(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物が、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB)である請求項1に記載の非水電解液蓄電素子。
ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物の含有量が、非水電解液に対して0.5質量%以上である請求項1から2のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(非水電解液蓄電素子)
本発明の非水電解液蓄電素子は、正極と、負極と、非水電解液とを有してなり、更に必要に応じてその他の部材を有してなる。
前記非水電解液蓄電素子としては、例えば、非水電解液二次電池、非水電解液キャパシタ、などが挙げられる。
【0010】
本発明者らは、正極にアニオンを蓄えるタイプの電極を用いた非水電解液蓄電素子において、電解質塩濃度を3mol/L程度に濃くした場合や高電圧充電をした場合に蓄電容量が減少してしまう現象のメカニズムについて鋭意検討した結果、フッ素等のハロゲン原子を含む電解質塩の分解に由来するフッ素等のハロゲン原子を含むアニオンが影響していることを知見した。
そこで、フッ素等のハロゲン原子を含むアニオンを化学的にトラップして電極に悪影響を与えないようにすると共に、正極に対して適切な皮膜形成を行い、充放電効率を向上できることを意図して、材料検索を行った。その結果、ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物として、好ましくは下記構造式で表されるトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB)を用い、環状スルホン酸エステルとして、好ましくは1,3−プロパンスルトンを用いることにより、電解質塩濃度が3mol/L以上の濃い電解液を用いるときや高電圧充電時の充放電効率の低下、容量の低下、及びサイクル特性の悪化を防止できることを知見した。
【0011】
また、前記非水電解液蓄電素子は、電解質塩濃度が1mol/L程度の非水電解液でも動作するが、正極の充電電位がLiに対して4.2V以上と高いために非水電解液の分解が発生する。この分解によってフッ素成分が遊離して非水電解液蓄電素子に悪影響を及ぼすことが考えられるが、ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物として、好ましくはTPFPBを添加することにより、フッ素等のハロゲン原子が非水電解液蓄電素子に及ぼす悪影響を防止できることを知見した。また、環状スルホン酸エステルとして、好ましくは1,3−プロパンスルトンを添加することにより、フッ素生成を抑制できることを知見した。
【化2】
【0012】
ここで、正極活物質として炭素粉末(TIMCAL社製、KS−6)を用いた正極と、負極活物質として炭素粉末(日立化成工業株式会社製、MAGD)を用いた負極と、4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)に、1.0質量%のトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB)を含む非水電解液を有する試料1の非水電解液蓄電素子と、TPFPBを含まない非水電解液を有する試料2の非水電解液蓄電素子とを組み立て、室温(25℃)において0.5mA/cm
2の定電流で充電終止電圧5.2Vまで充電する。1回目の充電の後、0.5mA/cm
2の定電流で2.5Vまで放電する。この充放電を50回繰り返す試験を行った。なお、正極集電体としてAl箔、負極集電体としてCu箔を用いている。
【0013】
図1は、前記構成の非水電解液蓄電素子の充放電繰り返しにおける容量(放電容量及び蓄電容量)の推移を示すグラフである。
図1の結果から、TPFPBを1.0質量%含む試料1の非水電解液蓄電素子は、TPFPBを含まない試料2の非水電解液蓄電素子に比べて、繰り返し充放電による容量の劣化が抑制できることがわかる。
【0014】
次に、上記のようにして50回の繰り返し充放電を行った後、試料1及び試料2の非水電解液蓄電素子を分解し、取り出した正極及び負極の断面について、SEM−EDX元素分析を行った。結果を
図2A〜
図2D、
図3A〜
図3D、
図4A〜
図4D、
図5A〜
図5Eにそれぞれ示す。
図2Aは、TPFPBの添加なしで4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)電解液を用いた試料2の非水電解液蓄電素子の50サイクル後の正極の断面SEM写真、
図2B〜
図2Dは、TPFPBの添加なしで4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)電解液を用いた試料2の非水電解液蓄電素子の50サイクル後の正極の断面のSEM−EDX元素写真を示す。
図3Aは、TPFPBの添加なしで4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)電解液を用いた試料2の非水電解液蓄電素子の50サイクル後の負極の断面SEM写真、
図3B〜
図3Dは、TPFPBの添加なしで4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)電解液を用いた試料2の非水電解液蓄電素子の50サイクル後の負極の断面のSEM−EDX元素写真を示す。
図4Aは、TPFPBを1.0質量%添加した、4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)電解液を用いた試料1の非水電解液蓄電素子の50サイクル後の正極の断面SEM写真、
図4B〜
図4Dは、TPFPBを1.0質量%添加した、4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)電解液を用いた試料1の非水電解液蓄電素子の50サイクル後の正極の断面のSEM−EDX元素写真を示す。
図5Aは、TPFPBを1.0質量%添加した、4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)電解液を用いた試料1の非水電解液蓄電素子の50サイクル後の負極の断面SEM写真、
図5B〜
図5Eは、TPFPBを1.0質量%添加した、4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)電解液を用いた試料1の非水電解液蓄電素子の50サイクル後の負極の断面のSEM−EDX元素写真を示す。
【0015】
前記非水電解液蓄電素子を充電すると非水電解液中のLiPF
6が解離しアニオンであるPF
6−が正極に挿入される。このとき、一部のPF
6−は分解してフッ素イオンが遊離する。PF
6−が乖離せずに存在できれば、フッ素イオンは非水電解液中か、正極又は負極中に存在する。
非水電解液にTPFPBを添加していない試料2の非水電解液蓄電素子の場合には、
図2Bと
図2Cとから正極箔のアルミニウム(Al)元素の分布と一致してフッ素(F)元素が検出され、正極箔AlにFが存在することがわかる。また、非水電解液にTPFPBを添加していない場合には、
図3Cと
図3Dとから負極箔の銅(Cu)元素の分布と一致してフッ素(F)元素が検出され、負極箔CuにFが存在することがわかる。
これに対して、非水電解液にTPFPBを添加している試料1の非水電解液蓄電素子の場合には、
図4Bと
図4C、及び
図5Cと
図5Dに示すように、電極箔に顕著なフッ素(F)元素の存在が観測されない。特に、正極箔Alのフッ素(F)濃度が低くなっていることがわかる。
これらのことは、非水電解液に添加したTPFPBがフッ素イオンをトラップすることにより、PF
6−から解離したフッ素イオンが電極表面を覆って内部抵抗を高め、高出力を妨げるなどの電極劣化が発生しないことを意味している。その結果、電解質塩濃度が4mol/Lの高濃度電解液の条件下、繰り返し充放電で電池容量が低下することを防止できると考えられる。
【0016】
また、上記TPFPBを1.0質量%含む試料1の非水電解液蓄電素子について、TPFPBの含有量を0.5質量%、及び2.5質量%に変えた非水電解液蓄電素子を用いて実験を行ったときの1回目の充放電効率を、下記の表Aに示す。
【表A】
表Aの結果から、TPFPBの含有量の増加とともに充放電効率が悪化していることがわかる。これは、TPFPB自身又は非水電解液の分解が促進されているためであると推測される。
【0017】
更に、上記TPFPBを1.0質量%含む試料1の非水電解液蓄電素子について、1.3−プロパンスルトン(PS)の含有量を0.25質量%、0.5質量%、及び0.75質量%に変えた非水電解液蓄電素子を用いて実験を行ったときの1回目の充放電効率を、下記の表Bに示す。
【表B】
表Bの結果から、環状スルホン酸エステルとして1,3−プロパンスルトン(PS)を含有する非水電解液を用いると、充放電効率が向上することがわかる。これは、正極表面でPSが分解して正極表面に保護皮膜を形成し、他の電解液成分の分解を抑制したためであると考えられる。なお、他の公知の添加剤を併用することも可能であるが、ビニレンカーボネートは、本発明で使用するアニオンを蓄える正極では効果が認められなかったことから、従来検討されているカチオンを蓄える正極(複合酸化物等)とは異なる現象が起きていると予測される。
【0018】
本発明においては、正極にアニオンが挿入脱離する機構で動作するリザーブ型非水電解液蓄電素子において、非水電解液にハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物及び環状スルホン酸エステルを含めることにより、正極に挿入するアニオン由来のフッ素成分を化学的に結合して取り除くと共に、非水電解液の分解による電極の劣化を防止できるものである。
以下、本発明の非水電解液蓄電素子の構成部材ごとに詳細に説明する。
【0019】
<正極>
前記正極は、正極活物質を含んでいれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体上に正極活物質を有する正極材を備えた正極、などが挙げられる。
前記正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、などが挙げられる。
【0020】
<<正極材>>
前記正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極活物質を少なくとも含み、更に必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、などを含んでなる。
【0021】
−正極活物質−
前記正極活物質としては、アニオンを挿入乃至脱離可能な物質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素質材料、導電性高分子、などが挙げられる。これらの中でも、エネルギー密度が高い点から炭素質材料が特に好ましい。
前記導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、などが挙げられる。
前記炭素質材料としては、例えば、コークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物、などが挙げられる。これらの中でも、人造黒鉛、天然黒鉛が特に好ましい。
前記炭素質材料としては、結晶性が高い炭素質材料であることが好ましい。前記結晶性はX線回折、ラマン分析などで評価することができ、例えば、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=22.3°における回折ピーク強度I
2θ=22.3°と、2θ=26.4°における回折ピーク強度I
2θ=26.4°の強度比I
2θ=22.3°/I
2θ=26.4°が0.4以下が好ましい。
前記炭素質材料の窒素吸着によるBET比表面積は、1m
2/g以上100m
2/g以下が好ましく、レーザー回折・散乱法により求めた平均粒径(メジアン径)は、0.1μm以上100μm以下が好ましい。
【0022】
−バインダ−
前記バインダとしては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安定な材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダ、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
−増粘剤−
前記増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
−導電剤−
前記導電剤としては、例えば、銅、アルミニウム等の金属材料、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質材料、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<<正極集電体>>
前記正極集電体の材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記正極集電体の材質としては、導電性材料で形成されたものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタル、などが挙げられる。これらの中でも、ステンレススチール、アルミニウムが特に好ましい。
前記正極集電体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記正極集電体の大きさとしては、非水電解液蓄電素子に使用可能な大きさであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
−正極の作製方法−
前記正極は、前記正極活物質に、必要に応じて前記バインダ、前記増粘剤、前記導電剤、溶媒等を加えてスラリー状とした正極材を、前記正極集電体上に塗布し、乾燥することで製造することができる。前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水系溶媒、有機系溶媒、などが挙げられる。前記水系溶媒としては、例えば、水、アルコール、などが挙げられる。前記有機系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、トルエン、などが挙げられる。
なお、前記正極活物質をそのままロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極とすることもできる。
【0027】
<負極>
前記負極は、負極活物質を含んでいれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、負極集電体上に負極活物質を有する負極材を備えた負極、などが挙げられる。
前記負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、などが挙げられる。
【0028】
<<負極材>>
前記負極材としては、負極活物質を少なくとも含み、更に必要に応じてバインダ、導電剤、などを含んでなる。
【0029】
−負極活物質−
前記負極活物質としては、少なくとも非水溶媒系で機能する物質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属又はそれを吸蔵、放出可能な金属酸化物;アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属と合金化可能な金属と該金属を含む合金、複合合金化合物;高比表面積の炭素質材料等のイオンの物理吸着による非反応性電極、などが挙げられる。これらの中でも、エネルギー密度の点ではリチウム及びリチウムイオンの少なくともいずれかを吸蔵乃至放出可能な物質が好ましく、サイクル特性の面では非反応性電極がより好ましい。
前記負極活物質としては、具体的には、炭素質材料、酸化アンチモン錫、一酸化珪素等のリチウムを吸蔵、放出可能な金属酸化物、アルミニウム、錫、珪素、亜鉛等のリチウムと合金化可能な金属又は金属合金、リチウムと合金化可能な金属と該金属を含む合金とリチウムとの複合合金化合物、チッ化コバルトリチウム等のチッ化金属リチウム、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、安全性とコストの点から、炭素質材料が特に好ましい。
前記炭素質材料としては、例えば、コークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物、などが挙げられる。これらの中でも、人造黒鉛、天然黒鉛が特に好ましい。
【0030】
−バインダ−
前記バインダとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダ、エチレン−プロピレン−ブタジエンゴム(EPBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダ、カルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましく、繰り返し充放電回数が他のバインダに比べて向上する点から前記CMCが特に好ましい。
【0031】
−導電剤−
前記導電剤としては、例えば、銅、アルミニウム等の金属材料、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質材料、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
<<負極集電体>>
前記負極集電体の材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記負極集電体の材質としては、導電性材料で形成されたものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、などが挙げられる。これらの中でも、ステンレススチール、銅が特に好ましい。
前記負極集電体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記負極集電体の大きさとしては、非水電解液蓄電素子に使用可能な大きさであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
−負極の作製方法−
前記負極は、前記負極活物質に、必要に応じて前記バインダ、前記導電剤、溶媒等を加えてスラリー状とした負極材を、前記負極集電体上に塗布し、乾燥することで製造することができる。前記溶媒としては、前記正極の作製方法と同様の溶媒を用いることができる。
また、前記負極活物質に前記バインダ、前記導電剤等を加えたものをそのままロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極としたり、蒸着、スパッタ、メッキ等の手法で前記負極集電体上に前記負極活物質の薄膜を形成することもできる。
【0034】
<非水電解液>
前記非水電解液は、非水溶媒、ハロゲン原子を含む電解質塩、ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物、及び環状スルホン酸エステルを含有する電解液である。
【0035】
<<非水溶媒>>
前記非水溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、非プロトン性有機溶媒が好適である。
前記非プロトン性有機溶媒としては、鎖状カーボネート、環状カーボネート等のカーボネート系有機溶媒が用いられ、低粘度な溶媒が好ましい。これらの中でも、電解質塩の溶解力が高い点から、鎖状カーボネートが好ましい。
前記鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、メチルプロピオネート(MP)、などが挙げられる。これらの中でも、ジメチルカーボネート(DMC)が好ましい。
前記DMCの含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記非水溶媒に対して70質量%以上が好ましく、83質量%以上がより好ましい。前記DMCの含有量が、70質量%未満であると、残りの溶媒は誘電率が高い環状物質(環状カーボネートや環状エステル等)である場合には、誘電率が高い環状物質の量が増えるため、3M以上の高濃度の非水電解液を作製したときに粘度が高くなりすぎ、非水電解液の電極へのしみ込みや、イオン拡散の点で不具合を生じることがある。
【0036】
前記環状カーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、などが挙げられる。
前記環状カーボネートとしてエチレンカーボネート(EC)と、前記鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネート(DMC)とを組み合わせた混合溶媒を用いる場合には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合割合は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、質量比(EC:DMC)が、3:10〜1:99が好ましく、3:10〜1:20がより好ましい。
【0037】
なお、前記非水溶媒としては、必要に応じて、環状エステル、鎖状エステル等のエステル系有機溶媒、環状エーテル、鎖状エーテル等のエーテル系有機溶媒、などを用いることができる。
前記環状エステルとしては、例えば、γ−ブチロラクトン(γBL)、2−メチル−γ−ブチロラクトン、アセチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、などが挙げられる。
前記鎖状エステルとしては、例えば、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル(酢酸メチル(MA)、酢酸エチル等)、ギ酸アルキルエステル(ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチル等)、などが挙げられる。
前記環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、アルキル−1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン、などが挙げられる。
前記鎖状エーテルとしては、例えば、1,2−ジメトシキエタン(DME)、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、などが挙げられる。
【0038】
<<ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物>>
前記ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物としては、ハロゲン原子を含むアニオンと結合可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フッ素原子を含むアニオンを化学的に結合可能な化合物が好ましい。
【0039】
前記ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物(以下、「アニオンレセプター」と称することもある。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クラウンエーテル系化合物、アザエーテル系化合物、シクロデキストリン等の包接化合物、フッ化アルキルホウ素系化合物、フッ化フェニルホウ素、などが挙げられる。これらの中でも、比較的小さいアニオンに配位能力のある化合物が好ましい。本発明においては、より小さい元素であるハロゲン原子を含むアニオン(特にフッ素原子を含むアニオン)の補足を目的とするので比較的小さいアニオンに配位能力のある化合物が好ましい。大きいアニオンを補足できるアニオンレセプターはアニオンであるPF
6−等も補足することが可能なため、電池内のアニオン輸送効率を下げてしまうので好ましくない。
【0040】
前記比較的小さいアニオンに配位能力のある化合物とは、アニオン配位能力を有する元素を有し、かつアニオンの補足能力を上げるため、前記アニオン配位能力を有する元素の電子密度を下げるような置換基を有する化合物である。その結果、アニオン配位能力を有する元素は強いルイス酸性部位として機能することが可能となり、ルイス塩基としてのフッ素成分を効率よく補足することができる。例えば、三級ホウ素を主機能骨格とし、置換基としてハロゲン原子、フッ素置換されたアルキル基、フッ素置換されたアルコキシ基、フッ素置換されたアリール基、フッ素置換されたフェノキシ基、フッ素置換されたアリル基等を有する化合物が用いられる。なお、三級窒素を主機能骨格とする化合物も使用可能である。これらの中でも、三級ホウ素を主機能骨格とし電子吸引能力がある置換基(特にフッ素置換基)を有する化合物がルイス酸性能力の高さの点から特に好ましい。
【0041】
前記ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
<一般式(1)>
【化3】
前記一般式(1)において、R
1、R
2及びR
3は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基のいずれかを表し、これらは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシド基、チオール基、チオアルコキシド基、アリール基、エーテル基及びチオエーテル基のいずれかで置換されていてもよい。
【0043】
前記アルキル基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、炭素数が1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基が好適に挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、シクロペンチル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、などが挙げられる。
【0044】
前記アリール基としては、炭素数6〜12が好ましく、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、スチリル基、メシチル基、シンナミル基、フェネチル基、ベンズヒドリル基、ナフチル基、などが挙げられ、フェニル基が特に好ましい。
【0045】
前記へテロアリール基としては、例えば、チエニル基、ピリジル基、インドリル基、などが挙げられる。
前記ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子などが挙げられ、フッ素原子が特に好ましい。
【0046】
R
1、R
2及びR
3が、環状構造を有する場合には、芳香族性を有する環状構造を有するものが好ましく、ホウ素との結合は直接芳香族性を有する環状化合物が結合するか、この環状化合物と共役系を形成できる置換基を介して結合していることが好ましい。更に、環状化合物に結合する置換基は電子吸引性を有し環の電子密度を下げる働きを有する置換基が好ましい。
【0047】
これらの中でも、前記一般式(1)において、R
1、R
2及びR
3は同一の基であることが好ましく、フェニル基がより好ましく、前記フェニル基の5つの水素原子は一部又は全部がフッ素で置換されていることがより好ましく、フェニル基の5つの水素原子がすべてフッ素原子で置換された−C
6F
5が、電気陰性度の高いフッ素原子によって誘起された電子不足の状態が芳香環上に非局在化できるとともに、中心元素であるホウ素の電子軌道とも相互作用することができるため、有効にホウ素上の電子密度を下げることができる点から、特に好ましい。
【0048】
前記一般式(1)で表される化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記構造式で表される化合物(トリス(ぺンタフルオロフェニル)ボラン;TPFPB)、トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)ボレート(THFIPB)、トリメシチルボラン、トリス(1,2ジメチルプロピル)ボラン、トリス(パラフルオロフェニル)ボラン、トリス(パラクロロフェニル)ボラン、などが挙げられる。これらの中でも、アニオンに対する配位能力の点から、下記構造式で表されるTPFPBが特に好ましい。
【化4】
【0049】
<一般式(2)>
【化5】
前記一般式(2)において、R
4、R
5及びR
6は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基のいずれかを表し、これらは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシド基、チオール基、チオアルコキシド基、アリール基、エーテル基及びチオエーテル基のいずれかで置換されていてもよい。
【0050】
前記アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基としては、前記一般式(1)のアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基と同様のものが挙げられる。
前記ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子などが挙げられ、フッ素原子が特に好ましい。
これらの中でも、前記一般式(2)において、R
4、R
5及びR
6は同一であることが好ましく、炭素数2〜3のアルキル基がより好ましく、炭素数2〜3のアルキル基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものが更に好ましく、炭素数2〜3のアルキル基の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたものが、中心元素であるホウ素の電子密度を下げる点から特に好ましい。
【0051】
前記一般式(2)で表される化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(CH
3O)
3B、(C
3F
7CH
2O)
3B、[(CF
3)
2CHO]
3B、[(CF
3)
2C(C
6H
5)O]
3B、(C
6H
5O)
3B、(FC
6H
4O)
3B、(F
2C
6H
3O)
3B、(F
4C
6HO)
3B、(C
6F
5O)
3B、(CF
3C
6H
4O)
3B、[(CF
3)
2C
6H
3O]
3B、下記構造式で表される化合物、(CF
3O)
3B、などが挙げられる。
【化6】
【化7】
【0052】
前記ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、非水電解液に対して0.5質量%以上が好ましく、0.5質量%〜5質量%がより好ましく、1質量%〜3質量%が更に好ましい。前記含有量が、0.5質量%未満であると、効果が得られにくくなることがあり、5質量%を超えると、粘度の上昇によるイオン拡散性の低下や、充放電効率が低下することがある。
【0053】
<環状スルホン酸エステル>
前記環状スルホン酸エステルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
<一般式(3)>
【化8】
ただし、前記一般式(3)中、A及びBは、それぞれ独立に、アルキレン基及びフルオロアルキレン基のいずれかを表す。Xは、C−C単結合、及び−OSO
2−のいずれかを示す。
【0054】
前記一般式(3)におけるアルキレン基及びフルオロアルキレン基は、それぞれ炭素数1〜8であることが好ましい。
【0055】
前記環状スルホン酸エステルとしては、例えば、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,3−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン等のモノスルホン酸エステル;メチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル等のジスルホン酸エステル、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、充放電効率改善の点から、1,3−プロパンスルトンが特に好ましい。
【0056】
前記環状スルホン酸エステルの含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記非水電解液に対して0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.25質量%〜2質量%がより好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、効果が得られにくくなることがあり、10質量%を超えると、粘度の上昇によるイオン拡散性の低下や、充放電効率が低下することがある。
【0057】
なお、非水電解液蓄電素子の内部にハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物(例えば、TPFPB)、及び環状スルホン酸エステル(例えば、1,3−プロパンスルトン)が添加されていることは、非水電解液蓄電素子を分解し、非水電解液をガスクロマトグラフィーなどで調べることで分析することができる。
【0058】
<<ハロゲン原子を含む電解質塩>>
前記ハロゲン原子を含む電解質塩としては、ハロゲン原子を含み、非水溶媒に溶解し、高いイオン伝導度を示すものであれば特に制限はなく、下記のカチオンと、下記のアニオンとを組み合わせたものが使用可能であるが、使用する正極、負極に適合するもの、非水溶媒に溶解可能な様々な電解質塩が使用可能である。
前記カチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、スピロ系4級アンモニウムイオン、などが挙げられる。
前記アニオンとしては、例えば、Cl
−、Br
−、I
−、ClO
4−、BF
4−、PF
6−、SbF
6−、CF
3SO
3―、(CF
3SO
2)
2N
−、(C
2F
5SO
2)
2N
−、(C
6H
5)
4B
−などが挙げられる。
【0059】
前記ハロゲン原子を含む電解質塩の中でも、容量を向上させる点から、リチウム塩が特に好ましい。
前記リチウム塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、塩化リチウム(LiCl)、ホウ弗化リチウム(LiBF
4)、六弗化砒素リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(LiN(C
2F
5SO
2)
2)、リチウムビスファーフルオロエチルスルホニルイミド(LiN(CF
2F
5SO
2)
2)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭素電極中へのアニオンの吸蔵量の大きさの観点から、LiPF
6が特に好ましい。
【0060】
前記電解質塩の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記非水溶媒中に、0.5mol/L〜6mol/Lが好ましく、電池容量と出力の両立の点から、2mol/L〜4mol/Lがより好ましい。
【0061】
本発明の非水電解液蓄電素子の非水電解液には、基本的にはLiFが含まれてはならない。それは、フッ素成分が存在する場合、負極側でLiFの析出が起こり負極の機能を著しく阻害するからである。即ち、正極にアニオンを蓄えるタイプの電極を用いた電池において電解質塩濃度を3mol/L程度に濃くした場合や高電圧充電をした場合に電解質塩の分解に由来するフッ素成分が遊離し、これが負極側に徐々にLiFとして析出し、負極はカチオンの出し入れができなくなる。この現象はLiFが絶縁体であるためと推測している。また、本発明で用いる非水電解液としては、大幅なイオン伝導度の変化(向上)を意図する必要はない。これは、あらかじめ添加している電解質塩が使用する非水溶媒に5mol/L程度までは充分可溶であることと、非水電解液蓄電素子の設計に即して電解質塩濃度を調整しているためである。
【0062】
<セパレータ>
前記セパレータは、正極と負極の短絡を防ぐために正極と負極の間に設けられる。
前記セパレータの材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記セパレータの材質としては、例えば、クラフト紙、ビニロン混抄紙、合成パルプ混抄紙等の紙、セロハン、ポリエチレングラフト膜、ポリプロピレンメルトフロー不織布等のポリオレフィン不織布、ポリアミド不織布、ガラス繊維不織布、などが挙げられる。
前記セパレータの形状としては、例えば、シート状、などが挙げられる。
前記セパレータの大きさとしては、非水電解液蓄電素子に使用可能な大きさであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記セパレータの構造は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。
【0063】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、外装缶、電極取り出し線、などが挙げられる。
【0064】
<非水電解液蓄電素子の製造方法>
本発明の非水電解液蓄電素子は、前記正極、前記負極、及び前記非水電解液と、必要に応じて用いられるセパレータとを、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて外装缶等の他の構成部材を用いることも可能である。前記非水電解液蓄電素子を組み立てる方法としては、特に制限はなく、通常採用されている方法の中から適宜選択することができる。
【0065】
本発明の非水電解液蓄電素子は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、充放電時の最高電圧が4.3V以上6.0V以下であることが好ましい。前記充放電時の最高電圧が、4.3V未満であると、十分アニオンの蓄積ができず容量が下がることがあり、6.0Vを超えると、溶媒や電解質塩の分解が起こりやく、劣化が早まることがある。
【0066】
ここで、
図6は、本発明の非水電解液蓄電素子の一例を示す概略図である。この非水電解液蓄電素子10は、外装缶4内に、アニオンを挿入乃至脱離可能な正極活物質を含む正極1と、金属リチウム及びリチウムイオンの少なくともいずれかを吸蔵乃至放出可能な負極活物質を含む負極2と、正極1と負極2の間にセパレータ3とを収容してなり、これら正極1、負極2、及びセパレータ3は、非水溶媒にリチウム塩を溶解してなる非水電解液(不図示)に浸っている。なお、5は負極引き出し線、6は正極引き出し線である。
【0067】
−形状−
本発明の非水電解液蓄電素子の形状については、特に制限はなく、一般的に採用されている各種形状の中から、その用途に応じて適宜選択することができる。前記形状としては、例えば、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ、などが挙げられる。
【0068】
<用途>
本発明の非水電解液蓄電素子の用途としては、特に制限はなく、各種用途に用いることができ、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ、などが挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
なお、この実施例は、本発明の「非水電解液蓄電素子」を「非水電解液二次電池」として使用する例である。
【0070】
(実施例1)
−非水電解液二次電池の作製−
<正極の作製>
正極活物質として炭素粉末(TIMCAL社製、KS−6)を用いた。この炭素粉末は窒素吸着によるBET比表面積20m
2/g、レーザー回折粒度分布計(株式会社島津製作所製、SALD−2200)により測定した平均粒径(メジアン径)は3.4μmであった。
炭素粉末(TIMCAL社製、KS−6)2.7g、及び導電剤(アセチレンブラック)0.2gに水を加えて混錬し、更に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)2質量%水溶液を5g加えて混練し、スラリーを作製した。これをアルミニウム箔に塗工して120℃で4時間真空乾燥させ、正極とした。これを直径16mmの丸型に打ち抜き加工して正極の電極とした。このとき、直径16mmのアルミニウム(Al)箔に塗工された正極中の炭素粉末(黒鉛)の質量は10mgであった。
【0071】
<負極の作製>
負極活物質として炭素粉末(日立化成工業株式会社製、MAGD)を用いた。この炭素粉末は、窒素吸着によるBET比表面積4,600m
2/g、レーザー回折粒度分布計(株式会社島津製作所製、SALD−2200)により測定した平均粒径(メジアン径)は20μm、タップ密度630kg/m
3であった。
炭素粉末(黒鉛)3g、及び導電剤(アセチレンブラック)0.15gに水を加えて混錬し、更に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)3質量%水溶液を4g加えて混練し、スラリーを作製した。これをCu箔に塗工して120℃で4時間真空乾燥させ、負極とした。これを直径16mmの丸型に打ち抜き加工して負極の電極とした。このとき、直径16mmのCu箔に塗工された負極中の炭素粉末(黒鉛)の質量は10mgであった。
【0072】
<非水電解液>
4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)を0.3mL用意した。
トリス(ぺンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB、東京化成工業株式会社製、試薬品)、及び1,3−プロパンスルトン(PS、キシダ化学株式会社製)を、それぞれ表1に示す含有量となるように、前記4mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)で溶解して、非水電解液を調製した。
【0073】
<セパレータ>
セパレータとして実験用ろ紙(ADVANTEC社製、GA−100 GLASS FIBER FILTER)を用意した。
【0074】
<電池の作製>
アルゴンドライボックス中で、
図6に示すように、作製した正極と負極の間にセパレータを挟んで隣接配置して、半開放型セル型の非水電解液二次電池を作製した。
【0075】
次に、作製した各非水電解液二次電池について、以下のようにして、放電容量、及び充放電効率を測定した。結果を表1に示した。
【0076】
<放電容量の測定方法>
作製した各非水電解液二次電池を室温(25℃)において0.5mA/cm
2の定電流で充電終止電圧5.2Vまで充電した。1回目の充電の後、0.5mA/cm
2の定電流で2.5Vまで放電した。この充放電を50回繰り返した。1回目〜50回後の放電容量を充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ−SD8システム)により測定し、下記基準で評価した。なお、放電容量は正極活物質当たりの質量換算値である。
〔評価基準〕
○:放電容量が60mAh/g以上
△:放電容量が20mAh/g以上60mAh/g未満
×:放電容量が20mAh/g未満
【0077】
<充放電効率の測定>
作製した各非水電解液二次電池を室温(25℃)において、0.5mA/cm
2の定電流で充電終止電圧5.2Vまで充電した。1回目の充電の後、0.5mA/cm
2の定電流で2.5Vまで放電した。このときサイクル3回目と5回目の充放電効率を充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ−SD8システム)により測定し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
○:充放電効率が90%以上
△:充放電効率が80%以上90%未満
×:充放電効率が80%未満
【0078】
【表1】
表1の結果から、TPFPB及びPSを添加した本発明の試料No.1〜9は、比較例の試料No.101〜104に比べて、放電容量及び充放電効率の向上が認められた。
【0079】
(実施例2)
−非水電解液二次電池の作製−
−−ECとDMCとの質量比を変えた繰り返し充放電特性の評価−−
<正極>
実施例1と同じ正極を用意した。
【0080】
<負極>
直径16mm、厚み0.3mmの金属Liからなる負極を用意した。
【0081】
<非水電解液>
5mol/LのLiPF
6を溶解させた非水溶媒〔エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:5(質量比)、EC:DMC=1:4(質量比)、EC:DMC=1:3(質量比)、EC:DMC=1:2(質量比)〕を、それぞれ0.3mL用意した。
トリス(ぺンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB、東京化成工業株式会社製、試薬品)及び1,3−プロパンスルトン(PS、キシダ化学株式会社製)を、表2に示す含有量となるように、前記5mol/LのLiPF
6を溶解させた非水溶媒に溶解して、非水電解液を調製した。
【0082】
<セパレータ>
セパレータとして実験用ろ紙(ADVANTEC社製、GA−100 GLASS FIBER FILTER)を用意した。
【0083】
<電池の作製>
アルゴンドライボックス中で、
図6に示すように、作製した正極と負極の間にセパレータを挟んで隣接配置して、半開放型セル型の非水電解液二次電池を作製した。
【0084】
次に、作製した各非水電解液二次電池について、以下のようにして、放電容量を測定した。結果を表2に示した。
<放電容量の測定>
作製した各非水電解液二次電池を室温(25℃)において0.5mA/cm
2の定電流で充電終止電圧5.4Vまで充電した。1回目の充電の後、0.5mA/cm
2の定電流で3.0Vまで放電した。この充放電を30回繰り返した。2回目及び30回後の放電容量を充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ−SD8システム)により測定し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
○:放電容量が70mAh/g以上
△:放電容量が40mAh/g以上70mAh/g未満
×:放電容量が40mAh/g未満
【0085】
【表2】
表2の結果から、ECとDMCとの質量比においてDMCの質量比が高いと放電容量が高くなることがわかった。TPFPB及びPSを含有させることにより、放電容量が向上し、それを維持できることがわかった。
【0086】
(実施例3)
−非水電解液二次電池の作製−
−−非水溶媒の選定−−
<正極>
実施例1と同じ正極を用意した。
【0087】
<負極>
実施例1と同じ負極を用意した。
【0088】
<非水電解液>
4mol/LのLiPF
6を溶解させた非水溶媒〔ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)〕を、それぞれ0.3mL用意した。
トリス(ぺンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB、東京化成工業株式会社製、試薬品)、及び1,3−プロパンスルトン(PS、キシダ化学株式会社製)を、表3に示す含有量となるように、前記4mol/LのLiPF
6を溶解させた非水溶媒に溶解して、非水電解液を調製した。
【0089】
<セパレータ>
セパレータとして実験用ろ紙(ADVANTEC社製、GA−100 GLASS FIBER FILTER)を用意した。
【0090】
<電池の作製>
アルゴンドライボックス中で、
図6に示すように、作製した正極と負極の間にセパレータを挟んで隣接配置して、半開放型セル型の非水電解液二次電池を作製した。
【0091】
次に、作製した各非水電解液二次電池について、実施例3と同様にして、繰り返し充放電特性を測定し、下記の基準で評価した。結果を表3に示した。
〔評価基準〕
○:放電容量が60mAh/g以上
△:放電容量が20mAh/g以上60mAh/g未満
×:放電容量が20mAh/g未満
【0092】
【表3-1】
【表3-2】
【0093】
表3の結果から、非水溶媒としてDMC、EMC、MA、及びMFについても良好な繰り返し充放電特性が得られることがわかった。
【0094】
(実施例4及び比較例1)
−非水電解液二次電池の作製−
−−充放電電圧−−
<正極>
実施例1と同じ正極を用意した。
【0095】
<負極>
実施例1と同じ負極を用意した。
【0096】
<非水電解液>
1mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)を0.3mL用意した。
トリス(ぺンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB、東京化成工業株式会社製、試薬品)及び1,3−プロパンスルトン(PS、キシダ化学株式会社製)を、それぞれ、0質量%(比較例1)、1.0質量%(実施例4)の含有量となるように、前記1mol/LのLiPF
6を溶解させたジメチルカーボネート(DMC)に溶解して、非水電解液を調製した。
【0097】
<セパレータ>
セパレータとして実験用ろ紙(ADVANTEC社製、GA−100 GLASS FIBER FILTER)を用意した。
【0098】
<電池の作製>
アルゴンドライボックス中で、
図6に示すように、作製した正極と負極の間にセパレータを挟んで隣接配置して、半開放型セル型の非水電解液二次電池を作製した。
【0099】
次に、作製した各非水電解液二次電池について、充放電電圧を変化させ、以下のようにして、繰り返し充放電特性を測定し、下記基準で評価した。結果を表4に示した。
【0100】
<繰り返し充放電特性の評価>
作製した各非水電解液二次電池を室温(25℃)において、0.5mA/cm
2の定電流で充電終止電圧4.2Vまで充電した。1回目の充電の後、0.5mA/cm
2の定電流で2.5Vまで放電した。この充放電を20回繰り返した。20回後の電池容量(放電容量及び蓄電容量)を充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ−SD8システム)により測定し、下記基準で評価した。なお、電池容量は正極活物質10mg当たりの質量換算値である。結果を表4に示した。
また、作製した各非水電解液二次電池を室温(25℃)において、0.5mA/cm
2の定電流で充電終止電圧4.8Vまで充電した。1回目の充電の後、0.5mA/cm
2の定電流で2.5Vまで放電した。この充放電を20回繰り返した。同様にして20回後の電池容量を測定し、下記基準で評価した。結果を表4に示した。
また、作製した各非水電解液二次電池を室温(25℃)において、0.5mA/cm
2の定電流で充電終止電圧5.2Vまで充電した。1回目の充電の後、0.5mA/cm
2の定電流で2.5Vまで放電した。この充放電を20回繰り返した。同様にして20回後の電池容量を測定し、下記基準で評価した。結果を表4に示した。
また、作製した各非水電解液二次電池を室温(25℃)において、0.5mA/cm
2の定電流で充電終止電圧5.5Vまで充電した。1回目の充電の後、0.5mA/cm
2の定電流で2.5Vまで放電した。この充放電を20回繰り返した。同様にして20回後の電池容量を測定し、下記基準で評価した。結果を表4に示した。
また、作製した各非水電解液二次電池を室温(25℃)において、0.5mA/cm
2の定電流で充電終止電圧6.0Vまで充電した。1回目の充電の後、0.5mA/cm
2の定電流で2.5Vまで放電した。この充放電を20回繰り返した。同様にして20回後の電池容量を測定し、下記基準で評価した。結果を表4に示した。
〔評価基準〕
○:20回充放電後の放電容量が50mAh/g以上
△:20回充放電後の放電容量が20mAh/g以上50mAh/g未満
×:20回充放電後の放電容量が20mAh/g未満
【0101】
【表4】
表4の結果から、TPFPB及びPSの添加なしでは、充放電電圧範囲の最高電圧が4.2V以下ではアニオンの正極へのインターカレーションが不足する。一方、最高電圧が5.5Vを超えると、非水電解液が分解して逆に放電容量が低下する。これに対して、TPFPB及びPSを添加すると最高電圧が5.5Vを超えても放電容量が50mAh/g以上得られ、高電圧側の特性が改善することがわかった。
【0102】
本発明の態様としては、以下のとおりである。
<1> アニオンを挿入乃至脱離可能な正極活物質を含む正極と、
負極活物質を含む負極と、
非水溶媒、ハロゲン原子を含む電解質塩、ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物、及び環状スルホン酸エステルを含有する非水電解液と、を有することを特徴とする非水電解液蓄電素子である。
<2> ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物が、フッ素原子を含むアニオンを化学的に結合可能な部位を有する化合物である前記<1>に記載の非水電解液蓄電素子である。
<3> ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位が、分子中のホウ素原子である前記<1>から<2>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<4> ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物が、下記一般式(1)で表される化合物、及び下記一般式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種である前記<1>から<3>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<一般式(1)>
【化9】
ただし、前記一般式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基のいずれかを表し、これらは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシド基、チオール基、チオアルコキシド基、アリール基、エーテル基及びチオエーテル基のいずれかで置換されていてもよい。
<一般式(2)>
【化10】
ただし、前記一般式(2)中、R
4、R
5及びR
6は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基のいずれかを表し、これらは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシド基、チオール基、チオアルコキシド基、アリール基、エーテル基及びチオエーテル基のいずれかで置換されていてもよい。
<5> ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物が、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFPB)である前記<1>から<4>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<6> ハロゲン原子を含むアニオンを結合可能な部位を有する化合物の含有量が、非水電解液に対して0.5質量%以上である前記<1>から<5>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<7> 環状スルホン酸エステルが、下記一般式(3)で表される化合物である前記<1>から<6>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<一般式(3)>
【化11】
ただし、前記一般式(3)中、A及びBは、それぞれ独立に、アルキレン基及びフルオロアルキレン基のいずれかを表す。Xは、C−C単結合、及び−OSO
2−のいずれかを示す。
<8> 環状スルホン酸エステルが、1,3−プロパンスルトンである前記<1>から<7>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<9> 環状スルホン酸エステルの含有量が、非水電解液に対して0.1質量%〜10質量%である前記<1>から<8>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<10> 充放電時の最高電圧が4.3V以上6.0V以下である前記<1>から<9>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<11> 負極活物質が、金属リチウム及びリチウムイオンの少なくともいずれかを吸蔵乃至放出可能な炭素質材料である前記<1>から<10>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<12> ハロゲン原子を含む電解質塩が、LiPF
6である前記<1>から<11>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。
<13> 非水電解液における非水溶媒がジメチルカーボネートを含有し、該ジメチルカーボネートの含有量が、非水溶媒に対して70質量%以上である前記<1>から<12>のいずれかに記載の非水電解液蓄電素子である。