽出し、さらに、抽出されたマスクロマトグラムの溶出時間(クロマトグラムの開始・終了時間)を決定する。また、測定対象となる成分数が多い場合、各成分ピークの重なり等も考慮して最適なSIM測定を行う時間を設定する必要があり、測定者によるSIM測定条件の決定及び実行のために長時間を要するという問題があった。
【0006】
特許文献1は、上記の課題を解決するために、予め定量分析の対象となる成分のスキャンデータより、定量分析の目的成分に対応する質量数を決定し、SIM測定時の質量数とする。その後、各目的成分に対応する質量数の質量分析を、目的成分の違いによらず、そのピーク時点を中心にその前後所定時間のみで行うことを特徴としている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の態様は、後述する実施例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0014】
[装置構成]
図1に、液体クロマトグラフィー質量分析計の概略構成を示す。液体クロマトグラフ質量分析計で分析される試料の多くは、複数の成分が混在した試料である。そこで、試料は、各試料に応じた前処理等で精製された後、LC(液体クロマトグラフ)部101において分離される。分離後の試料は、質量分析装置のイオン源102に導入され、イオン化される。イオン生成部であるイオン源102には、液体クロマトグラフ質量分析計で一般的に使用されるエレクトロスプレーイオン化法(ESI)、又は、大気圧化学イオン化法(APCI)を用いる。
【0015】
イオン源102でイオン化された成分は、大気圧から真空内部に導入され、四重極型質量分析計を有するMS(質量分析)部103にて質量分離される。本実施例では、MS(質量分析)部103として、四重極型質量分析計を使用する。もっとも、MS部103は、コリジョンセルを有する三連四重極型質量分析計でも良い。四重極型質量分析計は、スキャン測定と選択イオンモニタリング(SIM)との2方式で質量数を測定することができる。スキャン測定では、所定の質量数の範囲内を走査し、設定された質量数範囲に含まれるイオンを検出する。このスキャン方法は、未知試料の定性分析等に用いられる。SIM測定は、予め指定された特定の質量数を有するイオンのみを選択的に検出する。この方法は、分析対象の成分が既知で、その成分の定量分析を高感度で行う場合に用いられる。
MS(質量分析)部103で質量分離されたイオンは、順次、後段に配置されるイオン検出部104でイオン検出される。
【0016】
LC(液体クロマトグラフ)部101、イオン源102、MS(質量分析)部103及びイオン検出部104の各動作は、制御部105によって制御される。制御条件は、入力部107を通じて制御部105に設定される。イオン検出部104でイオン検出された信号は、データ処理部106に出力される。データ処理部106は、データ情報の集積、記憶、解析等を実行し、解析等されたデータを出力する。データ処理部106における解析作業等も入力部107から指示される。
【0017】
ここで、MS(質量分析)部103は、LC(液体クロマトグラフ)部101による試料成分の分離開始に同期して入力部107より設定されたスキャン条件に応じ、質量スペクトルの元になるデータを連続して取得する。また、データ処理部106は、質量電荷比に対するイオン強度の関係を示す質量スペクトルのデータを、観測した保持時間ごとに集積する。
【0018】
[SIM条件の設定・決定]
図2に、本実施例で提案するSIM条件の判定・決定処理の流れを示す。
図2に示す各ステップは、制御部105及びデータ処理部106の記憶装置に予め格納されたプログラムに従って実行される。
図2に示す処理は、(1) スキャンデータよりSIM測定を行う成分に該当するイオンピークの質量数の指定、(2) 該当する質量数のマスクロマトグラムの抽出、(3) 抽出されたクロマトグラムのピーク判定、(4) 検出ピークのベースラインの判定、(5) ピーク選択幅の決定、(6) SIM測定条件への反映の順番に進行する。
【0019】
まず、制御部105は、SIM測定条件の設定処理を開始し(ステップ201)、対象成分を含んだスキャンデータを取得する(ステップ202)。このとき、制御部105は、予め入力部107において設定されていた条件に基づいて、四重極型質量分析計を用いたMS(質量分析)部103を制御し、スキャン測定を実行する。LC(液体クロマトグラフ)部101の分離条件については、実際にSIMスキャンを用いて定量分析を行うときの分離条件と同様の条件で測定を行う。また、本設定を行う以前にスキャンデータを取得済みの場合は、当該取得済みのスキャンデータを選択し、この後のフローチャートの解析に使用することも可能である。
【0020】
次に、制御部105には、入力部107(条件設定画面)を通じ、スキャン測定された対象試料のデータから各成分をイオン抽出する際の条件が入力される(ステップ203)。
図3に、条件設定画面の構成例を示す。設定項目301は、SIM測定を行う際のチャンネルに相当し、実際に定量分析を行う際の成分数となる。3成分のSIM測定を行う場合、「チャンネルNo.」として3つの設定が必要となる。設定項目302には、実際に定量分析を行う成分名が入力される。成分名の入力は測定者による手入力でも予め用意された成分名からの選択でも良い。設定項目303には、設定項目302の成分に該当する分子量が設定される。分子量は、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)又は大気圧化学イオン化法(APCI)によって実際にイオンが生成される際の分子イオンの不可イオンパターンを指定する。項目304はプロトン付加イオンの指定入力欄、項目305はナトリウム付加イオンの指定入力欄、項目306はアンモニウム付加イオンの指定入力欄である。項目307は、項目304から306に該当しないイオン種を指定するための指定入力欄であり、イオン種を指定する付加質量数の設定に使用される。この項目307には、測定者が、任意に付加質量数を設定することができる。
【0021】
制御部105は、項目304で測定者がプロトン付加イオンを指定している場合(チェックボックスをチェックしている場合)、該当するチャンネルに入力された質量数に対して「+1.0」を加算し、項目305で測定者がナトリウム付加イオンを指定している場合(チェックボックスをチェックしている場合)、該当するチャンネルに入力された質量数に対して「+23.0」を加算し、項目306で測定者がアンモニウム付加イオンを指定している場合(チェックボックスをチェックしている場合)、該当するチャンネルに入力された質量数に対して「+18.0」を加算し、項目307で測定者が任意質量数を入力している場合、該当するチャンネルについて入力された質量数に付加質量数を加算し、マスクロマトグラムの抽出に使用する質量数条件とする。すなわち、制御部105は、条件設定画面(
図3)での設定に応じて算出された分子イオンの質量数を、マスクロマトグラム抽出のための質量数条件とする。
【0022】
なお、
図3では、各チャンネルについて1つの付加イオンを選択する例を示しているが、複数の付加イオンを選択することもできる。1つのチャンネルに対して複数の付加イオンが選択された場合、制御部105は、後のステップ205において、複数のマスクロマトグラムデータの中で最大ピーク強度となるクロマトグラムデータを選択し、その後の処理を行う。この処理により、複数のイオンピークの検出が想定される場合でも、最大の信号強度を得ることができる質量数情報の探索が可能となる。
【0023】
図3の例の場合、条件設定画面に対する入力内容により、「チャンネルNo.1」の質量数情報は609.3(=608.3+1.0)となり、「チャンネルNo.2」の質量数情報は821.5(=803.5+18.0)となり、「チャンネルNo.3」の質量数情報は772.5(=733.5+39.0)となる。なお、制御部105は、これらの算出に用いる分子量及び付加イオン質量精度を、質量分析計の精度に応じて変更する機能を有しても良い。
【0024】
図4に、3成分の分子イオンを探索する際に使用する条件入力画面例を示す。本実施例では、テストステロン、メチルテストステロン、プロゲステロンの3成分について定量分析を行う際のSIM条件設定画面の例を示している。項目401の成分名には、テストステロン、メチルテストステロン、プロゲステロンが入力されている。項目402には、テストステロンについて分子量288.4が、メチルテストステロンについて分子量302.4が、プロゲステロンについて分子量314.5が入力されている。
図4の場合、3成分について抽出すべき分子イオンとして、項目403のプロトン付加イオンのみが指定されている。従って、スキャンデータより各成分のマスクロマトグラムを抽出する際の分子イオン質量数として、項目404〜項目406の情報は使用せず、分子量数値に+1.0を加算した質量数情報を使用する。
【0025】
続くステップ204において、制御部105は、ステップ203で受け付けた設定条件(各チャンネルに該当する分子イオンの質量数情報)に従い、実際のスキャンデータより、マスクロマトグラムを抽出する。
図4の場合、制御部105は、テストステロンについては289.4(=288.4+1.0)、メチルテストステロンについては303.4(=302.4+1.0)、プロゲステロンについては315.5(=314.5+1.0)を分子イオン質量数として抽出する。
【0026】
実際の抽出処理では、ステップ203で算出された質量数に対して前後方向に幅を持たせることも可能である。例えば予めプログラム内に指定された選択幅を用いて、マスクロマトグラムを抽出する際の選択幅とする。選択幅については、用いる質量分析計の質量精度に基づいて決定する方式を採る。本実施例では、±0.2の選択幅を用いる。この場合、ステップ203で算出された各成分の分子イオンの質量数に対して、±0.2の範囲でマスクロマトグラムを抽出する。従って、「チャンネルNo.1」については、289.2から289.6の質量幅のマスクロマトグラムを抽出する。また、「チャンネルNo.2」については、303.2から303.6の質量幅のマスクロマトグラムを抽出する。
また、「チャンネルNo.3」については、315.3から315.7の質量幅のマスク
ロマトグラムを抽出する。
【0027】
図5は、テストステロン、メチルテストステロン、プロゲステロンの3成分について、
図1に示す液体クロマトグラフィー質量分析計によりスキャン測定して得られるトータルイオンクロマトグラムデータの例である。
図5に示すように、マスクロマトグラムには3成分のピーク波形が検出されている。実際には、溶出時間の早いピークから順番に、ピーク波形501がテストステロンのピーク、ピーク波形502がメチルテストステロンのピーク、ピーク波形503がプロゲステロンのピークに相当する。このように、制御部105は、
図5に示すスキャンデータより、ステップ203の分子イオンの質量数情報を用いてマスクロマトグラムを抽出する。
【0028】
図6は、
図5のスキャンデータより3成分のマススペクトルデータを示した図である。
図6は、最上段より下段方向に、テストステロン、メチルテストステロン、プロゲステロンのマススペクトルデータを表している。図中、ピーク601は、質量数289.5であり、ステップ203で算出したテストステロンのプロトン付加イオンの質量数289.4±0.2の範囲と一致している。同様にピーク602は、質量数303.5であり、ステップ203で算出したメチルテストステロンのプロトン付加イオンの質量数303.4±0.2の範囲と一致している。同様にピーク603は、質量数315.6であり、ステップ203で算出したプロゲステロンのプロトン付加イオンの質量数315.5±0.2の範囲と一致している。本実施例においては、プロトン付加イオンの指定により、各成分のマスクロマトグラムピークを選択的に抽出することが可能である。
【0029】
図7は、ステップ204で抽出を行った際の3成分のマスクロマトグラムデータを示す図である。
図7は、最上段から下段方向に、テストステロン701、メチルテストステロン702、プロゲステロン703のマスクロマトグラムデータを表している。
図7は、ステップ203より算出された分子イオンの質量数情報と±0.2の質量幅を用いて抽出を行った結果となる。なお、本例では、開始時間についても終了時間についても同じ時間幅で拡張しているが、開始時間と終了時間とで異なる時間幅を拡張しても良い。
【0030】
続くステップ205において、制御部105は、ステップ204で抽出された各成分のマスクロマトグラムデータのピーク判定を行う。ピーク判定において、制御部105は、例えば信号強度について定めた閾値を使用してピーク判定を行う。信号強度の閾値条件は、データのノイズ強度等に応じ、測定者が変更可能であることが望ましい。
【0031】
マスクロマトグラム抽出の後、制御部105は、予め設定された閾値よりも高い信号強度が検出されているピークが検出された場合にピークが検出されていると判定する。閾値よりも信号強度が低いピークが検出された場合、制御部105は、ステップ203に戻り、他の付加イオン種について、再度、ステップ204以降の処理を実行する。
【0032】
ステップ205で検出されたクロマトグラムピークに関し、制御部105は、ステップ206でベースライン判定を行う。
図8に、テストステロンのマスクロマトグラムピークについて行ったベースライン判定のデータ例を示す。ベースライン801の判定手法には既に様々な方法が提案されているので、詳細な説明は省略する。なお、ベースライン801は、判定過程で検出されたピーク波形の開始点802と終了点803を結ぶ直線として決定される。例えばベースラインの判定処理では、まず、ピーク波形の頂点が検出され、その後、当該ピークの開始点802と終了点803が順番に検出される。
【0033】
次のステップ207において、制御部105は、ベースライン801の情報より、ピークの開始点802と終了点803の各時間情報を取得する。この時間情報が該当成分のSIM測定を行う際の測定時間幅を決定する際の基本情報となる。このように、本実施例では、ピーク波形毎にベースライン801を決定し、その情報に基づいて測定時間幅(開始時間と終了時間)を個別かつ自動的に決定する。このため、測定者が液体クロマトグラフィー質量分析装置の操作に習熟していない場合でも、各ピーク波形に適した測定時間の設定作業に要する負担を大幅に軽減することができる。
【0034】
なお、ステップ207で得られたベースライン801の開始時間及び終了時間を、該当するチャンネルNo.のSIM測定を行う開始時間及び終了時間としてそのまま設定しても良いのであるが、測定時間の自動拡張機能と組み合わせることもできる。例えばプログラムにおいて拡大時間幅(例えば0.1分)が予め設定されている場合、制御部105は、ベースライン801の開始時間802に対して−0.1分した時点を新たな開始時間とし、終了時間803に対して+0.1分した時点を新たな終了時間として測定時間を自動的に拡張しても良い。この自動拡張機能の存在により、クロマトピークの溶出時間幅が濃度に依存して変わる場合(いわゆるテーリング等によりピーク形状が変化する場合)でも、測定時間幅に本来必要な時間幅に不足が生じないようにできる。なお、濃度差がある同じ試料を測定する場合における測定ピーク波形と最適な測定時間の関係については後述する。
【0035】
ステップ208において、制御部105は、ステップ203で算出した分子イオンの質量数情報よりステップ207で決定された時間情報(開始時間802及び終了時間803)を、各成分のSIM測定条件情報として登録する。この登録処理の後、制御部105は、SIM測定条件の設定処理を終了する(ステップ209)。
【0036】
[設定結果の表示画面例]
図9に、SIM測定条件の設定処理の終了後にインターフェース画面として表示される画面例を示す。勿論、表示画面の情報は、ステップ208で設定登録された各成分のSIM条件情報に基づいて生成される。図中、項目901はチャンネルNo.であり、項目902はSIM測定の開始時間であり、項目903はSIM測定の終了時間であり、項目904は分析時間全体における各チャンネルの測定時間の配置である。
図9の場合、テストステロン(SIM測定質量数289.5)の測定時間は3.9分から5.5分までの1.6分間であり、メチルテストステロン(SIM測定質量数303.5)の測定時間は4.8分から6.5分までの1.7分間であり、プロゲステロン(SIM測定質量数315.6)の測定時間は7.0分から8.9分までの1.9分間である。図中では、各成分の測定時間が時間軸上の横棒で表されている。
【0037】
[試料濃度の違いと最適な測定時間の関係]
図10に、濃度差がある同じ試料を測定する場合における測定ピーク波形と最適な測定時間の関係を示す。図中、ピーク波形1001と1002は、いずれも同成分の試料について測定されたクロマトグラムである。本図の場合、ピーク波形1001に対応する試料の方が、ピーク波形1002に対応する試料よりも濃度が高い場合に相当する。
【0038】
高濃度試料のピーク波形1001と低濃度試料のピーク波形1002の各ベースラインを比較すると、開始点1003はほぼ同じである。しかし、低濃度試料のピーク波形1002の終了点1004は約61秒であるのに対し、高濃度試料のピーク波形の終了点1005は約69秒であり、終了点1004に対して約8秒の遅れが認められる。このように、同じ試料であっても濃度が異なっていると、測定されるピーク波形の終了点が異なる可能性がある。このことは、低濃度試料をSIM測定する際に決定した測定時間幅を、高濃度試料のSIM測定にそのまま使用することはできないことを意味する。仮に低濃度試料について決定したSIM測定のための測定時間を、そのまま高濃度試料のSIM測定のための測定時間に適用すると、
図10に示すように、高濃度試料の溶出途中で測定時間が終了してしまう。つまり、低濃度試料に対する測定時間(又は測定時間幅)は、高濃度試料の測定時間(又は測定時間幅)として最適な値ではない。結果として、高濃度試料について測定されたSIM測定結果が正しい値を示さない可能性が高くなる。
【0039】
そこで、前述の実施例では、測定試料毎にベースライン801を決定して測定時間(又は測定時間幅)を決定したり、ある濃度について決定されたSIM測定のための測定時間(又は測定時間幅)に対して開始時点と終了時点をそれぞれ拡張したりしている。なお、前述の説明では、測定時間の前後両方向に一定時間を拡張しているが、開始時間についてのみ又は終了時間についてのみ測定時間を拡張できる設定機能を設けることも可能である。例えば
図10に示すように、試料濃度の違いによらず、ベースラインの開始時間が同じである場合には、終了時間についてのみ測定時間を拡張する機能を用意すれば、試料濃度の違いによらず、正確な測定を行うことができる。
【0040】
すなわち、制御部105には、ある濃度の試料(例えば低濃度試料)についてSIM測定のための測定時間(又は測定時間幅)が決定されると、決定されたSIM測定の終了時間に対して、+10秒の延長時間を設定する。このように、制御部105が、低濃度試料について決定された終了時間61秒に対して10秒加算した71秒をSIM測定時間に自動設定する場合、高濃度試料のベースラインの終了点1005(69秒)が自動設定された測定時間に含まれるため、高濃度試料の溶出時間幅の全てをSIM測定することが可能となる。
【0041】
また、この延長時間については、各成分に共通に設けることも、又は、前述したように成分別に設けることも可能である。なお、本実施例では、濃度が異なる同一試料間における測定時間(又は測定時間幅)の変化によらず、正確にSIM測定できることを技術上の効果として説明したが、液体クロマトグラフで用いる分離カラムの劣化によるピーク形状の変化等に対しても、当該測定時間(又は測定時間幅)の拡張機能は有効である。
【0042】
[実施例の効果]
前述の通り、本実施例に係る液体クロマトグラフィー質量分析計を用いれば、測定対象に指定した各成分をSIM測定する際の質量数及び測定時間(又は測定時間幅)を、対応するスキャンデータを用いて自動的に決定することができる。このため、測定者は、マススペクトルデータを目視で確認する必要がなくなるだけでなく、測定対象とする分子イオン種に応じた測定時間(測定時間幅)を設定するための作業負担も大幅に軽減することができる。
【0043】
また、前述したように、本実施例に係る液体クロマトグラフィー質量分析計によれば、ピーク波形について個別に決定されるベースラインの情報に基づいて、各成分の測定時間(又は測定時間幅)を決定するため、成分毎に溶出時間幅が異なる場合にも、各成分に最適なSIM測定時間(又は測定時間幅)を容易に決定することができる。また、前述の測定時間の拡張機能により、測定対象が濃度違いの同じ試料の場合には、測定済みの試料について決定したSIM測定時間(又は測定時間幅)を拡張した時間(又は時間幅)の適用により、SIM測定結果が得られるまでの時間を短縮しても良い。
【0044】
[他の実施例]
本発明は、上述した実施例の構成に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば前述の実施例では、液体クロマトグラフィー質量分析計への適用について説明したが、ガスクロマトグラフィ質量分析計について適用しても良い。また、前述の実施例では、対象成分のスキャンデータの取得が終了した後に(ステップ202が終了した後に)、マスクロマトグラムの検出及びベースラインの判定等を実行して各成分の測定時間を決定しているが、対象成分のスキャンデータの検出動作と同時並行的(リアルタイム)に各成分に対応するピーク波形について測定時間を決定しても良い。この機能を用いれば、SIM測定条件の設定に要する時間を一段と短縮することができる。
【0045】
なお、前述の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために、一部の実施例について詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要は無い。また、前述の実施例の構成に他の構成を追加し、他の構成で置換し、又は、実施例の一部構成を削除することも可能である。
【0046】
また、前述の実施例における制御部105の機能の一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。なお、制御部105の機能の実現に使用するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができ
る。
【0047】
また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。