特許第6227623号(P6227623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227623
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】ゲル化剤及びオルガノゲル
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20171030BHJP
   C11D 3/26 20060101ALN20171030BHJP
   A61K 8/42 20060101ALN20171030BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20171030BHJP
   A61K 47/16 20060101ALN20171030BHJP
【FI】
   C09K3/00 103M
   C09K3/00 103N
   !C11D3/26
   !A61K8/42
   !A61K9/06
   !A61K47/16
【請求項の数】7
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2015-500292(P2015-500292)
(86)(22)【出願日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】JP2014053375
(87)【国際公開番号】WO2014126173
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2016年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-25539(P2013-25539)
(32)【優先日】2013年2月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大背戸 豊
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−272524(JP,A)
【文献】 特開2006−307023(JP,A)
【文献】 特開2004−025305(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0119340(US,A1)
【文献】 米国特許第4039360(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]
【化1】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭素原子数1乃至30の脂肪族基を表す。)
で表されるアルキルアミド化合物、又は一般式[II]
【化2】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭素原子数1乃至30の脂肪族基を表す。)
で表されるアルキルウレア化合物を2種以上含み、形成したゲルにおいてチキソトロピー性を発現することを特徴とする、ゲル化剤。
【請求項2】
前記ゲル化剤が、式[I]中、Rが置換基を有していても良い炭素原子数5乃至7の脂肪族基であるアルキルアミド化合物と、Rが置換基を有していても良い炭素原子数11乃至21の脂肪族基であるアルキルアミド化合物とを含む、請求項1に記載のゲル化剤。
【請求項3】
前記ゲル化剤が、Rの脂肪族基の炭素原子数が異なる2種のアルキルアミド化合物を含み、ここで、Rの炭素原子数が大きいアルキルアミド化合物(A)と、それより炭素原子数が少ないアルキルアミド化合物(B)との混合比が、質量比で(A):(B)=1〜20:20〜1である、請求項1又は請求項2に記載のゲル化剤。
【請求項4】
前記ゲル化剤が、式[I]中、Rの脂肪族基の炭素原子数が異なる3種のアルキルアミド化合物を含み、ここで、Rの炭素原子数が最も大きいアルキルアミド化合物(C)と、それより炭素原子数が少ないアルキルアミド化合物(D)と、さらにそれより炭素原子数が少ないアルキルアミド化合物(E)との混合比が、質量比で(C):(D):(E)=1〜5:1〜5:1〜20である、請求項1又は請求項2に記載のゲル化剤。
【請求項5】
前記ゲル化剤が、式[II]中、Rが置換基を有していても良い炭素原子数4乃至8の脂肪族基であるアルキルウレア化合物と、Rが置換基を有していても良い炭素原子数12乃至18の脂肪族基であるアルキルウレア化合物とを含む、請求項1に記載のゲル化剤。
【請求項6】
前記ゲル化剤が、Rの脂肪族基の炭素原子数が異なる2種のアルキルウレア化合物を含み、ここで、Rの炭素原子数が大きいアルキルウレア化合物(A)と、それより炭素原子数が少ないアルキルウレア化合物(B)との混合比が、質量比で(A):(B)=1〜20:20〜1である、請求項1又は請求項5に記載のゲル化剤。
【請求項7】
一般式[I]
【化3】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭素原子数1乃至30の脂肪族基を表す。)
で表されるアルキルアミド化合物、又は一般式[II]
【化4】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭素原子数1乃至30の脂肪族基を表す。)
で表されるアルキルウレア化合物を2種以上含み、チキソトロピー性を発現することを特徴とする、ゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は同族のアルキル化合物を2種類以上含むゲル化剤並びに該ゲル化剤より得られるオルガノゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノゲル(オイルゲル)化剤は、化粧品、医薬品、農薬、食品、接着剤、塗料、樹脂等の分野において、その流動性の調整に利用されている。また、環境汚染の要因となる有機溶媒や家庭廃油を固化して回収できる他、生成したオルガノゲルを、ケモメカニカルシステム材料、衝撃・振動吸収材料、医薬品徐放性付与材料などとして用いることができるため、注目されている。上記ゲル化剤についての研究開発は、主に高分子化合物について行われてきたが、近年、ゲル化剤として優れた性質を有することから低分子化合物についての研究開発が進められており、生成したオルガノゲルについても、その用途に応じて、適度な強度と透明性、さらには継続的なゾルーゲル転換機能(チキソトロピー性)が要求されている。
【0003】
上述したように、オルガノゲルは幅広い分野で利用されており、今後も利用分野の拡大が期待されている。このため、低分子化合物のオルガノゲル化剤(以下、低分子ゲル化剤ということがある)には、オルガノゲルの用途拡大に当たり、広範な種類の有機溶剤に対するゲル形成能力が求められている。こうした課題に対し、これまでにも、種々の有機溶剤に対して少量の添加量で安定性に優れるゲルを形成できる低分子ゲル化剤として、尿素化合物(例えば、特許文献1乃至3)やアミド化合物(例えば、非特許文献1)が開示されている。また、α−アミノラクタム誘導体がスクアランや流動パラフィン等に対してゲル化能を有することが開示されている(例えば特許文献4)。しかし、これらの化合物単独では、機械強度が不十分であったり、チキソトロピー性に乏しいなど、充分な性能を発現するに至っていない。機械的強度をもたらすアミド系のゲルとして、アクリルアミドを利用する報告もあるが、その製造には重合反応を必要とし、煩雑である(例えば特許文献5)。また、単独の化合物をオルガノゲル化剤として使用するだけでは、形成されるゲルの性能が不十分な場合、複数の化合物を混ぜ合わせることによって解決した例も報告されているが(特許文献6)、その種類や添加量の組み合わせは、無限に考えられ、その中から最適な組み合わせを見出すには、多大な労力が費やされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−256303号公報
【特許文献2】特開2004−359643号公報
【特許文献3】特開2010−077037号公報
【特許文献4】特許第3690052号公報
【特許文献5】特開2010−111821号公報
【特許文献6】特表2008−515911号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R.G.Weiss et al. Langmuir,25(2009)8615−8625.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに、高い機械強度と透明性等を合わせ持つオルガノゲルは、複雑な合成過程を要する高分子化合物や特殊な低分子化合物の重合反応が必要であったり、様々なゲル化剤の組み合わせを無数に検討することが必要であった。そのため、より簡便な手法で上記特性を有するオルガノゲルを製造できる方法が望まれていた。
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、これまで提案されていない手法によって得られる新規なオルガノゲルを提供することにある。
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、鎖長の異なる同族のアルキル誘導体を2種類以上混合することで、有機溶媒などの非水性溶媒向けのゲル化剤として好適に適用でき、しかも驚くべきことに形成されたオルガノゲルに機械的強度の向上と透明性の上昇、さらにはチキソトロピー性の発現をもたらすことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、第1観点として、一般式[I]
【化1】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭素原子数1乃至30の脂肪族基を表す。)
で表されるアルキルアミド化合物、又は一般式[II]
【化2】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭素原子数1乃至30の脂肪族基を表す。)
で表されるアルキルウレア化合物を2種以上含み、形成したゲルにおいてチキソトロピー性を発現することを特徴とする、ゲル化剤に関する。
第2観点として、前記ゲル化剤が、式[I]中、Rが置換基を有していても良い炭素原子数5乃至7の脂肪族基であるアルキルアミド化合物と、Rが置換基を有していても良い炭素原子数11乃至21の脂肪族基であるアルキルアミド化合物とを含む、第1観点に記載のゲル化剤に関する。
第3観点として、前記ゲル化剤が、Rの脂肪族基の炭素原子数が異なる2種のアルキルアミド化合物を含み、ここで、Rの炭素原子数が大きいアルキルアミド化合物(A)と、それより炭素原子数が少ないアルキルアミド化合物(B)との混合比が、質量比で(A):(B)=1〜20:20〜1である、第1観点又は第2観点に記載のゲル化剤に関する。
第4観点として、前記ゲル化剤が、式[I]中、Rの脂肪族基の炭素原子数が異なる3種のアルキルアミド化合物を含み、ここで、Rの炭素原子数が最も大きいアルキルアミド化合物(C)と、それより炭素原子数が少ないアルキルアミド化合物(D)と、さらにそれより炭素原子数が少ないアルキルアミド化合物(E)との混合比が、質量比で(C):(D):(E)=1〜5:1〜5:1〜20である、第1観点又は第2観点に記載のゲル化剤に関する。
第5観点として、前記ゲル化剤が、式[II]中、Rが置換基を有していても良い炭素原子数4乃至8の脂肪族基であるアルキルウレア化合物と、Rが置換基を有していても良い炭素原子数12乃至18の脂肪族基であるアルキルウレア化合物とを含む、第1観点に記載のゲル化剤に関する。
第6観点として、前記ゲル化剤が、Rの脂肪族基の炭素原子数が異なる2種のアルキルウレア化合物を含み、ここで、Rの炭素原子数が大きいアルキルウレア化合物(A)と、それより炭素原子数が少ないアルキルウレア化合物(B)との混合比が、質量比で(A):(B)=1〜20:20〜1である、第1観点又は第5観点に記載のゲル化剤に関する。
第7観点として、一般式[I]
【化3】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭素原子数1乃至30の脂肪族基を表す。)
で表されるアルキルアミド化合物、又は一般式[II]
【化4】
(式中、Rは置換基を有していても良い炭素原子数1乃至30の脂肪族基を表す。)
で表されるアルキルウレア化合物を2種以上含み、チキソトロピー性を発現することを特徴とする、ゲルに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゲル化剤は、簡便な手法で有機溶媒をゲル化させてゲルを形成することができる。
特に本発明のゲル化剤は、様々な誘電率を有する各種有機溶媒のオルガノゲルの形成が可能であり、得られたオルガノゲルは、高い機械強度と透明性、さらにはチキソトロピー性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は比較例1〜比較例3におけるアルキルアミド誘導体を混合した各種溶液のゲル化挙動を示す写真である[図1(A)ステアリン酸アミド、図1(B)オクタデシルアミド、図1(C)n−オクタンアミド、括弧内の数字は誘導体の濃度を表す。使用溶媒:(a)、(l)、(w)プロピレンカーボネート;(b)、(m)N,N−ジメチルホルムアミド;(c)、(n)メタノール;(d)、(o)エタノール;(e)、(p)n−ブタノール;(f)、(q)、(x)1,2−ジクロロエタン;(g)、(r)テトラヒドロフラン;(h)、(s)、(y)酢酸エチル;(i)、(t)、(z)SH245;(j)、(u)、(A)トルエン;(k)、(v)、(B)n−オクタン]。
図2図2は比較例4〜比較例5におけるアルキルウレア誘導体を混合した各種溶液のゲル化挙動を示す写真である[図2(A)オクタデシル尿素、図2(B)ブチル尿素、括弧内の数字は誘導体の濃度を表す。使用溶媒:(a)、(l)プロピレンカーボネート;(b)N,N−ジメチルホルムアミド;(c)メタノール、(d)エタノール;(e)n−ブタノール;(f)、(m)1,2−ジクロロエタン;(g)テトラヒドロフラン;(h)酢酸エチル;(i)SH245;(j)、(n)トルエン;(k)n−オクタン]。
図3図3は比較例6〜比較例12におけるアルキルアミド誘導体又はルキルウレア誘導体を混合した各種不揮発油でのゲル化挙動を示す写真である[アルキルアミド誘導体:図3(A)ステアリン酸アミド、図3(B)ヘキサデカンアミド、図3(C)n−オクタンアミド、図3(D)エルカ酸アミド、図3(E)ベヘン酸アミド、アルキルウレア誘導体:図3(F)オクタデシル尿素、図3(G)ブチル尿素、括弧内の数字は誘導体の濃度を表す。使用不揮発性油:(a)オリーブ油;(b)スクアラン;(c)ミリスチン酸イソプロピル]。
図4図4は実施例1における、各種混合比率でのアルキルアミド誘導体2成分混合系のトルエン溶液のゲル化挙動を示す写真である(図4(a)ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド 4wt%トルエンゲル、図4(b)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド 4wt%トルエンゲル、図4(c)ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 4wt%トルエンゲル、図内の数字は質量混合比を示す)。
図5図5は実施例2及び実施例3における、各種混合比率でのアルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエン溶液のゲル化挙動を示す写真(4wt%トルエンゲル)である(図内の数字はステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比を示す)。
図6図6は実施例6における、アルキルアミド誘導体単独系ゲル及び各種混合比率でのアルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエンゲルの示差走査熱量測定結果を示す図である[図6(A)(a)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(b)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(c)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル、図6(B)(a)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 質量混合比1/1/2 4wt%トルエンゲル、(b)同 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(c)同 1/1/10 4wt%トルエンゲル]。
図7図7は実施例7における、アルキルアミド誘導体単独系ゲルの粘弾性特性評価結果を示す図である[図7(A)周波数依存測定結果:(a)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(b)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(c)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル、図7(B)歪依存測定結果:(a)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(b)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(c)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル]。
図8図8は実施例7における、アルキルアミド誘導体3成分系混合ゲルの粘弾性特性評価結果を示す図である[図8(A)周波数依存性測定結果:(a)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 質量混合比 1/1/2 4wt%トルエンゲル、(b)同 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(c)同 1/1/10 4wt%トルエンゲル、図8(B)歪依存性測定結果:(a)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 質量混合比 1/1/2 4wt%トルエンゲル、(b)同 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(c)同 1/1/10 4wt%トルエンゲル]。
図9図9は実施例8における、各種アルキルアミド誘導体(単独系)のトルエン溶液のゲル化挙動((a)〜(c):粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((d)〜(f):粉砕後12時間静置後の倒置サンプル)を示す写真である((a)及び(d)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(b)及び(e)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(c)及び(f)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル)。
図10図10は実施例9における、アルキルアミド誘導体(3成分混合系)の4wt%トルエン溶液のゲル化挙動((a)〜(c):粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((d)〜(f):粉砕後1分間静置後の倒置サンプル、(g)〜(i):粉砕後5分間静置後の倒置サンプル)を示す写真である((a)(d)(g)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比 1/1/2、(b)(e)(h)同 1/1/4、(c)(f)(i)同 1/1/10)。
図11図11は実施例9における、アルキルアミド誘導体(単独系)のスクアランを用いて最低ゲル化濃度でのゲル化挙動((a)〜(c):粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((d)〜(f):粉砕後12時間静置後の倒置サンプル)を示す写真である((a)(d)ステアリン酸アミド2wt%ゲル、(b)(e)ヘキサデカンアミド2wt%ゲル、(c)(f)n−オクタンアミド1wt%ゲル)。
図12図12は実施例9における、アルキルアミド誘導体(単独系)のスクアランを用いて最低ゲル化濃度でゲル化させたゲル化挙動((a)及び(b):粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((c)及び(d):粉砕後12時間静置後の倒置サンプル)を示す写真である((a)(c)エルカ酸アミド2wt%、(b)(d)ベヘン酸アミド2wt%)。
図13図13は実施例10における、不揮発油を用いたアルキルアミド誘導体の混合系ゲル(3成分混合系:ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの組成(質量比)=1/1/10のスクアランゲル(1wt%))のゲル化挙動((a)〜(c):粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((d)〜(f):粉砕後1分間静置後の倒置サンプル)を示す写真である((a)、(d)濃度0.5wt%、(b)、(e)濃度1.0wt%、(c)、(f)濃度2.0wt%)。
図14図14は実施例10における、不揮発油を用いたアルキルアミド誘導体の混合系ゲル(2成分混合系:エルカ酸アミド/ベヘン酸アミドの組成(質量比)=1/1のスクアランゲル(1wt%))のゲル化挙動((a):粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動(b):粉砕後30分間静置後の倒置サンプル)を示す写真である。
図15図15は実施例9における、アルキルアミド誘導体3成分混合系の4wt%トルエンゲルの機械的強度の高さを示す写真である((a)サンプル管から取り出したのち自立できるステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比 1/1/4 トルエンゲル、(b)ピンセットでつかむことができる同 1/1/10 トルエンゲル)。
図16図16は実施例11における、各種混合比率でのアルキルウレア誘導体2成分混合系の3wt%トルエン溶液のゲル化挙動を示す写真である(オクタデシル尿素/ブチル尿素、図内の数字は質量混合比を示す)。
図17図17は実施例14における、アルキルウレア誘導体単独系ゲル及び各種混合比率でのアルキルウレア誘導体2成分混合系のトルエンゲルの示差走査熱量測定結果を示す図である[図17(A)(a)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素6wt%トルエンゲル、図17(B)(a)オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比1/1 3wt%トルエンゲル、(b)同 1/2 3wt%トルエンゲル、(c)同 1/4 3wt%トルエンゲル、(d)同 1/10 3wt%トルエンゲル]。
図18図18は実施例15における、アルキルウレア誘導体単独系ゲルの粘弾性特性評価結果を示す図である[図18(A)周波数依存性測定結果:(a)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素6wt%トルエンゲル、図18(B)歪依存性測定結果:(a)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素6wt%トルエンゲル]。
図19図19は実施例15における、アルキルウレア2成分混合系ゲルの粘弾性特性評価結果を示す図である[図19(A)周波数依存性測定結果:(a)オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比 1/1 3wt%トルエンゲル、(b)同 1/2 3wt%トルエンゲル、図19(B)歪依存性測定結果:(a)オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比 1/1 3wt%トルエンゲル、(b)同 1/2 3wt%トルエンゲル、図19(C)周波数依存性測定結果:(c)オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比 1/4 3wt%トルエンゲル、(d)同 1/10 3wt%トルエンゲル、図19(D)歪依存性測定結果:(c)オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比 1/4 3wt%トルエンゲル、(d)同 1/10 3wt%トルエンゲル]。
図20図20は実施例16における、各種アルキルウレア誘導体(単独系)のトルエン溶液のゲル化挙動((a)(b):粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((c)(d):粉砕後12時間静置後の倒置サンプル)を示す写真である((a)及び(c)オクタデシル尿素3wt%トルエンゲル、(b)及び(d)ブチル尿素6wt%トルエンゲル)。
図21図21は実施例16における、各種アルキルウレア誘導体(単独系)のミリスチン酸イソプロピル溶液のゲル化挙動((a)(b):粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((c)(d):粉砕後12時間静置後の倒置サンプル)を示す写真である((a)及び(c)オクタデシル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル、(b)及び(d)ブチル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル)。
図22図22は実施例16における、各種アルキルウレア誘導体(2成分混合系)の3wt%トルエン溶液のゲル化挙動((A)粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((B)粉砕後1分間静置後の倒置サンプル、(C)粉砕後30分間静置後の倒置サンプル)を示す写真である(図内の数字はオクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比を示す)。
図23図23は実施例16における、アルキルウレア誘導体(2成分混合系:オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比1/1)のミリスチン酸イソプロピル溶液のゲル化挙動((a)、(b)粉砕前の倒置サンプル:(a)0.5wt%、(b)1.0wt%)及びチキソトロピー挙動((c)、(d)粉砕後30分間静置後の倒置サンプル:(c)0.5wt%、(d)1.0wt%)を示す写真である。
図24図24は実施例17における、アルキルアミド誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(3成分混合系)のゲル粉砕前後の挙動をレオメータにて評価した結果を示す図である((a)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比 1/1/10 4wt%トルエンゲル、(b)ステアリン酸アミド 3wt%トルエンゲル、(c)ヘキサデカンアミド 3wt%トルエンゲル、(d)n−オクタンアミド 3wt%トルエンゲル)。
図25図25は実施例18における、アルキルウレア誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(2成分混合系)のゲル粉砕前後の挙動をレオメータにて評価した結果を示す図である((a)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比 1/4 3wt%トルエンゲル、(b)同 1/10 3wt%トルエンゲル、(c)オクタデシル尿素 2wt%トルエンゲル、(d)ブチル尿素 6wt%トルエンゲル)。
図26図26は比較例13及び実施例19における、各種アルキルアミド誘導体の単独系及び混合系のトルエンキセロゲル(最低ゲル化濃度のゲルより調製)の走査型電子顕微鏡(SEM)像の写真を示す図である((a)ステアリン酸アミド トルエンキセロゲル、(b)ヘキサデカンアミド トルエンキセロゲル、(c)n−オクタデカンアミド トルエンキセロゲル、(d)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比 1/1/2 トルエンキセロゲル、(e)同 1/1/4 トルエンキセロゲル、(f)同 1/1/10 トルエンキセロゲル)。
図27図27は比較例13における、各種アルキルアミド誘導体の単独系のトルエンキセロゲル(最低ゲル化濃度のゲルより調製)の走査型電子顕微鏡(SEM)像の写真及びトルエンゲルの偏光顕微鏡写真を示す図である((a)ステアリン酸アミド トルエンキセロゲル、(b)ヘキサデカンアミド トルエンキセロゲル、(c)n−オクタデカンアミド トルエンキセロゲル、(d)ステアリン酸アミド 3wt%トルエンゲル、(e)ヘキサデカンアミド 6wt%トルエンゲル、(f)n−オクタデカンアミド 3wt%トルエンゲル)。
図28図28は比較例14及び実施例20における、各種アルキルウレア誘導体の単独系及び混合系のトルエンキセロゲル(最低ゲル化濃度のゲルより調製)の走査型電子顕微鏡(SEM)像の写真を示す図である((a)オクタデシル尿素 トルエンキセロゲル、(b)ブチル尿素 トルエンキセロゲル、(c)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比 1/1 トルエンキセロゲル、(d)同 1/2 トルエンキセロゲル、(e)同 1/4 トルエンキセロゲル、(f)同 1/10 トルエンキセロゲル)。
図29図29は比較例14における、各種アルキルウレア誘導体の単独系のトルエンゲルの偏光顕微鏡写真を示す図である((a)オクタデシル尿素 2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素 6wt%トルエンゲル)。
図30図30は実施例21における、アルキルアミド誘導体の単独系及び3成分混合系のトルエンゲル、アルキルアミド誘導体結晶について、小角領域におけるX線回折測定結果を示す図である((a)(1)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(2)同1/1/10 4wt%トルエンゲル、(3)ステアリン酸アミド結晶サンプル、(4)ヘキサデカンアミド結晶サンプル、(5)n−オクタンアミド結晶サンプル;(b)(1)ステアリン酸アミド結晶サンプル、(2)ヘキサデカンアミド結晶サンプル、(3)n−オクタンアミド結晶サンプル、(4)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(5)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(6)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル)。
図31図31(a)はアルキルアミド誘導体(ステアリン酸アミド、ヘキサデカンアミド、n−オクタンアミド)の分子モデル(分子長はChemDraw3Dにより算出、二つのアミノ基と二つのメチル基のvan der Waals半径分を加えた分子長を示す。van der Waals半径は文献(J.Phys.Chem.(1964年)68巻 頁441−及びJ.Phys.Chem.(1996年)100巻 頁7384−)を参考にした)並びに水素結合をするように配置させた二量体を示す図である。図31(b)はアルキルアミド誘導体がとりうるラメラ構造を示す図である。
図32図32は実施例22における、アルキルウレア誘導体の単独系及び3成分混合系のトルエンゲル、アルキルウレア誘導体結晶について、小角領域におけるX線回折測定結果を示す図である((a)(1)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比 1/1 3wt%トルエンゲル、(2)同1/2 3wt%トルエンゲル、(3)オクタデシル尿素結晶サンプル、(4)ブチル尿素結晶サンプル;(b)(1)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比 1/4 3wt%トルエンゲル、(2)同1/10 3wt%トルエンゲル、(3)オクタデシル尿素結晶サンプル、(4)ブチル尿素結晶サンプル;(c)(1)オクタデシル尿素結晶サンプル、(2)ブチル尿素結晶サンプル;(d)(1)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(2)ブチル尿素6wt%トルエンゲル)。
図33図33(a)はアルキルウレア誘導体(オクタデシル尿素、ブチル尿素)の分子モデル(分子長はChemDraw3Dにより算出、二つのアミノ基と二つのメチル基のvan der Waals半径分を加えた分子長を示す。van der Waals半径は文献(J.Phys.Chem.(1964年)68巻 頁441−及びJ.Phys.Chem.(1996年)100巻 頁7384−)を参考にした))並びに水素結合をするように配置させた二量体を示す図である。図33(b)はアルキルアミド誘導体がとりうるラメラ構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は前記一般式[I]で表されるアルキルアミド化合物又は[II]で表されるアルキルウレア化合物を2種以上含むゲル化剤に関する。
以下、本発明を詳細に説明するが、以降、「一般式[I]で表される化合物」を「化合物[I]」とも称する。他の式番号を付した化合物についても同様に表記する。また、「アルキルアミド化合物」「アルキルウレア化合物」を「アルキルアミド誘導体」「アルキルウレア誘導体」とも称する。
【0012】
上記一般式[I]中のR並びに[II]中のRの定義において脂肪族基とは好ましくは炭素原子数1乃至30のアルキル基を表し、例えば、直鎖状もしくは分枝鎖状の炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数3〜30の環状アルキル基が挙げられ、好ましくは炭素原子数5〜22の直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のアルキル基が挙げられる。
具体的には以下に示す直鎖状、分枝鎖状もしくは環状の、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(ミリスチル基)、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基、パルミチル基)、ヘプタデシル基(マルガリル基)、オクタデシル基(ステアリル基)、ノナデシル基、イコシル基、エイコシル基、ヘンイコシル基等が挙げられる。
中でも好ましいものとして、Rとしては炭素原子数5乃至7のアルキル基や炭素原子数11乃至21のアルキル基が挙げられ、特にn−ヘプチル基、n−ペンタデシル基、n−ヘプタデシル基が好ましい。またRとしては炭素原子数4乃至8のアルキル基や炭素原子数12乃至18のアルキル基が挙げられ、特にn−ブチル基、n−オクタデシル基が好ましいものとして挙げられる。
【0013】
前記アルキル基は、同一又は異なって1〜3個の置換基を有し得る。該置換基としては、例えばヒドロキシ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、フッ素置換アルコキシ基等が挙げられる。
上記アルコキシ基のアルキル部分としては、例えば、直鎖もしくは分岐状の炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数3〜8の環状アルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。なおフッ素置換アルコキシ基としては、上記アルコキシ基のアルキル部分の少なくとも1箇所がフッ素原子にて置換されている基が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
アルコキシアルコキシ基(−O−アルキレン−O−アルキル基)のアルキル部分は前記と同義であり、アルコキシアルコキシ基のアルキレン部分は前記アルキル基から水素原子を一つ除いたものと同義である。
【0014】
また前記アルキル基は、一つ以上の不飽和二重結合、不飽和三重結合を含んでいてもよく、また、前記アルキル基は、酸素原子又は窒素原子によって中断されていても良い。
【0015】
本発明のゲル化剤は、前記化合物[I]又は化合物[II]を二種以上を混合したものをゲル化剤として使用する。
例えば、化合物[I]において、Rがヘプチル基を表すn−オクタンアミド、同Rがペンタデシル基を表すヘキサデカンアミド、同Rがヘプタデシル基を表すステアリン酸アミドを、2種混合物として、或いは3種混合物として使用することができる。2種混合物の具体例としては、ステアリン酸アミド:ヘキサデカンアミドを質量比で20〜1:1〜20の割合で、好ましくは10〜1:1〜10の割合で、より好ましくは10〜1:1〜1の割合で使用することができる。またステアリン酸アミド:n−オクタンアミドを質量比で20〜1:1〜20の割合で、好ましくは10〜1:1〜10の割合で、そしてヘキサデカンアミド:n−オクタンアミドを質量比で20〜1:1〜20の割合で、好ましくは10〜1:1〜10の割合で、それぞれ混合して使用することができる。またこれらを3種混合物の具体例としては、ステアリン酸アミド:ヘキサデカンアミド:n−オクタンアミドを質量比で1〜20:1〜20:1〜20の割合で、好ましくは、1〜5:1〜5:1〜20の割合で、使用することができる。
また、化合物[II]において、Rがブチル基を表すブチル尿素、同Rがオクタデシル基を表すオクタデシル尿素を2種混合物として、例えばオクタデシル尿素:ブチル尿素を質量比で20〜1:1〜20の割合で、好ましくは10〜1:1〜10の割合で、より好ましくは10〜1:1〜5の割合で、使用することができる。
【0016】
これら二種以上の化合物の混合物からなる本発明のゲル化剤は、一種単独の化合物を用いた場合と比べて、より少ない使用量で、媒体である有機溶媒をゲル化することが可能であり、また単独の化合物ではゲル化できない場合であっても、有機溶媒のゲル化が可能であり得る。
またこれら二種以上の化合物の混合物からなるゲル化剤は、形成したゲルにおいてチキソトロピー性を発現し得、また機械強度や透明性の高いゲルを形成できる。
【0017】
本発明のゲル化の対象である有機溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素系溶媒;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系又はエステルエーテル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;炭酸ジメチル(ジメチルカーボネート、DMC)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート、DEC)、炭酸エチルメチル、炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、炭酸ビニレン(ビニレンカーボネート)等の鎖状又は環状炭酸エステル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン等の複素環式化合物系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;環状シロキサン等のシリコーン溶媒並びにこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
【0018】
本発明のゲル化剤は、媒体である有機溶媒に対して、2種以上のアルキルウレア化合物又は2種以上のアルキルウレア化合物の総量が0.1乃至30質量%で、好ましくは0.5乃至20質量%、より好ましくは1乃至10質量%となる量で使用することが好ましい。
本発明のゲル化剤を、媒体である有機溶媒に加え、必要に応じて加熱撹拌して溶解させたのち、室温に放置することにより、ゲル化物を得ることができる。ゲル強度は、ゲル化剤の濃度により調整することが可能である。
【0019】
なお、本発明のゲル化剤によって形成されるゲルは、ゲル化剤のゲル化能を阻害しない範囲において、その適用用途等、必要に応じて各種添加剤(界面活性剤、紫外線吸収剤、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤、香料、生理活性物質(薬効成分)等の有機化合物や、酸化チタン、タルク、マイカ、水等の無機化合物等)を混合することができる。
【0020】
なお、上記本発明のゲル化剤である前記化合物[I]又は化合物[II]の2種以上を含有するゲル、並びにこれら化合物[I]又は化合物[II]の二種以上の化合物の混合物を含み、チキソトロピー性を発現するゲルも本発明の対象である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例で記述する試薬は東京化成工業(株)、溶媒は和光純薬工業(株)より入手し、そのまま使用した。具体的には、ステアリン酸アミド(90%)、ヘキサデカンアミド(95%)、n−オクタンアミド(98%)、オクタデシル尿素(97%)、およびブチル尿素(96%)、エルカ酸アミド(85%)、ベヘン酸アミド(75%)である。
また以下に各種測定及び分析に用いた装置及び条件を示す。
(1)透過率測定
・HR4000スペクトロメータ、オーシャンフォトニクス(株)製
・光路長10mmの石英セルにサンプルを入れて測定
(2)チキソトロピー性試験(ゲルの粉砕)
・装置:ボルテックスミキサー(ジェニー2)、アズワン(株)製
(3)示差走査熱量測定
・装置:EXSTAR6000 熱分析装置、(株)日立ハイテクサイエンス製
・使用容器:Ag製の密封型試料容器
・昇温速度及び降温速度:2℃/分
(4)ゲルの粘弾性評価及びチキソトロピー性評価
・MCR−301、(株)アントンパール・ジャパン製、
・測定条件:測定治具 8mm直径のパラレルプレート、0.50mmギャップ、測定温度25℃、はみ出たゲルは拭き取って測定
・周波数依存測定:0.01%歪一定で測定
・歪依存測定:角周波数(1 rad/秒)一定で測定
・チキソトロピー性評価:低せん断(歪振幅 0.01%、周波数 1Hz)と高せん断(0.1秒間でせん断速度 3000秒−1印加)を繰り返し印加して、弾性率の変化を測定
(5)光学顕微鏡観察
・Leica DM2500、ライカマイクロシステムズ
(6)走査型電子顕微鏡写真
・装置:SU−8000、日立ハイテクノロジーズ(株)製
・加速電圧:1.0kV
・サンプル処理:導電性の物質(Pt)によるサンプル処理を行った(Pt膜厚10nm)。
(7)X線回折測定
・D8 DISCOVER 多機能薄膜材料評価X線回折装置、ブルカー・エイエックスエス(株)製
・CuKα線使用、26℃で測定、1mm直径のキャピラリーガラスにサンプルを入れて測定
【0022】
[比較例1〜比較例12:アルキルアミド誘導体及びアルキルウレア誘導体のゲル化試験(単独系)]
4mlサンプル管にアルキルアミド誘導体又はアルキルウレア誘導体と、これら誘導体の添加量がそれぞれ所定の質量パーセント(wt%)となるように各種有機溶媒(プロピレンカーボネート、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、n−ブタノール、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、SH245(東レ・ダウコーニング(株)製の環状シリコーン、デカメチルシクロペンタシロキサン)、トルエン、n−オクタン)を入れた。サンプル管の蓋をして、沸点が100℃を超える有機溶媒については、100℃で、それ以外の有機溶媒については沸点の5℃下まで加熱し、アルキルアミド誘導体溶液又はアルキルウレア誘導体溶液を作製した。その後、これら溶液を室温(およそ25℃)で放冷し、ゲル化を確認した。なお、放冷後、溶液の流動性が失われて、サンプル管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化」と判断した。
このゲル化試験を種々のアルキルアミド誘導体(ステアリン酸アミド、ヘキサデカンアミド、又はn−オクタンアミド)及びアルキルウレア誘導体(オクタデシル尿素又はブチル尿素)を用い、種々の濃度の溶液について行い、ゲル化に要するアルキルアミド誘導体又はアルキルウレア誘導体の最低濃度(wt%)を、最低ゲル化濃度とした。またこのとき形成したゲルの状態を観察した。
加えて、同様に不揮発性油(オリーブ油、スクアラン、およびミリスチン酸イソプロピル)に対するゲル化を確認した。
得られた結果を表1(アルキルアミド誘導体)、表2(アルキルウレア誘導体)、及び表3(不揮発油に対するアルキルアミド誘導体及びアルキルウレア誘導体)に示す。また各種有機溶媒を用いて実施した試験の放冷後の各サンプル管の写真(最低ゲル化濃度にて形成したゲルの写真、但しゲル形成に至らず溶液状態のものを除く)を図1(アルキルアミド誘導体:(A)ステアリン酸アミド、(B)ヘキサデカンアミド、(C)n−オクタンアミド))、図2(アルキルウレア誘導体:(A)オクタデシル尿素、(B)ブチル尿素)及び図3(アルキルアミド誘導体:(A)ステアリン酸アミド、(B)ヘキサデカンアミド、(C)n−オクタンアミド、(D)エルカ酸アミド、(E)ベヘン酸アミド、アルキルウレア誘導体:(F)オクタデシル尿素、(G)ブチル尿素)にそれぞれ示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】

【0025】
【表3】
【0026】
表1、表2及び表3、図1図2及び図3に示すように、アルキルアミド誘導体及びアルキルウレア誘導体は様々な比誘電率を有する各種有機溶媒及び各種不揮発油に対するゲル形成能を有するという結果が得られた。
【0027】
[実施例1:アルキルアミド誘導体混合系のゲル化試験1]
比較例1〜3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の2成分混合系のトルエン溶液におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表4〜表6参照、濃度は混合物としての濃度)にて、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド、及びヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドのトルエン溶液を調製し、ゲル化試験を行った。観察結果を表4〜表6に示す。またトルエン溶液にて実施した試験の放冷後の各サンプル管の写真を図4[(a)ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド:濃度4wt%、(b)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド:濃度4wt%、(c)ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド:濃度4wt%]に示す。
これらの結果より、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド混合系のゲルと比較して、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド及びヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系のゲルの方が、幅広い混合比でゲル形成できることが確認された。加えて、アルキルアミド誘導体それぞれの単独系でのトルエン溶液の最低ゲル化濃度(3.0wt%又は6.0wt%)と比較して、2成分混合系の最低ゲル化濃度は低いものとなった(2.0wt%)。このようにアルキルアミド誘導体は、トルエン溶液において、単独系に比べて2成分混合系の方がゲルを形成しやすいことが確認された。
【0028】
【表4】
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
[実施例2:アルキルアミド誘導体混合系のゲル化試験2]
比較例1〜3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の3成分混合系のトルエン溶液におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表7参照、濃度は混合物としての濃度)にて、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドのトルエン溶液を調製し、ゲル化試験を行った。観察結果を表7に示す。またトルエン溶液にて実施した試験の放冷後の各サンプル管の写真を図5(A)[濃度4wt%]に示す。
これらの結果から、アルキルアミド誘導体の3成分混合系のトルエン溶液においてもゲル化すること、またn−オクタンアミドの比率が高い混合系が低濃度でもゲルを形成しやすいことが確認された。
【0032】
【表7】
【0033】
[実施例3:アルキルアミド誘導体混合系のゲル化試験3]
比較例1と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の3成分混合系のトルエンゲルにおいて、実施例2において良好な結果が得られたn−オクタンアミドの比率が高い混合系を検証すべく、n−オクタンアミドの比率を変化させた溶液についてのゲル化試験を行った。
ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比を1/1/1、1/1/2、1/1/4、1/1/10のように変化させた時の4wt%トルエン溶液(濃度は混合物としての濃度)について得られた結果を図5(B)に示す。
これらの結果から、アルキル鎖長の短いn−オクタンアミドの比率を増加させることにより、得られるトルエンゲルの透明性の増加が確認された。
【0034】
[実施例4:アルキルアミド誘導体混合系のゲル化試験4]
比較例1〜3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の2成分混合系および3成分混合系の不揮発油におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表8参照、濃度は混合物としての濃度)にて、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド、エルカ酸アミド/ベヘン酸アミドの不揮発油溶液を調製し、ゲル化試験を行った。観察結果を表8に示す。
これらの結果から、アルキルアミド誘導体の2成分混合系及び3成分混合系の不揮発油溶液においてもゲル化すること、またn−オクタンアミドの比率が高い混合系が低濃度でもゲルを形成しやすいことが確認された。
【0035】
【表8】
【0036】
[実施例5:アルキルアミド誘導体混合系ゲルの透過率測定]
実施例3で得られたアルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエンゲル(4wt%、濃度は混合物としての濃度)並びに比較例1〜3のアルキルアミド誘導体単独系のトルエンゲル(最低ゲル化濃度)の波長400nm〜700nmにおける透過率測定を行った。
得られた結果を表9に示す。これらの結果から、アルキル鎖長の短いn−オクタンアミドの比率を増加させることによる、得られるトルエンゲルの透明性の増加が分光学的にも確認された。
【0037】
【表9】
【0038】
[実施例6:アルキルアミド誘導体混合系ゲルの熱挙動]
実施例3で得られたアルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエンゲル(4wt%、濃度は混合物としての濃度)並びに比較例1〜3のアルキルアミド誘導体単独成分系のトルエンゲル(各誘導体 最低ゲル化濃度)を前述の手順に倣い作製した。
次に得られた各ゲルについて、ゾル−ゲル転移温度ならびにゲル−ゾル転移温度を示差走査熱量計により測定した。得られた結果を表10及び図6[(A):(a)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(b)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(c)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル;(B):(a)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 質量混合比1/1/2 4wt%トルエンゲル、(b)同 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(c)同 1/1/10 4wt%トルエンゲル。]に示す。
【0039】
【表10】
【0040】
表10に示すように、アルキルアミド誘導体をゲル化剤として用いた単独系及び3成分混合系ゲルはゾル−ゲル転移することが定量的に確認された。
【0041】
[実施例7:アルキルアミド誘導体単独系ゲル及び3成分混合系ゲルの粘弾性特性評価]
アルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエンゲル(4wt%、濃度は混合物としての濃度)並びにアルキルアミド誘導体単独系のトルエンゲル(各誘導体 最低ゲル化濃度)を前述の手順に倣い作製し、これらゲルの粘弾性評価を行い、ゲル状態を力学的観点から検証した。得られた結果を図7(単独系ゲル:(a)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(b)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(c)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル)及び図8(3成分混合系ゲル:(a)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 質量混合比 1/1/2 4wt%トルエンゲル、(b)同 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(c)同 1/1/10 4wt%トルエンゲル)に示す。
図7(A)及び図8(A)(周波数依存測定)に示すように、単独系ゲル及び3成分混合系ゲルの何れにおいても、周波数に依存せずほぼ平坦な貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を示し、かつG’>G”であることから、測定サンプルはゲル状態(固体状態)にあることが確認された。
また図7(B)及び図8(B)(歪依存測定)に示すように、歪初期はほぼ平坦な貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”かつG’>G”を示したものが、歪の増加により(0.1〜1.0%付近)、G’<G”と逆転し、サンプルがゲル状態(G’>G”)から液体状態(G’<G”)へと変化したことが確認された。このように、ゲル状態のサンプルに歪をかけることでゲル−ゾル転移が生じることが力学的に確認された。
【0042】
[実施例8:アルキルアミド誘導体の単独系及び2成分混合系のチキソトロピー性試験]
アルキルアミド誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(2成分混合系)のゲル粉砕後の挙動(チキソトロピー性)を評価した。
【0043】
<アルキルアミド誘導体の単独系ゲルのチキソトロピー性試験>
比較例1〜比較例3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体(ステアリン酸アミド、ヘキサデカンアミド、あるいはn−オクタンアミド)をゲル化剤とし、有機溶媒としてプロピレンカーボネート、ジクロロエタン、トルエン、SH245及びn−オクタンを用い、前述の表1に示す最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%の濃度でゲルを作製した。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、内部のゲルを2秒間粉砕し、続いて所定時間(1分、10分、1時間又は12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。
図9に、各種アルキルアミド誘導体のトルエンを用いて最低ゲル化濃度でゲル化させたゲルのチキソトロピー挙動を示す。図9は、粉砕前のトルエンゲルを(a)〜(c)[(a)ステアリン酸アミド3wt%ゲル、(b)ヘキサデカンアミド6wt%ゲル、(c)n−オクタンアミド3wt%ゲル]に、2秒間粉砕後、12時間静置後倒置の挙動(d)〜(f)[(d)粉砕後のステアリン酸アミド3wt%ゲル、(e)ヘキサデカンアミド6wt%ゲル、(f)n−オクタンアミド3wt%ゲル]を示す。
アルキルアミド誘導体の各種単独系ゲルにおいては、いずれの有機溶媒、いずれのアルキルアミド誘導体においても、最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%でゲル化したサンプルは、粉砕後倒置するといずれの所定時間静置後においてもゲルが垂れ落ち、本試験例においてはチキソトロピー性を発現しなかった。
【0044】
<アルキルアミド誘導体の混合系ゲル(2成分混合系)のチキソトロピー性試験>
アルキルアミド誘導体の混合系ゲル(2成分混合系)のゲル粉砕後の挙動について、種々の混合割合(表11〜表13参照)にて評価した。
実施例1と同様の手順にて、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド混合系、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド混合系、又はヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系のそれぞれについて、種々の混合割合(表11〜表13参照)で2〜4wt%(濃度は混合物としての濃度)のトルエンゲルを作製した(なお表11〜表13において、この時点でゲル形成していない組成を斜線で示す)。次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、機械的振動により内部のゲルを2秒間粉砕しゾル状とし、続いて所定時間(1分、10分、1時間、及び12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。ゾル状とした後再度ゲル化したものについては最短静置時間(粉砕後、ゲル状態への回復に要した時間)を表11(ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド混合系)、表12(ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド混合系)及び表13(ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系)にそれぞれ示す。
【0045】
【表11】
【0046】
【表12】
【0047】
【表13】
【0048】
上記表12及び表13に示すように、アルキルアミド誘導体のトルエンゲルは、誘導体1種を用いた単独系におけるトルエンゲルではチキソトロピー性を発現しないものの、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミドのように2成分混合系にすることで、チキソトロピー性を発現する場合があることが確認された。また、上記表11に示すようにステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド混合系のように、混合系の組み合わせによってはチキソトロピー性を発現しないことはもちろんのことゲル形成自体に至らない場合があり、適切な混合系の選択と混合比の選択することがチキソトロピー性発現並びにゲル形成に重要であることが確認された。
【0049】
なお、混合系のゲルの研究は、K.Hanabusa et al.,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,(1993年)1382頁−1383頁をはじめとして行われ、D.K.Smith et al.,Chem.Eur.J.,(2005年)、11巻、5496頁−5508頁、C.A.Dreiss,Soft Matter、(2007年)、3巻、956頁−970頁、S.J.Rowan et al.,Chem.Soc.Rev.,(2012年)、41巻、6089頁−6102頁などの総説にまとめられているが、本発明のようにアルキル鎖長の違うアルキルアミド誘導体を2種以上混合して得られる新たな効果(チキソトロピー性)については報告例は無い。このように本実施例は、本発明のゲル化剤が有する特異な効果を示す結果となった。
【0050】
[実施例9:アルキルアミド誘導体の3成分混合系のチキソトロピー性試験]
アルキルアミド誘導体の混合系ゲル(3成分混合系)のゲル粉砕後の挙動について、種々の混合割合にて評価した。
実施例2及び実施例3と同様の手順にて、透明性の向上がみられた3成分混合系として、種々の混合割合(表14及び表15参照)にて、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系の3〜5wt%(濃度は混合物としての濃度)トルエンゲルを作製した(なお表14及び表15において、この時点でゲル形成していない組成を斜線で示す)。加えて、実施例3においてトルエンゲルの透明性が良好であった混合割合[ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 1/1/10(質量比)]にて、4wt%プロピレンカーボネートゲル、4wt%ジクロロエタンゲル、4wt%SH245(東レ・ダウコーニング(株)製の環状シリコーン)ゲル、及び4wt%n−オクタンを作製した(濃度は混合物としての濃度)。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、機械的振動により内部のゲルを2秒間粉砕しゾル状とし、続いて所定時間(1分、5分、10分、1時間、2時間、及び12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。表14及び表15に、トルエンゲルをゾル状とした後再度ゲル化したものについて最短静置時間(粉砕後、ゲル状態への回復に要した時間)を示す。また表16には、トルエン以外の有機溶媒にて作製したゲルの粉砕後の挙動を示す。
また一例として、3成分混合系(ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの組成(質量比)=1/1/2、1/1/4、及び1/1/10)のトルエンゲル(4wt%)のチキソトロピー性試験結果を図10に示す。図10は、粉砕前のトルエンゲルを2秒間粉砕後、1分間静置後倒置の挙動及び5分間静置後倒置の挙動を示す。また図15に、サンプル管から取り出した、3成分混合系(ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの組成(質量比)1/1/4、及び1/1/10)のトルエンゲル(4wt%)を示す。
【0051】
【表14】
【0052】
【表15】
【0053】
【表16】
【0054】
<不揮発油を用いたアルキルアミド誘導体の単独系ゲルのチキソトロピー性試験>
比較例6〜比較例8、比較例11及び比較例12と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体(ステアリン酸アミド、ヘキサデカンアミド、n−オクタンアミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド)をゲル化剤とし、不揮発油としてオリーブ油及びスクアランを用い、前述の表3に示す最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%の濃度でゲルを作製した。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、内部のゲルを2秒間粉砕し、続いて所定時間(1分、10分、1時間又は12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。
図11図12に、各種アルキルアミド誘導体のスクアランを用いて最低ゲル化濃度でゲル化させたゲルのチキソトロピー挙動を示す。図11図12は、粉砕前のゲルを(a)〜(c)あるいは(a)〜(b)[図11(a)ステアリン酸アミド2wt%ゲル、(b)ヘキサデカンアミド2wt%ゲル、(c)n−オクタンアミド1wt%ゲル、図12(a)エルカ酸アミド2wt%、(b)ベヘン酸アミド2wt%]に、2秒間粉砕後、12時間静置後倒置の挙動(d)〜(f)あるいは(d)〜(e)[図11(d)粉砕後のステアリン酸アミド2wt%ゲル、(e)ヘキサデカンアミド2wt%ゲル、(f)n−オクタンアミド2wt%ゲル、図12(d)エルカ酸アミド2wt%、(e)ベヘン酸アミド2wt%]を示す。
アルキルアミド誘導体の各種単独系ゲルにおいては、いずれの不揮発油、いずれのアルキルアミド誘導体においても、最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%でゲル化したサンプルは、粉砕後倒置するといずれの所定時間静置後においてもゲルが垂れ落ちるかゲルから油が分離し、本試験例においてはチキソトロピー性を発現しなかった。
【0055】
[実施例10:不揮発油を用いたアルキルアミド誘導体の2成分混合系及び3成分混合系のチキソトロピー性試験]
不揮発油を用いたアルキルアミド誘導体の混合系ゲル(2成分混合系及び3成分混合系)のゲル粉砕後の挙動について、種々の混合割合にて評価した。
実施例2及び実施例3と同様の手順にて、種々の混合割合(表17、表18及び表19参照)にて、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド混合系及びステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系の0.2〜1.0wt%(濃度は混合物としての濃度)オリーブ油ゲル及びスクアランゲルを作製した(なお表17及び表18において、この時点でゲル形成していない組成を斜線で示す)。加えて、エルカ酸アミド/ベヘン酸アミド混合系の1.0および2.0wt%(濃度は混合物としての濃度)オリーブ油ゲル及びスクアランゲルを作製した。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、機械的振動により内部のゲルを2秒間粉砕しゾル状とし、続いて所定時間(1分、3分、5分、10分、30分、1時間、2時間、及び12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。表17、表18及び表19に、トルエンゲルをゾル状とした後再度ゲル化したものについて最短静置時間(粉砕後、ゲル状態への回復に要した時間)を示す。
また例として、3成分混合系(ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの組成(質量比)=1/1/10)のスクアランゲル(1wt%)のチキソトロピー性試験結果を図13に、2成分混合系(エルカ酸アミド/ベヘン酸アミドの組成(質量比)=1/1)のスクアランゲルのチキソトロピー性試験結果を図14にそれぞれ示す。
【0056】
【表17】
【0057】
【表18】
【0058】
【表19】
【0059】
【表20】
【0060】
上記表12、表13、表14、表15、表16、表18、表19及び表20に示すように、アルキルアミド誘導体の有機溶媒あるいは不揮発油から成るゲルは、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドのような2成分混合系あるいは3成分混合系にすることでチキソトロピー性を発現することが確認された。特に表15及び図10に示すように、n−オクタンアミドの混合割合を他の2種のアルキルアミド誘導体よりも高めた混合物を用いて得られるゲルについて、チキソトロピー性が得られやすいという傾向がみられた。
また上記表16に示すように、ジクロロエタン、SH245、及びn−オクタンを用いて作製したアルキルアミド誘導体3成分混合系のゲルにおいてもチキソトロピー性が発現することが確認された。
加えて、表17及び表18に示すようにオリーブ油またはスクアランのような不揮発油を用いて作製したアルキルアミド誘導体の2成分混合系あるいは3成分混合系のゲルにおいてもチキソトロピー性が発現することが確認された。
表19及び表20に示すようにエルカ酸アミド/ベヘン酸アミドのような2成分混合系のゲルについても同様なチキソトロピー性の発現が確認された。
さらに図15に示すように、3成分混合系ゲルは、3成分の混合比を最適に選択することにより機械的強度が高くなった結果、サンプル管から取り出し、自立させることが可能となり(図15(a))さらにはピンセットでつまむことが可能となった(図15(b))。
以上の通り、アルキルアミド誘導体は2成分あるいは3成分の混合系とした際に、トルエンゲル、ジクロロエタンゲル、SH245ゲル、n−オクタンゲル、オリーブ油及びスクアランにおいてチキソトロピー性を発現することが確認された。
なお前述したとおり、本発明のようにアルキル鎖長の違うアルキルアミド誘導体を2種以上組み合わせて用いることにより得られる新たな効果(チキソトロピー性)についてはこれまで報告例が無く、本結果は、本発明のゲル化剤が有する特異な効果を示す結果となった。
【0061】
[実施例11:アルキルウレア誘導体混合系のゲル化試験1]
比較例1と同様の手順にて、アルキルウレア誘導体の2成分混合系のトルエン溶液におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表21参照、濃度は混合物としての濃度)にて、オクタデシル尿素及びブチル尿素のトルエン溶液を調製し、ゲル化試験を行った。観察結果を表21に示す。またトルエン溶液にて実施した試験の放冷後の各サンプル管の写真を図16[濃度4wt%]に示す。
これらの結果より、オクタデシル尿素とブチル尿素の2成分混合系のゲルが、幅広い混合比でゲルを形成すること、またブチル尿素の比率が高い方がゲルを形成しやすいことが確認された。加えて、アルキルウレア誘導体それぞれの単独系でのトルエン溶液の最低ゲル化濃度(2.0wt%又は6.0wt%)と比較して、2成分混合系の最低ゲル化濃度は低いものとなった(1.0wt%)。このようにアルキルウレア誘導体は、トルエン溶液において、単独系に比べて2成分混合系の方がゲルを形成しやすいことが確認された。
【0062】
【表21】
【0063】
[実施例12:アルキルウレア誘導体混合系のゲル化試験2]
比較例1と同様の手順にて、アルキルウレア誘導体の2成分混合系の不揮発油におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表22参照、濃度は混合物としての濃度)にて、オクタデシル尿素/ウレア尿素の不揮発油溶液を調製し、ゲル化試験を行った(1成分系でゲル形成が確認されたミリスチン酸イソプロピルについてのみ実施した)。観察結果を表22に示す。
これらの結果から、アルキルウレア誘導体の2成分混合系のミリスチン酸イソプロピル溶液においてもゲル化することが確認された。
【0064】
【表22】
【0065】
[実施例13:アルキルウレア誘導体混合系ゲルの透過率測定]
実施例11で得られたアルキルウレア誘導体2成分混合系のトルエンゲル(3wt%、濃度は混合物としての濃度)並びに比較例4及び5のアルキルウレア誘導体単独系のトルエンゲル(最低ゲル化濃度)の波長400nm〜700nmにおける透過率測定を行った。
得られた結果を表23に示す。これらの結果から、アルキル鎖長の短いブチル尿素の比率を増加させることによる、得られるトルエンゲルの透明性の増加が分光学的にも確認された。
【0066】
【表23】
【0067】
[実施例14:アルキルウレア誘導体混合系ゲルの熱挙動]
実施例11で得られたアルキルウレア誘導体2成分混合系のトルエンゲル(3wt%、濃度は混合物としての濃度)並びに比較例4及び5のアルキルウレア誘導体単独系のトルエンゲル(最低ゲル化濃度)を前述の手順に倣い作製した。
次に得られた各ゲルについて、ゾル−ゲル転移温度ならびにゲル−ゾル転移温度を示差走査熱量計により測定した。得られた結果を表24及び図17[(A):(a)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素6wt%トルエンゲル;(B):(a)オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比1/1 3wt%トルエンゲル、(b)同 1/2 3wt%トエンゲル、(c)同 1/4 3wt%トルエンゲル、(d)同 1/10 3wt%トルエンゲル。]に示す。
【0068】
【表24】
【0069】
表24に示すように、アルキルウレア誘導体をゲル化剤として用いた単独系及び2成分混合系ゲルはゾル−ゲル転移することが定量的に確認された。
【0070】
[実施例15:アルキルウレア誘導体単独系ゲル及び混合系ゲルの粘弾性特性評価]
アルキルウレア誘導体2成分混合系のトルエンゲル(3wt%、濃度は混合物としての濃度)並びにアルキルウレア誘導体単独系のトルエンゲル(最低ゲル化濃度)を前述の手順に倣い作製し、これらゲルの粘弾性評価を行い、ゲル状態を力学的観点から検証した。得られた結果を図18(単独系ゲル:(a)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素6wt%トルエンゲル)及び図19(2成分混合系ゲル:(a)オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比 1/1 3wt%トルエンゲル、(b)同 1/2 3wt%トルエンゲル)に示す。
図18(A)及び図19(A)及び(C)(周波数依存測定)に示すように、周波数に依存せずほぼ平坦な貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を示し、かつG’>G”であることから、測定サンプルはゲル状態(固体状態)にあることが確認された。
また図18(B)及び図19(B)及び(D)(歪依存測定)に示すように、歪初期はほぼ平坦な貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”を示したものが、歪の増加により(0.1〜1.0%付近)、G’<G”と逆転し、サンプルがゲル状態(G’>G”)から液体状態(G’<G”)へと変化したことが確認された。このように、ゲル状態のサンプルに歪をかけることでゲル−ゾル転移が生じることが力学的に確認された。
【0071】
[実施例16:アルキルウレア誘導体の単独系及び2成分混合系のチキソトロピー性試験]
アルキルウレア誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(2成分混合系)のゲル粉砕後の挙動(チキソトロピー性)を評価した。
【0072】
<アルキルウレア誘導体の単独系ゲル>
比較例4〜比較例5、比較例11及び比較例12と同様の手順にて、アルキルウレア誘導体(オクタデシル尿素あるいはブチル尿素)をゲル化剤とし、有機溶媒としてプロピレンカーボネート、ジクロロエタン、トルエン及びミリスチン酸イソプロピルを用い、前述の表2に示す最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%〜0.5wt%の濃度でゲルを作製した。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、内部のゲルを2秒間粉砕し、続いて所定時間(1分、10分、1時間又は12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。
図20及び図21に、各種アルキルウレア誘導体のトルエン及びミリスチン酸イソプロピルを用いて最低ゲル化濃度でゲル化させたゲルのチキソトロピー挙動をそれぞれ示す。図20及び図21は、粉砕前のゲルを(a)〜(b)[図20(a)オクタデシル尿素3wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素6wt%トルエンゲル、図21(a)オクタデシル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル、(b)ブチル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル]に、2秒間粉砕後、12時間静置後倒置の挙動(c)〜(d)[図20(c)オクタデシル尿素3wt%トルエンゲル、(d)ブチル尿素6wt%トルエンゲル、図21(c)オクタデシル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル、(d)ブチル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル]を示す。
アルキルウレア誘導体の各種単独系ゲルにおいては、いずれの有機溶媒、いずれのアルキルウレア誘導体においても、最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%〜0.5wt%でゲル化したサンプルは、粉砕後倒置するといずれの所定時間静置後においてもゲルが垂れ落ち、本試験例においてはチキソトロピー性を発現しなかった。
【0073】
<アルキルウレア誘導体の混合系ゲル(2成分混合系)のチキソトロピー性試験>
アルキルウレア誘導体の2成分混合系のゲル粉砕後の挙動について、種々の混合割合(表25参照)にて評価した。
実施例11と同様の手順にて、種々の混合割合(表25参照)で0.5〜4wt%(濃度は混合物としての濃度)のトルエンゲルを作製した(なお表25において、この時点でゲル形成していない組成を斜線で示す)。加えて、結果が良好であった混合割合であるオクタデシル尿素/ブチル尿素=1/4及び1/10(質量比)にて、5.0wt%プロピレンカーボネートゲル(混合系ゲルの最低ゲル化濃度)及び3.0wt%ジクロロエタンゲルを作製した(濃度は混合物としての濃度)。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、機械的振動により内部のゲルを2秒間粉砕しゾル状とし、続いて所定時間(1分、10分、1時間、及び12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。ゾル状とした後再度ゲル化したものについては最短静置時間(粉砕後、ゲル状態への回復に要した時間)を表25に、プロピレンカーボネート及びジクロロエタンを用いて作製したゲルの粉砕後の挙動を表26に示す。
また、図22に、各種アルキルウレア誘導体(2成分混合系)の3wt%トルエン溶液のゲル化挙動((A)粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((B)粉砕後1分間静置後の倒置サンプル、(C)粉砕後30分間静置後の倒置サンプル)を示す(図内の数字はオクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比を示す)。
さらに図23に、アルキルウレア誘導体(2成分混合系:オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比1/1)のミリスチン酸イソプロピル溶液のゲル化挙動((a)、(b)粉砕前の倒置サンプル:(a)0.5wt%、(b)1.0wt%)及びチキソトロピー挙動((c)、(d)粉砕後30分間静置後の倒置サンプル:(c)0.5wt%、(d)1.0wt%)を示す。
【0074】
【表25】
【0075】
【表26】
【0076】
【表27】
【0077】
上記表25に示すように、アルキルウレア誘導体のトルエンゲルは、誘導体1種を用いた単独系におけるトルエンゲルではチキソトロピー性を発現しないものの、オクタデシル尿素/ブチル尿素のように2成分混合系にすることで、チキソトロピー性を発現する場合があることが確認された。
加えて、上記表26に示すように、プロピレンカーボネート及びジクロロエタンを用いて作製したアルキルウレア誘導体2成分混合系のゲルにおいてもチキソトロピー性が発現することが確認された。
さらに表27に示すように不揮発油であるミリスチン酸イソプロピルを用いて作製したアルキルウレア誘導体2成分混合系のゲルにおいてもチキソトロピー性が発現することが確認された。
以上の通り、アルキルウレア誘導体は2成分の混合系とした際に、プロピレンカーボネートゲル、ジクロロエタンゲル、トルエンゲル及びミリスチン酸イソプロピルにおいてチキソトロピー性を発現することが確認された。
【0078】
なお前述のように、本発明のようにアルキル鎖長の違うアルキルウレア誘導体を2種以上組み合わせて用いることにより得られる新たな効果(チキソトロピー性)についてはこれまで報告例が無く、本結果は、本発明のゲル化剤が有する特異な効果を示す結果となった。
【0079】
[実施例17:アルキルアミド誘導体の単独系及び混合系のチキソトロピー性評価]
アルキルアミド誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(3成分混合系)のゲル粉砕前後の挙動をレオメータにて評価した。得られた結果を図24[(a)3成分混合系:ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド=1/1/10(質量比)、4wt%トルエンゲル、(b)ステアリン酸アミド単独、3wt%トルエンゲル、(c)ヘキサデカンアミド単独、3wt%トルエンゲル、(d)n−オクタンアミド単独、3wt%トルエンゲル]にそれぞれ示す。
図24に示すように、単独系ゲル(図24(b)〜(d))と比較して、3成分混合系ゲル(図24(a))の方が、粉砕後の貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の回復が大きく、かつ、単独系ゲルでは回復後G’≧G”(ゲル状態〜液体状態)となっているのに対し、混合系ゲルでは回復後に明確にG’>G”(ゲル状態)を示しており、混合系ゲルの方が良好なチキソトロピー性を有することが力学的にも確認された。
【0080】
[実施例18:アルキルウレア誘導体の単独系及び混合系のチキソトロピー性評価]
アルキルウレア誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(2成分混合系)のゲル粉砕前後の挙動をレオメータにて評価した。得られた結果を図25[(a)2成分混合系:オクタデシル尿素/ブチル尿素=1/4(質量比)、3wt%トルエンゲル、(b)2成分混合系:同1/10 3wt%トルエンゲル、(c)オクタデシル尿素単独、2wt%トルエンゲル、ブチル尿素単独、6wt%トルエンゲル]にそれぞれ示す。
図25に示すように、単独系ゲル(図25(c)〜(d))と比較して、2成分混合系ゲル(図25(a)〜(b))の方が、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の回復が大きく、かつ、単独系ゲルでは回復後G’≧G”(ゲル状態〜液体状態)となっているのに対し、混合系ゲルでは回復後に明確にG’>G”(ゲル状態)を示しており、混合系ゲルの方が良好なチキソトロピー性を有することが力学的にも確認された。
【0081】
[比較例13:アルキルアミド誘導体を用いて形成されるゲルの微細構造観察]
前述の比較例1〜比較例3と同様の手順にて、3種のアルキルアミド誘導体(単独)の最低ゲル化濃度にてトルエンゲルを形成した。こうして得られたゲルを室温にて真空乾燥させることによりキセロゲルを得、得られたキセロゲルの状態を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。得られた結果を図26[(a)ステアリン酸アミド トルエンキセロゲル、(b)ヘキサデカンアミド トルエンキセロゲル、(c)n−オクタンアミド トルエンキセロゲル]及び図27[(a)ステアリン酸アミド トルエンキセロゲル、(b)ヘキサデカンアミド トルエンキセロゲル、(c)n−オクタンアミド トルエンキセロゲル]に示す。また、真空乾燥前のトルエンゲルの状態を偏光顕微鏡観察により得られた結果を図27[(d)ステアリン酸アミド 3wt%トルエンゲル、(e)ヘキサデカンアミド 3wt%トルエンゲル、(f)n−オクタンアミド 3wt%トルエンゲル]に示す。
図26及び図27に示すように、アルキルアミド誘導体(単独系)のトルエンキセロゲルは、数100nm厚・数10μm幅の多層シートから構成されていることが確認された。また、アルキルアミド誘導体(単独系)のトルエンゲルはSEM観察結果に対応したシート状結晶のネットワークから構成されることが確認された。
【0082】
[比較例14:アルキルウレア誘導体を用いて形成されるゲルの微細構造観察]
前述の比較例4〜比較例5と同様の手順にて、2種のアルキルウレア誘導体(単独)の最低ゲル化濃度にてトルエンゲルを形成した。こうして得られたゲルを室温にて真空乾燥させることによりキセロゲルを得、得られたキセロゲルの状態をSEMにて観察した。得られた結果を図28[(a)オクタデシル尿素 トルエンキセロゲル、(b)ブチル尿素 トルエンキセロゲル]に示す。また、真空乾燥前のトルエンゲルの状態を偏光顕微鏡観察により得られた結果を図29[(a)オクタデシル尿素 2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素 6wt%トルエンゲル]に示す。
図28及び図29に示すように、アルキルウレア誘導体(単独系)のトルエンキセロゲルは、数100nm厚・数10μm幅の多層シートから構成されていることが確認された。また、アルキルウレア誘導体(単独系)のトルエンゲルはSEM観察結果に対応したシート状結晶のネットワークから構成されることが確認された。
【0083】
ちなみに、粘土鉱物のnm厚・数10μm幅の板状結晶や、オイルワックスの数100nm厚・数10μm幅の板状ワックス結晶は、それらシート状物質(板状の結晶)を骨組みとして構成されるカードハウス構造の空隙に、水あるいは有機溶媒を保持することで含溶媒固形物をつくることが知られている(参考文献:(1)「粘土ハンドブック」技報堂出版(株)(2009年)、(2)「ゲルコントロール−ゲルの上手な作り方とゲル化の抑制−」(株)情報機構(2009年)15頁−17頁、(3)Colloids and Surfaces,51巻(1990年)219頁−238頁、など)。
すなわち、アルキルアミド誘導体あるいはアルキルウレア誘導体をゲル化剤として用い、媒体:トルエンにて形成したゲルにおいて、乾燥ゲル(キセロゲル)の状態で多層シート構造がみられたとする上述の結果は、アルキルアミド誘導体あるいはアルキルウレア誘導体をゲル化剤として用いて形成したトルエンゲルがカードハウス構造を有し、該構造の空隙において溶媒を保持し、ゲル形成に至ったと考えることができる。なお多層シート構造は、カードハウス構造を形成するシート状物質が乾燥過程で凝集することで生成したものと推測される。
【0084】
[実施例19:アルキルアミド誘導体混合系のゲルの微細構造観察]
前述の実施例3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の3成分混合系のトルエンゲルを調製した。得られたゲルを室温にて真空乾燥させることによりキセロゲルを得、得られたキセロゲルの状態をSEMにて観察した。得られた結果を図26[(d)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比:1/1/2 トルエンキセロゲル、(e)同1/1/4 トルエンキセロゲル、(f)同1/1/10 トルエンキセロゲル]に示す。
図26に示すように、アルキル鎖長の短いn−オクタンアミドの比率が増加するに従い、数十マイクロメートル長・サブマイクロメートル厚のシート状結晶から数マイクロメートル長・サブマイクロメートル厚のフレーク状結晶となり、ゲルを構成するネットワークの密度が高くなっていくことが確認された。
【0085】
[実施例20:アルキルウレア誘導体混合系のゲルの微細構造観察]
前述の実施例11と同様の手順にて、アルキルウレア誘導体2成分混合系のトルエンゲルを調製した。得られたゲルを室温にて真空乾燥させることによりキセロゲルを得、得られたキセロゲルの状態をSEMにて観察した。得られた結果を図28[(c)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比:1/1 トルエンキセロゲル、(d)同1/2 トルエンキセロゲル、(e)同1/4 トルエンキセロゲル、(f)同1/10 トルエンキセロゲル]に示す。
図28に示すように、アルキル鎖長の短いブチル尿素の比率が増加するに従い、数マイクロメートル長・サブマイクロメートル厚のシート状結晶から数マイクロメートル長・サブマイクロメートル厚のテープ状又はファイバー状結晶となり、ゲルを構成するネットワークの密度が高くなっていくことが確認された。
【0086】
[実施例21:アルキルアミド誘導体混合系のゲルのX線回折測定]
前述のアルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエンゲルについて、小角領域におけるX線回折測定を行った。同様に、ゲル化前のアルキルアミド誘導体3種それぞれの結晶サンプル(試薬品)及びアルキルアミド誘導体単独系ゲルのX線回折測定を行った。得られた結果を図30[(a)(1)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(2)同1/1/10 4wt%トルエンゲル、(3)ステアリン酸アミド結晶サンプル、(4)ヘキサデカンアミド結晶サンプル、(5)n−オクタンアミド結晶サンプル;
(b)(1)ステアリン酸アミド結晶サンプル、(2)ヘキサデカンアミド結晶サンプル、(3)n−オクタンアミド結晶サンプル、(4)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(5)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(6)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル]に示す。
また図31に、アルキルアミド誘導体(3種)の分子モデル(分子長はChemDraw3Dにより算出)を示す。
図30(b)に示すように、アルキルアミド誘導体の各結晶サンプル((1)〜(3))と単独系トルエンゲル((4)〜(6))のピークはよく一致していることが確認された。そして図30(a)に示すように、アルキル鎖長の短いn−オクタンアミドの比率が増加するに従い、n−オクタンアミドに帰属できるピークが観測されるようになった。このように、3成分混合系トルエンゲルのネットワークは、主にn−オクタンアミドから形成されるフレーク状結晶により構成されることが確認された。
なお、文献(Acta Cryst.(1995年)8巻 頁551−)によると、アルキルアミド誘導体(テトラデカンアミド)は結晶状態において、水素結合を介して二量体を形成(例えば図31参照)していることが観測されている。しかしながら、図31(a)に示すようにアルキルアミド誘導体を二量体となるように配置することで得た分子長は、本実施例の実験結果と合致せず、X線回折測定より得られたピークは、図31(b)のようなラメラ構造の回折より得られたものと推察される。
【0087】
[実施例22:アルキルウレア誘導体混合系のゲルのX線回折測定]
前述のアルキルウレア誘導体の2成分混合系のトルエンゲルについて、小角領域におけるX線回折測定を行った。同様に、ゲル化前のアルキルウレア誘導体2種それぞれの結晶サンプル及びアルキルウレア誘導体単独系ゲルのX線回折測定を行った。得られた結果を図32[(a)(1)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比 1/1 3wt%トルエンゲル、(2)同1/2 3wt%トルエンゲル、(3)オクタデシル尿素結晶サンプル、(4)ブチル尿素結晶サンプル;(b)(1)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比 1/4 3wt%トルエンゲル、(2)同1/10 3wt%トルエンゲル、(3)オクタデシル尿素結晶サンプル、(4)ブチル尿素結晶サンプル;(c)(1)オクタデシル尿素結晶サンプル、(2)ブチル尿素結晶サンプル;(d)(1)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(2)ブチル尿素6wt%トルエンゲル]。
また図33(a)に、アルキルウレア誘導体(2種)の分子モデル(分子長はChemDraw3Dにより算出)を、図33(b)に文献(Chemistry A European Journal (2005年) 11巻 3243頁−3245頁)にて示唆されたオクタデシル尿素のラメラ構造を示す。
図32(c)及び(d)に示すように、オクタデシル尿素およびブチル尿素の結晶サンプルと単独系ゲルのピークは一致しておらず、ゲル状態では図33(b)に示すラメラ構造をとり、より短周期側に回折ピークがみられるものと推察される。
また図32(a)及び(b)に示すように、2成分混合系のトルエンゲルにおいて、アルキル鎖長の短いブチル尿素の比率が増加するに従い、ブチル尿素に帰属できるピークが観測され、一方オクタデシル尿素に帰属できるピークの減少がみられた。このように、2成分混合系トルエンゲルのネットワークは、主にブチル尿素から形成されるテープ状結晶あるいはファイバー状結晶により構成されることが確認された。
【0088】
上記の実施例19〜実施例22の結果より、アルキルアミド誘導体あるいはアルキルウレア誘導体の混合系ゲルにおいて、アルキル鎖長の短いアルキルアミド誘導体(n−オクチルアミド)あるいはアルキルウレア誘導体(ブチル尿素)の比率が増加するに従い、ゲルのネットワークを構成するシート状結晶がより小さなフレーク状結晶あるいはファイバー状結晶へと変化すること、そしてネットワークの網目がより細かくなることで、ネットワーク密度が高くなることが確認された。
こうしたアルキルアミド誘導体又はアルキルウレア誘導体の混合系ゲルでのネットワーク密度の向上が、ポリマーネットワークでのネットワーク密度の向上が機械的強度等の向上に寄与するように、混合系ゲルの機械的物性等(チキソトロピー性)の向上に寄与したものと考えられる。また、透明性の向上は、ネットワークの構成要素がサブマイクロメートル幅となり、光の波長以下となることで、光の散乱が抑えられたためだと推察される。
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