特許第6227917号(P6227917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6227917超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227917
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/02 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   H01F6/02
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-151067(P2013-151067)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-23191(P2015-23191A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】玉田 紀治
(72)【発明者】
【氏名】駒込 敏弘
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−248725(JP,A)
【文献】 特開昭52−130298(JP,A)
【文献】 米国特許第5999383(US,A)
【文献】 米国特許第4764837(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/02
H02K 55/00−55/06
H01L 39/02−39/20
H01L 39/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超電導コイル及び第2の超電導コイルに対して直流電源が直列接続されて構成された電気回路と、
前記電気回路に対して並列に接続され、且つ、第1の超電導コイルに対して第1のコンデンサ及び第1の電圧検出部が直列接続されて構成された第1のループ回路と、
前記電気回路に対して並列に接続され、且つ、第2の超電導コイルに対して第2のコンデンサ及び第2の電圧検出部が直列接続されて構成された第2のループ回路と、
前記第1のループ回路及び前記第2のループ回路のうち、前記第1の超電導コイル及び前記第2の超電導コイル間の中点において共有される共通電位線上に設けられた交流信号供給部と
を備える超電導マグネットにおいてクエンチを検出する超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法であって、
前記交流信号供給部から所定周波数を有する交流信号を入力するアクティブ信号入力工程と、
前記第1の電圧検出部の検出値V1及び前記第2の電圧検出部の検出値V2を取得し、その電位差ΔV=V1−V2を求める電位差算出工程と、
前記電位差ΔVが所定の閾値を超えた場合に、前記超電導マグネットのクエンチを検出したと判定する判定工程と
を備え
第1のコンデンサ及び電圧検出部の定数は前記第1のループ回路において共振条件が成立するように設定されており、
第2のコンデンサ及び電圧検出部の定数は前記第2のループ回路において共振条件が成立するように設定されていることを特徴とする超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法。
【請求項2】
第1の超電導コイル及び第2の超電導コイルに対して直流電源が直列接続されて構成された電気回路と、
前記電気回路に対して並列に接続され、且つ、第1の超電導コイルに対して第1のコンデンサ及び第1の電圧検出部が直列接続されて構成された第1のループ回路と、
前記電気回路に対して並列に接続され、且つ、第2の超電導コイルに対して第2のコンデンサ及び第2の電圧検出部が直列接続されて構成された第2のループ回路と、
前記第1のループ回路及び前記第2のループ回路のうち、前記第1の超電導コイル及び前記第2の超電導コイル間の中点において共有される共通電位線上に設けられた交流信号供給部と
を備える超電導マグネットにおいてクエンチを検出する超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法であって、
前記交流信号供給部から所定周波数を有する交流信号を入力するアクティブ信号入力工程と、
前記第1の電圧検出部の検出値V1及び前記第2の電圧検出部の検出値V2を取得し、その電位差ΔV=V1−V2を求める電位差算出工程と、
前記電位差ΔVが所定の閾値を超えた場合に、前記超電導マグネットのクエンチを検出したと判定する判定工程と
を備え、
前記交流信号供給部は、
交流信号源から交流信号が入力される第1のコイルと前記共通電位線に接続された第2のコイルとを含んで構成される変圧器であることを特徴とする超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法。
【請求項3】
前記第1の電圧検出部及び前記第2の電圧検出部は、前記第1のループ回路及び前記第2のループ回路においてそれぞれ直列に接続された抵抗素子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法。
【請求項4】
前記判定工程では、前記電位差ΔVを電気信号として取得し、バンドパスフィルタによって該電気信号のうち前記交流信号の周波数に対応する帯域成分に基づいて判定を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法。
【請求項5】
前記判定工程においてクエンチが検出された場合に、前記直流電源を自動的に遮断する保護工程を備えることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法。
【請求項6】
前記第1の超電導コイル及び前記第2の超電導コイルは、互いに前記中点を介して直列接続されたダブルパンケーキ構造を有することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルに対して直流電源が直列接続されて構成される電気回路を有する超電導マグネットにおいてアクティブ信号である交流信号を入力することによってクエンチを検出する超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機などの電気機器やMRIなどの医療用診断装置のような磁場を利用した機器では、しばしば強力な磁場が必要とされる。一般的に強磁場は例えばサマリウム・コバルト系やネオジム・鉄・ボロン等の永久磁石によって得ることができるが、単体の永久磁石では利用できる最大磁束密度Bは約0.5T程度が限度とされている。より強力な磁場を得る手段として、例えば、永久磁石を組み合わせたハルバッハ磁気回路が知られている。ハルバッハ磁気回路は永久磁石が作る双極子磁場の磁場分布方向に合わせて永久磁石の磁化容易軸を配置してドーナツ状磁気回路を構成することで、ドーナツの中心部分に均一で強磁場を発生させる磁気回路である。図5はハルバッハ磁気回路の構成例であり、中空の筐体30内に複数の永久磁石32を組み合わせて構成しており、最大磁束密度B=1.5(T)を実現している。
【0003】
このようなハルバッハ磁気回路は、磁気を帯びた永久磁石を多数組み合わせることで構成するため、その組み立てに膨大な力を要するため、更に強力な磁場を得ることは困難であるとされている。そこで、より強力な磁場を得る手段として、近年、超電導マグネットが注目されている。超電導マグネットは、極低温状態において電気抵抗値が略ゼロとなる超電導線をコイル状に巻回して構成されており、大電流を流すことで数T以上の強磁場を容易に発生することができる。
【0004】
超電導マグネットは膨大な電流を印加することによって強力な磁場を発生できる。超電導マグネットを運転するにあたり、超電導相が突然破壊されて常電導相に転移すると過熱し、超電導コイルを破壊(焼損)する、いわゆるクエンチ現象が発生する。実際の超電導マグネットの運用では、このようなクエンチ現象の回避が極めて重要である。クエンチ現象が生じる原因は様々であるが、超電導コイル巻線の一部が局部的に動くワイヤー・ムーブメントが原因の一つとして挙げられる。例えば、超電導コイル巻線の一部が何らかの理由によって微小ながら動くと、磁場中における線材移動によって起電力が発生し、発熱が生じる。そして発熱によって温度が超電導線の臨界温度以上に達すると、超電導相が破壊されてクエンチ現象となって観測される。このようなクエンチ現象は、超電導コイル巻線の溶断のような重大な故障事故の原因となるため、早期且つ精度よく検出することが求められている。
【0005】
この種のクエンチ検出方法は様々な手法が検討されているが、その一例として例えば特許文献1がある。特許文献1では超電導コイルを電圧タップを用いて複数区間に区分し、それぞれの電位差を測定することによってクエンチの検出を行う手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−248725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Y系或いはBi系と呼ばれる高温超電導線は、従来の金属超電導線に比べて高い臨界温度Tcを有するため、一般的にクエンチ現象は生じにくいとされている。しかしながら、超電導マグネットではコイル巻線が強磁場に曝されるため、クエンチの発生リスクが比較的高くなる。
【0008】
また高温超電導線は製法上の制約からテープ形状の線材を用いるのが一般的である。このようなテープ形状の高温超電導線をコイル巻線に用いる場合、図6に示すパンケーキ構造が広く採用されている。この例では、外側から内側に向かってパンケーキ状に巻回された第1の超電導コイルL1と、内側から外側に向かってパンケーキ状に巻回された第2の超電導コイルL2とが、内側において連続に電気的に接続された、いわゆるダブルパンケーキ構造を有している。このようなダブルパンケーキ構造は、磁場強度の低い外周部で接続しながら階層を増やすことで、簡易に強力な磁場の発生が可能となるメリットがある。
【0009】
一方で、テープ形状の高温超電導線はその薄さから、略円形断面を有する線材に比べて、熱伝達特性が小さい。そのため、常電導相が生じた場合に、発熱によって溶断のような重大な故障につながりやすいため、より早期に精度のよいクエンチ検出が求められる。
【0010】
本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり、超電導マグネットにおいてクエンチ現象を早期且つ精度よく検出可能な超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法は上記課題を解決するために、第1の超電導コイル及び第2の超電導コイルに対して直流電源が直列接続されて構成された電気回路と、前記電気回路に対して並列に接続され、且つ、第1の超電導コイルに対して第1のコンデンサ及び第1の電圧検出部が直列接続されて構成された第1のループ回路と、前記電気回路に対して並列に接続され、且つ、第2の超電導コイルに対して第2のコンデンサ及び第2の電圧検出部が直列接続されて構成された第2のループ回路と、前記第1のループ回路及び前記第2のループ回路のうち、前記第1の超電導コイル及び前記第2の超電導コイル間の中点において共有される共通電位線上に設けられた交流信号供給部とを備える超電導マグネットにおいてクエンチを検出する超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法であって、前記交流信号供給部から所定周波数を有する交流信号を入力するアクティブ信号入力工程と、前記第1の電圧検出部の検出値V1及び前記第2の電圧検出部の検出値V2を取得し、その電位差ΔV=V1−V2を求める電位差算出工程と、前記電位差ΔVが所定の閾値を超えた場合に、前記超電導マグネットのクエンチを検出したと判定する判定工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、直流電源が設けられた直流電気回路とは独立に解析可能な交流回路である同等の第1のループ回路及び第2のループ回路を設け、それぞれのループ回路における電位差に基づいて、クエンチに密接な関連性がある磁束フロー抵抗等で発生した微小抵抗値を求めることによりクエンチを検出することができる。
【0013】
本発明の一態様では、第1のコンデンサ及び電圧検出部の定数は前記第1のループ回路において共振条件が成立するように設定されており、第2のコンデンサ及び電圧検出部の定数は前記第2のループ回路において共振条件が成立するように設定されているとよい。
この態様によれば、各ループ回路を共振回路になるように構成することで、近似計算を用いた磁束フロー抵抗等で発生した微小抵抗値の演算上精度を高めることができる。その結果、クエンチを高精度で検出可能とすることができる。
【0014】
また、前記第1の電圧検出部及び前記第2の検圧検出部は、前記第1のループ回路及び前記第2のループ回路においてそれぞれ直列に接続された抵抗素子であってもよい。
この態様によれば、抵抗素子の両端電位を測定することにより、簡易な構成で各ループ回路における電圧降下を直接電圧検出することができる。
【0015】
尚、上記のループ回路の電流検出方法として電流トランスを用いた態様も考えられる。例えば、前記第1の電圧検出部及び前記第2の検圧検出部は、第1のループ回路を流れる電流を検出する第1の電流トランスと、第2のループ回路を流れる電流を検出する第2の電流トランスと、前記第1の電流トランス及び前記第2の電流トランスの検出値を対応する電圧値に変換して前記電位差ΔVを求めるようにしてもよい。
尚、この態様のように電流検知を行う場合でも、共振状態では無限大の高周波電流が流れることを防止するために、交流電流を制限する抵抗が必要である。
【0016】
本発明の他の態様では、前記判定工程では、前記電位差ΔVを電気信号として取得し、バンドパスフィルタによって該電気信号のうち前記交流信号の周波数に対応する帯域成分に基づいて判定を行ってもよい。
この態様によれば、磁束フロー抵抗等の微小抵抗の算出に用いられる電位差に含まれるノイズ成分を、バンドパスフィルタによって除去することができる。この態様では特に、交流信号のキャリア周波数帯域以外の成分をバンドパスフィルタによって除去することで、直流電源や外部の影響によるノイズを排除し、精度よくクエンチを検出することができる。
【0017】
この場合、前記判定工程では、前記バンドパスフィルタの出力信号を増幅する増幅器の出力に基づいて判定を行ってもよい。
この態様によれば、バンドパスフィルタによって余分なノイズが除去されているため増幅した場合でも必要な信号がノイズに埋もれることなく、大きな信号として取り出すことができるので、より高精度にクエンチを検出することができる。
【0018】
また、前記交流信号供給部は、交流信号源から交流信号が入力される第1のコイルと前記共通電位線に接続された第2のコイルとを含んで構成される変圧器であってもよい。
この態様によれば、交流信号の入力の際に変圧器を介することによって、非接触な信号入力が可能となり、よりノイズの少ないクエンチ検出が可能となる。
【0019】
また、前記検出工程においてクエンチが検出された場合に、前記電気回路を自動的に遮断する保護工程を備えてもよい。
この態様によれば、磁束フロー抵抗等で発生した微小抵抗の増加によってクエンチが生じるおそれがあると判断された場合には、自動的に電気回路を遮断することによって(例えば保護回路などを組み込むとよい)、重大な故障事故につながるリスクを早期に回避することができる。
【0020】
また、前記第1の超電導コイル及び前記第2の超電導コイルは、互いに前記中点を介して直列接続されたダブルパンケーキ構造を有してもよい。
この態様では、ダブルパンケーキ構造は図6を参照して上述したようにパンケーキ状に巻回されたコイル内側に構造上、中点を設けやすいため、本発明に係るアクティブ・クエンチ検出方法で用いられる回路構成を容易に組み込むことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、直流電源が設けられた直流電気回路とは独立に解析可能な交流回路である同等の第1のループ回路及び第2のループ回路を設け、それぞれのループ回路における電位差に基づいて、クエンチに密接な関連性がある磁束フロー抵抗を求めることによりクエンチを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】YBCO高温超電導線の外部磁場ゼロにおける電流・電圧特性を示すグラフである。
図2】超電導体における磁束フロー抵抗の発生原理を示す模式図である。
図3】参考技術に係るクエンチ検出装置の全体構成を示す概略図である。
図4】本実施例に係るクエンチ検出装置の全体構成を示す概略図である。
図5】ハルバッハ磁気回路の構成例である。
図6】パンケーキ構造を有する超電導コイルの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りはこの発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0024】
本実施例では、高温超電導材料であるYBCO高温超電導体を線材とする超電導線を巻回してなる超電導コイルL1及びL2をクエンチの検出対象とした場合について説明する。図1は超電導コイルL1及びL2を構成するYBCO高温超電導線の外部磁場ゼロ(自己磁場特性)における電流電圧特性(VI)を示すグラフである。この例では、SuperPower社の長さ500cm、線幅12mmのYBCO高温超電導線を用いており、横軸は電流(A)、縦軸は電圧(V)を示している。
図1に示すように、超電導コイルL1及びL2に流す直流電流を0Aから臨界電流Ic(≒400A)に向かって増加していくと、約200Aを超えた近傍から電圧が上昇し始め約350Aから急激な電圧上昇が確認できた。この電圧は超電導線内の磁束が動いた事により発生する電圧であり、クエンチ現象の前兆現象として磁束フロー抵抗の増加が生じている事を示している。
【0025】
図2は超電導体における磁束フロー抵抗の発生原理を示す模式図である。ここでは、超電導体1に磁場Bが印加されており、該超電導体1に侵入した磁場は磁束2として存在することとなる。磁束2は、超電導体1に流れる電流が微小である場合には、超電導体1に存在する欠陥等にピン止めされる。一方、超電導体1に大きな電流Iを流すと、ピン止めされている磁束2は図2に示すように、電流I及び磁場Bに対して直交方向にローレンツ力Fを受ける。電流Iの大きさを更に増やしていくと、ローレンツ力Fもまた増加し、ある閾値を超えるタイミングで磁束2はピン止めを外れて移動し始める。このとき、磁束フローによって電圧ΔEが発生し、等価的にr=ΔE/I(電流は通電電流)の磁束フロー抵抗が発生することとなり、当該磁束フロー抵抗によって超電導体1ではq=rIの発熱が生じる。
このとき、超電導コイルの冷却が不十分であると、この発生熱によって超電導線は等価抵抗の増大を招き、最終的には超電導マグネットのクエンチ現象として観測される。
【0026】
超電導コイルにおける磁束フロー抵抗は、原理的には、単純に超電導コイルの両端電圧を検出することによって測定すればよい。しかしながら、実際の超電導マグネットでは、駆動用の直流電源や外部からのノイズが存在するため、微小な磁束フロー抵抗に起因する電圧信号が埋もれてしまい、クエンチ検出が難しいという問題がある。
また、超電導マグネットのクエンチは電源電流を増加させている最中に発生することが多い。このとき、超電導コイルの両端には、超電導コイルのインダクタンスをLとし、該超電導コイルに直流電源から供給される電流をi(t)とすると、超電導コイルの両端には磁束フロー抵抗の他に、
の電圧が生じることとなる。この電圧は数Vであるため、数〜数10μV程度の磁束フロー電圧を分離して検出することは難しい。
【0027】
本発明に係る超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法は、このような問題点を解決することを目的としている。本実施例ではアクティブ・クエンチ検出方法を実施するための検出装置10について詳しく後述するが、ここではまず図3を参照して、本発明に至る前提となった参考技術について説明する。図3は参考技術に係るクエンチ検出装置10´の全体構成を示す概略図である。
【0028】
(参考技術)
参考技術に係るクエンチ検出装置10´の検出対象である超電導マグネットは、パンケーキ構造を有する超電導コイルL1及びL2を直列接続してダブルパンケーキ型として構成されており(図6を参照)、該超電導コイルL1及びL2は互いに同等のインダクタンスを有するものが用いられている。超電導コイルL1及びL2には、商用電源で動作可能な直流電源3が直列接続されてなる電気回路4が形成されており、図3では電気回路4を流れる直流電流をIdcで示している。直流電流Idcの大きさは、超電導コイルL1及びL2で発生する磁場の大きさに応じて、不図示の電源コントローラによって制御される。
【0029】
電気回路4から超電導コイルに電流を流し、電流を増加させると、超電導コイルにはインダクタンスによる電圧VLと磁束フロー等で発生した抵抗rによる電圧Vrが合計電圧Ecとして現われる。

【0030】
また電気回路4には超電導コイルL1及びL2の一端側にノイズ補償コイルL0(常電導線から構成されたコイル)が設けられている。コイルL0は常電導線なので有限抵抗rnを有し、電流の増加の際には、超電導コイルと同様にコイルL0にはインダクタンス電圧VL0と有限抵抗電圧Vrnの合計電圧E0として現われる。

【0031】
差動増幅器6において、補償コイルL0からの電圧を増幅ゲインAoの増幅器7で増幅し、超電導コイルの電圧も増幅ゲインAcの増幅器8で増幅して、これらの電圧を差し引くと、次式で示す電圧が差動増幅器6の出力として現われる。

ここでL1、L2、L0は既知量なので、微分項dIdc/dtの係数をゼロになるように差動増幅器6の増幅率A0、Acを調整する事が出来る。従って、差動増幅器6の出力は電流Idc に比例した電圧
となる。補償コイルL0の線抵抗も事前に調べることができ既知量になるので、最終的に差動増幅器6の出力ΔVは超電導コイルの磁束フロー等で発生した抵抗rに比例した値となる。このようにして、超電導コイル内に発生する磁束フロー等の微小抵抗rを検出する事ができる。
【0032】
このように参考技術に係るクエンチ検出装置10´では、ある程度の精度でクエンチの発生の有無が可能である。しかしながら、L1、L2、L0及びrnが正確に事前に求めていないと超電導コイル内に発生する磁束フロー等の微小抵抗rを検出する事ができない。さらに常電導線で構成された補償コイルL0に大電流を流すので、膨大な発熱があり、超電導コイルを使用するメリットが損なわれてしまうため、実現性が極めて乏しい。
以下に説明する実施例では、このような参考技術の課題を解決することが可能となる。
【0033】
図4は本実施例に係るクエンチ検出装置10の全体構成を示す概略図である。尚、以下の説明では前述の説明と共通する箇所には同じ符号を付すこととし、重複する説明は適宜省略する。
【0034】
クエンチ検出装置10は、超電導コイルL1及びL2に対して直流電源3が直列接続されて構成された電気回路4を有する超電導マグネットを検出対象としている。該電気回路4には、交流回路である第1のループ回路11及び第2のループ回路12がそれぞれ並列に設けられている。特に、第1のループ回路11及び前記第2のループ回路12は、ダブルパンケーキ構造を有する超電導コイルL1及びL2間の中点13において共通電位線14が共有されるように構成されている。
【0035】
第1のループ回路11にはコンデンサC1及び抵抗R1が直列接続されており、第2のループ回路12にはコンデンサC2及び抵抗R2が直列接続されている。コンデンサC1及びC2、並びに、抵抗R1及びR2は互いに同じ素子が用いられており、第1のループ回路11と第2のループ回路12が等価になるように構成されている。
【0036】
共通電位線14上には変圧器16が設けられており、該変圧器16を介して信号発生源15で生成された一定振幅を有する正弦波交流信号が入力される。変圧器16は信号発生源15に接続された第1のコイル16aと、共通電位線14に接続された第2のコイル16bとを含んで構成されており、交流信号を第1のループ回路11及び第2のループ回路12に入力するインターフェイスとして機能する。本実施例では、このように交流信号の入力インターフェイスとして変圧器16を用いることで、非接触な信号入力が可能となり、よりノイズの少ないクエンチ検出が可能となる。
【0037】
ここで、交流回路である第1のループ回路11及び第2のループ回路12はそれぞれコンデンサC1及びC2を有しているため、電気回路4を流れる直流電流Idcは第1のループ回路11及び第2のループ回路12を流れることなく、電気回路4のみを循環する。
一方、第1のループ回路11及び第2のループ回路12にそれぞれ含まれる素子(抵抗R1及びR2、並びに、コンデンサC1及びC2)は等しくなるように設定されているため、超電導コイルL1及びL2の両端電圧は互いに等電位となる。そのため、第1のループ回路11及び第2のループ回路12に供給される交流信号は、電気回路4に流れることなく、第1のループ回路11及び第2のループ回路12をそれぞれ循環することとなる。
このように検出装置10が有する検出回路では、直流回路と交流回路は互いに独立して解析可能に構成されている。
【0038】
抵抗R1及びR2における電圧降下は電圧信号V1及びV2として取り出され、差動アンプ6に入力される。差動アンプ6は、電圧信号V1及びV2の差分ΔVを出力する。これにより、超電導コイルL1及びL2のいずれかでクエンチ現象に伴う磁束フロー抵抗の増加が生じた場合には、ΔVとして検出される。
【0039】
差動アンプ6の出力ΔVは、交流信号が有する周波数f=f0に対応する帯域を有するバンドパスフィルタ18に入力される。差動アンプ6からの入力信号には様々な周波数ノイズが含まれているため、バンドパスフィルタ18によって交流信号が有する周波数(キャリア周波数)を抽出することで、余分なノイズを除去することができる。特に超電導マグネットL1及びL2の駆動用電源である直流電源3は大きな電圧ノイズを発生することが多いため、微小な磁束フロー電圧はノイズに埋もれがちである。そこで、本実施例ではバンドパスフィルタ18によって検出信号に含まれるノイズを除去することで、精度のよいクエンチ検出が可能となっている。
【0040】
バンドパスフィルタ18の出力信号は、磁束フロー抵抗の演算を行う検出部19に入力される。 ここで共通電位線14に供給される交流信号を、振幅e0、周波数f(各周波数ω=2πf)の連続な正弦波とする。そして、第1のループ回路11及び第2のループ回路12を流れる交流電流をそれぞれi(t)及びi(t)とすると、以下の交流方程式が得られる。
ここでrは超電導コイルL1あるいはL2で発生した磁束フロー抵抗を示しており(尚、図4では超電導コイルL2側に磁束フロー抵抗rが生じた場合を例示している)、変圧器16のインピーダンスは十分に小さく無視できると仮定する。また、Mは超電導コイルL1及びL2間の相互インダクタンスであり、磁気結合係数Kを用いて
と表わされる。
【0041】
(4)式をフーリエ変換すると、次式が得られる。
(5)式に示す連立方程式を解くことにより、第1のループ回路及び第2のループ回路を流れる交流電流I及びIが得られる。
【0042】
ここで第1のループ回路11及び第2のループ回路12が共振状態にあると仮定すると、
が成立する。この場合、抵抗R及びRにおける電圧降下V及びVは、次式により求められる。
【0043】
ここで、磁束フロー抵抗rは微小であることから
と仮定すると、(5)式の分母はrを無視して
と近似できるので、差動アンプ6の出力ΔVは次式により求められる。
【0044】
(7)式によれば、差動アンプ6の出力ΔVは磁束フロー抵抗rに比例することが示されている。また、E0は交流信号の振幅であることから、ΔVもまた交流信号となる。このように本実施例は磁束フロー抵抗を交流信号として得られるため、増幅器で増幅した場合でも、増幅器のドリフトの影響を受けることなく増幅することができる。
【0045】
ところで、直流電源3や外部からのノイズは、互いに等価である第1のループ回路11及び第2のループ回路12に対して同時・同相で印加されると考えられるため、これらのノイズは時間的に相殺される。また、上述したようにΔVはバンドパスフィルタ18でキャリア周波数を抽出して解析されるため、微小な磁束フロー抵抗rを精度よく検出できる。
【0046】
検出部19では、このように求めた磁束フロー抵抗rが所定の閾値r1より大きいか否かに基づいて、超電導コイルL1及びL2におけるクエンチの有無を判定する。閾値r1はクエンチの発生を示唆する磁束フロー抵抗として設定され、例えば図1に示すV-I特性を予め実験的に求めて選択するとよい。
【0047】
そして検出部19は磁束フロー抵抗rが閾値r1を越えた場合(r>r1)、DC電源3に設けられた保護回路20を作動させることにより、超電導マグネットの運転を中断させ保護を図る。このとき、超電導コイルL1及びL2への供給電力を急激に遮断すると、電磁誘導作用によって大きな逆起電力が生ずるため、時間的に次第に減衰させるように制御するとよい。
【0048】
続いて、上述のクエンチ検出装置10を用いて超電導マグネットの応用例であるSMES( Superconducting Magnet Energy Storage)に本発明を適用した場合について、具体的に検証する。ここではSMESのエネルギーを例えば実験室規模のE=1000(J)とし、超電導コイルL1及びL2に流れる直流電流Idcを400(A)とする。この場合、インダクタンスの計算式
に基づいて、超電導コイルL1及びL2の総インダクタンスLは12.5(mH)となり、それぞれのインダクタンスL1及びL2は6.25(mH)となる。また磁気結合係数をK=1とすると、相互インダクタンスは

となる。
【0049】
また信号発生源15から出力される交流信号として、商用電源で作動する直流電源3からのノイズによる影響を減らすために、周波数f=42.414(Hz)を選択するとよい。この場合、第1のループ回路11及び第2のループ回路12における共振条件
を成立させるために、コンデンサC1及びC2は、それぞれ0.088(μF)とする。また抵抗R1及びR2は10(Ω)とし、交流信号の振幅をE0=1(V)とした場合、磁気フロー抵抗rとして100(nΩ)が超電導コイルL2に発生したと仮定すると、(6)式により、ΔVは約10(nV)の交流電圧として検出される。ΔVは差分電圧なので超電導コイルL1及びL2に対して同位相で入り込んだノイズは互いに相殺される。一方で、不平衡なノイズは相殺することができないが、バンドパスフィルタ18を介して検出部19に取り込むことで、キャリア周波数以外をカットすることができる。またΔVは交流信号であるので増幅器で増幅させたとしても、増幅器のドリフトによる影響を回避することができ、良好な精度でクエンチを検出できる。
例えばΔVを10000倍に増幅することで、磁束フロー抵抗r=100(nΩ)を0.1(mV)の検出信号として得ることができるので、一般的なデジタルボルトメータでも測定が可能となり、コストを抑えることができる。
【0050】
また検出部19におけるクエンチ検出の閾値r1は数μΩ程度に設定するとよい。仮に閾値r1を1(μΩ)と設定した場合、上述したように直流電流が400(A)であることから、超電導コイルL2において
の発熱が発生すると、保護回路20を作動するように制御する。
【0051】
以上説明したように、本実施例に係る検出装置10では、直流電源3が設けられた直流電気回路4とは独立に解析可能な交流回路である同等の第1のループ回路11及び第2のループ回路12を設け、それぞれのループ回路における電位差に基づいて、クエンチに密接な関連性がある磁束フロー抵抗を求めることによりクエンチを検出することができる。
【0052】
尚、本実施例に係る検出装置10では交流信号が超電導コイルL1及びL2に流れるため、超電導体に特有な交流損失にも留意する必要がある。交流損失は1サイクルあたりのエネルギー損失として表すことができる。例えば超電導ハンドブック(電気学会出版)によれば、交流損失P/fは交流信号Iacの振幅をIm、超電導コイルL1及びL2を構成する超電導線の臨界電流密度をJc、試料の領域をaとすると、次式で得られる。
例えば、超電導線の線臨界電流密度をJc=10(MA/m)程度とし、超電導線幅をa=4(mm)とする。本実施例では、交流電流の振幅Im=100(mA)であるから、超電導線で発生する交流損失は10−5(W/m)程度である。超電導コイルに使用される超電導線の全長が500(m)であるとすると、超電導マグネット全体での交流損失は5(mW)であり、無視できる程小さな値となる。
尚、更に交流損失を小さく抑えたい場合には、交流電源の電圧を更に下げればよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、超電導コイルに対して直流電源が直列接続されて構成される電気回路を有する超電導マグネットにおいてクエンチを検出する超電導マグネットのアクティブ・クエンチ検出方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
3 直流電源
4 電気回路
6 差動アンプ
11 第1のループ回路
12 第2のループ回路
13 中点
15 信号発生源
16 変圧器
18 バンドパスフィルタ
19 検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6