【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例で記述する試薬は東京化成工業(株)、溶媒は和光純薬工業(株)より入手し、そのまま使用した。具体的には、ステアリン酸アミド(90%)、ヘキサデカンアミド(95%)、n−オクタンアミド(98%)、オクタデシル尿素(97%)、およびブチル尿素(96%)、エルカ酸アミド(85%)、ベヘン酸アミド(75%)である。
また以下に各種測定及び分析に用いた装置及び条件を示す。
(1)透過率測定
・HR4000スペクトロメータ、オーシャンフォトニクス(株)製
・光路長10mmの石英セルにサンプルを入れて測定
(2)チキソトロピー性試験(ゲルの粉砕)
・装置:ボルテックスミキサー(ジェニー2)、アズワン(株)製
(3)示差走査熱量測定
・装置:EXSTAR6000 熱分析装置、(株)日立ハイテクサイエンス製
・使用容器:Ag製の密封型試料容器
・昇温速度及び降温速度:2℃/分
(4)ゲルの粘弾性評価及びチキソトロピー性評価
・MCR−301、(株)アントンパール・ジャパン製、
・測定条件:測定治具 8mm直径のパラレルプレート、0.50mmギャップ、測定温度25℃、はみ出たゲルは拭き取って測定
・周波数依存測定:0.01%歪一定で測定
・歪依存測定:角周波数(1 rad/秒)一定で測定
・チキソトロピー性評価:低せん断(歪振幅 0.01%、周波数 1Hz)と高せん断(0.1秒間でせん断速度 3000秒
−1印加)を繰り返し印加して、弾性率の変化を測定
(5)光学顕微鏡観察
・Leica DM2500、ライカマイクロシステムズ
(6)走査型電子顕微鏡写真
・装置:SU−8000、日立ハイテクノロジーズ(株)製
・加速電圧:1.0kV
・サンプル処理:導電性の物質(Pt)によるサンプル処理を行った(Pt膜厚10nm)。
(7)X線回折測定
・D8 DISCOVER 多機能薄膜材料評価X線回折装置、ブルカー・エイエックスエス(株)製
・CuKα線使用、26℃で測定、1mm直径のキャピラリーガラスにサンプルを入れて測定
【0022】
[比較例1〜比較例12:アルキルアミド誘導体及びアルキルウレア誘導体のゲル化試験(単独系)]
4mlサンプル管にアルキルアミド誘導体又はアルキルウレア誘導体と、これら誘導体の添加量がそれぞれ所定の質量パーセント(wt%)となるように各種有機溶媒(プロピレンカーボネート、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、n−ブタノール、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、SH245(東レ・ダウコーニング(株)製の環状シリコーン、デカメチルシクロペンタシロキサン)、トルエン、n−オクタン)を入れた。サンプル管の蓋をして、沸点が100℃を超える有機溶媒については、100℃で、それ以外の有機溶媒については沸点の5℃下まで加熱し、アルキルアミド誘導体溶液又はアルキルウレア誘導体溶液を作製した。その後、これら溶液を室温(およそ25℃)で放冷し、ゲル化を確認した。なお、放冷後、溶液の流動性が失われて、サンプル管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化」と判断した。
このゲル化試験を種々のアルキルアミド誘導体(ステアリン酸アミド、ヘキサデカンアミド、又はn−オクタンアミド)及びアルキルウレア誘導体(オクタデシル尿素又はブチル尿素)を用い、種々の濃度の溶液について行い、ゲル化に要するアルキルアミド誘導体又はアルキルウレア誘導体の最低濃度(wt%)を、最低ゲル化濃度とした。またこのとき形成したゲルの状態を観察した。
加えて、同様に不揮発性油(オリーブ油、スクアラン、およびミリスチン酸イソプロピル)に対するゲル化を確認した。
得られた結果を表1(アルキルアミド誘導体)、表2(アルキルウレア誘導体)、及び表3(不揮発油に対するアルキルアミド誘導体及びアルキルウレア誘導体)に示す。また各種有機溶媒を用いて実施した試験の放冷後の各サンプル管の写真(最低ゲル化濃度にて形成したゲルの写真、但しゲル形成に至らず溶液状態のものを除く)を
図1(アルキルアミド誘導体:(A)ステアリン酸アミド、(B)ヘキサデカンアミド、(C)n−オクタンアミド))、
図2(アルキルウレア誘導体:(A)オクタデシル尿素、(B)ブチル尿素)及び
図3(アルキルアミド誘導体:(A)ステアリン酸アミド、(B)ヘキサデカンアミド、(C)n−オクタンアミド、(D)エルカ酸アミド、(E)ベヘン酸アミド、アルキルウレア誘導体:(F)オクタデシル尿素、(G)ブチル尿素)にそれぞれ示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
表1、表2及び表3、
図1、
図2及び
図3に示すように、アルキルアミド誘導体及びアルキルウレア誘導体は様々な比誘電率を有する各種有機溶媒及び各種不揮発油に対するゲル形成能を有するという結果が得られた。
【0027】
[実施例1:アルキルアミド誘導体混合系のゲル化試験1]
比較例1〜3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の2成分混合系のトルエン溶液におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表4〜表6参照、濃度は混合物としての濃度)にて、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド、及びヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドのトルエン溶液を調製し、ゲル化試験を行った。観察結果を表4〜表6に示す。またトルエン溶液にて実施した試験の放冷後の各サンプル管の写真を
図4[(a)ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド:濃度4wt%、(b)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド:濃度4wt%、(c)ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド:濃度4wt%]に示す。
これらの結果より、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド混合系のゲルと比較して、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド及びヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系のゲルの方が、幅広い混合比でゲル形成できることが確認された。加えて、アルキルアミド誘導体それぞれの単独系でのトルエン溶液の最低ゲル化濃度(3.0wt%又は6.0wt%)と比較して、2成分混合系の最低ゲル化濃度は低いものとなった(2.0wt%)。このようにアルキルアミド誘導体は、トルエン溶液において、単独系に比べて2成分混合系の方がゲルを形成しやすいことが確認された。
【0028】
【表4】
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
[実施例2:アルキルアミド誘導体混合系のゲル化試験2]
比較例1〜3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の3成分混合系のトルエン溶液におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表7参照、濃度は混合物としての濃度)にて、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドのトルエン溶液を調製し、ゲル化試験を行った。観察結果を表7に示す。またトルエン溶液にて実施した試験の放冷後の各サンプル管の写真を
図5(A)[濃度4wt%]に示す。
これらの結果から、アルキルアミド誘導体の3成分混合系のトルエン溶液においてもゲル化すること、またn−オクタンアミドの比率が高い混合系が低濃度でもゲルを形成しやすいことが確認された。
【0032】
【表7】
【0033】
[実施例3:アルキルアミド誘導体混合系のゲル化試験3]
比較例1と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の3成分混合系のトルエンゲルにおいて、実施例2において良好な結果が得られたn−オクタンアミドの比率が高い混合系を検証すべく、n−オクタンアミドの比率を変化させた溶液についてのゲル化試験を行った。
ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比を1/1/1、1/1/2、1/1/4、1/1/10のように変化させた時の4wt%トルエン溶液(濃度は混合物としての濃度)について得られた結果を
図5(B)に示す。
これらの結果から、アルキル鎖長の短いn−オクタンアミドの比率を増加させることにより、得られるトルエンゲルの透明性の増加が確認された。
【0034】
[実施例4:アルキルアミド誘導体混合系のゲル化試験4]
比較例1〜3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の2成分混合系および3成分混合系の不揮発油におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表8参照、濃度は混合物としての濃度)にて、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド、エルカ酸アミド/ベヘン酸アミドの不揮発油溶液を調製し、ゲル化試験を行った。観察結果を表8に示す。
これらの結果から、アルキルアミド誘導体の2成分混合系及び3成分混合系の不揮発油溶液においてもゲル化すること、またn−オクタンアミドの比率が高い混合系が低濃度でもゲルを形成しやすいことが確認された。
【0035】
【表8】
【0036】
[実施例5:アルキルアミド誘導体混合系ゲルの透過率測定]
実施例3で得られたアルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエンゲル(4wt%、濃度は混合物としての濃度)並びに比較例1〜3のアルキルアミド誘導体単独系のトルエンゲル(最低ゲル化濃度)の波長400nm〜700nmにおける透過率測定を行った。
得られた結果を表9に示す。これらの結果から、アルキル鎖長の短いn−オクタンアミドの比率を増加させることによる、得られるトルエンゲルの透明性の増加が分光学的にも確認された。
【0037】
【表9】
【0038】
[実施例6:アルキルアミド誘導体混合系ゲルの熱挙動]
実施例3で得られたアルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエンゲル(4wt%、濃度は混合物としての濃度)並びに比較例1〜3のアルキルアミド誘導体単独成分系のトルエンゲル(各誘導体 最低ゲル化濃度)を前述の手順に倣い作製した。
次に得られた各ゲルについて、ゾル−ゲル転移温度ならびにゲル−ゾル転移温度を示差走査熱量計により測定した。得られた結果を表10及び
図6[(A):(a)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(b)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(c)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル;(B):(a)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 質量混合比1/1/2 4wt%トルエンゲル、(b)同 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(c)同 1/1/10 4wt%トルエンゲル。]に示す。
【0039】
【表10】
【0040】
表10に示すように、アルキルアミド誘導体をゲル化剤として用いた単独系及び3成分混合系ゲルはゾル−ゲル転移することが定量的に確認された。
【0041】
[実施例7:アルキルアミド誘導体単独系ゲル及び3成分混合系ゲルの粘弾性特性評価]
アルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエンゲル(4wt%、濃度は混合物としての濃度)並びにアルキルアミド誘導体単独系のトルエンゲル(各誘導体 最低ゲル化濃度)を前述の手順に倣い作製し、これらゲルの粘弾性評価を行い、ゲル状態を力学的観点から検証した。得られた結果を
図7(単独系ゲル:(a)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(b)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(c)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル)及び
図8(3成分混合系ゲル:(a)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 質量混合比 1/1/2 4wt%トルエンゲル、(b)同 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(c)同 1/1/10 4wt%トルエンゲル)に示す。
図7(A)及び
図8(A)(周波数依存測定)に示すように、単独系ゲル及び3成分混合系ゲルの何れにおいても、周波数に依存せずほぼ平坦な貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を示し、かつG’>G”であることから、測定サンプルはゲル状態(固体状態)にあることが確認された。
また
図7(B)及び
図8(B)(歪依存測定)に示すように、歪初期はほぼ平坦な貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”かつG’>G”を示したものが、歪の増加により(0.1〜1.0%付近)、G’<G”と逆転し、サンプルがゲル状態(G’>G”)から液体状態(G’<G”)へと変化したことが確認された。このように、ゲル状態のサンプルに歪をかけることでゲル−ゾル転移が生じることが力学的に確認された。
【0042】
[実施例8:アルキルアミド誘導体の単独系及び2成分混合系のチキソトロピー性試験]
アルキルアミド誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(2成分混合系)のゲル粉砕後の挙動(チキソトロピー性)を評価した。
【0043】
<アルキルアミド誘導体の単独系ゲルのチキソトロピー性試験>
比較例1〜比較例3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体(ステアリン酸アミド、ヘキサデカンアミド、あるいはn−オクタンアミド)をゲル化剤とし、有機溶媒としてプロピレンカーボネート、ジクロロエタン、トルエン、SH245及びn−オクタンを用い、前述の表1に示す最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%の濃度でゲルを作製した。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、内部のゲルを2秒間粉砕し、続いて所定時間(1分、10分、1時間又は12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。
図9に、各種アルキルアミド誘導体のトルエンを用いて最低ゲル化濃度でゲル化させたゲルのチキソトロピー挙動を示す。
図9は、粉砕前のトルエンゲルを(a)〜(c)[(a)ステアリン酸アミド3wt%ゲル、(b)ヘキサデカンアミド6wt%ゲル、(c)n−オクタンアミド3wt%ゲル]に、2秒間粉砕後、12時間静置後倒置の挙動(d)〜(f)[(d)粉砕後のステアリン酸アミド3wt%ゲル、(e)ヘキサデカンアミド6wt%ゲル、(f)n−オクタンアミド3wt%ゲル]を示す。
アルキルアミド誘導体の各種単独系ゲルにおいては、いずれの有機溶媒、いずれのアルキルアミド誘導体においても、最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%でゲル化したサンプルは、粉砕後倒置するといずれの所定時間静置後においてもゲルが垂れ落ち、本試験例においてはチキソトロピー性を発現しなかった。
【0044】
<アルキルアミド誘導体の混合系ゲル(2成分混合系)のチキソトロピー性試験>
アルキルアミド誘導体の混合系ゲル(2成分混合系)のゲル粉砕後の挙動について、種々の混合割合(表11〜表13参照)にて評価した。
実施例1と同様の手順にて、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド混合系、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド混合系、又はヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系のそれぞれについて、種々の混合割合(表11〜表13参照)で2〜4wt%(濃度は混合物としての濃度)のトルエンゲルを作製した(なお表11〜表13において、この時点でゲル形成していない組成を斜線で示す)。次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、機械的振動により内部のゲルを2秒間粉砕しゾル状とし、続いて所定時間(1分、10分、1時間、及び12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。ゾル状とした後再度ゲル化したものについては最短静置時間(粉砕後、ゲル状態への回復に要した時間)を表11(ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド混合系)、表12(ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド混合系)及び表13(ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系)にそれぞれ示す。
【0045】
【表11】
【0046】
【表12】
【0047】
【表13】
【0048】
上記表12及び表13に示すように、アルキルアミド誘導体のトルエンゲルは、誘導体1種を用いた単独系におけるトルエンゲルではチキソトロピー性を発現しないものの、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミドのように2成分混合系にすることで、チキソトロピー性を発現する場合があることが確認された。また、上記表11に示すようにステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド混合系のように、混合系の組み合わせによってはチキソトロピー性を発現しないことはもちろんのことゲル形成自体に至らない場合があり、適切な混合系の選択と混合比の選択することがチキソトロピー性発現並びにゲル形成に重要であることが確認された。
【0049】
なお、混合系のゲルの研究は、K.Hanabusa et al.,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,(1993年)1382頁−1383頁をはじめとして行われ、D.K.Smith et al.,Chem.Eur.J.,(2005年)、11巻、5496頁−5508頁、C.A.Dreiss,Soft Matter、(2007年)、3巻、956頁−970頁、S.J.Rowan et al.,Chem.Soc.Rev.,(2012年)、41巻、6089頁−6102頁などの総説にまとめられているが、本発明のようにアルキル鎖長の違うアルキルアミド誘導体を2種以上混合して得られる新たな効果(チキソトロピー性)については報告例は無い。このように本実施例は、本発明のゲル化剤が有する特異な効果を示す結果となった。
【0050】
[実施例9:アルキルアミド誘導体の3成分混合系のチキソトロピー性試験]
アルキルアミド誘導体の混合系ゲル(3成分混合系)のゲル粉砕後の挙動について、種々の混合割合にて評価した。
実施例2及び実施例3と同様の手順にて、透明性の向上がみられた3成分混合系として、種々の混合割合(表14及び表15参照)にて、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系の3〜5wt%(濃度は混合物としての濃度)トルエンゲルを作製した(なお表14及び表15において、この時点でゲル形成していない組成を斜線で示す)。加えて、実施例3においてトルエンゲルの透明性が良好であった混合割合[ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド 1/1/10(質量比)]にて、4wt%プロピレンカーボネートゲル、4wt%ジクロロエタンゲル、4wt%SH245(東レ・ダウコーニング(株)製の環状シリコーン)ゲル、及び4wt%n−オクタンを作製した(濃度は混合物としての濃度)。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、機械的振動により内部のゲルを2秒間粉砕しゾル状とし、続いて所定時間(1分、5分、10分、1時間、2時間、及び12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。表14及び表15に、トルエンゲルをゾル状とした後再度ゲル化したものについて最短静置時間(粉砕後、ゲル状態への回復に要した時間)を示す。また表16には、トルエン以外の有機溶媒にて作製したゲルの粉砕後の挙動を示す。
また一例として、3成分混合系(ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの組成(質量比)=1/1/2、1/1/4、及び1/1/10)のトルエンゲル(4wt%)のチキソトロピー性試験結果を
図10に示す。
図10は、粉砕前のトルエンゲルを2秒間粉砕後、1分間静置後倒置の挙動及び5分間静置後倒置の挙動を示す。また
図15に、サンプル管から取り出した、3成分混合系(ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの組成(質量比)1/1/4、及び1/1/10)のトルエンゲル(4wt%)を示す。
【0051】
【表14】
【0052】
【表15】
【0053】
【表16】
【0054】
<不揮発油を用いたアルキルアミド誘導体の単独系ゲルのチキソトロピー性試験>
比較例6〜比較例8、比較例11及び比較例12と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体(ステアリン酸アミド、ヘキサデカンアミド、n−オクタンアミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド)をゲル化剤とし、不揮発油としてオリーブ油及びスクアランを用い、前述の表3に示す最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%の濃度でゲルを作製した。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、内部のゲルを2秒間粉砕し、続いて所定時間(1分、10分、1時間又は12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。
図11、
図12に、各種アルキルアミド誘導体のスクアランを用いて最低ゲル化濃度でゲル化させたゲルのチキソトロピー挙動を示す。
図11、
図12は、粉砕前のゲルを(a)〜(c)あるいは(a)〜(b)[
図11(a)ステアリン酸アミド2wt%ゲル、(b)ヘキサデカンアミド2wt%ゲル、(c)n−オクタンアミド1wt%ゲル、
図12(a)エルカ酸アミド2wt%、(b)ベヘン酸アミド2wt%]に、2秒間粉砕後、12時間静置後倒置の挙動(d)〜(f)あるいは(d)〜(e)[
図11(d)粉砕後のステアリン酸アミド2wt%ゲル、(e)ヘキサデカンアミド2wt%ゲル、(f)n−オクタンアミド2wt%ゲル、
図12(d)エルカ酸アミド2wt%、(e)ベヘン酸アミド2wt%]を示す。
アルキルアミド誘導体の各種単独系ゲルにおいては、いずれの不揮発油、いずれのアルキルアミド誘導体においても、最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%でゲル化したサンプルは、粉砕後倒置するといずれの所定時間静置後においてもゲルが垂れ落ちるかゲルから油が分離し、本試験例においてはチキソトロピー性を発現しなかった。
【0055】
[実施例10:不揮発油を用いたアルキルアミド誘導体の2成分混合系及び3成分混合系のチキソトロピー性試験]
不揮発油を用いたアルキルアミド誘導体の混合系ゲル(2成分混合系及び3成分混合系)のゲル粉砕後の挙動について、種々の混合割合にて評価した。
実施例2及び実施例3と同様の手順にて、種々の混合割合(表17、表18及び表19参照)にて、ステアリン酸アミド/n−オクタンアミド混合系及びステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド混合系の0.2〜1.0wt%(濃度は混合物としての濃度)オリーブ油ゲル及びスクアランゲルを作製した(なお表17及び表18において、この時点でゲル形成していない組成を斜線で示す)。加えて、エルカ酸アミド/ベヘン酸アミド混合系の1.0および2.0wt%(濃度は混合物としての濃度)オリーブ油ゲル及びスクアランゲルを作製した。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、機械的振動により内部のゲルを2秒間粉砕しゾル状とし、続いて所定時間(1分、3分、5分、10分、30分、1時間、2時間、及び12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。表17、表18及び表19に、トルエンゲルをゾル状とした後再度ゲル化したものについて最短静置時間(粉砕後、ゲル状態への回復に要した時間)を示す。
また例として、3成分混合系(ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの組成(質量比)=1/1/10)のスクアランゲル(1wt%)のチキソトロピー性試験結果を
図13に、2成分混合系(エルカ酸アミド/ベヘン酸アミドの組成(質量比)=1/1)のスクアランゲルのチキソトロピー性試験結果を
図14にそれぞれ示す。
【0056】
【表17】
【0057】
【表18】
【0058】
【表19】
【0059】
【表20】
【0060】
上記表12、表13、表14、表15、表16、表18、表19及び表20に示すように、アルキルアミド誘導体の有機溶媒あるいは不揮発油から成るゲルは、ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドのような2成分混合系あるいは3成分混合系にすることでチキソトロピー性を発現することが確認された。特に表15及び
図10に示すように、n−オクタンアミドの混合割合を他の2種のアルキルアミド誘導体よりも高めた混合物を用いて得られるゲルについて、チキソトロピー性が得られやすいという傾向がみられた。
また上記表16に示すように、ジクロロエタン、SH245、及びn−オクタンを用いて作製したアルキルアミド誘導体3成分混合系のゲルにおいてもチキソトロピー性が発現することが確認された。
加えて、表17及び表18に示すようにオリーブ油またはスクアランのような不揮発油を用いて作製したアルキルアミド誘導体の2成分混合系あるいは3成分混合系のゲルにおいてもチキソトロピー性が発現することが確認された。
表19及び表20に示すようにエルカ酸アミド/ベヘン酸アミドのような2成分混合系のゲルについても同様なチキソトロピー性の発現が確認された。
さらに
図15に示すように、3成分混合系ゲルは、3成分の混合比を最適に選択することにより機械的強度が高くなった結果、サンプル管から取り出し、自立させることが可能となり(
図15(a))さらにはピンセットでつまむことが可能となった(
図15(b))。
以上の通り、アルキルアミド誘導体は2成分あるいは3成分の混合系とした際に、トルエンゲル、ジクロロエタンゲル、SH245ゲル、n−オクタンゲル、オリーブ油及びスクアランにおいてチキソトロピー性を発現することが確認された。
なお前述したとおり、本発明のようにアルキル鎖長の違うアルキルアミド誘導体を2種以上組み合わせて用いることにより得られる新たな効果(チキソトロピー性)についてはこれまで報告例が無く、本結果は、本発明のゲル化剤が有する特異な効果を示す結果となった。
【0061】
[実施例11:アルキルウレア誘導体混合系のゲル化試験1]
比較例1と同様の手順にて、アルキルウレア誘導体の2成分混合系のトルエン溶液におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表21参照、濃度は混合物としての濃度)にて、オクタデシル尿素及びブチル尿素のトルエン溶液を調製し、ゲル化試験を行った。観察結果を表21に示す。またトルエン溶液にて実施した試験の放冷後の各サンプル管の写真を
図16[濃度4wt%]に示す。
これらの結果より、オクタデシル尿素とブチル尿素の2成分混合系のゲルが、幅広い混合比でゲルを形成すること、またブチル尿素の比率が高い方がゲルを形成しやすいことが確認された。加えて、アルキルウレア誘導体それぞれの単独系でのトルエン溶液の最低ゲル化濃度(2.0wt%又は6.0wt%)と比較して、2成分混合系の最低ゲル化濃度は低いものとなった(1.0wt%)。このようにアルキルウレア誘導体は、トルエン溶液において、単独系に比べて2成分混合系の方がゲルを形成しやすいことが確認された。
【0062】
【表21】
【0063】
[実施例12:アルキルウレア誘導体混合系のゲル化試験2]
比較例1と同様の手順にて、アルキルウレア誘導体の2成分混合系の不揮発油におけるゲル化試験を行った。種々の混合割合及び濃度(表22参照、濃度は混合物としての濃度)にて、オクタデシル尿素/ウレア尿素の不揮発油溶液を調製し、ゲル化試験を行った(1成分系でゲル形成が確認されたミリスチン酸イソプロピルについてのみ実施した)。観察結果を表22に示す。
これらの結果から、アルキルウレア誘導体の2成分混合系のミリスチン酸イソプロピル溶液においてもゲル化することが確認された。
【0064】
【表22】
【0065】
[実施例13:アルキルウレア誘導体混合系ゲルの透過率測定]
実施例11で得られたアルキルウレア誘導体2成分混合系のトルエンゲル(3wt%、濃度は混合物としての濃度)並びに比較例4及び5のアルキルウレア誘導体単独系のトルエンゲル(最低ゲル化濃度)の波長400nm〜700nmにおける透過率測定を行った。
得られた結果を表23に示す。これらの結果から、アルキル鎖長の短いブチル尿素の比率を増加させることによる、得られるトルエンゲルの透明性の増加が分光学的にも確認された。
【0066】
【表23】
【0067】
[実施例14:アルキルウレア誘導体混合系ゲルの熱挙動]
実施例11で得られたアルキルウレア誘導体2成分混合系のトルエンゲル(3wt%、濃度は混合物としての濃度)並びに比較例4及び5のアルキルウレア誘導体単独系のトルエンゲル(最低ゲル化濃度)を前述の手順に倣い作製した。
次に得られた各ゲルについて、ゾル−ゲル転移温度ならびにゲル−ゾル転移温度を示差走査熱量計により測定した。得られた結果を表24及び
図17[(A):(a)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素6wt%トルエンゲル;(B):(a)オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比1/1 3wt%トルエンゲル、(b)同 1/2 3wt%トエンゲル、(c)同 1/4 3wt%トルエンゲル、(d)同 1/10 3wt%トルエンゲル。]に示す。
【0068】
【表24】
【0069】
表24に示すように、アルキルウレア誘導体をゲル化剤として用いた単独系及び2成分混合系ゲルはゾル−ゲル転移することが定量的に確認された。
【0070】
[実施例15:アルキルウレア誘導体単独系ゲル及び混合系ゲルの粘弾性特性評価]
アルキルウレア誘導体2成分混合系のトルエンゲル(3wt%、濃度は混合物としての濃度)並びにアルキルウレア誘導体単独系のトルエンゲル(最低ゲル化濃度)を前述の手順に倣い作製し、これらゲルの粘弾性評価を行い、ゲル状態を力学的観点から検証した。得られた結果を
図18(単独系ゲル:(a)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素6wt%トルエンゲル)及び
図19(2成分混合系ゲル:(a)オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比 1/1 3wt%トルエンゲル、(b)同 1/2 3wt%トルエンゲル)に示す。
図18(A)及び
図19(A)及び(C)(周波数依存測定)に示すように、周波数に依存せずほぼ平坦な貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を示し、かつG’>G”であることから、測定サンプルはゲル状態(固体状態)にあることが確認された。
また
図18(B)及び
図19(B)及び(D)(歪依存測定)に示すように、歪初期はほぼ平坦な貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”を示したものが、歪の増加により(0.1〜1.0%付近)、G’<G”と逆転し、サンプルがゲル状態(G’>G”)から液体状態(G’<G”)へと変化したことが確認された。このように、ゲル状態のサンプルに歪をかけることでゲル−ゾル転移が生じることが力学的に確認された。
【0071】
[実施例16:アルキルウレア誘導体の単独系及び2成分混合系のチキソトロピー性試験]
アルキルウレア誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(2成分混合系)のゲル粉砕後の挙動(チキソトロピー性)を評価した。
【0072】
<アルキルウレア誘導体の単独系ゲル>
比較例4〜比較例5、比較例11及び比較例12と同様の手順にて、アルキルウレア誘導体(オクタデシル尿素あるいはブチル尿素)をゲル化剤とし、有機溶媒としてプロピレンカーボネート、ジクロロエタン、トルエン及びミリスチン酸イソプロピルを用い、前述の表2に示す最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%〜0.5wt%の濃度でゲルを作製した。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、内部のゲルを2秒間粉砕し、続いて所定時間(1分、10分、1時間又は12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。
図20及び
図21に、各種アルキルウレア誘導体のトルエン及びミリスチン酸イソプロピルを用いて最低ゲル化濃度でゲル化させたゲルのチキソトロピー挙動をそれぞれ示す。
図20及び
図21は、粉砕前のゲルを(a)〜(b)[
図20(a)オクタデシル尿素3wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素6wt%トルエンゲル、
図21(a)オクタデシル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル、(b)ブチル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル]に、2秒間粉砕後、12時間静置後倒置の挙動(c)〜(d)[
図20(c)オクタデシル尿素3wt%トルエンゲル、(d)ブチル尿素6wt%トルエンゲル、
図21(c)オクタデシル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル、(d)ブチル尿素1wt%ミリスチン酸イソプロピルゲル]を示す。
アルキルウレア誘導体の各種単独系ゲルにおいては、いずれの有機溶媒、いずれのアルキルウレア誘導体においても、最低ゲル化濃度及び最低ゲル化濃度+1wt%〜0.5wt%でゲル化したサンプルは、粉砕後倒置するといずれの所定時間静置後においてもゲルが垂れ落ち、本試験例においてはチキソトロピー性を発現しなかった。
【0073】
<アルキルウレア誘導体の混合系ゲル(2成分混合系)のチキソトロピー性試験>
アルキルウレア誘導体の2成分混合系のゲル粉砕後の挙動について、種々の混合割合(表25参照)にて評価した。
実施例11と同様の手順にて、種々の混合割合(表25参照)で0.5〜4wt%(濃度は混合物としての濃度)のトルエンゲルを作製した(なお表25において、この時点でゲル形成していない組成を斜線で示す)。加えて、結果が良好であった混合割合であるオクタデシル尿素/ブチル尿素=1/4及び1/10(質量比)にて、5.0wt%プロピレンカーボネートゲル(混合系ゲルの最低ゲル化濃度)及び3.0wt%ジクロロエタンゲルを作製した(濃度は混合物としての濃度)。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあて、機械的振動により内部のゲルを2秒間粉砕しゾル状とし、続いて所定時間(1分、10分、1時間、及び12時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。ゾル状とした後再度ゲル化したものについては最短静置時間(粉砕後、ゲル状態への回復に要した時間)を表25に、プロピレンカーボネート及びジクロロエタンを用いて作製したゲルの粉砕後の挙動を表26に示す。
また、
図22に、各種アルキルウレア誘導体(2成分混合系)の3wt%トルエン溶液のゲル化挙動((A)粉砕前の倒置サンプル)及びチキソトロピー挙動((B)粉砕後1分間静置後の倒置サンプル、(C)粉砕後30分間静置後の倒置サンプル)を示す(図内の数字はオクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比を示す)。
さらに
図23に、アルキルウレア誘導体(2成分混合系:オクタデシル尿素/ブチル尿素 質量混合比1/1)のミリスチン酸イソプロピル溶液のゲル化挙動((a)、(b)粉砕前の倒置サンプル:(a)0.5wt%、(b)1.0wt%)及びチキソトロピー挙動((c)、(d)粉砕後30分間静置後の倒置サンプル:(c)0.5wt%、(d)1.0wt%)を示す。
【0074】
【表25】
【0075】
【表26】
【0076】
【表27】
【0077】
上記表25に示すように、アルキルウレア誘導体のトルエンゲルは、誘導体1種を用いた単独系におけるトルエンゲルではチキソトロピー性を発現しないものの、オクタデシル尿素/ブチル尿素のように2成分混合系にすることで、チキソトロピー性を発現する場合があることが確認された。
加えて、上記表26に示すように、プロピレンカーボネート及びジクロロエタンを用いて作製したアルキルウレア誘導体2成分混合系のゲルにおいてもチキソトロピー性が発現することが確認された。
さらに表27に示すように不揮発油であるミリスチン酸イソプロピルを用いて作製したアルキルウレア誘導体2成分混合系のゲルにおいてもチキソトロピー性が発現することが確認された。
以上の通り、アルキルウレア誘導体は2成分の混合系とした際に、プロピレンカーボネートゲル、ジクロロエタンゲル、トルエンゲル及びミリスチン酸イソプロピルにおいてチキソトロピー性を発現することが確認された。
【0078】
なお前述のように、本発明のようにアルキル鎖長の違うアルキルウレア誘導体を2種以上組み合わせて用いることにより得られる新たな効果(チキソトロピー性)についてはこれまで報告例が無く、本結果は、本発明のゲル化剤が有する特異な効果を示す結果となった。
【0079】
[実施例17:アルキルアミド誘導体の単独系及び混合系のチキソトロピー性評価]
アルキルアミド誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(3成分混合系)のゲル粉砕前後の挙動をレオメータにて評価した。得られた結果を
図24[(a)3成分混合系:ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミド=1/1/10(質量比)、4wt%トルエンゲル、(b)ステアリン酸アミド単独、3wt%トルエンゲル、(c)ヘキサデカンアミド単独、3wt%トルエンゲル、(d)n−オクタンアミド単独、3wt%トルエンゲル]にそれぞれ示す。
図24に示すように、単独系ゲル(
図24(b)〜(d))と比較して、3成分混合系ゲル(
図24(a))の方が、粉砕後の貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の回復が大きく、かつ、単独系ゲルでは回復後G’≧G”(ゲル状態〜液体状態)となっているのに対し、混合系ゲルでは回復後に明確にG’>G”(ゲル状態)を示しており、混合系ゲルの方が良好なチキソトロピー性を有することが力学的にも確認された。
【0080】
[実施例18:アルキルウレア誘導体の単独系及び混合系のチキソトロピー性評価]
アルキルウレア誘導体の単独系ゲルと混合系ゲル(2成分混合系)のゲル粉砕前後の挙動をレオメータにて評価した。得られた結果を
図25[(a)2成分混合系:オクタデシル尿素/ブチル尿素=1/4(質量比)、3wt%トルエンゲル、(b)2成分混合系:同1/10 3wt%トルエンゲル、(c)オクタデシル尿素単独、2wt%トルエンゲル、ブチル尿素単独、6wt%トルエンゲル]にそれぞれ示す。
図25に示すように、単独系ゲル(
図25(c)〜(d))と比較して、2成分混合系ゲル(
図25(a)〜(b))の方が、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)の回復が大きく、かつ、単独系ゲルでは回復後G’≧G”(ゲル状態〜液体状態)となっているのに対し、混合系ゲルでは回復後に明確にG’>G”(ゲル状態)を示しており、混合系ゲルの方が良好なチキソトロピー性を有することが力学的にも確認された。
【0081】
[比較例13:アルキルアミド誘導体を用いて形成されるゲルの微細構造観察]
前述の比較例1〜比較例3と同様の手順にて、3種のアルキルアミド誘導体(単独)の最低ゲル化濃度にてトルエンゲルを形成した。こうして得られたゲルを室温にて真空乾燥させることによりキセロゲルを得、得られたキセロゲルの状態を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。得られた結果を
図26[(a)ステアリン酸アミド トルエンキセロゲル、(b)ヘキサデカンアミド トルエンキセロゲル、(c)n−オクタンアミド トルエンキセロゲル]及び
図27[(a)ステアリン酸アミド トルエンキセロゲル、(b)ヘキサデカンアミド トルエンキセロゲル、(c)n−オクタンアミド トルエンキセロゲル]に示す。また、真空乾燥前のトルエンゲルの状態を偏光顕微鏡観察により得られた結果を
図27[(d)ステアリン酸アミド 3wt%トルエンゲル、(e)ヘキサデカンアミド 3wt%トルエンゲル、(f)n−オクタンアミド 3wt%トルエンゲル]に示す。
図26及び
図27に示すように、アルキルアミド誘導体(単独系)のトルエンキセロゲルは、数100nm厚・数10μm幅の多層シートから構成されていることが確認された。また、アルキルアミド誘導体(単独系)のトルエンゲルはSEM観察結果に対応したシート状結晶のネットワークから構成されることが確認された。
【0082】
[比較例14:アルキルウレア誘導体を用いて形成されるゲルの微細構造観察]
前述の比較例4〜比較例5と同様の手順にて、2種のアルキルウレア誘導体(単独)の最低ゲル化濃度にてトルエンゲルを形成した。こうして得られたゲルを室温にて真空乾燥させることによりキセロゲルを得、得られたキセロゲルの状態をSEMにて観察した。得られた結果を
図28[(a)オクタデシル尿素 トルエンキセロゲル、(b)ブチル尿素 トルエンキセロゲル]に示す。また、真空乾燥前のトルエンゲルの状態を偏光顕微鏡観察により得られた結果を
図29[(a)オクタデシル尿素 2wt%トルエンゲル、(b)ブチル尿素 6wt%トルエンゲル]に示す。
図28及び
図29に示すように、アルキルウレア誘導体(単独系)のトルエンキセロゲルは、数100nm厚・数10μm幅の多層シートから構成されていることが確認された。また、アルキルウレア誘導体(単独系)のトルエンゲルはSEM観察結果に対応したシート状結晶のネットワークから構成されることが確認された。
【0083】
ちなみに、粘土鉱物のnm厚・数10μm幅の板状結晶や、オイルワックスの数100nm厚・数10μm幅の板状ワックス結晶は、それらシート状物質(板状の結晶)を骨組みとして構成されるカードハウス構造の空隙に、水あるいは有機溶媒を保持することで含溶媒固形物をつくることが知られている(参考文献:(1)「粘土ハンドブック」技報堂出版(株)(2009年)、(2)「ゲルコントロール−ゲルの上手な作り方とゲル化の抑制−」(株)情報機構(2009年)15頁−17頁、(3)Colloids and Surfaces,51巻(1990年)219頁−238頁、など)。
すなわち、アルキルアミド誘導体あるいはアルキルウレア誘導体をゲル化剤として用い、媒体:トルエンにて形成したゲルにおいて、乾燥ゲル(キセロゲル)の状態で多層シート構造がみられたとする上述の結果は、アルキルアミド誘導体あるいはアルキルウレア誘導体をゲル化剤として用いて形成したトルエンゲルがカードハウス構造を有し、該構造の空隙において溶媒を保持し、ゲル形成に至ったと考えることができる。なお多層シート構造は、カードハウス構造を形成するシート状物質が乾燥過程で凝集することで生成したものと推測される。
【0084】
[実施例19:アルキルアミド誘導体混合系のゲルの微細構造観察]
前述の実施例3と同様の手順にて、アルキルアミド誘導体の3成分混合系のトルエンゲルを調製した。得られたゲルを室温にて真空乾燥させることによりキセロゲルを得、得られたキセロゲルの状態をSEMにて観察した。得られた結果を
図26[(d)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比:1/1/2 トルエンキセロゲル、(e)同1/1/4 トルエンキセロゲル、(f)同1/1/10 トルエンキセロゲル]に示す。
図26に示すように、アルキル鎖長の短いn−オクタンアミドの比率が増加するに従い、数十マイクロメートル長・サブマイクロメートル厚のシート状結晶から数マイクロメートル長・サブマイクロメートル厚のフレーク状結晶となり、ゲルを構成するネットワークの密度が高くなっていくことが確認された。
【0085】
[実施例20:アルキルウレア誘導体混合系のゲルの微細構造観察]
前述の実施例11と同様の手順にて、アルキルウレア誘導体2成分混合系のトルエンゲルを調製した。得られたゲルを室温にて真空乾燥させることによりキセロゲルを得、得られたキセロゲルの状態をSEMにて観察した。得られた結果を
図28[(c)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比:1/1 トルエンキセロゲル、(d)同1/2 トルエンキセロゲル、(e)同1/4 トルエンキセロゲル、(f)同1/10 トルエンキセロゲル]に示す。
図28に示すように、アルキル鎖長の短いブチル尿素の比率が増加するに従い、数マイクロメートル長・サブマイクロメートル厚のシート状結晶から数マイクロメートル長・サブマイクロメートル厚のテープ状又はファイバー状結晶となり、ゲルを構成するネットワークの密度が高くなっていくことが確認された。
【0086】
[実施例21:アルキルアミド誘導体混合系のゲルのX線回折測定]
前述のアルキルアミド誘導体3成分混合系のトルエンゲルについて、小角領域におけるX線回折測定を行った。同様に、ゲル化前のアルキルアミド誘導体3種それぞれの結晶サンプル(試薬品)及びアルキルアミド誘導体単独系ゲルのX線回折測定を行った。得られた結果を
図30[(a)(1)ステアリン酸アミド/ヘキサデカンアミド/n−オクタンアミドの質量混合比 1/1/4 4wt%トルエンゲル、(2)同1/1/10 4wt%トルエンゲル、(3)ステアリン酸アミド結晶サンプル、(4)ヘキサデカンアミド結晶サンプル、(5)n−オクタンアミド結晶サンプル;
(b)(1)ステアリン酸アミド結晶サンプル、(2)ヘキサデカンアミド結晶サンプル、(3)n−オクタンアミド結晶サンプル、(4)ステアリン酸アミド3wt%トルエンゲル、(5)ヘキサデカンアミド6wt%トルエンゲル、(6)n−オクタンアミド3wt%トルエンゲル]に示す。
また
図31に、アルキルアミド誘導体(3種)の分子モデル(分子長はChemDraw3Dにより算出)を示す。
図30(b)に示すように、アルキルアミド誘導体の各結晶サンプル((1)〜(3))と単独系トルエンゲル((4)〜(6))のピークはよく一致していることが確認された。そして
図30(a)に示すように、アルキル鎖長の短いn−オクタンアミドの比率が増加するに従い、n−オクタンアミドに帰属できるピークが観測されるようになった。このように、3成分混合系トルエンゲルのネットワークは、主にn−オクタンアミドから形成されるフレーク状結晶により構成されることが確認された。
なお、文献(Acta Cryst.(1995年)8巻 頁551−)によると、アルキルアミド誘導体(テトラデカンアミド)は結晶状態において、水素結合を介して二量体を形成(例えば
図31参照)していることが観測されている。しかしながら、
図31(a)に示すようにアルキルアミド誘導体を二量体となるように配置することで得た分子長は、本実施例の実験結果と合致せず、X線回折測定より得られたピークは、
図31(b)のようなラメラ構造の回折より得られたものと推察される。
【0087】
[実施例22:アルキルウレア誘導体混合系のゲルのX線回折測定]
前述のアルキルウレア誘導体の2成分混合系のトルエンゲルについて、小角領域におけるX線回折測定を行った。同様に、ゲル化前のアルキルウレア誘導体2種それぞれの結晶サンプル及びアルキルウレア誘導体単独系ゲルのX線回折測定を行った。得られた結果を
図32[(a)(1)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比 1/1 3wt%トルエンゲル、(2)同1/2 3wt%トルエンゲル、(3)オクタデシル尿素結晶サンプル、(4)ブチル尿素結晶サンプル;(b)(1)オクタデシル尿素/ブチル尿素の質量混合比 1/4 3wt%トルエンゲル、(2)同1/10 3wt%トルエンゲル、(3)オクタデシル尿素結晶サンプル、(4)ブチル尿素結晶サンプル;(c)(1)オクタデシル尿素結晶サンプル、(2)ブチル尿素結晶サンプル;(d)(1)オクタデシル尿素2wt%トルエンゲル、(2)ブチル尿素6wt%トルエンゲル]。
また
図33(a)に、アルキルウレア誘導体(2種)の分子モデル(分子長はChemDraw3Dにより算出)を、
図33(b)に文献(Chemistry A European Journal (2005年) 11巻 3243頁−3245頁)にて示唆されたオクタデシル尿素のラメラ構造を示す。
図32(c)及び(d)に示すように、オクタデシル尿素およびブチル尿素の結晶サンプルと単独系ゲルのピークは一致しておらず、ゲル状態では
図33(b)に示すラメラ構造をとり、より短周期側に回折ピークがみられるものと推察される。
また
図32(a)及び(b)に示すように、2成分混合系のトルエンゲルにおいて、アルキル鎖長の短いブチル尿素の比率が増加するに従い、ブチル尿素に帰属できるピークが観測され、一方オクタデシル尿素に帰属できるピークの減少がみられた。このように、2成分混合系トルエンゲルのネットワークは、主にブチル尿素から形成されるテープ状結晶あるいはファイバー状結晶により構成されることが確認された。
【0088】
上記の実施例19〜実施例22の結果より、アルキルアミド誘導体あるいはアルキルウレア誘導体の混合系ゲルにおいて、アルキル鎖長の短いアルキルアミド誘導体(n−オクチルアミド)あるいはアルキルウレア誘導体(ブチル尿素)の比率が増加するに従い、ゲルのネットワークを構成するシート状結晶がより小さなフレーク状結晶あるいはファイバー状結晶へと変化すること、そしてネットワークの網目がより細かくなることで、ネットワーク密度が高くなることが確認された。
こうしたアルキルアミド誘導体又はアルキルウレア誘導体の混合系ゲルでのネットワーク密度の向上が、ポリマーネットワークでのネットワーク密度の向上が機械的強度等の向上に寄与するように、混合系ゲルの機械的物性等(チキソトロピー性)の向上に寄与したものと考えられる。また、透明性の向上は、ネットワークの構成要素がサブマイクロメートル幅となり、光の波長以下となることで、光の散乱が抑えられたためだと推察される。