(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227757
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
C23C14/04 A
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-509978(P2016-509978)
(86)(22)【出願日】2015年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2015001306
(87)【国際公開番号】WO2015146025
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-62751(P2014-62751)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中尾 裕利
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠一
(72)【発明者】
【氏名】柴 智志
(72)【発明者】
【氏名】坂内 雄也
(72)【発明者】
【氏名】木村 孔
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011-225932(JP,A)
【文献】
特開2012-134043(JP,A)
【文献】
特開2003-173870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空処理室内に、シート状の基材を所定速度で走行する基材走行手段と、一方向に走行されるシート状の基材の部分に対して成膜材料を供給する成膜手段と、シート状の基材に対する成膜材料の供給範囲を制限するシート状のマスク材を走行するマスク材走行手段とを備え、
成膜手段からシート状の基材に向かう方向を上として、マスク材走行手段は、一方向に走行されるシート状の基材の部分に対してその下側に位置するシート状のマスク材の部分を平行に走行させる平行走行領域形成部と、シート状の基材に同期させてシート状のマスク材を走行させる駆動部とを有し、平行走行領域形成部と駆動部とが単一の架台に設置されることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記シート状の基材または前記シート状のマスク材を走行する速度を検出する速度検出手段と、前記シート状の基材の部分が一方向に走行される方向をX軸方向とし、前記シート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とが上下に位置する領域にて、前記シート状の基材に対する前記シート状のマスク材のX軸方向の相対変位量を検出する第1の検出手段とを備え、
前記シート状の基材と前記シート状のマスク材のうちいずれか一方を、その他方の前記速度検出手段の検出値に一致させて両者を同期させ、第1の検出手段の検出値に応じて前記基材走行手段及び前記駆動部のいずれか一方を制御してシート状の基材に対するシート状のマスク材の位置を補正するように構成したことを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記シート状の基材の部分が一方向に走行される方向をX軸方向、これに直交する方向をY軸方向、上下方向としてのZ軸回りの回転方向をθz方向とし、
前記架台はY−θzステージ上に設置され、
前記シート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とが上下に位置する領域にて、シート状の基材に対するシート状のマスク材のY軸方向の相対変位量またはシート状の基材の走行方向とシート状のマスク材の走行方向とのなす角度を検出する第2の検出手段を備え、第2の検出手段の検出値に応じて、Y−θzステージにより架台のY軸方向への移動及びθ方向への回転の少なくとも一方を行ってシート状の基材に対するシート状のマスク材の位置を補正するように構成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の成膜装置。
【請求項4】
請求項3記載の成膜装置であって、マスク走行手段が、一方向に走行されるシート状の基材の部分に対して上下方向に所定間隔を持ってシート状のマスク材の部分を平行に走行するものにおいて、
前記Y−θzステージに、当該Y−θzステージを上下動する駆動手段を備え、前記シート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とが上下に位置する領域にて、シート状の基材とシート状のマスク材との上下方向の間隙を検出する第3の検出手段を備え、第3の検出手段の検出値に応じて駆動手段によりY−θzステージを上下動させてシート状の基材に対するシート状のマスク材の高さ位置を補正するように構成したことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
前記成膜手段の上方領域にて、このシート状の基材の部分をシート状のマスク材の部分に向けて押圧し、シート状の基材とシート状のマスク材とを互いに接触させる押圧手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記マスク材走行手段を前記真空処理室内と真空処理室外との間でY軸方向に移動自在とする移動手段を備えることを特徴とする請求項2〜5の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
請求項3〜請求項6の何れか1項に記載の成膜装置を用いてシート状の基材に成膜する成膜方法であって、
シート状の基材とシート状のマスクとをX軸方向に所定間隔でアライメントマークが夫々列設されたもの、第1及び第2の両検出手段を夫々撮像手段として、
撮像手段でシート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とのアライメントアークを撮像し、この撮像した画像を解析して、シート状の基材に対するシート状のマスク材のX軸方向の相対変位量(△X)と、シート状の基材に対するシート状のマスク材のY軸方向の相対変位量(△Y)及びシート状の基材の走行方向とシート状のマスク材の走行方向とのなす角度(△θz)の少なくとも一方を夫々検出し、
検出した相対変位量(△X)に基づいて基材走行手段及び前記駆動部のいずれか一方に対してシート状の基材またはシート状のマスクの走行速度の変化量を指令し、これに同期させて、検出した相対変位量(△Y)及び角度(△θz)の少なくとも一方に基づいてY−θzステージに対して架台のY軸方向への移動及びθ方向への回転の少なくとも一方の移動量を指令してシート状の基材に対するシート状のマスク材の走行速度と位置とを補正することを特徴とする成膜方法。
【請求項8】
請求項7記載の成膜方法であって、マスク走行手段が互いに平行に走行するシート状のマスク材の部分をシート状の基材に対して傾ける傾動手段を更に有するものにおいて、
第3の検出手段をX軸方向に所定間隔で複数列設されたものとし、
第3の検出手段で夫々検出したシート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とのZ軸方向の間隔からシート状の基材に対するシート状のマスク材の傾きを検出し、検出した傾きに基づいてシート状の基材に対するシート状のマスク材の傾動量を傾動手段に指令して上記傾きを補正し、傾きの補正後に上記走行速度と位置とを補正することを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
請求項7記載の成膜方法であって、マスク走行手段が互いに平行に走行するシート状のマスク材の部分をシート状の基材に対して傾ける傾動手段を更に有するものにおいて、
第3の検出手段をX軸方向に所定間隔で複数列設されたものとし、
上記撮像手段で撮像した画像を解析してX軸方向の相対変位量(△X)と、Y軸方向の相対変位量(△Y)及び角度(△θz)の少なくとも一方を夫々検出した後、第3の検出手段で夫々検出したシート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とのZ軸方向の間隔からシート状の基材に対するシート状のマスク材の傾きを検出し、この検出した傾きに基づいてシート状の基材に対するシート状のマスク材の傾動量を傾動手段に指令して上記傾きを補正すると共に、傾き補正に伴うシート状の基材に対するシート状のマスク材のX軸方向及びY軸方向の移動誤差を算出し、
相対変位量(△X)とY軸方向の相対変位量(△Y)及び角度(△θz)の少なくとも一方とに上記移動誤差を加えて、基材走行手段及び前記駆動部のいずれか一方に対してシート状の基材またはシート状のマスクの走行速度の変化量を指令し、これに同期させて、架台のY軸方向への移動及びθ方向への回転の少なくとも一方の移動量を指令してシート状の基材に対するシート状のマスク材の走行速度と位置とを補正することを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関し、より詳しくは、シート状の基材を所定速度で走行させながら、マスク越しに成膜材料を供給して基材の片面に所定のパターンで連続して成膜するものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の成膜装置は例えば特許文献1で知られている。このものは、シート(帯)状の基材を走行する基材走行手段と、シート状の転写基板を環状に走行させる転写基板走行手段と、シート状の転写基板の部分に対して成膜材料を供給する成膜手段と、転写基板と部分的に密着して当該転写基板に対する成膜材料の供給範囲を制限するシート状のマスク材(シャドウマスク)をシート状の転写基板に同期させて走行するマスク材走行手段とを備える。そして、転写基板にマスク越しに成膜材料を供給して転写基板の片面に所定のパターンで連続して成膜したものをシート状の基材に転写することで、シート状の基材の片面に所定のパターンで連続して所定の膜を形成している。このものは、マスク越しに転写基板に所定の膜を成膜した後、これをシート状の基材に転写するため、工程の増加分だけ装置自体が大型化及び複雑化し、装置コスト高を招くだけでなく、転写基板が必要となって製造コスト高も招来する。
【0003】
ところで、上記従来例のものでは、シート状の基材の部分とシート状の転写基板の部分とが上下に平行に位置し、シート状の基材に転写する箇所を含む転写領域にて、両部分間にはギャップが設けられているため、基材の部分に対する転写基板の位置合わせを行うために、アライメント機構が設けられている。この場合、アライメント機構は、転写箇所を挟むようにして配設された一対のガイドロールの幅方向の位置及び角度を調整することによって基材に対する転写基板の位置合わせを行っている。然し、このような方法では、シート状の転写基板若しくはシート状のマスク材に付与される張力が不均一になってシート状の転写基板やシート状のマスク材に歪が発生し、高精度で位置合わせできない虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−173870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、以上の点に鑑み、シート状の基材を所定速度で走行させながら、マスク越しに成膜材料を供給して基材の片面に所定のパターンで連続して成膜するときに、シート状の基材の部分とシート状の転写基板の部分とを高精度で位置合わせすることができ、しかも、装置コスト及びランニングコストを削減することができる成膜装置及び成膜方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の成膜装置は、真空処理室内に、シート状の基材を所定速度で走行する基材走行手段と、一方向に走行されるシート状の基材の部分に対して成膜材料を供給する成膜手段と、シート状の基材に対する成膜材料の供給範囲を制限するシート状のマスク材を走行するマスク材走行手段とを備え、成膜手段からシート状の基材に向かう方向を上として、マスク材走行手段は、一方向に走行されるシート状の基材の部分に対してその下側に位置するシート状のマスク材の部分を平行に走行させる平行走行領域形成部と、シート状の基材に同期させてシート状のマスク材を走行させる駆動部とを有し、平行走行領域形成部と駆動部とが単一の架台に設置されることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、一方向に走行されるシート状の基材の部分に対してシート状のマスク材の部分を平行に走行させながら、成膜源から直接成膜材料を供給してシート状のマスク材越しに成膜するため、上記従来例の如く、一旦他の基材に転写する機構等が不要になって装置コスト及びランニングコストを削減することができる。また、シート状のマスク材を走行する要素を単一の架台に設置してユニット化し、架台自体を移動させてシート状のマスク材の部分をシート状の基材の部分に対して位置合わせする構成を採用したため、シート状の基材の部分に対するシート状のマスク材の部分の位置合わせを行う際に、一定の張力が加わったシート状のマスク材の走行状態が変化するものではなく、シート状のマスク材、ひいては、そのマスクパターンに強制的な歪が発生することはない。従って、シート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とを高精度で位置合わせした状態で精密なパターンでシート状の基材に連続して成膜を行うことができる。なお、上記の如く、シート状のマスク材を走行する要素を単一の架台に設置してユニット化し、シート状のマスク材を予めセットしたものを複数用意しておくことが好ましい。これによれば、使用中のものをメンテナンス(シート状のマスク材の交換やクリーニング等)する必要が生じた場合、例えばクリーニング済のシート状のマスク材がセットされた他のものを成膜装置にセットし、可及的速やかにシート状の基材への成膜を再開できる。
【0008】
本発明においては、前記シート状の基材または前記シート状のマスク材を走行する速度を検出する速度検出手段と、前記シート状の基材の部分が一方向に走行される方向をX軸方向とし、前記シート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とが上下に位置する領域にて、前記シート状の基材に対する前記シート状のマスク材のX軸方向の相対変位量を検出する第1の検出手段とを備え、前記シート状の基材と前記シート状のマスク材のうちいずれか一方を、その他方の前記速度検出手段の検出値に一致させて両者を同期させ、第1の検出手段の検出値に応じて前記基材走行手段及び前記駆動部のいずれか一方を制御してシート状の基材に対するシート状のマスク材の位置を補正するように構成することが好ましい。
【0009】
また、本発明においては、前記シート状の基材の部分が一方向に走行される方向をX軸方向、これに直交する方向をY軸方向、上下方向としてのZ軸回りの回転方向をθz方向とし、前記架台はY−θzステージ上に設置され、前記シート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とが上下に位置する領域にて、シート状の基材に対するシート状のマスク材のY軸方向の相対変位量またはシート状の基材の走行方向とシート状のマスク材の走行方向とのなす角度を検出する第2の検出手段を備え、第2の検出手段の検出値に応じて、Y−θzステージにより架台のY軸方向への移動及びθ方向への回転の少なくとも一方を行ってシート状の基材に対するシート状のマスク材の位置を補正するように構成することが好ましい。
【0010】
更に、本発明において、マスク走行手段が、一方向に走行されるシート状の基材の部分に対して上下方向に所定間隔を持ってシート状のマスク材の部分を平行に走行する場合には、前記Y−θzステージに、当該Y−θzステージを上下動する駆動手段を備え、前記シート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とが上下に位置する領域にて、シート状の基材とシート状のマスク材との上下方向の間隙を検出する第3の検出手段を備え、第3の検出手段の検出値に応じて駆動手段によりY−θzステージを上下動させてシート状の基材に対するシート状のマスク材の高さ位置を補正するように構成することが好ましい。
【0011】
他方で、前記成膜手段の上方領域にて、このシート状の基材の部分をシート状のマスク材の部分に向けて押圧し、シート状の基材とシート状のマスク材とを互いに接触させる押圧手段を更に備えるように構成することもできる。
【0012】
なお、本発明においては、メンテナンス性等を考慮して、前記マスク材走行手段を前記真空処理室内と真空処理室外との間でY軸方向に移動自在とする移動手段を備えることが好ましい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、上記成膜装置を用いシート状の基材に成膜する本発明の成膜方法は、シート状の基材とシート状のマスクとをX軸方向に所定間隔でアライメントマークが夫々列設されたもの、第1及び第2の両検出手段を夫々撮像手段として、撮像手段でシート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とのアライメントアークを撮像し、この撮像した画像を解析して、シート状の基材に対するシート状のマスク材のX軸方向の相対変位量(△X)と、シート状の基材に対するシート状のマスク材のY軸方向の相対変位量(△Y)及びシート状の基材の走行方向とシート状のマスク材の走行方向とのなす角度(△θz)の少なくとも一方を夫々検出し、検出した相対変位量(△X)に基づいて基材走行手段及び前記駆動部のいずれか一方に対してシート状の基材またはシート状のマスクの走行速度の増速量または減速量を指令し、これに同期させて、検出した相対変位量(△Y)及び角度(△θz)の少なくとも一方に基づいてY−θzステージに対して架台のY軸方向への移動及びθ方向への回転の少なくとも一方の移動量を指令してシート状の基材に対するシート状のマスク材の走行速度と位置とを補正することを特徴とする。
【0014】
これによれば、シート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とを高精度で位置合わせした状態で、所定速度で走行させるシート状の基材に対してマスク越しに成膜材料を供給して基材の片面に所定のパターンで連続して成膜することができる。
【0015】
ところで、マスク走行手段により一方向に走行されるシート状の基材の部分に対して上下方向に所定間隔を持ってシート状のマスク材の部分を平行に走行させ、当該領域にて成膜する場合、シート状の基材の部分に対してシート状のマスク材の部分が若干傾き、両者間に比較的に隙間が広い領域が生じていると、当該領域でマスクボケが生じ、高精度に成膜できない。
【0016】
本発明においては、マスク走行手段が互いに平行に走行するシート状のマスク材の部分をシート状の基材に対して傾ける傾動手段を更に有するような場合、第3の検出手段をX軸方向に所定間隔で複数列設されたものとし、第3の検出手段で夫々検出したシート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とのZ軸方向の間隔からシート状の基材に対するシート状のマスク材の傾きを検出し、検出した傾きに基づいてシート状の基材に対するシート状のマスク材の傾動量を傾動手段に指令して上記傾きを補正し、傾きの補正後に上記走行速度と位置とを補正することが好ましい。これにより、マスクボケを生じることなく、高精度で基材の片面に所定のパターンで連続して成膜することができる。
【0017】
他方で、前記撮像手段で撮像した画像を解析してX軸方向の相対変位量(△X)と、Y軸方向の相対変位量(△Y)及び角度(△θz)の少なくとも一方を夫々検出した後、第3の検出手段で夫々検出したシート状の基材の部分とシート状のマスク材の部分とのZ軸方向の間隔からシート状の基材に対するシート状のマスク材の傾きを検出し、この検出した傾きに基づいてシート状の基材に対するシート状のマスク材の傾動量を傾動手段に指令して上記傾きを補正すると共に、傾き補正に伴うシート状の基材に対するシート状のマスク材のX軸方向及びY軸方向の移動誤差を算出し、相対変位量(△X)とY軸方向の相対変位量(△Y)及び角度(△θz)の少なくとも一方とに上記移動誤差を加えて、基材走行手段及び前記駆動部のいずれか一方に対してシート状の基材またはシート状のマスクの走行速度の変化量を指令し、これに同期させて、架台のY軸方向への移動及びθ方向への回転の少なくとも一方の移動量を指令してシート状の基材に対するシート状のマスク材の走行速度と位置とを補正することができる。これによれば、可及的速やかにシート状の基材に対するシート状のマスク材の位置を補正することができてよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態の成膜装置の構成を示す模式斜視図。
【
図3】(a)及び(b)は、シート状のマスク材に対するシート状の基材の位置ずれを説明する図。
【
図4】シート状のマスク材に対するシート状の基材の位置合わせを説明する図。
【
図5】本発明の変形例に係る成膜装置の要部を拡大して示す断面図。
【
図6】本発明の他の変形例に係る成膜装置の要部を拡大して示す断面図。
【
図7】(a)および(b)は、本発明の更に他の変形例に係る成膜装置の要部を拡大して示す正面図及び側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、成膜手段を抵抗ボードとし、シートの基材Swを所定速度で走行させながらマスクSm越しに所定の薄膜を連続して成膜する場合を例に本発明の成膜装置の実施形態を説明する。以下においては、成膜室1a内でシート状の基材Swの部分Sw1が一方向に移送される方向をX軸方向(
図2中の左右方向)、同一平面内でこれに直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向(
図2中の上下方向)、Z軸回りの回転方向をθz方向とし、また、X軸方向及びZ軸方向における上、下、左、右といった方向を示す用語は
図2を基準とする。
【0020】
図1及び
図2を参照して、DMは、本発明の実施形態の成膜装置である。成膜装置DMは、図示省略の真空ポンプが接続されて所定圧力に真空引きされる真空処理室1を備え、真空処理室1は、シート状の基材Swに対して成膜処理を施す成膜室1aと、成膜室1aのX軸方向の左右に夫々連設された上流側補助室1bと、下流側補助室1cとで構成されている。
【0021】
上流側補助室1bには、シート状の基材Swを巻回した状態で保持し、モータDM1で回転駆動される繰出ローラ21と、繰出ローラ21から繰り出されたシート状の基材Swが巻き掛けられて成膜室1aの上部空間へと案内する上流側ガイドローラ22及び下流側ガイドローラ23とが設けられている。また、上流側補助室1bには、上流側ガイドローラ22と下流側ガイドローラ23との間に位置してZ軸方向に移動自在なダンサーローラ24が設けられている。ダンサーローラ24の回転軸24aには、この回転軸24aを上方に向けて付勢するばね24bが付設され、成膜室1a内を挿通するシート状の基材Swの張力を所定値に保持するようにしている。なお、シート状の基材Swの張力を所定値に保持する構成はこれに限定されるものではなく、公知のアクチュエータによりシート状の基材Swの張力を可変としてもよい。また、下流側ガイドローラ23には、その回転速度を検出する速度検出手段としてのセンサ25が付設され、回転速度に基づいて成膜室1aへと送られるシート状の基材Swの送り速度を検出できるようにしている。
【0022】
下流側補助室1cには、成膜室1aを通して成膜処理されたシート状の基材Swを巻き取って回収する巻取ローラ31と、成膜室1aから巻取ローラ31へとシート状の基材Swを案内するガイドローラ32とが設けられている。そして、上流側補助室1b内の下流側ガイドローラ23と下流側補助室1c内のガイドローラ32とにより、シート状の基材Swが成膜室1aの上部空間をX軸方向に水平に移送され、その下面が成膜面となる。本実施形態においては、上述の各要素21〜24及び31,32がシート状の基材Swを所定速度で走行する基材走行手段を構成する。
【0023】
成膜室1aには、この成膜室1a内を移送されるシート状の基材Swの部分Sw1に対して、シート状の基材Swに対する成膜材料の供給範囲を制限するシート状のマスク材Smを走行するマスク材走行手段4が設けられている。マスク材走行手段4は、矩形の基板部41aと基板部41aの四隅に夫々立設した4本の板状の支持部41bとで構成される単一の架台41を備える。架台41の支持部41bのY軸方向に向かい合う面には、上下方向に所定間隔で2本のローラ42a〜42dが夫々軸支されている。また、左下側に位置するローラ42dの回転軸はモータDM2に接続されている。そして、シート状のマスク材Smが無端状に各ローラ42a〜42dに巻き掛けられ、モータDM2の回転駆動によりシート状のマスク材Smが走行する。本実施形態においては、X軸方向に所定間隔を置いて配置される左上側のローラ42aと右上側のローラ42bとが、成膜室1a内を水平に移送されるシート状の基材Swの部分Sw1に対してシート状のマスク材Smの部分Sm1を上下方向に所定間隔を持って水平に走行させる平行走行領域形成部を構成し、左下側に位置するモータDM2付きのローラ42dが、シート状の基材Swに同期させてシート状のマスク材Smを走行させる駆動部を構成する。
【0024】
具体的には、センサ25での検知値に応じたシート状の基材Swの送り速度から、モータDM2の回転速度を算出し、シート状の基材Swの送り速度がシート状のマスク材Smの送り速度と同等になるように制御される。なお、シート状のマスク材Smとしては、シート状の基材Swに成膜しようとするパターンに応じた孔またはスリットがマスクパターンとして形成されたものが用いられる。また、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの幅方向(Y軸方向)の両端には、同一X軸上に位置させて、シート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの相対変位量△X,△Y及び△θzを検出するためのアライメントマークAm1,Am2がY軸方向に所定間隔(例えば、5〜10mmの範囲)で夫々形成されている(
図3参照)。シート状の基材SwのアライメントマークAm1としては、例えば、平面視円形で所定径を有する透孔で構成される一方、シート状のマスク材SwのアライメントマークAm2としては、アライメントマークAm1より小径の透孔等で構成され、例えば、両アライメントマークAm1,Am2の中心が一致するようにアライメントされる。また、シート状の基材Swに対する成膜処理の管理等のため、成膜の開始位置や終了位置を特定できるように、シート状の基材Swの幅方向(Y軸方向)の両端には、アライメントマークAm1,Am2とは区別して、検出開始点や検出終了点を指示するマークSp,Epが形成されている。この場合、マークSp,Epは、アライメントマークAm1,Am2より大径の透孔や平面視三角形の透孔等で形成することができる。なお、アライメントマークAm1,Am2は、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの幅方向(Y軸方向)の一端にのみ形成しておき、シート状の基材Swに対してシート状のマスク材Smを位置合わせすることもできる。
【0025】
また、成膜室1aには、架台41を支持するY−θzステージ5が設けられ、Y−θzステージ5には、上下動自在な直動アクチュエータ6が付設されている。Y−θzステージ5としては、架台41のY軸方向への移動及び、架台41のθz方向への回転を行い得る公知の構造のもの、また、直動アクチュエータ6としては架台41をY−θzステージごと上下動し得る公知の構造のものが利用できるためここでは詳細な説明は省略する。更に、成膜室1aの下面にはY軸方向に延びるレール部材71が設けられ、レール部材71に沿って走行可能な台車72が設けられ、台車72上に、直動アクチュエータ6を介してY−θzステージ5及び架台41が設置されている。この場合、成膜室1aを画成する壁面には図示省略の開閉扉が設けられ、マスク材走行手段4を成膜室1aに進退自在としている。本実施形態では、レール部材71と台車72とがマスク材走行手段4を成膜室1a内と成膜室1a外との間でY軸方向に移動自在とする移動手段を構成する。
【0026】
更に、成膜室1aを画成する上壁面11には、Y軸方向に所定間隔を存して2個の覗き窓12が設けられている。覗き窓12の上方には、CCDカメラ等の撮像手段81,82が配置されている。この場合、撮像手段81,82は、シート状の基材Swの幅方向(Y軸方向)両端で成膜室1a内を水平に移送されるシート状の基材Swの部分Sw1に対するシート状のマスク材Smの部分Sm1の相対位置やアライメントマークAm1,Am2を撮像するようになっている。本実施形態においては、両撮像手段81,82が、シート状の基材Swに対するシート状のマスク材SmのY軸方向の相対変位量△Yまたはシート状の基材Swの走行方向とシート状のマスク材Smの走行方向とのなす角度△θzを検出する第2の検出手段を構成すると共に、両撮像手段81,82が、シート状の基材Swの部分Sw1とシート状のマスク材Smの部分Sm1とが上下に位置する領域にて、シート状の基材Swに対するシート状のマスク材SmのX軸方向の相対変位量△Xを検出する第1の検出手段を兼用する。そして、撮像手段81,82で撮像した画像を公知の画像解析手段で解析し、この解析した値(検出値)に応じてY−θzステージ5を適宜移動または回転させてシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの位置が補正される。
【0027】
具体的には、
図3(a)に例示するように、シート状の基材Sw1に対してシート状のマスク材SmのY軸方向一方に変位している場合、撮像手段81,82で撮像した画像を公知の画像解析手段で解析して変位量△Yを算出し、これに応じてY−θzステージ5をY軸方向一方に移動させて補正する。他方で、
図3(b)に例示するように、シート状の基材Swに対してシート状のマスク材Smが蛇行している場合、撮像手段81,82で撮像した画像を公知の画像解析手段で解析して、シート状の基材Swの走行方向とシート状のマスク材Smの走行方向とのなす角度(X−Y平面におけるシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの傾き)△θzを算出し、これに応じてY−θzステージ5をθz軸方向に適宜移動させることでY−θzステージ5をZ軸回りに回転させて補正する。それに加えて、撮像手段81,82で撮像した画像を同様に解析し、この解析した値(検出値)に応じてモータDM1またはモータDM2の回転数を増加または減少させて、両アライメントマークAm1,Am2がZ軸方向で上下に重なるようにシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの位置が補正され、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとが同期して走行される。
【0028】
成膜室1aを画成するY軸方向の側壁面にもまた、図示省略の覗き窓が設けられ、覗き窓の側方には、CCDカメラ等の撮像手段83が配置されている。本実施形態では、撮像手段83が、シート状の基材Swの部分Sw1とシート状のマスク材Smの部分Sm1とが上下に位置する領域にて、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの上下方向の間隙を検出する第3の検出手段を構成する。そして、撮像手段83で撮像した画像を公知の画像解析手段で解析し、この解析した値(検出値)に応じて直動アクチュエータ6を適宜上下動させてシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの高さ位置が補正される。シート状の基材Swの送り速度とシート状のマスク材Smの送り速度とを一致させる制御や、成膜室1a内を水平に移送されるシート状の基材Swの部分Sw1に対するシート状のマスク材Smの部分Sm1のX軸方向及びY軸方向の相対位置の補正及び、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの上下方向の間隙の補正は、成膜中、常時行うことができる。これにより、シート状の基材Swに対してシート状のマスク材Smが高精度で位置合わせされ、精密なパターンの成膜を行うことができると共に、上下方向の間隙が広がり過ぎて基材Swに成膜した薄膜にマスクボケが生じることを防止できる。
【0029】
成膜室1aには、架台41の支持部41b内側の空間でシート状のマスク材Smの部分Sm1の下方に位置する部分には成膜手段9が配置されている。成膜手段9は、シート状の基材Swに成膜しようする薄膜の組成に応じて選択させる成膜材料(図示せず)が収納され、この成膜材料を抵抗加熱により蒸発させる抵抗ボード91と、抵抗ボード91が格納されるボックス92とを備え、成膜室1aを画成するY軸方向の側壁面で支持されている。この場合、ボックス92を成膜室1aに進退自在に構成し、蒸発材料の補充やメンテナンスを容易にできるようにしてもよい。なお、成膜材料を抵抗ボード91に予めセットしたボックス92を複数用意してしておき、使用中のものをメンテナンスする必要が生じた場合、他のボックス92をセットして可及的にシート状の基材Swへの成膜を再開できるようにしてもよい。
【0030】
上記成膜装置DMは、その全体的な動作を制御するパーソナルコンピュータやシーケンサー等からなる制御手段Cuを備え、制御手段Cuは、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの同期した走行や、撮像手段81,82,83で撮像した画像データの入力に基づく補正量の算出やY−θzステージ5によるシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの位置の補正等を行う。以下に、
図4も参照して、上述の成膜装置DMを用いた成膜方法の一例を説明する。
【0031】
上流側補助室1bにて、繰出ローラ21にシート状の基材Swを保持させ、シート状の基材Swの先端を上流側ガイドローラ22、下流側ガイドローラ23及びダンサーローラ24を介して、予めマスク材走行手段4がセットされた成膜室1aの上部空間を通し、更にガイドローラ32を介して巻取ローラ31に巻き掛ける。このとき、シート状のマスク材Smを手動等で移動させてアライメントマークAm1,Am2をZ軸方向に略一致するようにしておく。そして、成膜室1a、上流側補助室1b及び下流側補助室1cを所定圧力まで真空引きされると、モータDM1、DM2を回転駆動し、繰出ローラ21からのシート状の基材Swを走行させると共に、これに同期させてシート状のマスク材Smを走行させる。このとき、センサ25での検知値に応じたシート状の基材Swの送り速度から、モータDM2の回転速度を算出し、シート状の基材Swの送り速度がシート状のマスク材Smの送り速度と同等になるように制御して単時間当たり同じ長さ(走行量)だけシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとが走行される。
【0032】
次に、
図4中、上側に位置するシート状の基材Sw及びシート状のマスク材SmのアライメントマークをAm1u,Am2u、下側に位置するアライメントマークをAm1d,Am2dとし、撮像手段82で検出開始点のマークSpが撮像されると、制御手段Cuは、次に撮像した、シート状の基材Swの部分Sw1とシート状のマスク材Smの部分Sm1とのアライメントアークAm1u,Am2u,Am1d,Am2dの画像を解析して、X軸方向の相対変位量△Xと、Y軸方向の相対変位量△Y及び角度△θzの少なくとも一方を夫々検出する。具体的には、
図4に示すように、1)撮像手段82でアライメントマークAm1uとAm2uとを同時に撮像し、画像解析してX軸方向及びY軸方向の位置差を夫々検出すると共に、2)撮像手段81でアライメントマークAm1dとAm2dとを同時に撮像し、画像解析してX軸方向及びY軸方向の位置差を夫々検出する。そして、上記1)及び2)で検出した上記位置差のX軸方向及びY方向の平均値を夫々算出し、シート状の基材Swの両アライメントアークAm1u,Am1dの間の中点Am1cと、シート状のマスク材Smの両アライメントアークAm2u,Am2dの間の中点Am2cにおける相対変位量△X及び△Yを求める。他方、上記位置差のX軸方向について上記1)と2)との差を算出し、それを撮像手段81,82間の距離で割ると、△θzが算出される。そして、制御手段Cuは、検出した相対変位量(△X)に基づいてモータDM2の回転数の変化量(即ち、増速量または減速量)を算出して指令し、シート状の基材Swに対するシート状のマスク材SmのX軸方向の位置を補正する。また、例えばY軸方向に変位している場合には、検出した相対変位量(△Y)に基づいてY−θzステージ5のY軸方向の移動量を指令し、例えばθz方向に変位している場合には、角度(△θz)に基づいてY−θzステージ5のZ軸回りに回転量を指令してシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの位置を補正する。
【0033】
上記に併せて、制御手段Cuは、撮像手段83で撮像したシート状の基材Swとシート状のマスク材SmとのZ軸方向の間隙の画像を解析して、シート状の基材Swに対するシート状のマスク材SmのZ軸方向の相対変位量(△Z)を検出する。そして、検出した相対変位量(△Z)に基づいて直動アクチュエータ6の上下方向の移動量を指令してシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの隙間(高さ位置)を補正する。
【0034】
シート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの走行速度と位置と高さ位置とが補正された後、制御手段Cuは、例えば所定の周期でシート状の基材Swの部分Sw1とシート状のマスク材Smの部分Sm1とのアライメントアークAm1,Am2の撮像する毎に、相対変位量△Xと、相対変位量△Y及び角度△θzの少なくとも一方と、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの隙間とを夫々検出し、所定の範囲から外れると、上記に従い、シート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの位置と走行速度を補正する。
【0035】
以上の実施形態によれば、シート状のマスク材Smを走行する、平行走行領域形成部及び駆動部としての各ローラ42a〜42dを単一の架台41に設置してユニット化し、シート状の基材Swの部分Sw1に対するシート状のマスク材Smの部分Sm1の位置合わせを行う場合には、架台41自体を移動または回転させるため、一定の張力が加わったシート状のマスク材Smの走行状態が変化するものではなく、シート状のマスク材Sm、ひいてはそのマスクパターンに強制的な歪が発生することはない。従って、シート状の基材Swの部分Sw1に対してシート状のマスク材Smの部分Sm1が上下方向に所定間隔を持って常時平行に走行されることと相俟って、精密なパターンでシート状の基材Swに成膜を行うことができる。しかも、架台41が移動手段71,72上に設置されているため、真空処理室1から取り出してメンテナンス等を行う場合、その作業を容易にすすめることができる。なお、各ローラ42a〜42dを単一の架台41に設置してユニット化し、シート状のマスク材Smを予めセットしたものを複数用意しておいてもよい。そして、使用中のものをメンテナンス(シート状のマスク材Smの交換やクリーニング等)する必要が生じた場合、例えばクリーニング済のシート状のマスク材Smがセットされた他のものを用いて可及的速やかにシート状の基材への成膜を再開できるようにしてもよい。
【0036】
ところで、シート状の基材Swによっては、抵抗ボード91にて成膜材料を抵抗加熱により蒸発させるときの輻射熱で熱膨張する場合がある。シート状の基材SwがX軸方向に熱膨張している場合、上記の如く、単時間当たり同じ長さ(走行量)だけシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとを走行させる制御を行っていても、シート状のマスク材Smに対してシート状の基材Swに遅れが生じることになる。このような場合、Y−θzステージ5をX軸方向にも移動できるように構成して熱膨張に伴う相対変位量△Xを補正することが考えられるが、これでは、Y−θzステージ5のX軸方向の移動量の範囲内でしか相対変位量△Xが補正できず、成膜処理しようとするシート状の基材Swが非常に長いことで、シート状の基材Swの遅れが累積してくると、シート状の基材Swに対するシート状のマスク材Snの位置を補正することができない場合が生じる。それに対して、上記実施形態では、検出した相対変位量(△X)に基づいてモータDM2の回転数の変化量(即ち、増速量または減速量)を算出して指令し、単時間当たり同じ走行量だけシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとが走行させるときの走行量に相対変位量△Xを加算または減算するため、X軸方向の熱膨張によって生じるシート状の基材Swの遅れも補正でき、しかも、シート状の基材Swが非常に長いような場合でも永続的に補正することができる。更に、シート状の基材SwのY軸方向に熱膨張している場合でも、上記の如く、変位量△Yや角度θzを算出しているため、シート状の基材Swの熱膨張の影響を最小限に抑えるアライメントを行うことができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。上記実施形態では、マスク材走行手段4から台車72までを含めて真空処理室1に配置したものを例に説明したが、例えば、マスク材走行手段4とY−θzステージ5のみを真空処理室1に配置する構成とし、成膜室1aの容積が小さくなるようにしてもよい。また、上記実施形態では、シート状のマスク材Smを無端状に各ローラ42a〜42dに巻き掛けたものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、繰出ローラから巻取軸に巻き取るように構成することもできる。
【0038】
また、上記実施形態では、成膜手段として抵抗ボードを用いて蒸着するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、成膜手段は、スパッタリングカソードや、CVD法により所定の薄膜を形成するための原料ガス供給手段としてもよい。更に、上記実施形態では、下流側ガイドローラ23に速度検出手段としてのセンサ25を設け、センサ25での検出値に応じて、シート状の基材Swの送り速度がシート状のマスク材Smの送り速度と同等になるように制御するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、シート状のマスク材Smの送り速度を検出し、この検出値に応じてモータDM1を制御し、繰出ローラ21から繰り出されたシート状の基材Swの送り速度を補正するようにしてもよい。この場合、モータDM2の回転数を増加または減少させて、両アライメントマークAm1,Am2がZ軸方向で上下に重なるようにシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの位置が補正される。
【0039】
更に、上記実施形態では、シート状の基材Swの部分Sw1とシート状のマスク材Smの部分Sm1とが上下方向に所定間隔を持って平行に走行されるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、シート状の基材Swの部分Sw1とシート状のマスク材Smの部分Sm1とを接触させた状態で成膜するように構成することができる。例えば、
図5に示す変形例に係る実施形態では、抵抗ボード91が格納されるボックス92に対向させてシート状の基材Swの上側にはキャンローラCrが設けられている。キャンローラCrには図示省略の直動アクチュエータが付設され、キャンローラCrをZ軸方向に上下動自在としている。他方で、
図6に示す他の変形例に係る実施形態では、抵抗ボード91が格納されるボックス92に対向させてシート状の基材Swの上側にX軸方向に所定間隔で2本の押圧ローラR1,R2が設けられている。各押圧ローラR1,R2には、図示省略の直動アクチュエータが付設され、各ローラR1,R2を連動してZ軸方向に上下動自在としている。
【0040】
また、上記実施形態では、シート状の基材Swの部分Sw1とシート状のマスク材Smの部分Sm1とがZ軸方向に所定間隔を持って平行に走行させる際に、Y−θzステージ5に付設した直動アクチュエータ6により各ローラ42a〜42dを一体にZ軸方向に上下動させてZ軸方向の間隔を補正するものを例に説明したが、変形例に係るマスク走行手段40では、互いに平行に走行するシート状のマスク材Smの部分Sm1をシート状の基材Swの部分Sw1に対して傾ける傾動手段60を更に備えている。
【0041】
上記実施形態と同一の部材または要素について同一の符号を用いて説明する
図7を参照して、マスク走行手段40では、台車72上に設置したY−θzステージ5にZ軸方向に上下動する3個の直動アクチュエータ60が所定間隔で設けられ、各直動アクチュエータ60には、自由(球面)ジョイント61を介して操作ロッド62が夫々連結され、3本の操作ロッド62で、各ローラ42a〜42dを夫々軸支するフレーム64が支持されている。この場合、各直動アクチュエータ60、ジョイント61及び支持ロッド62が本実施形態の傾動手段を構成する。また、成膜室1aを画成するY軸方向の側壁面には第3の検出手段が設けられ、本実施形態では、CCDカメラ等の撮像手段83a〜83cがX軸方向に所定間隔で3個列設され、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smの部分とが上下に位置する領域にて、シート状の基材Swとシート状のマスク材Smとを複数箇所で撮像できるようになっている。
【0042】
制御手段Cuは、各撮像手段83a〜83cで夫々検出したシート状の基材Swの部分Sw1とシート状のマスク材Smの部分Sm1とのZ軸方向の間隔からシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの傾きを検出し、検出した傾きに基づいてシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの傾動量を傾動手段としての直動アクチュエータ60に指令して上記傾きを補正する。この場合、直動アクチュエータ60によりシート状のマスク材Smの傾きを補正すると、アライメントマークAm1,Am2をX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向にずれることになるので、上記傾きの補正後に、上述の手順に従って、シート状の基材Swに対するシート状のマスク材Sm走行速度と位置との補正が行われる。
【0043】
他方で、可及的速やかにシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの位置を補正するために、上記実施形態の如く、撮像手段81,82で撮像した画像を解析してX軸方向の相対変位量△Xと、Y軸方向の相対変位量△Y及び角度△θzの少なくとも一方を夫々検出した後に、第3の検出手段としての各撮像手段83a〜83cで夫々検出したZ軸方向の間隔からシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの傾きを検出し、検出した傾きに基づいてシート状の基材Swに対するシート状のマスク材Smの傾動量を傾動手段としての直動アクチュエータ60に指令して上記傾きを補正する。これと同時に、制御手段Cuは、傾き補正に伴うシート状の基材Swに対するシート状のマスク材SmのX軸方向及びY軸方向の移動誤差を算出し、相対変位量△Xと、Y軸方向の相対変位量△Y及び角度△θzの少なくとも一方とに上記移動誤差を算出する。そして、例えば、算出した相対変位量(△Z±α)に基づいて直動アクチュエータ6の上下方向の移動量を指令してシート状の基材Swとシート状のマスク材Smとの隙間(高さ位置)が補正される。
【符号の説明】
【0044】
DM…成膜装置、1…真空処理室、21…繰出ローラ(基材走行手段)、22,23,32…ガイドローラ(基材走行手段)、31…巻取ローラ(基材走行手段)、DM1…モータ(基材走行手段)、4,40…マスク走行手段、41…架台、42a,42b…ローラ(マスク材走行手段の平行領域形成部)、42d…モータ付きローラ(マスク材走行手段の駆動部)、5…Y−θzステージ、6…直動アクチュエータ(駆動手段)、60…直動アクチュエータ(傾動手段)、61…ジョイント、62…支持ロッド、71…台車(移動手段)、81〜83…撮像手段(第1〜第3の各検出手段)、9…成膜手段、Sw…シート状の基材、Sw1…シート状の基材の部分、Sm…シート状のマスク材、Sm1…シート状のマスク材の部分。