(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
実空間の予め定めた基準位置において、音源の位置を変えて測定した複数のインパルス応答を直接音に畳み込み演算して生成した残響信号を、前記音源の位置を示す空間位置情報に対応付けて予め記憶した記憶手段を備え、音響再生空間の指定された位置に音像を定位させる、残響付のマルチチャンネル音響信号を生成する空間音響生成装置のコンピュータを、
指定された前記音像の定位位置と、予め定めた複数のスピーカの配置位置とに基づいて、直接音である入力信号を前記複数のスピーカに対応した複数のチャンネルに分配する音像パンニング手段、
前記音像の定位位置で特定される空間位置情報に対応して前記記憶手段に記憶されている残響信号から、前記音像の定位位置に対応したマルチチャンネルの残響信号を生成する残響音生成手段、
この残響音生成手段で生成されたマルチチャンネルの残響信号を、前記音像パンニング手段でチャンネルごとに分配された信号に加算することで前記残響付のマルチチャンネル音響信号を生成する加算手段、として機能させ、
前記残響音生成手段は、
前記記憶手段から、前記音像の定位位置で特定される空間位置情報に対応する残響信号を選択し、その残響信号を、前記音像パンニング手段が前記入力信号を分配したチャンネルおよびその配分比率に基づいて、前記複数のチャンネルに分配することを特徴とする空間音響生成プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
≪第1実施形態≫
[空間音響生成装置の構成]
まず、
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る空間音響生成装置1の構成について説明する。
図1に示した空間音響生成装置1は、モノラル音源から直接発せられる残響のない直接音(モノ音)に残響を付加して、音響再生空間の指定された位置に音像を定位させるマルチチャンネル音響信号(残響付加音)を生成するものである。ここでは、空間音響生成装置1は、レベル調節手段10A,10B,10C,10Dと、音像パンニング手段20と、記憶手段30と、残響音生成手段40と、加算手段50と、を備える。
【0045】
レベル調節手段10A,10B,10C,10Dは、それぞれ、入力された信号のレベルを後段の出力先の入力レベルに合わせて調整するものである。例えば、一般的な増幅器や減衰器を用いることができる。なお、レベル調節手段10A,10B,10C,10Dは、音響制作者によって外部から操作されることで入力信号のレベルを調整する。
【0046】
ここで、レベル調節手段10Aは、外部から入力される直接音(入力信号)を、後段の音像パンニング手段20の入力レベルに調整するものである。このレベル調節手段10Aでレベル調節された直接音は、レベル調節手段10Bおよび音像パンニング手段20に出力される。
【0047】
レベル調節手段10Bは、レベル調節手段10Aでレベル調節された直接音を、後段の残響音生成手段40の入力レベルに調整するものである。このレベル調節手段10Bでレベル調節された直接音は、残響音生成手段40に出力される。
【0048】
レベル調節手段10Cは、残響音生成手段40で生成された残響音を、後段の加算手段50の入力レベルに調整するものである。なお、このレベル調節手段10Cに入力される残響音は、後記するが、空間上の位置に対応した三次元音響信号である。そこで、レベル調節手段10Cは、三次元音響信号のチャンネルごとにレベルを調整する。このレベル調節手段10Cでレベル調節された残響音は、加算手段50に出力される。
【0049】
レベル調節手段10Dは、加算手段50で生成された残響付加音を、外部の出力先の入力レベルに調整するものである。なお、このレベル調節手段10Dに入力される残響付加音も三次元音響信号である。そこで、レベル調節手段10Dは、三次元音響信号のチャンネルごとにレベルを調整する。このレベル調節手段10Dでレベル調節された残響付加音は、空間音響生成装置1の出力として外部に出力される。
【0050】
音像パンニング手段20は、外部から設定される音像の定位位置を示す空間位置情報に基づいて、直接音から、三次元空間上に音像を定位させる三次元音響信号を生成するものである。
この音像パンニング手段20は、各スピーカの設置位置(三次元空間座標)を予め記憶している図示を省略した記憶手段(記憶手段30でもよい)から取得する。そして、音像パンニング手段20は、スピーカ配置位置から、空間位置情報に対応する位置に音像を定位させるためのスピーカとその出力レベル(重み、配分比率)を特定し、その特定したスピーカに対応するチャンネルごとに、直接音を分配して三次元音響信号として加算手段50に出力する。また、音像パンニング手段20は、三次元音響信号を加算手段50に出力するとともに、パンニング情報を残響音生成手段40に出力する。
【0051】
ここで、パンニング情報は、音像の定位位置を三次元空間上の座標で示す空間位置情報と、直接音を分配したチャンネルおよびその重み(配分比率)を示す配分情報とを含む。
例えば、空間位置情報は、
図2に示した22.2マルチチャンネル音響方式を用いる場合、各スピーカ位置(
図2中、○印で記載されている位置:TpFL、TpFC等)で特定される立方体の中心(受音点)を座標軸の中心(0,0,0)とする座標(x,y,z)の値を用いることができる。もちろん、この空間位置情報は、予め定めた中心(受音点)を基準とした、方位角、仰角および距離を用いてもよい。
なお、音像パンニング手段20における音像をパンニングする手法は、一般的な手法を用いればよい。例えば、特開2007−329746号公報や特開2010−252220号公報に記載されている既存の手法を用いることができる。
【0052】
記憶手段30は、予め測定したインパルス応答を、当該インパルス応答を測定した際の実空間(残響空間)の音源の位置である空間位置情報に対応付けて記憶するものである。この記憶手段30は、ハードディスク等の一般的な記憶媒体で構成することができる。
なお、この記憶手段30に記憶しておくインパルス応答は、例えば、
図12に示したような実空間(残響空間)において、予め定めた基準位置である受音位置に設置したマイクロホンMPで、音源となるスピーカSPの空間位置を変えて複数測定したものである。
すなわち、記憶手段30は、実空間(残響空間)において、予め定めた空間座標系における音源位置を種々変化させた座標位置を空間位置情報とし、当該座標系の中心位置の受音位置において測定したインパルス応答に対応付けて予め記憶しておく。
【0053】
この記憶手段30における空間位置情報は、インパルス応答を同一とみなすことが可能な予め定めた大きさの空間領域とする。なお、この空間領域をより小さくして、インパルス応答と対応付ければ、音像位置における残響をより正確に再現することが可能になる。
このように、記憶手段30には、空間座標系の音像を定位させたい位置を網羅するように、空間位置情報とインパルス応答とを対応付けて記憶しておく。
【0054】
残響音生成手段40は、直接音から、空間位置情報で特定される三次元空間座標における残響音を生成するものである。ここでは、残響音生成手段40は、選択手段41と、畳み込み手段42と、残響分配手段43と、を備える。
【0055】
選択手段41は、音像パンニング手段20で生成される三次元音響信号に対応して、音像パンニング手段20から出力されるパンニング情報に含まれる空間位置情報に対応するインパルス応答を、記憶手段30に記憶されているインパルス応答から選択して読み出すものである。このように選択されたインパルス応答は、畳み込み手段42に出力される。
ここでは、選択手段41は、音像パンニング手段20から出力される空間位置情報で示される空間位置を、領域内に含んだ記憶手段30の空間位置情報に対応するインパルス応答を選択することとする。
【0056】
畳み込み手段42は、レベル調節手段10A,10Bを介してレベル調節された直接音と、選択手段41で選択されたインパルス応答との畳み込み演算を行うものである。すなわち、畳み込み手段42は、直接音とインパルス応答とをそれぞれFFT(高速フーリエ変換)によって周波数領域の信号に変換して乗算し、その乗算結果を逆FFTによって時間領域の信号に戻すことで畳み込み演算を行う。
このように、直接音と空間位置情報に対応するインパルス応答との畳み込み演算を行うことで、空間位置情報で特定される空間位置に対応する残響音が生成されることになる。
この畳み込み手段42で生成された残響音は、残響分配手段43に出力される。
【0057】
残響分配手段43は、モノ信号である残響音を、音像パンニング手段20から出力されるパンニング情報の配分情報に基づいて、対応するチャンネルに分配するものである。
ここでは、残響分配手段43は、モノ信号である残響音に、配分情報で特定されるチャンネルの重み(配分比率)を乗算することで、各チャンネルに対する残響音を生成する。これによって、残響音は、モノ信号から三次元音響信号(マルチチャンネル残響信号)に変換されることになる。
このように生成された三次元音響信号である残響音は、レベル調節手段10Cを介して、加算手段50に出力される。
【0058】
加算手段50は、音像パンニング手段20で生成された三次元音響信号である直接音と、残響音生成手段40で生成された三次元音響信号である残響音とをチャンネルごとに加算するものである。このようにチャンネルごとに、三次元音響信号の直接音と、三次元音響信号の残響音とを加算することで、加算手段50は、三次元空間において残響が付加された音響信号(残響付加音)を生成する。
この加算手段50で生成された残響付加音は、レベル調節手段10Dを介して、外部に出力される。
【0059】
以上のように空間音響生成装置1を構成することで、空間音響生成装置1は、音像の位置に応じて変化する残響音を、その位置に応じて生成することができ、音像パンニング手段20によってパンニングされた直接音と加算することで、実際の音場において受音する自然な音空間印象を再現した残響付加音を生成することができる。
【0060】
なお、ここでは、空間音響生成装置1は、記憶手段30に、空間座標系の音像を定位させたい位置を網羅するように、空間のある大きさを示す空間位置情報とインパルス応答とを複数対応付けておくこととしたが、空間の任意の点を示す空間位置情報とインパルス応答とを複数対応付けておくこととしてもよい。その場合、空間位置情報は離散的になるため、ある空間位置に対応するインパルス応答が存在しないことになる。
【0061】
そこで、このように、空間座標位置とインパルス応答とを離散的に対応付ける形態とした場合、残響音生成手段40は、畳み込み手段42の後段に補正残響音生成手段(不図示)を備えることとする。その場合、残響音生成手段40は、選択手段41によって、音像パンニング手段20から出力される空間位置情報(音像定位位置)で特定される位置に隣接するインパルス応答を記憶手段30から複数(例えば、直近の位置から3個)選択し、畳み込み手段42によってそれぞれの残響音を生成した後、補正残響音生成手段(不図示)によって、音像定位位置からの距離比に応じて合成することで、空間位置情報(音像定位位置)における残響音(補正残響音)を生成すればよい。
【0062】
[空間音響生成装置の動作]
次に、
図3を参照(構成については、適宜
図1参照)して、本発明の第1実施形態に係る空間音響生成装置1の動作について説明する。なお、レベル調節手段10A,10B,10C,10Dは、音響制作者によって適宜調整されるもので、ここでは、動作としての説明は省略する。
【0063】
まず、空間音響生成装置1は、音像パンニング手段20によって、直接音を外部から入力する(ステップS1)。そして、空間音響生成装置1は、音像パンニング手段20によって、外部から設定される音像定位位置を示す空間位置情報と、予め設定されているスピーカの配置位置とに基づいて、各スピーカ(チャンネル)ごとの出力レベルを算出し、直接音から三次元音響信号を生成する(ステップS2)。
【0064】
一方、空間音響生成装置1は、残響音生成手段40の選択手段41によって、予め空間位置情報とインパルス応答とを対応付けた記憶手段30から、ステップS2で音像パンニング手段20がパンニングを行った音像の空間位置情報に対応するインパルス応答を選択する(ステップS3)。
【0065】
そして、空間音響生成装置1は、残響音生成手段40の畳み込み手段42によって、入力された直接音と、ステップS3で選択されたインパルス応答との畳み込み演算を行うことで、残響音を生成する(ステップS4)。
そして、空間音響生成装置1は、残響音生成手段40の残響分配手段43によって、ステップS2で音像パンニング手段20がパンニングを行ったチャンネルおよびその重みを示す配分情報に基づいて、残響音を各チャンネルに分配することで、音像定位位置に対応した三次元音響信号を生成する(ステップS5)。
【0066】
そして、空間音響生成装置1は、加算手段50によって、音像パンニング手段20で生成された三次元音響信号である直接音と、残響音生成手段40で生成された三次元音響信号である残響音とをチャンネルごとに加算することで、残響付加音を生成する(ステップS6)。
そして、空間音響生成装置1は、ステップS5で生成された残響付加音を外部に出力する(ステップS7)。
以上の動作によって、空間音響生成装置1は、自然な音空間印象を再現した残響付加音を生成することができる。
【0067】
≪第2実施形態≫
[空間音響生成装置の構成]
次に、
図4を参照して、本発明の第2実施形態に係る空間音響生成装置1Aの構成について説明する。
図4に示した空間音響生成装置1Aは、モノラル音源から直接発せられる残響のない直接音(モノ音)に残響を付加して、音響再生空間の指定された位置に音像を定位させるマルチチャンネル音響信号(残響付加音)を生成するものである。
【0068】
図1で説明した空間音響生成装置1では、空間位置情報に対応するインパルス応答を記憶手段30に記憶しておき、残響音生成手段40で空間位置情報に対応する残響音を生成したが、空間音響生成装置1Aは、空間位置情報に対応する残響音を予め記憶している点が異なっている。
【0069】
ここでは、空間音響生成装置1Aは、レベル調節手段10A,10C,10Dと、音像パンニング手段20と、記憶手段30Aと、残響音生成手段40Aと、加算手段50と、を備える。記憶手段30Aおよび残響音生成手段40A以外の構成は、
図1で説明した空間音響生成装置1と同一の構成であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0070】
記憶手段30Aは、予め実空間(残響空間)において生成した残響音(残響信号)を、当該残響音を生成した音源の位置を示す空間位置情報に対応付けて記憶するものである。この記憶手段30Aは、ハードディスク等の一般的な記憶媒体で構成することができる。なお、この記憶手段30Aに記憶しておく残響音は、例えば、
図12に示した実空間(残響空間)において、受音位置であるマイクロホンMPで、音源となるスピーカSPの空間位置を変えて複数のインパルス応答を測定し、そのインパルス応答と音源が発する直接音とを畳み込み演算することで求めたものである。
【0071】
すなわち、記憶手段30Aは、実空間(残響空間)において、予め定めた空間座標系における音源位置を種々変化させた座標位置を空間位置情報とし、当該座標系の中心位置の受音位置において測定したインパルス応答から演算された残響音に対応付けて予め記憶しておく。この記憶手段30Aにおける空間位置情報は、残響音を同一とみなすことが可能な予め定めた大きさの空間領域とする。
このように、記憶手段30Aには、空間座標系の音像を定位させたい位置を網羅するように、空間位置情報と残響音とを対応付けて記憶しておく。
【0072】
残響音生成手段40Aは、直接音から、空間位置情報で特定される三次元空間座標における残響音を生成するものである。ここでは、残響音生成手段40Aは、選択手段41Aと、残響分配手段43と、を備える。残響分配手段43は、
図1で説明した残響音生成手段40と同一の構成であるため、説明を省略する。
【0073】
選択手段41Aは、音像パンニング手段20で生成される三次元音響信号に対応して、音像パンニング手段20から出力されるパンニング情報に含まれる空間位置情報に対応する残響音を、記憶手段30Aに記憶されている残響音から選択して読み出すものである。このように選択された残響音は、残響分配手段43に出力される。
【0074】
以上のように空間音響生成装置1Aを構成することで、空間音響生成装置1Aは、音像の位置に応じて変化する残響音を、その位置に応じて生成することができ、音像パンニング手段20によってパンニングされた直接音と加算することで、実際の音場において受音する自然な音空間印象を再現した残響付加音を生成することができる。
【0075】
また、空間音響生成装置1Aは、予め残響音を記憶しているため、空間音響生成装置1(
図1参照)と比べて畳み込み演算を行う処理を省略することができ、高速に残響付加音を生成することができる。このため、空間音響生成装置1Aは、音像を任意の位置の方向に変化させる場合であっても、音像の位置の変化に合わせて動的に残響を変化させることができる。
【0076】
なお、音像の位置を任意の方向に変化させる場合、残響音生成手段40Aには、選択手段41Aと残響分配手段43との間にクロスフェード手段(不図示)を備えることが好ましい。
すなわち、空間音響生成装置1Aは、残響音生成手段40Aに入力される空間位置情報によって、選択手段41Aが選択する残響音が切り替わる場合、クロスフェード手段(不図示)によって、切り替わり前の残響音のレベルを徐々に小さくし(フェードアウト)、切り替わり後の残響音のレベルを徐々に大きくする(フェードイン)。これによって、音源位置を変化させる場合であっても、異常音の発生を抑えることができる。
【0077】
また、ここでは、空間音響生成装置1Aは、記憶手段30Aに、空間座標系の音像を定位させたい位置を網羅するように、空間のある大きさに示す空間位置情報と残響音とを複数対応付けておくこととしたが、空間の任意の点を示す空間位置情報と残響音とを複数対応付けておくこととしてもよい。
【0078】
このように、空間座標位置と残響音とを離散的に対応付ける形態とした場合、残響音生成手段40Aは、選択手段41Aの後段(前記したクロスフェード手段(不図示)を備える場合は、選択手段41Aとクロスフェード手段との間)に補正残響音生成手段(不図示)を備えることとする。その場合、残響音生成手段40Aは、選択手段41Aによって、音像パンニング手段20から出力される空間位置情報(音像定位位置)で特定される位置に隣接する残響音を記憶手段30Aから複数(例えば、直近の位置から3個)選択し、補正残響音生成手段(不図示)によって、音像定位位置からの距離比に応じて合成することで、空間位置情報(音像定位位置)における残響音(補正残響音)を生成すればよい。
【0079】
[空間音響生成装置の動作]
次に、
図5を参照(構成については、適宜
図4参照)して、本発明の第2実施形態に係る空間音響生成装置1Aの動作について説明する。なお、レベル調節手段10A,10C,10Dは、音響制作者によって適宜調整されるもので、ここでは、動作としての説明は省略する。
また、空間音響生成装置1Aの動作は、
図3で説明した空間音響生成装置1の動作において、ステップS3,S4を、ステップS3Aに置き換えたものであり、ステップS1,S2,S5〜S7の各ステップの処理は同一である。
【0080】
すなわち、空間音響生成装置1Aは、ステップS2までの処理により、直接音から三次元音響信号を生成する一方で、残響音生成手段40Aの選択手段41Aによって、予め空間位置情報と残響音とを対応付けた記憶手段30Aから、ステップS2で外部から設定された空間位置情報に対応する残響音を選択する(ステップS3A)。
【0081】
その後、空間音響生成装置1Aは、残響分配手段43によって、残響音から三次元音響信号を生成し(ステップS5)、加算手段50によって、三次元音響信号である直接音と、三次元音響信号である残響音とをチャンネルごとに加算することで、残響付加音を生成し(ステップS6)、外部に出力する(ステップS7)。
以上の動作によって、空間音響生成装置1Aは、自然な音空間印象を再現した残響付加音を、空間音響生成装置1(
図1参照)に比べて高速に生成することができる。
【0082】
≪第3実施形態≫
[空間音響生成装置の構成]
次に、
図6を参照して、本発明の第3実施形態に係る空間音響生成装置1Bの構成について説明する。
図6に示した空間音響生成装置1Bは、モノラル音源から直接発せられる残響のない直接音(モノ音)に残響を付加して、音響再生空間の指定された位置に音像を定位させるマルチチャンネル音響信号(残響付加音)を生成するものである。さらに、空間音響生成装置1Bは、音響制作者の操作によって、音源定位位置における残響の自然さを保持したまま、音空間印象を変化させる機能を有する。
【0083】
ここでは、空間音響生成装置1Bは、レベル調節手段10A,10B,10C,10Dと、音像パンニング手段20と、記憶手段30Bと、残響音生成手段40Bと、加算手段50と、を備える。記憶手段30Bおよび残響音生成手段40B以外の構成は、
図1で説明した空間音響生成装置1と同一の構成であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0084】
記憶手段30Bは、予め測定したインパルス応答を、当該インパルス応答を測定した際の実空間(残響空間)の音源の位置である空間位置情報に対応付けて記憶するものである。この記憶手段30Bは、ハードディスク等の一般的な記憶媒体で構成することができる。なお、記憶手段30Bが記憶するインパルス応答は、基本的に
図1で説明したインパルス応答と同じである。ただし、記憶手段30Bに記憶するインパルス応答は、予め定めた特性ごとに時間的に分割(初期反射、中間残響、後部残響)しておく。
【0085】
ここで、
図7を参照して、記憶手段30Bに記憶しておくインパルス応答を分割したそれぞれのインパルス応答(初期反射、中間残響、後部残響)について説明する。
図7に示すように、インパルス応答は、直接音に続く、初期反射と、それに続く残響で構成される。
ここで、直接音とは、音源から直接到達する音である。
また、初期反射とは、他の音と分離して認識可能な直接音の反射音であって、通常、直接音の発生後、数ミリ秒から100ミリ秒程度の間に発生するものである。この初期反射は、時間的に直接音に近く、残響に比べてレベルが大きいため、受音者にとって、音色の印象に影響を与える。
【0086】
また、残響とは、初期反射の後、他の音と分離して認識することができない響きである。一般的に、直接音に対して、60dB減衰するまでの時間を残響時間という。なお、ここでは、残響をさらに中間残響と、後部残響とに分けることとする。
後部残響は、音響信号が単純に減衰していく区間の響きであって、その減衰の過程で、受音者に残響感を与える。
【0087】
中間残響は、初期反射と後部残響との中間の響きであって、他の音と分離して認識することはできないが、反射に伴う音響信号のレベルの強弱の変化が発生している区間の響きをいう。この中間残響は、初期反射よりも時間が経過していることから、そのレベルの大きさは空間の拡がり感を受音者に与えることになる。すなわち、中間残響のレベルが大きければ、より空間が広い印象を受音者に与える。
図6に戻って、空間音響生成装置1Bの構成について説明を続ける。
【0088】
図7で説明したように、記憶手段30Bは、予め測定したインパルス応答をその信号の特徴に応じて、初期反射、中間残響、後部残響に区分し、音源位置を示す空間位置情報と対応付けて記憶しておく。なお、記憶手段30Bには、初期反射、中間残響、後部残響のそれぞれについて、直接音の発生時刻に対する遅延時間(経過時間)も併せて記憶しておく。
【0089】
残響音生成手段40Bは、直接音から、空間位置情報で特定される三次元空間座標における残響音を生成するとともに、その残響音の受音者に与える印象を調節するものである。ここでは、残響音生成手段40Bは、選択手段41Bと、畳み込み手段42Bと、残響分配手段43と、遅延手段44と、レベル変更手段45と、を備える。残響分配手段43は、
図1で説明した残響音生成手段40と同一の構成であるため、説明を省略する。
以下、選択手段41B、遅延手段44、畳み込み手段42B、レベル変更手段45、合成手段46の順に説明を行う。
【0090】
選択手段41Bは、音像パンニング手段20で生成される三次元音響信号に対応して、音像パンニング手段20から出力されるパンニング情報に含まれる空間位置情報(音像定位位置)に対応するインパルス応答(初期反射、中間残響、後部残響)を、記憶手段30Bに記憶されているインパルス応答(初期反射、中間残響、後部残響)から選択して読み出すものである。このように選択されたインパルス応答は、初期反射、中間残響および後部残響ごとに、直接音の発生時刻に対する遅延時間(経過時間)とともに、遅延手段44に出力される。
【0091】
遅延手段44は、選択手段41Bで選択された初期反射、中間残響および後部残響を直接音からの遅延時間に応じて遅延させるものである。ここでは、遅延手段44は、初期反射遅延手段441と、中間残響遅延手段442と、後部残響遅延手段443と、を備える。
【0092】
初期反射遅延手段441は、選択手段41Bで選択されたインパルス応答のうちの初期反射について、直接音の発生時刻に対する遅延時間だけ、遅延させるものである。この初期反射遅延手段441は、遅延した初期反射部分のインパルス応答を、畳み込み手段42Bの個別畳み込み手段421に出力する。
【0093】
中間残響遅延手段442は、選択手段41Bで選択されたインパルス応答のうちの中間残響について、直接音の発生時刻に対する遅延時間だけ、遅延させるものである。この中間残響遅延手段442は、遅延した中間残響部分のインパルス応答を、畳み込み手段42Bの個別畳み込み手段422に出力する。
【0094】
後部残響遅延手段443は、選択手段41Bで選択されたインパルス応答のうちの後部残響について、直接音の発生時刻に対する遅延時間だけ、遅延させるものである。この後部残響遅延手段443は、遅延した後部残響部分のインパルス応答を、畳み込み手段42Bの個別畳み込み手段423に出力する。
なお、初期反射遅延手段441、中間残響遅延手段442および後部残響遅延手段443は、それぞれ、入力信号(初期反射、中間残響、後部残響)を一旦記憶した後、遅延時間後に読み出して出力する一般的なバッファで構成することができる。
【0095】
畳み込み手段42Bは、レベル調節手段10A,10Bを介してレベル調節された直接音と、遅延手段44で遅延されたインパルス応答(初期反射、中間残響、後部残響)との畳み込み演算を行うものである。ここでは、畳み込み手段42Bは、各遅延手段441,442,443に対応した個別畳み込み手段421,422,423を備える。
【0096】
個別畳み込み手段421は、直接音と、初期反射遅延手段441で遅延された初期反射との畳み込み演算を行うものである。この個別畳み込み手段421の畳み込み演算によって、初期反射の時間部分に相当する残響音(初期反射残響音)が生成される。
この個別畳み込み手段421は、生成した初期反射残響音を、レベル変更手段45のレベル制御手段451に出力する。
【0097】
個別畳み込み手段422は、直接音と、中間残響遅延手段442で遅延された中間残響との畳み込み演算を行うものである。この個別畳み込み手段422の畳み込み演算によって、中間残響の時間部分に相当する残響音(中間残響音)が生成される。
この個別畳み込み手段422は、生成した中間残響音を、レベル変更手段45のレベル制御手段452に出力する。
【0098】
個別畳み込み手段423は、直接音と、後部残響遅延手段443で遅延された後部残響との畳み込み演算を行うものである。この個別畳み込み手段423の畳み込み演算によって、後部残響の時間部分に相当する残響音(後部残響音)が生成される。
この個別畳み込み手段423は、生成した後部残響音を、レベル変更手段45のレベル制御手段453に出力する。
これによって、畳み込み手段42Bは、空間位置情報で特定される空間位置に対応する残響音を、初期反射残響音、中間残響音および後部残響音に時間的に分割して生成することができる。
【0099】
レベル変更手段45は、畳み込み手段42Bで生成された残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)のレベルを外部からの指示(制御パラメータ)によって変更するものである。ここでは、レベル変更手段45は、各残響音に対応したレベル制御手段451,452,453と、を備える。
【0100】
レベル制御手段451,452,453は、それぞれ、畳み込み手段42Bの個別畳み込み手段421,422,423から入力された入力信号(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)に対して、外部から入力される指示(制御パラメータ)によってレベルを変更するものである。この制御パラメータは、外部に接続された図示を省略したレベル調整装置を音響制作者が操作することで、そのレベル調整装置から出力される初期反射残響音、中間残響音、後部残響音に対するそれぞれのレベル信号である。
このようにレベルが変更された初期反射残響音、中間残響音、後部残響音は、合成手段46に出力される。もちろん、音響制作者がレベル調整を行わなければ、初期反射残響音、中間残響音、後部残響音は、レベル変更がなされないまま合成手段46に出力されることはいうまでもない。
【0101】
合成手段46は、レベル変更手段45から出力される初期反射残響音、中間残響音および後部残響音を入力し、時間方向に合成するものである。
なお、初期反射残響音、中間残響音および後部残響音は、それぞれ直接音の発生時刻に対する異なる遅延時間だけ遅延されているため、合成手段46は、初期反射残響音、中間残響音、後部残響音の順に連結することで、残響音を生成することができる。
この合成手段46で生成された残響音は、残響分配手段43に出力される。
【0102】
以上のように空間音響生成装置1Bを構成することで、空間音響生成装置1Bは、音像の位置に応じて変化する残響音を、その位置に応じて生成することができ、音像パンニング手段20によってパンニングされた直接音と加算することで、実際の音場において受音する自然な音空間印象を再現した残響付加音を生成することができる。さらに、空間音響生成装置1Bは、音響制作者によって、初期反射、中間残響および後部残響をそれぞれ個別にレベル調整することができるため、残響音の印象を変化させた独自の音響空間を表現することが可能になる。
【0103】
[空間音響生成装置の動作]
次に、
図8を参照(構成については、適宜
図6参照)して、本発明の第3実施形態に係る空間音響生成装置1Bの動作について説明する。なお、レベル調節手段10A,10B,10C,10Dは、音響制作者によって適宜調整されるもので、ここでは、動作としての説明は省略する。
また、空間音響生成装置1Bの動作は、
図3で説明した空間音響生成装置1の動作において、ステップS3をステップS3Bに置き換え、ステップS4をステップS4A〜S4Dに置き換えたもので、ステップS1,S2,S5〜S7の各ステップの処理は同一である。
【0104】
すなわち、空間音響生成装置1Bは、ステップS2までの処理により、直接音から三次元音響信号を生成する一方で、残響音生成手段40Bの選択手段41Bによって、予め空間位置情報とインパルス応答の初期反射、中間残響および後部残響の各部分とを対応付けた記憶手段30Bから、ステップS2で外部から設定された空間位置情報に対応する初期反射、中間残響および後部残響を選択する(ステップS3B)。
【0105】
そして、空間音響生成装置1Bは、残響音生成手段40Bの遅延手段44によって、ステップS3Bで選択されたインパルス応答の初期反射、中間残響および後部残響の各部分をそれぞれの直接音の発生時刻に対する遅延時間だけ遅延させる(ステップS4A)。
すなわち、空間音響生成装置1Bは、初期反射遅延手段441で初期反射を遅延させ、中間残響遅延手段442で中間残響を遅延させ、後部残響遅延手段443で後部残響を遅延させる。
【0106】
そして、空間音響生成装置1Bは、残響音生成手段40Bの畳み込み手段42Bによって、入力された直接音と、ステップS4Aで遅延されたインパルス応答の初期反射、中間残響および後部残響の各部分との畳み込み演算を行う(ステップS4B)。これによって、インパルス応答の初期反射、中間残響および後部残響の各部分の時間長に相当する個別の残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)が生成される。
【0107】
そして、空間音響生成装置1Bは、残響音生成手段40Bのレベル変更手段45によって、ステップS4Bで生成された各残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)を、外部から入力される指示(制御パラメータ)に応じて個別に変更する(ステップS4C)。
そして、空間音響生成装置1Bは、合成手段46によって、ステップS4Cでレベル変更された各残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)を、時間方向に連結(合成)する(ステップS4D)。これによって、音像定位位置に対応した残響音が生成されることになる。
【0108】
その後、空間音響生成装置1Bは、残響分配手段43によって、残響音から三次元音響信号を生成し(ステップS5)、加算手段50によって、三次元音響信号である直接音と、三次元音響信号である残響音とをチャンネルごとに加算することで、残響付加音を生成し(ステップS6)、外部に出力する(ステップS7)。
以上の動作によって、空間音響生成装置1Bは、自然な音空間印象を再現した残響付加音を生成することができとともに、音響制作者の意図に応じて、残響音の印象を変化させた独自の音響空間を表現することができる。
【0109】
≪第4実施形態≫
[空間音響生成装置の構成]
次に、
図9を参照して、本発明の第4実施形態に係る空間音響生成装置1Cの構成について説明する。
図9に示した空間音響生成装置1Cは、モノラル音源から直接発せられる残響のない直接音(モノ音)に残響を付加して、音響再生空間の指定された位置に音像を定位させるマルチチャンネル音響信号(残響付加音)を生成するものである。さらに、空間音響生成装置1Cは、音響制作者の操作によって、音源定位位置における残響の自然さを保持したまま、音空間印象を変化させる機能を有する。
【0110】
図6で説明した空間音響生成装置1Bでは、空間位置情報に対応するインパルス応答を初期反射、中間残響および後部残響に分けてそれぞれ記憶手段30Bに記憶しておき、残響音生成手段40Bで、空間位置情報に対応する個別の残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)を生成し、個別のレベル変更を可能にした。しかし、空間音響生成装置1Cは、空間位置情報に対応する個別の残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)を予め記憶している点が異なっている。
【0111】
ここでは、空間音響生成装置1Cは、レベル調節手段10A,10C,10Dと、音像パンニング手段20と、記憶手段30Cと、残響音生成手段40Cと、加算手段50と、を備える。記憶手段30Cおよび残響音生成手段40C以外の構成は、
図1で説明した空間音響生成装置1と同一の構成であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0112】
記憶手段30Cは、予め実空間(残響空間)において生成した残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)を、当該残響音を生成した音源の位置を示す空間位置情報に対応付けて記憶するものである。この記憶手段30Cは、ハードディスク等の一般的な記憶媒体で構成することができる。
【0113】
なお、この記憶手段30Cに記憶しておく残響音は、例えば、
図12に示した実空間(残響空間)において、受音位置であるマイクロホンMPで、音源となるスピーカSPの空間位置を変えて複数インパルス応答の初期反射、中間残響、後部残響を測定し、インパルス応答の各部分と音源が発する直接音とを畳み込み演算することで求めたものである。
【0114】
すなわち、記憶手段30Cは、実空間(残響空間)において、予め定めた空間座標系における音源位置を種々変化させた座標位置を空間位置情報とし、当該座標系の中心位置の受音位置において測定したインパルス応答の各部分(初期反射、中間残響、後部残響)から演算された残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)に対応付けて予め記憶しておく。この記憶手段30Cにおける空間位置情報は、残響音を同一とみなすことが可能な予め定めた大きさの空間領域とする。
このように、記憶手段30Cには、空間座標系の音像を定位させたい位置を網羅するように、空間位置情報と残響音とを対応付けて記憶しておく。なお、記憶手段30Cには、初期反射残響音、中間残響音、後部残響音のそれぞれについて、直接音の発生時刻に対する遅延時間(経過時間)も併せて記憶しておく。
【0115】
残響音生成手段40Cは、直接音から、空間位置情報で特定される三次元空間座標における残響音を生成するものである。ここでは、残響音生成手段40Cは、選択手段41Cと、残響分配手段43と、遅延手段44Cと、レベル変更手段45と、合成手段46と、を備える。残響分配手段43は、
図1で説明した残響音生成手段40と同一の構成であり、レベル変更手段45および合成手段46は、
図6で説明した残響音生成手段40Bと同一の構成であるため、説明を省略する。
【0116】
選択手段41Cは、音像パンニング手段20で生成される三次元音響信号に対応して、音像パンニング手段20から出力されるパンニング情報に含まれる空間位置情報に対応する個別の残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)を、記憶手段30Cに記憶されている残響音から選択して読み出すものである。このように選択された残響音のうち、初期反射残響音は、遅延手段44Cの初期反射遅延手段441Cに出力され、中間残響音は、中間残響遅延手段442Cに出力され、後部残響音は、後部残響遅延手段443Cに出力される。
【0117】
遅延手段44Cは、選択手段41Cで選択された残響音である初期反射残響音、中間残響音および後部残響音を直接音からの遅延時間(経過時間)に応じて遅延させるものである。ここでは、遅延手段44Cは、初期反射遅延手段441Cと、中間残響遅延手段442Cと、後部残響遅延手段443Cと、を備える。
【0118】
初期反射遅延手段441Cは、選択手段41Cで選択された残響音のうちの初期反射部分に相当する初期反射残響音について、直接音の発生時刻に対する遅延時間だけ、遅延させるものである。この初期反射遅延手段441Cは、遅延した初期反射残響音を、レベル変更手段45のレベル制御手段451に出力する。
【0119】
中間残響遅延手段442Cは、選択手段41Cで選択された残響音のうちの中間残響部分に相当する中間残響音について、直接音の発生時刻に対する遅延時間だけ、遅延させるものである。この中間残響遅延手段442Cは、遅延した中間残響音を、レベル変更手段454のレベル制御手段452に出力する。
【0120】
後部残響遅延手段443Cは、選択手段41Cで選択された残響音のうちの後部残響部分に相当する後部残響音について、直接音の発生時刻に対する遅延時間だけ、遅延させるものである。この後部残響遅延手段443Cは、遅延した後部残響音を、レベル変更手段45のレベル制御手段453に出力する。
なお、初期反射遅延手段441C、中間残響遅延手段442Cおよび後部残響遅延手段443Cは、それぞれ、残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)を一旦記憶した後、遅延時間後に読み出して出力する一般的なバッファで構成することができる。
【0121】
以上のように空間音響生成装置1Cを構成することで、空間音響生成装置1Cは、音像の位置に応じて変化する残響音を、その位置に応じて生成することができ、音像パンニング手段20によってパンニングされた直接音と加算することで、実際の音場において受音する自然な音空間印象を再現した残響付加音を生成することができる。さらに、空間音響生成装置1Cは、音響制作者によって、初期反射、中間残響および後部残響をそれぞれ個別にレベル調整することができるため、残響音の印象を変化させた独自の音響空間を表現することが可能になる。
【0122】
また、空間音響生成装置1Cは、予め残響音を記憶しているため、空間音響生成装置1B(
図6参照)と比べて畳み込み演算を行う処理を省略することができ、高速に残響付加音を生成することができる。このため、空間音響生成装置1Cは、音像を任意の位置の方向に変化させる場合であっても、音像の位置の変化に合わせて動的に残響を変化させることができる。
【0123】
なお、音像の位置を任意の方向に変化させる場合、残響音生成手段40Cには、合成手段46と残響分配手段43との間にクロスフェード手段(不図示)を備えることが好ましい。
すなわち、空間音響生成装置1Cは、残響音生成手段40Cに入力される空間位置情報によって、選択手段41Cが選択する残響音が切り替わる場合、クロスフェード手段(不図示)によって、切り替わり前の残響音のレベルを徐々に小さくし(フェードアウト)、切り替わり後の残響音のレベルを徐々に大きくする(フェードイン)。これによって、音源位置を変化させる場合であっても、異常音の発生を抑えることができる。
【0124】
[空間音響生成装置の動作]
次に、
図10を参照(構成については、適宜
図9参照)して、本発明の第4実施形態に係る空間音響生成装置1Cの動作について説明する。なお、レベル調節手段10A,10C,10Dは、音響制作者によって適宜調整されるもので、ここでは、動作としての説明は省略する。
また、空間音響生成装置1Cの動作は、
図8で説明した空間音響生成装置1Bの動作において、ステップS3BをステップS3Cに置き換え、ステップS4A,S4BをステップS41Aに置き換えたものであり、ステップS1,S2,S4C,S4D,S5〜S7の各ステップの処理は同一である。
【0125】
すなわち、空間音響生成装置1Cは、ステップS2までの処理により、直接音から三次元音響信号を生成する一方で、残響音生成手段40Cの選択手段41Cによって、記憶手段30Cから、空間位置情報に対応した、インパルス応答の初期反射、中間残響、後部残響にそれぞれの残響音に相当する個別の残響音(初期反射残響音、中間残響音、後部残響音)を選択する(ステップS3C)。
【0126】
そして、空間音響生成装置1Cは、残響音生成手段40Cの遅延手段44Cによって、ステップS3Cで選択されたインパルス応答の初期反射、中間残響および後部残響の各部分に相当する個別の残響音をそれぞれの直接音の発生時刻に対する遅延時間だけ遅延させる(ステップS41A)。
すなわち、空間音響生成装置1Cは、初期反射遅延手段441Cで初期反射残響音を遅延させ、中間残響遅延手段442Cで中間残響音を遅延させ、後部残響遅延手段443Cで後部残響音を遅延させる。
ステップS4C以降の動作は、
図8で説明した空間音響生成装置1Bと同じであるため説明を省略する。
以上の動作によって、空間音響生成装置1Cは、自然な音空間印象を再現した残響付加音を、空間音響生成装置1B(
図6参照)に比べて高速に生成することができる。
【0127】
以上、本発明の実施形態について種々説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。例えば、レベル調節手段10A,10B,10C,10Dは、必須の構成ではなく、省略することも可能である。
また、ここでは、空間音響生成装置1,1A,1B,1C内に、音像パンニング手段20と、残響音生成手段40,40A,40B,40Cとを備える構成としたが、各手段はそれぞれ独立した装置(音像パンニング装置、残響音生成装置)として構成してもよい。その場合、記憶手段30,30A,30B,30Cは、残響音生成装置の内部に備えることとすればよい。
【0128】
また、空間音響生成装置1,1A,1B,1Cは、CPU、ROM、RAM等を備えた一般的なコンピュータを、前記した各手段として機能させるための空間音響制作プログラムで動作させることができる。すなわち、空間音響生成装置1,1A,1B,1Cは、ROMあるいは外部記憶等の記憶媒体に記憶した空間音響制作プログラムを、RAM上に展開し動作させることで、コンピュータを前記した各手段として機能させることができる。
また、残響音生成手段40,40A,40B,40Cを独立した残響音生成装置として構成する場合、残響音生成装置は、CPU、ROM、RAM等を備えた一般的なコンピュータを、残響音生成手段40,40A,40B,40Cそれぞれの各手段として機能させるための残響音生成プログラムで動作させることができる。