特許第6229918号(P6229918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6229918-多孔体の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6229918
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20171106BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C08J9/28 101
   B29C67/20 C
   C08J9/28CFF
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-542205(P2017-542205)
(86)(22)【出願日】2017年4月25日
(86)【国際出願番号】JP2017016302
【審査請求日】2017年8月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-110099(P2016-110099)
(32)【優先日】2016年6月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】藤下 章恵
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−275304(JP,A)
【文献】 特開2005−213411(JP,A)
【文献】 特開2002−249985(JP,A)
【文献】 特開2001−172882(JP,A)
【文献】 特開2015−174970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
B29C44/20− 44/60
67/20− 67/24
B29D30/00− 30/72
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価が0.01mgKOH/g以上の水性ウレタン樹脂(A)を含む水性ウレタン樹脂組成物に対して、
オキシエチレン基の含有量が2×10−2mol/g以下であり、カルボキシル基を有する増粘剤(B)を、
前記水性ウレタン樹脂(A)100質量部に対して0.01〜30質量部の範囲で配合して増粘させた後に、
金属塩(c−1)を含む凝固剤(C)で凝固することを特徴とする多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記増粘剤(B)が、カルボキシメチルセルロース、及び/又は、アクリル増粘剤である請求項1記載の多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ウレタン樹脂組成物を使用して、縦長状のセルを有する多孔体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジメチルホルムアミド(DMF)をはじめとする有機溶剤の使用規制が欧州や中国で本格化される中、人工皮革、合成皮革等の皮革様シート、手袋、コーティング剤、接着剤などの分野において、水性ウレタン樹脂組成物の利用頻度が高まっている。
【0003】
前記水性ウレタン樹脂組成物を加工する際には、加工品の風合いの向上などを目的に、特殊な処理を経て多孔構造をもたせる方法が広く利用されている。例えば、特許文献1では、水性ウレタン樹脂組成物を基材に塗工した後に、湿熱とマイクロ波を併用した加熱処理を施して多孔構造を形成する方法;特許文献2では、蒸気による湿熱加熱や、高周波加熱若しくは高周波誘電加熱を併用した加熱等により水性ウレタン樹脂組成物を多孔化する方法;特許文献3では、水性ウレタン樹脂組成物を繊維基材に含浸した後に感熱ゲル化処理をすることで多孔構造を形成する方法等が開示されている。
【0004】
この他にも、水性ウレタン樹脂組成物に対して、機械発泡等により泡を抱き込ませた後に、凝固や乾燥等を施すことで多孔化皮膜を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献4〜7を参照。)。
【0005】
上記した文献は一例にすぎず、水性ウレタン樹脂組成物の多孔化には、他にも極めて多くの研究投資がなされている。しかしながら、未だ加熱や発泡工程等の煩雑な処理を必要とするばかりでなく、得られる多孔体はいわゆる独立気泡(独泡型)であることや、小さく均一でないものばかりであった。
【0006】
一方、加工品の風合い、弾力、剥離強度、透湿性等を非常に良好なものとする処方としては、DMFを含有する溶剤系ウレタン樹脂組成物を湿式成膜する方法が知られており、この方法では連通型、縦長状、涙錐型等といった様々な呼称で呼ばれるセルを有する多孔体が形成できることが広く知られている(例えば、特許文献8を参照。)。しかしながら、溶剤系ウレタン樹脂組成物中のウレタン樹脂とは異なり、水等に分散した状態のウレタン粒子を含む水性ウレタン樹脂組成物を使用して、同様の連通型、縦長状、涙錐型等と呼ばれるセルを有する多孔体を製造することは不可能であると考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−160484号公報
【特許文献2】特開2002−249985号公報
【特許文献3】特開2013−083031号公報
【特許文献4】特開2005−273083号公報
【特許文献5】特表2006−511727号公報
【特許文献6】特表2006−524754号公報
【特許文献7】特表2009−527658号公報
【特許文献8】特表2013−023691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、水性ウレタン樹脂組成物を使用して、縦長状のセルを有する多孔体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、酸価が0.01mgKOH/g以上の水性ウレタン樹脂(A)を含む水性ウレタン樹脂組成物に対して、オキシエチレン基の含有量が2×10−2mol/g以下であり、カルボキシル基を有する増粘剤(B)を、前記水性ウレタン樹脂(A)100質量部に対して0.01〜30質量部の範囲で配合して増粘させた後に、金属塩(c−1)を含む凝固剤(C)で凝固することを特徴とする多孔体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、縦長状のセルを有する多孔体を、水性ウレタン樹脂組成物を使用して製造することができる。よって、得られる多孔体は、独泡型のセルを有する多孔体に比べ、風合い、弾力、剥離強度、及び、透湿性に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られた多孔体の断面図の電子顕微鏡写真を示すものである(倍率200倍)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の多孔体の製造方法は、酸価が0.01mgKOH/g以上の水性ウレタン樹脂(A)を含む水性ウレタン樹脂組成物に対して、オキシエチレン基の含有量が2×10−2mol/g以下であり、カルボキシル基を有する増粘剤(B)を、前記水性ウレタン樹脂(A)100質量部に対して0.01〜30質量部の範囲で配合して増粘させた後に、金属塩(c−1)を含む凝固剤(C)で凝固することを必須とする。
【0013】
なお、本発明において、「多孔体」とは多数の孔を有すものを示す。また、「縦長状のセル」とは、多孔体の断面図を走査型電子顕微鏡(具体的には、後述する[多孔体の縦長状セルの形成状態の評価方法]を参照。)で確認した際に、一見して縦長状であると認識できるセルを示し、前記セルは凝固皮膜中で基材に対して垂直な方向だけでなく、どの方向に対しても縦長状と認識できるものを含み、独泡型のセルが重なりあってできたセルは排除する。
【0014】
本発明で用いる前記水性ウレタン樹脂(A)としては、酸価が0.01mgKOH/g以上のものを用いることが、縦長状のセルを有する多孔体を得る上で必須である。水性ウレタン樹脂(A)の酸価が前記範囲であることにより、合成した水性ウレタン樹脂が安定であり、かつ凝固剤(C)で容易に凝固することができるため、縦長状のセルを有する多孔体を得ることができたと考えられる。前記酸価としては、より一層良好な縦長状のセルが得られる点から、0.01〜70mgKOH/gの範囲であることが好ましく、1〜50mgKOH/gの範囲がより好ましく、3〜40mgKOH/gの範囲が更に好ましく、6〜30mgKOH/gの範囲が特に好ましい。なお、前記水性ウレタン樹脂(A)の酸価の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0015】
前記水性ウレタン樹脂(A)は前記酸価を有するものであり、すなわちカルボキシル基やスルホン酸基等のアニオン性基由来の構造を有するものである。前記水性ウレタン樹脂(A)としては、例えば、ポリオール(a−1)、アニオン性基を付与する化合物(a−2)、鎖伸長剤(a−3)、及びポリイソシアネート(a−4)の反応物を用いることができる。
【0016】
前記ポリオール(a−1)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ひまし油ポリオール等を用いることができる。これらのポリオール(a−1)は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、縦長状のセルを有する多孔体をより一層安定的に得ることができる点から、ポリエーテルポリオール、及び/又はポリカーボネートポリオールを用いることが好ましく、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、及び、ポリカーボネートポリオールからなる群より得られる1種以上のポリオールがより好ましく、ポリオキシテトラメチレングリコール、及び/又はポリカーボネートポリオールが更に好ましい。
【0017】
前記ポリオール(a−1)の数平均分子量としては、柔軟性及び水性ウレタン樹脂の製造安定性の点から、500〜15,000の範囲であることが好ましく、600〜10,000の範囲がより好ましく、700〜8,000の範囲が更に好ましく、800〜5,000の範囲が特に好ましい。なお、前記ポリオール(a−1)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した値を示す。
【0018】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0019】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0020】
前記アニオン性基を付与する化合物(a−2)としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−吉草酸等のカルボキシル基を有する化合物;3,4−ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸、2,6−ジアミノベンゼンスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチルスルホン酸等のスルホニル基を有する化合物などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水性ウレタン樹脂(A)と増粘剤(B)の相溶性に起因する分散状態が縦長状のセル形成に適しているため、より一層良好な縦長状のセルを形成できる点から、カルボキシル基を有する化合物を用いることが好ましい。
【0021】
前記アニオン性基は、水性ウレタン樹脂組成物中で、一部又は全部が塩基性化合物に中和されていてもよい。前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミン;モノエタノールアミン等のアルカノールアミン;ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等を含む金属塩基化合物などを用いることができる。
【0022】
前記鎖伸長剤(a−3)は数平均分子量が50〜490の範囲のものであり、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等の水酸基を有する鎖伸長剤などを用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。前記鎖伸長剤(a−3)の使用量としては、多孔体の機械的強度の点から、前記水性ウレタン樹脂(A)の原料の合計質量に対して、0.01〜8質量%の範囲であることが好ましく、0.01〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0023】
前記ポリイソシアネート(a−4)としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記水性ウレタン樹脂(A)は、例えば、無溶剤下または有機溶剤の存在下、前記ポリオール(a−1)、前記アニオン性基を付与する化合物(a−2)、前記鎖伸長剤(a−3)、及び前記ポリイソシアネート(a−4)を混合し、例えば、50〜100℃の温度下で3〜10時間ウレタン化反応させることによって製造することができる。
【0025】
また、前記水性ウレタン樹脂(A)は、例えば、無溶剤下または有機溶剤の存在下、前記ポリオール(a−1)、前記アニオン性基を付与する化合物(a−2)、及び前記ポリイソシアネート(a−4)とを混合し、例えば50〜100℃の温度下で3〜10時間反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得、次いで、該ウレタンプレポリマーと鎖伸長剤(a−3)とを反応させることによって製造することもできる。
【0026】
前記ポリオール(a−1)、前記アニオン性基を付与する化合物(a−2)、前記鎖伸長剤(a−3)、及び前記ポリイソシアネート(a−4)の反応における[イソシアネート基/(水酸基+アミノ基)](モル比)としては、0.9〜1.1の範囲であることが好ましく、0.93〜1.05の範囲であることがより好ましい。
【0027】
前記水性ウレタン樹脂(A)を製造する際に用いることができる有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル溶剤;アセトニトリル等のニトリル溶剤;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶剤などを用いることができる。前記有機溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記水性ウレタン樹脂(A)の平均粒子径としては、沈殿物形成防止の点から、0.01〜1μmの範囲であることが好ましく、0.05〜0.9μmの範囲であることがより好ましい。なお、前記水性ウレタン樹脂(A)の平均粒子径の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0029】
前記水性ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量としては、加工品の柔軟性、強度等の物性、及び加工性の点から、10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、30,000〜500,000の範囲であることがより好ましい。なお、前記水性ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は、前記ポリオール(a−1)の数平均分子量と同様に測定して得られた値を示す。
【0030】
前記水性ウレタン樹脂組成物中における前記水性ウレタン樹脂(A)の含有量としては、良好な粘度、及び塗工作業性が得られる点から、水性ウレタン樹脂組成物中10〜60質量%の範囲であることが好ましく、20〜50質量%の範囲であることがより好ましい。
【0031】
前記水性ウレタン樹脂組成物は、前記水性ウレタン樹脂(A)の他に、塗工性や保存安定性の点から、水性媒体(Z)を含むことが好ましい。
【0032】
前記水性媒体(Z)としては、例えば、水、水と混和する有機溶剤、及びこれらの混合物等を用いることができる。前記水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール溶剤;ポリアルキレンポリオールのアルキルエーテル溶剤;N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム溶剤などを用いることができる。これらの中でも、環境性の点から、水を用いることが好ましい。
【0033】
前記水性ウレタン樹脂組成物の製造方法としては、例えば、無溶剤下または前記有機溶剤の存在下で、前記水性ウレタン樹脂(A)を製造し、次いで、前記水性ウレタン樹脂(A)中のアニオン性基を必要に応じて中和した後、前記水性媒体(Z)を供給し、該水性媒体(Z)中に前記水性ウレタン樹脂(A)を分散させることによって製造する方法が挙げられる。
【0034】
前記水性ウレタン樹脂(A)と前記水性媒体(Z)とを混合する際には、必要に応じてホモジナイザー等の機械を使用しても良い。
【0035】
また、前記水性ウレタン樹脂組成物を製造する際には、前記水性媒体(Z)中における前記水性ウレタン樹脂(A)の分散安定性を向上させる点から、乳化剤を用いてもよい。
【0036】
前記乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン系乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン系乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系乳化剤などを用いることができる。これらの乳化剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記水性ポリウレタン組成物は、前記水性ウレタン樹脂(A)、及び水性媒体(Z)の他にも、その他の添加剤を含有してよい。
【0038】
前記添加剤としては、例えば、消泡剤、ウレタン化触媒、シランカップリング剤、充填剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、撥油剤、難燃剤、ブロッキング防止剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明においては、オキシエチレン基の含有量が2×10−2mol/g以下であり、かつカルボキシル基を有する増粘剤(B)を用いて前記水性ウレタン樹脂組成物を増粘させることが必須である。これは、まず1つ目の理由として、増粘剤(B)が水性媒体(Z)に比較的溶けにくいことを示しており、これにより凝固物を得る際に、水性ウレタン樹脂(A)中に残存した増粘剤が、乾燥する際に空洞化するため、その部分が多孔構造を形成すること、2つ目の理由としては、カルボキシル基を有することにより凝固剤(C)と反応し、加工中の粘性が変化することから、縦長状のセルを形成できたものと考えられる。これに対し、オキシエチレン基の含有量が2.0×10−2mol/gを超える増粘剤を用いた場合には、水溶化が強いため、前述のような空洞化が起きないことから、多孔構造が形成されないと考えられ、またカルボキシル基を有していない増粘剤を用いた場合には、凝固剤に対して安定であり、増粘剤の粘性が変化しないため縦長状のセルが形成されないと考えられる。
【0040】
前記増粘剤(B)のオキシエチレン基の含有量としては、より一層安定的に縦長状のセルを形成できる点から、1.8×10−2mol/g以下であることが好ましく、1.7×10−2mol/g以下がより好ましい。なお、前記増粘剤(B)のオキシエチレン基の含有量の算出においては、溶媒を除いた、増粘剤(B)に含まれる全ての化合物の合計質量に対するオキシエチレン基[CHCHO]の合計モル数を用いて算出するものとする。例えば、前記増粘剤(B)として、ウレタン化合物と、乳化剤等の添加剤と、水とを含有するウレタン増粘剤を用いた場合には、水を除いたもの、すなわち前記ウレタン化合物及び添加剤の合計質量に対する、前記ウレタン化合物及び添加剤中のオキシエチレン基の合計モル数により算出するものとする。
【0041】
また、本発明においては、前記水性ウレタン樹脂組成物に対して、前記増粘剤(B)を、前記水性ウレタン樹脂(A)(=固形分)100質量部に対して、0.01〜30質量部の範囲で配合することが必須である。前記増粘剤(B)の配合量が0.01質量部を下回る場合には、所望の増粘効果が得られず塗工性が不良となる問題や、多孔構造を形成できない問題があり、30質量部を超える場合には、多孔構造を形成できないばかりでなく、脆性化するため工業上使用可能な皮膜を得ることができない。前記増粘剤(B)の配合量としては、より一層安定的に縦長状のセルを形成できる点から、前記水性ウレタン樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜20質量部の範囲であることが好ましく、0.15〜10質量部の範囲がより好ましい。なお、前記増粘剤(B)の配合量は、固形分により算出するものとする。例えば、前記増粘剤(B)としてカルボキシメチルセルロースを水で希釈して用いた場合には、カルボキシメチルセルロース自体の使用量により、増粘剤(B)の配合量を計算するものとする。また、例えば、増粘剤(B)として、ウレタン化合物と、乳化剤等の添加剤と、水とを含有するウレタン増粘剤を用いた場合には、水を除いたもの、すなわち前記ウレタン化合物及び添加剤の合計質量により、増粘剤(B)の配合量を計算するものとする。
【0042】
前記増粘剤(B)としては、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース;カルボキシル基を有するアクリル増粘剤;カルボキシル基を有するウレタン増粘剤;カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等のタンパク質増粘剤などを用いることができる。これらの増粘剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記増粘剤(B)を前記水性ウレタン樹脂組成物に配合する際には、前記増粘剤(B)を水性媒体等により希釈して用いてもよい。
【0043】
前記アクリル増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸塩、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの重合物等を用いることができる。これらの増粘剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
前記ポリアクリル酸塩は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸塩、及びメタクリル酸塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物の重合物である。
【0045】
前記塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;メチルアミン塩、エチルアミン塩、プロピルアミン塩、ブチルアミン塩等のアルキルアミン塩等を用いることができる。
【0046】
前記(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ter−ブチル(メタ)アクリレート等の炭素原子数1〜4の範囲の(メタ)アクリル酸エステル;n−ドコサノールエチレンオキサイドが3〜60モル付加した(メタ)アクリレート、n−オクタデカノールエチレンオキサイドが3〜60モル付加した(メタ)アクリレート、n−ヘキサデカノールエチレンオキサイドが3〜60モル付加した(メタ)アクリレート等のオキシエチレン基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルを示し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0048】
前記(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの重合物を用いる場合には、より一層安定的に縦長状のセルを形成できる点から、原料として、(メタ)アクリル酸を20質量%以上用いて重合物を得ることが好ましく、40質量%以上がより好ましく、50〜99質量%の範囲が更に好ましい。
【0049】
前記ウレタン増粘剤としては、例えば、オキシアルキレンポリオールとポリイソシアネートとカルボキシ基を有するグリコール化合物との反応物であるウレタン化合物を含有するものを用いることができる。
【0050】
前記オキシアルキレンポリオールとしては、例えば、多価アルコールとアルキレンオキサイドとの重合物を用いることができる。
【0051】
前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール等のグリコール;ポリエステルポリオールなどを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0053】
前記オキシアルキレンポリオールとしては、前記した中でも、製造の安定性及び増粘性の点から、ポリエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0054】
前記ポリオキシアルキレンポリオールの数平均分子量としては、配合液を調整した際の加工適性向上の点から、2,000〜12,000の範囲であることが好ましく、2,500〜10,000の範囲であることがより好ましい。なお、前記ポリオキシアルキレンポリオールの数平均分子量は、前記ポリオール(a1)の数平均分子量と同様に測定した値を示す。
【0055】
前記ポリオキシアルキレンポリオールには、必要に応じてその他のポリオールを併用してもよい。前記その他のポリオールとしては、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0056】
前記ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記カルボキシ基を有するグリコール化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−吉草酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0058】
また、前記ウレタン化合物には、更に水酸基又はアミノ基と疎水性基とを有する化合物を用いて、ウレタン化合物の末端を疎水性基としてもよい。
【0059】
前記水酸基又はアミノ基と疎水性基とを有する化合物としては、例えば、2−ブチル−1−オクタノール、2−ブチル−1−デカノール、2−ヘキシル−1−オクタノール、2−ヘキシル−1−デカノール、イソノニルアルコール、イソデシルアルコール、イソウンデシルアルコール等の分岐状脂肪族アルコール;1−ヘキサデカノール、1−テトラデカノール、1−ドデカノール、1−ウンデカノール、1−デカノール、1−ノナノール、1−オクタノール、1−ヘキサノール等の直鎖状脂肪族アルコール;ノニルフェノール、トリスチリルフェノール等のアルキルアリールアルコール;1−デシルアミン、1−オクチルアミン、1−ヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジヘキシルアミン等の脂肪族アミン;ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(アルキル基の炭素原子数は8〜24)、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル(アルキル基の炭素原子数は8〜24)等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル;ポリエチレングリコールモノアルキルフェニルエーテル(アルキル基の炭素原子数は8〜24)、ポリプロピレングリコールモノアルキルフェニルエーテル(アルキル基の炭素原子数は8〜24)等のポリアルキレングリコールモノアルキルフェニルエーテルなどを用いることができる。
【0060】
前記ウレタン化合物の重量平均分子量としては、より一層良好な多孔構造を形成できる点から、2,000〜100,000の範囲であることが好ましく、10,000〜90,000の範囲がより好ましく、20,000〜80,000の範囲が更に好ましい。なお、前記ウレタン化合物の重量平均分子量は、前記ポリオール(a1)の数平均分子量と同様に測定した値を示す。
【0061】
前記ウレタン増粘剤は、前記ウレタン化合物の他に添加剤を含んでいてもよい。前記添加剤としては、例えば、水性媒体、乳化剤、消泡剤、分散剤等を用いることができる、これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。前記乳化剤としては、例えば、前記水性ウレタン樹脂組成物を製造する際に用いることができる前記乳化剤と同様のものを用いることができる。
【0062】
前記増粘剤(B)としてウレタン増粘剤を用いる場合において、オキシエチレン基の含有量を調整する方法としては、例えば、原料として用いるポリオキシアルキレンポリオールとしてオキシエチレン基の含有量を少ないものを用いる方法、ポリエチレングリコールの使用量を低減する方法、乳化剤としてオキシエチレン基の含有量を少ないものを用いる方法、オキシエチレン基を有する乳化剤の使用量を低減する方法等が挙げられる。
【0063】
前記増粘剤(B)としては、前記したものの中でも、増粘効果が加工適性に適している理由から、より一層安定的に縦長状のセルを形成できる点から、カルボキシメチルセルロース、及び/又は、アクリル増粘剤を用いることが好ましく、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸塩、及び(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの重合物からなる群より選ばれる1種以上の増粘剤がより好ましく、水性ウレタン樹脂(A)及び増粘剤(C)の配合液が縦長状のセル形成に適した分散状態になるため、独泡型のセルよりも一層柔軟性、弾力性、透湿性、及び耐摩耗性に優れる縦長状のセルをより一層安定的に得られる点から、カルボキシメチルセルロース、及び/又はポリアクリル酸塩が更に好ましく、カルボキシメチルセルロースが特に好ましい。
【0064】
前記増粘剤(B)により前記水性ウレタン樹脂組成物を増粘させる際には、より一層良好な多孔構造が得られる点から、前記増粘剤(B)を含む水性ウレタン樹脂組成物を、400mPa・s以上の粘度に増粘させることが好ましく、450〜10、000mPa・s範囲に増粘させることがより好ましく、500〜8,000mPa・s範囲の粘度に増粘させることが更に好ましい。なお、増粘後の前記水性ウレタン樹脂組成物(増粘剤を含む。)の粘度の測定方法は、25℃においてB型粘度計(M3ローター、30回転)にて測定した値を示す。
【0065】
前記増粘剤(B)により前記水性ウレタン樹脂組成物を増粘させる方法としては、前記増粘剤(B)と前記水性ウレタン樹脂組成物とを接触させればよく、例えば、前記(B)と前記水性ウレタン樹脂組成物とを混合する方法が挙げられる。前記混合には、撹拌棒、メカニカルミキサー等を使用することができる。なお、前記増粘後には、脱泡機等を使用して脱泡した後に、後述する塩凝固を行うことが好ましい。
【0066】
次に、増粘された水性ウレタン樹脂組成物を、金属塩(c−1)を含む凝固剤(C)で凝固する。
【0067】
前記金属塩(c−1)としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化ナトリウム等を用いることができる。これらの金属塩は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、電気二重層圧縮効果の大きさにより凝固性を一層向上できる点から、硝酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0068】
前記凝固剤(C)としては、前記金属塩(c−1)以外にも溶媒を含んでいてもよい。
【0069】
前記溶媒としては、例えば、前記水性媒体(Z)と同様の水性媒体;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール等のアルコール溶媒などを用いることができる。
【0070】
前記凝固剤(C)中における前記金属塩(c−1)の含有量としては、良好な塩凝固が行える点から、1〜40質量%の範囲であることが好ましく、2〜30質量%の範囲がより好ましい。
【0071】
次に、本発明の凝固物の製造方法の具体例を示す。
【0072】
前記凝固物の製造方法としては、例えば、水性ウレタン樹脂組成物を、前記増粘剤(B)を用いて増粘させた後に、増粘後の水性ウレタン樹脂組成物を基材に塗工又は浸漬した後に、更に前記凝固剤(C)中に浸漬させ、その後乾燥することによって凝固物を製造する方法;基材を凝固剤(C)中に塗工又は浸漬した後に、更に前記増粘後の水性ウレタン樹脂組成物中を塗工又は浸漬させ、その後乾燥することによって凝固物を製造する方法等が挙げられる。これらの方法は基材、及び使用される用途に応じて適宜決定することができる。
【0073】
前記基材としては、例えば、不織布、織布、編み物等の繊維基材:板、MDF(ミディアム デンシティ ファイバーボード)、パーチクルボード等の木質基材;アルミ、鉄等の金属基材;ポリカーボネート基材、シクロオレフィン樹脂基材、アクリル樹脂基材、シリコン樹脂基材、エポキシ樹脂基材、フッ素樹脂基材、ポリスチレン樹脂基材、ポリエステル樹脂基材、ポリスルホン樹脂基材、ポリアリレート樹脂基材、ポリ塩化ビニル樹脂基材、ポリ塩化ビニリデン基材、非結晶性ポリオレフィン樹脂基材、ポリイミド樹脂基材、脂環式ポリイミド樹脂基材、セルロース樹脂基材、TAC(トリアセチルセルロース)基材、COP(シクロオレフィンポリマー)基材、PC(ポリカーボネート)基材、PBT(ポリブチレンテレフタラート)基材、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)基材、PEN(ポリエチレンナフタレート)基材、PET(ポリエチレンテレフタラート)基材、ポリ乳酸ポリマー基材等のプラスチック基材;離型処理されたプラスチック基材;ガラス板などを用いることができる。また、前記基材は、溝部、R部、逆R部等の複雑な形状の部位を有していてもよい。
【0074】
前記増粘後の水性ウレタン樹脂組成物を、前記基材に塗工する方法としては、例えば、ナイフコーター法、スプレー法、カーテンコーター法、フローコーター法、ロールコーター法、刷毛塗り法等が挙げられる。この際の塗工する厚さとしては、使用される用途によって適宜決定されるが、例えば、10〜2,000μmの範囲である。また、前記水性ウレタン樹脂組成物が塗工された塗工物を前記凝固剤(C)中に浸漬する方法としては、例えば、前記凝固剤(C)を貯留した槽に前記塗工物を直接浸漬し、塩凝固を進行させる方法が挙げられる。この際の浸漬・凝固時間としては、例えば1秒〜30分間である。
【0075】
前記基材を前記凝固剤(C)中に浸漬する方法としては、例えば、前記基材を前記凝固剤(C)を貯留した槽に直接浸漬する方法が挙げられる。前記浸漬時間としては、例えば、1秒〜5分間である。また、前記浸漬物を前記増粘後の水性ウレタン樹脂組成物に浸漬させる方法としては、例えば、前記浸漬物を、増粘後の水性ウレタン樹脂組成物を貯留した槽に直接浸漬し、塩凝固を進行させる方法が挙げられる。この際の浸漬・凝固時間としては、例えば1秒〜10分間である。
【0076】
凝固物を得た後には、必要に応じて、前記凝固物を、例えば10分〜8時間の間水に浸漬させ、又は流水に浸し、不要な凝固剤を洗浄除去してもよい。更に、その後、例えば60〜120℃で1分〜3時間熱風乾燥させてもよい。
【0077】
以上、本発明の製造方法によれば、水性ウレタン樹脂組成物に対して、加熱や発泡工程を経ずして多孔化できるため、多孔構造を有する凝固物を簡便かつ安定的に得ることができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0079】
[調製例1]水性ウレタン樹脂組成物(X−1)の調製
温度計、窒素ガス、導入管、及び撹拌機を備えた窒素置換された容器中で、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量;2,000)500質量部、2,2’−ジメチロールプロピオン酸(以下「DMPA」と略記する。)25質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下「H12MDI」と略記する。)128質量部、及びメチルエチルケトン620質量部の存在下、反応物の規定のNCO%に達する時点まで70℃で反応させることによって、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
次いで、前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液に、中和剤としてトリエチルアミン23質量部加えて攪拌し、更に水830質量部加え撹拌することにより、前記ウレタンプレポリマーが水に分散した乳化液を得た。
得られた乳化液とヒドラジン2.6質量部を含む鎖伸長剤水溶液3.2質量部とを混合し鎖伸長反応することによってウレタン樹脂(A−1)の水分散体を得た。次いで、この水分散体を脱溶剤することにより、不揮発分;30質量%の水性ウレタン樹脂組成物(X−1)を得た。
【0080】
[調製例2]水性ウレタン樹脂組成物(X−2)の調製
温度計、窒素ガス、導入管、及び撹拌機を備えた窒素置換された容器中で、ポリプロピレングリコール(数平均分子量;2,000)300質量部、1,6−ヘキサンジオール3質量部、DMPA10質量部、H12MDI94質量部、及びメチルエチルケトン400質量部の存在下、反応物の規定のNCO%に達する時点まで70℃で反応させることによって、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
次いで、前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液に、中和剤としてトリエチルアミン5質量部加えて攪拌し、更に水800質量部加え撹拌することにより、前記ウレタンプレポリマーが水に分散した乳化液を得た。
得られた乳化液とピペラジン6.5質量部を含む鎖伸長剤水溶液67質量部とを混合し鎖伸長反応することによってウレタン樹脂(A−2)の水分散体を得た。次いで、この水分散体を脱溶剤することにより、不揮発分;40質量%の水性ウレタン樹脂組成物(X−2)を得た。
【0081】
[調製例3]水性ポリウレタン組成物(X−3)の調製
温度計、窒素ガス、導入管、及び撹拌機を備えた窒素置換された容器中で、ポリカーボネートジオール(宇部興産株式会社製「エタナコールUH−200」、数平均分子量;2000)250質量部、DMPA18質量部、H12MDI90質量部、及びメチルエチルケトン236質量部の存在下、反応物の規定のNCO%に達する時点まで70℃で反応させることによって、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
次いで、前記ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液に、中和剤としてトリエチルアミン16質量部加えて攪拌し、更に水797質量部加え撹拌することにより、前記ウレタンプレポリマーが水に分散した乳化液を得た。
得られた乳化液とヒドラジン5.0質量部を含む鎖伸長剤水溶液6.3質量部とを混合し鎖伸長反応することによってウレタン樹脂(A−3)の水分散体を得た。次いで、この水分散体を脱溶剤することにより、不揮発分;35質量%の水性ウレタン樹脂組成物(X−3)を得た。
【0082】
[調製例4]水性ポリウレタン組成物(X’−1)の調製
温度計、窒素ガス、導入管、及び撹拌機を備えた窒素置換された容器中で、ポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製、数平均分子量:2,000)1,000質量部、日油株式会社製「ユニルーブ75DE−60」(ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン構造/ポリオキシプロピレン構造(質量割合)=75/25、数平均分子量:約3,000)50質量部、日油株式会社製「ユニルーブ75MB−900」(ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリオキシエチレン構造/ポリオキシプロピレン構造(質量割合)=75/25、数平均分子量約3,400)50質量部、H12MDI183質量部、及びメチルエチルケトン1,283質量部の存在下、反応物の規定のNCO%に達する時点まで70℃で反応させることによって、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
次いで、ウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液に、水を2,566質量部加え撹拌することにより、水性ウレタン樹脂の水分散体を得た。得られた乳化液と、ピペラジン13.5質量部を含む鎖伸長剤水溶液135質量部とを混合し鎖伸長反応することによってウレタン樹脂(A’−1)の水分散体を得た。次いで、この水分散体を脱溶剤することにより、不揮発分;40質量%の水性ウレタン樹脂組成物(X’−1)を得た。
【0083】
[実施例1]
水性ウレタン樹脂組成物(X−1)100質量部に、水で5質量%に希釈したカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬株式会社製「セロゲンWS−C」、以下「CMC」と略記する。)6.3質量部をメカニカルミキサーにて800rpmで10分間撹拌し、次いで遠心脱泡器を使用して脱泡させて配合液を作製した。前記配合液(増粘剤を含む水性ウレタン樹脂組成物)の粘度は、2,528mPa・sであった。更に、離型処理されたポリプロピレンフィルム上にナイフコートを使用して配合液を塗工した。次いで、該塗工物を5質量%の硝酸カルシウム水溶液中に3分間浸漬させて配合液を凝固させた。その後、凝固物を5時間流水に浸し、余分な凝固剤を洗浄除去した。次いで、この凝固物を70℃で20分間、及び120℃で20分間乾燥することによって乾燥した多孔体を得た。
【0084】
[実施例2〜8、比較例1〜5]
用いる水性ウレタン樹脂組成物の種類、増粘剤(B)の種類、及び量を表1〜4に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして多孔体を作製した。
【0085】
[水性ウレタン樹脂(A)の平均粒子径の測定方法]
調製例にて得た水性ウレタン樹脂組成物をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−910」)を使用して、分散液として水を使用し、相対屈折率=1.10、粒子径基準が面積の時の平均粒子径を測定した。
【0086】
[水性ウレタン樹脂(A)の酸価の測定方法]
調整例にて得た水性ウレタン樹脂組成物を乾燥し、乾燥固化した樹脂粒子の0.05g〜0.5gを、300mL三角フラスコに秤量し、次いで、テトラヒドロフランとイオン交換水との質量割合[テトラヒドロフラン/イオン交換水]が80/20の混合溶媒約80mLを加えそれらの混合液を得た。
次いで、前記混合液にフェノールフタレイン指示薬を混合した後、あらかじめ標定された0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液で滴定し、滴定に用いた水酸化カリウム水溶液の量から下記計算式(2)に従い、水性ウレタン樹脂(A)の酸価(mgKOH/g)を求めた。
計算式 A=(B×f×5.611)/S (2)
式中、Aは樹脂の固形分酸価(mgKOH/g)、Bは滴定に用いた0.1mol/L水酸化カリウム水溶液の量(mL)、fは0.1mol/L水酸化カリウム水溶液のファクター、Sは樹脂粒子の質量(g)、5.611は水酸化カリウムの式量(56.11/10)である。
【0087】
[多孔体の縦長状セルの形成状態の評価方法]
実施例及び比較例で得られた多孔体を、日立ハイテクテクノロジー株式会社製走査型電子顕微鏡「SU3500」(倍率:200倍)を使用して観察し、以下のように評価した。
「T」;電子顕微鏡写真のウレタン樹脂層の断面図において、縦長状のセルが多数確認される。
「F」;上記以外のもの。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
表1〜4中の略語について説明する。
・ALA:Borcher社製「Borch Gel ALA」、ポリアクリル酸のナトリウム塩
・「T10」:DIC株式会社製「アシスター T10」(1,6−ヘキサンジイソシアネート及び数平均分子量が6,000のポリエチレングリコールの反応物と、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルと、水(含有率:75質量%)とを含むもの、オキシエチレン基の含有量:2.1×10−2mol/g)
・「MC」:メチルセルロース
【0093】
本発明の製造方法によれば、図1においても確認できる通り、縦長状のセルを有する多孔体が得られることが分かった。
【0094】
一方、比較例1は、増粘剤(B)に代わり、オキシエチレン基の含有量が本発明で規定する範囲を超える増粘剤を用いた態様であるが、得られる凝固物は多孔構造を形成していないことが分かった。
【0095】
比較例2は、増粘剤(B)に代わり、水性ウレタン樹脂(A)に代わり、酸価がないノニオン性ウレタン樹脂を用いた態様であるが、凝固物は得られなかった。
【0096】
比較例3は、増粘剤(B)の使用量が、本発明で規定する範囲を下回る態様であるが、得られる凝固物は多孔構造を形成していないことが分かった。また、所望の増粘効果が得られず、塗工性が極めて不良であり、均一な皮膜を作製することが極めて困難であった。
【0097】
比較例4は、増粘剤(B)の使用量が、本発明で規定する範囲を超える態様であるが、得られる凝固物は多孔構造を形成していないことが分かった。また、得られた皮膜は、脆く工業上使用できる皮膜ではなかった。
【0098】
比較例5は、増粘剤(B)に代わり、カルボキシル基を有しない増粘剤を用いた態様であるが、多孔構造は得られたものの、セルは小さく、また縦長状ではなかった。
【要約】
本発明が解決しようとする課題は、水性ウレタン樹脂組成物を使用して、縦長状のセルを有する多孔体を製造することである。本発明は、酸価が0.01mgKOH/g以上の水性ウレタン樹脂(A)を含む水性ウレタン樹脂組成物に対して、オキシエチレン基の含有量が2×10−2mol/g以下であり、カルボキシル基を有する増粘剤(B)を、前記水性ウレタン樹脂(A)100質量部に対して0.01〜30質量部の範囲で配合して増粘させた後に、金属塩(c−1)を含む凝固剤(C)で凝固することを特徴とする多孔体の製造方法を提供するものである。本発明の製造方法によれば、縦長状のセルを有する多孔体を、水性ウレタン樹脂組成物を使用して製造することができる。よって、得られる多孔体は、独泡型の多孔体に比べ、風合い、弾力、剥離強度、及び、透湿性に優れるものである。
図1