特許第6229857号(P6229857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6229857空間光変調器、露光装置、及びデバイス製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229857
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】空間光変調器、露光装置、及びデバイス製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20171106BHJP
   G02B 26/02 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   G03F7/20 505
   G02B26/02 E
【請求項の数】12
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-162291(P2016-162291)
(22)【出願日】2016年8月22日
(62)【分割の表示】特願2015-67542(P2015-67542)の分割
【原出願日】2011年9月16日
(65)【公開番号】特開2016-200840(P2016-200840A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2016年9月20日
(31)【優先権主張番号】61/489,470
(32)【優先日】2011年5月24日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2010-212850(P2010-212850)
(32)【優先日】2010年9月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100098165
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 聡
(72)【発明者】
【氏名】大和 壮一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 陽司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 朋春
【審査官】 赤尾 隼人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0157375(US,A1)
【文献】 特開2008−235909(JP,A)
【文献】 特開2003−015123(JP,A)
【文献】 特開2005−123586(JP,A)
【文献】 特表2007−522485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G02B 6/35;26/00−26/08
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する光を変調して射出する空間光変調器において、
前記入射する光を反射する反射面を備え、該反射面の位置が変更可能な複数の反射要素と、
互いに隣接する2つの前記反射要素の反射面のすき間に入射する光を反射する部分と、
備え、
前記部分は、前記反射面で反射される光の位相に対して所定の位相差を持つように前記光を反射する空間光変調器。
【請求項2】
前記反射面で反射される前記光と前記部分で反射される前記光との位相差はほぼ90°である、請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項3】
前記複数の反射要素は、所定の平面内に配列され、該平面の法線方向に可動である、請求項1又は2に記載の空間光変調器。
【請求項4】
前記部分は、前記複数の反射要素における前記反射面とは異なる位置に設けられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項5】
前記複数の反射要素は、前記複数の反射要素にそれぞれ入射する光をその位相を変化させることなく、又は第1の位相だけ変化させて通過させる第1の状態と、
前記複数の反射要素に入射する光をその位相を前記第1の位相と180°異なる第2の位相だけ変化させて通過させる第2の状態とを含む複数の状態に制御可能である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項6】
前記反射面と前記部分とは、前記すき間に入射する光の進行方向において異なる位置に設けられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項7】
前記複数の反射要素は前記部分をそれぞれ備える、請求項1〜6のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項8】
前記複数の反射要素は、前記複数の反射要素が配列される配列面に対して傾動可能である、請求項1又は2に記載の空間光変調器。
【請求項9】
前記複数の反射要素は2次元のアレイである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項10】
露光光で基板を露光する露光装置において、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の空間光変調器と、
前記空間光変調器の複数の前記反射要素のアレイに前記露光光を照射する照明光学系と、
複数の前記反射要素からの光を前記基板上に導いて前記基板上にパターンを投影する投影光学系と、
前記基板に露光されるパターンを制御するために、前記空間光変調器の複数の前記反射要素の反射面を個別に複数の状態のいずれかに制御する制御装置と、
を備える露光装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記基板に露光されるパターンを制御するために、前記空間光変調器の複数の前記反射要素の反射面を個別に前記複数の状態のいずれかに制御する、請求項10に記載の露光装置。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、
前記パターンが形成された前記基板を処理することと、
を含むデバイス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光学要素を有する空間光変調器、空間光変調器を用いて物体を露光する露光技術、及び露光技術を用いるデバイス製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体素子又は液晶表示素子等のデバイス(電子デバイス又はマイクロデバイス)を製造するためのリソグラフィ工程中で、所定のパターンを投影光学系を介してウエハ又はガラスプレート等の基板の各ショット領域に形成するために、ステッパー等の一括露光型の露光装置、又はスキャニングステッパー等の走査露光型の露光装置等が使用されている。
【0003】
最近では、複数種類のデバイス毎に、さらに基板の複数のレイヤ毎にそれぞれマスクを用意することによる製造コストの増大を抑制し、各デバイスを効率的に製造するために、マスクの代わりに、それぞれ傾斜角が可変の多数の微小ミラーのアレイを有する空間光変調器(spatial light modulators)を用いて、投影光学系の物体面に可変のパターンを生成するいわゆるマスクレス方式の露光装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、空間光変調器としては、入射する光の位相分布を制御するために、それぞれ反射面の高さが制御可能な多数の微小ミラーのアレイを有するタイプも提案されている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−148140号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yijian Chen et al., “Design and fabrication of tilting and piston micromirrors for maskless lithography,”Proc. of SPIE (米国) Vol. 5751, pp.1023-1037 (2005)
【非特許文献2】D. Lopez et al., “Two-dimensional MEMS array for maskless lithography and wavefront modulation,”Proc. of SPIE (米国) Vol. 6589, 65890S (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の多数の微小ミラーのアレイを有する空間光変調器において、各微小ミラーを互いに独立に円滑に駆動するためには、隣接する微小ミラー間に或る程度の面積の隙間領域が必要である。また、空間光変調器の構造及び製造工程によって、隣接する微小ミラー間にさらに広い面積の隙間領域が生じることもある。これらの場合、その隙間領域の反射率が低いと、空間光変調器に入射する光のエネルギーの吸収量が大きくなり、空間光変調器が熱変形等を起こす恐れがある。一方、単にその隙間領域の反射率を高くすると、その隙間領域からの反射光が微小ミラーからの反射光にランダムに混入して、基板上に投影されるパターンに形状誤差等が生じる恐れがある。
【0007】
本発明の態様は、このような事情に鑑み、複数の光学要素のアレイを有する空間光変調器を用いて物体にパターンを投影(形成)する際に、光学要素間の隙間領域に入射する光量が大きい場合でも、そのパターンに生じる誤差を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による空間光変調器は、入射する光を変調して射出する空間光変調器において、その入射する光を反射する反射面を備え、該反射面の位置が変更可能な複数の反射要素と、互いに隣接する2つのその反射要素の反射面のすき間に入射する光を反射する部分と、を備え、その部分は、その反射面で反射される光の位相に対して所定の位相差を持つようにその光を反射するものである。
また、本発明の第1の態様によれば、光が照射される複数の光学要素のアレイを有する空間光変調器が提供される。この空間光変調器は、複数のその光学要素は、それぞれ入射する光をその位相を変化させることなく、又は第1の位相だけ変化させて通過させる第1の状態、及び入射する光をその位相をその第1の位相と180°異なる第2の位相だけ変化させて通過させる第2の状態を含む複数の状態に制御可能であり、その複数の光学要素の境界部に、入射する光の位相の変化量が互いに異なる第1の位置及び第2の位置が設けられたものである。
【0009】
また、第2の態様によれば、光が照射される複数の光学要素のアレイを有する空間光変調器が提供される。この空間光変調器は、複数のその光学要素は、それぞれ入射する光の位相を第1の位相だけ変化させて通過させる第1の状態、及び入射する光の位相をその第1の位相と180°異なる第2の位相だけ変化させて通過させる第2の状態を含む複数の状態に制御可能であり、複数のその光学要素の間に配置されて、入射する光の位相をその第1の位相とほぼ(90°+k・180°)(kは整数)だけ異なる第3の位相だけ変化させる少なくとも1つの境界部を備えるものである。
【0010】
また、第3の態様によれば、露光光で基板を露光する露光装置が提供される。この露光装置は、第1又は第2の態様の空間光変調器と、その空間光変調器の複数のその光学要素のアレイにその露光光を照射する照明光学系と、複数のその光学要素からの光をその基板上に導いてその基板上にパターンを投影する投影光学系と、その基板に露光されるパターンを制御するために、その空間光変調器の複数のその光学要素を個別にその複数の状態のいずれかに制御する制御装置と、を備えるものである。
【0011】
また、本発明の第4の態様によれば、本発明の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、そのパターンが形成されたその基板を処理することと、を含むデバイス製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、空間光変調器の複数の光学要素をそれぞれ第1及び第2の状態を含む複数の状態に制御し、その複数の光学要素からの光を物体に導くことで、その物体にパターンを投影できる。さらに、複数の光学要素の境界部(隙間領域)の第1及び第2の位置からの光の位相が互いに異なり、その2つの位置からの光の強度が小さくなるため、光学要素間の隙間領域に入射する光量が大きい場合でも、そのパターンに生じる誤差を低減できる。
【0013】
また、第2の態様によれば、空間光変調器のその境界部(隙間領域)を挟む2つの光学要素が第1の状態及び第2の状態に設定されて、その2つの光学要素を通過する光の位相が互いに180°異なる場合、その境界部を通過する光の位相は、その2つの光学要素を通過する光のほぼ中間の位相になる。従って、その2つの光学要素及び境界部を通過する光の位相が互いに180°異なる部分の幅は互いにほぼ等しいため、その境界部に入射する光量が大きい場合でも、空間光変調器を用いて物体に投影(形成)されるパターンの形状の誤差が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態の露光装置の概略構成を示す図である。
図2】(A)は図1中の空間光変調器28の一部を示す拡大斜視図、(B)は図2(A)のBB線に沿う断面図である。
図3】(A)は空間光変調器28で設定される反射光の位相分布の一例を示す部分拡大平面図、(B)は図3(A)のY軸に沿う直線上の反射光の位相分布を示す図、(C)は図3(B)の位相分布の光によって形成される像の強度分布を示す図である。
図4】(A)は比較例の空間光変調器28Vによって設定される反射光の位相分布を示す平面図、(B)は図4(A)のY軸に沿う直線上の反射光の位相分布を示す図、(C)は図4(B)の位相分布の光によって形成される像の強度分布を示す図である。
図5】(A)は走査露光時のウエハのショット領域を示す図、(B)はステップ・アンド・リピート方式で露光する際のウエハのショット領域を示す図である。
図6】(A)はシミュレーションで使用される反射光の位相分布を示す部分拡大平面図、(B)は図6(A)の一部を示す拡大図である。
図7】境界部の位相を変化させた場合の空間像の変化を示す拡大平面図である。
図8】(A)は境界部の反射率を変化させた場合の空間像の変化を示す拡大平面図、(B)は図8(A)のBB線に沿う強度分布を示す図である。
図9】(A)は反射光の位相が異なる境界部の反射率を変化させた場合の空間像の変化を示す拡大平面図、(B)は図9(A)のBB線に沿う強度分布を示す図である。
図10】第1変形例の空間光変調器28Aの一部を示す拡大断面図である。
図11】第2変形例の空間光変調器28Bの一部を示す拡大断面図である。
図12】第3変形例の空間光変調器28Cの一部を示す拡大断面図である。
図13】第4変形例の空間光変調器28Dの一部を示す拡大断面図である。
図14】(A)は第2の実施形態の空間光変調器28Eの一部を示す拡大断面図、(B)は空間光変調器28Eの一部を示す拡大平面図である。
図15】(A)は空間光変調器28Eで設定される反射光の一部の位相分布の一例を示す拡大平面図、(B)は図15(A)のY軸に沿う直線上の反射光の位相分布を示す図、(C)は図15(B)の位相分布の光によって形成される像の強度分布を示す図である。
図16】(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)は、それぞれ第2の実施形態の第1変形例、第2変形例、第3変形例、第4変形例、及び第5変形例の空間光変調器の一部を示す拡大平面図である。
図17】(A)は第6変形例の空間光変調器28Kの一部を示す拡大断面図、(B)は空間光変調器28Kの一部を示す拡大平面図である。
図18】(A)は第7変形例の空間光変調器の一部を示す拡大断面図、(B)は第8変形例の空間光変調器の一部を示す拡大平面図である。
図19】(A)は空間光変調器の評価用モデルの要部を示す図、(B)は評価用の光学系を示す図、(C)は空間光変調器の境界部を含む評価用モデルの要部を示す図、(D)は支持部の高さと反射光の光強度との関係の一例を示す図である。
図20】(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、及び(F)は、それぞれ評価用モデル、第1変形例、第2の実施形態、第6変形例、第7変形例、及び第8変形例の空間光変調器の1周期分の構造を簡略化して示す拡大断面図である。
図21】空間光変調器の隙間領域における反射光の位相と反射光の強度との関係の一例を示す図である。
図22】空間光変調器の隙間領域における反射光の位相と反射光の強度との関係の他の例を示す図である。
図23】他の実施形態の露光装置の概略構成を示す図である。
図24】変形例の露光装置の概略構成を示す図である。
図25】変形例の空間光変調器を示す拡大斜視図である。
図26】電子デバイスの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態につき図1図9を参照して説明する。
図1は、本実施形態のマスクレス方式の露光装置EXの概略構成を示す。図1において、露光装置EXは、パルス発光を行う露光用の光源2と、光源2からの露光用の照明光(露光光)ILで被照射面を照明する照明光学系ILSと、ほぼその被照射面又はその近傍の面上に二次元のアレイ状に配列されたそれぞれ高さが可変の微小ミラーである多数のミラー要素30を備えた空間光変調器28と、空間光変調器28を駆動する変調制御部48とを備えている。さらに、露光装置EXは、多数のミラー要素30によって生成された反射型の可変の凹凸パターン(可変の位相分布を持つマスクパターン)で反射された照明光ILを受光して、その凹凸パターン(位相分布)に対応して形成される空間像(デバイスパターン)をウエハW(基板)の表面に投影する投影光学系PLと、ウエハWの位置決め及び移動を行うウエハステージWSTと、装置全体の動作を統括制御するコンピュータよりなる主制御系40と、各種制御系等とを備えている。
【0016】
以下、図1において、ウエハステージWSTの底面(不図示のガイド面に平行な面)に垂直にZ軸を設定し、Z軸に垂直な平面内において図1の紙面に平行な方向にY軸を、図1の紙面に垂直な方向にX軸を設定して説明する。また、X軸、Y軸、Z軸の回りの角度をそれぞれθx方向、θy方向、θz方向の角度とも呼ぶ。本実施形態では、露光時にウエハWはY方向(走査方向)に走査される。
【0017】
光源2としては、波長193nmでパルス幅50ns程度のほぼ直線偏光のレーザ光を4〜6kHz程度の周波数でパルス発光するArFエキシマレーザ光源が使用されている。なお、光源2として、波長248nmのKrFエキシマレーザ光源、パルス点灯される発光ダイオード、又はYAGレーザ若しくは固体レーザ(半導体レーザ等)から出力されるレーザ光の高調波を生成する固体パルスレーザ光源等も使用できる。固体パルスレーザ光源は、例えば波長193nm(これ以外の種々の波長が可能)でパルス幅1ns程度のレーザ光を1〜2MHz程度の周波数でパルス発光可能である。
【0018】
本実施形態においては、光源2には電源部42が連結されている。主制御系40が、パルス発光のタイミング及び光量(パルスエネルギー)を指示する発光トリガパルスTPを電源部42に供給する。その発光トリガパルスTPに同期して電源部42は、指示されたタイミング及び光量で光源2にパルス発光を行わせる。
光源2から射出された断面形状が矩形でほぼ平行光束のパルスレーザ光よりなる照明光ILは、1対のレンズよりなるビームエキスパンダ4、照明光ILの偏光状態を制御する偏光制御光学系6及びミラー8Aを介して、Y軸に平行に、複数の回折光学素子(diffractive optical element)10A,10B等から選択された回折光学素子(図1では回折光学素子10A)に入射する。偏光制御光学系6は、例えば照明光ILの偏光方向を回転する1/2波長板、照明光ILを円偏光に変換するための1/4波長板、及び照明光ILをランダム偏光(非偏光)に変換するための楔型の複屈折性プリズム等を交換可能に設置可能な光学系である。
【0019】
回折光学素子10A,10B等は、回転板12の周縁部にほぼ等角度間隔で固定されている。主制御系40が駆動部12aを介して回転板12の角度を制御して、照明条件に応じて選択された回折光学素子を照明光ILの光路上に設置する。選択された回折光学素子で回折された照明光ILは、レンズ14a,14bよりなるリレー光学系14によってマイクロレンズアレイ16の入射面に導かれる。マイクロレンズアレイ16に入射した照明光ILは、マイクロレンズアレイ16を構成する多数の微小なレンズエレメントによって二次元的に分割され、各レンズエレメントの後側焦点面である照明光学系ILSの瞳面(照明瞳面IPP)には二次光源(面光源)が形成される。
【0020】
一例として、回折光学素子10Aは通常照明用であり、回折光学素子10Bは、小さいコヒーレンスファクタ(σ値)の照明光を生成する小σ照明用であり、その他に、2極照明用、4極照明用、及び輪帯照明用等の回折光学素子(不図示)も備えられている。なお、複数の回折光学素子10A,10B等の代わりに、それぞれ傾斜角が可変の多数の微小ミラーのアレイを有する空間光変調器を使用してもよく、マイクロレンズアレイ16の代わりにフライアイレンズ等も使用可能である。
【0021】
照明瞳面IPPに形成された二次光源からの照明光ILは、第1リレーレンズ18、視野絞り20、光路を−Z方向に折り曲げるミラー8B、第2リレーレンズ22、コンデンサ光学系24、及びミラー8Cを介して、XY平面に平行な被照射面(設計上の転写用のパターンが配置される面)にθx方向に平均的な入射角αで入射する。言い換えると、その被照射面に対して照明光学系ILSの光軸AXIはθx方向に入射角αで交差している。入射角αは例えば数deg(°)から数10degである。その被照射面又はその近傍の面に、空間光変調器28の2次元のアレイ状に配列された多数のミラー要素30の電源オフ時の反射面が配置される。ビームエキスパンダ4からコンデンサ光学系24及びミラー8Cまでの光学部材を含んで照明光学系ILSが構成されている。照明光学系ILSからの照明光ILは、空間光変調器28の多数のミラー要素30のアレイ上のX方向に細長い長方形状の照明領域26Aをほぼ均一な照度分布で照明する。多数のミラー要素30は、照明領域26Aを含む長方形の領域にX方向及びY方向に所定ピッチで配列されている。照明光学系ILS及び空間光変調器28は、不図示のフレームに支持されている。
【0022】
図2(A)は、図1中の空間光変調器28の反射面の一部を示す拡大斜視図、図2(B)は図2(A)のBB線に沿う断面図である。図2(A)において、空間光変調器28の反射面には、X方向及びY方向にそれぞれピッチ(周期)px及びpyで、X方向の幅axでY方向の幅ayの多数のミラー要素30が配列されている。一例としてミラー要素30は正方形であり、ピッチpx,pyは互いに等しく、以下の関係が成立している。なお、ミラー要素30は長方形等でもよく、ピッチpx,pyは互いに異なってもよい。
【0023】
px=py …(1A),ax=ay<px …(1B)
その反射面において、X方向にi番目(i=1,2,…,I)及びY方向にj番目(j=1,2,…,J)の位置P(i,j)にそれぞれミラー要素30が配置されている。一例として、ミラー要素30のY方向(ウエハWの走査方向に対応する方向)の配列数Jは数100〜数1000であり、X方向の配列数Iは配列数Jの数倍〜数10倍である。また、ミラー要素30の配列のピッチpx(=py)は例えば10μm〜1μm程度である。
【0024】
また、空間光変調器28は、多数のミラー要素30と、各ミラー要素30をそれぞれ可撓性(弾性)を持つヒンジ部35(図2(B)参照)を介して支持するベース部材32と、隣接するミラー要素30間の隙間領域に配置されるとともにベース部材32に固定された多数の境界部34とを備えている。本実施形態では、各ミラー要素30に対してそれぞれ1つの境界部34が設けられている。境界部34は、ミラー要素30の−X方向の側面に近接して配置されたX方向の幅cxでY方向に細長い長方形の表面を持つX方向の境界部34Xと、ミラー要素30の+Y方向の側面に近接して配置されたY方向の幅cyでX方向に細長い長方形の表面を持つY方向の境界部34Yとを一体化して形成されている。本実施形態では次のように幅cx,cyは互いに等しく、ミラー要素30と境界部34との全体の幅はピッチpx,pyよりも狭い。なお、幅cx,cyは互いに異なってもよい。
【0025】
cx=cy …(2)
ax+cx<px …(3A), ay+cy<py …(3B)
なお、本実施形態では、ミラー要素30と境界部34との隙間が狭く、以下のようにミラー要素30の幅と境界部34の幅との和が実質的にミラー要素30の配列のピッチとほぼ等しいものとして扱うことが可能である。
【0026】
ax+cx≒px …(4A), ay+cy≒py …(4B)
一例として、境界部34Xの幅cx(境界部34Yの幅cy)はミラー要素30の配列のピッチpx(py)の数%〜10%程度である。なお、ミラー要素30のアレイの+X方向及び−Y方向の端部には、それぞれ一列の複数の境界部34X及び境界部34Yが付加されている。
【0027】
図2(B)において、ベース部材32は、例えばシリコンよりなる平板状の基材32Aと、基材32Aの表面に形成された窒化ケイ素(例えばSi34)等の絶縁層32Bとから構成されている。また、ベース部材32の表面にX方向、Y方向に所定ピッチで断面形状がL字型の境界部34が形成され、境界部34中の隣接するY方向の境界部34Yの間に、弾性変形によってZ方向に可撓性を持つ1対の2段のヒンジ部35を介して、ミラー要素30の裏面側の凸部が支持されている。境界部34、ヒンジ部35、及びミラー要素30は例えばポリシリコンから一体的に形成されている。ミラー要素30の反射面(表面)には、反射率を高めるために金属(例えばアルミニウム等)の薄膜よりなる反射膜31が形成されている。
【0028】
また、ミラー要素30の底面側のベース部材32の表面に電極36Aが形成され、電極36Aに対向するようにヒンジ部35の底面に電極36Bが形成されている。ベース部材32の表面及び境界部34の側面には、ミラー要素30毎に対応する電極36A,36B間に所定の電圧を印加するための信号ライン(不図示)がマトリクス状に設けられている。この場合、電源オフ状態又は電源オン状態で電極36A,36B間に電圧が印加されていない状態(第1の状態)では、位置P(i,j−1)のミラー要素30で示すように、ミラー要素30の反射面は、XY平面に平行な平面である基準平面A1に合致している。一方、電源オン時で電極36A,36B間に所定の電圧が印加されている状態(第2の状態)では、位置P(i,j)のミラー要素30で示すように、ミラー要素30の反射面は、XY平面に平行で基準平面A1からZ方向に間隔d1だけ変位した平面A2に合致している。図1の変調制御部48が、主制御系40から設定される照明光ILの位相分布(凹凸パターン)の情報に応じて、位置P(i,j)のミラー要素30毎の電極36A,36B間の電圧を制御する。各ミラー要素30の反射率は例えば80%程度以上であり、各ミラー要素30は、その第1の状態又はその第2の状態のいずれかに設定される。
【0029】
また、図2(B)において、境界部34の表面A3は、XY平面に平行であり、かつ表面A3と基準平面A1とのZ方向の間隔はd2である。このような微小な立体構造の空間光変調器28は、例えば背景技術で引用した非特許文献1及び2に記載されているように、MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械システム)技術を用いて製造することが可能である。空間光変調器28の各ミラー要素30は、平行移動によって第1の状態又は第2の状態に設定できればよいだけであるため、ミラー要素30の小型化及びミラー要素30の配列数の増大が容易である。
【0030】
また、各ミラー要素30の反射面が基準平面A1に合致している状態(第1の状態)で、当該ミラー要素30によって反射される照明光ILの位相の変化量を第1の位相δ1とすると、本実施形態では位相δ1は0°である。また、各ミラー要素30の反射面が基準平面A1から間隔d1だけ変位した平面A2に合致している状態(第2の状態)で、当該ミラー要素30で反射される照明光ILの位相の変化量を第2の位相δ2とすると、位相δ2は位相δ1に対して180°(π(rad))異なっている。この場合、以下の関係が成立する。ただし、空間光変調器28の製造誤差及び変調制御部48による駆動誤差等を考慮して、位相δ2は、式(5B)に対して数deg(°)程度の誤差は許容される。なお、以下では単位のない位相はradを意味する。
【0031】
δ1=0° …(5A), δ2=180°=π …(5B)
また、ミラー要素30間の境界部34の表面A3の反射率は例えば数10%程度である。さらに、境界部34の表面A3と基準平面A1とのZ方向の間隔d2は、境界部34で反射される照明光ILの位相の変化量が、その第1の位相δ1とその第2の位相δ2との中間の第3の位相δ3となるように設定される。本実施形態では、位相δ1及びδ2は式(5A)及び(5B)で表されるため、位相δ3は位相δ1に対する差分として次のようになる。
【0032】
δ3=90°+k・180°(kは整数)=π/2+k・π …(6)
ただし、ミラー要素30及び境界部34の製造誤差、及びミラー要素30のZ方向への駆動誤差等を考慮すると、境界部34で反射される照明光ILの位相の変化量(第3の位相δ3)は、ほぼ式(6)を満たす範囲、例えば式(6)に対して±10°程度の範囲内にあればよい。
【0033】
次に、式(5B)に対応する間隔d1及び式(6)に対応する間隔d2を求める。図2(B)において、本実施形態では、ミラー要素30の反射面及び境界部34Y(34)の表面A3に入射する照明光IL1,IL2,IL3の平均的な入射角はαである。また、照明光IL1等の波長をλ(ここではλ=193nm)、空間光変調器28の設置される環境の気体の屈折率を1とする。この場合、位置P(i,j−1)のミラー要素30の反射面は基準平面A1に合致しており、その反射面に入射する照明光IL3に対する反射光B5の位相の変化量(第1の位相δ1)は0である。
【0034】
次に、位置P(i,j)のミラー要素30の反射面に照明光IL1が入射しており、その反射面が基準平面A1に合致しているときの点線で示す反射光B1の位相の変化量と、その反射面が間隔d1の平面A2に合致しているときの反射光B2の位相の変化量との差分が第2の位相δ2である。また、反射光B1,B2の位相差を、反射光B1,B2の光路に垂直な波面の位相差で定義する。この場合、入射する照明光IL1に対して平面A2で反射される反射光B2が基準平面A1に達するときの反射光B2の光路長op2は次のようになる。
【0035】
op2=2d1/cos α …(7A)
また、反射光B2が基準平面A1に達するときに、比較対象の基準平面A1で反射された反射光B1の光路長op1は次のようになる。
op1=2d1・tan α・sin α=2d1・sin2α/cos α …(7B)
従って、反射光B2と反射光B1との光路長の差分δop2は、式(7A)及び(7B)を用いて次のようになる。
【0036】
δop2=op2−op1=2d1/cos α−2d1・sin2α/cos α
=2d1・cos2α/cos α=2d1・cos α …(8A)
この光路長の差分δop2が、式(5B)の位相に対応する光路長(λ/2)に等しいため、次の関係が得られる。
2d1・cos α=λ/2 …(8B)
この式から間隔d1は次のようになる。
【0037】
d1=(1/cos α)λ/4 …(8C)
また、境界部34Y(34)の表面A3に入射角αで入射した照明光IL2の反射光B4の光路長と、反射光B4が基準平面A1に達するときの基準平面A1で反射した反射光B3の光路長との差分δop3は、式(8A)に対応して次のようになる。
δop3=2d2・cos α …(9A)
この光路長の差分δop3が、式(6)の位相に対応する光路長(λ/4+k・λ/2)に等しいため、次の関係が得られる。
【0038】
2d2・cos α=λ/4+k・λ/2 …(9B)
この式から間隔d2は次のようになる。なお、kは整数である。
d2=(1/cos α)(λ/8+k・λ/4) …(9C)
式(6)の場合と同様に、間隔d2はほぼ式(9C)を満たせばよく、間隔d2は式(9C)に対して例えば±(1/cos α)(λ/8)(10°/90°)、即ち±λ/70程度の範囲内に入ればよい。一例として、整数kが0、入射角αが10°、波長λが193nmである場合、式(8C)及び(9C)から間隔d1,d2は次のようになる。
【0039】
d1=49(nm), d2=24.5(nm) …(10)
図2(A)において、空間光変調器28の各ミラー要素30はそれぞれ入射する照明光ILの位相を0°変化させて反射する第1の状態、又は入射する照明光ILの位相を180°(π)変化させて反射する第2の状態に制御される。以下では、その第1の状態に設定されたミラー要素30を位相0のミラー要素、その第2の状態に設定されたミラー要素30を位相πのミラー要素とも呼ぶ。
【0040】
一例として、所定パルス数の照明光ILの発光毎に、図1の主制御系40が変調制御部48に、空間光変調器28によって設定される照明光ILの位相分布(凹凸パターン)の情報を供給する。これに応じて変調制御部48が空間光変調器28の各ミラー要素30を位相0又は位相πに制御する。ウエハWの表面にはその位相分布に応じた空間像が形成される。
【0041】
図1において、空間光変調器28の照明領域26A内の多数のミラー要素30のアレイで反射された照明光ILは、平均的な入射角αで投影光学系PLに入射する。不図示のコラムに支持された光軸AXWを持つ投影光学系PLは、空間光変調器28(物体面)側に非テレセントリックであり、ウエハW(像面)側にテレセントリックの縮小投影光学系である。投影光学系PLは、空間光変調器28によって設定される照明光ILの位相分布に応じた空間像の縮小像を、ウエハWの1つのショット領域内の露光領域26B(照明領域26Aと光学的に共役な領域)に形成する。投影光学系PLの投影倍率βは例えば1/10〜1/100程度であり、その解像度(ハーフピッチ又は線幅)は、例えば空間光変調器28の1対のミラー要素30及び境界部34の像の幅(β・py)程度である。言い換えると、投影光学系PLの物体面において、1つのミラー要素30のピッチpyよりも小さい構造は解像されない。例えば、ミラー要素30及び境界部34の大きさが数μm角程度、投影光学系PLの投影倍率βが1/100程度であれば、投影光学系PLの解像度は数10nm程度である。
【0042】
ウエハW(基板)は、例えばシリコン又はSOI(silicon on insulator)等の円形の平板状の基材の表面に、フォトレジスト(感光材料)を数10nm〜200nm程度の厚さで塗布したものを含む。
本実施形態のように物体側に非テレセントリックの投影光学系PLを用いることによって、空間光変調器28の多数のミラー要素30の反射面とウエハWの露光面(フォトレジストの表面)とをほぼ平行に配置できる。従って、露光装置の設計・製造が容易である。
【0043】
また、露光装置EXが液浸型である場合には、例えば米国特許出願公開第2007/242247号明細書に開示されているように、投影光学系PLの先端の光学部材とウエハWとの間に照明光ILを透過する液体(例えば純水)を供給して回収する局所液浸装置が設けられる。液浸型の場合には解像度をさらに高めることができる。
図1において、ウエハWはウエハホルダ(不図示)を介してウエハステージWSTの上面に吸着保持され、ウエハステージWSTは、不図示のガイド面上でX方向、Y方向にステップ移動を行うとともに、Y方向に一定速度で移動する。ウエハステージWSTのX方
向、Y方向の位置、及びθz方向の回転角等はレーザ干渉計45によって形成され、この計測情報がステージ制御系44に供給されている。ステージ制御系44は、主制御系40からの制御情報及びレーザ干渉計45からの計測情報に基づいて、リニアモータ等の駆動系46を介してウエハステージWSTの位置及び速度を制御する。なお、ウエハWのアライメントを行うために、ウエハWのアライメントマークの位置を検出するアライメント系(不図示)等も備えられている。
【0044】
ウエハWの露光時には、ウエハWのアライメントを行った後、照明光学系ILSの照明条件を設定する。そして、例えば図5(A)に示すウエハWの表面でY方向に一列に配列されたショット領域SA21,SA22,…に露光を行うために、ウエハWを走査開始位置に位置決めする。その後、ウエハWの+Y方向への一定速度での走査を開始する。なお、図5(A)のショット領域SA21等の中の矢印は、ウエハWに対する露光領域26Bの相対的な移動方向を示している。
【0045】
次に、主制御系40は、ウエハWの露光領域26Bのショット領域SA21に対する相対位置に応じて、変調制御部48に露光領域26Bに形成される空間像に対応する空間光変調器28の反射面における照明光ILの位相分布の情報を供給するとともに、電源部42に発光トリガパルスTPを供給する。これによって、露光領域26Bには、Y方向の位置に応じて目標とする空間像が逐次露光される。この動作をショット領域SA21が露光領域26Bを横切るまで繰り返すことで、ショット領域SA21に全体の空間像(回路パターン)が露光される。
【0046】
その後、ウエハWのショット領域SA21に隣接するショット領域SA22に露光するために、ウエハWを同じ方向に走査したまま、主制御系40は、変調制御部48に照明光ILの位相分布の情報を供給するとともに、電源部42に発光トリガパルスTPを供給する。このようにして、ショット領域SA21からSA22にかけて連続的に露光を行うことができる。そして、図5(A)のウエハWのX方向に隣接するショット領域SA31,SA32を含む列の露光に移行する場合には、ウエハステージWSTを駆動してウエハWをX方向(走査方向に直交する非走査方向)にステップ移動する。そして、点線で示す露光領域26Bに対するウエハWの走査方向を逆の−Y方向に設定し、主制御系40から変調制御部48に逆の順序で照明光ILの位相分布の情報を供給し、電源部42に発光トリガパルスTPを供給することで、ショット領域SA32からSA31にかけて連続的に露光を行うことができる。この露光に際して、ショット領域SA21,SA22等に互いに異なる空間像を露光することも可能である。その後、ウエハWのフォトレジストの現像を行うことで、ウエハWの各ショット領域にレジストパターンが形成される。
【0047】
次に、図2(A)の空間光変調器28の境界部34における照明光ILの反射光の影響につき説明する。一例として、ウエハWの表面に、図3(C)に示すように、Y方向のピッチがミラー要素30の像のピッチの3倍(β・3py)(βは投影倍率)の光強度分布INTを持つ空間像、即ちY方向のピッチがβ・3pyのライン・アンド・スペースパターン(以下、L&Sパターンという)の像を形成する場合を想定する。この場合、露光装置EXの照明光学系ILSの照明条件は、例えばσ値が0.1〜0.05程度の小σ照明で、照明光ILの偏光方向がウエハW上でX方向になるように設定される。そして、空間光変調器28のミラー要素30のアレイの位相分布は、図3(A)の拡大平面図で示すように、それぞれX方向に4個以上でY方向に3個のミラー要素30を含む第1の領域D1内で各ミラー要素30が第1の状態(位相0)となり、第1の領域D1にY方向に隣接し、それぞれX方向に4個以上でY方向に3個のミラー要素30を含む第2の領域D2内で各ミラー要素30が第2の状態(位相π)となる分布に設定される。なお、図3(A)及び後述の図4(A)は、透視図であるとともに、第2の状態のミラー要素30にはハッチングを施している。領域D1及びD2のY方向の幅はそれぞれ3pyである。
【0048】
本実施形態では、領域D1,D2内の境界部34に入射して反射される照明光ILの位相は、第1の状態(位相0)のミラー要素30の反射光に対してπ/2(90°)だけ変化している。なお、式(6)で整数kを0とおいている。そのため、図3(A)の空間光変調器28の反射面のY軸に平行な直線(X方向の境界部34Xを通過しない直線)上における照明光ILの反射光の位相分布φ(IL)は、図3(B)に示すように変化する。図3(B)において、領域D1内のY方向の幅が(3py−cy)の部分の位相はほぼ0であり、領域D2内のY方向の幅が(3py−cy)の部分の位相はほぼπ(180°)であり、領域D1,D2間のY方向の幅がcyの部分(図3(A)の1つの境界部34Y)の位相はπ/2である。なお、投影光学系PLは、物体面上でミラー要素30のピッチpy,pxよりも小さい構造を解像しないため、領域D1,D2の内部のY方向の幅cyで位相がπ/2の部分(2つの境界部34Y)、及びX方向の幅cxで位相がπ/2の部分(境界部34X)は、投影光学系PLに対しては実質的に位相が変化していない部分となる。
【0049】
そのため、図3(B)の位相分布φ(IL)は、実質的にY方向の幅(3py−cy)で位相が0の部分、Y方向の幅cyで位相がπ/2の部分、実質的にY方向の幅(3py−cy)で位相がπの部分、及びY方向の幅cyで位相がπ/2の部分が繰り返される分布となる。従って、その位相分布φ(IL)に対応する投影光学系PLの像のY方向の光強度分布INTは、図3(C)に示すように、ピッチがβ・3pyの正弦波状になるため、空間光変調器28の境界部34の反射率が高い場合でも、フォトレジストの現像によってピッチがβ・3pyのL&Sパターンが得られる。
【0050】
これに対して、図4(A)の比較例の空間光変調器28Vにおいては、ミラー要素30間の境界部34は、第1の状態(位相0)のミラー要素30と同様に、入射する照明光の位相を0だけ変化させるものとしている。この比較例においても、多数のミラー要素30の状態を、図3(A)と同様に、第1の領域D1内で各ミラー要素30が第1の状態(位相0)となり、第1の領域D1にY方向に隣接する第2の領域D2内で各ミラー要素30が第2の状態(位相π)となる分布に設定する。
【0051】
この比較例において、図4(A)のY軸に平行な直線(X方向の境界部34Xを通過しない直線)上における照明光ILの反射光の位相分布φ(IL)は、図4(B)に示すように変化する。この比較例では、境界部34Yの反射光の位相は0であるため、図4(B)において、領域D1及び1つの境界部34Yを含むY方向の幅が(3py+cy)の部分の位相はほぼ0であり、領域D2から1つの境界部34Yを除いたY方向の幅が(3py−cy)の部分の位相はほぼπである。この場合にも、領域D2の内部のY方向の幅cyで位相が0の部分(2つの境界部34Y)は、投影光学系PLに対しては実質的に位相が変化していない部分となる。
【0052】
そのため、図4(B)の位相分布φ(IL)は、実質的にY方向の幅(3py+cy)で位相が0の部分と、Y方向の幅(3py−cy)で位相がπの部分とが繰り返される分布となる。従って、その位相分布φ(IL)に対応する投影光学系PLの像のY方向の光強度分布INTは、図4(C)に示すように、Y方向のピッチがβ(3py+cy)の正弦波とY方向のピッチがβ(3py−cy)の正弦波とが1周期ずつ交互に連なる分布となる。そのため、最終的にY方向のピッチが均一にβ・3pyとなるL&Sパターンを得ることができない。同様に、第2の状態のミラー要素30と同様に、境界部34に入射する照明光ILの位相がπだけ変化する場合にも、最終的にY方向のピッチが均一にβ・3pyとなるL&Sパターンを得ることができない。
【0053】
これに対して、本実施形態の空間光変調器28によれば、境界部34は、入射する照明
光ILの位相を、第1の状態(位相0)のミラー要素30と第2の状態(位相π)のミラー要素30とのほぼ中間の位相に設定している。従って、境界部34の反射率が高い場合でも、投影光学系PLを介してウエハWの表面に目標とする空間像(ひいてはデバイスパターン)を高精度に形成できる。
【0054】
次に、本実施形態においてウエハの表面に孤立的なパターン(レジストパターン)を形成する場合のシミュレーション結果の一例につき説明する。
図6(A)は、このシミュレーションにおいて、空間光変調器28のミラー要素30によって設定される反射光の位相分布を示す。図6(A)の位相分布において、白抜きのミラー要素30は位相0であり、灰色のミラー要素30は位相πである。図6(A)の複数のミラー要素30の間には、図6(B)に示すように、境界部34が配置されている。このシミュレーションでは、ミラー要素30の像のX方向、Y方向のピッチβ・px(=β・py)を20nm、ミラー要素30の像のX方向、Y方向の幅β・ax(=β・ay)を17.5nm、境界部34の像のX方向、Y方向の幅β・cx(=β・cy)を2.5nmとする。
【0055】
このシミュレーションにおいて、ウエハの表面に形成すべきパターンは、図6(A)において、点線で示すX方向の幅(2px)でY方向の幅((2+1/5)py)の仮想的な第1パターン81及び点線で示すX方向の幅(2px)でY方向の長さ((4+1/5)py)の長方形の仮想的な第2パターン82を投影倍率βで縮小した像である。第1パターン81と第2パターン82とのX方向の間隔は4px、Y方向の間隔は0である。言い換えると、第1パターン81の理想的な像は幅40nmで長さ44nmの長方形のパターン、第2パターン82の理想的な像は幅40nmで長さ84nmの長方形のパターンである。また、照明光学系ILSによる照明条件を、σ値が0.14の小σ照明として、照明光ILの偏光状態を非偏光とした。
【0056】
次に、図7は、図6(B)の境界部34における反射光の位相を45°ステップで異なる値に設定し、境界部34の反射率を10%に固定して、図6(A)の位相分布に対するレジストパターン(空間像)を計算した結果を示す。図7において、横軸はX軸(nm)、縦軸はY軸(nm)であり、正方形のレジストのパターン81A及び長方形のレジストのパターン82Aはそれぞれ形成すべき理想的なパターン(空間像の強度が感光レベルを横切る部分)を示す。また、空間像の計算に際しては、パターン81Aに対応する実際のパターンであるほぼ円形のレジストのパターン81B(強度が感光レベルを横切る部分)のX方向の幅(CD値)がパターン81AのX方向の幅に合致するように感光レベルを調整する。
【0057】
図7において、楕円状のレジストのパターン82B,82C,82D,82E,82Fは、それぞれ境界部34における反射光の位相を90°、0°、45°、135°、180°に設定した場合のパターン82Aに対応する実際のパターンを示す。これにより、位相が90°のときのパターン82Bが理想的な像82Aに最も近く、位相が0°及び45°のときのパターン82C,82Dはパターン82Aよりも大きくなり、位相が135°及び180°のときのパターン82E,82Fはパターン82Aよりも小さくなることが分かる。なお、位相が180°の場合のパターン82Fは形成されていない。さらに、図7中のパターン82Bと合致しているパターン82Sは、図6(B)でミラー要素30が密着しており(隙間がなく)、境界部34の幅cx,cyを0とみなして計算したレジストパターンを表している。従って、境界部34の位相が90°(式(6)でk=1とした値)であるときに、理想的なパターン82Aに最も近いレジストパターンが得られることが分かる。
【0058】
また、図8(A)は、図6(B)の境界部34の位相を90°に固定して、境界部34
の反射率を種々に変えて、図6(A)の位相分布に対するレジストパターンを計算した結果を示し、図8(B)は図8(A)のX軸に平行なBB線に沿う直線上の強度分布INT(最大値で規格化されている)を示す。図8(A)において、正方形のパターン81A及び長方形のパターン82Aはそれぞれ形成すべきレジストパターンであり、パターン81B及び82Bは、それぞれ境界部34における反射率を0%、0.1%、1%、10%、及び100%に設定した場合のパターン81A及び82Aに対応する実際のレジストパターンを示す。さらに、パターン81B及び82Bは、ミラー要素30が密着しており、境界部34の幅を0とみなして計算したレジストパターンをも表している。
【0059】
また、図8(B)の曲線83Aで表される強度分布INTは、ミラー要素30が密着しており、境界部34の幅を0とみなして計算した空間像の強度分布を、曲線83Bで表される強度分布INTは、反射率を0%、0.1%、1%、10%、及び100%に設定した場合の空間像の強度分布を表している。これらにより、境界部34の位相が90°であるときには、境界部34の反射率に関係なく、理想的なパターン81A,82Aとほぼ同じレジストパターンが得られることが分かる。
【0060】
次に、図9(A)は、図6(B)の境界部34の位相を270°(式(6)でk=1とした値)に固定して、境界部34の反射率を種々に変えて、図6(A)の位相分布に対するレジストパターンを計算した結果を示し、図9(B)は図9(A)のX軸に平行なBB線に沿う直線上の強度分布INT(最大値で規格化されている)を示す。図9(A)において、パターン81B’及び82B’は、それぞれ境界部34における反射率を0%、0.1%、1%、10%、及び100%に設定した場合の理想的なパターン81A及び82Aに対応する実際のレジストパターンを示す。さらに、パターン81B’及び82B’は、ミラー要素30が密着しており、境界部34の幅を0とみなして計算したレジストパターンをも表している。
【0061】
また、図9(B)の曲線84Aで表される強度分布INTは、ミラー要素30が密着しており、境界部34の幅を0とみなして計算した空間像の強度分布を、曲線84Bで表される強度分布INTは、反射率を0%、0.1%、1%、10%、及び100%に設定した場合の空間像の強度分布を表している。これらにより、境界部34の位相が270°であっても、境界部34の反射率に関係なく、理想的なパターン81A,82Aとほぼ同じレジストパターンが得られることが分かる。
【0062】
本実施形態の効果等は以下の通りである。
(1)本実施形態の露光装置EXは、空間光変調器28を備えている。また、空間光変調器28は、それぞれ入射する光の位相を第1の位相(δ1)だけ変化させて反射する第1の状態、及び入射する光の位相をその第1の位相と180°異なる第2の位相(δ2)だけ変化させて反射する第2の状態に制御可能な複数のミラー要素30(光学要素)と、複数のミラー要素30の間に配置されて、入射する光の位相をその第1の位相とほぼ(90°+k・180°)(kは整数)だけ異なる第3の位相(δ3)だけ変化させる境界部34とを備えている。
【0063】
本実施形態によれば、空間光変調器28の境界部34(隙間領域)を挟む2つのミラー要素30が第1の状態及び第2の状態に設定されて、その2つのミラー要素30で反射される光の位相が互いに180°(π)異なる場合、境界部34で反射される光の位相は、その2つのミラー要素30で反射される光のほぼ中間の位相(90°)になる。従って、その2つのミラー要素30及び境界部34で反射される光の位相が互いに180°異なる部分の幅は互いにほぼ等しいため、その境界部34で反射される光の光量が大きい場合に、空間光変調器28からの光を用いてウエハW上に投影(形成)されるパターンの形状の誤差が低減される。
【0064】
(2)また、空間光変調器28は光学要素としてミラー要素30(反射要素)を有するため、照明光ILの利用効率が高い。しかしながら、空間光変調器28の代わりに、個々の光学要素がそれぞれ透過する光の位相を所定のφ1又は(φ1+180°)変化させるとともに、光学要素間の境界部が透過する光の位相を(φ1+90°+k・180°)変化させる透過型の空間光変調器を使用することも可能である。このような光学要素としては、電圧によって屈折率が変化する電気光学素子又は液晶セル等を使用できる。
【0065】
(3)また、空間光変調器28は、複数のミラー要素30とそれぞれヒンジ部35(可動部)を介して連結されるとともに、境界部34が固定されるベース部材32(ベース部)を備えている。従って、各ミラー要素30を高速に、かつ高精度に駆動できる。
(4)また、空間光変調器28の各ミラー要素30は、電源オフのときにそれぞれその第1の状態(位相0)になるため、制御が容易である。さらに、境界部34の表面の高さは、空間光変調器28の製造時のミラー要素30の反射面の高さに基づいて設定すればよいため、境界部34で反射される光の位相の変化δ3を高精度に設定できる。
【0066】
なお、各ミラー要素30は、電源オフのときに第2の状態(位相π)、境界部34と同じ高さ、又はその他の高さになってもよい。
(5)また、空間光変調器28のミラー要素30は2次元のアレイであるため、一度の露光で大面積のパターンをウエハWに露光できる。なお、空間光変調器28において、ミラー要素30を例えばX方向(ウエハWの非走査方向に対応する方向)に一次元のアレイ状に配列してもよい。
【0067】
(6)また、露光装置EXは、照明光IL(露光光)でウエハW(基板)を露光する露光装置において、空間光変調器28と、空間光変調器28の複数のミラー要素30のアレイに照明光ILを照射する照明光学系ILSと、複数のミラー要素30からの反射光をウエハW上に導いてウエハW上にパターンを投影する投影光学系PLと、ウエハWに露光されるパターンを制御するために、空間光変調器28の複数のミラー要素30を個別にその第1の状態又は第2の状態に制御する変調制御部48(制御装置)と、を備えている。
【0068】
露光装置EXによれば、空間光変調器28の境界部34が或る程度の反射率を有し発熱が少ないとともに、空間光変調器28の境界部34の反射の影響が抑制されているため、ウエハWの表面に目標とするパターンを高精度に形成できる。
なお、空間光変調器28の各ミラー要素30は、その第1の状態及びその第2の状態以外の第3の状態等を含む複数の状態に設定可能としてもよい。
【0069】
(7)また、照明光学系ILSからの照明光ILは、複数のミラー要素30(反射要素)にほぼ入射角αで斜めに入射し、ミラー要素30からの反射光が、投影光学系PLに対して投影光学系PLの光軸AXWに交差するように入射している。従って、投影光学系PLは物体面側に非テレセントリックであるため、空間光変調器28からの反射光の全部を投影光学系PLを介してウエハWに照射でき、照明光ILの利用効率が高い。さらに、偏光制御光学系6で設定される照明光ILの偏光状態をウエハWの表面で正確に再現できる。
【0070】
(8)また、ミラー要素30は、X方向(第1方向)を長手方向とする長方形の領域に設けられ、ウエハWを投影光学系PLの像面でX方向と直交するY方向(第2方向)に対応する走査方向に移動するウエハステージWST(基板ステージ)を備え、変調制御部48は、ウエハステージWSTによるウエハWの移動に応じて、複数のミラー要素30によって形成されるパターン(位相分布)をY方向に移動している。これによって、ウエハWの全面を効率的に露光できる。
【0071】
なお、上記の実施形態では以下のような変形が可能である。
(1)まず、上記の実施形態では、ウエハWを連続的に移動してウエハWを走査露光している。その他に、図5(B)に示すように、ウエハWの各ショット領域(例えばSA21)をY方向に複数の部分領域SB1〜SB5等に分割し、投影光学系PLの露光領域26Bに部分領域SB1等が達したときに、照明光ILを所定パルス数だけ発光させて、空間光変調器28のミラー要素30のアレイからの反射光で部分領域SB1等を露光してもよい。この後、ウエハWをY方向にステップ移動させて、次の部分領域SB2等が露光領域26Bに達してから、同様に部分領域SB2等に露光が行われる。この方式は実質的にステップ・アンド・リピート方式であるが、部分領域SB1〜SB5等には互いに異なるパターンが露光される。
【0072】
(2)次に、図2(B)の空間光変調器28は、第1の状態(位相0)のミラー要素30の反射面(基準反射面A1)と境界部34(34Y)の表面A3との間隔d2が、境界部34の反射光の位相が90°変化するように定められている場合を表しており、かつ境界部34の幅cx,cyは、ミラー要素30間の隙間よりも狭く設定されている。
これに対して、図10の第1変形例の空間光変調器28Aで示すように、第1の状態(位相0)のミラー要素30の反射面(基準反射面A1)と境界部34(34Y)の表面A3との間隔d2を、境界部34の反射光の位相が270°変化するように定めてもよい。図10において、図2(B)に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。この変形例は、式(6)でk=1とした場合に相当する。さらに、ミラー要素30の厚さを間隔d1(第2の状態(位相π)に設定されたミラー要素30の反射面と基準反射面A1との間隔)の1/2よりも薄く形成する。この場合、境界部34の表面A3は、第1の状態及び第2の状態のいずれの状態のミラー要素30の底面よりも低くなる。
【0073】
そこで、境界部34のY方向の幅ey及びX方向の幅ex(不図示)をそれぞれミラー要素30の隙間よりも広く設定する。従って、ミラー要素30の幅ax,ay及び配列のピッチpx,pyを用いて、式(3A)、(3B)に対応して以下の関係が成立する。
ax+ex>px …(11A), ay+ey>py …(11B)
この変形例によれば、ミラー要素30と境界部34との間の隙間が実質的になくなるため、境界部34に入射する照明光IL2は、ほぼその全部が反射される。従って、迷光等が減少するため、結像特性が向上する。
【0074】
(3)上記の実施形態の空間光変調器28では、境界部34はベース部材32に固定されている。それ以外に、図11の第2変形例の空間光変調器28Bで示すように、各ミラー要素30の+Y方向の端部に、ミラー要素30の反射面からの間隔がd2の段差部よりなる境界部38を一体的に設けてもよい。この場合には、ミラー要素30の−X方向の端部にも、反射面からの間隔がd2の境界部(不図示)が一体的に設けられている。また、ミラー要素30は、ベース部材32の表面に固定された突部37に対して一対のヒンジ部35を介してZ方向に変位可能に支持されている。
【0075】
さらに、例えば電源オフ時にはミラー要素30の反射面(反射膜31の表面)は基準平面A1に合致する第1の状態にあり、電源オン時で第2の状態のときに、ミラー要素30の反射面は基準平面A1から間隔d1の平面A2に合致し、境界部38の表面A4は基準反射面A1から(d1+d2)の間隔になる。間隔d1及びd2はそれぞれ上記の式(8C)及び(9C)を満たしている。従って、この第1変形例の空間光変調器28Aにおいても、第1の状態のミラー要素30では、入射する照明光IL3をそのまま反射し(δ1=0)、第2の状態のミラー要素30では、入射する照明光IL1の位相を180°変化させて反射し、境界部38では入射する照明光IL2の位相を(90°+k・180°)変化させて反射する。これによって、境界部38の反射光によるパターンの誤差が抑制さ
れる。
【0076】
(4)次に、図11の空間光変調器28Bは、ミラー要素30の反射面と境界部38の表面A3との間隔d2が、境界部34の反射光の位相が90°変化するように定められている場合を表しており、かつ境界部38の幅は、ミラー要素30間の隙間よりも狭く設定されている。
これに対して、図12の第3変形例の空間光変調器28Cで示すように、ミラー要素30の反射面とこれに一体化された境界部38の表面A3との間隔d2を、境界部38の反射光の位相が270°変化するように定めてもよい。図12において、図11に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。この変形例は、式(6)でkを1又は2とした場合に相当する。さらに、ミラー要素30の厚さを間隔d1の1/2よりも薄く形成し、境界部38のY方向の幅及びX方向の幅(不図示)をそれぞれミラー要素30の隙間よりも広く設定する。
【0077】
さらに、各ミラー要素30の反射面に対して+Y方向側に境界部38がある場合、各ミラー要素30に入射する照明光IL1〜IL3の平均的な入射方向を、図12に示すように、+Y方向に設定することが好ましい。この場合、境界部38の端部に入射角αで入射する照明光IL2の反射光B4は、隣のミラー要素30の裏面で反射されて空間光変調器28Cからは射出されないため、迷光が減少し、結像性能が向上する。
【0078】
(5)また、図11の第2変形例及び図12の第3変形例の空間光変調器28B,28Cでは、位置P(i.j−1)のミラー要素30と一体化された境界部38の高さと、これと隣り合う位置P(i,j)のミラー要素30と一体化された境界部38の高さとはほぼ間隔d1だけ異なっている。従って、位置P(i.j−1)の境界部38で反射される照明光の位相の変化量と、位置P(i.j)の境界部38で反射される照明光の位相の変化量とはほぼ180°異なっている。このとき、位置P(i.j−1)の境界部38で反射される照明光と、位置P(i.j)の境界部38で反射される照明光とは干渉によって光強度が減少するため、境界部38での反射光の影響がより少なくなる。
【0079】
この効果を各ミラー要素30の反射面の高さに関係なく得るために、図13の第4変形例の空間光変調器28Dで示すように、照明光IL2が入射する境界部34Y(34)の表面(反射面)A3の高さに対して、それと隣り合う境界部34Yの表面A3Pの高さをほぼ式(8C)で表されるd1(又はその奇数倍)だけ異ならせてもよい。なお、図13において図2(B)に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、第1の状態のミラー要素30の反射面(基準平面A1)と表面A3との高さの差d2は、反射光の位相の変化量に換算してほぼ270°に相当している。この場合、境界部34Yで反射された照明光IL2の位相(位相の変化量)と、それと隣り合う境界部34Yで反射された照明光の位相(位相の変化量)とはほぼ180°異なり、その2つの反射光を合わせた光の強度は干渉によってほぼ0になるため、境界部34での反射光の影響が最も少なくなる。
なお、境界部34Yで反射された照明光IL2の位相の変化量と、それと隣り合う境界部34Yで反射された照明光の位相の変化量とは0又は360°以外の任意の位相だけ異なっていてもよい。この場合でも、その2つの境界部34Yからの反射光の強度は減少するため、境界部34での反射光の影響が少なくなる。
【0080】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態につき14(A)〜図15(C)を参照して説明する。本実施形態においても基本的に図1の露光装置EXを使用するが、図1の空間光変調器28の代わりに図14(A)、(B)に示す空間光変調器28Eを使用する点が異なっている。以下、図14(A)、(B)、図15(A)〜(C)において図2(B)、図2(A)、図3(A)〜(C)に対応する部分にはそれぞれ同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0081】
図14(A)は、本実施形態の空間光変調器28Eの一部を示す拡大断面図、図14(B)は、空間光変調器28Eの反射面の一部を示す拡大平面図である。なお、図14(B)及び後述の図16(A)等では、空間光変調器の反射面を透視図で表している。図14(A)において、ベース部材32の表面でそれぞれヒンジ部35を介してミラー要素30(表面に反射膜31が形成されている)を支持する複数のY方向の境界部34YのY方向の幅は、ミラー要素30のY方向の間隔よりも広く設定されている。また、境界部34Yの表面において、あるミラー要素30を囲むほぼ正方形の枠状の第1の領域54Aの高さ(Z方向の位置)は、そのミラー要素30のY方向の隣のミラー要素30を囲むほぼ正方形の枠状の第2の領域54Bの高さに対して、式(8C)で定まる間隔d1だけ高く設定されている。
【0082】
本実施形態では、図14(B)に示すように、X方向の境界部34Xの表面においても、あるミラー要素30を囲む第1の領域54Aの高さは、そのミラー要素30のX方向の隣のミラー要素30を囲む第2の領域54Bの高さに対して間隔d1だけ高く設定されている。従って、第1の領域54Aの位置PA1で反射される照明光IL2Aの位相の変化量に対して、第2の領域54Bの位置PB1で反射される照明光IL2Bの位相の変化量は180°(π)異なっている。なお、境界部34(34X,34Y)の製造誤差等を考慮すると、領域54A,54Bで反射される照明光IL2A,IL2Bの位相の変化量の差は180°に対して±10°程度の範囲内であればよい。また、ミラー要素30に対する照明光の平均的な入射角αが小さい場合には、照明光の波長λを用いて、間隔d1はほぼλ/4となる。
【0083】
また、本実施形態では、境界部34の表面(領域54A,54B)の高さと、第1の状態(位相0)のミラー要素30の反射面(基準平面A1)及び第2の状態(位相π)のミラー要素30の反射面(平面A2)の高さとが所定の関係を満たす必要はない。なお、図14(B)及び以下で説明する図15(A)、図16(A)等では、説明の便宜上、第1の状態のミラー要素30で反射される照明光の位相の変化量(第1の位相δ1=0)を基準として、第1の領域54A等で反射される照明光の位相の変化量を+90°(π/2)、第2の領域54B等で反射される照明光の位相の変化量を−90°(−π/2)としている。この他の空間光変調器28Eの構成は、第1の実施形態の空間光変調器28と同様であり、空間光変調器28Eの各ミラー要素30の高さは図1の変調制御部48によって制御される。
【0084】
本実施形態において、一例として、ウエハWの表面に、図15(C)に示すように、Y方向のピッチがミラー要素30の像のピッチの3倍(β・3py)(βは投影倍率)のL&Sパターンの像を形成する場合を想定する。この場合、空間光変調器28Eのミラー要素30のアレイの位相分布は、図15(A)に示すように、Y方向に3個のミラー要素30を含む第1の領域D1内で各ミラー要素30が第1の状態(位相0)となり、第1の領域D1にY方向に隣接し、Y方向に3個のミラー要素30を含む第2の領域D2内で各ミラー要素30が第2の状態(位相π)となる分布に設定される。
【0085】
本実施形態では、領域D1,D2内のY方向の境界部34Yの幅cy/2の領域54A,54Bで反射される照明光の位相は、第1の状態(位相0)のミラー要素30の反射光に対してπ/2,−π/2だけ変化している。そのため、図15(A)の空間光変調器28Eの反射面のY軸に平行な直線(X方向の境界部34Xを通過しない直線)上における照明光ILの反射光の位相分布φ(IL)は、図15(B)に示すように変化する。図1の投影光学系PLは物体面上でミラー要素30のピッチpy,pxよりも小さい構造を解像しない。そのため、図15(B)において、領域D1,D2の内部のY方向の幅cy/2の領域54A,54Bは、投影光学系PLに対しては実質的に反射光が存在しない部分となる。
【0086】
そのため、図15(B)の位相分布φ(IL)は、実質的にY方向の幅(3py−cy)で位相が0の部分、幅cyで反射光が存在しない部分、実質的にY方向の幅(3py−cy)で位相がπの部分、及び幅cyで反射光が存在しない部分が繰り返される分布となる。従って、その位相分布φ(IL)に対応する投影光学系PLの像のY方向の光強度分布INTは、図15(C)に示すように、ピッチがβ・3pyの正弦波状になるため、空間光変調器28Eの境界部34(領域54A,54B)の反射率が高い場合でも、フォトレジストの現像によってピッチが高精度にβ・3pyのL&Sパターンが得られる。
【0087】
本実施形態の効果等は以下の通りである。
本実施形態の露光装置EXは、空間光変調器28Eを備えている。また、空間光変調器28Eは、照明光ILが照射される複数のミラー要素30のアレイを有し、複数のミラー要素30の境界部34(34X,34Y)に、それぞれ入射する光の位相の変化量が互いに180°異なる第1の領域54A(第1の位置PA1を有する領域)及び第2の領域54B(第2の位置PB1を有する領域)が設けられたものである。また、ミラー要素30は、それぞれ入射する光を第1の位相(δ1)だけ変化させて反射する第1の状態、及び入射する光をその位相をその第1の位相と180°異なる第2の位相(δ2)だけ変化させて反射させる第2の状態に制御可能である。なお、本実施形態では第1の位相δ1は0であるが、位相δ2は任意である。
【0088】
本実施形態によれば、ウエハに露光するパターンに応じて空間光変調器28Eの複数のミラー要素30をそれぞれ第1及び第2の状態に制御することで、ウエハWにそのパターンを露光できる。さらに、複数のミラー要素30の境界部34(隙間領域)の領域54A,54Bからの光の位相が互いに異なり、2つの領域54A,54Bからの光の強度がウエハW上で小さくなるため、ミラー要素30間の隙間領域に入射する光量が大きい場合でも、そのパターンに生じる誤差を低減できる。
【0089】
なお、ミラー要素30は、入射する光をδ1,δ2と異なる位相(例えば90°又は270°等)だけ変化させて反射する第3の状態等に制御可能としてもよい。また、第1の領域54Aで反射された照明光IL2Aの位相の変化量と、それと隣接する第2の領域54Bで反射された照明光IL2Bの位相の変化量とは0又は360°以外の任意の位相だけ異なっていてもよい。これは以下の変形例でも同様である。この場合でも、2つの領域54A,54Bからの反射光の強度は減少するため、境界部34での反射光の影響が少なくなる。
【0090】
なお、本実施形態では、次のような変形が可能である。
(1)本実施形態では、ミラー要素30の境界部34の幅方向に隣接して反射光の位相が180°異なる2つの領域54A,54Bが設けられている。しかしながら、図16(A)及び(B)の変形例の空間光変調器28F及び28Gで示すように、ミラー要素30の境界部34の長手方向(X方向及びY方向)に隣接して反射光の位相の変化量が180°異なる2つの領域55A,55B及び56A,56Bを交互に(周期的に)設けてもよい。この場合、領域55A,55Bの境界はミラー要素30の中央にあり、領域56A,56Bの境界はミラー要素30の中央からずれた任意の位置にある。
【0091】
また、図16(C)、(D)、及び(E)の変形例の空間光変調器28H,28I及び28Jで示すように、ミラー要素30の境界部34の一方向(ここではX方向)に交互に(周期的に)、反射光の位相の変化量が180°異なる2つの領域57A,57B、58
A,58B、及び59A,59Bを設けてもよい。領域57A,57B等の配列ピッチは、一例としてミラー要素30の配列ピッチpxの2倍である。この場合、領域57A,57Bの境界は隣接する2つのミラー要素30の間にあり、領域58A,58Bの境界はミラー要素30の中央にあり、領域59A,59Bの境界はミラー要素30の中央からずれた任意の位置にある。また、空間光変調器28H〜28Jのミラー要素30のアレイに照射される照明光は、平均的に矢印74で示すY方向(領域57A,57B等の配列方向に直交する方向)に入射角αで傾斜している。このため、境界部34からの位相が180°異なる反射光の電場がほぼ等しくなり、干渉による光強度の低下が大きくなる。
【0092】
これらの変形例の空間光変調器28F〜28Jを用いても、図14(A)の空間光変調器28Eを用いた場合と同様の効果が得られる。
(2)また、図17(A)の変形例の空間光変調器28Kで示すように、ミラー要素30のY方向の境界部34Yの表面の中央に、断面形状が長方形で高さがd1(位相換算で180°)の突起部60を設けてもよい。突起部60は境界部34と一体的に形成されており、突起部60の幅には、境界部34からの反射率を最小にする、ミラー要素30の間隔やミラー要素30のZ方向の厚みなどに依存した最適な値がある。突起部60の幅をミラー要素30の間隔の1/2とすると、幾何学的には位相の変化量が180°異なる2つの領域が同じ面積をもち、境界部34からの反射率を最も低く抑えられると考えられるが、境界部34の幅が微小な場合は光の回折によりミラー要素30の下に回り込み反射されない光線もあり、また、ミラー要素30の側壁で吸収される光線もある。そのため、突起部60の幅をミラー要素30の間隔の1/2としたときが必ずしも最適とは限らない。ただし、図17(A)では、簡単のため突起部60の幅をミラー要素30の間隔の1/2とした。即ち、ミラー要素30の間隔(cy)を4・eyとすると、突起部60の表面の幅は2・eyとなり、境界部34の表面において、ミラー要素30の間隔内で突起部60を挟む2つの領域62B,62Cの幅はeyとなる。照明光(波長λ)の平均的な入射角αが小さい場合には、一例として突起部60の高さd1はλ/4である。図17(B)に示すように、ミラー要素30のX方向の境界部34Xの表面の中央にも高さがd1で幅がミラー間隔の1/2の突起部60が設けられている。この他の構成は、図14(A)の空間光変調器28Eと同様である。
【0093】
この空間光変調器28Kによれば、ミラー要素30の隙間の境界部34に入射する照明光のうちで、突起部60の表面の領域62Aで反射される照明光IL2Aの位相の変化量と、突起部60を挟む領域62B,62Cで反射される照明光IL2B,IL2Cの位相の変化量とは180°異なっており、それらの強度はウエハの表面で干渉により小さくなる。従って、空間光変調器28Eを用いた場合と同様の効果が得られる。
【0094】
(3)また、図18(A)及び(B)の変形例の空間光変調器28L及び28Mで示すように、それぞれミラー要素30のY方向の境界部34Yの表面の中央に高さがd3及びd4の断面形状が二等辺三角形状の突起部64及び66を設けてもよい。突起部64,66はそれぞれ境界部34と一体的に形成されており、突起部64,66の幅は、例えばミラー要素30の間隔cyと同じである。この突起部64,66の幅にも、図17(A)の突起部60の幅と同様に、境界部34からの反射率を最小にする最適な値がある。また、一例として、突起部64の高さd3は間隔d1の2倍(位相換算で360°)であり、突起部66の高さd4は高さd3よりも大きく例えば高さd3の8倍である。従って、照明光(波長λ)の平均的な入射角αが小さい場合には、一例として高さd3はλ/2であり、高さd4は4λである。ミラー要素30のX方向の境界部の表面の中央にもそれぞれ突起部64及び66と同じ突起部が設けられている。この他の構成は、図14(A)の空間光変調器28Eと同様である。
【0095】
図18(A)の空間光変調器28Lによれば、ミラー要素30の隙間の境界部34Yに
入射する照明光のうちで、突起部64の表面の頂上付近の位置PA2で反射される照明光IL2Aの位相の変化量と、突起部64のほぼ中間の高さの位置PB2で反射される照明光IL2Bの位相の変化量とはほぼ180°異なっており、それらの強度はウエハの表面で干渉により小さくなる。従って、空間光変調器28Eを用いた場合と同様の効果が得られる。
【0096】
また、図18(B)の空間光変調器28Mによれば、突起部66の頂点が高く、突起部66の表面の傾斜角が大きくなっている。そのため、ミラー要素30の隙間の境界部34Yに入射する照明光IL2A,IL2Bの大部分は、突起部66の表面でミラー要素30の底面側に反射されてウエハには到達しない。従って、空間光変調器28Eを用いた場合と同様の効果が得られる。
【0097】
ここで、上記の第2の実施形態及びその変形例の空間光変調器を用いた場合の境界部34からの反射光の影響(ミラー要素30の隙間領域の実質的な反射率)をシミュレーションによって評価する。図19(A)及び(C)に、評価用のモデルの空間光変調器28N及び28Oの1周期(ピッチpとする)分のミラー要素30及び境界部34を示す。空間光変調器28Nは、境界部34がなく、ミラー要素30からの反射光のみがある場合のモデルである。空間光変調器28Oは、境界部34の高さhが可変のモデルである。ミラー要素30の隙間領域74の幅のピッチpに対する割合をd(0<d<1)とすると、隙間領域74の幅はd・pとなる。一例として、照明光ILの波長λを193nmとして、ミラー要素30及び境界部34の材料をアモルファスシリコン(α−Si)(屈折率n=1.13、消衰係数k=2.1)、ミラー要素30の表面の反射膜31の材料をアルミニウム(厚さ=0.07μm、屈折率n=0.113、消衰係数k=2.2)とする。また、ピッチpは8μm又は1μmとして、ピッチpが8μm又は1μmのときの隙間領域74の幅d・pをそれぞれ1μm又は0.2μmとする。
【0098】
さらに、空間光変調器28N,28Oに対する照明条件を、σ値が0.14の小σ照明として、偏光条件をランダム照明とする。これらの条件の照明光によって受光面RPに電場(位相パターン)が形成される。また、図19(B)は、その受光面RPの位相パターンの等倍の像を像面IPに形成する評価用の投影光学系PLAを示す。ピッチpが8μm又は1μmの場合、投影光学系PLAの開口数NAはそれぞれ1.35/400又は1.35/50であるとする。即ち、投影光学系PLAの解像力は低く、投影光学系PLAによる空間光変調器28N,28Oの1周期分のミラー要素30及び隙間領域74の像は均一な強度分布になり、隙間構造は空間像には現れない。
【0099】
この場合、空間光変調器28Nのミラー要素30の投影光学系PLAによる空間像の強度をI0とする。そして、空間光変調器28Oの境界部34の高さhを変化させたときのミラー要素30及び境界部34の投影光学系PLAによる空間像の強度Iは、図19(D)に示すように高さhに関して周期的に変化するため、強度Iの最大値及び最小値をI2及びI1とする。このとき、隙間領域74内の境界部34の反射率(以下、隙間反射率という。)は、次式で表される。なお、関数max(a,b)は、値a,bのうち大きい値を示す。
【0100】

また、隙間反射率を評価するモデルとして、図20(A)に示す空間光変調器28O(
図19(C)と同じ段差又は突起部がないモデル)の他に、図20(B)に示す1周期ごとに高さがλ/4(反射光の位相の変化量に換算して180°)異なる領域55A,55Bがある空間光変調器28F、図20(C)に示すミラー要素30の隙間領域に高さがλ/4異なる領域54A,54Bの境界がある空間光変調器28Eを想定する。さらに、図20(D)、(E)、及び(F)に示すそれぞれ1周期内に幅c1(隙間領域の幅をcとする)で高さλ/4の突起部60、高さλ/2で幅c2の突起部64、及び高さ4λで幅cの突起部66がある空間光変調器28K,28L,28Mを想定する。
【0101】
そして、図20(A)〜(F)の空間光変調器28O〜28Mに関して、ミラー要素30のピッチpが8μm(c=1μm)の場合に、それぞれ境界部34の高さhを変えながら、図19(B)の像面IPにおける強度Iを計算した結果を図21に示す。図21において、横軸は境界部34の高さhを位相(λ/2を360°とする)で表したものであり、縦軸はその強度I(反射強度)を反射率が全面で100%の場合の強度を基準として表したものである。図21において、反射強度がほぼ70%の直線70Gは、図20(A)の空間光変調器で境界部34を取り除いたモデルで計算して得られた強度で、この曲線は境界部34がないため、高さhに依存せず一定の値になっている。また、図21において、正弦波状の曲線70Aは、図20(A)の空間光変調器28Oで得られる強度、ほぼ直線の曲線70B及び70Cは、図20(B)及び(C)の空間光変調器28F,28Eで得られる強度、振幅が小さい正弦波状の曲線70D及び70Eは、図20(D)及び(E)の空間光変調器28K及び28Lで突起部60及び64の幅c1及びc2をそれぞれ300nm及び500nmに最適化して得られる強度、曲線70Fは、図20(F)の空間光変調器28Mで得られる強度である。
【0102】
図21の曲線70A〜70Fの最大値及び最小値を式(11)に代入して得られる隙間反射率は、それぞれ24.2%、0.02%、0.09%、1.8%、0.3%、及び0.9%となる。これより、図20(B)の空間光変調器28Fが隙間反射率を最も小さくでき、境界部34からの反射光の影響を最も小さくできることが分かる。
次に、ミラー要素30のピッチpが1μm(c=0.2μm)の場合に、境界部34の高さhを変えながら、図19(B)の像面IPにおける強度Iを計算した結果を図22に示す。図22の縦軸及び横軸は図21と同様である。図22において、反射強度がほぼ59%の直線72Gは、1周期の全面がアルミニウムのミラーの場合の強度、正弦波状の曲線72Aは、図20(A)の空間光変調器28Oで得られる強度、曲線72B及び72Cは、図20(B)及び(C)の空間光変調器28F,28Eで得られる強度、曲線72D及び72Eは、図20(D)及び(E)の空間光変調器28K及び28Lで突起部60及び64の幅c1及びc2をそれぞれc/10及びc/5と最適化したときに得られる強度、曲線72Fは、図20(F)の空間光変調器28Mで得られる強度である。
【0103】
図22の曲線72A〜72Fの最大値及び最小値を式(11)に代入して得られる隙間反射率は、それぞれ5.2%、0.5%、2.2%、1.6%、1.0%、及び1.8%となる。これより、ピッチpが1μmの場合にも、図20(B)の空間光変調器28Fが隙間反射率を最も小さくでき、境界部34からの反射光の影響を最も小さくできることが分かる。
【0104】
(4)また、上記の第1及び第2の実施形態では、物体側に非テレセントリックの投影光学系PLを用いている。それ以外に、図23の変形例の露光装置EXAで示すように、物体側及び像面側に両側テレセントリックの投影光学系PLAを用いることも可能である。図23において、露光装置EXAは、S偏光の照明光ILをほぼ+Y方向に発生する照明光学系ILSAと、照明光ILを+Z方向に反射する偏光ビームスプリッタ51と、偏光ビームスプリッタ51からの照明光ILを円偏光に変換する1/4波長板52と、円偏光の照明光ILを−Z方向に反射する多数のミラー要素30の2次元のアレイを有する空間光変調器28と、ミラー要素30で反射されてから、1/4波長板52及び偏光ビームスプリッタ51を透過した照明光ILを受光してウエハWの表面の露光領域26Bに空間像(パターン)を投影する投影光学系PLAと、を備えている。照明光学系ILSAは、図1の照明光学系ILSからミラー8B,8Cを除いた光学系である。空間光変調器28の構成及び作用は図1の実施形態と同様である。空間光変調器28で反射されたσ値の小さい照明光ILは、投影光学系PLの光軸AXにほぼ平行に投影光学系PLに入射する。
【0105】
ただし、この変形例では、空間光変調器28のミラー要素30に対して照明光ILがほぼ入射角0で入射する。そのため、図2(B)のミラー要素30の反射面の間隔d1及び境界部34の間隔d2を表す式(8C)及び(9C)の代わりに、次のように入射角αを0とした式が適用される。
d1=λ/4 …(12A), d2=λ/8+k・λ/4 …(12B)
この変形例の露光装置EXAによれば、両側テレセントリックの投影光学系PLAを使用できるため、露光装置の構成が簡素化できる。
【0106】
なお、この変形例の露光装置EXAにおいて、空間光変調器28の代わりに第2の実施形態の例えば図14(A)の空間光変調器28E等を使用してもよい。
なお、照明光ILの利用効率が1/2に低下してもよい場合には、偏光ビームスプリッタ51の代わりに通常のビームスプリッタを使用し、1/4波長板52を省略してもよい。この場合には、偏光照明が使用できる。
【0107】
(5)また、図1の波面分割型のインテグレータであるマイクロレンズアレイ16に代えて、内面反射型のオプティカル・インテグレータとしてのロッド型インテグレータを用いることもできる。この場合、図1において、リレー光学系14よりも回折光学素子10A側に集光光学系を追加して回折光学素子10Aの反射面の共役面を形成し、この共役面近傍に入射端が位置決めされるようにロッド型インテグレータを配置する。
【0108】
また、このロッド型インテグレータの射出端面又は射出端面近傍に配置される照明視野絞りの像を空間光変調器28の反射面上に形成するためのリレー光学系を配置する。この構成の場合、二次光源はリレー光学系14及び集光光学系の瞳面に形成される(二次光源の虚像はロッド型インテグレータの入射端近傍に形成される)。
【0109】
(6)また、上記の第1及び第2の実施形態並びに変形例では、被照射面又はその近傍の面上に二次元のアレイ状に配列されたそれぞれ高さが可変の微小ミラーである多数のミラー要素30を備えた空間光変調器28(28A〜28E等)を用いている。それ以外に、図24の変形例の露光装置EXBに示すように、二次元のアレイ状に配列されたそれぞれ高さが可変の微小ミラーである多数のミラー要素30を備えた空間光変調器28(又は28A〜28E等)と同じ構成の空間光変調器10Cを、照明光学系ILSBの瞳面(照明瞳面IPP)に所望の光強度分布を持つ二次光源を形成するために、図1の回折光学素子10A等が配置される位置に配置しても良い。
図24では、図1等に示した実施形態と同様の機能を有する部材には、説明を簡略化するため同じ符号を付してある。図24において、露光装置EXBは、偏光制御光学系6からマイクロレンズアレイ16までの光路が図1等に示した実施形態とは異なる照明光学系ILSBを備えている。
【0110】
図24において、偏光制御光学系6を経た照明光ILは、光路折り曲げ用のミラー8Dを介して空間光変調器10Cのそれぞれ高さが可変の多数のミラー要素の反射面を照明する。空間光変調器10Cで反射された照明光ILは、リレー光学系14及びミラー8Aを介してマイクロレンズアレイ16に入射する。空間光変調器10Cは、空間光変調器28,28A〜28E等と同様の構成であって、二次元のアレイ状に配列された微小ミラーである多数のミラー要素のそれぞれの高さを所定の高さ分布に設定して所定の反射回折パターンを形成することにより、入射する照明光ILを任意の複数の方向に反射して、空間光変調器10Cの遠視野、ひいては照明瞳面IPPに所望の瞳輝度分布を形成する。照明瞳面IPPに形成される二次光源の光強度分布に対応する、空間光変調器10Cの反射面の高さ分布は、変調制御部49によって制御される。
【0111】
(7)また、上記の第1及び第2の実施形態並びに変形例では、空間光変調器は二次元のアレイ状に配列されたそれぞれ高さが可変の微小ミラーを備えている。それ以外に、図25に示すように、二次元のアレイ状に配列されて、それぞれの反射面の傾斜方向及び傾斜角が個別に可変な空間光変調器28Pを、照明瞳面IPPに所望の瞳輝度分布を形成するために用いてもよい。
さらに、図24の空間光変調器10Cに空間光変調器28Pを用いても良い。この場合、多数のミラー要素のそれぞれの傾斜角を所定の傾斜角分布に設定して所定の反射回折パターンを形成することにより、入射する照明光ILを任意の複数の方向に反射して、空間光変調器10Cの遠視野、ひいては照明瞳面IPPに所望の瞳輝度分布を形成する。
図25では、説明を簡略化するために上述の実施形態および変形例と同様の機能を有する部材には同じ符号を付してある。図25において、空間光変調器28Pは、二次元のアレイ状に配列された多数のミラー要素30と、各ミラー要素30を可撓性(弾性)を持つヒンジ部材35を介して支持するベース部材32と、隣接するミラー要素30間の隙間領域に配置され且つベース部材32に固定された多数の境界部34と、ミラー要素30の底面側のベース部材32の表面に形成された電極36A1〜36A4とを備えている。図25の例では、ミラー要素30の裏面と電極36A1〜36A4との間の電位差を利用して、電極間に作用する静電力を制御することで、ヒンジ部材35を介して可撓的に支持されるミラー要素30を、例えばθy軸回り及びθx軸回りに揺動及び傾斜させることができる。
【0112】
図25の例では、図14に示した空間光変調器28Eと同様に、あるミラー要素30を囲む境界部34の第1の領域54Aの高さが、そのミラー要素30のX方向またはY方向の隣のミラー要素30を囲む境界部34の第2の領域54Bの高さに対して間隔d1(反射光の位相差でほぼ180°)だけ高く設定されており、ミラー要素30の隙間領域からの光の影響を低減することができる。
この図25に示した空間光変調器28Pを図24の露光装置EXBに適用した場合、空間光変調器28Pの多数のミラー要素のそれぞれの傾斜角を所定の傾斜角分布に設定して入射する照明光ILを任意の複数の方向に反射し、所定の反射回折パターンを空間光変調器10Cのファーフィールド(遠視野領域)に形成する。そして、空間光変調器10Cの射出側に配置されるリレー光学系14によって、空間光変調器10Cのファーフィールドに形成される反射回折パターンを、瞳輝度分布として照明瞳面IPPに形成する。この場合には、空間光変調器28Pに起因する照明瞳面での回折干渉縞を低減することができる。
なお、二次元のアレイ状に配列されて、それぞれの反射面の傾斜方向及び傾斜角が個別に可変な空間光変調器28Pを、可変の位相分布を持つマスクパターン(可変の凹凸パターン)を形成するための空間光変調器28Eの代わりに設けても良い。
【0113】
また、電子デバイス(又はマイクロデバイス)を製造する場合、電子デバイスは、図26に示すように、電子デバイスの機能・性能設計を行うステップ221、この設計ステップに基づいたマスクのパターンデータを実施形態の露光装置EX,EXAの主制御系に記憶するステップ222、デバイスの基材である基板(ウエハ)を製造してレジストを塗布するステップ223、前述した露光装置EX,EXA(又は露光方法)により空間光変調器28,28Aで生成される位相分布の空間像を基板(感応基板)に露光する工程、露光した基板を現像する工程、現像した基板の加熱(キュア)及びエッチング工程などを含む基板処理ステップ224、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程などの加工プロセスを含む)225、並びに検査ステップ226等を経て製造される。
【0114】
このデバイスの製造方法は、上記の実施形態の露光装置を用いてウエハWを露光する工程と、露光されたウエハWを処理する工程(ステップ224)とを含んでいる。従って、電子デバイスを高精度に製造できる。
また、本発明は、半導体デバイスの製造プロセスへの適用に限定されることなく、例えば、液晶表示素子、プラズマディスプレイ等の製造プロセスや、撮像素子(CMOS型、CCD等)、マイクロマシーン、MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械システム)、薄膜磁気ヘッド、及びDNAチップ等の各種デバイス(電子デバイス)の製造プロセスにも広く適用できる。
【0115】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を取り得る。また、本願に記載した上記公報、各国際公開パンフレット、米国特許、又は米国特許出願公開明細書における開示を援用して本明細書の記載の一部とする。また、明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約を含む2010年9月22日付け提出の日本国特願2010−212850号及び2011年5月24日付け提出の米国特許出願第61/489,470号の全ての開示内容は、そっくりそのまま引用して本願に組み込まれている。
【符号の説明】
【0116】
EX,EXA,EXB…露光装置、ILS,ILSA,ILSB…照明光学系、PL,PLA…投影光学系、W…ウエハ、28,28A〜28M…空間光変調器、28P…空間光変調器、30…ミラー要素、32…ベース部材、34,34X,34Y…境界部、35…ヒンジ部、38…境界部、48…変調制御部
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