特許第6229218号(P6229218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229218
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】走査型プローブ顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G01Q 10/02 20100101AFI20171106BHJP
   G01Q 60/30 20100101ALI20171106BHJP
【FI】
   G01Q10/02
   G01Q60/30
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-50004(P2014-50004)
(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公開番号】特開2015-175626(P2015-175626A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年10月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 第61回応用物理学会春季学術講演会 開催日 平成26年3月17日〜平成26年3月20日 刊行物名 第61回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集 発行日 平成26年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 騎通
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲夫
【審査官】 東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−152430(JP,A)
【文献】 特開平08−094643(JP,A)
【文献】 特開平08−201405(JP,A)
【文献】 特開2006−258536(JP,A)
【文献】 特開2005−308605(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0145505(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先鋭試料を保持するための試料台と、
前記試料台の上に設置され、前記先鋭試料を上方向から拡大観察するための拡大観察手段と、
前記先鋭試料に光を横方向から照射する光源と、
前記先鋭試料の先端面を走査するためのプローブと、
前記プローブが端部に設置されたカンチレバーと、
前記プローブの先端を前記先鋭試料の先端面に位置合わせするための微動手段と、
を備え、
前記光源が横方向から前記先鋭試料に光を照射することにより、上方向から観察したときに前記先鋭試料の先端が光るようにせしめ、前記微動手段により前記プローブ先端を前記先鋭試料の先端に位置合わせすることを可能とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記先鋭試料を横方向から拡大観察するための拡大観察手段を更に備える請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記光源は、前記プローブを前記先鋭試料の先端面に位置合わせをするアプローチ中、及び前記先端面の走査中も前記先鋭試料に光を照射し続ける請求項1または2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
ケルビンプローブ法による測定手段を更に備える請求項1から3のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡に関し、特に先鋭試料の先端の測定が可能な走査型プローブ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope;SPM)とは、先端を尖らせたプローブ(探針)で被測定物の表面を走査することにより、被測定物表面の情報を得る装置のことである。
【0003】
走査型プローブ顕微鏡には、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope;STM)、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)、走査型磁気力顕微鏡(MFM)、走査型SQUID顕微鏡、超伝導量子干渉計(SQUID)、走査型ホール素子顕微鏡(SHPM)、走査型ケルビンプローブフォース顕微鏡(KFM)、走査型マクスウェル応力顕微鏡(SMM)、走査型圧電応答顕微鏡(PFM)、走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)、走査型近接場光顕微鏡(SNOM)等様々なものがある。
【0004】
このような走査型プローブ顕微鏡として、特許文献1には、試料ステージ上に搭載される測定ヘッドを備え、前記測定ヘッドは、自由端にプローブを有するカンチレバーと、前記カンチレバーを三次元的に走査する走査機構と、前記走査機構を保持している筐体を備え、前記測定ヘッドを回転可能に支持する回転機構と、前記筐体に設けられた把手をさらに備え、前記測定ヘッドは、前記回転機構を介して前記試料ステージを設置する設置台に連結される、走査型プローブ顕微鏡について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−238430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたような従来の走査型プローブ顕微鏡は、針のような先鋭試料の先端にプローブ先端を位置あわせすることができないため、先鋭試料の先端の観測ができなかった。そのため、例えば、高輝度電子源の開発には、電子源先端の微細構造を解明する必要があるが、従来用いられていた電解放射顕微鏡を使用した技術では、先鋭試料である電子源先端面の微細構造を観測することは困難であり、走査型プローブ顕微鏡では、上述したように、先鋭試料の先端にプローブの位置あわせができないために観測することができず、高輝度電子源開発に支障をきたしていた。
【0007】
更に説明すると、電子源先端の微細構造を解明するためには、高い空間分解能を有する走査プローブ顕微鏡が期待される装置ではあるが、先端曲率半径が100nm以上10μm以下の電子源先端に、先端曲率半径が1nm以上10nm以下の走査型プローブ顕微鏡のプローブをアプローチすることが従来の走査型プローブ顕微鏡では不可能であった。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑みて成されたものであり、先鋭試料の先端にもプローブの位置合わせが可能であり、先鋭試料先端の観測を行うことができる走査型プローブ顕微鏡を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の各発明において解決することができる。
即ち、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、先鋭試料を保持するための試料台と、前記試料台の上に設置され、前記試料を上方向から拡大観察するための拡大観察手段と、前記先鋭試料に光を横方向から照射する光源と、前記先鋭試料の先端面を走査するためのプローブと、前記プローブが端部に設置されたカンチレバーと、前記プローブの先端を前記先鋭試料の先端面に位置合わせするための微動手段と、を備え、前記光源が横方向から前記先鋭試料に光を照射することにより、上方向から観察したときに前記先鋭試料の先端が光るようにせしめ、前記微動手段により前記プローブ先端を前記先鋭試料の先端に位置合わせすることを可能とすることを主要な特徴としている。
【0010】
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、前記試料を横方向から拡大観察するための拡大観察手段を更に備えることを主要な特徴としている。
【0011】
更にまた、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、前記光源は、前記プローブを前記先鋭試料の先端面に位置合わせをするアプローチ中、及び前記先端面の走査中も前記先鋭試料に光を照射し続けることを主要な特徴としている。
【0012】
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、ケルビンプローブ法による測定手段を更に備えることを主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
先鋭試料の先端にもプローブの位置合わせが可能であり、先鋭試料先端の観測を行うことができる走査型プローブ顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】プローブ顕微鏡の概略図である。
図2】試料台の写真である。
図3】横方向から光を照射しつつ、上方向から拡大観察手段により先鋭試料を観察したときの写真である。
図4】側面拡大観察手段で先鋭試料とカンチレバーとを観察した写真である。
図5】AFMで測定したタングステン電子源先端の表面形状の図である。
図6】AFMで測定したタングステン電子源先端の表面形状の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の走査型プローブ顕微鏡について図1を参照して説明する。図1は、プローブ顕微鏡の概略図である。
本発明の走査型プローブ顕微鏡は、先鋭試料12を保持するための試料台10と、先鋭試料12を上方向から拡大観察するための拡大観察手段11と、先鋭試料12に光を横方向から照射する光源16と、先鋭試料12の先端面を走査するためのプローブ13と、プローブ13が端部に設置されたカンチレバー14と、プローブ13の先端を先鋭試料12の先端面に位置あわせするための微動手段(不図示)と、を主に備えて構成される。
【0016】
先鋭試料12とは、例えば、電子顕微鏡、電子線回折装置、電子ビーム蒸着装置などに使用される電子源のように、先端の尖った試料のことである。試料台10は、先鋭試料12を、先鋭部を上にした直立状態で安定に保持可能な試料台である。試料台10は、例えば、図2(試料台10の写真)に示すように先鋭試料12の端部を保持する構成とすることができる。
【0017】
図2に示す試料台10は、直径1mm、長さ3mmの円筒を薄板に溶接したものであり、先鋭試料12は、円筒部分に半田で固定されている。先鋭試料12の端部の保持は、例えば、試料台10に半田で試料を固定しても良いし、試料保持部に粘土等の粘土状の部材を用い、粘土状の部材中に先鋭試料12の端部を埋め込むことにより行うこともできる。また、先鋭試料12の端部の保持は、粘土状の部材の代わりに粘着状部材をもちいて、粘着状部材に先鋭試料12の端部を付着させることにより行ってもよい。
【0018】
更に、試料台10は、先鋭試料12の端部を機械的に把持する治具を用いて構成することもできる。このように針状の先鋭試料12を保持する試料台の構成として様々なものを用いることができるがこれらに限定されるものではない。しかしながら、先鋭試料12の保持性、安定性、簡便さ等を考慮すると、試料台10に半田で試料を固定することが好ましい。
【0019】
図1に戻って、拡大観察手段11は、試料台の上に設置され、先鋭試料12の先端にプローブ13の先端を位置あわせするときに用いられるものであり、先鋭試料12またはプローブ13を1倍以上の倍率で拡大して観測者に表示する。拡大観察手段11としては、例えば、マイクロスコープや、マイクロスコープにモニタカメラをセットしたもの等が用いられる。
【0020】
拡大観測手段11としてマイクロスコープを用いた場合は、走査型プローブ顕微鏡の操作者は、マイクロスコープを直接覗いてプローブの位置調整を行うことができる。また、マイクロスコープにモニタカメラをセットしたものを用いた場合は、操作者は、モニタカメラで写した映像を表示するモニタを見ながらプローブの位置調整を行うことができる。
【0021】
ここで、拡大観察手段11の近辺には、先鋭試料12を上から照射する光源18が設置されていてもよい。光源18としては、LED光源、ハロゲン電球等、走査型プローブ顕微鏡において、通常、試料を照らすのに用いられる光源を使用することができる。
【0022】
プローブ13は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)のプローブ(探針)であり、先端がとがっている。このプローブを試料表面に近接させて走査することにより、試料表面を拡大観察することができる。
カンチレバー14は、その一端が固定された片持ち梁構造をなし、自由端側にはプローブ13が設置されている。
【0023】
光源16は、直立した状態で試料台10に保持されている先鋭試料12を側面から照らす光源である。光源16としては、LED光源、ハロゲン電球等、走査型プローブ顕微鏡において、通常、試料を照らすのに用いられる光源を使用することができる。
【0024】
光源16の近くには、先鋭試料12を側面から拡大観察可能にする側面拡大観察手段17を備えていてもよい。側面拡大観察手段17としては、拡大観察手段11と同様に、マイクロスコープや、マイクロスコープにモニタカメラをセットしたもの等が用いられる。
【0025】
側面拡大観察手段17としてマイクロスコープを用いた場合は、走査型プローブ顕微鏡の操作者は、マイクロスコープを直接覗いてプローブの位置調整を行うことができる。また、マイクロスコープにモニタカメラをセットしたものを用いた場合は、操作者は、モニタカメラで写した映像を表示するモニタを見ながらプローブの位置調整を行うことができる。
【0026】
ここで、従来の走査型プローブ顕微鏡は、電子源のような先鋭試料の先端(針先)の観察は不可能であった。その理由は、電子源の先端の曲率半径は100nm〜10μmで、走査型プローブ顕微鏡の先端の曲率半径はわずか1nm〜10nmである。このように、きわめて細い針先にそれよりも細い針先を位置決めして近接させることは、拡大観察手段11を用いても極めて困難であり、ほとんど不可能であった。
【0027】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、極めて単純な工夫で針先にプローブを正確に位置決めして接触させることができることを見出した。それは、図1に示すように、先鋭試料12に横方向から光を照射する光源16を設けることである。本発明者は、光源16によって先鋭試料12に横方向から光を照射することにより、先鋭試料12の上方に設置された拡大観察手段11で観察すると、先鋭試料12の先端が光って見えることを発見した。
【0028】
横方向から光を照射しつつ、上方向から拡大観察手段11により先鋭試料12を観察した写真を図3に示す。図3では、先鋭試料12として電子源を用いている。図に示すように、先鋭試料12の先端が光って見えるので、プローブを先鋭試料12の先端に容易に位置決めすることができる。
【0029】
次に、図4を参照して説明する。図4は、側面拡大観察手段17で先鋭試料12とカンチレバー14とを観察した写真である。図4に示す先鋭試料12は、先端曲率半径が0.2μmのタングステン・モリブデン電子源である。図4に示すように、側面拡大観察手段で先鋭試料12とカンチレバー14とを観察することにより、図面視左右方向の位置決めが容易になる。しかしながら、この図からも明らかであるが、カンチレバー14は観察できてもプローブ13は小さすぎて観察できず、先鋭試料12の先端も小さすぎて観察できない。
【0030】
すなわち、光源16により先鋭試料12を側面方向から照らすことにより先鋭試料12の先端を光らせながら、上から拡大観察手段11で観察しつつ位置決めしなければ、先鋭試料12の先端にプローブ13の先端をアプローチさせることは困難であることがわかる。しかしながら、側面拡大観察手段17も併用することにより、先鋭試料12へのプローブ13のアプローチが更に容易になることは上述したとおりである。
【0031】
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、プローブ13を先鋭試料12の先端面に位置合わせをするアプローチ中、及び前記先端面の走査中も先鋭試料12に光を照射し続けることにより、プローブ13と先鋭試料12との位置関係を測定中も確認することができるように構成されることができる。
【0032】
通常、SPM(AFM)測定では、迷光を抑制するためにアプローチ中及びアプローチ終了後の走査中は照明を落とすことが行われている。本発明の走査型プローブ顕微鏡は、照明を落とさなくても試料へのアプローチと測定が可能で、その結果、先鋭試料へのアプローチの成否を、光学式マイクロスコープを通してリアルタイムで確認することができ、測定中も走査の様子を確認できる。
【0033】
本発明の走査型プローブ顕微鏡は、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope;STM)、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)、走査型磁気力顕微鏡(MFM)、走査型SQUID顕微鏡、超伝導量子干渉計(SQUID)、走査型ホール素子顕微鏡(SHPM)、走査型ケルビンプローブフォース顕微鏡(KFM)、走査型マクスウェル応力顕微鏡(SMM)、走査型圧電応答顕微鏡(PFM)、走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)、走査型近接場光顕微鏡(SNOM)を含んだものであり、本発明の特徴はこれらすべてに適用可能で同様の効果を奏することができる。よって、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、ケルビンプローブ法による測定手段を備えたものであることができる。
【0034】
次に、本発明の走査型プローブ顕微鏡で実際に電子源の先端を測定した結果について説明する。ここで、電子源の特性を評価するには、電界放射顕微鏡により電子源先端の仕事関数の分布を、蛍光スクリーン上に電子ビームの強度分布として観測評価する方法が一般的である。しかしながら、この手法では、電子源先端面にある低仕事関数面内の微細構造や面内の局所仕事関数分布まで調べることはできない。
【0035】
そこで、電子源先端の低仕事関数面を走査プローブ顕微鏡で測定することにより面内の微細構造を観測することが可能となる。更に、走査プローブ顕微鏡の測定方法の一つであるケルビンプローブ法で測定することにより、面内の局所仕事関数分布を観測することも可能となる。
【0036】
まず、試料台は、図2に示されるものを使用し、先端曲率半径が0.2μmのタングステン・モリブデン電子源を試料台10に半田で固定した。次に、本発明の走査型プローブ顕微鏡により、電子源の先端にプローブを近接(アプローチ)させ、走査範囲5μm角で測定した。測定結果を図5に示す。
【0037】
図5に示すように、電子源先端の結晶粒が明瞭に観察できている。同様に、同じ電子源を更に拡大して、走査範囲1μm角で測定した電子源先端の表面形状を図6に示す。図6に示すように、平坦な先端面を明瞭に観測することができる。本発明により、先鋭試料である電子源先端を走査プローブ顕微鏡で測定することが可能となり、従来できなかった電子源先端の低仕事関数面内の構造解析および既存SPMが持つ特性評価利用まで実現可能となる。
【符号の説明】
【0038】
10 試料台
11 拡大観察手段
12 先鋭試料
13 プローブ
14 カンチレバー
16 光源
17 側面拡大観察手段
18 光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6