(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227834
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】三極管型電離真空計
(51)【国際特許分類】
G01L 21/32 20060101AFI20171030BHJP
H01J 41/04 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
G01L21/32
H01J41/04
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-503333(P2017-503333)
(86)(22)【出願日】2016年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2016000698
(87)【国際公開番号】WO2016139894
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2017年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-41030(P2015-41030)
(32)【優先日】2015年3月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】宮下 剛
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊昭
(72)【発明者】
【氏名】福原 万沙洋
【審査官】
森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5827532(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L21/32
H01J41/04
本件特許出願に対応する国際特許出願PCT/JP2016/000698の調査結果が利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に装着されてその内部の圧力を検出する三極管型電離真空計であって、フィラメントと、フィラメントの周囲に配置される筒状の輪郭を有するグリッドと、グリッドの周囲に同心に配置される筒状のイオンコレクタとを備え、フィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、フィラメントより高い電位をグリッドに付与し、このグリッド周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンをイオンコレクタで捕集し、このときのイオン電流から圧力を検出するものにおいて、
イオンコレクタの母線方向の両端部の粒子放出領域が省略されるように構成したことを特徴とする三極管型電離真空計。
【請求項2】
前記イオンコレクタの母線方向の長さをグリッドの母線方向の長さの6%〜80%の範囲に設定し、イオンコレクタの母線方向の粒子放出領域を省略したことを特徴とする請求項1記載の三極管型電離真空計。
【請求項3】
前記フィラメントと、前記グリッドと、前記イオンコレクタとを金属製の真空隔壁内に収納したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の三極管型電離真空計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器等の測定対象物に装着されてその内部の圧力を検出するための三極管型電離真空計に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングや蒸着による成膜等、真空処理装置内で実施される真空プロセスにおいては、測定対象物としての真空チャンバ内の圧力が、例えば製品歩留まりに大きな影響を与える場合がある。真空プロセス中、真空チャンバ内の圧力のうち1Pa〜10
−6Paの広い圧力範囲を精度よく測定するものとして、三極管型電離真空計が一般に知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記従来例のものは、測定対象物に装着されるガラス製の真空隔壁内に、ヘアピン状に成形されたフィラメントと、フィラメントの周囲に配置される、円筒状の輪郭を有するグリッドと、グリッドの周囲に配置される円筒状のイオンコレクタとを備えている。そして、フィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、フィラメントより高い電位をグリッドに付与し、このグリッド周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンをイオンコレクタで捕集し、このときのイオン電流から測定対象物の圧力が測定される。この場合、フィラメントはその折り返した頂部側から挿入され、頂部がグリッドの母線方向中央領域に位置するように配置される。また、イオンコレクタとしては、正イオンを可及的に捕集するために、その母線方向の長さがグリッドの母線方向の長さと同等以上ものが用いられ、グリッドとイオンコレクタとは同心状に配置される。
【0004】
ここで、上記従来例の三極管型電離真空計の真空隔壁に真空ポンプを接続し、大気圧から高真空領域(10
−5Pa程度の圧力)まで一定の排気速度で真空引きしながら、上記に従い圧力を測定すると、圧力指示値がその測定限界(下限)値付近の圧力である10
−5Pa程度まで連続して下降した後、10
−4Pa程度まで再度上昇して平衡になることが判明した。このような三極管型電離真空計を測定対象物に装着して圧力を測定すると、測定誤差が生じる(即ち、実際の測定対象物の圧力より高い圧力を指示する)という問題を招来する。
【0005】
そこで、本発明の発明者らは、鋭意研究を重ね、イオンコレクタの母線方向の両端部は、正イオンの衝突確率が比較的低く、粒子(気体分子)が溜め込まれ得る領域となり、ひいては、正イオンの衝突で放出される粒子の放出源となっていることに起因していることを知見するのに至った。つまり、真空引き当初、グリッドやイオンコレクタに付着している水分などの気体の原子や分子(大気中の成分)も徐々に放出されて排気され(即ち、所謂吸着等温線に沿って吸着量が減少する)、圧力指示値がその測定限界値(例えば、10
−5Pa)まで降下していく。この時点では、イオンコレクタ(主として、内表面)に付着している原子や分子の組成は、大気と連動した組成比率になっていると考えられる。
【0006】
放出された気体や正イオンとなった気体分子などはイオンコレクタに再度衝突し、イオンコレクタ表面(主として、内表面)に酸化物などとして化学吸着または物理吸着する。この場合、正イオンの衝突確率が高い領域では、離脱可能なエネルギを持つ正イオンが継続的に衝突することで、中性分子、中性破片分子、中性原子またはそれらのイオンなどの粒子として可及的に放出される(即ち、分子層として堆積し難い)一方で、正イオンの衝突確率が低い領域では、正イオンが継続的に衝突しないことで例えば弱結合の分子層(酸化層など)として、正イオンの衝突確率が高い領域と比較して堆積し易く、分子層の厚さを保持し易い状態となっている。
【0007】
更に時間が経過すると、真空隔壁内の気体は排気能力に応じた組成へと変化する。この組成変化に応じてイオンコレクタ表面(主として、内表面)に付着している原子や分子層の組成も変化する。例えば、排気され難い水分子などが増加した組成へと変化する。この組成が変化した事等を起因として、正イオンの衝突確率が低い領域では、離脱より吸着が優勢となり、例えば弱結合の分子層(酸化層など)として堆積が進行する。そして、測定限界値付近の圧力まで下降した後、堆積した分子層(更に吸着した水分子等なども含む)に正イオンが衝突することで放出される粒子の量が徐々に多くなっていくのに従い、圧力指示値が上昇し、その後、粒子の放出と、放出された粒子の再吸着や排気との均衡が保たれると、所定圧力(例えば、10
−4Pa)で平衡になると考えられる。この分子層に化学吸着または物理吸着する量と、この分子層から放出される粒子の量とは正イオンなどの衝突確率に依存するため、イオンの衝突確率が比較的低いイオンコレクタの母線方向の両端部が粒子の放出源となって、圧力指示値の上昇を招いていると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−72694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、イオンコレクタ表面から放出される粒子の影響を少なくして測定誤差なく測定対象物の圧力を測定することができる三極管型電離真空計を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、測定対象物に装着されてその内部の圧力を検出する本発明の三極管型電離真空計は、フィラメントと、フィラメントの周囲に配置される筒状の輪郭を有するグリッドと、グリッドの周囲に同心に配置される筒状のイオンコレクタとを備え、フィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、フィラメントより高い電位をグリッドに付与し、このグリッド周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンをイオンコレクタで捕集し、このときのイオン電流から圧力を検出し、イオンコレクタの母線方向の両端部の粒子放出領域が省略されるように構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、測定対象物に取り付けて圧力を測定するときに高真空領域でのイオンコレクタ表面から放出される粒子の影響が可及的に抑制され、結果として、正確に測定対象物の圧力を測定することができる。本発明において、「粒子放出領域」とは、イオン電流からの圧力測定時、正イオンの衝突確率が比較的低いことでイオンの捕集にあまり寄与しない一方で、その表面に分子層として堆積し得る領域(言い換えると、粒子(気体分子)が溜め込まれ得る領域)であって、これを省略しても感度低下の影響が少なく圧力を測定できる領域をいい、粒子放出領域を全体として省略する場合だけでなく、圧力上昇を招かない範囲で部分的に省略する場合も含む。
【0012】
本発明においては、前記イオンコレクタの母線方向の長さをグリッドの母線方向の長さの6%〜80%の範囲に設定し、イオンコレクタの母線方向の粒子放出領域を省略することが好ましい。これによれば、イオンコレクタの母線方向の長さをグリッドの母線方向の長さと同等とした場合において正イオンの衝突確率が比較的低いイオンコレクタの両端部を、グリッドの母線方向の長さに対するイオンコレクタの母線方向の長さを短く設定するという極めて簡単な構成で実質的に省略することができ、イオンコレクタ表面から放出される粒子の影響を可及的に抑制することができる。なお、グリッドの母線方向長さを80%より長くすると、イオンコレクタの母線方向の両端部での粒子の放出の影響を受けて測定誤差が生じる一方で、グリッドの母線方向長さを6%より短くすると、著しい感度低下を招き、測定対象物内の圧力を正確に測定できない虞がある。
【0013】
また、本発明においては、前記フィラメントと、前記グリッドと、前記イオンコレクタとを金属製の真空隔壁内に収納することが好ましい。これによれば、熱電子の真空隔壁へのチャージアップが防止され、真空隔壁で囲繞された空間内の電位分布が常時一定に保持される。その結果、長時間に亘って一定の感度で圧力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の三極管型電離真空計の構成を説明する模式図。
【
図3】三極管型電離真空計を真空引きしたときの時間の経過に対する圧力変化を示すグラフ。
【
図4】グリッドの母線方向の長さに対するイオンコレクタの母線方向の長さの比を横軸、イオンコレクタでの正イオンの収集確率を縦軸とした場合のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の三極管型電離真空計の実施形態を説明する。以下においては、図示省略の測定対象物に対する後述のセンサ部の装着方向を上方として説明する。
【0016】
図1及び
図2を参照して、三極管型極電離真空計IGは、センサ部Sと制御部Cとから構成される。センサ部Sは、真空隔壁としての有底筒状の金属製の容器たるセンサ本体1を備え、その上部に設けたフランジ11(及び真空シール)を介して図外の真空チャンバ等の測定対象物に着脱自在に取り付けられる。センサ本体1としては、ステンレス、ニッケル、ニッケルと鉄との合金、アルミ合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、タングステン、モリブデン、タンタルまたはこれらから選択された少なくとも二種の合金製で構成される。この場合、金属製のセンサ本体1は、アース接地していることが好ましい。
【0017】
センサ本体1は、その内部に、フィラメント2と、フィラメント2の周囲を囲うように同心に配置される、円筒状の輪郭を有するグリッド3と、グリッド3の周囲を囲うように同心に配置される、円筒状のイオンコレクタ4とを備える。フィラメント2としては、イットリアで覆ったイリジウムや、タングステンなどの金属製のものが用いられ、φ0.1〜0.2mmの線材をヘアピン状に成形してなるものが用いられる。そして、フィラメント2の両自由端が、センサ本体1の底部を図示省略の絶縁体を介して貫通させてセンサ本体1内に突設した支持ピン21a,21bによりセンサ本体1内の所定位置に位置決め支持される。この場合、支持ピン21a,21bは接続端子(電極)の役割も果たす。フィラメント2は、グリッド3の一端(
図1中、下端)に、フィラメント2の挿入方向前端のヘアピン状に折り返す頂部22a側から挿入される。この場合、頂部22aが、例えば、グリッド3の母線方向の長さL1の中点Mpの近傍に位置するように配置される。
【0018】
グリッド3としては、タングステン、モリブデン、表面を白金で被覆したモリブデン、タンタル、白金、イリジウム、白金とイリジウムの合金、ニッケル、ニッケルと鉄との合金、ステンレスまたはこれらから選択された少なくとも二種の合金製のものが用いられる。そして、φ0.1〜0.5mmの線材を円筒状の輪郭を有するようにコイル状に巻回して構成される。この場合、グリッド3の孔軸Ha上にフィラメント2の頂部22aが位置するようにしている。なお、グリッド3の形態はこれに限定されるものではなく、上記線材を格子状に組み付けて円筒状に成形したものやパンチングメタルまたはフォトエッチングシートを筒状に成形したものであってもよい。グリッド3もまた、センサ本体1の底部を図示省略の絶縁体を介して貫通させてセンサ本体1内に突設した支持ピン31a,31bによりセンサ本体1内の所定位置に位置決め支持される。この場合、支持ピン31a,31bは接続端子の役割も果たす。
【0019】
イオンコレクタ4としては、ステンレス、モリブデン、表面を白金で被覆したモリブデン、タンタル、白金、イリジウム、白金とイリジウムの合金、ニッケル、ニッケルと鉄との合金またはこれらから選択された少なくとも二種の合金製のものが用いられる。そして、厚さ50〜300μmの矩形の板材を円筒状に成形して構成される。イオンコレクタ4もまた、センサ本体1の底部を図示省略の絶縁体を介して貫通させてセンサ本体1内に突設した支持ピン41a,41bによりセンサ本体1内の所定位置に位置決め支持される。この場合、支持ピン41a,41bは、接続端子の役割も果たす。
【0020】
他方、制御部Cは筐体F(
図1中、一点鎖線で示す)を備え、筐体F内にはコンピュータ、メモリやシーケンサ等を備えた制御ユニットCuが内蔵されている。制御ユニットCuは、後述の各電源の作動や後述の電流計Aにて測定されたイオン電流値を処理して例えば図示省略のディスプレイに圧力を表示する等の各種制御を統括して行う。また、筐体F内には、フィラメント2に直流電流を通電してフィラメント2を赤熱(点灯)するフィラメント点灯用の電源E1と、グリッド3に対してフィラメント2より高い電位をこのグリッド3に与えるグリッド用の電源E2と、フィラメント2の電位をイオンコレクタ4の電位よりも高くする電源E3と、イオンコレクタ4を流れるイオン電流を測定する電流計Aとが内蔵されている。なお、本実施形態では、特に図示して説明しないが、筐体Fには上記各電源E1〜E3に導通した出力端子が設けられ、センサ部Sと制御部Cとはコネクタ付きケーブルで接続される。また、センサ部Sと制御部Cとを同一の筐体に組み込んで構成することもできる。
【0021】
ここで、フィラメント2として、φ0.127mm、20mmの長さのイリジウム線をヘアピン状に成形し、イットリアで覆ったもの、グリッド3として、φ0.25mmの白金クラッドモリブデン線を直径φ10mm、母線方向の長さL1を20mmに成形したもの及び、イオンコレクタ4として、厚さ0.1mmのSUS304製の板材を直径φ17mmの円筒状に成形したものを用い、これらフィラメント2、グリッド3及びイオンコレクタ4を上記実施形態に従い、内径がφ25mmの円筒状の真空隔壁1に組み付けた。このとき、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2を20mm(グリッドの長さL1の100%:「従来品」)としたもの並びに、イオンコレクタ4の母線方向両端が省略されるように、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2を16mm(グリッドの長さL1の80%:「試験体1」)としたもの、イオンコレクタ4の母線方向長さL2を14mm(グリッドの長さL1の70%:「試験体2」)としたもの、イオンコレクタ4の母線方向長さL2を12mm(グリッドの長さL1の60%:「試験体3」)としたもの、イオンコレクタ4の母線方向長さL2を10mm(グリッドの長さL1の50%:「試験体4」)としたもの及び、イオンコレクタ4の母線方向長さL2を2mm(グリッドの長さL1の10%:「試験体5」)としたものの6個の三極管型電離真空計IGを用意した。
【0022】
次に、真空隔壁1に図示省略の所謂基準真空計も取り付けて真空ポンプにより一定の排気速度で真空引きしながら、グリッド電圧150V、フィラメント電流25V、イオンコレクタ電流0V及び、エミッション電流1mAで作動させ、基準真空計及び各三極管型電離真空計にて圧力を夫々測定した。
図3は、各三極管型電離真空計にて時間の経過に対する圧力の変化を示すグラフである。これによれば、
図3中、点線で示すように、従来品では、真空隔壁1の圧力が10
−5Pa程度まで連続して下降した後、10
−4Pa程度まで再度上昇して平衡になることが確認された。それに対して、試験体1〜試験体5では、真空隔壁1の圧力が10
−5Pa程度まで連続して下降して平衡になることが確認された。また、基準真空計に対する従来品及び試験体1〜5の感度を夫々測定し、従来品に対する感度比を求めたところ、試験体1では感度比が100%、試験体2では感度比が87%であり、試験体3では感度比が75%、試験体4では感度比が68%であり、試験体5では感度比が13%であった。その結果、試験体1では、同等の感度が得られるものの、グリッド3の長さL1に対するイオンコレクタ4の母線方向長さL2を短くするに従い、感度が低下していくが、測定対象物の圧力測定に影響のない範囲であることが確認された。
【0023】
イオンコレクタ4の母線方向長さL2と感度の関係は、試験体L1の50%(グリッド3の母線方向の長さL1の中点Mpを0%とすると、−25%から+25%の範囲)を1σとする正規分布に近い値と言える。即ち、試験体L1の50%を1σとした場合のk値は、従来品が20mm÷10mm=2σ、試験体1が18mm÷10mm=1.6σ、試験体2が14mm÷10mm=1.4σ、試験体3が12mm÷10mm=1.2σ、試験体4が10mm÷10mm=1σ、試験体5が2mm÷10mm=0.2σと計算される。このk値から求められる正規分布の確率は、従来品が2σであるから95%、同様に、試験体1が1.6σであるから89%、試験体2が1.4σであるから84%、試験体3が1.2σであるから77%、試験体4が1.2σであるから68%、試験体5が0.2σであるから16%である。その結果、上記における各試験体1〜5の感度比に近似した値になっていることが判る。
【0024】
グリッド3の母線方向の長さL1の中点Mpを0%とした場合のイオンコレクタ4の母線方向の長さL2の比を横軸、イオンコレクタ4での正イオンの収集確率を縦軸とした場合をグラフに表すと、
図4のようになると考えられる。以上から、イオンコレクタ4の中央領域では、正イオンが衝突する確率が比較的高く、正イオンを多く捕集している一方で、イオンコレクタ4の中央領域からその両端に向かうに従い、正イオンが衝突する比較的確率が低くなり、その両端部では、正イオンの捕集に殆ど寄与しないと考えられる。そして、従来品では、正イオンの衝突確率が低いイオンコレクタ4の両端部で弱結合の分子層(酸化層など)として堆積し(つまり、気体分子が溜め込まれ)、測定限界値付近の圧力まで下降した後、堆積した分子層に正イオンが衝突することで放出される粒子の量が徐々に多くなっていくのに従い、圧力指示値が上昇し、その後、粒子の放出と、放出された粒子の再吸着や排気との均衡が保たれると、所定圧力(例えば、10
−4Pa)で平衡になると考えられる。
【0025】
なお、本実施形態のセンサ本体1では、フィラメント2の周囲を囲うように同心に円筒状のイオンコレクタ4が配置されているため、圧力測定時、例えば支持ピン41a,41bへの抜熱によりイオンコレクタ4にはその母線方向中央から両端にかけて温度分布が生じている(吸着等温線)。この温度分布に基づいて粒子の吸着量に差が存在するはずであるが、上記実験結果及び検出感度の変化率からすると、温度分布の存在は支配的な要因と考え難い。また、イオンコレクタ4の母線方向両端での軟X線の発生とその入射の影響も考えられるが、この影響は、電離真空計の測定限界より一桁低い、10
−6Pa程度の圧力範囲で支配的な現象であり、また、上記実験結果からしても支配的な要因と考え難い。
【0026】
そこで、本実施形態では、上記知見に基づき、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2をグリッド3の母線方向の長さL1の6%〜80%の範囲に設定し、イオンコレクタ4の母線方向の長さをフィラメント2の母線方向の長さと同等とした場合(つまり、従来品)において、正イオンの衝突確率が比較的低いイオンコレクタ4の両端部がグリッド3の母線方向の長さL1に対するイオンコレクタ4の母線方向の長さL2を短く設定するという極めて簡単な構成で実質的に省略されるようにした。つまり、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2を、グリッド3の母線方向の長さL1より短くし、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2の中点が、グリッド3の母線方向の長さL1の中点Mpの近傍に位置するように配置した場合に、グリッド3の上下方向の端部がイオンコレクタ4の上下端か夫々上方及び下方に突出するようにした。
【0027】
これによれば、測定対象物に取り付けて圧力を測定するとき、高真空領域でのイオンコレクタ4表面から放出される粒子の影響が可及的に抑制され、結果として、正確に測定対象物の圧力を測定することができる。しかも、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2を、グリッド3の母線方向の長さL1の6%〜80%の範囲に設定したため、感度低下の影響を受けずに測定対象物内の圧力を正確に測定することができる。ここで、上記感度比及び
図4のグラフから、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2がグリッド3の母線方向の長さL1の6.3%の場合、感度が10%を下回ると考えられる。この場合、感度をS、イオンコレクタ4を流れるイオン電流をIi、フィラメント2とグリッド3との間のエミッション電流をIe、圧力をPとすると、Ii=Ie×S×Pの関係式が成立し、Sが小さくなる程、Iiも小さくなる。このため、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2がグリッド3の母線方向の長さL1の6%以下になると、感度が10%以下になり、Iiも10%以下と小さくなる。その結果、電気ノイズに弱くなって、微小電流計測回路として高価なものを用いる必要が生じ、グリッド3の母線方向の長さL1の6%より短くなると、実用的ではない。他方、グリッド3の母線方向長さを80%より長くすると、イオンコレクタ4の母線方向の両端部での粒子の放出の影響を受けて測定誤差が生じ得る。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。上記実施形態では、フィラメント2の頂部22aとイオンコレクタ4の母線方向の長さL2の中点とがグリッド3の母線方向の長さL1の中点Mpの近傍に位置するものを例に配置しているが、これに限定されるものではなく、フィラメント2に通電して熱電子を放出させるときの電子放出効率が所定値を超えて低下しない範囲でグリッド3に対するフィラメント2の位置を上方または下方に適宜ずらすことができる。また、フィラメント2としては、例えば、ストレート形状のものやコイル状に巻回したものを用いることもでき、この場合、電子放出効率が高い領域が、グリッド3の母線方向の長さL1の中点Mp近傍に位置するように配置される。更に、ヘアピン状に成形されたフィラメント2を用いる場合、その頂部22aが最も加熱されるため、熱電子の放出量も最も多いと考えられるので、フィラメント2の頂部22aの位置に応じて、正イオンの収集効率が低下しない範囲でグリッド3に対するイオンコレクタ4の位置を上方または下方にずらすことができる。
【0029】
また、上記実施形態では、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2をグリッド3の母線方向の長さL1より短くし、イオン電流からの圧力測定時、正イオンの衝突確率が比較的低いことでイオンの捕集に寄与しない一方でその表面に分子層として堆積し得る粒子放出領域全体を省略するものを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、従来例のように、イオンコレクタ4の母線方向の長さL2とグリッド3の母線方向の長さL1とを同等にし、両者を同心状に配置しているものにて、グリッド3の母線方向の長さL1に対するイオンコレクタ4の母線方向の長さL2の6%〜80%の範囲を除くイオンコレクタ4の両端部に、圧力上昇を招かないように可及的に大きな面積となるように開口を設け、粒子放出領域を部分的に省略してもよい。更に、上記実施形態では、イオンコレクタ4として矩形の板材を円筒状に成形したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、帯状の線材を格子状に組み付けて円筒状に成形したものやパンチングメタルまたはフォトエッチングシートを筒状に成形したものを用いることもできる。この場合、イオンコレクタ4の有効捕集面積が、上記実施形態と同様、L1の50%を1σとする正規分布に沿った比率で構成されていればよく、求める感度に応じて適宜変更を加えてもよい。
【符号の説明】
【0030】
IG…三極管型電離真空計、S…センサ部、C…制御部、1…金属製のセンサ本体(真空隔壁)、2…フィラメント、3…グリッド、4…イオンコレクタ、A…電流計、Mp…(グリッドの母線方向における)中点。