【実施例】
【0068】
<実施例1>
1.不溶化タグを用いたシグナル伝達タンパク質の精製(コムギ無細胞発現系)
本実施例では、コムギ無細胞発現系を用いて、本発明に係る不溶化タグとシグナル伝達タンパク質との融合タンパク質の合成及び精製を行った。
【0069】
シグナル伝達タンパク質のオープンリーディングフレーム(ORF)配列がクローン化されたエントリークローンと、
図4に示したコムギ無細胞発現系用の不溶化タグ融合用デスティネーションベクターとを用い、非特許文献1記載の方法に従って、コムギ胚芽抽出液(WEPRO7240、セルフリーサイエンス社)を用いたタンパク質合成を行った。シグナル伝達タンパク質の遺伝子記号(Gene symbol)、パブリックデータベース(GenBank:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)のアクセションナンバー及びエントリークローンの番号(ID)を「表1」〜「表3」に示す。
合成後の溶液(クルードタンパク質溶液)を、精製時に混入する共雑タンパク質を少なくするためにPBSで4倍に希釈し、15,000xg、20分間、4℃で遠心分離した。上清画分を除き、得られた沈渣(不溶画分)を精製タンパク質画分とした。
比較のため、GSTタグ融合用デスティネーションベクターを用いて同様にタンパク質合成を行った。合成後の溶液をPBSで4倍希釈し、グルタチオンレジン(GEファルマシア)に吸着させ、0.8Mグルタチオンで溶出し、精製タンパク質を回収した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
結果を
図8に示す。
図8Aは、GSTタグを用いて精製したタンパク質についてSDS−PAGEを行った結果を示す。
図8Bは、不溶化タグを用いて精製したタンパク質についてSDS−PAGEを行った結果を示す。
図8Bでは、
図8Aと異なり全てのタンパク質でバンドが確認でき、かつ各タンパク質のバンドが
図8Aに比して濃く観察されている。この結果から、不溶化タグを用いることにより、GSTタグを用いた従来の精製方法に比して、タンパク質を高率かつ高収量で精製できることが示された。
【0074】
<実施例2>
2.不溶化タグを用いた蛍光タンパク質又は酵素の精製
本実施例では、本発明に係る不溶化タグと蛍光タンパク質又は酵素との融合タンパク質を精製し、精製後の融合タンパク質が蛍光性又は酵素活性を維持していることを確認した。
【0075】
実施例1と同様にして、蛍光タンパク質と不溶化タグとの融合タンパク質を合成した。蛍光タンパク質には、mVenus(VenusA206K, GenBank accession No. DQ092360.1)を用いた。クルードタンパク質溶液の蛍光(励起波長515nm, 蛍光波長528nm)を測定した結果を
図9に示す。
【0076】
不溶化タグを融合した蛍光タンパク質(N末端タグ)でも、タグ化していない蛍光タンパク質の半分程度の強度の蛍光が確認された。また、C末端に不溶化タグを融合した蛍光タンパク質でも、蛍光が確認された。
【0077】
また、実施例1と同様にして、脱リン酸化酵素及びリン酸化酵素と不溶化タグとの融合タンパク質を合成した。脱リン酸化酵素には、DUSP3、PTPN1、PTPN6を用いた。また、リン酸化酵素にはチロシンキナーゼWEE1、Hck1を用いた。各酵素のパブリックデータベースのアクセションナンバーを「表4」に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
以下の方法で、フォスファターゼ活性を測定した。実施例1と同様にしてクルードタンパク質溶液を遠心分離して精製タンパク質画分を得た。精製タンパク質画分については、精製度を高めるために、緩衝液(50mM Tris‐HCl,pH7.5)による再懸濁と遠心分離を各々2回繰り返して夾雑タンパク質を除去した。遠心分離後のペレットに緩衝液(50mMTris‐HCl, pH7.5)を3.0μl添加し、超音波処理を行って懸濁した。懸濁液とpNpp発色基質を用いて定法に従って、吸光度測定によりフォスファターゼ活性を測定した。
【0080】
結果を
図10に示す。DUSP3、PTPN1、PTPN6のそれぞれについて、クルードタンパク質溶液を遠心分離して得た上清画分の酵素活性をグラフ左に、不溶画分(精製タンパク質画分)の酵素活性をグラフ右に示す。いずれの酵素においても、不溶化タグとの融合タンパク質が活性を維持していることが確認された。
【0081】
以下の方法で、チロシンキナーゼ活性を測定した。実施例1と同様にしてクルードタンパク質溶液を遠心分離して得た精製タンパク質画分をLDSサンプルバッファー(ライフテクノロジーズ)に溶解後、NuPAGE電気泳動システム(ライフテクノロジーズ)による電気泳動とウェスタンブロッティングを行い、チロシンキナーゼの自己リン酸化能を評価した。1次抗体にはP−Tyr−100抗体(マウスIgG、セルシグナリング社)、2次抗体には抗マウスIgG抗体(ヒツジIgG、HRPラベル、GEヘルスケア)を用い、ECL−PLUS化学発光検出キット(GEヘルスケア)を用いて検出を行った。
【0082】
結果を
図11に示す。レーン1はタグ化していないWEE1のクルードタンパク質画分、レーン2は不溶化タグ融合WEE1のクルードタンパク質溶液、レーン3は不溶化タグ融合WEE1の遠心分離した上清画分、レーン4は不溶化タグ融合WEE1の遠心分離した沈査の精製タンパク質画分である。また、レーン5はタグ化していないHck1のクルードタンパク質画分、レーン6は不溶化タグ融合Hck1のクルードタンパク質溶液、レーン7は不溶化タグ融合Hck1の遠心分離した上清画分、レーン8は不溶化タグ融合Hck1の遠心分離した沈査の精製タンパク質画分である。レーン4、8で抗リン酸化チロンシン抗体(P−Tyr−100抗体)と結合するバンド(図中丸印参照)が検出されており、いずれの酵素においても不溶化タグとの融合タンパク質が自己リン酸化能を維持していることが確認された。
【0083】
本実施例の結果から、不溶化タグによるタンパク質のタグ化は当該タンパク質の蛍光性及び酵素活性に影響を与えないことが確認された。
【0084】
<実施例3>
3.不溶化タグを用いた網羅的なタンパク質精製
本実施例では、本発明に係る不溶化タグを用いて、網羅的なタンパク質精製を行った。
【0085】
実施例1と同様にして、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes, http://www.genome.jp/kegg/kegg_ja.html)に登録されている代謝系タンパク質の1026種類について、不溶化タグとの融合タンパク質を合成し、遠心分画法によって沈査画分に回収して精製を行った。
【0086】
精製されたタンパク質についてタンパク質蛍光プレラベル法による電気泳動定量を行った結果を
図12に示す。タンパク質蛍光プレラベル法は、アミンカップリングによってリジン残基に蛍光色素Cy5を導入することにより行った。
【0087】
<実施例4>
4.プロテインアレイの作製
本実施例では、本発明に係る不溶化タグを用いて精製されたタンパク質を基板に結合して、プロテインアレイを作製した。
【0088】
実施例1と同様にして、表5に示すタンパク質のORF配列がクローン化されたエントリークローンを用い、タンパク質(表5参照)と不溶化タグとの融合タンパク質を合成し、遠心分離によって沈渣(不溶画分)を精製タンパク質画分として得た。精製タンパク質画分については、溶解液(0.04%SDS(w/v)、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.8))に懸濁し、1分程度振とう混和させた後、1分間の超音波処理(高周波出力160W,40kHz)を3回行い、不溶化タグ付きの精製タンパク質の可溶化液を得た。
【0089】
【表5】
【0090】
本実施例のプロテインアレイの基板として、Arrayit社製のSuperNHSと、GEヘルスケア社製のFAST Slide 1−Padの2種類の基板を用意した。各融合タンパク質を含む可溶化液を微量分注器あるいはピンツールを用いて各基板上にスポット状に付着させ、各基板の提供元のプロトコールに従い、融合タンパク質と基板表面との結合反応を起こさせた。また、後述する実施例5においてネガティブコントロール又はポジティブコントロールとするために、蛍光タンパク質のVenusと精製ヒトIgGについても、上記の基板に付着させた。
【0091】
基板については、付着させたタンパク質を含む可溶化液を乾燥させた後、TBST(20mM Tris‐HCl(pH8.0),134mM NaCl,0.1%(v/v)Tween20)を用いて基板表面を洗浄して、基板表面に結合されなかったタンパク質を取り除き、プロテインアレイを完成させた。
【0092】
<実施例5>
5.プロテインアレイによる自己抗体の検出
実施例4において作製されたプロテインアレイを用いて、血清中の自己抗体の検出を行った。
【0093】
自己抗体として抗TRIM21抗体と抗CT45A5抗体とが含まれるヒト血清を用意した。このヒト血清を3%(w/v)スキムミルクを含むTBSTで1000倍に希釈し、1次抗体溶液とした。実施例4で作製されたプロテインアレイについては、予め、3%(w/v)スキムミルクを含むTBSTに室温で1時間浸し、基板表面のブロッキングを行った。ブロッキングの後、基板の表面を1次抗体溶液に浸し、1次抗体溶液を振とうさせながら、室温に1時間置いた。その後、TBSTを用いて基板表面を洗浄した。
【0094】
1次抗体溶液に含まれる自己抗体を検出するために、2次抗体として、蛍光色素Alexa647で標識された抗ヒトIgG抗体を用意し、この抗ヒトIgG抗体を3%(w/v)スキムミルクを含むTBSTで1000倍に希釈したものを2次抗体溶液とした。基板の表面を2次抗体溶液に浸し、2次抗体溶液を振とうさせながら、室温に1時間置いた。その後、TBSTを用いて基板表面を洗浄した。2次抗体による処理後、蛍光スキャナーを用いて、励起波長を635nmとし、SuperNHSのプロテインアレイについてはPMTを420Vで、FAST Slideの基板については、PMTを200Vで、各々基板表面から発せられる蛍光を測定した。
【0095】
本実施例の結果を
図13〜
図16に示す。
図13及び
図14は、基板上の各タンパク質が付着したスポットから発せられる蛍光の測定結果である。
図13は、基板としてSuperNHSを用いた結果を示し、
図14は、基板としてFAST Slide 1−Padを用いた結果を示す。また、
図15は、
図13に示す各スポットの蛍光強度を数値化したグラフであり、
図16は、
図14に示す各スポットの蛍光強度を数値化したグラフである。なお、
図14中矢頭で示すスポットは、基板へのタンパク質の結合が不十分であった部分のため、蛍光の測定対象から除外した。
【0096】
図13〜
図16に示すように、血清中に自己抗体が含まれるTRIM21及びCT45A5のスポットでは、2次抗体由来の蛍光が測定された。また、測定された蛍光強度は、基板に付着されたタンパク質の量に比例した。このことは、基板に結合したタンパク質に1次抗体が特異的に結合していることを示している。一方、血清に抗体が含まれていないタンパク質であるMGLLのスポットについては、測定された蛍光強度が、上記のTRIM21又はCT45A5のスポットで測定された蛍光強度に比べ低くかった。また、ポジティブコントロールである精製ヒトIgGのスポットでは、TRIM21と同程度の蛍光強度が測定された。一方、ネガティブコントロールであるVenusのスポットでは、測定された蛍光強度は、上記のMGLLのスポットと同程度であった。
【0097】
本実施例の結果から、本発明に係る不溶化タグを用いて精製されたタンパク質は、プロテインアレイを用いた解析において抗体による特異的な検出に適する程度に精製されていることが確認された。従って、本発明に係る不溶化タグを用いて精製されたタンパク質は、基板上に結合させることによって、プロテインアレイに用いることが可能である。
【0098】
<実施例6>
6.不溶化タグを用いたタンパク質の精製(大腸菌細胞内発現系)
本実施例では、大腸細胞内発現系を用いて、本発明に係る不溶化タグとGSTとの融合タンパク質の精製を行った。
【0099】
本実施例では、
図17に示す大腸菌発現用ベクター(pDEST15)を用いた。
図17Aは、不溶化タグが付加されたGSTを合成するためのベクターである。一方、
図17Bは、GSTのみを合成するためのベクターのである。
図17A及び
図17Bに示すベクターを大腸菌に導入し、形質転換された大腸菌を得た。形質転換された大腸菌を一晩37℃で培養し、得られた大腸菌培養液をOD
600が0.5となるように希釈した後、この希釈液において、濃度が0.1%となるようにL−arabinoseを加えて発現誘導を開始した。発現誘導直後(0時間)と発現誘導後3時間の時点で各々希釈液を回収し、遠心分離によって菌体を回収した。
【0100】
得られた菌体に100μlのPBSを加え、再懸濁し、1分間の超音波処理(高周波出力160W,40kHz)を20回行った。超音波処理の後、菌体を含む懸濁液については、一部をそのままSDS−PAGEに用いた。また、懸濁液を19000xg、20分、4℃で遠心分離し、上清と沈査を得た。これらの上清と沈査についてもSDS−PAGEに用いた。
【0101】
本実施例の結果を
図18に示す。発現後3時間において、
図17Aに示すベクターが導入された大腸菌から得られた懸濁液において、C末に不溶化タグが付加されたGSTと判断される分子量の位置にバンドが認められた(
図18A、T参照)。一方、
図17Bに示すベクターが導入された大腸菌から得られた懸濁液において、GSTと判断される分子量の位置にバンドが認められた(
図18B、T参照)。
【0102】
また、懸濁液を遠心して得られた上清と沈査については、C末に不溶化タグが付加されたGSTは、ほぼ全て沈査(
図18A、矢頭参照)に認められた。一方、GSTは、ほぼ全て上清(
図18B、矢頭参照)に認められた。
【0103】
本実施例の結果から、本発明に係る不溶化タグは、大腸菌細胞発現系を用いてタンパク質を合成した場合であっても、不溶化タグが付加された融合タンパク質を不溶化させることが確認された。
【0104】
<試験例1>
7.不溶化タグのドメイン化
本試験例では、MafGタンパク質のアミノ酸全長のうち、特に不溶性に寄与している部分配列(ドメイン)を同定した。
【0105】
MafGタンパク質のアミノ酸全長を3つのドメインに分割し、ドメインAをN末端から1〜55番目のアミノ酸、ドメインBをN末端から56〜109番目のアミノ酸、ドメインCをN末端から110〜162番目のアミノ酸とした(
図19参照)。全長、ドメインAのみ、ドメインA及びドメインB、ドメインBのみ、ドメインB及びドメインC、ドメインCのみのアミノ酸配列からなる5種類の不溶化タグを発現可能なベクターを構築した。各不溶化タグのN末端にはメチオニンが付加されている。ベクターのORFsには、蛍光タンパク質mVenusあるいは可溶性の高いタンパク質であるGSTのcDNAを挿入した。これらのベクターを用いてコムギ無細胞系で融合タンパク質を合成し、遠心分離後、SDS−PAGEを行った。
【0106】
5種類の不溶化タグ間での回収量を比較した結果を
図20に示す。Venusとの融合タンパク質及びGSTとの融合タンパク質のいずれにおいても、ドメインB及びドメインCのアミノ酸配列からなる不溶化タグ(B+C)は、全長アミノ酸配列からなる不溶化タグ(MG)と同程度の回収量であった。これに対して、ドメインAのみ(A)、ドメインA及びドメインB(A+B)、ドメインBのみ(B)、ドメインCのみ(C)のアミノ酸配列からなる不溶化タグでは、全長アミノ酸配列からなる不溶化タグ(MG)に比して回収量が減少した。この結果から、MafGタンパク質のアミノ酸全長のうち特にドメインB及びドメインCが不溶性に寄与しており、不溶化タグはドメインB及びドメインCの107残基まで縮小化しても機能できることが明らかとなった。
【0107】
<試験例2>
8.プロテアーゼ切断部位の挿入
本試験例では、試験例1で得られたドメインB及びドメインCのアミノ酸配列にプロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸を挿入し、不溶化タグのアミノ酸配列の改変を行った。
【0108】
MafGタンパク質のアミノ酸全長(配列番号1)からなる不溶化タグをVersion1とし、ドメインB及びドメインCのアミノ酸配列に10個のアルギニンを挿入したVersion2(配列番号3)、Version2にさらに7個のアルギニンを挿入したVersion3(配列番号4)の不溶化タグを作成した。各不溶化タグの具体的なアミノ酸配列は、
図3を参照できる。Version2の不溶化タグは、トリプシン処理後に得られるタグ由来ペプチドの長さが6残基以下となるようにアルギニンを挿入付加したものである。Version3の不溶化タグは、さらに多くのアルギニンを挿入付加したものである。
【0109】
これらの不溶化タグと12種のタンパク質(表6参照)との融合タンパク質を発現可能なベクターを用いてコムギ無細胞系でタンパク質合成を行い、遠心分離後、SDS−PAGEを行って融合タンパク質の回収量を比較した。
【0110】
【表6】
(表中のレーン番号は、
図21中のレーン番号に対応する。パブリックデータベースEnsemblはhttp://asia.ensembl.org/index.htmlを参照できる)
【0111】
結果を
図21に示す。
図21AはVersion1、
図21BはVersion2、
図21CはVersion3の不溶化タグとの融合タンパク質のSDS−PAGEの結果を示す。Version2の不溶化タグでは、Version1の不溶化タグと同等のタンパク質回収率が得られた。一方、Version3の不溶化タグでは、Version1の不溶化タグに比してタンパク質回収率がやや低下した。この結果から、不溶化タグのアミノ酸配列として試験例1でドメイン化された最短のアミノ酸配列(107残基)を用いる場合、プロテアーゼによる切断部位となるアミノ酸の好適な挿入数は17未満であることが示唆された。挿入するアミノ酸を多くするほどプロテアーゼ処理後に得られるタグ由来ペプチドの長さを短くできるが、多くし過ぎると不溶化タグの不溶性が低下し、融合タンパク質の可溶性が高まって遠心分離による回収効率が低下する場合があることが示唆された。
【0112】
<試験例3>
9.タグ化タンパク質の再可溶化条件の検討
不溶化画分として回収された不溶化タグが付加された融合タンパク質(タグ化タンパク質)の再可溶化について、適切な溶媒を検討した。
【0113】
実施例1と同様にして、蛍光タンパク質mVenus(VenusA206K, GenBank accession No. DQ092360.1)と不溶化タグとの融合タンパク質を、コムギ無細胞発現系を用いて合成した。また、immunoglobulin heavy chain gamma 3 constant region(IgHG3, GenBank accession No. AK097355)のORF配列がクローン化されたエントリークローン(エントリークローンID FLJ40036AAAF)を用い、IgHG3と不溶化タグとの融合タンパク質を、同じくコムギ無細胞発現系を用いて合成した。
【0114】
合成されたタグ化タンパク質を含む懸濁液については、19,000xg、20分、4℃の条件で遠心分離を行い、タグ化タンパク質を不溶化画分として回収した。得られた不溶化画分には、表7に示す溶媒のうち、何れか一種類の溶媒を加え、1分間振とう混和後、1分間の超音波処理(高周波出力160W、40kHz)を3回行った。タグ化タンパク質を含む懸濁液を再び19,000xg、20分、4℃で遠心分離し、上清をタグ化タンパク質の溶解液とした。
【表7】
【0115】
タグ化タンパク質の溶解液については、SDS−PAGEを行い、泳動後のゲルをクマシーブリリアントブルー(CBB)で染色し、融合タンパク質に由来するバンドの発色強度を測定した。また、所定の濃度でウシ血清アルブミン(BSA)を含むBSA溶解液を用いて、タンパク質の量に対するCBBの発色強度を示す検量線を得た。この検量線に基づき、タグ化タンパク質の溶解液に含まれるタグ化タンパク質の量を算出し、不溶化画分に回収された後に再度可溶化されたタグ化タンパク質の割合を調べた。
【0116】
本試験例の結果を表8に示す。なお、表中「−」は、未検討を示す。表8に示すように、mVenusと不溶化タグとの融合タンパク質は、溶媒2、11、12、15を用いた場合、ほぼ再可溶化することができなかった。また、IgHG3と不溶化タグとの融合タンパク質は、溶媒1、4〜8を用いた場合、ほぼ再可溶化することができなかった。一方、溶媒10、18、23を用いた場合には、両方の融合タンパク質について、不溶化画分に回収された融合タンパク質がほぼ全量再可溶化された。
【0117】
【表8】
【0118】
また、溶媒16〜20における可溶化率に示すように、SDSの濃度が0.04〜1%(w/v)の範囲で含まれる溶媒を用いた場合、不溶化画分に回収されたVenusと不溶化タグとの融合タンパク質は、ほぼ全て再可溶化された(表8)。さらに、溶媒21〜24における可溶化率に示すように、0.04%(w/v)の濃度でSDSを含む溶媒では、pH7.8〜pH9.2において、タグ化タンパク質の可溶化率が高く、不溶化画分に回収されたIgHG3と不溶化タグとの融合タンパク質は、ほぼ全量再可溶化された(表8)。
【0119】
<試験例4>
10.溶媒による不溶化タグとの融合タンパク質の再可溶化
試験例3において検討された溶媒23(表7参照)について、さらに複数の、不溶化タグとの融合タンパク質(タグ化タンパク質)の再可溶化に適しているか検証した。
【0120】
実施例1と同様にして、表9に示すタンパク質のORF配列がクローン化されたエントリークローンを用い、タンパク質(表9参照)と不溶化タグとの融合タンパク質を合成し、遠心分離によって沈渣(不溶画分)を精製タンパク質画分として得た。精製タンパク質画分へ、試験例3と同様に溶媒23を添加し、タグ化タンパク質の溶解液を得た。溶解液に含まれるタグ化タンパク質の定量は、試験例3と同様に行った。
【0121】
【表9】
【0122】
不溶化タグが付加された28種類のタンパク質(表9)は、不溶化画分に含まれる量に対しほぼ全量が溶媒23によって再可溶化された。本試験例の結果から、本発明に係るプロテインタグが付加されたタグ化タンパク質は、不溶化画分に回収された後に、SDSを0.04%(w/v)の濃度で含む溶媒を用いることによって再可溶化が可能であることが確認された。