(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
母材が1.5〜5.0質量%のTiを含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる組成を有し、母材表面にCoの含有比率が20質量%以上であるCo−Ni合金めっき層を有する、半田との密着強度に優れている電子部品用チタン銅。
【背景技術】
【0002】
携帯電話のカメラレンズ部にはオートフォーカスカメラモジュール(AFM)と呼ばれる電子部品が使用される。携帯電話のカメラのオートフォーカス機能は、AFMに使用される材料のばね力でレンズを一定方向に動かす一方、周囲に巻かれたコイルに電流を流すことで発生する電磁力によりレンズを材料のばね力が働く方向とは反対方向へ動かす。このような機構でカメラレンズが駆動しオートフォーカス機能が発揮される(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
したがって、AFMに使用される銅合金箔には、電磁力による材料変形に耐えるほどの強度が必要になる。強度が低いと、電磁力による変位に材料が耐えることができず、永久変形(へたり)が発生する。へたりが生じると、一定の電流を流したとき、レンズが所望の位置に移動できずオートフォーカス機能が発揮されない。
【0004】
AFM用のばね材には従来、箔厚0.1mm以下で、1100MPa以上の0.2%耐力を有するCu−Ni−Sn系銅合金箔が使用されてきた。しかし、近年のコストダウン要求により、Cu−Ni−Sn系銅合金より比較的材料価格が安いチタン銅箔が使用されるようになり、その需要は増加しつつある。
【0005】
このような背景の下、AFM用のばね材として好適なチタン銅が種々提案されている。例えば特許文献3においては、チタン銅箔の0.2%耐力と耐へたり性を向上するために、1.5〜5.0質量%Tiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、圧延方向に平行な方向での0.2%耐力が1100MPa以上であり、且つ、圧延面においてX線回折を用いて測定した(220)面の積分強度I
(220)と(311)面の積分強度I
(311)に対し、I
(220)/I
(311)≧15なる関係を満足するチタン銅箔を提案している。また、特許文献4では、耐へたり性を向上することを目的として、1.5〜5.0質量%Tiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、圧延方向に平行な方向での0.2%耐力が1100MPa以上であり、且つ、圧延方向に直角な方向での算術平均粗さ(Ra)が0.1μm以下であるチタン銅箔を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、チタン銅箔からAFM用のばね材を製造する過程では、チタン銅箔をエッチングにより形状加工する方法が採用されている。得られたばね材は、半田を介してコイルに接合される。しかしながら、従来のAFM用チタン銅箔の開発は強度向上や耐へたり性の向上を目的としたものが主流であり、半田との密着性を考慮したものではなかった。本発明者の検討結果によれば、半田とチタン銅箔の接合部の密着強度は弱いため、接合部の密着強度を向上させ、接合部の信頼性を高めることも重要な課題である。また、AFMへの適用を考慮すると、半田との密着強度のみならずエッチング性にも優れていることが望ましい。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は半田との密着強度を高めることのできるチタン銅を提供することを課題とする。好ましくは、本発明は半田との密着強度を高めるとともにエッチング性にも優れたチタン銅を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
チタン銅は活性元素であるTiを含有するため表面酸化しやすい。表面酸化すると半田付け性が低下することは知られているが、チタン銅においては表面の酸化被膜を除去しても依然として十分な半田密着性が得られないことが分かった。また、銅自体は半田との密着強度は高いことからみて、チタン銅において半田密着強度が低いのはチタンが原因であると考えられる。このような点を踏まえ、本発明者はチタン銅と半田の密着強度が低い原因について調査したところ、チタン銅に半田付けする際の熱によってCu−Sn−Tiの拡散層が形成され、この拡散層が密着性を大きく低下させる原因であることを見出した。
【0010】
本発明者は当該拡散層の形成を阻害することが半田密着性の向上に有効であると考えて、チタン銅に表面処理を施すことを検討したところ、チタン銅表面にNiめっき、Coめっき、又はNi−Co合金めっきを形成することで、半田密着性が顕著に向上することを見出した。更に、めっき被膜中にCoを含有させることで優れたエッチング性を確保することができ、AFM用のばね材をチタン銅箔からエッチングにより形状加工する際に有利であることを見出した。
【0011】
本発明は上記知見に基づいて完成したものであり、一側面において、母材が1.5〜5.0質量%のTiを含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる組成を有し、母材表面にNiめっき層、Coめっき層、及びCo−Ni合金めっき層よりなる群から選択されるめっき層を有するチタン銅である。
【0012】
本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、前記めっき層がCoめっき層又はCo−Ni合金めっき層である。
【0013】
本発明に係るチタン銅の別の一実施形態においては、前記めっき層がCo−Ni合金めっき層である。
【0014】
本発明に係るチタン銅の更に別の一実施形態においては、Co−Ni合金めっき層中のCoの含有比率が50質量%以上である。
【0015】
本発明に係るチタン銅の更に別の一実施形態においては、前記めっき層の厚みが0.03μm以上である。
【0016】
本発明に係るチタン銅の更に別の一実施形態においては、母材が更に、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、Cr及びZrから選択される1種以上の元素を総量で0〜1.0質量%含有する。
【0017】
本発明に係るチタン銅の更に別の一実施形態においては、母材が厚み0.1mm以下の箔の形態にある。
【0018】
本発明は別の一側面において、本発明に係るチタン銅を備えた電子部品である。
【0019】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るチタン銅と半田の接合体であって、チタン銅のめっき層表面に半田との接合部位を有する接合体である。
【0020】
本発明は更に別の一側面において、箔の形態にあるチタン銅をエッチングにより形状加工する工程と、得られたチタン銅の形状加工品をめっき層を有する箇所において半田付けにより導電性部材と接合する工程とを含むチタン銅と導電性部材の接続方法である。
【0021】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るチタン銅をばね材として備えたオートフォーカスモジュールである。
【0022】
本発明は更に別の一側面において、レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢する本発明に係るチタン銅製のばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備えたオートフォーカスカメラモジュールであって、前記電磁駆動手段はコイルを備えており、ばね部材は前記めっき層を有する箇所において半田付けによりコイルと接合されているオートフォーカスカメラモジュールである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、チタン銅の問題点であった半田との低い密着強度を向上させることができ、めっき厚みを最適化することにより、従来の10倍以上、更には40倍以上の密着強度を得ることも可能となる。また、Niめっきは半田との密着性の向上に寄与するが、エッチング性が低い。しかしながら、めっき被膜中にCoを混入することで、半田との密着強度を高めつつエッチング性にも優れたチタン銅の提供が可能となる。このため、本発明に係るチタン銅の好ましい実施形態は、エッチングによる形状加工と半田付け性の両方が要求されるAFM用のばね材としても好適に利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1)Ti濃度
本発明に係るめっき層を有するチタン銅においては、1.5〜5.0質量%のTiを含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる組成を有するチタン銅を母材として使用することができる。不可避的不純物とは、おおむね、金属製品において、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするもので、本来は不要なものであるが、微量であり、金属製品の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物とすることができる。また、不可避的不純物の総量は一般的には50ppm以下であり、典型的には30ppm以下であり、より典型的には10ppm以下である。チタン銅は、溶体化処理によりCuマトリックス中へTiを固溶させ、時効処理により微細な析出物を合金中に分散させることにより、強度及び導電率を上昇させることが可能である。Ti濃度が1.5質量%未満になると、析出物の析出が不充分となり所望の強度が得られない。Ti濃度が5.0質量%を超えると、加工性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなる。強度及び加工性のバランスを考慮すると、好ましいTi濃度は2.9〜3.5質量%である。
【0026】
(2)その他の添加元素
また、母材に対して、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、CrおよびZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有させることにより、強度を更に向上させることができる。これら元素の合計含有量が0、つまり、これら元素を含まなくても良い。これら元素の合計含有量の上限を1.0質量%としたのは、1.0質量%を超えると、加工性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなるからである。強度及び加工性のバランスを考慮すると、上記元素の1種以上を総量で0.005〜0.5質量%含有させることが好ましい。
【0027】
(3)0.2%耐力
オートフォーカスカメラモジュールの導電性ばね材として好適なチタン銅に必要な0.2%耐力は1100MPa以上であるところ、本発明に係るチタン銅においては、圧延方向に平行な方向での0.2%耐力が1100MPa以上を達成することができる。本発明に係るチタン銅の0.2%耐力は好ましい実施形態において1200MPa以上であり、更に好ましい実施形態において1300MPa以上である。
【0028】
0.2%耐力の上限値は、本発明が目的とする強度の点からは特に規制されないが、手間及び費用がかかるため、本発明に係るチタン銅の0.2%耐力は一般には2000MPa以下であり、典型的には1600MPa以下である。
【0029】
本発明においては、チタン銅の圧延方向に平行な方向での0.2%耐力は、JIS Z2241(金属材料引張試験方法)に準拠して測定する。
【0030】
(4)チタン銅の形態
本発明に係るめっき層を有するチタン銅の母材は、厚みが0.1mm以下の箔の形態として提供されるのが典型的である。箔厚は0.08〜0.03mmとすることができ、典型的な実施形態においては箔厚は0.05〜0.03mmとすることができる。チタン銅の母材は箔以外の形態とすることもできる。例えば、厚みが0.1mm超の板状とすることもでき、管、棒、線などの各種伸銅品の形態とすることが可能である。また、チタン銅の母材は、めっきされた後、所望の形状に加工可能である。例えば、オートフォーカスモジュール用のばね材として本発明に係るめっき層を有するチタン銅を使用する場合、箔の形態としたチタン銅をエッチングによって回路部分やばね部分を形成するなどして所望の形状に加工することが可能である。エッチングによる形状加工自体は公知の手法により行えばよいが、例えばエッチング後に残したい箇所の母材表面をエッチングレジストで保護した後、ドライエッチング又はウェットエッチングを行って形状加工を行い、その後にレジストを除去する方法が挙げられる。
【0031】
(5)めっき層
本発明に係るめっき層を有するチタン銅は、表面にNiめっき層、Coめっき層、及びCo−Ni合金めっき層よりなる群から選択されるめっき層を有することが特徴の一つである。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、Ni又はCoを含有するめっき層を設けることで、チタン銅と半田を加熱により接合する際にCu−Sn−Tiの拡散層の形成を効果的に阻害するので、半田密着性が向上すると考えられる。
【0032】
また、エッチング性も高める観点からは、めっき層中にはCoを含有させることが好ましい。Niは耐食性が高くエッチングし難い元素であるため、エッチング時の腐食が一部に集中した際に母材までエッチングされてしまうため、均一な回路形成が難しい。一方、理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、Niより卑な金属の中でも、Coは標準電極電位がNiに近いため、合金めっきを作りやすく、かつNiと化学的な共通点が多いことから、めっき層中にCoを含有させることにより、エッチング性を向上させることが可能であると考えられる。従って、本発明に係るめっき層を有するチタン銅の好ましい実施形態においては、めっき層がCoめっき層又はCo−Ni合金めっき層である。
【0033】
ただし、Coは高価な金属であるため、Coの単独めっき層とするとコストが割高となってしまう。また、Co−Ni合金めっきであっても十分なエッチング性を確保することは可能である。このため、半田密着性、エッチング性及び経済性を総合的に考慮するとめっき層がCo−Ni合金めっき層であることがより好ましい。Co−Ni合金めっき層においては、エッチング性の観点からはCoの含有比率が20質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更により好ましく、コストの観点からは90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
なお、Niめっき層、Coめっき層、及びCo−Ni合金めっき層にはそれぞれ不可避的不純物が含有し得るが、一般的なめっき条件で含有する程度の不可避的不純物であれば、特性に大きく影響しない。従って、特性に影響しない程度の不可避的不純物であれば、めっきに含有させることが出来る。また、その他の元素も本発明の目的を阻害しない範囲でめっき層中に含有させることも可能である。そのため、本発明においては、Niめっき層というのはNiが50質量%以上を占めるめっき層を指す。典型的にはNiめっき層中のNi濃度は60質量%以上であり、より典型的には80質量%以上であり、更により典型的には90質量%以上であり、更により典型的には98質量%以上であり、100質量%とすることもできる。また、本発明においては、Coめっき層というのはCoが50質量%以上を占めるめっき層を指す。典型的にはCoめっき層中のCo濃度は60質量%以上であり、より典型的には80質量%以上であり、更により典型的には90質量%以上であり、更により典型的には98質量%以上であり、100質量%とすることもできる。また、本発明においては、Co−Ni合金めっき層というのはCo及びNiの合計濃度が50質量%以上を占めるめっき層を指す。典型的にはCo−Ni合金めっき層中のCo及びNiの合計濃度は60質量%以上であり、より典型的には80質量%以上であり、更により典型的には90質量%以上であり、更により典型的には98質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0035】
めっき層は母材表面の一部又は全部に形成されていてもよい。また、母材の主表面の一方又は両方の面にめっき層を形成してもよい。本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、チタン銅の母材を箔の形態として提供し、当該箔の一方又は両方の主表面に前記めっき層を形成してもよい。めっき層は、例えば電気めっき、無電解めっき及び浸漬めっきのような湿式めっき等により得ることができる。コストの観点から電気めっきが好ましい。
【0036】
(6)めっき層の厚み
めっき層の厚みは半田との密着強度に大きな影響を与える。本発明者の検討結果によると、半田との密着強度はめっき層の厚みが大きくなるにつれて上昇するが、0.03μm以上のときに顕著に上昇する。めっき層の厚みが0.03μm以上になると、めっき層を設けない場合の半田密着性に比べて半田密着強度を10倍以上にすることができる。めっき層の厚みは好ましくは0.06μm以上であり、より好ましくは0.1μm以上である。0.1μm以上の厚みとしても半田密着性の向上効果が飽和するとともに、エッチング性を低下させ得るので、めっき層の厚みは5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明においては、めっき層の厚みはJIS H8501(1999)の蛍光X線式試験方法に準拠して測定する。実施例では、(株)日立ハイテクサイエンス製の蛍光X線膜厚計(型式:SFT9250)を用いて測定した。
【0038】
(7)用途
本発明に係るめっき層を有するチタン銅は、限定的ではないが、スイッチ、コネクタ(特に、過酷な曲げ加工性を必要としないフォーク型のFPCコネクタ)、オートフォーカスカメラモジュール、ジャック、端子、リレー等の電子部品の材料として好適に使用することができる。また、本発明に係るめっき層を有するチタン銅を箔として提供し、これと絶縁基板をめっき層が露出するように貼り合わせて銅張積層板を形成し、エッチング工程を経て配線を形成することでプリント配線板とし、プリント配線板の金属配線上に各種の電子部品が半田付けにより搭載されることにより、プリント回路板を製造することもできる。
【0039】
とりわけ、本発明に係るめっき層を有するチタン銅はオートフォーカスモジュール用のばね材として好適に使用できる。そのため、本発明は一側面において、本発明に係るチタン銅をばね材として備えたオートフォーカスモジュールである。典型的なオートフォーカスモジュールにおいては、レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢する本発明に係るめっき層を有するチタン銅製のばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備える。前記電磁駆動手段は例示的には、コの字形円筒形状のヨークと、ヨークの内周壁の内側に収容されるコイルと、コイルを囲繞すると共にヨークの外周壁の内側に収容されるマグネットを備えることができる。ばね部材は前記めっき層を有する箇所において半田付けによりコイル(典型的にはコイルのリード線)と接合することができる。
【0040】
図1は、本発明に係るオートフォーカスカメラモジュールの一例を示す断面図であり、
図2は、
図1のオートフォーカスカメラモジュールの分解斜視図であり、
図3は、
図1のオートフォーカスカメラモジュールの動作を示す断面図である。
【0041】
オートフォーカスカメラモジュール1は、コの字形円筒形状のヨーク2と、ヨーク2の外壁に取付けられるマグネット4と、中央位置にレンズ3を備えるキャリア5と、キャリア5に装着されるコイル6と、ヨーク2が装着されるベース7と、ベース7を支えるフレーム8と、キャリア5を上下で支持する2個のばね部材9a、9bと、これらの上下を覆う2個のキャップ10a、10bとを備えている。2個のばね部材9a、9bは同一品であり、同一の位置関係でキャリア5を上下から挟んで支持すると共に、コイル6への給電経路として機能している。コイル6に電流を印加することによってキャリア5は上方に移動する。尚、本明細書においては、上及び下の文言を適宜、使用するが、
図1における上下を指し、上はカメラから被写体に向う位置関係を表わす。
【0042】
ヨーク2は軟鉄等の磁性体であり、上面部が閉じたコの字形の円筒形状を成し、円筒状の内壁2aと外壁2bを持つ。コの字形の外壁2bの内面には、リング状のマグネット4が装着(接着)される。
【0043】
キャリア5は底面部を持った円筒形状構造の合成樹脂等による成形品であり、中央位置でレンズを支持し、底面外側上に予め成形されたコイル6が接着されて搭載される。矩形上樹脂成形品のベース7の内周部にヨーク2を嵌合させて組込み、更に樹脂成形品のフレーム8でヨーク2全体を固定する。
【0044】
ばね部材9a、9bは、いずれも最外周部がそれぞれフレーム8とベース7に挟まれて固定され、内周部120°毎の切欠き溝部がキャリア5に嵌合し、熱カシメ等にて固定される。
【0045】
ばね部材9bとベース7およびばね部材9aとフレーム8間は接着および熱カシメ等にて固定され更に、キャップ10bはベース7の底面に取付け、キャップ10aはフレーム8の上部に取付けられ、それぞればね部材9bをベース7とキャップ10b間に、ばね部材9aをフレーム8とキャップ10a間に挟み込み固着している。
【0046】
コイル6の一方のリード線は、キャリア5の内周面に設けた溝内を通って上に伸ばし、ばね部材9aに半田付けする。他方のリード線はキャリア5底面に設けた溝内を通って下方に伸ばし、ばね部材9bに半田付する。
【0047】
ばね部材9a、9bは、本発明に係るチタン銅箔の板バネである。バネ性を持ち、レンズ3を光軸方向の初期位置に弾性付勢する。同時に、コイル6への給電経路としても作用する。ばね部材9a、9bの外周部の一箇所は外側に突出させて、給電端子として機能させている。
【0048】
円筒状のマグネット4はラジアル(径)方向に磁化されており、コの字形状ヨーク2の内壁2a、上面部及び外壁2bを経路とした磁路を形成し、マグネット4と内壁2a間のギャップには、コイル6が配置される。
【0049】
ばね部材9a、9bは同一形状であり、
図1及び2に示すように同一の位置関係で取付けているので、キャリア5が上方へ移動したときの軸ズレを抑制することができる。コイル6は、巻線後に加圧成形して製作するので、仕上がり外径の精度が向上し、所定の狭いギャップに容易に配置することができる。キャリア5は、最下位置でベース7に突当り、最上位置でヨーク2に突当るので、上下方向に突当て機構を備えることとなり、脱落することを防いでいる。
【0050】
図3は、コイル6に電流を印加して、オートフォーカス用にレンズ3を備えたキャリア5を上方に移動させた時の断面図を示している。ばね部材9a、9bの給電端子に電源が印加されると、コイル6に電流が流れてキャリア5には上方への電磁力が働く。一方、キャリア5には、連結された2個のばね部材9a、9bの復元力が下方に働く。従って、キャリア5の上方への移動距離は電磁力と復元力が釣合った位置となる。これによって、コイル6に印加する電流量によって、キャリア5の移動量を決定することができる。
【0051】
上側ばね部材9aはキャリア5の上面を支持し、下側ばね部材9bはキャリア5の下面を支持しているので、復元力はキャリア5の上面及び下面で均等に下方に働くこととなり、レンズ3の軸ズレを小さく抑えることができる。
【0052】
従って、キャリア5の上方への移動にあたって、リブ等によるガイドは必要なく、使っていない。ガイドによる摺動摩擦がないので、キャリア5の移動量は、純粋に電磁力と復元力の釣合いで支配されることとなり、円滑で精度良いレンズ3の移動を実現している。これによってレンズブレの少ないオートフォーカスを達成している。
【0053】
なお、マグネット4は円筒形状として説明したが、これに拘わるものでなく、3乃至4分割してラジアル方向に磁化し、これをヨーク2の外壁2bの内面に貼付けて固着しても良い。
【0054】
(8)製造方法
本発明に係るチタン銅の母材の製造方法の一例について説明する。まず、溶解及び鋳造によりインゴットを製造する。溶解及び鋳造は、チタンの酸化磨耗を防止するため、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の第三元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第三元素の溶解後に添加すればよい。従って、Cuに、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、Cr及びZrから選択される1種以上を添加し、次いでTiを所定量添加してインゴットを製造することが望ましい。
【0055】
その後、熱間圧延、冷間圧延1、溶体化処理、冷間圧延2、時効処理をこの順で実施し、所望の厚み及び特性を有する銅合金に仕上げることができる。高強度を得るために、時効処理の後に冷間圧延3を行ってもよい。熱間圧延及びその後の冷間圧延1の条件はチタン銅の製造で行われている慣例的な条件で行えば足り、特段要求される条件はない。また、溶体化処理についても慣例的な条件で構わないが、例えば700〜1000℃で5秒間〜30分間の条件で行うことができる。
【0056】
高強度を得るためには、冷間圧延2の圧下率を55%以上に規定するのが好ましい。より好ましくは60%以上、更に好ましくは65%以上である。圧下率の上限は、本発明が目的とする強度の点からは特に規定されないが、工業的に99.8%を超えることはない。
【0057】
時効処理の加熱温度は200〜450℃、加熱時間は2〜20時間とするのが好ましい。加熱温度が200℃未満又は450℃を超えると高強度を得られにくくなる。加熱時間が2時間未満又は20時間を越えた場合も高強度が得られにくくなる。
【0058】
冷間圧延3を実施する場合の圧下率は35%以上に規定するのが好ましい。より好ましくは40%以上、更に好ましくは45%以上である。この圧下率が35%未満になると、高強度が得られにくくなる。圧下率の上限は、強度の点からは特に規定されないが、工業的に99.8%を超えることはない。
【0059】
なお、当業者であれば、上記各工程の合間に適宜、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト酸洗等の工程を行なうことができることは理解できるだろう。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をより良く理解するために提示するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0061】
各サンプルの母材は、表1に記載の所定の合金成分を含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる組成を有する。真空溶解炉にて電気銅2.5kgを溶解し、表1に記載の合金組成が得られるよう合金元素を添加した。この溶湯を鋳鉄製の鋳型に鋳込み、厚さ30mm、幅60mm、長さ120mmのインゴットを製造した。このインゴットを熱間圧延した後、次の工程順で加工し、0.03mmの箔厚をもつチタン銅箔を作製した。なお、比較例2及び3については、純銅の圧延銅箔(JX日鉱日石金属株式会社製:銅合金番号C1100、厚み0.035mm)を用いた。
【0062】
(1)熱間圧延:インゴットを950℃で3時間加熱し、厚さ10mmまで圧延した。
(2)研削:熱間圧延で生成した酸化スケールをグラインダーで除去した。研削後の厚みは9mmであった。
(3)冷間圧延1:最終の箔厚が得られるように、冷間圧延2の圧下率を考慮して圧下率を調整した。
(4)溶体化処理:800℃に昇温した電気炉に材料を装入し、5分間保持した後、試料を水槽に入れて急冷却した。
(5)冷間圧延2:圧下率98%で圧延した。
(6)時効処理:材料を300℃に加熱して2時間、Ar雰囲気中で加熱した。
【0063】
得られた各チタン銅箔又は比較用の圧延銅箔の表面を脱脂及び酸洗して清浄化した後、表1に記載のめっき組成及び厚みで当該表面にめっき処理を行った。
Niめっき層(めっき組成 Ni:100)は以下の電気めっき条件で形成した。
・Niイオン:20g/L
・pH:3.0
・浴温度:50℃
・電流密度:5A/dm
2
・時間:めっき厚さによって調整
Co−Niめっき層(めっき組成 Co:60 Ni:40)は以下の電気めっき条件で形成した。
・Niイオン:10g/L
・Coイオン:10g/L
・pH:2.5
・浴温度:50℃
・電流密度:5A/dm
2
・時間:めっき厚さによって調整
なお、表1中のめっき組成は理論値であり、実際のめっき組成中には不可避的不純物が存在する。めっき厚みは上述した蛍光X線膜厚計により測定した。
【0064】
<1.半田密着強度試験>
めっき後の各サンプル箔(比較例1及び3はめっき無し)および純銅箔(JX日鉱日石金属(株)製C1100、箔厚0.035mm)を千住金属工業(株)製Pbフリー半田(ESC M705)を介して接合し、アイコーエンジニアリング(株)製の精密荷重測定器(MODEL−1605NL)を用いて180°引き剥がし試験を100mm/minの速度で行うことにより、その密着強度を測定した。サンプル箔は幅15mm、長さ200mmの短冊状とし、純銅箔は幅20mm、長さ200mmの短冊状とし、長さ方向に対して中央部30mm×15mmの面積を接合温度を245℃±5℃として接合した。密着強度の測定は、加熱前と加熱後の両方について行い、加熱条件は温度85℃、100時間とした。なお、純銅箔の厚みは、評価するサンプル箔の厚みに近ければ問題ないが、0.02mm〜0.05mmが好ましく、本実施例においては0.035mmの純銅箔を用いた。
【0065】
<2.半田濡れ性試験>
各サンプル箔から幅10mm、長さ50mmの短冊試験片を採取し、10%硫酸水溶液中で洗浄した。JIS−C60068−2−54:2009(旧JIS−C0053)に準じ、メニスコグラフ法により、ロジン−エタノールフラックスを使用し、250℃±3℃に加熱した半田浴(Pbフリー半田)に12mm、10秒間浸漬した。この際、濡れの良い材料は半田が濡れ上がることから、濡れ上がったものを○、半田をはじいたものを×と評価した。
【0066】
<3.複合環境試験>
各サンプル箔を温度85℃、相対湿度85%の恒温槽内で100時間保持したときの変色度合いを調査した。裸材(比較例1)と比較して、変色度合いが小さかった場合を○と評価した。
<4.エッチング直線性>
37質量%、ボーメ度40°の塩化第二鉄水溶液を用いて、各サンプル箔に対してエッチングを行い、線幅100μm、長さ150mmの直線回路を形成した。走査型電子顕微鏡(日立製、S−4700)を用いて回路を観察し(観察長さ200μm)、最大回路幅と最小回路幅の差が4μm未満であるものを◎、4〜10μmであるものを○、10μmを越えるものを×で評価した。
<5.強度試験(0.2%耐力)>
実施例1及び5のめっき後のサンプル箔について、引張試験機を用いて上述した測定方法に従い圧延方向と平行な方向の0.2%耐力を測定したところ、それぞれ1420MPa、1417MPaであった。
【0067】
結果を表1に示す。表1より、Niめっきを行うことで、半田密着性を向上可能であることがわかる。Co−Ni合金めっきの場合、エッチングの直線性を確保しながら半田密着性を向上できることがわかる。また、めっき厚みを0.03μm以上とすることで、半田密着性が顕著に向上することもわかる。Co単独めっきを行ったときの実施例は掲載していないが、CoをNiめっき中に含めることによって半田密着性が低下する傾向にはなくむしろ上昇する傾向にあり、また、Coの添加によりエッチング性を向上させることは明らかであるため、Coの単独めっきであっても本発明が目的とする半田密着性の向上はもちろんのこと、エッチング性も兼ね備えたチタン銅が得られることは当業者には理解できると思料する。
【0068】
純銅箔およびNiめっきを施した純銅箔である比較例2および比較例3では、強度が低いため、AFM用ばね材としては不適である。
【0069】
Ti濃度が5.0質量%を越えた比較例4は圧延中に割れが発生したため、評価出来なかった。
【0070】
【表1-1】
【0071】
【表1-2】