特許第6227916号(P6227916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227916
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】感エネルギー性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20171030BHJP
   C08K 5/3445 20060101ALI20171030BHJP
   G03F 7/40 20060101ALI20171030BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20171030BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C08L79/08 A
   C08K5/3445
   G03F7/40 501
   G03F7/004 503Z
   G03F7/038 504
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-146872(P2013-146872)
(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2015-17229(P2015-17229A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】野田 国宏
(72)【発明者】
【氏名】千坂 博樹
(72)【発明者】
【氏名】塩田 大
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/040462(WO,A1)
【文献】 特開2007−056196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08K 5/3445
C08G 73/10 −73/16
G03F 7/004
G03F 7/038
G03F 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを反応させて得られるポリアミック酸と、溶剤と、光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して塩基を発生する化合物(A)とを含有する感エネルギー性樹脂組成物であって、
前記化合物(A)が光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して塩基性成分を、化合物(A)1分子あたり2分子以上発生する化合物であり、前記塩基性成分2分子以上のうちの少なくとも1分子がイミダゾール化合物である感エネルギー性樹脂組成物。
【請求項2】
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを反応させて得られるポリアミック酸と、溶剤と、光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して塩基を発生する化合物(A)とを含有する感エネルギー性樹脂組成物であって、
前記化合物(A)が光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して塩基性成分を、化合物(A)1分子あたり2分子以上発生する下記式(1)で表される化合物である感エネルギー性樹脂組成物。
【化1】
(式中、R〜Rは同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基又は下記式(2a)若しくは(2b)
【化2】
(式中、Aは、単結合又は酸素原子を含んでいてもよいアルキレン基を示す。R〜R11は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基又はアリール基を示す。R及びR10は、互いに結合して、イミダゾール環を構成する2つの炭素原子と共に環を形成していてもよい。)
で表される基を示す。R〜Rのうち少なくとも2つが互いに結合して環を形成していてもよい。但し、R〜Rのうち少なくとも1つは前記式(2a)又は(2b)で表される基である。Rは、水素原子、アルキル基又はアシル基を示す。前記Rのアルキル基及びアシル基中には、ハロゲン原子、エステル結合、エーテル結合が含まれていてもよい。但し、この場合において、式中のアミドを構成するカルボニル基のα位の炭素原子にハロゲン原子又は酸素原子が直接結合した構造及び前記アシル基を構成するカルボニル炭素にハロゲン原子又は酸素原子が直接結合した構造は含まない。R、Rは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環式基を示す。R及びRは、ヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、式中に示される窒素原子と共に環を形成していてもよい。但し、R、Rがともに水素原子である場合は除く。式(1)には表示される式の幾何異性体も含まれる。)
【請求項3】
前記化合物(A)は、120〜180℃で分解して塩基を発生する化合物である請求項1又は2記載の感エネルギー性樹脂組成物。
【請求項4】
前記化合物(A)は、少なくとも光の作用により分解して塩基を発生する化合物である請求項1から3のいずれか1項記載の感エネルギー性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の感エネルギー性樹脂組成物からなる塗膜又は成形体を形成する形成工程と、
前記塗膜又は成形体を露光又は加熱することにより前記塗膜又は成形体中の化合物(A)を分解する分解工程とを含むポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載の感エネルギー性樹脂組成物からなる塗膜又は成形体を形成する形成工程と、
前記塗膜又は成形体を選択的に露光する露光工程と、
露光後の前記塗膜又は成形体を現像する現像工程と、
現像後の前記塗膜又は成形体を加熱する加熱工程とを含むパターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミック酸を含有する感エネルギー性樹脂組成物、それを用いるポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法、及びパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、優れた耐熱性、機械的強度、及び絶縁性や、低誘電率等の特性を有するため、種々の素子や、多層配線基板等の電子基板のような電気・電子部品において、絶縁材や保護材として広く使用されている。また、精密な電気・電子部品において、微小な個所を選択的に絶縁又は保護するためには、所望の形状にパターニングしたポリイミド樹脂が用いられている。
【0003】
一般に、ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを極性有機溶剤中で重合させて得られるポリアミック酸を、300℃程度の高温で熱処理することで形成される。例えば、電子材料用のポリイミド製品は、ポリアミック酸のようなポリイミド前駆体の溶液として供給され、電気・電子部品を製造する際には、これを絶縁材や保護材を形成する個所に塗布や注入等の方法により導入した後、300℃程度の高温で熱処理して絶縁材や保護材を形成していた。
【0004】
従来のポリイミド前駆体を用いる絶縁材や保護材の形成法は、上記のように高温での熱処理を必要とするため、熱に弱い材料に適用できないという問題があった。そこで、例えば、200℃前後の低温での処理でポリイミド樹脂を形成可能なポリイミド前駆体組成物が開発されている(例えば、特許文献1)。しかし、低温でポリイミド樹脂を形成した場合、得られるポリイミド樹脂の誘電率が高くなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−19113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、誘電率の低いポリイミド樹脂を与える感エネルギー性樹脂組成物、上記感エネルギー性樹脂組成物を用いるポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法、及び上記感エネルギー性樹脂組成物を用いるパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、光及び熱の少なくとも一方の作用により分解し1分子あたり2分子以上の塩基性成分を発生する化合物を、ポリアミック酸を含有する組成物に対して添加することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
本発明の第一の態様は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを反応させて得られるポリアミック酸と、溶剤と、光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して塩基を発生する化合物(A)とを含有する感エネルギー性樹脂組成物であって、上記化合物(A)が光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して塩基性成分を、化合物(A)1分子あたり2分子以上発生する化合物である感エネルギー性樹脂組成物である。
【0009】
本発明の第二の態様の感エネルギー性樹脂組成物からなる塗膜又は成形体を形成する形成工程と、上記塗膜又は成形体を露光又は加熱することにより上記塗膜又は成形体中の化合物(A)を分解する分解工程とを含むポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法である。
【0010】
本発明の第三の態様は、本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物からなる塗膜又は成形体を形成する形成工程と、上記塗膜又は成形体を選択的に露光する露光工程と、露光後の上記塗膜又は成形体を現像する現像工程と、現像後の上記塗膜又は成形体を加熱する加熱工程とを含むパターン形成方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、誘電率の低いポリイミド樹脂を与える感エネルギー性樹脂組成物、上記感エネルギー性樹脂組成物を用いるポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法、及び上記感エネルギー性樹脂組成物を用いるパターン形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
≪感エネルギー性樹脂組成物≫
本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを反応させて得られるポリアミック酸、溶剤、並びに光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して塩基を発生する化合物(A)を少なくとも含有する。
【0014】
<ポリアミック酸>
本発明のポリアミック酸は、特に限定されず、従来からポリイミド樹脂の前駆体として知られているポリアミック酸から適宜選択して使用することができる。また、ポリアミック酸は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0015】
なかでも、好適なポリアミック酸としては、例えば、下記式(I)で表されるポリアミック酸が挙げられる。
【化1】
(式中、R1Aは4価の有機基であり、R2Aは2価の有機基であり、nは括弧内に示される構成単位の繰り返し数である。)
【0016】
式(I)中、R1A及びR2Aは、それぞれ、炭素数が2〜50が好ましく、2〜30がより好ましい。R1A及びR2Aは、それぞれ、脂肪族基であっても、芳香族基であっても、これらの構造を組合せた基であってもよい。R1A及びR2Aは、炭素原子、及び水素原子の他に、ハロゲン原子、酸素原子、及び硫黄原子を含んでいてもよい。R1A及びR2Aが酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含む場合、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子は、含窒素複素環基、−CONH−、−NH−、−N=N−、−CH=N−、−COO−、−O−、−CO−、−SO−、−SO−、−S−、及び−S−S−から選択される基として、R1A及びR2Aに含まれてもよく、−O−、−CO−、−SO−、−SO−、−S−、及び−S−S−から選択される基として、R1A及びR2Aに含まれるのがより好ましい。
【0017】
上記式(I)で表されるポリアミック酸を加熱や触媒によって閉環させることにより、下記式(II)で表されるポリイミド樹脂が得られる。
【化2】
(式中、R1A及びR2Aは式(I)と同じであり、nは括弧内に示される構成単位の繰り返し数である。)
【0018】
上記式(I)で表されるポリアミック酸は、溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させることにより得られる。ポリアミック酸の合成原料となるテトラカルボン酸二無水物、及びジアミンは、酸無水物基とアミノ基との反応によりポリアミック酸を形成可能なものであれば特に限定されない。
【0019】
ポリアミック酸を合成する際の、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0020】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミック酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0021】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。
【0022】
ジアミンは、従来からポリアミック酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。ジアミンは、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0023】
芳香族ジアミンの好適な具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0024】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。これらの有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる有機溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類が挙げられる。
【0026】
これらの有機溶剤の中では、生成するポリアミック酸やポリイミド樹脂の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0027】
<感エネルギー性樹脂組成物>
本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物は、塗布性の点で溶剤を含有し、固体を含むペーストであってもよく、溶液(ワニス)であってもよい。塗布性の観点からは、溶液であるのが好ましい。溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。溶剤の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で、特に限定されない。好適な溶剤の例は、前述のテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとの反応に使用される溶剤の例と同様である。溶剤は、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルコール系溶剤を含んでいてもよい。また、溶剤が、アルコール系溶剤を含む場合、耐熱性に優れるパターンを形成しやすい。
【0028】
感エネルギー性樹脂組成物中の溶剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。感エネルギー性樹脂組成物中の溶剤の含有量は、感エネルギー性樹脂組成物中の固形分含有量に応じて適宜調整される。感エネルギー性樹脂組成物中の固形分含有量は、5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0029】
<光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して塩基を発生する化合物(A)>
本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物には、光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して塩基を発生する化合物(A)が含有される。上記化合物(A)は、光及び熱の少なくとも一方の作用により分解し、塩基性成分を1分子あたり2分子以上発生する。本発明の感エネルギー性樹脂組成物において、上記化合物(A)は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物を露光又は加熱することにより、樹脂組成物中の化合物(A)が分解して、1分子あたり2分子以上の塩基を発生する。発生した塩基は、イミド化触媒として作用して、樹脂組成物中のポリアミック酸の閉環を促進する。本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物は、上記化合物(A)を含有することにより、十分な量の塩基を発生させることができ、誘電率の低いポリイミド樹脂を与えることができる。
【0031】
用いられる化合物(A)は、120〜180℃で分解して塩基を発生する化合物であることが好ましい。このような化合物(A)は、その分解温度以上の加熱温度であれば、例えば、220℃以下の低い加熱温度であっても、加熱により分解して塩基を発生することができる。そのため、このような化合物(A)を含有する感エネルギー性樹脂組成物を化合物(A)の分解温度以上に加熱すれば、220℃以下の低温であっても、化合物(A)の分解により発生した塩基により、上記樹脂組成物中のポリアミック酸の閉環が促進されると共に、加熱そのものによってもポリアミック酸の閉環が進行し、ポリイミド樹脂を形成することができる。上記の加熱によって化合物(A)は十分に分解されるため、形成されたポリイミド樹脂においては、化合物(A)の残存量が低く抑えられる。そのため、上記ポリイミド樹脂を、例えば、300℃以上の高温に加熱しても、化合物(A)の分解に起因する重量の減少が抑えられ耐熱性にも優れる。
【0032】
また、化合物(A)は、少なくとも光の作用により分解して塩基を発生する化合物であることが好ましい。このような化合物(A)を含有する本発明の感エネルギー性樹脂組成物を露光すると、露光部において化合物(A)が分解して塩基を発生する。上記発生した塩基により、上記感エネルギー性樹脂組成物中のポリアミック酸の閉環が促進され、露光部は現像液に対して不溶となる。一方、未露光部は、現像液に対して可溶であるため、現像液に溶解させて除去することができる。よって、本発明の感エネルギー性樹脂組成物を選択的に露光することにより、所望のパターンを形成することができる。
【0033】
化合物(A)としては、例えば、光及び熱の少なくとも一方の作用により分解してイミダゾール化合物を発生する化合物(A−1)が挙げられる。以下、化合物(A−1)について更に説明する。
【0034】
[光及び熱の少なくとも一方の作用により分解してイミダゾール化合物を発生する化合物(A−1)]
本発明の光及び熱の少なくとも一方の作用により分解してイミダゾール化合物を発生する化合物(A−1)としては、例えば、桂皮酸骨格中のベンゼン環にイミダゾリルカルボニル基を含む置換基が結合した桂皮酸アミド誘導体を挙げることができる。
【0035】
更に、上記桂皮酸アミド誘導体のより具体的な例として、下記式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【化3】
(式中、R〜Rは同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基又は下記式(2a)若しくは(2b)
【化4】
(式中、Aは、単結合又は酸素原子を含んでいてもよいアルキレン基を示す。R〜R11は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基又はアリール基を示す。R及びR10は、互いに結合して、イミダゾール環を構成する2つの炭素原子と共に環を形成していてもよい。)
で表される基を示す。R〜Rのうち少なくとも2つが互いに結合して環を形成していてもよい。但し、R〜Rのうち少なくとも1つは上記式(2a)又は(2b)で表される基である。Rは、水素原子、アルキル基又はアシル基を示す。上記Rのアルキル基及びアシル基中には、ハロゲン原子、エステル結合、エーテル結合が含まれていてもよい。但し、この場合において、式中のアミドを構成するカルボニル基のα位の炭素原子にハロゲン原子又は酸素原子が直接結合した構造及び上記アシル基を構成するカルボニル炭素にハロゲン原子又は酸素原子が直接結合した構造は含まない。R、Rは、同一又は
異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環式基を示す。R及びRは、ヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、式中に示される窒素原子と共に環を形成していてもよい。但し、R、Rがともに水素原子である場合は除く。式(1)には表示される式の幾何異性体も含まれる。)
【0036】
上記R〜Rにおけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等の炭素数1〜4程度のアルキル基等を挙げることができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ基等の炭素数1〜6程度のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0037】
式(2a)及び(2b)において、Aは、単結合、又は酸素原子を含んでいてもよいアルキレン基を示す。ここで、アルキレン基としては、例えば、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、メチルトリメチレン、ジメチルトリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン、ドデカメチレン基等の炭素数1〜12程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基等を挙げることができる。また、酸素原子を含むアルキレン基としては、例えば、オキシメチレン(−OCH−)、オキシエチレン(−OCHCH−)、オキシプロピレン(−OCHCH(CH)−)、オキシトリメチレン(−OCHCHCH−)、メチレンオキシメチレン(−CHOCH−)、メチレンオキシエチレン(−CHOCHCH−)、メチレンオキシトリメチレン(−CHOCHCHCH−)、メチレンオキシテトラメチレン(−CHOCHCHCHCH−)、エチレンオキシエチレン(−CHCHOCHCH−)、ポリオキシエチレン[−(OCHCH−:nは正の整数]、ポリオキシプロピレン基[−(OCHCH(CH))−:nは正の整数](上記式の左側が桂皮酸骨格を構成するベンゼン環に結合)等の酸素原子を1又は2以上含む炭素数2〜12程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基等を挙げることができる。
【0038】
上記R〜R11におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等の炭素数1〜4程度のアルキル基等を挙げることができる。また、アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜14程度のアリール基等が挙げられる。R及びR10が互いに結合してイミダゾール環を構成する2つの炭素原子と共に形成する環としては、例えば、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環等の3〜10員の非芳香族性環;ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族性環等が挙げられる。R〜R11として好ましくは、それぞれ、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基であり、特に、水素原子であることが好ましい。
【0039】
上記R〜Rのうち少なくとも2つが互いに結合して環を形成する場合、形成される環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族性環;シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロオクタン環、シクロドデカン環、アダマンタン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環等の3〜20員(好ましくは、3〜15員、更に好ましくは5〜12員)程度の非芳香族性炭化水素環(シクロアルカン環、シクロアルケン環、又は橋かけ炭素環)等を挙げることができる。
【0040】
本発明においては、R〜Rのうち少なくとも1つが上記式(2a)若しくは(2b)で表される基であればよいが、少なくともRが上記式(2a)若しくは(2b)で表される基であることが好ましい。R〜RのうちRのみが上記式(2a)若しくは(2b)で表される基であってもよい。なお、R〜RのうちRのみが上記式(2a)若しくは(2b)で表される基であってもよいし、R〜RのうちRのみが上記式(2a)若しくは(2b)で表される基であってもかまわない。R〜Rにおいて、式(2a)若しくは(2b)で表される基以外の基は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、水酸基、メトキシ基又はニトロ基であるのが好ましく、水素原子であるのが特に好ましい。
【0041】
上記式(1)中、Rは、水素原子、アルキル基又はアシル基を示す。上記アルキル基、アシル基中には、ハロゲン原子、エステル結合、エーテル結合が含まれていてもよい。但し、この場合において、式中のアミドを構成するカルボニル基のα位の炭素原子にハロゲン原子、酸素原子が直接結合した構造、及び上記アシル基を構成するカルボニル炭素にハロゲン原子、酸素原子が直接結合した構造は含まない。
【0042】
におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル基等の炭素数1〜12のアルキル基等が挙げられる。これらのアルキル基の中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基が特に好ましい。
【0043】
におけるアシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル基等の炭素数1〜12の脂肪族アシル基;シクロペンタノイル、シクロヘキサノイル基等の炭素数4〜12の脂環式カルボン酸アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基等の炭素数7〜12の芳香族アシル基等が挙げられる。
【0044】
としては、上記の中でも、水素原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基;アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ベンゾイル基等の炭素数1〜7の脂肪族又は芳香族アシル基(特に、炭素数1〜5の脂肪族アシル基)が好ましい。
【0045】
また、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環式基を示す。R、Rは、ヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、式中に示される窒素原子と共に環を形成していてもよい。但し、R、Rがともに水素原子である場合は除く。
【0046】
、Rにおけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基等の炭素数1〜20(好ましくは1〜10)程度のアルキル基等を挙げることができる。アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、1−ブテニル基等の炭素数2〜20(好ましくは2〜10)程度のアルケニル基等を挙げることができる。アルキニル基としては、例えば、エチニル、プロピニル基等の炭素数2〜20(好ましくは2〜10)程度のアルキニル基等を挙げることができる。アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜20(好ましくは6〜14)程度のアリール基等を挙げることができる。複素環式基を構成する複素環としては、例えば、ピロール、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、ピペラジン、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、チアジン環等の3〜20員(好ましくは3〜12員、更に好ましくは3〜8員)程度の芳香族性又は非芳香族性複素環やこれらの環が複数個縮合した環;これらの環と芳香族炭素環等の芳香環(例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン環等)が縮合して得られる環(例えば、ベンゾイミダゾール、フェノチアジン環等)等を挙げることができる。
【0047】
上記R、Rは、ヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、上記式(1)中に示される窒素原子と共に環を形成していてもよい。上記ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子等を挙げることができる。R、Rがヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、式(1)中に示される窒素原子と共に形成する環としては、例えば、ピロール、イミダゾール環等の芳香族性複素環;ピペリジン、ピロリジン、モルホリン環等の3〜20員(好ましくは3〜12員、更に好ましくは3〜8員)程度の非芳香族性複素環やこれらの環が複数個縮合した環、及びこれらの環と芳香族炭素環等の芳香環(例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン環等)が縮合して得られる環等を挙げることができる。上記環は、置換基として、メチル、エチル、プロピル基等の炭素数1〜3程度のアルキル基や、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜20(好ましくは6〜14)程度のアリール基等を有していてもよい。
【0048】
、Rとしては、上記の中でも、それぞれ、水素原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基であるのが好ましい。また、R、Rが、ヘテロ原子(窒素原子又は酸素原子)を介して又は介することなく互いに結合して、式(1)中に示される窒素原子と共に3〜8員環(芳香族性環又は非芳香族性環)を形成するのも好ましい。
【0049】
式(1)には、表示する式の幾何異性体も含まれる。すなわち、式(1)はE体及びZ体の双方[(E)−桂皮酸誘導体及びアロ桂皮酸誘導体]を含むものである。
【0050】
式(1)で表される化合物の代表的な例を下記[式(3)〜式(42)]に示す。
【0051】
【化5】
【0052】
【化6】
【0053】
【化7】
【0054】
【化8】
【0055】
感エネルギー性樹脂組成物における化合物(A)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず使用できる。感エネルギー性樹脂組成物における化合物(A)の含有量は、例えば、ポリアミック酸100質量に対して1〜50質量部が好ましく、1〜25質量部がより好ましい。
【0056】
<その他の成分>
本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記成分以外にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例としては、界面活性剤、可塑剤、粘度調整剤、消泡剤、及び着色剤等が挙げられる。
【0057】
≪ポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法≫
本発明の第二の態様のポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法は、本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物からなる塗膜又は成形体を形成する形成工程と、上記塗膜又は成形体を露光又は加熱することにより、上記塗膜又は成形体中の化合物(A)を分解する分解工程とを含むものである。以下、各工程について説明する。
【0058】
<形成工程>
形成工程では、本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物を被塗布体の表面に塗布したり、適当な成形方法で成形したりして、感エネルギー性樹脂組成物からなる塗膜又は成形体を形成する。塗布方法としては、例えば、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、カーテンコート法等が挙げられる。塗膜の厚さは、特に限定されない。典型的には、塗膜の厚さは、2〜100μmが好ましく、3〜50μmがより好ましい。塗膜の厚さは、塗布方法や感エネルギー性樹脂組成物の固形分濃度や粘度を調節することにより、適宜制御することができる。
【0059】
塗膜又は成形体の形成後、分解工程に移行する前に、塗膜又は成形体中の溶剤を除去する目的で、塗膜又は成形体を加熱してもよい。加熱温度や加熱時間は、感エネルギー性樹脂組成物に含まれる成分に熱劣化や熱分解が生じない限り特に限定されない。塗膜又は成形体中の溶剤の沸点が高い場合、減圧下に塗膜又は成形体を加熱してもよい。
【0060】
<分解工程>
分解工程では、上記形成工程で形成された塗膜又は成形体を露光又は加熱することによりその中の化合物(A)を分解する。化合物(A)が分解して発生した塩基により、上記塗膜又は成形体中のポリアミック酸の閉環が促進される。また、上記塗膜又は成形体を加熱する場合には、その加熱によってもポリアミック酸の閉環が進行する。このようなポリアミック酸の閉環の結果、ポリイミド膜又はポリイミド成形体が形成される。
【0061】
上記塗膜又は成形体を露光する場合、露光に用いられる放射線としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、g線ステッパー、i線ステッパー等から放射される紫外線、電子線、レーザー光線等が挙げられる。露光量は、使用する光源や塗膜の膜厚等によっても異なるが、通常、1〜1000mJ/cm、好ましくは10〜500mJ/cmである。
【0062】
上記塗膜又は成形体を加熱する場合、加熱温度は、用いる化合物(A)の分解温度に応じて、適宜、調整されるが、例えば、120〜350℃、好ましくは150〜350℃に設定される。このような範囲の温度でポリアミック酸を加熱することにより、生成するポリイミド樹脂の熱劣化や熱分解を抑制しつつ、ポリイミド樹脂を生成させることができる。
【0063】
また、ポリアミック酸の加熱を高温で行なう場合、多量のエネルギーの消費や、高温での処理設備の経時劣化が促進される場合があるため、ポリアミック酸の加熱を低めの温度で行なうことも好ましい。具体的には、ポリアミック酸を加熱する温度の上限を、220℃以下とするのが好ましく、200℃以下とするのがより好ましく、190℃以下とするのが特に好ましい。
【0064】
≪パターン形成方法≫
本発明の第三の態様であるパターンの形成方法は、化合物(A)が少なくとも光の作用により分解して塩基を発生する化合物である場合において、本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物からなる塗膜又は成形体を形成する形成工程と、上記塗膜又は成形体を選択的に露光する露光工程と、露光後の上記塗膜又は成形体を現像する現像工程と、現像後の上記塗膜又は成形体を加熱する加熱工程とを含むものである。
【0065】
<形成工程>
上記パターン形成方法における形成工程は、本発明の第一の態様の感エネルギー性樹脂組成物において、化合物(A)が少なくとも光の作用により分解して塩基を発生する化合物である点を除き、上記ポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法における形成工程について、説明したのと同様である。
【0066】
<露光工程>
露光工程では、形成工程で得られる塗膜又は成形体を、所定のパターンに選択的に露光する。選択的露光は、通常、所定のパターンのマスクを用いて行われる。露光に用いられる放射線や露光量は、上記本発明の第二の態様のポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法における分解工程において、塗膜又は成形体を露光する場合の説明と同様である。
【0067】
<現像工程>
現像工程では、露光工程において所定のパターンに選択的に露光された塗膜又は成形体から未露光部を除去して、上記塗膜又は成形体を現像する。未露光部は、通常、アルカリ現像液に溶解させて除去される。現像方法としては、例えば、シャワー現像法、スプレー現像法、浸漬現像法、パドル現像法等が挙げられる。アルカリ現像液としては、無機アルカリ化合物及び有機アルカリ化合物から選択される1種以上のアルカリ化合物を含有する水溶液を用いることができる。現像液中のアルカリ化合物の濃度は、露光後の塗膜又は成形体を良好に現像できる限り特に限定されない。典型的には、現像液中のアルカリ化合物の濃度は、1〜10質量%が好ましい。
【0068】
無機アルカリ化合物の例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、及びアンモニア等が挙げられる。有機アルカリ化合物の例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、
ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、エタノールアミン、及びトリエタノールアミン等が挙げられる。
【0069】
更に、現像液には、必要に応じて、メタノール、エタノール、プロパノール、又はエチレングリコール等の水溶性有機溶剤、界面活性剤、保存安定剤、及び樹脂の溶解抑止剤等を適量添加することができる。
【0070】
<加熱工程>
加熱工程では、現像工程において、未露光部が除去されることによって、所定のパターンに現像された塗膜又は成形体を加熱する。これにより、露光工程を経ても塗膜又は成形体中に残存していたポリアミック酸の閉環が更に促進され、イミド化がより十分なものとなる。加熱温度は、上記ポリイミド膜又はポリイミド成形体の製造方法における分解工程において、塗膜又は成形体を加熱する場合について、説明したのと同様である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
<実施例1〜5、比較例1〜3>
実施例及び比較例では、以下に示すテトラカルボン酸二無水物、ジアミン、溶剤、化合物A1〜A5、及び比較化合物R1〜R2を用いた。
・テトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
a−BPDA:2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
・ジアミン
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
PPD:p−フェニレンジアミン
MPD:m−フェニレンジアミン
2,4−TDA:2,4−ジアミノトルエン
・溶剤
TMU:N,N,N’,N’−テトラメチルウレア
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0073】
・化合物A1〜A5、比較化合物R1〜R2(比較化合物R2は、それぞれE体及びZ体のホモキラリティーが成立している。)
化合物A1〜A5:
【化9】
【0074】
比較化合物R1〜R3:
【化10】
【0075】
[感エネルギー性樹脂組成物の調製]
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却機、窒素ガス導入管を備えた容量5Lのセパラブルフラスコに、それぞれ表1に記載の種類及び量の、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンと、溶剤とを投入した。窒素ガス導入管よりフラスコ内に窒素を導入し、フラスコ内を窒素雰囲気とした。次いで、フラスコの内容物を撹拌しながら、50℃で20時間、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて、ポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液に、化合物A1〜A5及び比較化合物R1〜R3のいずれかを、表1に記載の量で添加し撹拌して、感エネルギー性樹脂組成物を調製した。
【0076】
[ポリイミド膜の調製]
得られた感エネルギー性樹脂組成物を用いて、以下の方法に従って、ポリイミド膜を形成してポリイミド膜の耐熱性、誘電率、及びパターニング特性を評価した。
【0077】
(耐熱性評価)
得られた感エネルギー性樹脂組成物をウエハ基板上に、スピンコーター(ミカサ製、1H−360S)により塗布した。ウエハ基板上の塗膜を180℃で20分間加熱して、膜厚約0.9μmのポリイミド膜を形成した。得られたポリイミド膜から、耐熱性評価用の試料5μgを削り取った。耐熱性評価用のポリイミド樹脂の試料を用いて、示差熱/熱重量測定装置(TG/DTA−6200、セイコーインスツル株式会社製)により、空気気流中、昇温速度10℃/分の条件化で測定を行い、TG曲線を得た。得られたTG曲線から、試料の5%重量減少温度を求めた。5%重量減少温度が350℃以上である場合を良(◎)と判定し、300℃以上350℃未満である場合をやや良(○)と判定し、300℃未満である場合を不良(×)と判定した。耐熱性の評価結果を表1に示す。
【0078】
(誘電率評価)
得られた感エネルギー性樹脂組成物をウエハ基板上に、スピンコーター(ミカサ製、1H−360S)により塗布した。ウエハ基板上の塗膜を180℃で20分間加熱して、膜厚約0.9μmのポリイミド膜を形成した。得られたポリイミド膜を試料として用い、周波数0.1MHzの条件で、誘電率測定装置(SSM−495、日本セミラボ株式会社製)により、ポリイミド樹脂の比誘電率を測定した。比誘電率が3.8以下である場合を良(○)と判定し、3.8超4.2以下である場合をやや不良(△)と判定し、4.2超である場合を不良(×)と判定した。誘電率の評価結果を表1に示す。
【0079】
(パターニング特性)
得られた感エネルギー性樹脂組成物をウエハ基板上に、スピンコーター(ミカサ製、1H−360S)により塗布し、80℃で5分間プリベークして、膜厚3μmの塗膜を形成した。ラインアンドスペースパターンのマスクを用いて、高圧水銀灯により100mJ/cmの条件で露光した。露光された塗膜を、120℃のホットプレート上で5分間加熱した後、現像液(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド2.38質量%水溶液とイソプロパノールを9:1で混合した溶液)に浸漬した。その結果、露光部が現像液に溶解せず残存したパターンを得ることができた。次いで、現像された塗膜を180℃で1時間加熱して、イミド化を行った。イミド化後の塗膜を観察し、以下の基準に従い、パターニング特性を評価した。幅6μmのラインが形成可能であった場合を良(○)と判定し、形成不可であった場合を不良(×)と判定した。パターニング特性の評価結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例1〜5によれば、光及び熱の少なくとも一方の作用により分解して、1分子あたり2分子のイミダゾール化合物を発生する化合物を添加することで、180℃という低温で熱処理した場合であっても、ポリアミック酸を含有する感エネルギー性樹脂組成物から、耐熱性に優れ、誘電率が低く、パターニング特性が良好なポリイミド樹脂が得られることが分かる。実施例1〜5で用いられた化合物A1〜A5は、120〜180℃で分解して塩基を発生する化合物に該当する。
【0082】
比較例1によれば、化合物A1〜A5を添加しない場合、耐熱性はやや良好なものの、誘電率が高くなる傾向にあり、パターニング特性には劣ることが分かる。
【0083】
比較例2及び3によれば、光又は熱の作用により分解してもイミダゾール化合物を発生しない比較化合物R1や、比較化合物R2を用いた場合には、パターニング特性及び耐熱性に劣り、誘電率が高くなる傾向にあることが分かる。
【0084】
比較化合物R3は120〜180℃で分解して塩基を発生する化合物であるものの、化合物1分子あたり2分子以上の塩基性成分を発生する化合物ではなく、イミダゾール化合物も発生しない。
【0085】
比較例4によれば、耐熱性に優れ、誘電率は低いものの、パターニング特性には劣ることが分かる。