(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来のシステムにおける可逆セルでは、水電解運転時の水素発生極にはカーボンが使えるが、酸素発生極には撥水性のあるカーボンが使えないため、酸素発生電極の触媒には、親水性のある酸化イリジウムと白金黒の混合触媒を使用している。これは水電解運転時には酸素極側に水を供給するので、親水性材料である方が性能がよいからである。
一方で、酸化イリジウムや白金黒自体は親水性のため、そのまま使用すると、燃料電池運転時に酸素極側で発生した水が、触媒表面に残ってしまい、発電効率が低下してしまう。そのため従来は、酸化イリジウムと白金黒自体からなる触媒に対してPTFE等を用いて撥水化処理を施すことで、水電解運転時の性能を多少犠牲にしつつ、燃料電池運転時に必要な程度の電極触媒の撥水性を確保している。
しかしながら、長期間充放電を繰り返すと、電極触媒に付与したPTFE等の撥水剤が物理的に脱落したり、コンタミ付着により本来の撥水性能を発揮できなくなる恐れがあり、結果的に燃料電池性能の性能低下が加速することも考えられ、さらなる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、固体高分子形の水電解セルと燃料電池セルとを一体型にした可逆セルを用いたこの種の充放電システムにおいて、可逆セルの性能を長期的に維持することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、固体
高分子形の水電解装置と固体
高分子形の燃料電池とを一体化した可逆セルを用いた充放電システムであって、水電解運転時において原料水が供給されかつ酸素が発生する酸素発生極に対して、燃料電池運転時には水素を供給し、水電解運転時に水素が発生する水素発生極に対して、燃料電池運転時には酸化剤を供給するようにし
、前記可逆セルの前記酸素発生極の電極触媒には、撥水処理がされていない酸化イリジウムと白金黒の混合したものが使用され、前記可逆セルの前記水素発生極の電極触媒には、白金担持カーボンが使用されていることを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、水電解運転時において原料水が供給されかつ酸素が発生する酸素発生極に対して、燃料電池運転時には水素を供給し、水電解運転時に水素が発生する水素発生極に対して、燃料電池運転時には酸化剤を供給するようにしたので、燃料電池運転時に電極触媒の撥水性が必要となる酸化剤極に、元来の性質が撥水性であるカーボンに対して白金を担持した電極触媒が使えるため、従来の可逆セルよりも撥水性の低下に伴う性能低下を回避できる。しかも可逆セルを採用しているにもかかわらず、通常の燃料電池専用セルで高性能化・高耐久化のために使用している酸化剤極側の電極触媒等をそのまま適用できることになり、通常の燃料電池専用機同様の性能と耐久性を維持することができる。
【0010】
前記可逆セルを複数枚直列に接続したセルスタックに、各可逆セルの前記酸素発生極側の反応流体の流路に通ずるポートA、ポートBと、各可逆セルの前記水素発生極側の反応流体の流路に通ずるポートC、ポートDが設けられ、ポートAは、水電解運転時の原料水供給口と燃料電池運転時の水素排出口に設定し、ポートBは、水電解運転時の原料水および純酸素の排出口と、燃料電池運転時の水素供給口に設定し、ポートCは、水電解運転時の水素と水の排出口と、燃料電池運転時の酸化剤と発生水の排出口に設定し、ポートDは、燃料電池運転時の酸化剤供給口に設定し、
前記ポートDに供給される酸化剤は空気であり、当該空気の供給流路と、水電解運転時にポートBから排出された純酸素の排出流路とは、これら流路内を流れる流体で少なくとも湿度交換または熱交換されるように、少なくとも湿度交換器または熱交換器を介して配置されているようにしてもよい。
【0014】
なお前記可逆セルは、水素側圧力>酸素側圧力=大気圧の場合の極間差圧耐性を有することが好ましい。可逆セルが、水素側圧力>酸素側圧力=大気圧の場合の極間差圧耐性を有するとは、可逆セルにおいて使用されている固体高分子電解質膜など、セル内で酸素側と水素側を区画している膜において、水電解運転時に、酸素側の圧力が大気圧であって、かつ水素側の圧力が当該酸素側の圧力よりも大きい場合であっても、当該膜が破損しない耐性を有していることをいう。すなわち、酸素側の圧力が大気圧の場合、可逆セルにおける固体高分子電解質膜の水素側の圧力が大気圧より大きくて数十Paであっても、固体高分子電解質膜が破損しないことをいう。
【0015】
このような極間差圧耐性を有する可逆セルとしては、たとえば、電極触媒層が両面に形成された固体高分子電解質の両面に第1の集電体と第2の集電体が配され、前記第1の集電体と第2の集電体の各外側に配置したセパレータで、前記第1の集電体と第2の集電体を挟持した構成を有し、前記第1の集電体は、第2の集電体よりも大きく、前記第1の集電体の縁部が、全周に渡って、第2の集電体の縁部の外方に位置し、前記第2の集電体の外周には、前記固体高分子電解質膜に対して凸の形状を有して当該固体高分子電解質膜に接するシール部材が配置され、当該シール部材の前記固体高分子電解質膜を介した対向位置は、前記第1の集電体の縁部より内周側であるようにした可逆セルが提案できる。かかる場合、前記シール部材は、第2の集電体の外周を囲むように設けられたシール材に形成された凸部、または、セパレータの溝内に設けられたOリングであってもよい。
【0016】
可逆セルを複数枚直列に接続したセルスタックに、各可逆セルの前記酸素発生極側の反応流体の流路に通ずるポートA、ポートBと、各可逆セルの前記水素発生極側の反応流体の流路に通ずるポートC、ポートDが設けられ、ポートAは、水電解運転時の原料水供給口と燃料電池運転時の水素排出口に設定し、ポートBは、水電解運転時の原料水および純酸素の排出口と、燃料電池運転時の水素供給口に設定し、ポートCは、水電解運転時の水素と水の排出口と、燃料電池運転時の酸化剤と発生水の排出口に設定し、ポートDは、燃料電池運転時の酸化剤供給口に設定した上述の充放電システムにおいて、水電解運転から燃料電池運転に切り替える前に、当該充放電システムを乾燥させるにあたっては、下記の乾燥方法を提案できる。
【0017】
まず、可逆セルとして、前記したような水素側圧力>酸素側圧力=大気圧の場合の極間差圧耐性を有するものを使用した場合の充放電システムについては、水電解運転終了時には、ポートBからセルスタックの可逆セル内に大気圧よりも高圧(流路内を水素が流れることができる程度の圧力)の水素を導入してポートAからセル内の残存水を排出する工程と、ポートCからセル内の残存水素を排気する工程とを、順序を問わず実施し、その後、可逆セル内が大気圧になった後、ポートDからセル内に空気を供給してセル内の乾燥を行うことを特徴とする、充放電システムの乾燥方法が提案できる。これによって、水電解運転から燃料電池運転に切り替える際に、簡素な操作で速やかな運転切り替えが可能になる。
その他に、水電解運転終了時には、水素発生極に残存した高圧の水素を大気圧になるまでポートCから系外に排気し、セルスタックに接続されている電気回路を短絡させて、電極近傍の水素と酸素を消費させ、各可逆セルの電圧が0Vまで低下した後、前記電気回路を遮断し、その後、ポートBからセルスタックの可逆セル内に水素を供給して酸素発生極側を水素で置換する工程と、ポートDからセル内に空気を供給する工程とを、順序を問わず実施してセル内の乾燥を行うことを特徴とする、充放電システムの乾燥方法が提案できる。
かかる乾燥方法によれば、水電解運転から燃料電池運転に切り替える際に、水素と酸素が同一の極上で混合する際の異常発熱(熱暴走)の可能性を最小限に抑えることができ、安全である。
【0018】
また可逆セルとして、前記したような水素側圧力>酸素側圧力=大気圧の場合の極間差圧耐性を有さない、従来型の可逆セル用いた充放電システムについては、水電解運転終了時には、可逆セルの固体高分子電解質膜が破損しないように、水素発生極側と酸素発生極側との圧力を制御して、水素発生極に残存した高圧の水素を大気圧になるまでポートCから系外に排気すると共に、ポートAからセル内の残存水及び残存酸素を排出し、その後、ポートBからセルスタックの可逆セル内に水素を供給して酸素発生極側を水素で置換する工程と、ポートDからセル内に空気を供給する工程とを、順序を問わず実施してセル内の乾燥を行うことを特徴とする、充放電システムの乾燥方法が提案できる。かかる乾燥方法によれば、水電解運転から燃料電池運転に切り替える際に、簡素な操作で速やかな運転切り替えが可能になる。
その他の乾燥方法としては、水電解運転終了時には、可逆セルの固体高分子電解質膜が破損しないように、水素発生極側と酸素発生極側との圧力を制御して、水素発生極に残存した高圧の水素を大気圧になるまでポートCから系外に排気すると共に、ポートAからセル内の残存水及び残存酸素を排出し、セルスタックに接続されている電気回路を短絡させて、電極近傍の水素と酸素を消費させ、各可逆セルの電圧が0Vまで低下した後、前記電気回路を遮断し、その後、ポートBからセルスタックの可逆セル内に水素を供給して酸素発生極側を水素で置換する工程と、ポートDからセル内に空気を供給する工程とを、順序を問わず実施してセル内の乾燥を行うことを特徴とする、充放電システムの乾燥方法が提案できる。このような乾燥方法によれば、水電解運転から燃料電池運転に切り替える際に、水素と酸素が同一の極上で混合する際の異常発熱(熱暴走)の可能性を最小限に抑えることができ、安全である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来の可逆セルを採用するこの種の充放電システムにおいて、従来よりも長期にわたって、所期の性能と耐久性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について説明すると、
図1は実施の形態にかかる充放電システム1の構成の概略を示しており、この充放電システム1においては、
図2、
図3に示した可逆セル10を複数枚、例えば数十〜数百枚程度を積層したセルスタック2を有している。
【0022】
図2は、前記可逆セル10の内部(平面断面)を模式的に示しており、
図3は、後述する可逆セル10に使用されるセパレータ15の正面を示している。この可逆セル10においては、電極触媒層が両面に形成された固体高分子電解質膜11の両面に、方形の第1の集電体12と第2の集電体13が配置されている。そして第1の集電体12の外側には、流路14を形成するセパレータ15が配置され、第2の集電体13の外側には、流路16を形成するセパレータ17が配置されている。
【0023】
固体高分子電解質膜11において、水電解時には酸素発生側となる第1の集電体12側の表面に設けられている電極触媒11aには、酸化イリジウムと白金黒の混合触媒が用いられている。また第1の集電体12にはチタン繊維やチタン粒子の焼結体に白金鍍金を施したものが使用される。そして流路14を形成するセパレータ15は、SUSやチタン等の金属板に切削やフォトケミカルエッチングにより溝加工したものや、金属薄板をプレス加工したもの、金属メッシュを使用することができる。なお、金属の酸化や溶解、水素脆化防止のため、金属の表面に白金鍍金やダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)等の表面処理を施したものを使用するとよい。第1の集電体12と電極触媒11aとセパレータ15とで、本発明の酸素発生極を構成する。
【0024】
一方、水電解時の水素発生側となる固体高分子電解質膜11における第2の集電体13側の表面の電極触媒11bには、通常の燃料電池専用機で使用されるものと同じ白金担持カーボンが使用される。また第2の集電体13にはカーボンペーパーやカーボンクロスが使用される。この場合、必要に応じて、第2の集電体13には撥水化処理を施したり、マイクロ・ポーラス・レイヤーを設ければよい。流路16を形成するセパレータ17には、カーボン樹脂をモールド加工したものや、SUSやチタン等の金属板に切削やフォトケミカルエッチングにより溝加工を施したもの、金属薄板にプレス加工を施したもの、金属メッシュ等が使用できる。なお、金属板を使用する場合は、金属表面の酸化や水素脆化防止のため、金属の表面に白金鍍金やDLC等を施すとよい。第2の集電体13と電極触媒11bとセパレータ17とで、本発明の水素発生極を構成する。
【0025】
なお各流路14、16の背面側には冷却水を流通させるが、その冷却流路は単セルごとに設ける必要はなく、2、3枚のセルごとに設けてもよい。
【0026】
そして本実施の形態においては、
図3にも示したように、第1の集電体12は、第2の集電体13よりも大きく(面積が広く)、第1の集電体12の縁部が、全周に渡って、第2の集電体13の縁部の外方に位置している。
【0027】
セパレータ15の内面側(固体高分子電解質膜11側)には、方形の凹部15aが形成され、当該凹部15a内に、第1の集電体12が設けられている。セパレータ15における当該凹部15aの外周側、すなわち、第1の集電体12の外方側には、第1の集電体12を囲むように、溝15bが形成され、当該溝15b内に、Oリングなどのシール部材21が設けられている。
【0028】
一方、セパレータ17の内面側(固体高分子電解質膜11側)にも、方形の凹部17aが形成され、当該凹部17a内に、第2の集電体13が設けられている。セパレータ17における当該凹部17aの外周側、すなわち、第2の集電体13の外方側には、第2の集電体13を囲むように、溝17bが形成され、当該溝17b内に、Oリングなどのシール部材22が設けられている。
【0029】
なお
図2、3に示したセパレータ15、17の形状は、数mmの厚みを有しているが、その材質は、セパレータ表面に反応流体を流通させる流路14、16を形成したり、構成部材を挿入するための凹部15a、17aを、モールドや切削加工等により設けることができるものが好ましく、たとえば樹脂セパレータや金属厚板セパレータを用いることができる。またセパレータの形状は
図2、
図3に示した例に限らず、公知となっている形状のものでもよい。
【0030】
そして、セパレータ17に設けられるシール部材22の位置は、
図2に示したように、固体高分子電解質膜11を介して、第1の集電体12の面と対面する位置に設定されている。すなわち、シール部材22の位置は、固体高分子電解質膜11を介して第1の集電体12の縁部よりも内方側に位置するように設定されている。
【0031】
なお
図3において、セパレータ15におけるシール部材21の左右両側に位置するのは、冷却水用のマニホールド24、25であり、同じくシール部材21の上側に位置しているのは、反応流体用のマニホールド26、27、同じくシール部材21の下側に位置しているのは、反応流体用のマニホールド28、29である。これら各マニホールド24〜29の外周には、Oリングなどのシール部材30が夫々各マニホールド24〜29を囲むように設けられている。
【0032】
セパレータ15の流路14の一部は、
図3に示したように、そのヘッダ部14a、セパレータ15の内部に形成された連通孔31を介して、マニホールド26と連通している。またセパレータ15の流路14の他の一部は、そのヘッダ部14b、セパレータ15の内部に形成された連通孔32を介して、マニホールド29と連通している。
【0033】
同様に、セパレータ17の流路16の一部は、そのヘッダ部(図示せず)、セパレータ17内部に形成された連通孔(図示せず)を介して、マニホールド27と連通している。またセパレータ17の流路16の他の一部は、そのヘッダ部(図示せず)、セパレータ17の内部に形成された連通孔(図示せず)を介して、マニホールド28と連通している。
【0034】
かかる構成を有する可逆セル10は極間差圧耐性を有しているので、当該可逆セル10を採用することで、実施の形態にかかる充放電システム1では、例えば水素側1MPa(abs)、酸素側0.1MPa(abs)での水電解運転を行える。したがって、酸素極側に、圧力制御を行なうための格別なポンプ、加圧機等は必要がない。
【0035】
図1に示したように、この充放電システム1は、原料水(たとえば純水)を補給するタンク41を有しており、電磁弁V1を有する配管42を介して、このタンク41の底部と、酸素側の気液分離タンク43とが連通している。気液分離タンク43内の原料水(たとえば純水。以下、電解水ということがある。)が、セルスタック2の原料水入口(水電解運転時)兼水素排出口(燃料運転時)となるポートAに対して供給されて、水電解運転がなされる。すなわち、気液分離タンク43からの水は、タンク内の底部に接続された配管44、セルスタック2に通ずる配管45を介して、配管44に設けられたポンプ46によって、セルスタック2の酸素発生極側のポートAに対して供給可能である。ポートAに出入りするガスの圧力は、配管45に設けられた圧力計P1によって計測される。
【0036】
配管44には、配管44内を流れる水の一部を、気液分離タンク43に戻すための戻し管47が接続されており、この戻し管47には、電磁弁V2が設けられている。なおこの戻し管47に、熱交換器、イオン交換樹脂塔、フィルタ等を設け、これらの装置を通じて戻し水を処理して、気液分離タンク43内の水の水質を維持するようにしてもよい。気液分離タンク43内には、タンク内の水の水位を検出する液面センサ48が設けられている。
【0037】
セルスタック2における原料水および純酸素排出口(水電解運転時)兼水素(燃料)供給口(燃料電池運転時)となるポートBには、配管51の一端部が接続されている。この配管51の他端部は気液分離タンク43の気層部に接続されている。配管51には、電磁弁V3が設けられている。ポートBに出入りするガスの圧力は、配管51に設けられた圧力計P2によって計測される。
【0038】
配管51における電磁弁V3よりもセルスタック2側と、配管44との間には、配管52が接続されている。配管52には、電磁弁V4、V5が設けられ、両電磁弁V4、V5の間には、ポンプ53が設けられている。
【0039】
セルスタック2には、電源装置61が接続され、各可逆セル10に対して、直流の電力が供給される。電源装置61は、制御装置62によって制御される。
【0040】
セルスタック2には、冷却用の冷却水を循環させる配管63が接続され、熱交換器64にて熱交換された冷却水が、ポンプ65の駆動により、セルスタック2内を循環し、各可逆セル10を冷却する。ここで熱交換器64にて熱交換された熱は、温熱として利用できる。温熱利用を必要としない場合には、熱交換器64にラジエータを用いて放熱するようにし、冷却水を降温させればよい。
【0041】
セルスタック2の水素出口(水電解運転時)兼酸化剤と水の排出口(燃料電池運転時)となるポートCには、配管71が接続され、この配管71は、水素側の気液分離機能を行なう気液分離タンク72に通じている。気液分離タンク72の底部と、酸素側の気液分離タンク43内の気層部(タンク内において貯留する水の液面より上の部分であり、貯留する液面が上昇しても、液面が達することのない部分)との間には、配管73が接続されている。配管73には、電磁弁V16、流量調整弁V6が設けられている。気液分離タンク72内には、タンク内の水の水位を検出する水位計74が設けられている。
【0042】
気液分離タンク72の気層部は、配管75を介して、水素貯蔵部76の入口側に通じている。この例での水素貯蔵部76は、水素貯蔵タンク(高圧容器)であり、タンク内の圧力は、圧力計P3によって計測される。配管75には背圧弁V7、逆止弁V8が設けられている。
【0043】
水素貯蔵部76の出口側には、配管81が接続され、この配管81は、既述の配管52に接続されている。配管81には、圧力調整弁V10が設けられている。
【0044】
燃料電池運転時の酸化剤となる空気は、ブロワ82によって、配管83からセルスタック2のポートDへと供給される。配管83内の圧力は、圧力計P4によって計測される。この配管83は、ポートDへ向かう途中で熱交換器84、湿度交換器85を経由している。熱交換器84に使用する熱交換器のタイプとしては、例えばプレート式熱交換器がよいが、もちろんこれに限られるものではない。湿度交換器85には、例えば回転式全熱交換器を用いることができる。その他、静止形全熱交換器や気化式加湿器として用いられているもの、とりわけ中空糸膜、多孔質膜、浸透膜を用いたものが好適であるが、必要な機能としては、ガスを流すことで、当該ガス中の水分を容易に吸脱着できるものであればよい。
【0045】
配管83における湿度交換器85とポートDとの間には、電磁弁V11が設けられている。配管81と、配管83における電磁弁V11のポートD寄りの箇所との間には、配管86が接続され、この配管86には、電磁弁V12が設けられている。
【0046】
気液分離タンク43の上部気層部には、配管91が接続され、この配管91は、湿度交換器85、熱交換器84を経由し、さらに熱交換器92を経て、系外に通ずる放出管93と接続されている。熱交換器92では、たとえば別途設置する冷却用チラー(図示せず)の冷媒と熱交換されるようになっている。
【0047】
配管91における湿度交換器85の入口側には、分岐した配管94が接続され、この配管94は、気液分離タンク72の上部気層部に通じている。配管94には、電磁弁V13が設けられている。
【0048】
配管91における熱交換器92の入口側には、分岐した配管95が接続され、この配管95は、タンク41の上部に通じている。また放出管93には、分岐した配管96が接続され、この配管96は、タンク41の底部に通じている。
【0049】
タンク41に対しては、純水製造装置97からの純水が原料水として供給される。タンク41には、タンク内の水の水位を検出する液面センサ98が設けられている。
【0050】
実施の形態にかかる充放電システム1は、以上のような構成を有しており、次にその運転例について、説明する。
【0051】
まず水電解運転開始時は、電磁弁V3を開としてからポンプ46を起動する。酸素側の気液分離タンク43に貯蔵された電解水は、配管44に設けられた前記ポンプ46によって配管44、45からポートAを通じてセルスタック2の可逆セル10に供給される。
【0052】
次に電磁弁V12、V13を開とし、可逆セル10の水素発生極の流路に残存している空気を、水素貯蔵部76からの水素で一気にパージする。このとき、水素貯留部76からの水素は、配管81、配管86、ポートD、ポートC、配管71、配管94、配管91、配管93の順に流れる。パージが終了したら電磁弁V12、V13を閉とする。
【0053】
この状態で可逆セル10に対して電源装置61から電力を供給すれば、その電力に応じた水が酸素極触媒上で水素イオン、酸素原子、電子に電気分解される。水素イオンは、随伴水を伴って水素極に移動し、水素極触媒(電極触媒11b)上で電子と結合して水素分子となって、ポートCから配管71を通じてセル外に排出される。一方、酸素原子は、酸素極触媒(電極触媒11a)上で酸素分子となり、循環水と共にポートBから配管51を通じてセル外に排出される。かかる反応時の可逆セル10の状態を
図4に示した。
【0054】
ポートCから配管71を通じてセル外に排出された随伴水を伴う純水素は、気液分離タンク72において気液分離され、その後、配管75から背圧弁V7、逆止弁V8を経て、水素貯蔵部76に供給・貯蔵される。
【0055】
ポートBから排出された純酸素は、配管51から気液分離タンク43へと送られ、ここで気液分離が行われる。そして気液分離された後の高温多湿の純酸素は、配管91から燃料電池運転時の空気加湿用に使用される湿度交換器85に送られ、湿度交換器85に対して加熱および加湿をする。その後燃料電池運転時の空気加熱用に使用される熱交換器84に送られ、熱交換器84の加熱を行う。その後除湿用となる熱交換器92に送られ、それまでの間で凝縮した水は配管95を介してタンク41に送られる。熱交換器92で冷却除湿され凝縮した水は、配管96を介してタンク41に返水され、一方、純酸素は放出管93から系外に排出される。
【0056】
電気分解によって酸素側の気液分離タンク43の水位は減少し、一方水素側の気液分離タンク72の水位は上昇するが、可逆セル10は、既述したように、極間差圧耐性を有するセル構造を有しているため、常に水素側圧力の方が酸素側圧力(ほぼ大気圧)よりも高くなる。そのため、気液分離タンク72の水位計74水位が、所定の上限値74aになったら、電磁弁V16を開にすることで、その圧力差によって、気液分離タンク72の水を、配管73を通じて気液分離タンク43に返水することができる。
【0057】
そして、圧力計P3で示される水素貯蔵部76の圧力が、あらかじめ設定した充電終了圧力(完全充電状態)に到達したとき、または充電終了信号が制御回路(図示せず)から送られてきたら、電源装置61による電源供給を遮断して充電(水電解運転)を終了させる。なお当該制御回路は、例えば制御装置62の中に組み込んでもよい。その他、バルブの開閉や各種の計測値をモニタリングして、何らかの制御信号を出力したり、機器類のオン−オフを指示する回路であってもよい。
【0058】
水電解運転終了時は、まずポンプ46を停止し、電磁弁V2を開、電磁弁V3を閉としてから電磁弁V5を開とする。そうすると、水素貯蔵部76から配管81、配管52に水素が供給され、配管51、ポートBから可逆セル10内に水素が導入され、ポートAから配管45、44、47を通って、系内に残存した電解水は気液分離タンク43に返水される。そして返水に用いた水素は、気液分離タンク43から、配管91、放出管93を通って系外に排気される。そのようにして系内に残存した電解水を気液分離タンク43に返水できたら、電磁弁V2を閉鎖する。
【0059】
次に電磁弁V13を開として、セル内の水素極に残存した高圧の水素を、ポートCから、配管71、94、91、放出管93を介して大気圧近傍になるまで系外に排気する。そして圧力計P4の値が大気圧近傍(たとえば、大気圧+50kPa(G)以下になった後)になったら電磁弁V11を開とし、ブロワ82を起動してポートDから一気にセル内に空気を供給し、まず系内の水素、特に水素極流路部の水素を直ちに空気に置換し、そのまま空気を供給し続けることで可逆セル10の乾燥を行う。ここで、冷却水循環用のポンプ65は、空気を供給する直前に起動する。なおセルの乾燥状態の判断基準は、公知の方法を用いればよい。そして乾燥が終了したら全電磁弁を閉として運転を終了するか、あるいは燃料電池運転に切替える。なおポンプ65は燃料電池運転中も継続して運転する。
【0060】
また、上記のセル内の酸素極に水素を供給して残存水をセル外に排出する工程と、水素極の残存水素を系外に排気する工程は、その順序については特に限定されない。例えば
図1に示したシステム構成では、ポートCから系外への排気系統と、ポートAからの系外への排気系統は配管91に合流するようになっているが、これらを合流することのない全く別々の系統で構成することによって、上記の酸素極に水素を供給する工程と水素極の残存水素を排気する工程を同時にすることも逆の順に実施することも可能である。また、配管91の配管94との合流点よりも気液分離タンク43側と、配管94の電磁弁V13よりも配管91側とに、それぞれチャッキ弁を設けるなどして、水素極に残存した高圧水素が配管91から気液分離タンク43、配管47、配管45から酸素極側に逆流することを防止する構成にすることによっても、上記工程を何れの順にても実施することが可能となる。
【0061】
なおその他の乾燥方法としては、ポンプ46を停止し、電磁弁V3を閉とした後に電磁弁V13を開として水素極に残存した高圧の水素を大気圧近傍になるまで、ポートCから配管91を通じて系外に排気する。その後一旦、セルに接続されている電気回路を短絡させて、電極近傍の水素と酸素を消費させ、各セルの電圧が0V近傍(たとえば、0.05V未満)まで低下したのを確認する。その後短絡した電気回路を遮断させるとき、徐熱のためにポンプ65を起動する。各セルの電圧の低下を確認したら電気回路を遮断し、まず酸素極に関して、電磁弁V2を開としてから電磁弁V5を開とすることで酸素極の流路を水素で直ちに置換し、置換が終了したら電磁弁V2を閉とする。次に水素極に関しては、電磁弁V11を開とし、ブロワ82を起動することで水素極の流路を空気で直ちに置換し、そのまま空気を供給し続けてセルの乾燥を行ってもよい。なおここでいう電気回路とは、例えば、セルスタック2と電源装置61との接続回路や、電力負荷(図示せず)との接続回路である。
【0062】
また、上記のセル内の酸素極に水素を供給して置換する工程と、水素極に空気を供給してセル内を乾燥する工程は、その順序については特に限定されない。
図1において、ポートCから系外への排気系統と、ポートAからの系外への排気系統を合流することのない全く別々の系統で構成することによって、上記の酸素極に水素を供給する工程と、水素極に空気を供給する工程とを同時に実施することも逆の順に実施することも可能である。また、配管91の配管94との合流点よりも気液分離タンク43側と、配管94の電磁弁V13よりも配管91側とに、それぞれチャッキ弁を設けるなど、水素極に残存した高圧水素が配管91からタンク43、配管47、配管45から酸素極側に逆流することを防止する構成にすることによっても、上記工程を何れの順に実施することが可能となる。
【0063】
さらにその他の乾燥方法としては、ポンプ46を停止し、電磁弁V3を閉とした後に電磁弁V13を開として水素極に残存した高圧の水素を大気圧近傍になるまで系外に排気する。その後電磁弁V2を開とし、電磁弁V13は開のまま電気分解により乾燥を行う。すなわち、この乾燥運転は、水電解時の酸素側に、水を回さない状態で、電源装置61から可逆セル10に対して直流電流を供給するものであり、これによって可逆セル10内の電極触媒に残っている水を、電気分解によって除去することができ、セルを乾燥することが可能になる。
【0064】
乾燥したら一度セルに接続されている電気回路を短絡させて電極近傍の水素と酸素を消費させ、各セルの電圧が0V近傍まで低下したのを確認すると共に、徐熱のためにポンプ65を起動する。なお、ポンプ65の起動は、電源装置61から可逆セル10に対して直流電流を供給する直前からでもよい。各セルの電圧の低下を確認したら電気回路を遮断し、まず酸素発生極に関して、電磁弁V2を開としてから電磁弁V5を開とすることで酸素発生極側の流路14を水素で直ちに置換し、置換が終了したら電磁弁V2を閉とする。次に水素発生極に関して、電磁弁V11を開とし、ブロワ82を起動することで水素発生極側の流路16を空気で直ちに置換するようにしてもよい。
【0065】
さらにまた他の停止方法として、次の手順が挙げられる。まずポンプ46を停止し、電磁弁V3を閉としてから電磁弁V13を開とし、水素極に残存した高圧の水素をポートCから配管71、94、91、放出管93を介して大気圧近傍になるまで系外に排気する。そして圧力計P4の値が大気圧近傍になったら電磁弁V13を閉とし運転を終了する。かかる手順でもよいが、保管後にどちらの運転モードであってもすぐに起動できるようにするためには、先に述べたような、ブロワ82を起動して水素極の流路を空気で置換することがよい。
なお、後者の終了方法、すなわち、ポンプ46を停止し、電磁弁V3を閉としてから電磁弁V13を開とし、水素極に残存した高圧の水素をポートCから配管71、94、91、放出管93を介して大気圧近傍になるまで系外に排気して、圧力計P4の値が大気圧近傍になったら電磁弁V13を閉として、運転を終了する方法をとった場合で、保管後に燃料電池モードを起動する場合には、起動時に前者の終了方法とほぼ同様の操作で排水と空気置換、乾燥を行えば良く、水電解モードを起動する場合には、通常の水電解開始フローの通りに起動すればよい。
【0066】
次に燃料電池運転の開始について説明する。燃料電池運転開始時は、電磁弁V11、V13、V4、V5が開の状態から、ポンプ53、65、ブロワ82を起動させる。これによって、ポートDから可逆セル10に対して酸化剤としての空気が供給され、一方、ポートBから燃料としての水素が可逆セル10に供給される。この状態で可逆セル10に負荷(たとえば電力を消費する各種電気機器)を接続すれば、その負荷に応じて可逆セル10は放電し(電力を外部に供給し)、可逆セル10にて放電電流に応じた水素と酸素が消費される。なお、ポンプ53の代わりにエジェクターを使用してもよい。
【0067】
そして消費されなかった空気と発生した生成水は、ポートCから排出され、消費されなかった水素は、ポートAから排出される。かかる反応時の可逆セルの状態を
図5に示した。
図5中、100は負荷を示している。
【0068】
そしてポートCから排出された空気と水は、配管71、94を介して湿度交換器85に送られ、ブロワ82によって可逆セル10に供給されようとする供給空気と湿度交換した後に、熱交換器84に送られる。この熱交換器84で供給空気と熱交換を行い、その結果凝縮した水と湿度交換されなかった水は、配管91、95を介してタンク41に返水され、ガスは熱交換器92に送られる。熱交換器92でさらに冷却除湿されて凝縮した水は、配管96を介してタンク41へ送られる。一方、残余のガスは放出管93から大気に排気される。
【0069】
また消費されなかった水素は、ポートAから配管45、52を介してポンプ53に送られ、配管52において、水素貯蔵部76から配管81を通じて補充される水素と共に、配管51からポートBを通じて再度可逆セル10に供給される。なお、補充される水素は、反応で消費された分の水素であり、水素貯蔵部76から圧力調整弁V10で調圧された後に、水素循環経路である配管52に供給される。ここで、循環水素中には、僅かな水分と空気極側から膜を介して拡散してくる不純物(空気中の窒素)があるため、定期的に電磁弁V2を開放することで、水分と不純物の排出を行う。
【0070】
水素貯蔵部76の圧力が、あらかじめ設定した放電終了圧力(以降、完全放電状態)に到達したとき、または放電終了信号が既述の制御回路(図示せず)から送られてきたら、前記負荷を遮断し放電を終了させる。
【0071】
燃料電池運転終了時は、ポンプ53を停止し、電磁弁V4、V5を閉鎖する。そして酸素極側では、セル内部基材が適度に乾燥する状態まで空気を供給した後ブロワ82を停止し、全ての電磁弁を閉として運転を終了する。なおその後水電解運転に切替える場合には、上述の水電解開始フローの通りに起動すればよい。
【0072】
水電解運転に切替えるその他の方法として、水電解開始フローの方法で水電解運転に切り替える前にセルに接続されている電気回路を短絡させる方法がある。この場合、空気極側の圧力(圧力計P4で示される圧力)の値が徐々に減圧するが、あるところから昇圧し始まる。減圧時の最低圧力よりも5KPa程度上昇したのを確認したら、電気回路を遮断し、上述の水電解開始フローの通りに起動する方法もある。このような切替を行った場合には、前記した、電磁弁V12、V13を開とし、水素発生極の流路に残存している空気を、水素貯蔵部76からの水素で一気にパージするというプロセスは、これをより安全に行うことができる。
【0073】
以上説明したように、本実施の形態によれば、まず、燃料電池運転時の酸素側電極の電極触媒11bに、元来撥水性であるカーボンを使用できるため、従来の可逆セルを用いたこの種の充放電システムよりも性能が改善されるだけでなく、長期にわたって、触媒表面の濡れによる性能低下を低減できる。また水電解時の酸素発生極の電極触媒には、親水性材料を使用できるので、従来のような撥水加工は不要であり、その分水電解時の反応場への水供給が改善され水電解性能が改善する。また酸素発生極の電極触媒の白金使用量を少なくすることができる。
【0074】
ところで、燃料電池運転では酸素極、水素極共に白金が必要とされるが、特に酸素極は水素極に比べて大量に白金を必要とする(燃料電池専用機では通常、白金使用量を低減して同等の性能を得られる白金担持カーボンを両極に使用している)。一方、水電解運転時の酸素極には、反応に酸化イリジウムが必要であり、高電圧(2V程度)が掛かるためこれに耐えられない白金担持カーボンの使用はできない。このような事情により、従来の可逆セルには酸化イリジウムに多量の白金を混合した触媒を使用していた。
しかしながら、上記実施形態では、可逆セル10の水電解時運転時の酸素極(電極触媒11a)は、燃料電池運転時には水素極となる。したがって、従来の可逆セルの酸素極と比較して白金使用量を大幅に低減することができる。
なお、燃料電池運転時の酸素極(電極触媒11b)には上記したように、比較的多量の白金が必要になるが、上記実施形態では、燃料電池運転時の酸素極(電極触媒11b)は、水電解運転時に高電圧が掛からず且つ酸化イリジウムが必要ない水素極となるため、白金担持カーボンが使用できるので、この点でも白金使用量を低減することが可能となる。
したがって、本実施の形態によれば、従来の可逆セルを用いたこの種の装置よりも、白金の使用量を少なくすることができる。
【0075】
なお前記実施の形態の可逆セル10は、セパレータ15、17に形成された流路14、16は、各セパレータ15、17に形成した溝と、第1の集電体12、第2の集電体13の面とで形成したものであったが、
図6に示した構造を有する可逆セル201も提案できる。
【0076】
この可逆セル201は、セパレータとして金属薄板セパレータを用いたものであり、
図4は内部の流路断面(平面断面)を模式的に示している。この可逆セル201は、電極触媒層が両面に形成された固体高分子電解質膜11の両面に、方形の第1の集電体12と第2の集電体13が配置されている。既述の可逆セル10と同様、第1の集電体12は、第2の集電体13よりも大きく、第1の集電体12の縁部が、全周に渡って、第2の集電体13の縁部の外方に位置している。
【0077】
そして第1の集電体12の外側には、反応流路202を形成するためのセパレータ203が配置され、第2の集電体13の外側には、反応流路204を形成するためのセパレータ205が配置されている。この例では、第1の集電体12とセパレータ203との間の空間、及び第2の集電体13とセパレータ205との間の空間に、各々多孔質の金属メッシュを挿入することで各反応流路202、204が形成されている。そして各反応流路202、204の形成領域は、第1の集電体12側の反応流路202の方が、第2の集電体13の反応流路204よりも大きく、反応流路202の形成領域外方端部は、反応流路204の形成領域外方端部よりも外方側に位置している。なお、各反応流路202、204が形成領域に大きさについては、これに限られるものではない。
【0078】
なお反応流路側の反応に伴い発生する熱を取り除くために設けられている冷却水流路等の部分についても、同様に金属メッシュで構成してもよい。多孔質の金属メッシュによってこれら流路を形成すると、高価となるが、セパレータ機構やシール形状を単純化できるメリットがある。
【0079】
そしてこの可逆セル201においては、セパレータ203、205間における第1の集電体12の外方端部と、第2の集電体13の外方端部に、各々対応するシール部材211、212が配置され、セパレータ203、205によって挟持されている。そしてシール部材211における第1の集電体12の端部外周側には、固体高分子電解質膜11に凸に突出するリップ211aが、第1の集電体12を囲むように形成され、一方、そしてシール部材212における第2の集電体13の端部外周側には、固体高分子電解質膜11に凸に突出するリップ212aが第2の集電体13を囲むように、形成されている。リップ212aは、固体高分子電解質膜11を介して、第1の集電体12の周辺部と対面している。各リップ211a、212aは、たとえば金型を用いて、シール部材211、212と一体成型することで容易に形成できる。
【0080】
またこれらシール部材211、212は、セパレータ203、205と焼き付けや射出成型等により一体化するか、プレス加工でセパレータ203、205に溝を設けその部分にシール部材を埋め込むことによって、シール部材に内圧がかかってもシール部材が外方に移動しない構造とすることが好ましい。
【0081】
かかる構成を有する可逆セル201によれば、反応流路202、204の端部位置、及び第1の集電体12、第2の集電体13の端部位置が、各部材の重合方向(
図4中の上下方向)からみて、いずれも重なっておらず、また断面的に凹凸のある反応流路202、204よりも、断面的に平滑な第1の集電体12、第2の集電体13の方が全体的に一回り大きくなっており、平滑な集電体とシール部材のみで固体高分子電解質膜11を挟持する構造としている。そのため、シール部材211、212が変形して反応流路202、204に入り込んで流路圧損上昇等の問題を生じたり、入り込むことでシール面圧が低下することは無い。したがって、前記した可逆セル10と同様、水素側から酸素側に向かう正の圧力差に対する耐性を確保できる。
【0082】
また上記構成を有する可逆セル201では、セパレータ205との間の空間に、各々多孔質の金属メッシュを挿入することで各反応流路202、204が形成されているので、厚みが全面的に均等に製作できる。しかも集電体との接触が均一になるので、導体抵抗が低くなり、高効率での水素製造が可能である。その他、流路を構成するセパレータの厚みが薄く、かつ軽くでき、そのうえ金型が必要ないのでイニシャルコストがかからないというメリットも享有できる。
【0083】
さらにまた
図7に示した可逆セル251も提案できる。この可逆セル251は、金属薄板を波板形状にプレス成形したセパレータ252、253を用いたものであり、セパレータ252、253に、シール部材211、212を焼付けや射出成型によって一体化したものである。そして第1の集電体12とセパレータ252との間に形成される空間が、酸素側の反応流路14cとなり、セパレータ252の外側に形成される空間(実際には、同形の他の可逆セル251を積層した際に、当該他の可逆セル251のセパレータとによって形成される)が、酸素側の背面を流れる冷却水の流路14dとなる。同様に、第2の集電体13とセパレータ253との間に形成される空間が、水素側の反応流路16cとなり、セパレータ253の外側に形成される空間(実際には、同形の他の可逆セル251を積層した際に、当該他の可逆セル251のセパレータとによって形成される)が、水素側の背面を流れる冷却水の流路16dとなる。もちろん既述の可逆セル10、201と同様、第1の集電体12は、第2の集電体13よりも大きく、第1の集電体12の縁部が、全周に渡って、第2の集電体13の縁部の外方に位置している。
【0084】
またこの可逆セル251においては、シール部材211における外側であって、リップ211aと対応する位置に、外側に凸に突出する同形のリップ211bが設けられている。このリップ211bは、可逆セル251を積層してスタック構成とした際に、冷却水の流路の気密性を確保するためのものである。
【0085】
かかる構成の可逆セル251によれば、流路を形成するセパレータをプレス加工によって容易に製作できるから、大量生産に適しており、それによって1枚あたりの単価を低廉にすることが可能である。もちろんかかるタイプの可逆セル251によれば、前記した可逆セル10、201と同様、極間差圧耐性を有するものであり、水素側から酸素側に対して、正の差圧がかかったとしても、固体高分子電解質膜の破損はなく、またガスがセル外部に漏れ出すこともない。
【0086】
前記した実施の形態にかかる充放電システム1において使用された可逆セル10は、極間差圧耐性を有する可逆セル10であったが、本発明においてはそのような極間差圧耐性を有さない、公知の(たとえば特開2011−146395号など)通常型可逆セルを適用することも可能である。
【0087】
図8に示した充放電システム300は、そのような極間差圧耐性を有さない可逆セル301を用いた場合の構成例を示しており、図中、
図1の充放電システム1と同一の符号で示される部材等は、
図1の充放電システム1と同一の部材等を示している。
【0088】
この充放電システム300においては、気液分離タンク43において気層部となる上部に、放出管302が接続され、さらにこの放出管302には電磁弁V30が設けられている。さらに配管91における気液分離タンク43側近傍には、背圧弁V31が新たに設けられている。また
図1の充放電システム1では、気液分離タンク72と気液分離タンク43との間は、直接、配管73によって接続されていたが、この充放電システム300においては、配管73に、大気開放しているバッファタンク303が設けられ、このバッファタンク303と気液分離タンク43との間に、配管304が接続されている。そして配管304には、ポンプ305が設けられている。
【0089】
かかる構成を有する充放電システム300によれば、水電解運転開始時には、電磁弁V3を開としてからポンプ46を起動する。酸素側の気液分離タンク43に貯蔵された電解水は、配管44に設けられた前記ポンプ46によって配管44、45からポートAを通じてセルスタック2の可逆セル301に供給される。
【0090】
次に電磁弁V12、V13を開とし、可逆セル301の水素発生極の流路に残存している空気を、水素貯蔵部76からの水素で一気にパージする。このとき、水素貯留部76からの水素は、配管81、配管86、ポートD、ポートC、配管71、配管94、配管91、配管93の順に流れる。パージが終了したら電磁弁V12、V13を閉とする。
【0091】
この状態で可逆セル301に対して電源装置61から電力を供給すれば、その電力に応じた水が酸素極触媒上で水素イオン、酸素原子、電子に電気分解される。水素イオンは、随伴水を伴って水素極に移動し、水素極触媒(電極触媒11b)上で電子と結合して水素分子となって、ポートCから配管71を通じてセル外に排出される。一方、酸素原子は、酸素極触媒(電極触媒11a)上で酸素分子となり、循環水と共にポートBから配管51を通じてセル外に排出される。かかる反応時の可逆セル301の状態は、極間差圧耐性を有する可逆セル10の充放電システム1と同様、
図4に示したとおりである。
【0092】
そしてポートCから配管71を通じてセル外に排出された随伴水を伴う純水素は、気液分離タンク72において気液分離され、その後、配管75から背圧弁V7、逆止弁V8を経て、水素貯蔵部76に供給、貯蔵される。
【0093】
ポートBから排出された純酸素は、配管51から気液分離タンク43へと送られ、ここで気液分離された後、高温多湿の純酸素は背圧弁V31を経て配管91から燃料電池運転時の空気加湿用に使用される湿度交換器85に送られ、湿度交換器85に対して加熱および加湿をする。その後燃料電池運転時の空気加熱用に使用される熱交換器84に送られ、熱交換器84の加熱を行う。その後除湿用となる熱交換器92に送られ、それまでの間で凝縮した水は配管95を介してタンク41に送られる。熱交換器92で冷却除湿され凝縮した水は、配管96を介してタンク41に返水され、一方、純酸素は放出管93から系外に排出される。
なお、極間に一定の差圧(圧力計P2と圧力計P4の圧力差、一般的には、50〜100kPa)以上の差圧が発生した場合には、より高圧となった極の電磁弁(V13、またはV30)を開とし、極間差圧が予め定めておいた値(一般的には、20kPa)以下になるまで、当該電磁弁(V13、またはV30)を開とすることで、極間の差圧が一定の範囲内に収まるように常に制御する。なおかかる差圧の制御については、公知の技術を用いればよい。
【0094】
そして電気分解によって酸素側の気液分離タンク43の水位は減少し、一方、水素側の気液分離タンク72の水位は上昇するため、タンク72の水をタンク43に返水する必要がある。そこで配管73の途中には前記したバッファタンク303が設けられている。そして、気液分離タンク72の水位計74の水位が、所定の上限値74aになったら、電磁弁V16を開にすることで、その圧力差によって気液分離タンク72の水を配管73を通じてまずバッファタンク303に返水する。次にポンプ305によって、バッファタンク303の水が気液分離タンク43に返水される。
【0095】
そして、圧力計P3で示される水素貯蔵部76の圧力が、あらかじめ設定した充電終了圧力(完全充電状態)に到達したとき、または充電終了信号が制御回路(図示せず)から送られてきたら、電源装置61による電源供給を遮断して充電(水電解運転)を終了させる点は、前記した
図1の充放電システム1と同様である。
【0096】
そして極間差圧耐性を有していない可逆セル301を備える充放電システム300においては、水電解運転終了時には、まずポンプ46を停止し、電磁弁V13、V2、V30を開、電磁弁V3を閉として、セル内の水素極に残存した高圧の水素を、ポートCから、配管71、94、91、放出管93を介して大気圧近傍になるまで系外に排気すると同時に、セル内の酸素極に残存した高圧の酸素を、ポートAから、配管45、44、47、放出管302を介して大気圧近傍になるまで系外に排気しつつ、系内に残存した電解水を気液分離タンク43に返水する。このとき、極間差圧が所定の値以上にならないように電磁弁V13、V30の制御を行う。そして圧力計P1、4の値が大気圧近傍になったら、水素極側に関しては、電磁弁V11を開とし、ブロワ82を起動してポートDから一気にセル内に空気を供給し、まず系内の水素、特に水素極流路部の水素を直ちに空気に置換し、そのまま空気を供給し続けることで可逆セル301の乾燥を行う。酸素極側に関しては、電磁弁V5を開とし、系内の酸素を直ちに水素に置換し、置換が終了したらV2、V5、V30を閉とする。ここで、冷却水循環用のポンプ65は、空気を供給する直前に起動する。なおセルの乾燥状態の判断基準は、公知の方法を用いればよい。そして乾燥が終了したら全電磁弁を閉として運転を終了するか、燃料電池運転に切替える。なおポンプ65は燃料電池運転中も継続して運転する。
また、上記のセル内の水素極に空気を供給してセル内を乾燥する工程と酸素極に水素を供給して置換する工程は、その順序は特に限定されず、同時に実施することも逆の順にすることも可能である。
【0097】
また上述のその他の乾燥方法について、極間差圧耐性を有していない可逆セル301を備える充放電システム300においては、ポンプ46を停止し、電磁弁V3を閉とした後に電磁弁V13、V2、V30を開として水素極に残存した高圧の水素を大気圧近傍になるまで、ポートCから配管91を通じて系外に排気すると同時に、酸素極に残存した高圧の酸素を大気圧近傍になるまで、ポートAから系外に排気しつつ系内に残存した電解水を気液分離タンク43に返水する。このとき、極間差圧が所定の値以上にならないように制御を行う。
【0098】
その後一旦、セルに接続されている電気回路を短絡させて、電極近傍の水素と酸素を消費させ、各セルの電圧が0V近傍まで低下したのを確認する。その後短絡した電気回路を遮断させるとき、徐熱のためにポンプ65を起動する。そして各セルの電圧の低下を確認したら電気回路を遮断し、まず酸素極に関して、電磁弁V2、V30を開としてから電磁弁V5を開とすることで酸素極の流路を水素で直ちに置換し、置換が終了したら電磁弁V2、V30を閉とする。次に水素極に関しては、電磁弁V11を開とし、ブロワ82を起動することで水素極の流路を空気で直ちに置換し、そのまま空気を供給し続けてセルの乾燥を行ってもよい。なおここでいう電気回路とは、例えば、セルスタック2と電源装置61との接続回路や、電力負荷(図示せず)との接続回路である。
また、上記のセル内の酸素極に水素を供給して置換する工程と、水素極に空気を供給してセル内を乾燥する工程は、その順序は特に限定されず、同時に実施することも逆の順に実施することも可能である。
【0099】
さらに他の乾燥方法としては、極間差圧耐性を有していない可逆セル301を備える充放電システム300においては、ポンプ46を停止し、電磁弁V3を閉とした後に電磁弁V13、V2、V30を開として水素極に残存した高圧の水素を大気圧近傍になるまで(系内圧力によって)系外に排気すると同時に、酸素極に残存した高圧の酸素を大気圧近傍になるまで系外に排気しつつ系内に残存した電解水を気液分離タンク43に返水する。このとき、極間差圧が所定の値以上にならないように制御を行う。その後電磁弁V2、V30、V13は開のまま電気分解により乾燥を行う。すなわち、この乾燥運転は、水電解時の酸素側に、水を回さない状態で、電源装置61から可逆セル301に対して直流電流を供給するものであり、これによって可逆セル301内の電極触媒に残っている水を、電気分解によって除去することができ、セルを乾燥することが可能になる。
【0100】
そして乾燥したら一度セルに接続されている電気回路を短絡させて電極近傍の水素と酸素を消費させ、各セルの電圧が0V近傍まで低下したのを確認すると共に、徐熱のためにポンプ65を起動する。なお、ポンプ65の起動は、電源装置61から可逆セル301に対して直流電流を供給する直前からでもよい。各セルの電圧の低下を確認したら電気回路を遮断し、まず酸素発生極に関して、電磁弁V2、V30を開としてから電磁弁V5を開とすることで酸素発生極側の流路14を水素で直ちに置換し、置換が終了したら電磁弁V2、V30を閉とする。次に水素発生極に関して、電磁弁V11を開とし、ブロワ82を起動することで水素発生極側の流路16を空気で直ちに置換するようにしてもよい。
【0101】
また、極間差圧耐性を有していない可逆セル301を備える充放電システム300の停止方法としては、他に、たとえばまずポンプ46を停止し、電磁弁V3を閉としてから電磁弁V13、V2、V30を開として、水素極に残存した高圧の水素をポートCから配管71、94、91、放出管93を介して大気圧近傍になるまで系外に排気すると同時に、酸素極に残存した高圧の酸素を大気圧近傍になるまで系外に排気しつつ系内に残存した電解水を気液分離タンク43に返水する。このとき、極間差圧が所定の値以上にならないように制御を行う。そして圧力計P1、P4の値が大気圧になったら全ての電磁弁を閉とし運転を終了することも可能である。