【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、「動的偏波・周波数制御による衛星通信の大容量化技術の研究開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
夜船 誠致、ウェバー ジュリアン、矢野 一人、伴 弘司、小林 聖,衛星通信における多偏波空間多重伝送技術の提案,電子情報通信学会技術研究報告.RCS、無線通信システム,2012年 8月23日,112(192),pp.49-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記写像変換部は、前記第1送信シンボルがマッピングされた第1信号平面の全てが、前記直交伝送路上の第2信号平面と直交しないような角度で前記第1信号平面を回転させ、回転させた前記第1信号平面にマッピングされた前記第1送信シンボルを、前記第2信号平面に写像する、
請求項3に記載の無線通信システム。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの普及により、マイクロ波帯を中心として周波数資源の不足が顕在化しており、高い周波数利用効率を実現する伝送技術が求められている。近年では、無線通信の周波数利用効率を向上させる技術としてスペクトラム圧縮や多偏波空間多重が検討されている。
【0003】
図14は、従来の非直交空間多重伝送方式による無線通信システム200の構成例を示す図である。無線通信システム200は、送信装置300及び受信装置400を備える。送信装置300は、符号化部301、n(nは1以上の整数)系統の変調器302、写像変換器303及び送信変調部304を備える。
図14にはn系統の変調器302として変調器302−1〜変調器302−nが示されている。
【0004】
符号化部301は、送信データのビット列(以下、「送信ビット列」という。)に誤り訂正のための符号化処理を行う。符号化部301は、符号化処理を行った送信ビット列をn系統の部分ビット列に分割し、各系統の変調器302に出力する。
【0005】
n系統の変調器302のそれぞれは、符号化部301から出力された部分ビット列に変調処理を行う。この変調処理により、各部分ビット列が対応する変調器302の複素信号平面上にマッピングされ、送信一次シンボルが得られる。例えば変調器302は、BPSK(Binary Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、8PSK(Octuple Phase Shift Keying)等の変調方式によって変調処理を行う。
【0006】
写像変換器303は、変調処理によって得られたn系統の送信一次シンボルをm(mは1以上n未満の整数)系統の直交伝送路平面(以下、「直交伝送路平面」という。)に写像することにより、n系統の送信一次シンボルをm系統の送信二次シンボルに変換する。
送信変調部304は、m系統の送信二次シンボルを直交伝送路に送出する。
【0007】
一方、受信装置400は、受信復調部401、最尤判定器402及び復号化部403を備える。受信復調部401は、受信信号からベースバンド信号を抽出し、各直交伝送路平面における受信信号のシンボル(以下、「受信シンボル」という。)を取得する。
【0008】
最尤判定器402は、各直交伝送路平面における受信シンボルの信号点(以下、「受信点」という。)と、各直交伝送路平面において送信二次シンボルと成り得る信号点の候補(以下、「送信点候補」という。)の組み合わせから生成される全てのシンボルレプリカと、の組み合わせごとに両者の二乗ユークリッド距離を算出する。最尤判定器402は、各直交伝送路について算出された二乗ユークリッド距離の合計値をメトリックとして、メトリックが最小となるシンボルレプリカを送信二次シンボルと同定する。
【0009】
復号化部403は、送信装置300が送信データからm系統の送信二次シンボルを生成する処理とは逆の手順の処理を実行することにより、送信二次シンボルと同定されたシンボルレプリカに基づいて送信データを復元する。
【0010】
このような非直交空間多重伝送では、複数の複素信号平面上のシンボルを直交伝送路平面に写像することにより送信信号を多重化する。非特許文献1には、2つの直交伝送路(V偏波及びH偏波)に対して3系統の送信一次シンボルを多重化する非直交偏波多重伝送方式について記載されている。非特許文献1では、予め定義された3つの複素信号平面のうちの2つの複素信号平面として直交伝送路平面(V偏波及びH偏波)が用いられている。すなわち、非特許文献1に記載の非直交偏波多重伝送方式では、3つの複素信号平面のうちの2つの複素信号平面(直交伝送路平面)が直交関係にある。そして残りの1つの複素信号平面の送信一次シンボルが2つの直交伝送路平面に写像される。
【0011】
このような非直交偏波多重伝送方式では、従来の直交多重伝送方式のようにsin波及びcos波を用いて直交変調されたシンボルが1つの直交伝送路平面上の信号点に配置されるのではなく、送信ビット列を構成するn系統の部分ビット列が、n系統の送信一次シンボルに変換された後、n系統より少ないm系統の送信二次シンボルに変換される。ここで、n系統の送信一次シンボルは、所定の変調方式に対応するn系統の仮想的な複素信号平面上の第1信号点に対応する。また、m系統の送信二次シンボルは、上記変調方式に対応するm系統の物理的な直交伝送路平面上の第2信号点に対応する。非直交偏波多重伝送方式では、直交伝送路平面と直交しない仮想的な複素信号平面上にマッピングされた信号点が直交伝送路平面上多重化されることにより、情報伝送量を増大させることが可能となる。
【0012】
一方、非特許文献2には、変調信号の送受信を、変調信号のスペクトラムを複数のサブスペクトラムに分割して行う送受信方法が記載されている。また、非特許文献3には、非特許文献2の送受信方法において生成されたサブスペクトラムの一部を除去することにより、周波数利用効率の向上を実現するスペクトラム圧縮伝送方式に関する技術が開示されている。
【0013】
図15は、関連する技術を用いて実現された通信システム500の機能構成を表す機能ブロック図である。通信システム500は、送信装置510及び受信装置520を備える。送信装置510は、変調信号を複数の帯域に分割して送信する。受信装置520は、送信装置510から送信された信号を受信し、分割前の変調信号を復元する。
【0014】
図15に示すように、送信装置510は、変調回路601、送信フィルタバンク602、D/A変換器603を備える。受信装置520は、A/D変換器611、受信フィルタバンク612、復調回路613を備える。送信フィルタバンク602は、直並列変換回路604、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路605、分割回路606、N個(Nは1以上の整数)のスイッチSW−1〜SW−N、N個の周波数シフタ607−1〜607−N、加算回路608、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:高速逆フーリエ変換)回路609、並直列変換回路610を備える。受信フィルタバンク612は、直並列変換回路614、FFT回路615、抽出回路616、N個の周波数シフタ617−1〜617−N、歪補償回路618、加算回路619、IFFT回路620、並直列変換回路621を備える。
【0015】
続いて、通信システム500における信号の流れについて説明する。
図16(A)〜
図16(C)は、送信装置510が帯域をN分割(N=2)し分散配置する際の処理の一例を示す概念図である。
図16(D)〜
図16(F)は、送信装置510によって分割された帯域を受信装置520が合成する際の処理の一例を示す概念図である。
【0016】
送信装置510の変調回路601は、送信するデータ信号をQPSKなどの変調方式で変調し、
図16(A)に示す波形整形された変調信号を送信フィルタバンク602へ入力する。送信フィルタバンク602からの出力信号は、D/A変換器603によってアナログ信号に変換され送信される。
【0017】
送信フィルタバンク602では以下のように処理が行われる。まず、直並列変換回路604が入力信号を直並列変換し、FFT回路605が高速フーリエ変換を行い、時間領域の信号から周波数領域の信号へ変換する。次に、分割回路606が、周波数領域に変換された変調信号に対し、
図16(A)の破線701−1及び701−2で示す信号帯域をN分割する係数を乗算し、N個のサブスペクトラムを生成する(
図16(B))。次に、周波数シフタ607−1〜607−NがN個のサブスペクトラムを周波数軸上の所定の帯域に分散配置し、加算回路608が周波数シフタ607−1〜607−Nの出力を足し合わせる(
図16(C))。
【0018】
次に、IFFT回路609が高速逆フーリエ変換を行い、周波数領域の信号から時間領域の信号へ変換する。そして、並直列変換回路610が並直列変換する。このとき、一部削除する帯域については、周波数シフタ607−1〜607−Nに入力する前に、削除に該当するスイッチSW−1〜SW−Nを開状態(OFF)にすることによって信号の伝達を遮断する。これにより、当該帯域には、信号成分が配置されないことになり、スペクトラムの一部を除去した状態で送信することができる。したがって、送信に要する周波数帯域を削減することができる。
【0019】
受信装置520のA/D変換器611は、受信信号をデジタル信号に変換し、変換後のデジタル信号を受信フィルタバンク612へ入力する。復調回路613は、受信フィルタバンク612から出力された変調信号を復調し、データ信号を復元する。
【0020】
受信フィルタバンク612では以下のように処理が行われる。まず、直並列変換回路614が入力信号を直並列変換し、FFT回路615が高速フーリエ変換を行い、時間領域の信号から周波数領域の信号へ変換する。次に、抽出回路616が、周波数領域に変換された受信信号に対し、
図16(D)の破線701−3及び701−4で示す係数を乗算し、N個のサブスペクトラムを抽出する。次に、周波数シフタ617−1〜617−Nが、抽出された各サブスペクトラムを、送信装置510の周波数シフタ607−1〜607−Nによってシフトされる前の帯域に戻す(
図16(E))。次に、加算回路619が、全てのサブスペクトラムを足し合わせ、合成された変調信号(
図16(F))を得る。
【0021】
次に、IFFT回路620が高速逆フーリエ変換を行い、周波数領域の信号から時間領域の信号へ変換する。そして、並直列変換回路621が並直列変換する。このとき、送信装置510においてスペクトラムが除去された部分の帯域については、受信装置520において送信信号が受信されない。そのため、何らかの補償処理が必要となる。たとえば、この帯域には送信信号の成分が無いだけでなく、受信特性の劣化を招く雑音成分が存在する場合がある。
【0022】
そこで、歪補償回路618は、送信装置510において信号が送信された帯域には、受信装置520において受信したサブスペクトラムに基づいた値を入力とし、送信装置510において信号が除去された帯域については“0”を入力とする補償を行う。これにより、送信装置510において信号が除去された帯域における雑音成分が除去され、受信特性を改善することが可能となる。
【0023】
以上のように、通信システム500は、送信信号の占有帯域を分割し、生成された各サブスペクトラムを周波数軸上の任意の場所に分散配置する。そのため、不連続な空き帯域等を有効利用できる。また、送信信号スペクトラムの一部の帯域を送信しないことによって、送信に要する周波数帯域を削減し、周波数利用効率を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の送信装置1の機能構成を示す概略図である。送信装置1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、送信装置プログラムを実行する。送信装置1は、送信装置プログラムの実行によって直並列変換器11、n系統のシンボルマッパ12、写像変換器13、スペクトラム圧縮制御部14、m系統のスペクトラム圧縮部15及び送信変調器16を備える装置として機能する。なお、送信装置1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。送信装置プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。送信装置プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0038】
直並列変換器11は、送信ビット列をn系統の部分ビット列に分割する。直並列変換器11は、n系統に分割された部分ビット列を、それぞれに対応するn系統のシンボルマッパ12に出力する。
【0039】
n系統のシンボルマッパ12(符号化部)のそれぞれは、直並列変換器11から出力された部分ビット列に変調処理を行う。この変調処理により、部分ビット列が複素信号平面(複素平面)上にマッピングされた送信一次シンボル(第1送信シンボル)が生成される。シンボルマッパ12による変調処理の方式には、PSK(Phase Shift Keying)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation)など変調方式の他、どのような変調方式が用いられてもよい。シンボルマッパ12は、生成した送信一次シンボルを写像変換器13に出力する。
【0040】
写像変換器13(写像変換部)は、n系統のシンボルマッパ12によってマッピングされたn(第1系統数)系統の複素信号平面上の送信一次シンボルをm(第2系統数)系統の直交伝送路平面に写像する。これによりn系統の送信一次シンボルがm系統の直交伝送路上に多重化される。
【0041】
図2は、第1実施形態における写像変換器13の構成例を示すブロック図である。写像変換器13は、余弦出力部131、正弦出力部132、乗算器133−1及び133−2、加算器134−1及び134−2を備える。
図2の例の場合、写像変換器13には3系統の送信一次シンボルS1_1〜S1_3が入力される。
【0042】
図3は、第1実施形態におけるn系統の複素信号平面と、m系統の直交伝送路平面との関係の具体例を示す図である。
図3は、n=3かつm=2の場合の例である。第1複素信号平面は、2系統の直交伝送路(V偏波及びH偏波)のうちのV偏波に対応する複素信号平面である。第2複素信号平面は、H偏波に対応する複素信号平面である。第3複素信号平面3は、第1複素信号平面及び第2複素信号平面のいずれにも直交しない仮想的な複素信号平面である。すなわち、第1複素信号平面と第1複素信号平面とがなす角度θは、0<θ<π/2の範囲の角度である。
【0043】
第1複素信号平面上にマッピングされた送信一次シンボルをS1_1、第2複素信号平面上にマッピングされた送信一次シンボルをS1_2、第3複素信号平面上にマッピングされた送信一次シンボルをS1_3とした場合、乗算器133−1及び133−2には送信一次シンボルS1_3が、加算器134−1には送信一次シンボルS1_1が、加算器134−2には送信一次シンボルS1_2が入力される。
【0044】
余弦出力部131は、第1複素信号平面と、第3複素信号平面との角度θに応じた余弦(cosθ)を出力する。同様に、正弦出力部132は、角度θに応じた正弦(sinθ)を出力する。
【0045】
乗算器133−1は、余弦出力部131から出力された余弦を入力信号(送信一次シンボルS1_3)に乗算する。これにより、送信一次シンボルS1_3が第1複素信号平面に写像される。乗算器133−1は、写像によって抽出された送信一次シンボルS1_3のV偏波方向の成分を加算器134−1に出力する。
【0046】
同様に、乗算器133−2は、正弦出力部132から出力された正弦を入力信号(送信一次シンボルS1_3)に乗算する。これにより、送信一次シンボルS1_3が第2複素信号平面に写像される。乗算器133−2は、写像によって抽出された送信一次シンボルS1_3のH偏波方向の成分を加算器134−2に出力する。
【0047】
加算器134−1は、乗算器133−1から出力された送信一次シンボルS1_3のV偏波方向の成分と、入力信号(送信一次シンボルS1_1)とを加算する。同様に、加算器134−2は、乗算器133−2から出力された送信一次シンボルS1_3のH偏波方向の成分と、入力信号(送信一次シンボルS1_2)とを加算する。これにより、送信一次シンボルS1_3が直交伝送路上にマッピングされた送信一次シンボルS1_1及びS1_2に多重化される。
【0048】
加算器134−1及び134−2によって多重化された送信一次シンボル(以下、「送信二次シンボル」という。)は、それぞれの系統mに対応するスペクトラム圧縮部15に出力される。
【0049】
図1の説明に戻る。スペクトラム圧縮制御部14は、m系統のスペクトラム圧縮制御部14の帯域圧縮率を制御する。帯域圧縮率は、スペクトラム圧縮によって帯域が圧縮される割合であり、スペクトラム圧縮前の伝送帯域と、スペクトラム圧縮により抑圧された伝送帯域との比によって表される。スペクトラム圧縮制御部14は、m系統のスペクトラム圧縮制御部14ごとに、すなわち、m系統の直交伝送路ごとに帯域圧縮率を設定する。
【0050】
また、スペクトラム圧縮制御部14は、m系統の直交伝送路に対して不均等な帯域圧縮率を設定する。例えば、m系統のうちのi番目の直交伝送路の帯域圧縮率をα
iとするとき、スペクトラム圧縮制御部14は、α
1<α
2<・・・<α
mとなるようにm系統の帯域圧縮率を設定する。また、例えば、スペクトラム圧縮制御部14は、α
1<α
2=α
3<・・・<α
mとなるように帯域圧縮率を設定してもよい。このようにm系統の直交伝送路に対して不均等な帯域圧縮率を設定することにより、スペクトラム圧縮伝送で生じるシンボル間の干渉において、ある系統のシンボルが他の系統のシンボルに与える影響の大きさが、他の系統ごとに異なるようにすることができる。
【0051】
m系統のスペクトラム圧縮部15のそれぞれは、スペクトラム圧縮制御部14により設定された帯域圧縮率に応じて、伝送ビットレートを維持しながら、送信二次シンボル(第2送信シンボル)の周波数スペクトラムを圧縮する。スペクトラム圧縮制御部14は、周波数スペクトラムが圧縮された送信二次シンボルを、送信変調器16に出力する。
【0052】
送信変調器16は、m系統の送信二次シンボルで搬送波を変調することにより、変調波を生成する。送信変調器16は、生成した変調波を直交伝送路上で送信する。
【0053】
図4は、第1実施形態の受信装置2の機能構成を示す概略図である。受信装置2は、バスで接続されたCPUやメモリや補助記憶装置などを備え、受信装置プログラムを実行する。受信装置2は、受信装置プログラムの実行によって受信復調器21、メトリック算出部22、重み制御部23、m系統の重み演算部24、最尤判定部25、n系統のシンボルデマッパ26及び並直列変換器27を備える装置として機能する。なお、受信装置2の各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されてもよい。受信装置プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。受信装置プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0054】
受信復調器21は、送信装置1によりm系統の直交伝送路で送信された送信信号を受信する。受信復調器21は、m系統の受信信号をベースバンド信号に復調する。この復調処理には、時間同期や周波数同期、伝送路推定、伝送路推定値に基づく等化処理等が含まれる。
【0055】
メトリック算出部22(誤差算出部)は、m系統のベースバンド信号の複素信号平面上における受信点と、各系統における複数の送信二次シンボル候補点との間のメトリックを算出する。上述したとおり、送信側においては、n系統の複素信号平面上の送信一次シンボルは、m系統の複素信号平面上に多重化(写像)される。送信二次シンボル候補点は、m系統の複素信号平面上において、送信二次シンボルが配置される可能性のある信号点の候補のことである。またメトリックは、各送信二次シンボル候補点とベースバンド信号の受信点との誤差を表す値である。メトリックには、2点間の誤差を評価することが可能な値であればどのような値が用いられてもよい。例えば、メトリックにはユークリッド距離や、その二乗値、又は、マンハッタン距離などが用いられてもよい。メトリック算出部22は、m系統の受信点と、各系統の送信二次シンボル候補点との組み合わせごとにメトリックを算出し、各系統に応じた重み演算部24に出力する。
【0056】
重み制御部23は、m系統の重み演算部24に対して重み係数を設定する。重み係数は、メトリック算出部22によって算出された各系統のメトリックに対して、帯域圧縮率に応じた重みを付与する係数である。重み制御部23は、送信側において設定された各系統の帯域圧縮率を、制御信号等の伝達手段により送信側から取得する。重み制御部23は、帯域圧縮率が大きい系統の重み演算部24に対しては重みの小さい重み係数を設定し、帯域圧縮率が小さい系統の重み演算部24に対しては重みの大きい重み係数を設定する。例えば、m系統のうちのi番目の直交伝送路の帯域圧縮率をα
iとして、帯域圧縮率がα
1<α
2<・・・<α
mのように設定されている場合、重み制御部23は、i番目の重み演算部24に対する重み係数β
iを、β
1>β
2>・・・>β
mとなるように設定する。また、例えば、帯域圧縮率がα
1<α
2=α
3<・・・<α
mのように設定されている場合、重み制御部23は、β
1>β
2=β
3>・・・>β
mとなるように設定する。
【0057】
一般に、高い帯域圧縮率でスペクトラム圧縮された送信二次シンボルには、伝送路において、シンボル間干渉の影響を強く受けることが知られており、このシンボル間干渉はメトリックの確からしさを低下させる要因となる。そのため、重み制御部23は、確からしさの低いメトリック(高い帯域圧縮率が設定された系統のメトリック)に対して小さな重みが付与されるように重み係数を設定する。このような重み係数が確からしさの低いメトリックに乗算されることにより、確からしさの低いメトリックがメトリック総和に寄与する度合いが弱められる。
【0058】
一方、重み制御部23は、確からしさの高いメトリック(低い帯域圧縮率が設定された系統のメトリック)に対しては大きな重みが付与されるように重み係数を設定する。このような重み係数が確からしさの高いメトリックに乗算されることにより、確からしさの高いメトリックがメトリック総和に寄与する度合いが強められる。このような重み係数が設定されることにより、メトリック総和の確からしさが向上し、送信二次シンボルの同定精度の低下を抑制することができる。
【0059】
m系統の重み演算部24のそれぞれは、重み制御部23により設定された重み係数を送信二次シンボル候補点ごとに算出されたメトリックに乗算する。重み演算部24は、重み係数が乗算された送信二次シンボル候補点ごとのメトリックを最尤判定部25に出力する。
【0060】
最尤判定部25(最尤推定部)は、重み演算部24によって重み付けされた送信二次シンボル候補点ごとのメトリックを、各系統間の送信二次シンボル候補点の組み合わせごとに合計する。最尤判定部25は、このメトリックの合計値(以下、「メトリック総和」という。)が最小となる組み合わせの送信二次シンボル候補点を、各系統の送信二次シンボルの送信点と同定する。
【0061】
なお、m系統の送信二次シンボルと、n系統の送信一次シンボルとは、写像により一対一に対応する。そのため、受信側において、送信二次シンボル候補点から送信二次シンボルが同定されれば、送信一次シンボルも同定される。すなわち、n系統の部分ビット列が硬判定可能となる。
【0062】
最尤判定部25は、同定されたm系統の送信二次シンボルに対して逆写像を行うことにより、n系統の送信一次シンボルを同定する。最尤判定部25は、同定されたn系統の送信一次シンボルを、各系統のシンボルデマッパ26に出力する。
【0063】
n系統のシンボルデマッパ26のそれぞれは、最尤判定部25から出力された送信一次シンボルに基づいて、n系統の部分ビット列を復元する。各系統のシンボルデマッパ26は、復元した部分ビット列を並直列変換器27に出力する。
【0064】
並直列変換器27は、n系統のシンボルデマッパ26から出力された部分ビット列を結合し、送信ビット列を復元する。
【0065】
図5は、第1実施形態の送信装置1及び受信装置2によって得られる伝送効率の向上効果の一例を示す図である。縦軸はビット誤り率(BER:Bit error rate)を表し、横軸は信号対雑音比(SNR:signal-to-noise ratio)を表す。
図5は、3つの複素信号平面にマッピングされた送信一次シンボルが、2つの直交伝送路(V偏波及びH偏波)に多重化された場合の例である。すなわち
図5は、n=3かつm=2の場合の例である。
図3同様、3つの複素信号平面のうちの2つは直交伝送路平面である。また部分ビット列の変調方式にはQPSKを用いている。すなわちこの場合、1シンボルの処理によって6ビットの情報が送信される。
【0066】
系列1のデータは、スペクトラム圧縮を行わない場合のビット誤り率を表す。系列2のデータは、V偏波及びH偏波の両偏波を均等に圧縮した場合のビット誤り率を表す。系列2では、両偏波とも帯域圧縮率を2/16とした。系列3のデータは、V偏波の信号のみを不均等に圧縮した場合のビット誤り率を表す。系列3では、帯域圧縮率を2/8とした。伝送誤りを考慮しなければ、系列2及び系列3のいずれも周波数利用効率は同じである。
【0067】
この場合、スペクトラム圧縮の影響により、系列2及び系列3では、スペクトラム圧縮を行わない系列1に比べて信号対雑音比は増大するものの、ビット誤り率は低下するという結果が得られた。また、両偏波を均等に圧縮する系列2に比べて、V偏波のみを不均等に圧縮した系列3の方が、通信品質の劣化がより小さくなるという結果が得られた。例えば、
図5においてBER=10
−5の場合のSNRを比較すると、系列3の方が系列2よりも2dB低くなっている。
【0068】
このように構成された第1実施形態の送信装置1は、スペクトラム圧縮の帯域圧縮率を各偏波成分で不均等に設定する。また受信装置2は、不均等な帯域圧縮率で圧縮された受信信号から送信信号をメトリックの最尤判定により特定する際に、メトリックに対して帯域圧縮率に応じた重みを付与する。このような構成を備えることにより、送信装置1及び受信装置2は、シンボル間干渉による最尤判定精度の低下を抑制しつつ、伝送効率をより向上させることが可能となる。
【0069】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態の送信装置1aの機能構成を示す概略図である。送信装置1aは、直並列変換器11に代えて直並列変換器11aを備える点、k(k<m)系統のシンボルマッパ12を備える点、写像変換器13に代えて写像変換器13aを備える点、信号平面選択器17をさらに備える点で、第1実施形態の送信装置1と異なる。それ以外の機能部は、送信装置1と同様である。そのため、送信装置1と同様の機能部については、
図1と同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0070】
直並列変換器11aは、送信ビット列をk+1系統の部分ビット列に分割する。直並列変換器11aは、k+1系統に分割された部分ビット列のうち、1系統の部分ビット列(以下、「選択ビット列」という。)を信号平面選択器17に出力し、他のk(第3系統数)系統の部分ビット列をそれぞれに対応するk系統のシンボルマッパ12に出力する。k系統のシンボルマッパ12のそれぞれに出力された部分ビット列は第1実施形態と同様に変調され、k系統の送信一次シンボルが生成される。
【0071】
信号平面選択器17は、m系統の複素信号平面から伝送に用いるk系統の複素信号平面を選択する。具体的には、信号平面選択器17は、直並列変換器11aから出力された選択ビット列に応じたk系統の複素信号平面をm系統の複素信号平面から選択する。例えば、信号平面選択器17は、選択ビット列を入力として、m個の値からk個の値の組み合わせを一意に出力する関数を用いることにより、選択ビット列に応じた複素信号平面を選択してもよい。また例えば、信号平面選択器17は、m個の複素信号平面に対し、選択ビット列の値に応じて予め設定されたk個の複素信号平面の組み合わせに基づいて、伝送に用いる複素信号平面を選択してもよい。
【0072】
写像変換器13aは、第1実施形態と同様の処理を行うことにより、k系統の送信一次シンボルをm系統の直交伝送路平面に多重化し、m系統の送信二次シンボルを生成する。写像変換器13aによって生成されたm系統の送信二次シンボルは、第1実施形態と同様の方法で直交伝送路に出力される。
【0073】
図7は、第2実施形態の受信装置2aの機能構成を示す概略図である。受信装置2aは、最尤判定部25に代えて最尤判定部25aを備える点、並直列変換器27に代えて並直列変換器27aをさらに備える点で第1実施形態の受信装置2と異なる。それ以外の機能部は、受信装置2と同様である。そのため、受信装置2と同様の機能部については、
図4と同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0074】
最尤判定部25aは、最尤判定部25と同様の方法で、m系統の受信信号からk系統の送信一次シンボルを同定する。そして、最尤判定部25aは、m系統の直交伝送路平面のうち、伝送に用いられたk系統の複素信号平面の組み合わせに基づいて、選択ビット列を復元する。最尤判定部25aは、受信信号から同定されたk系統の送信一次シンボルと、k系統の複素信号平面の組み合わせに基づいて復元された選択ビット列と、を並直列変換器27aに出力する。
【0075】
並直列変換器27a(送信ビット列復元部)は、最尤判定部25aから出力されたk系統の送信一次シンボルからk系統の部分ビット列を復元する。並直列変換器27aは、復元したk系統の部分ビット列と、選択ビット列とを結合し、送信ビット列を復元する。
【0076】
このように構成された第2実施形態の送信装置1aは、送信ビット列をk+1系統の部分ビット列に分割し、そのうちの1系統の部分ビット列に基づいて、m系統の直交伝送路平面から伝送に用いる複素信号平面を選択する。このような構成を備えることにより、送信装置1aは、m系統の直交伝送路平面の全てを伝送に用いる場合よりも、送信二次シンボル間の距離を長くすることができるため、伝送速度を低下させる代わりに伝送品質を向上させることができる。
【0077】
具体的には、m系統の直交伝送路平面から伝送に用いるk系統の直交伝送路平面を選択する組み合わせは、
mC
k通り存在する。k系統のシンボルマッパ12のそれぞれの伝送速度をQ[bit/symbol]とすれば、第1の実施形態の送信装置1の伝送速度がmQ[bit/symbol]となるのに対し、送信装置1aの伝送速度は、kQ+log
2(
mC
k)[bit/symbol]となる。そのため、kQ+log
2(
mC
k)<mQを満たすkを用いれば、直交伝送路平面上に写像される送信二次シンボルが少なくなるため、送信二次シンボル間の距離を長くすることができる。その結果、伝送速度は低下するものの信号対雑音比を低下させることができる。これとは逆に、kQ+log
2(
mC
k)>mQを満たすkを用いれば、信号対雑音比は増加するものの伝送速度を向上させることができる。すなわち、m系統の直交伝送路平面からいくつの直交伝送路平面を選択するかによって、伝送速度と信号対雑音比とのバランスを調整することができる。
【0078】
<第3実施形態>
第1実施形態では、n系統の複素信号平面の一部が、m系統の直交伝送路平面である場合について説明した。これに対して本実施形態では、n系統の複素信号平面の全部が、m系統の直交伝送路平面と非直交の関係にある場合について説明する。この場合、n系統の複素信号平面上の全ての信号点がm系統の直交伝送路平面上に写像される。すなわち、n系統のシンボルマッパ12のそれぞれは、各部分ビット列をm系統の直交伝送路平面と直交しないn系統の複素信号平面上にマッピングすることにより送信一次シンボルを生成する。
【0079】
図8は、第3実施形態の送信装置1bの機能構成を示す概略図である。送信装置1bは、写像変換器13に代えて写像変換器13bを備える点で、第1実施形態の送信装置1と異なる。それ以外の機能部は、送信装置1と同様である。そのため、送信装置1と同様の機能部については、
図1と同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0080】
写像変換器13bは、n系統の複素信号平面にマッピングされた送信一次シンボルに対して、各系統の複素信号平面と、直交伝送路平面との角度に応じた余弦又は正弦を乗算することにより、n系統の送信一次シンボルを、m系統の直交伝送路平面に写像する。これにより、n系統の全ての送信一次シンボルがm系統の直交伝送路に多重化される。
【0081】
図9は、第3実施形態におけるn系統の複素信号平面と、m系統の直交伝送路平面との関係の具体例を示す図である。ここでは、第1実施形態と同様、n=3、m=2の場合を例に説明する。
図9において、第1複素信号平面、第2複素信号平面及び第3複素信号平面がn(=3)系統の複素信号平面である。第1複素信号平面は、m(=2)系統の直交伝送路(V偏波及びH偏波)のうちのH偏波に対して角度θ
1の傾きを持つ。第2複素信号平面は、H偏波に対して角度θ
2の傾きを持つ。第3複素信号平面は、H偏波に対して角度θ
3の傾きを持つ。この場合、シンボルマッパ12bは、3系統に分割された部分ビット列を、V偏波平面及びH偏波平面と直交しない第1〜第3の複素信号平面にそれぞれマッピングする。
【0082】
図10は、第3実施形態における写像変換器13bの構成例を示すブロック図である。写像変換器13bは、余弦出力部131b−1〜131b−3、正弦出力部132b−1〜132b−3、乗算器133b−1〜133b−6、加算器134b−1及び加算器134b−2を備える。写像変換器13bには、n(=3)系統の送信一次シンボルが入力される。写像変換器13bは、n系統のうちのi番目の送信一次シンボルに対してcosθ
i及びsinθ
iを乗算して各系統の送信一次シンボルを直交伝送路平面に写像する。これにより、n系統の送信一次シンボルの全てがm(=2)系統の直交伝送路に多重化される。
【0083】
このように構成された第3実施形態の送信装置1bは、各系統の部分ビット列を直交伝送路平面に直交しない複数の複素信号平面上にマッピングする。このような構成を備えることにより、第3実施形態の送信装置1bは、n系統の送信一次シンボルの全てをn系統の直交伝送路に多重化する。その結果、送信装置1bでは、スペクトラム圧縮による最尤推定精度の低下の影響が複数の送信一次シンボルに分散されることになり、第1実施形態の送信装置1よりもメトリックの確からしさが高くなる。そのため、送信装置1bを用いることによって、各送信一次シンボルの最尤推定の精度をより向上させることが可能となる。
【0084】
<第4実施形態>
本実施形態では、第1実施形態と同様、n系統の複素信号平面(第1信号平面)の一部がm系統の直交伝送路平面(第2信号平面)である場合において、n系統の複素信号平面を回転させることによって、n系統の送信一次シンボルの全てをm系統の直交伝送路に多重化する。
【0085】
図11は、第4実施形態の送信装置1cの機能構成を示す概略図である。第4実施形態の送信装置1cは、写像変換器13に代えて写像変換器13cを備える点で、第1の実施形態の送信装置1と異なる。それ以外の機能部は、送信装置1と同様である。そのため、送信装置1と同様の機能部については、
図1と同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0086】
写像変換器13cは、n系統の複素信号平面の全てが、m系統の直交伝送路平面と直交しないような角度でn系統の複素信号平面を回転させた後、n系統の送信一次シンボルをm系統の直交伝送路平面に写像する。
【0087】
図12は、第4実施形態におけるn系統の複素信号平面と、m系統の直交伝送路平面との関係の具体例を示す図である。
図12(A)において、第1複素信号平面、第2複素信号平面及び第3複素信号平面がn(=3)系統の複素信号平面である。第1複素信号平面は、m(=2)系統の直交伝送路平面(V偏波及びH偏波)のうちのV偏波面上の複素信号平面である。第2複素信号平面は、H偏波面上の複素信号平面である。第3複素信号平面は、V偏波面に対して角度θの傾きを持つ。この場合、写像変換器13cは、n(=3)系統の複素信号平面の全てが、m(=2)系統の直交伝送路平面と直交しないような角度φで、n系統の複素信号平面を回転させる。
【0088】
図13は、第4実施形態における写像変換器13cの構成例を示すブロック図である。写像変換器13cは、余弦出力部131c−1〜131c−3、正弦出力部132c−1〜132c−3、乗算器133c−1〜133c−6及び加算器134c−1〜134c−4を備える。写像変換器13cには、n(=3)系統の送信一次シンボルが入力される。各系統の送信一次シンボルは、角度φの回転を行った後の複素信号平面と、直交伝送路平面との角度θ
iに応じて直交伝送路平面に写像される。これによりn系統の全ての送信一次シンボルがm(=2)系統の直交伝送路に多重化される。
【0089】
このように構成された第4実施形態の送信装置1cは、n系統の複素信号平面の一部がm系統の直交伝送路平面である場合に、n系統の複素信号平面の全てがm系統の直交伝送路平面と直交しない角度でn系統の複素信号平面を回転させることにより、全ての送信一次シンボルを、m系統の直交伝送路平面に写像する。このような構成を備えることにより、n系統の複素信号平面の一部がm系統の直交伝送路平面である場合においても、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
<変形例>
送信装置及び受信装置が伝送に用いる直交伝送路は、偏波による直交伝送路に限定されない。例えば、直交伝送路は、周波数で直交するものであってもよいし、時間、符号、空間等で直交するものであってもよい。
【0091】
写像変換器の構成は、
図2、
図10及び
図12に例示した構成に限定されない。同様の出力が得られる構成であれば、写像変換器は、
図2、
図10及び
図12と異なる構成であってもよい。
【0092】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。