特許第6226944号(P6226944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAエレクトロニクス株式会社の特許一覧

特許6226944銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト
<>
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000008
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000009
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000010
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000011
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000012
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000013
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000014
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000015
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000016
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000017
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000018
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000019
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000020
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000021
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000022
  • 特許6226944-銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト 図000023
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226944
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/20 20170101AFI20171030BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20171030BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20171030BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20171030BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20171030BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20171030BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20171030BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C01B32/20
   H01B5/00 C
   H01B5/00 L
   H01B13/00 501Z
   H01B1/22 A
   H01B1/00 C
   H01B1/00 L
   C22C5/06 Z
   C08L101/00
   C08K9/02
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-240596(P2015-240596)
(22)【出願日】2015年12月9日
(65)【公開番号】特開2017-105671(P2017-105671A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2016年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】大谷 海里
(72)【発明者】
【氏名】野上 徳昭
(72)【発明者】
【氏名】茂木 謙雄
(72)【発明者】
【氏名】岡野 卓
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/094780(WO,A1)
【文献】 特開2007−306724(JP,A)
【文献】 特開昭59−152936(JP,A)
【文献】 特開昭63−012669(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/103798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/20
C08K 9/02
C08L 101/00
C22C 5/06
H01B 1/00
H01B 1/22
H01B 5/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子と該黒鉛粒子の表面に被覆された銀とを具備した銀被覆黒鉛粒子を含む銀被覆黒鉛混合粉であって、
前記銀被覆黒鉛混合粉を硝酸に溶解後の溶液における結合誘導プラズマ(ICP)発光分析法での銀の含有量が5質量%以上90質量%以下であり、錫の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であり、亜鉛の含有量が0.002質量%以上1質量%以下であることを特徴とする銀被覆黒鉛混合粉。
【請求項2】
前記銀の含有量が20質量%以上90質量%以下であり、前記錫の含有量が0.01質量%以上2質量%以下である請求項1に記載の銀被覆黒鉛混合粉。
【請求項3】
100倍の反射電子像の2値化処理による前記銀被覆黒鉛粒子の割合である黒鉛被覆率が、10%以上である請求項1又は2に記載の銀被覆黒鉛混合粉。
【請求項4】
体積基準の累積50%粒子径(D50)が1μm以上20μm以下である請求項1から3のいずれかに記載の銀被覆黒鉛混合粉。
【請求項5】
黒鉛粉に、錫化合物の水溶液を用いてセンシタイジングを行う工程と、
センシタイジング後の黒鉛粉の表面に、銀錯体溶液と亜鉛粉を用いて置換により銀を被覆する工程とを含み、
前記銀錯体溶液のpHが6以上14以下であることを特徴とする
黒鉛粒子と前記黒鉛粒子の表面に被覆された銀とを具備した銀被覆黒鉛粒子を含む銀被覆黒鉛混合粉の製造方法。
【請求項6】
前記銀錯体溶液のpHが6以上8以下である請求項5に記載の銀被覆黒鉛混合粉の製造方法。
【請求項7】
前記銀被覆黒鉛混合粉を硝酸に溶解後の溶液における結合誘導プラズマ(ICP)発光分析法での銀の含有量が5質量%以上90質量%以下であり、錫の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であり、亜鉛の含有量が0.002質量%以上1質量%以下である請求項5から6のいずれかに記載の銀被覆黒鉛混合粉の製造方法。
【請求項8】
100倍の反射電子像の2値化処理による前記銀被覆黒鉛粒子の割合である黒鉛被覆率が、10%以上である請求項5から7のいずれかに記載の銀被覆黒鉛混合粉の製造方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の銀被覆黒鉛混合粉と、樹脂と、有機溶媒とを含有することを特徴とする導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀被覆黒鉛粒子、銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、銀粉、バインダ、溶剤などを含有する導電性ペーストが使用されている。しかし、銀は高価であるため、銀粉の全て又は一部をより安価な材料に変えた方が、コストが抑制される場合があり、例えば、銀粉を、銀より安価な銅を芯材とした銀被覆銅粉を用いた導電性ペーストが使用されている。
【0003】
前記芯材として利用できる材料としては、高い導電性を有する金属である銅だけではない。例えば、特許文献1には、カーボンブラックの粒子表面に、電気メッキにより銅、ニッケル、銀等の金属を電着させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−12669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記芯材が銅である銀被覆銅粉は、露出している部分の銅の酸化により信頼性が低下するという問題がある。また、銅イオンの溶出によるペースト粘度の増粘の問題も起こりうる。更に、前記カーボンブラック表面に金属を電着させたものを導電性ペーストのフィラーとして用いても、前記芯材が非晶質状態のカーボンブラックであるため、高い導電性は得られない。
【0006】
本発明は、導電性ペーストのフィラーとしての利用に適した導電性の比較的高い黒鉛の表面に少なくとも銀を被覆した銀被覆黒鉛粒子、前記銀被覆黒鉛粒子を含む銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに高い導電性を有し、軽量かつ安価な導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 黒鉛粒子と該黒鉛粒子の表面に被覆された銀とを具備した銀被覆黒鉛粒子を含む銀被覆黒鉛混合粉であって、
前記銀被覆黒鉛混合粉を硝酸に溶解後の溶液における結合誘導プラズマ(ICP)発光分析法での銀の含有量が5質量%以上90質量%以下であり、錫の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であり、亜鉛の含有量が0.002質量%以上1質量%以下であることを特徴とする銀被覆黒鉛混合粉である。
<2> 前記銀の含有量が20質量%以上90質量%以下であり、前記錫の含有量が0.01質量%以上2質量%以下である前記<1>に記載の銀被覆黒鉛混合粉である。
<3> 100倍の反射電子像の2値化処理による前記銀被覆黒鉛粒子の割合である黒鉛被覆率が、10%以上である前記<1>又は<2>に記載の銀被覆黒鉛混合粉である。
<4> 体積基準の累積50%粒子径(D50)が1μm以上20μm以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の銀被覆黒鉛混合粉である。
<5> 黒鉛粉に、錫化合物の水溶液を用いてセンシタイジングを行う工程と、
センシタイジング後の黒鉛粉の表面に、銀錯体溶液と亜鉛粉を用いて置換により銀を被覆する工程とを含み、
前記銀錯体溶液のpHが6以上14以下であることを特徴とする
黒鉛粒子と前記黒鉛粒子の表面に被覆された銀とを具備した銀被覆黒鉛粒子を含む銀被覆黒鉛混合粉の製造方法である。
<6> 前記銀錯体溶液のpHが6以上8以下である前記<5>に記載の銀被覆黒鉛混合粉の製造方法である。
<7> 前記銀被覆黒鉛混合粉を硝酸に溶解後の溶液における結合誘導プラズマ(ICP)発光分析法での銀の含有量が5質量%以上90質量%以下であり、錫の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であり、亜鉛の含有量が0.002質量%以上1質量%以下である前記<5>から<6>のいずれかに記載の銀被覆黒鉛混合粉の製造方法である。
<8> 100倍の反射電子像の2値化処理による前記銀被覆黒鉛粒子の割合である黒鉛被覆率が、10%以上である前記<5>から<7>のいずれかに記載の銀被覆黒鉛混合粉の製造方法である。
<9> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の銀被覆黒鉛混合粉と、樹脂と、有機溶媒とを含有することを特徴とする導電性ペーストである。
<10> 黒鉛粒子の表面に銀を被覆した銀被覆黒鉛粒子であって、
走査型電子顕微鏡像の観察による平均粒径が1μm以上20μm以下であり、被覆された銀の厚みが10nm以上5μm以下であることを特徴とする銀被覆黒鉛粒子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、導電性ペーストのフィラーとしての利用に適した導電性の比較的高い黒鉛の表面に少なくとも銀を被覆した銀被覆黒鉛粒子、前記銀被覆黒鉛粒子を含む銀被覆黒鉛混合粉及びその製造方法、並びに高い導電性を有し、軽量かつ安価な導電性ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1で用いた黒鉛粉の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)である。
図2図2は、実施例1の銀被覆黒鉛混合粉の反射電子像(100倍)である。
図3図3は、実施例2の銀被覆黒鉛混合粉の反射電子像(100倍)である。
図4図4は、実施例3の銀被覆黒鉛混合粉の反射電子像(100倍)である。
図5図5は、実施例3の銀被覆黒鉛混合粉について、樹脂埋めした粉末断面の反射電子像である。
図6図6は、銀含有量と比抵抗1の関係を示すグラフである。
図7図7は、実験例1の銀被覆黒鉛混合粉の反射電子像(100倍)である。
図8図8は、実験例1の銀被覆黒鉛混合粉の反射電子像(5,000倍)である。
図9図9は、実験例2の銀被覆黒鉛混合粉の反射電子像(100倍)である。
図10図10は、実験例2の銀被覆黒鉛混合粉の反射電子像(5,000倍)である。
図11図11は、実験例3−1で用いた鱗状黒鉛の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)である。
図12図12は、実験例3−1の銀被覆黒鉛混合粉の反射電子像(100倍)である。
図13図13は、実験例3−2の銀被覆黒鉛混合粉の反射電子像(100倍)である。
図14図14は、実験例5の導電性ペーストを用いて作製した導電膜の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)である。
図15図15は、比較例4の導電性ペーストを用いて作製した導電膜の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)である。
図16図16は、比較例6の導電性ペーストを用いて作製した導電膜の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(銀被覆黒鉛混合粉及び銀被覆黒鉛粒子)
本発明の銀被覆黒鉛混合粉は、黒鉛粒子と該黒鉛粒子の表面に被覆された銀とを具備した銀被覆黒鉛粒子を含み、更に必要に応じて表面処理剤が付着されていてもよい。
前記銀被覆黒鉛混合粉を硝酸に溶解後の溶液における結合誘導プラズマ(ICP)発光分析法での銀の含有量が5質量%以上90質量%以下であり、錫の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であり、亜鉛の含有量が0.002質量%以上1質量%以下である。
本発明の銀被覆黒鉛粒子は、黒鉛粒子の表面に銀を被覆した銀被覆黒鉛粒子であり、更に必要に応じて表面処理剤が付着されていてもよい。
前記銀被覆黒鉛粒子は、走査型電子顕微鏡像の観察による平均粒径(SEM粒径)が1μm以上20μm以下であり、被覆された銀の厚みが10nm以上5μm以下である。
【0011】
本発明者らは、黒鉛粒子に対して銀を被覆する方法について鋭意検討した結果、方法として生産性の高い湿式法を用いることとした。前記湿式法において、簡易的に銀錯体溶液に黒鉛粒子を投入し、ホルマリン等の種々の還元剤を用いて銀被覆を試みたが、黒鉛粒子への析出した銀の吸着は起こらず、ビーカーへの銀の析出や独立した銀粒子ができるのみであった。更に、本発明者らは、黒鉛粒子の表面に錫を付加することで黒鉛粒子への析出を促進させることについて検討し、センシタイジング処理を試みたが、還元剤を用いる方法では、黒鉛粒子表面への析出は同様に困難であり、結晶化している黒鉛粒子表面は非常に安定で、銀の被覆は容易ではなかった。
そこで、本発明の銀被覆黒鉛粒子は、還元剤を用いるのではなく、卑な金属による置換析出の応用を着想し、銀イオンの存在下においてセンシタイジング処理により錫を表面に有した黒鉛粒子に亜鉛粒子を投入することで、前記黒鉛粒子と前記亜鉛粒子とが近接した際の銀と亜鉛の置換反応によって、黒鉛粒子の表面に銀を析出できるという知見に基づくものである。液体の還元剤に比べて亜鉛粒子では還元析出位置はランダムとなるが、それゆえ逆に、還元力が不均一に偏在することで確実に黒鉛粒子の一部に核を形成することができ、黒鉛粒子の一部を銀被覆できる方法となることを見出した。その結果としての錫や亜鉛を含む銀被覆黒鉛混合粉は、黒鉛を添加することのデメリット(粘度の上昇など)を抑制し、黒鉛を添加することのメリット(導電性や熱伝導性の向上)を更に高めることが分かった。
【0012】
<黒鉛粉及び黒鉛粒子>
前記黒鉛粉は、黒鉛(例えば、グラファイト、グラフェン)を主とする黒鉛粒子の集合体である。
前記黒鉛粉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、グラフェン、球状黒鉛、及び鱗片状黒鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
前記球状黒鉛及び前記鱗片状黒鉛は、炭素同士が共有結合で六角形に結合し、層間がファンデルワースル力で結合したものである。
前記グラフェンは、炭素原子1個分の厚みしかない平面状の物質であり、炭素原子のsp結合によって形成されたハチの巣状の結晶格子で構成されており、他の全ての次元のグラファイト系材料の基本構成ブロックである。
【0013】
前記黒鉛粉としては、天然物でも人造物でもよく、前記黒鉛粉中の不純物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%以下であることが好ましい。
前記黒鉛粉としては、適宜製造したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、グラフェン(GNH−X2、グラフェンプラットフォーム株式会社製)、球状黒鉛(WF−15C、株式会社中越黒鉛工業所製)、鱗状黒鉛(BF−15AK、株式会社中越黒鉛工業所製)などが挙げられる。
【0014】
前記黒鉛粉は、BET比表面積が小さいことが好ましく、BET比表面積が14m/g以下が好ましく、7m/g以下がより好ましい。銀の置換析出において、析出する銀核の1次粒径は数nm〜数10nmの大きさがあり、各銀核が成長と共に連結して表面を覆うと考えられる。この際、BET比表面積が大きいと、黒鉛粉の表面のほとんどを銀(Ag)で被覆しようとした場合の必要な銀(Ag)の質量%が過大となってしまう。そのため、BET比表面積が小さいほど、少ない銀で被覆率を大きくすることができる。
前記黒鉛粉のBET比表面積は、Macsorb HM−model 1210(MOUNTECH社製)を用いて窒素吸着によるBET1点法で測定することができる。なお、前記BET比表面積の測定において、測定前の脱気条件は60℃、10分間とした。
【0015】
前記黒鉛粉のレーザー回折法による体積基準の累積50%粒子径(D50)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上20μm以下が好ましい。前記累積50%粒子径が、1μm未満又は20μmを超えると、導電性ペーストとしての印刷性に悪影響が生じることがある。
前記黒鉛粉の累積50%粒子径は、湿式レーザー回折式の粒度分布測定により行うことができる。即ち、湿式レーザー回折式の粒度分布測定は、黒鉛粉0.1gをイソプロピルアルコール40mLに加え、チップ径20mmの超音波ホモジナイザーにより2分間分散させ、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、MICROTORAC MT3300EXII)を用いて測定する。測定結果をグラフ化し、黒鉛粉の体積基準の粒度分布の頻度と累積を求める。そして、累積50%粒子径をD50と表記する。
【0016】
<銀被覆>
前記銀被覆としては、銀被覆黒鉛粒子における被覆部分が一部であっても、全部であってもよい。また、走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察したときに、一部でも銀被覆された部分が観察される銀被覆黒鉛粒子と、銀被覆された部分が観察されない黒鉛粒子とが混在していてよい。用いた黒鉛粉のうち、一部でも銀被覆された黒鉛粒子の割合を黒鉛被覆率とする。
前記黒鉛被覆率は、例えば、100倍の反射電子像により観察した場合に、銀被覆処理をされた黒鉛粒子は銀被覆部分のコントラストが白く観察されるため、黒く観察される黒鉛粒子との2値化処理による面積比から銀被覆黒鉛粒子の割合を測ることにより、疑似的な被覆率(以後、被覆率(面積比)とする)を得ることができる。また、他の方法としては、銀(Ag)の密度が10.5g/mLに対してグラファイトの密度は2.26g/mL程度であることから、銀被覆黒鉛粒子と黒鉛粒子との密度の差により比重分離させることで、銀被覆黒鉛混合粉における銀被覆黒鉛粒子の割合(質量比)として測定することも可能である。
前記比重分離の方法としては、湿式と乾式があるが、湿式の方法としては、例えば、密度を3g/mLに調整した重液(ポリタングステン酸Na水溶液)を用いることで、銀被覆黒鉛粒子中の銀の比率が少なくとも10質量%以上あれば、銀被覆黒鉛粒子は重液中で沈降し、それ以外(銀がほとんど付着していない黒鉛粒子)は浮くことになる。よって、沈降した粒子の割合は、銀被覆黒鉛混合粉における銀被覆黒鉛粒子の割合と同等であるとみなすことができる。なお、被覆に用いた溶液中の銀が全て黒鉛粉の銀被覆に用いられ、銀単体での析出が無かったと仮定すると、投入した黒鉛粉の中で銀被覆黒鉛粉となった割合(黒鉛被覆率)を比重分離による銀被覆黒鉛混合粉における銀被覆黒鉛粒子の割合(質量比)の値より求めることもできる。
本発明の銀被覆黒鉛混合粉における黒鉛粉のうち銀被覆される黒鉛粒子の割合は高いことが好ましいが、必ずしも100%である必要はなく、銀で被覆されなかった黒鉛粒子が混合していてもよい。
100倍の反射電子像の2値化処理による前記銀被覆黒鉛粒子の割合である黒鉛被覆率(面積比)は10%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、最も好ましくは銀が均一に全ての黒鉛粒子を被覆すること、即ち、黒鉛被覆率が100%である。なお、被覆部分が一部であっても、銀を黒鉛粉に被覆することで、導電性ペーストに用いた場合に、安価であるだけでなく高い導電性を得ることができる。
【0017】
前記銀被覆黒鉛混合粉は、BET比表面積が小さいことが好ましく、例えば、14m/g以下が好ましく、7m/g以下がより好ましい。前記BET比表面積の下限は0.1m/gである。前記BET比表面積としては、例えば、市販のBET比表面積測定器などを用いて測定することができる。
【0018】
前記銀被覆黒鉛混合粉のレーザー回折法による体積基準の累積50%粒子径(D50)としては、1μm以上20μm以下が好ましい。前記累積50%粒子径(D50)が1μm未満又は20μmを超えると、導電性ペーストとしての印刷性に悪影響を与えることがある。
前記銀被覆黒鉛混合粉の累積50%粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、MICROTORAC MT3300EXII)により測定することができる。
【0019】
前記銀被覆黒鉛混合粉中の銀の含有量(銀含有率)は、前記銀被覆黒鉛混合粉を硝酸に溶解後の溶液における結合誘導プラズマ(ICP)発光分析法により、5質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。前記含有量が5質量%以上であれば、本発明の亜鉛粉を用いると一部の黒鉛粉に対して確実に銀を付着させることができる。ただし、前記銀含有率が、20質量%未満であると、黒鉛粒子に銀被覆する場合の比抵抗の低下効果が得られにくいことがあり、90質量%を超えると、銀100質量%に対して費用面のメリットが薄れることがある。なお、密度から計算される体積比では、銀被覆黒鉛混合粉中の銀の体積比は1%以上が好ましく、5%以上66%以下であることがより好ましい。
また、錫の含有量は0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。亜鉛の含有量は0.002質量%以上1質量%以下であることが好ましい。錫や亜鉛は含有量が多過ぎると抵抗値に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0020】
<表面処理剤>
前記銀被覆黒鉛混合粉は、分散性を維持し、導電性ペーストとする際のなじみ易さを得るために、有機物からなる表面処理剤にて表面を被覆することができる。
前記表面処理剤としては、有機物であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪酸、界面活性剤、有機金属化合物、キレート剤、高分子分散剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記表面処理剤を用いる場合は、1種以上の表面処理剤を選択して、銀の析出の前、析出の後、又は析出中のスラリー状の反応系に添加することで、表面処理剤が付着された銀被覆黒鉛粒子及び銀被覆黒鉛混合粉が得られる。
【0022】
(銀被覆黒鉛混合粉の製造方法)
本発明の銀被覆黒鉛混合粉の製造方法は、黒鉛粒子と前記黒鉛粒子の表面に被覆された銀とを具備した銀被覆黒鉛粒子を含む銀被覆黒鉛混合粉の製造方法であって、
黒鉛粉に、錫化合物の水溶液を用いてセンシタイジングを行う工程と、センシタイジング後の黒鉛粉の表面に、銀錯体溶液と亜鉛粉を用いて置換により銀を被覆する工程とを含み、前記銀錯体溶液のpHが6以上14以下であり、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
前記銀被覆黒鉛混合粉の製造方法において、前記銀被覆黒鉛混合粉を硝酸に溶解後の溶液における結合誘導プラズマ(ICP)発光分析法による、銀の含有量が5質量%以上90質量%以下であり、錫の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であり、亜鉛の含有量が0.002質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
【0023】
前記センシタイジングを行う工程は、錫調液工程と、センシタイジング工程と、ろ過洗浄工程とを含むことが好ましい。
前記銀を被覆する工程は、銀調液工程と、錯化工程と、pH調整工程と、置換メッキ工程と、ろ過・洗浄工程と、乾燥工程とを含むことが好ましい。前記乾燥工程においては、更に解砕工程や、分級工程を含むことが好ましい。
【0024】
<錫調液工程>
前記錫調液工程は、錫の反応液を調製する工程である。錫化合物を塩酸等の酸及び純水を混合し、錫イオンを含む酸性溶液を調製する。
前記錫化合物としては、例えば、塩化錫などが挙げられる。
【0025】
<センシタイジング工程>
前記センシタイジング工程は、前記錫イオンを含む酸性溶液に黒鉛粉を添加して撹拌することにより、黒鉛粉の表面に錫を吸着させる工程である。吸着させる錫の量は、調液組成や反応時間によって調整することができ、例えば0.1質量%以上5質量%以下とすることができる。
【0026】
<ろ過洗浄工程>
前記ろ過工程は、前記センシタイジング工程で得られるスラリーをろ過し、水洗することによって、表面に錫を吸着した黒鉛粉を得る工程である。なお、後の工程において黒鉛粉の表面が活性であることが必要であることから、黒鉛粉は乾燥させなくてもよい。
【0027】
<銀調液工程>
前記銀調液工程は、銀の反応液を調製する工程である。
純水が攪拌されている状態の反応槽に、銀化合物を入れ撹拌し、銀化合物含有水溶液を得ることができる。
前記銀化合物としては、例えば、硝酸銀、炭酸銀、酢酸銀などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、コスト等の面から、硝酸銀が好ましい。
【0028】
<錯化工程>
前記錯化工程は、前記銀調液工程において得られる銀化合物含有水溶液中の銀を錯体化する工程である。
【0029】
前記錯化工程としては、前記銀の調液工程で得られた銀化合物含有水溶液中の銀を錯体化することにより、銀錯体溶液を得ることができる。
前記錯体化する方法としては、例えば、銀錯化剤を用いる方法などが挙げられる。
前記銀錯化剤としては、例えば、EDTA−4Naのような強アルカリ性のキレート化合物が好ましい。黒鉛粉上での銀の析出は容易ではなく、銀錯化剤として良く使用されるアンモニア系では,黒鉛粉への銀の析出が困難となるためである。なお、センシタイジング工程を経た黒鉛粉は、錯化工程の前又は直後に添加する。なお、添加しても置換反応は開始されない。
【0030】
<pH調整工程>
前記pH調整工程では、銀錯体溶液のpHを6以上14以下の範囲とすることが好ましく、中性に近い6以上8以下の範囲がより好ましい。
EDTA−4Naのような強アルカリ性のキレート化合物を用いると、後述の置換メッキ工程での銀(Ag)と亜鉛(Zn)の置換反応が速い。置換反応が速いと、運よくZn粉に吸着した黒鉛粉のみが置換反応を独占し、Ag被覆の均一性が損なわれる。そのため、中性に近くすることで、置換反応を遅くし、Zn粉と黒鉛粉の吸着頻度を上げることで、投入した黒鉛粉のうちAg被覆される黒鉛粉の割合(被覆率)を上げることができる。なお、pHが6未満では、センシタイジングの効果が失われて大幅に被覆率が低下するため好ましくない。
【0031】
前記pH調整は、例えば、硝酸などの酸を用いて調整することが好ましい。アンモニア系を用いて調整すると、Ag被膜が凸凹の粒子状に変化し、銀の横成長が阻害される傾向がみられる。
【0032】
<置換メッキ工程>
前記置換メッキ工程は、前記錯化工程の前又は後に銀錯体溶液中に添加された黒鉛粉を撹拌した状態で、銀錯体溶液中に亜鉛粉を添加し、置換還元反応を起こさせることで黒鉛粉の表面に銀をメッキする工程である。
銀(Ag)より卑な金属である亜鉛(Zn)が存在する場所で、以下の反応式1が起こると考えられる。
Zn + 2Ag → Zn2+ + 2Ag ・・・反応式1
【0033】
黒鉛粉上での銀の析出は容易ではなく、ホルマリンやグルコース、酒石酸KNaなどの還元剤を用いても、黒鉛粉への銀被覆はほとんど見られない。そのため、還元剤による還元反応ではなく、上記のような銀(Ag)より卑な金属を用いた置換反応による置換メッキを用いることが好ましい。前記銀(Ag)より卑な金属としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケル、錫、鉛、銅などが挙げられる。これらの中でも、酸化しにくく粉体の取扱いが容易な点から、亜鉛が特に好ましい。
【0034】
<ろ過・洗浄工程、乾燥工程、解砕工程、及び分級工程>
前記置換工程で得られるスラリーをろ過し、水洗することによって、流動性がほとんどない塊状のケーキが得られる。上記の置換メッキ工程の際に、黒鉛粉に吸着していた錫の一部は脱離し、添加したZn粉の一部はイオン化する。水中に分散した錫や亜鉛は、主にろ過及び水洗時に銀被覆黒鉛混合粉と分離除去されるが、錫や亜鉛の一部は銀被覆黒鉛混合粉と共に残存する。共にケーキの乾燥を早める、乾燥時の凝集を防ぐ、などの目的で、ケーキ中の水を低級アルコールやポリオールなどで置換してもよい。ケーキを強制循環式大気乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置等の乾燥機によって乾燥した後、解砕することにより、銀被覆黒鉛混合粉が得られる。解砕の代わりに、粒子を機械的に流動化させることができる装置に銀粒子を投入して、粒子同士を機械的に衝突させることによって、粒子表面の凹凸や角張った部分を滑らかにする表面平滑化処理を行ってもよい。また、解砕や表面平滑化処理の後に分級処理を行ってもよい。なお、乾燥、粉砕、及び分級を行うことができる一体型の装置(例えば、株式会社ホソカワミクロン製のドライマイスタ、ミクロンドライヤ等)を用いて乾燥、粉砕、及び分級を行ってもよい。
【0035】
(導電性ペースト)
本発明の導電性ペーストは、本発明の前記銀被覆黒鉛混合粉と、樹脂と、有機溶媒とを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。なお、前記以外の銀粉や銀被覆銅粉などの導電粉や、ガラスフリットなどが別途混合されていてもよい。
【0036】
<樹脂>
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族石油樹脂、アクリル酸エステル樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリエーテル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリイソブチル樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、硬化性、密着性、及び汎用性の点から、エポキシ樹脂が好ましい。
前記樹脂の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0037】
<有機溶媒>
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラデカン、テトラリン、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、テルピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−エチルエーテルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記溶剤の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、分散剤、分散安定剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤などが挙げられる。
【0039】
前記導電性ペーストの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記銀被覆黒鉛混合粉、前記樹脂、及び前記有機溶媒を、超音波分散、ディスパー、三本ロールミル、ボールミル、ビーズミル、二軸ニーダー、自公転式攪拌機などを用い、混合することにより作製することができる。
【0040】
前記導電性ペーストにおける前記銀被覆黒鉛混合粉の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記導電性ペーストの粘度が、25℃で、10Pa・s以上1,000Pa・s以下となるように調整することが好ましい。前記粘度が、10Pa・s未満であると、低粘度の領域では「にじみ」が発生することがあり、1,000Pa・sを超えると、高粘度の領域では「かすれ」、と言った印刷の不具合が発生することがある。また、前記導電性ペーストの粘度は、粘度調整剤の添加や溶剤の種類等の銀被覆黒鉛混合粉の含有量以外でも調整することが可能である。
【0041】
本発明の銀被覆黒鉛粒子及び銀被覆黒鉛混合粉は、種々の電子部品の電極や回路を形成するための導電性ペーストとして、好適に利用可能である。
本発明の銀被覆黒鉛混合粉を含有した本発明の導電性ペーストは、高い導電性を有し、軽量かつ安価であるため、種々の電子部品の電極や回路などを形成するのに、幅広く好適に用いられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
フィラー(銀粉、黒鉛粉、銀被覆黒鉛混合粉)のBET比表面積、タップ密度、及び粒度分布(D10、D50、及びD90)の測定方法は、以下に示す通りである。
【0043】
<BET比表面積>
フィラーのBET比表面積は、Macsorb HM−model 1210(MOUNTECH社製)を用いて、窒素吸着によるBET1点法で測定した。なお、BET比表面積の測定において、測定前の脱気条件は60℃で10分間とした。
【0044】
<タップ密度>
フィラーのタップ密度は、タップ密度測定装置(柴山科学株式会社製、カサ比重測定装置SS−DA−2)を使用し、フィラーを計量して、容器(20mL試験管)に入れ、落差20mmで1,000回タッピングし、タップ密度=試料質量(g)/タッピング後の試料体積から算出した。なお、銀被覆黒鉛混合粉は銀の割合で体積が大きく変わる。そのため、各測定試料の体積を合わせるように、銀の含有量に対する試料質量を、実施例1の約50質量%では2.5g、実施例2の約70質量%では8.5g、実施例3の約90質量%では15g、のように変えて実施した。
【0045】
<粒度分布(D10、D50、及びD90)>
粒度分布は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、MICROTORAC MT3300EXII)を用いて、フィラー0.1gをイソプロピルアルコール40mLに加え、チップ径20mmの超音波ホモジナイザーにより2分間分散させて試料を準備し、全反射モードで粒径の測定を行った。測定により得た体積基準の累積分布により、累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、及び累積90%粒子径(D90)の値を求めた。
【0046】
(実施例1)
−銀被覆黒鉛混合粉の作製−
<センシタイジング工程>
300mLビーカーに、塩化錫二水和物(SnCl・2HO、0.105mol/L)を4.76g、塩酸(0.408mol/L)を8g、純水を199.36g入れて錫化合物溶液の調液を行った。その後、500mLビーカーに調液した液体を移し、黒鉛粉を10g入れて、室温(25℃)で撹拌しながら2時間保持し、Snイオンを黒鉛粉表面に吸着させた。
次いで、ヌッチェを用いて5Cのろ紙上でろ過し、ろ液の伝導度が0.5μS/m以下となるまで純水を用いて洗浄を行った。
前記黒鉛粉のBET比表面積は13.3m/g、タップ密度は0.31g/mL、体積基準の累積50質量%粒子径(D50)は8.3μmであった。図1に実施例1で用いた黒鉛粉の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)を示す。
【0047】
<置換メッキ工程>
純水が撹拌回転数524rpmにて攪拌されている1,000mLのビーカーに硝酸銀を投入し、Zn粉添加までに加わる水量を考慮して置換反応時において、硝酸銀を0.185mol/L含む450mLの硝酸銀水溶液となるよう調液した(25℃)。
その後、前記センシタイジング工程後の黒鉛粉を乾燥させない状態で、原料の黒鉛粉換算で9gとなるよう9割分取して投入した。硝酸銀水溶液中の銀と原料の黒鉛粉の質量比は1:1である。
引き続き、この反応槽中へ錯化剤としてのEDTA−4Naを液中の銀の量に対してモル比で2.67当量添加し、5分間反応させ、銀のEDTA錯体水溶液を得た。この銀のEDTA錯体水溶液のpHを測定すると、13.4であった。pH調整は行わずに、Zn粉(2mm〜5mm箔)を液中の銀の量に対してモル比で3当量を一括添加し、20分間撹拌しながら置換メッキを行った。
その後、目幅150μmの篩を通すことで残存するZn粉を回収し、5Cのろ紙上にて吸引ろ過を行い、ろ液の伝導度が0.5μS/m以下となるまで純水を用いて洗浄を行った。その後、70℃の真空乾燥機で5時間乾燥させ、実施例1の銀被覆黒鉛混合粉を得た。
得られた銀被覆黒鉛混合粉より0.5g分取して硝酸で加熱溶解し、ろ過することで黒鉛粉以外を溶解した溶液を用いて結合誘導プラズマ(ICP)発光分析(SII社製、SPS5100)により測定した結果、銀被覆黒鉛混合粉における銀の含有量は49質量%、亜鉛の含有量が0.44質量%、錫の含有量が0.9質量%であった。
【0048】
(実施例2)
実施例1において、置換反応時に、硝酸銀を0.249mol/L含む650mLの水溶液となるよう調液し、投入するセンシタイジング工程後の黒鉛粉の量を、原料の黒鉛粉換算で7.5gとなる量とし、硝酸銀水溶液中の銀と原料の黒鉛粉との質量比を7:3とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の銀被覆黒鉛混合粉を得た。
得られた銀被覆黒鉛混合粉について、実施例1と同様にして、ICPによる定量分析を行った結果、銀被覆黒鉛混合粉における銀の含有量は69質量%、亜鉛の含有量が0.27質量%、錫の含有量が0.33質量%であった。
【0049】
(実施例3)
実施例1において、置換反応時に、硝酸銀を0.333mol/L含む800mLの水溶液となるよう調液し、投入するセンシタイジング工程後の黒鉛粉の量を、原料の黒鉛粉換算で3.2gとなる量とし、硝酸銀水溶液中の銀と原料の黒鉛粉との質量比を9:1とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の銀被覆黒鉛混合粉を得た。
得られた銀被覆黒鉛混合粉について、実施例1と同様にして、ICPによる定量分析を行った結果、銀被覆黒鉛混合粉における銀の含有量は89質量%、亜鉛の含有量が0.18質量%、錫の含有量が0.044質量%であった。
【0050】
得られた実施例1〜3の銀被覆黒鉛混合粉について、銀被覆黒鉛混合粉中の銀(Ag)の含有量(銀含有率)は、それぞれ49質量%、69質量%、及び89質量%であり、硝酸銀水溶液中の銀は、ほぼ全て黒鉛粉の表面に析出したと考えられた。
また、錫(Sn)の含有量は、それぞれ0.9質量%、0.33質量%、及び0.044質量%であり、銀の含有量が多いほど錫の含有量が少ないことからセンシタイジングにより表面に付着していた錫は、銀の析出に寄与した後は、液中に放出されると考えられる。
また、亜鉛の含有量は、それぞれ0.44質量%、0.27質量%、及び0.18質量%であり、本発明のようにZn粉による置換反応を行う場合は、亜鉛が不純物として含まれることが分かる。
【0051】
次に、実施例1〜3の銀被覆黒鉛混合粉について、走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM IT3000、日本電子株式会社製)を用いて100倍の反射電子像(以下、BEC像とする。)を観察したものを図2図4に示す。
図2図4において、白(薄灰色)く見える粒子が銀被覆黒鉛粒子であり、黒(濃灰色)に見える部分が銀に被覆されていない原料の黒鉛粒子である。これらの図が示すように、実施例1〜3にかけて銀被覆黒鉛混合粉における銀の含有量を増やすことで、全黒鉛粉に対する銀被覆黒鉛粒子の割合は増加している。
次に、実施例1〜3の銀被覆黒鉛混合粉のそれぞれについて、粒子解析ソフトウエア(株式会社システムインフロンティア製、RegionAdviser)を使用して、画像解析を行った。この画像解析では、COMPO像を平滑化処理した後、自動コントラスト・輝度調整部(ACB)において、コントラストを100とし、ブライトネスを60〜100の間で調整し、領域分割によりヒストグラム方式で2値化処理(画像上の輝度値のヒストグラムを構築し、ヒストグラムの傾向に基づいて2値化する処理)を行った。
2値化処理後の面積比を算出した結果、被覆率(面積比)は、16%、36%、及び50%であった。
また、実施例1と2について、密度を3g/mLに調整したポリタングステン酸Na重液に添加し、超音波による分散後に10日間静止して比重分離させ、浮き粉と沈殿粉とをそれぞれろ過回収して測定した結果、銀被覆黒鉛混合粉のうち密度が3g/mLより大きく沈殿した沈殿粉の割合(質量比)は、73%、及び90%であった。上記記載のように銀(Ag)の密度が10.5g/mLに対してグラファイトの密度は2.26g/mL程度であることから、この沈殿粉の割合を、銀被覆黒鉛混合粉における銀被覆黒鉛粒子の割合(質量比)とみなす。
硝酸銀水溶液中の銀が全て銀被覆に使用されたと仮定して銀被覆黒鉛混合粉における銀被覆黒鉛粒子の割合(質量比)から計算した黒鉛粉の中で銀が被覆された割合(黒鉛被覆率)は、実施例1で46%、実施例2で66%となった。
【0052】
また、実施例3の銀被覆黒鉛混合粉について、樹脂埋めして粉末断面のBEC像を観察したものを図5に示す。断面のコントラストの明るい部分が銀であり、黒鉛粒子は銀によって被覆されており、銀被覆の厚みは10nm〜3μm(3,000nm)の間で不均一であることが分かった。
【0053】
(比較例1〜3)
黒鉛粉と、黒鉛粉と形状が類似の銀粉とを混合した場合を比較例1〜3として、銀被覆黒鉛混合粉の有効性について評価した。
【0054】
<ペレット測定評価>
前記黒鉛粉、前記実施例1〜3、及び、前記黒鉛粉と銀粉(DOWAエレクトロニクス株式会社製、フレーク銀粉、FA−D−6)とを実施例1〜3と同じAg含有量としてコーヒーミルを用いて混合した比較例1〜3を用意した。
次に、各フィラーを、それぞれ、直径10.6mmの円筒状のシリンダーに入れて圧力2.65tにて1分間保持し、比抵抗1が測定できるサイズのペレットを作製し、圧粉体での比抵抗1をLorestaHP(MITSUBISHI CHEMIAL社製、MCP−T410)を用いて評価した。各フィラーの銀(Ag)含有量と体積比、各ペレットのサイズや密度、充填率、及び比抵抗1の値を表1に示す。また、Ag含有量と比抵抗1の関係を、図6に示す。
【0055】
【表1】
表1の結果から、ペレット測定評価の結果より、黒鉛粉と銀粉を混合した場合に比較して、銀被覆黒鉛混合粉は比抵抗1が低くなることが分かる。また、図6の結果より、銀(Ag)含有量が40質量%未満では、黒鉛粉のみの場合や黒鉛粉と銀粉とを混合した場合に比べて、銀被覆黒鉛混合粉の比抵抗1の低減効果は小さいことが示唆される。
【0056】
<ペースト評価>
実施例1と、前記黒鉛粉と銀粉(DOWAエレクトロニクス株式会社製、フレーク銀粉、FA−D−6)とを実施例1と同じ銀(Ag)含有量としてコーヒーミルを用いて混合した比較例1と、を用意した。
次に、実施例1及び比較例1の各フィラーをそれぞれ70質量部、エポキシ樹脂((EP4901E、株式会社ADEKA製)を45質量部、硬化剤(BFNHEtOH、和光純薬工業株式会社製)を2.25質量部、及び溶剤(BCA:ブチルカルビトールアセテート、和光純薬工業株式会社製)を7質量部として混合し、3本ロールミル(EXAKT社製、EXAKT80S)にて前記溶剤(BCA)を2.3質量部追加しながら混練し、導電性ペーストとした。
次に、得られた導電性ペーストをアルミナ基板上に幅500μm×長さ37,500μmの線状パターンとなるようにスクリーン印刷し、200℃で40分間硬化して導電膜とした。
−比抵抗2の測定−
得られた導電膜について、接触式表面粗さ計(株式会社小坂研究所製、SE−30D)を用い、導電膜の膜厚と線幅を測定し、デジタルマルチメータ(ADVANTEST社製、R6551)を用いてライン抵抗(Ω)を測定し、比抵抗2(Ω・cm)を計算した。
実施例1の銀被覆黒鉛混合粉を用いた導電膜の膜厚は17.8μm、線幅は500μmであり、比抵抗2は0.31Ω・cmであった。
比較例1の混合粉の場合は、膜厚は17.7μm、線幅は500μmであり、比抵抗2は0.43Ω・cmであった。
ペースト評価した場合においても、黒鉛粉と銀粉を混合した場合に比較して、銀被覆黒鉛混合粉は比抵抗2が低くなることが分かる。
【0057】
以下、実施例1に対して被覆率を向上させる手段についての実験例について説明する。
【0058】
(実験例1)
実施例1において、Zn粉添加前に、硝酸(HNO)を対EDTA−4Naモル比で1.27となる量を投入し、pH調整を行った以外は、実施例1と同様にして、実験例1の銀被覆黒鉛混合粉を得た。pH調整後のpHは7.2であった。
得られた銀被覆黒鉛混合粉より0.5g分取して硝酸に浸漬し、ろ過することで黒鉛粉以外を溶解した溶液を用いて、実施例1と同様にして、ICPによる定量分析を行った結果、銀被覆黒鉛混合粉における銀の含有量は47質量%、亜鉛の含有量が0.0035質量%、錫の含有量が0.39質量%であった。
【0059】
得られた実験例1の銀被覆黒鉛混合粉の100倍と5,000倍のBEC像を図7及び図8に示す。銀被覆黒鉛粒子の割合(被覆率(面積))は54%であった。pH調整を行う前の実施例1と比較して、pHを中性に近づけたことにより、白色(銀被覆黒鉛粒子)の割合が実施例1の被覆率(面積)の16%から大幅に増加しており、被覆率が大きいことが分かる。また、比重分離後の沈殿粉の割合である被覆率(質量比)も79質量%であり、実施例1の73質量%に比べて増加していた。
【0060】
(実験例2)
実施例1において、Zn粉添加前に、硝酸(HNO)を対EDTA−4Naモル比で1.64となる量を投入し、pH調整を行った以外は、実施例1と同様にして、実験例2の銀被覆黒鉛混合粉を得た。pH調整後のpHは4.5であった。
得られた銀被覆黒鉛混合粉より0.5g分取して硝酸に浸漬し、ろ過することで黒鉛粉以外を溶解した溶液を用いて、実施例1と同様にして、ICPによる定量分析を行った結果、銀被覆黒鉛混合粉における銀の含有量は51質量%、亜鉛の含有量が0.0052質量%、錫の含有量が0.4質量%であった。
【0061】
得られた実験例2の銀被覆黒鉛混合粉の100倍と5,000倍のBEC像を図9及び図10に示す。銀被覆黒鉛粒子の割合(被覆率(面積))は8%であった。pH調整を行う前の実施例1と比較して、酸性域までpHが低下したことで、白色(銀被覆黒鉛粒子)の割合が大幅に減少しており、銀により被覆されていない黒鉛粉が多いことが分かる。また、比重分離後の沈殿粉の割合である被覆率(質量比)も55質量%であり、実施例1の73質量%に比べて減少していた。
【0062】
(実験例3−1)
実施例1において、前記黒鉛粉を、鱗状黒鉛(株式会社中越黒鉛工業所製、BF−15AK)に代えた以外は、実施例1と同様として、実験例3−1の銀被覆黒鉛混合粉を得た。
前記鱗状黒鉛のBET比表面積は5.44m/g、タップ密度は0.32g/mL、体積基準の累積50%粒子径(D50)は15.7μmであった。図11に実験例3−1で用いた鱗状黒鉛の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)を示す。
得られた銀被覆黒鉛混合粉より0.5g分取して硝酸に浸漬し、ろ過することで黒鉛粉以外を溶解した溶液を用いて、実施例1と同様にして、ICPによる定量分析を行った結果、銀被覆黒鉛混合粉における銀の含有量は52質量%、亜鉛の含有量が0.23質量%、錫の含有量が0.046質量%であった。
【0063】
得られた実験例3−1の銀被覆黒鉛混合粉の100倍のBEC像を図12に示す。実験例3−1の銀被覆黒鉛粒子の割合(被覆率(面積))は43%であり、実施例1の16%に対して増加しており、BET比表面積の小さい黒鉛粉である方が被覆率を上げやすく、銀被覆に適していることが分かった。
【0064】
(実験例3−2)
実験例3−1において、置換反応時に、硝酸銀を0.111mol/L含む320mLの水溶液となるよう調液し、投入するセンシタイジング工程後の黒鉛粉の量を、原料の黒鉛粉換算で9gとなる量とし、硝酸銀水溶液中の銀と原料の黒鉛粉との質量比を3:7とした以外は同様にして、実験例3−2の銀被覆黒鉛混合粉を得た。
得られた銀被覆黒鉛混合粉より0.5g分取して硝酸に浸漬し、ろ過することで黒鉛粉以外を溶解した溶液を用いて、実施例1と同様にして、ICPによる定量分析を行った結果、銀被覆黒鉛混合粉における銀の含有量は29質量%、亜鉛の含有量が0.2質量%、錫の含有量が0.054質量%であった。
【0065】
得られた実験例3−2の銀被覆黒鉛混合粉の100倍のBEC像を図13に示す。実験例3−2の銀被覆黒鉛粒子の割合(被覆率(面積))は16%であり、硝酸銀水溶液中の銀と原料の黒鉛粉との質量比が1:1の実験例3−1に対して、銀の割合を減らした影響で減少しているものの、硝酸銀水溶液中の銀と原料の黒鉛粉との質量比が1:1の実施例1と比べて同等であり、BET比表面積の小さい黒鉛粉である方が銀の割合を減らした場合でも被覆率を上げやすく、銀被覆に適していることが分かった。
【0066】
(実験例4)
−導電性ペーストの作製−
前記実験例1の銀被覆黒鉛混合粉5.52質量部、フレーク状銀粉(DOWAエレクトロニクス株式会社製)51.888質量部、球状銀粉(DOWAエレクトロニクス株式会社製)34.592質量部、エポキシ樹脂(EP4901E、株式会社ADEKA製)8質量部、硬化剤(BFNHEtOH、和光純薬工業株式会社製)0.4質量部、オレイン酸(和光純薬工業株式会社製)0.1質量部、及び溶剤としてのブチルカルビトールアセテート(和光純薬工業株式会社製)2質量部を加え、プロペラレス自公転式攪拌脱泡装置(株式会社シンキー製、AR−250)を用い、混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT社製、EXAKT80S)を用いて、ロールギャップを徐々に狭めながら通過させて、実験例4の導電性ペーストを得た。
なお、用いたフレーク状銀粉及び球状銀粉の諸特性を表2に示した。また、用いた銀被覆黒鉛混合粉の諸特性を表3に示した。
【0067】
(実験例5)
−導電性ペーストの作製−
実験例4において、前記実験例1の銀被覆黒鉛混合粉を、前記実験例3の銀被覆黒鉛混合粉に代えた以外は、実験例4と同様にして、実験例5の導電性ペーストを作製した。実験例5の導電性ペーストを用いて作製した導電膜の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)を図14に示した。
【0068】
(比較例4)
−導電性ペーストの作製−
実験例4において、前記実験例1の銀被覆黒鉛混合粉を添加せず、ペースト中の銀総量を実験例4や5と合わせるために表4に示す各成分の配合量に変えた以外は、実験例4と同様にして、比較例4の導電性ペーストを作製した。比較例4の導電性ペーストを用いて作製した導電膜の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)を図15に示した。
【0069】
(比較例5)
−導電性ペーストの作製−
実験例4において、前記実験例1の銀被覆黒鉛混合粉を、黒鉛粉に代え、表4に示す各成分の配合量に変えた以外は、実験例4と同様にして、比較例5の導電性ペーストを作製した。なお、用いた黒鉛粉の諸特性を表3に示した。
【0070】
(比較例6)
−導電性ペーストの作製−
実験例4において、前記実験例1の銀被覆黒鉛混合粉を、鱗状黒鉛粉に代え、表4に示す各成分の配合量に変えた以外は、実験例4と同様にして、比較例6の導電性ペーストを作製した。なお、用いた鱗状黒鉛粉の諸特性を表3に示した。また、比較例4の導電性ペーストを用いて作製した導電膜の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)を図16に示した。
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
得られた各導電性ペーストについて、以下のようにして、粘度、熱伝導率、及び比抵抗3を測定し、同様にして諸特性を評価した。結果を表5に示した。
【0075】
<導電性ペーストの粘度>
得られた導電性ペーストの粘度は、BROOKFIELD社製の粘度計5XHBDV−IIIUCを用い、コーンスピンドルCP−52、ペースト温度25℃で測定した。1rpm(ずり速度2sec−1)で5分間の値を測定した。
【0076】
<熱伝導率>
各導電性ペーストを200℃で20分間硬化し、直径10mm、厚み1mmの成形体サンプルを作製した。
得られたサンプルをレーザーフラッシュ法(株式会社ULVAC製、TC−7000)により熱拡散率を測定し、比熱と密度から熱伝導率を求めた。
【0077】
<比抵抗3>
各導電性ペーストを板状に塗布し、200℃で20分間硬化して板状体とした後、型の打ち抜きにより直径10mm、厚み1mmの成形体サンプルを作製した。
得られたサンプルを四探針法(三菱化学株式会社製、Loresta HP MCP−
T410)により、比抵抗3を測定した。
【0078】
【表5-1】
【0079】
【表5-2】
【0080】
表5の結果から、比較例5及び6のように単に黒鉛粉を混合する場合には1rpmでの粘度が900Pa・sを超えて、スクリーン印刷での配線描写は困難になる。
実験例4及び5のように銀被覆黒鉛混合粉を混合して導電性ペーストを作製すると、比較例5及び6に比べて粘度の上昇が抑制され、黒鉛粉を使用する前と同等のチクソ比のペーストを得ることができるため、黒鉛粉に比べてペーストの組成や塗布方法を大きく変更することなく使用することができる。また、銀被覆黒鉛混合粉を含む導電性ペーストを塗布した導電膜は、銀被覆黒鉛混合粉を用いない場合に比べて比抵抗3を下げて熱伝導率を上げる効果を有しているおり、SEM像からも比較的粒子間の結合が多く緻密な導電膜が得られていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の銀被覆黒鉛粒子及び銀被覆黒鉛混合粉は、種々の電子部品の電極や回路を形成するための導電性ペーストとして、好適に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16