特許第6227672号(P6227672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227672
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】リチウム硫黄二次電池用の正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20171030BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20171030BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20171030BHJP
   H01M 4/78 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/38 Z
   H01M4/66 A
   H01M4/78 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-553344(P2015-553344)
(86)(22)【出願日】2014年10月15日
(86)【国際出願番号】JP2014005235
(87)【国際公開番号】WO2015092958
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2016年5月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-264313(P2013-264313)
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】塚原 尚希
(72)【発明者】
【氏名】福田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】野末 竜弘
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕彦
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/070184(WO,A1)
【文献】 特開2011−068501(JP,A)
【文献】 特開2010−085337(JP,A)
【文献】 特開2012−238448(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/146445(WO,A2)
【文献】 特表2013−538413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−4/62
C01B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、集電体の表面にこの集電体表面側を基端として集電体表面に直交する方向に配向するように成長させた複数本のカーボンナノチューブと、各カーボンナノチューブの表面を夫々覆う硫黄とを備えるリチウム硫黄二次電池用の正極において、
カーボンナノチューブは螺旋状に成長したものを含み、
カーボンナノチューブの密度は40mg/cm以下であることを特徴とするリチウム硫黄二次電池用の正極。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは基端から成長端まで線状に成長した場合の長さを見かけ長さとし、各カーボンナノチューブは基端から成長端までの間に少なくとも一箇所の屈曲部分または湾曲部分を有し、各カーボンナノチューブの基端から成長端までの成長高さは、見かけ長さの0.4倍〜0.8倍の範囲であることを特徴とする請求項1記載のリチウム硫黄二次電池用の正極
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄二次電池用の正極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は高エネルギー密度を有することから、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の携帯機器等だけでなく、ハイブリッド自動車、電気自動車、電力貯蔵蓄電システム等にも適用が拡がっている。このようなリチウム二次電池の1つとして、近年、リチウムと硫黄の反応により充放電するリチウム硫黄二次電池が注目されている。
【0003】
リチウム硫黄二次電池は、硫黄を含む正極活物質を有する正極と、リチウムを含む負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に配置されるセパレータとを備えるものが例えば特許文献1で知られている。
【0004】
このようなリチウム硫黄二次電池の正極として、集電体と、集電体表面にこの集電体表面側を基端として集電体表面に直交する方向に配向するように成長される複数本のカーボンナノチューブと、各カーボンナノチューブの表面を夫々覆う硫黄とを備えるもの(一般に、カーボンナノチューブの密度が60mg/cmで、硫黄の重量は、カーボンナノチューブの重量の0.7〜3倍とされている)が例えば特許文献1で知られている。この正極をリチウム硫黄二次電池に適用すると、電解液が広範囲で硫黄に接触して硫黄の利用効率が向上するため、充放電レート特性に優れ、リチウム硫黄二次電池としての比容量(硫黄単位重量当たりの放電容量)が大きいものとなる。
【0005】
ここで、各カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆う方法としては、カーボンナノチューブの成長端に硫黄を載置して溶融させ、溶融した硫黄をカーボンナノチューブ相互間の隙間を通って基端側に拡散させるものが一般に知られているが、このような方法では、カーボンナノチューブの成長端付近にのみ硫黄が偏在し、カーボンナノチューブの基端周辺まで硫黄が拡散せず、当該部分が硫黄で覆われないか、覆われているとしても硫黄の膜厚が極めて薄くなる場合がある。しかも、放電時には硫黄がリチウムと反応してLiSとなり、体積が80%程度膨張するため、隣接するカーボンナノチューブ相互間の間隙が狭くなり、カーボンナノチューブの基端周辺まで電解液が効率よく供給されず、これでは、充放電レート特性に優れ、比容量が大きいものとならない。
【0006】
そこで、本発明の発明者らは、鋭意研究を重ね、カーボンナノチューブの密度を40mg/cm以下に設定すれば、上記と同様の方法でも、硫黄を溶融拡散させたときに集電体とカーボンナノチューブの基端との界面まで硫黄が効率よく供給され、しかも、放電時に硫黄が体積膨張しても、カーボンナノチューブ基端周辺まで電解液を効率よく供給できることを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/070184号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、カーボンナノチューブの集電体近傍の部分を確実に硫黄で覆うことができると共に、放電時に硫黄が体積膨張してもカーボンナノチューブ基端周辺まで電解液を効率よく供給できるリチウム硫黄二次電池用の正極を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、集電体と、集電体の表面にこの集電体表面側を基端として集電体表面に直交する方向に配向するように成長させた複数本のカーボンナノチューブと、各カーボンナノチューブの表面を夫々覆う硫黄とを備える本発明のリチウム硫黄二次電池用の正極は、カーボンナノチューブが螺旋状に成長したものを含み、カーボンナノチューブの密度は40mg/cm以下であることを特徴とする。尚、各カーボンナノチューブの密度の下限は、所定の比容量が得られる範囲で設定される。
【0010】
本発明によれば、カーボンナノチューブの密度を40mg/cm以下に設定することで、カーボンナノチューブ相互間の隙間を通って基端側まで硫黄が拡散し、カーボンナノチューブの集電体近傍の部分まで確実に硫黄で覆うことができる。しかも、放電時に硫黄が体積膨張しても、隣接するカーボンナノチューブ相互間に間隙が確保され、集電体近傍部分にまで電解液が効率よく供給されるため、硫黄と電解液とが広範囲で接触する。その結果、硫黄の利用効率が一層高められ、硫黄への充分な電子供与ができることと相俟って、特に高いレート特性を得ることができ、比容量も一層向上させることができる。
【0011】
ここで、カーボンナノチューブの集電体近傍まで硫黄で覆うと、つまり、正極に含浸する硫黄量が多いと、放電時に硫黄とリチウムとの反応により生じるポリサルファイドの量が多くなる。ポリサルファイドは電解液に溶出し易く、電解液を通じてポリサルファイドが負極に達すると、充電反応が促進されなくなる(レドックスシャトル現象)。
【0012】
そこで、本発明において、前記カーボンナノチューブは基端から成長端まで線状に成長した場合の長さを見かけ長さとし、各カーボンナノチューブは基端から成長端までの間に少なくとも一箇所の屈曲部分または湾曲部分を有し、各カーボンナノチューブの基端から成長端までの成長高さを、上記見かけ長さの0.4倍〜0.8倍の範囲とすることが好ましい。これによれば、従来例のものに比べてカーボンナノチューブの表面積を増大させることができ、カーボンナノチューブ表面にポリサルファイドが効果的に吸着され、ポリサルファイドの電解液への溶出、ひいては、ポリサルファイドの負極への到達を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池の構成を示す模式的断面図。
図2図1に示す正極を拡大して示す模式的断面図。
図3】(a)〜(c)は、本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池用の正極の形成手順を説明する図。
図4】(a)〜(c)は、本発明の効果を示すために作製した発明品1,2、比較品のカーボンナノチューブの断面SEM写真。
図5】本発明の効果を確認するための実験結果(放電容量のサイクル特性)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明のリチウム硫黄二次電池用の正極及びその形成方法の実施形態を説明する。図1を参照して、リチウム硫黄二次電池BTは、硫黄を含む正極活物質を有する正極Pと、リチウムを含む負極活物質を有する負極Nと、これら正極Pと負極Nの間に配置されたセパレータSと、このセパレータSにより保持される、正極Pと負極Nとの間でリチウムイオン(Li)の導電性を有する電解液(図示せず)とを備える。
【0016】
負極Nとしては、例えば、Li、LiとAlもしくはIn等との合金、または、リチウムイオンをドープしたSi、SiO、Sn、SnOもしくはハードカーボンを用いることができる。セパレータSとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂製の多孔質膜や不織布を用いることができる。電解液Lは、電解質と電解質を溶解する溶媒とを含む。電解質としては、公知のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下「LiTFSI」という)、LiPF、LiBF等を用いることができる。また、溶媒としては、公知のものを用いることができ、例えば、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジエトキシエタン(DEE)、ジメトキシエタン(DME)などのエーテル類、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどのエステル類のうちから選択された少なくとも1種を用いることができる。また、放電カーブを安定させるために、この選択された少なくとも1種にジオキソラン(DOL)を混合することが好ましい。例えば、溶媒としてジエトキシエタンとジオキソランの混合液を用いる場合、ジエトキシエタンとジオキソランとの混合比を9:1に設定することができる。正極Pを除く他の構成要素は公知のものを利用できるため、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0017】
図2も参照して、正極Pは、正極集電体P1と、正極集電体P1の表面に形成された正極活物質層P2とを備える。正極集電体P1は、例えば、基体1と、基体1の表面に5〜80nmの膜厚で形成された下地膜(「バリア膜」ともいう)2と、下地膜2の上に0.5〜5nmの膜厚で形成された触媒層3とを有する。基体1としては、例えば、Ni、CuまたはPtからなる金属箔や金属メッシュを用いることができる。下地膜2は、基体1と後述するカーボンナノチューブ4との密着性を向上させるためのものであり、例えば、Al、Ti、V、Ta、Mo及びWから選択される少なくとも1種の金属またはその金属の窒化物から構成される。触媒層3は、例えば、Ni、FeまたはCoから選択される少なくとも1種の金属から構成される。
【0018】
正極活物質層P2は、正極集電体P1の表面、当該表面に直交する方向に配向させて成長させた複数本のカーボンナノチューブ4と、カーボンナノチューブ4の各々の表面全体を覆う硫黄5とから構成される。カーボンナノチューブ4相互の間には間隙S1があり、この間隙S1に電解液(電解質)が流入するようになっている。カーボンナノチューブ4の成長方法(成長工程)としては、後述の如く、加熱炉を用いる熱CVD法が用いられる。他方、カーボンナノチューブ4の表面を硫黄5で夫々覆う方法(被覆工程)としては、カーボンナノチューブ4の成長端に、顆粒状の硫黄を撒布し、硫黄5の融点(113℃)以上に加熱して硫黄5を溶融し、溶融した硫黄5をカーボンナノチューブ4相互間の間隙S1を通って基端側まで拡散させる方法が用いられる。
【0019】
ところで、カーボンナノチューブ4相互間の隙間S1が狭いと、溶融した硫黄5が当該隙間S1を通って基端側まで確実に拡散できない場合がある。また、放電時には硫黄5がリチウムと反応して体積膨張するため、充電時に比べて隙間は狭く、電解液が流入し難くなる。
【0020】
そこで、本実施形態では、カーボンナノチューブ4の密度(単位体積当たりの重量)を40mg/cm以下に設定した。尚、密度の下限は、所定の比容量が得られる範囲で設定される。これによれば、カーボンナノチューブ4相互間の隙間が確保されるため、カーボンナノチューブの基端側まで溶融した硫黄が拡散して、カーボンナノチューブの基端側まで硫黄で覆うことができ、しかも、放電時に硫黄5が体積膨張しても、カーボンナノチューブの基端側まで電解液が流入することができる。これによれば、硫黄と電解液とが広範囲で接触し、硫黄の利用効率が一層高められ、硫黄への充分な電子供与ができることと相俟って、特に高いレート特性を得ることができ、比容量も一層向上させることができる。
【0021】
ここで、カーボンナノチューブ4の集電体近傍まで硫黄5で覆われると、正極Pに含浸する硫黄量が多くなり、放電時に硫黄5とリチウムとの反応により生じるポリサルファイドの量が多くなり、レドックスシャトル現象が起こり易くなる。そこで、図2に示すように、カーボンナノチューブ4が基端から成長端まで線状に成長した場合の長さを見かけ長さlとし、各カーボンナノチューブ4は基端から成長端までの間に少なくとも一箇所の屈曲部分または湾曲部分を有し、各カーボンナノチューブ4の基端から成長端までの成長高さhは、見かけ長さlの0.4倍〜0.8倍の範囲となるように、カーボンナノチューブ4を成長させた。これにより、従来例のものに比べて、カーボンナノチューブ4の表面積が増大するため(例えば、1.3倍〜2.4倍となる)、カーボンナノチューブ4表面にポリサルファイドが効果的に吸着され、ポリサルファイドの電解液Lへの溶出、ひいては、負極Nへの到達を抑制することができる。尚、0.4倍よりも小さいと、硫黄を多量に含浸させた場合に硫黄に対して導電性付与が不十分になるという問題がある一方で、0.8倍よりも大きいと、表面積の増大が不十分となるという問題がある。以下、図3も参照して、本実施形態のリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法を説明する。
【0022】
基体1表面に下地膜2を形成し、下地膜2表面に触媒層3を形成して正極集電体P1を作製する。下地膜2と触媒層3の形成方法としては、例えば、公知の電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、触媒金属を含む化合物の溶液を用いたディッピングを用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
次に、成長工程として、上記集電体P1を公知の加熱炉(図示せず)内に配置し、加熱炉内に炭化水素ガスと希釈ガスとを含む原料ガスを導入する。炭化水素ガスとしては、例えば、メタン、エチレン、アセチレン等が用いられ、また、希釈ガスとしては、窒素、アルゴン又は水素を用いることができる。また、炭化水素ガス及び希釈ガスの流量は、処理室の容積に応じて適宜設定でき、例えば、炭化水素ガスの流量は10〜500sccmの範囲内で設定でき、希釈ガスの流量は100〜5000sccmの範囲内で設定できる(このときの差動圧力は、例えば、100Pa〜大気圧とする)。そして、加熱炉内の集電体P1及び原料ガスを600〜800℃の温度に加熱する。これにより、上記の如く、各カーボンナノチューブ4は基端から成長端までの間に少なくとも一箇所の屈曲部分または湾曲部分を有し、各カーボンナノチューブ4の基端から成長端までの成長高さhは、見かけ長さlの0.4倍〜0.8倍の範囲となる。このとき、カーボンナノチューブの密度は40mg/cm以下となる。本発明において、少なくとも一箇所の屈曲部分または湾曲部分を有するカーボンナノチューブ4には、螺旋状に成長したカーボンナノチューブ4を含むものとする。ここで、カーボンナノチューブ4が屈曲または湾曲するメカニズムは必ずしも明らかではないが、図2の拡大図を参照して、触媒層3に起因してカーボンナノチューブ4の左側部分4Lの成長速度が右側部分4Rよりも速いため左右方向の成分を持って成長し、隣接するカーボンナノチューブ4が存在するため、広い空間(自由空間)のある方向に屈曲または湾曲するものと考えられる。このようにカーボンナノチューブ4の部分的な成長速度の差を生じさせ得る加熱炉としては、チャンバの内部もしくは外部に設けられたヒータに通電してチャンバの内部空間を加熱する電気炉(「マッフル炉」や「雰囲気炉」ともいう)や、赤外線ランプ等のランプ光を集光して加熱対象物(集電体P1)を主として加熱するイメージ炉を用いることができる。
【0024】
次に、被覆工程として、カーボンナノチューブ4が成長した領域の全体に亘って、その上方から、1〜100μmの範囲の粒径を有する顆粒状の硫黄51を撒布する。硫黄51の重量は、カーボンナノチューブ4の重量の0.2倍〜20倍に設定すればよい。0.2倍よりも少ないと、カーボンナノチューブ4の夫々の表面が硫黄により均一に覆われなくなり、20倍よりも多いと、隣接するカーボンナノチューブ4相互間の間隙S1まで硫黄5が充填されてしまう。そして、正極集電体P1を図外の管状炉内に設置し、硫黄の融点(113℃)以上の120〜250℃の温度に加熱して硫黄51を溶融させる。尚、空気中で加熱すると、溶解した硫黄が空気中の水分と反応して二酸化硫黄が生成するため、ArやHe等の不活性ガス雰囲気中、または真空中で加熱することが好ましい。
【0025】
ここで、本実施形態では、各カーボンナノチューブ4の密度を40mg/cm以下としたため、溶融した硫黄51はカーボンナノチューブ4相互間の間隙に流れ込んでカーボンナノチューブ4の基端まで確実に拡散する。その結果、カーボンナノチューブ4の表面が全体に亘って硫黄5で覆われ、隣接するカーボンナノチューブ4相互間に間隙S1が存するようになる(図2参照)。
【0026】
次に、本発明の効果を確認するために実験を行った。本実験では、先ず、以下のように正極Pを作成した。基体1を直径14mmφ、厚さ0.020mmのNi箔とし、Ni箔1上に下地膜2たるAl膜を50nmの膜厚で電子ビーム蒸着法により形成し、Al膜2の上に触媒層3たるFe膜を2nmの膜厚で電子ビーム蒸着法により形成して正極集電体P1を作製した。次に、正極集電体P1を加熱炉内に載置し、加熱炉内にアセチレン100sccmと窒素5000sccmを供給し、作動圧力:1気圧、温度:750℃、成長時間:60分の条件で、正極集電体P1表面に垂直配向させてカーボンナノチューブ4を成長させた。このとき、カーボンナノチューブ4の密度は、16.5mg/cmであった。カーボンナノチューブ4上に顆粒状の硫黄51を配置し、これを加熱炉内に配置し、Ar雰囲気下で250℃、5分加熱してカーボンナノチューブ4を硫黄5で覆うことにより、正極Pを作製した。この正極Pでは、単位面積当たりの硫黄5とカーボンナノチューブ4との重量比が、7.17(10.27(mg/cm)/1.43(mg/cm))であった。また、セパレータSをポリプロピレン製の多孔質膜とし、負極Nを直径15mmφ、厚さ0.6mmの金属リチウムとし、これら正極P及び負極NをセパレータSを介して対向させ、セパレータSに電解液Lを保持させてリチウム硫黄二次電池のコインセルを作製した。ここで、電解液Lは、電解質たるLiTFSIを、ジエトキシエタン(DEE)とジオキソラン(DOL)との混合液(混合比9:1)に溶解させて濃度を2mol/lに調整したものを用いた。このように作製したコインセルを発明品1とした。また、カーボンナノチューブを25.3mg/cmの密度で成長させた点を除き、上記発明品1と同様に作製したコインセルを発明品2とした。また、カーボンナノチューブを43.4mg/cmの密度で成長させた点を除き、上記発明品1と同様に作製したコインセルを比較品とした。これら発明品1,2及び比較品の正極のSEM写真を図4(a)〜(c)に夫々示す。これによれば、カーボンナノチューブの密度が40mg/cm以下である発明品1,2では、カーボンナノチューブの基端側まで硫黄で覆われているのに対し、密度が40mg/cmよりも高い比較品ではカーボンナノチューブの基端側まで硫黄で覆われていないことが確認された。また、発明品1では、カーボンナノチューブ4の基端から成長端までの成長高さhが見かけ長さlの0.6倍であり、発明品2では0.9倍であり、比較品では0.9倍であることが確認された。
【0027】
次に、上記発明品1,2及び比較品について夫々充放電を行い、放電容量のサイクル特性を図5に示す。これによれば、発明品1では、37回目でも放電容量が1000mAh/gであり、発明品2及び比較品に比べて高いサイクル特性が得られることが確認された。これは、発明品1では、上記の如くカーボンナノチューブ4の成長高さhが見かけ長さlの0.6倍になっており、0.9倍の発明品2や比較品と比べてカーボンナノチューブ4の表面積が広いため、ポリサルファイドの電解液への溶出を抑止でき、レドックスシャトル現象を抑制できることによるものと考えられる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されない。リチウム硫黄二次電池の形状は特に限定されず、上記コインセル以外に、ボタン型、シート型、積層型、円筒型等であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
B…リチウム硫黄二次電池、P…正極、N…負極、L…電解液、P1…集電体、1…基体、4…カーボンナノチューブ、h…カーボンナノチューブの成長高さ、l…カーボンナノチューブの見かけ長さ、5…硫黄。
図1
図2
図3
図4
図5