特許第6228086号(P6228086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228086
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】生体信号取得装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/04 20060101AFI20171030BHJP
   A61B 5/0408 20060101ALI20171030BHJP
   A61B 5/0428 20060101ALI20171030BHJP
   A61B 5/05 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   A61B5/04ZDM
   A61B5/04 300K
   A61B5/04 310B
   A61B5/05 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-173754(P2014-173754)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-47194(P2016-47194A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2016年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】小野 一善
(72)【発明者】
【氏名】高河原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塚田 信吾
(72)【発明者】
【氏名】川野 龍介
(72)【発明者】
【氏名】石原 隆子
(72)【発明者】
【氏名】河西 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】小泉 弘
(72)【発明者】
【氏名】住友 弘二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康博
【審査官】 永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3177243(JP,U)
【文献】 実開昭55−019607(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0283061(US,A1)
【文献】 特開2007−056411(JP,A)
【文献】 特表2008−523254(JP,A)
【文献】 特表2009−518057(JP,A)
【文献】 特開2009−106674(JP,A)
【文献】 特開平10−234689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/04 − 5/0472
A61B 5/05 − 5/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性、保湿性を有する基材と、この基材の生体と接触する面に配置された導電性材料からなる電極部と、前記基材に配置され、前記電極部と接触している生体の皮膚表面を加熱するために光蓄熱機能を有する材料からなるヒーター部とを備えた生体信号取得電極から、生体信号を取得する生体信号取得装置であって、
前記電極部が検出した生体信号を取得する生体信号測定手段と、
前記電極部と生体との間の接触インピーダンスを測定するインピーダンス測定手段とを備え、
前記生体信号測定手段は、前記インピーダンス測定手段が測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上の場合に、前記生体信号の測定を規定時間中止し、
さらに、前記生体信号の測定を中止した回数が規定回数以上の場合に、前記生体信号の測定が行えなかったことをユーザーに通知するエラー通知手段を備えることを特徴とする生体信号取得装置。
【請求項2】
請求項記載の生体信号取得装置において、
前記生体信号取得電極は、さらに、前記基材の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の温度を測定する温度センサと、前記基材の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の保湿具合を測定する水分センサとを備え、
前記生体信号測定手段は、前記インピーダンス測定手段が測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上、前記温度センサが測定した温度が所定の温度規定値以上、前記水分センサが測定した保湿具合を示す値が所定の保湿具合規定値未満の3つの条件のうち少なくとも1つが成立する場合に、前記生体信号の測定を規定時間中止することを特徴とする生体信号取得装置。
【請求項3】
絶縁性、保湿性を有する基材と、この基材の生体と接触する面に配置された導電性材料からなる電極部と、前記基材に配置され、前記電極部と接触している生体の皮膚表面を加熱するために光蓄熱機能を有する材料からなるヒーター部とを備えた生体信号取得電極から、生体信号を取得する生体信号取得方法であって、
前記電極部が検出した生体信号を取得する生体信号測定ステップと、
前記電極部と生体との間の接触インピーダンスを測定するインピーダンス測定ステップとを含み、
前記生体信号測定ステップは、前記インピーダンス測定ステップで測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上の場合に、前記生体信号の測定を規定時間中止し、
さらに、前記生体信号の測定を中止した回数が規定回数以上の場合に、前記生体信号の測定が行えなかったことをユーザーに通知するエラー通知ステップを含むことを特徴とする生体信号取得方法。
【請求項4】
請求項記載の生体信号取得方法において、
前記生体信号取得電極は、さらに、前記基材の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の温度を測定する温度センサと、前記基材の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の保湿具合を測定する水分センサとを備え、
前記生体信号測定ステップは、前記インピーダンス測定ステップで測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上、前記温度センサが測定した温度が所定の温度規定値以上、前記水分センサが測定した保湿具合を示す値が所定の保湿具合規定値未満の3つの条件のうち少なくとも1つが成立する場合に、前記生体信号の測定を規定時間中止することを特徴とする生体信号取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍や心電などの生体信号を測定するために用いられる体表面装着型の生体信号取得電極を用いて生体信号を取得する生体信号取得装置および生体信号取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳波、事象関連電位、誘発電位、筋電図、心電図等の生体電気信号の記録のために、体表面装着型の生体電極が広く使用されている。以下、体表面装着型の生体電極を単に生体電極と呼ぶ。これらの生体電極では、電極と皮膚との接触インピーダンスを下げることが信号を検出する上で重要となる。
【0003】
従来広く使用されている生体電極は、金属製の電極板と電解質溶液を含むゲルまたはペーストとから構成される。これらの生体電極の基本構造は、金属製の電極板と皮膚表面との間にゲル又はペーストを使用(塗布)することにより、電極板と皮膚表面とを固定する基本構造を有する。すなわち、電解成分を介すことで、電極と皮膚表面との接触インピーダンスを低下させる手法が一般的にとられている(非特許文献1参照)。
【0004】
生体電気信号を記録する別の手段として、スポーツ分野などにおいて、水道水などの水分を銀糸などのテキスタイル電極に染みこませ、生体電気信号を取得する手法も広く採用されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“ディスポ電極Nビトロード N−03IS3”,日本光電工業株式会社,<http://www.nihonkohden.co.jp/iryo/products/supplies/01_electrode/n03is3_n03js3.html>
【非特許文献2】“Polar WearLink + transmitter with Bluetooth”,Polar社,<http://www.polar.com/en/products/accessories/Polar_WearLink_transmitter_with_Bluetooth>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医療をはじめ、ヘルスプロモーション(人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス)やインフォメーションテクノロジー、ウエアラブルコンピューターなどの幅広い分野から、長時間の連続使用が可能な体表面装着型の生体電極が求められている。しかしながら、上述したようなゲルの生体電極を用いた場合、生体電極の装着によって、常時皮膚の表面が密閉されるため、特に長期間の連続使用においては、発汗の蒸れによる不快感又は掻痒感が生じるという課題があった。また上述したような銀糸テキスタイル電極を用いた場合、時間の経過とともに水分が蒸発することで長時間の測定が困難であるという課題があった。また、電極と皮膚表面との接触インピーダンスが上昇していて生体信号の測定に適していない状態になっていたとしてもユーザーが認識できないという課題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑み、長時間にわたり生体信号を取得可能な生体信号取得装置および生体信号取得方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、生体信号の測定状態をユーザーに通知することができる生体信号取得装置および生体信号取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
また、本発明は、絶縁性、保湿性を有する基材と、この基材の生体と接触する面に配置された導電性材料からなる電極部と、前記基材に配置され、前記電極部と接触している生体の皮膚表面を加熱するために光蓄熱機能を有する材料からなるヒーター部とを備えた生体信号取得電極から、生体信号を取得する生体信号取得装置であって、前記電極部が検出した生体信号を取得する生体信号測定手段と、前記電極部と生体との間の接触インピーダンスを測定するインピーダンス測定手段とを備え、前記生体信号測定手段は、前記インピーダンス測定手段が測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上の場合に、前記生体信号の測定を規定時間中止し、さらに、前記生体信号の測定を中止した回数が規定回数以上の場合に、前記生体信号の測定が行えなかったことをユーザーに通知するエラー通知手段を備えることを特徴とするものである。
また、本発明の生体信号取得装置の1構成例において、前記生体信号取得電極は、さらに、前記基材の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の温度を測定する温度センサと、前記基材の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の保湿具合を測定する水分センサとを備え、前記生体信号測定手段は、前記インピーダンス測定手段が測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上、前記温度センサが測定した温度が所定の温度規定値以上、前記水分センサが測定した保湿具合を示す値が所定の保湿具合規定値未満の3つの条件のうち少なくとも1つが成立する場合に、前記生体信号の測定を規定時間中止することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明は、絶縁性、保湿性を有する基材と、この基材の生体と接触する面に配置された導電性材料からなる電極部と、前記基材に配置され、前記電極部と接触している生体の皮膚表面を加熱するために光蓄熱機能を有する材料からなるヒーター部とを備えた生体信号取得電極から、生体信号を取得する生体信号取得方法であって、前記電極部が検出した生体信号を取得する生体信号測定ステップと、前記電極部と生体との間の接触インピーダンスを測定するインピーダンス測定ステップとを含み、前記生体信号測定ステップは、前記インピーダンス測定ステップで測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上の場合に、前記生体信号の測定を規定時間中止し、さらに、前記生体信号の測定を中止した回数が規定回数以上の場合に、前記生体信号の測定が行えなかったことをユーザーに通知するエラー通知ステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の生体信号取得方法の1構成例において、前記生体信号取得電極は、さらに、前記基材の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の温度を測定する温度センサと、前記基材の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の保湿具合を測定する水分センサとを備え、前記生体信号測定ステップは、前記インピーダンス測定ステップで測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上、前記温度センサが測定した温度が所定の温度規定値以上、前記水分センサが測定した保湿具合を示す値が所定の保湿具合規定値未満の3つの条件のうち少なくとも1つが成立する場合に、前記生体信号の測定を規定時間中止することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体信号取得電極のヒーター部によって生体の皮膚表面の加熱が可能である。ヒーター部が発熱すると、生体の皮膚表面が温められ、発汗が生じる。この汗により電極部に含浸されている保湿成分を補給することができ、電解質が基材と皮膚との間で適度な湿気を保持する役割を果たす。本発明では、電極部の乾燥を防止することが可能となり、電極部に保湿剤や導電性液体を補充することなく、長期間にわたり生体信号の取得が可能となる。
【0012】
また、本発明では、さらに、生体の皮膚表面の温度を測定する温度センサと、生体の皮膚表面の保湿具合を測定する水分センサとを生体信号取得電極に設けることにより、生体の皮膚表面の温度と保湿具合をモニタリングすることが可能になる。
【0013】
また、本発明では、生体信号取得装置に生体信号測定手段とインピーダンス測定手段とを設け、電極部と生体との間の接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上の場合に、生体信号の測定を規定時間中止し、生体信号の測定を中止した回数が規定回数以上の場合に、生体信号の測定が行えなかったことをユーザーに通知することにより、接触インピーダンスをモニタリングしつつ長期間にわたって生体信号の取得が可能となり、また生体信号の測定状態をユーザーに伝えることができる。
【0014】
また、本発明では、インピーダンス測定手段が測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上、温度センサが測定した温度が所定の温度規定値以上、水分センサが測定した保湿具合を示す値が所定の保湿具合規定値未満の3つの条件のうち少なくとも1つが成立する場合に、生体信号の測定を規定時間中止し、生体信号の測定を中止した回数が規定回数以上の場合に、生体信号の測定が行えなかったことをユーザーに通知することにより、接触インピーダンスだけでなく、生体の皮膚表面の温度と保湿具合とをモニタリングしつつ長期間にわたって生体信号の取得が可能となり、また生体信号の測定状態をユーザーに伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る生体信号取得装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施の形態に係る生体信号取得装置を人体に装着した様子を示す模式図である。
図3】本発明の実施の形態に係る生体信号取得装置の制御部の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施の形態に係る生体信号取得装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明するが、本発明はかかる実施の形態に限定されない。以下、本発明の具体例を実施の形態として説明する。
【0017】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る生体信号取得装置の構成を示す模式図である。生体信号取得装置は、生体信号取得電極1と、生体信号取得電極1が検出した生体信号を取得する制御部2と、生体信号取得電極1と制御部2とを接続する配線3(3−1〜3−3)とから構成される。
【0018】
生体信号取得電極1は、絶縁性、保湿性を有する繊維または布からなるシート状の基材10と、基材10の生体と接触する面に配置された導電性材料からなる電極部11と、基材10の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の温度を測定する温度センサ12と、基材10の生体と接触する面に配置され、生体の皮膚表面の保湿具合を測定する水分センサ13と、基材10の生体と接触する面と反対側の面に配置され、電極部11と接触している生体の皮膚表面を加熱するために光蓄熱機能を有する材料からなるシート状のヒーター部14とから構成される。
【0019】
生体信号取得電極1は、人やその他動物などの生体から得られる電気信号(以下、生体信号)を測定するための電極であるが、以下の説明では人の心拍や心電を測定するための構成について説明する。生体信号を取得する例として、生体信号取得電極1を人体の脇下に相当する位置に取り付けた場合について説明するが、脇下以外の部位や人以外の動物に用いる場合でも、以下の説明と同様にすることで実現可能である。
【0020】
図2に示す例では、生体信号取得電極1と制御部2と配線3とを例えばシャツ等の衣類4に縫い付けたり接着したりすることで、生体信号取得装置が衣類4に固定されている。生体信号取得電極1は、衣類4の人体と接触する側に、例えば人体の脇下の皮膚表面と電極部11とが接触するように設けられている。ヒーター部14は、電極部11と温度センサ12と水分センサ13とに同様な加熱を実施するため、これら3つをすべて包含するような形態で配置される。
【0021】
電極部11およびセンサ12,13と、ヒーター部14とを電気的に絶縁するため、電極部11およびセンサ12,13と、ヒーター部14との間に絶縁性を有する基材10を設けてある。また、基材10は、ヒーター部14による加熱によって発汗した皮膚表面の湿気を電極部11およびセンサ12,13に対して均一に保つ役割も担う。
【0022】
電極部11は、高い保水性を有し、皮膚炎や掻痒感等の違和感を生じる可能性が少ない導電性材料からなることが好ましい。具体的には、電極部11の材料として、国際公開WO2013/073673に開示された(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)等の導電性高分子材料が使用される。
【0023】
本実施の形態の電極部11は、例えば接着性材料であるバインダー樹脂およびバインダー樹脂を構成する重合性化合物(モノマー)の少なくとも一方と、導電フィラーである導電性高分子とを混合した樹脂組成物、またはこれらに必要に応じて溶剤を添加した樹脂組成物を、基材10に塗布、印刷、浸漬、噴霧、滴下等することにより付着させ、更に、乾燥、加温、加熱、光照射等により樹脂組成物を固化または重合させたものである。バインダー樹脂の種類は特に制限されず、導電性高分子の導電性を失活させることなく、基材10に導電性高分子を接着(結着)させることが可能なバインダー樹脂であれば、従来公知のバインダー樹脂が適用可能である。
【0024】
電極部11の寸法は、生体信号を検出することができる寸法であればよく、任意に設定可能である。電極部11の材料として導電性高分子材料を用い、電極部11に生体親和性の高いグリセロールや化粧水などの保湿成分を塗布または浸漬させると、この保湿成分と人の皮膚から滲み出る汗に含まれる電解質成分とにより、電極部11と皮膚との接触インピーダンスを低下させることができ、生体信号を安定に(低ノイズに)取得することが可能となる。
【0025】
電極部11は、配線3−1を介して制御部2と電気的に接続されている。電極部11で受信した生体信号は、配線3−1を介して制御部2に送信される。電極部11と配線3−1との接続は、電極部11の端子(不図示)を介して行われる。端子は、少なくとも一部が電極部11と電気的に接続されていればよく、端子の電極部11への固定方法としては例えば接着などの方法、あるいは金属製スナップからなる端子を電極部11に装着するなどの方法を採用することができる。
【0026】
なお、本実施の形態では、電極部11を基材10に直接付着させる作製方法の例で説明しているが、これに限るものではなく、例えば基材10と同様の絶縁性を有する繊維または布に電極部11を付着させた上で、この繊維または布の電極部11が形成されていない面を基材10に固定するようにしてもよい。繊維または布の基材10への固定方法としては粘着シールまたは接着などの方法を採用することができる。
【0027】
温度センサ12は、生体(人体)の皮膚表面の温度を測定することが可能な素子であり、例えば温度センサ12として、文献「“シートカップル CO60”,株式会社チノー,<http://www.chino.co.jp/products/sensors/c060.html>」に記載されたような熱電対を利用することができる。温度センサ12の基材10への固定方法としては粘着シールまたは接着などの方法を採用することができる。温度センサ12は、配線3−2を介して制御部2と電気的に接続されている。温度センサ12が測定した温度を示す信号(熱電対の場合は起電力)は、配線3−2を介して制御部2に送信される。
【0028】
水分センサ13は、生体の皮膚表面の保湿具合を測定することが可能な素子であり、例えば水分センサ13として、文献「“モイスチャーチェッカー MY808S”,Scalar社,<http://www.ureruzo.com/pdf/my-808s.pdf>」に記載されたような機器を利用することができる。皮膚表面の保湿具合を示す値としては、例えば水分率、水分量、湿度などがある。水分センサ13の基材10への固定方法としては粘着シールまたは接着などの方法を採用することができる。水分センサ13は、配線3−3を介して制御部2と電気的に接続されている。水分センサ13が測定した保湿具合を示す信号は、配線3−3を介して制御部2に送信される。
【0029】
ヒーター部14は、生体信号取得電極1と接触している部分の皮膚表面を加熱することが可能な素子であり、蓄積された光を熱に変換する素子(繊維)であって、例えば特開2007−56411号公報に記載されたようなヒーター繊維をヒーター部14とすることができる。
基材10としては、市販の透湿性防水繊維を用いることができる。例えば、東レ株式会社製のエントラントなどが好適である。
【0030】
本実施の形態の生体信号取得電極1は、以上のような構成により、ヒーター部14によって生体の皮膚表面の加熱が可能となっている。太陽光やオフィス光などの光によりヒーター部14が発熱すると、基材10と電極部11とセンサ12,13に熱が伝わり、これらと接触する生体の皮膚表面が温められ、発汗が生じる。汗はナトリウムなどの電解質を多く含むことから、汗自身が導電性液体となる。この汗により電極部11に含浸されている保湿成分を補給することができ、電解質が基材10と皮膚との間で適度な湿気を保持する役割を果たす。こうして、本実施の形態では、電極部11の乾燥を防止することが可能となり、長期間に渡り生体信号の取得が可能となる。
【0031】
図3は制御部2の構成例を示すブロック図である。制御部2は、電極部11が検出した生体信号を取得する生体信号測定部20と、電極部11と生体との間の接触インピーダンスを測定するインピーダンス測定部21と、生体信号の測定を中止した回数が規定回数以上の場合に、生体信号の測定が行えなかったことをユーザーに通知するエラー通知部22と、バッテリー等の電源23とを備えている。
【0032】
制御部2は、配線3を介して生体信号取得電極1と接続されている。電極部11で受信した生体信号は、配線3を介して制御部2の生体信号測定部20に送信される。生体信号測定部20は、生体信号を測定したり、生体信号を外部の装置に無線送信したりする。生体信号の測定の種類としては、例えば心電測定、心拍測定などがある。
【0033】
インピーダンス測定部21は、電極部11と生体との間の接触インピーダンスを定期的に測定する。電極部11と生体との間の接触インピーダンスを測定するためには、例えば1対の電極部11の間に電圧を印加して、1対の電極部11の間に流れる電流を測定し、印加した電圧と測定した電流値とに基づいて接触インピーダンスを算出すればよい。なお、ここでは、制御部2の構成および処理を簡略化するため、簡単な方法で接触インピーダンスを求めている。ここで求めるインピーダンスは、厳密には接触インピーダンス単独ではなく、生体の皮膚インピーダンスと電極部11のインピーダンスとを含むものであるが、本実施の形態では接触インピーダンスとして説明する。接触インピーダンスは、特定の周波数において測定すればよい。
【0034】
エラー通知部22は、インピーダンス測定部21が測定した接触インピーダンスが所定のインピーダンス規定値以上となった場合、すなわち電極部11と生体の皮膚表面との電気的接触が十分でなくなった場合には、電気的接触が十分でないことを示すエラー情報を出力してユーザーへの通知を行う。この通知に応じて、生体信号取得装置を装着しているユーザーは、電極部11に導電性液体や保湿剤を追加することになる。
【0035】
また、エラー通知部22は、水分センサ13が測定した生体の皮膚表面の保湿具合をモニタリングし、保湿具合を示す値(水分率、水分量、湿度など)が所定の保湿具合規定値未満となった場合、すなわち生体の皮膚表面の保湿が十分でなくなった場合には、保湿が十分でないことを示すエラー情報を出力してユーザーへの通知を行う。この通知に応じて、ユーザーは、電極部11に導電性液体や保湿剤を追加することになる。
【0036】
さらに、エラー通知部22は、温度センサ12が測定した生体の皮膚表面の温度をモニタリングし、皮膚表面の温度が規定の温度(例えば、45℃)以上となった場合、温度が高過ぎることを示すエラー情報を出力してユーザーへの通知を行う。この通知に応じて、ユーザーが生体信号取得電極1を取り外すことで低温火傷などの創傷を防止することができる。
制御部2は、以上のような制御部自体の動作のために電源23を備えている。
【0037】
なお、図2から明らかなとおり、生体信号取得電極1は、必要に応じて複数個設けられてもよい。例えば接触インピーダンスを測定する場合には、複数個の電極間でインピーダンスを測定する必要があるので、電極が複数個必要である。制御部2は、各電極1に対して、個別に生体信号の受信や制御を実行するものとすることも可能である。また、1つの基材10に複数個の電極部11を設けるようにしてもよい。
【0038】
次に、本実施の形態の生体信号取得装置の動作について説明する。図4は生体信号取得装置の動作を示すフローチャートである。
本実施の形態では、生体信号測定開始前に、制御部2のインピーダンス測定部21が、電極部11と生体との間の接触インピーダンスを測定する(図4ステップS1)。
【0039】
制御部2の生体信号測定部20は、接触インピーダンスがインピーダンス規定値未満の場合(図4ステップS2においてNo)、電極部11が乾燥していないと判断し、生体信号測定を行なう(図4ステップS3)。こうして、接触インピーダンスがインピーダンス規定値未満の場合は、生体信号の測定が定期的に行なわれる。
【0040】
次に、接触インピーダンスがインピーダンス規定値以上となった場合(図4ステップS2においてYes)、生体信号測定部20は、温度センサ12から温度を示す信号を取得する(図4ステップS4)。生体信号測定部20は、温度センサ12が測定した温度が温度規定値以上となった場合(図4ステップS5においてYes)、温度が高過ぎると判断し、生体信号の測定を規定時間中止する(図4ステップS6)。そして、ステップS6の測定中止時点から規定時間が経過した後にステップS1に戻り、インピーダンス測定部21は、接触インピーダンスを再度測定する。
【0041】
また、生体信号測定部20は、温度センサ12が測定した温度が温度規定値未満の場合(図4ステップS5においてNo)、水分センサ13から保湿具合を示す信号を取得する(図4ステップS7)。生体信号測定部20は、水分センサ13が測定した保湿具合を示す値が保湿具合規定値未満の場合(図4ステップS8においてNo)、保湿が不十分と判断し、生体信号の測定を規定時間中止する(図4ステップS6)。このステップS6の測定中止時点から規定時間が経過した後にステップS1に戻り、インピーダンス測定部21は、接触インピーダンスを再度測定する。また、インピーダンス測定部21は、水分センサ13が測定した保湿具合を示す値が保湿具合規定値以上の場合(ステップS8においてYes)、規定時間待機することなくステップS1に戻り、接触インピーダンスを再度測定する。
【0042】
制御部2のエラー通知部22は、測定を中止した回数が規定回数以上の場合(図4ステップS9においてYes)、生体信号の測定が行えなかったことを示すエラー情報を出力してユーザーへの通知を行い(図4ステップS10)、図4の一連の動作を終了する。規定回数は1以上の整数である。エラー情報の出力形態としては、例えば音声出力、LEDの点灯、エラー信号の外部への出力等がある。
【0043】
本実施の形態では、ヒーター部14による加熱により生体信号取得電極1が接触する皮膚表面が温められて発汗が生じ、電極部11の水分および電解質が補給される。したがって、本実施の形態に係る生体信号取得装置においては、生体の発汗を利用して電極部11の乾燥を防止することが可能となるため、電極部11に保湿剤や導電性液体を都度補充することなく、長時間にわたって生体信号の測定を実行することが可能となる。
【0044】
なお、本実施の形態では、インピーダンス測定部21が測定した接触インピーダンスがインピーダンス規定値以上で、温度センサ12が測定した温度が温度規定値以上の場合、または接触インピーダンスがインピーダンス規定値以上で、温度が温度規定値未満で、水分センサ13が測定した保湿具合を示す値が保湿具合規定値以上の場合のみ測定を中止しているが、これに限るものではなく、接触インピーダンスがインピーダンス規定値以上、温度が温度規定値以上、保湿具合を示す値が保湿具合規定値未満の3つの条件のうち少なくとも1つが成立する場合に、測定を規定時間中止するようにしてもよい。
【0045】
また、本実施の形態では、生体信号取得電極1に基材10と電極部11と温度センサ12と水分センサ13とヒーター部14とを設けているが、基材10と電極部11とヒーター部14のみを設けるようにしてもよい。この場合は、接触インピーダンスがインピーダンス規定値以上の場合に、測定を規定時間中止することになる。
【0046】
また、生体信号取得電極1に基材10と電極部11と温度センサ12とヒーター部14のみを設けるようにしてもよい。この場合は、接触インピーダンスがインピーダンス規定値以上、温度が温度規定値以上の2つの条件のうち少なくとも1つが成立する場合に、測定を規定時間中止することになる。また、基材10と電極部11と水分センサ13とヒーター部14のみを設けるようにしてもよい。この場合は、接触インピーダンスがインピーダンス規定値以上、保湿具合を示す値が保湿具合規定値未満の2つの条件のうち少なくとも1つが成立する場合に、測定を規定時間中止することになる。
【0047】
また、本実施の形態では、生体信号取得電極1と制御部2とが離間して配置され、生体信号取得電極1と制御部2との間が配線3を介して接続され、これら生体信号取得電極1と制御部2と配線3とがシャツ等の衣類4に固定されるものとして説明しているが、これに限定されない。例えば、生体信号取得電極1と制御部2とを一体的なユニットとして人の腕などに装着されるものにすることも可能である。
【0048】
本実施の形態で説明した制御部2は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る生体信号取得電極は、医療をはじめ、ヘルスプロモーションやインフォメーションテクノロジー、ウエアラブルコンピューターなどの幅広い分野において、長時間の連続使用が可能な体表面装着型の生体電極として広く利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…生体信号取得電極、2…制御部、3…配線、4…衣類、10…基材、11…電極部、12…温度センサ、13…水分センサ、14…ヒーター部、20…生体信号測定部、21…インピーダンス測定部、22…エラー通知部、23…電源。
図1
図2
図3
図4