(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリカーボネート系樹脂に非相溶の樹脂が、ポリエチレンテレフタレート系樹脂及びアクリロニトリル―ブタジエン―スチレン(ABS)系樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の加飾シート。
請求項2に記載の加飾シートを熱プレスにより三次元形状に成形して得られたプレフォーム成形体を金型内に配置し、ABS系樹脂を射出成形することにより得られたことを特徴とする加飾成形体。
請求項3に記載の加飾シートを熱プレスにより三次元形状に成形して得られたプレフォーム成形体を金型内に配置し、ポリカーボネート系樹脂を射出成形することにより得られたことを特徴とする加飾成形体。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る加飾成形体の好ましい実施形態を説明する。
図1は本実施形態の加飾シート10の模式断面図である。
図1中、1は加飾された表面としてシボ模様1aを有する加飾樹脂層であり、2は樹脂フィルムである。そして、樹脂フィルム2は、ポリカーボネート系樹脂(PC)及びPCに非相溶で且つポリカーボネート系樹脂よりも軟化温度の低い樹脂を含むポリマーアロイのフィルムである。
【0023】
加飾樹脂層は、表面にシボ模様,スエード調等の立毛面,エナメル調の光沢面,任意のデザインのプリント柄等のような加飾された表面を有する可撓性の樹脂層である。樹脂層の具体例としては、例えば、人工皮革、合成皮革、塩ビレザー、多孔性または非多孔性のエラストマーからなるシート等が挙げられる。
【0024】
なお、人工皮革とは後述するように三次元的に繊維を絡合させた繊維絡合体(不織布)にポリウレタン等の高分子弾性体を含浸付与させたものを主体とするシートである。また、合成皮革とは、織物,編物等の二次元的に絡合された繊維基材にポリウレタンやポリ塩化ビニル等の高分子弾性体からなる樹脂層を積層し、樹脂層の表面を型押しすること等によりシボ模様等の皮革調の模様を付与したシートである。また、多孔性または非多孔性のエラストマーからなるシートとしては、繊維基材を含まない、多孔性または非多孔性のポリウレタン等のエラストマーのシートの表面にシボ模様等を付与したシート等が挙げられる。
【0025】
加飾樹脂層の厚みは特に限定されないが、0.25〜0.95mm、さらには0.25〜0.75mmであることが好ましい。
【0026】
樹脂フィルムは、PC及びPCに非相溶で且つポリカーボネート系樹脂よりも軟化温度の低い樹脂を含むポリマーアロイのフィルムである。このようなPCのポリマーアロイのフィルムは、耐熱性と賦形性とのバランスに優れる。
【0027】
樹脂フィルムの具体例としては、PCとポリエチレンテレフタレート系樹脂(PET)とのポリマーアロイのフィルム、PCとアクリロニトリル―ブタジエン―スチレン樹脂等のABS系樹脂とのポリマーアロイのフィルム、PCとアクリロニトリル―スチレン樹脂等のAS系樹脂とのポリマーアロイのフィルム等が挙げられる。このようなポリマーアロイのフィルムにおいては、PCとその他の樹脂がマトリクス−ドメイン構造を形成するために、PCとその他の樹脂の特性が混和されることなく、独立して発揮される。
【0028】
樹脂フィルム中のPCと非相溶のその他の樹脂との質量比(PC/その他の樹脂)は、90/10〜10/90、さらには70/30〜40/60であることが好ましい。PCの割合が低すぎる場合には耐熱性が低下し、また、その他の樹脂の割合が低すぎる場合には賦形性が低下する傾向がある。
【0029】
樹脂フィルムの厚みとしては、0.05〜0.35mm、さらには0.1〜0.3mm程度であることが好ましい。樹脂フィルムが厚すぎる場合には加飾樹脂層の可撓性が低下してその風合いが低下したり、プレフォーム成形の成形性が低下する傾向がある。また、樹脂フィルムが薄すぎる場合には射出成形の際に型内で樹脂フィルムが軟化または溶融されやすくなり、溶融樹脂の熱により加飾樹脂層が軟化または溶融する傾向がある。
【0030】
加飾樹脂層に樹脂フィルムを積層する方法の具体例としては、例えば、接着剤を介して樹脂フィルムと加飾樹脂層とを貼り合わせたり、熱圧着するようなドライラミネートによる方法が好ましく用いられる。接着剤は特に限定されないが、例えば、熱により延伸可能なホットメルト型接着剤が好ましく用いられる。接着層の厚みは特に限定されないが、0.02〜0.1mm程度であることが好ましい。
【0031】
次に、加飾シートを三次元形状に熱プレス成形することによりプレフォーム成形体を製造する方法について説明する。なお、本実施形態においては、プレス成形について詳しく説明するが、プレス成形の代わりに、従来から知られた、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等その他のプレフォーム成形法を用いてもよい。
【0032】
図2は頂面が略正方形で断面が台形の深絞り形状のプレフォーム成形体を成形するための金型5の斜視模式図である。
図2中、5aは雄型である上金型、5bは雌型である下金型である。
【0033】
図3を参照して、加飾シート10を金型5を用いてプレフォーム成形する工程について説明する。プレフォーム成形においては、はじめに、
図3(a)に示すように、加熱により軟化された加飾シート10を樹脂フィルム2が上金型5aに対向し、加飾樹脂層1が下金型5bに対向するような方向で、上金型5aと下金型5bとの間に配置する。そして、
図3(b)に示すように上金型5aと下金型5bとを型締めすることにより、軟化された加飾シート10に賦形する。加熱により軟化するための温度は、具体的には、例えば、120〜180℃、さらには130〜170℃程度で軟化させることが好ましい。
【0034】
そして、
図3(c)に示すように上金型5aと下金型5bとを型開きする。そして、
図3(d)に示すように得られたプレフォーム成形体20'を離型する。そして、
図3(e)に示すように、射出インサート成形の金型のキャビティの形状に沿うように、プレフォーム成形体20'の周囲の不要な部分をトリミングして除去する。このようにして、射出インサート成形の金型のキャビティの形状に沿うように成形されたプレフォーム成形体20が得られる。
【0035】
上述したようなプレフォーム成形体の成形において本実施形態の加飾シートを用いることにより、良好な賦形性、とくに角を有するような深絞りの形状を成形する場合でも角がしっかり形成されるように賦形される。具体的には加飾シートで深絞り形状のプレフォーム成形体を成形した場合、
図4(a)のRで示すような山の裾野の立ち上がり部分の角や頂面に接する角をくっきりとした折り角がついたように賦形することができる。なお、樹脂フィルムとしてPETシートやPCシートを用いた場合には、
図4(b)に示すような角が丸みを帯びたような賦形になることがある。この理由については厳密には理解できていないが、次のような理由によるものと考えている。
【0036】
図5にそれぞれ厚み0.2mmのPCシート、PETシート、PC/PET=50/50のPC/PETシートの、20℃、120℃、150℃におけるS−Sカーブを示す。また、
図6にそれぞれ厚み0.2mmのABS樹脂シート、PETシート、PC/ABS樹脂=50/50のPC/ABS樹脂シートの、20℃、120℃、150℃におけるS−Sカーブを示す。
【0037】
図5に示すように、プレフォーム成形の温度に近い150℃の場合、PCシートは150℃において引張強力は高すぎないが、破断伸度が低いため充分に伸びる前に破断してしまう。また、PETシートは伸び率が高くなるにつれて引張強力が高くなっていくためにプレフォーム成形におけるプレス時に伸びにくいと思われる。一方、PC/PETシートは150℃において伸び率が高くなっても引張強力は立ち上がることなく極めて低く、伸び率が400%以上になっても破断せずに伸びていることがわかる。これらの結果から、PC/PETシートはプレフォーム成形の加熱下で賦形される際にも伸びやすく賦形性に優れると思われる。同様に、
図6を参照すれば、PC/ABSシートの場合にも150℃においては伸び率が高くなっても引張強力は立ち上がることなく極めて低く、伸び率が400%以上になっても破断せずに伸びていることがわかる。このような理由から、PC/PETシートやPC/ABSシートのようなPCとPCに非相溶で且つポリカーボネート系樹脂よりも軟化温度の低い樹脂を含むポリマーアロイのフィルムは、プレフォーム成形の際の賦形性に優れる。
【0038】
そして、
図5に示すように、PC/PETシートの引張強力は120℃においてある程度高くなり、20℃においてはPCシートよりも高くなっている。このことはPC/PETシートの引張強力は温度依存性が特に高く、プレフォーム成形後の冷却により固化しやすいことを示している。一方、例えば、
図6に示すPC/ABSシートの引張強力は120℃においても充分に高くなっていない。このことがPC/PETシートが、PC/ABSシートよりもセット性に優れることの理由であると思われる。
【0039】
次に、プレフォーム成形体20を射出インサート成形の金型のキャビティにインサートし、プレフォーム成形体20の裏面に樹脂を射出することにより成形する射出インサート成形の各工程を
図7を参照して説明する。
【0040】
図7中の射出成形の金型15は、インサート部を有するキャビティ15dを備える可動側金型15aと、固定側金型15bと、形成されるスプルーランナー22を離型するためのスペーサープレート15cとを備える。
【0041】
図7(a)に示すように、はじめに、プレフォーム成形体20をキャビティ15dに配置する。そして、
図7(b)に示すように可動側金型15aと固定側金型15bとを型締めし、射出成形機のノズル16を固定側金型15bのスプルーブッシュ15fに接触するまで前進させて、射出成形機のシリンダ内で溶融された溶融樹脂21a'を金型15内に射出する。射出された溶融樹脂21a'は、樹脂流路を流れて2つのゲート15g,15hからキャビティ内に流入する。2つのゲート15g,15hからキャビティ内に流入された溶融樹脂は会合することにより成形体本体21に少なくとも一つのウエルドラインが形成される。そして、射出終了後、冷却工程を経て、
図7(c)に示すように、可動側金型15aと固定側金型15bとが型開きされる。そして、プレフォーム成形体20と射出成形により成形された成形体本体21とが一体化されたインサート成形体30と、スプルーランナー22とが離型される。
【0042】
射出インサート成形で射出される、成形体本体21を形成するための樹脂としては、各種熱可塑性樹脂が特に限定なく用いられ、用途に応じて適宜選択される。例えば、携帯電話、モバイル機器、家電製品等の筐体に用いられる樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂やABS系樹脂等の耐衝撃性に優れた樹脂が挙げられる。
【0043】
プレフォーム成形体を成形するための加飾シートまたはそれをプレフォーム成形したプレフォーム成形体には樹脂フィルムが積層されている。このような樹脂フィルムは射出成形時に溶融樹脂と接する側の面に配される。このような樹脂フィルムをプレフォーム成形体の裏面に積層していることにより、プレフォーム成形体を射出インサート成形する際に、加飾樹脂層に溶融樹脂が直接接触することによる熱的影響を緩和することができる。
【0044】
樹脂フィルムは、射出成形の成形温度において溶融しない、熱可塑性樹脂の弾性率よりも高い弾性率を有する,または熱可塑性樹脂の溶融粘度よりも高い溶融粘度を有することが好ましい。また、好ましくは、射出成形温度よりも低いプレフォーム成形の成形温度においては、加飾樹脂層の変形に追随することが可能な程度に軟化する樹脂フィルムであることが好ましい。なお、本発明における成形温度とは、射出成形機のノズル温度を意味する。このような場合には、型内に掛かる樹脂圧が加飾樹脂層と樹脂フィルムとの界面で緩和される。その結果、加飾樹脂層が溶融樹脂の樹脂圧及び樹脂温の影響を受けて荒れることを抑制できる。また金型内を流動する溶融樹脂は樹脂フィルムと接するために、加飾樹脂層が溶融樹脂との接触による摩擦抵抗で引っ張られることが抑制される。その結果、
図10(a)に示したような、プレフォーム成形体の表面のウエルドライン付近で皺Sが生じたり、
図10(b)に示すように、端面Eが摩擦抵抗により伸びたりすることが抑制される。
【0045】
樹脂フィルムの種類は射出成形において射出される樹脂や加飾樹脂層の種類との関係において適宜選択されることが好ましい。その具体的な組み合わせとしては、次のような組み合わせが例示される。
【0046】
熱可塑性樹脂がABS系樹脂の場合、そのグレードにもよるが、射出成形機のノズル温度が190〜270℃程度の範囲で設定される。この場合において、例えば、ノズル温度230℃でABS系樹脂を射出成形する場合、230℃で溶融しないか、230℃におけるABS系樹脂の弾性率よりも高い弾性率を有するか、または230℃におけるABS系樹脂の溶融粘度よりも高い溶融粘度を有する、樹脂からなるフィルムが樹脂フィルムとして選ばれる。その具体例としては、230℃で溶融しないまたは高溶融粘度のPCとABS系樹脂とのポリマーアロイ、PCとPETとのポリマーアロイの樹脂フィルムが挙げられる。
【0047】
熱可塑性樹脂がポリカーボネート系樹脂の場合、そのグレードにもよるが、280〜320℃程度の範囲で射出成形機のノズル温度が設定される。この場合において、例えば、ノズル温度280℃でポリカーボネート系樹脂を射出成形する場合、280℃で溶融しないか、280℃におけるポリカーボネート系樹脂の弾性率よりも高い弾性率を有するか、また280℃におけるポリカーボネート系樹脂の溶融粘度よりも高い溶融粘度を有する、樹脂からなるフィルムが樹脂フィルムとして選ばれる。その具体例としては、280℃における弾性率が射出されるポリカーボネート系樹脂の280℃における弾性率よりも高い、または溶融粘度の高いPCとPETのアロイからなるフィルム等が挙げられる。
【0048】
なお、樹脂フィルムの溶融温度は、例えば、動的粘弾性測定装置(例えば、レオロジ社製FTレオスペクトラDDVIV)を用いて、幅5mm、長さ30mmの試験片を間隔20mmのチャック間に固定して、測定領域30〜300℃、昇温速度3℃/min、歪み5μm/20mm、測定周波数10Hzの条件で動的粘弾性挙動を測定して得られる弾性率(E')スペクトルにおいて、スペクトルの最高温度を示す温度といえる。樹脂フィルムの溶融温度が射出成形機のノズル温度よりも高い場合には射出成形温度において溶融しない樹脂といえる。
【0049】
樹脂フィルムの射出成形の成形温度における弾性率としては0.05MPa以上、さらには0.1〜1.0MPaであることが金型内に流入してきた溶融樹脂が加飾樹脂層に与える熱や圧力による影響や接触抵抗による影響をより緩和することができる点から好ましい。
【0050】
また、樹脂フィルムの軟化温度は、例えば、動的粘弾性測定装置(例えば、レオロジ社製FTレオスペクトラDDVIV)を用いて、幅5mm、長さ30mmの試験片を間隔20mmのチャック間に固定して、測定領域30〜300℃、昇温速度3℃/min、歪み5μm/20mm、測定周波数10Hzの条件で動的粘弾性挙動を測定して得られる粘弾性スペクトルにおいて、分子運動性の指標であるTanδが最大となる温度である。樹脂フィルムの軟化温度がプレフォーム成形の成形温度よりも低い場合には、プレフォーム成形において加飾樹脂層の変形に追随することが可能な程度に軟化するといえる。
【0051】
樹脂フィルムは、プレフォーム成形する温度付近である150℃における30%伸長時の応力が3〜40N/25mm、さらには5〜30N/25mmであることが好ましい。150℃における30%伸長時の応力がこのような範囲である場合には、プレフォーム成形において、加飾樹脂層の変形に容易に追随することができ、かつ、射出成形時の表面の荒れ、外観不良及び成形寸法の不安定性がより抑制される傾向がある。
【0052】
次に、本実施形態の加飾シートの好ましい形態の一例として、加飾樹脂層として、人工皮革を用いた例について詳しく説明する。
【0053】
図8は加飾樹脂層として人工皮革を用いた加飾シート40の模式断面図である。
図8中、11は人工皮革層であり、2は樹脂フィルムであり、3は表面に必要に応じて設けられる銀面層である。
【0054】
人工皮革層11は、例えば、繊維絡合体11aと繊維絡合体11aを結着して形態安定性を高める高分子弾性体11bと空隙11cとを含む。
【0055】
人工皮革層を形成する繊維絡合体は、例えば、平均繊度0.9dtex以下、さらには0.01〜0.8dtex、特には0.05〜0.5dtexのような単繊維繊度を有する熱可塑性樹脂からなる極細単繊維の絡合体であることが好ましい。平均繊度が高すぎる場合には、加飾シートをプレフォーム成形する際に、加熱による軟化時の延伸性が低下して、型形状を正確に転写しにくくなり賦形性が低下する傾向がある。また、平均繊度が低すぎる場合には極細単繊維の製造が困難になる。
【0056】
極細単繊維を形成する熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等の芳香族ポリエステル系樹脂;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6−12等のポリアミド系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、塩素系ポリオレフィン、などのポリオレフィン系樹脂;エチレン単位を25〜70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等から形成される変性ポリビニルアルコール系樹脂;及び、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどの結晶性エラストマーが挙げられる。これらの中では、ガラス転移温度(Tg)が120℃以下のポリエステル系樹脂がプレフォーム成形性に優れる点から好ましい。
【0057】
ガラス転移温度(Tg)が120℃以下のポリエステルとしては、芳香族ポリエチレンテレフタレートの構成単位に直鎖の構造を乱す共重合成分を構成単位として含有する変性ポリエチレンテレフタレート、特に、イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の非対称型芳香族カルボン酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合成分として所定割合で含有する変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。さらに具体的には、モノマー成分としてイソフタル酸単位を2〜12モル%含有する変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0058】
繊維絡合体の見かけ密度は0.40g/cm
3以上、さらには0.45〜0.70g/cm
3であることが好ましい。繊維絡合体の見かけ密度が低すぎる場合には、繊維の密な部分と疎な部分が存在するようになるために、プレフォーム成形体やインサート成形体の成形時に繊維の密度斑による浮模様(あらび)が表出する。また、見かけ密度が高すぎる場合には、柔軟な風合いが低下する傾向がある。
【0059】
繊維絡合体を高い見かけ密度にするためには、極細単繊維が複数本集束して繊維束を形成していることが好ましい。具体的には、例えば、5〜1000本、さらには5〜200本、特に好ましくは10〜50本、最も好ましくは10〜30本の極細単繊維が繊維束を形成していることが好ましい。
【0060】
また、極細単繊維は長繊維であることが、見かけ密度を高める点から好ましい。ここで、長繊維とは、所定の長さで切断処理された短繊維ではないことを意味する。長繊維の長さとしては、100mm以上、さらには、200mm以上であることが、極細単繊維の繊維密度を充分に高めることができる点から好ましい。極細単繊維の長さが短すぎる場合には、繊維の高密度化が困難になる傾向がある。
【0061】
次に、繊維絡合体を結着する高分子弾性体について説明する。
【0062】
高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン、アクリロニトリルエラストマー、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アクリルエラストマー等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタン、とくには、架橋された非発泡ポリウレタンが特に好ましい。架橋された非発泡ポリウレタンは、プレフォーム成形体の成形時において、未架橋の発泡ポリウレタンに比べて金型から離型した後の弾性回復による変形が抑制される。その結果、加飾シートで深絞り形状のプレフォーム成形体を成形した場合、山の裾野の立ち上がり部分の角や頂面に接する角をくっきりとした折り角がついたように賦形することができる。
【0063】
なお、未架橋の発泡ポリウレタンを用いた場合には、金型から離型された後に弾性回復により変形してしまうために、型通りに賦形しても離型後に変形する傾向がある。特に深絞り形状のプレフォーム成形体を成形する場合、角が丸みを帯びたような賦形になる傾向がある。上述したような非発泡性のポリウレタンを用いた場合には、架橋構造により金型内で形がセットされるために、離型した後の弾性回復による変形が抑制されると思われる。
【0064】
このような架橋された非発泡ポリウレタンは、架橋性のポリウレタンの水系エマルジョンを用いて形成されることが好ましい。架橋性のポリウレタンの水系エマルジョンの具体例としては、例えば、乾燥後に架橋構造を形成する、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンの水系エマルジョンが挙げられる。
【0065】
人工皮革層中の高分子弾性体の含有割合は、5〜25質量%、さらには、10〜22質量%、とくには15〜22%の範囲で含有させることが好ましい。高分子弾性体の含有割合が5質量%未満の場合には形状安定性が低下する傾向がある。また、25質量%を超える場合には、相対的に絡合体の見かけ密度が低下する傾向がある。
【0066】
人工皮革層はその表面に銀面様の外観を付与するための銀面層を有する。銀面層を形成するための樹脂成分は特に限定されない。その具体例としては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等の各種ポリウレタン系樹脂や、アクリル系樹脂、ポリウレタンアクリル複合樹脂、ポリ塩化ビニル、合成ゴム等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタン系樹脂が接着性や、耐磨耗性や耐屈曲性等の機械物性が優れる点から好ましい。銀面層の厚みは0.01〜0.5mm、さらには0.02〜0.15mm、特には0.04〜0.12mmの範囲であることが好ましい。
【0067】
人工皮革層の厚みは、0.25〜0.95mm、さらには0.25〜0.75mmであることが好ましい。また、銀面層と人工皮革層との合計厚みは、0.25〜1.00mm、さらには0.30〜0.80mmであることが好ましい。
【0068】
このようにして得られた銀面層と人工皮革層からなる積層体は、プレフォーム成形する温度付近である150℃における30%伸長時の応力が50N/25mm以下、さらには40N/25mm以下であることが好ましい。150℃において30%伸長時の応力が大きすぎる場合には、プレフォーム成形において延伸性が低下することにより賦形性が低下する傾向がある。なお、30%伸長時の応力は、JIS L1096の6.12「引張り強度試験」に準じて、25mm幅、長さ200mmの長方形の試験片を、掴み間隔50mmとなるよう引張試験機に取り付け、S−Sカーブから30%伸長時の応力を読み取ることにより求められる。
【0069】
銀面層が形成された人工皮革層の見かけ密度は0.5g/cm
3以上、さらには0.50〜0.75g/cm
3、とくには0.55〜0.70g/cm
3であることが好ましい。人工皮革層は、このように高い比重であるために充実感を有する。そのために、得られるプレフォーム成形体は形態安定性に優れ、また、成形時に圧縮されて厚みが薄くなることにより柔軟性を失うことが抑制される。
【0070】
次に、本実施形態の加飾シートを構成する人工皮革層の製造方法の一例について説明する。人工皮革層は、(1)溶融紡糸により海島型複合繊維からなる長繊維ウェブを製造するウェブ製造工程と、(2)得られた長繊維ウェブを複数枚重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成するウェブ絡合工程と、(3)ウェブ絡合シートを湿熱収縮させる湿熱収縮処理工程と、(4)ウェブ絡合シートにポリウレタンのエマルジョンまたは溶液を含浸させた後、ポリウレタンを凝固させるポリウレタン含浸工程と、(5)ウェブ絡合シート中の海島型複合繊維を極細単繊維化する極細繊維形成工程と、を備えるような工程により得られる。以下に各工程について、詳しく説明する。
【0071】
(1)ウェブ製造工程
本工程においては、はじめに、溶融紡糸により海島型複合繊維からなる長繊維ウェブを製造する。長繊維ウェブは、例えば、いわゆるスパンボンド法を用いて、溶融紡糸法により海島型複合繊維を紡糸し、これを切断せずにネット上に捕集してウェブを形成する方法が好ましく用いられる。
【0072】
海島型複合繊維の海成分は、ウェブ絡合シートを形成させた後の適当な段階で抽出または分解されて除去される。この分解除去または抽出除去により極細単繊維からなる繊維束を形成させることができる。
【0073】
海島型複合繊維の島成分を構成する熱可塑性樹脂としては、上述したような極細単繊維を形成する各種熱可塑性樹脂が用いられる。一方、海島型複合繊維の海成分を構成する熱可塑性樹脂としては、島成分を構成する樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性を異にする熱可塑性樹脂が選ばれる。
【0074】
海成分を構成する熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレンアクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。中でも、湿熱や熱水で収縮し易い点でポリビニルアルコール系樹脂、特にエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
【0075】
海島型複合繊維の紡糸およびウェブ形成には、スパンボンド法が用いられる。具体的には、多数のノズル孔が、所定のパターンで配置された複合紡糸用口金を用いて、海島型複合繊維を個々のノズル孔からコンベヤベルト状の移動式のネット上に連続的に吐出させ、高速気流を用いて冷却しながら堆積させる。このような方法によりウェブが形成される。ネット上に形成されたウェブには融着処理が施されることが好ましい。融着処理により形態安定性が付与される。融着処理の具体例としては、例えば、熱プレス処理が挙げられる。熱プレス処理としては、例えば、カレンダーロールを使用し、所定の圧力と温度をかけて処理する方法を採用することができる。
【0076】
(2)ウェブ絡合工程
次に、得られた長繊維ウェブを5〜100枚程度重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成する。ウェブ絡合シートは、ニードルパンチや高圧水流処理等の公知の不織布製造方法を用いて長繊維ウェブに絡合処理を行うことにより形成される。
【0077】
具体的には、例えば、長繊維ウェブに針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合向上油剤などのシリコーン系油剤または鉱物油系油剤を付与する。その後、ニードルパンチにより三次元的に繊維を絡合させる絡合処理を行う。ニードルパンチ処理を行うことにより、繊維密度が高く、繊維の抜けを起こしにくいウェブ絡合シートが得られる。ウェブ絡合シートの目付量は、目的とする厚みに応じて適宜選択されるが、具体的には、例えば、500〜2000g/m
2の範囲であることが取扱い性に優れる点から好ましい。
【0078】
(3)熱収縮処理工程
次に、ウェブ絡合シートを熱収縮させることにより、ウェブ絡合シートの繊維密度および絡合度合を高める。なお、本工程においては、長繊維を含有するウェブ絡合シートを熱収縮させることにより、短繊維を含有するウェブ絡合シートを熱収縮させる場合に比べて、ウェブ絡合シートを大きく収縮させることができる。熱収縮処理されたウェブ絡合シートは、加熱ロールや加熱プレスすることにより、さらに、繊維密度が高められてもよい。
【0079】
熱収縮処理工程におけるウェブ絡合シートの目付量の変化としては、収縮処理前の目付量に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2.0倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。
【0080】
(4)ポリウレタン含浸工程
ウェブ絡合シートの形態安定性を高める目的で、ウェブ絡合シートの極細繊維化処理を行う前または後に、収縮処理されたウェブ絡合シートにポリウレタンの水系エマルジョンや溶液を含浸させた後、ポリウレタンを凝固させる。
【0081】
ウェブ絡合シートにポリウレタンの水系エマルジョンや溶液を含浸させる場合には、ウェブ絡合シートをポリウレタンの水系エマルジョンや溶液で満たされた浴中へ浸した後、プレスロール等で所定の含浸状態になるように絞るという処理を1回又は複数回行うディップニップ法が好ましく用いられる。また、その他の方法として、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等を用いてもよい。
【0082】
ポリウレタンとしては、平均分子量500〜3000の高分子ポリオールと有機ポリイソシアネートと、鎖伸長剤とを、所定のモル比で反応させることにより得られる各種のポリウレタンが挙げられる。
【0083】
高分子ポリオールの具体例としては、平均分子量500〜3000の、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリカーボネートジオール等のポリマーポリオールが挙げられる。また、有機ポリイソシアネ−トの具体例としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系イソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族系イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族系イソシアネート等が挙げられる。また、鎖伸長剤としては、エチレングリコール、エチレンジアミン等の2個以上の活性水素原子を有する低分子化合物が挙げられる。
【0084】
ポリウレタンの水系エマルジョンや溶液をウェブ絡合シートに含浸し、湿式法または乾式法により凝固させることにより、ポリウレタンをウェブ絡合シートに固定する。なお、凝固させたポリウレタンを架橋させるために、凝固及び乾燥後に加熱処理してキュア処理を行ってもよい。
【0085】
(5)極細繊維形成工程
ウェブ絡合シート中の海島型複合繊維は、海成分を水や溶剤等で抽出または分解除去することにより極細繊維に変換される。ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性樹脂を海成分に用いた海島型複合繊維の場合においては、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等で熱水加熱処理することにより海成分が除去される。
【0086】
本工程においては、海島型複合繊維から海成分を溶解して極細繊維を形成する際に、極細繊維が大きく捲縮される。この捲縮により繊維密度が緻密になるために、高密度の繊維絡合体が得られる。
【0087】
以上のような工程により、好ましくは300〜1800g/m
2の目付を有する人工皮革層1の中間体シートが得られる。
【0088】
このようにして得られた人工皮革層の中間体シートは、乾燥後、厚さ方向に垂直な方向に複数枚にスライスしたり研削したりすることにより、厚さ調節や表面状態を調整されて人工皮革層に仕上げられる。また、人工皮革層の表面に必要に応じて銀面層を設けてもよい。
【0089】
そして、人工皮革層に樹脂フィルムを積層することにより人工皮革層を加飾樹脂層とする加飾シートが得られる。人工皮革層に樹脂フィルムを積層する方法の具体例としては、樹脂フィルムを形成するための樹脂フィルムに接着剤を介して人工皮革層を貼り合わされたり、熱圧着したりするドライラミネートが好ましく用いられる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0091】
[実施例1]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール(エチレン単位の含有量8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%)、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレート(イソフタル酸単位の含有量6.0モル%)を、それぞれ個別に溶融させた。そして、海成分中に均一な断面積の島成分が25個分布した断面を形成しうるような、多数のノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金に、それぞれの溶融樹脂を供給した。このとき、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75となるように圧力調整しながら供給した。そして、口金温度260℃に設定されたノズル孔より吐出させた。
【0092】
そして、ノズル孔から吐出された溶融繊維を平均紡糸速度が3700m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェット・ノズル型の吸引装置で吸引することにより延伸し、平均繊度が2.1dtexの海島型複合長繊維を紡糸した。紡糸された海島型複合長繊維は、可動型のネット上に、ネットの裏面から吸引しながら連続的に堆積された。堆積量はネットの移動速度を調節することにより調節された。そして、表面の毛羽立ちを抑えるために、ネット上の堆積された海島型複合長繊維を42℃の金属ロールで軽く押さえた。そして、海島型複合長繊維をネットから剥離し、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させることにより、線圧200N/mmで熱プレスした。このようにして、表面の繊維が格子状に仮融着された目付34g/m2の長繊維ウェブが得られた。
【0093】
次に、得られた長繊維ウェブの表面に、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した後、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを10枚重ねて総目付が340g/m
2の重ね合せウェブを作成し、更に、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、重ね合せウェブをニードルパンチングすることにより三次元絡合処理した。具体的には、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで積層体の両面から交互に3300パンチ/cm
2のパンチ数でニードルパンチした。このニードルパンチ処理による面積収縮率は18%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は415g/m
2であった。
【0094】
得られた絡合ウェブは、以下のようにして湿熱収縮処理されることにより、緻密化された。具体的には、18℃の水を絡合ウェブに対して10質量%均一にスプレーし、温度70℃、相対湿度95%の雰囲気中で3分間張力が掛からない状態で放置して熱処理することにより湿熱収縮させて見かけの繊維密度を向上させた。この湿熱収縮処理による面積収縮率は45%であり、緻密化された絡合ウェブの目付は750g/m
2であり、見かけ密度は0.52g/cm
3であった。そして、絡合ウェブをさらに緻密化するために乾熱ロールプレスすることにより、見かけ密度0.60g/cm
3に調整した。
【0095】
次に、緻密化された絡合ウェブに、架橋型の非発泡ポリウレタンを以下のようにして含浸させた。ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とする架橋型の水系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度30%)を緻密化された絡合ウェブに含浸させた。そして、150℃の乾燥炉で水分を乾燥し、さらに非発泡ポリウレタンを架橋させた。このようにして、非発泡ポリウレタン/絡合ウェブの質量比が18/82のポリウレタン絡合ウェブ複合体を形成した。
【0096】
次に、ポリウレタン絡合ウェブ複合体を95℃の熱水中に20分間浸漬することにより海島型複合長繊維に含まれる海成分を抽出除去し、120℃の乾燥炉で乾燥し、スライス及び研削することにより、厚さ約1.0mmのシートが得られた。
【0097】
得られたシートに含有される繊維絡合体の見かけ密度は0.53g/cm
3であり、非発泡ポリウレタン/繊維絡合体の質量比は22/78であった。また、繊維絡合体の極細単繊維の平均単繊維繊度は0.08dtexであった。
【0098】
得られたシートを厚み方向に2分割し、0.45mmに研削した後、銀面層としてシリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を表皮とする厚み0.11mmのシボ付の乾式造面層を形成した。このようにして、人工皮革層を得た。得られた人工皮革層の比重は0.66であった。また、150℃における30%伸長応力が29N/25mmであった。
【0099】
そして、得られた人工皮革層の銀面層が形成された面の反対面に、厚み0.20mmのPC/PETのアロイ(PC/PET=50/50(質量比))からなるPC/PETフィルムを貼り合せた。なお、PC/PETフィルムは、PC/PETフィルムの表面にウレタン系接着剤を50g/m
2(wet)の塗布量で塗布し、人工皮革層に貼り合せ、0.5MPaの圧力でプレスすることにより積層された。形成された接着層の厚みは55μmであった。このようにして、プレフォーム成形体の製造に用いる加飾シートを得た。なお、PC/PETフィルムは
図5に示したS−Sカーブを示した。
【0100】
次に、得られた加飾シート用いて、
図9に示すような形状の、断面が台形状の山形の3次元形状を成形するためのキャビティを有する金型を用いてプレフォーム成形体を成形した。具体的には、常温の一対の金型の下金型に加飾シートを配置し、シート表面を赤外線で温度150℃に加熱した後に、0.4MPaの圧力をPC/PETフィルム側からかけた後、冷却することによりプレフォーム成形体を得た。そして、トリミングすることにより、後の射出インサート成形の金型に合う形状にトリミングした。
【0101】
得られたプレフォーム成形体の賦形性、成形前後の厚さ保持率、あらびの発生を以下のような基準で評価した。結果を表1に示す。
【0102】
(賦形性)
図9に示した部分を光学顕微鏡で側面から観察し写真を撮影した。そして、プレフォーム成形体の山の裾野の立ち上がり部分の角度θを測定し、賦形率(%)=(135/θ)×100 の式により金型の山の裾野の立ち上がり部分の角度に対するプレフォーム成形体の山の裾野の立ち上がり部分の角度の割合を算出した。
【0103】
(厚さ保持率)
プレフォーム成形体の山の頂面の中央部の厚みを測定した。そして、加飾シートの厚みに対する山の頂面の中央部の厚みの割合を算出した。
【0104】
(あらび)
プレフォーム成形体の表面状態を以下の基準で判定した。
5級:あらびがほとんど現れない。
3〜4級:少しあらびが現れる。
1〜2級:あらびが激しく現れる。
【0105】
そして、得られたプレフォーム成形体を、その人工皮革層が金型表面に接触し、キャビティの樹脂流動側にPC/PETフィルムが配置されるように、射出インサート成形機のインサート金型のキャビティ内に配置した。なお、金型は0.8mmの薄肉部を有するプレフォーム成形体の形状に沿った形状を有し、2点ゲートを有し、ウエルドラインがプレフォーム成形体と重なるような形状であった。
【0106】
上記のような射出成形機を用い、ノズル温度280℃の成形温度でPC樹脂を射出成形した。なお、PC/PETフィルムはノズル温度280℃において溶融しているが、溶融粘度はPC樹脂よりも高かった。
【0107】
このようにして得られた皮革様の表面を有する加飾成形体の寸法安定性、ウエルドライン付近の皺の発生、皮革様の表面の表面性を以下のような基準で評価した。結果を表1に示す。
【0108】
(寸法安定性)
得られたプレフォーム成形体の形状に沿った形状のインサート成形体の端面におけるプレフォーム成形体と成形体本体のそれぞれの端面を観察し、端面のずれを以下の基準で判定した。
A:寸法変化はあるが個体間のばらつき無く、再現性が良好であった。
B:寸法変化大きく、個体間のばらつき及び個体内でのズレやばらつきが大きかった。
【0109】
(ウエルドライン付近の皺の発生)
得られたプレフォーム成形体の形状に沿った形状のインサート成形体のウエルドライン部におけるプレフォーム成形体表面の皺の発生状態を目視で観察し、以下の基準で判定した。
A:皺の発生なし
B:皺の発生あり
【0110】
(皮革様表面の表面性)
得られたプレフォーム成形体の形状に沿った形状のインサート成形体の皮革様表面の外観を観察し、以下の基準で評価した。
A:柔軟な触感で、見た目にも美しい表面を有する。
B:表面が押しつぶされたように柔軟性の低い触感であり、見た目には皺やあらびの目立つ表面を有する。
【0111】
【表1】
【0112】
[実施例2]
実施例1において、PC/PETフィルム(PC/PET=50/50(質量比))を用いる代わりに、PC/PETフィルム(PC/PET=70/30(質量比))からなるPC/PETフィルムを用いてプレフォーム成形体を得た。そしてこのようなプレフォーム成形体を用いて、実施例1と同様にして皮革様の表面を有する加飾成形体を成形し、評価した。なお、PC/PETフィルムはノズル温度280℃において溶融しているが、溶融粘度はPC樹脂よりも高かった。結果を表1に示す。
【0113】
[実施例3]
実施例1において、PC/PETフィルム(PC/PET=50/50(質量比))を用いる代わりに、PC/PETフィルム(PC/PET=40/60(質量比))からなるPC/PETフィルムを用いてプレフォーム成形体を得た。そしてこのようなプレフォーム成形体を用いて、実施例1と同様にして皮革様の表面を有する加飾成形体を成形し、評価した。なお、PC/PETフィルムはノズル温度280℃において溶融しているが、溶融粘度はPC樹脂よりも高かった。結果を表1に示す。
【0114】
[実施例4]
実施例1において、PC/PETフィルム(PC/PET=50/50(質量比))を用いる代わりに、PC/ABSフィルム(PC/ABS=50/50(質量比))からなるPC/ABSフィルムを用いてプレフォーム成形体を得た。また、実施例1において、ノズル温度280℃の成形温度でPCを射出成形した代わりに、ノズル温度230℃の成形温度でABS樹脂を射出成形した。このようにして皮革様の表面を有する加飾成形体を成形し、評価した。なお、PC/ABSフィルムはノズル温度230℃において溶融しておらず、ノズル温度230℃における弾性率(E´)は、0.12(MPa)であった。結果を表1に示す。
【0115】
[比較例1]
実施例1において、PC/PETフィルム(PC/PET=50/50(質量比))を用いる代わりに、PCフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして加飾シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。また、実施例1において、ノズル温度280℃の成形温度でPCを射出成形した代わりに、ノズル温度230℃の成形温度でABS樹脂を射出成形した。このようにして皮革様の表面を有する加飾成形体を成形し、評価した。ノズル温度230℃における弾性率(E´)は、0.23(MPa)であった。結果を表1に示す。
【0116】
[比較例2]
実施例1において、PC/PETフィルム(PC/PET=50/50(質量比))を用いる代わりに、PETフィルムを用いてプレフォーム成形体を得た以外は同様にして皮革様の表面を有する加飾成形体を成形し、評価した。なお、PETフィルムはノズル温度280℃において溶融しているが、溶融粘度はPC樹脂よりも高かった。
結果を表1に示す。
【0117】
[比較例3]
実施例1において、PC/PETフィルム(PC/PET=50/50(質量比))を用いる代わりに、ABSフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして加飾シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。また、実施例1において、ノズル温度280℃の成形温度でPCを射出成形した代わりに、ノズル温度230℃の成形温度でABS樹脂を射出成形した。このようにして皮革様の表面を有する加飾成形体を成形し、評価した。なお、ABSフィルムはノズル温度230℃において完全に溶融しており、射出したABS樹脂と溶融状態で混ざり合った。結果を表1に示す。
【0118】
[比較例4]
実施例1において、樹脂フィルムを積層しなかった以外は実施例1と同様にして加飾シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして皮革様の表面を有する加飾成形体を成形し、評価した。結果を表1に示す。
【0119】
表1から、本発明に係る、裏面にPC/PETフィルムまたはPC/ABSフィルムを被着させた加飾シートを用いて成形された実施例1〜4で得られたプレフォーム成形体はいずれも賦形性が100%であり、極めて正確な賦形ができた。一方、裏面にPCフィルムを被着させた加飾シートを用いて成形された比較例1で得られたプレフォーム成形体は賦形性が95%であった。また、裏面にPETフィルムを被着させた加飾シートを用いて成形された比較例2で得られたプレフォーム成形体は賦形性が98%であった。さらに、裏面にABSフィルムを被着させた加飾シートを用いて成形された比較例3で得られたプレフォーム成形体は賦形性が97%であった。上記結果から、本発明に係る加飾シートは、プレフォーム成形体の高い賦形性を有することがわかる。また、裏面にフィルムを積層していない加飾シートを用いて成形された比較例4で得られたプレフォーム成形体を用いてインサート成形した場合には、インサート成形体の生産安定性が悪く、また、加飾表面の外観が悪かった。