特許第6227836号(P6227836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227836
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】三極管型電離真空計
(51)【国際特許分類】
   G01L 21/32 20060101AFI20171030BHJP
   H01J 41/04 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   G01L21/32
   H01J41/04
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-507357(P2017-507357)
(86)(22)【出願日】2016年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2016000699
(87)【国際公開番号】WO2016151997
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-59501(P2015-59501)
(32)【優先日】2015年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】宮下 剛
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊昭
(72)【発明者】
【氏名】福原 万沙洋
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5827532(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L21/32
H01J41/04
本件特許出願に対応する国際特許出願PCT/JP2016/000699の調査結果利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に装着されてその内部の圧力を検出する三極管型電離真空計であって、
フィラメントと、フィラメントの周囲に配置される筒状の輪郭を有するグリッドと、グリッドの周囲に同心に配置される筒状のイオンコレクタと、フィラメントに直流電流を通電してフィラメントを赤熱させるフィラメント点灯用の電源と、グリッドに対してフィラメントより高い電位をこのグリッドに与えるグリッド用の電源と、フィラメントの電位をイオンコレクタの電位よりも高くする電源とを備え、フィラメントへの供給電力を4W以下としたものにおいて、
フィラメントとグリッドとの間のエミッション電流を2mA〜10mAの範囲となるように制御するように構成したことを特徴とする三極管型電離真空計。
【請求項2】
前記フィラメントと、前記グリッドと、前記イオンコレクタとを金属製の真空隔壁内に収納したことを特徴とする請求項1記載の三極管型電離真空計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器等の測定対象物に装着されてその内部の圧力を検出するための三極管型電離真空計に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングや蒸着による成膜等、真空処理装置内で実施される真空プロセスにおいては、測定対象物としての真空チャンバ内の圧力が、例えば製品歩留まりに大きな影響を与える場合がある。真空プロセス中、真空チャンバ内の圧力のうち1Pa〜10−6Paの広い圧力範囲を精度よく測定するものとして、三極管型電離真空計が知られている(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
この種の三極管型電離真空計は、測定対象物に装着されるガラス製の真空隔壁(ハウジング)内に、フィラメントと、フィラメントの周囲に配置される、円筒状の輪郭を有するグリッドと、グリッドの周囲に配置される円筒状のイオンコレクタとを備える。そして、フィラメント点灯用の電源によりフィラメントに直流電流を通電してフィラメントを赤熱させて熱電子を放出させ、グリッド用の電源によりフィラメントより高い電位をグリッドに付与すると共に、他の電源によりフィラメントの電位をイオンコレクタの電位よりも高くして、このグリッド周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンをイオンコレクタで捕集し、このときのイオン電流から試験体内の圧力が測定される。
【0004】
イオンコレクタとしては、通常、正イオンを可及的に捕集するために、その母線方向の長さがグリッドの母線方向の長さと同等以上のものが用いられ、グリッドとイオンコレクタとは同心状に配置される。ここで、上記非特許文献1に開示されている三極管型電離真空計において、2mA程度のエミッション電流を得ようとすると、フィラメントへの供給電力を9W程度に設定する必要があった(このとき、イオンコレクタの表面温度は400℃を超えると考えられていた)。
【0005】
ところで、近年、使い勝手の向上等のため、この種の電離真空計にも小型化が要請され、これに伴って、真空隔壁自体がサイズダウンされると共に、その内部に組み付けるフィラメント、グリッド及びイオンコレクタもサイズダウンされている。このような場合、上記に従い、フィラメントに9Wを超える電力を供給すると、ガラス製の真空隔壁が70℃を超える温度まで加熱されてしまい、三極管型電離真空計の取扱い上、好ましくない。このため、真空隔壁が所定温度(例えば50℃)以上に加熱されないように、フィラメントへの供給電力を上記従来例の半分以下(例えば、4W)にすることが考えられ、これには、上記特許文献1に開示の如く、例えばフィラメントの材質を適宜選択すれば、低い温度でも規定のエミッション電流が得られ(つまり、高感度で圧力測定できる)、真空隔壁が必要以上に加熱されることを防止できる。
【0006】
然しながら、真空隔壁に真空ポンプを接続し、大気圧から高真空領域(10−5Pa程度の圧力)まで一定の排気速度で真空引きしながら、例えばエミッション電流が1mAに制御されるように4W以下の電力でフィラメントに電力供給し、上記小型化した三極管型電離真空計にて圧力を測定すると、圧力指示値がその測定限界(下限)値付近の圧力である10−5Pa程度まで連続して下降した後、10−4Pa程度まで再度上昇して平衡になることが判明した。このような三極管型電離真空計を測定対象物に装着して圧力を測定すると、測定誤差が生じる(即ち、実際の測定対象物の圧力より高い圧力を指示する)という問題を招来する。
【0007】
そこで、本発明の発明者らは、鋭意研究を重ね、フィラメントの供給電力が比較的高く(例えば、9W)、イオンコレクタの表面温度が400℃を超えているような場合には上記問題が生じなかったものの、フィラメントの供給電力を低くしたことで、イオンコレクタの母線方向の両端部が、正イオンの衝突確率が比較的低く、粒子(気体分子)が溜め込まれ得る領域となり、ひいては、正イオンの衝突で放出される粒子の放出源となっていることに起因していることを知見するのに至った。つまり、真空引き当初、グリッドやイオンコレクタに付着している水分などの気体の原子や分子(大気中の成分)も徐々に放出されて排気され(即ち、所謂吸着等温線に沿って吸着量が減少する)、圧力指示値がその測定限界値(例えば、10−5Pa)まで降下していく。この時点では、イオンコレクタ(主として、内表面)に付着している原子や分子の組成は、大気と連動した組成比率になっていると考えられる。
【0008】
放出された気体や正イオンとなった気体分子などはイオンコレクタに再度衝突し、イオンコレクタ表面(主として、内表面)に酸化物などとして化学吸着または物理吸着する。この場合、正イオンの衝突確率が高い領域では、離脱可能なエネルギを持つ正イオンが継続的に衝突することで、中性分子、中性破片分子、中性原子またはそれらのイオンなどの粒子として可及的に放出される(即ち、分子層として堆積し難い)一方で、正イオンの衝突確率が低い領域では、正イオンが継続的に衝突しないことで例えば弱結合の分子層(酸化層など)として、正イオンの衝突確率が高い領域と比較して堆積し易く、分子層の厚さを保持し易い状態となっている。
【0009】
更に時間が経過すると、真空隔壁内の気体は排気能力に応じた組成へと変化する。この組成変化に応じてイオンコレクタ表面(主として、内表面)に付着している原子や分子層の組成も変化する。例えば、排気され難い水分子などが増加した組成へと変化する。この組成が変化した事等を起因として、正イオンの衝突確率が低い領域では、離脱より吸着が優勢となり、例えば弱結合の分子層(酸化層など)として堆積が進行する。そして、測定限界値付近の圧力まで下降した後、堆積した分子層(更に吸着した水分子等なども含む)に正イオンが衝突することで放出される粒子の量が徐々に多くなっていくのに従い、圧力指示値が上昇し、その後、粒子の放出と、放出された粒子の再吸着や排気との均衡が保たれると、所定圧力(例えば、10−4Pa)で平衡になると考えられる。この分子層に化学吸着または物理吸着する量と、この分子層から放出される粒子の量とは正イオンなどの衝突確率に依存するため、イオンの衝突確率が比較的低いイオンコレクタの母線方向の両端部が粒子の放出源となって、圧力指示値の上昇を招いていると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013−72694号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】真空 第40巻 第11号(1997)「副標準電離真空計の後継球(VS−1A)の開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、イオンコレクタ表面から放出される粒子の影響を少なくして測定誤差なく測定対象物の圧力を測定することができる三極管型電離真空計を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、測定対象物に装着されてその内部の圧力を検出する本発明の三極管型電離真空計は、フィラメントと、フィラメントの周囲に配置される筒状の輪郭を有するグリッドと、グリッドの周囲に同心に配置される筒状のイオンコレクタと、フィラメントに直流電流を通電してフィラメントを赤熱させるフィラメント点灯用の電源と、グリッドに対してフィラメントより高い電位をこのグリッドに与えるグリッド用の電源と、フィラメントの電位をイオンコレクタの電位よりも高くする電源とを備え、フィラメントへの供給電力を4W以下とし、フィラメントとグリッドとの間のエミッション電流を2mA〜10mAの範囲となるように制御するように構成したことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、真空隔壁の加熱を防止すべくフィラメントへの供給電力を4W以下とした状態で、エミッション電流を2mA以上にすることで、正イオンの生成量が増加して、比較的低いエミッション電流では正イオンの衝突確率が低いイオンコレクタの両端部においても正イオンが継続的に衝突するようになり、弱結合の分子層(酸化層など)として堆積することが抑制される。その結果、測定対象物に取り付けて圧力を測定するときに高真空領域でのイオンコレクタ表面から放出される粒子の影響が可及的に抑制され、正確に測定対象物の圧力を測定することができる。なお、エミッション電流を10mAを超える値に設定すると、フィラメントへの供給電力が4Wを超えてしまい、真空隔壁の温度も50℃を超えてしまう。
【0015】
また、本発明においては、前記フィラメントと、前記グリッドと、前記イオンコレクタとを金属製の真空隔壁内に収納することが好ましい。これによれば、熱電子の真空隔壁へのチャージアップが防止され、真空隔壁で囲繞された空間内の電位分布を常時一定に保持される。その結果、長時間に亘って一定の感度で圧力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態の三極管型電離真空計の構成を説明する模式図。
図2】センサ部の模式断面図。
図3】三極管型電離真空計を真空引きしたときの時間の経過に対する圧力変化を示すグラフ。
図4】エミッション電流を変化させたときの時間の経過に対する試験体内の圧力を示すグラフ。
図5】エミッション電流を変化させたときのイオンコレクタの表面温度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の三極管型電離真空計の実施形態を説明する。以下においては、図示省略の測定対象物に対する後述のセンサ部の装着方向を上方として説明する。
【0018】
図1及び図2を参照して、三極管型電離真空計IGは、センサ部Sと制御部Cとから構成される。センサ部Sは、真空隔壁としての有底筒状の金属製のハウジング1を備え、その上部に設けたフランジ11(及び真空シール)を介して図外の真空チャンバ等の測定対象物に着脱自在に取り付けられる。ハウジング1としては、ステンレス、ニッケル、ニッケルと鉄との合金、アルミ合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、タングステン、モリブデン、タンタルまたはこれらから選択された少なくとも二種の合金製で構成される。この場合、金属製のハウジング1は、アース接地していることが好ましい。
【0019】
ハウジング1は、その内部に、フィラメント2と、フィラメント2の周囲を囲うように同心に配置される、円筒状の輪郭を有するグリッド3と、グリッド3の周囲を囲うように同心に配置される、円筒状のイオンコレクタ4とを備える。フィラメント2としては、イットリアで覆ったイリジウムや、タングステンなどの金属製のものが用いられ、φ0.1〜0.2mmの線材をヘアピン状に成形してなるものが用いられる。そして、フィラメント2の両自由端が、ハウジング1の底部を図示省略の絶縁体を介して貫通させてハウジング1内に突設した支持ピン21a,21bによりハウジング1内の所定位置に位置決め支持される。この場合、支持ピン21a,21bは接続端子(電極)の役割も果たす。フィラメント2は、グリッド3の一端(図1中、下端)に、フィラメント2の挿入方向前端のヘアピン状に折り返す頂部22a側から挿入される。この場合、頂部22aが、例えば、グリッド3の母線方向の長さの中点Mpの近傍に位置するように配置される。
【0020】
グリッド3としては、タングステン、モリブデン、表面を白金で被覆したモリブデン、タンタル、白金、イリジウム、白金とイリジウムの合金、ニッケル、ニッケルと鉄との合金、ステンレスまたはこれらから選択された少なくとも二種の合金製のものが用いられる。そして、φ0.1〜0.5mmの線材を円筒状の輪郭を有するようにコイル状に巻回して構成される。この場合、グリッド3の孔軸Ha上にフィラメント2の頂部22aが位置するようにしている。なお、グリッド3の形態はこれに限定されるものではなく、上記線材を格子状に組み付けて円筒状に成形したものやパンチングメタルまたはフォトエッチングシートを筒状に成形したものであってもよい。グリッド3もまた、ハウジング1の底部を図示省略の絶縁体を介して貫通させてハウジング1内に突設した支持ピン31a,31bによりハウジング1内の所定位置に位置決め支持される。この場合、支持ピン31a,31bは接続端子の役割も果たす。
【0021】
イオンコレクタ4としては、ステンレス、モリブデン、表面を白金で被覆したモリブデン、タンタル、白金、イリジウム、白金とイリジウムの合金、ニッケル、ニッケルと鉄との合金またはこれらから選択された少なくとも二種の合金製のものが用いられる。そして、厚さ50〜300μmの矩形の板材を円筒状に成形して構成される。この場合、正イオンを可及的に捕集するために、イオンコレクタ4の母線方向の長さは、グリッド3の母線方向の長さと同等にしている。イオンコレクタ4もまた、ハウジング1の底部を図示省略の絶縁体を介して貫通させてハウジング1内に突設した支持ピン41a,41bによりハウジング1内の所定位置に位置決め支持される。この場合、支持ピン41a,41bは、接続端子の役割も果たす。なお、イオンコレクタ4の形態はこれに限定されるものではなく、帯状の線材を格子状に組み付けて円筒状に成形したものやパンチングメタルまたはフォトエッチングシートを筒状に成形したものであってもよい。
【0022】
他方、制御部Cは筐体F(図1中、一点鎖線で示す)を備え、筐体F内にはコンピュータ、メモリやシーケンサ等を備えた制御ユニットCuが内蔵されている。制御ユニットCuは、後述の各電源の作動や後述の電流計Aにて測定されたイオン電流値を処理して例えば図示省略のディスプレイに圧力を表示する等の各種制御を統括して行う。また、筐体F内には、フィラメント2に直流電流を通電してフィラメント2を赤熱(点灯)するフィラメント点灯用の電源E1と、グリッド3に対してフィラメント2より高い電位をこのグリッド3に与えるグリッド用の電源E2と、フィラメント2の電位をイオンコレクタ4の電位よりも高くする電源E3と、イオンコレクタ4を流れるイオン電流を測定する電流計Aとが内蔵されている。なお、本実施形態では、特に図示して説明しないが、筐体Fには上記各電源E1〜E3に導通した出力端子が設けられ、センサ部Sと制御部Cとはコネクタ付きケーブルで接続される。また、センサ部Sと制御部Cとを同一の筐体に組み込んで構成することもできる。
【0023】
ここで、フィラメント2の供給電力が4W以下でも規定のエミッション電流が得られるように三極管型電離真空計IGを構成するために、フィラメント2として、φ0.127mm、20mmの長さのイリジウム線をヘアピン状に成形し、イットリアで覆ったもの、グリッド3として、φ0.25mmの白金クラッドモリブデン線を直径φ10mm、母線方向の長さL1を20mmに成形したもの及び、イオンコレクタ4として、厚さ0.1mmのSUS304製の板材を直径φ17mm、高さ20mmの円筒状に成形したものを用い、これらフィラメント2、グリッド3及びイオンコレクタ4を上記実施形態に従い、内径がφ25mmの円筒状の金属製のハウジング1に組み付けて試験体を用意した。
【0024】
次に、ハウジング1内を真空ポンプにより一定の排気速度で真空引きしながら、エミッション電流を1mAに設定して作動させ、試験体内の圧力を測定した。この場合、グリッド電圧が150V、フィラメント電圧が25V、イオンコレクタ電圧が0Vであり、圧力を測定している間、エミッション電流が1mAに保持されるように、フィラメント2への供給電圧が4Wを超えない範囲で電源E1からのフィラメント電流及び電圧が適宜制御される。図3は、時間の経過に対する試験体内の圧力の変化を示すグラフである。これによれば、図3中、点線で示すように、ハウジング1の圧力指示値が10−5Pa程度まで連続して下降した後、10−4Pa程度まで再度上昇して平衡になることが確認された。この状態で、グリッド電圧のみを150Vから800Vに変更すると、わずかに低い圧力を指示するものの、直ぐに元の圧力まで上昇した。このことから、圧力上昇の原因はグリッド3に起因するものではないと考えられる。
【0025】
次に、電源E1からのフィラメント電流及び電圧を適宜制御して所定時間毎にエミッション電流を0.01mA、1mA、2mA、3mA及び0.5mAに夫々変化させ、時間の経過に対する試験体内の圧力を夫々測定し、その結果を図4に示す。これによれば、エミッション電流を大きくしていくと、指示する圧力が低下していくことが判る。また、エミッション電流を2mAに設定したとき、時間の経過に対する試験体内の圧力の変化を測定してみると、図3中、実線で示すように、ハウジング1の圧力指示値が10−5Pa近傍まで連続して下降し、そのまま平衡になっていることが確認された。
【0026】
次に、電源E1からのフィラメント電流及び電圧を適宜制御してエミッション電流を変化させたときのイオンコレクタ4の表面温度を測定し、その結果を図5に示す。これによれば、エミッション電流を10mAに設定してもイオンコレクタ4の温度は250℃以下であり、そのときのハウジング1の温度は40℃程度であった。なお、エミッション電流を10mAに設定したときのフィラメントの供給電力は3.2Wであった。
【0027】
以上のことから、エミッション電流の増加によりフィラメント2がより加熱されるので、グリッド3やイオンコレクタ4が加熱されて温度上昇し、それらの表面から放出される粒子の影響が少なくなる可能性が考えられるが、このとき上昇する、イオンコレクタ4の温度は精々プラス100℃程度、ハウジング1の温度は精々プラス20℃程度であり、また、エミッション電流を変化させた直後の圧力変動もみられない。その結果、エミッション電流を2mA以上にすると、正イオンの生成量が増加して、比較的低いエミッション電流では正イオンの衝突確率が低いイオンコレクタ4の両端部においても正イオンが継続的に衝突するようになり、弱結合の分子層(酸化層など)として堆積することが抑制されると考えられる。
【0028】
そこで、本実施形態では、以上の知見に基づき、フィラメント2の供給電力が4W以下でも規定のエミッション電流が得られるように三極管型電離真空計IG(即ち、フィラメント2やグリッド3)を構成し、電源E2の負の出力側にフィラメント2とグリッド3との間を流れるエミッション電流を測定する他の電流計Aを設け、圧力を測定している間、制御ユニットCuによりフィラメント2の供給電力が4W以下でかつ電流計Aで測定されるエミッション電流が2mA〜10mAの範囲となるように電源E1を制御するように構成した。
【0029】
以上の実施形態によれば、正イオンの生成量が増加して、比較的低いエミッション電流では正イオンの衝突確率が低いイオンコレクタ4の両端部においても正イオンが継続的に衝突するようになり、弱結合の分子層(酸化層など)として堆積することが抑制される。その結果、測定対象物に取り付けて圧力を測定するときに高真空領域でのイオンコレクタ4表面から放出される粒子の影響が可及的に抑制され、正確に測定対象物の圧力を測定することができる。なお、エミッション電流を10mAを超える値に設定すると、フィラメントへの供給電力が4Wを超えてしまい、真空隔壁の温度も50℃を超えてしまう。また、フィラメント2と、グリッド3と、イオンコレクタ4とを金属製のハウジング1内に収納したため、熱電子のハウジング1へのチャージアップが防止され、ハウジング1で囲繞された空間内の電位分布を常時一定に保持される。その結果、長時間に亘って一定の感度で圧力を測定することができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。上記実施形態では、フィラメント2の頂部22aとイオンコレクタ4の母線方向の長さの中点とがグリッド3の母線方向の長さの中点Mpの近傍に位置するものを例に配置しているが、これに限定されるものではなく、フィラメント2に通電して熱電子を放出させるときの電子放出効率が所定値を超えて低下しない範囲でグリッド3に対するフィラメント2の位置を上方または下方に適宜ずらすことができる。また、フィラメント2としては、例えば、ストレート形状のものやコイル状に巻回したものを用いることもでき、この場合、電子放出効率が高い領域が、グリッド3の母線方向の長さの中点Mp近傍に位置するように配置される。
【符号の説明】
【0031】
IG…三極管型電離真空計、S…センサ部、C…制御部、1…金属製のハウジング(真空隔壁)、2…フィラメント、3…グリッド、4…イオンコレクタ、A,A…電流計。
図1
図2
図3
図4
図5