(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226960
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】パン品質改良剤
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20171030BHJP
A21D 2/34 20060101ALI20171030BHJP
A21D 13/30 20170101ALI20171030BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D2/34
A21D13/30
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-508501(P2015-508501)
(86)(22)【出願日】2014年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2014058131
(87)【国際公開番号】WO2014157111
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2016年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-62939(P2013-62939)
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 泰史
【審査官】
北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−065245(JP,A)
【文献】
特開2010−098993(JP,A)
【文献】
特開2003−038088(JP,A)
【文献】
特開2002−171897(JP,A)
【文献】
特開2012−070687(JP,A)
【文献】
特開2007−325515(JP,A)
【文献】
宮島 千尋, アルギン酸(昆布酸)の製パンへの利用とその効果, ジャパンフードサイエンス, 2011, Vol.50, p.23-27
【文献】
Mintel GNPD [online], ID# 1995621, Soft & Crispy Melon Bun, FEB-2013, Retrieved on 27-JUN-2017
【文献】
Mintel GNPD [online], ID# 1899459, Swirl Danish Pastry, OCT-2012, Retrieved on 27-JUN-2017
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−2/40
A21D 13/00−13/80
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸エステル、粉末卵黄及び加工澱粉を有効成分とし、フィリング含有パン類のパン生地に配合されて用いられ、アルギン酸エステルが0.4%(w/w:対粉)以上の割合でパン生地に配合されるような組成比としてなること、を特徴とするパン品質改良剤。
【請求項2】
アルギン酸エステル0.4〜1.0%(w/w:対粉)、粉末卵黄0.3〜1.0%(w/w:対粉)、加工澱粉0.3〜1.0%(w/w:対粉)の割合でパン生地に配合されるような組成比としてなること、を特徴とする請求項1に記載の剤。
【請求項3】
加工澱粉がアルファ化澱粉及び/又は架橋澱粉である、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
品質改良がパンのベタつきの抑制、パン皮の剥がれの抑制、パン食感のくちゃつきの抑制、パンへのサックリ感の付与から選ばれる少なくとも1以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
アルギン酸エステル0.4〜1.0%(w/w:対粉)、粉末卵黄0.3〜1.0%(w/w:対粉)、及び加工澱粉0.3〜1.0%(w/w:対粉)をパン生地原料に添加・混合してパン生地を作製し、該パン生地にフィリングを含有させてから焼成すること、を特徴とするパン類の製造方法。
【請求項6】
加工澱粉として、アルファ化澱粉及び/又は架橋澱粉を用いることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン品質改良剤等に関する。詳細には、フィリング含有パン類のパン生地に添加・配合して用いられ、フィリング部分からパン部分に水分が移行することに起因するパンのベタつき、またパン皮の剥がれ、パンのくちゃつきを抑制し、さらにパンへのサックリ感の付与等を可能とするパン品質改良剤、及び、当該改良剤を用いたパン類の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、量販店やコンビニエンスストアなどにおいて、多くの品種のパン類(例えば、食パン、ロールパン、蒸しパン、フィリング含有パン、ベーカリースイーツなど)が販売されている。この中で、フィリング含有パンは人気のある品種の代表格であり、フィリングとしてクリーム、チョコ、ジャム、餡などのいわゆる甘味系だけでなく、カレーやシチュー、ピザソース等のソース類、卵サラダやポテトサラダ等などのいわゆる惣菜系も多用されている。
【0003】
そして近年では、パン内部のフィリングの量をより多くしたタイプやフィリングの水分含量が多い惣菜系の商品も開発されている。特に、パン皮(クラスト)が薄いものが、食べやすさなどの点から人気が高い。
【0004】
しかし、このようなフィリング含有パン類、特にフィリングの量が比較的多いパン類やフィリングの水分含量が多いパン類は、その構成の特徴から、製造時、保管時などにおいて主としてフィリングからの水分移行によってパン皮が極めてベタついたり、また、パン皮・クラスト(特に表面部分)が製造ライン、包装容器などや喫食時の手との接触によって剥がれ易く、パンの食感がくちゃつくという問題点があり、使用するフィリングの種類や性状、水分含量などに制約がある。特に、パン皮を薄くしたタイプにおいてこの傾向は強い。
【0005】
フィリングからのパンへの水分移行の対策法(抑制法)としては、水分の高いフィリングに添加・配合してパンへの水分移行を抑制するような製剤等が提案されている。例えば、マヨネーズをベースとするフィリングに澱粉類または澱粉類とアルカリ土類金属化合物を添加して組織状蛋白とする方法(特許文献1)、製菓・製パン用フィリングに発酵セルロースを添加する方法(特許文献2)などが開示されている。けれども、これらは全てフィリング自体に添加してその性状等を変えるものであり、様々な水分量等の多品種のフィリングに対応するためにフィリング含有パン類のパン生地に添加してパン皮の品質を改良するような改良剤等の提案は、現状では見当たらない。
【0006】
このような背景において、フィリング含有パン類、特に、フィリングの量が比較的多いパン類の製造において、様々な種類や水分量のフィリングの使用が可能なパン品質改良方法、及び、当該方法に用いる新たなパン品質改良剤等の開発が当業界において求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−112744号公報
【特許文献2】特開2012−029682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フィリング含有パン類、特にフィリングの量が比較的多い及び/又はフィリングの水分含量が多いフィリング含有パン類の品質改良を簡便且つ効率的にすることができる製剤、及び、当該製剤を使用したパン類の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、アルギン酸エステル、粉末卵黄及び加工澱粉をフィリング含有パン類のパン生地に添加、配合することにより、当該パン類の製造時から流通、保管、喫食時などにおけるパンのベタつきの抑制、パン皮の剥がれ抑制、パンのくちゃつきの抑制及び/又はパンへのサックリ感の付与などを可能とし、そのパン品質を改良できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)アルギン酸エステル、粉末卵黄及び加工澱粉を有効成分とし、フィリング含有パン類のパン生地に配合されて用いられ、アルギン酸エステルが0.4%(w/w:対粉)以上の割合でパン生地に配合されるような組成比としてなること、を特徴とするパン品質改良剤。
(2)アルギン酸エステル0.4〜1.0%(w/w:対粉)、粉末卵黄0.3〜1.0%(w/w:対粉)、加工澱粉0.3〜1.0%(w/w:対粉)の割合でパン生地に配合されるような組成比としてなること、を特徴とする(1)に記載の剤。
(3)加工澱粉がアルファ化澱粉及び/又は架橋澱粉である、(1)又は(2)に記載の剤。
(4)品質改良がパン(パン皮・クラスト)のベタつきの抑制、パン皮の剥がれ抑制、パン(クラム)のくちゃつきの抑制、パンへのサックリ感の付与から選ばれる少なくとも1以上である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の剤。
【0011】
(5)アルギン酸エステル0.4〜1.0%(w/w:対粉)、粉末卵黄0.3〜1.0%(w/w:対粉)、及び加工澱粉0.3〜1.0%(w/w:対粉)をパン生地原料に添加・混合してパン生地を作製し、該パン生地にフィリングを含有させてから焼成すること、を特徴とするパン類の製造方法。
(6)加工澱粉として、アルファ化澱粉及び/又は架橋澱粉を用いることを特徴とする、(5)に記載の方法。
【0012】
(7)(5)又は(6)に記載の方法により製造された、フィリング含有パン類。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フィリング含有パン類のパン生地の製造時に本発明の製剤等を添加・配合するだけで、当該パン類の製造時から、流通・保管を経て、喫食するまでに、当該フィリングからパン部分への水分移行を抑制し、また水分が移行してもパン(特にパン皮・クラスト部分)のベタつきを抑制し、さらにパン皮(特にフィリングに近いパン部分の皮・クラスト)の剥がれを抑制し、食感としてパン(特にクラム部分)のくちゃつきを抑制し、パンにサックリ感を付与し、その品質を顕著に改良することができる。そして、本発明品を使用することにより、幅広い水分含量、ブリックス(Bx:固形分濃度)、pH範囲の様々な種類のフィリングを含有・包餡したパン類を問題なく製造することができ、フィリングの量が比較的多い及び/又はフィリングの水分含量が多いフィリング含有パン類で、しかもパン皮を薄くしたタイプであっても一定期間の保存においてその良好な品質を保ち、多品種のフィリング含有パン類の製造が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で製造したカレーフィリング含有パンの官能評価結果を示すグラフである。丸印がコントロール品、三角印が本発明品であり、コントロール品の評価を3とした場合の本発明品の5段階評価値(1〜5での相対評価)であり、数字が大きい程、その傾向が強いことを示す。
【
図2】実施例2で行ったカレーフィリング含有パンのゴマ付着試験結果を示す(図面代用写真)。左側がコントロール品(無添加品)、右側が本発明品であり、上段がゴマを付ける前のパン下部の写真、下段がゴマを付けた後のパン下部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明においては、フィリング含有パン類の品質改良のため、このパン生地作製時に有効成分としてアルギン酸エステル、粉末卵黄及び加工澱粉を配合する。このうち、粉末卵黄は、卵黄(生卵黄)を公知の方法(熱風乾燥、凍結乾燥など)で乾燥し、粉末化したものを意味し、市販品等が使用可能である。
【0016】
また、アルギン酸エステル(アルギン酸プロピレングリコールエステル)は、アルギン酸の構成糖であるウロン酸のカルボキシル基にプロピレングリコールをエステル結合させた誘導体を意味し、一定の精製が行われた精製品や合成品などを使用することができる。また、市販品の使用も可能である。その際は、食品添加物として市販されている純度が一定以上(例えば、90%以上、好ましくは95%以上)のものを使用するのが良い。
【0017】
そして、加工澱粉は、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の各種澱粉を加工処理したものを意味し、アルファ化澱粉、架橋澱粉(リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉。エステル架橋澱粉、エーテル架橋澱粉等)、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、酸化澱粉、可溶性澱粉、あるいはこれらの加工処理のうち2以上を組み合わせたものなどが例示される。特に、アルファ化澱粉及び/又は架橋澱粉(リン酸架橋澱粉)が好ましい態様として示されるが、これらのみに限定されるものではない。これも、市販品の使用が可能である。
【0018】
なお、本発明では、アルギン酸エステル、粉末卵黄、加工澱粉を特定の範囲の配合量で併用することがより好ましい。具体的には、アルギン酸エステルを0.4%(w/w:対粉)以上、例えば0.4〜1.0%(w/w:対粉)、好ましくは0.4〜0.8%(w/w:対粉)、粉末卵黄を0.3〜1.0%(w/w:対粉)、好ましくは0.4〜0.8%(w/w:対粉)、加工澱粉を0.3〜1.0%(w/w:対粉)、好ましくは0.4〜0.8%(w/w:対粉)の割合でパン生地に配合されるのが好適である。また、総パン生地重量に対しては、アルギン酸エステルを0.25%(w/w:対粉)以上、例えば0.25〜0.8%(w/w)とするのが好適である。本発明は、有効成分がこの配合量の範囲内にある場合に非常に顕著な効果を奏するものであるが、この範囲外の態様を完全に除外するものではない。なお、本明細書において、「%(w/w:対粉)」はベーカーズ%を意味する。
【0019】
本発明では、アルギン酸エステル、粉末卵黄及び加工澱粉を混合製剤としておく(特に、上記割合でパン生地に配合されるような組成比としてなる混合製剤としておく)のが好ましいが、製剤化に際しては、これらの成分のみで製剤としても良いし、これらの成分以外副原料として助剤や栄養成分などの食品素材を使用しても良い。製剤化の助剤としては特に限定はされないが、小麦粉、未加工の澱粉、食塩、多糖類(デキストリン、セルロースなど)等が好ましいものとして例示される。なお、これらの成分を製剤化せず、各成分をパン生地作製の段階で所定量使用する方法を用いてもよい。
【0020】
本発明の対象となるフィリング含有パン類として、フィリングの量が比較的多いフィリング含有パン類が挙げあれるが、例えば、フィリングとパン生地の重量比が0.6〜2.0:1、好ましくは0.6〜1.5:1程度のものが例示される。フィリングとしては、比較的水分含量が少なく離水しにくい、例えば水分値30〜50%(w/w)程度のクリーム、チョコレート、ジャム、餡類、ポテトサラダ等だけでなく、比較的水分含量が多く、離水しやすい、例えば水分値55〜80%(w/w)程度の一部のジャム類(例えば低糖度のジャム類)、ゼリー、惣菜(例えば、カレー、シチュー、ピザソース等のソース類、マヨネーズベースの惣菜)など、様々な種類のものをいずれも使用できる。パン生地については、本発明に係る製剤を添加する以外に配合、製造条件の制約は特段なく、通常の用いられる原材料、様々な配合、条件のものを使用できる。
【0021】
なお、本発明の対象となるフィリング含有パン類は、通常、製品が常温流通・保存され、且つ、喫食時に加熱処理しないパン類を意味する。なお、通常はフィリングが、喫食前に蒸し加熱や電子レンジ加熱を必要とするいわゆるパン類(例えば中華まんなど)は包含しない。また、製品として冷凍保存されるパン類も対象外である。但し、半製品である冷凍パン生地を解凍して製造に用いたパン類や、その製造工程や保管時において若干の冷蔵等が伴うパン類、加熱でも常温でも喫食できるパン類などは本発明の対象として良い。さらに、焼成後にフィリングを含有・充填するパン類は本発明の対象となる。
【0022】
そして本発明では、有効成分としてアルギン酸エステル、粉末卵黄及び加工澱粉のみが必須であって、3有効成分のみで効果を発揮するものである。よって、好適な態様の一つとしては、アルギン酸エステル、粉末卵黄及び加工澱粉のみを一体の有効成分とする構成が示される。ただし、本発明における効果を妨げない範囲で、通常、パン類の製造に使用される成分や素材(例えば、ガム類等のパン品質改良効果を有する素材)を使用してもよい。
【0023】
なお、本発明において、「パン品質改良」とは、主として、フィリング含有パン類のパン皮(クラスト)のベタつきの抑制、パン皮(クラスト)の剥がれ抑制、パン全体の食感として、くちゃつきの抑制、サックリ感の付与から選ばれる少なくとも1以上を意味する。
また、「パン皮の剥がれ抑制」とは、パン(特に、パン皮・クラスト、より具体的には、フィリングに近い部分あるいはフィリングに接触しているパン部分のパン皮・クラスト)などが製造ライン、包装容器、喫食時の手などの接触によりパン本体から剥がれたり落ちたりすることを抑制することを意味する。つまり、逆に言えば、パン製造ライン、パン包装体、パン喫食時の手などとのパン本体の接触時において、これらからパン本体が破損等なく容易に離れるようにすることを意味する。
【0024】
このようにして、フィリング含有パン類のパン生地に有効成分としてアルギン酸エステル、粉末卵黄及び加工澱粉を添加・配合するだけで、その製パン性や配合・製造条件に何ら影響を与えることなくフィリング含有パン類の品質を向上させ、水分含量が比較的高いものに多い離水しやすいフィリングを含有するものを含めた多品種のフィリング含有パン類製造を実現可能とする。
【0025】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0026】
本発明のパン品質改良剤について、フィリングの量が比較的多く、フィリングの水分含量が多いフィリング含有パン類の生地への添加効果を、他の成分と比較確認するため、以下の試験を行った。
【0027】
表1に記載の配合・工程で、コントロールとして粉末卵黄75%とグアガム25%の製剤を配合したパン生地(比較品)と、本発明品の製剤(粉末卵黄30%、アルギン酸エステル30%、加工澱粉(α化リン酸架橋澱粉)30%、食品素材(コーンスターチ、小麦粉)10%)を配合したパン生地(本発明品)を用いてカレーフィリング(水分値71.27%、Bx25、pH5.1)を包餡したカレーフィリング含有パンを製造した。
【0028】
【表1】
【0029】
これらのパンの官能評価結果を
図1及び表2に示した。なお、官能評価は、訓練された複数名のパネラーにより外観、食感等を5段階(最高点5点)で評価した。この結果、本発明品を配合したカレーフィリング含有パンは、コントロールと比較してパン皮のベタつきがなく、形状が安定しており剥がれ等もなく、パン全体の表面がなめらかで艶があり、パンに十分な高さがあり、くちゃつかず、さっくりとした食感が付与されたものであることが明らかとなった(
図1)。また、本発明品は、パン成型後からホイロ時の形状安定性も高まり、製パン性も非常に良好であることも示された。さらには、常温保存後の官能評価においても、本発明品は製造から3日後程度まで良好な品質を保つことが明らかとなった(表2)。なお、表2において、「D+1」は製造1日後、「D+2」は製造2日後、「D+3」は製造3日後、「D+4」は製造4日後を意味する。
【0030】
【表2】
【実施例2】
【0031】
本発明のパン品質改良剤について、フィリングの量が比較的多く、フィリングの水分含量が多いフィリング含有パン類の生地への添加効果を、無添加品と比較確認するため、以下の試験を行った。
【0032】
実施例1に記載の配合・工程で、コントロールとして改良剤無添加品と、本発明品の改良剤(粉末卵黄30%、アルギン酸エステル30%、加工澱粉(α化リン酸架橋澱粉)30%、食品素材(コーンスターチ、小麦粉)10%)を配合したパン生地(本発明品)を用いてカレーフィリング(水分値71.27%、Bx25、pH5.1)を包餡したカレーフィリング含有パンを製造した。
【0033】
本発明品及びコントロール(無添加品)について、これらのパン皮のベタつきを、パンの下部にゴマをつけて比較した。この結果、本発明品を配合したカレーフィリング含有パンは、コントロールと比較してゴマ付着量が約10分の1であり(
図2)、この結果からも、パン皮のベタつきが本発明により顕著に改善されていることが明らかとなった。また、この結果は、パン皮のベタつきだけでなく、食感としてくちゃつきも改善されていることを示している。
【0034】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0035】
本発明は、フィリング含有パン類、特にフィリングの量が比較的多い及び/又はフィリングの水分含量が多いフィリング含有パン類のパン品質改良を簡便且つ効率的にすることができる製剤、及び、当該製剤を使用したパン類の製造方法等を提供することを目的とする。
【0036】
そして、アルギン酸エステル(0.4%(w/w:対粉)以上)、粉末卵黄及び加工澱粉をフィリングの量が比較的多い及び/又はフィリングの水分含量が多いフィリング含有パン類のパン生地の製造時に添加、配合することにより、当該パン類のパン(特にパン皮・クラスト)のベタつきの抑制、パン皮の剥がれ抑制、パンのくちゃつきの抑制、パンへのサックリ感の付与などが可能となり、パン品質を顕著に改良できる。