(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228879
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】スクラップからの金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C25C 1/08 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
C25C1/08
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-69585(P2014-69585)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-190028(P2015-190028A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 寿文
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−318185(JP,A)
【文献】
特開平01−162789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/21
C25C 1/08
C25D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または金属酸化物のスクラップから金属を回収する方法であって、
前記スクラップを懸濁させた懸濁物に、回収対象の金属よりも卑な金属からなる遷移金属化合物を添加して、当該遷移金属化合物が添加された懸濁物を電解液として電解することにより、回収対象の金属を回収し、
前記遷移金属化合物の金属元素が、Fe、Ni、Co、Mnのいずれかの一種であることを特徴とするスクラップからの金属回収方法。
【請求項2】
前記スクラップがLi、Ni、Co、Mnを少なくとも二種類含むリチウムイオン二次電池用正極材であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スクラップが破砕されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属または金属酸化物のスクラップから金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクラップからの金属回収は、通常、酸アルカリ等での湿式処理が用いられ、さらに湿式処理の中には懸濁電解を用いる手法がある。当該懸濁電解には、通常、アルカリ溶融塩等が用いられている。このような技術として、例えば、特許文献1に、金属酸化物粉末の電解還元による金属の製造方法であって、該金属酸化物粉末を塩化カルシウム等の溶融塩中に懸濁させ陰極表面で還元することを特徴とする製造方法が開示されている(特許文献1の請求項1、実施例等)。また、特許文献1に記載されているように、電解還元を行う温度は、500℃以上という非常に特殊な高温での電解条件が採用されている(特許文献1の段落0043等)。
【0003】
また、他の懸濁電解法として、電解液中で陰極底板の上に多数の金属粒子を沈めておき、陰極板を振動させることで粒子を撹拌し、この状態で電析を行う方法もある。これによれば、予め沈めておいた粒子にニッケル、銅などの非鉄金属が堆積し、粒子成長する。この粒子を取り出して金属の回収を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−016293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の金属回収方法によれば、電解により生成した金属水酸化物や金属酸化物が溶解できずに析出してしまい、安定的に継続して電気分解を行うことが困難であり、およびこのような析出物を浸出するにも電解液中でそれを行うことは困難である。
【0006】
また、懸濁電解法では、回収対象の金属を含む懸濁物を電解液として用いることから、スラリーを電解することになり、粒子間抵抗の観点から電解反応による析出電流効率が良好であるとはいえず、エネルギー消費を抑えるという観点からも改良の余地はある。
【0007】
そこで、本発明は、スクラップから金属を回収するに際して、安定的に継続して電解を行い、さらにその電解反応に係る析出電流効率が良好である金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上述の課題について鋭意検討した結果、スクラップを懸濁電解処理する際に、回収対象の金属よりも卑な金属からなる遷移金属化合物を電解液に添加することにより、電解反応が安定して継続し、結果として電解反応による析出に係る電流効率が良好になることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)金属または金属酸化物のスクラップから金属を回収する方法であって、
前記スクラップを懸濁させた懸濁物に、回収対象の金属よりも卑な金属からなる遷移金属化合物を添加して、当該遷移金属化合物が添加された懸濁物を電解液として電解することにより、回収対象の金属を回収することを特徴とするスクラップからの金属回収方法。
(2)前記遷移金属化合物の金属元素が、Fe、Ni、Co、Mnのいずれかの一種であることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)前記スクラップがLi、Ni、Co、Mnを少なくとも二種類含むリチウムイオン二次電池用正極材であることを特徴とする(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記スクラップが破砕されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スクラップから金属を回収するに際して、安定的に継続して電解を行うことを可能にし、その結果その電析に係る電流効率が良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一つの側面から、本発明は、スクラップからの回収方法を提供する。
すなわち、本発明は、金属または金属酸化物のスクラップから金属を回収する方法であって、前記スクラップを懸濁させた懸濁物に、回収対象の金属よりも卑な金属からなる遷移金属化合物を添加して、当該遷移金属化合物が添加された懸濁物を電解液として電解することにより、回収対象の金属を回収することを特徴とするスクラップからの金属回収方法である。
【0011】
本発明の対象となるスクラップは、金属または金属酸化物を含むものであれば特に限定されないが、Li、Ni、Co、Mnを少なくとも二種類含む電子材料、例えば半導体及び電子部品、液晶ディスプレイ、工具コーティング、ガラスコーティング、光ディスク、ハードディスク、太陽電池、リチウムイオン2次電池用正極材や当該正極材等に用いるスパッタリングターゲット材等由来のスクラップが挙げられる。このため、これらの構成材料に含まれている金属(例えば、Ag、Au、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、In、Mn、Mo、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、Sn、Ta、Ti、W、それらの合金、それらの導電性酸化物等)が、本発明に係る回収対象となる金属である。具体的な金属の種類を、各種用途とともに以下に列挙する:
・半導体及び電子部品:Ag,Al,Au,AuAs,AuSb,AuSi,AuSn,Al
2O
3,Cr,Cu,CuCr,CrNiAl,CrSi,GeS
2,Hf,Ir,Mo,Ni,NiV,OsRu,Pd,Pt,PtNi,Rh,Ru,Si,Ta,TaAl,Ti,WTi,WTiなど
・液晶ディスプレイ:Ag,Ag合金,Al,AlNd,Cr,InSn,ITO,Mo,MoW,Si,SiO
2,Ta,Ti,W,ZnAl,ZAO(ZnO+Al
2O
3)など
・工具コーティング:Cr,CrAl,Ti,TiAlなど
・ガラスコーティング:Ag,Ag合金,Al,Bi,Cr,InSn,ITO,Nb,Nb
2O
5,NiCr,Si,SiO
2,Sn,Ta
2O
5,Ti,W,ZAO(ZnO+Al
2O
3),Znなど
・光ディスク:Al
2O
3,C,Co合金,Cr,Fe合金,Ta,Tb合金,Te合金,Pt,Pt合金など
・ハードディスク:Al
2O
3,C,CoCr,CoCrTa,CoCrPt,Cr,Cr合金,Cr酸化物,MgO,Mo,NiAl,NiSi,SiC,Ta,Ta
2O
5,Ti酸化物,V,Wなど
・太陽電池:Ag,Al,CIG(Cu+In+Ga),CuGa,ITO,Mo,Ni/NiV,Sn,ZAO(ZnO+Al
2O
3)など
・リチウムイオン2次電池用正極材:正極材としてLiCoO
2,LiNiO
2,LiMn
2O
4,Li(Co
xNi
yMn
z)O
2〔x+y+z=1〕など、金属としてNi,Co,Mnなど、合金としてNiCoなど。
【0012】
本発明に係る粉状スクラップからの金属の回収方法は、まず、処理対象となる粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物を含有する原料混合物を準備する。当該原料混合物としては、金属又は導電性金属酸化物のスクラップを粉砕した、いわゆるリサイクル材等が挙げられる。
【0013】
次に、アノード及びカソード、電解液を備えた電解槽を準備し、電解液に上記粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物を含有する原料混合物を投入して懸濁させて、電解液を攪拌しながら電気分解を行う。電気分解を行うと、電解液中で懸濁している粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物が、カソードから供給された電子により還元されてカソード表面に析出する。次に、カソード表面に析出した金属を回収する。
【0014】
また、電解液として用いる懸濁物は、鉱酸でスクラップを懸濁させて得られる。ここで、懸濁に用いる鉱酸は、硫酸、塩酸、硝酸などが挙げられ、中でも硫酸が好ましい。また、酸による懸濁の条件であるが、pHが3よりは小さくならない程度、また温度が70℃程度であることが好ましい。
【0015】
次に、電解反応に際して添加する、回収対象の金属よりも卑な遷移金属化合物であるが、回収対象となる金属に応じて適宜選択される遷移金属を有するものである。遷移金属として、具体的には、Fe、Ni、Co、Mnのいずれかから選択される。
例えば、回収対象の金属がLi、Ni、Coである場合、これらよりも卑であるMnが遷移金属化合物の金属元素として用いることができる。また、遷移金属化合物は、この金属元素の酸化物、硫化物または硫酸塩、カルボン酸塩等の有機酸塩などが挙げられる。
【0016】
回収対象の金属よりも卑な遷移金属を含む遷移金属化合物を添加することにより、安定した電解反応が継続する理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。
回収対象の金属が、電解により水酸化物や酸化物として電解液中に存在するようになる。そこで、添加された遷移金属により、水酸化物や酸化物の金属成分が還元され、還元された金属が電析される。一方で、還元に寄与した遷移金属が電解反応場で還元されることになり、還元された遷移金属が再度金属水酸化物や金属酸化物の還元に寄与することとなる。このようにして、電解反応により回収対象の金属が還元される環境が継続するためと考えられる。
【0017】
また、遷移金属化合物は、回収対象の金属に対して1〜50質量%、好ましくは5〜20質量%の金属を含有する量で添加することが好ましい。この割合で遷移金属化合物を使用することにより、電解液中に生成する金属水酸化物や金属酸化物の中の金属が効率よく還元され、電解反応により析出するようになる。
これにより、従来における課題の一つとなっていた、電解析出に係る電流効率の改善を図ることができ、例えば積算電流値から見積もった電流効率が、80%以上とすることが可能になる。また、スクラップに含まれる回収対象金属を100%としたときの回収率に関しては、100%回収できることが理想ではあるが、100%に近くなるにつれ、効率が悪くなるため、例えば95%の回収率になるまで電解を継続させることが好ましい。
【0018】
これにより、従来において、電解反応時に生じる水酸化物や酸化物となってスクラップから取り切れなかった金属の回収も可能になり、生産性が向上する。また、電解反応の析出に係る電流効率も上がるため、エネルギー効率が上がり、結果としてコストを下げることが可能になる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
Li、Ni、Co、Mnの酸化物からなる正極材のスクラップ粉1kgを硫酸水溶液10Lに懸濁させた。その時のpHは4であった。続いてその懸濁液に硫酸マンガン200gを添加した。その懸濁液を電解液として、アノードに寸歩安定化電極(DSE)、カソードにTiを用いて、15Aの定電流にて60℃で懸濁電解を行った。このときの電流密度は5A/dm
2程度であった。30時間後、カソードの電極表面に、NiとCoの合金が400g析出、Liは電解液に溶解した。積算電流値から見積もった析出電流効率は80%だった。
【0020】
(実施例2)
添加剤を酸化Mnとする以外、実施例1と同様に懸濁電解を行った。30時間後、カソードの電極表面に、NiとCoの合金が400g析出、Liは電解液に溶解した。積算電流値から見積もった析出電流効率は80%だった。
【0021】
(比較例1)
実施例1で、硫酸マンガンを添加しない以外は、同様に懸濁電解した。30時間後の析出合金は250gとなった。電流効率が50%だった。